JPWO2019235539A1 - 電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物 - Google Patents

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Abstract

ミリ波帯域以上の高い周波数帯域において、所定の広い帯域幅の電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収体と電磁波吸収体用組成物を実現する。ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄1aと、樹脂製バインダー1bを含む電磁波吸収層1により形成された電磁波吸収体であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄1a1、1a2を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。

Description

本開示は、電磁波を吸収する電磁波吸収体に関し、特に、ミリ波帯と称される数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域、さらには3テラヘルツ(THz)までの高い周波数帯域において、吸収する電磁波の周波数に所定の帯域幅を有する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物に関する。
携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などでは、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波と呼ばれる電磁波が用いられている。
このようなセンチメール波を吸収する電磁波吸収シートとして、ゴム状電磁波吸収シートと段ボールなどの紙状シート材とを積層した積層体シートが提案されている(特許文献1参照)。また、異方性黒鉛とバインダーとを含む薄型シートを交互に積層してその厚さを調整することで、電磁波入射方向に関係なく電磁波吸収特性を安定させた電磁波吸収シートが提案されている(特許文献2参照)。
さらに、より高い周波数帯域の電磁波を吸収できるようにすることを目的として、偏平状の軟磁性粒子の長手方向をシートの面方向に揃えることで、20ギガヘルツ以上の周波数帯域の電磁波を吸収可能な電磁波吸収シートが提案されている(特許文献3参照)。
また、イプシロン磁性酸化鉄(ε−Fe23)結晶を磁性相に持つ粒子の充填構造を有する電磁波吸収体が、25〜100ギガヘルツの範囲で電磁波吸収性能を発揮することが知られている(特許文献4参照)。
特開2011−233834号公報 特開2006− 80352号公報 特開2015−198163号公報 特開2008− 60484号公報
近年では、送信するデータのさらなる大容量化を可能とするために、60ギガヘルツの周波数を用いた無線通信が計画され、また、極めて狭い指向性を活用する車載レーダー機器として数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯域(30〜300ギガヘルツ)の周波数を有するミリ波レーザーの利用が進められている。さらに、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、テラヘルツ(THz)オーダーの周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
しかし、電磁波利用技術の一つであり漏洩電磁波を防止するためなどに不可欠な電磁波吸収体としては、60GHz前後のいわゆるミリ波帯域の特定の周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収体は提案されているものの、ミリ波帯域からさらに高い周波数帯域において、吸収する電磁波が所定の広い帯域幅を有する電磁波吸収体は実現されていない。
本開示は、上記従来の課題を解決し、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域において、所定の広い帯域幅の電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収体と、電磁波吸収体用組成物を実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収体は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーを含む電磁波吸収層により形成された電磁波吸収体であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有することを特徴とする。
また、本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーによって形成された電磁波吸収体用組成物であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有することを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物は、いずれも電磁波吸収物質として、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する異方性磁界HAの値が異なる2種以上の磁性酸化鉄を有し、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。このため、数十ギガヘルツ以上の高い周波数帯域の電磁波を、所定の広い帯域幅に渡って良好に吸収することができる。
本実施形態にかかるシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートの構成を説明する断面構成図である。 Feサイトの一部を置換したイプシロン磁性酸化鉄の電磁波吸収特性を説明する図である。 イプシロン磁性酸化鉄の保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示す図である。 ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄磁性酸化鉄の保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第1の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第2の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第3の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第4の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第5の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第6の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第6の構成例における、吸収周波数と透過減衰量とを示す図である。
本願で開示する電磁波吸収体は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーを含む電磁波吸収層により形成された電磁波吸収体であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体は、電磁波を吸収する部材である磁性酸化鉄の共鳴周波数、すなわち、当該磁性酸化鉄によって吸収される電磁波の周波数が定まる異方性磁界HAの値が異なる2種以上の磁性酸化鉄が含まれることで、それぞれの磁性酸化鉄で吸収される電磁波のピーク周波数が複数存在する。一方で、16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有するため、電磁波吸収体全体として吸収する電磁波の周波数特性は1つのピークを持った形状となる。このため、高い電磁波吸収特性を有すると同時に、磁性酸化鉄を1種のみ用いた場合に比べて吸収される電磁波の周波数帯域が広い幅を有した電磁波吸収体を得ることができる。
なお、本願で開示する発明において、「ヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する」とは、微分曲線が極値、すなわち、変曲点を、1つのみ有するものを示し、極値(変曲点)が2つ以上ある場合は含まれない。
本願で開示する電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層に含まれる2種以上の前記磁性酸化鉄が、主とする元素構成が同一であるとともに置換元素が互いに異なることが好ましい。このようにすることで、吸収する電磁波の周波数は異なるものの粒径や形状などが類似した特性を有する電磁波吸収材料を用いて、分散性などが優れたより均一化された特性を有する電磁波吸収体を得ることができ、2種以上の磁性酸化鉄を用いても、容易に磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を持つようにすることができる。
なお、前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、イプシロン磁性酸化鉄のいずれかであることが好ましい。
さらに、前記電磁波吸収層が平面視したときの大きさに対して厚さが薄く形成され全体としてシート状と形成されることが好ましい。このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体を取り扱いが容易な電磁波吸収シートとして活用できる。
また、本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーによって形成された電磁波吸収体用組成物であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、高い電磁波吸収特性を有すると同時に、吸収される電磁波の周波数帯域が所定の広い幅を有した電磁波吸収体を形成することができる。
本願で開示する電磁波吸収体用組成物において、前記電磁波吸収層に含まれる2種以上の前記磁性酸化鉄が、主とする元素構成が同一であるとともに置換元素が互いに異なることが好ましい。このようにすることで、特性がより均一化された電磁波吸収体用組成物を得ることができ、2種以上の磁性酸化鉄を用いても、容易に磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を持つようにすることができる。
また、前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、イプシロン磁性酸化鉄のいずれかであることが好ましい。
さらに、本願で開示する電磁波吸収体用組成物を用いて形成された建築部材、電子機器は、いずれも上述の電磁波吸収体用組成物が有する、高く、かつ、吸収される周波数帯域が広いという優れた電磁波吸収特性を備えた、建築部材、電子機器とすることができる。
以下、本願で開示する電磁波吸収体と電磁波吸収体用組成物について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本願で開示する電磁波吸収体の第1の実施形態として、粒子状の磁性酸化鉄と樹脂製のバインダーを含んだ電磁波吸収層がその平面視したときの大きさに対して厚さが小さく形成され、全体としてシート状に構成された、いわゆる透過型の電磁波吸収シートを例示して説明する。
[シート構成]
図1は、本実施形態で説明する電磁波吸収体としての電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
図1では、電磁波吸収性組成物を基材としての樹脂シート2上に塗布、乾燥を行って電磁波吸収シート1を成型した状態を示している。
なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、異方性磁界HAの値が異なる2種類の磁性酸化鉄1a1、1a2と樹脂製のバインダー1bとを含んだ電磁波吸収層1として形成されている。
図1に示す本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1に含まれる2つの磁性酸化鉄1a1、1a2は異方性磁界HAの値が異なり、磁性酸化鉄1a1と磁性酸化鉄1a2の保磁力が異なる。磁性酸化鉄が磁気共鳴することによって吸収する電磁波の周波数は保磁力の値によって異なるため、本実施形態の電磁波吸収シートでは、それぞれの磁性酸化鉄1a1、1a2が異なる周波数の電磁波を吸収する。一方、電磁波吸収シート全体としての電磁波吸収特性は、外部から印加される磁界に対する磁気特性であるヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。このことは、電磁波の周波数に対する吸収特性が、所定の周波数にピークを有する1つの山型のものとして現れることを意味する。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、このように電磁波吸収材料として含まれる異方性磁界HAの値が異なる磁性酸化鉄がそれぞれ異なる周波数の電磁波を吸収するため、1種類の磁性酸化鉄のみが含まれている電磁波吸収シートに比べて吸収される電磁波の周波数帯域が広がる。一方で、電磁波吸収シート全体の磁気特性を示すヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有し、吸収される電磁波の周波数特性が1つの山型として表されるため、この周波数特性が2つの山を有する場合、すなわち、それぞれの磁性酸化鉄が吸収する電磁波の周波数が離れていてヒステリシスループを微分した微分曲線が2つの極大値と1つの極小値とを有する場合と比較して、電磁波吸収特性のピークを高く維持することができる。このため、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、高い電磁波吸収特性と幅広い吸収周波数帯域とを両立することができる。
なお、図1では、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄が2種類の場合を図示しているが、後述するように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄は、3種類以上であってもかまわない。
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄の異方性磁界HAの値が異なるとともに、磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有している状態については、具体例を示して後述する。
[磁性酸化鉄]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、粒子状の磁性酸化鉄として、イプシロン磁性酸化鉄を用いている。
イプシロン磁性酸化鉄(ε−Fe23)は、酸化第二鉄(Fe23)において、アルファ相(α−Fe23)とガンマ相(γ−Fe23)との間に現れる相であり、逆ミセル法とゾルーゲル法とを組み合わせたナノ微粒子合成方法によって単相の状態で得られるようになった磁性材料である。
イプシロン磁性酸化鉄は、数nmから数十nmの微細粒子でありながら常温で約20kOeという金属酸化物として最大の保磁力を備え、さらに、歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然共鳴が数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯の周波数帯域で生じるため、ミリ波帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収材料として用いることができる。
さらに、イプシロン磁性酸化鉄は、結晶のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)などの3価の金属元素と置換された結晶とすることで、磁気共鳴周波数、すなわち、電磁波吸収材料として用いられる場合に吸収する電磁波の周波数を異ならせることができる。
図2は、Feサイトと置換する金属元素を異ならせた場合の、イプシロン磁性酸化鉄の保磁力Hcと自然共鳴周波数fとの関係を示している。なお、自然共鳴周波数fは、吸収する電磁波の周波数と一致する。
図2から、Feサイトの一部が置換されたイプシロン磁性酸化鉄は、置換された金属元素の種類と置換された量によって、自然共鳴周波数が異なることがわかる。また、自然共鳴周波数の値が高くなるほど、当該イプシロン磁性酸化鉄の保磁力が大きくなっていることがわかる。
より具体的には、ガリウム置換のイプシロン磁性酸化鉄、すなわちε−GaxFe2-x3の場合には、置換量「x」を調整することで30ギガヘルツから150ギガヘルツ程度までの周波数帯域で吸収のピークを有し、アルミニウム置換のイプシロン磁性酸化鉄、すなわちε−AlxFe2-x3の場合には、置換量「x」を調整することで100ギガヘルツから190ギガヘルツ程度の周波数帯域で吸収のピークを有する。このため、電磁波吸収シートで吸収したい周波数の自然共鳴周波数となるように、イプシロン磁性酸化鉄のFeサイトと置換する元素の種類を決め、Feとの置換量を調整することで、吸収される電磁波の周波数を所望の値とすることができる。さらに、置換する金属をロジウムとしたイプシロン磁性酸化鉄、すなわちε−RhxFe2-x3の場合には、180ギガヘルツからそれ以上と、吸収する電磁波の周波数帯域をより高い方向にシフトすることが可能である。
イプシロン磁性酸化鉄は、一部のFeサイトが金属置換されたものを含めて入手することが可能である。イプシロン磁性酸化鉄は、平均粒径が約30nm程度の略球形または短いロッド形状(棒状)をした粒子として入手することができる。
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる磁性酸化鉄としては、上述したイプシロン磁性酸化鉄の他に、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、または、M型フェライトを使用することができる。
ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄は、60GHz帯の無線LANに対応した電磁波吸収体を設計するために、SrFe1219にAlを添加した系であり、電磁波吸収シートでは、Alを添加することによって、電磁波吸収を示す周波数が高周波側にシフトする。これは、異方性磁界HAの値の増加に対応していると考えられる。
M型フェライトは、電磁波吸収に関係する複素透磁率の虚部(μr’’)が、磁性体を高周波で磁化した際に共鳴を起こす周波数において高くなることに着目して、自然共鳴周波数fは材料の持つ異方性磁界HAと比例関係にあるため、異方性磁界HAの高い材料ほど自然共鳴周波数fの値は高くなる。M型フェライトであるBaFe1219の自然共鳴周波数fは、そのHAの値が、1.35MA/mから48GHzと計算され、高いGHz帯域の電磁波を吸収することができる。また、Fe3+の一部を(TiMn)3+やAl3+などで置換することで、異方性磁界HAの値を制御することで自然共鳴周波数fを5〜150GHzの範囲で制御することができる。
このように、磁性酸化鉄として、イプシロン磁性酸化鉄、M型フェライト、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いることによって、それぞれの磁性酸化鉄の異方性磁界(HA)の値を制御することができ、結果として、これらの磁性酸化鉄を電磁波吸収層1に含む電磁波吸収シートで吸収される電磁波の周波数を変化させることができる。
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて電磁波吸収材料として用いられるイプシロン磁性酸化鉄とストロンチウムフェライト磁性酸化鉄とについて、それぞれが有する保磁力と吸収する電磁波の周波数との関係について測定した結果を説明する。
図3は、イプシロン磁性酸化鉄についての保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示す図である。
図3では、置換元素の種類や置換量が異なるイプシロン磁性酸化鉄に対し、それぞれについて測定された保磁力(Hc)の値(Oe)と吸収される電磁波の周波数のピーク値(GHz)とをプロットしている。図3に示すように、各種イプシロン磁性酸化鉄の保磁力と吸収周波数との間には、図3中符号31で示すように明らかな線形関係が認められる。
また、図4は、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄についての保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示している。
図4では、アルミ(Al)置換量が異なるストロンチウムフェライト磁性酸化鉄に対して、それぞれについて測定された保磁力(Hc)の値(Oe)と吸収される電磁波の周波数のピーク値(GHz)とをプロットしている。サンプル数が少ないものの、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄においても、各種ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の保磁力と吸収周波数との間には、図4中符号41で示すような線形関係が認められる。
これらのことから、磁性酸化鉄の保磁力と当該磁性酸化鉄が吸収する電磁波の周波数との間には強い相関性があり、電磁波吸収材料として用いられる磁性酸化鉄の保磁力を異ならせることで、吸収する電磁波の周波数を制御することができることがわかる。
なお、図3と図4との比較において、例えば吸収される電磁波の周波数が75GHzであった場合に、イプシロン磁性酸化鉄の保磁力が約7500Oeに対して、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の保磁力は約2500Oeと小さい。この保磁力の大きさの差は、それぞれの部材の電磁波吸収特性に関係し、イプシロン磁性酸化鉄はストロンチウムフェライト磁性酸化鉄に比べて、電磁波の吸収能力がより高いことを表している。
[電磁波吸収層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層1では、磁性酸化鉄の粒子1a1、1a2が樹脂製のバインダー1bによって分散されていることで、シートとしての可撓性を備える。
電磁波吸収層1に用いられる樹脂製のバインダーとしては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂材料を用いることができる。
より具体的には、エポキシ系樹脂として、ビスフェノールAの両末端の水酸基をエポキシ化した化合物を用いることができる。また、ポリウレタン系樹脂として、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ系ウレタン樹脂などを用いることができる。アクリル系の樹脂としては、メタアクリル系樹脂で、アルキル基の炭素数が2〜18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルと、官能基含有モノマーと、必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを共重合させることにより得られる官能基含有メタアクリルポリマーなどを用いることができる。
また、ゴム系樹脂として、スチレン系の熱可塑性エラストマーであるSIS(スチレン−イソブレンブロック共重合体)やSBS(スチレン−ブタジエンブロック共重合体)、石油系合成ゴムであるEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・ゴム)、その他アクリルゴムやシリコーンゴムなどのゴム系材料をバインダーとして利用することができる。
なお、電磁波吸収体を成型体として形成するために熱可塑性樹脂として耐熱性のある高融点の熱可塑性樹脂を用いる場合、6Tナイロン(6TPA)、9Tナイロン(9TPA)、10Tナイロン(10TPA)、12Tナイロン(12TPA)、MXD6ナイロン(MXDPA)等の芳香族ポリアミド及びこれらのアロイ材料、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)等を用いることができる。
また、環境に配慮する観点から、バインダーとして用いられる樹脂としては、ハロゲンを含まないハロゲンフリーのものを用いることが好ましい。これらの樹脂材料は、樹脂シートのバインダー材料として一般的なものであるため容易に入手することができる。
なお、本明細書において可撓性を有するとは、電磁波吸収層が、一定程度湾曲させることができる状態、すなわち、シートを丸めて元に戻したときに破断などの塑性変形が生じずに平面状のシートに復帰する状態を示している。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波吸収層は、電磁波吸収材料としてイプシロン磁性酸化鉄を用いるが、イプシロン磁性酸化鉄は上述のように粒径が数nmから数十nmの微細なナノ粒子であるため、電磁波吸収層の形成時にバインダー内に良好に分散させることが重要となる。このため、電磁波吸収層に、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などのリン酸化合物を含んでいる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、微細な磁性酸化鉄粉の分散剤として機能するため、バインダー内のイプシロン磁性酸化鉄粒子を、良好に分散させることができる。
より具体的に、分散剤としては、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)、城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP−502」(製品名)などを使用することができる。
なお、電磁波吸収層の組成としては、一例として、イプシロン磁性酸化鉄粉100部に対して、樹脂製バインダーが2〜50部、リン酸化合物の含有量が0.1〜15部とすることができる。樹脂製バインダーが2部より少ないと、磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。また磁性体層としてシート状の形状を維持できなくなる。50部より多いと、電磁波吸収層の中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電磁波吸収の効果が小さくなる。
リン酸化合物の含有量が0.1部より少ないと、樹脂製バインダーを用いて磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。15部より多いと、磁性酸化鉄を良好に分散させる効果が飽和する。電磁波吸収層の中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電磁波吸収の効果が小さくなる。
[電磁波吸収シートの製造方法]
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの製造方法について説明する。
本実施形態の電磁波吸収シートは、例えば、少なくとも磁性酸化鉄粉と樹脂製バインダーとを含んだ磁性塗料を作製してこれを所定の厚さで塗布し、乾燥させた後にカレンダ処理することによって形成することができる。
また、磁性塗料成分として、少なくとも磁性酸化鉄粉と、分散剤であるリン酸化合物と、バインダー樹脂とを高速攪拌機で高速混合して混合物を調製し、その後、得られた混合物をサンドミルで分散処理することでも磁性塗料を得ることができる。
このようにして作製された磁性塗料を用いて、電磁波吸収シートを作製する。
電磁波吸収シートを作製する場合には、図1に示したように、樹脂製のシート2の上に上記作製した磁性塗料を塗布する。樹脂シート2としては、一例として、シリコンコートによって表面に剥離処理をされた、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシートを用いることができる。この樹脂シート2の上に、テーブルコータ法やバーコータ法などの塗布方法を用いて、磁性塗料を塗布する。
その後、wet状態の磁性塗料を乾燥し、さらにカレンダ処理を行って、支持体上に電磁波吸収シートを形成できる。電磁波吸収シートの厚さは、塗布厚やカレンダ処理の条件等によって制御することができる。カレンダ処理が行われた後の電磁波吸収シート1を樹脂シート2から剥離させて、所望の厚さの電磁波吸収シート1を得る。
なお、カレンダ処理は必要に応じて行えばよく、磁性塗料を乾燥させた状態で磁性酸化鉄粉の体積含率が所定の範囲内となっている場合には、カレンダ処理を行わなくても構わない。
また、少なくとも磁性酸化鉄粉とゴムなどの樹脂製バインダーとを含んだ磁性コンパウンドを作製して、これを所定の厚さで成型し、架橋させることによって電磁波吸収シートの電磁波吸収層を形成することができる。
具体的には先ず、磁性コンパウンドを作製する。磁性コンパウンドは、磁性酸化鉄粉と分散剤、樹脂製バインダーを混練することによって得ることができる。混練物は、一例として、加圧式の回分式ニーダで混練することにより得られる。なお、このとき、必要に応じて架橋剤を配合することができる。
得られた磁性コンパウンドを、一例として油圧プレス機などを用いて150℃の温度でシート状に架橋・成型プレスする。その後、恒温槽内において2次架橋処理を施し電磁波吸収層を形成できる。
なお、成型は上述したプレス成型の他に、押出成型、射出成型によって行うことができる。具体的には、磁性酸化鉄粉と、バインダーと、必要に応じて分散剤などを予め加圧式ニーダやエクストルーダー、ロールミルなどでブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給する。なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出すことで所定の厚さの電磁波吸収層を得ることができる。
また磁性酸化鉄粉と、分散剤、バインダーを必要に応じて予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を射出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給し、可塑化シリンダ内においてスクリューで溶融混練の後、射出成型機の先端に接続した金型に溶融樹脂を射出することで、成型体を形成することができる。
[ベースフィルム、接着層]
図示は省略するが、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収層1をベースフィルム上に形成することができる。
形成した電磁波吸収層1の厚みが薄く電磁波吸収シート1としての所定の強度が得られない場合には、電磁波吸収層1背面側に樹脂製の基材であるベースフィルムを積層することが好ましい。
なお、ベースフィルムとしては、PETフィルムなどの各種の樹脂製フィルム、ゴム、和紙などの紙部材を用いて構成することができる。ベースフィルムの材料や厚みは、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて電磁波吸収特性には影響を与えないため、電磁波吸収シートの強度や取り扱いの容易性などの実用的な観点から、適切な材料で、かつ、適切な厚みを有するベースフィルムを選択することができる。
さらに、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1の背面側、または、ベースフィルムの電磁波吸収層1が形成されている側とは反対側の表面に、図示しない接着層を形成することができる。
接着層を設けることで、ベースフィルムの有無にかかわらず、電磁波吸収層1からなる電磁波吸収シートを、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に容易に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シートは電磁波吸収層1が可撓性を有するものであるため、湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
接着層としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層の厚さは20μm〜100μmが好ましい。接着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層4の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。
なお、本願明細書において接着層とは、剥離不可能に貼着する接着層であるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層であってもよい。
また、電磁波吸収シートを所定の面に貼着するにあたって、電磁波吸収シートが接着層を備えていることが必須の要件ではないことは言うまでもなく、電磁波吸収シートが配置される部材の側の表面に粘着性を備えることや、両面テープや接着剤を用いて所定の部位に電磁波吸収シートを貼着することができる。この点において、接着層は、本実施形態に示す電磁波吸収シートにおける必須の構成要件ではない。
[ヒステリシスループとこれを微分した微分曲線]
図5は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波吸収層の第1の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。
なお、以下の各図で示すヒステリシスカーブは、所定の磁性酸化鉄を含む径が8mmφ、厚さが2mmの試料を作製し、東英工業株式会社製の振動試料型磁力計VSM−P7(製品名)を用いて、印加磁界を16kOeから−16kOeの範囲で測定した。なお、測定の時定数Tcは、0.03secとしている。
図5に示すように、外部から強さが変化する磁界を印加していった際の磁性酸化鉄に残留する磁化の強さを示す磁化曲線51は、いわゆるヒステリシスカーブを描く。ミリ波帯域である数十から数百ギガヘルツ、さらには、3テラヘルツまでの高い周波数で磁気共鳴を起こす磁性酸化鉄は、ジャイロ磁気共鳴型の磁性体であり保磁力が高いため、磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性を測定した場合、磁性酸化鉄のヒステリシスカーブは斜めに傾斜した形となる。このとき、困難軸方向の磁化曲線で飽和磁界に達する印加磁界の値が磁性酸化鉄の異方性磁界HAの値であり、この値は、スピンが一つの方向に揃う印加磁界の強さを示している。
異方性磁界HAの値と、磁性体の自然磁気共鳴周波数frとの間には、下記式(1)のような関係が成り立つ。
fr=ν/2π*HA (1)
ここで、νはジャイロ磁気定数で、磁性体の種類によって定まる値である。
このように、ジャイロ磁気共鳴型の磁性体では、異方性磁界HAの値と自然磁気共鳴周波数frとの間に比例関係が成り立つため、本実施形態の電磁波吸収層1では、異なる異方性磁界HAの値を有する異なった保磁力を持つ複数の磁性酸化鉄を電磁波吸収シートに含むことで、異なる周波数で磁気共鳴を起こして、当該周波数の電磁波を熱に変換して減衰させる。結果として、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、それぞれの磁性酸化鉄で所定の周波数の電磁波を吸収することができ、電磁波吸収層に異なる異方性磁界HAの値を有する異なった保磁力を持つ複数の磁性酸化鉄を含むことで複数の周波数の電磁波を吸収することができる。
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1に異方性磁界HAの値が異なる2以上の磁性酸化鉄が含まれているとともに、電磁波吸収シートについて、外部から印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスカーブ51を微分した微分曲線52が1つの極値を有する、すなわち、図5に示すような一つの頂上を有する山形となるようにしている。
図5に示す例では、電磁波遮蔽周波数(自然共鳴周波数)が76GHzと79GHzのイプシロン磁性酸化鉄を1:1の比率で混合し、下記の組成で磁性塗料を作製した。
磁性酸化鉄粉 イプシロン磁性酸化鉄 100部
(ピーク吸収波長76GHz:79GHz=1:1)
分散剤 DISPERBYK−142(商品名) 15部
溶媒 メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
95部
なお、イプシロン磁性酸化鉄の保磁力は、ピーク吸収波長が76GHzのものが7544Oe、ピーク吸収波長が79GHzのものが7944Oeであった。
この磁性塗料成分を径0.5mmのジルコニアビーズを分散媒体とし、内容量が2Lのディスク型サンドミルで分散した。このようにして得た分散塗料を攪拌機で攪拌しながら、以下の材料を配合し、上記電磁波吸収シートの製造方法として説明した条件で分散して磁性塗料を得た。
磁性塗料成分 100部
ポリウレタンバインダー(バイロンUR8700(商品名))46部
溶媒(希釈) メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
120部。
続いて、得られた磁性塗料を、シリコンコートにより剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、バーコータを用いて塗布し、湿潤状態において80℃で1440分乾燥後、厚さ400μmのシートを得た。こうして得られたシートに温度80℃、圧力150kg/cmでカレンダ処理を行い、厚さ300μmの電磁波吸収シートを得た。
この電磁波吸収シートは、図5に示すように、ヒステリシスカーブ51の微分曲線52は1つのピークを描く山型の形状として表され、測定対象の試料が、異なる2つの異方性磁界HAの値を有する磁性酸化物を含む一方で、異方性磁界HAの値、すなわち、吸収する電磁波の周波数を決める保磁力の差が400Oeと小さいために、電磁波吸収層全体としては1つのピーク波長を有する電磁波吸収特性を示すことがわかる。
なお、図5に示した電磁波吸収シートの第1の構成例の場合は、2つのイプシロン磁性酸化鉄の異方性磁界HAの値は7544Oeと7944Oeであり、電磁波遮蔽(吸収)周波数(76GHz、79GHz)の差が3GHzであった。発明者らの検討によれば、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の遮蔽周波数の差が5GHz以下であれば、図5に示す曲線52のように、ヒステリシスカーブの微分曲線が1つの極値を有する形状、すなわち、一つの山型の形状となることが確認できた。一方、吸収波長の差が5GHz以上の場合には、ヒステリシスループを微分した微分曲線が2つの山を有する双峰形状となり、2つのピークの中央部分の電磁波吸収特性が低下してしまうことがわかった。
次に、電磁波吸収材料としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートの磁気特性について確認した。
図6〜図10は、いずれも、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートの外部から印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスカーブと、これを微分した微分曲線を示している。
図6は、電磁波遮蔽周波数が75GHzと76GHzのストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第2の構成例の場合を示す。また、図7は、電磁波遮蔽周波数が75GHzと77GHzのストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第3の構成例の場合を示す。図8は、電磁波遮蔽周波数が76GHzと77GHzのストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第4の構成例の場合を示す。図9は、電磁波遮蔽周波数が75GHzと76GHzと77GHzの3種類のストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第5の構成例の場合を示す。さらに、図10は、電磁波遮蔽周波数が76GHz、81GHz、86GHz、91GHz、96GHzの5種類のストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第6の構成例の場合を示す。
なお、それぞれの電磁波吸収シートは、バインダーとしてシリコーンゴム製バインダーKE−510−U(商品名:信越化学工業株式会社製)を用いて以下の材料を用いて作製した。
磁性酸化鉄粉 ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄 100部
異なる遮蔽周波数の材料を同じ比率(1:1、1:1:1、
1:1:1:1:1)で混合
分散剤 DISPERBYK−142(商品名) 15部
溶媒 メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
95部。
この磁性塗料成分を径0.5mmのジルコニアビーズを分散媒体とし、内容量が2Lのディスク型サンドミルで分散した。このようにして得た分散塗料を攪拌機で攪拌しながら、以下の材料を配合し、上記電磁波吸収シートの製造方法として説明した条件で分散して磁性塗料を得た
磁性塗料成分 100部
ポリウレタンバインダー(バイロンUR8700(商品名))46部
溶媒(希釈) メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
120部。
続いて、得られた磁性塗料を、シリコンコートにより剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、バーコータを用いて塗布し、湿潤状態において80℃で1440分乾燥後、厚さ400μmのシートを得た。
なお、異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄は、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄のストロンチウム元素をガリウムに置換する際の置換量を変化させて作製した。
図6〜図10に示すように、電磁波吸収材料としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた場合は、図5に示すイプシロン磁性酸化鉄を用いた場合と比較して、ヒステリシスループ(61、71、81、91、101)の幅が小さく、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の保磁力がイプシロン磁性酸化鉄の保磁力と比較して小さいことが現れている。一方で、電磁波吸収シートの第2の構成から第5の構成のいずれにおいても、ヒステリシスループ(61、71、81、91、101)を微分した微分曲線(62、72、82、92、102)は、いずれも一つの山型となる形状が現れていて、微分曲線の極値が1つであることがわかる。
このように、電磁波吸収材料としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた場合も、異方性磁界HAの値が異なる2つ以上の磁性酸化鉄を含む一方で、電磁波吸収層全体としては、ヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有するため、高い電磁波吸収特性と吸収波長帯域の幅広さとを両立できていることがわかる。
特に幅広い吸収帯域の電磁波吸収特性を向上させるためには、多くの異なる遮蔽周波数の材料を組み合わせることで実現することができる。この場合、ヒステリシスカーブの微分曲線が1つの極値を有し、一つの山型の形状とするために、各遮蔽周波数の材料の遮蔽周波数の差が5GHz以下とすることが好ましい。
一例として図10に示した、遮蔽周波数の差が5GHzの5種類の異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートについて、周波数と透過減衰量の関係を測定した。
図11は、第6の構成例の電磁波吸収シートにおける、電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
図11に符号111として示すように、遮蔽周波数の差が5GHzの5種類の異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた場合、非常に幅広い吸収帯域で、10dB以上の良好な透過減衰量を示すことが分かった。なお、データの図示等は省略するが、6種類以上の異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートでも、各ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の遮蔽周波数の差が5GHz以内であれば、幅広い吸収帯域での良好な透過減衰量を示すことが確認された。
上記説明した、図5〜図10に、ヒステリシスループとその微分曲線とを示す電磁波吸収シートの第1の構成から第6の構成において、いずれも電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の比率が同じ、すなわち、1:1、または、1:1:1、さらには、1:1:1:1:1とした場合を示した。しかし、本願実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の含有量は同じである場合には限られず、異なる割合で含まれていてもよい。発明者らが確認したところ、含まれる磁性酸化鉄の割合が同じ含有量(1:1、1:1:1、1:1:1:1:1)の場合にヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有する場合には、異なる異方性磁界(HA)の値を有する磁性酸化鉄の含有量が異なる場合でも、ヒステリシスループの微分曲線は一つの極値を有することが確認できた。さらに、図11に示したとおり、異なる遮蔽周波数を有する5種類の磁性酸化鉄の割合が同じ含有量(1:1:1:1:1)の場合には、非常に幅広い吸収帯域で10dB以上の良好な透過減衰量を示すことが分かった。
なお、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の含有量については、吸収する電磁波の周波数帯域を良好に広げるという観点からは、異なる異方性磁界(HA)の値を有する磁性酸化鉄の含有量はなるべく均等とすることが好ましい。
このように、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の異方性磁界(HA)の値が異なる一方で磁気特性のヒステリシスループの微分曲線が一つの極値を有するため、磁性酸化鉄を一つのみ含む場合と比較して、より広い周波数帯域の電磁波に対して高い吸収特性を有するものとすることができる。また、本願で開示する電磁波吸収体は、平面視したときの大きさに対して厚さが小さなシート状とするだけではなく、電磁波吸収層を成型体として形成して所定の厚さを有したブロック形状とすることができる。
なお、上記実施例では、一層の電磁波吸収層に異方性磁界(HA)の値が異なる2つ以上の磁性酸化鉄が含まれる例を示したが、異方性磁界(HA)の値が異なる磁性酸化鉄が2層以上の電磁波吸収層に分散して含まれていても、磁気特性のヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有することで、同様に、より広い周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収体とすることができる。
(第2の実施形態)
次に、本願で開示する電磁波吸収体用組成物について説明する。
第2の実施形態として示す電磁波吸収体用組成物は、第1の実施形態で説明した電磁波吸収体である電磁波吸収シートを作製する際に用いられた磁性塗料を意味する。
この磁性塗料は、樹脂製バインダー内に所定の異方性磁界(HA)の値を有することによって異なる保磁力をもった複数の磁性酸化物が含まれているものであるため、磁性塗料それ自体として、また、バルク状に固めた固形の電磁波吸収体として、それぞれ上述の電磁波吸収シートと同様の電磁波吸収特性を有する。また、電磁波吸収体全体としての磁気特性も、第1の実施形態で上述した電磁波吸収シートと同様に、ヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有する。
磁性酸化鉄粒子と樹脂製バインダーを含む電磁波吸収体用組成物してとしての磁性塗料を用いて、複雑な表面形状の部材や、壁面、天井など、各種建築部材の広範囲の部分に磁性塗料の塗膜を形成して電磁波吸収特性を付与することができる。また、電磁波を発生するICチップや発信器などの電子機器に磁性塗料を塗布して、これらの電子機器に電磁気吸収特性を有する被覆層を直接モールドすることも可能である。この結果、電磁波を発生する複雑な形状の機器全体を遮蔽することができる。また部屋全体を複数の周波数の電磁波から遮蔽することができる。
複雑な表面形状の部材や、壁面、天井などの広範囲の部分に、本願で開示する電磁波吸収体用組成物を付与する方法としては、刷子などを用いて表面に塗布する方法、スプレーで吹き付ける方法などがある。
この場合にも、電磁波吸収体用組成物で吸収される電磁波の周波数は、含まれる磁性酸化物の異方性磁界(HA)の値に応じたものとなり、磁性酸化鉄を一つのみ含む場合と比較して、より広い周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができる。
なお、電磁波吸収体用組成物は、所定の周波数の電磁波を吸収する部材として機能するほかに、微分曲線の極値部分以外の周波数の電磁波を選択的に透過させるフィルタとして機能させることができる。
このように、本願で開示する電磁波吸収体は、シート状、ブロック形状、様々な形状のものとして実現することができる。また、本願で開示する電磁波吸収体用組成物を、上記例示した建築部材、電子機器をはじめとする他の部材や構成物に対して、塗布、注入、貼着、その他の方法によって供給することで、当該他の部材や構成物に良好な電磁波吸収特性を付与することができる。
以上説明したように、本願で開示する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物は、電磁波吸収層に異方性磁界HAの異なる2種以上の磁性酸化鉄を含むとともに、外部磁界を印加して得られる磁性特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。このため、本願で開示する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物は、1種類の磁性酸化鉄を含んだ電磁波吸収層を有するものと比較して、吸収される電磁波の、広い周波数帯域と高い吸収特性とを実現することができる。
なお、ヒステリシスループを測定するための外部磁界の強さを、16kOeから−16kOeとしているのは、少なくともこの範囲の外部磁界を印加することにより、良好なヒステリシスループが得られることを意味している。このため、印加される外部磁界の大きさを、その絶対値が16kOeよりも大きくしても問題が無く、外部磁界の大きさが16kOeから−16kOeの範囲でのヒステリシスループを測定し、その微分曲線を求めれば良い。
本願で開示する電磁波吸収体、電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域においてより広い周波数帯域の電磁波を良好に吸収する電磁波吸収部材として有用である。
1 電磁波吸収層
1a(1a1、1a2) 磁性酸化鉄粒子
1b 樹脂製バインダー
本開示は、電磁波を吸収する電磁波吸収体に関し、特に、ミリ波帯と称される数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域、さらには3テラヘルツ(THz)までの高い周波数帯域において、吸収する電磁波の周波数に所定の帯域幅を有する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物に関する。
携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などでは、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波と呼ばれる電磁波が用いられている。
このようなセンチメール波を吸収する電磁波吸収シートとして、ゴム状電磁波吸収シートと段ボールなどの紙状シート材とを積層した積層体シートが提案されている(特許文献1参照)。また、異方性黒鉛とバインダーとを含む薄型シートを交互に積層してその厚さを調整することで、電磁波入射方向に関係なく電磁波吸収特性を安定させた電磁波吸収シートが提案されている(特許文献2参照)。
さらに、より高い周波数帯域の電磁波を吸収できるようにすることを目的として、偏平状の軟磁性粒子の長手方向をシートの面方向に揃えることで、20ギガヘルツ以上の周波数帯域の電磁波を吸収可能な電磁波吸収シートが提案されている(特許文献3参照)。
また、イプシロン磁性酸化鉄(ε−Fe23)結晶を磁性相に持つ粒子の充填構造を有する電磁波吸収体が、25〜100ギガヘルツの範囲で電磁波吸収性能を発揮することが知られている(特許文献4参照)。
特開2011−233834号公報 特開2006− 80352号公報 特開2015−198163号公報 特開2008− 60484号公報
近年では、送信するデータのさらなる大容量化を可能とするために、60ギガヘルツの周波数を用いた無線通信が計画され、また、極めて狭い指向性を活用する車載レーダー機器として数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯域(30〜300ギガヘルツ)の周波数を有するミリ波レーザーの利用が進められている。さらに、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、テラヘルツ(THz)オーダーの周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
しかし、電磁波利用技術の一つであり漏洩電磁波を防止するためなどに不可欠な電磁波吸収体としては、60GHz前後のいわゆるミリ波帯域の特定の周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収体は提案されているものの、ミリ波帯域からさらに高い周波数帯域において、吸収する電磁波が所定の広い帯域幅を有する電磁波吸収体は実現されていない。
本開示は、上記従来の課題を解決し、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域において、所定の広い帯域幅の電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収体と、電磁波吸収体用組成物を実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収体は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーを含む電磁波吸収層により形成された電磁波吸収体であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有することを特徴とする。
また、本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーによって形成された電磁波吸収体用組成物であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有することを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物は、いずれも電磁波吸収物質として、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する異方性磁界HAの値が異なる2種以上の磁性酸化鉄を有し、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。このため、数十ギガヘルツ以上の高い周波数帯域の電磁波を、所定の広い帯域幅に渡って良好に吸収することができる。
本実施形態にかかるシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートの構成を説明する断面構成図である。 Feサイトの一部を置換したイプシロン磁性酸化鉄の電磁波吸収特性を説明する図である。 イプシロン磁性酸化鉄の保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示す図である。 ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄磁性酸化鉄の保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第1の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第2の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第3の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第4の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第5の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第6の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する電磁波吸収層の第6の構成例における、吸収周波数と透過減衰量とを示す図である。
本願で開示する電磁波吸収体は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーを含む電磁波吸収層により形成された電磁波吸収体であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体は、電磁波を吸収する部材である磁性酸化鉄の共鳴周波数、すなわち、当該磁性酸化鉄によって吸収される電磁波の周波数が定まる異方性磁界HAの値が異なる2種以上の磁性酸化鉄が含まれることで、それぞれの磁性酸化鉄で吸収される電磁波のピーク周波数が複数存在する。一方で、16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有するため、電磁波吸収体全体として吸収する電磁波の周波数特性は1つのピークを持った形状となる。このため、高い電磁波吸収特性を有すると同時に、磁性酸化鉄を1種のみ用いた場合に比べて吸収される電磁波の周波数帯域が広い幅を有した電磁波吸収体を得ることができる。
なお、本願で開示する発明において、「ヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する」とは、微分曲線が極値、すなわち、変曲点を、1つのみ有するものを示し、極値(変曲点)が2つ以上ある場合は含まれない。
本願で開示する電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層に含まれる2種以上の前記磁性酸化鉄が、主とする元素構成が同一であるとともに置換元素が互いに異なることが好ましい。このようにすることで、吸収する電磁波の周波数は異なるものの粒径や形状などが類似した特性を有する電磁波吸収材料を用いて、分散性などが優れたより均一化された特性を有する電磁波吸収体を得ることができ、2種以上の磁性酸化鉄を用いても、容易に磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を持つようにすることができる。
なお、前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、イプシロン磁性酸化鉄のいずれかであることが好ましい。
さらに、前記電磁波吸収層が平面視したときの大きさに対して厚さが薄く形成され全体としてシート状と形成されることが好ましい。このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体を取り扱いが容易な電磁波吸収シートとして活用できる。
また、本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーによって形成された電磁波吸収体用組成物であって、異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、高い電磁波吸収特性を有すると同時に、吸収される電磁波の周波数帯域が所定の広い幅を有した電磁波吸収体を形成することができる。
本願で開示する電磁波吸収体用組成物において、前記電磁波吸収層に含まれる2種以上の前記磁性酸化鉄が、主とする元素構成が同一であるとともに置換元素が互いに異なることが好ましい。このようにすることで、特性がより均一化された電磁波吸収体用組成物を得ることができ、2種以上の磁性酸化鉄を用いても、容易に磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を持つようにすることができる。
また、前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、イプシロン磁性酸化鉄のいずれかであることが好ましい。
さらに、本願で開示する電磁波吸収体用組成物を用いて形成された建築部材、電子機器は、いずれも上述の電磁波吸収体用組成物が有する、高く、かつ、吸収される周波数帯域が広いという優れた電磁波吸収特性を備えた、建築部材、電子機器とすることができる。
以下、本願で開示する電磁波吸収体と電磁波吸収体用組成物について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本願で開示する電磁波吸収体の第1の実施形態として、粒子状の磁性酸化鉄と樹脂製のバインダーを含んだ電磁波吸収層がその平面視したときの大きさに対して厚さが小さく形成され、全体としてシート状に構成された、いわゆる透過型の電磁波吸収シートを例示して説明する。
[シート構成]
図1は、本実施形態で説明する電磁波吸収体としての電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
図1では、電磁波吸収性組成物を基材としての樹脂シート2上に塗布、乾燥を行って電磁波吸収シート1を成型した状態を示している。
なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、異方性磁界HAの値が異なる2種類の磁性酸化鉄1a1、1a2と樹脂製のバインダー1bとを含んだ電磁波吸収層1として形成されている。
図1に示す本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1に含まれる2つの磁性酸化鉄1a1、1a2は異方性磁界HAの値が異なり、磁性酸化鉄1a1と磁性酸化鉄1a2の保磁力が異なる。磁性酸化鉄が磁気共鳴することによって吸収する電磁波の周波数は保磁力の値によって異なるため、本実施形態の電磁波吸収シートでは、それぞれの磁性酸化鉄1a1、1a2が異なる周波数の電磁波を吸収する。一方、電磁波吸収シート全体としての電磁波吸収特性は、外部から印加される磁界に対する磁気特性であるヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。このことは、電磁波の周波数に対する吸収特性が、所定の周波数にピークを有する1つの山型のものとして現れることを意味する。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、このように電磁波吸収材料として含まれる異方性磁界HAの値が異なる磁性酸化鉄がそれぞれ異なる周波数の電磁波を吸収するため、1種類の磁性酸化鉄のみが含まれている電磁波吸収シートに比べて吸収される電磁波の周波数帯域が広がる。一方で、電磁波吸収シート全体の磁気特性を示すヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有し、吸収される電磁波の周波数特性が1つの山型として表されるため、この周波数特性が2つの山を有する場合、すなわち、それぞれの磁性酸化鉄が吸収する電磁波の周波数が離れていてヒステリシスループを微分した微分曲線が2つの極大値と1つの極小値とを有する場合と比較して、電磁波吸収特性のピークを高く維持することができる。このため、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、高い電磁波吸収特性と幅広い吸収周波数帯域とを両立することができる。
なお、図1では、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄が2種類の場合を図示しているが、後述するように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄は、3種類以上であってもかまわない。
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄の異方性磁界HAの値が異なるとともに、磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有している状態については、具体例を示して後述する。
[磁性酸化鉄]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、粒子状の磁性酸化鉄として、イプシロン磁性酸化鉄を用いている。
イプシロン磁性酸化鉄(ε−Fe23)は、酸化第二鉄(Fe23)において、アルファ相(α−Fe23)とガンマ相(γ−Fe23)との間に現れる相であり、逆ミセル法とゾルーゲル法とを組み合わせたナノ微粒子合成方法によって単相の状態で得られるようになった磁性材料である。
イプシロン磁性酸化鉄は、数nmから数十nmの微細粒子でありながら常温で約20kOeという金属酸化物として最大の保磁力を備え、さらに、歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然共鳴が数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯の周波数帯域で生じるため、ミリ波帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収材料として用いることができる。
さらに、イプシロン磁性酸化鉄は、結晶のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)などの3価の金属元素と置換された結晶とすることで、磁気共鳴周波数、すなわち、電磁波吸収材料として用いられる場合に吸収する電磁波の周波数を異ならせることができる。
図2は、Feサイトと置換する金属元素を異ならせた場合の、イプシロン磁性酸化鉄の保磁力Hcと自然共鳴周波数fとの関係を示している。なお、自然共鳴周波数fは、吸収する電磁波の周波数と一致する。
図2から、Feサイトの一部が置換されたイプシロン磁性酸化鉄は、置換された金属元素の種類と置換された量によって、自然共鳴周波数が異なることがわかる。また、自然共鳴周波数の値が高くなるほど、当該イプシロン磁性酸化鉄の保磁力が大きくなっていることがわかる。
より具体的には、ガリウム置換のイプシロン磁性酸化鉄、すなわちε−GaxFe2-x3の場合には、置換量「x」を調整することで30ギガヘルツから150ギガヘルツ程度までの周波数帯域で吸収のピークを有し、アルミニウム置換のイプシロン磁性酸化鉄、すなわちε−AlxFe2-x3の場合には、置換量「x」を調整することで100ギガヘルツから190ギガヘルツ程度の周波数帯域で吸収のピークを有する。このため、電磁波吸収シートで吸収したい周波数の自然共鳴周波数となるように、イプシロン磁性酸化鉄のFeサイトと置換する元素の種類を決め、Feとの置換量を調整することで、吸収される電磁波の周波数を所望の値とすることができる。さらに、置換する金属をロジウムとしたイプシロン磁性酸化鉄、すなわちε−RhxFe2-x3の場合には、180ギガヘルツからそれ以上と、吸収する電磁波の周波数帯域をより高い方向にシフトすることが可能である。
イプシロン磁性酸化鉄は、一部のFeサイトが金属置換されたものを含めて入手することが可能である。イプシロン磁性酸化鉄は、平均粒径が約30nm程度の略球形または短いロッド形状(棒状)をした粒子として入手することができる。
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる磁性酸化鉄としては、上述したイプシロン磁性酸化鉄の他に、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、または、M型フェライトを使用することができる。
ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄は、60GHz帯の無線LANに対応した電磁波吸収体を設計するために、SrFe1219にAlを添加した系であり、電磁波吸収シートでは、Alを添加することによって、電磁波吸収を示す周波数が高周波側にシフトする。これは、異方性磁界HAの値の増加に対応していると考えられる。
M型フェライトは、電磁波吸収に関係する複素透磁率の虚部(μr’’)が、磁性体を高周波で磁化した際に共鳴を起こす周波数において高くなることに着目して、自然共鳴周波数fは材料の持つ異方性磁界HAと比例関係にあるため、異方性磁界HAの高い材料ほど自然共鳴周波数fの値は高くなる。M型フェライトであるBaFe1219の自然共鳴周波数fは、そのHAの値が、1.35MA/mから48GHzと計算され、高いGHz帯域の電磁波を吸収することができる。また、Fe3+の一部を(TiMn)3+やAl3+などで置換することで、異方性磁界HAの値を制御することで自然共鳴周波数fを5〜150GHzの範囲で制御することができる。
このように、磁性酸化鉄として、イプシロン磁性酸化鉄、M型フェライト、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いることによって、それぞれの磁性酸化鉄の異方性磁界(HA)の値を制御することができ、結果として、これらの磁性酸化鉄を電磁波吸収層1に含む電磁波吸収シートで吸収される電磁波の周波数を変化させることができる。
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて電磁波吸収材料として用いられるイプシロン磁性酸化鉄とストロンチウムフェライト磁性酸化鉄とについて、それぞれが有する保磁力と吸収する電磁波の周波数との関係について測定した結果を説明する。
図3は、イプシロン磁性酸化鉄についての保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示す図である。
図3では、置換元素の種類や置換量が異なるイプシロン磁性酸化鉄に対し、それぞれについて測定された保磁力(Hc)の値(Oe)と吸収される電磁波の周波数のピーク値(GHz)とをプロットしている。図3に示すように、各種イプシロン磁性酸化鉄の保磁力と吸収周波数との間には、図3中符号31で示すように明らかな線形関係が認められる。
また、図4は、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄についての保磁力と吸収される電磁波の周波数との関係を示している。
図4では、アルミ(Al)置換量が異なるストロンチウムフェライト磁性酸化鉄に対して、それぞれについて測定された保磁力(Hc)の値(Oe)と吸収される電磁波の周波数のピーク値(GHz)とをプロットしている。サンプル数が少ないものの、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄においても、各種ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の保磁力と吸収周波数との間には、図4中符号41で示すような線形関係が認められる。
これらのことから、磁性酸化鉄の保磁力と当該磁性酸化鉄が吸収する電磁波の周波数との間には強い相関性があり、電磁波吸収材料として用いられる磁性酸化鉄の保磁力を異ならせることで、吸収する電磁波の周波数を制御することができることがわかる。
なお、図3と図4との比較において、例えば吸収される電磁波の周波数が75GHzであった場合に、イプシロン磁性酸化鉄の保磁力が約7500Oeに対して、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の保磁力は約2500Oeと小さい。この保磁力の大きさの差は、それぞれの部材の電磁波吸収特性に関係し、イプシロン磁性酸化鉄はストロンチウムフェライト磁性酸化鉄に比べて、電磁波の吸収能力がより高いことを表している。
[電磁波吸収層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層1では、磁性酸化鉄の粒子1a1、1a2が樹脂製のバインダー1bによって分散されていることで、シートとしての可撓性を備える。
電磁波吸収層1に用いられる樹脂製のバインダーとしては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂材料を用いることができる。
より具体的には、エポキシ系樹脂として、ビスフェノールAの両末端の水酸基をエポキシ化した化合物を用いることができる。また、ポリウレタン系樹脂として、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ系ウレタン樹脂などを用いることができる。アクリル系の樹脂としては、メタアクリル系樹脂で、アルキル基の炭素数が2〜18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルと、官能基含有モノマーと、必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを共重合させることにより得られる官能基含有メタアクリルポリマーなどを用いることができる。
また、ゴム系樹脂として、スチレン系の熱可塑性エラストマーであるSIS(スチレン−イソブレンブロック共重合体)やSBS(スチレン−ブタジエンブロック共重合体)、石油系合成ゴムであるEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・ゴム)、その他アクリルゴムやシリコーンゴムなどのゴム系材料をバインダーとして利用することができる。
なお、電磁波吸収体を成型体として形成するために熱可塑性樹脂として耐熱性のある高融点の熱可塑性樹脂を用いる場合、6Tナイロン(6TPA)、9Tナイロン(9TPA)、10Tナイロン(10TPA)、12Tナイロン(12TPA)、MXD6ナイロン(MXDPA)等の芳香族ポリアミド及びこれらのアロイ材料、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)等を用いることができる。
また、環境に配慮する観点から、バインダーとして用いられる樹脂としては、ハロゲンを含まないハロゲンフリーのものを用いることが好ましい。これらの樹脂材料は、樹脂シートのバインダー材料として一般的なものであるため容易に入手することができる。
なお、本明細書において可撓性を有するとは、電磁波吸収層が、一定程度湾曲させることができる状態、すなわち、シートを丸めて元に戻したときに破断などの塑性変形が生じずに平面状のシートに復帰する状態を示している。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波吸収層は、電磁波吸収材料としてイプシロン磁性酸化鉄を用いるが、イプシロン磁性酸化鉄は上述のように粒径が数nmから数十nmの微細なナノ粒子であるため、電磁波吸収層の形成時にバインダー内に良好に分散させることが重要となる。このため、電磁波吸収層に、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などのリン酸化合物を含んでいる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、微細な磁性酸化鉄粉の分散剤として機能するため、バインダー内のイプシロン磁性酸化鉄粒子を、良好に分散させることができる。
より具体的に、分散剤としては、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)、城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP−502」(製品名)などを使用することができる。
なお、電磁波吸収層の組成としては、一例として、イプシロン磁性酸化鉄粉100部に対して、樹脂製バインダーが2〜50部、リン酸化合物の含有量が0.1〜15部とすることができる。樹脂製バインダーが2部より少ないと、磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。また磁性体層としてシート状の形状を維持できなくなる。50部より多いと、電磁波吸収層の中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電磁波吸収の効果が小さくなる。
リン酸化合物の含有量が0.1部より少ないと、樹脂製バインダーを用いて磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。15部より多いと、磁性酸化鉄を良好に分散させる効果が飽和する。電磁波吸収層の中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電磁波吸収の効果が小さくなる。
[電磁波吸収シートの製造方法]
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの製造方法について説明する。
本実施形態の電磁波吸収シートは、例えば、少なくとも磁性酸化鉄粉と樹脂製バインダーとを含んだ磁性塗料を作製してこれを所定の厚さで塗布し、乾燥させた後にカレンダ処理することによって形成することができる。
また、磁性塗料成分として、少なくとも磁性酸化鉄粉と、分散剤であるリン酸化合物と、バインダー樹脂とを高速攪拌機で高速混合して混合物を調製し、その後、得られた混合物をサンドミルで分散処理することでも磁性塗料を得ることができる。
このようにして作製された磁性塗料を用いて、電磁波吸収シートを作製する。
電磁波吸収シートを作製する場合には、図1に示したように、樹脂製のシート2の上に上記作製した磁性塗料を塗布する。樹脂シート2としては、一例として、シリコンコートによって表面に剥離処理をされた、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシートを用いることができる。この樹脂シート2の上に、テーブルコータ法やバーコータ法などの塗布方法を用いて、磁性塗料を塗布する。
その後、wet状態の磁性塗料を乾燥し、さらにカレンダ処理を行って、支持体上に電磁波吸収シートを形成できる。電磁波吸収シートの厚さは、塗布厚やカレンダ処理の条件等によって制御することができる。カレンダ処理が行われた後の電磁波吸収シート1を樹脂シート2から剥離させて、所望の厚さの電磁波吸収シート1を得る。
なお、カレンダ処理は必要に応じて行えばよく、磁性塗料を乾燥させた状態で磁性酸化鉄粉の体積含率が所定の範囲内となっている場合には、カレンダ処理を行わなくても構わない。
また、少なくとも磁性酸化鉄粉とゴムなどの樹脂製バインダーとを含んだ磁性コンパウンドを作製して、これを所定の厚さで成型し、架橋させることによって電磁波吸収シートの電磁波吸収層を形成することができる。
具体的には先ず、磁性コンパウンドを作製する。磁性コンパウンドは、磁性酸化鉄粉と分散剤、樹脂製バインダーを混練することによって得ることができる。混練物は、一例として、加圧式の回分式ニーダで混練することにより得られる。なお、このとき、必要に応じて架橋剤を配合することができる。
得られた磁性コンパウンドを、一例として油圧プレス機などを用いて150℃の温度でシート状に架橋・成型プレスする。その後、恒温槽内において2次架橋処理を施し電磁波吸収層を形成できる。
なお、成型は上述したプレス成型の他に、押出成型、射出成型によって行うことができる。具体的には、磁性酸化鉄粉と、バインダーと、必要に応じて分散剤などを予め加圧式ニーダやエクストルーダー、ロールミルなどでブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給する。なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出すことで所定の厚さの電磁波吸収層を得ることができる。
また磁性酸化鉄粉と、分散剤、バインダーを必要に応じて予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を射出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給し、可塑化シリンダ内においてスクリューで溶融混練の後、射出成型機の先端に接続した金型に溶融樹脂を射出することで、成型体を形成することができる。
[ベースフィルム、接着層]
図示は省略するが、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収層1をベースフィルム上に形成することができる。
形成した電磁波吸収層1の厚みが薄く電磁波吸収シート1としての所定の強度が得られない場合には、電磁波吸収層1背面側に樹脂製の基材であるベースフィルムを積層することが好ましい。
なお、ベースフィルムとしては、PETフィルムなどの各種の樹脂製フィルム、ゴム、和紙などの紙部材を用いて構成することができる。ベースフィルムの材料や厚みは、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて電磁波吸収特性には影響を与えないため、電磁波吸収シートの強度や取り扱いの容易性などの実用的な観点から、適切な材料で、かつ、適切な厚みを有するベースフィルムを選択することができる。
さらに、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1の背面側、または、ベースフィルムの電磁波吸収層1が形成されている側とは反対側の表面に、図示しない接着層を形成することができる。
接着層を設けることで、ベースフィルムの有無にかかわらず、電磁波吸収層1からなる電磁波吸収シートを、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に容易に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シートは電磁波吸収層1が可撓性を有するものであるため、湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
接着層としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層の厚さは20μm〜100μmが好ましい。接着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層4の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。
なお、本願明細書において接着層とは、剥離不可能に貼着する接着層であるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層であってもよい。
また、電磁波吸収シートを所定の面に貼着するにあたって、電磁波吸収シートが接着層を備えていることが必須の要件ではないことは言うまでもなく、電磁波吸収シートが配置される部材の側の表面に粘着性を備えることや、両面テープや接着剤を用いて所定の部位に電磁波吸収シートを貼着することができる。この点において、接着層は、本実施形態に示す電磁波吸収シートにおける必須の構成要件ではない。
[ヒステリシスループとこれを微分した微分曲線]
図5は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波吸収層の第1の構成例における、磁気特性のヒステリシスループとこれを微分した微分曲線とを示す図である。
なお、以下の各図で示すヒステリシスカーブは、所定の磁性酸化鉄を含む径が8mmφ、厚さが2mmの試料を作製し、東英工業株式会社製の振動試料型磁力計VSM−P7(製品名)を用いて、印加磁界を16kOeから−16kOeの範囲で測定した。なお、測定の時定数Tcは、0.03secとしている。
図5に示すように、外部から強さが変化する磁界を印加していった際の磁性酸化鉄に残留する磁化の強さを示す磁化曲線51は、いわゆるヒステリシスカーブを描く。ミリ波帯域である数十から数百ギガヘルツ、さらには、3テラヘルツまでの高い周波数で磁気共鳴を起こす磁性酸化鉄は、ジャイロ磁気共鳴型の磁性体であり保磁力が高いため、磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性を測定した場合、磁性酸化鉄のヒステリシスカーブは斜めに傾斜した形となる。このとき、困難軸方向の磁化曲線で飽和磁界に達する印加磁界の値が磁性酸化鉄の異方性磁界HAの値であり、この値は、スピンが一つの方向に揃う印加磁界の強さを示している。
異方性磁界HAの値と、磁性体の自然磁気共鳴周波数frとの間には、下記式(1)のような関係が成り立つ。
fr=ν/2π*HA (1)
ここで、νはジャイロ磁気定数で、磁性体の種類によって定まる値である。
このように、ジャイロ磁気共鳴型の磁性体では、異方性磁界HAの値と自然磁気共鳴周波数frとの間に比例関係が成り立つため、本実施形態の電磁波吸収層1では、異なる異方性磁界HAの値を有する異なった保磁力を持つ複数の磁性酸化鉄を電磁波吸収シートに含むことで、異なる周波数で磁気共鳴を起こして、当該周波数の電磁波を熱に変換して減衰させる。結果として、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、それぞれの磁性酸化鉄で所定の周波数の電磁波を吸収することができ、電磁波吸収層に異なる異方性磁界HAの値を有する異なった保磁力を持つ複数の磁性酸化鉄を含むことで複数の周波数の電磁波を吸収することができる。
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1に異方性磁界HAの値が異なる2以上の磁性酸化鉄が含まれているとともに、電磁波吸収シートについて、外部から印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスカーブ51を微分した微分曲線52が1つの極値を有する、すなわち、図5に示すような一つの頂上を有する山形となるようにしている。
図5に示す例では、電磁波遮蔽周波数(自然共鳴周波数)が76GHzと79GHzのイプシロン磁性酸化鉄を1:1の比率で混合し、下記の組成で磁性塗料を作製した。
磁性酸化鉄粉 イプシロン磁性酸化鉄 100部
(ピーク吸収波長76GHz:79GHz=1:1)
分散剤 DISPERBYK−142(商品名) 15部
溶媒 メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
95部
なお、イプシロン磁性酸化鉄の保磁力は、ピーク吸収波長が76GHzのものが7544Oe、ピーク吸収波長が79GHzのものが7944Oeであった。
この磁性塗料成分を径0.5mmのジルコニアビーズを分散媒体とし、内容量が2Lのディスク型サンドミルで分散した。このようにして得た分散塗料を攪拌機で攪拌しながら、以下の材料を配合し、上記電磁波吸収シートの製造方法として説明した条件で分散して磁性塗料を得た。
磁性塗料成分 100部
ポリウレタンバインダー(バイロンUR8700(商品名)) 46部
溶媒(希釈) メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
120部。
続いて、得られた磁性塗料を、シリコンコートにより剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、バーコータを用いて塗布し、湿潤状態において80℃で1440分乾燥後、厚さ400μmのシートを得た。こうして得られたシートに温度80℃、圧力150kg/cmでカレンダ処理を行い、厚さ300μmの電磁波吸収シートを得た。
この電磁波吸収シートは、図5に示すように、ヒステリシスカーブ51の微分曲線52は1つのピークを描く山型の形状として表され、測定対象の試料が、異なる2つの異方性磁界HAの値を有する磁性酸化物を含む一方で、異方性磁界HAの値、すなわち、吸収する電磁波の周波数を決める保磁力の差が400Oeと小さいために、電磁波吸収層全体としては1つのピーク波長を有する電磁波吸収特性を示すことがわかる。
なお、図5に示した電磁波吸収シートの第1の構成例の場合は、2つのイプシロン磁性酸化鉄の異方性磁界HAの値は7544Oeと7944Oeであり、電磁波遮蔽(吸収)周波数(76GHz、79GHz)の差が3GHzであった。発明者らの検討によれば、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の遮蔽周波数の差が5GHz以下であれば、図5に示す曲線52のように、ヒステリシスカーブの微分曲線が1つの極値を有する形状、すなわち、一つの山型の形状となることが確認できた。一方、吸収波長の差が5GHz以上の場合には、ヒステリシスループを微分した微分曲線が2つの山を有する双峰形状となり、2つのピークの中央部分の電磁波吸収特性が低下してしまうことがわかった。
次に、電磁波吸収材料としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートの磁気特性について確認した。
図6〜図10は、いずれも、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートの外部から印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスカーブと、これを微分した微分曲線を示している。
図6は、電磁波遮蔽周波数が75GHzと76GHzのストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第2の構成例の場合を示す。また、図7は、電磁波遮蔽周波数が75GHzと77GHzのストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第3の構成例の場合を示す。図8は、電磁波遮蔽周波数が76GHzと77GHzのストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第4の構成例の場合を示す。図9は、電磁波遮蔽周波数が75GHzと76GHzと77GHzの3種類のストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第5の構成例の場合を示す。さらに、図10は、電磁波遮蔽周波数が76GHz、81GHz、86GHz、91GHz、96GHzの5種類のストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を含む電磁波吸収シートの第6の構成例の場合を示す。
なお、それぞれの電磁波吸収シートは、バインダーとしてシリコーンゴム製バインダーKE−510−U(商品名:信越化学工業株式会社製)を用いて以下の材料を用いて作製した。
磁性酸化鉄粉 ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄 100部
異なる遮蔽周波数の材料を同じ比率(1:1、1:1:1、
1:1:1:1:1)で混合
分散剤 DISPERBYK−142(商品名) 15部
溶媒 メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
95部。
この磁性塗料成分を径0.5mmのジルコニアビーズを分散媒体とし、内容量が2Lのディスク型サンドミルで分散した。このようにして得た分散塗料を攪拌機で攪拌しながら、以下の材料を配合し、上記電磁波吸収シートの製造方法として説明した条件で分散して磁性塗料を得た
磁性塗料成分 100部
ポリウレタンバインダー(バイロンUR8700(商品名)) 46部
溶媒(希釈) メチルエチルケトン/トルエン(=1/1混合溶剤)
120部。
続いて、得られた磁性塗料を、シリコンコートにより剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、バーコータを用いて塗布し、湿潤状態において80℃で1440分乾燥後、厚さ400μmのシートを得た。
なお、異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄は、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄のストロンチウム元素をガリウムに置換する際の置換量を変化させて作製した。
図6〜図10に示すように、電磁波吸収材料としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた場合は、図5に示すイプシロン磁性酸化鉄を用いた場合と比較して、ヒステリシスループ(61、71、81、91、101)の幅が小さく、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の保磁力がイプシロン磁性酸化鉄の保磁力と比較して小さいことが現れている。一方で、電磁波吸収シートの第2の構成から第5の構成のいずれにおいても、ヒステリシスループ(61、71、81、91、101)を微分した微分曲線(62、72、82、92、102)は、いずれも一つの山型となる形状が現れていて、微分曲線の極値が1つであることがわかる。
このように、電磁波吸収材料としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた場合も、異方性磁界HAの値が異なる2つ以上の磁性酸化鉄を含む一方で、電磁波吸収層全体としては、ヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有するため、高い電磁波吸収特性と吸収波長帯域の幅広さとを両立できていることがわかる。
特に幅広い吸収帯域の電磁波吸収特性を向上させるためには、多くの異なる遮蔽周波数の材料を組み合わせることで実現することができる。この場合、ヒステリシスカーブの微分曲線が1つの極値を有し、一つの山型の形状とするために、各遮蔽周波数の材料の遮蔽周波数の差が5GHz以下とすることが好ましい。
一例として図10に示した、遮蔽周波数の差が5GHzの5種類の異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートについて、周波数と透過減衰量の関係を測定した。
図11は、第6の構成例の電磁波吸収シートにおける、電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
図11に符号111として示すように、遮蔽周波数の差が5GHzの5種類の異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた場合、非常に幅広い吸収帯域で、10dB以上の良好な透過減衰量を示すことが分かった。なお、データの図示等は省略するが、6種類以上の異なる遮蔽周波数を有するストロンチウムフェライト磁性酸化鉄を用いた電磁波吸収シートでも、各ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄の遮蔽周波数の差が5GHz以内であれば、幅広い吸収帯域での良好な透過減衰量を示すことが確認された。
上記説明した、図5〜図10に、ヒステリシスループとその微分曲線とを示す電磁波吸収シートの第1の構成から第6の構成において、いずれも電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の比率が同じ、すなわち、1:1、または、1:1:1、さらには、1:1:1:1:1とした場合を示した。しかし、本願実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の含有量は同じである場合には限られず、異なる割合で含まれていてもよい。発明者らが確認したところ、含まれる磁性酸化鉄の割合が同じ含有量(1:1、1:1:1、1:1:1:1:1)の場合にヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有する場合には、異なる異方性磁界(HA)の値を有する磁性酸化鉄の含有量が異なる場合でも、ヒステリシスループの微分曲線は一つの極値を有することが確認できた。さらに、図11に示したとおり、異なる遮蔽周波数を有する5種類の磁性酸化鉄の割合が同じ含有量(1:1:1:1:1)の場合には、非常に幅広い吸収帯域で10dB以上の良好な透過減衰量を示すことが分かった。
なお、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の含有量については、吸収する電磁波の周波数帯域を良好に広げるという観点からは、異なる異方性磁界(HA)の値を有する磁性酸化鉄の含有量はなるべく均等とすることが好ましい。
このように、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の異方性磁界(HA)の値が異なる一方で磁気特性のヒステリシスループの微分曲線が一つの極値を有するため、磁性酸化鉄を一つのみ含む場合と比較して、より広い周波数帯域の電磁波に対して高い吸収特性を有するものとすることができる。また、本願で開示する電磁波吸収体は、平面視したときの大きさに対して厚さが小さなシート状とするだけではなく、電磁波吸収層を成型体として形成して所定の厚さを有したブロック形状とすることができる。
なお、上記実施例では、一層の電磁波吸収層に異方性磁界(HA)の値が異なる2つ以上の磁性酸化鉄が含まれる例を示したが、異方性磁界(HA)の値が異なる磁性酸化鉄が2層以上の電磁波吸収層に分散して含まれていても、磁気特性のヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有することで、同様に、より広い周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収体とすることができる。
(第2の実施形態)
次に、本願で開示する電磁波吸収体用組成物について説明する。
第2の実施形態として示す電磁波吸収体用組成物は、第1の実施形態で説明した電磁波吸収体である電磁波吸収シートを作製する際に用いられた磁性塗料を意味する。
この磁性塗料は、樹脂製バインダー内に所定の異方性磁界(HA)の値を有することによって異なる保磁力をもった複数の磁性酸化物が含まれているものであるため、磁性塗料それ自体として、また、バルク状に固めた固形の電磁波吸収体として、それぞれ上述の電磁波吸収シートと同様の電磁波吸収特性を有する。また、電磁波吸収体全体としての磁気特性も、第1の実施形態で上述した電磁波吸収シートと同様に、ヒステリシスループの微分曲線が1つの極値を有する。
磁性酸化鉄粒子と樹脂製バインダーを含む電磁波吸収体用組成物してとしての磁性塗料を用いて、複雑な表面形状の部材や、壁面、天井など、各種建築部材の広範囲の部分に磁性塗料の塗膜を形成して電磁波吸収特性を付与することができる。また、電磁波を発生するICチップや発信器などの電子機器に磁性塗料を塗布して、これらの電子機器に電磁気吸収特性を有する被覆層を直接モールドすることも可能である。この結果、電磁波を発生する複雑な形状の機器全体を遮蔽することができる。また部屋全体を複数の周波数の電磁波から遮蔽することができる。
複雑な表面形状の部材や、壁面、天井などの広範囲の部分に、本願で開示する電磁波吸収体用組成物を付与する方法としては、刷子などを用いて表面に塗布する方法、スプレーで吹き付ける方法などがある。
この場合にも、電磁波吸収体用組成物で吸収される電磁波の周波数は、含まれる磁性酸化物の異方性磁界(HA)の値に応じたものとなり、磁性酸化鉄を一つのみ含む場合と比較して、より広い周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができる。
なお、電磁波吸収体用組成物は、所定の周波数の電磁波を吸収する部材として機能するほかに、微分曲線の極値部分以外の周波数の電磁波を選択的に透過させるフィルタとして機能させることができる。
このように、本願で開示する電磁波吸収体は、シート状、ブロック形状、様々な形状のものとして実現することができる。また、本願で開示する電磁波吸収体用組成物を、上記例示した建築部材、電子機器をはじめとする他の部材や構成物に対して、塗布、注入、貼着、その他の方法によって供給することで、当該他の部材や構成物に良好な電磁波吸収特性を付与することができる。
以上説明したように、本願で開示する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物は、電磁波吸収層に異方性磁界HAの異なる2種以上の磁性酸化鉄を含むとともに、外部磁界を印加して得られる磁性特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有する。このため、本願で開示する電磁波吸収体、および、電磁波吸収体用組成物は、1種類の磁性酸化鉄を含んだ電磁波吸収層を有するものと比較して、吸収される電磁波の、広い周波数帯域と高い吸収特性とを実現することができる。
なお、ヒステリシスループを測定するための外部磁界の強さを、16kOeから−16kOeとしているのは、少なくともこの範囲の外部磁界を印加することにより、良好なヒステリシスループが得られることを意味している。このため、印加される外部磁界の大きさを、その絶対値が16kOeよりも大きくしても問題が無く、外部磁界の大きさが16kOeから−16kOeの範囲でのヒステリシスループを測定し、その微分曲線を求めれば良い。
本願で開示する電磁波吸収体、電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域においてより広い周波数帯域の電磁波を良好に吸収する電磁波吸収部材として有用である。
1 電磁波吸収層
1a(1a1、1a2) 磁性酸化鉄粒子
1b 樹脂製バインダー

Claims (9)

  1. ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーを含む電磁波吸収層により形成された電磁波吸収体であって、
    異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、
    印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有することを特徴とする電磁波吸収体。
  2. 前記電磁波吸収層に含まれる2種以上の前記磁性酸化鉄が、主とする元素構成が同一であるとともに置換元素が互いに異なる、請求項1に記載の電磁波吸収体。
  3. 前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、イプシロン磁性酸化鉄のいずれかである、請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
  4. 前記電磁波吸収層が平面視したときの大きさに対して厚さが薄く形成され全体としてシート状である、請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収体。
  5. ミリ波帯以上の高周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄と、樹脂製バインダーによって形成された電磁波吸収体用組成物であって、
    異方性磁界HAの値が異なる2種以上の前記磁性酸化鉄を含み、
    印加される磁界強度が16kOeから−16kOeの間の磁気特性のヒステリシスループを微分した微分曲線が1つの極値を有することを特徴とする電磁波吸収体用組成物。
  6. 前記電磁波吸収層に含まれる2種以上の前記磁性酸化鉄が、主とする元素構成が同一であるとともに置換元素が互いに異なる、請求項5に記載の電磁波吸収体用組成物。
  7. 前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄、イプシロン磁性酸化鉄のいずれかである、請求項5または6に記載の電磁波吸収体用組成物。
  8. 請求項5〜7のいずれかに記載の電磁波吸収体用組成物を用いて形成されたことを特徴とする建築部材。
  9. 請求項5〜7のいずれかに記載の電磁波吸収体用組成物による被覆層に少なくとも一部が覆われたことを特徴とする電子機器。
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