JPWO2019163802A1 - 胚様体の評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、多能性幹細胞を培養して得られる胚様体の分化特性を評価する方法、多能性幹細胞を培養して得られる胚様体をスクリーニングする方法、多能性幹細胞から心筋細胞を調整する方法、上記スクリーニング方法により得られた胚様体および/または該胚様体を分化誘導して得られる分化誘導細胞を含む細胞集団、該胚様体および/または細胞集団を含む医薬組成物、ならびに該医薬組成物の製造方法などを提供することを目的とする。多能性幹細胞を培養して得られる胚様体の分化特性を評価する方法であって、胚様体の1または2以上の形態学的特徴を測定する工程を含む、前記方法などにより、上記課題が解決された。【選択図】図3

Description

本発明は、多能性幹細胞を培養および分化誘導して得られる胚様体の分化特性を評価する方法、該方法を利用した胚様体のスクリーニング方法および特定の分化誘導細胞を調製する方法、上記スクリーニング方法により得られた胚様体および/または該胚様体を分化誘導して得られる分化誘導細胞を含む細胞集団、該胚様体および/または細胞集団を含む医薬組成物、ならびに該医薬組成物の製造方法などに関する。
成体の心筋細胞は自己複製能に乏しく、心筋組織が損傷を受けた場合、その修復は極めて困難である。近年、損傷した心筋組織の修復のために、細胞工学的手法により作製した心筋細胞を含む移植片を患部に移植する試みが行われている(特許文献1、非特許文献1)。かかる移植片の作製に用いる心筋細胞として最近注目されているのが、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞から誘導した心筋細胞であり、このような多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物の作製や動物での治療実験が試みられている(非特許文献2〜3)。しかしながら、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物の開発は始まったばかりであり、その機能的特性や、それに影響する因子などについては依然不明な部分が多い。
多能性幹細胞から分化誘導細胞を調製する場合、例えば心筋細胞を調製する場合であれば、まず多能性幹細胞から中胚葉への分化の方向性を与えつつ胚様体を形成し、かかる胚様体を心筋細胞に分化誘導し、これを単一の細胞に分散させることにより心筋細胞を回収する(例えば特許文献2など)。
近年ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞に関する研究が進んでおり、多能性幹細胞の細胞株や個々の多能性幹細胞間で、特定の分化誘導細胞への分化傾向に差異があることがわかってきている(例えば非特許文献4)。そこで最近では、分化の過程をモニタリングしたり、分化に影響する因子を見出そうという試みが為されている。例えば特許文献3には、幹細胞に心筋分化マーカーの発現に応じて発行するように構成された蛍光レポータータンパク質遺伝子を導入して、分化の様子をモニタリングすることが記載されている。また非特許文献5には、最初に播種するiPS細胞の数を変えることにより形成される胚様体の大きさを変化させ、それによる心筋細胞分化への影響を観察したことが記載されている。
特表2007−528755号公報 国際公開第2013/187416号 特開2015−77122号公報
Shimizu et al., Circ Res. 2002 Feb 22;90(3):e40-e48 Matsuura et al., Biomaterials. 2011 Oct;32(30):7355-62 Kawamura et al., Circulation. 2012 Sep 11;126(11 Suppl 1):S29-37 Kojima et al., Cell Stem Cell 14, 107-120 (2014) 大貫善継 他、THE CHEMICAL TIMES、関東化学株式会社、2016年7月、Vol. 241、pp. 12-16
本発明は、多能性幹細胞を培養して得られる胚様体の分化特性を評価する方法、多能性幹細胞を培養して得られる胚様体をスクリーニングする方法、多能性幹細胞から心筋細胞を調製する方法、上記スクリーニング方法により得られた胚様体および/または該胚様体を分化誘導して得られる分化誘導細胞を含む細胞集団、該胚様体および/または細胞集団を含む医薬組成物、ならびに該医薬組成物の製造方法などを提供することを目的とする。
上記の試みにも拘らず、多能性幹細胞の分化傾向に関与する因子については未だに特定されておらず、分化前または分化途中で分化の傾向を判別する方法についてもまた解明されておらず、多能性幹細胞を完全に目的とする分化誘導細胞に実際に分化させてみなければ、該分化誘導細胞への分化に適性があったのか判断することができないのが現状である。しかしながら、多能性幹細胞を体細胞まで完全に分化させるのにはある程度の期間が必要であることや、一度完全に分化してしまった場合、再び分化多能性を与えるのは容易ではないことから、完全に分化させる前に分化傾向を判断する方法が望まれている。
本発明者らは多能性幹細胞から心筋細胞を調製する方法について研究する中で、規格化された方法、すなわち同一の個数の多能性幹細胞を播種し、同一の条件で培養および分化誘導して得られる胚様体であっても、それぞれ大きさが異なることを見出した。そこで、かかる胚様体の大きさと分化傾向との関係についてさらに研究を続けたところ、胚様体が大きいものほど心筋細胞への分化指向性が高い、すなわち心筋細胞に分化しやすい性質を有していることを新たに見出し、かかる知見に基づいて鋭意研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に下記に掲げるものに関する:
[1]多能性幹細胞を培養して得られる胚様体の分化特性を評価する方法であって、胚様体の1または2以上の形態学的特徴を測定する工程を含む、前記方法。
[2]分化特性が、分化指向性である、[1]の方法。
[3]分化指向性が、心筋細胞への分化指向性である、[2]の方法。
[4]形態学的特徴の測定が、胚様体が形成されたと判断された時点を含む、1または2以上の時点において実施される、[1]〜[3]の方法。
[5]形態学的特徴の測定が、非侵襲的に行われる、[1]〜[4]の方法。
[6]胚様体の形態学的特徴を測定する工程が、胚様体を撮像することを含む、[1]〜[5]の方法。
[7]形態学的特徴が、胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報を含む、[1]〜[6]の方法。
[8]多能性幹細胞を培養して得られる胚様体をスクリーニングする方法であって、胚様体の1または2以上の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程を含み、目的の分化誘導細胞への分化指向性の高い胚様体がスクリーニングされる、前記方法。
[9]目的の分化誘導細胞が、心筋細胞である、[8]に記載の方法。
[10]形態学的特徴が、胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報を含む、[8]または[9]の方法。
[11](A)多能性幹細胞を培養して、胚様体を形成する工程;
(B)(A)で得られた胚様体の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;
(C)(B)で得られた測定結果に基づいて胚様体をスクリーニングする工程;および
(D)(C)でスクリーニングされた胚様体を分化誘導して目的の分化誘導細胞を含む細胞集団を得る工程;
を含む、目的の分化誘導細胞の調製方法。
[12]目的の分化誘導細胞が、心筋細胞である、[11]の方法。
[13]多能性幹細胞が、iPS細胞である、[11]または[12]の方法。
[14]工程(b)が、胚様体を撮像することを含む、[11]〜[13]の方法。
[15]形態学的特徴が、胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報を含む、[11]〜[14]の方法。
[16][8]〜[10]のスクリーニング方法によりスクリーニングされた胚様体。
[17][16]の胚様体を分化誘導して得られる心筋細胞を含む細胞集団を含む、医薬組成物。
[18]多能性幹細胞を培養して形成された胚様体および/または該胚様体を分化誘導して得られる分化誘導細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物の製造方法であって、
(a)胚様体の1または2以上の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;
(b)工程(a)で得られた測定結果と基準とを比較する工程;および
(c)分化指向性が高いと判断された胚様体をスクリーニングする工程
を含む、前記方法。
[19]さらに
(d)(c)でスクリーニングされた胚様体を分化誘導して分化誘導細胞を含む細胞集団を得る工程;および
(e)(d)で得られた細胞集団を、所望の形態に調製する工程;
を含む、[18]の方法。
[20]目的の分化誘導細胞への分化指向性の高い多能性幹細胞株をスクリーニングする方法であって、
(1)対象の多能性幹細胞を培養して、胚様体を形成する工程;
(2)(1)で得られた胚様体の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;および
(3)(2)で測定された形態学的特徴と基準とを比較する工程
を含む、前記方法。
本発明によれば、所望の分化誘導細胞、特に心筋細胞に分化しやすい能力を有する胚様体を、分化誘導の初期段階から簡便な方法で選別することが可能となり、iPS細胞などの多能性幹細胞から所望の細胞を分化誘導して得る方法において、効率的に分化誘導細胞を調製することが可能となる。また本発明の方法は、対象の胚様体を非侵襲的に検査することが可能であるため、胚様体に含まれる細胞に何ら影響を与えることなく選別することができ、実際の再生医療等に用いる組成物等を作製する際にも用いることが可能である。
図1は、心筋への分化誘導培養1日目、4日目、6日目、8日目および12日目における胚様体の面積と、最終的なcTnT陽性率との関係を表したグラフである。播種細胞数が同じであるため培養1日目においては凝集体の大きさに大きなばらつきは見られないが、培養4日目以降には胚様体ごとに大きさにばらつきが観察された。培養4日目の時点で胚様体の大きさと最終的なcTnT陽性率には顕著な相関が確認できた。
図2は、心筋への分化誘導培養1日目〜10日目での、各培養日数(横軸)における胚様体の形態学的特徴(縦軸)の変化を表すグラフである。Aは各胚様体の面積(μm)の変化を、Bは各胚様体の周囲長(μm)の変化を表す。面積および周囲長どちらの場合においても、大きな数値を示した胚様体で培養10日目の時点で拍動する細胞(*)が確認された
図3Aは、心筋への分化誘導培養12日目における胚様体の顕微鏡写真、Bは心筋への分化誘導培養12日目における胚様体の免疫染色写真である。顕微鏡写真で黒く見えている箇所は、免疫染色像では青く染色された細胞核が密集しているのがわかり、顕微鏡写真で白っぽく見える部分では、免疫染色像では緑色に染色されたcTnT陽性細胞が局在し、また細胞が全く存在しない腔構造のようなものが確認された。
図4は、心筋への分化誘導培養中のサイズ変化とcTnT陽性率の関係を表すグラフである。Aは分化誘導培養の初期段階(胚様体形成まで)である培養1日目から4日目までの変化率とcTnT陽性率との関係を、Bは分化誘導培養の後期段階(胚様体形成後)である培養8日目から12日目までの変化率とcTnT陽性率との関係をそれぞれ表す。初期段階における変化率はcTnT陽性率と顕著に正の相関を示した。逆に後期段階における変化率は小さいほどcTnT陽性率が高くなる傾向にあった。
図5は、培養4日目の胚様体における長径の長さと心筋細胞率との関係を表すグラフである。試験した全胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は88%であった。全胚様体中36.8%の胚様体は長径が100μm以下であり、かかる胚様体から分化誘導された心筋細胞率は93%であった。また全胚様体中62%の胚様体は長径が100μm〜200μmであり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は83%であった。また全胚様体中1.2%の胚様体は長径が200μm以上であり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は83%であった。
図6は、培養6日目の胚様体における長径の長さと心筋細胞率との関係を表すグラフである。試験した全胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は90%であった。全胚様体中36%の胚様体は長径が100μm以下であり、かかる胚様体から分化誘導された心筋細胞率は96%であった。また全胚様体中47%の胚様体は長径が100μm〜200μmであり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は82%であった。また全胚様体中17%の胚様体は長径が200μm以上であり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は89%であった。
図7は、培養18日目の胚様体における長径の長さと心筋細胞率との関係を表すグラフである。Aは培養0日目にEZSPHERE(R)を用いなかった場合のグラフであり、BはEZSPHERE(R)を用いた場合のグラフである。EZSPHERE(R)を用いなかった場合は、試験した全胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は70%であった。全胚様体中21%の胚様体は長径が100μm〜200μmであり、かかる胚様体から分化誘導された心筋細胞率は63%であった。全胚様体中12%の胚様体は長径が200μm〜300μmであり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は58%であった。全胚様体中58%の胚様体は長径が300μm〜500μmであり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は82%であった。また全胚様体中9%の胚様体は長径が500μm以上であり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は83%であった。EZSPHERE(R)を用いた場合は、試験した全胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は84%であった。全胚様体中11%の胚様体は長径が100μm〜200μmであり、かかる胚様体から分化誘導された心筋細胞率は80%であった。全胚様体中12%の胚様体は長径が200μm〜300μmであり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は77%であった。全胚様体中53%の胚様体は長径が300μm〜500μmであり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は95%であった。また全胚様体中24%の胚様体は長径が500μm以上であり、かかる胚様体から分化誘導された細胞集団中の心筋細胞率は93%であった。
図8は、分化指向性の高いiPS細胞株由来の胚様体(High群)および分化指向性の低いiPS細胞株由来の胚様体(Low群)をそれぞれ心筋細胞に分化誘導した際の心筋細胞率を表すグラフである。 図9は、各iPS細胞株の、培養中のiPS細胞の写真図である。 図10は、各iPS細胞株由来の、分化誘導6日目の胚葉体の写真図である。 図11は、High群およびLow群それぞれのiPS細胞株由来の培養6日目における胚様体の面積(A)および長径の長さ(B)の平均を表すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。また本明細書において参照された出版物と本明細書の記載に矛盾が生じた場合は、本明細書の記載が優先されるものとする。
本発明において、「多能性幹細胞」という語は、当該技術分野で周知の用語であり、三胚葉、すなわち内胚葉、中胚葉および外胚葉に属する全ての系列の細胞に分化することができる能力を有する細胞を意味する。多能性幹細胞の非限定例としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。通常多能性幹細胞を特定の細胞に分化誘導する際には、まず多能性幹細胞を浮遊培養して、上記三胚葉のいずれかの細胞の凝集体を形成し、その後凝集体を形成する細胞を目的とする特定の細胞に分化誘導させる。または、多能性幹細胞を高密度で接着培養して、分化誘導させる。本発明において「胚様体」とは、かかる細胞の凝集体を意味する。本発明においては特に、内胚葉系の細胞に分化指向性を有する胚様体を「内胚葉性胚様体」、中胚葉系の細胞に分化指向性を有する胚様体を「中胚葉性胚様体」、外胚葉系の細胞に分化指向性を有する胚様体を「外胚葉性胚様体」と称する場合がある。
本発明において、「分化誘導細胞」は、多能性幹細胞から特定の種類の細胞に分化するように分化誘導処理された任意の細胞を意味する。分化誘導細胞は、心筋細胞や骨格筋芽細胞などの組織を構成する接着性の細胞および、血球細胞などの非接着性の細胞が含まれる。分化誘導細胞の非限定例は、心筋細胞、骨格筋芽細胞などの筋肉系の細胞、ニューロン細胞、オリゴデンドロサイト、ドーパミン産生細胞などの神経系の細胞、網膜色素上皮細胞などの網膜細胞、血球細胞、骨髄細胞などの造血系の細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、B細胞などの免疫関連の細胞、肝細胞、膵β細胞、腎細胞などの臓器を構成する細胞、軟骨細胞、生殖細胞などの他、これらの細胞に分化する前駆細胞や体性幹細胞などを含む。かかる前駆細胞や体性幹細胞の典型例としては、例えば心筋細胞における間葉系幹細胞、多分化性心臓前駆細胞、単能性心臓前駆細胞、神経系の細胞における神経幹細胞、造血系の細胞や免疫関連の細胞における造血幹細胞およびリンパ系幹細胞などが挙げられる。多能性幹細胞の分化誘導は、既知の任意の手法を用いて行うことができる。例えば、多能性幹細胞から心筋細胞への分化誘導は、Miki et al., Cell Stem Cell 16, 699-711, June 4, 2015やWO2014/185358、Shugo Tohyama et al., Stem Cell Report, 9, 1-9, Nov 14, 2017に記載の手法に基づいて行うことができる。
本発明において、「分化指向性」は、多能性幹細胞が特定の分化誘導細胞に分化しやすい性質を意味し、特定の分化誘導細胞への分化指向性が高いほど、当該分化誘導細胞になりやすいことを意味する。したがって特定の細胞への分化指向性が高い多能性幹細胞は、分化指向性が高くない多能性幹細胞と比較して、当該特定の細胞への分化誘導方法により分化誘導を行った場合、同一の分化誘導方法であってもより多くの分化誘導細胞を得られることが期待される。
本発明において、「心筋細胞」とは、心筋細胞の特徴を有する細胞を意味する。心筋細胞の特徴としては、限定されずに、例えば、心筋細胞マーカーの発現、自律的拍動の存在などが挙げられる。心筋細胞マーカーの非限定例としては、例えば、c−TNT(cardiac troponin T)、CD172a(別名SIRPAまたはSHPS−1)、KDR(別名CD309、FLK1またはVEGFR2)、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。一態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞は、c−TNT陽性かつ/またはCD172a陽性である。
<1>本発明の評価方法
本発明の一側面は、多能性幹細胞を培養・分化誘導して得られる胚様体の分化特性を評価する方法に関する。本発明の評価方法は、評価対象である胚様体の1または2以上の形態学的特徴を測定する工程を含む。
本発明において「形態学的特徴」は、視覚的に確認できる特徴を意味する。形態学的特徴の例としては、これに限定するものではないが例えば、胚様体の大きさ、胚様体の形状、胚様体の色などが挙げられる。形態学的特徴の測定結果は数値データとして得られ得るが、例えば画像データなどで得てもよい。形態学的特徴には光学顕微鏡で測定可能なデータだけでなく、光学顕微鏡以外により得られる可視光域以外の光、例えばラマン散乱光、赤外線、OCT、第二高調波などで非侵襲的に得られる情報も含まれる。また、測定結果として得られたデータを解析して得られたデータもまた本発明の形態学的特徴の測定結果に包含される。かかるデータの例としては、これに限定するものではないが、例えば画像データを解析して得られた数値データ、2以上の時点の数値データの変化率などが挙げられる。また、測定結果として得られたデータは、既知データとして蓄積され、次の検査にフィードバックすることができる。
本発明の形態学的特徴の測定結果の具体例としては、これに限定するものではないが、例えば胚様体の周長、胚様体の径(長径および/または短径)、胚様体の垂直投影面積、胚様体の体積、胚様体の真円度、胚様体の色情報(輝度、彩度、明度、光度などを含む)などの胚様体の形態を直接的に示すデータのほか、培養液のpH(培養液の色情報)、吸光度など形態学的特徴に相関するデータなどが挙げられ、これらの値は直接数値として測定したものであっても、一旦撮像して画像データとして得た後で、該画像データを解析して得たものであってもよい。好ましい一態様において、測定結果は、胚様体の垂直投影面積が含まれる。別の好ましい一態様において、測定結果は、胚様体の色情報が含まれる。別の好ましい一態様において、測定結果は、ある時点から別の時点までの間の垂直投影面積の変化率が含まれる。フェノールレッドなどのpH反応性の試薬を加えた培地の色情報なども組み合わせてよい。また、複数の画像データから得られた情報をもとに、機械学習やディープラーニングなどの人工知能に基づいて得られた形態学的特徴であっても良い。
本発明において、多能性幹細胞の培養および分化誘導の手法は当該技術分野において知られたいかなる手法を用いてもよい。例えば心筋細胞に分化誘導する場合、多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する手法としては、様々なものが知られている(例えば、Burridge et al., Cell Stem Cell. 2012 Jan 6;10(1):16-28)が、いずれの方法においても、中胚葉誘導因子(例えば、アクチビンA、BMP4、bFGF、VEGF、SCFなど)、心臓特異化(cardiac specification)因子(例えば、VEGF、DKK1、Wntシグナルインヒビター(例えば、IWR−1、IWP−2、IWP−3、IWP−4等)、BMPシグナルインヒビター(例えば、NOGGIN等)、TGFβ/アクチビン/NODALシグナルインヒビター(例えば、SB431542等)、レチノイン酸シグナルインヒビターなど)および心臓分化因子(例えば、VEGF、bFGF、DKK1など)を、順次作用させることにより誘導効率を高めることができる。一態様において、多能性幹細胞からの心筋細胞誘導処理は、BMP4を作用させて形成した胚様体に、(1)BMP4とbFGFとアクチビンAとの組み合わせ、(2)VEGFとIWP−3、および、(3)VEGFとbFGFとの組み合わせを順次作用させることを含む。
本発明において「分化特性」とは、評価対象の胚様体が有する分化に関する能力を意味する。分化特性の例としては、これに限定するものではないが、例えば分化指向性、分化誘導後の残存未分化細胞率、分化誘導後の分化誘導細胞含有率などが挙げられる。好ましい一態様において、分化特性は、分化指向性である。さらに好ましい一態様においては、分化特性が、心筋細胞への分化指向性である。
形態学的特徴は、多能性幹細胞を分化誘導して分化誘導細胞を得るまでの間の任意の時点で測定してよく、測定回数も特に限定されない。したがってある態様において、形態学的特徴の測定は、1回だけ行われる。別の態様において、形態学的特徴の測定は、2回行われる。さらに別の態様において、形態学的特徴の測定は、複数回(例えば2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回など)行われる。
好ましい一態様において、形態学的特徴は、胚様体が形成されたと判断された時点より後の1または複数の時点で測定される。より好ましい一態様において、形態学的特徴は、胚様体が形成されたと判断された時点で測定される。別の好ましい一態様において、形態学的特徴は、胚様体が形成されたと判断された時点での測定を含む複数回測定される。
多能性幹細胞を培養して胚様体が形成されるまでの培養期間は、用いる培養条件および分化誘導条件により異なる。当業者であれば用いた培養条件および分化誘導条件に基づいて、胚様体が形成されるまでの培養期間を直ちに算出することが可能である。例えば心筋細胞を分化誘導する上述の態様の場合、多能性幹細胞の培養開始1日目で細胞凝集体が形成され、培養2日目から4日目までの間で胚様体が形成される。したがってある態様において、胚様体は培養4日目に形成されたと判断される。
形態学的特徴の測定は、侵襲的に行われても非侵襲的に行われてもよいが、測定によってその後の胚様体の分化に影響を及ぼさないという観点から、好ましくは非侵襲的に行われる。非侵襲的な形態学的特徴の測定手法としては、これに限定するものではないが、例えば顕微鏡下での観察、撮像デバイスによる画像データ取得などが挙げられ、好ましくは撮像デバイスによる画像データ取得である。
本発明の一態様において、形態学的特徴として胚様体の大きさが用いられる。胚様体の大きさを表す数値データとしては、これに限定するものではないが、例えば視野中の胚様体が占める面積(垂直投影面積)、視野中の胚様体の外周の長さ、胚様体の径、胚様体の体積などが挙げられる。これらの数値は、顕微鏡下の観察による測定などにより、対象の胚様体から直接得てもよいが、撮像デバイスにより画像データを取得し、該画像データを解析することにより得てもよい。これらのデータは、正確に計測された数値であってもよいし、簡便な計測から算出された近似値であってもよい。
形態学的特徴として胚様体の大きさを用いる場合、好ましくは胚様体が形成されたと判断された時点で胚様体の大きさを測定することを含む。したがってある態様において、胚様体が形成されたと判断された時点で胚様体の大きさを測定して、該胚様体の分化特性を評価する。例えば多能性幹細胞を心筋細胞に分化誘導する上記態様においては、培養6日目以降の胚様体の大きさが大きいものほど心筋細胞への分化指向性が高い、すなわちより多くの心筋細胞を含有する細胞集団を得ることができると評価できる。また、培養4日目の胚様体においては、長径が例えば100μm以下など、大きすぎないサイズのものほど心筋細胞への分化指向性が高いと評価できる。
形態学的特徴として胚様体の大きさを用いる場合、分化指向性が高いと評価できる具体的な数値範囲は、計測の時点、目的の分化誘導細胞および測定する特徴などによって異なり、当業者であれば適宜好適な範囲を選択することができる。例えば心筋細胞に分化誘導する場合において、胚様体の径を測定する場合、培養4日目であれば100μm以下が好ましく、培養6日目であれば100μm以下もしくは200μm以上が好ましく、培養12日目以降であれば、300μm以上が好ましく、300〜500μmがより好ましい。また胚様体の面積を測定する場合、培養6日目であれば4.0×10μm〜7.0×10μmが好ましく、培養12日目以降であれば、1.5×10μm以上が好ましく、2.0×10がより好ましい。
別の態様においては、複数の時点(好ましくは胚様体が形成されたと判断された時点を含む)において胚様体の大きさを測定し、二時点間での変化率を算出することにより、胚様体の分化特性を評価する。例えば多能性幹細胞を心筋細胞に分化誘導する上記態様においては、胚様体が形成されるまでの大きさの変化率が大きいものほど心筋細胞への分化指向性が高い、すなわちより多くの心筋細胞を含有する細胞集団を得ることができると評価できる。逆に胚様体が形成された後では、大きさの変化率が小さいものほど心筋細胞への分化指向性が高い、すなわちより多くの心筋細胞を含有する細胞集団を得ることができると評価できる。
上記胚様体の大きさに代えてまたは加えて、形態学的特徴として胚様体の色情報を測定してもよい。胚様体の色情報を表す数値データとしては、これに限定するものではないが、例えば胚様体の輝度、彩度、明度、光度、RGB値、光の透過率、グレースケール変換時の階調値などが挙げられる。これらの数値は、顕微鏡下の観察による測定などにより、対象の胚様体から直接得てもよいが、撮像デバイスにより画像データを取得し、該画像データを解析することにより得てもよい。これらのデータは、正確に計測された数値であってもよいし、簡便な計測から算出された近似値であってもよい。
形態学的特徴として胚様体の色情報を用いる場合、好ましくは胚様体が形成されたと判断された時点で胚様体の色情報を測定することを含む。したがってある態様において、胚様体が形成されたと判断された時点で胚様体の色情報を測定して、該胚様体の分化特性を評価する。例えば多能性幹細胞を心筋細胞に分化誘導する上記態様において、透過光を用いて得られた画像情報からその色を判定する場合は、培養4日目の胚様体の色が白に近い(グレースケールの平均階調値が大きい)ものほど心筋細胞への分化指向性が高い、すなわちより多くの心筋細胞を含有する細胞集団を得ることができると評価できる。
また、分化特性として分化誘導後の未分化細胞残存率や分化誘導細胞の含有率を評価する場合、複数の既知データから検量線を描く等により評価することができる。例えば多能性幹細胞を心筋細胞に分化誘導する上記態様においては、複数の胚様体の分化誘導においてから得られた胚様体の大きさなどの形態学的特徴の測定結果と、分化誘導後の未分化細胞残存率および/または分化誘導細胞の含有率との関係が線形に相関することが本発明者らにより見出されている。このことを利用すると、多能性幹細胞から分化誘導して、心筋細胞などの目的の分化誘導細胞を、得る際、例えば培養4日目などに胚様体の大きさなどの形態学的特徴を測定し、既知データから得られた検量線と比較することにより、分化誘導後の未分化細胞残存率および/または分化誘導細胞の含有率を予測することが可能となる。
<2>本発明のスクリーニング方法
本発明の検査方法は、対象の胚様体を、好ましくは非侵襲的に検査することができ、そのため本発明の検査方法を用いて胚様体を検査した後も、引き続き該胚様体を分化誘導に供することが可能である。これはすなわち、本発明の検査方法により分化特性を検査し、好ましい結果が得られた胚様体(例えば目的の分化誘導細胞への分化指向性が高い胚様体)を選抜してさらなる分化誘導に供することが可能であることを意味する。また、対象の胚葉体が、好ましくない結果が得られた胚葉体(例えば分化指向性が低い胚葉体)であった場合は、該胚葉体の分化誘導を中止することを含む。
したがって本発明の一側面において、上記<1>の検査方法を用いた胚様体のスクリーニング方法が包含される。
本発明において「スクリーニング」は、所定の基準に基づいて対象を分類すること、および所定の基準を満たす対象を選別することのみならず、対象が所定の基準を満たしているか否かをモニタリングすることを含む。
本発明のスクリーニング方法は、上記<1>の検査方法により、心筋細胞などの目的とする分化誘導細胞への分化指向性を検査し、好適な分化指向性を有する胚様体をスクリーニングすることができるというものであり、したがって以下の工程を含む;
(a)胚様体の1または2以上の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程。
本態様における非侵襲的な形態学的特徴の測定工程(a)については、上記<1>で詳述したとおりである。
本発明のスクリーニング方法は、さらに任意に以下の工程(b)および(c)を含み得る;
(b)工程(a)で得られた測定結果と基準とを比較する工程;
(c)分化指向性が高いと判断された胚様体をスクリーニングする工程。
工程(b)において、(a)で得られた測定結果と基準とを比較する。ここで基準は、目的の分化誘導細胞への好適な分化指向性を有することが既知の胚様体における形態学的特徴を意味し、該基準と比較することにより、対象の胚様体が基準と同等またはより好適なデータである場合に、対象の胚様体は目的とする分化誘導細胞への分化指向性が高いものと判断される。基準の例としては、これに限定するものではないが、例えば、目的の分化誘導細胞への分化指向性が高い胚様体の画像データ、分化誘導後に目的の分化誘導細胞の含有率が所定の割合以上であったおよび/または未分化細胞の含有率が所定の割合以下であった胚様体の所定の時点での大きさの平均値などが挙げられる。
基準としては、形態学的特徴の測定により得られる画像データや数値データ等のデータであってもよいが、別の基準であってもよい。データ以外の基準としては、これに限定するものではないが、例えば所定の大きさの孔を有するフィルターや色見本などが挙げられる。
また、形態学的特徴を測定する工程、基準と比較する工程および/または好適と判断されたものをスクリーニングする工程が同一の工程であってもよい。例えば上述の所定の大きさの孔を有するフィルターを用いる態様においては、形態学的特徴を測定する胚様体を、前記フィルターに通し、通過できなかった胚様体を好適なものとしてスクリーニングしてもよい。
測定により得られたデータが基準よりも好適であるか否かは、測定した形態学的特徴や目的の分化誘導細胞により異なるが、当業者であれば形態学的特徴および/または目的の分化誘導細胞などに基づいてただちに判断することができる。例えば上述の心筋細胞への分化誘導の場合であって、形態学的特徴として培養4日目における胚様体の大きさを測定した場合、測定結果が基準データと同等またはそれよりも大きければ好適なデータであると判断でき、前記胚様体は心筋細胞への分化指向性が高い胚様体であると判断できる。また、例えば上述の心筋細胞への分化誘導の場合であって、形態学的特徴として培養4日目における胚様体の色情報(例えばグレースケール画像の階調値)を測定した場合、測定結果が基準データと同等またはそれよりも大きければ好適なデータであると判断でき、前記胚様体は心筋細胞への分化指向性が高い胚様体であると判断できる。
本発明のスクリーニング方法は、多能性幹細胞から分化誘導される任意の分化誘導細胞を分化誘導する際に用いることができるが、好ましい一態様において、分化誘導細胞は心筋細胞である。また形態学的特徴としても任意のデータを測定することができるが、好ましくは胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報である。
<3>本発明の心筋細胞の調製方法
本発明の別の一側面において、上記<2>のスクリーニング方法を用いた分化誘導細胞、特に心筋細胞の調製方法が包含される。
本発明の調製方法は、上記<2>のスクリーニング方法を用いて、分化誘導に好適な胚様体を、特に分化誘導の早期段階でスクリーニングすることにより、心筋細胞などの目的とする分化誘導細胞を効率的に調製することができるというものであり、したがって以下の工程を含む:
(A)多能性幹細胞を培養して、胚様体を形成する工程;
(B)(A)で得られた胚様体の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;
(C)(B)で得られた測定結果に基づいて胚様体をスクリーニングする工程;および
(D)(C)でスクリーニングされた胚様体を分化誘導して分化誘導細胞(例えば心筋細胞など)を含む細胞集団を得る工程。
胚様体の形成工程(A)および分化誘導工程(D)について、用いられる培養方法は、目的とする分化誘導細胞により異なるが、当該技術分野において既知の任意の方法を用いることができる。例えば心筋細胞を分化誘導する場合、上述の心筋細胞の分化誘導方法における胚様体形成方法および分化誘導方法を用いることができる。多能性幹細胞としては上記した任意の多能性幹細胞を用いることができるが、好ましくはiPS細胞、特にヒトiPS細胞である。
ヒトiPS細胞から心筋細胞を得る公知の方法としては、例えば、以下のステップ:
(1)ヒトiPS細胞を、フィーダー細胞を含まない培養液で維持培養するステップ(フィーダーフリー法)、
(2)得られたiPS細胞から胚様体を形成するステップ、
(3)得られた胚様体をアクチビンA、骨形成タンパク質(BMP)4および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する培養液中で培養するステップ、
(4)得られた胚様体をWnt阻害剤、BMP4阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で培養するステップ、および
(5)得られた胚様体をVEGFおよびbFGFを含む培養液中で培養するステップ
を含む方法が挙げられる。
上記(1)のステップにおいて、例えばWO2017038562に記載のように、StemFit AK03(味の素)を培地として用い、iMatrix511(ニッピ)上でiPS細胞を培養して適応させ、維持培養を行うことができる。また、例えばNakagawa M.,et al.A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells.Sci Rep.2014;4:3594に記載のように、iPS細胞を、7〜8日毎に、TrypLE(登録商標)Select(Thermo Fisher Scientific)を使用してシングルセルとして継代を行うことができる。上記(1)〜(5)のステップのあとに、任意で、(6)得られた心筋細胞を精製するステップを選択的に行ってもよい。心筋細胞の精製としては、グルコースフリー培地を用いて心筋細胞以外を減少させる方法やWO2017/038562に記載のように熱処理を用いて未分化細胞を減少させる方法などが挙げられる。
本側面における非侵襲的な形態学的特徴の測定工程(b)については、上記<1>で詳述したとおりである。
本側面におけるスクリーニング工程(c)については、上記<2>に詳述したとおりである。
<4>多能性幹細胞由来の細胞を含む医薬組成物など
本発明の別の一側面において、上記<2>のスクリーニング方法によりスクリーニングされる胚様体および/または該胚様体から誘導される分化誘導細胞、特に心筋細胞、を含む細胞集団、ならびにそれらを含む医薬組成物が包含される。
本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングされた胚様体は、高い分化指向性を有し、分化誘導に供することにより目的の分化誘導細胞の含有率が高い細胞集団を得ることができる胚様体である。かかる胚様体および/または細胞集団は、特に再生医療などの分野において疾患を処置するための医薬組成物の成分として好適に用いられる。かかる医薬組成物の形態としては、疾患を処置し得る任意の形態であってよく、例えばシート状細胞培養物(細胞シート)、細胞懸濁液、細胞塊、移植片などの形態であり得る。
上述のとおり一態様において本発明の医薬組成物は、疾患を処置するためのものである。かかる疾患としては、限定されずに、例えば、心疾患、肺疾患、肝疾患、膵臓疾患、腎臓疾患、大腸疾患、小腸疾患、脊髄疾患、中枢神経系疾患、骨疾患、眼疾患、または皮膚疾患などが挙げられる。目的細胞が心筋細胞である場合には、心筋梗塞(心筋梗塞に伴う慢性心不全を含む)、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮機能障害(例えば、左室収縮機能障害)を伴う心疾患(例えば、心不全、特に慢性心不全)などが挙げられる。かかる疾患としては、目的細胞、および/または、目的細胞のシート状細胞培養物(細胞シート)が、その処置に有用なものであってもよい。
本発明の別の一側面において、上記<2>のスクリーニング方法を一工程として含む、多能性幹細胞を培養して形成された胚様体および/または該胚様体を分化誘導して得られる分化誘導細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物の製造方法が包含される。
本発明の医薬組成物の製造方法は、上記<2>のスクリーニング方法により、心筋細胞などの所望の分化誘導細胞への好適な分化指向性を有する胚様体を選抜し、かかる胚様体を用いて医薬組成物を製造することができるというものであり、したがって以下の工程(a)〜(c)を含む;
(a)胚様体の1または2以上の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;
(b)工程(a)で得られた測定結果と基準とを比較する工程;および
(c)分化指向性が高いと判断された胚様体をスクリーニングする工程。
本態様における工程(a)〜(c)については、上記<2>で詳述したとおりである。
本発明の医薬組成物の製造方法は、任意にさらに、以下の工程(d)および(e)を含んでよい。
(d)(c)でスクリーニングされた胚様体を分化誘導して分化誘導細胞(例えば心筋細胞など)を含む細胞集団を得る工程;
(e)(d)で得られた細胞集団を、所望の形態(例えばシート状細胞培養物)に調製する工程。
分化誘導工程(d)については、上記<3>の(D)工程について詳述したとおりである。
得られた分化誘導細胞を含む細胞集団を所望の形態に調製する方法は、当該技術分野において公知である。例えばシート状細胞培養物を調製する場合、既知の任意の方法(例えば、特許文献1、特開2010-081829、特開2010-226991、特開2011-110368、特開2011-172925、WO 2014/185517など参照)で製造することができる。シート状細胞培養物の製造方法は、典型的には、細胞を培養基材上に播種すること、播種した細胞をシート化すること、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離することを含むが、これに限定されない。細胞を培養基材上に播種する工程の前に、細胞を凍結する工程および細胞を解凍する工程を行ってもよい。さらに、細胞を解凍するステップの後に細胞を洗浄する工程を行ってもよい。また、シート状細胞培養物が、複数枚のシート状細胞培養物を積層した積層シート状細胞培養物である場合、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離する工程の後に、複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)する工程を含んでもよい。これら各工程は、シート状細胞培養物の製造に適した既知の任意の手法で行うことができる。
本発明の一態様において、本発明の医薬組成物の調製方法は、工程(d)で目的の分化誘導細胞を含む細胞集団を得た後、該細胞集団から腫瘍形成能を有する細胞を除去することをさらに含む。腫瘍形成能を有する細胞の除去は、既知の任意の手法を用いて行うことができる。かかる手法の非限定例としては、腫瘍形成能を有する細胞に特異的なマーカー(例えば、細胞表面マーカーなど)を用いた種々の分離法、例えば、磁気細胞分離法(MACS)、フローサイトメトリー法、アフィニティ分離法や、特異的プロモーターにより選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子など)を発現させる方法、腫瘍形成能を有する細胞の生存に必要な栄養源(メチオニン等)を除いた培地で培養して未分化細胞を駆逐する方法、腫瘍形成能を有する細胞の表面抗原をターゲットにした薬剤で処理する方法、公知の未分化細胞を除去する方法としては、WO2014/126146、WO2012/056997に記載の方法、WO2012/147992に記載の方法、WO2012/133674に記載の方法、WO2012/012803(特表2013−535194)に記載の方法、WO2012/078153(特表2014−501518)に記載の方法、特開2013−143968およびTohyama S. et al., Cell Stem Cell Vol.12 January 2013, Page 127-137に記載の方法、Lee MO et al., PNAS 2013 Aug 27;110(35):E3281-90に記載の方法、WO2016/072519に記載の方法、WO2013100080に記載の方法、特開2016−093178に記載の方法、WO2017/038526に記載の熱処理を用いる方法などが挙げられる。好ましい態様において、腫瘍形成能を有する細胞の除去は、ブレンツキシマブ・ベドチンを用いて行われる。
ブレンツキシマブ・ベドチンとは、CD30抗原を標的とする抗体と微小管阻害作用有する低分子薬剤(モノメチルアウリスタチンE:MMAE)とを結合させた抗体薬物複合体であり、アドセトリスの商標名で販売されている。再発・難治性のCD30陽性のホジキンリンパ腫等に対する治療薬であり、CD30抗原を発現する細胞に選択的に作用することができる。CD30抗原は、未分化細胞において高度に発現しているため、ブレンツキシマブ・ベドチンにより未分化細胞を除去することができる(WO2016/072519)。具体的な操作としては、ブレンツキシマブ・ベドチンを培養培地に添加してインキュベートすることにより行われる。
<5>分化指向性の高い多能性幹細胞株のスクリーニング方法
本発明の別の一側面において、胚様体の形態学的特徴に基づいて、目的の分化誘導細胞への分化指向性の高い多能性幹細胞株をスクリーニングする方法が包含される。
本発明者らにより、多能性幹細胞は細胞株ごとに分化誘導細胞への分化指向性が異なる可能性が見出された。本発明者らは、目的の分化誘導細胞(例えば心筋細胞)への分化誘導性が高い細胞株は、低い細胞株と比較して、当該目的の分化誘導細胞(例えば心筋細胞)に分化するように分化誘導させた場合、上記<1>の評価方法において分化指向性が高いとされる胚様体と同様の形態学的特徴を示すことが見出された。
したがって本側面のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(1)対象の多能性幹細胞を培養して、胚様体を形成する工程;
(2)(1)で得られた胚様体の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;および
(3)(2)で測定された形態学的特徴と基準とを比較する工程。
(1)の胚様体形成工程については、上記<3>の(A)工程において詳述したとおりである。
(2)の測定工程については、上記<1>で詳述したとおりである。
(3)の比較工程については、上記<2>の(b)工程において詳述したとおりである。
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これらは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
例1.胚様体の形態学的特徴と心筋細胞分化誘導との相関解析
(1)心筋細胞への分化誘導
Nunclon Sphera96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific)に10000個/ウェルの割合でヒトiPS細胞を播種し、StemPro34(Life Technologies)培地に以下の添加物を加えた条件で分化誘導を行った:
0〜1日目:BMP4 10ng/ml、FGF−2 5ng/ml、アクチビンA 6ng/ml、Y−27632 10mM
1〜4日目:BMP4 10ng/ml、FGF−2 5ng/ml、アクチビンA 6ng/ml
4〜6日目:IWR−1 4μM、IWP−2 10μM
6〜12日目:VEGF 5ng/ml、FGF−2 10ng/ml。
培養12日目に、得られた胚様体(EB)をTrypLE(登録商標)Select Enzyme (10X),no phenol red(Thermo Fisher Scientific)を1mM EDTAにて3×の濃度に希釈した溶液を用い、37℃で10分間インキュベートすることにより、単一細胞へと分散した。分散した細胞をBD Cytofix/Cytoperm(登録商標)Fixation/Permeabilization Solution Kit(BD Bioscience)を用いて固定、透過処理した後、抗ヒトトロポニン抗体(Thermo Fisher Scientific)、Alexa488標識ヤギ由来抗マウスIgG(A-11001)(Thermo Fisher Scientific)を順次反応させた後、フローサイトメーターにより測定を行い、cTnT陽性率を算出した。
(2)胚様体の面積とcTnT陽性率との相関
培養1日目、4日目、6日目、8日目、12日目に胚様体の位相差顕微鏡像を撮像し、画像中の胚様体の面積および周囲長を解析した。
顕微鏡像から解析された胚様体の面積を横軸に、培養12日目の胚様体を分散して得られた心筋細胞含有組成物中の心筋細胞含有率(cTnT陽性率)を縦軸にして測定結果をプロットした。結果を図1に示す。
培養1日目においては、形成された細胞凝集体の面積に大きな差異はなく、最終的に得られるcTnT陽性率との相関は見られなかった。一方、培養4日目以降においては、胚様体の面積とcTnT陽性率との間には顕著な正の線形相関が見られた。
(3)胚様体の面積および周囲長と拍動細胞との相関
上記(1)と同様にして、ヒトiPS細胞を分化誘導した。各日における添加因子は下記の通りとした。
0〜1日目:BMP4 10ng/ml、FGF−2 5ng/ml、アクチビンA 6ng/ml、Y−27632 10mM
1〜5日目:BMP4 10ng/ml、FGF−2 5ng/ml、アクチビンA 6ng/ml
5〜7日目:IWR−1 4μM
7〜10日目:VEGF 5ng/ml、FGF−2 10ng/ml。
培養1〜10日目に胚様体の位相差顕微鏡像を撮像し、画像中の胚様体の面積および周囲長を解析した。培養10日目に、心筋細胞へ分化誘導後の胚葉体の拍動の有無を観察した。
結果を図2に示す。拍動が観察された胚様体は、培養5日目および7日目の時点で面積および周囲長共に大きい値を示す傾向にあった。
例2.胚様体の観察
上記例1.(1)と同様にして、ヒトiPS細胞を分化誘導して胚様体を形成した。培養12日目に胚様体の位相差顕微鏡像を撮像した。撮像後、撮像した胚様体から切片を作成し、マウス由来抗cTnT抗体(ab10223)、Alexa488標識ヤギ由来抗マウスIgG(A-11001)、およびhoechst33342(dojindo)で染色し、観察した。
結果を図3に示す。視野中の面積の大きい胚様体においては、胚様体は全体的に色が薄くなっている。切片染色像で確認すると、顕微鏡像では色が濃い(黒っぽい)部分において、青く染色された細胞核が密集して存在している(すなわち細胞が密集して存在している)のが観察された。一方、緑色に染色された細胞(心筋細胞)は、顕微鏡像で色が薄い(白っぽい)部分に集中して存在しており、またその部分では細胞間も広く、細胞が存在しない領域も観察される。顕微鏡像での観察や胚様体の視野中面積の大きさなども併せ考えると、心筋細胞の分化誘導においては、胚様体の分化とともに胚様体内部に腔構造が形成され、これにより胚様体自体が大きくなること、そのために腔構造が形成された部分の色が薄くなって観察されること、腔構造の周囲の細胞が心筋細胞に分化すること、心筋細胞が非心筋細胞に比べて細胞サイズもしくは細胞間距離が大きいことなどが推測される。
例3.胚様体のサイズ変化とcTnT陽性率との相関
上記例1.において得られた面積データをさらに解析して、胚様体のサイズ変化とcTnT陽性率との相関関係を検討した。培養1日目、4日目、8日目および12日目のデータを用いて、培養1日目から4日目のサイズ変化率および培養8日目から12日目のサイズ変化率と、最終的に得られた胚様体におけるcTnT陽性率との関係を解析した。
結果を図4に表す。培養1日目から4日目のサイズ変化率とcTnT陽性率とは顕著に正に線形相関していた。このことは、培養1日目から4日目にかけて大きくサイズが変化する胚様体は、心筋細胞への分化指向性が高く、最終的な胚様体中の心筋細胞含有率も高いことを示している。また逆に、培養8日目から12日目のサイズ変化率とcTnT陽性率とは負に線形相関していた。このことは、培養8日目から12日目にかけてはサイズにあまり変化が見られない胚様体ほど、心筋細胞への分化指向性が高く、最終的な胚様体中の心筋細胞含有率も高いことを示している。
例4.各時点における胚様体の大きさとcTnT陽性率との相関
各培養時点における胚様体の大きさと、最終的に得られるcTnT陽性率(心筋細胞率)との関係を検討した。
培養0日目において一部のiPS細胞の培養にスフェロイド形成培養用容器EZSPHERE(R)を用いたこと、および6〜12日目の培養条件で6〜18日目まで培養を行ったこと以外は上記例1.(1)と同様にして、ヒトiPS細胞を分化誘導した。培養4日目、6日目および18日目において胚様体の長径の長さを計測し、長さ別に分取した。18日目まで培養した後、上記例1.(1)と同様にcTnT陽性率を計測した。
培養4日目、6日目および18日目の長径の長さと心筋細胞率との関係を、それぞれ図5〜7に示す。培養4日目においては、長径が100μm以下の場合に、最終的に得られた心筋細胞率(純度)が向上する傾向があった。このことから培養4日目においても、形態学的特徴に基づいて胚様体を分類することにより、心筋細胞の純度を予測し、スクリーニングできることが示された。培養6日目においては、100μm以下もしくは200μm以上の場合に最終的に得られた心筋細胞率(純度)が向上する傾向があった。このことから培養6日目においても、形態学的特徴に基づいて胚様体を分類することにより、心筋細胞の純度を予測し、スクリーニングできることが示された。培養18日目においては、最終的に得られた心筋細胞の長径が長いほど心筋細胞率(純度)が高く、特に300μm以上の場合に顕著に心筋細胞率が上昇した。また、培養0日目においてスフェロイド形成培養用容器EZSPHERE(R)を用いた場合であっても、上記傾向に違いは見られなかった。このことから、例えば培養4日目における胚様体の長径が100μm以上の場合は培養を中止する、もしくは100μm以下のものを分取するなどのスクリーニング方法への応用が考えられる。
例5.細胞株ごとの分化指向性の差異と胚様体の大きさとの相関
iPS細胞株として、理研バイオリソースセンターより入手した以下の6種の細胞を用いた:201B7、253G1、409B2、HiPS−RIKEN−1A、HiPS−RIKEN−2AおよびHiPS−RIKEN−12A。これらのiPS細胞株を、Matsuura, et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 425 (2012) 321-327、Miki K. Cell Stem Cell (2015)、WO2014/185358A1およびWO2017/038562などに記載の方法を参考に、例1.(1)と同様の手法により心筋細胞まで分化誘導した。具体的には、Primate ES培地(ReproCell)に5ng/mLのbFGFを添加したものを未分化維持培地として用い、フィーダー細胞であるマイトマイシンC処理済みのMEF(ReproCell)上で未分化ヒトiPS細胞を培養して、3〜4日に1回継代を行った。
分化誘導はヒトiPS細胞をDissociation solution(ReproCell)およびAccumax(イノベーションセルテクノロジーズ)で解離して、0.5ng/mLのBMP−4と10μMのY27632(Rock阻害剤)を添加したStemPro34(ライフテクノロジーズ)で懸濁し、EZSPHERE(IWAKI)で1日培養して集塊を形成させた。得られた胚様体をアクチビンA、骨形成タンパク質(BMP)4および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する培養液中で4日目まで培養し、その後Wnt阻害剤(IWR1)を含む培養液中で6日目まで培養し、その後VEGFおよびbFGFを含む培養液中で培養し、心筋細胞への分化誘導を行った。上記例1.(1)と同様にして心筋細胞への分化誘導後のトロポニン陽性率を測定し、上記6種の細胞株を心筋細胞への分化誘導効率の上位(High群:201B7、253G1、409B2)と下位(Low群:HiPS−RIKEN−1A、HiPS−RIKEN−2A、HiPS−RIKEN−12A)で2群に分けた。図8に示すように、その2群ではフローサイトメトリー解析結果によるcTnT陽性率に有意な差があった(High群対Low群:83.2%±0.2%対15.8±2.6%;p<0.01;n=3)。
トロポニン陽性率は、胚様体をTrypLE Selectを用いて分散後、分散した細胞をBD Cytofix/Cytoperm(R)Fixation/Permeabilization Solution Kit(BD Bioscience)を用いて固定、透過処理した後、抗ヒトトロポニン抗体(Thermo Fisher Scientific)、Alexa488標識ヤギ由来抗マウスIgG(A-11001)(Thermo Fisher Scientific)を順次反応させた後、フローサイトメーターにより測定を行って算出した。
各iPS細胞株から心筋細胞へ分化誘導途中の胚葉体をKEYENCE社 オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X700を用いて対物レンズの倍率が4倍の条件で撮影した画像を、BZ-X700解析アプリケーションver1.3.1.1を用いて、寸法計測、エリア計測で各iPS細胞株について50〜100個の胚葉体の長径および面積を測定した。図9は培養中のiPS細胞の写真図で、図10は分化誘導6日目の胚葉体の写真図である。
分化誘導6日目で胚葉体の長径および面積を測定した結果、高純度群と低純度群で胚葉体の長径(High群対Low群:286μm±36μm対202μm±22μm;p<0.01)および胚葉体の面積(High群対Low群:67329μm±17503μm対33676μm±7084μm;p<0.01)に有意な差があることが分かった(図11)。これらの結果から、分化指向性の高いiPS細胞株は、分化指向性の高い形態学的特徴を示すことが示された。これらのことは、胚様体の分化指向性と形態学的特徴が密接に関連する可能性を示唆する。
本発明によれば、多能性幹細胞を分化誘導して分化誘導細胞を得る際に、分化誘導の早期段階において、非破壊的に分化誘導結果を推測することができるため、分化誘導細胞を効率的に得ることができ、特に再生医療等製品の製造などにおいて非常に有用である。

Claims (20)

  1. 多能性幹細胞を培養して得られる胚様体の分化特性を評価する方法であって、胚様体の1または2以上の形態学的特徴を測定する工程を含む、前記方法。
  2. 分化特性が、分化指向性である、請求項1に記載の方法。
  3. 分化指向性が、心筋細胞への分化指向性である、請求項2に記載の方法。
  4. 形態学的特徴の測定が、胚様体が形成されたと判断された時点を含む、1または2以上の時点において実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 形態学的特徴の測定が、非侵襲的に行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 胚様体の形態学的特徴を測定する工程が、胚様体を撮像することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 形態学的特徴が、胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 多能性幹細胞を培養して得られる胚様体をスクリーニングする方法であって、胚様体の1または2以上の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程を含み、目的の分化誘導細胞への分化指向性の高い胚様体がスクリーニングされる、前記方法。
  9. 目的の分化誘導細胞が、心筋細胞である、請求項8に記載の方法。
  10. 形態学的特徴が、胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報を含む、請求項8または9に記載の方法。
  11. (A)多能性幹細胞を培養して、胚様体を形成する工程;
    (B)(A)で得られた胚様体の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;
    (C)(B)で得られた測定結果に基づいて胚様体をスクリーニングする工程;および
    (D)(C)でスクリーニングされた胚様体を分化誘導して目的の分化誘導細胞を含む細胞集団を得る工程;
    を含む、目的の分化誘導細胞の調製方法。
  12. 目的の分化誘導細胞が、心筋細胞である、請求項11に記載の方法。
  13. 多能性幹細胞が、iPS細胞である、請求項11または12に記載の方法。
  14. 工程(b)が、胚様体を撮像することを含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 形態学的特徴が、胚様体の大きさおよび/または胚様体の色情報を含む、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 請求項8〜10のいずれか一項に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングされた胚様体。
  17. 請求項16に記載の胚様体を分化誘導して得られる心筋細胞を含む細胞集団を含む、医薬組成物。
  18. 多能性幹細胞を培養して形成された胚様体および/または該胚様体を分化誘導して得られる分化誘導細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物の製造方法であって、
    (a)胚様体の1または2以上の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;
    (b)工程(a)で得られた測定結果と基準とを比較する工程;および
    (c)分化指向性が高いと判断された胚様体をスクリーニングする工程
    を含む、前記方法。
  19. さらに
    (d)(c)でスクリーニングされた胚様体を分化誘導して分化誘導細胞を含む細胞集団を得る工程;および
    (e)(d)で得られた細胞集団を、所望の形態に調製する工程;
    を含む、請求項18に記載の方法。
  20. 目的の分化誘導細胞への分化指向性の高い多能性幹細胞株をスクリーニングする方法であって、
    (1)対象の多能性幹細胞を培養して、胚様体を形成する工程;
    (2)(1)で得られた胚様体の形態学的特徴を非侵襲的に測定する工程;および
    (3)(2)で測定された形態学的特徴と基準とを比較する工程
    を含む、前記方法。
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