JPWO2018199205A1 - 水棲動物用飼料 - Google Patents

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Abstract

水棲動物の生育向上に寄与する飼料を提供することを課題とする。また、水棲動物の飼育または養殖における病害発生を抑制しうる飼料を提供することを課題とする。RNAなどの核酸を配合した飼料とし、例えば、摂餌性増進用、飼料転換効率増進用、生体防御能増進用などの用途に応じて給餌する。

Description

本発明は、水棲動物の飼育または養殖に適した飼料に関する。
世界人口は増加の一途をたどっている。現在73億人と言われているところ、2050年には90億人を突破するであろうとの推定がなされている。人口増加の予測から、近い将来の深刻な食料不足が懸念される。
地球の7割は海洋が占めており、食糧不足を補うために、海洋を活用した食料生産が見直されている。世界の漁業総生産高の推移を見ると、漁獲量は1980年後半以降、90万トン前後で頭打ちとなったのに対し、養殖生産量は、1980年代以降増加し始め、ここ10年ぐらいは急増しており、2012年にはおよそ60万トンの生産量に至っている(例えば世界漁業・養殖白書2014年)。このように、海洋を利用した食料生産において、養殖の重要性は増している。
上記のように養殖漁業は盛んになってきているが、魚介類をベースとした飼料原料の漁獲量は減っており、十分な量を入手することが困難になったり、価格の高騰により養殖業の経営を圧迫したりするなどの課題が生じてきている。
また、養殖する魚介類に病気が発生すると大きな損失を生じてしまう。そのため抗生物質などの薬剤を用いることもあるが、こうした薬剤は高価なものが多く、生産コストを上昇させる一因となる。また抗生物質は、使用を継続するうちにウイルスや菌などが薬剤耐性を獲得して効果が失われる可能性がある。さらに、人の食品となる魚介類に対し抗生物質を飼料に配合して大量に摂食させることは、人に対する影響も懸念される。そのため病害対策として抗生物質は有用性はあるものの、必要最小限の使用に留めることが求められている。
抗生物質等の薬品を使用しない対策として、きのこ廃菌床を含む培養基で培養して得られる乳酸菌発酵物を、魚介類用の免疫賦活剤として用いることなどが提案されている(例えば、特許文献1)。
特開2015−172019号公報
上記のような状況に鑑み、本発明は、水棲動物の生育向上に寄与する飼料を提供することを課題とするものである。また、本発明は、水棲動物の飼育または養殖における病害発生を抑制しうる飼料を提供することを課題とするものである。
本発明者等は、鋭意研究の結果、下記の手段によって上記課題を解決できることを見出し、本願発明を完成させるに至った。
〔1〕核酸成分を含有する水棲動物用飼料。
〔2〕前記核酸成分が、リボ核酸および/またはヌクレオチドを含む、上記〔1〕に記載の水棲動物用飼料。
〔3〕前記核酸成分の添加量が、0.01〜5.0%(W/W)である、請求項1または2に記載の水棲動物用飼料。
〔4〕水棲動物の摂餌性増進用である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
〔5〕飼料転換効率増進用である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
〔6〕水棲動物の生体防御能増進用である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
〔7〕水棲動物が食用魚介類である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料を給餌する、水棲動物の生産方法。
〔9〕植物由来飼料、魚の生餌、魚粉、および魚油からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む第一の飼料と、核酸成分を含有する第二の飼料とを併用して給餌する水棲動物の生産方法であって、第二の飼料は、第一の飼料に対して、核酸成分の添加量が0.01〜5.0%(W/W)となるように投与される、水棲動物の生産方法。
本発明によれば、水棲動物の生育向上に寄与する飼料を提供することができる。
また、本発明によれば、水棲動物の飼育または養殖における病害発生を抑制しうる飼料を提供することができる。本発明の水棲動物用飼料を用いることにより、抗生物質の使用量を抑制しうる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の水棲動物用飼料は、核酸成分を含有する。本発明において「水棲動物」の用語は、水中で生息することができる動物のことを意味する。本発明において「水棲動物」の用語には、魚介類、両生類、水棲哺乳類が含まれ、淡水棲動物および海水棲動物のいずれも含まれる。本発明において「魚介類」の用語には、魚類、貝類、および甲殻類が含まれる。
本発明の水棲動物用飼料は、魚介類に対する飼料として好適である。本発明の水棲動物用飼料の給餌対象となる好ましい魚介類としては、例えば、ブリ、ハマチ、カンパチ、ヒラマサ、タイ、マグロ、フグ、ヒラメ、アジ、サバ、ハタ、クエ、サケなどの海水魚、アユ、イワナ、ウナギ、コイ、スズキ、フナ、マス、ヤマメ、ワカサギ、金魚、メダカ、ティラピア、チョウザメなどの淡水魚、その他エビ類、カニ類などが挙げられる。
また、本発明の水棲動物用飼料は、食用または観賞用の水棲動物に対する飼料として好適に用いうる。
本発明の水棲動物用飼料に含まれる核酸成分は、核酸またはその構成単位であるヌクレオチドでありうる。核酸成分を構成する糖の種類は、デオキシリボースおよびリボースのいずれでもよい。すなわち、核酸成分はデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のいずれでもよい。核酸成分を構成する塩基の種類としては、主にアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシルが挙げられ、すなわち核酸成分を構成するヌクレオシドの種類としては、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、が挙げられる。ヌクレオチドを構成するリン酸は、一リン酸であっても、複数のリン酸で構成されていてもよい。核酸成分として、市販品を用いてもよい。核酸成分は、1種を単独で配合してもよいし、複数種を混合して配合してもよい。
核酸成分の由来は特に制限はなく、人工合成したものでもよいし、天然物由来のものであってもよい。例えば、酵母などの微生物から抽出または精製したものを用いてもよい。このように合成、抽出または精製した核酸成分は、魚が摂食した際に、吸収されやすい形態とすることができる。廃材とされた生物資源、例えば廃材とされた木材に含まれる木質糖分を用いて酵母などの微生物を増殖し、核酸成分を得て、本発明の飼料として配合して用いることにより、廃材とされていたものを有用物質に転換することができ、持続可能な循環型社会の形成に寄与することができる。
本発明の水棲動物用飼料は、有効成分としての核酸成分を単独で用いてもよいし、あるいは、核酸成分と他の飼料成分とを混合したものであってもよい。また、核酸成分は、(1)上述のように他の飼料成分に添加して混合飼料として給餌する形態を採用してもよいし、または、(2)核酸成分と他の飼料成分とを直接混合せずに、別々に用意しておき、核酸成分と他の飼料成分をそれぞれ投与して、併用給餌する形態を採用してもよい。なお、本明細書において、特に限定なく単に「併用」という場合、上記(1)および(2)の両方の形態を包含する用語として用いる。また、便宜上、他の飼料(又は飼料成分)を第一の飼料と呼び、第一の飼料に対し、これに加えて用いられる、核酸成分を主成分とする飼料または核酸精製物を第二の飼料と呼ぶ場合がある。他の飼料成分(第一の飼料)としては、水棲動物の育成に通常用いられる飼料を用いうる。魚介類用の飼料としては、例えば、小麦粉、大豆油かす等の植物由来飼料、生魚の切り身等の生餌、魚粉、魚油、またはこれらの混合物などが挙げられる。本発明の水棲動物用飼料には、必要に応じて、水分、油分、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色材、香料、賦形剤、ビタミン類、ホルモン類、アミノ酸類、抗生物質などを配合してもよい。
本発明の水棲動物用飼料は、水棲動物が摂食できる形態であれば、どのような形態であってもよく、例えば、粉体、粒体、またはペレットなどの形態としうる。
本発明の水棲動物用飼料は、水棲動物の飼育または養殖のための飼料として好適であるが、さらに、飼育または養殖における特定の目的のために好適に用いることができる。なお、以下、本明細書では、特に断らない限り、「飼育または養殖」のことを単に「飼育等」という。
本発明の水棲動物用飼料は、例えば、水棲動物の摂食性増進用の飼料として好適である。核酸成分と魚粉等の他の飼料成分とを配合または併用し、飼育等の対象とする水棲動物の摂食性を向上させることができる。
摂食性増進用として用いる場合、核酸成分の添加量の下限は、給餌される他の飼料に対し、好ましくは0.01%(W/W)以上、より好ましくは0.03%(W/W)以上、より好ましくは0.05%(W/W)以上である。摂食性増進という観点からは、核酸成分の添加量の上限は特に制限されるものではないが、5.0%(W/W)以下が好ましく、3.0%(W/W)以下がより好ましく、1.5%(W/W)以下がさらに好ましい。5.0%(W/W)を超えると、添加量の上昇に応じた効果を得にくくなる傾向が現れる場合がある。
また、本発明の水棲動物用飼料は、飼料転換効率増進用の飼料として好適である。核酸成分と魚粉等の他の飼料成分とを配合または併用し、飼育等の対象とする水棲動物における飼料転換効率を向上させることができる。
飼料転換効率増進用として用いる場合、核酸成分の添加量の下限は、給餌される他の飼料に対し、好ましくは0.01%(W/W)以上、より好ましくは0.03%(W/W)以上、より好ましくは0.05%(W/W)以上である。飼料転換効率増進という観点からは、核酸成分の添加量の上限は特に制限されるものではないが、ヌクレオチドについては5.0%(W/W)を超えると、添加量の上昇に応じた効果を得にくくなる傾向が現れる場合がある。
上記のように摂食性や飼料転換効率を向上させることできるため、本発明の水棲動物用飼料によって水棲動物の体重、体長などをより効率的に増進させることができる。また、本発明の水棲動物用飼料は、飼料転換効率を向上させることにより、給餌する飼料の総量を抑制しつつも、水棲動物を十分に大きく成長させることに寄与することできる。
本発明の水棲動物用飼料は、これを用いて飼育等した場合に比肝重値が低下する傾向があり、与えられた飼料が肝臓にエネルギー源として貯蔵されずに、そのまま体の成長に寄与すると推定される。そのため、この観点からも、本発明の水棲動物用飼料は、食用魚介類の養殖に好適に用いることができ、飼料効率の良い養殖を行うことができる。
本発明の水棲動物用飼料は、水棲動物の生体防御能増進用の飼料としても好適である。本発明の水棲動物用飼料は、摂食させることにより、飼育等の対象とする水棲動物における白血球の貪食性、補体価、リゾチーム活性などの生体防御能に係る機能を向上させ、病原菌等に対する抵抗力を向上させることができる。
白血球の貪食性または補体価を向上させる観点からは、核酸成分としてRNAを用いることが好適である。
白血球の貪食性またはリゾチーム活性を向上させる観点からは、ヌクレオチドを用いることが好適である。
白血球の貪食性を向上させる観点からは、RNAの添加量の下限は、給餌される他の飼料に対し、好ましくは0.1%(W/W)以上、より好ましくは0.3%(W/W)以上、より好ましくは0.5%(W/W)以上であり、他方、RNAの添加量の上限は特に制限されるものではないが、5.0%(W/W)を超えると、添加量の上昇に応じた効果を得にくくなる傾向が現れる可能性がある。
白血球の貪食性を向上させる観点からは、ヌクレオチドの添加量の下限は、給餌される他の飼料に対し、好ましくは0.1%(W/W)以上、より好ましくは0.3%(W/W)以上であり、他方、ヌクレオチドの添加量の上限は、好ましくは5.0%(W/W)以下であり、より好ましくは3.0%(W/W)以下である。
補体価を向上させる観点からは、RNAを用いることが好ましく、RNAの添加量の下限は、給餌される他の飼料に対し、好ましくは0.1%(W/W)以上、より好ましくは0.3%(W/W)以上、より好ましくは0.5%(W/W)以上であり、他方、RNAの添加量の上限は特に制限されるものではないが、5.0%(W/W)を超えると、添加量の上昇に応じた効果を得にくくなる傾向が現れる可能性がある。
リゾチーム活性を向上させる観点からは、核酸成分としてヌクレオチドを用いることが好ましく、ヌクレオチドの添加量の下限は、給餌される他の飼料に対し、好ましくは0.1%(W/W)以上、より好ましくは0.3%(W/W)以上、より好ましくは0.5%(W/W)以上であり、他方、ヌクレオチドの添加量の上限は、好ましくは5.0%(W/W)以下であり、より好ましくは3.0%(W/W)以下である。
以上のように、生体防御能増進という観点からは、成分の種類と濃度により効能に若干差があるが、摂食性増進用、飼料転換効率増進用、および生体防御能増進用の用途について総合的に見た場合、核酸成分の添加量の好ましい例としては、例えば0.01%(W/W)以上3.0%以下、0.03%(W/W)以上2.0%(W/W)以下、または0.05%(W/W)以上1.5%(W/W)以下などの範囲が挙げられる。
本発明の水棲動物用飼料を給餌して、水棲動物の生産を行うことができる。水棲動物の生産は、淡水または海水を入れた水槽で行ってもよいし、池、湖、または海洋などで行うこともできる。本発明の水棲動物用飼料の投与回数、投与量、投与のタイミングなどは、水棲動物の種類、成長ステージ、生育環境(生育場所の大きさ、水棲動物の数や密度、水温などの諸条件を含む)などに応じて適宜調整しうる。また、本発明の水棲動物用飼料は、他の飼料、添加剤、抗生物質などの薬剤、または抗菌性の微粒子若しくはナノ粒子などの抗菌材料と併用してもよい。
本発明の水棲動物用飼料を給餌することにより、水棲動物の成長効率を促進し、病原菌に対する感染を抑制させつつ、水棲動物の飼育等を行うことができる。また、本発明の水棲動物用飼料を用いることにより、水棲動物の生体防御能を向上させることができるため、抗生物質の使用を停止または使用量を抑制することができる。また、本発明の水棲動物飼料を用いて生産された魚介類は食味に特に問題はなく、本発明の水棲動物飼料は、食用魚介類の養殖用飼料として好適に用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
<実施例1〜6>
ベース飼料に対し、所定の添加量となるようにRNAまたはヌクレオチドを配合し、実施例1〜6の飼料およびコントロール飼料を調製した。
ベース飼料に添加するRNAとして、酵母由来の核酸であるRNA−M(日本製紙社製)を用いた。
ベース飼料に添加するヌクレオチドとして、酵母由来の核酸であるNPC ヌクレオチド(日本製紙社製)を用いた。
ベース飼料として、市販飼料の飼料(日清丸紅飼料株式会社製)に準じた組成の飼料を用いた。
各飼料における、ベース飼料成分に対する、ヌクレオチドおよびRNAの添加量は、表1に示すとおりである。また、ベース飼料の配合組成は、表2に示すとおりである。各飼料は、供試魚のサイズに応じて、径が約2mm及び/又は3mmのペレット状に成形されたものを使用した。
Figure 2018199205
Figure 2018199205
<成長試験1>
(1)供試魚および飼育方法
実施例1〜6およびコントロール飼料を餌としてニジマスの稚魚を飼育し、成長性について試験を行った。コントロール飼料として、上記表2に示すベース飼料を用いた。
100L容FRP(Fiberglass Reinforced Plastic)水槽にニジマス40尾を収容し、1つの試験区とした。各試験区の水槽において、流水式(1日24回転)でエアレーションを行いながら、1日2回飽食給餌を行い、平均水温20℃±3℃の条件下で90日間飼育した。飽食給餌の基準として、明らかにニジマスの摂餌性が低下し、少量の残餌が水槽の底に沈殿する状態を飽食給餌とし、この状態になるまで各試験区で毎回給餌を行った。
(2)給餌量、体重および体長の測定、並びに飼料転換効率の算出
すべての給餌前後で飼料の重量を測定し、一日の給餌量を算出して毎日記録した。平均給餌量は、摂餌性の指標とした。
約30日毎に、2−フェノキシメタノール(和光純薬社製)による麻酔下で各試験区のすべてのニジマスの体重と体長を測定し、各試験区毎の平均値を求めた。
また、上記の給餌量と魚体重から、試験期間全体を通した各試験区毎の飼料転換効率(増加体重/給餌量)×100を求めた。
(3)肝重量および比肝重値
上記90日間の飼育終了からさらに18日後にコントロール試験区および実施例5の試験区、20日後に実施例2、3、4および6の試験区、21日後に実施例1の試験区のすべての供試魚に関して、氷冷麻酔下で魚体重および標準体長の測定後、ヘパリン処理を行った注射器でニジマスの全血を採血した後に続けて解剖し、腎臓を除く全ての臓器の摘出を行った。摘出した全ての臓器と、そのうちの肝臓の重量を測定した。1個体当たりの体重に対する肝重量を比肝重値(%)として算出した。
(4)試験結果
上記のようにして求められた、給餌量、魚体重、魚体長、飼料転換効率、肝重量および比肝重値の結果を、それぞれ表3〜8に示す。
Figure 2018199205
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平均給餌量、魚体重、および魚体長は、実施例1〜6のいずれの試験区でも、コントロール試験区に対して、概ね同等又は有意に上昇する傾向が認められた。
飼料転換効率についても、実施例の1〜6のいずれの試験区も、コントロール試験区よりも高い値を示した。
肝重量に関しては、実施例1、3、4の各試験区において、コントロール試験区に対して有意に上昇する傾向が認められ、実施例2、5の試験区においても、コントロール試験区と比べて同等または高い値を示した。但し、実施例6の試験区だけは、コントロール試験区に対して有意に低下する結果となり、肝重量を上昇させるという観点からは、好ましい投与量に上限があることが示唆された。
比肝重値に関しては、実施例1〜6のいずれの試験区でも、コントロール試験区(1.05±0.40%)に対して有意に低い値を示し、実施例2の試験区が最も低い0.8±0.1(より詳細には、0.79±0.11%)を示した。一般に魚類の肝臓はエネルギーの貯蔵器官としての役割が知られており(秋吉英雄ら、2001、「海水産魚類の行動と肝臓の組織生化学的相関に関する比較形態学的研究」島根大学生物資源研究報告第6号)、上記の成長試験の結果にも示されるとおり、核酸を含有する飼料を毎日飽食給餌した際の成長率が向上していたことからも、実施例1〜6の飼料は、エネルギーを貯蔵することなくそのまま成長に利用されたことが推察された。
<生体防御能試験>
(1)供試魚および飼育方法
実施例2、3、5、6およびコントロール飼料を餌としてニジマスを用いて生体防御能について試験を行った。
供試魚は次のようにして準備した。ニジマスの稚魚を、本試験の開始までの間、1.1t容FRP水槽で約2ヶ月間、1日3回朝、昼、夕の飽食給餌で飼育した。その後、試験開始までの3か月間は1.1t容FRP水槽にて1日1回の飽食給餌を行った。飽食給餌の基準は、上記成長試験と同じである。試験開始時に2−フェノキシエタノール(和光純薬工業社製)による麻酔下で、供試魚の魚体重および標準体長の測定を行い、1水槽当たり35尾を500L容FRP水槽6基にそれぞれ分槽して、試験区を設定した。
各試験区毎に、実施例2、3、5、6の飼料の各飼料を1種ずつ割り当てた。コントロール飼料の試験区は2つ設け、それぞれコントロール試験区1および2とした。
各試験区毎に、魚体重の2%を1日1回給餌を行い、5週間飼育した。但し、サンプリングの前日は餌止めを行った。
(2)サンプリング
サンプリングは、給餌開始から1,3および5週間後に各試験区7尾ずつ行った。サンプリングした供試魚は、2−フェノキシエタノール(和光純薬工業社製)による麻酔下で魚体重および標準体長を測定後、ヘパリン処理した注射器を用いて、尾柄部から全血を採血したのちに、無菌的に解剖を行い、頭腎を摘出した。採血した血液については、1.5mL小型遠心分離チューブに溶血しないように注意しながら分注後、4℃で831×g、15分間の遠心分離を行って、得られた血漿を−80℃で使用するまで冷凍保存した。
(3)頭腎由来白血球の貪食活性の測定
供試魚から全血を採血後、直ちに頭腎を無菌的に摘出し、RPMI−1640培地を500μL入れた1.5mL小型遠心分離チューブ内でピンセットを用いて白血球を押し出し分散した。10分間静置後、白血球を多く含む層を100μL分取し、オプソニン化したザイモザン100μLが入った小型遠心分離チューブに加え、23℃で1時間培養した。その後、4℃で277×g、10分間の遠心分離を行い、上清を取り除いた後に、非働化したウシ胎児血清100μLに懸濁した。この懸濁液をスライドグラスに滴下し乾燥させたのち、メイグリュンワルド液(SIGMA社製)で5分間および50%希釈メイグリュンワルド液で10分間染色した。さらに、ギムザ染色液[Gimsa(MERCK社製):蒸留水=1:20]で2回洗浄したのち、同液で15分間染色した。染色後、水道水で洗浄、乾燥後に顕微鏡観察(×1,000)を行った。各試験区とも貪食能のある好中球とマクロファージのみを300細胞計数し、そのうちザイモザンを貪食している細胞数の割合を貪食率とした。貪食率の試験結果を表9に示す。
Figure 2018199205
(4)補体価の測定
供試魚から採取した血漿とヒツジ(ジャパンラム)の赤血球とを各25μLずつ加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、50μLずつEGTA・Mg2+・GGVB(glucose gelatin veronal buffer)に10mMグリコールエーテルジアミン四酢酸と40mM MgCl2を加えた緩衝液)を加え、3,000×g、3分間、4℃で遠心分離した。上清を96穴プレートに移し、波長492nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。測定した吸光度より、溶血率yは{y=[検体の吸光度−CB(機械的溶血、赤血球25μL+緩衝液75μL)の吸光度]/[100%溶血の吸光度−CBの吸光度]}として求め、補体価とした。補体価の試験結果を表10に示す。
Figure 2018199205
(5)リゾチーム活性の測定
Micrococcus lysodeikticus(SIGMA社製)懸濁液は、pH7.0のPBS(−)(ニッスイ社製)を用いて、波長492nmにおける吸光値が0.8になるように調整した。この懸濁液を96穴プレート(IWAKI社製)の各穴に120μLずつ添加したのちに、血漿10μLを加えて60分間反応させた。リゾチーム活性は、混合直後と反応後に波長492nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定し、吸光度の減少分として求めた。リゾチーム活性の試験結果を表11に示す。
Figure 2018199205
表9〜11に示される結果から、自然免疫の指標となる貪食率、補体価、およびリゾチーム活性について、RNAとヌクレオチドでは作用効果が異なること、配合濃度により効果が変動しうることが示された。
<食味試験および栄養分析>
(1)供試魚および飼育方法
供試魚には、種苗生産業者より購入したニジマス当歳魚を用いた。供試魚は、淡水飼育棟にある1.1t容FRP水槽で約2か月間の予備飼育を実施したのち、100L容水槽7基にそれぞれ各40尾のニジマスを収容し、かけ流し式でエアレーションを行って飼育した。その後、試験開始2週間前から異常魚や死亡魚のないことを確認して、本試験を開始した。各水槽における給水量は、1日あたり計算上24回転するように調整した。なお、試験期間中の水温は17.8〜19.8℃であった。給餌は1日2回9時と15時に下記の試験飼料を飽食給餌し、16時以降に残餌及び糞の除去処理を行った。
(2)食味試験
非喫煙者の高知大学学生10人(男性:女性=4:6)をパネルとして、ニジマスを調理したものを食してもらい、その食味の評価を行った。食味の項目として、外観、香り、味、および食感について評価した。
供試魚として、実施例1、2、4、5の飼料を用いた試験区、およびコントロール試験区のものを用いた。料理の提供において、パネルに先入観を与えないため、3桁の乱数を記入した紙皿で提供した。提供順については、前の料理の濃い味付けが次の料理に影響しないよう配慮し、ムニエル、南蛮漬け、甘露煮の順とした。
パネルの評価によると、実施例の試験区から得られたニジマスの料理の食味について、試験区のものと比較して劣るとする評価はなく、本発明の飼料を用いて飼育した魚の食味に特に問題のないことが確認できた。
(3)栄養分析
ニジマス魚肉中の栄養成分の含有量については、実施例2、4およびコントロール試験区の比較をするために、日本食品機能分析研究所及び日本食品分析センターに依託して分析した。なお、検体として各試験区につき800gの魚肉を供試した。分析結果を表12に示す。
Figure 2018199205
表12に示されるように、実施例の試験区とコントロール試験区では、栄養成分のいずれもほぼ同等の値になったが、実施例の試験区はコントロール試験区と比較して、脂質含有量が低く、ドコサヘキサエン酸(DHA)含有量が高い傾向にあった。
<実施例7および8>
RNAの添加量を0.1重量%とした以外は実施例1の飼料と同様にして、実施例7の飼料を調製した。また、ヌクレオチドの添加量を0.1重量%とした以外は実施例4の飼料と同様にして、実施例8の飼料を調製した。
<成長試験2>
淡水魚であるニジマスの代わりに、海水魚であるブリを用いて試験を行った。
(1)供試魚および飼育方法
実施例1、実施例2、実施例4、実施例5の飼料およびコントロール飼料、並びに実施例7および実施例8の飼料を餌とした各試験区毎にブリの稚魚を飼育した。
100L容FRP水槽にブリ60尾を収容し、各飼料ごとの1つの試験区とした。各試験区の水槽において、流水式(1日24回転)でエアレーションを行いながら、1日2回飽食給餌を行い、23℃±3℃の条件下で9週間飼育した。飽食給餌の基準として、明らかにブリの摂餌性が低下し、少量の残餌が水槽の底に沈殿する状態を飽食給餌とし、この状態になるまで各試験区で毎回給餌を行った。
(2)肝重量
6週間および9週間の飼育後、各試験区30尾の供試魚をサンプリングし、氷冷麻酔下で魚体重および標準体長の測定後、ヘパリン処理を行った注射器でブリの全血を採血した後に続けて解剖し、腎臓を除く全ての臓器の摘出を行った。摘出した全ての臓器と、そのうちの肝臓の重量を測定した。測定結果を表13に示す。
Figure 2018199205
肝重量に関し、実施例1、2、4および7の各試験区において、コントロール試験区に対して有意に上昇する傾向が認められ、実施例5および8の試験区においても、コントロール試験区と比べてほぼ同等の値を示した。

Claims (9)

  1. 核酸成分を含有する水棲動物用飼料。
  2. 前記核酸成分が、リボ核酸および/またはヌクレオチドを含む、請求項1に記載の水棲動物用飼料。
  3. 前記核酸成分の添加量が、0.01〜5.0%(W/W)である、請求項1または2に記載の水棲動物用飼料。
  4. 水棲動物の摂餌性増進用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
  5. 飼料転換効率増進用である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
  6. 水棲動物の生体防御能増進用である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
  7. 水棲動物が食用魚介類である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の水棲動物用飼料を給餌する、水棲動物の生産方法。
  9. 植物由来飼料、魚の生餌、魚粉、および魚油からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む第一の飼料と、核酸成分を含有する第二の飼料とを併用して給餌する水棲動物の生産方法であって、第二の飼料は、第一の飼料に対して、核酸成分の添加量が0.01〜5.0%(W/W)となるように投与される、水棲動物の生産方法。
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