JPWO2018131440A1 - 電磁界分布調整装置、および、マイクロ波加熱装置 - Google Patents

電磁界分布調整装置、および、マイクロ波加熱装置 Download PDF

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Abstract

マイクロ波加熱装置は、被加熱物を収容する加熱室と、マイクロ波を生成するように構成されたマイクロ波発生器と、マイクロ波を加熱室まで導くように構成された導波管と、加熱室内の壁面の少なくとも一部の2次元領域に設けられた電磁界分布調整装置とを備える。電磁界分布調整装置は、所定の2次元領域を充填するように配列された複数の金属片と、複数の金属片のうちの隣接する二つの金属片の間に設けられたスイッチとを有する。隣接する二つの金属片にそれぞれ設けられ、隣接する二つの金属片より小さな二つの導体部を介して、隣接する二つの金属片にスイッチが接続される。本態様によれば、マイクロ波加熱装置で被加熱物を加熱するときに生じる加熱むらを低減することができる。

Description

本開示は、電磁界分布調整装置、および、これを備えたマイクロ波加熱装置に関する。
電子レンジなどのマイクロ波加熱装置では、加熱室に収容された被加熱物を加熱むらなく均一に加熱することが望ましい。その目的の達成のために、種々の構成が考え出されてきた(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、マトリクス状に配置された多数の金属片と、隣接する二つの金属片を接続する多数のスイッチとを有する電磁界分布調整装置が開示される。電磁界分布調整装置は、スイッチの動作に応じて金属片の近傍のインピーダンスを変化させる。これにより、金属片の近傍に発生する定在波の位置を移動させ、加熱むらを低減することができる。
国際公開第2015/133081号
しかしながら、特許文献1では、金属片とスイッチとの接続方法については明確に示されていない。
本開示は、上記従来の課題を解決するもので、電磁界分布調整装置の具体的な構成を提供するものである。
本開示の一態様の電磁界分布調整装置は、所定の2次元領域を充填するように配列された複数の金属片と、複数の金属片のうちの隣接する二つの金属片の間に設けられたスイッチとを備える。
隣接する二つの金属片にそれぞれ設けられ、隣接する二つの金属片より小さな二つの導体部を介して、隣接する二つの金属片にスイッチが接続される。
本態様によれば、マイクロ波加熱装置で被加熱物を加熱するときに生じる加熱むらを低減することができる。
図1は、本開示の実施の形態に係る電磁界分布調整装置を備えたマイクロ波加熱装置の斜視図である。 図2は、本実施の形態に係る電磁界分布調整装置の縦断面図である。 図3は、本実施の形態に係る電磁界分布調整装置の上面図である。 図4は、本実施の形態に係る電磁界分布調整装置の斜視図である。 図5Aは、スイッチを閉じた場合における電磁界分布調整装置の近傍の電界分布E1を示す図である。 図5Bは、スイッチを開いた場合における電磁界分布調整装置の近傍の電界分布E2を示す図である。 図6は、本実施の形態に係る電磁界分布調整装置に含まれるスイッチの一例を示す図である。 図7は、本実施の形態の変形例に係る電磁界分布調整装置の平面図である。 図8は、本実施の形態の変形例に係る電磁界分布調整装置の斜視図である。 図9は、本実施の形態の変形例に係るユニットセルの反射位相に関する周波数特性を示す図である。 図10Aは、大きな金属片を有するユニットセルに電流を流した場合の電流ベクトルを示す図である。 図10Bは、小さな金属片を有するユニットセルに電流を流した場合の電流ベクトルを示す図である。 図11は、シミュレーションモデルである加熱室の斜視図である。 図12は、加熱室内に生じる電界分布のシミュレーション結果を示す図である。 図13は、温度分布の解析のための被加熱物が配置された、図11に示す加熱室の斜視図である。 図14は、電磁界分布調整装置の三つの構成における被加熱物上の温度分布を示す図である。 図15は、ダイオードのインピーダンスとユニットセルの反射位相との関係を示す特性図である。 図16は、ダイオードのインピーダンスとマイクロ波の反射の割合との関係を示す特性図である。 図17は、特性測定用のマイクロストリップラインに接続されたダイオードを示す図である。 図18Aは、順方向バイアスの場合のダイオードの等価回路を示すブロック図である。 図18Bは、逆方向バイアスの場合のダイオードの等価回路を示すブロック図である。 図19は、図18Aに示す等価回路のダイオードを使用した場合に、被加熱物上に生じる電界分布のシミュレーション結果を示す図である。 図20は、図18Bに示す等価回路のダイオードを使用した場合に、被加熱物上に生じる電界分布のシミュレーション結果を示す図である。
本開示の第1の態様の電磁界分布調整装置は、所定の2次元領域を充填するように配列された複数の金属片と、複数の金属片のうちの隣接する二つの金属片の間に設けられたスイッチとを備える。
隣接する二つの金属片にそれぞれ設けられ、隣接する二つの金属片より小さな二つの導体部を介して、隣接する二つの金属片にスイッチが接続される。
本開示の第2の態様の電磁界分布調整装置によれば、第1の態様において、二つの金属片の距離が、マイクロ波の波長の1/2以下である。
本開示の第3の態様の電磁界分布調整装置によれば、第1の態様において、スイッチが、導体部より小さく、降伏電圧特性を有するダイオードである。
本開示の第4の態様の電磁界分布調整装置によれば、第3の態様において、ダイオードが、電磁波によって順方向のバイアスが印加された場合に200Ω以下のインピーダンスを有し、電磁波によって逆方向のバイアスが印加された場合に800Ω以上のインピーダンスを有する。
本開示の第5の態様の電磁界分布調整装置によれば、第4の態様において、電磁波によって順方向のバイアスが印加された場合、ダイオードの等価回路が、約3Ωの抵抗と約1.6nHのインダクタンスとを有する直列回路であり、電磁波によって逆方向のバイアスが印加された場合、ダイオードの等価回路が、約10MΩの抵抗と約0.22pFのキャパシタンスとを有する並列回路である。
本開示の第7の態様のマイクロ波加熱装置は、被加熱物を収容する加熱室と、マイクロ波を生成するように構成されたマイクロ波発生器と、マイクロ波を加熱室まで導くように構成された導波管と、加熱室内の壁面の少なくとも一部の2次元領域に設けられた電磁界分布調整装置とを備える。
電磁界分布調整装置は、所定の2次元領域を充填するように配列された複数の金属片と、複数の金属片のうちの隣接する二つの金属片の間に設けられたスイッチとを有する。隣接する二つの金属片にそれぞれ設けられ、隣接する二つの金属片より小さな二つの導体部を介して、隣接する二つの金属片にスイッチが接続される。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の実施の形態に係るマイクロ波加熱装置1の斜視図である。図2は、マイクロ波加熱装置1の縦断面図である。
本実施の形態では、マイクロ波加熱装置1は、加熱室2を有する電子レンジである。図1では、加熱室2の内部が見えるように、加熱室2の手前の壁面が省略されている。
図1、図2に示すように、マイクロ波加熱装置1は、加熱室2に加えて、マイクロ波発生器3と導波管4と電磁界分布調整装置5Aとを備える。本開示において、加熱室2の前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれX方向、Y方向、Z方向と定義する。
加熱室2は、その前面開口に扉(図示せず)が設けられ、その内部空間に被加熱物6を収容する。
マイクロ波発生器3は、マグネトロンなどで構成され、マイクロ波を生成する。導波管4は、マイクロ波をマイクロ波発生器3から加熱室2まで導く。本実施の形態では、導波管4の開口は加熱室2の側壁に設けられる。
電磁界分布調整装置5Aは、加熱室2内の所定の2次元領域に設けられる。電磁界分布調整装置5Aは、加熱室2の内部空間と対向する面におけるインピーダンスを変化させる。これにより、電磁界分布調整装置5Aは、その近傍の電磁界分布、すなわち、定在波分布を変化させる。その結果、被加熱物6上の加熱分布が変化し、被加熱物6がより均一に加熱される。
被加熱物6を電磁界分布調整装置5Aの近傍に載置すると、均一加熱の効果が得やすい。本実施の形態では、所定の2次元領域は加熱室2の底面全体である。この場合、被加熱物6は電磁界分布調整装置5A上に配置される。
図3、図4はそれぞれ、電磁界分布調整装置5Aの上面図、斜視図である。図3、図4に示すように、電磁界分布調整装置5Aは、複数の金属片11と複数のスイッチ12と複数の短絡導体13と接地導体14とを備える。
接地導体14は、加熱室2の底面に沿って設けられる。接地導体14は、電磁界分布調整装置5Aの底面に相当し、基準電位を有する電気的接地面である。
スイッチ12の各々は、列方向(図3、図4に示すX方向)に隣接する二つの金属片11の間に設けられる。
金属片11は、一辺が、マイクロ波の波長の半分未満の長さを有する四角形の金属平板である。金属片11は、接地導体14に対向するように、接地導体14に平行な平面上にマトリクス状に配列される。
短絡導体13は、金属片11を接地導体14に接続する。一つの金属片11と一つの短絡導体13との組み合わせは、マッシュルーム(Mushroom)構造のユニットセル(Unit cell)と呼ばれる。
スイッチ12を開けると、マイクロ波に対して、電磁界分布調整装置5Aが磁気壁(Magnetic wall)として機能するように、金属片11の一辺の長さおよび短絡導体13の高さなどの寸法が設計される。
図5Aは、スイッチ12を閉じた場合における電磁界分布調整装置5Aの近傍の電界分布E1を示す。図5Bは、スイッチ12を開いた場合における電磁界分布調整装置5Aの近傍の電界分布E2を示す。
スイッチ12を閉じると、スイッチ12と金属片11とを含む平面が一つの導体板として作用する。この場合、電磁界分布調整装置5Aは、金属片11の近傍において実質的にゼロのインピーダンスを有する短絡面(Short-circuit plane)を構成する。
図5Aに示すように、電磁波は短絡面で反射されると、その短絡面、すなわち、金属片11の表面に節(Node)を有する定在波(Standing wave)を形成する。
電磁界分布調整装置5Aは、金属片11の近傍において、実質的にゼロのインピーダンスを有する電気壁(Electric wall)として機能する。
スイッチ12を開けると、電磁界分布調整装置5Aは、多数のユニットセルが二次元的かつ周期的に配列されたメタマテリアル(Meta-material)を構成する。この場合、電磁界分布調整装置5Aは、金属片11の近傍において実質的に無限大のインピーダンスを有する磁気壁として機能する。ここで、二次元的かつ周期的に配列するとは、複数の同一構造体を縦方向、横方向に一定間隔で配列することを意味する。
スイッチ12が開いても、隣り合う二つの金属片11は、二つの短絡導体13と接地導体14とを介して導通するため、直流電流はこれらの金属片の間を流れることができる。
しかしながら、マイクロ波は、金属片11および短絡導体13の上記寸法により、これらの金属片の間を伝播することができない。
従って、電磁界分布調整装置5Aは、金属片11の近傍において、実質的に無限大のインピーダンスを有する開放面(Open plane)を構成する。図5Bに示すように、電磁波は開放面で反射されると、その開放面、すなわち、金属片11の表面に腹(Antinode)を有する定在波を形成する。
このように、電磁界分布調整装置5Aは、そのインピーダンスを変化させることにより、電磁界分布調整装置5Aで反射して発生した定在波の節の位置、腹の位置を入れ替えることができる。
図6は、本実施の形態に係るスイッチ12の一例を示す。図6に示すように、スイッチ12は、二つのツェナーダイオードが逆向きに並列接続されて構成される。
スイッチ12がツェナーダイオードのような降伏電圧特性を有する素子である場合、スイッチ12の近傍に電磁波が到来すると、スイッチ12の両端に接続された二つの金属片11の間に所定のしきい値(降伏電圧)より大きな電位差が生じる。このとき、スイッチ12は、開状態から閉状態に自動的に切り替わる。
そのため、電磁界分布調整装置5Aの電磁界が強い部分において、インピーダンスが自動的に実質的にゼロに切り替わり、この部分に定在波の節が生じる。これにより、この部分の電磁界が自動的に弱まり、加熱むらを抑制することができる。スイッチ12は、例えば、PINダイオードなどであってもよい。
上記の通り、本実施の形態によれば、電磁界分布調整装置5Aのインピーダンスを実質的にゼロまたは無限大に設定することにより、電磁界分布調整装置5Aの近傍に発生する定在波の腹の位置、節の位置を選択的に入れ替えることができる。これにより、加熱むらを低減することができる。
以下、本実施の形態の変形例に係る電磁界分布調整装置5Bについて説明する。電磁界分布調整装置5Bでは、多数の金属片11が、誘電体基板上に二次元的かつ周期的に配列される。誘電体基板の裏面は、加熱室2内の導電性部材からなる壁面に接触する。すなわち、電磁界分布調整装置5Bは接地導体14を有しない。
以下の説明では、便宜上、電磁界分布調整装置5Bが、金属片11と金属片11の周辺の誘電体基板の一部を含むユニットセル21を二次元的かつ周期的に配列して構成されるものとする。
図7は、本実施の形態の変形例に係る電磁界分布調整装置5Bを構成するユニットセル21の平面図である。図8は、ユニットセル21の斜視図である。図7、図8に示すように、ユニットセル21は、金属片11と誘電体22と導体部23とを含む。
誘電体22は、金属片11の周辺の誘電体基板の一部である。誘電体22は、一辺の長さが45mmの正方形形状を有する。金属片11は、一辺の長さが36mmの正方形形状を有し、誘電体22の表面中央に配置される。
導体部23は、金属片11の各辺の中央部分の外側に、金属片11と一体的に設けられた5mm幅の長方形形状の金属部材である。
隣り合う二つの金属片11の間に対向するように設けられた二つの導体部23に挟まれた1.8mmの隙間に、スイッチ12が設けられる。スイッチ12は、二つのダイオード24が逆向きに並列接続されて構成される(図6参照)。ダイオード24は、例えば、ツェナーダイオードである。
導体部23の幅は、ユニットセル21の電磁界分布調整装置5Bとしての機能を妨げないように、金属片11の幅より小さい。
以上のように、本変形例では、隣接する二つの金属片11にそれぞれ設けられ、金属片11より小さな二つの導体部23を介して、隣接する二つの金属片11にスイッチ12が接続される。
図9は、ユニットセル21の反射位相に関する周波数特性を示す図である。図9において、特性曲線群25は、ダイオード24に順方向のバイアスが印加されて、ダイオード24がオンする場合の特性曲線の束である。特性曲線群26は、ダイオード24に逆方向のバイアスが印加されて、ダイオード24がオフする場合の特性曲線の束である。
ユニットセル21に照射されるマイクロ波の入射角度θが0度、30度、60度の場合の特性曲線を、破線、点線、実線でそれぞれ示す。ここで、0度の入射角度θとは、金属片11に垂直なマイクロ波の入射を意味し、90度の入射角度θとは、金属片11に水平なマイクロ波の入射を意味する。
図9に示すように、電子レンジで使用される2.45GHzの周波数を有するマイクロ波に関して、ダイオード24がオンの時、反射位相は180度である。この場合、ユニットセル21は電気壁として機能する。
ダイオード24がオフの時、反射位相は0度に変化する。この場合、ユニットセル21は共振状態となり、ユニットセル21は磁気壁として機能する。このように、ダイオード24に印加されるバイアスの方向により、反射位相を反転させることが可能である。
この現象は、ダイオード24の動作によりユニットセル21のインピーダンスが変化するために起こると考えられる。このことは、入射角度が0度、30度、60度のいずれの場合にも当てはまる。すなわち、本実施の形態に係る電磁界分布調整装置5Bは、マイクロ波の入射角度に関わらず、マイクロ波の照射に応じて反射位相を反転させることが可能である。
以下、図10A〜図14を用いて、隣り合う二つの金属片11の間の距離Lがユニットセル21の特性に及ぼす影響について説明する。
図10Aは、金属片11が大きく、導体部23が短いユニットセル21に電流を流した場合の電流ベクトルを示す。図10Bは、金属片11が小さく、導体部23が長いユニットセル21に電流を流した場合の電流ベクトルを示す。これらの結果は、シミュレーションにより得られたものである。
図10A、図10Bに示すように、金属片11、導体部23のいずれにおいても、縁に沿って流れる電流成分は、それ以外の部分を流れる電流成分より多い。
図10Aにおいて、矢印線で示された経路7Aは、金属片11、導体部23の左側の縁を下方に流れる電流成分の経路である。図10Bにおいて、矢印線で示された経路7Bは、金属片11、導体部23の左側の縁を下方に流れる電流成分の経路である。
金属片11と導体部23とが正方形または長方形の形状を有すれば、金属片11と導体部23とを合わせた領域の外周の長さは、金属片11および導体部23の大きさに関わらず一定である。従って、経路7Aの長さは経路7Bの長さに等しい。
すなわち、金属片11と導体部23とが上記形状を有する限り、それらの形状は共振周波数にあまり影響しないと考えられる。
しかし、電磁界分布調整装置5Bが実際に電子レンジに配置されたときに、ユニットセル21の形状に応じて異なる加熱性能を有することがわかった。以下、これについて説明する。
図11は、シミュレーションモデルである加熱室20を示す図である。図11において、加熱室20の内部が見えるように、加熱室20の壁面が省略されている。図11に示すように、本シミュレーションの加熱室20は、その上面に設けられた導波管27と、導波管27と対向する下面全体に設けられた電磁界分布調整装置5Bとを有する。
図12は、「パッチ(Patch)間短絡」の場合と「パッチ間開放」の場合とにおいて、加熱室20内の仮想平面2A、2B上に生じる電界分布のシミュレーション結果を示す。
本シミュレーションにおいて、下記三つの構成の電磁界分布調整装置5Bが用いられる。仮想平面2Aは、加熱室20の前半分と後半分とを仮想的に区画し、仮想平面2Bは、加熱室20の左半分と右半分とを仮想的に区画する(図11参照)。
図12に示すように、三つの構成は同じ大きさの金属片11を有する。一つ目の構成では、距離Lが18mmに設定される。二つ目、三つ目の構成は、40mmの距離L、80mmの距離Lをそれぞれ有する。導体部23の長さは、距離Lに応じて決定される。図12において、シミュレーション結果として示された画像の濃淡が電界分布を表し、より淡い部分の電界がより濃い部分のそれより強い。
「パッチ間短絡」とは、金属片11の間に導体部23が設けられる場合を意味し、「パッチ間開放」とは、金属片11の間に導体部23が設けられない場合を意味する。
距離Lが18mmのとき、「パッチ間短絡」の場合と「パッチ間開放」の場合とで、大きく異なる電界分布が生じる。すなわち、スイッチ12の動作が、電界分布を大きく変化させ、それにより、被加熱物への加熱パターンを大きく変化させる。
距離Lが80mmのとき、「パッチ間短絡」の場合と「パッチ間開放」の場合とで、翼似た電界分布が生じる。すなわち、スイッチ12の動作は、電界分布をあまり変化させず、被加熱物への加熱パターンをあまり変化させない。
距離Lが40mmの場合の結果は、距離Lが80mmの場合の結果よりも距離Lが18mmの場合の結果に似ている。
以上の通り、18mmの距離Lでは望ましい効果が得られ、40mmの距離Lではある程度の効果が得られる。しかし、80mmの距離Lでは望ましい効果は得られない。要するに、距離Lは小さいほど良い。
この現象は、使用するマイクロ波の波長に関係すると考えられる。すなわち、2.45GHzの周波数を有するマイクロ波の場合、マイクロ波の波長の1/2は約60mmであり、距離Lが60mm以下の場合、望ましい結果が得られる。そうでない場合、この隙間を通過するマイクロ波が増加し、電磁界分布調整装置5Bの性能を低下させると考えられる。このことは、一つのユニットセルの評価では気づき難い。
例えば、図10A、図10Bに示すシミュレーションでは、一つのユニットセルだけの評価によって、金属片11の大きさによる影響はないという結果であった。
しかし、複数のユニットセルを二次元的に配列した場合、金属片11の大きさが小さいと距離Lが大きくなる。距離Lが波長の1/2より大きいと、加熱むらを低減させる効果が低下する。従って、加熱むらを低減させる効果を得るためには、距離Lをマイクロ波の波長の1/2以下とするのが望ましい。
図13は、温度分布の解析のための被加熱物6(寒天)が配置された、図11に示す加熱室20の斜視図である。図14は、「パッチ間短絡」の場合と「パッチ間開放」の場合とにおいて、加熱室20内に載置された被加熱物6上に生じる温度分布のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションは、距離Lが18mm、40mm、80mmにそれぞれ設定された電磁界分布調整装置5Bを用いる。
図14において寒天の温度分布に関しては、距離Lが18mmであるとき、「パッチ間短絡」の場合の温度分布が、「パッチ間開放」の場合と大きく異なる。すなわち、この構成は、加熱むらを低減させる効果が大きい。
距離Lが80mmであるとき、「パッチ間短絡」と「パッチ間開放」とで、温度分布の差がほとんどない。すなわち、この構成は、加熱むらを低減させる効果が小さい。
距離Lが40mmであるときの結果は、どちらかというと距離Lが18mmであるときの結果によく似ている。しかし、実は、これらの間には大きな違いがある。
図14において寒天の中心部分の温度に関しては、距離Lが18mmであるとき、「パッチ間短絡」の場合に高く、「パッチ間開放」の場合に低い。しかし、距離Lが40mmであるとき、どちらの場合でも中心温度が低い。
以上の通り、上記三つの構成のうち、距離Lが18mmである場合、最も良い加熱特性が得られる。この現象は、使用するマイクロ波の波長に関係すると考えられる。
2.45GHzの周波数を有するマイクロ波の場合、マイクロ波の波長の1/4波長は約30mmであり、距離Lが30mm以下の場合、望ましい結果が得られる。そうでない場合、この隙間を通過するマイクロ波が増加し、電磁界分布調整装置5Bの性能を低下させると考えられる。このことは、図12に示す電界分布だけの評価では気づき難い。
例えば、図12に示すシミュレーションでは、距離Lは、マイクロ波の波長の1/2より小さければよいという結果であった。しかし、加熱むらを低減させる効果を最大限得るためには、距離Lをマイクロ波の波長の1/4以下とするのが望ましい。
以下、図15〜図20を用いて、図7、図8に示すユニットセル21で使用されるダイオード24の必要な仕様について説明する。
図15は、ダイオード24のインピーダンスとユニットセル21の反射位相との関係を示す特性図である。
図15に示すように、ユニットセル21の反射位相が大きい状態、すなわち、140deg以上の状態にするために、ダイオード24が200Ω以下のインピーダンスを有する必要がある。すなわち、加熱室20内に供給されたマイクロ波によってダイオード24に順方向バイアスが印加され、スイッチ12が短絡状態になったときに、ダイオード24が200Ω以下のインピーダンスを有しなければならない。
ユニットセル21の反射位相が小さい状態、すなわち、40deg以下の状態にするために、ダイオード24が800Ω以上のインピーダンスを有する必要がある。すなわち、加熱室20内に供給されたマイクロ波によってダイオード24に逆方向バイアスが印加され、スイッチ12が開放状態になったときに、ダイオード24が800Ω以上のインピーダンスを有しなければならない。
図15を参照すると、採用すべきダイオード24は、マイクロ波によって順方向バイアスが印加されたとき、200Ω以下のインピーダンスを有し、マイクロ波によって逆方向バイアスが印加されたとき、800Ω以上のインピーダンスを有しなければならない。
図16は、ダイオード24のインピーダンスと、ユニットセル21におけるマイクロ波の入射に対するマイクロ波の反射の割合との関係を示す特性図である。反射しないマイクロ波は損失となる。このため、できるだけ多くのマイクロ波を反射するように、ダイオード24を選ぶことが望ましい。
本実施の形態において、ダイオード24の選定基準は、入射したマイクロ波の半分以上が反射する、すなわち、反射の割合が−3dBより多いことである。
図16を参照すると、採用すべきダイオード24は、マイクロ波によって順方向バイアスが印加されたとき、50Ω以下のインピーダンスを有し、マイクロ波によって逆方向バイアスが印加されたとき、3kΩ以上のインピーダンスを有することが望ましい。
図17は、上記条件を満たすダイオード24を、特性測定用の1.6mm幅のマイクロストリップラインに接続した状態を示す。図17に示すように、ダイオード24のパッケージは、1.8mmの長さを有し、5mm幅の導体部23(図8参照)と比べてかなり小さい。このため、ダイオード24は、ユニットセル21の特性に悪影響を及ぼさない。
図18Aは、マイクロ波によって順方向バイアスが印加されたときのダイオード24の等価回路、図18Bは、マイクロ波によって逆方向バイアスが印加されたときのダイオード24の等価回路である。
図18Aに示すように、順方向バイアスの場合のダイオード24の等価回路は、約3Ωの抵抗と約1.6nHのインダクタンスとを有する直列回路である。図18Bに示すように、逆方向バイアスの場合のダイオード24の等価回路は、約10MΩの抵抗と約0.22pFのキャパシタンスとを有する並列回路である。
図19は、図18Aに示す等価回路のダイオードを使用した場合に、マイクロ波の周波数とインダクタンスの値とに応じて、被加熱物6(寒天)上に生じる温度分布のシミュレーション結果を示す。
図20は、図18Bに示す等価回路のダイオードを使用した場合に、マイクロ波の周波数とキャパシタンスの値とに応じて、被加熱物6上に生じる温度分布のシミュレーション結果を示す。
図19、図20において、シミュレーション結果として示された画像の濃淡が温度分布を表し、より淡い部分の温度がより濃い部分のそれより高い。
図19に示すように、異なるマイクロ波の周波数に対して、被加熱物6上に異なるパターンの電界が生じる。しかし、異なるインダクタンスの値に対して、被加熱物6上にほとんど同じパターンの電界が生じる。すなわち、被加熱物6上に生じる電界は、インダクタンスのばらつきに影響されない。
図20に示すように、異なるマイクロ波の周波数に対して、被加熱物6上に異なるパターンの電界が生じる。しかし、異なるキャパシタンスの値に対して、被加熱物6上にほとんど同じパターンの電界が生じる。すなわち、被加熱物6上に生じる電界は、キャパシタンスのばらつきに影響されない。
以上の結果より、安定した特性の電磁界分布調整装置5Bを実現するため条件は、以下の通りである。それは、スイッチ12が、例えば、順方向バイアスの場合の等価回路が図18Aに示す直列回路であり、逆方向バイアスの場合の等価回路が図18Bに示す並列回路であるダイオード24により構成されることである。
本実施の形態によれば、電磁界分布調整装置5Bの電磁界が強い部分において、自動的に電磁界分布が変化する。その結果、被加熱物6上の加熱分布が変化し、被加熱物6がより均一に加熱される。
本実施の形態では、図10A、図10Bに示すユニットセル21において、導体部23およびスイッチ12が金属片11のすべての辺に配置される。しかし、導体部23およびスイッチ12は、必ずしも金属片11のすべての辺に設けられなくてもよい。ユニットセル21は、必ずしも導体部23およびスイッチ12を有しなくてもよい。
すなわち、電磁界分布調整装置5Bが、金属片11の少なくとも一辺に導体部23およびスイッチ12が設けられないユニットセル21と、導体部23およびスイッチ12がまったく設けられないユニットセル21とを有してもよい。
本実施の形態では、電磁界分布調整装置5Bは、加熱室の底面全体に設けられる。しかし、電磁界分布調整装置5Bは、必ずしも加熱室の底面全体に設けられなくてもよい。
スイッチ12として使用するダイオードのサイズに応じて、ユニットセルと金属片11のサイズを決定しさえすれば、導体部23を介さず、スイッチ12を金属片11に直接的に接続してもよい。
本開示に係る電磁界分布調整装置は、電子レンジだけでなく、生ゴミ処理機など誘電加熱を利用した他の加熱装置にも適用可能である。
1 マイクロ波加熱装置
2,20 加熱室
2A,2B 仮想平面
3 マイクロ波発生器
5A,5B 電磁界分布調整装置
6 被加熱物
7A,7B 経路
11 金属片
12 スイッチ
13 短絡導体
14 接地導体
21 ユニットセル
22 誘電体
23 導体部
24 ダイオード
25,26 特性曲線群

Claims (6)

  1. 所定の2次元領域を充填するように配列された複数の金属片と、
    前記複数の金属片のうちの隣接する二つの金属片の間に設けられたスイッチと、を備え、
    前記隣接する二つの金属片にそれぞれ設けられ、前記隣接する二つの金属片より小さな二つの導体部を介して、前記隣接する二つの金属片に前記スイッチが接続された電磁界分布調整装置。
  2. 前記二つの金属片の距離が、マイクロ波の波長の1/2以下である請求項1に記載の電磁界分布調整装置。
  3. 前記スイッチが、前記導体部より小さく、降伏電圧特性を有するダイオードである請求項1に記載の電磁界分布調整装置。
  4. 前記ダイオードが、電磁波によって順方向のバイアスが印加された場合に200Ω以下のインピーダンスを有し、前記電磁波によって逆方向のバイアスが印加された場合に800Ω以上のインピーダンスを有する請求項3記載の電磁界分布調整装置。
  5. 前記電磁波によって順方向のバイアスが印加された場合、前記ダイオードの等価回路が、3Ωの抵抗と1.6nHのインダクタンスとを有する直列回路であり、前記電磁波によって逆方向のバイアスが印加された場合、前記ダイオードの等価回路が、10MΩの抵抗と0.22pFのキャパシタンスとを有する並列回路である請求項4に記載の電磁界分布調整装置。
  6. 被加熱物を収容する加熱室と、
    マイクロ波を生成するように構成されたマイクロ波発生器と、
    前記マイクロ波を前記加熱室まで導くように構成された導波管と、
    前記加熱室内の壁面の少なくとも一部の2次元領域に設けられた、請求項1に記載の電磁界分布調整装置と、
    を備えたマイクロ波加熱装置。
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