JPWO2017170572A1 - ストレスバイオマーカー - Google Patents

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Abstract

本発明は、ストレス状態を簡便かつ正確に評価することができる新たなストレスバイオマーカーを提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該バイオマーカーを演出することが可能な試薬を含む診断キット、及び、当該バイオマーカーを利用した診断方法を提供する。生体体液中に含まれるミトコンドリアDNAがストレスバイオマーカーになり得る。

Description

本発明は、ストレス状態の正確な評価が可能なストレスバイオマーカーに関する。
生活習慣、社会構造、生活環境、加齢等による身体的又は精神的ストレスが様々な疾患の原因となることが知られている。物理的、化学的、生理的、生物学的、心理的又は社会的な種々のストレス刺激によって、ヒトの体内で内在性ストレス物質が発生し、免疫センサーがその内在性ストレス物質に反応して、持続的な炎症が引き起こされる。その結果、感染症、自己免疫疾患、生活習慣病、循環器疾患、神経変性疾患、運動・感覚器疾患などの様々な疾患が発症されると考えられている。このようにストレスは様々な疾患の原因となり得るため、ストレス状態を正確に評価することは、健康管理や、疾患の予防又は治療の上で極めて重要である。
従来のストレス評価法として、調査票などのアンケート記入による評価法が主として行われてきた。しかしながら、これは主観的なストレス評価法であり、客観性に欠ける。また、他のストレス評価法として、脳波(α波)や加速度脈波を応用したものが一部実用化されている。しかしながら、得られたデータはストレス量との定量性がない。また、疾患だけでなく、日常生活における様々なストレスにより血中コルチゾールやカテコールアミン等のストレス物質が上昇し、ストレス状態を反映する可能性があるという報告がなされているが、これらの物質を利用したストレス評価は、未だ研究レベルであって実用化までは道のりが遠く、検出感度が低い等の問題があった。
近年、ストレス状態を評価する方法として、バイオマーカーを利用した方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、被検者の末梢血由来のメッセンジャーRNAを用いて、マーカー遺伝子の発現解析結果に基づき、被検者の慢性ストレス状態を評価する方法が開示されている。
また例えば、特許文献2では、被検者の末梢血由来のメッセンジャーRNAを用いて、表1から選ばれるいずれかのマーカー遺伝子の発現解析結果に基づき、被検者の運動を起因とするストレス状態を評価する方法が開示されている。
また例えば、特許文献3では、ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取される尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料から検出されるストレス性疾患のバイオマーカーであって、負電荷又は正電荷エレクトロイオンスプレー質量分析法におけるm/z値が特定値で示される代謝化合物及びその前駆化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物である、ストレス性疾患のバイオマーカーが開示されている。
しかしながら、従来技術において、ストレスバイオマーカーとして、ミトコンドリアDNAを適用したものはない。
特開2007−306883号公報 特開2008−54590号公報 特開2012−47735号公報
本発明は、ストレス状態を簡便かつ正確に評価することができる新たなストレスバイオマーカーを提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該バイオマーカーを演出することが可能な試薬を含む診断キット、及び当該バイオマーカーを利用した診断方法を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ヒトがストレス状態にある場合、ストレスがない場合と比較して、生体体液中のミトコンドリアDNA(mtDNA)量が有意に上昇することを見出した。そして、mtDNAによりストレスの有無や重症度といったストレスの状態を評価できることを見出した。また、mtDNAを利用してストレス状態を評価するので、従来技術ではできなかった涙液等を含めより多くの種類の生体体液をサンプルとして利用することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.生体体液中に含まれるミトコンドリアDNAからなるストレスバイオマーカー。
項2.ミトコンドリアDNAが生体体液中の細胞外膜小胞内に含まれる、項1に記載のストレスバイオマーカー。
項3.ミトコンドリアDNAが生体体液中のエキソソーム内に含まれる、項1又は2に記載のストレスバイオマーカー。
項4.ミトコンドリアDNAを検出可能な試薬を含む、ストレス状態の診断キット。
項5.前記ミトコンドリアDNAを検出可能な試薬が、シトクロムb、COXI、COXII、COXIII、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット1、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット2、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット3、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4L、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット5、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット6、ATPase第6サブユニット及びATPase第8サブユニットからなる群より選択される少なくとも1種を検出することが可能な試薬である、項4に記載の診断キット。
項6.ストレスの有無を検査する方法であって、下記工程:
(i)被験動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定する工程;及び、
(ii)前記工程(i)の結果に基づいてストレスの有無を検出する工程、
を含む、検査方法。
項7.前記工程(ii)が、被験動物について得られる工程(i)の結果を、正常対照について得られる工程(i)の結果と対比して、ミトコンドリアDNA量が増加していることを指標として行われる、項6に記載の検査方法。
本発明のストレスバイオマーカーによれば、ストレス状態を簡便かつ正確に評価することができる。また、本発明により、サンプルとして適用可能な生体体液の種類が広がり、より簡便に定量性をもってストレス状態を評価できるシステムを提供することができる。更に、他の検査機器の開発に応用することもできる。本発明のバイオマーカーに基づいて得られた結果は、患者個々の病態に応じた治療法の最適化に資するものである。また、本発明によれば、前記バイオマーカーを含むストレス状態の診断キットが提供され得る。
エキソソームの分泌、代謝経路を示す概略図である。 実験例1の結果、即ち、被検者の、診察業務開始前、診察業務中、診察業務終了後の涙液中のmtDNA濃度の変化を示すグラフである。 実験例2の結果、即ち、日勤前後と夜勤前後の被検者の血清中のmtDNA濃度を示すグラフである。 実験例2の結果、即ち、日勤前後と夜勤前後の被検者の血清中のmtDNA値を示すグラフである。 実験例3の結果、即ち、中心性漿液性脈絡網膜症の患者群と正常対照群の血清中のmtDNA値を示すグラフである。 実験例4の結果、即ち、臨床所見(網膜のOCT(光干渉断層計)像)と血清中ミトコンドリアDNA濃度との関係(左図)、並びに中心性漿液性脈絡網膜症の患者群と正常対照群の血清中のmtDNA値(右図)を示すグラフである。
ストレスバイオマーカー
本発明のストレスバイオマーカーは、生体体液中に含まれるミトコンドリアDNA(mtDNA)からなることを特徴とする。本発明においては、ストレスを受けると生体体液中(例えば血清、涙液、尿、髄液中)のmtDNAの濃度が上昇することに基づき、これをストレス状態の評価指標として用いる。
mtDNAは、細胞小器官であるミトコンドリアのマトリクス中に存在する環状二本鎖DNAである。mtDNAには、シトクロムb、シトクロムcオキシダーゼ(COX)サブユニットI、II、III、II;NADHデヒドロゲナーゼ(NADH)のサブユニット1、2、3、4、4L、5、6;ATP合成酵素(ATPase)第6サブユニット及び第8サブユニットがコードされている。本発明のバイオマーカーとしてのmtDNAの検出は、mtDNAにコードされるこれらの遺伝子のDNAを検出することにより行うことができる。前記具体的な遺伝子のいずれか1種をストレスバイオマーカーとして検出してもよく、2種以上を組合せて検出し、ストレス状態の評価に利用することもできる。例えば、本発明のストレスバイオマーカーであるmtDNAの検出には、COXIII、NADHデヒドロゲナーゼ、シトクロムb等を好適に利用することができる。
また、上記一連のタンパク質は環状のmtDNA上にコードされていることから、いずれのタンパク質をコードするDNAを指標として使用してもmtDNAの挙動を正確に検出することが可能である。
生体体液の由来は特に限定されず、任意の動物とすることができる。より具体的には、ヒト及びヒトを除く哺乳動物が挙げられる。ヒトを除く哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜;イヌ、ネコ等のペット;ヒト、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類が挙げられる。本発明において生体体液の由来として、好ましくは霊長類、更に好ましくはヒトである。
本発明において生体体液は、生体内に存在する採取可能な液体であって、mtDNAが含まれるものであれば特に限定されない。生体体液として具体的には、涙液、前房水、硝子体液、血液サンプル(全血、血清、血しょう)、汗、尿、髄液、唾液、肺胞洗浄液等の体液が挙げられ、涙液、前房水、硝子体液、血液サンプル、尿、髄液等が好適な例として挙げられる。更に、採取に際し侵襲性が低いという観点から涙液、血液サンプル、尿がより好ましい例として挙げられる。
例えば、本発明において生体体液が涙液である場合、眼から直接スポイトやガラスキャピラリー等で採取して得られる。また、涙液として、溶液で眼を洗浄し、洗浄後の溶液を回収したものであってもよい。眼を洗浄した後の溶液としては、例えば、PBS(リン酸緩衝液)を用いて下眼瞼結膜のぬぐい液として回収したものが挙げられる。具体的には、30μLのPBSをマイクロピペットで採り、細隙灯顕微で観察しながら、被検者には上方視してもらい下眼瞼結膜にPBSを滴下しすぐに結膜上のmtDNAを結膜ぬぐい液として回収したものである。
また、例えば、本発明において生体体液が血清である場合、血液(全血)から血球と、フィブリノーゲン(I因子)、プロトロンビン(II因子)、V因子、VIII因子等の血液凝固因子を除去して得られる。血清の取得については臨床検査等で採用されている方法に従って行うことができ、特に限定されないが、例えば、血液を静置した後に得られる上清、あるいは血液を遠心分離に供して得られる上清として得ることができる。また、本発明のストレスバイオマーカーの検出に先立ち、必要に応じて血清タンパク質等の夾雑物を除去するため、フィルター濾過やカラムを利用した前処理を行ってもよい。血清タンパク質としては、例えばアルブミン、トランスフェリン、ハプトグロビン、トランスサイレチン、α1アンチトリプシン、α2マクログロブリン、α1−アシドグリコプロテイン、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンM(IgM)、補体C3、アポリポタンパク質AI、アポリポタンパク質AII等が挙げられる。
また、生体体液が尿である場合、例えば早朝尿を用いることによって測定時間による誤差が是正され、検査結果の安定化、ストレス状態との相関性の向上が期待される。
本発明のバイオマーカーとしては、生体体液中の細胞外膜小胞画分に局在するmtDNAを使用することがより好ましい。細胞外膜小胞は、エキソソームと、エクトソームと呼ばれるマイクロベジクルとを含んでいるが、エキソソーム画分に局在するmtDNAを本発明のバイオマーカーとして使用することがより好ましい。エキソソーム(exosome)は、直径50〜200nmの脂質二重膜からなる小胞であり、mRNAやmicroRNA、細胞質内に存在する様々なタンパク質を内包し、ドナー細胞に依存して様々な生物活性を有することが知られている。エキソソームは、後期エンドソームから発生する分泌小胞に向かって出芽(budding)し、multivesicular body(MVB)を形成して細胞表面まで運ばれる。そしてMVBが細胞膜と膜融合することにより内容物であるエキソソームが細胞外へ放出される。MVBは通常、細胞表面に運ばれる以外にlysosomeにも輸送され、lysosomeと融合してその内容物が分解される(以上について、図1を参照)。
mtDNAは、このような脂質二重膜を有する細胞外膜小胞、特にエキソソーム中に存在することによって、細胞外に存在するDNA分解酵素(DNase)による分解から保護され、安定に存在していると考えられる。そのため、エキソソーム中に存在するmtDNAをバイオマーカーとして利用することにより、より一層正確なストレス状態の評価が可能である。また、エキソソームは、血清、尿中や涙液に多く含まれていることが知られており、血清、尿や涙液からエキソソームを単離し、その中に含まれているmtDNAを測定することにより、低侵襲的又は非侵襲的な評価系の樹立への可能性が開かれる。
エキソソームの分離方法は、mtDNAの検出用の試料として使用可能なものが得られる限り特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択して行うことができる。エキソソームの分離は超遠心により行うことができるが、より簡便には、商業的に入手可能なキットを用いてエキソソームの分離を行うことができ、具体的にはExoQuickTM Exosome precipitation溶液、Exoquick−TC等(いずれもSystem Biosciences社製)が例示される。
また涙液中のmtDNAは、エキソソーム以外の画分にも含まれており、核酸が露出したフリーの状態で存在又はタンパク質と結合して存在しているものもある。
mtDNAの検出は、前記生体体液又はエキソソーム画分からポリヌクレオチドを調製し、これを鋳型としてプライマーにより増幅反応を行うか、または当該ポリヌクレオチドにプローブを用いてハイブリダイゼーション反応を行うことで実施される。調製されるポリヌクレオチドは、安定性や評価の正確性の観点からはDNAが好ましいものとして挙げられる。生体体液又はエキソソーム画分からのポリヌクレオチドの調製は、公知の方法を適宜使用して実施することができ、例えば、フェノール抽出及びエタノール沈殿による方法、ガラスビーズを用いる方法等が挙げられる。より簡便には、市販のDNA抽出試薬又はDNA抽出キットを使用して調製することが可能である。例えば、DNA抽出キットとして具体的にはQIAamp DNA mini Kit(Qiagen社)が挙げられる。
mtDNAにコードされる前述のタンパク質に対応するDNAの検出は、従来公知の方法から適宜選択して行うことができる。検出には、通常、その発現量の測定や増幅を行うためにプローブとなるポリヌクレオチド又はプライマーとなるオリゴヌクレオチドを使用する。プライマーとしては、標的の遺伝子の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズして当該遺伝子を増幅することが可能な特有の配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。また、プローブとしては、標的の遺伝子の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズする特有の配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
これらのプライマー又はプローブは、BLAST、FASTA等のプログラム及びデータベースを利用して標的とする遺伝子の配列情報を取得し、これに基づいて従来公知の方法に従って設計、合成することができる。プライマーの塩基配列長としては、通常16〜32bp、好ましくは18〜30bp、更に好ましくは20〜24bpが挙げられる。例えば、シトクロムb遺伝子を特異的に増幅するプライマーセットとして、具体的には後述する実施例において使用される配列番号1及び2で表されるプライマーセットが挙げられる。また、COXIII遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーセットとしては、具体的には、5’−ATGACCCACCAATCACATGC−3’(フォワードプライマー:配列番号3);5’−ATCACATGGCTAGGCCGGAG−3’(リバースプライマー:配列番号4)が例示される。また、NADH遺伝子を特異的に増幅するプライマーセットとしては、具体的には、5’−ATACCCATGGCCAACCTCCT−3’(フォワードプライマー:配列番号5);5’−GGGCCTTTGCGTAGTTGTAT−3’(リバースプライマー:配列番号6)が例示される。
mtDNAの検出は、前述のようなプライマーを用いた遺伝子の増幅反応によって得られる増幅産物、又はプローブを用いたハイブリダイゼーション反応により得られるハイブリッド産物に基づいて行うことができる。
標的遺伝子の増幅については、従来公知の方法を採用することができ、特に限定されないが、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA/RNAの増幅が挙げられ、より具体的にはRT−PCR、ネスティッドPCR、リアルタイムPCR、競合PCR、TaqMan PCR、Direct PCR等が例示される。また、LAMP(Loop−mediated isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法等のPCRの変法を利用してもよい。
増幅産物の検出は、所望のポリヌクレオチドであるか否かが判別できる方法であれば特に限定されないが、例えば、アガロースゲル泳動法により所定のサイズのポリヌクレオチドが増幅されているか否かを確認することができる。また、増幅反応の過程で増幅産物に取り込まれるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)を標識化しておき、増幅産物中に取り込まれたdNTPの標識物質を測定することにより検出することができる。標識物としては、フルオレセイン(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)等の蛍光物質;ルシフェリン等の発光物質;32P、35S、121I等の放射性同位体が例示される。あるいは、SYBR Green等を用いたインターカレーター法等により定量的に検出を行ってもよい。
また、mtDNAの検出に使用されるプローブの塩基配列長としては、通常20〜250bp、好ましくは20〜100bp、更に好ましくは20〜50bpが挙げられる。また、前記ポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブは、当該ポリヌクレオチドの少なくとも一部にハイブリダイズし、検出され得るものであればよく、完全な相補的配列を有するものでなくてもよい。
前述のプローブを用いたハイブリダイゼーション反応についても従来公知の条件に基づいて、標的のポリヌクレオチドに特異的にプローブがハイブリダイズする条件(ストリンジェントな条件)、例えば90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件を適宜設定することが可能である。ストリンジェントな条件としては、例えば、温度40℃〜70℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、pH6〜8により洗浄する条件が挙げられ、より具体的には50℃、2×SSC(300mM NaCl、30mMクエン酸)、0.1容量%SDSにより洗浄する条件が挙げられる。
また、必要に応じてプローブを、フルオロセイン(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)等の蛍光物質;ルシフェリン等の発光物質;32P、35S、121I等の放射性同位体;アルカリホスファターゼ、ホースラディシュパーオキシダーゼ等の酵素;ビオチン等の標識物質を用いて標識化しておいてもよい。ハイブリダイゼーション反応後にこれらの標的物質を各標識物質の種類に基づいて従来公知の方法に従って検出することにより、ハイブリダイゼーション産物を検出することができる。
ストレス状態にある動物(好ましくはヒト)では、本発明のストレスバイオマーカーである生体体液中(又はエキソソーム中)に含まれるmtDNA量がストレス無の正常対照群に比較して有意に上昇する。ここで、正常対照群とは、健康でストレスが無い状態の被検動物(好ましくはヒト)を指す。
本発明においてストレスとは、外部からの様々な刺激(ストレッサー)によって身体や心に負荷がかかり、歪みが生じることをいう。ストレスの原因となるストレッサーとしては、物理・化学的ストレッサー、生物的ストレッサー、精神的ストレッサーが挙げられる。
物理・化学的ストレッサーとしては、外部環境に由来するものであり、例えば、温度、湿度、光、騒音、けが、有害物質、大気汚染等が挙げられる。生物学的ストレッサーとしては、生態環境に由来するものであり、例えば、運動、肉体疲労、精神疲労、過労、睡眠不足、栄養不足、ウイルス感染、細菌感染等が挙げられる。精神的ストレッサーとしては、心理状態や社会生活における周囲環境などに由来するものであり、例えば、不安、緊張、心配、欲求不満、怒り、恐怖、失望、葛藤等が挙げられる。
また、本発明におけるストレスとしては、前述の外部からの刺激(ストレッサー)によるもの以外に、加齢、老化、悪い生活習慣、動脈硬化、肥満、基礎代謝自体等の内部要因も含まれる。これらの内部要因も慢性炎症を引き起こし得る。
以上のとおり、本発明のストレスバイオマーカーは、ストレス状態を正確に評価することが可能である。
診断キット
本発明のストレス状態の診断キットは、上記mtDNAを検出可能な試薬を含む。mtDNAを検出することが可能な試薬としては、mtDNAの検出をmtDNAにコードされる遺伝子又は遺伝子断片に基づいて行う場合であれば、当該遺伝子又は遺伝子断片を特異的に増幅するプライマー、又は当該遺伝子又は遺伝子断片に特異的にハイブリダイズするプローブが試薬として含まれる。本発明のキットに含まれる試薬として具体的には、配列番号1〜6に示されるプライマーが例示される。これらのプライマー及びプローブについては、上記「ストレスバイオマーカー」に記載の通りである。
更に、mtDNAを検出可能な試薬は、緩衝液、塩、安定化剤、防腐剤等を含んでいてもよく、従来公知の方法に従い、製剤化されていてもよい。また、本発明の診断キットには、前記試薬の他に、mtDNAの検出を実施するために必要とされ得る、標識物質、標識物質の検出剤、反応希釈液、標準抗体、緩衝液、溶解剤、洗浄剤、反応停止液、コントロール試料等を含んでいてもよい。
本発明のキットにおいて、例えばmtDNAを検出するためのプローブを不溶化担体上に固定化して用いることもできる。従って、本発明の診断キットには、不溶化担体も包含され得る。不溶化担体の素材としては、mtDNAの検出を妨げない限り特に限定されないが、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリルニトリル、ポリビニルクロライド、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド、紙、シリコン、ガラス、金属、アガロース等を例示することができる。また、これらの材料を2種以上組合せて用いてもよい。不溶化担体の形状としては、例えばマイクロプレート、トレイ状、球状、繊維状、棒状、盤状、容器状、セル、試験管等のいずれの形状であってもよい。
例えば、前述の不溶化担体上にmtDNAにコードされる遺伝子と特異的にハイブリダイズし得るプローブを固定化することにより、ストレス状態の検出に使用されるDNAチップとすることもできる。プローブの不溶化担体への固定化は従来公知の方法に従って行うことができる。また、mtDNAに対するプローブを異なる濃度で等間隔に担体へ固定化して、mtDNAとハイブリダイズさせることにより半定量的にmtDNAを検出することができる。
生体体液中のmtDNA量に基づく評価方法
本発明は、前述のストレスバイオマーカーである生体体液中のmtDNAを利用した、下記工程を含むストレスの有無を検査する方法を提供する。
(i)被験動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定する工程;及び
(ii)前記工程(i)の結果に基づいてストレスの有無を検出する工程。
前記工程(i)に記載される、生体体液試料、及び生体体液試料中のmtDNAの測定については、前記「ストレスバイオマーカー」欄の記載に従って実施することができる。
また、前記工程(ii)に記載される検出工程は、被験動物について得られる工程(i)の結果を、正常対照群について得られる工程(i)の結果と対比して、ミトコンドリアDNA量が増加していることを指標として行うことができる。ここで、正常対照群については、前記「ストレスバイオマーカー」欄に記載の通りである。
なお、本発明において、「ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて多い」とは、正常対照群の生体体液中のミトコンドリアDNA量の平均値+2×SD(標準偏差、Standard Deviation)の値以上であることを指し、「ミトコンドリアDNA量が正常対照に比べて著しく多い」とは、正常対照群の生体体液中のミトコンドリアDNA量の平均値+4×SDの値以上であることを指す。正常対照群の生体体液中のミトコンドリアDNA量の平均値及びSDは、例えば、24名以上の正常対照群の生体体液中のミトコンドリアDNA量を測定することによって求めることができる。また、本発明者によって、正常対照(ヒト)群の血清中のミトコンドリアDNA量について、平均値+2×SDの値が13.1ng/mL、平均値+4×SDの値が16.9ng/mLであることが確認されているので、被験動物がヒトであり、生体体液が血清の場合であれば、血清中のミトコンドリア量が13.1ng/mL以上であれば「ミトコンドリアDNA量が正常対照に比べて多い」、血清中のミトコンドリア量が16.9ng/mL以上であれば「ミトコンドリアDNA量が正常対照に比べて著しく多い」と判断することができる。また、本発明者によって、正常対照(ヒト)群の涙液中のミトコンドリアDNA量について、平均値+2×SDの値が648.1pg(ピコグラム)/30μL、平均値+4×SDの値が854.5pg/30μLであることが確認されているので、被験動物がヒトであり、生体体液が涙液の場合であれば、涙液中のミトコンドリア量が648.1pg/30μL以上であれば「ミトコンドリアDNA量が正常対照に比べて多い」、涙液中のミトコンドリア量が854.5pg/30μL以上であれば「ミトコンドリアDNA量が正常対照に比べて著しく多い」と判断することができる。
また、被検動物としては、ヒト及びヒトを除く哺乳動物が挙げられる。ヒトを除く哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜;イヌ、ネコ等のペット;ヒト、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類が挙げられる。本発明において被検動物として、好ましくは霊長類、更に好ましくはヒトである。
更に、本発明のストレスバイオマーカーに基づく評価は、ストレスの有無の検査以外にも、ストレスに対する抵抗性の予測方法、ストレス性疾患に対する易罹患性の予測方法、ストレス状態の重症度の診断方法、ストレス状態の予後の予測方法、治療薬のスクリーニング方法、ストレスの鑑別診断等に利用することができる。
本発明のストレスバイオマーカーに基づいてストレスに対する抵抗性を評価する場合(ストレスに対する抵抗性の予測方法)、前記ストレスの有無を検査する方法と同様に、被検動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定した結果に基づき、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて多い場合には当該ストレスに対する抵抗性が低い、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて著しく多い場合には当該ストレスに対する抵抗性が非常に低い、という基準に従って、抵抗性の強度を評価することができる。
本発明のストレスバイオマーカーに基づいてストレス性疾患に対する易罹患性を予測する場合(ストレス性疾患に対する易罹患性の予測方法)、前記ストレスの有無を検査する方法と同様に、被験動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定した結果に基づき、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて多い場合にはストレス性疾患に罹患しやすい、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて著しく多い場合にはストレス性疾患に特に罹患しやすい、という基準に従って、ストレス性疾患に対する易罹患性を評価することができる。
なお、ストレス性疾患とは、ストレスにより、内在性ストレス物質が発生し、免疫センサーがその内在性ストレス物質に反応して、持続的な炎症が引き起こされることにより発症する疾患である。ストレス性疾患としては、例えば、不安性障害等の神経症、胃炎、胃潰瘍、過敏性腸症候群等の消化器系疾患、気管支喘息、狭心症等の循環器系疾患、片頭痛、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、うつ病、また、肥満、メタボリックシンドローム等の生活習慣病等が挙げられる。
本発明のストレスバイオマーカーに基づいてストレス状態の重症度を評価する場合(ストレス状態の重症度の検出方法)、前記ストレスの有無を検査する方法と同様に、被検動物から得られた体液試料中のミトコンドリアDNAを測定した結果に基づき、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて多い場合にはストレス状態が重症である可能性がある、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて著しく多い場合にはストレス状態が特に重症である可能性が高い、という基準に従って重症度の検出が行われる。あるいは、当該ストレス状態におけるバイオマーカーの標準値に対して、被検動物より検出されたバイオマーカー値が高い場合には当該ストレス状態が重症であるという基準に基づいて重症度の検出が行われる。
本発明のストレスバイオマーカーに基づいてストレス状態の予後を評価する場合(ストレス状態の予後の予測方法)、前記ストレスの有無を検査する方法と同様に、被検動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定した結果に基づき、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて多い場合にはストレス状態の予後が不良になる可能性がある、当該ミトコンドリアDNA量が正常対照群に比べて著しく多い場合にはストレス状態の予後が不良になる可能性が高い、という基準に従って予後の予測が行われる。あるいは、当該ストレス性状態における標準値に対して、被検動物より検出されたバイオマーカー値が高い場合には当該ストレス状態の予後が不良であるという基準に基づいて予後の評価が行われる。
本発明のストレスバイオマーカーに基づいてストレスの軽減に有効な治療薬をスクリーニングする場合、前記ストレスの有無を検査する方法と同様に、治療薬を摂取したストレス状態の被検動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定した結果に基づき、当該ミトコンドリアDNA量が治療薬を投与されていないストレス状態にある被検動物に比べて少ない場合、当該治療薬が有効であるという基準に基づいてスクリーニングが行われる。
本発明のストレスバイオマーカーに基づいてストレスによる疾患の鑑別診断、即ちストレスが要因である疾患の区別を行う場合、前記ストレスの有無を検査する方法と同様に、被検動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定した結果に基づき、当該ミトコンドリアDNA量が比較対照となる疾患におけるバイオマーカーの標準値に比べて多い場合には、ストレスが要因であるという基準に基づいて類似する疾患との区別が行われる。
いずれの方法においても、生体体液中のmtDNA量とストレス状態の有無、重症度、易罹患性、予後等について予め相関図を作成しておき、被検動物における血清中のmtDNA量をその相関図に当てはめて評価を行ってもよい。
これらの評価方法に基づいて疾患を個体レベルで評価することができ、個々の病態に応じて治療法を最適化することができる。
以下、試験例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
全ての試験は、大阪大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て行われた。
(実施例1)
一名の健常人である眼科医を被検者とし、診察業務(眼を酷使する業務)を午前9時から午後5時まで行い、午前診察開始時(午前9時)、午後診察開始時(午後1時)、診察終了時(午後5時)に被検者の涙液を採取した。そして、下記に示す方法で、採取した涙液中のミトコンドリアDNA(mtDNA)量を測定した。また、診察日を変えて計15日、同一条件で涙液を採取し、同様に涙液中のミトコンドリアDNA(mtDNA)量を測定した。そして得られたmtDNA量について統計学的検討を行った。
涙液サンプルの調製
涙液試料として、30μLのPBS(リン酸緩衝液)を用いて下眼瞼結膜のぬぐい液として回収したものを使用した。具体的には、30μLのPBSをピペットマンでとり、細隙灯顕微で観察しながら、被検者には上方視してもらい下眼瞼結膜にPBSを滴下し、すぐに結膜上のmtDNAを結膜ぬぐい液として回収したものを涙液試料とした。
涙液中のDNAの分離
Qiagen社のQIAamp DNA mini Kitを用いて、添付のプロトコルに従って、上記で得られた涙液(5μl)から涙液DNAを調製した。具体的には、5μlの涙液試料を415μlのタンパク質分解酵素で消化(56℃、10分間)し、100容量%エタノールを用いてDNAを沈殿させ、前記Kit付属の精製カラムでDNAを精製した。得られた涙液DNAを、DNaseを含まない水(20μl)に再度懸濁した。
リアルタイムPCR
SYBR Premix Ex Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ(株)製)を使用し、添付のプロトコルに従ってABI PRISM 7700(Life Technologies Japan)により、SYBR Green
Iを用いたインターカレーター法によるリアルタイムPCRを行った。PCR条件は以下の通りである。
Stage 1(1サイクル):95℃ 30秒;
Stage 2(40サイクル):95℃ 5秒、60℃ 30秒;

Stage 3(1サイクル):95℃ 15秒、60℃ 1分、95℃ 15秒
mtDNA濃度を定量するため、健常者の涙液に由来する精製DNAを用いて、リアルタイム標準曲線を作成した。また、上記PCR反応を40サイクル終了後でもPCR産物が産生されなかった試料(即ち、SYBR Greenによる蛍光発光が認められなかった試料)については、「検出不可」と判断した。
mtDNAの検出のため使用したプライマーを以下に示す。
(シトクロムb)
フォワードプライマー(配列番号1):
5’−ATGACCCCAATACGCAAAAT−3’
リバースプライマー(配列番号2):
5’−CGAAGTTTCATCATGCGGAG−3’
なお、涙液中のmtDNA総量は、あらかじめ既知濃度のフルオレセインNaを眼表面に滴下し、回収された涙嚢洗浄液のフルオレセインNaの蛍光量を回収前後で測定することにより希釈率を求め、眼表面全体の涙液量を推定して求めた。得られたmtDNA量については、検量線に基づいて得られた相対値を対数処理した後、GEE(Generalized estimating equation)法で統計学的に検討した。結果を図2のグラフに示す。
図2は、被検者の涙液中のmtDNA濃度の変化を示すグラフである。図2のグラフから、診察終了時は、診察開始時に比べ有意(p=0.015)にmtDNA濃度が上昇することがわかる。このことから、眼を酷使する業務によるストレスにより、涙液中のmtDNA濃度が、ストレスが無い診察開始時と比べて有意に増大することがわかり、涙液中のmtDNAは、ストレス状態を評価できるバイオマーカーとなり得ることがわかる。
(実験例2)
健常人である病院職員を被検者とし、当該被検者の日勤前後と夜勤前後での血清mtDNA量の変化を、下記の方法で評価した。日勤は午前9時から午後5時までの勤務であり、夜勤は午後5時から午前9時までの勤務である。評価した人数は、日勤前後が10名で、夜勤前後が9名である。被検者から末梢血を採血し、常法により血清を採取した。
血清DNAの分離
Qiagen社 QIAamp DNA mini Kitを用いて、添付のプロトコルに従って血清(100μl)から血清DNAを調製した。具体的には、100μlの血清試料を320μlのタンパク質分解酵素で消化(56℃、10分間)し、DNAを100容量%エタノールを用いて沈殿させ、前記Kit付属の精製カラムでDNAを精製した。得られた血清DNAを、DNaseを含まない水(20μl)に再度懸濁した。
リアルタイムPCR
SYBR Premix Ex Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ(株)製)を使用し、添付のプロトコルに従ってABI PRISM 7700(Life Technologies Japan)により、SYBR Green Iを用いたインターカレーター法によるリアルタイムPCRを行った。PCR条件は以下の通りである。
Stage 1(1サイクル):95℃ 30秒;
Stage 2(40サイクル):95℃ 5秒、60℃ 30秒;
Stage 3(1サイクル):95℃ 15秒、60℃ 1分、95℃ 15秒
mtDNA濃度を定量するため、健常者の末梢血単核球(PBMC)全細胞溶解液に由来する精製DNAを用いて、リアルタイム標準曲線を作成した。また、上記PCR反応を40サイクル終了後でもPCR産物が産生されなかった試料(即ち、SYBR Greenによる蛍光発光が認められなかった試料)については、「検出不可」と判断した。
ミトコンドリアDNAの検出のため使用したプライマーを以下に示す。
(シトクロムb)
フォワードプライマー(配列番号1):
5’−ATGACCCCAATACGCAAAAT−3’
リバースプライマー(配列番号2):
5’−CGAAGTTTCATCATGCGGAG−3’
得られたmtDNA濃度の変化について、図3のグラフに示す。また、検量線に基づいて得られた相対値を対数処理した後、t検定(Paired t−test)法で統計学的に検討した。結果を図4のグラフに示す。
図3は、日勤前後と夜勤前後の被検者の血清中のmtDNA濃度の変化を示すグラフである。図4は、日勤前後と夜勤前後の被検者の血清中のmtDNA値を示すグラフである。図3及び図4のグラフより、日勤前後では、血清中mtDNA値に有意な差は認められなかったが、夜勤前後では、夜勤後に血清中mtDNA値が有意(p=0.0085)に上昇したことが認められる。このことから、夜勤は日勤に比べ、身体的又は精神的ストレスとなり、夜勤によるストレスを受けるとmtDNA値が有意に上昇し、当該ストレスがないとmtDNA値に有意な変化はないことがわかる。従って、mtDNAは、ストレスのバイオマーカーとして適用できることがわかる。
(実験例3)
ストレスによって、脈絡膜の血管の透過性が上昇してバリア機能が破綻することにより網膜の下に液が貯留することにより中心性漿液性脈絡網膜症が発症すると考えられている。ストレスが原因という根拠は、ストレスで血液中濃度が上昇するアドレナリン等のカテコールアミンを、サルに投与すると同じ状況が作りだされたり、疫学的にA型気質の人に多いと報告されていることによる。従来、中心性漿液性脈絡網膜症を検出するバイオマーカーは存在していなかった。
本試験では、中心性漿液性脈絡網膜症に罹患した患者(21名)の血清を採取し、血清中のmtDNA量を実験例2と同様の方法で測定した。正常対照群として、健常人(24名)の血清を同様に採取し、血清中のmtDNA量を同条件で測定した。得られた値について、Student t検定法により、統計学的に検討した。結果を図5のグラフに示す。
図5は、中心性漿液性脈絡網膜症の患者群と正常対照群の血清中のmtDNA濃度を示すグラフである。図5のグラフから、血清中のmtDNA濃度について、中心性漿液性脈絡網膜症に罹患した患者群の方が、正常対照群に比べ有意に高かった(P<0.01)。ストレス性疾患に罹患した患者群は血清中におけるmtDNA濃度が正常対照群よりも高くなることから、mtDNAがストレスバイオマーカーとして利用できることがわかる。
(実験例4)
本実験例では、前記実験例3における試験のn数を増やして同様の分析を行った。具体的には、中心性漿液性脈絡網膜症に罹患した患者(23名)の血清を採取し、血清中のmtDNA量を実験例3と同様の方法で測定した。正常対照群として、健常人(24名)の血清を同様に採取し、血清中のmtDNA量を同条件で測定した。得られた値について、Student t検定法により、統計学的に検討した。
結果を図6に示す。図6の左図には、中心性漿液性脈絡網膜症に罹患した患者6名について、臨床所見(網膜のOCT(光干渉断層計)像)と血清中ミトコンドリアDNA濃度の結果を示す。図6の右図には、患者群(CSC)と正常対照群(Healthy)のの血清mtDNA量の測定結果を示す。この結果からも、ストレスが原因とされる中心性漿液性脈絡網膜症に罹患した患者群は血清中におけるmtDNA濃度が正常対照群よりも高くなっていた。また、図6の左図から明らかなように、漿液性網膜剥離が進行している(網膜下液が多い)ほど、血清中におけるmtDNA量が高い傾向が認められた。この結果からも体液中のmtDNAがストレスバイオマーカーとして利用できることがわかった。
配列番号1はシトクロムbに対するフォワードプライマーである。
配列番号2はシトクロムbに対するリバースプライマーである。
配列番号3はCOXIIIに対するフォワードプライマーである。
配列番号4はCOXIIIに対するリバースプライマーである。
配列番号5はNADHデヒドロゲナーゼに対するフォワードプライマーである。
配列番号6はNADHデヒドロゲナーゼに対するリバースプライマーである。

Claims (7)

  1. 生体体液中に含まれるミトコンドリアDNAからなるストレスバイオマーカー。
  2. ミトコンドリアDNAが生体体液中の細胞外膜小胞内に含まれる、請求項1に記載のストレスバイオマーカー。
  3. ミトコンドリアDNAが生体体液中のエキソソーム内に含まれる、請求項1又は2に記載のストレスバイオマーカー。
  4. ミトコンドリアDNAを検出可能な試薬を含む、ストレス状態の診断キット。
  5. 前記ミトコンドリアDNAを検出可能な試薬が、シトクロムb、COXI、COXII、COXIII、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット1、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット2、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット3、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4L、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット5、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット6、ATPase第6サブユニット及びATPase第8サブユニットからなる群より選択される少なくとも1種を検出することが可能な試薬である、請求項4に記載の診断キット。
  6. ストレスの有無を検査する方法であって、下記工程:
    (i)被験動物から得られた生体体液試料中のミトコンドリアDNAを測定する工程;及び、
    (ii)前記工程(i)の結果に基づいてストレスの有無を検出する工程、
    を含む、検査方法。
  7. 前記工程(ii)が、被験動物について得られる工程(i)の結果を、正常対照について得られる工程(i)の結果と対比して、ミトコンドリアDNA量が増加していることを指標として行われる、請求項6に記載の検査方法。
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