JPWO2016017770A1 - 回折データの解析方法、コンピュータプログラム及び記録媒体 - Google Patents

回折データの解析方法、コンピュータプログラム及び記録媒体 Download PDF

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Abstract

本発明は、三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている多孔性化合物の単結晶の細孔等内に、構造を決定する化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料の回折データの解析方法であって、結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一、又はより対称性が低い空間群を選択するステップ(I)、前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、前記結晶構造解析用試料の初期構造を決定するステップ(II)、及び、得られた初期構造を精密化するステップ(III)を含む回折データの解析方法、この方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、並びに、このプログラムを記録した記録媒体である。本発明によれば、単結晶構造解析法において、回折データを効率よく解析する方法、この方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、及び記録媒体が提供される。

Description

本発明は、単結晶構造解析法において、回折データを、より簡便かつ効率よく解析する方法、この方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、及び記録媒体に関する。
従来、化合物の分子構造を決定する方法として、単結晶X線構造解析法が知られている。単結晶X線構造解析法によれば、分子の三次元画像を原子レベルで得ることができるため、この方法は生理活性物質等の機能性物質の研究等において極めて有用である。
単結晶X線構造解析法においては、単結晶にX線を照射し、回折X線を検出して回折データを収集した後、回折データを解析し、分子の構造を決定する。
回折データを解析する際、通常、検出された回折X線は位相情報が失われているため、フーリエ合成によって、直接、分子の構造(電子密度分布)を決定することができない。このため、従来、結晶構造モデルを初めに構築し、これを精密化して、回折データに適合する結晶構造を得ることにより、分子の構造を決定するという手法が採られてきた。
例えば、図1に示すように、単結晶X線構造解析法の一般的な手順によれば、回折データを収集し、空間群を決定した後、初期位相を決定するステップにより結晶構造モデルを構築し、次いで、それを精密化することにより、測定された回折データに適合する結晶構造を得、分子の構造を決定することができる(非特許文献1)。
このように、従来においては、回折データを解析する際は、適切な空間群及び初期位相を決定する必要がある。しかしながら、これらのステップを適切に行うためには、結晶学に関する専門知識が必要になるため、これらのステップを行うことは、結晶学に馴染みがない研究者等にとって大きな負担になっていた。
このため、回折データを、より簡便かつ効率よく解析し得る方法が望まれていた。
化学者のための基礎講座12 X線構造解析、編集:社団法人日本化学会、発行所:株式会社朝倉書店、1999年3月20日(初版第1刷)
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、単結晶構造解析法において、回折データをより簡便かつ効率よく解析し得る方法、この方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、及び、このコンピュータプログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、構造を決定する化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を用いて得られた回折データを解析する際、用いた多孔性化合物の単結晶の空間群及び結晶構造に関する回折データを初期値として利用することにより、回折データを、より簡便かつ効率よく解析し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、下記(1)の回折データの解析方法、(2)〜(5)のコンピュータプログラム、及び(6)の記録媒体が提供される。
(1)三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、構造を決定する化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を用いて得られた回折データの解析方法であって、
結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、又は、前記空間群より対称性が低い空間群を選択するステップ(I)、
前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、前記結晶構造解析用試料についての初期構造を決定するステップ(II)、及び、
ステップ(II)で得られた初期構造を精密化するステップ(III)、
を含むことを特徴とする回折データの解析方法。
(2)回折データの解析用プログラムであって、(1)に記載の回折データの解析方法をコンピュータに実行させるプログラム。
(3)前記多孔性化合物の単結晶の空間群を基に、より対称性が低い空間群を導出する処理(I)、
前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、及び、処理(I)で導出された空間群からなる群から選ばれる1の空間群を、前記結晶構造解析用試料についての回折データの解析に用いる空間群として決定する処理(II)、
処理(II)で決定された空間群及び前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、前記結晶構造解析用試料についての回折データを解析する処理(III)、及び、
処理(III)で得られた結晶構造を精密化する処理(IV)、
をコンピュータに実行させる(2)に記載のプログラム。
(4)さらに、処理(I)で導出された空間群をユーザに提示する処理を含み、処理(II)における空間群の決定が、ユーザの判断に基づいて行われるものである、(3)に記載のプログラム。
(5)処理(II)における空間群の決定が、あらかじめ設定した規則に従ってコンピュータによって行われるものである、(3)に記載のプログラム。
(6)前記(2)〜(5)のいずれかに記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータに読み取り可能な記録媒体。
本発明によれば、単結晶構造解析法において、回折データを、より簡便かつ効率よく解析し得る方法、この方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、及びこのコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータに読み取り可能な記録媒体が提供される。
本発明によれば、ゲスト分子を包接する前の多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データ(結晶学データの座標値)を初期構造として解析することで、初期位相を従来法で決定することなく、初期位相を定めることができる。
従来一般的に行われてきたX線結晶構造解析の手順を表す図である。 本発明の方法の手順の一例を表す図である。 本発明のプログラムの処理手順の一例を表す図である。 単結晶の細孔が延在する方向を表す図である。 shelxs(初期構造を得るプログラム)を実行した場合に得られる、錯体部分の構造を示す図である。 本発明の方法により初期構造を与えることにより、グアイアズレンの構造の殆どが既に見えた状態を示す図(構造解析を開始する際に得られる状態図)である。
以下、本発明を、1)回折データの解析方法、2)コンピュータプログラム、及び、3)記録媒体に項分けして詳細に説明する。
1)回折データの解析方法
本発明の回折データの解析方法は、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、構造を決定する化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を用いて得られた回折データの解析方法であって、以下のステップ(I)〜(III)を含むことを特徴とする。
(I)ステップ(I)
結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、又は、前記空間群より対称性が低い空間群を選択するステップ。
(II)ステップ(II)
前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、前記結晶構造解析用試料についての初期構造を決定するステップ。
(III)ステップ(III)
ステップ(II)で得られた初期構造を精密化するステップ。
本発明の方法は、例えば、図2に示す手順に従って行うことができる。
〔回折データの収集〕
本発明に用いる回折データは、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、構造を決定する化合物(以下、「化合物(A)」ということがある。)の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を用いて得られたものである。
(i)多孔性化合物の単結晶
多孔性化合物の単結晶は、内部に、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されているものである。本発明においては、結晶構造解析法によって解明された、前記単結晶の三次元骨格に関する回折データを初期値として利用する。
前記三次元骨格は、単結晶内部において、三次元的な広がりを有する骨格状の構造体である。三次元骨格は、1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成されたものである。
「分子鎖」とは、共有結合及び/又は配位結合によって組織化された組織体をいう。この分子鎖内には、分岐構造や環状構造があってよい。
1の分子鎖によって構成された三次元骨格としては、例えば、「ジャングルジム」状に組織化された骨格が挙げられる。
2以上の分子鎖によって構成された三次元骨格としては、2以上の分子鎖が、水素結合、π−πスタッキング相互作用、ファンデルワールス力等の相互作用により、全体として一つに組織化された骨格、例えば、2つの分子鎖が、「ちえのわ」状に絡みあってなる骨格が挙げられる。このような三次元骨格としては、後述する、多核金属錯体1、2の三次元骨格が挙げられる。
「骨格形成性化合物」とは、分子鎖の一部を構成するものではないが、水素結合、π−πスタッキング相互作用、ファンデルワールス力等の相互作用により、三次元骨格の一部を構成する化合物をいう。例えば、後述する多核金属錯体における骨格形成性芳香族化合物が挙げられる。
「三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空」とは、結晶構造解析によって、細孔や中空を確認することができる程度に乱れなく、規則的に整列している細孔や中空をいう。
「細孔」、「中空」は単結晶内における内部空間を表す。筒状に伸びている内部空間を「細孔」といい、それ以外の内部空間を「中空」という。
細孔の大きさは、細孔が延在する方向に対して、最も垂直に近い結晶面と平行な面(以下、平行面ということがある。)における細孔の内接円(以下、単に「細孔の内接円」ということがある。)の直径と相関がある。内接円が大きければ、細孔も大きくなり、内接円が小さければ、細孔も小さくなる。
「細孔が延在する方向」は、以下の方法により決定することができる。
すなわち、まず、対象の細孔を横切る適当な方向の結晶面X(A面、B面、C面かそれぞれの対角面など)を選ぶ。そして、結晶面X上に存在し、かつ、三次元骨格を構成する原子を、ファンデルワールス半径を用いて表すことで、結晶面Xを切断面とする細孔の断面図を描く。同様に、当該結晶面Xと一単位胞ずれた結晶面Yを切断面とする細孔の断面図を描く。次に、それぞれの結晶面における細孔の断面形状の中心間を、立体図において直線(一点鎖線)で結ぶ(図3参照)。このとき得られる直線の方向が、細孔が延在する方向である。
また、「細孔の内接円の直径」は、以下の方法により求めることができる。
すなわち、まず、上記と同様の方法により、前記平行面を切断面とする細孔の断面図を描く。次に、その断面図において細孔の内接円を描き、その直径を測定した後、得られた測定値を実際のスケールに換算することで、実際の細孔の内接円の直径を求めることができる。
さらに、前記平行面を、一単位胞分、徐々に平行移動させながら、各平行面における細孔の内接円の直径を測定することで、最も狭い部分の内接円の直径と、最も広い部分の内接円の直径が求められる。
単結晶の細孔の内接円の直径は、2〜30Åが好ましく、3〜10Åがより好ましい。
また、細孔の形状が真円とは大きく異なる場合、上記平行面における細孔の内接楕円の短径及び長径から、単結晶の包接能を予測することが好ましい。
単結晶の細孔の内接楕円の長径は、2〜30Åが好ましく、3〜10Åがより好ましい。また、単結晶の細孔の内接楕円の短径は、2〜30Åが好ましく、3〜10Åがより好ましい。
単結晶の細孔容積は、論文(A):Acta Crystallogr. A 46,194−201(1990)に記載の手法により求めることができる。すなわち、計算プログラム(PLATON SQUEEZE PROGRAM)により算出したSolvent Accessible Void(単位格子内の空隙体積)をもとに「単結晶の体積×単位胞における空隙率」を用いて計算することができる。
単結晶の細孔容積(一粒の単結晶中のすべての細孔の容積)は、1×10−7〜0.1mmが好ましく、1×10−5〜1×10−3mmがより好ましい。
また、単結晶が中空を有する場合、その中空の大きさも、細孔容積と同様に、上記論文(A)に記載の手法により求めることができる。
単結晶は、立方体または直方体形状を有するものが好ましい。その一辺は、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは、60〜200μmである。このような形状、大きさの単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
結晶構造解析用試料の調製に用いる多孔性化合物の単結晶は、その三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されているものである。
「三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている」とは、結晶構造解析用試料の調製に用いる単結晶が、既に結晶構造解析が行われたものあることを意味するのではなく、結晶構造解析用試料の調製に用いる単結晶のものと同じ三次元骨格を有する多孔性化合物の単結晶を用いて、既に結晶構造解析が行われたことを意味する。
結晶構造解析用試料の調製に用いる多孔性化合物の単結晶は、三次元骨格(いわゆるホスト分子)のみからなるものであってもよいし、三次元骨格と、細孔及び/又は中空内に、交換可能な分子(いわゆるゲスト分子)とを有するものであってもよい。
また、三次元骨格を解明する際に用いられた多孔性化合物の単結晶と、結晶構造解析用試料の調製に用いる多孔性化合物の単結晶は、三次元骨格に変化がない限り、ゲスト分子の有無やゲスト分子の種類に関して相違していてもよい。
例えば、多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子(1)が包接されたものの結晶構造が知られている場合、多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子(1)が包接されたもの、多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子(2)が包接されたもの、多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子が包接されていないもの、のいずれも、結晶構造解析用試料の調製に使用することができる。そして、得られた結晶構造解析用試料を用いて回折データを収集した後、既知の結晶構造解析結果(多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子(1)が包接された状態の結晶構造解析結果)を利用して、回折データを解析することができる。具体的には、多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子(1)が包接された状態の結晶構造解析結果の原子座標から、多孔性化合物の単結晶(1)の原子座標のみを抽出したファイルを作成し、多孔性化合物の単結晶(1)の細孔にゲスト分子(2)が包接された回折データと共に使用することで、初期位相が予め決まった状態で結晶構造解析を行うことができる。
単結晶は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。かかる特性を有する単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
多孔性化合物の単結晶としては、前記多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、化合物(A)の分子を、結晶構造解析によって構造を決定することができる程度に乱れなく、前記多孔性化合物の単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、多核金属錯体の単結晶や、尿素結晶等が挙げられる。なかでも、細孔や中空の大きさや、細孔や中空内の環境(極性等)を制御し易いことから、多核金属錯体の結晶が好ましい。
多核金属錯体としては、配位性部位を2つ以上有する配位子の複数個、及び中心金属としての金属イオンの複数個を含むものが挙げられる。
配位性部位を2つ以上有する配位子(以下、「多座配位子」ということがある。)は、前記三次元骨格を形成し得るものである限り、特に限定されず、公知の多座配位子を利用することができる。
ここで、「配位性部位」とは、配位結合が可能な非共有電子対を有する、配位子中の原子又は原子団をいう。例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子;ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基等の原子団;等が挙げられる。なかでも、窒素原子又は窒素原子を含む原子団が好ましい。
なかでも、配位子の平面性が高く、強固な三次元骨格が形成され易いことから、多座配位子としては、芳香環を有するものが好ましい。
一般的に、配位子の中心から、配位性部位までの距離が長い多座配位子を用いると、相対的に細孔や中空が大きい多核金属錯体の単結晶が得られ、配位子の中心から、配位性部位までの距離が短い多座配位子を用いると、相対的に細孔や中空が小さい多核金属錯体の単結晶が得られる。
また、比較的大きな細孔や中空を有する単結晶を容易に得ることができることから、多座配位子としては、配位性部位を2つ以上有する多座配位子が好ましく、配位性部位を3つ有する配位子(以下、「三座配位子」ということがある。)がより好ましく、3つの配位性部位の非共有電子対(軌道)が擬同一平面上に存在し、かつ、3つの配位性部位が、三座配位子の中心部に対して等間隔放射状に配置されているものがより好ましい。
ここで、「擬同一平面上に存在する」とは、各非共有電子対が、同一平面上に存在する状態の他、若干ずれた平面、例えば、基準となる平面に対して、20°以下で交差するような平面に存在する状態も含む意味である。
また、「3つの配位性部位が、三座配位子の中心部に対して等間隔放射状に配置されている」とは、配位子の中心部から等間隔で放射状に延びる線上に、3つの配位性部位が前記中心部から略等距離に配置されている状態をいう。
三座配位子としては、例えば、下記式(1)
Figure 2016017770
(式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X〜Xは、それぞれ独立に、2価の有機基、 又はArとY〜Yとを直接結ぶ単結合を表す。Y〜Yは、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。)で示される配位子が挙げられる。
式(1)中、Arは3価の芳香族基を表す。
Arを構成する炭素原子の数は、通常3〜22、好ましくは3〜13、より好ましくは3〜6である。
Arとしては、6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基や、6員環の芳香環が3個縮合してなる縮合環構造を有する3価の芳香族基が挙げられる。
6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基としては、下記式(2a)〜式(2d)で示される基が挙げられる。また、6員環の芳香環が3個縮合してなる縮合環構造を有する3価の芳香族基としては、下記式(2e)で示される基が挙げられる。なお、式(2a)〜式(2e)において、「*」は、それぞれ、X〜Xとの結合位置を表す。
Figure 2016017770
Figure 2016017770
Arは、式(2a)、式(2c)〜式(2e)で示される芳香族基の任意の位置に置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、t−ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。これらの中でも、式(2a)又は(2b)で示される芳香族基が好ましく、式(2b)で示される芳香族基が特に好ましい。
〜Xは、それぞれ独立に、2価の有機基、又はArとY〜Yとを直接結ぶ単結合を表す。
2価の有機基としては、Arとともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。X〜Xで表される2価の有機基がπ電子共役系を構成することで、式(1)で示される三座配位子の平面性が向上し、より強固な三次元ネットワーク構造が形成され易くなる。
2価の有機基を構成する炭素原子の数は、2〜18が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましい。
2価の有機基としては、炭素数2〜10の2価の不飽和脂肪族基、6員芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基、6員芳香環が2〜4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基、アミド基〔−C(=O)−NH−〕、エステル基〔−C(=O)−O−〕、これらの2価の有機基の2種以上の組み合わせ等が挙げられる。
炭素数2〜10の2価の不飽和脂肪族基としては、ビニレン基、アセチレン基(エチニレン基)等が挙げられる。
6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基としては、1,4−フェニレン基等が挙げられる。
6員環の芳香環が2〜4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基としては、1,4−ナフチレン基、アントラセン−1,4−ジイル基等が挙げられる。
これらの2価の有機基の2種以上の組み合わせとしては、下記のものが挙げられる。
Figure 2016017770
これらの芳香環は、環内に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
また、2価の有機基は、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Arの置換基として先に示したものと同じものが挙げられる。
これらの中でも、X〜Xで表される2価の有機基としては、下記のものが好ましい。
Figure 2016017770
〜Yは、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。
〜Yで表される有機基としては、Ar、X〜Xとともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。
〜Yで表される有機基がπ電子共役系を構成することで、式(1)で示される三座配位子の平面性が向上し、強固な三次元骨格が形成され易くなる。
〜Yを構成する炭素原子の数は、5〜11が好ましく、5〜7がより好ましい。
〜Yとしては、下記式(3a)〜式(3f)で示される有機基が挙げられる。なお、式(3a)〜式(3f)において、「*」は、X〜Xとの結合位置を表す。
Figure 2016017770
〜Yは、式(3a)〜式(3f)で示される有機基の任意の位置に、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Arの置換基として先に例示したものと同様のものが挙げられる。
これらの中でも、式(3a)で表される基が特に好ましい。
式(1)で示される三座配位子中の、Ar、X〜X、Y〜Yを適宜選択することで、単結晶の細孔や中空の大きさを調節することができる。この方法を利用することで、目的の分子を包接し得る大きさの細孔や中空を有する単結晶を効率よく得ることができる。
式(1)で示される三座配位子としては、強固な三次元骨格が形成され易いことから、平面性及び対称性が高く、かつ、π共役系が配位子全体に広がっているものが好ましい。このような三座配位子としては、下記式(4a)〜式(4f)で示される配位子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
Figure 2016017770
これらの中でも、式(1)で示される三座配位子としては、上記式(4a)で示される2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(TPT)が特に好ましい。
また、多核金属錯体の多座配位子として、市販品を用いることもできる。例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号−多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、PCP/MOF用配位子およびリンカー用化合物として、ピラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、4,4’−ビピリジル、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ピラジン−2,3−ジカルボン酸、ピラジン−3,5−ジカルボン酸等が記載されており、これらを多核金属錯体の多座配位子として用いることができる。
多核金属錯体の中心金属としての金属イオンは、前記多座配位子と配位結合を形成して、三次元骨格を形成し得るものである限り特に限定されない。なかでも、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、パラジウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、白金イオン等の周期表第8〜12族の金属のイオンが好ましく、2価の、周期表第8〜12族の金属イオンがより好ましい。なかでも、大きな細孔や中空を有する単結晶が得られ易いことから、亜鉛(II)イオン、コバルト(II)イオンが好ましい。
多核金属錯体の中心金属には、前記多座配位子の他に、単座配位子が配位していてもよい。かかる単座配位子としては、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)等の1価の陰イオン;アンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、エチレンジアミン等の電気的に中性の配位性化合物;等が挙げられる。
また、多核金属錯体は、反応溶媒(多核金属錯体の合成に用いた溶媒)、置換溶媒(反応溶媒と置き換えられた他の溶媒をいう。以下にて同じ。)、後述する骨格形成性芳香族化合物を含むものであってもよい。
「骨格形成性芳香族化合物」とは、三次元骨格を構成する分子鎖と相互作用(ただし、共有結合、配位結合を除く。)し、三次元骨格の一部を構成し得る芳香族化合物をいう。
多核金属錯体が骨格形成性芳香族化合物を含むことで、三次元骨格がより強固になり易く、化合物(A)の分子を包接した後であっても、三次元骨格がより安定化する場合がある。
骨格形成性芳香族化合物としては、縮合多環芳香族化合物が挙げられる。例えば、下記式(5a)〜式(5i)で示されるものが挙げられる。
Figure 2016017770
多核金属錯体としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
(1)配位子及び金属イオンのみからなる化合物〔多核金属錯体(α)〕
(2)前記多核金属錯体(α)と、骨格形成性芳香族化合物とからなる化合物〔多核金属錯体(β)〕
(3)前記多核金属錯体(α)又は多核金属錯体(β)に、溶媒分子等のゲスト分子が包接されてなる化合物〔多核金属錯体(γ)〕
本発明に用いる多核金属錯体は、化合物(A)の分子をその細孔や中空内に取り込んだ後においても結晶性を失わず、かつ、比較的大きな細孔や中空を有するものが好ましい。
このような特性を有する多核金属錯体は、前記式(1)で示される三座配位子を用いることで、簡便に得ることができる。
前記式(1)で示される三座配位子を用いることで得られる多核金属錯体としては、下記式(6a)〜(6c)で示される多核金属錯体が挙げられる。
Figure 2016017770
式(6a)〜式(6c)中、Mは、2価の、周期表第8〜12族の金属イオンを表し、Xは、1価の陰イオン性単座配位子を表し、Lは、前記式(1)で示される三座配位子を表し、「solv」は、合成時に用いた溶媒分子等のゲスト分子を表し、「SA」は、骨格形成性芳香族化合物を表し、a、b、cは任意の自然数を表す。
式(6a)〜式(6c)で示される多核金属錯体において、Lとして、前記式(4a)で示されるTPTを用いた多核金属錯体は、これまでに、溶媒などのゲスト分子を取り込んだ形での分子構造が単結晶X線構造解析で決定されており、本発明に用いる多核金属錯体として特に適している。
このような多核金属錯体としては、下記式(7a)〜式(7d)で示される多核金属錯体が挙げられる。
Figure 2016017770
式(7a)〜(7d)中、「solv」、「SA」、a、b、cは、前記と同じ意味を表す。
式(7a)で示される多核金属錯体としては、特開2008−214584号公報、J.Am.Chem.Soc.2004,v.126,pp16292−16293に記載の[(ZnI(TPT)(PhNO5.5(多核金属錯体1)や、多核金属錯体1中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。
式(7b)で示される多核金属錯体としては、特開2008−214318号公報に記載の[(ZnBr(TPT)(PhNO(HO)](多核金属錯体2)や、多核金属錯体2中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。
式(7c)で示される多核金属錯体としては、特開2006−188560号公報に記載の[(ZnI(TPT)(TPH)(PhNO3.9(MeOH)1.8(多核金属錯体3)や、[(ZnI(TPT)(PER)(PhNO(多核金属錯体4)や、これらの多核金属錯体中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。
式(7d)で示される多核金属錯体としては、WO2011/062260号公報に記載の[(Co(NCS)(TPT)(DCB)25(MeOH)(多核金属錯体5)や、多核金属錯体5中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。
また、多核金属錯体としては、上記の式(6a)〜(6c)で示されるものの他に、多孔性配位高分子(PCP)や金属有機構造体(MOF)と称される公知の多核金属錯体を用いることもできる。例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号−多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、
[Cu(bzdc)(pyz)]
(「bzdc」は、2,3−ピラジンジカルボン酸を表し、「pyz」は、ピラジンを表す。nは任意の数を表す。)、
[Zn(14bdc)(dabco)]
(「14bdc」は、1,4−ベンゼンジカルボン酸を表し、「dabco」は、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを表し、nは任意の数を表す。)、
[Cu(dhbpc)(bpy)]
(「Hdhbpc」は、4,4’−ジヒドロキシビフェニル−3−カルボン酸を表し、「bpy」は、4,4’−ビピリジルを表し、nは任意の数を表す。)、
[Cr(btc)
(「Hbtc」は、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸を表し、nは任意の数を表す。)等の多核金属錯体が記載されており、本発明においては、これらの単結晶を用いることができる。
多核金属錯体の合成方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。
例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号−多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、多座配位子等を含有する溶液と、金属イオン等を含有する溶液を混合する溶液法;耐圧容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、耐圧容器を密封した後、溶媒の沸点以上に加熱して水熱反応を行う水熱法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、マイクロ波を照射するマイクロ波法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、超音波を照射する超音波法;溶媒を用いることなく、多座配位子、金属イオン等を機械的に混合する固相合成法;等が記載されており、これらの方法を用いて、多核金属錯体の単結晶を得ることができる。
これらの中でも、特別の装置等を要しないことから、溶液法が好ましく用いられる。
溶液法としては、例えば、多座配位子の第1の溶媒の溶媒溶液に、金属イオン含有化合物の第2の溶媒の溶媒溶液を加え、このまま、0〜70℃で、数時間から数日間、静置する方法が挙げられる。
金属イオン含有化合物は、特に制限されない。例えば、式:MXで示される化合物が挙げられる。ここで、Mは金属イオンを表し、Xは対イオンを表し、nはMの価数を表す。
前記Xの具体例としては、F、Cl、Br、I、SCN、NO 、ClO 、BF 、SbF 、PF 、AsF 、CHCO 等が挙げられる。
用いる反応溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
比較的大きな多核金属錯体の単結晶を得たい場合には、前記第1の溶媒と第2の溶媒として、互いに相溶性を有さない(すなわち、2層分離する)ものを用いることが好ましい。例えば、第1の溶媒として、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンとメタノールの混合溶媒、ジクロロベンゼンとメタノールの混合溶媒を用い、第2の溶媒としてメタノールを用いる方法が挙げられる。
また、上記多核金属錯体1〜5については、それぞれ、上記文献に記載された方法にしたがって合成することができる。
(ii)結晶構造解析用試料
本発明に用いる結晶構造解析用試料は、前記多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、化合物(A)の分子が規則的に配列されてなるものである。
「化合物(A)の分子が、規則的に配列される」とは、化合物(A)の分子が、結晶構造解析によって構造を決定することができる程度に乱れなく、多孔性化合物の単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容されていることをいう。
結晶構造解析用試料は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。
結晶構造解析用試料は、化合物(A)の構造を決定することができるものであれば、前記多孔性化合物の単結晶中のすべての細孔及び中空内に化合物(A)の分子が取り込まれている必要はない。例えば、前記多孔性化合物の単結晶中の細孔及び中空内の一部に、化合物(A)の溶媒溶液に用いた溶媒が取り込まれたものであっても良い。
結晶構造解析用試料は、化合物(A)の分子の占有率が10%以上のものであることが好ましい。
占有率は、結晶構造解析により得られる値であり、理想的な包接状態におけるゲスト分子〔化合物(A)の分子〕の量を100%としたときの、単結晶中に実際に存在するゲスト分子の量を表すものである。
結晶構造解析用試料は、前記多孔性化合物の単結晶を、化合物(A)を含む溶媒溶液と接触させることにより得ることができる。
化合物(A)の大きさは、化合物(A)が単結晶の細孔及び/又は中空に入り得る大きさのものである限り、特に限定されない。化合物(A)の分子量は、通常、20〜3,000、好ましくは100〜2,000である。
本発明においては、あらかじめ、核磁気共鳴分光法、質量分析法、元素分析等により、化合物(A)の分子の大きさをある程度把握し、適当な細孔や中空を有する単結晶を適宜選択して用いることも好ましい。
化合物(A)を含む溶媒溶液の溶媒としては、用いる単結晶を溶解せず、かつ、キラル化合物(A)を溶解するものであれば、特に限定されない。
用いる溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
多孔性化合物の単結晶と、前記化合物(A)を含む溶媒溶液を接触させる方法は特に限定されない。例えば、前記単結晶を、化合物(A)を含む溶媒溶液に浸漬させる方法、前記単結晶をキャピラリーの中に詰めた後、化合物(A)を含む溶媒溶液を、そのキャピラリー内を通過させる方法等が挙げられる。
(iii)回折データの収集
本発明の方法において、収集する回折データとしては、多孔質化合物の単結晶及び結晶構造解析用試料についての、X線回折データや中性子線回折データ等が挙げられる。
回折データを収集する際は、従来の単結晶構造解析における回折データの収集方法を利用することができる。
具体的には、図1に示す従来の手順において、単結晶の代わりに上記の結晶構造解析用試料をマウントする点を除き、その手順に従って回折データの測定を行い、データを収集することができる。図1中の各ステップの詳細は、例えば、前記非特許文献1に記載のとおりである。
なお、近年の結晶構造解析装置においては、回折データの収集における多くのステップがコンピュータにより自動化されている。本発明の方法においても、自動的に収集された回折データを利用することができる。
〔回折データの解析〕
結晶構造解析用試料の回折データの解析は、図2に示すように、結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、又は、前記多孔性化合物の単結晶の空間群より対称性が低い空間群を選択するステップ(I)、前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データ(結晶学データの座標値)を初期値として用いることにより、初期位相を従来法で決定することなく、結晶構造解析用試料の初期構造を決定するステップ(II)、及び、ステップ(II)で得られた初期構造を精密化するステップ(III)を経て行われる。
結晶構造解析用試料の回折データの解析を行う前提として、前記多孔性化合物の単結晶の結晶解析データ(空間群、位相情報、結晶構造情報等)を有していることが必要である。
(i)ステップ(I)
ステップ(I)は、結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、又は、記多孔性化合物の単結晶の空間群より対称性が低い空間群を選択するステップである。
このステップは、具体的には次のようにして行うことができる。
まず、反射点の指数付けを行う。これにより、大雑把な結晶格子の格子定数とブラベ格子が決定される。
格子定数とは、結晶軸の長さや軸間角度のことをいい、単位格子の各稜間の角度 α,β,γ と、各軸の長さa,b,cを表す6個の定数である。例えば、[(ZnI(TPT)で表される金属錯体の場合には、a=35、b=15、c=31、monoclinicCである。
ブラベ格子とは、格子点の配列の対称性(晶系)と格子の型の組み合わせにより分類される結晶格子をいい、14種のブラベ格子が存在する。
この解析は、X線解析装置メーカー独自のプログラム(例えば、Brukerであれば、APEX等)や、汎用プログラム(HKL2000等)を用いて、コンピュータにより行うことができる。
この解析により、いくつかの候補が挙げられた場合には、親化合物が持つ格子定数(例えば、親化合物が、[(ZnI(TPT)]で表される金属錯体である場合には、a=35、b=15、c=31、monoclinicCである。)に最も近いもの(最も近いもので対称性が低いもの)を選択することにより、格子定数及びブラベ格子を決定することができる。
また、コンピュータによる計算の結果、格子定数の見当がつけられない場合には、親化合物がもつ格子定数(例えば、親化合物が、[(ZnI(TPT)で表される金属錯体である場合には、a=35、b=15、c=31、monoclinicCである。)を直接入力し、このデータを基に実測データから、ゲスト化合物が包接したことによる誤差分をrefinementすることで、格子定数及びブラベ格子を決定することができる。
次に、空間群の決定を行う。空間群の決定は、上記で決定した結晶格子の格子定数とブラベ格子の情報を用いて、汎用プログラム(例えば、PLATONやBruker社のWPREP)を用いて、コンピュータにより行うことができる。
空間群とは、結晶構造における対称要素の集合によって作られる群をいう。
対称要素とは、対称中心、鏡映面、映進面、回転軸及びらせん軸をいい、これらの対称要素に基づく操作を対称操作という。ある対象物に対称操作を施したときに、その前後を区別することができないという性質を対称性という。
結晶の空間的対称性は、結晶で許される対称要素とブラベ格子の組み合わせにより、230種の空間群に分類される。
通常、誤った空間群に基づいて回折データの解析を行うと、構造解析に失敗したり、分子の構造が異常に歪んだりするため、回折データを解析する際は、230種の空間群の中から、真の空間群を決定することが求められる。
従来の空間群の決定方法においては、回折X線の方向や強度を基に計算を行い、さらに消滅則等の結晶学における専門知識が必要であった。
一方、本発明の方法においては、結晶構造解析用試料〔以下、「単結晶(α)」ということがある。〕の三次元骨格が、その調製に用いた多孔性化合物の単結晶〔以下、「単結晶(β)」ということがある。〕の三次元骨格と同じであると考えられるため、単結晶(α)の空間群を決定する際に、単結晶(β)の空間群を利用する。
具体的には、上記のように、単結晶(α)の空間群として、単結晶(β)の空間群と同一の空間群、又は、前記多孔性化合物の単結晶の空間群より対称性が低い空間群〔単結晶(β)の空間群から、任意の対称要素を除くことで得られる空間群〕を選択し、回折データの解析を行う。
例えば、前記多核金属錯体1{[(ZnI(TPT)(PhNO5.5}の空間群は、C2/cである。したがって、多核金属錯体1を用いて結晶構造解析用試料を作製した場合、基本的には、候補となる空間群としてC2/cを入力し、解析を行う。もし、ゲスト化合物が対称面上に存在して、偽対象データとなっている場合には、親空間群C2/cの部分群(Cc、C2、P21、P−1、P1)を入力して計算を行うことで、真の空間群に容易にたどり着くことができる。
このように本発明の方法においては、候補となる空間群の数が限定されるため、効率よく真の空間群を決定することができる。
真の空間群であるか否かは、従来と同様、得られた構造に問題が無いか等により判断することができる。
空間群を記述する方法には、ヘルマン・モーガン記号(Hermann−Mauguin)とシェーンフリース記号(Schoenflies)の2つがあるが、どちらであってもよい。
(ii)ステップ(II)
ステップ(II)は、単結晶(β)の結晶構造に関する回折データ(結晶学データの座標値)を初期値として用いて、単結晶(α)の回折データを解析して、単結晶(α)の初期構造を決定するステップである。
本発明の方法においては、単結晶(α)と単結晶(β)が、共通の三次元骨格を有するため、単結晶(β)の結晶構造をモデルとして利用することができる。
単結晶X線結晶構造解析において、結晶構造を得ることは、結晶中に存在する原子周りの電子の密度を記述できる関数(構造因子F)を求めることと同義である。しかしながら、実測可能な回折点のデータからは複素関数であるFの大きさ部分しか決定することはできない。完全なFを記述するには、位相にあたる部分を求める必要があるが、これは、観測データに対し適当な近似値を与え、それから計算的に予測される回折点と実測データがどれくらい合致するかで判断しなくてはならない。
従来の手法では、この適当な近似値(初期位相)が得られない場合、構造解析に至らないという問題(いわゆる初期位相問題)があった。
本発明では、空間群や構造が既知の単結晶(α)(結晶スポンジ)に解析対象化合物を導入する(包接させる)ことで得られた結晶構造解析試料を用いる。そのため、上述した空間群や初期位相に関しては、”適当な近似値”が既知である。なぜなら、単結晶(α)と単結晶(β)は骨格構造がほぼ同じと考えることができるからである。本発明では、その”適当な近似値”を用いて解析を行うことで、初期位相問題が発生することなく、解析を行うことで、初期構造を決定することができる。
単結晶(α)の回折データを解析して、初期構造を決定する方法としては、直説法、重原子法、分子置換法等が挙げられる。これらの方法は、プログラムを用いて実行することができる。
用いるプログラムとしては、直説法、重原子法、分子置換法等により、単結晶(α)の回折データを解析して、初期構造を決定するものであれば、特に限定されない。例えば、SHELX、SIR、superflip、X−PLOR(モレキュラーシミュレーション社)や、AMORE(CCP4(Collaborative Computational Project,Number4.Acta Crystallogr. D50, 670−673(1994))のプログラム群の1つ)等の公知のプログラムが挙げられる。
(iii)ステップ(III)
ステップ(III)は、ステップ(II)で得られた結晶構造を精密化するステップである。
ステップ(III)は、従来の、構造の精密化ステップと同じものであり、最小二乗法やフーリエ合成(差フーリエ合成)等を繰り返すことで、測定された回折データに適合する結晶構造を得、分子の構造を決定する(非特許文献1)。
これらの方法は、プログラムを用いて実行することができる。用いるプログラムとしては、最小二乗法やフーリエ合成(差フーリエ合成)等を繰り返すことで、測定された回折データに適合する結晶構造を得、分子の構造を決定することができるものであれば、特に限定されない。SHELXL、REFMAC、Xtal等の公知のプログラムが挙げられる。
従来、回折データを解析する際は、適切な空間群及び初期位相を決定する必要があり、これらのステップを適切に行うためには、結晶学に関する専門知識が必要であった。
しかしながら、結晶構造が既知の多孔性化合物の単結晶を利用する本発明の方法によれば、結晶学に馴染みがない研究者等であっても、回折データを簡便かつ効率よく解析することができる。
上述したステップ(I)〜(III)は、コンピュータにより、ステップごとのプログラムを連続的に実行させることにより、実施することができる。
2)コンピュータプログラム
本発明のコンピュータプログラムは、本発明の回折データの解析方法をコンピュータに実行させるものである。
本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータにインストールされて、図3に示すように、回折データの収集、候補となる空間群の表示〔処理(I)〕、データの整理、及び回折データの解析に用いるための空間群の決定〔処理(II)〕、単結晶(β)の結晶構造に関する回折データ(結晶学データ等)を初期値として用いることにより、単結晶(α)の初期構造の決定〔処理(III)〕、初期構造の精密化〔処理(IV)〕を、連続的に実行するものである。
それぞれの処理ごとに、それぞれの処理を行うプラグラムが実行される。
本発明のコンピュータプログラムは、これらのプログラムの集合体であって、処理(I)〜(IV)を連続的に行うものである。
本発明のコンピュータプログラムは、主制御装置(CPU)、入出力装置及び記憶装置からなる処理装置にインストールされ、実行されるプログラムである。
主制御装置(CPU)は、プログラムを実行して演算処理を行う装置である。
入出力装置は、プログラムが格納された記録媒体の読み取り装置、インターネットとの通信手段、ユーザとのインターフェース(表示画面、キーボード等)を備える。
記憶装置は、展開されたプログラムのデータ、及び、実行中のデータを保管する装置である。
プログラムのデータには、前記処理(I)〜(IV)のそれぞれを実行するプログラムデータのほかに、後述するように、親化合物(ゲスト化合物を包接する前の多孔性化合物の単結晶)の結晶構造回折データ(親化合物の空間群、結晶構造)、結晶構造解析の対象となる化合物の回折データ、一般的な空間群に関するデータ等が挙げられる。
本発明のコンピュータプログラムは、例えば、記録媒体(CDROM)やインターネットから取得できるものである。
<処理(I)>
処理(I)は、本発明の方法のステップ(I)のうち、候補となる空間群の導出を行うものである。すなわち、結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、又は、記多孔性化合物の単結晶の空間群より対称性が低い空間群を選択し、表示画面に候補となる空間群を表示する処理である。
処理(I)では、使用者が親化合物(ゲスト化合物を包接する前の多孔性化合物の単結晶)の空間群をコンピュータに入力することで、候補となる空間群を表示させる。
例えば、前出の[(ZnI(TPT)(PhNO5.5}の場合には、単結晶の空間群はC2/cである。使用者が、空間群C2/cを入力すると、親空間群C2/cとともに、部分群(Cc、C2、P21、P−1、P1)も表示される。
この解析は、X線解析装置メーカー独自のプログラム(例えば、Brukerであれば、APEX等)や、汎用プログラム(HKL2000等)を用いて、コンピュータにより行うことができる。
コンピュータには、空間群に関するデータが記憶されたメモリー領域が設けられており、親空間群を入力すると、親空間群とともに親空間群の部分群も表示する機能を付与することができる。
本発明のコンピュータプログラムは、処理(I)の後、その処理結果をユーザに提示する処理をコンピュータに実行させるものであってもよいし、コンピュータに処理結果をユーザに提示する処理をさせることなく、処理(II)を実行させるものであってもよい。
<処理(II)>
処理(II)は、本発明の方法におけるステップ(I)のうち、空間群を決定するため演算処理を実行するものである。すなわち、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、及び、処理(I)で導出された空間群からなる群から選ばれる1の空間群を回折データの解析用に決定する処理(II)である。
空間群の決定は、上記で決定した結晶格子の格子定数とブラベ格子の情報を用いて、汎用プログラム(例えば、PLATONやBruker社のWPREP)を用いて、コンピュータにより行うことができる。
処理(II)は、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、及び、処理(I)で導出された空間群からなる群から選ばれる1の空間群を回折データの解析用に決定するものである。
この決定は、ユーザの判断に基づいて行われるものであってもよいし、あらかじめ設定した規則に従ってコンピュータが行うものであってもよい
ユーザの判断に基づいて空間群を決定する場合、プログラムに、コンピュータが処理(I)を終えた後、その処理結果をユーザに提示する機能を付加することで、ユーザはその中から1の空間群を決定するようにしてもよい。
コンピュータが空間群を決定する場合、対称性が高い空間群を選択する等の規則をあらかじめ設けておくことで、コンピュータが空間群を決定することができる。例えば、回折データから、ゲスト化合物が対称面上に存在して、偽対象データとなっている可能性がある場合には、親空間群C2/cの部分群(Cc、C2、P21、P−1、P1)を用いて、計算を行うようにプログラムされていてもよい。
<処理(III)>
処理(III)は、本発明の方法におけるステップ(II)を実行するものである。すなわち、処理(II)で決定された空間群及び前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、結晶構造解析用試料の初期構造を決定するものである。処理(III)によって、構造の精密化のための初期構造が決定される。
本発明では、初期位相が決定された場合に出現すると想定されるホスト分子(多孔性化合物の単結晶)の骨格構造が予めわかっているので、初期位相を決定するためのプログラムを実行することなく、先の求めた格子定数と空間群の情報を用いて、ダイレクトに結晶構造解析用試料の初期構造を決定することができる。
処理(III)は、処理(II)で決定された空間群及び前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造を基に、プログラムを用いて実行することができる。用いるプログラムとしては、処理(III)を実行できるものであれば、特に限定されない。例えば、SHELX、SIR、superflip、X−PLOR(モレキュラーシミュレーション社)や、AMORE(CCP4(Collaborative Computational Project,Number4.Acta Crystallogr. D50, 670−673(1994))のプログラム群の1つ)等の公知のプログラムが挙げられる。
<処理(IV)>
処理(IV)は、本発明の方法におけるステップ(III)を実行するものである。すなわち、処理(III)で得られた初期構造を精密化するものである。
初期構造の精密化処理では、反射データ(hklファイル)と、構造の精密化前の初期構造のデータファイル(insファイル)を用いる。
具体的には、次のようにして実行される。
まず、ホスト化合物(多孔性化合物の単結晶)の骨格にあたる原子団の座標値を、構造の精密化前の初期構造の座標値にあてはめる。実際の作業としては、ホスト化合物(多孔性化合物の単結晶)の骨格にあたる原子団の座標値を、前記初期構造のデータファイル(insファイル)にコピーすればよい。
次に、この座標を初期値として構造の精密化を行うことができる。構造の精密化法としては、フーリエ法、最小二乗法、最尤法等が挙げられる。
この処理は、従来の精密化処理と同様のものであり、プログラムを用いて行うことができる。用いるプログラムとしては、精密化処理を行うことができるものであれば、特に限定されない。例えば、SHELXL、REFMAC、Xtal等の公知のプログラムが挙げられる。
本発明のコンピュータプログラムは、以上のようにして構造精密化して得られた分子構造について、分子全体の投影図、原子間距離、結合角等を表示する機能をさらに有していてもよい。
本発明のコンピュータプログラムによれば、本発明の方法を効率よく実行することができる。したがって、本発明のプログラムを利用することで、結晶学に馴染みがない研究者等であっても、回折データを簡便かつ効率よく解析することができる。
3)記録媒体
本発明の記録媒体は、本発明のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータに読み取り可能なものである。
記録媒体としては、フレキシブルディスク(FD)、MOディスク、CDR、CDRW、DVD−ROM、DVD−RAM、外付けHDD、メモリカード、USBメモリ、シリコンディスク、HDD互換シリコンディスク等が挙げられる。また、本発明のコンピュータプログラムが、複数の記録媒体に分けて記録されたものであってもよい。
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
フムレン(2,6,6,9−テトラメチル−1,4−8−シクロウンデカトリエン)の立体構造は、結晶中で銀イオンと共存させて重原子法によって位相を決定する過程を経て、J. Chem. Soc.B,112−120 (1966)にて報告されている。
フムレンを、分子構造が既知の多孔性化合物A(例えば、[(ZnI(TPT)(PhNO5.5が使用できる。)の細孔内に包接させた単結晶を作製し、これを結晶構造解析用試料とした。この結晶構造解析用試料から収集した反射データファイルと、多孔性化合物Aのみの原子座標を記述したデータファイルを使用し、公知のプログラム(例えば、SHELXLが使用できる。)を用いて構造解析を開始すると、新規に位相を決定すること無く、ホスト化合物の構造はフムレンの包接に最適化された原子位置に速やかに変化し、フムレン中のいくつかの原子が初期構造として観察された。
得られた初期構造に関するデータを使用し、公知のプログラムを用いて、構造精密化を行うことで、フムレンの分子構造を容易に決定することができる。
多孔性化合物Aのみの原子座標を記述したデータファイルは、分子構造が既知の多孔性化合物A、例えば、多孔性化合物Aが、[(ZnI(TPT)(PhNO5.5である場合、このものの結構構造解析データから、溶媒である(PhNO)に対応するデータを削除する操作を行うことにより、入手することができる。
細孔性錯体にグアイアズレン分子を包摂させた結晶のデータでは、shelxs(初期構造を得るプログラム)を実行した場合は、錯体部分の構造しか得られない(図5)。一方、本発明の方法により初期構造を与えることで、グアイアズレンの構造の殆どが既に見えた状態で、構造解析を開始することができる(図6)。
1:結晶面X
2:結晶面Y
3:細孔
4:細孔が延在する方向

Claims (6)

  1. 三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が結晶構造解析法によって解明されている多孔性化合物の単結晶の細孔及び/又は中空内に、構造を決定する化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を用いて得られた回折データの解析方法であって、
    結晶構造解析用試料の空間群として、前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、又は、前記空間群より対称性が低い空間群を選択するステップ(I)、
    前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、前記結晶構造解析用試料についての初期構造を決定するステップ(II)、及び、
    ステップ(II)で得られた初期構造を精密化するステップ(III)、
    を含むことを特徴とする回折データの解析方法。
  2. 回折データの解析用プログラムであって、請求項1に記載の回折データの解析方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
  3. 前記多孔性化合物の単結晶の空間群を基に、より対称性が低い空間群を導出する処理(I)、
    前記多孔性化合物の単結晶の空間群と同一の空間群、及び、処理(I)で導出された空間群から選ばれる1の空間群を、結晶構造解析用試料についての回折データの解析に用いる空間群として決定する処理(II)、
    処理(II)で決定された空間群及び前記多孔性化合物の単結晶の結晶構造に関する回折データを初期値として用いて、前記結晶構造解析用試料についての初期構造を決定する処理(III)、及び、
    処理(III)で得られた初期構造を精密化する処理(IV)、
    をコンピュータに実行させる、請求項2に記載のコンピュータプログラム。
  4. さらに、処理(I)で導出された空間群をユーザに提示する処理を含み、処理(II)における空間群の決定が、ユーザの判断に基づいて行われるものである、請求項3に記載のコンピュータプログラム。
  5. 処理(II)における空間群の決定が、あらかじめ設定した規則に従ってコンピュータによって行われるものである、請求項3に記載のコンピュータプログラム。
  6. 請求項2〜5のいずれかに記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータに読み取り可能な記録媒体。
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