本発明は、コンタクトレンズの製造方法およびコンタクトレンズに係り、特に人眼に重ね合わされるレンズ後面に特定の構成を付与せしめた、新規なコンタクトレンズの製造方法およびコンタクトレンズに関する。
従来から、近視や遠視、乱視、老視の矯正などを目的として、ソフトタイプやハードタイプの各種コンタクトレンズが提供されている。
ところで、このようなコンタクトレンズは、敏感な生体組織である角膜の表面に重ね合わせて装用される。それ故、コンタクトレンズには、装用者に適合した光学特性が要求されることに加えて、装用時の異物感を抑えて良好な装用感を実現することが要求される。
そして、角膜への刺激を軽減して良好な装用感を実現するために、コンタクトレンズを各個人へフィッティングする際には、複数設定されたレンズ後面のベースカーブのなかから装用者の角膜に対応した曲率半径を選択するようにされる。例えば多くの市販のディスポーザブルタイプのソフトコンタクトレンズでは、8.5mm〜9.0mmの範囲内で0.1mm毎のベースカーブの設定規格がある。
ところが、角膜表面形状は個人差があり、そのような規格のベースカーブでは十分に満足できる装用感を得難い場合もあった。特にハードコンタクトレンズでは、レンズ後面と角膜表面との形状相違が小さくても圧迫感が強くなって、装用感が問題になりやすい。また、ソフトコンタクトレンズでは、レンズ後面と角膜表面との相違が大きいと装用時の角膜上でのレンズ変位量が大きくなって見え方も低下してしまうおそれがある。
なお、単にコンタクトレンズのベースカーブを選定するよりも、コンタクトレンズ後面の角膜表面への形状フィッティングを高度に実現するために、特表2004−534964号公報(特許文献1)では、各個人毎に角膜形状を実測し、その測定結果に対応した形状を数学的記述して、レンズ後面形状に反映することによりオーダーメイドのコンタクトレンズを製造することが提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の如きオーダーメイドのコンタクトレンズの製造に際しては、レンズ使用者(装用者)毎に角膜表面形状を測定し、更に測定結果を忠実に反映したレンズ後面形状をもって各別にコンタクトレンズを設計および製作しなければならない。それ故、多大な労力と時間、費用が必要となり、実用化が極めて困難であった。
しかも、複雑な角膜形状の実測結果を数学的記述をもって表すことは困難であり、特許文献1に記載の発明は少なくとも実用性に乏しいと言わざるを得ない。仮に角膜の複雑な表面形状を数学的に表すことができたとしても、その数学的記述は極めて複雑で、具体的形状の把握や加工に際してどの数値をどの程度の精度で処理すれば良いか等といった数値の取り扱いが困難で、レンズ内面形状へ反映してコンタクトレンズを製作することが難しく、レンズ製作に際して必要となる時間や労力、技術の負担が極めて大きい。また、複雑な数学的記述によって表された面形状を実際のレンズ後面に形成しようとすると、加工誤差も大きくなり易いという問題がある。事実として、特許文献1の公開から略10年が経過した現在でも、特許文献1に記載の如きオーダーメイドのレンズ後面を有するコンタクトレンズが市場に提供されていないことからも、実用化が困難であることを理解できよう。
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、コンタクトレンズ装用者の角膜形状を反映したレンズ内面形状を、従来よりも簡便に、且つ、十分に精度の高い角膜形状の反映をもって付与することができ、それによって装用感の向上を可能とする、新規なコンタクトレンズの製造方法およびコンタクトレンズを提供することにある。
かかる課題を解決するために為された本発明の第一の態様は、処方対象とされる特徴を有する対象眼の母集団によって得られた角膜表面形状の統計情報を用いて、該統計情報から曲率半径およびコーニック定数の値を下式に従って設定することにより回転対称形状のフィッティングを行うと共に、かかる回転対称形状のフィッティングで残差となる非回転対称成分をゼルニケ面でフィッティングすることにより、前記対象眼の母集団に対応した角膜表面形状を特定し、該曲率半径と該コーニック定数と該ゼルニケ面とによって特定された該角膜表面形状に対応したレンズ内面形状を、コンタクトレンズの周辺ゾーンの内面において採用するコンタクトレンズの製造方法にある。
−2σにおけるR値 ≦ R ≦ +2σにおけるR値
−2σにおけるC.C.値 ≦ C.C. ≦ +2σにおけるC.C.値
ただし、
R:曲率半径
C.C.:コーニック定数
σ:標準偏差
前記「背景技術」欄に記載の状況下、各個人毎に相違するだけでなく数学的に一つのモデルとして特定するには複雑すぎる人眼の角膜形状について、本発明者が研究を重ねた結果、二つの基本的な技術思想を融合させることが有効であるとの知見を得たのであり、かかる知見に基づいて本発明が完成されたのである。
二つの基本的な技術思想のうちの一つが「統計情報の効率的な活用」であり、もう一つが「回転対称形状と非回転対称形状との組合せによるレンズ後面形状の設定」である。
すなわち、前者の「統計情報の効率的な活用」に関しては、コンタクトレンズで矯正等される人眼の角膜表面形状が、統計的に略正規分布の特徴を有していることを利用するものである。例えば、人眼の角膜表面形状は完全な球冠面でないことは良く知られており、その曲率分布について鼻側と耳側で相違する傾向にあることなども統計的に公知の事実である。このような角膜表面形状についての統計上の情報を利用することにより、特許文献1に記載の如き完全なオーダーメイドでの対応に比して、装用者の角膜表面形状をレンズ後面に反映する技術の実用化を効率的且つ現実的に達成するものである。
また、人眼の角膜表面形状について、全ての人眼を母集団とする他、例えば人眼の大きさや曲率半径等を考慮して年齢や人種などで特定した母集団のように角膜表面形状の特徴点の共通化が想定される範囲でターゲットを絞った母集団を対象とすることにより、角膜表面形状のフィッティング精度の向上が図られ得る。具体的には、例えばコンタクトレンズの処方対象とされる症例などに応じて、近視や遠視、老視、円錐角膜などによって対象眼を絞って、当該対象眼の母集団によって得られた統計情報を用いて、対象とする角膜の表面形状を統計的に絞ることが可能となる。このような母集団の絞り込みは、統計情報を解析等することにより対象眼の特徴を確認することができれば、必要に応じて適宜に採用することが可能であり、それにより、フィッティング精度の更なる向上が図られ得る。
次に、後者の「回転対称形状と非回転対称形状との組合せによるレンズ後面形状の設定」では、上述した前者の統計情報から得られた角膜形状をレンズ後面に反映して、母集団に含まれる各個人に適合するコンタクトレンズを製造することで、各個人へのレンズ後面のフィッティングを行うこととなる。その際、本発明では、回転対称形状の数学モデルと非回転対称形状の数学モデルとを組み合わせて採用することとし、且つ前者においてコーニック定数による適合調節手法を採用すると共に、後者においてゼルニケ面形状による適合調節手法を採用したのである。
特に、これら二種類の数学モデルを組み合わせて採用したことにより、比較的複雑となるゼルニケ面形状による非回転対称形状を有する角膜表面へのフィッティングに際しても、精度を確保しつつゼルニケ面形状を簡略化することが可能となって、容易に適合調節することを可能となし得た。また、例えばゼルニケ面形状による角膜表面形状の反映に誤差が含まれたとしても、コーニック係数による非球面の回転対称形状の反映により、ゼルニケ面形状誤差に起因する大きな誤差の発生が抑えられるのであり、二種類の数学モデルの相互補完的な作用によって、レンズ後面の数学モデルによるフィッティングに際しての品質の安定性が図られる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係るコンタクトレンズの製造方法において、前記ゼルニケ面を特定するゼルニケ多項式が、下式数1で示されるものであって且つ少なくともi=0〜20のゼルニケ項を含んでいるものを採用するものである。
本態様に従えば、i=0〜20のゼルニケ項を含むゼルニケ多項式を採用することで、角膜の表面形状のうち非回転対称成分を、より十分な精度をもって数学モデルとして把握して、レンズ後面の形状に反映することが可能になる。なお、ゼルニケ多項式において、より多くのゼルニケ項を採用することで、角膜の表面形状における非回転対称成分をより精度良く把握することが可能であり、その場合に好適には、i=0〜20のゼルニケ項に加えて、i=22〜26,30〜33,39〜41,49〜50,60のゼルニケ項が、すべて又は選択的に採用され得る。
ここにおいて、本発明の第三の態様は、前記第二の態様に係るコンタクトレンズの製造方法において、前記ゼルニケ面を特定する前記ゼルニケ多項式が、少なくともi=1〜20,22〜26,30〜33,39〜41,49〜50,60のゼルニケ項を含んでいるものである。本態様に従えば、角膜の表面形状における非回転対称成分を、一層精度良く且つ効率的に把握することが可能になる。
本発明の第四の態様は、前記第一〜三の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記対象眼の母集団における非回転対称成分をフィッティングする前記ゼルニケ面において、±0σにおける非回転対称成分をフィッティングする値をゼルニケ係数として採用するものである。
本態様に従えば、母集団の角膜表面形状の統計情報において非回転対称成分をあらわすゼルニケ面のゼルニケ係数について、かかる統計情報から得られる±0σの値を採用することで、母集団の角膜表面形状の非回転対称成分の特徴を平均的な一つのゼルニケ面によって効率的にとらえて、レンズ後面形状に反映させることが可能になる。
本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記回転対称形状のフィッティングを、下式数2を用いて行うものである。
本発明の前記第一の態様において、曲率半径とコーニック定数によって回転対称形状を特定できる非球面形状定義式としては、公知のものを何れも採用可能であり、例えば光軸方向にZ軸をとると共に、それと直交する方向にX軸とY軸をとり、Y軸をレンズ半径方向座標としてZ軸回りの回転体で非球面が定義されるとした場合に、YZ平面内の曲線の式として、+x側と−x側で同じ値をとるように偶数次数のべき級数多項式からなる偶関数を採用することができる。ここにおいて、本態様では、上記数2を採用することで、4次以上の高次の非球面形状を省略することで、比較的簡易な回転2次曲面を採用しつつ、曲率半径とコーニック定数によって非球面である角膜表面の回転対称形状を十分な精度をもって効率的に反映させた数学モデルを得ることが可能になる。
なお、回転対称の非球面形状を定義する数2で表されるYZ平面上の曲線式において、曲率半径RはZ軸上となる非球面の頂点における曲率半径を表すこととなり、Z座標値はレンズのサグ量に相当する。また、(x2 +y2 )は、座標原点となる非球面の頂点から曲線上の各点までの距離としても把握できる。そして、数2において、コーニック定数C.C.の値は、非球面であるからC.C.≠0とされ、C.C.=−1の場合に数2が放物線を表し、C.C.<−1の場合に数2が双曲線を表し、−1<C.C.<0の場合に数2がZ軸方向を長軸とする楕円線を表し、C.C.>0の場合に数2がZ軸方向を短軸とする楕円線を表すこととなる。
本発明の第六の態様は、前記第一〜五の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記対象眼における前記処方対象である特徴が近視とされるものである。
本態様に従えば、一般に需要が多く且つ眼軸長の成長などによって角膜形状に特徴も現れる傾向にある近視眼に対して、本発明方法を適用することで、角膜の表面形状に適合したレンズ後面を備えたコンタクトレンズを効率的に提供することが可能になり、その実用化により社会において利益を多くの者が享受することができる。
なお、第一の態様等に記載の本発明方法において対象となる母集団は、前述のように近視や遠視等の症例の他、人種、年齢、性別、体格などによって適宜に区分されて設定され得るが、母集団に対する悉皆調査で統計情報を取得する他、抽出されたサンプル(標本)による標本調査で母集団の統計情報を取得することもできる。また、サンプル抽出するに際して必要なサンプル数は、統計学の手法に基づき、要求される誤差や信頼度、分散の程度などを考慮して設定され得る。
本発明の第七の態様は、前記第六の態様に従って近視眼を対象として本発明を適用するコンタクトレンズの製造方法であって、前記曲率半径の値と、前記コーニック定数の値を、下式の範囲内において設定し、且つ、前記ゼルニケ面を特定する前記ゼルニケ多項式として以下の係数値の項を含むものを採用するものである。
−5.909mm ≦ R ≦ −6.701mm
−1.550 ≦ C.C. ≦ −1.885
P0 =−9.6845×10-4
P1 = 8.9965×10-6
P2 =−0.0011180
P3 =−1.3770×10-4
P4 = 0.0052355
P5 = 3.8193×10-4
P6 = 7.6195×10-6
P7 =−4.4347×10-6
P8 = 2.5460×10-5
P9 =−3.2957×10-6
P10= 9.3233×10-7
P11=−1.1110×10-6
P12=−8.9217×10-5
P13=−4.9545×10-6
P14= 3.9033×10-7
P15= 4.1580×10-9
P16=−9.6441×10-8
P17= 1.5186×10-7
P18= 4.4563×10-7
P19=−1.5916×10-8
P20=−1.1687×10-8
P22=−6.8005×10-10
P23= 6.2657×10-9
P24= 4.8416×10-7
P25= 2.0883×10-8
P26=−1.4009×10-9
P30= 1.7202×10-10
P31=−4.5331×10-10
P32=−2.8146×10-9
P33= 9.2066×10-11
P39=−9.3203×10-12
P40=−1.0670×10-9
P41=−2.7720×10-11
P49= 4.1354×10-13
P50= 3.7438×10-12
P60= 8.3784×10-13
本態様に従えば、特別な疾病や遺伝、著しい強度近視などいった特例を除いた標準的な近視眼というカテゴリーで区分される母集団を対象眼として、処方対象として想定される角膜の表面形状を絞ると共に、本発明者が予め取得した統計情報を利用したことにより、処方対象である眼の角膜の表面形状に精度良く適合するレンズ後面形状を備えたコンタクトレンズを、効率的に製造して市場に提供することができるのであり、また、それによって、眼科などにおける装用者への個別的なフィッティング処置も容易に行うことが可能になる。
本発明の第八の態様は、前記第一〜七の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記コンタクトレンズがハードタイプのコンタクトレンズとされるものである。
本態様に従えば、角膜の表面形状との相違が装用感への悪影響を及ぼしやすいハードタイプのコンタクトレンズにおいて、本発明方法を適用することにより、角膜の表面形状が良好な精度で反映されたレンズ後面を効率的に設定することが可能になる。その結果、装用感に優れたハードコンタクトレンズを市場に提供することの実用化も図られ得る。
本発明の第九の態様は、前記第一〜八の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記コンタクトレンズにおけるφ7mmよりも外周側で且つエッジ部内側1mmよりも内周側の領域の範囲内において、前記曲率半径と前記コーニック定数と前記ゼルニケ面とによって特定された前記角膜表面形状に対応したレンズ内面形状が採用された前記周辺ゾーンを設けるものである。
一般にコンタクトレンズは、眼光学系の光線透過領域であって矯正等の光学特性が設定されたレンズ中央部分の光学部と、その周囲を囲むように設けられて角膜上でのレンズ位置を安定的に設定する周辺部とを備えており、また、レンズ外周縁部には、レンズ前面と後面とをつなぐ表面形状のエッジ部が設けられている。ここにおいて、周辺部は、レンズを角膜上の所定位置へ保持等させるために一般に角膜表面に重ね合わされて装用されることから、略周辺部に位置するレンズ後面に対して、本態様に従って角膜形状を反映した形状設定が施された周辺ゾーンを設定することにより、レンズ装用感が一層効果的に向上され得ることとなる。
なお、本態様に従って角膜形状が反映されたレンズ後面を有する「周辺ゾーン」は、コンタクトレンズにおける周辺部に一致して設定される必要はない。特に周辺ゾーンは、「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域の全体に亘って設ける必要はなく、かかる領域の少なくとも一部の径方向領域に設けられていれば良いし、「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域を内周側又は外周側に越えて設けられていても良い。
尤も、光学部の領域は、要求される光学特性を有するレンズ面形状を付与するに際して角膜形状を反映すると設計や製造が困難になることから、光学部の領域を避けて周辺ゾーンを設定することが望ましく、好適にはφ6.0mm以上の領域に周辺ゾーンが設定される。また、周辺ゾーンの内周側の領域、特に光学部の領域は、レンズ後面に角膜形状を高度に反映させることなく、レンズ後面が角膜表面から僅かに離隔して両者の対向面間に涙液が充填された隙間が設定されることが望ましく、それにより、角膜表面形状が反映されていない光学部等のレンズ後面が装用状態で角膜に接触して装用感を低下させる不具合も軽減され得る。更にまた、周辺ゾーンの外周側の領域も、レンズ後面に角膜形状を高度に反映させることなく、レンズ外周端のエッジ部に向かって角膜から次第に大きく離隔するエッジリフトを設定することが望ましく、それにより、角膜とコンタクトレンズとの重ね合わせ面間に対する涙液交換の促進などの効果が享受され得る。
本発明の第十の態様は、前記第一〜九の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記コンタクトレンズが光学部とその外周を囲む周辺部とを備えており、該周辺部において、前記曲率半径と前記コーニック定数と前記ゼルニケ面とによって特定された前記角膜表面形状に対応したレンズ内面形状が採用された前記周辺ゾーンを設けると共に、該光学部において、角膜との間に涙液充填されるクリアランスを設けるものである。
本態様に従えば、光学部では、装用状態でも角膜表面への接触が軽減又は回避されることから、本発明方法に従う角膜表面形状のレンズ後面への反映が為されていなくても装用感の低下が回避され得る一方、周辺部では、角膜表面形状が反映されたレンズ後面が付与されることで、装用状態で角膜表面に重ね合わされた際にも良好な装用感が達成され得る。
なお、光学部に設定される光学特性は、装用者の眼光学系に応じて適宜に設定されるものであり、例えば従来から公知の球面レンズ度数や円柱レンズ度数、多焦点レンズ度数などが適宜に設定され得る。すなわち、前記第一〜十の何れの態様に係るコンタクトレンズの製造方法においても、設定される光学特性に制限はなく、特にレンズ前面の形状は任意に設定することが可能であり、例えばプリズムバラストやダブルシンなどによる周方向位置決めのためのレンズ肉厚の設定も、レンズ前面の形状設定等によって採用することができる。
本発明の第十一の態様は、光学部の周囲に設けられた周辺部のレンズ後面において、下式数3および数4で表される形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる非回転対称で且つ非トーリック形状の面からなる周辺ゾーンが設定されているコンタクトレンズを、特徴とする。
なお、本態様で採用する数3及び数4は、何れも、前記数1及び数2を用いて定義されるレンズ後面を更に限定的に特定する数式となっている。また、数3および数4式中、Ra=−5.909mm、C.C.a=−1.550、Rb=−6.701mm、C.C.b=−1.885である。更に、数3および数4の右辺の第2項はゼルニケ多項式であって、Ziはゼルニケ関数であり、Piとして、前記第七の態様に記載したP0 〜P20,P22〜P26,P30〜P33,P39〜P41,P49〜P50,P60の各値の標準ゼルニケ係数を含む。
本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、特別な疾病や遺伝、著しい強度近視などいった特例を除いた標準的な近視眼というカテゴリーで区分される母集団を対象眼として、本発明者が予め取得した統計情報に基づいて、装用者の眼の角膜の表面形状に精度良く適合するレンズ後面形状を備えたコンタクトレンズが、実現される。特に、数3及び数4では、二次項で表された右辺の第1項が、Z軸回りの回転2次曲面を表すYZ平面内の2次曲線の定義式であり、Σ項で表された右辺の第2項が、非回転対称でトーリック形状でもない自由曲面を表すゼルニケ関数Ziを含む多項式からなる定義式である。
これらの定義式に示されるように、本態様のコンタクトレンズでは、回転対称の非球面形状と、非回転対称の非球面形状とに分けて定義することにより、統計情報を効率的に且つ精度良く反映することができたのである。そして、XYZの直交3軸上において座標原点を光軸交点となるレンズ頂点として、形状関数Zaで定義される曲面と形状関数Zbで定義される曲面との間に挟まれた3次元空間内に位置する非球面形状をもって、周辺部のレンズ後面に設定することによって、特に近視眼の角膜の表面形状への適合性が高いレンズ後面が実現可能となるのである。
なお、本態様において、形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる面からなる周辺ゾーンが、周辺部の全体に亘って形成されている必要はない。例えば、周辺部において特に角膜への接触が問題となり易い特定の径方向部分だけに周辺ゾーンを設定することも可能である。また、周辺部を内周側や外周側に超えた領域にまで、形状関数Zaで定義される曲面と形状関数Zbで定義される曲面との間に挟まれた3次元空間内に位置する非球面形状をレンズ後面に設定することも可能である。
さらに、本発明の第十一の態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、以下に記載の第十二〜十五の態様が好適に採用され得る。
本発明の第十二の態様は、前記第十一の態様に係るコンタクトレンズであって、前記コンタクトレンズがハードタイプのコンタクトレンズとされているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、前記第八の態様で説明したように、装用感に優れたハードコンタクトレンズが実現可能となる等といった技術的効果が奏され得る。
本発明の第十三の態様は、前記第十一又は十二の態様に係るコンタクトレンズであって、前記形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる非回転対称で且つ非トーリック形状の面が設定された前記周辺ゾーンの内面が、前記コンタクトレンズにおけるφ7mmよりも外周側で且つエッジ部内側1mmよりも内周側の領域部分に設定されているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、前記第九の態様で説明したように、装用感に影響を与えやすい領域のレンズ後面に対して本発明に従って角膜形状を反映した形状設定を施した周辺ゾーンを設けることにより、レンズ装用感が一層効果的に向上され得る等といった技術的効果が奏され得る。
本発明の第十四の態様は、前記第十一〜十三の何れかの態様に係るコンタクトレンズであって、前記光学部の内面において、角膜を離隔して覆うクリアランス形成面が設定されているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、前記第十の態様で説明したように、光学特性と装用感の両立が容易に且つ効果的に達成可能になる等といった技術的効果が奏され得る。
本発明の第十五の態様は、前記第十一〜十四の何れかの態様に係るコンタクトレンズにおいて、形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる非回転対称で且つ非トーリック形状の面が、前記コンタクトレンズの内面の50%以上の面積領域に設定されているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、角膜表面に対して対応した形状をもって重ね合わされるレンズ後面が50%以上の面積領域に設定されることで、コンタクトレンズの装用状態の位置安定性が装用感の低下を伴うことなく達成され得る等といった技術的効果が奏され得る。なお、より好適には、角膜表面に対して対応した形状をもって重ね合わされるレンズ後面が、コンタクトレンズのレンズ後面全体の60%以上の面積領域に設定される。
本発明の第一の態様に従えば、「統計情報の効率的な活用」と「回転対称形状と非回転対称形状との組合せによるレンズ後面形状の設定」との技術思想を融合させることで、大きな誤差等を抑えつつ、角膜表面形状をレンズ後面に対して数学モデルを用いて効率的に適合反映させることが可能となる。これにより、各装用者の角膜表面形状を実用レベルで十分に反映して、レンズ後面の精度と適合性をもったコンタクトレンズを、各装用者に対して効率的に提供することが可能になる。
また、本発明の第十一の態様では、統計情報に基づく特定の形状関数で定義される3次元空間内にレンズ後面形状が設定されることにより、特に近視眼の角膜の表面形状への適合性が高いレンズ後面を有するコンタクトレンズが実現され得る。
本発明方法に従って製造されるコンタクトレンズの一例を示す正面図。
図1のII−II断面図。
図1に示されている如きコンタクトレンズの本発明方法に従う製造方法の一例を示すフローチャート。
本発明方法に従うコンタクトレンズの製造方法の一態様として、角膜表面形状とそれに適用される回転対称および非回転対称の各定義式を、フィッティング後の残差と併せて示すカラーマッピングの説明図。
図1に示したコンタクトレンズのレンズ後面の形状を本発明に従って定義するための座標系を示す説明図。
本発明方法で好適に用いられ得るゼルニケ関数式における各成分をマッピング表示した説明図。
本発明方法に従うコンタクトレンズの製造方法の別態様として、角膜表面形状とそれに適用される回転対称および非回転対称の各定義式を、フィッティング後の残差と併せて示すカラーマッピングの説明図。
本発明方法に従うコンタクトレンズの製造方法の更に別の態様として、角膜表面形状とそれに適用される回転対称および非回転対称の各定義式を、フィッティング後の残差と併せて示すカラーマッピングの説明図。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1および図2に、本発明が適用されるコンタクトレンズ10の一般的な構造が示されている。即ち、コンタクトレンズ10は全体として薄肉の略球冠形状を有しており、眼球の角膜の表面に重ね合わされて装用されるようになっている。
本発明の対象となるコンタクトレンズ10は、ソフトタイプのコンタクトレンズとハードタイプのコンタクトレンズの何れでも良く、中央が硬質で周囲が軟質の複合タイプのコンタクトレンズであっても良いし、また、一日や一週間などといった短期の使用期限が定められた使い捨てタイプのコンタクトレンズであっても良い。レンズ材質も何等限定されるものでない。レンズ外径寸法(DIA)も、従来と同様に設定され得、例えばハードタイプで8.0〜10.0mm、ソフトタイプで10.0〜15.0mmなどといった範囲に設定され得る。
また、かかるコンタクトレンズ10は、レンズ中心軸12が光軸とされており、図1に示す正面視(軸方向視)でレンズ中心軸12を中心とする略円形状を有している。さらに、レンズ中心軸12との交点であるレンズ頂点を含むコンタクトレンズ10の中央領域には、視力矯正のための適当なレンズ度数が設定された光学部(optical zone)14が形成されている。光学部14は、図1に示す正面視(軸方向視)において、レンズ中心軸12を中心とする円形状とされている。また、コンタクトレンズ10において、光学部14を全周に亘って囲む外周領域には、略円環形状の周辺部(peripheral zone)16が形成されている。なお、周辺部16の外周側の所定幅領域には、レンズ後面18に対してエッジリフトが付されていても良い。また、周辺部16の外周縁部には、レンズ前後面18,20をつなぐエッジ部17が設けられている。
なお、光学部14は、装用状態で人眼の光学系に対して光学作用を及ぼす領域であって、その外周縁部、換言すると周辺部16との境界は、一般に、角膜と反対側に位置するレンズ前面18および角膜側に位置するレンズ後面20においてそれぞれ縦断面上での曲率の変化点としてとらえることができる。しかし、例えば、光学部14のレンズ面が半径方向で漸変するような縦断面形状で設計される場合や、境界が径方向に所定幅をもって形成されてレンズ前面18とレンズ後面20の間で光学部14と周辺部16を滑らかに繋ぐ接続領域等によって形成される場合なども多い。そのような場合を含んで、レンズ前面18およびレンズ後面20における光学部14と周辺部16の境界は、形状的に線(line)として必ずしも明確である必要はない。
このようなコンタクトレンズ10の本発明に従って、コンタクトレンズユーザーである装用者の角膜の表面形状を反映したレンズ後面20を備えたコンタクトレンズ10を製造する方法の一つの具体的態様を、図3のフローチャートに従って説明する。
先ず、ステップS1において開始後、ステップS2において、コンタクトレンズ10の処方対象とされる装用者の光学特性を設定する。具体的には、例えば成人近視のユーザーを目的の装用者として、近視矯正用の光学特性を設定したり、初期老眼のユーザーを目的の装用者として、初期老視矯正用の光学特性を設定したりすることとなる。
そして、ステップS2で設定された光学特性に応じて、ステップS3において、光学部14の形状を設定する。具体的な光学部14の形状設定は、光線追跡法に基づく光学シミュレーションソフト、例えば「ZEMAX」(商品名)などを用いて行うことが可能である。
本態様のように、成人の標準的な近視眼を対象として近視矯正用コンタクトレンズを製作するに際しては、従来からの近視矯正用コンタクトレンズと同様に、近視矯正度数(Power)とベースカーブ(B.C)、レンズ径(DIA)を、それぞれ想定範囲内で複数段階に異ならせて市場に提供できるように、複数種類の光学部14の形状が設定される。そして、各設定形状の光学部14を備えたコンタクトレンズが、シリーズとしてセット状態で市場に提供され、かかるシリーズの中から、各装用者に最適なコンタクトレンズが選択的に提供され得るようにされる。
このような光学部14の形状設定とは別に、ステップS4では、処方対象とされる特徴を有する対象眼の母集団を選定し、この母集団を対象として角膜の表面形状の統計情報を取得する。処方対象とされる特徴は、コンタクトレンズ10の提供対象ユーザーに応じて設定されるものであり、例えば人眼の全体を母集団とすることも可能であるが、より好適には、成人の近視の矯正用コンタクトレンズを提供する場合には成人の近視の母集団を選定し、老視の矯正用コンタクトレンズを提供する場合には老視の母集団を選定することが望ましい。
そのような眼光学系の光学特性の相違によって角膜表面形状に統計的な特徴がみられる傾向があるからである。尤も、そのような光学特性の相違を母集団選定の指標とすることが必須ではなく、小児や老人などの処方対象で角膜表面形状が相違することを重要視する必要がある場合には、年齢条件を特徴として母集団が選定され得るし、人種なども同様に母集団の特徴となり得る。また、複数の特徴を組み合わせて母集団を選定することも可能である。
なお、このような母集団を対象として、角膜表面形状を取得するには、例えば光トポグラファー(前眼部3次元光干渉断層計、OCT)やレフケラトメーター等として市販もされている角膜形状の測定装置を用いて光学的に非接触で角膜表面形状を直接に測定することも可能である。或いは、角膜の表面を型取りして写し取ることで角膜表面形状を模型等で再現して、当該模型の面形状をレーザー光等で測定することも可能である。現時点における角膜表面形状測定装置の精度や測定範囲などを考慮すると、後者の、人眼角膜表面を直接に型取りして測定することが、精度的には望ましい。
得られた母集団の角膜表面形状は、統計的手法で処理される。即ち、例えば近視眼を母集団とした場合に全ての近視眼の角膜表面形状を取得することも可能ではあるが、非現実的であるから、かかる母集団から抽出した適数の標本調査の結果から、平均化等の処理を施すことで角膜表面形状の統計情報を得ることができる。
かかる角膜表面形状の統計情報の取得は、本態様では、ステップS5において実効される。ここにおいて、母集団の角膜表面形状を対象とした統計情報は、例えば平均値として、角膜における各位置の高さ情報として数値で把握することが可能であり、径方向や周方向或いは面方向において各位置が連続した線又は面の形状として数式で把握することも可能である。そして、統計情報としては、角膜における各位置が、例えば光軸に直交するXY平面上で高さを表すZ値で表される場合に、各位置におけるZ値が略正規分布するものとして、各位置の相加平均などの平均値や最頻値、中央値などの代表値をつなぐ形状を角膜形状の平均値として採用することができる。また、角膜表面形状の統計情報として、平均値としての角膜表面の形状情報のほか、標準偏差(σ,Sigma)や分散などの統計データも併せて取得することが望ましい。
角膜表面形状の統計情報の具体例として、本発明者らが取得した成人120眼の角膜表面形状のなかから、本態様が対象とする標準的な近視眼である40眼についてのデータを、図4中の最上段に、カラーマッピング表示して示す。かかる統計情報は、人眼の角膜表面形状を直接に写し取った型をレーザー光を用いて3次元計測して得られた測定データに基づいて、統計処理によって得られた直径20mmの角膜表面形状の平均値(±0σ)を示すものであり、同様に−σおよび+σにおける各位置をつないだ角膜表面形状も、併せてカラーマッピング表示して示す。±0σの角膜表面形状に比して、−σの角膜表面形状では曲率が僅かに大きくなっている一方、+σの角膜表面形状では曲率が僅かに小さくなっていることが認められる。なお、本態様において「角膜」は、コンタクトレンズが重ね合わされて装用される人眼の領域であって、対象とするコンタクトレンズの種類や大きさによっては、角膜の外周より外側の鞏膜の範囲までも含む。また、図4の各カラーマッピング表示において、上下方向が角膜上下方向に相当し、左右方向のうちNasal側が鼻側に相当する。
そして、ステップS5で得た角膜表面形状の統計情報を用いて、それに適合するレンズ後面20の形状を設定するには、形状を具体的に特定することができ且つ差分演算等に際しての活用性に優れることから、形状を定義する特定の数式として取得することが望ましい。しかしながら、角膜表面形状は非常に複雑であることから、例えば非回転対称形状を特定することができるゼルニケ面として一つの数式で定義しようとすると数式自体が複雑になり、その演算等の後処理に際しての取り扱いも難しくなってしまう。
ここにおいて、本態様では、角膜表面形状を、回転対称の非球面形状を定義し得る数式と、非回転対称の非球面形状を提示し得る数式とを、互いに組み合わせて定義することとした。そして、前者の回転対称形状の定義式としては、曲率半径とコーニック定数とによって形状の特徴を反映することができる数式を採用する一方、後者の非回転対称形状の定義式としては、ゼルニケ面を表す数式を採用した。
より具体的には、本態様では、ステップS6において、前者の定義式として、公知の回転対称の非球面定義式である偶数次のべき級数多項式を採用し、ステップS5で得た角膜表面形状の統計情報に適合するレンズ後面20の形状のうち、回転対称の非球面形状を設定した。また、ステップS7において、後者の定義式として、公知の非回転対称の波面定義式であるゼルニケ多項式を採用し、ステップS5で得た角膜表面形状の統計情報に適合するレンズ後面20の形状のうち、非回転対称の非球面形状を設定した。そして、続くステップS6において、前者と後者の両定義式を合算して、前者の数式で定義される回転2次曲面上に後者の数式で提示される波面を重ね合わせることによって、角膜表面形状を定義することとした。
本態様で採用した具体的な角膜表面形状の定義式を以下の数5に示す。
上記数5は、図5に示すように、直交3軸の座標系において、原点0を頂点として表される角膜表面Aの形状を定義するものであり、右辺の第1項の非球面多項式(Conic Formula)と第2項のゼルニケ多項式(Zernike Polynomial Formula)との和で表されている。
第1項の非球面多項式は、公知の非球面レンズの形状定義式である偶数次のべき級数多項式であって、本態様では4次以降の高次項を省略して球面をベースとする2次項のみを採用した。前記ステップS6においてかかる非球面多項式を利用することにより、YZ平面内の円錐曲線を定義し、かかる円錐曲線のZ軸回りの回転対称形状として、角膜表面形状のうち回転対称形状を特定することができる。
第2項のゼルニケ多項式は、ゼルニケ円形多項式とも言われ、良く知られているように単位円内の数値分布を表すものであり、例えばXY平面上におけるZ軸方向の位置分布を数値分布として特定することとして、前記ステップS7においてかかるゼルニケ多項式を本態様で用いることができる。
本態様では、ステップS5で設定された角膜表面ベース形状に対して、ステップS6で設定された回転対称の非球面形状に対して前記数5の第1項の定義式を適用した結果、かかる第1項の定義式に反映されずに残差として残った非回転対称の形状成分を定義するゼルニケ多項式を、ステップS7で求めて、それを数5の第2項の定義式とするように、把握することもできる。
具体的なゼルニケ多項式としては、極座標系の関数として表される以下の数6を、本態様において採用する。
この数6に示されたゼルニケ多項式では、2つの整数n,mの値で各項が指定され得、整数nが放射方向の多項式の次数を示し、整数mが回転方向の波の数を示すこととなるが、これらn、mを用いて面形状のモードを特定することができる。各項のゼルニケ関数を、極座標値で表1〜表3に示すと共に、直交3軸座標値で表1に併せ示す。なお、極座標系において位置を表すρは半径rを用いて(r/rmax )で表される動径であり、θは回転角であり、直交座標系では√(x2 +y2 )およびtan-1(y/x)とされる。また、ゼルニケ多項式で表される各モードの数値分布を、カラーマッピングで表示した結果を、参考のために図6に示す。
すなわち、ステップS6において、上記数5における第1項の非球面多項式を用いて、ステップS5で母集団の角膜統計情報から得られた角膜表面形状に対応するR(頂点の曲率半径)とC.C.(コーニック定数)を選定することにより、回転対称面形状の定義式を設定する。また、ステップS7において、上記数6におけるゼルニケ多項式を用いて、ステップS5で母集団の角膜統計情報から得られた角膜表面形状の残差成分を表すゼルニケ係数を選定することにより、非回転対称面形状の定義式を設定する。
因みに、上記ステップS5において、図4中の最上段に示された、標準的な近視眼である40眼を対象とした統計情報から求めた各角膜表面形状(±0σ)、(−1σ)、(+1σ)を角膜表面ベース形状として設定し、上記ステップS6において、数5の第1項に示す回転対称の非球面形状の定義式をフィッティングしたところ、以下の数7を得た。かかる数7で定義される回転対称の非球面形状を、それぞれ、図4の第2段目にカラーマッピング表示する。
また、上記数7で定義される回転対称の非球面形状を、それぞれ、元の各対応する角膜表面形状に適用し、角膜表面形状として残った非球面形状(コーニック残差)を、図4中の第3段目にカラーマッピング表示する。
さらに、上記ステップS7において、±0σの角膜表面形状を角膜表面ベース形状として、上記数5の第2項に示す非回転対称の非球面形状の定義式であるゼルニケ多項式をフィッティングしたところ、以下の表4に示すゼルニケ係数を得た。なお、かかるゼルニケ多項式のフィッティングは、図4の最上段中央に示す角膜表面ベース形状を対象とするものであるが、実質的には、図4の第3段目中央に示すコーニック残差の非球面形状に対してゼルニケ多項式をフィッティングすると考えることもできる。また、本態様では、表4に示すとおり、ゼルニケ多項式における各係数Ciとして、i=1〜20,22〜26,30〜33,39〜41,49〜50,60のゼルニケ項の各係数を採用して、それらの各係数値を特定することによってフィッティングを行った。
かかる表4の各係数値を有するゼルニケ多項式(数6)で定義される非回転対称の非球面形状を、図4の第4段目にカラーマッピング表示する。このカラーマッピング表示されたゼルニケ面形状が、同図の第3段目中央にカラーマッピング表示されたコーニック残差と精度良く対応していることがわかる。それ故、このゼルニケ面形状を適用することで、コーニック残差が相殺され得、その結果、角膜表面における凹凸が殆ど解消され、僅かに0.1mm程度の高さ(Z軸方向)変化しか認められない程度に高度な形状フィッティングが、実現されることがわかる。このことは、図4の最下段中央に示された、コーニック残差にゼルニケ面を適用した結果の差分をカラーマッピング表示した結果からも確認することができる。
従って、ステップ5で設定した角膜表面ベース形状について、ステップ6で設定された回転対称の非球面形状(本態様ではコーニック形状)の定義式と、ステップ7で設定された非回転対称の非球面形状(本態様ではゼルニケ形状)の定義式とを用い、ステップS8において、それらの定義式を前記数5のように組み合わせることで、コンタクトレンズ装用の対象者である標準的な近視眼における角膜表面形状を精度良く且つ定型的な数式の組み合わせによって、比較的に簡易に特定することが可能になるのである。
また、標準的な近視眼を母集団として角膜表面形状の統計情報を取得した本態様では、図4の最上段に示された平均値(±0σ)と−1σおよび+1σの各角膜表面形状が大きく異ならないことを、各対応して定義された回転対称の非球面形状のカラーマッピング表示(図4の第2段の各表示)と非回転対称の非球面形状のカラーマッピング表示(図4の第3段の各表示)からも確認できる。そして、このことから、上述の如き選定された母集団を対象とした統計情報から取得した平均値やそれに近い表面形状をベース形状とし、かかるベース形状をコーニック形状とゼルニケ形状との組み合わせによって定義することで、対象とするユーザーの殆どの角膜表面形状に対応したレンズ後面の特定が可能であることがわかる。
因みに、上述の±0σの角膜表面形状を角膜表面ベース形状として回転対称面形状の定義式をフィッティングして残差(コーニック残差)を求める処理を、図4の上段左右の−1σと+1σの各角膜表面ベース形状に対して行った。それら−1σと+1σの各角膜表面ベース形状を対象として求められた回転対称面形状の定義式による表面形状を、図4の第2段左右にそれぞれカラーマッピング表示すると共に、それら定義式を角膜表面ベース形状に適用して得られたコーニック残差のカラーマッピング表示を、図4の第3段左右にそれぞれ示す。
かかる図4の第3段に示された3つのカラーマッピング表示から、角膜表面形状の統計情報として、平均値(±0σ)を対象に得られたコーニック残差が、−1σと+1σの何れの角膜表面ベース形状を対象に得られたコーニック残差とも、大きく違わないことがわかる。
かかる事実を考慮して、−1σと+1σの各角膜表面ベース形状に対して、何れも、平均値(±0σ)の角膜表面ベース形状を対象にステップS7で得られた前記表4の各係数で特定されるゼルニケ面(図4の第4段参照)を適用することにより、形状フィッティングを行った。その結果としての差分を、図4の最下段左右にそれぞれカラーマッピング表示する。
なお、このようにして図4の最下段左右にそれぞれカラーマッピング表示された結果は、ステップS5において統計情報に基づいて±0σの角膜表面形状に加えて−1σと+1σの各角膜表面形状を角膜表面ベース形状に設定し、ステップS6では、−1σと+1σの各角膜表面ベース形状毎にコーニックフィットを行って回転対称の非球面形状の定義式を各別に設定する一方、ステップS7では、±0σの角膜表面ベース形状を対象にゼルニケ係数を選定してゼルニケ多項式による非回転対称の非球面形状の定義式を設定したものである。
そして、それらステップ6で設定した−1σと+1σの各角膜表面ベース形状毎の回転対称の非球面形状の定義式と、ステップ7で設定した±0σの角膜表面ベース形状を対象にした非回転対称の非球面形状の定義式とを、続くステップS8において、前記数5に示すように組み合わせることによって、前述の平均値(±0σ)の角膜表面ベース形状だけを用いた場合に同様に、コンタクトレンズ装用の対象者である標準的な近視眼における角膜表面形状を良好に特定することができるのである。
従って、平均値(±0σ)の角膜表面ベース形状だけを用いて求められた角膜表面形状の他、上述のように−1σと+1σの各角膜表面ベース形状を用いて求められた角膜表面形状のものも、別のレンズ後面形状として採用して、各コンタクトレンズユーザーに対してコンタクトレンズを処方するに際して選択することができるように、併せて準備して市場に提供することも好適である。
上述の如きステップS4〜S8で設定された、角膜表面ベース形状に対応したレンズ後面形状は、コンタクトレンズ10のレンズ後面20の略全面に亘って採用することも可能であるが、本態様では、周辺部16においてのみ、角膜表面ベース形状に対応したレンズ後面形状を採用する。すなわち、周辺部においてのみ、角膜表面形状に対応したレンズ後面形状が採用された周辺ゾーンが設けられている。
これにより、光学部14では、複雑な非球面形状をレンズ後面20に設定することで目的とする装用感の向上効果を達成しつつ、光学特性への悪影響やレンズ前面18の設計および製作の煩雑化を回避することができる。しかも、周辺部16は、角膜上でのレンズ位置の安定化を図るものであり、角膜形状に対応したレンズ後面形状を設定することにより、角膜表面に接して重ね合わされた際の装用感の向上効果が大きい。一方、光学部14は、レンズ後面20が角膜から所定距離だけ浮いて角膜との間に涙液層が設けられた状態で装用することが可能であり、角膜表面形状との相違が装用感に与える影響が小さい。
具体的には、ステップ9において、ステップS3で設定された光学部14の形状と、ステップS4〜S8で設定されたレンズ後面20の形状を採用した周辺部16の形状とを併せて考慮して、コンタクトレンズ10のレンズ前後面18,20およびエッジ部17を含む全体形状のデザインを決定する。なお、より具体的なレンズデザインの決定手法としては、レンズ最小厚寸法を確保しつつ、レンズ前後面18,20における光学部14と周辺部16との境界部分や周辺部16とエッジ部17との境界部分に対して径方向に滑らかな曲線でつなぐ接続面が適宜に設けられたり、周辺部16のレンズ後面20の外周縁部からエッジ部17にかけて角膜表面から次第に離隔するエッジリフトが設けられる等、従来のレンズ面の設計手法が適宜に採用され得る。
そして、かかるステップ9で、目的とする光学特性を有すると共に、母集団の角膜表面形状に対応したレンズ後面20を備えたレンズ形状が具体的に決定されたら、続くステップS10において、決定されたレンズ形状を備えたコンタクトレンズを製作し、目的とするコンタクトレンズ10を得ることによって、コンタクトレンズ製作工程を完了する(ステップS11)。
ここにおいて、コンタクトレンズ10の製造は、ハードコンタクトレンズについて従来から公知のとおり、レンズ材料を重合させて製作したレンズブロック(ブランクス)から切り出して目的とする形状に切削および研磨する切削研磨法が採用可能であるが、その他、目的とするレンズ形状に対応する成形キャビティを備える成形型内に重合性モノマー混合液を充填し重合することで目的とするコンタクトレンズを製造するモールド重合法なども採用することができる。また、ソフトコンタクトレンズの場合には、切削研磨法やモールド重合法の他、スピンキャスト法などで製作することもできる。
このような本態様に従って製作されたコンタクトレンズ10は、特に装用感への影響が大きい周辺部16のレンズ後面20において、対象とするユーザー層の角膜表面に精度良く対応した形状が付与されている。このことは、例えば図4の最上段に示された、ユーザー層の平均(±0σ)の角膜表面形状や−σ、+σの範囲内の角膜表面形状まで、本態様によって提供されるコンタクトレンズ10のレンズ後面20との差分が0.1mm程度に抑えられていることからも明らかである。それ故、本態様によれば、各ユーザーの角膜表面形状を個人的に測定して各ユーザー毎に解析や対応形状のレンズ製作などといった非現実的な対応を必要とすることなく、レンズ後面20に対してある程度規格化された面形状を設定することで、良好な装用感を実現することが可能になる。
以上、本発明の実施形態の一態様を詳述したが、本発明はかかる態様に限定的に解釈されるものでない。
例えば、前記態様では、図4の最上段に示された平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とにおいて、同図第3段に示された非回転対称の非球面形状が大きく相違しないことに着目し、同図第4段に示される共通のゼルニケ面形状を適用したが、同図第2段に示された回転対称の非球面形状もそれ程大きくは相違しないことから、共通のコーニックフィット面形状を適用することも可能である。具体例を図7に示す。
すなわち、共通のコーニックフィット面として、平均(±0σ)の角膜表面形状を定義するRとC.C.を採用したコーニックフィット面を採用した場合の具体例が、図7に示されている。かかる図7において、最上段の3つのカラーマッピング表示は、前記態様における図4と同じであり、平均(±0σ)の角膜表面形状を定義して第2段にカラーマッピング表示されたコーニック面を、平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とにそれぞれ適用して得られた差分(コーニック残差)が第3段に示されている。
そして、図4の第3段に示された各コーニック残差をゼルニケ面形状で定義したフィッティング結果が、同図の第4段に示されていると共に、各コーニック係数が表5に示されている。なお、前記の図4に示された態様では、平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とに対して共通のゼルニケ面を適用したが、本態様では、各角膜表面形状毎にコーニック残差に対応するゼルニケ面形状を求めて定義した。さらに、それら各ゼルニケ面を各コーニック残差に適用した結果の差分(最終的な残差)が、同図の最下段に示されている。
図4の最下段に示されるように、共通のコーニックフィット面を採用した場合でも、−σ〜+σの領域内の角膜表面形状に対して、光軸方向の差が0.1mm程度に抑えられたレンズ後面20を備えたコンタクトレンズ10が提供可能となり、前記態様と同様な効果が発揮され得ることとなる。
また、図4に示された前記態様では、図4の最上段に示された平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とを対象として、レンズ後面20の形状フィッティングを行ったが、より広い形状範囲をカバーするように、例えば図8に示されているように、−2σ、+2σにおける各角膜表面形状も対象として、同様なレンズ後面20への形状設定を行い、コンタクトレンズ10を提供することも可能である。
すなわち、図8の最上段には、図4に示された平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とに加えて更に−2σ、+2σにおける各角膜表面形状がカラーマッピング表示されている。そして、これら−2σ、+2σにおける各角膜表面形状に対しても、図4に示された前記態様と同様なコーニックフィットを行って回転対称の非球面形状を定義(図8第2段)し、かかるコーニック面を適用した残差(図8第3段)に対して、平均(±0σ)の角膜表面形状について定義した共通のゼルニケ面(図8第4段)をフィッティングした。ゼルニケフィット結果として、各ゼルニケ係数の値を、表6に示す。更に、これら回転対称および非回転対称の非球面形状の定義式(コーニック面およびゼルニケ面)を、各角膜表面形状へ適用して残った残差を図8の最下段にカラーマッピング表示で示すが、−2σ〜+2σの領域内の何れの角膜表面形状に対しても、光軸方向の差が0.1mm程度に抑えられたレンズ後面20をコンタクトレンズ10に設定可能であることがわかる。
なお、上述の態様では、平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状、更に−2σ、+2σにおける各角膜表面形状を対象として、レンズ後面20の形状設定を行ったが、フィッティング対象とする角膜表面形状の統計情報は、それらに限定されるものでなく、例えばそれらの角膜表面形状に代えて又は加えて、−0.5σ、+0.5σや−1.5σ、+1.5σ等の各種の角膜表面形状をフィッティング対象として、レンズ後面20の形状設計を行うことも可能である。
そこにおいて、前記各態様に示された結果からも判るように、−2σ〜+2σの範囲内では、平均(±0σ)の角膜表面形状等の特定の角膜形状を対象として定義したコーニック形状やゼルニケ形状を共用して回転対称成分及び/又は非回転対称成分をフィッティング処理することができ、それによって、フィッティング精度を確保しつつ演算処理の簡略化を図ることも可能になる。
また、前記実施形態におけるステップS6の回転対称の非球面形状の定義式を設定する工程と、ステップS7の非回転対称の非球面形状の定義式を設定する工程は、各定義式を特定することができるかぎり、処理順序を反対にして何れの定義式から求めるようにしても良い。
更にまた、前記態様では、ゼルニケ多項式において特定のゼルニケ項だけを採用したが、他のゼルニケ項を追加して採用したり、何れかのゼルニケ項を削除して採用せずとも、本発明を実施することができる。そのようなゼルニケ項の選択は、要求される精度の他、処方対象とされる対象眼の角膜表面形状における統計上の特徴などに応じて適宜に行うことが可能である。尤も、回転対称や非回転対称の各非球面形状の定義式は、前記態様に記載のものに限定されることなく、公知の類似の定義式が適宜に採用可能である。
さらに、曲率半径とコーニック定数とゼルニケ面とによって特定された角膜表面形状に対応したレンズ内面形状は、コンタクトレンズ10の周辺部後面の少なくとも一部に設定されていれば良く、周辺部後面の全体に亘って設定されている必要はないし、周辺部16を越えて例えば光学部14の後面にまで設定されていても良い。
また、周辺ゾーンは、コンタクトレンズ10における周辺部16に一致して設定される必要はない。すなわち、周辺ゾーンは、「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域の少なくとも一部の径方向領域に設けられることが好適であるが、その場合でも「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域を内周側や外周側に越えて設けても良い。
加えて、光学部14の周囲に設けられた周辺部16のレンズ後面18において、非回転対称で且つ非トーリック形状の面からなる周辺ゾーンを設定するに際しては、かかる非回転対称で且つ非トーリック形状の面を、コンタクトレンズ10のレンズ後面20の50%以上の面積領域に設定することが望ましい。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10:コンタクトレンズ、14:光学部、16:周辺部、17:エッジ部、20:レンズ後面
本発明は、コンタクトレンズの製造方法およびコンタクトレンズに係り、特に人眼に重ね合わされるレンズ後面に特定の構成を付与せしめた、新規なコンタクトレンズの製造方法およびコンタクトレンズに関する。
従来から、近視や遠視、乱視、老視の矯正などを目的として、ソフトタイプやハードタイプの各種コンタクトレンズが提供されている。
ところで、このようなコンタクトレンズは、敏感な生体組織である角膜の表面に重ね合わせて装用される。それ故、コンタクトレンズには、装用者に適合した光学特性が要求されることに加えて、装用時の異物感を抑えて良好な装用感を実現することが要求される。
そして、角膜への刺激を軽減して良好な装用感を実現するために、コンタクトレンズを各個人へフィッティングする際には、複数設定されたレンズ後面のベースカーブのなかから装用者の角膜に対応した曲率半径を選択するようにされる。例えば多くの市販のディスポーザブルタイプのソフトコンタクトレンズでは、8.5mm〜9.0mmの範囲内で0.1mm毎のベースカーブの設定規格がある。
ところが、角膜表面形状は個人差があり、そのような規格のベースカーブでは十分に満足できる装用感を得難い場合もあった。特にハードコンタクトレンズでは、レンズ後面と角膜表面との形状相違が小さくても圧迫感が強くなって、装用感が問題になりやすい。また、ソフトコンタクトレンズでは、レンズ後面と角膜表面との相違が大きいと装用時の角膜上でのレンズ変位量が大きくなって見え方も低下してしまうおそれがある。
なお、単にコンタクトレンズのベースカーブを選定するよりも、コンタクトレンズ後面の角膜表面への形状フィッティングを高度に実現するために、特表2004−534964号公報(特許文献1)では、各個人毎に角膜形状を実測し、その測定結果に対応した形状を数学的記述して、レンズ後面形状に反映することによりオーダーメイドのコンタクトレンズを製造することが提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の如きオーダーメイドのコンタクトレンズの製造に際しては、レンズ使用者(装用者)毎に角膜表面形状を測定し、更に測定結果を忠実に反映したレンズ後面形状をもって各別にコンタクトレンズを設計および製作しなければならない。それ故、多大な労力と時間、費用が必要となり、実用化が極めて困難であった。
しかも、複雑な角膜形状の実測結果を数学的記述をもって表すことは困難であり、特許文献1に記載の発明は少なくとも実用性に乏しいと言わざるを得ない。仮に角膜の複雑な表面形状を数学的に表すことができたとしても、その数学的記述は極めて複雑で、具体的形状の把握や加工に際してどの数値をどの程度の精度で処理すれば良いか等といった数値の取り扱いが困難で、レンズ内面形状へ反映してコンタクトレンズを製作することが難しく、レンズ製作に際して必要となる時間や労力、技術の負担が極めて大きい。また、複雑な数学的記述によって表された面形状を実際のレンズ後面に形成しようとすると、加工誤差も大きくなり易いという問題がある。事実として、特許文献1の公開から略10年が経過した現在でも、特許文献1に記載の如きオーダーメイドのレンズ後面を有するコンタクトレンズが市場に提供されていないことからも、実用化が困難であることを理解できよう。
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、コンタクトレンズ装用者の角膜形状を反映したレンズ内面形状を、従来よりも簡便に、且つ、十分に精度の高い角膜形状の反映をもって付与することができ、それによって装用感の向上を可能とする、新規なコンタクトレンズの製造方法およびコンタクトレンズを提供することにある。
かかる課題を解決するために為された本発明の第一の態様は、処方対象とされる特徴を有する対象眼の母集団によって得られた角膜表面形状の統計情報を用いて、該統計情報から曲率半径およびコーニック定数の値を下式に従って設定することにより回転対称形状のフィッティングを行うと共に、かかる回転対称形状のフィッティングで残差となる非回転対称成分をゼルニケ面でフィッティングすることにより、前記対象眼の母集団に対応した角膜表面形状を特定し、該曲率半径と該コーニック定数と該ゼルニケ面とによって特定された該角膜表面形状に対応したレンズ内面形状を、コンタクトレンズの周辺ゾーンの内面において採用するコンタクトレンズの製造方法にある。
−2σにおけるR値 ≦ R ≦ +2σにおけるR値
−2σにおけるC.C.値 ≦ C.C. ≦ +2σにおけるC.C.値
ただし、
R:曲率半径
C.C.:コーニック定数
σ:標準偏差
前記「背景技術」欄に記載の状況下、各個人毎に相違するだけでなく数学的に一つのモデルとして特定するには複雑すぎる人眼の角膜形状について、本発明者が研究を重ねた結果、二つの基本的な技術思想を融合させることが有効であるとの知見を得たのであり、かかる知見に基づいて本発明が完成されたのである。
二つの基本的な技術思想のうちの一つが「統計情報の効率的な活用」であり、もう一つが「回転対称形状と非回転対称形状との組合せによるレンズ後面形状の設定」である。
すなわち、前者の「統計情報の効率的な活用」に関しては、コンタクトレンズで矯正等される人眼の角膜表面形状が、統計的に略正規分布の特徴を有していることを利用するものである。例えば、人眼の角膜表面形状は完全な球冠面でないことは良く知られており、その曲率分布について鼻側と耳側で相違する傾向にあることなども統計的に公知の事実である。このような角膜表面形状についての統計上の情報を利用することにより、特許文献1に記載の如き完全なオーダーメイドでの対応に比して、装用者の角膜表面形状をレンズ後面に反映する技術の実用化を効率的且つ現実的に達成するものである。
また、人眼の角膜表面形状について、全ての人眼を母集団とする他、例えば人眼の大きさや曲率半径等を考慮して年齢や人種などで特定した母集団のように角膜表面形状の特徴点の共通化が想定される範囲でターゲットを絞った母集団を対象とすることにより、角膜表面形状のフィッティング精度の向上が図られ得る。具体的には、例えばコンタクトレンズの処方対象とされる症例などに応じて、近視や遠視、老視、円錐角膜などによって対象眼を絞って、当該対象眼の母集団によって得られた統計情報を用いて、対象とする角膜の表面形状を統計的に絞ることが可能となる。このような母集団の絞り込みは、統計情報を解析等することにより対象眼の特徴を確認することができれば、必要に応じて適宜に採用することが可能であり、それにより、フィッティング精度の更なる向上が図られ得る。
次に、後者の「回転対称形状と非回転対称形状との組合せによるレンズ後面形状の設定」では、上述した前者の統計情報から得られた角膜形状をレンズ後面に反映して、母集団に含まれる各個人に適合するコンタクトレンズを製造することで、各個人へのレンズ後面のフィッティングを行うこととなる。その際、本発明では、回転対称形状の数学モデルと非回転対称形状の数学モデルとを組み合わせて採用することとし、且つ前者においてコーニック定数による適合調節手法を採用すると共に、後者においてゼルニケ面形状による適合調節手法を採用したのである。
特に、これら二種類の数学モデルを組み合わせて採用したことにより、比較的複雑となるゼルニケ面形状による非回転対称形状を有する角膜表面へのフィッティングに際しても、精度を確保しつつゼルニケ面形状を簡略化することが可能となって、容易に適合調節することを可能となし得た。また、例えばゼルニケ面形状による角膜表面形状の反映に誤差が含まれたとしても、コーニック係数による非球面の回転対称形状の反映により、ゼルニケ面形状誤差に起因する大きな誤差の発生が抑えられるのであり、二種類の数学モデルの相互補完的な作用によって、レンズ後面の数学モデルによるフィッティングに際しての品質の安定性が図られる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係るコンタクトレンズの製造方法において、前記ゼルニケ面を特定するゼルニケ多項式が、下式数1で示されるものであって且つ少なくともi=0〜20のゼルニケ項を含んでいるものを採用するものである。
本態様に従えば、i=0〜20のゼルニケ項を含むゼルニケ多項式を採用することで、角膜の表面形状のうち非回転対称成分を、より十分な精度をもって数学モデルとして把握して、レンズ後面の形状に反映することが可能になる。なお、ゼルニケ多項式において、より多くのゼルニケ項を採用することで、角膜の表面形状における非回転対称成分をより精度良く把握することが可能であり、その場合に好適には、i=0〜20のゼルニケ項に加えて、i=22〜26,30〜33,39〜41,49〜50,60のゼルニケ項が、すべて又は選択的に採用され得る。
ここにおいて、本発明の第三の態様は、前記第二の態様に係るコンタクトレンズの製造方法において、前記ゼルニケ面を特定する前記ゼルニケ多項式が、少なくともi=1〜20,22〜26,30〜33,39〜41,49〜50,60のゼルニケ項を含んでいるものである。本態様に従えば、角膜の表面形状における非回転対称成分を、一層精度良く且つ効率的に把握することが可能になる。
本発明の第四の態様は、前記第一〜三の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記対象眼の母集団における非回転対称成分をフィッティングする前記ゼルニケ面において、±0σにおける非回転対称成分をフィッティングする値をゼルニケ係数として採用するものである。
本態様に従えば、母集団の角膜表面形状の統計情報において非回転対称成分をあらわすゼルニケ面のゼルニケ係数について、かかる統計情報から得られる±0σの値を採用することで、母集団の角膜表面形状の非回転対称成分の特徴を平均的な一つのゼルニケ面によって効率的にとらえて、レンズ後面形状に反映させることが可能になる。
本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記回転対称形状のフィッティングを、下式数2を用いて行うものである。
本発明の前記第一の態様において、曲率半径とコーニック定数によって回転対称形状を特定できる非球面形状定義式としては、公知のものを何れも採用可能であり、例えば光軸方向にZ軸をとると共に、それと直交する方向にX軸とY軸をとり、Y軸をレンズ半径方向座標としてZ軸回りの回転体で非球面が定義されるとした場合に、YZ平面内の曲線の式として、+x側と−x側で同じ値をとるように偶数次数のべき級数多項式からなる偶関数を採用することができる。ここにおいて、本態様では、上記数2を採用することで、4次以上の高次の非球面形状を省略することで、比較的簡易な回転2次曲面を採用しつつ、曲率半径とコーニック定数によって非球面である角膜表面の回転対称形状を十分な精度をもって効率的に反映させた数学モデルを得ることが可能になる。
なお、回転対称の非球面形状を定義する数2で表されるYZ平面上の曲線式において、曲率半径RはZ軸上となる非球面の頂点における曲率半径を表すこととなり、Z座標値はレンズのサグ量に相当する。また、(x2 +y2 )は、座標原点となる非球面の頂点から曲線上の各点までの距離としても把握できる。そして、数2において、コーニック定数C.C.の値は、非球面であるからC.C.≠0とされ、C.C.=−1の場合に数2が放物線を表し、C.C.<−1の場合に数2が双曲線を表し、−1<C.C.<0の場合に数2がZ軸方向を長軸とする楕円線を表し、C.C.>0の場合に数2がZ軸方向を短軸とする楕円線を表すこととなる。
本発明の第六の態様は、前記第一〜五の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記対象眼における前記処方対象である特徴が近視とされるものである。
本態様に従えば、一般に需要が多く且つ眼軸長の成長などによって角膜形状に特徴も現れる傾向にある近視眼に対して、本発明方法を適用することで、角膜の表面形状に適合したレンズ後面を備えたコンタクトレンズを効率的に提供することが可能になり、その実用化により社会において利益を多くの者が享受することができる。
なお、第一の態様等に記載の本発明方法において対象となる母集団は、前述のように近視や遠視等の症例の他、人種、年齢、性別、体格などによって適宜に区分されて設定され得るが、母集団に対する悉皆調査で統計情報を取得する他、抽出されたサンプル(標本)による標本調査で母集団の統計情報を取得することもできる。また、サンプル抽出するに際して必要なサンプル数は、統計学の手法に基づき、要求される誤差や信頼度、分散の程度などを考慮して設定され得る。
本発明の第七の態様は、前記第六の態様に従って近視眼を対象として本発明を適用するコンタクトレンズの製造方法であって、前記曲率半径の値と、前記コーニック定数の値を、下式の範囲内において設定し、且つ、前記ゼルニケ面を特定する前記ゼルニケ多項式として以下の係数値の項を含むものを採用するものである。
−5.909mm ≦ R ≦ −6.701mm
−1.550 ≦ C.C. ≦ −1.885
P0 =−9.6845×10-4
P1 = 8.9965×10-6
P2 =−0.0011180
P3 =−1.3770×10-4
P4 = 0.0052355
P5 = 3.8193×10-4
P6 = 7.6195×10-6
P7 =−4.4347×10-6
P8 = 2.5460×10-5
P9 =−3.2957×10-6
P10= 9.3233×10-7
P11=−1.1110×10-6
P12=−8.9217×10-5
P13=−4.9545×10-6
P14= 3.9033×10-7
P15= 4.1580×10-9
P16=−9.6441×10-8
P17= 1.5186×10-7
P18= 4.4563×10-7
P19=−1.5916×10-8
P20=−1.1687×10-8
P22=−6.8005×10-10
P23= 6.2657×10-9
P24= 4.8416×10-7
P25= 2.0883×10-8
P26=−1.4009×10-9
P30= 1.7202×10-10
P31=−4.5331×10-10
P32=−2.8146×10-9
P33= 9.2066×10-11
P39=−9.3203×10-12
P40=−1.0670×10-9
P41=−2.7720×10-11
P49= 4.1354×10-13
P50= 3.7438×10-12
P60= 8.3784×10-13
本態様に従えば、特別な疾病や遺伝、著しい強度近視などいった特例を除いた標準的な近視眼というカテゴリーで区分される母集団を対象眼として、処方対象として想定される角膜の表面形状を絞ると共に、本発明者が予め取得した統計情報を利用したことにより、処方対象である眼の角膜の表面形状に精度良く適合するレンズ後面形状を備えたコンタクトレンズを、効率的に製造して市場に提供することができるのであり、また、それによって、眼科などにおける装用者への個別的なフィッティング処置も容易に行うことが可能になる。
本発明の第八の態様は、前記第一〜七の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記コンタクトレンズがハードタイプのコンタクトレンズとされるものである。
本態様に従えば、角膜の表面形状との相違が装用感への悪影響を及ぼしやすいハードタイプのコンタクトレンズにおいて、本発明方法を適用することにより、角膜の表面形状が良好な精度で反映されたレンズ後面を効率的に設定することが可能になる。その結果、装用感に優れたハードコンタクトレンズを市場に提供することの実用化も図られ得る。
本発明の第九の態様は、前記第一〜八の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記コンタクトレンズにおけるφ7mmよりも外周側で且つエッジ部内側1mmよりも内周側の領域の範囲内において、前記曲率半径と前記コーニック定数と前記ゼルニケ面とによって特定された前記角膜表面形状に対応したレンズ内面形状が採用された前記周辺ゾーンを設けるものである。
一般にコンタクトレンズは、眼光学系の光線透過領域であって矯正等の光学特性が設定されたレンズ中央部分の光学部と、その周囲を囲むように設けられて角膜上でのレンズ位置を安定的に設定する周辺部とを備えており、また、レンズ外周縁部には、レンズ前面と後面とをつなぐ表面形状のエッジ部が設けられている。ここにおいて、周辺部は、レンズを角膜上の所定位置へ保持等させるために一般に角膜表面に重ね合わされて装用されることから、略周辺部に位置するレンズ後面に対して、本態様に従って角膜形状を反映した形状設定が施された周辺ゾーンを設定することにより、レンズ装用感が一層効果的に向上され得ることとなる。
なお、本態様に従って角膜形状が反映されたレンズ後面を有する「周辺ゾーン」は、コンタクトレンズにおける周辺部に一致して設定される必要はない。特に周辺ゾーンは、「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域の全体に亘って設ける必要はなく、かかる領域の少なくとも一部の径方向領域に設けられていれば良いし、「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域を内周側又は外周側に越えて設けられていても良い。
尤も、光学部の領域は、要求される光学特性を有するレンズ面形状を付与するに際して角膜形状を反映すると設計や製造が困難になることから、光学部の領域を避けて周辺ゾーンを設定することが望ましく、好適にはφ6.0mm以上の領域に周辺ゾーンが設定される。また、周辺ゾーンの内周側の領域、特に光学部の領域は、レンズ後面に角膜形状を高度に反映させることなく、レンズ後面が角膜表面から僅かに離隔して両者の対向面間に涙液が充填された隙間が設定されることが望ましく、それにより、角膜表面形状が反映されていない光学部等のレンズ後面が装用状態で角膜に接触して装用感を低下させる不具合も軽減され得る。更にまた、周辺ゾーンの外周側の領域も、レンズ後面に角膜形状を高度に反映させることなく、レンズ外周端のエッジ部に向かって角膜から次第に大きく離隔するエッジリフトを設定することが望ましく、それにより、角膜とコンタクトレンズとの重ね合わせ面間に対する涙液交換の促進などの効果が享受され得る。
本発明の第十の態様は、前記第一〜九の何れかの態様に係るコンタクトレンズの製造方法であって、前記コンタクトレンズが光学部とその外周を囲む周辺部とを備えており、該周辺部において、前記曲率半径と前記コーニック定数と前記ゼルニケ面とによって特定された前記角膜表面形状に対応したレンズ内面形状が採用された前記周辺ゾーンを設けると共に、該光学部において、角膜との間に涙液充填されるクリアランスを設けるものである。
本態様に従えば、光学部では、装用状態でも角膜表面への接触が軽減又は回避されることから、本発明方法に従う角膜表面形状のレンズ後面への反映が為されていなくても装用感の低下が回避され得る一方、周辺部では、角膜表面形状が反映されたレンズ後面が付与されることで、装用状態で角膜表面に重ね合わされた際にも良好な装用感が達成され得る。
なお、光学部に設定される光学特性は、装用者の眼光学系に応じて適宜に設定されるものであり、例えば従来から公知の球面レンズ度数や円柱レンズ度数、多焦点レンズ度数などが適宜に設定され得る。すなわち、前記第一〜十の何れの態様に係るコンタクトレンズの製造方法においても、設定される光学特性に制限はなく、特にレンズ前面の形状は任意に設定することが可能であり、例えばプリズムバラストやダブルシンなどによる周方向位置決めのためのレンズ肉厚の設定も、レンズ前面の形状設定等によって採用することができる。
本発明の第十一の態様は、光学部の周囲に設けられた周辺部のレンズ後面において、下式数3および数4で表される形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる非回転対称で且つ非トーリック形状の面であって、且つ回転対称形状と非回転対称形状との組合せによる面からなる周辺ゾーンが設定されているコンタクトレンズを、特徴とする。
なお、本態様で採用する数3及び数4は、何れも、前記数1及び数2を用いて定義されるレンズ後面を更に限定的に特定する数式となっている。また、数3および数4式中、Ra=−5.909mm、C.C.a=−1.550、Rb=−6.701mm、C.C.b=−1.885である。更に、数3および数4の右辺の第2項はゼルニケ多項式であって、Ziはゼルニケ関数であり、Piとして、前記第七の態様に記載したP0 〜P20,P22〜P26,P30〜P33,P39〜P41,P49〜P50,P60の各値の標準ゼルニケ係数を含む。
本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、特別な疾病や遺伝、著しい強度近視などいった特例を除いた標準的な近視眼というカテゴリーで区分される母集団を対象眼として、本発明者が予め取得した統計情報に基づいて、装用者の眼の角膜の表面形状に精度良く適合するレンズ後面形状を備えたコンタクトレンズが、実現される。特に、数3及び数4では、二次項で表された右辺の第1項が、Z軸回りの回転2次曲面を表すYZ平面内の2次曲線の定義式であり、Σ項で表された右辺の第2項が、非回転対称でトーリック形状でもない自由曲面を表すゼルニケ関数Ziを含む多項式からなる定義式である。
これらの定義式に示されるように、本態様のコンタクトレンズでは、回転対称の非球面形状と、非回転対称の非球面形状とに分けて定義することにより、統計情報を効率的に且つ精度良く反映することができたのである。そして、XYZの直交3軸上において座標原点を光軸交点となるレンズ頂点として、形状関数Zaで定義される曲面と形状関数Zbで定義される曲面との間に挟まれた3次元空間内に位置する非球面形状をもって、周辺部のレンズ後面に設定することによって、特に近視眼の角膜の表面形状への適合性が高いレンズ後面が実現可能となるのである。
なお、本態様において、形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる面からなる周辺ゾーンが、周辺部の全体に亘って形成されている必要はない。例えば、周辺部において特に角膜への接触が問題となり易い特定の径方向部分だけに周辺ゾーンを設定することも可能である。また、周辺部を内周側や外周側に超えた領域にまで、形状関数Zaで定義される曲面と形状関数Zbで定義される曲面との間に挟まれた3次元空間内に位置する非球面形状をレンズ後面に設定することも可能である。
さらに、本発明の第十一の態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、以下に記載の第十二〜十五の態様が好適に採用され得る。
本発明の第十二の態様は、前記第十一の態様に係るコンタクトレンズであって、前記コンタクトレンズがハードタイプのコンタクトレンズとされているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、前記第八の態様で説明したように、装用感に優れたハードコンタクトレンズが実現可能となる等といった技術的効果が奏され得る。
本発明の第十三の態様は、前記第十一又は十二の態様に係るコンタクトレンズであって、前記形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる非回転対称で且つ非トーリック形状の面が設定された前記周辺ゾーンの内面が、前記コンタクトレンズにおけるφ7mmよりも外周側で且つエッジ部内側1mmよりも内周側の領域部分に設定されているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、前記第九の態様で説明したように、装用感に影響を与えやすい領域のレンズ後面に対して本発明に従って角膜形状を反映した形状設定を施した周辺ゾーンを設けることにより、レンズ装用感が一層効果的に向上され得る等といった技術的効果が奏され得る。
本発明の第十四の態様は、前記第十一〜十三の何れかの態様に係るコンタクトレンズであって、前記光学部の内面において、角膜を離隔して覆うクリアランス形成面が設定されているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、前記第十の態様で説明したように、光学特性と装用感の両立が容易に且つ効果的に達成可能になる等といった技術的効果が奏され得る。
本発明の第十五の態様は、前記第十一〜十四の何れかの態様に係るコンタクトレンズにおいて、形状関数ZaとZbの範囲内に含まれる非回転対称で且つ非トーリック形状の面が、前記コンタクトレンズの内面の50%以上の面積領域に設定されているものである。本態様に従う構造とされたコンタクトレンズでは、角膜表面に対して対応した形状をもって重ね合わされるレンズ後面が50%以上の面積領域に設定されることで、コンタクトレンズの装用状態の位置安定性が装用感の低下を伴うことなく達成され得る等といった技術的効果が奏され得る。なお、より好適には、角膜表面に対して対応した形状をもって重ね合わされるレンズ後面が、コンタクトレンズのレンズ後面全体の60%以上の面積領域に設定される。
本発明の第一の態様に従えば、「統計情報の効率的な活用」と「回転対称形状と非回転対称形状との組合せによるレンズ後面形状の設定」との技術思想を融合させることで、大きな誤差等を抑えつつ、角膜表面形状をレンズ後面に対して数学モデルを用いて効率的に適合反映させることが可能となる。これにより、各装用者の角膜表面形状を実用レベルで十分に反映して、レンズ後面の精度と適合性をもったコンタクトレンズを、各装用者に対して効率的に提供することが可能になる。
また、本発明の第十一の態様では、統計情報に基づく特定の形状関数で定義される3次元空間内にレンズ後面形状が設定されることにより、特に近視眼の角膜の表面形状への適合性が高いレンズ後面を有するコンタクトレンズが実現され得る。
本発明方法に従って製造されるコンタクトレンズの一例を示す正面図。
図1のII−II断面図。
図1に示されている如きコンタクトレンズの本発明方法に従う製造方法の一例を示すフローチャート。
本発明方法に従うコンタクトレンズの製造方法の一態様として、角膜表面形状とそれに適用される回転対称および非回転対称の各定義式を、フィッティング後の残差と併せて示すカラーマッピングの説明図。
図1に示したコンタクトレンズのレンズ後面の形状を本発明に従って定義するための座標系を示す説明図。
本発明方法で好適に用いられ得るゼルニケ関数式における各成分をマッピング表示した説明図。
本発明方法に従うコンタクトレンズの製造方法の別態様として、角膜表面形状とそれに適用される回転対称および非回転対称の各定義式を、フィッティング後の残差と併せて示すカラーマッピングの説明図。
本発明方法に従うコンタクトレンズの製造方法の更に別の態様として、角膜表面形状とそれに適用される回転対称および非回転対称の各定義式を、フィッティング後の残差と併せて示すカラーマッピングの説明図。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1および図2に、本発明が適用されるコンタクトレンズ10の一般的な構造が示されている。即ち、コンタクトレンズ10は全体として薄肉の略球冠形状を有しており、眼球の角膜の表面に重ね合わされて装用されるようになっている。
本発明の対象となるコンタクトレンズ10は、ソフトタイプのコンタクトレンズとハードタイプのコンタクトレンズの何れでも良く、中央が硬質で周囲が軟質の複合タイプのコンタクトレンズであっても良いし、また、一日や一週間などといった短期の使用期限が定められた使い捨てタイプのコンタクトレンズであっても良い。レンズ材質も何等限定されるものでない。レンズ外径寸法(DIA)も、従来と同様に設定され得、例えばハードタイプで8.0〜10.0mm、ソフトタイプで10.0〜15.0mmなどといった範囲に設定され得る。
また、かかるコンタクトレンズ10は、レンズ中心軸12が光軸とされており、図1に示す正面視(軸方向視)でレンズ中心軸12を中心とする略円形状を有している。さらに、レンズ中心軸12との交点であるレンズ頂点を含むコンタクトレンズ10の中央領域には、視力矯正のための適当なレンズ度数が設定された光学部(optical zone)14が形成されている。光学部14は、図1に示す正面視(軸方向視)において、レンズ中心軸12を中心とする円形状とされている。また、コンタクトレンズ10において、光学部14を全周に亘って囲む外周領域には、略円環形状の周辺部(peripheral zone)16が形成されている。なお、周辺部16の外周側の所定幅領域には、レンズ後面18に対してエッジリフトが付されていても良い。また、周辺部16の外周縁部には、レンズ前後面18,20をつなぐエッジ部17が設けられている。
なお、光学部14は、装用状態で人眼の光学系に対して光学作用を及ぼす領域であって、その外周縁部、換言すると周辺部16との境界は、一般に、角膜と反対側に位置するレンズ前面18および角膜側に位置するレンズ後面20においてそれぞれ縦断面上での曲率の変化点としてとらえることができる。しかし、例えば、光学部14のレンズ面が半径方向で漸変するような縦断面形状で設計される場合や、境界が径方向に所定幅をもって形成されてレンズ前面18とレンズ後面20の間で光学部14と周辺部16を滑らかに繋ぐ接続領域等によって形成される場合なども多い。そのような場合を含んで、レンズ前面18およびレンズ後面20における光学部14と周辺部16の境界は、形状的に線(line)として必ずしも明確である必要はない。
このようなコンタクトレンズ10の本発明に従って、コンタクトレンズユーザーである装用者の角膜の表面形状を反映したレンズ後面20を備えたコンタクトレンズ10を製造する方法の一つの具体的態様を、図3のフローチャートに従って説明する。
先ず、ステップS1において開始後、ステップS2において、コンタクトレンズ10の処方対象とされる装用者の光学特性を設定する。具体的には、例えば成人近視のユーザーを目的の装用者として、近視矯正用の光学特性を設定したり、初期老眼のユーザーを目的の装用者として、初期老視矯正用の光学特性を設定したりすることとなる。
そして、ステップS2で設定された光学特性に応じて、ステップS3において、光学部14の形状を設定する。具体的な光学部14の形状設定は、光線追跡法に基づく光学シミュレーションソフト、例えば「ZEMAX」(商品名)などを用いて行うことが可能である。
本態様のように、成人の標準的な近視眼を対象として近視矯正用コンタクトレンズを製作するに際しては、従来からの近視矯正用コンタクトレンズと同様に、近視矯正度数(Power)とベースカーブ(B.C)、レンズ径(DIA)を、それぞれ想定範囲内で複数段階に異ならせて市場に提供できるように、複数種類の光学部14の形状が設定される。そして、各設定形状の光学部14を備えたコンタクトレンズが、シリーズとしてセット状態で市場に提供され、かかるシリーズの中から、各装用者に最適なコンタクトレンズが選択的に提供され得るようにされる。
このような光学部14の形状設定とは別に、ステップS4では、処方対象とされる特徴を有する対象眼の母集団を選定し、この母集団を対象として角膜の表面形状の統計情報を取得する。処方対象とされる特徴は、コンタクトレンズ10の提供対象ユーザーに応じて設定されるものであり、例えば人眼の全体を母集団とすることも可能であるが、より好適には、成人の近視の矯正用コンタクトレンズを提供する場合には成人の近視の母集団を選定し、老視の矯正用コンタクトレンズを提供する場合には老視の母集団を選定することが望ましい。
そのような眼光学系の光学特性の相違によって角膜表面形状に統計的な特徴がみられる傾向があるからである。尤も、そのような光学特性の相違を母集団選定の指標とすることが必須ではなく、小児や老人などの処方対象で角膜表面形状が相違することを重要視する必要がある場合には、年齢条件を特徴として母集団が選定され得るし、人種なども同様に母集団の特徴となり得る。また、複数の特徴を組み合わせて母集団を選定することも可能である。
なお、このような母集団を対象として、角膜表面形状を取得するには、例えば光トポグラファー(前眼部3次元光干渉断層計、OCT)やレフケラトメーター等として市販もされている角膜形状の測定装置を用いて光学的に非接触で角膜表面形状を直接に測定することも可能である。或いは、角膜の表面を型取りして写し取ることで角膜表面形状を模型等で再現して、当該模型の面形状をレーザー光等で測定することも可能である。現時点における角膜表面形状測定装置の精度や測定範囲などを考慮すると、後者の、人眼角膜表面を直接に型取りして測定することが、精度的には望ましい。
得られた母集団の角膜表面形状は、統計的手法で処理される。即ち、例えば近視眼を母集団とした場合に全ての近視眼の角膜表面形状を取得することも可能ではあるが、非現実的であるから、かかる母集団から抽出した適数の標本調査の結果から、平均化等の処理を施すことで角膜表面形状の統計情報を得ることができる。
かかる角膜表面形状の統計情報の取得は、本態様では、ステップS5において実行される。ここにおいて、母集団の角膜表面形状を対象とした統計情報は、例えば平均値として、角膜における各位置の高さ情報として数値で把握することが可能であり、径方向や周方向或いは面方向において各位置が連続した線又は面の形状として数式で把握することも可能である。そして、統計情報としては、角膜における各位置が、例えば光軸に直交するXY平面上で高さを表すZ値で表される場合に、各位置におけるZ値が略正規分布するものとして、各位置の相加平均などの平均値や最頻値、中央値などの代表値をつなぐ形状を角膜形状の平均値として採用することができる。また、角膜表面形状の統計情報として、平均値としての角膜表面の形状情報のほか、標準偏差(σ,Sigma)や分散などの統計データも併せて取得することが望ましい。
角膜表面形状の統計情報の具体例として、本発明者らが取得した成人120眼の角膜表面形状のなかから、本態様が対象とする標準的な近視眼である40眼についてのデータを、図4中の最上段に、カラーマッピング表示して示す。かかる統計情報は、人眼の角膜表面形状を直接に写し取った型をレーザー光を用いて3次元計測して得られた測定データに基づいて、統計処理によって得られた直径20mmの角膜表面形状の平均値(±0σ)を示すものであり、同様に−σおよび+σにおける各位置をつないだ角膜表面形状も、併せてカラーマッピング表示して示す。±0σの角膜表面形状に比して、−σの角膜表面形状では曲率が僅かに大きくなっている一方、+σの角膜表面形状では曲率が僅かに小さくなっていることが認められる。なお、本態様において「角膜」は、コンタクトレンズが重ね合わされて装用される人眼の領域であって、対象とするコンタクトレンズの種類や大きさによっては、角膜の外周より外側の鞏膜の範囲までも含む。また、図4の各カラーマッピング表示において、上下方向が角膜上下方向に相当し、左右方向のうちNasal側が鼻側に相当する。
そして、ステップS5で得た角膜表面形状の統計情報を用いて、それに適合するレンズ後面20の形状を設定するには、形状を具体的に特定することができ且つ差分演算等に際しての活用性に優れることから、形状を定義する特定の数式として取得することが望ましい。しかしながら、角膜表面形状は非常に複雑であることから、例えば非回転対称形状を特定することができるゼルニケ面として一つの数式で定義しようとすると数式自体が複雑になり、その演算等の後処理に際しての取り扱いも難しくなってしまう。
ここにおいて、本態様では、角膜表面形状を、回転対称の非球面形状を定義し得る数式と、非回転対称の非球面形状を提示し得る数式とを、互いに組み合わせて定義することとした。そして、前者の回転対称形状の定義式としては、曲率半径とコーニック定数とによって形状の特徴を反映することができる数式を採用する一方、後者の非回転対称形状の定義式としては、ゼルニケ面を表す数式を採用した。
より具体的には、本態様では、ステップS6において、前者の定義式として、公知の回転対称の非球面定義式である偶数次のべき級数多項式を採用し、ステップS5で得た角膜表面形状の統計情報に適合するレンズ後面20の形状のうち、回転対称の非球面形状を設定した。また、ステップS7において、後者の定義式として、公知の非回転対称の波面定義式であるゼルニケ多項式を採用し、ステップS5で得た角膜表面形状の統計情報に適合するレンズ後面20の形状のうち、非回転対称の非球面形状を設定した。そして、続くステップS8において、前者と後者の両定義式を合算して、前者の数式で定義される回転2次曲面上に後者の数式で提示される波面を重ね合わせることによって、角膜表面形状を定義することとした。
本態様で採用した具体的な角膜表面形状の定義式を以下の数5に示す。
上記数5は、図5に示すように、直交3軸の座標系において、原点0を頂点として表される角膜表面Aの形状を定義するものであり、右辺の第1項の非球面多項式(Conic Formula)と第2項のゼルニケ多項式(Zernike Polynomial Formula)との和で表されている。
第1項の非球面多項式は、公知の非球面レンズの形状定義式である偶数次のべき級数多項式であって、本態様では4次以降の高次項を省略して球面をベースとする2次項のみを採用した。前記ステップS6においてかかる非球面多項式を利用することにより、YZ平面内の円錐曲線を定義し、かかる円錐曲線のZ軸回りの回転対称形状として、角膜表面形状のうち回転対称形状を特定することができる。
第2項のゼルニケ多項式は、ゼルニケ円形多項式とも言われ、良く知られているように単位円内の数値分布を表すものであり、例えばXY平面上におけるZ軸方向の位置分布を数値分布として特定することとして、前記ステップS7においてかかるゼルニケ多項式を本態様で用いることができる。
本態様では、ステップS5で設定された角膜表面ベース形状に対して、ステップS6で設定された回転対称の非球面形状に対して前記数5の第1項の定義式を適用した結果、かかる第1項の定義式に反映されずに残差として残った非回転対称の形状成分を定義するゼルニケ多項式を、ステップS7で求めて、それを数5の第2項の定義式とするように、把握することもできる。
具体的なゼルニケ多項式としては、極座標系の関数として表される以下の数6を、本態様において採用する。
この数6に示されたゼルニケ多項式では、2つの整数n,mの値で各項が指定され得、整数nが放射方向の多項式の次数を示し、整数mが回転方向の波の数を示すこととなるが、これらn、mを用いて面形状のモードを特定することができる。各項のゼルニケ関数を、極座標値で表1〜表3に示すと共に、直交3軸座標値で表1に併せ示す。なお、極座標系において位置を表すρは半径rを用いて(r/rmax )で表される動径であり、θは回転角であり、直交座標系では√(x2 +y2 )およびtan-1(y/x)とされる。また、ゼルニケ多項式で表される各モードの数値分布を、カラーマッピングで表示した結果を、参考のために図6に示す。
すなわち、ステップS6において、上記数5における第1項の非球面多項式を用いて、ステップS5で母集団の角膜統計情報から得られた角膜表面形状に対応するR(頂点の曲率半径)とC.C.(コーニック定数)を選定することにより、回転対称面形状の定義式を設定する。また、ステップS7において、上記数6におけるゼルニケ多項式を用いて、ステップS5で母集団の角膜統計情報から得られた角膜表面形状の残差成分を表すゼルニケ係数を選定することにより、非回転対称面形状の定義式を設定する。
因みに、上記ステップS5において、図4中の最上段に示された、標準的な近視眼である40眼を対象とした統計情報から求めた各角膜表面形状(±0σ)、(−1σ)、(+1σ)を角膜表面ベース形状として設定し、上記ステップS6において、数5の第1項に示す回転対称の非球面形状の定義式をフィッティングしたところ、以下の数7を得た。かかる数7で定義される回転対称の非球面形状を、それぞれ、図4の第2段目にカラーマッピング表示する。
また、上記数7で定義される回転対称の非球面形状を、それぞれ、元の各対応する角膜表面形状に適用し、角膜表面形状として残った非球面形状(コーニック残差)を、図4中の第3段目にカラーマッピング表示する。
さらに、上記ステップS7において、±0σの角膜表面形状を角膜表面ベース形状として、上記数5の第2項に示す非回転対称の非球面形状の定義式であるゼルニケ多項式をフィッティングしたところ、以下の表4に示すゼルニケ係数を得た。なお、かかるゼルニケ多項式のフィッティングは、図4の最上段中央に示す角膜表面ベース形状を対象とするものであるが、実質的には、図4の第3段目中央に示すコーニック残差の非球面形状に対してゼルニケ多項式をフィッティングすると考えることもできる。また、本態様では、表4に示すとおり、ゼルニケ多項式における各係数Ciとして、i=0〜20,22〜26,30〜33,39〜41,49〜50,60のゼルニケ項の各係数を採用して、それらの各係数値を特定することによってフィッティングを行った。
かかる表4の各係数値を有するゼルニケ多項式(数6)で定義される非回転対称の非球面形状を、図4の第4段目にカラーマッピング表示する。このカラーマッピング表示されたゼルニケ面形状が、同図の第3段目中央にカラーマッピング表示されたコーニック残差と精度良く対応していることがわかる。それ故、このゼルニケ面形状を適用することで、コーニック残差が相殺され得、その結果、角膜表面における凹凸が殆ど解消され、僅かに0.1mm程度の高さ(Z軸方向)変化しか認められない程度に高度な形状フィッティングが、実現されることがわかる。このことは、図4の最下段中央に示された、コーニック残差にゼルニケ面を適用した結果の差分をカラーマッピング表示した結果からも確認することができる。
従って、ステップ5で設定した角膜表面ベース形状について、ステップ6で設定された回転対称の非球面形状(本態様ではコーニック形状)の定義式と、ステップ7で設定された非回転対称の非球面形状(本態様ではゼルニケ形状)の定義式とを用い、ステップS8において、それらの定義式を前記数5のように組み合わせることで、コンタクトレンズ装用の対象者である標準的な近視眼における角膜表面形状を精度良く且つ定型的な数式の組み合わせによって、比較的に簡易に特定することが可能になるのである。
また、標準的な近視眼を母集団として角膜表面形状の統計情報を取得した本態様では、図4の最上段に示された平均値(±0σ)と−1σおよび+1σの各角膜表面形状が大きく異ならないことを、各対応して定義された回転対称の非球面形状のカラーマッピング表示(図4の第2段の各表示)と非回転対称の非球面形状のカラーマッピング表示(図4の第3段の各表示)からも確認できる。そして、このことから、上述の如き選定された母集団を対象とした統計情報から取得した平均値やそれに近い表面形状をベース形状とし、かかるベース形状をコーニック形状とゼルニケ形状との組み合わせによって定義することで、対象とするユーザーの殆どの角膜表面形状に対応したレンズ後面の特定が可能であることがわかる。
因みに、上述の±0σの角膜表面形状を角膜表面ベース形状として回転対称面形状の定義式をフィッティングして残差(コーニック残差)を求める処理を、図4の上段左右の−1σと+1σの各角膜表面ベース形状に対して行った。それら−1σと+1σの各角膜表面ベース形状を対象として求められた回転対称面形状の定義式による表面形状を、図4の第2段左右にそれぞれカラーマッピング表示すると共に、それら定義式を角膜表面ベース形状に適用して得られたコーニック残差のカラーマッピング表示を、図4の第3段左右にそれぞれ示す。
かかる図4の第3段に示された3つのカラーマッピング表示から、角膜表面形状の統計情報として、平均値(±0σ)を対象に得られたコーニック残差が、−1σと+1σの何れの角膜表面ベース形状を対象に得られたコーニック残差とも、大きく違わないことがわかる。
かかる事実を考慮して、−1σと+1σの各角膜表面ベース形状に対して、何れも、平均値(±0σ)の角膜表面ベース形状を対象にステップS7で得られた前記表4の各係数で特定されるゼルニケ面(図4の第4段参照)を適用することにより、形状フィッティングを行った。その結果としての差分を、図4の最下段左右にそれぞれカラーマッピング表示する。
なお、このようにして図4の最下段左右にそれぞれカラーマッピング表示された結果は、ステップS5において統計情報に基づいて±0σの角膜表面形状に加えて−1σと+1σの各角膜表面形状を角膜表面ベース形状に設定し、ステップS6では、−1σと+1σの各角膜表面ベース形状毎にコーニックフィットを行って回転対称の非球面形状の定義式を各別に設定する一方、ステップS7では、±0σの角膜表面ベース形状を対象にゼルニケ係数を選定してゼルニケ多項式による非回転対称の非球面形状の定義式を設定したものである。
そして、それらステップ6で設定した−1σと+1σの各角膜表面ベース形状毎の回転対称の非球面形状の定義式と、ステップ7で設定した±0σの角膜表面ベース形状を対象にした非回転対称の非球面形状の定義式とを、続くステップS8において、前記数5に示すように組み合わせることによって、前述の平均値(±0σ)の角膜表面ベース形状だけを用いた場合に同様に、コンタクトレンズ装用の対象者である標準的な近視眼における角膜表面形状を良好に特定することができるのである。
従って、平均値(±0σ)の角膜表面ベース形状だけを用いて求められた角膜表面形状の他、上述のように−1σと+1σの各角膜表面ベース形状を用いて求められた角膜表面形状のものも、別のレンズ後面形状として採用して、各コンタクトレンズユーザーに対してコンタクトレンズを処方するに際して選択することができるように、併せて準備して市場に提供することも好適である。
上述の如きステップS4〜S8で設定された、角膜表面ベース形状に対応したレンズ後面形状は、コンタクトレンズ10のレンズ後面20の略全面に亘って採用することも可能であるが、本態様では、周辺部16においてのみ、角膜表面ベース形状に対応したレンズ後面形状を採用する。すなわち、周辺部においてのみ、角膜表面形状に対応したレンズ後面形状が採用された周辺ゾーンが設けられている。
これにより、光学部14では、複雑な非球面形状をレンズ後面20に設定することで目的とする装用感の向上効果を達成しつつ、光学特性への悪影響やレンズ前面18の設計および製作の煩雑化を回避することができる。しかも、周辺部16は、角膜上でのレンズ位置の安定化を図るものであり、角膜形状に対応したレンズ後面形状を設定することにより、角膜表面に接して重ね合わされた際の装用感の向上効果が大きい。一方、光学部14は、レンズ後面20が角膜から所定距離だけ浮いて角膜との間に涙液層が設けられた状態で装用することが可能であり、角膜表面形状との相違が装用感に与える影響が小さい。
具体的には、ステップ9において、ステップS3で設定された光学部14の形状と、ステップS4〜S8で設定されたレンズ後面20の形状を採用した周辺部16の形状とを併せて考慮して、コンタクトレンズ10のレンズ前後面18,20およびエッジ部17を含む全体形状のデザインを決定する。なお、より具体的なレンズデザインの決定手法としては、レンズ最小厚寸法を確保しつつ、レンズ前後面18,20における光学部14と周辺部16との境界部分や周辺部16とエッジ部17との境界部分に対して径方向に滑らかな曲線でつなぐ接続面が適宜に設けられたり、周辺部16のレンズ後面20の外周縁部からエッジ部17にかけて角膜表面から次第に離隔するエッジリフトが設けられる等、従来のレンズ面の設計手法が適宜に採用され得る。
そして、かかるステップ9で、目的とする光学特性を有すると共に、母集団の角膜表面形状に対応したレンズ後面20を備えたレンズ形状が具体的に決定されたら、続くステップS10において、決定されたレンズ形状を備えたコンタクトレンズを製作し、目的とするコンタクトレンズ10を得ることによって、コンタクトレンズ製作工程を完了する(ステップS11)。
ここにおいて、コンタクトレンズ10の製造は、ハードコンタクトレンズについて従来から公知のとおり、レンズ材料を重合させて製作したレンズブロック(ブランクス)から切り出して目的とする形状に切削および研磨する切削研磨法が採用可能であるが、その他、目的とするレンズ形状に対応する成形キャビティを備える成形型内に重合性モノマー混合液を充填し重合することで目的とするコンタクトレンズを製造するモールド重合法なども採用することができる。また、ソフトコンタクトレンズの場合には、切削研磨法やモールド重合法の他、スピンキャスト法などで製作することもできる。
このような本態様に従って製作されたコンタクトレンズ10は、特に装用感への影響が大きい周辺部16のレンズ後面20において、対象とするユーザー層の角膜表面に精度良く対応した形状が付与されている。このことは、例えば図4の最上段に示された、ユーザー層の平均(±0σ)の角膜表面形状や−σ、+σの範囲内の角膜表面形状まで、本態様によって提供されるコンタクトレンズ10のレンズ後面20との差分が0.1mm程度に抑えられていることからも明らかである。それ故、本態様によれば、各ユーザーの角膜表面形状を個人的に測定して各ユーザー毎に解析や対応形状のレンズ製作などといった非現実的な対応を必要とすることなく、レンズ後面20に対してある程度規格化された面形状を設定することで、良好な装用感を実現することが可能になる。
以上、本発明の実施形態の一態様を詳述したが、本発明はかかる態様に限定的に解釈されるものでない。
例えば、前記態様では、図4の最上段に示された平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とにおいて、同図第3段に示された非回転対称の非球面形状が大きく相違しないことに着目し、同図第4段に示される共通のゼルニケ面形状を適用したが、同図第2段に示された回転対称の非球面形状もそれ程大きくは相違しないことから、共通のコーニックフィット面形状を適用することも可能である。具体例を図7に示す。
すなわち、共通のコーニックフィット面として、平均(±0σ)の角膜表面形状を定義するRとC.C.を採用したコーニックフィット面を採用した場合の具体例が、図7に示されている。かかる図7において、最上段の3つのカラーマッピング表示は、前記態様における図4と同じであり、平均(±0σ)の角膜表面形状を定義して第2段にカラーマッピング表示されたコーニック面を、平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とにそれぞれ適用して得られた差分(コーニック残差)が第3段に示されている。
そして、図7の第3段に示された各コーニック残差をゼルニケ面形状で定義したフィッティング結果が、同図の第4段に示されていると共に、各ゼルニケ係数が表5に示されている。なお、前記の図4に示された態様では、平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とに対して共通のゼルニケ面を適用したが、本態様では、各角膜表面形状毎にコーニック残差に対応するゼルニケ面形状を求めて定義した。さらに、それら各ゼルニケ面を各コーニック残差に適用した結果の差分(最終的な残差)が、同図の最下段に示されている。
図7の最下段に示されるように、共通のコーニックフィット面を採用した場合でも、−σ〜+σの領域内の角膜表面形状に対して、光軸方向の差が0.1mm程度に抑えられたレンズ後面20を備えたコンタクトレンズ10が提供可能となり、前記態様と同様な効果が発揮され得ることとなる。
また、図4に示された前記態様では、図4の最上段に示された平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とを対象として、レンズ後面20の形状フィッティングを行ったが、より広い形状範囲をカバーするように、例えば図8に示されているように、−2σ、+2σにおける各角膜表面形状も対象として、同様なレンズ後面20への形状設定を行い、コンタクトレンズ10を提供することも可能である。
すなわち、図8の最上段には、図4に示された平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状とに加えて更に−2σ、+2σにおける各角膜表面形状がカラーマッピング表示されている。そして、これら−2σ、+2σにおける各角膜表面形状に対しても、図4に示された前記態様と同様なコーニックフィットを行って回転対称の非球面形状を定義(図8第2段)し、かかるコーニック面を適用した残差(図8第3段)に対して、平均(±0σ)の角膜表面形状について定義した共通のゼルニケ面(図8第4段)をフィッティングした。ゼルニケフィット結果として、各ゼルニケ係数の値を、表6に示す。更に、これら回転対称および非回転対称の非球面形状の定義式(コーニック面およびゼルニケ面)を、各角膜表面形状へ適用して残った残差を図8の最下段にカラーマッピング表示で示すが、−2σ〜+2σの領域内の何れの角膜表面形状に対しても、光軸方向の差が0.1mm程度に抑えられたレンズ後面20をコンタクトレンズ10に設定可能であることがわかる。
なお、上述の態様では、平均(±0σ)の角膜表面形状と−σ、+σにおける各角膜表面形状、更に−2σ、+2σにおける各角膜表面形状を対象として、レンズ後面20の形状設定を行ったが、フィッティング対象とする角膜表面形状の統計情報は、それらに限定されるものでなく、例えばそれらの角膜表面形状に代えて又は加えて、−0.5σ、+0.5σや−1.5σ、+1.5σ等の各種の角膜表面形状をフィッティング対象として、レンズ後面20の形状設計を行うことも可能である。
そこにおいて、前記各態様に示された結果からも判るように、−2σ〜+2σの範囲内では、平均(±0σ)の角膜表面形状等の特定の角膜形状を対象として定義したコーニック形状やゼルニケ形状を共用して回転対称成分及び/又は非回転対称成分をフィッティング処理することができ、それによって、フィッティング精度を確保しつつ演算処理の簡略化を図ることも可能になる。
また、前記実施形態におけるステップS6の回転対称の非球面形状の定義式を設定する工程と、ステップS7の非回転対称の非球面形状の定義式を設定する工程は、各定義式を特定することができるかぎり、処理順序を反対にして何れの定義式から求めるようにしても良い。
更にまた、前記態様では、ゼルニケ多項式において特定のゼルニケ項だけを採用したが、他のゼルニケ項を追加して採用したり、何れかのゼルニケ項を削除して採用せずとも、本発明を実施することができる。そのようなゼルニケ項の選択は、要求される精度の他、処方対象とされる対象眼の角膜表面形状における統計上の特徴などに応じて適宜に行うことが可能である。尤も、回転対称や非回転対称の各非球面形状の定義式は、前記態様に記載のものに限定されることなく、公知の類似の定義式が適宜に採用可能である。
さらに、曲率半径とコーニック定数とゼルニケ面とによって特定された角膜表面形状に対応したレンズ内面形状は、コンタクトレンズ10の周辺部後面の少なくとも一部に設定されていれば良く、周辺部後面の全体に亘って設定されている必要はないし、周辺部16を越えて例えば光学部14の後面にまで設定されていても良い。
また、周辺ゾーンは、コンタクトレンズ10における周辺部16に一致して設定される必要はない。すなわち、周辺ゾーンは、「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域の少なくとも一部の径方向領域に設けられることが好適であるが、その場合でも「φ7mm〜エッジ部内側1mm」の領域を内周側や外周側に越えて設けても良い。
加えて、光学部14の周囲に設けられた周辺部16のレンズ後面18において、非回転対称で且つ非トーリック形状の面からなる周辺ゾーンを設定するに際しては、かかる非回転対称で且つ非トーリック形状の面を、コンタクトレンズ10のレンズ後面20の50%以上の面積領域に設定することが望ましい。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10:コンタクトレンズ、14:光学部、16:周辺部、17:エッジ部、20:レンズ後面