この発明に係る生体インプラントは、マクロ気孔を形成するマクロ気孔骨格部と、前記マクロ気孔よりも気孔径の小さいミクロ気孔を形成するミクロ気孔骨格部とを有し、前記マクロ気孔骨格部は実質的に気孔を含まず、前記ミクロ気孔骨格部は前記マクロ気孔骨格部の表面に設けられ、前記マクロ気孔骨格部と前記ミクロ気孔骨格部とは同一のエンジニアリングプラスチックにより形成され、前記マクロ気孔骨格部は単一材料からなる。
(第1の実施態様)
以下において、図1及び2を参照しつつ、この発明に係る生体インプラントを具体的に説明する。図1は、この発明に係る生体インプラントの一例である生体インプラントの任意の断面を示す模式図である。図2は、図1に示す模式図におけるミクロ多孔層を拡大して示す模式図である。図1及び2に示されるように、この実施態様の生体インプラント1は、マクロ気孔21を形成するマクロ気孔骨格部2と、前記マクロ気孔21よりも気孔径の小さいミクロ気孔31を形成するミクロ気孔骨格部3とを有する表面多孔質多孔体4からなり、前記マクロ気孔骨格部2は実質的に気孔を含まず、前記ミクロ気孔骨格部3は前記マクロ気孔骨格部2の表面に設けられ、前記マクロ気孔骨格部2と前記ミクロ気孔骨格部3とは同一のエンジニアリングプラスチックにより一体に形成されてなる。
マクロ気孔骨格部2は、複数のマクロ気孔21の外形を形作っており、生体インプラント1となる表面多孔質多孔体4の骨格となる部分であって、その全体が単一の材料で中実に形成され、実質的に気孔を含まない。したがって、この生体インプラント1は、生体インプラント全体が多孔質構造である生体インプラントと異なり、生体インプラント1におけるマクロ気孔骨格部2が占める体積割合又は骨格部分の太さ等を適宜設定することにより生体インプラント1の強度を広範囲に調整することができるから、ある程度高い強度を必要とする部位にも適用でき、適用部位に応じて適度な強度を確保することができる。また、この生体インプラント1は、マクロ気孔骨格部2が単一の材料すなわちエンジニアリングプラスチックのみで中実に形成されているから、強度の弱点となる部分がなく、生体インプラント1全体が所望の強度を維持することができる。なお、「実質的に気孔を含まない」とは、マクロ気孔骨格部2に積極的に気孔を含有させない意味であり、その大部分が中実であればよく、一部に中空部又は気孔を有していてもよい。
マクロ気孔骨格部2の前記体積割合又は骨格部分の太さを大きくすると生体インプラント1の強度が大きくなるが、気孔率が小さくなり、生体組織が進入する空間が小さくなるので、生体組織との結合能力が低下する。一方、マクロ気孔骨格部2の前記体積割合又は骨格部分の太さを小さくすると気孔率が大きくなり、生体組織が進入する空間が大きくなるので、生体組織との結合能力が向上するが、強度が小さくなる。したがって、マクロ気孔骨格部2の前記体積割合又は骨格部分の太さは、適用される部位に要求される強度及び要求される生体組織との結合能力等に応じて適宜設定される。
マクロ気孔21は、平均気孔径が100〜3000μmの範囲にあるのが好ましい。生体インプラント1が前記範囲内の平均気孔径を有するマクロ気孔21を有すると、骨組織等の硬組織である生体組織が生体インプラント1の内部に進入し易く、生体組織との高い結合能力を発揮する。ここで、生体インプラント1には、種々の気孔径を有するマクロ気孔21が混在しても、略均一な気孔径を有するマクロ気孔21が存在しても、いずれでもよい。生体インプラント1に、種々の気孔径を有するマクロ気孔21が混在する場合、マクロ気孔同士の連通部の径の大きさと生体インプラントとしての強度のバランスを適切に設定することが可能であり、目的の生体組織の進入性と、使用する部位に対して適切な強度を有する生体インプラントを提供することができる。一方、生体インプラント1に略均一な気孔径を有するマクロ気孔21が存在する場合、生体インプラントの強度も全体で均一となり、品質管理がし易くなる。
この実施態様の生体インプラント1は、種々の気孔径を有するマクロ気孔21が偏ることなく均一に分散している。したがって、この生体インプラント1は、強度の弱い部分が存在することなく、生体インプラント1全体が所望の強度を維持することができる。
マクロ気孔21は、その存在状態によって、生体インプラント1の表面に開口するマクロ開気孔22と生体インプラント1の内部に存在するマクロ内気孔23とに分類され、またその存在状態によって、単独で独立に存在するマクロ独立気孔24と、マクロ気孔21同士が連通するマクロ連通気孔25に分類される。この実施態様のマクロ気孔21は平均気孔径が100〜3000μmの範囲にある。したがって、マクロ気孔21の、生体インプラント1の表面に開口するマクロ開気孔22の平均開気孔径、マクロ内気孔23及びマクロ独立気孔24の平均気孔径、並びに、マクロ連通気孔25の連通部の径の平均である連通孔径は、それぞれ、100〜3000μmの範囲にある。生体インプラント1は、複数のマクロ気孔21が連通してマクロ連通気孔25を形成し、また、これらのマクロ連通気孔25がマクロ開気孔22に連通しているのが好ましい。マクロ気孔21が生体インプラント1の表面に開口するマクロ開気孔22に連通していると、生体内に埋設した後に生体インプラント1の表面に開口するマクロ開気孔22から生体インプラント1の内部まで生体組織が進入し、そこで新たな生体組織が形成されるので、生体インプラント1と生体組織とが強固に結合される。
マクロ気孔21の平均気孔径は、生体インプラント1をエポキシ樹脂等の樹脂に包埋し、任意の断面をデジタルマイクロスコープで観察した画像を利用して、例えばインターセプト法により求めることができる。具体的には、生体インプラント1の断面をデジタルマイクロスコープで所定の倍率、例えば40倍で観察した画像を得る。この画像上を横断するようにランダムに5本の直線を引き、直線上にあるマクロ気孔21を測定対象として、直線とマクロ気孔21の重なっている部分の長さを全て測定し、得られた測定値の算術平均をマクロ気孔21の平均気孔径とする。
生体インプラント1に、種々の気孔径を有するマクロ気孔21が混在していることは、前記画像により確認することができる。この画像上で、マクロ気孔骨格部2に略全体を囲まれる種々の気孔径を有するマクロ気孔が存在する場合、及び/又は、気孔形状の特定が困難であり不均一なマクロ気孔が存在する場合には、種々の気孔径を有するマクロ気孔21が混在していることを確認できる。
この発明に係る生体インプラントの一例である生体インプラントの任意の断面画像を図4に示し、マクロ気孔の形態の一例を具体的に説明する。図4に示す画像により、この生体インプラント1は、種々の気孔径を有するマクロ気孔21が混在していることを確認することができる。この画像では、マクロ気孔骨格部2に略全体を囲まれる種々の気孔径を有する気孔として、略円形状及び略楕円形状の気孔(A)が観察される。また、気孔形状の特定が困難であり不均一なマクロ気孔として、形状が不定形であり、気孔径の異なる複数の気孔が連通して形成された気孔(B)が観察される。この実施例の生体インプラントは、後述するように、マクロ気孔21を有するマクロ気孔基材が加圧成形法により形成される。加圧成形法では、エンジニアリングプラスチックの粒子と気孔形成材の粒子とを混合して得られた混合物を加圧成形及び加熱した後に、気孔形成材を除去してマクロ気孔21を形成する。この実施例の生体インプラントは、このマクロ気孔基材を形成する過程でエンジニアリングプラスチックが融解して固化することにより、その粒子の形状が消滅している。したがって、マクロ気孔骨格部2の外形は、気孔形成材によって形作られ、その断面は不定形状である。
図1及び2に示すように、前記ミクロ気孔骨格部3は、前記マクロ気孔骨格部2の表面に設けられ、前記マクロ気孔21よりも気孔径の小さいミクロ気孔31の外形を形作っている。複数のミクロ気孔31とミクロ気孔骨格部3とにより、多孔質構造体であるミクロ多孔層5が構成される。複数のマクロ気孔21とマクロ気孔骨格部3とミクロ多孔層5とにより、表面多孔質多孔体4である生体インプラント1が構成される。ミクロ多孔層5は、マクロ気孔基材の表面にミクロ多孔層をコーティング等して後から形成するのではなく、後述するようにマクロ気孔基材の表面部に多数のミクロ気孔31を形成して多孔質構造にすることにより形成される。したがって、マクロ気孔骨格部2とミクロ気孔骨格部3とは、一体に形成され、同一のエンジニアリングプラスチックにより形成されるので、ミクロ気孔骨格部2はマクロ気孔骨格部3から剥離し難い。また、ミクロ気孔骨格部3がマクロ気孔骨格部2の表面に設けられていると、マクロ気孔21に進入した生体組織がミクロ気孔31に進入して、ミクロ多孔層5を足場として新たな生体組織が形成されるので、生体インプラント1の内部で生体組織が固定化され、生体組織と生体インプラントとが強固に結合される。したがって、例えば、この生体インプラント1が、歯槽骨造骨用生体インプラントとして適用され、この生体インプラント1に人工歯根を挿入するための下穴をドリルで形成する場合であっても、ミクロ気孔骨格部2はマクロ気孔骨格部3から剥離し難いので、この生体インプラント1は新たな生体組織が形成される足場としての機能を損なうことなく、歯槽骨と生体インプラント1とが強固に結合される。
ミクロ気孔骨格部3は、マクロ気孔骨格部2の全表面すなわちマクロ気孔21の内壁面及び生体インプラント1の外部に露出する露出面6全てに配置されてマクロ気孔骨格部2を被覆してもよく、マクロ気孔骨格部2の表面の一部、すなわちマクロ気孔骨格部2における生体骨との結合が必要な表面のみに配置されてもよく、例えば生体インプラント1の露出面6と露出面6近傍に存在するマクロ気孔21の内壁面のみに配置されてもよい。
前記ミクロ気孔31は、平均気孔径が10μm未満の小径気孔32と平均気孔径が10〜200μmの中径気孔33とを有するのが好ましい。前記ミクロ多孔層5は、複数の小径気孔32と複数の中径気孔33とにより多孔質構造に形成され、特に、複数の中径気孔33が連通して成る中径連通気孔によって網目構造になっているのが好ましい。ミクロ多孔層5が、小径気孔と中径気孔とを有する網目構造であると、マクロ気孔21に進入した生体組織の足場となり、生体組織と強固に結合し易くなる。
小径気孔32は、その存在位置によって、露出面6又はマクロ気孔21の内壁面に開口する小径開気孔とミクロ多孔層5の内部に存在する小径内気孔とに分類され、またその存在状態によって、単独で独立に存在する小径気孔32である小径独立気孔と、小径気孔同士が連通する又は中径気孔に連通する小径気孔32である小径連通気孔に分類される。この小径気孔32は10μm未満の平均気孔径を有している。したがって、小径開気孔の平均開気孔径、小径内気孔及び小径独立気孔の平均気孔径、並びに、小径連通気孔の連通部の径の平均である連通孔径は、それぞれ、10μm未満であり、好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
中径気孔33は、その存在位置によって、露出面6又はマクロ気孔21の内壁面に開口する中径開気孔とミクロ多孔層5の内部に存在する中径内気孔とに分類され、またその存在状態によって、単独で独立に存在する中径独立気孔と、中径開気孔に連通する中径連通気孔と、中径気孔同士は連通するが中径開気孔には連通しない中径連通閉気孔とに分類される。この中径気孔33は10〜200μmの平均気孔径を有している。したがって、中径開気孔の平均開気孔径、中径内気孔及び中径独立気孔の平均気孔径、並びに、中径連通気孔及び中径連通閉気孔の連通部の径の平均である中径連通孔径は、それぞれ、10〜200μmであり、好ましくは30〜150μmである。
小径開気孔の平均開気孔径及び中径開気孔の平均開気孔径は、生体インプラント1の表面を走査型電子顕微鏡で観察した画像を利用して、例えば前述したインターセプト法により求めることができる。具体的には、中径開気孔の平均開気孔径については、まず、生体インプラント1の表面を走査型電子顕微鏡により、所定の倍率、例えば300倍で観察したSEM画像を得る。この画像上を横断するようにランダムに5本の直線を引き、直線上にある中径開気孔を測定対象として、直線と中径開気孔の重なっている部分の長さを全て測定し、これらの算術平均値を中径開気孔の平均気孔径とする。一方、小径開気孔は、通常、中径開気孔と中径開気孔との間の骨格部分に存在するから、小径開気孔の平均開気孔径を測定する場合には、測定誤差を小さくするために走査型電子顕微鏡の倍率を上げるのが好ましい。例えば、走査型電子顕微鏡により、3000倍で観察して得たSEM画像を用いて、インターセプト法により小径開気孔の平均開気孔を求める。
なお、SEM画像で確認される中径開気孔又は小径開気孔が少数、例えば10個以内である場合、SEM画像上にある中径開気孔又は小径開気孔を測定対象として気孔の長径と短径とを全て測定し、これらの算術平均値から中径開気孔及び小径開気孔の平均開気孔径をそれぞれ求めることもできる。
中径内気孔、中径独立気孔等の平均気孔径、並びに、小径内気孔及び小径独立気孔等の平均気孔径は、生体インプラント1の任意の断面を走査型電子顕微鏡で観察して前記平均開気孔径と同様に求めることができる。
中径連通気孔及び中径連通閉気孔の連通孔径並びに小径連通気孔の連通孔径は、上記と同様に所定の倍率で撮影したSEM画像から求めることができ、その他の方法として水銀ポロシメータを使用して求めることもできる。
ミクロ多孔層5の厚さは、適用される部位、生体インプラント1に要求される、生体組織との結合能及び強度等に応じて適宜設定されればよく、20〜500μmの範囲内にあるのが好ましい。ミクロ多孔層5の厚さが前記範囲内にあると、マクロ気孔21に進入した生体組織の足場になり易く、生体組織との高い結合能力を発揮する。ミクロ多孔層5の厚さは、ミクロ多孔層5の任意の断面を走査型電子顕微鏡で観察して、得られたSEM画像におけるミクロ気孔31の最も深い地点から露出面6又はマクロ気孔21の内壁面までの距離として求めることができ、その測定値をその測定点でのミクロ多孔層5の厚さとする。
生体インプラント1の気孔率は、30〜90%であるのが好ましい。生体インプラント1の気孔率が前記範囲内にあると、生体インプラント1の内部に生体組織が進入する空間を確保することができるので、生体内に埋設した後に生体組織との強固な結合能力を発揮し、また、適用部位に応じた強度を確保することができる。前記気孔率は、生体インプラント1の質量と体積とを測定し、これらの測定値と生体インプラント1を形成する材料の比重とにより算出することができる。
生体インプラント1を形成する材料としては、生体骨又は歯に類似又は近似する力学特性を有しているのが好ましい。生体骨又は歯に類似又は近似する力学特性としては、例えば1〜50GPaの弾性率、100MPa以上の曲げ強度等が挙げられ、これらの特性の少なくとも一方を有しているのが好ましい。
生体インプラント1を形成する材料は、エンジニアリングプラスチックである。エンジニアリングプラスチックとしては、生体骨又は歯に類似又は近似する力学特性を有するエンジニアリングプラスチックが好ましく、そのようなエンジニアリングプラスチックとして、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニリンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテン、ジアリルフタレート樹脂、ポリオキシメチレン、ポリ四フッ化エチレン等の熱可塑性エンジニアリングプラスチック、フェノール、ユリア、メラミン、不飽和ポリエステル、エポキシ、ジアリルフタレート、シリコーン、ポリウレタン等の熱硬化性エンジニアリングプラスチックが挙げられる。
前記マクロ気孔骨格部2を形成する材料としては、これらの中でも、力学特性が生体骨と近く、生体適合性の高いポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
前記エンジニアリングプラスチックは、繊維が混合された繊維強化エンジニアリングプラスチックであってもよい。前記繊維強化エンジニアリングプラスチックに含有される繊維としては、例えば、カーボンナノチューブを含む炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維が挙げられる。前記ガラス繊維としては、例えば、ホウケイ酸ガラス(Eガラス)の繊維状物、高強度ガラス(Sガラス)の繊維状物、高弾性ガラス(YM−31Aガラス)の繊維状物等が挙げられ、前記セラミック繊維としては、例えば、炭化ケイ素の繊維状物、窒化ケイ素の繊維状物、アルミナの繊維状物、チタン酸カリウムの繊維状物、炭化ホウ素の繊維状物、酸化マグネシウムの繊維状物、酸化亜鉛の繊維状物、ホウ酸アルミニウムの繊維状物、ホウ素の繊維状物等が挙げられ、前記金属繊維としては、例えば、タングステンの繊維状物、モリブデンの繊維状物、ステンレスの繊維状物、スチールの繊維状物、タンタルの繊維状物等が挙げられ、前記有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコールの繊維状物、ポリアミドの繊維状物、ポリエチレンテレフタレートの繊維状物、ポリエステルの繊維状物、アラミドの繊維状物等が挙げられる。繊維は1種単独で又は2種以上の混合物を用いることができる。
前記マクロ気孔骨格部2は、エンジニアリングプラスチックに加えて、必要に応じて、帯電防止剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、顔料等の着色料等の各種添加剤を含有していてもよい。
この発明の生体インプラント1を、歯槽骨造骨用の生体インプラントとして用いる場合には、歯槽骨造骨後に人工歯根を挿入するための下穴をドリルで形成するので、生体インプラント1は、下穴をドリルで形成し易く、また、下穴を形成する際に生体インプラント1が破壊しない程度の強度を有するのが好ましい。生体インプラント1のこのような特性は、生体インプラント1に下穴をドリルで形成する際の最大トルク及び最大荷重により評価することができる。生体インプラント1を歯槽骨造骨用の生体インプラントとして用いる場合には、直径3.2mmのドリルで下穴を形成する場合に、最大トルクが2〜20N・cmであるのが好ましく、最大荷重が5〜50Nであるのが好ましい。前記最大トルク及び最大荷重は、生体インプラント1におけるマクロ気孔21の気孔径及び気孔率等を適宜設定することにより調整することができる。
前記最大トルクは、次のようにして求めることができる。まず、生体インプラント1の試験体を作製し、これを試験用テーブルに載置し、歯科用ドリルエンジンに備えられた直径3.2mmのドリルを用いて回転速度800rpmで試験体に穴を形成する。歯科用ドリルエンジンにより穴を形成する際のドリルのトルクの最大値を測定し、これを最大トルクとして求めることができる。
前記最大荷重は、次のようにして求めることができる。まず、生体インプラント1の試験体を作製し、これをロードセル上に載置し、歯科用ドリルエンジンに備えられた直径3.2mmのドリルを用いて回転速度800rpmで試験体に穴を形成する。歯科用ドリルエンジンにより穴を形成する際に試験体を通してロードセルにかかる負荷の最大値を測定し、これを最大荷重として求めることができる。
この生体インプラント1は、骨欠損部等に埋設又は補填される生体インプラント、具体的には、骨補填材、人工関節部材、骨接合材、人工椎体、椎体間スペーサ、椎体ケージ、人工歯根及び歯槽骨造骨材等として好適に用いられ、特に生体組織との強固な結合能力を発揮する共に適用部位に応じて適度な強度を確保することができ、また、ミクロ気孔骨格部の剥離の生じ難い生体インプラントとして好適に用いられる。したがって、この生体インプラント1は、歯槽骨造骨用の生体インプラントとして好適である。
生体インプラント1は、所望の形状に製造され、又は適宜の形状に製造された後に適用される部位に合わせて所望の形状に切断、削る等して使用される。前記所望の形状は、補填される部位の形状と同様の形状、又はこの形状に相当する形状例えば相似形等が挙げられ、具体的には、顆粒状、繊維状、ブロック状又はフィルム状等が挙げられる。
生体インプラント1は、例えば、次のようにして製造される。
生体インプラント1となる表面多孔質多孔体4は、複数のマクロ気孔21を形成するマクロ気孔基材を形成する工程1と、このマクロ気孔基材の表面部にミクロ気孔31を形成するミクロ気孔骨格部3を形成する工程2とにより形成される。
工程1におけるマクロ気孔21を形成するマクロ気孔基材の製造方法としては、例えば、以下のような方法がある。
(1)エンジニアリングプラスチックの粒子と気孔形成材を混合後、成形及び加熱し、気孔形成材を除去することによりマクロ気孔21を形成してマクロ気孔基材を製造する方法(加圧成形法)
(2)エンジニアリングプラスチックの粒子同士を溶着させることにより粒子同士の間にマクロ気孔21を形成してマクロ気孔基材を製造する方法(顆粒連結法)
(3)溶融したエンジニアリングプラスチックをノズルから押出してマクロ気孔基材を製造する方法(熱溶解積層法)
(4)網目状のメッシュを積層してマクロ気孔基材を製造する方法(メッシュ積層法)
前記工程1として、(1)加圧成形法によるマクロ気孔基材の製造方法について説明する。
工程1は、生体インプラント1を形成するエンジニアリングプラスチックの粒子と気孔形成材としての可溶性物質とをそれぞれ調製して、所望の粒度範囲を有する粒子を得る工程(a)と、工程(a)で得られたそれぞれの粒子を所望の割合で混合して混合物を得る工程(b)と、得られた混合物を加圧成形して成形体を得る工程(c)と、得られた成形体を加熱して加熱成形体を得る工程(d)と、得られた加熱成形体を可溶性物質が溶解する溶媒に浸漬して、可溶性物質を溶出させてマクロ気孔基材を得る工程(e)とを有する。
工程(a)では、エンジニアリングプラスチックの粒子と気孔形成材としての可溶性物質の粒子とを調製する。エンジニアリングプラスチックは、前述したエンジニアリングプラスチックのうちの少なくとも一種を用いることができ、繊維を含有させてもよい。可溶性物質は、後述する溶媒に溶解する物質であり、かつ、工程(d)で成形体を加熱したときに融解又は分解しない物質であればよく、例えば、前記溶媒が水系溶媒である場合には水溶性化合物、前記溶媒が有機溶媒である場合には有機化合物等が挙げられる。前記水溶性化合物としては、例えば、糖類、セルロース類、タンパク質、無機化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、スルホン化ポリイソプレン、スルホン化ポリイソプレン共重合体等が挙げられる。前記糖類としては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、デキストリン及び澱粉等の多糖類、ショ糖、麦芽糖、乳糖及びマンニット等が挙げられ、前記セルロース類としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース及びメチルセルロース等が挙げられ、前記無機化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩類が挙げられる。前記有機化合物としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等の樹脂等が挙げられる。可溶性物質は、一種単独で使用することもできるし、また、二種以上を併用することもできる。
エンジニアリングプラスチックの粒子及び可溶性物質の粒子は、それぞれの粒径を、100〜1000μmの範囲にするのが好ましい。可溶性物質は、工程(e)で溶出されて、溶出した跡に形成された空間によりマクロ気孔21の大部分が形成される。したがって、可溶性物質の粒径を適宜設定することにより、マクロ気孔21の気孔径を調整することができる。また、エンジニアリングプラスチックの粒子に対する可溶性物質の粒子の割合を大きくすることにより、生体インプラント1の気孔率を大きくすることができる。エンジニアリングプラスチックの粒子と可溶性物質の粒子との粒径は同じ範囲にあってもよく、異なる範囲にあっても良い。
エンジニアリングプラスチック及び可溶性物質それぞれの粒子の製造方法は、特に限定されないが、顆粒又は粉末状の、エンジニアリングプラスチック又は可溶性物質それぞれの原材料を篩により所望の粒度範囲に分級する方法、繊維状又はチューブ状の、エンジニアリングプラスチック又は可溶性物質それぞれを適宜の長さに切断して柱状体又は筒状体にする方法、バルク状のエンジニアリングプラスチック又は可溶性物質それぞれを粉砕又は破砕等して顆粒又は粉末として、これを篩により所望の粒度範囲に分級する方法等が挙げられる。
工程(b)では、エンジニアリングプラスチックの粒子と可溶性物質の粒子とを混合して混合物を得る。エンジニアリングプラスチックの粒子と可溶性物質の粒子との混合方法は、特に限定されず、混合方法としては、例えばドライブレンド法等の乾式混合等が挙げられる。エンジニアリングプラスチックの粒子と可溶性物質の粒子との合計体積に対する可溶性物質の粒子の体積割合は、30〜90体積%であるのが好ましい。可溶性物質の粒子により形成されるマクロ気孔21は、形成されるマクロ気孔21全体の大部分を占めるので、前記体積割合が前記範囲内であると、生体インプラント1の強度及び生体組織との結合能等を好ましい範囲に調整し易い。
工程(c)では、工程(b)で得られた混合物を加圧成形して成形体を得る。成形方法は、特に限定されず、例えば、金型を用いたプレス成形を挙げることができる。プレス成形する際の成形圧力は、成形体としての形状を維持して次の工程で処理することができればよく、5〜200MPaであるのが好ましい。プレス成形する際の温度は、常温からエンジニアリングプラスチックの融点未満の温度を適宜選択することができる。
工程(d)において、工程(c)で得られた成形体を加熱して加熱成形体を得る。加熱温度及び加熱時間は、可溶性物質が融解又は分解することなく、エンジニアリングプラスチックの粒子同士を溶着又は融解させることのできる範囲で適宜設定される。エンジニアリングプラスチックがポリエーテルエーテルケトンであり、可溶性物質が塩化ナトリウムである場合には、加熱温度は340〜380℃、加熱時間は5〜60分の範囲であるのが好ましい。
工程(e)では、工程(d)で得られた加熱成形体を可溶性物質が溶解する溶媒に浸漬して、可溶性物質を溶出させてマクロ気孔基材を得る。加熱成形体の浸漬方法は、特に限定されず、前記溶媒の中に加熱成形体をそのまま浸漬させてもよく、また、前記溶媒を攪拌してもよく、容器内を減圧することにより溶媒が加熱成形体の内部まで進入するように脱泡処理をしてもよい。このとき、溶媒に浸漬させる加熱成形体は、前記可溶性物質を溶出することができる程度の量であればよく、例えば、溶媒の質量に対して1〜10質量%の割合である。浸漬条件は特に限定されず、例えば室温下で前記可溶性物質が溶出するまで行うことができる。
前記溶媒は、前記可溶性物質の種類に応じて選択される。例えば、可溶性物質として水溶性化合物を用いる場合には、この水溶性化合物を溶解させる水系溶媒、例えば、水、アルコール、アルコール水等が挙げられる。一方、可溶性物質として有機化合物を用いる場合には、この有機化合物を溶解させ、かつエンジニアリングプラスチックを溶解又は変質させない有機溶媒、例えば、アセトン、イソプロパノール等が挙げられる。生体インプラント1は生体内に埋設されるから、前記溶媒は、水系溶媒であるのが好ましく、水であるのが特に好ましい。
前記加熱成形体を前記溶媒に浸漬させると、加熱成形体を構成する可溶性物質が徐々に溶出して、マクロ気孔21が形成され、骨格部分が残存した多孔質構造を有するマクロ気孔基材となる。
なお、工程(c)及び工程(d)において、エンジニアリングプラスチックの粒子の過度な潰れを抑制するように成形圧力を調整して、エンジニアリングプラスチックの粒子と可溶性物質の粒子との混合物を加圧成形しこれを適度に加熱すると、エンジニアリングプラスチックの粒子の形状が維持され、マクロ気孔基材はエンジニアリングプラスチックの粒子同士が連結した形状となる。この場合、マクロ気孔21は可溶性物質が溶出した跡に形成されるだけでなく、その一部はエンジニアリングプラスチックの粒子同士の間に形成される間隙により形成され、種々の形状及び大きさのマクロ気孔21が形成される。一方、工程(c)及び工程(d)において、エンジニアリングプラスチックの粒子と可溶性物質の粒子との混合物を適度な圧力で加圧成形し、エンジニアリングプラスチックの融点以上の温度でこれを加熱すると、エンジニアリングプラスチックが融解して固化することにより、粒子の形状が確認されなくなり、形成されたマクロ気孔基材の断面は不定形状となる。すなわち、可溶性物質の粒子同士の間に、融解したエンジニアリングプラスチックが満たされて固化することにより、マクロ気孔基材の外形は、可溶性物質の粒子によって形作られる。この場合、マクロ気孔21は可溶性物質が溶出した跡に形成される。
工程1においては、所望により、工程(e)の後に、得られたマクロ気孔基材の洗浄工程、乾燥工程等の後処理を行うこともできる。乾燥工程は、マクロ気孔基材が変質しない程度の温度での減圧乾燥、加熱乾燥を採用できる。
なお、前記工程(a)〜前記工程(e)により行われる製造方法の変形例として、混合物を加圧成形して成形体を得る工程(c)及びこの成形体を加熱して加熱成形体を得る工程(d)を、工程(b)で得られた混合物を加熱しつつ加圧成形(ホットプレス)して成形体を得る工程(c´)に変更してもよい。工程(c´)において、成形方法は、特に限定されず、例えば、金型を用いたプレス成形を挙げることができる。プレス成形する場合には、前記混合物を金型に入れて、所定の温度まで昇温し、その温度を維持しつつ加圧する。成形圧力及び成形温度は、エンジニアリングプラスチックの粒子同士が溶着又は融解できればよく、成形圧力は、例えば、5〜200MPaとすることができ、加熱温度は、工程(d)と同様の温度範囲とすることができる。
加圧成形法により製造されたマクロ気孔基材は、単一の材料すなわちエンジニアリングプラスチックのみにより形成され、可溶性物質が溶出した跡に形成される空間により大部分のマクロ気孔21が形成される。したがって、可溶性物質の粒度分布を適宜設定することによりマクロ気孔21の気孔径の分布を調整することができ、例えば、同一の粒径を有する可溶性物質を用いると、同一の気孔径を有するマクロ気孔21が形成され易くなる。また、工程(c)で混合物をプレス成形して成形体を得る場合には、その成形圧力及び成形温度によってはエンジニアリングプラスチックの粒子同士の間に形成される間隙がマクロ気孔21になることもあり、この間隙の形状及び大きさは均一ではなく、種々の形状及び大きさのマクロ気孔21が形成される。したがって、この成形圧力及び成形温度を適宜設定することにより、可溶性物質により形成されたマクロ気孔21に加えて、種々の形状及び大きさのマクロ気孔21を形成することができる。
前記工程1として、(2)顆粒連結法によるマクロ気孔基材の製造方法について説明する。
工程1は、生体インプラント1を形成するエンジニアリングプラスチックを調製して、所望の粒度範囲を有する粒子を得る工程(A)と、工程(A)で得られた粒子を型に入れて加熱してマクロ気孔基材を得る工程(B)とを有する。
工程(A)では、エンジニアリングプラスチックの粒子を調製する。エンジニアリングプラスチックは、前述したエンジニアリングプラスチックのうちの少なくとも一種を用いることができ、繊維を含有させてもよい。エンジニアリングプラスチックの粒子は、その粒径を、200〜2000μmの範囲にするのが好ましい。前記粒子径は、形成されるマクロ気孔基材の骨格部分の太さ及びマクロ気孔21の気孔径に反映されるので、前記粒径を前記範囲内にすることで、マクロ気孔基材の骨格部分の太さ及びマクロ気孔21の気孔径を好ましい範囲に調整し易い。エンジニアリングプラスチックの粒子の製造方法は、特に限定されないが、顆粒又は粉末状のエンジニアリングプラスチックの原材料を篩により所望の粒度範囲に分級する方法、繊維状又はチューブ状のエンジニアリングプラスチックを適宜の長さに切断して柱状体又は筒状体にする方法、エンジニアリングプラスチックを粉砕又は破砕等して顆粒又は粉末として、これを篩により所望の粒度範囲に分級する方法等が挙げられる。チューブ状のエンジニアリングプラスチックを切断して筒状体として使用する場合には、溶着した粒子同士の間に形成された間隙がマクロ気孔21になる以外に、筒状体の粒子における中空部もまたマクロ気孔21になる。したがって、筒状体の粒子の寸法は、外径が400〜2000μm、内径が200〜1800μm、長さが400〜2000μmであるのが好ましい。
工程(B)では、工程(A)で得られたエンジニアリングプラスチックの粒子を型に入れて加熱してマクロ気孔基材を形成する。型に入れられた粒子は、そのまま加熱されてもよいし、数回タッピングすることで型内に粒子を充填した後に加熱してもよい。粒子の充填密度が低い程気孔径の大きいマクロ気孔21が形成され易くなる。加熱温度及び加熱時間は、エンジニアリングプラスチックの粒子同士を溶着させることのできる範囲で適宜設定される。
顆粒連結法により製造されたマクロ気孔基材は、単一の材料すなわちエンジニアリングプラスチックのみにより形成され、エンジニアリングプラスチックの粒子の形状を維持した状態で粒子同士が連結し、溶着されたエンジニアリングプラスチックの粒子同士の間に形成される間隙がマクロ気孔21になる。
なお、前記(2)の顆粒連結法によるマクロ気孔基材の製造方法において、前記(1)の加圧成形法によるマクロ気孔基材の製造方法で用いた可溶性物質を用いてもよい。具体的には、工程(A)の後に、エンジニアリングプラスチックの粒子と前記(1)の製造方法で用いた可溶性物質とを混合して混合物を得て、この混合物を工程(B)と同様にして型に入れて加熱してマクロ気孔基材を形成する。前記(2)の顆粒連結法による製造方法で可溶性物質を用いると、可溶性物質が溶出した跡に形成される空間と、粒子同士の間に形成される間隙とによりマクロ気孔21が形成される。顆粒連結法によるマクロ気孔基材の製造方法は、型に入れられた粒子に圧力をかけて成形する処理を行わない点で、加圧成形法とは異なる。したがって、エンジニアリングプラスチックの粒子同士の間に形成される間隙は加圧成形法よりも顆粒連結法の方が大きくなる傾向にある。
前記工程1として、(3)熱溶解積層法によりマクロ気孔基材を製造する方法について説明する。
工程1においては、生体インプラント1を形成するエンジニアリングプラスチックを造形装置の材料容器に投入して、投入したエンジニアリングプラスチックを流動性を有する状態になるように加熱し、これをノズルから押し出してパターンを描き、複数の空隙を有する三次元構造体を形成し、これをマクロ気孔基材とする。
エンジニアリングプラスチックは、ノズルから押し出し易く成形し易い流動性となるように加熱され、例えば、エンジニアリングプラスチックの融点から分解温度までの温度範囲に加熱される。ノズルは1つであっても2つ以上であってもよい。三次元構造体の形成方法の一例として、まず、ノズル又は造形テーブルを可動しつつエンジニアリングプラスチックを押し出して、一筆書きのようにして、例えば迷路様のパターンを描き、1層目の造形体を形成する。次いで、造形テーブルを一定角度回転させるか、又は一定距離水平方向に移動させて、この1層目の造形体の上に同じパターンを描いて2層目の造形体を形成する。同様にして複数の層を造形して積層することで、多孔質構造の三次元構造体を製造することができる。パターンは特に限定されず、適宜のパターンを設定することができ、各層が同じパターンであっても異なってもよい。パターンを適宜設定することにより、マクロ気孔21の形状、大きさ、配置等を調整することができる。また、ノズルから押出されるエンジニアリングプラスチックの太さを適宜設定することにより、形成されるマクロ気孔基材の骨格部分の太さを調整することができる。
熱溶解積層法により製造されたマクロ気孔基材は、単一の材料すなわちエンジニアリングプラスチックのみにより形成され、ノズルから押し出されて形成されたライン同士の間に形成された空隙がマクロ気孔になる。
前記工程1として、(4)メッシュ積層法によりマクロ気孔基材を製造する方法について説明する。
工程1においては、あらかじめ製造しておいたエンジニアリングプラスチックからなるメッシュを少なくとも2枚積層した後に、積層したメッシュを所定の温度で加熱して各メッシュを溶着させる。メッシュの網目模様は、特に限定されず、例えば、格子状、縞状、及び渦巻き状等を挙げることができ、積層されるそれぞれのメッシュの網目模様は同じであっても異なってもよい。積層されるメッシュが同じ網目模様である場合には、各メッシュを回転又は平行移動する等して、マクロ気孔21となる空隙がマクロ気孔基材の一端から他端まで貫通した柱形状ではなく、複雑な経路となるように形成してもよい。開口径の異なるメッシュを不規則に積層することにより、種々の気孔径を有するマクロ気孔21を容易に製造することができる。加熱する温度は、各メッシュが溶着する温度であればよい。
メッシュ積層法により形成されたマクロ気孔基材は、単一の材料すなわちエンジニアプラスチックのみにより形成され、積層されたメッシュ同士の間に形成された空隙がマクロ気孔になる。
工程2では、工程1で得られたマクロ気孔基材の表面部を多孔質構造にして、ミクロ気孔31を形成するミクロ気孔骨格部3を形成する。
工程2は、工程1で得られたマクロ気孔基材を、エンジニアリングプラスチックを膨潤させる膨潤溶液に浸漬する膨潤工程、及びこのエンジニアリングプラスチックが溶出しない液で凝固及び洗浄する凝固工程を有し、マクロ気孔基材の表面に気孔を形成して表面気孔基材を得る工程(I)と、この工程(I)で得られた表面気孔基材を発泡剤を含有する溶液に浸漬して発泡剤保持基材を得る発泡剤保持工程、この発泡剤保持基材を、エンジニアリングプラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬して表面軟発泡基材を得る表面軟発泡工程、及びこの表面軟発泡基材を膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬して表面発泡基材を得る第2凝固工程を有し、表面気孔基材の表面をさらに浸食して所望のミクロ気孔31を形成する工程(II)とを有する。
工程(I)では、工程1で得られたマクロ気孔基材の表面部に、ミクロ気孔31における小径気孔32と同程度又はそれよりも小さい気孔を形成して表面気孔基材を得る。まず、マクロ気孔基材を膨潤溶液に浸漬する膨潤工程を実施する。この膨潤溶液は、特に限定されないが、硫酸、硝酸、又はクロム酸等の酸性水溶液が挙げられる。この膨潤工程は、マクロ気孔基材の表面を膨潤できる条件が適宜に設定されればよく、要求されるミクロ多孔層5の厚さ及び気孔径等に応じて適宜に設定される。例えば、膨潤溶液の濃度はミクロ多孔層5の気孔率及び厚さに影響し、通常、高いのが好ましく、濃硫酸又は濃硝酸を好適に用いることができる。膨潤溶液の使用量は、マクロ気孔基材の浸食させる部分が浸漬される程度であればよく、マクロ気孔基材の気孔内壁面を含む全表面に気孔を形成させる場合には、マクロ気孔基材全体を浸漬させることのできる量であるのがよい。膨潤溶液中でのマクロ気孔基材の浸漬状態は静置してもよく、膨潤溶液を攪拌してもよく、容器内を減圧することにより膨潤溶液がマクロ気孔基材の内部まで進入するように脱泡処理をしてもよい。浸漬時間は浸食量に応じて決定される。また、膨潤溶液の温度は通常常温程度に設定される。
次いで、膨潤溶液から取り出したマクロ気孔基材をエンジニアリングプラスチックが溶出しない液で凝固及び洗浄する凝固工程を実施する。凝固工程はマクロ気孔基材を洗浄した液が中性になるまでマクロ気孔基材を洗浄すると共に膨潤溶液でゲル状に軟化(場合によっては一部溶解する)したエンジニアリングプラスチックを凝固させて表面気孔基材とする。この凝固工程で使用される、エンジニアリングプラスチックが溶出しない液(凝固溶液)は、通常常温程度に設定され、表面が膨潤したマクロ気孔基材が浸漬状態で静置又は撹拌状態で、若しくは脱泡処理をしつつ所定時間浸漬される。膨潤溶液の拡散速度を速めるように、凝固溶液の種類や濃度、温度を適宜設定することにより、ミクロ多孔層5の気孔率及び厚さ等を調整することができる。エンジニアリングプラスチックが溶出しない液としては、例えば、水、エタノール等が挙げられる。
この表面気孔基材における気孔が形成されている領域の厚さは、生体インプラント1のミクロ多孔層5と同等の厚さであればよい。また、表面気孔基材における気孔の気孔径は、工程(II)において使用される発泡剤を気孔に侵入させることのできる気孔径を有していればよく、発泡剤の種類により適宜設定される。気孔が形成されている領域の厚さ及び気孔の気孔径等は膨潤溶液に浸漬する時間、エンジニアリングプラスチックが溶出しない液に浸漬する時間、及び/又は温度等により調整することができる。
工程(I)においては、所望により、得られた表面気孔基材を乾燥する工程を実施できる。乾燥は、エンジニアリングプラスチックが溶融等しない条件で実施すればよく、例えば、エンジニアリングプラスチックの融点未満、好ましくはガラス転移温度未満の温度で実施される。
工程(II)では、工程(I)で得られた表面気孔基材を、再度浸食して所望のミクロ気孔31を形成する。まず、工程(I)で得られた表面気孔基材を、発泡剤を含有する溶液に浸漬して発泡剤保持基材を得る発泡剤保持工程を実施する。この工程で用いる発泡剤としては、後述する発泡溶液で発泡する発泡剤であればよく、例えば、炭酸塩、アルミニウム粉末等の無機系発泡剤、アゾ化合物、イソシアネート化合物等の有機系発泡剤を挙げることができる。この発泡剤は、生体インプラント1を埋設したときに生体に悪影響を与えない物質であるのが好ましく、例えば、炭酸塩が挙げられ、より具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。この発泡剤を溶解する溶媒は特に限定されず、例えば水等が挙げられる。この発泡剤保持工程では、発泡剤保持基材の表面及び工程(I)で形成された気孔の内壁面に発泡剤を保持できる条件、例えば発泡剤の濃度及び溶液の使用量等が適宜に設定される。発泡剤を含有する溶液の温度は通常常温程度に設定される。発泡剤を含有する溶液中での表面気孔基材の浸漬状態は静置してもよく、発泡溶液を攪拌してもよく、脱泡処理をしてもよい。浸漬時間は適宜に決定される。
次いで、発泡剤保持基材をエンジニアリングプラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬して表面軟発泡基材を得る表面軟発泡工程を実施する。この工程は、通常、発泡剤保持基材を乾燥させることなく実施されるが、発泡剤保持基材を乾燥することもできる。発泡剤保持基材を発泡溶液に浸漬するとエンジニアリングプラスチックの膨潤と発泡剤の発泡とがほぼ同時に進行して表面軟発泡基材が得られる。発泡溶液としては、前記特性を有するものであればよく、例えば、濃硫酸、塩酸及び硝酸等の酸性水溶液を挙げることができる。エンジニアリングプラスチックがPEEKで、発泡剤が炭酸塩である場合には、発泡溶液は濃度が90%以上の濃硫酸が好ましい。この表面軟発泡工程は、エンジニアリングプラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡できる浸漬条件が設定される。発泡溶液の温度は通常常温程度に設定される。発泡溶液中での発泡剤保持基材の浸漬状態は静置してもよく、発泡溶液を攪拌してもよく、脱泡処理をしてもよい。浸漬時間は適宜に決定される。
次いで、表面軟発泡基材を膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬して表面発泡基材を得る第2凝固工程を実施する。この第2凝固工程において発泡溶液から取り出された表面軟発泡基材は、凝固溶液に浸漬された後に凝固溶液を流されてもよく、凝固溶液への浸漬を複数回繰り返されてもよい。この工程で用いる凝固溶液は、エンジニアリングプラスチックが溶出しない液であって、例えば、水、エタノール等の水性溶液、アセトン等の極性溶液等が挙げられ、エンジニアリングプラスチックがPEEKである場合には、これらに加えて、濃度が90%未満の硫酸、硝酸、リン酸、塩酸等の無機酸水溶液、水溶性有機溶剤等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、テトラヒドロフラン、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエトレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、グリセリンエタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、ペンタノ−ル、ヘキサノ−ル等のアルコ−ル及びこれらの水溶液、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリビニルピロリドン等液状高分子又はそれらの水溶液及びこれらの混合物を挙げることができる。この第2凝固工程は、表面軟発泡基材を凝固できる条件で凝固溶液に浸漬される。例えば、凝固溶液の温度は通常常温程度に設定される。凝固溶液中での表面軟発泡基材の浸漬状態は静置してもよく、凝固溶液を攪拌してもよく、脱泡処理をしてもよい。浸漬時間は適宜に決定される。
工程(II)においては、所望により、表面発泡基材を洗浄する洗浄工程を実施する。この洗浄工程は、表面発泡基材を洗浄した洗浄液が中性になるまで洗浄する。この洗浄工程において、凝固溶液から取り出した表面発泡基材は洗浄液中に浸漬された後に洗浄液を流して洗浄されてもよく、洗浄液への浸漬を複数回繰り返して、洗浄されてもよい。この洗浄工程で用いる洗浄液はエンジニアリングプラスチックが溶出しない液であればよく、例えば、水、純水等が挙げられる。この洗浄工程は例えば常温で実施できる。
工程(II)においては、所望により、得られた表面発泡基材を乾燥する乾燥工程を実施できる。乾燥は、エンジニアリングプラスチックが融解等しない条件で実施すればよく、例えば、エンジニアリングプラスチックの融点未満、好ましくはガラス転移温度未満の温度で実施される。
このようにして表面発泡基材(表面多孔質多孔体と称されることもある。)すなわち生体インプラント1が製造される。
この表面発泡基材すなわち生体インプラント1は、得られた状態のまま用いることができ、また、所望形状に成形又は整形して用いることもできる。得られた状態のままで生体インプラント1を用いる場合にはマクロ気孔基材の準備時に所望形状に成形されているのが好ましい。
この実施態様の製造方法において、生体インプラント1の気孔率、マクロ気孔21の平均気孔径、ミクロ気孔31における小径気孔及び中径気孔の平均気孔径、ミクロ多孔層5の厚さ等は、工程(I)の膨潤溶液及び凝固溶液、工程(II)の発泡剤を含有する溶液、及び凝固溶液等の種類、濃度、浸漬時間、温度等を適宜選択することにより調整することができる。
なお、第1の実施態様の生体インプラント1は、ミクロ多孔層5が、平均気孔径が10μm未満の小径気孔32と平均気孔径が10〜200μmの中径気孔33とを有するが、ミクロ多孔層が中径気孔を実質的に有さずに、小径気孔のみを有していてもよい。小径気孔のみを有するミクロ多孔層は、上述した第1の実施態様の生体インプラント1の製造方法において、工程(II)を行わないことで形成することができる。具体的には、ミクロ多孔層は、工程1で得られたマクロ気孔基材を膨潤溶液に浸漬して膨潤させて、さらにこれを凝固及び洗浄して、マクロ気孔基材の表面に気孔を形成する工程(I)を行うことにより形成することができる。
(第2の実施態様)
この発明に係る生体インプラントの別の一例である生体インプラントについて説明する。この実施態様の生体インプラントは、略均一な気孔径を有するマクロ気孔が存在すること以外は第1の実施態様の生体インプラント1と同様の構成を有している。生体インプラントに略均一な気孔径を有するマクロ気孔が存在すると、生体インプラントの強度が全体で均一となり、品質管理がし易くなる。
生体インプラントに略均一な気孔径を有するマクロ気孔が存在することは、生体インプラントを樹脂に包埋して任意の断面をデジタルマイクロスコープで観察することにより確認することができる。画像上で、マクロ気孔骨格部に略全体を囲まれるマクロ気孔の大きさが略等しい場合、及び/又は、気孔形状の特定は困難であるが全体として均一なマクロ気孔である場合に、生体インプラントに略均一な気孔径を有するマクロ気孔が存在することを確認することができる。気孔形状の特定は困難であるが全体として均一なマクロ気孔が存在する例としては、例えば、気孔径の略等しいマクロ気孔が多数存在することで、画面上に観察される大部分のマクロ気孔同士が連通してマクロ連通気孔を形成している場合、熱溶解積層法により規則正しいパターンでマクロ気孔基材が形成されることで、ノズルから押出された紐状の押出部同士の間に形成された気孔形成部分が、全体として均一なパターンを有している場合、メッシュ積層法により開口径の等しいメッシュを規則的に積層してマクロ気孔基材を形成することで、メッシュの骨格部分同士の間に形成された気孔形成部分が、全体として均一なパターンを有している場合等が挙げられる。
この生体インプラントは、生体インプラント1の製造方法として例示した(1)、(3)、(4)の製造方法において、以下の変更を加えること以外は同様にして製造することができる。
(1)の加圧成形法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、気孔形成材である可溶性物質について、略等しい粒径を有する可溶性物質すなわち粒度範囲の狭い可溶性物質を使用すること以外は上述した(1)の製造方法と同様にして製造する。
(3)の熱溶解積層法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、略等しい気孔径が形成されるように規則的なパターンを描くこと以外は上述した(3)の製造方法と同様にして製造する。
(4)のメッシュ積層法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、網目模様の開口径の等しいメッシュを規則的に積層すること以外は上述した(4)の製造方法と同様にして製造する。
(第3の実施態様)
この発明に係る生体インプラントの別の一例である生体インプラントについて説明する。この実施態様の生体インプラントは、生体インプラントの中央部から露出面に向かってマクロ気孔の気孔径が大きくなるようにマクロ気孔が配置されていること以外は第1の実施態様の生体インプラント1と同様の構成を有している。生体インプラントにおけるマクロ気孔の大きさが露出面に向かって大きくなるように配置されていると、生体インプラントの露出面に開口するマクロ気孔から生体組織が進入し易くなると共に、生体組織が進入し易いようにマクロ気孔を大きくしても、所望の強度を維持することのできる生体インプラントを提供することができる。
この生体インプラントは、生体インプラント1の製造方法として例示した(1)、(3)、(4)の製造方法において、以下の変更を加えること以外は同様にして製造することができる。
(1)の加圧成形法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、気孔形成材である可溶性物質について、粒径の異なる可溶性物質を含む少なくとも2つの成形体を形成し、小さい粒径の可溶性物質を含む成形体を中央部にそれよりも大きい粒径の可溶性物質を含む成形体を外側に配置して、所定の圧力で加圧して複合成形体を形成し、これを所定の温度で加熱すること以外は上述した(1)の製造方法と同様にして製造することができる。
粒径の異なる可溶性物質を含む成形体は、少なくとも2つあればよく、それぞれの成形体に含まれる可溶性物質の粒径の範囲は成形体毎に全く異なっていてもよいし、粒径の範囲の一部が重なっていてもよい。成形体及び複合成形体を成形する際の成形圧力は、製造工程においてその形状を保持することのできる圧力であればよい。
また、粒径の異なる可溶性物質を含む少なくとも2つの成形体を形成する代わりに、例えばプレス成形の場合、粒径の異なる可溶性物質のうち、粒径の小さい可溶性物質が中央部になるように配置し、これを所定の圧力で加圧して1つの成形体を形成してもよい。
(3)の熱溶解積層法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、マクロ気孔基材の中央付近に形成されるマクロ気孔が小さくなるようにパターンを描くこと以外は上述した(3)の製造方法と同様にして製造する。具体的には、各ラインの間隔が等間隔で広いパターンの造形体、及び中央部から外側に向かって各ラインの間隔が広くなるパターンの造形体を形成し、形成するマクロ気孔基材の中央部の各ラインの間隔が露出面付近における各ラインの間隔よりも小さくなるように各造形体を造形及び積層していき、マクロ気孔基材を製造する。
(4)のメッシュ積層法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、網目模様の開口径の異なる複数のメッシュ及び一枚のメッシュにおいて中央部の開口径が小さく外側の開口径が大きいメッシュを用いること以外は上述した(4)の製造方法と同様にして製造する。具体的には、開口径の大きいメッシュの上に、中央部の開口径が小さく外側の開口径が大きいメッシュを積層し、形成するマクロ気孔基材の中央部の開口径が小さくなるようにメッシュを積層していき、最後に開口径の大きいメッシュを積層して積層体として、得られた積層体を加熱して各メッシュを溶着させる。
(第4の実施態様)
この発明に係る生体インプラントのさらに別の一例である生体インプラントについて説明する。この実施態様の生体インプラントは、生体インプラントの一方の面から他方の面に向かってマクロ気孔の気孔径が小さくなるようにマクロ気孔が配置されていること以外は第1の実施態様の生体インプラント1と同様の構成を有している。生体インプラントにおけるマクロ気孔の大きさが一方の面から他方の面に向かって小さくなるように配置されていると、例えば、この生体インプラントを生体骨との結合が要求される部位に適用する場合に、生体インプラントにおける気孔径が大きいマクロ気孔が配置されている側を生体骨に隣接するように配置し、気孔径が小さいマクロ気孔が配置されている側を軟組織の進入し易い側に配置することで、骨組織を進入し易くしかつ軟組織を侵入し難くすることができると共に、骨組織が進入し易いようにマクロ気孔を大きくしても、所望の強度を維持することのできる生体インプラントを提供することができる。
この生体インプラントは、マクロ気孔の大きさが一方の面から他方の面に向かって小さくなるようにすること以外は第3の実施態様の生体インプラントの製造方法と同様にして製造することができる。
(第5の実施態様)
この発明に係る生体インプラントのさらに別の一例である生体インプラントについて説明する。この実施態様の生体インプラントは、生体インプラントの一方の面から他方の面に向かって直線状に貫通している複数のマクロ気孔が存在し、これらのマクロ気孔が一方向に配列していること以外は第1の実施態様の生体インプラント1と同様の構成を有している。すなわち、この実施態様の生体インプラントは、貫通孔であるマクロ気孔の軸線が互いに平行になるように所定の間隔をあけて配置されている。生体インプラントにおけるマクロ気孔が貫通孔として一方向に配列されていると、生体インプラントを生体内に埋設した後の早期に、マクロ気孔を介して生体インプラントの内部まで血液等の生体組織が進入し易くなり、そこからマクロ気孔の表面に形成されたミクロ多孔層に生体組織が進入する。したがって、この実施態様の生体インプラントは、生体内に埋設後の早期に生体インプラントの内部から骨の形成が進行し易い。
この生体インプラントは、工程1として、マクロ気孔が貫通孔として一方向に配列されたマクロ気孔基材を形成した後に、工程2として、マクロ気孔基材の表面部を多孔質構造にしてミクロ気孔骨格部を形成することにより製造することができる。
この生体インプラントは、生体インプラント1の製造方法として例示した(3)及び(4)の製造方法において、以下の変更を加えること以外は同様にして、マクロ気孔基材を製造し、このマクロ気孔基材に対して、生体インプラント1の製造方法として例示した工程2と同様にして、マクロ気孔基材の表面部を多孔質構造にしてミクロ気孔骨格部を形成することにより、製造することができる。なお、マクロ気孔基材に形成される貫通孔は、隣接する貫通孔同士が互いに独立する独立貫通孔であってもよいし、貫通孔の内壁面に空孔が存在し、隣接する貫通孔同士が互いに連通する連通貫通孔であってもよい。
(3)の熱溶解積層法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、マクロ気孔が一方の面から他方の面に向かって直線状に貫通している複数の貫通孔が一方向に配列するようにパターンを描くこと以外は、上述した(3)の製造方法と同様にして製造する。
マクロ気孔基材に形成される貫通孔が、隣接する貫通孔同士が互いに独立する独立貫通孔である場合、マクロ気孔基材は、例えば次のように製造される。1層目の造形体は、ノズルから押し出されて形成されるラインを波状に描き、ノズル又は造形テーブルを往復運動させて、一方向に配列された波線における互いの凸状曲線の頂点同士が接触するように、一筆書きのようにして描く。すなわち、一方から他方に向かって波線を描き、この波線の端部で折り返して、先に描いた波線の軸に平行な波線を、互いの波線の凸状曲線の頂点同士が接触するように、描く。このような操作を繰り返して、波状のライン同士が互いに凸状曲線の頂点同士が接触するように配列され、これらのラインが両端部で結ばれたパターンを1本の線で描く。こうして、複数の略円形状の空孔が千鳥状に配列された造形体が得られる。2層目の造形体は、1層目の造形体に重なるように1層目の造形体と同じパターンを描く。3層目以降の造形体についても同様にして描くことで、マクロ気孔が一方の面から他方の面に向かって直線状に貫通している複数の貫通孔が独立して一方向に配列されたマクロ気孔基材を製造する。次いで、得られたマクロ気孔基材に対して、生体インプラント1の製造方法として例示した工程2と同様にして、マクロ気孔基材におけるマクロ気孔の表面部を多孔質構造にしてミクロ気孔骨格部を形成することにより、第5の実施態様の生体インプラントを製造することができる。
マクロ気孔基材に形成される貫通孔が、隣接する貫通孔同士が互いに連通する連通貫通孔である場合、マクロ気孔基材は例えば次のように製造される。1層目の造形体は、ノズルから押し出されて形成されるラインを直線状に描き、ノズル又は造形テーブルを往復運動させて、直線状のライン同士が互いに所定の間隔で配列するように、一筆書きのようにして描く。すなわち、一方から他方に向かって直線を描き、この直線の端部で折り返して、先に描いた直線に平行でその直線から所定の間隔離れた位置に直線を描く。このような操作を繰り返して、例えば、直線状の同一長さを有するライン同士が互いに所定の間隔で配列され、平面視略四角形の仮想空間の中にすべてのラインが収まるようにパターンを1本の線で描く。このとき、ラインの末端部が起点部の対角線上の位置になるようにする。2層目の造形体は、1層目の造形体の末端部を起点部として、1層目の造形体の上に1層目の造形体と同じパターンを90°回転させて描く。すなわち直線状のラインが1層目と2層目とで直交するように描く。3層目の造形体は、2層目の造形体の末端部を起点部として、1層目の造形体に重なるように1層目と同じパターンを2層目の造形体の上に描く。このような操作を繰り返して複数のラインが格子状に溶着されることで、マクロ気孔が一方の面から他方の面に向かって直線状に貫通している複数の貫通孔が一方向に配列されると共に、隣接する貫通孔同士が互いに連通したマクロ気孔基材を製造する。次いで、得られたマクロ気孔基材に対して、生体インプラント1の製造方法として例示した工程2と同様にして、マクロ気孔基材におけるマクロ気孔の表面部を多孔質構造にしてミクロ気孔骨格部を形成する。このとき、膨潤溶液の種類、濃度、及び浸漬時間等、並びに凝固溶液の種類、濃度、及び温度等を適宜変更することにより、一方向に貫通した状態を維持しつつ貫通孔同士を連通する空孔の内壁面を膨潤して、空孔に複数のミクロ気孔を有するミクロ多孔層の壁を形成することができる。すなわち、工程2における各種条件を変更することにより、貫通孔の内壁面の全面がミクロ多孔層で形成された生体インプラントを製造することができる。
(4)のメッシュ積層法によりマクロ気孔基材を得る製造方法に関しては、積層される複数のメッシュが互いに同じ網目模様であり、互いのメッシュが重なるように積層及び溶着されること以外は、上述した(4)の製造方法と同様にして製造する。
マクロ気孔基材に形成される貫通孔が、隣接する貫通孔同士が互いに独立する独立貫通孔である場合、マクロ気孔基材は例えば次のように製造される。円形、楕円形、三角形及び方形等の多角形の空孔が格子状又は千鳥状に配列された網目模様のメッシュを、模様がずれないように積層及び溶着する。こうして、一方の面から他方の面まで柱形状に貫通している貫通孔が独立して一方向に配列されたマクロ気孔基材を製造する。次いで、得られたマクロ気孔基材に対して、生体インプラント1の製造方法として例示した工程2と同様にして、マクロ気孔基材におけるマクロ気孔の表面部を多孔質構造にしてミクロ気孔骨格部を形成することにより、第5の実施態様の生体インプラントを製造することができる。
マクロ気孔基材に形成される貫通孔が、隣接する貫通孔同士が互いに連通する連通貫通孔である場合、マクロ気孔基材は例えば次のように製造される。円形、楕円形、三角形及び方形等の多角形の空孔が格子状又は千鳥状に配列された網目模様のメッシュであって、メッシュの厚みが一定でなく、例えば平面状のメッシュから平面に対して直交する方向に突出する凸部を複数有するメッシュを、模様がずれないように積層及び溶着する。凸部と凸部との間の凹部が貫通孔同士を連通する空孔を形成する。こうして、一方の面から他方の面まで柱形状に貫通している複数の貫通孔が一方向に配列されると共に、隣接する貫通孔同士が互いに連通したマクロ気孔基材を製造する。次いで、得られたマクロ気孔基材に対して、生体インプラント1の製造方法として例示した工程2と同様にして、マクロ気孔基材におけるマクロ気孔の表面部を多孔質構造にしてミクロ気孔骨格部を形成する。このとき、膨潤溶液の種類、濃度、及び浸漬時間等、並びに凝固溶液の種類、濃度、及び温度等を適宜変更することにより、一方向に貫通した状態を維持しつつ貫通孔同士を連通する空孔の内壁面を膨潤して、空孔に複数のミクロ気孔を有するミクロ多孔層の壁を形成することができる。すなわち、工程2における各種条件を変更することにより、貫通孔の内壁面の全面がミクロ多孔層で形成された生体インプラントを製造することができる。
(第6の実施態様)
この発明に係る生体インプラントのさらに別の一例である生体インプラントについて説明する。この実施態様の生体インプラントは、ミクロ気孔骨格部の表面に生体活性物質及び/又は薬剤が担持されていること以外は、第1の実施態様の生体インプラント1と基本的に同様の構造を有する。
この生体インプラントは、ミクロ気孔骨格部の表面、すなわちミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面の全体又は一部に、生体活性物質、薬剤、又は薬剤を担持した生体活性物質を担持している。生体活性物質と薬剤を担持した生体活性物質とは、ミクロ多孔層の露出面等に膜状又は層状に担持されていてもよく、分散状態に担持されていてもよい。生体活性物質等が膜状又は層状に担持されている場合には、生体活性物質等の膜厚は、例えば、0.1〜100μmであるのが好ましく、0.5〜50μmであるのが特に好ましい。生体活性物質等が分散状態に担持されている場合に、生体活性物質等の形状はミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面に担持可能な粒状、顆粒状、粉末状であればよく、また凝集物であってもよく、例えば、球状、楕円球状、針状、柱状、棒状、板状、多角形状等が挙げられる。このときの生体活性物質等の粒子径は、例えば0.001〜10μmであるのが好ましく、0.01〜5μmであるのが特に好ましい。なお、本明細書中に記載している「粒子」及び「粒子径」とは、特に付記がない場合はそれぞれ「一次粒子」及び「一次粒子径」のことであり、ミクロ多孔層に担持されている生体活性物質が凝集物である場合は、その凝集物を構成している最小単位である一次粒子及びその径のことである。粒子径はインターセプト法により算出することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡にて写真撮影を行い、少なくとも15以上の粒子に交わる直線を引き、この直線と粒子とが交わっている部分の長さの平均値から算出することができる。球状粒子以外の形状である場合にはその面積換算直径を算出する。
生体活性物質は、生体との親和性が高く、生体骨を含む骨組織又は生体歯を含む歯組織(これらを総称して骨組織ということもある。)等の生体組織と化学的に反応する性質を有する物質であれば特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム化合物、生体活性ガラス、炭酸カルシウム等が挙げられる。リン酸カルシウム化合物としては、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、ドロマイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト及び塩素アパタイト等が挙げられる。生体活性ガラスは、バイオガラス、結晶化ガラス(ガラスセラミックスとも称する。)等を含み、バイオガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−Na2O−P2O5系ガラス、SiO2−CaO−Na2O−P2O5−K2O−MgO系ガラス、及び、SiO2−CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられ、結晶化ガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−MgO−P2O5系ガラス(アパタイトウォラストナイト結晶化ガラスとも称する。)、及び、CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられる。これらのリン酸カルシウム化合物、バイオガラス及び結晶化ガラスは、例えば、「化学便覧 応用化学編 第6版」(日本化学会、平成15年1月30日発行、丸善株式会社)、「バイオセラミックスの開発と臨床」(青木秀希ら編著、1987年4月10日、クインテッセンス出版株式会社)等に詳述されている。
生体活性物質は、これらの中でも生体活性に優れる点で、リン酸カルシウム化合物及び生体活性ガラスの少なくとも1種であるのが好ましく、さらに、生体骨と組成や構造、性質が似ており体内環境における安定性が優れ、体内で顕著な溶解性を示さない点で、水酸アパタイト又はリン酸三カルシウムが特に好ましい。
薬剤は、この発明の生体インプラントに要求される機能により種々の薬剤を使用することができる。薬剤としては、例えば、抗炎症剤、抗生物質、抗血栓剤、抗腫瘍剤、抗凝血剤、血管細胞成長促進剤、血管細胞成長阻害剤、抗癌剤、血管拡張剤、及び骨形成誘導因子等を挙げることができる。骨形成誘導因子としては、骨組織からの抽出成分である各種の骨形成関連タンパク質を用いることができ、例えば、骨形成因子(BMP)、形質転換成長因子(TFG−β)、軟骨由来形成因子(CDMP)、骨誘導因子(OIF)、インスリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDFG)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)等を挙げることができる。これらの薬剤は、相互に反応するものでなければ、これらの中から選択される2種以上の薬剤が表面層5に担持されてもよい。
生体インプラントが生体活性物質を有していると、生体活性物質は骨との結合性や生体分子を吸着する性質を有するので、この生体インプラントが骨や皮膚等の生体組織との接合性が必要な部位に使用される場合に特に有効である。例えば、生体インプラントが人工骨として使用される場合には、骨と結合し易くなり、経皮デバイスとして使用される場合には、皮膚と密着し易くなる。さらに、生体インプラントが薬剤を有していると、薬剤が長期間に渡って放出されるので、その薬剤の種類に応じた効果が長期間に渡って得られる。生体インプラントが薬剤を担持した生体活性物質である薬剤層を有していると、上述した生体活性物質及び薬剤それぞれにより奏される効果の両方が得られる。なお、薬剤を放出し易くする場合には、薬剤は、表面多孔質多孔体に担持されるよりも生体活性物質に薬剤を担持させて、薬剤層として表面多孔質多孔体に担持された方がよい。また、生体活性物質及び/又は薬剤層は、ミクロ気孔の開気孔を閉塞しないようにミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面に担持されているのが好ましい。
次に、第6の実施態様の生体インプラントの製造方法の一例を説明する。
第6の実施態様の生体インプラントは、表面多孔質多孔体におけるミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面に生体活性物質、薬剤、又は薬剤層が担持されていること以外は第1の実施態様の生体インプラント1と基本的に同じである。したがって、マクロ気孔骨格部とミクロ気孔骨格部とを有する表面多孔質多孔体は、第1の実施態様の生体インプラントの製造方法と基本的に同様にして製造することができる。以下においては、この表面多孔質多孔体におけるミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面に生体活性物質、薬剤、又は薬剤層を担持させる方法について説明する。
第1の実施態様の生体インプラントの製造方法と同様にして製造した表面多孔質多孔体に生体活性物質を担持させる方法の一例を説明する。
まず、表面多孔質多孔体を生体活性物質の懸濁液に浸漬させた状態で超音波を照射する超音波照射工程を実施する。この超音波照射工程を実施すると、マクロ気孔すなわちマクロ気孔骨格部の深部まで進入した懸濁液によってミクロ気孔の露出面だけでなくミクロ気孔の内壁面まで、好ましくは一様に、生体活性物質が進入及び配置された生体活性物質付着基材を得ることができる。超音波は例えば超音波振動機、超音波ホモジナイザー等を用いて前記懸濁液ごと表面発泡基材に照射される。超音波を照射する条件は、気孔の気孔径、気孔率等に応じて適宜に設定され、例えば、周波数20〜38kHzで出力200Wの超音波を8〜15分照射する条件が採用される。この超音波照射工程において表面多孔質多孔体は懸濁液に浸漬されていればよく、懸濁液に静置されてもよく、攪拌された懸濁液中に浸漬されてもよい。なお、この超音波照射工程は超音波を照射した後に懸濁液をしばらく攪拌してもよく、超音波を照射した後に生体活性物質付着基材を同種の溶媒に浸漬してしばらく攪拌してもよい。
この超音波照射工程における懸濁液の液温すなわち浸漬温度及び超音波の照射時間は特に限定されず、表面多孔質多孔体に生体活性物質を配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、浸漬温度は表面多孔質多孔体を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃未満、具体的には溶媒の沸点以下の温度、照射時間は1分以上24時間以下とすることができる。懸濁液に浸漬される表面多孔質多孔体の体積は特に限定されないが懸濁液の液量が十分でないと配置される生体活性物質の配置量が少なくなることがあるので、懸濁液100mLに対して0.001〜50cm3とすることができる。
この超音波照射工程で用いられる懸濁液は、前述した生体活性物質の懸濁液であり、この生体活性物質を懸濁させる媒体はエンジニアリングプラスチックを溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、水、アセトン、ヘキサン等が挙げられる。生体活性物質は前記範囲の粒子径及び前記形状を有する粒子であるのが好ましい。この懸濁液は、生体活性物質を媒体中に投入して攪拌することによって、所望により例えば周波数20〜38kHzで出力200Wの超音波を照射すること、又は、超音波ホモジナイザーで均質化すること等によって、生体活性物質を媒体中に均一に懸濁させて、調製される。このときの生体活性物質の投入量は生体活性物質を気孔に配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、媒体100mLに対して0.01〜100gとすることができる。また、超音波の照射時間は生体活性物質を均一に分散可能な時間に調整され、例えば、5〜180分とすることができる。
この実施態様の製造方法においては、所望により、懸濁液から取り出した後に生体活性物質付着基材を洗浄する洗浄工程を実施することもできる。生体活性物質付着基材を洗浄する洗浄液はプラスチックを溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、水、懸濁液の媒体と同じ媒体が挙げられ、水又は純水であるのが好ましい。また、この洗浄工程に次いで所望により、生体活性物質付着基材を乾燥する乾燥工程を実施することもできる。乾燥方法は、公知の乾燥方法を特に限定されることなく採用でき、例えば、風乾、送風乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。この乾燥工程において加熱する場合の加熱温度はプラスチックのガラス転移温度未満である。
この実施態様の製造方法においては、次いで、生体活性物質付着基材をエンジニアリングプラスチックのガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱して生体活性物質を担持固定する固定化工程を実施する。この固定化工程を実施するとミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面により一層強固に生体活性物質を担持固定することができる。この固定化工程における加熱温度はエンジニアリングプラスチックのガラス転移温度(Tg)−30℃以上、すなわちガラス転移温度よりも30℃低い温度(Tg−30)℃以上、そのエンジニアリングプラスチックの融点未満である。この温度範囲に生体活性物質付着基材を加熱すると生体活性物質付着基材の露出面近傍及び内壁面近傍の一部が軟化して配置された生体活性物質を強固に担持、密着、固定する。加熱温度の下限は、(Tg−30)℃であり、生体活性物質付着基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で、ガラス転移温度(Tg)以上であるのが好ましく、ガラス転移温度(Tg)+40℃であるのが特に好ましく、加熱温度の上限はエンジニアリングプラスチックの融点未満であり、表面多孔質多孔体と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点でガラス転移温度(Tg)+80℃であるのが好ましい。なお、この発明において、エンジニアリングプラスチックのガラス転移温度(Tg)はエンジニアリングプラスチックが複数のガラス転移温度を有している場合には最も低いガラス転移温度である。
この固定化工程において、生体活性物質付着基材を加熱する時間すなわち前記加熱温度に保持する時間は、生体活性物質付着基材の露出面近傍及び内壁面近傍を軟化可能な時間であればよく、生体活性物質付着基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で1時間以上であるのが好ましく、3時間以上であるのが特に好ましい。加熱する時間の上限値は、特に限定されず、大幅に長くしても生体活性物質の密着度の向上は見込めないので経済的又は作業効率等を考慮すると、例えば24時間とすることができる。生体活性物質付着基材の加熱方法は公知の加熱方法を適宜に採用できる。このようにして生体活性物質付着基材の表面に配置された生体活性物質を固定化することができる。
このようにしてミクロ多孔層の露出面及びミクロ気孔の内壁面に生体活性物質が担持された生体インプラントが得られる。そして、この生体インプラントは得られた状態のまま用いることができ、また、第1の実施態様の生体インプラント1と同様に所望形状に成形又は整形して用いることもできる。
次に、第1の実施態様の生体インプラントの製造方法と同様にして製造した表面多孔質多孔体に薬剤を担持させる方法の一例を説明する。
工程(II)で得られた表面多孔質多孔体を、所定時間薬剤を含む溶液に浸漬して、表面多孔質多孔体におけるミクロ多孔層に薬剤を担持している生体インプラントを作製する。薬剤は、要求される機能により適宜選択することができ、例えば、前述した薬剤の中から少なくとも1つの薬剤を選択することができる。薬剤が、液体薬剤の場合には、そのままあるいは希釈した希釈液が用いられ、固体薬剤の場合には、適宜の溶剤に溶解又は懸濁させた薬液が用いられる。希釈液及び薬液の濃度は、使用する薬剤の有効濃度以上であって、生体に害を及ぼさない範囲で適宜調整される。表面多孔質多孔体を薬剤を含む溶液に浸漬する時間は、表面多孔質多孔体におけるミクロ多孔層に薬剤が担持される限り特に限定されず、10分以上浸漬するのが好ましい。
表面多孔質多孔体に薬剤を担持させる際には、表面多孔質多孔体を薬剤を含む溶液に浸漬しながら脱泡処理をするのが好ましい。脱泡処理をすることにより、表面多孔質多孔体におけるマクロ気孔内及びミクロ気孔内まで薬剤を進入させることができる。また、表面多孔質多孔体を薬剤を含む溶液に浸漬させる時間も短縮することができる。
表面多孔質多孔体を薬剤を含む溶液から取り出した後には、常温にて十分に乾燥させるのが好ましい。
次に、第1の実施態様の生体インプラントの製造方法と同様にして製造した表面多孔質多孔体に薬剤を含有する生体活性物質である薬剤層を担持させる方法の一例を説明する。
工程(II)で得られた表面多孔質多孔体を、少なくとも10mMのカルシウムイオンを含むカルシウム溶液及び少なくとも10mMのリン酸イオンを含むリン酸溶液の両方に浸漬する。カルシウム溶液及びリン酸溶液の少なくとも一方には薬剤が含まれている。また、表面多孔質多孔体は、カルシウム溶液及びリン酸溶液のいずれから先に浸漬されてもよい。以下においては、表面多孔質多孔体をカルシウム溶液に先に浸漬させた場合について説明する。
まず、表面多孔質多孔体を、少なくとも10mMのカルシウムイオンを含むカルシウム溶液に所定時間浸漬する。このカルシウム溶液は、少なくともカルシウムイオンを含んでいれば良く、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオンなどを含んでいても良いが、リン酸イオンは実質的に含まないほうが好ましい。カルシウム溶液としては、通常、水溶性が高く、人体に悪影響を与えない化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、乳酸カルシウム、およびこれらの混合溶液等が挙げられ、塩化カルシウムの水溶液が好ましい。
カルシウム溶液に所定時間浸漬した後に、表面多孔質多孔体を、少なくとも10mMのリン酸イオンを含むリン酸溶液に浸漬する。このリン酸溶液は、少なくともリン酸イオンを含んでいればよく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオンなどを含んでいても良いが、カルシウムイオンは実質的に含まない方が好ましい。リン酸溶液としては、通常、水溶性が高く、人体に悪影響を与えない化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、およびこれらの混合溶液等が挙げられ、リン酸水素二カリウムの水溶液が好ましい。
薬剤は、カルシウム溶液及びリン酸溶液の少なくとも一方に含まれる。薬剤は、要求される機能により適宜選択することができ、例えば、前述した薬剤の中から少なくとも1つの薬剤を選択することができる。薬剤の濃度は、使用する薬剤の有効濃度以上であって、生体に害を及ぼさない範囲で適宜調整される。
表面多孔質多孔体を、上記2種類の水溶液に浸漬する順序は、特に限定されないが、例えば生体活性物質として水酸アパタイトをミクロ多孔層の内部、すなわち多孔質構造内に生成させる場合は、水酸アパタイトの溶解度がより低いアルカリ域で生成反応が進むことが生成量の面から好ましく、そのため、後半に浸漬する溶液のpHがpH8〜10のアルカリ域であることが好ましい。
カルシウム溶液及びリン酸溶液に、表面多孔質多孔体を浸漬する時間は、1分以上浸漬するのが好ましく、3分以上浸漬するのが特に好ましい。前記範囲内であれば、十分にカルシウムイオン、リン酸イオン及び薬剤が表面多孔質多孔体の内部まで染み込み、表面多孔質多孔体のミクロ多孔層におけるミクロ気孔の内壁面に生体活性物質と薬剤とを共沈させることができる。また、生体活性物質の生成量を増やしたい場合には、各溶液に浸漬する操作を複数回繰り返しても良い。
第6の実施態様の生体インプラントは、各種用途を有し、例えば、生体組織と結合することが必要とされる医療用材料に好適に利用することができ、特に人工骨、人工歯根、歯槽骨造骨用インプラント及び経皮デバイス等に利用することができる。人工骨としては、例えば、骨補填材、人工関節、骨接合材、人工椎体、椎体間スペーサ、椎体ケージとして適用することができる。歯槽骨造骨用インプラントは、やせた歯槽骨を補填するようにして埋設される。経皮デバイスは、体外から体内に皮膚を貫通し、栄養補給、薬液注入及び血液循環等を担う医療機器であり、あらゆる人工臓器に付随している。
この発明に係る生体インプラントは、前記した例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
(実施例1)
工程1として、加圧成形法によりマクロ気孔基材を以下のように製造した。
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ガラス転移温度143℃、融点340℃、弾性率4.2GPa、曲げ強度170MPa)の粉末(ダイセル・エポニック株式会社製、ベスタキープ 4000P、粒径:50〜1200μm(平均粒径500μm))と、気孔形成材としての塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粒径:100〜1000μm(平均粒径500μm))とをPEEKと塩化ナトリウムとの合計体積に対する塩化ナトリウムの体積割合が70体積%となるように乾式混合して、混合物を調製した。
この混合物を金型に入れて370℃まで昇温し、その温度を維持しつつ200MPaで10分間加圧(ホットプレス)して加熱成形体を得た。
この加熱成形体を加熱成形体全体を浸漬することのできる十分な量の純水に24時間浸漬して塩化ナトリウムを溶出させ、その後、120℃の環境下に1時間置いて乾燥させることにより、骨格部がPEEKからなり、複数のマクロ気孔を有するマクロ気孔基材を得た。
工程2として、得られたマクロ気孔基材の表面部に以下のようにしてミクロ多孔層を形成した。
まず、マクロ気孔基材を常温下で30mLの濃硫酸(濃度:98%)に1分間浸漬して、マクロ気孔基材を膨潤する膨潤工程を実施した。なお、この膨潤工程は真空デシケータ内で減圧環境下で実施した。次いで、濃硫酸から取り出したマクロ気孔基材を常温下で1000mLの純水に5分間浸漬し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄して、表面が膨潤したマクロ気孔基材を洗浄及び凝固する凝固工程を実施し、80℃で12時間乾燥して、マクロ気孔基材の表面に気孔を形成する工程1を実施した。このようにして表面気孔基材を得た。
次いで、表面気孔基材を常温下で100mLの炭酸カリウム水溶液(濃度:3M)に4時間浸漬して、表面気孔基材の表面及び気孔内に炭酸カリウムを保持させる発泡剤保持工程を実施し、発泡剤保持基材を得た。
次いで、この発泡剤保持基材を常温下で濃硫酸(濃度:95%)30mLに1分間浸漬してPEEKを膨潤させると共に炭酸カリウムを発泡させる表面軟発泡工程を実施し、表面軟発泡基材を得た。なお、この表面軟発泡工程は真空デシケータ内で減圧環境下で実施した。
得られた表面軟発泡基材を常温下で30mLの希硫酸(濃度:86%)に浸漬して凝固させた後に、希硫酸(濃度:86%)から取り出して常温下で1000mLの純水に10分間浸漬する第2凝固工程を実施し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄し、80℃で12時間乾燥して表面発泡基材を得た。この表面発泡基材を実施例1の生体インプラントとした。
(実施例2)
実施例1で用いた塩化ナトリウムを篩分けにより分級して、粒度範囲が355〜840μmの塩化ナトリウムに変更したこと以外は実施例1と基本的に同様にして実施例2の生体インプラントを製造した。
(実施例3)
実施例1で用いたPEEK及び塩化ナトリウムを篩分けにより分級して、粒度範囲が600〜840μmのPEEK、及び粒度範囲が600〜840μmの塩化ナトリウムに変更し、これらの合計体積に対する塩化ナトリウムの体積割合が60体積%となるように調製したPEEKと塩化ナトリウムとの混合物を金型に入れて、常温下、45MPaで10秒間加圧して成形体を得て、この成形体をオーブンに入れて常温から300℃まで昇温速度5℃/分で昇温し、さらに360℃まで昇温速度2℃/分で昇温し、360℃で20分間維持して加熱成形体を得たこと以外は実施例1と基本的に同様にして実施例3の生体インプラントを製造した。
(実施例4)
粒度範囲が355〜600μmのPEEK、及び粒度範囲が355〜600μmの塩化ナトリウムに変更したこと以外は実施例3と基本的に同様にして実施例4の生体インプラントを製造した。
(実施例5)
粒度範囲が150〜355μmのPEEK、及び粒度範囲が150〜355μmの塩化ナトリウムに変更したこと以外は実施例3と基本的に同様にして実施例5の生体インプラントを製造した。
(実施例6)
粒度範囲が150〜355μmのPEEKに変更したこと以外は実施例3と基本的に同様にして実施例5の生体インプラントを製造した。
(実施例7)
塩化ナトリウムを用いず、PEEKのチューブ(仁礼工業株式会社製、外径1.0mm、内径0.5mm)を裁断して長さ1〜1.5mmの円筒体にして、これを金型に入れて355℃で30分間加熱して、顆粒連結法によりマクロ気孔基材を得て、このマクロ気孔基材にミクロ多孔層を形成する際に前記「膨潤工程」において濃硫酸に5分間浸漬したこと以外は実施例1と基本的に同様にして実施例7の生体インプラントを製造した。
(実施例8)
粒度範囲が500〜710μmのPEEK、及び粒度範囲が500〜710μmの塩化ナトリウムに変更したこと以外は実施例3と基本的に同様にして実施例8の生体インプラントを製造した。
後述する方法で測定したマクロ気孔の平均気孔径は623μm、気孔率は70.0%であった。
(実施例9)
工程1として、熱溶解積層法によりマクロ気孔基材を以下のように製造した。
直接造形装置(IMC−1703、株式会社井元製作所製)を用いて、実施例1で使用したPEEKの粉末を420℃に加熱し、これをノズル(直径0.3mm)から押し出して、PEEKからなる複数のラインが格子状に溶着されたマクロ気孔基材を得た。具体的には、まず、一方から他方に向かって長さ20mmの直線を描き、この直線の端部で折り返して、先に描いた直線に平行でその直線から所定の間隔離れた位置に直線を描いた。このような操作を繰り返して、直線状のラインが互いにピッチ1.0mmで配置され、平面視略四角形の仮想空間の中にすべてのラインが収まるようにパターンを1本の線で描き、1層目の造形体を得た。このとき、ラインの末端部が起点部の対角線上になるようにした。続けて、2層目の造形体は、1層目の造形体の末端部を起点部として、1層目の造形体の上に1層目の造形体と同じパターンを90°回転させて描いた。3層目の造形体は、2層目の造形体の末端部を起点部として、1層目の造形体に重なるように1層目と同じパターンを2層目の造形体の上に描いた。このような操作を繰り返して合計30層の造形体を積層して、マクロ気孔基材を得た。次いで、工程2として、得られたマクロ気孔基材の表面部に実施例1と同様にしてミクロ多孔層を形成した。
(実施例10)
ピッチを1.4mmとしたこと以外は実施例9と同様にしてマクロ気孔基材を得た。次いで、工程2として、得られたマクロ気孔基材の表面部にミクロ多孔層を形成するときに、膨潤工程において濃硫酸に5分間浸漬したこと以外は実施例1と同様にしてミクロ多孔層を形成した。
(比較例1)
生体インプラントとして、PEEK板材(Victrex社製)を用いた。
(参考例1)
生体インプラントとして、インプラント実習用模擬骨(株式会社ニッシン製、T6−X.1143F)を用いた。
(マクロ気孔の平均気孔径の測定)
製造した各生体インプラントを、エポキシ樹脂に包埋して固めて切断し、切断面をデジタルマイクロスコープで撮影し(倍率40倍)、得られた撮影画像上を横断するようにランダムに5本の直線を引き、直線上にあるマクロ気孔を測定対象として、直線とマクロ気孔の重なっている部分の長さを全て測定し、得られた測定値の算術平均をマクロ気孔の平均気孔径とした。
(気孔率)
製造した各生体インプラントの質量と体積とを測定し、これらの測定値と用いたPEEKの比重(1.30g/cm3)とにより算出した。
(生体インプラントの観察)
製造した各生体インプラントについて、前記「マクロ気孔の平均気孔径の測定」と同様にして切断面を観察した。
実施例4及び実施例8の生体インプラントの撮影画像を図3及び図4にそれぞれ示す。図3及び図4に示すように、実施例4及び実施例8の生体インプラントには、多数のマクロ気孔21が形成され、その内壁面にマクロ気孔21よりも気孔径の小さいミクロ気孔を有するミクロ多孔層5が形成されているのが観察された。また、マクロ気孔21として、略円形状及び略楕円形状の種々の気孔径を有する気孔A、並びに、形状が不定形な気孔が観察され、形状が不定形な気孔は気孔径の異なる複数の気孔が連通してマクロ連通気孔Bを形成していた。また、マクロ気孔骨格部2は、PEEKにより中実に形成されていた。マクロ気孔骨格部2にPEEKの粒子形状は観察されず、マクロ気孔骨格部2の外形は気孔形成材により形作られており、その断面は不定形状であった。
実施例9の生体インプラントの撮影画像を図5に示す。図5に示すように、実施例9の生体インプラントには、略均一な形状及び大きさを有する多数のマクロ気孔521が形成され、ノズルから押し出されたラインの中心部によって中実なマクロ気孔骨格部502が形成されており、その外周部にマクロ気孔521よりも気孔径の小さいミクロ気孔531を有するミクロ多孔層505が形成されているのが観察された。
実施例10の生体インプラントの撮影画像を図6に示す。図6に示すように、実施例10の生体インプラントには、紙面上方から下方に向かって直線状に貫通している複数の貫通孔が配列されたマクロ気孔621が観察された。この貫通孔を形成する壁は、ノズルから押し出されたラインの中心部によって形成された中実なマクロ気孔骨格部602とこのマクロ気孔骨格部602の外周部に形成されたミクロ気孔を有するミクロ多孔層605とにより形成されていた。すなわち、マクロ気孔基材に対してミクロ多孔層を形成するための処理をすることにより、マクロ気孔基材において隣接する貫通孔同士を連通していた空孔に、複数のミクロ気孔を有するミクロ多孔層605の壁が形成された。
(ドリリング特性評価)
製造した各生体インプラントを、歯槽骨造骨用の生体インプラントとして用いる場合を想定して、歯科用ドリルで人工歯根を挿入するための下穴を形成するときの形成し易さを、以下に示す最大トルクと最大荷重とで評価した。
製造した各生体インプラント(寸法:Φ16×7mm)を試験用テーブルに載置して、歯科用ドリルエンジンに備えられた直径3.2mmのドリルを用いて、回転速度800rpmで各生体インプラントに穴を形成した。歯科用ドリルエンジンにより穴を形成する際のドリルのトルクの最大値を測定し、これを最大トルクとした。結果を表1に示す。
製造した各生体インプラント(寸法:Φ16×7mm)をロードセル上に載置し、歯科用ドリルエンジンに備えられた直径3.2mmのドリルを用いて回転速度800rpmで各生体インプラントに穴を形成した。歯科用ドリルエンジンにより穴を形成する際のロードセルにかかる負荷の最大値を測定し、これを最大荷重とした。結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜10の生体インプラントにおける、最大トルク及び最大荷重によるドリリング特性評価は、参考例1のインプラント実習用模擬骨と同程度であった。一方、比較例1の生体インプラントは、参考例1のインプラント実習用模擬骨に比べて、最大トルク及び最大荷重が共に大きく、下穴が形成し難いことが示された。
この発明は、生体内に埋設した後に生体組織との強固な結合能力を発揮すると共に適用部位に応じて適度な強度を確保することができ、ミクロ気孔骨格部のマクロ気孔骨格部からの剥離が生じ難い生体インプラント及びその製造方法を提供することである。