JPWO2014126146A1 - 未分化細胞除去方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、本発明は、毒性化合物などの標的化合物を未分化細胞特異的に細胞内に導入することができる未分化細胞内輸送用キャリア及び未分化細胞内導入用組成物に関する。
2010年に世界で初めてのヒトES細胞を用いた第1相臨床試験が米国で急性脊髄損傷に対して始まり、さらに網膜変性疾患に対するヒトES細胞を用いた第1/2相臨床試験の治験許可申請(IND)がFDAにより承認され、ヒト多能性幹細胞を用いた再生医療研究は飛躍的な発展を続けている。
とりわけ、日本発の新たなヒト多能性幹細胞であるiPS細胞は、受精胚を使用しないなどの理由から倫理的な障壁が低く、且つ自家組織からも樹立できるという極めて大きなメリットがあり、再生医療現場からも大きな期待を集めている。我が国では、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターや先端医療センターなどが、加齢黄斑変性症の患者を対象に、iPS細胞を使った臨床研究を2013年度から開始する計画であり、慶応大学も2016年に脊髄損傷患者に対しての臨床研究を始める方針である。
このように、ES細胞やiPS細胞といったヒト多能性幹細胞の臨床応用が開始されるなか、品質と安全性を確保して細胞を供給する体制に関しては十分に整備がなされていない。
細胞治療には多能性幹細胞をそのまま用いるのではなく、目的の細胞に分化させてから移植に用いるが、目的の細胞に分化させた細胞源に未分化な幹細胞が混入している場合、その未分化幹細胞が腫瘍形成の原因になることが指摘されている。そこで、細胞治療に用いる細胞源から未分化幹細胞、すなわち腫瘍形成細胞を除去する技術の開発が求められている。
従来は、Nanog,Oct3/4,Stm1などの未分化特異的マーカーのプロモーターの下流にGFP等の蛍光タンパク質の遺伝子を組み込み、蛍光を発した未分化細胞をフローサイトメトリー等で除去する方法が提案されていた(特許文献1)。しかし、この方法ではゲノムを改変する上に、時間と労力がかかり、大量の細胞を処理することは難しかった。また、これまでの報告によると、生体染色が可能な単一の未分化細胞特異的抗体を用いて、フローサイトメトリー等で除去する方法でも完全に未分化細胞を除去することは難しいとも言われている(非特許文献2)。そこで、移植する分化細胞から、分化した細胞を傷つけることなく、腫瘍化の原因となる未分化細胞のみを確実にかつ効率的に除去するための方法が求められていた。とりわけ、培地に添加するだけで未分化細胞のみを殺すことができるような、簡便且つ効率的な未分化細胞除去剤の開発が望まれていた。
また、同時に、未分化細胞特異的に、標的化合物を細胞内に輸送するための細胞内輸送用キャリア(細胞導入剤)を提供することを目的とする。
本発明において用いられるrBC2LCNレクチンは、グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)由来のBC2L-Cタンパク質のN末端ドメインに対応したBC2LCNレクチン(YP_002232818)を形質転換大腸菌で発現させた組換え体であり、複合糖鎖の非還元末端の「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」並びに、「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」糖を認識するレクチンである(非特許文献1,3)。
本発明者らは、上述のレクチンアレイを用いた実験において、当該rBC2LCNレクチンが、全てのヒトES・iPS細胞と反応するものの、分化した体細胞とは全く反応しないことを見出した。当該レクチンは、ヒトES・iPS細胞で高発現しており分化した体細胞ではほとんど発現のない糖鎖である「α1-2Fuc」、「タイプ1 LacNAc」及び「α2-6Sia」のうちの2つ(α1-2Fuc、タイプ1 LacNAc)を有する「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc(=Hタイプ1構造)」及び「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc(=Hタイプ3構造)」の糖鎖構造と特異的に反応していると解される。
このことは、rBC2LCNレクチンが認識する糖鎖リガンドは未分化幹細胞を特徴付ける新規未分化糖鎖マーカーであることを示すものであり、かつ、rBC2LCNレクチンは、当該未分化糖鎖マーカー「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」及び/又は「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」(以下、両者をあわせて「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」ということもある。)に特異的なプローブとして用いることができることを示している。
しかしながら、以前に報告されたrBC2LCNレクチンと糖鎖との結合状態のX線解析結果で、rBC2LCNレクチンが3量体を形成し、2つのサブユニット間で糖鎖を挟みこむような状態で認識することが知られている(非特許文献3)。このことは、rBC2LCNレクチンを融合タンパク質として用いる場合に、rBC2LCNレクチン本来の未分化幹細胞に対する「選択性」、「特異性」、「親和性」を保持するために、その「3量体」という高次構造を保持することが必須であることを意味する。そのため、rBC2LCNに細胞殺傷能力のあるドメインを融合させた融合タンパク質が、rBC2LCNレクチンの「3量体」構造を保持し、かつ未分化幹細胞に対する「選択性」、「特異性」、「親和性」を保ったまま、細胞殺傷能力のあるドメイン本来の細胞殺傷機能を発揮させることは至難の業であることが予想された。まして、培地に添加しただけで未分化細胞のみを完全に殺傷することができるほどの高い選択性、親和性及び殺傷能力を兼ね備えたrBC2LCN融合タンパク質を開発できる可能性はほとんどないことが想定された。しかも、rBC2LCN融合タンパク質の製造に際しても、大腸菌の可溶性画分から調製しようとした場合に、rBC2LCN自体の分子の大きさや高次構造を勘案すると、rBC2LCNの糖鎖結合活性を維持した状態での効率的な調製法の構築には大きな困難が予想された。
タンパク質合成阻害活性を有する細胞殺傷性毒素としては、植物種子に由来する猛毒のリシンやサポリン、細菌由来の外毒素等が知られるが、そのうちでもストレプトアビジンとの融合タンパク質として購入が可能なサポリンを検討した。サポリンは、Saponaria officinalisの種子に含まれるタンパク質性毒素で、直接リボソームを不活性化し,極めて低濃度で細胞死を引き起こすことができるタンパク質であり、ストレプトアビジンを融合させたStreptavidin-ZAP(Advanced Targeting Systems)として市販されている。rBC2LCNをビオチン化させた後、Streptavidin-ZAPに対してビオチンアビジン結合させてrBC2LCN-ZAPを調製し、未分化幹細胞に対して反応させた。当初の実験では、未分化幹細胞に対するrBC2LCN-ZAP融合体(ストレプトアビジン融合サポリン+ビオチン化rBC2LCN)を、Streptavidin-ZAP濃度として1ng,10ng,100ng/2mlの3段階で作用させたにもかかわらず、全く未分化細胞殺傷活性が確認できなかった。当初はその結果を、ビオチンアビジン系でrBC2LCNに毒素を融合させると、多数の毒素がランダムに結合してしまうために、rBC2LCNの糖結合活性を大きく損なったからである、と解釈したが、その後、当初のアッセイで用いたrBC2LCN及び毒素の量では、未分化細胞殺傷活性を引き起こすための量として不十分であった可能性があることに気付いた。そこで、再度未分化幹細胞に対するrBC2LCN-ZAP融合体を当初の100倍以上もの濃度で作用させたところ、未分化幹細胞のみを殺傷することができた。つまり、rBC2LCN−毒素融合体において、毒素の種類はETAに限られることはなく、rBC2LCNとの結合様式も共有結合のみならず、ストレプトアビジン−ビオチン結合様式であっても、実質的に殺傷に充分な量の毒素を含むrBC2LCN−毒素融合体を作用させれば、未分化幹細胞を効率的に殺傷できることが確認できた。
さらに、本発明において、分化細胞に対しては培地中にrBC2LCN−毒素融合タンパク質を添加した状態で長期間培養し続けても、分化細胞の特性には全く変化が見られず、分化細胞に対しては全く毒性がないことが確認できたため、そのまま再生医療用の細胞移植材料として用いることができる。つまり、本発明のrBC2LCN−毒素融合タンパク質は、培地中に添加するだけで、ヒトES細胞・iPS細胞を分化させた細胞源から、残存している未分化細胞を効率的に殺傷除去することができ、移植細胞材料の腫瘍化のリスクを減少できる。
そうしてみると、毒素や標識用色素化合物以外の、例えば核酸や生理活性タンパク質などであっても、rBC2LCNと融合させて未分化細胞に作用させることで、未分化細胞の生存を脅かすことなく未分化細胞内に効率良く輸送することができ、それぞれの本来の機能を発揮できることが明らかとなった。
このことは、rBC2LCNが、種々の化合物を未分化細胞特異的に細胞内に輸送するためのキャリア(細胞内導入剤)として働いたことであるから、rBC2LCNをキャリアとして用いる未分化細胞特異的な細胞内輸送システムを提供できたということもできる。
以上の知見を得たことで本発明を完成するに至った。
〔1〕 標的物質を未分化細胞内に導入するための方法であって、
標的物質を、rBC2LCNと化学的もしくは電気的に融合させ、rBC2LCN−標的物質融合体として未分化細胞と接触させることを特徴とする、未分化細胞内導入方法。
〔2〕 標的物質とrBC2LCNとがリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合されていることを特徴とする、前記〔1〕に記載の未分化細胞内導入方法。
〔3〕 標的物質とrBC2LCNとがリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずにビオチン−ストレプトアビジン結合により融合されていることを特徴とする、前記〔1〕に記載の未分化細胞内導入方法。
〔4〕 rBC2LCN−標的物質融合体は、蛍光物質又は発光酵素によって標識されており、蛍光又は発光を発する位置を観察することで、標的物質が未分化細胞内に取り込まれたことを判定する工程を含むことを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の未分化細胞内導入方法。
〔5〕 rBC2LCNを有効成分として含むことを特徴とする、標的物質の未分化細胞内導入用キャリア。
〔6〕 前記未分化細胞内導入用キャリアは、有効成分として含まれるrBC2LCNを標的物質に対して化学的もしくは電気的な融合体を形成させ、rBC2LCN−標的物質融合体として未分化細胞内に侵入させるものである、前記〔5〕に記載の未分化細胞内導入用キャリア。
〔7〕 標的物質とrBC2LCNとが化学的もしくは電気的に融合しているrBC2LCN−標的物質融合体を有効成分として含むことを特徴とする、標的物質の未分化細胞導入用組成物。
〔8〕 rBC2LCN−標的物質融合体が蛍光物質又は発光酵素によって標識されていることを特徴とする、前記〔7〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔9〕 標的物質とrBC2LCNとが、リンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合されていることを特徴とする、前記〔7〕又は〔8〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔10〕 標的物質がタンパク質であって、rBC2LCNとリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合されたrBC2LCN−標的物質融合体が、それぞれの遺伝子を結合させた融合遺伝子を用いて得られた発現産物であることを特徴とする、前記〔9〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔11〕 標的物質とrBC2LCNとがリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずにビオチン−ストレプトアビジン結合により融合されていることを特徴とする、前記〔7〕又は〔8〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔12〕 標的物質が、細胞内で細胞毒性を発揮できる毒性化合物である、前記〔7〕〜〔11〕のいずれかに記載の毒性化合物の未分化細胞導入用組成物。
〔13〕 毒性化合物が、タンパク質毒素もしくはその細胞殺傷能力のあるドメイン、細胞毒性を有する低分子化合物、又は核酸である、前記〔12〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔14〕 毒性化合物とrBC2LCNとが、リンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合又はビオチン−ストレプトアビジン結合により融合されていることを特徴とする、前記〔12〕又は〔13〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔15〕 毒性化合物がタンパク質毒素であって、rBC2LCNとリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合されたrBC2LCN−タンパク質毒素融合体であることを特徴とする、前記〔14〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔16〕 前記rBC2LCN−タンパク質毒素融合体が、rBC2LCN遺伝子及びタンパク質毒素遺伝子とがスペーサー配列を介して又は介さずに結合された融合遺伝子を用いて得られた発現産物であることを特徴とする、前記〔15〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔17〕 タンパク質毒素が、緑膿菌の外毒素A由来殺傷性ドメイン(ETA)であることを特徴とする、前記〔15〕又は〔16〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔18〕 毒性化合物とrBC2LCNとがリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずにビオチン−ストレプトアビジン結合により融合されたrBC2LCN−タンパク質毒素融合体であることを特徴とする、前記〔14〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔19〕 毒性化合物が低分子毒性化合物であって、rBC2LCNと低分子毒性化合物がリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに融合されたrBC2LCN−低分子毒性化合物融合体であることを特徴とする、前記〔14〕に記載の未分化細胞導入用組成物。
〔20〕 細胞内で細胞毒性を発揮できる毒性化合物とrBC2LCNとが化学的もしくは電気的に融合しているrBC2LCN−毒性化合物融合体を有効成分として含むことを特徴とする、未分化幹細胞除去剤。
〔21〕 毒性化合物が、タンパク質毒素もしくはその細胞殺傷能力のあるドメイン、細胞毒性を有する低分子化合物、又は核酸である、前記〔20〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔21〕 毒性化合物とrBC2LCNとが、リンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合又はビオチン−ストレプトアビジン結合により融合されていることを特徴とする、前記〔20〕又は〔21〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔22〕 毒性化合物がタンパク質毒素であって、rBC2LCNとリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに共有結合されたrBC2LCN−タンパク質毒素融合体であることを特徴とする、前記〔21〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔23〕 前記rBC2LCN−タンパク質毒素融合体が、rBC2LCN遺伝子及びタンパク質毒素遺伝子とがスペーサー配列を介して又は介さずに結合された融合遺伝子を用いて得られた発現産物であることを特徴とする、前記〔22〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔24〕 タンパク質毒素が、緑膿菌の外毒素A由来殺傷性ドメイン(ETA)であることを特徴とする、前記〔22〕又は〔23〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔25〕 毒性化合物とrBC2LCNとがリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずにビオチン−ストレプトアビジン結合により融合されたrBC2LCN−タンパク質毒素融合体であることを特徴とする、前記〔21〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔26〕 毒性化合物が低分子毒性化合物であって、rBC2LCNと低分子毒性化合物がリンカーもしくはスペーサーを介して、又は介さずに融合されたrBC2LCN−低分子毒性化合物融合体であることを特徴とする、前記〔21〕に記載の未分化幹細胞除去剤。
〔27〕 幹細胞を分化誘導した後の培地中に、rBC2LCNと細胞毒性を発揮できる前記〔20〕〜〔26〕のいずれかに記載の未分化幹細胞除去剤を添加することを特徴とする、未分化状態の幹細胞の殺傷方法。
〔28〕 幹細胞から分化誘導された分化誘導後の細胞に対して、前記〔20〕〜〔26〕のいずれかに記載の未分化幹細胞除去剤を接触させる工程を含むことを特徴とする、再生治療用移植材料の製造方法。
〔29〕 幹細胞をビーズ状、中空糸状もしくは平板状の基材上で培養し、次いで分化誘導処理を施した後に、基材が存在する培地中に前記未分化幹細胞除去剤を添加することを特徴とする、前記〔28〕に記載の製造方法。
〔30〕 幹細胞を培養液中で浮遊培養し、次いで分化誘導処理を施した後に、基材が存在する培養液中に前記未分化幹細胞除去剤を添加することを特徴とする、前記〔28〕に記載の製造方法。
本発明により提供されたrBC2LCNと種々の標的物質との融合体を含有する組成物は、未分化細胞が存在している細胞群に作用させると、未分化細胞特異的に細胞内部に侵入し、標的物質を未分化細胞内に効率良く輸送して当該標的物質本来の機能を未分化細胞内で発揮させることができるので、標的物質に対する「未分化細胞導入用組成物」ということができる。
たとえば、rBC2LCN−毒素融合体の場合は、培地中に添加するだけで未分化幹細胞を特異的に殺傷可能な、優れた「未分化細胞除去剤」となる。本発明の「未分化細胞除去剤」を被検細胞の培地に直接添加することで、未分化状態の幹細胞は殺傷することができるのに対して、当該「未分化細胞除去剤」存在下で長期間培養しても分化細胞には毒性がない。
したがって、本発明の「未分化細胞除去剤」は、移植に用いる細胞源から腫瘍形成細胞であるヒトiPS・ES細胞を簡便かつ効率的に除去でき、安全性の高い移植細胞を調製することができるため、ヒトES・iPS細胞を用いた再生医療への応用が期待される。
(1−1)「rBC2LCNレクチン」の糖鎖認識能について
本発明で用いる「rBC2LCNレクチン」又はその改変体は、細胞表面の未分化糖鎖マーカーである「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc(式1)」及び「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc(式2)」の未分化糖鎖マーカーと特異的に結合する。
「BC2LCNレクチン」は、グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)から見つかったレクチンであり、BC2L-Cと呼ばれるタンパク質のN末端ドメイン(GenBank/NCBI-GI登録番号:YP_002232818)に相当する(非特許文献3)。BC2LCNはTNF様タンパク質に構造類似性を示し、溶液中では3量体を形成し、2つのサブユニット間で糖鎖を挟みこむような状態で認識することが知られている。糖鎖アレイを用いた解析から、このレクチンは「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc(Hタイプ1糖鎖)」、「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc(Hタイプ3糖鎖)」と共に、Hタイプ1又はHタイプ3糖鎖を含有する糖鎖構造である、「Lewis b糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc)」、「Globo H糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAcβ1-3Galα1-4Galβ1-4Glc)」に対しても結合特異性を示すことが明らかになっている。
「BC2LCNレクチン」は、糖鎖を含まないので、形質転換細菌によっても大量生産可能である。具体的には、GenBank/NCBI-GI登録番号:YP_002232818(Genome ID:206562055)のアミノ酸配列(配列番号1)をコードするBC2LCN遺伝子を用い、適宜宿主に対して最適化した後、形質転換した大腸菌などから発現させ、通常のタンパク質精製手段により精製することができる。本発明の実施態様でも組換え型BC2LCN(rBC2LCN)を用いているので、以下、「rBC2LCN」ともいう。
その際、rBC2LCNレクチンとしては、配列番号1に対応する全長は必要とせず、また配列番号1において部分的に1部のアミノ酸が欠失、置換、挿入、付加されている場合であっても、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」及び「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」、すなわち「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」で表される糖鎖構造を特異的に認識する特性を維持していればよい。
本発明の「未分化細胞除去剤」を含め、標的物質の未分化細胞内輸送用キャリアとして用いることのできるrBC2LCNレクチン又はその改変体は、以下のように表現することができる。
「配列番号1に示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」及び「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」の糖鎖構造を特異的に認識するタンパク質。」と表現できる。
なお、ここで、数個とは20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下の自然数を表す。また、本発明では、以下、これらrBC2LCNレクチン又はその改変体をあわせて、単に「rBC2LCN」という。
本発明で用いる「rBC2LCN」には認識糖鎖である「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」を介して、又は当該糖鎖に結合したタンパク質もしくは脂質を介して未分化細胞内に侵入する特性がある。また、「rBC2LCN」自身に細胞毒性はないため、その侵入特性を利用し、「rBC2LCN」に種々のタンパク質や低分子化合物に代表される各種化合物を融合させて未分化細胞に作用させることにより、未分化細胞内に効率良く各種化合物(輸送対象の化合物を「標的化合物」ということもある。)を輸送することができ、細胞内で輸送した化合物本来の機能を発揮させることができる。輸送した化合物が細胞内で毒性を発揮できる化合物であれば、その細胞毒性を発揮させることができる。
いずれにしても、未分化細胞、とりわけ多能性幹細胞であるiPS/ES細胞の細胞表面は、分化細胞表面には存在しない多数の「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」糖鎖含有複合糖質に覆われており、各種化合物との融合体を形成した「rBC2LCN」が、未分化細胞表面の当該「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」糖鎖に結合した後に、当該糖鎖を介して、又は当該糖鎖含有複合糖質を介して未分化細胞内に侵入する能力を有していることは確実である。
つまり、「rBC2LCN」には、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」含有複合糖質を細胞表面に有している未分化細胞に対してのみ、融合させた種々の化合物(標的化合物)を細胞内へ輸送するという、未分化細胞特異的な「細胞内輸送作用」を有している「細胞内輸送用キャリア(細胞内導入剤)」であるといえる。
本発明においては、本発明の未分化細胞用の「細胞内輸送用キャリア」となるrBC2LCNに対し、輸送対象となる標的物質を、化学的もしくは電気的に融合させた状態の融合体であって、かつ未分化細胞内へ導入するための融合体を、単に「rBC2LCN融合体」と表現することがある。
なお、本発明において「毒性化合物」もしくは「毒素」というとき、毒素タンパク質や毒性低分子化合物及びRNAi物質、アンチセンス核酸、リボザイムなどの細胞障害性の核酸など、細胞に対して毒性を発揮する物質の総称として用いている。毒素タンパク質は、細胞毒性を有するタンパク質、糖タンパク質、ペプチドなどを示し、「毒性低分子化合物」というとき、抗生物質、色素など、毒素タンパク質及び核酸以外の毒性化合物の全てを含む。この「毒性化合物」のうち、本発明では、細胞の内部で細胞毒性を発揮できる毒性化合物を用いることが好ましい。
「rBC2LCN」には、未分化細胞内に輸送したい化合物であれば、どのような種類の化合物であっても、未分化細胞特異的な「細胞内輸送作用」により、融合させた化合物を細胞内へ輸送することができる。具体的には、毒素タンパク質、標識タンパク質、生理活性タンパク質などのタンパク質もしくは糖タンパク質、脂質もしくは糖脂質、DNA、RNAなどの核酸、フルオレッセイン誘導体などの標識用色素、その他の低分子化合物が挙げられる。なお、その際の融合方法は、後述の通り、遺伝子工学的な結合であっても、化学的な結合方法であってもよい。
例えば、緑膿菌の外毒素A(PDB登録番号:1XK9)のうち殺傷能力のあるドメイン領域(「ETA」)に対応するアミノ酸配列(配列番号2)をコードする遺伝子を適宜大腸菌などの宿主に対して最適化して用い、形質転換した宿主から大量生産することができる。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はグラム陰性好気性桿菌に属する真正細菌の一種である。緑膿菌が分泌する外毒素の代表がエキソトキシンA(外毒素A)であり、ペプチド伸張因子であるEF2をADP-リボシル化することで動物細胞のすべてのタンパク質合成を不可逆的に阻害するため、最終的に細胞は死に至る。
以下、未分化細胞内に輸送する物質として典型的な、毒素タンパク質をrBC2LCNに結合させる場合について主として詳細に述べるが、当該物質が毒素タンパク質のみに限定されるわけではない。
rBC2LCNと未分化細胞内に輸送しようとする標的物質とを融合させる方法としては、化学的な方法と遺伝子レベルで連結する方法とがあり、化学的な方法の場合には共有結合の他にビオチン−ストレプトアビジン結合などがある。また、FITCなどの低分子化合物の場合は、rBC2LCNとの通常の化学反応により、rBC2LCNの表面の官能基(水酸基、アミノ基など)に対してランダムに共有結合、水素結合などの結合様式により結合し、rBC2LCN融合体を形成できる。
一方、RNAiなどの核酸は、通常マイナス電荷を帯びているため、同様にマイナスに荷電している未分化細胞表面に直接接しないように、rBC2LCNと正電荷を帯びたDNA結合ペプチドとからなる融合タンパク質と核酸との間で予めコンプレックスを形成させるなどの工夫を行うことが好ましい。
毒素がタンパク質毒素の場合は、遺伝子レベルで結合することが好ましく、その際には両遺伝子を、直接、又は一般的なDNAリンカーを用い、周知の方法により繋ぐことができる。
以下には、主として典型的なタンパク質毒素をrBC2LCNに共有結合させる場合について詳細に述べるが、当該方法には限られるわけではない。
本発明では、rBC2LCNに対して細胞内に輸送して働かせたい化合物を融合する際に、リンカー(クロスリンカー)またはスペーサー(スペーサー配列)を用いることができる。「rBC2LCN」本来の未分化細胞特異的な結合機能及び侵入機能と、輸送対象化合物本来の機能とのそれぞれを最大限発揮するために、両者の間には一定の距離を保つことが好ましいため、適当な長さのリンカー/スペーサーを介して結合させることが好ましい。適当な長さのリンカー/スペーサーは当業者には周知であって、適宜合成でき、各種市販もされている。
本発明で用いられるペプチド結合のためのスペーサー配列としては、ペプチド結合可能なアミノ酸残基数4〜10のアミノ酸配列からなる周知のスペーサー配列が用いられ、1〜3回の繰り返し配列として用いる。典型的には、「GSGGG(配列番号3)」、「GGGS(配列番号4)」などの高次構造を形成しないグリシン及び/又はセリンから構成されるアミノ酸配列が好ましく用いられる。例えば、未分化細胞内に毒素タンパク質を輸送する際に、rBC2LCN及びそれと融合する毒素又はその細胞殺傷能力のあるドメインを、これらのスペーサー配列を介してペプチド結合させることで、両者間に充分な距離を保つことができ、それぞれの糖鎖結合能力及び細胞殺傷能力を最大限発揮させることができる。
低分子化合物を結合させるためには二価性架橋剤などの化学的な結合剤が用いられる場合が多いので、これら結合剤由来のリンカーによりrBC2LCNと標的物質が繋がれることになる。
本発明のrBC2LCNを、siRNA、miRNAなどのRNAi物質または各種mRNAもしくはDNAなど核酸を細胞内に導入するために用いる場合には、rBC2LCNと直接的に結合されるのは、核酸ではなく正電荷を帯びたDNA結合ペプチドなどの核酸キャリアであることが一般的であるが、rBC2LCNと核酸キャリアとの間の適切な距離を保つためにも適宜リンカー/スペーサーを用いることがある。
さらに、rBC2LCNとの融合体の状態でも十分にその機能が発揮できる場合は不要であるが、輸送対象化合物を輸送先で切り離したい場合には、細胞内プロテアーゼによる切断部位を入れておくことで、融合体として輸送していた化合物を細胞内で適宜切り離すことができる。切断部位の導入法は当業者には周知である。例えば、塩基性アミノ酸標的配列(標準的には、Arg-X-(Arg/Lys)-Arg)を入れておけば、furinというCa2+依存的膜貫通セリンエンドプロテアーゼによって切断される(Weldon JE,et al.,FEBS J. 2011 Dec;278(23):4683-700.)。DNAまたはRNAi物質などの核酸を未分化細胞内に導入する場合は、rBC2LCNに結合されたArgクラスターなどの正電荷物質との電荷電荷相互作用で形成された複合体の状態で、未分化細胞の細胞内に到達後には速やかに分離する。
BC2LCN含有発現ベクターのBC2LCN遺伝子の5’もしくは3’末端側にETAなどの毒素遺伝子を、必要に応じてスペーサーを介して導入することにより毒素融合rBC2LCNタンパク質発現ベクターを構築する。次に、発現ベクターをコンピーテントセルに形質転換する。そして、形質転換した大腸菌などの宿主を常法により液体培養して、毒素融合rBC2LCNタンパク質を発現誘導する。
大腸菌内で発現誘導した毒素融合rBC2LCNタンパク質は、通常のタンパク質精製方法を適用して精製することができるが、フコース固定化カラムに供して、アフィニティークロマトグラフィーで精製することが好ましい。得られた毒素融合rBC2LCNタンパク質の精製度は電気泳動やゲル濾過等で確認することができる。
(4−1)本発明で標的物質を輸送する対象となる未分化幹細胞
本明細書において、細胞内への輸送対象となる未分化幹細胞は、分化細胞表面にはほとんど存在していない「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」含有複合糖質を多数細胞表面に有している未分化状態にある多能性幹細胞を意味する。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞に幹細胞特異的発現遺伝子などを導入して脱分化させた幹細胞(iPS細胞等)の他、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚組織幹細胞等の様々な体性幹細胞も含まれる。特に、全能性を有するES細胞またはiPS細胞の場合は、細胞表面をrBC2LCNが認識する「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」含有複合糖質がびっしりと覆っている状態であるため、本発明の細胞内輸送用キャリアであるrBC2LCNによる当該糖鎖含有複合脂質を介しての細胞内輸送効果が存分に発揮できる。
また、ES細胞をはじめとする幹細胞はヒトに限らず哺乳動物ではかなりの部分で共通したしくみで制御されていると考えられるので、本発明の対象幹細胞としてはヒト以外の哺乳動物、例えばサル、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット由来の幹細胞を用いる場合にも適用できる。
本発明の「未分化細胞除去剤」によって、未分化幹細胞を殺傷しようとする典型的な場合とは、幹細胞を分化誘導して種々の組織特異的に分化させた際に混入している未分化状態にある幹細胞を完全に除去しようとする場合である。したがって、その際の未分化細胞殺傷効果は、単に細胞内に輸送できればよいというに留まらず、確実に殺傷できる程度の充分な量の細胞毒性成分を、細胞内に輸送できる必要がある。
そうしてみると、未分化幹細胞のうちでも、細胞表面がrBC2LCNが認識する「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」含有複合糖質によってびっしりと覆われている状態であることがすでに確認されている、全能性幹細胞のES/iPS細胞が最も有効性が高いため、少ないrBC2LCN−毒素融合体投与量でも十分な殺傷効果が期待できる。
しかし、本発明者らが以前に行ったレクチンアレイ解析(非特許文献1)によると、繊維芽細胞などの分化細胞では「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」糖鎖がほぼ完全に細胞表面に存在していないのに対して、造血幹細胞、神経幹細胞等の体性幹細胞では当該糖鎖が確かに一定量存在することが確認されている。分化細胞に対しては、rBC2LCN−毒素融合体が全く毒性を及ぼさないことから、当該rBC2LCN−毒素融合体を体性幹細胞が殺傷できる程度に大量に投与することができるから、これら体性幹細胞に対しても「未分化細胞除去剤」として働くことが期待できる。
本発明の「rBC2LCN融合体」、もしくは周知の薬理学的に許容される担体、緩衝液などをさらに含む「未分化細胞導入用組成物」は、未分化細胞を含有する系(培養細胞系もしくは生体内組織)に適用することで、未分化細胞特異的に標的物質を輸送することができる。最も典型的な例が、未分化細胞内に特異的に毒素化合物を輸送する場合、すなわち「rBC2LCN融合体」を含む「未分化細胞導入用組成物」を「未分化細胞除去剤」として用いる場合なので、以下、「未分化細胞除去剤」について説明するが、それに限られるものではない。他の標的物質を輸送する場合の「未分化細胞導入用組成物」に対しても、以下の方法を適宜変更して適用することができる。
(5−1)基材に接着された分化細胞に適用する場合
本発明の「未分化細胞除去剤」は、ビーズ状、中空糸状もしくは平板状の基材の上で培養した分化誘導後の細胞から混入した未分化細胞を除去する場合に適用できる。
その場合は、各種目的細胞が分化を終えたタイミングで、基材が存在する溶液中に未分化細胞除去剤を終濃度10〜100μg/ml程度で添加し24〜48時間程度追加培養する。(なお、具体的な投与濃度は、あくまで典型的な未分化細胞であるES/iPS細胞に適用する場合の例を示すものであり、対象の幹細胞表面の「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」糖鎖の総量に応じて適宜増量することができる。)
その上で、本発明者らが出願した未分化細胞検出法(特願2011−239919、PCT/JP2012/006983、特願2012−267679)に基づいた方法により、まだ未分化細胞が残っている可能性があれば、新たに未分化細胞除去剤を添加することも可能である。ここでいう「溶液」とは、培養液または、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等であってよい。未分化細胞表面で特異的に発現する糖鎖と結合し、細胞内に取り込まれ、細胞を殺傷する。
このような除去処理を得た細胞サンプルは、もはや未分化細胞が混入していない分化細胞のみからなる細胞群であると評価できるから、同様の分化誘導処理を行うことによって未分化細胞の混入のおそれのない分化細胞を大量かつ迅速に取得できる。
ここで、幹細胞を神経細胞、消化器系細胞などに「分化誘導」する方法としては、どのような手法であってもよく、例えば幹細胞をレチノイン酸存在下で培養して神経系細胞に分化する方法、noggin等の液成因子を用いて、幹細胞から心筋細胞を形成させる方法など種々の公知の手法が適用できる。本発明の細胞表面未分化糖鎖マーカーの分化した細胞表面での発現量は無視できる程度であるから、分化誘導条件下でもノイズが極めて少ないことが予想される。
本発明の「未分化細胞除去剤」は、溶液中の分化した細胞に混入した未分化細胞を除去する場合に適用できる。
その場合は、各種目的細胞が分化を終えたタイミングで、溶液中に未分化細胞除去剤を終濃度10〜100μg/ml程度で添加し24〜48時間程度追加培養する。その上で、本発明者らが出願した未分化細胞検出法(WO2013/065302、特願2012−267679)に基づいた方法により、まだ未分化細胞が残っている可能性があれば、新たに本発明の未分化細胞除去剤を添加することも可能である。ここでいう「溶液」とは、培養液または、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等であってよい。
本発明の「未分化細胞除去剤」は未分化状態の幹細胞のみを直接認識し、細胞内に取り込まれ、細胞を殺傷する。さらに、培養液中に未分化細胞がわずかに残っている可能性があれば、必要に応じて、標識したrBC2LCNを処理後の培養液に添加し、フローサイトメトリー等で完全に除去することができる。
本発明によれば、未分化状態の幹細胞の混入のない所望の分化誘導細胞がダメージなく取得することができる。死んだ幹細胞やフィーダー細胞などを完全に除くために、処理後の細胞を数回植え継ぐか、PBS等の緩衝液で数回洗浄するだけで、そのまま再生治療用の移植細胞として用いることができる。浮遊細胞に作用させる場合には、死んだ幹細胞は密度勾配媒体中を沈降させる方法などで除去することができる。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
図1に記載のタンパク質を設計して、pET27b(Stratagene社)に組み込み、Escherichia coli BL21 CodonPlus(DE3)-RIL株(Stratagene社、#230245)に導入した。形質転換体を10μg/mLのカナマイシンを加えた5mLのLB培地に縣濁して一晩培養した。前培養した培養液5mLを1LのLB培地に添加して培養を行い、2-3時間後に(OD600)が0.4前後になったときに1M IPTG(Fermentus社、#R-0392)1mLを最終濃度1mMになるように添加した。20℃で24時間、振盪培養した後、遠心分離で菌体を回収し、バッファーに縣濁して超音波処理を行い、タンパク質可溶性画分を抽出した。大腸菌のタンパク質可溶性画分に対して、Matsumoto(Matsumoto I,Mizuno Y,Seno N. (1979) J Biochem. Apr;85(4):1091-8.)らの方法により市販セファロース(GE Healthcare社製)にフコースを共有結合させることにより作製したフコースセファロースカラムによるアフィニティー精製を行い、0.2Mフコースで溶出した。
精製度を確認するため、素通り(T)、洗浄1回目(W1)、洗浄2回目(W2)、洗浄3回目(W3)、フコース溶出1回目(E1)、フコース溶出2回目(E2)、フコース溶出3回目(E3)の各画分をSDSPAGE電気泳動法にて確認した(図2)。溶出1回目の画分において、約42kDa付近に単一バンドを確認することができたが、この分子量は、「rBC2LCN-(GSGGG)2-ETA」の構造を有する精製rBC2LCN-ETA単量体に相当する。精製したrBC2LCN-ETAを2-メルカプトエタノール(2-ME)存在/非存在下で95℃5分処理有り/なしでサンプル調製して、SDS-PAGEを行い、クマシーブリリアントブルー染色を行った(図3)。その結果、いずれの条件でも約42kDaの単一バンドとして精製rBC2LCN-ETAを確認することができた。非変性条件における分子量をゲル濾過クロマトグラフィーで解析した(図4)。その結果、rBC2LCN-ETAは、野生型のrBC2LCNと同様、2量体を形成していることがわかった。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。
rBC2LCN-ETA及び野生型のrBC2LCNについて、rBC2LCNの糖鎖リガンドである「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc(Hタイプ1)」及び「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc(Hタイプ3)」それぞれに対する結合親和性をフロンタルアフィニティークロマトグラフィー(非特許文献8)で調べた。その結果を下記(表1)に示す。融合タンパク質化したrBC2LCN-ETAの解離定数(Kd値)はHタイプ1:9.9μM,Hタイプ3:32.3μMであり、野生型のrBC2LCNの解離定数(Hタイプ1:8.3μM,Hタイプ3:25.4μM)と同程度であることがわかった。
本実施例で用いたヒトES細胞(H7株(WA07株))はWisconsin International Stem Cell(WISC)Bankから分譲を受けた。培養方法は、WiCell Research Instituteのプロトコールに従った。
実施例1で得たrBC2LCN-ETAの希釈系列溶液(5,50μg/ml)を作製し、培養中のヒトES細胞(H7株(WA07株))と反応させた。rBC2LCN-ETA添加の24時間後に、LIVE/DEAD Cell Imaging Kit(488/570)(Life Technologies社)を用いて、ES細胞の生死判定を行った(図6)。rBC2LCN-ETAを5,50μg/mlの濃度で添加し、24時間後に位相差像を観察したところ、ES細胞のコロニーに縮退が見られた(図6A,D,G)。また、濃度依存的に生細胞が減り(図6C,F,I。なお、図中、赤蛍光とあるのは死細胞特異的な標識であり、緑蛍光とあるのは生細胞特異的な標識である。以下同様。)、50μg/mlのrBC2LCN-ETAで処理をした群では、ほぼ全てのES細胞が死滅していた(図6G,H,I)。これより、rBC2LCN-ETAはヒトES細胞を殺傷する能力を有することが確認された。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。Tatenoらの手法(Tateno H,et al.,(2011) J Biol Chem. 286,20345-20353)により培養した。rBC2LCN-ETAの希釈系列溶液(5,50μg/ml)を作製し、培養中のヒトiPS細胞(201B7株)と反応させた。rBC2LCN-ETA添加の24時間後に、LIVE/DEAD Cell Imaging Kit(488/570)(Life Technologies社)を用いて、iPS細胞の生死判定を行った(図7)。rBC2LCN-ETAを5,50μg/mlの濃度で添加し、24時間後に位相差像を観察したところ、iPS細胞のコロニーに縮退が見られた(図7A,D,G)。また、濃度依存的に生細胞が減り(図7C,F,I)、50μg/mlのrBC2LCN-ETAで処理をした群では、ほぼ全てのES細胞が死滅していた(図7G,H,I)。一方、周囲にあるマウス繊維芽細胞由来のフィーダー細胞は、全く殺傷されていなかった。これより、rBC2LCN-ETAはヒトiPS細胞を殺傷する能力を有することが確認された。
Draperらの方法(Draper JS,et al.,(2000) J Anat. 200:249-58.)に従って、終濃度10-5Mになるようにレチノイン酸を添加して培養することによりヒトiPS細胞(201B7株)の分化誘導を行った。8日間培養し細胞の形態から分化が開始していることを確認して、rBC2LCN-ETAの希釈系列溶液(5,50μg/ml)を作製し、培養中の分化させた細胞と反応させた。rBC2LCN-ETA添加の24時間後に、LIVE/DEAD Cell Imaging Kit(488/570)(Life Technologies社)を用いて、分化細胞の生死判定を行った(図8)。rBC2LCN-ETAを0.005,0.05mg/mlの濃度で添加し、24時間後に位相差像を観察したところ、rBC2LCN-ETA添加による影響は見られなかった(図8A,D,G)。また、LIVE/DEAD Cell Imaging Kit(488/570)を用いても、コントロールと比べて死細胞は増加していなかった(図8B,C,E,F,H,I)。これより、rBC2LCN-ETAはヒト分化細胞に対しては、全く殺傷能力は無いことが確認された。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。rBC2LCN-ETAの希釈系列溶液(0〜100μg/mL)を調製し、ヒトiPS細胞(201B7株)の培養液に添加した。rBC2LCN-ETA添加24時間後に、Cell Counting Kit-8(Dojindo)を用いて、iPS細胞の生死判定を行った(図9)。その結果、濃度依存的に生細胞数が減り、10μg/mL以上で反応させた場合には、24時間後にはほぼ全てのiPS細胞が死滅していた。一方、細胞表面にrBC2LCNが認識する糖鎖(「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」を全く持たない、分化細胞であるヒト皮膚繊維芽細胞の場合は、100μg/mLという高濃度においても、細胞殺傷能力を全く示さないことがわかった。また、幹細胞のうちでもrBC2LCNの認識糖鎖量がわずかであるヒト脂肪由来間葉系幹細胞においては、100μg/mLという高濃度投与によってはじめて細胞殺傷能力が10%程度発揮できていることがわかった。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。PBSのみ、ストレプトアビジン−Saporin(SA-Saporin、最終濃度0.6μM)、ビオチン化rBC2LCN(最終濃度、0.6μM)、ストレプトアビジン−Saporin(SA-Saporin、最終濃度0.6μM)とビオチン化rBC2LCN(最終濃度、0.6μM)の複合体をヒトiPS細胞(201B7株)を培養している培養液中に添加し、0,1,2日後に顕微鏡で位相差観察した(図10)。その結果、PBSのみ、ストレプトアビジン−Saporinのみ、ビオチン化rBC2LCNのみではヒトiPS細胞に対してほとんど影響が見られなかったのに対し、ストレプトアビジン−Saporinとビオチン化rBC2LCNの複合体は24時間後にはヒトiPS細胞のコロニーに縮退が見られた。48時間後には、ほぼ全ての細胞が死滅していた。これより、rBC2LCNとSaporinとのストレプトアビジン−ビオチン結合による融合体の場合でも、ヒトiPS細胞を殺傷する能力を有することが確認された。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。10μg/mLのFITC標識rBC2LCNを、ヒトiPS細胞を培養している培養液中に添加して、1時間結合反応後に、60秒間励起光を照射した(図11)。1,3,5時間後に顕微鏡で位相差観察した。6時間後にはヒトiPS細胞のコロニーに縮退が見られ多くの細胞が死滅していた。コントロールとして用いたFITC標識体ウシ血清アルブミン(FITC-BSA)では細胞殺傷効果が認められなかったことから、rBC2LCNがヒトiPS細胞に結合する活性が、ヒトiPS細胞殺傷において重要であることがわかった。これよりFITC標識rBC2LCNはヒトiPS細胞を殺傷する能力を有することが確認された。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。ヒトiPS細胞(201B7株)の培養液中に、FITC標識rBC2LCNもしくはFITC標識rBC2LCN-ETAを1μg/mLの濃度で添加し、37℃で2時間反応させ、反応直後(2時間)及び24時間後に、励起光を照射して、顕微鏡で共焦点顕微鏡観察した(図12)。なお、本実施例は細胞の内在化観察のための実験であるので、励起光を長時間照射することによるFITCの未分化細胞殺傷能を避けるため、照射条件は撮影可能な最低限のレベル(スキャンスピード12.5μs/pixel、レーザー出力1%)に止めている。
FITC標識rBC2LCNを含まない新しい培地に交換した直後では細胞表面が鮮明に染色されている(左上)。さらに2時間後には細胞表面の染色が薄くなり、24時間後には、細胞内にドット状の染色が観察され、FITC標識rBC2LCNが細胞内に取り込まれていることがわかった(左下)。一方、コントロールとして用いたFITC標識BSAでは、ヒトiPS細胞への結合は確認できなかった(右)。あわせて、ETAを融合したrBC2LCN-ETAをFITC標識した場合を(中央)に示す。FITC標識rBC2LCN-ETAも速やかに細胞内に取り込まれる様子と共に、内在化したETAによる細胞殺傷効果により24時間後にはiPS細胞の死滅が進んでいることが見て取れる。
本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。ヒトiPS細胞(201B7株)の培養液中に、Cy3標識rBC2LCNを1μg/mLの濃度で添加し、37℃で2時間反応させ、反応直後(2時間)、4時間後及び24時間後に、励起光を照射して、顕微鏡で位相差観察した(図13)。Cy3標識rBC2LCNを含まない新しい培地に交換した直後では細胞表面が鮮明に染色されている(左)。さらに2時間後には細胞内にドット状の染色が確認できる(中央)。24時間後には、細胞内に明確にドット状の染色が観察され、CCy3標識rBC2LCNが細胞内に取り込まれていることがわかった。また、同様にCy3標識rBC2LCN-ETAも細胞内に内在化することがわかった。FITCとCy3という異なる蛍光標識体でもrBC2LCNの細胞内への内在化が確認されたことから、ヒトiPS細胞への内在化はrBC2LCNと融合する化合物の種類によるものではなく、rBC2LCNの効果であることが明らかとなった。
Claims (8)
- 標的物質を未分化細胞内に導入するための方法であって、
標的物質を、rBC2LCNと化学的もしくは電気的に融合させ、rBC2LCN−標的物質融合体として未分化細胞と接触させることを特徴とする、未分化細胞内導入方法。 - rBC2LCNを有効成分として含むことを特徴とする、標的物質の未分化細胞内導入用キャリア。
- 標的物質とrBC2LCNとが化学的もしくは電気的に融合しているrBC2LCN−標的物質融合体を有効成分として含むことを特徴とする、標的物質の未分化細胞導入用組成物。
- 標的物質が、細胞内で細胞毒性を発揮できる毒性化合物である、請求項3に記載の毒性化合物の未分化細胞導入用組成物。
- 毒性化合物が、タンパク質毒素もしくはその細胞殺傷能力のあるドメイン、細胞毒性を有する低分子化合物、又は核酸である、請求項4に記載の未分化細胞導入用組成物。
- 細胞内で細胞毒性を発揮できる毒性化合物とrBC2LCNとが化学的もしくは電気的に融合しているrBC2LCN−毒性化合物融合体を有効成分として含むことを特徴とする、未分化幹細胞除去剤。
- 幹細胞を分化誘導した後の培地中に、請求項6に記載の未分化幹細胞除去剤を添加することを特徴とする、未分化状態の幹細胞の殺傷方法。
- 幹細胞から分化誘導された分化誘導細胞に対して、請求項6に記載の未分化幹細胞除去剤を接触させる工程を含むことを特徴とする、再生治療用移植材料の製造方法。
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