本発明は、アデノウイルスのファイバータンパク質又はそのノブ領域を含む断片を利用し、細胞表面を介して隣接する細胞へ機能性タンパク質等の薬剤を輸送する技術に関する。ファイバータンパク質は、アデノウイルスの第1感染受容体に結合するカプシドタンパク質として知られており、そのノブ領域が、5型アデノウイルスではCAR(コクサッキー・アデノウイルス受容体(Coxsackievirus and adenovirus receptor))、35型アデノウイルスではCD46(補体膜制御因子)と結合することが知られている(図1)。
本発明者等は、アデノウイルス由来のファイバータンパク質又はノブ領域と薬剤との複合体をコードする遺伝子を細胞内に導入すると、ノブ領域と受容体との結合を介して複合体が細胞膜上に露出することを見出した。このことは、ノブ領域不在下、又は受容体結合能を欠損させた変異型ノブ領域では観察されない。細胞膜上に露出した複合体は、次いでおそらくは隣接する細胞の受容体と相互作用して、隣接細胞の細胞膜上に移動し、再度細胞内に取り込まれる。更に、複合体そのものを細胞と接触させた場合であっても、複合体が同様の挙動を示すことも確認した。これは、本発明者等が見出した驚くべき知見である。
本発明は、第一の実施形態において、アデノウイルス由来ファイバータンパク質、又は少なくともノブ領域を含むその断片と直接、又はリンカーを介して薬剤が結合してなる複合体を提供する。
本発明はまた、第二の実施形態において、アデノウイルス由来ファイバータンパク質、又は少なくともノブ領域を含むその断片と、ペプチド性薬剤とを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
本発明において使用可能なファイバータンパク質又はノブ領域を含むその断片は、いずれのサブグループ由来のものであっても良く、特に限定するものではないが、例えばサブグループB又はC由来のものを好適に使用することができる。
アデノウイルスファイバータンパク質のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列は、NCBIデータベース等に登録されており、当業者であれば容易に入手することができる。
例えば5型アデノウイルスファイバータンパク質(Ad5fiber)の塩基配列は、GenBankアクセッション番号:M18369.1として登録されており、そのコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号1及び2に示す通りである。配列番号2において、400〜581番目の182個のアミノ酸からなる配列がノブ領域(Ad5knob)に該当する。ノブ領域の塩基配列及びアミノ酸配列はまた、それぞれ配列番号13及び14に示す。
また、35型アデノウイルスファイバータンパク質(Ad35fiber)の塩基配列は、GenBankアクセッション番号:U32663.1として登録されており、そのコーディング領域の塩基配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号3及び4に示す通りである。配列番号4において、133〜323番目の191個のアミノ酸からなる配列がノブ領域(Ad35knob)に該当する。ノブ領域の塩基配列及びアミノ酸配列はまた、それぞれ配列番号15及び16に示す。
5型及び35型以外の型のアデノウイルスにおいても、ファイバータンパク質及びそのノブ領域の機能は同様である。従って、当業者であれば、種々の型のアデノウイルスにおいて、同様にファイバータンパク質及びそのノブ領域を含む断片を遺伝子又はタンパク質として取得し、本発明を実施することが可能である。
本発明の複合体は、ファイバータンパク質をそのまま使用することもできるが、その断片を使用することもできる。断片は、少なくともノブ領域を含むものであり、更にシャフト及びテイル領域のアミノ酸配列を含むものであっても良い。すなわち、本明細書における「断片」は、換言すれば、アデノウイルス受容体結合性断片である。好ましくは、断片はテイル領域を含まない。また、好ましくは断片はテイル及びシャフト領域を含まない。
また、本発明におけるファイバータンパク質又はノブ領域としては、受容体に対する結合能の改変等を目的として改変したものを使用することもできる。そのような改変体は、当分野において知られており、例えばノブ領域のHIループ領域又はC末端領域にインテグリンとの結合性が知られているRGD配列を挿入したもの、又はヘパラン硫酸との結合性が知られているポリリジン配列を挿入したもの等が挙げられる。
改変体としてはまた、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号14に示すアミノ酸配列において、10個以下、5個以下、3個以下、2個以下、又は1個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、アデノウイルス受容体結合能を有するタンパク質が挙げられる。また、例えば配列番号4に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号16に示すアミノ酸配列において、10個以下、5個以下、3個以下、2個以下、又は1個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、アデノウイルス受容体結合能を有するタンパク質が挙げられる。
更に、改変体をコードするポリヌクレオチドとして、例えば配列番号1に示す塩基配列、あるいは配列番号13に示す塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有し、アデノウイルス受容体結合能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。また、例えば配列番号3に示す塩基配列、あるいは配列番号15に示す塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有し、アデノウイルス受容体結合能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
ここで、「アデノウイルス受容体結合能」とは、特に限定するものではないが、例えばアデノウイルス受容体として知られているCAR又はCD46に対して結合できることを意味する。
本明細書において詳述するように、本発明は、アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域が有するアデノウイルス受容体結合能を介した予想外の新たな知見に基づくものである。従って、本発明の効果は、特定の配列のタンパク質又は遺伝子のみに限定されるものではないことは理解されたい。
本発明において、アデノウイルスのファイバータンパク質又はそのノブ領域を含む断片は、アデノウイルスから単離・精製することで取得することができる。また、ファイバータンパク質又はそのノブ領域を含む断片は、上記の配列情報に基づいて合成することもできる。更に、ファイバータンパク質又はそのノブ領域を含む断片をコードするポリヌクレオチドを適切な宿主細胞に導入して発現させ、組換えタンパク質として得ることもできる。この場合、ポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであっても良く、また宿主細胞への導入手段は当分野で使用されているものを適宜利用することができる。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するためのベクターとしては、ウイルスベクター、プラスミドベクター、ファージベクター等を適宜使用することができる。宿主細胞としては、例えば大腸菌等の細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等を利用することができるが、動物細胞、特に哺乳動物細胞を用いることが好ましい。
本発明において、「薬剤」とは、標的細胞において作用を発揮することが期待されるものであればいずれでも良く、無機又は有機化合物、例えばペプチド(タンパク質)、糖、ステロイド化合物等の多環式化合物等が挙げられ、特に限定するものではない。
また、本発明において利用可能な薬剤としては、特に限定するものではないが、例えば、細胞毒性を有する薬剤、細胞増殖制御作用を有する薬剤、細胞遊走能を有する薬剤、免疫調節性薬剤、細胞分化能を有する薬剤等が挙げられる。細胞毒性を有する薬剤としては、例えばコレラ毒素、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素等が挙げられる。細胞増殖制御作用を有する薬剤としては、例えば増殖因子、サイトカイン、インターフェロン等が挙げられる。細胞遊走能を有する薬剤としては、例えばケモカイン、サイトカイン等が挙げられる。免疫調節性薬剤としては、例えばサイトカイン、単鎖抗体、インターフェロン等が挙げられる。細胞分化能を有する薬剤としては、例えばサイトカイン、増殖因子、ホルモン等が挙げられる。薬剤がタンパク質又はペプチドである場合、本発明の複合体は、融合タンパク質とすることができる。また、本発明の複合体をコードするポリヌクレオチドとして本発明のために使用することもできる。
一態様において、薬剤はコレラ毒素である。天然のコレラ毒素は、活性を有するAサブユニットと、細胞膜侵入能を有するBサブユニットから構成されている。Bサブユニットを持たないAサブユニットのみの場合、標的細胞内に侵入することができず、従って単独では細胞増殖抑制能は持たない。本発明者等は、アデノウイルスファイバータンパク質又はそのノブ領域とコレラ毒素Aサブユニットとを融合させて、CAR又はCD46を発現する細胞に対する細胞増殖抑制効果を発現させることができ、また抗腫瘍活性も確認した。
一態様において、薬剤はサイトカインである。サイトカインとしては、例えばIL-10は免疫細胞の活性化を抑制する機能を持つことが知られている。腫瘍塊においては、癌細胞の免疫回避としてIL-10を過剰産生し、免疫細胞の活性化を抑制することが知られている。本発明者等は、アデノウイルスファイバータンパク質又はそのノブ領域とIL-10とを融合させて、CAR又はCD46を発現する細胞に対する細胞表面に発現させることで、免疫細胞のIL-10受容体をマスクし、IL-10による免疫細胞の活性化抑制を阻害可能なことも確認した。
本発明の複合体は、上記のアデノウイルス由来のファイバータンパク質、又は少なくともノブ領域を含むその断片と、上記薬剤とが、直接、又はリンカーを介して結合した構造を有する。結合は、好ましくは共有結合である。
リンカーとしては、特に限定するものではないが、複合体におけるノブ領域及び薬剤、例えば融合タンパク質を構成する個々のタンパク質の機能を阻害しない、例えば5〜25個、好ましくは8〜20個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカー、例えばGSリンカー(例えば配列番号30)等を利用することができる。当業者であれば、本発明において好適に使用できるリンカーの選択を容易に行うことができる。
本発明の複合体、例えば融合タンパク質にはまた、精製・検出等を目的としてタグを付すことができる。タグとしては、目的に応じて当分野で使用されるものを適宜使用することができ、特に限定するものではないが、例えばFLAG(配列番号32)、Myc、HA等を挙げることができる。これらのタグは、複合体の一部、例えば融合タンパク質のN末端又はC末端に、直接、又はリンカーを介して結合させることができる。タグの連結のために使用可能なリンカーも、上記したリンカーと同様のものが使用可能である。
本発明の複合体は、そのままの形態で細胞と接触させて、ノブ領域と細胞上のCAR又はCD46との結合を介して細胞内に送達することができる。あるいはまた、本発明の複合体は、特に融合タンパク質の場合には、これをコードするポリヌクレオチドの形態で細胞内に送達することもできる。細胞内へのポリヌクレオチドの送達は、特に限定するものではないが、例えば送達することが意図されるポリヌクレオチドを含む発現ベクターを作製し、目的の細胞に導入することで達成される。
従って本発明は更に、上記のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、導入した細胞内で上記の融合タンパク質を発現できるものであれば良く、アデノウイルス粒子を生じさせるものである必要はない。従って、本発明の発現ベクターを導入した細胞内では、上記の融合タンパク質は発現するが、アデノウイルスの増殖は観察されなくても良い。また、ファイバータンパク質、又は少なくともノブ領域を含むその断片と、ペプチド性薬剤とが融合タンパク質として挙動を共にすることが必要であるため、本発明のポリヌクレオチド及び発現ベクターにおいて、ファイバータンパク質、又は少なくともノブ領域を含むその断片と、ペプチド性薬剤とが別個に発現することのないように、融合タンパク質をコードするポリペプチド内に例えば制限酵素切断部位は含まれないことが望ましい。
本発明の発現ベクターには、当分野で通常使用されるプロモーター、エンハンサー等の発現制御配列、選択マーカー遺伝子等を適宜含めることができる。発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドの細胞への導入及び発現のために好適な市販のものを利用することもできる。発現ベクターの細胞への導入は、特に限定するものではないが、塩化カルシウム、ポリエチレングリコール、DEAE-デキストラン、両親媒性ペプチド、塩基性リン脂質、ポリリシン等を用いる法、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション等を適宜使用することができる。
上記のポリヌクレオチドを有効成分とする抗癌剤は、第一の標的細胞に取り込まれて毒性を発揮し、その後、細胞表面上の受容体の存在に依存して、隣接する細胞に移行することができる。また、上記の複合体を有効成分とする抗癌剤も、同様に第一の標的細胞で毒性を発揮した後、細胞表面上の受容体の存在に依存して、隣接する細胞に移行することができる。従って、例えば固形腫瘍のような、標的細胞が隣接し合って存在している場合に特に有効に作用し得る。すなわち、標的細胞から放出された抗癌剤が離れて存在する別の細胞に作用することなく、目的の細胞近辺でのみ作用させることができる。
本発明の抗癌剤による治療の標的となり得る固形腫瘍としては、特に限定するものではないが、例えば肺癌、乳癌、胃癌、肝癌、大腸癌、腎臓癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌等が挙げられる。本発明の抗癌剤は、単独で使用することもできるが、異なるメカニズムの抗癌剤及び抗癌治療と組み合わせて使用することができる。
本発明の抗癌剤又は医薬組成物は、特に限定するものではないが、患部若しくは患部の近辺に注射又は注入により局所投与することが好ましい。医薬組成物には、本発明の抗癌剤及び他の有効成分の他に、投与形態に応じて、当分野で通常使用される担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤等を含めることができる。本発明の抗癌剤の投与量は、患者の体重、年齢、疾患の重篤度等に応じて変動するものであり、特に限定するものではないが、例えば0.001〜10mg/kg体重の範囲で1日1回〜数回、2日毎、3日毎、1週間毎、2週間毎、毎月、2カ月毎、3カ月毎に投与することが可能である。
上記の通り、本発明者等の見出した知見により、アデノウイルス由来のファイバータンパク質又は少なくともノブ領域を含むその断片を利用して、分子特異的なDDS技術をもたらし得ることが判明した。
すなわち、本発明は、第四の実施形態において、アデノウイルス由来ファイバータンパク質、もしくは少なくともノブ領域を含むその断片からなる、又はこれらをコードするポリヌクレオチドからなる、コクサッキーウイルス/アデノウイルス受容体(coxsackievirus-adenovirus receptor;CAR)又はCD46(補体膜制御因子)を発現する細胞に薬剤を送達するための担体を提供する。
上記のCARを発現する細胞としては、血管内皮細胞、粘膜上皮細胞、皮膚表皮細胞などが挙げられる。また、CD46を発現する細胞としては、赤血球以外のすべての細胞が挙げられる。更に、CAR及びCD46の双方を発現する細胞も存在する。薬剤を本発明の担体と共に導入することが意図される細胞の種類に応じて、使用する担体の型を選択することができる。すなわち、CD46を発現する細胞に薬剤を送達するためには、使用する担体として、ヒトアデノウイルスサブグループB、例えば35型アデノウイルス由来のファイバータンパク質もしくは少なくともノブ領域を含むその断片、又はこれらをコードするポリヌクレオチドを選択する。CARを発現する細胞に薬剤を送達するためには、使用する担体として、サブグループB以外のアデノウイルス、例えば5型アデノウイルス由来のファイバータンパク質もしくは少なくともノブ領域を含むその断片、又はこれらをコードするポリヌクレオチドを選択する。
本発明者等の知見では、上記の担体と連結させることで、本来は細胞内に存在し得る薬剤が、標的細胞内で発現した後に、細胞膜上に存在し得ることが示された。例えば、サイトカインIL-10を本発明の複合体との融合タンパク質として、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドとして用いた場合、IL-10を細胞膜上に局在させ、接触した免疫細胞の免疫反応を制御することができる。更にまた、本発明の複合体を用いれば、生体内で複合体に対する抗体が生じた場合であっても、その後の免疫反応が抑制又は回避され得ることも見出されている。
従って、本発明はまた、上記方法の一態様として、上記の担体と薬剤、又はペプチド性薬剤をコードするポリヌクレオチドとを連結して、薬剤、例えば機能性タンパク質を細胞膜上に局在させる方法を提供する。
本発明の複合体の有する薬剤輸送メカニズム、及び免疫反応抑制作用から、本発明によって、標的細胞集団に対してより少ない薬剤量で効果的な治療を行う可能性が期待される。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
アデノウイルス ファイバータンパク質の隣接細胞への移行
5型又は35型アデノウイルスのファイバータンパク質を発現する293T細胞と、GFPを発現する293T細胞(ファイバー非発現細胞)とを共培養し、ファイバータンパク質の移行を確認した。
細胞でのアデノウイルスファイバータンパク質及びそのノブ領域の発現のために使用したプラスミドの構造を図2に示す(大阪大学 水口裕之博士より提供、J. Control Release, 81(1-2): 155-163 (2002))。本実施例では、遺伝子として5型アデノウイルスのファイバータンパク質遺伝子全長(配列番号1)の3'末端側にGSリンカー(配列番号29)を介してFLAGタグ配列(配列番号31)を付加した配列を含むpCMV-Ad5fiber-FLAG、及び35型アデノウイルスのファイバータンパク質遺伝子全長(配列番号3)の3'末端側にGSリンカーを介してFLAGタグ配列を付加した配列を含むpCMV-Ad35fiber-FLAGを使用した。
まず、293T細胞(An Dong Sung 博士より提供、University of California, Los Angeles)を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。293T細胞はヒト胎児由来腎臓上皮細胞であり、細胞膜上にCAR及びCD46の双方を発現する。
翌日、pCMV-Ad5fiber-FLAG又はpCMV-Ad35fiber-FLAG 発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、蒸留水97μLを加えた。2M CaCl2 19μLを加え、氷中に5分間放置し、その後2×HBS 159μLを一滴ずつ撹拌しながら加え、氷中に20分間置き、プラスミドとCaCl2の複合体を形成した。
前日播種した293T細胞のウェル中のDMEMを除去し、DMEM 2.5 mL及び10 mMクロロキン5μLを加えた。コニカルチューブに調製した溶液をウェルに1滴ずつ加え、37℃、6時間培養した。6時間後、DMEMを除去し、2.5g/lトリプシン、1mmol/l-EDTA溶液にて細胞を剥離した。
一方、図3に示す構成のレンチウイルスベクターを用いて293T細胞にGFP遺伝子を導入し、GFP恒常発現293T細胞を作製した。得られた細胞をそれぞれ1.5×105個/ウェルの細胞密度で共培養した。共培養には6ウェルプレートを用い、ウェル当たりDMEM 3 mLを加えて37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離してウェルごとに回収し、PBSを1000μL加えて洗浄した。PBS洗浄後、PBSにて400倍希釈した1次抗体を100μL添加してピペッティングし、氷上にて60分間作用させた。PBS洗浄を3回行った後、PBSにて1200倍希釈した2次抗体を100μL加えてピペッティングし、氷上にて30分間作用させた。5型ファイバーの検出には、抗5型ファイバーマウス抗体(Clone 4D2, ThermoFisher Scientific)、35型ファイバーの検出にはC末端に付加したFlagタグに対するanti-DDDDK抗体(Clone FLA-1, 株式会社 医学生物学研究所)を用い、2次抗体として、抗マウスヤギIgG−RPEコンジュゲート(anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen)を用いた。その後、PBS洗浄を5回行い、適量のPBSに懸濁した後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur, Becton Dickinson) を用いて測定した。
その結果、5型及び35型アデノウイルスのファイバータンパク質を293T細胞で発現させると、発現したファイバータンパク質が細胞膜上に分布することを見出した。さらに、ファイバータンパク質を発現する293T細胞をGFP発現293T細胞と共培養することで、それ自体はファイバータンパク質を発現していないGFP発現293T細胞の膜表面にもファイバータンパク質が存在するようになることが明らかとなった(図4)。
[実施例2]
免疫染色を用いた5型アデノウイルスファイバータンパク質の非発現細胞への移行の確認
5型アデノウイルスのファイバータンパク質を発現する293T細胞と、GFPを発現する293T細胞とを、実施例1と同様に6ウェルプレートの同一ウェル中に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日共培養した。翌日、培養メディウムを除去し、PBSにて洗浄、4%パラホルムアルデヒドによる固定後、0.1% Triton-X100にて細胞膜に細孔を形成させた。その後、抗5型アデノウイルスファイバーマウス抗体(Clone 4D2)、及び2次抗体として抗マウスヤギIgG-RPEコンジュゲート(anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen)を用いて染色した。その後、PBS 洗浄を5回行い、ファイバータンパク質の存在を共焦点レーザー顕微鏡 (Nikon A1)を用いて観察した。
その結果、ファイバー非発現細胞であるGFP発現293T細胞の膜表面にファイバータンパク質の存在が認められ、ファイバータンパク質が隣接細胞に移行していることが認められた(図5)。
[実施例3]
アデノウイルスファイバータンパク質の移行メカニズムの検討
ファイバータンパク質非発現細胞の細胞膜上にファイバータンパク質が検出されたことから、ファイバータンパク質は培養液中に分泌されて、細胞膜上に結合して存在することが考えられた。そこで、細胞培養液を共有し、さらに細胞同士が接触しない環境にて培養が可能なトランスウェルを用いた検討を行った(図6)。
5型アデノウイルスのファイバータンパク質を恒常的に発現しているfiber-293T細胞、及びGFP恒常発現293T細胞を、6ウェルプレートの同一ウェル(ディッシュ)中に播種、又はトランスウェル(trans-well)のアピカルサイドにfiber-293T細胞、ベーサルサイドにGFP恒常発現293T細胞を播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養し、翌日、実施例1と同様の方法で、各細胞における5型アデノウイルスファイバータンパク質の存在を、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) 測定することで検出した。
その結果、ディッシュを用いて共培養した場合はファイバータンパク質がファイバー非発現細胞に移行したのに対し(図6B)、トランスウェルを用いた細胞ではファイバータンパク質の移行は全く認められなかった(図6A)。すなわち、ファイバータンパク質はメディウムを介して移行するのではなく、細胞間の直接的な接触により、細胞膜を介した共存細胞への移行が起こることが示唆された。
[実施例4]
5型アデノウイルスファイバータンパク質の細胞膜表面への分布メカニズムの解析
実施例3の結果から、ファイバータンパク質が細胞培養液中に分泌され、隣接する細胞へ結合している可能性は低く、細胞同士が接触する環境下でのみ細胞膜上へ移行していることが示唆された。一方、ファイバータンパク質は分泌シグナル配列や細胞膜貫通部位に類似した配列もないことから、どのように細胞膜上に発現しているのか不明である。そこで、これまで報告のある細胞表面分子(受容体)との結合領域を変異させた変異型ファイバータンパク質を作製し、その細胞膜移行能について検討した。
本実施例では、5型アデノウイルスのファイバータンパク質遺伝子全長の配列(配列番号1)を含むpCMV-Ad5fiber、それぞれ5型アデノウイルスのファイバータンパク質のCARとの結合部位の4アミノ酸欠損配列 Ad5fiberΔF(塩基配列:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)、ヘパラン硫酸との結合部位の4アミノ酸変異配列 Ad5fiberΔS(塩基配列:配列番号7、アミノ酸配列:配列番号8)及び両変異を有する配列 Ad5fiberΔFΔS(塩基配列:配列番号9、アミノ酸配列:配列番号10)を含むpCMV-Ad5fiberΔF、pCMV-Ad5fiberΔS及びpCMV-Ad5fiberΔFΔSを使用した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種して37℃、5% CO2の条件下にて1日培養し、翌日、pCMV-Ad5fiber、pCMV-Ad5fiberΔF、pCMV-Ad5fiberΔS、pCMV-Ad5fiberΔFΔS発現プラスミド10.0μgをそれぞれコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。6時間後、DMEMを除去し、ウェルあたりDMEM3 mLを加えて37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、1ウェルごとに2つのサンプルを調製して、フローサイトメトリー又はウェスタンブロッティング用のサンプルとした。
フローサイトメトリー用のサンプルは実施例1と同様の処理をした後、蛍光強度をフローサイトメトリー(FACSCalibur) を用いて測定した。
一方、ウェスタンブロッティング用のサンプルには、細胞溶解液(0.1%Triton-X100)を加え、4℃にて30分間インキュベートし、超音波処理によりタンパク質の抽出を行った。その後、13200 rpm、10分間遠心分離し、上清をタンパク質サンプルとして回収した。タンパク質サンプル20μLに6.7μL 4×SDS バッファー (250 mM Tris-HCl、20% 2-メルカプトエタノール、8% SDS、20% グリセロール、0.008% ブロモフェノールブルー)を加え、攪拌した後、97℃で3分間インキュベートした。電気泳動装置にRunning バッファーを加え、e-PAGEL(登録商標) E-T15L (アトー) をセットした。サイズマーカー (KaleidoscopeTMPrestained Standards, Bio-Rad) を5μL、各サンプル8μLをe-PAGEL(登録商標)E-T15Lのウェルに加えた。0.04 Aで約1.5 時間電気泳動を行った。必要な部分のゲルを回収し、超純水で5 分間振とうして洗浄した後、Immobilon-P membrane(登録商標) (PVDF membrane, Millipore, USA) に、60% メタノールに振とうしながら5分間浸透させた。PDVF membraneとブロッティング用ろ紙 (アトー) 6枚をブロッティングバッファーに振とうしながら20分間以上浸透させた。TRANS-BLOT(登録商標)SD SEMI-DRY TRANSFERCELLをセットし、ブロッティング用ろ紙3枚、PVDF membrane、ゲル、ブロッティング用ろ紙3枚の順に重ね、余分な水分をキムワイプで取り除き0.24 Aで20分間電気泳動を行った。TBS-Tにブロックエース(登録商標) (雪印メグミルク) 粉末を溶解し、10 mg/mLのブロッキングバッファーを調製した。容器中で、検出用PVDF membraneを10 mg/mL ブロッキングバッファー 10 mLに4℃条件下で一晩浸透させた。翌日、TBS-Tで振とうしながら5分間×2回洗浄した。
検出用PVDF membraneは10 mg/mL ブロッキングバッファー 4 mLに1000倍希釈した1次抗体(抗5型アデノウイルスファイバーマウス抗体(Clone 4D2))を加え、振とうしながら室温で90分間作用した。TBS-Tにて洗浄後、1000倍希釈した2次抗体抗マウスヤギIgG-RPEコンジュゲート(anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen)を振とうしながら室温で60分間作用した。TBS-Tで振とうしながら10分間×3回洗浄した。ハイブリ・バッグ(コスモ・バイオ) にTransfer Membranesの表を上にするようにして置き、AmershamTM ECLTM Prime Western Blotting Detection Reagene A:B = 1:1 (GE Healthcare) を3 mL調製し、各Transfer Membranesの表面に1 mLずつ滴下し、5分間置き、LAS-4000 mini (富士フィルム) にて検出を行った。
その結果、各種改変型5型アデノウイルスファイバータンパク質を発現した細胞において、細胞膜表面で検出された改変体はすべてCARとの結合能を保持したものであり、細胞膜表面への分布にはCARとの結合能が必須であり、ヘパラン硫酸の結合能は関与しないことが明らかとなった(図7)。よって、5型アデノウイルスのファイバータンパク質が細胞膜表面に分布するためには、受容体であるCARとの結合能が重要であることが示された。
[実施例5]
5型アデノウイルスファイバーの細胞膜表面への分布メカニズムの解析
実施例4の結果より、ファイバータンパク質中のCARとの結合領域が存在するノブ領域においても、細胞表面への分布能があると考えられる。従って、次に5型アデノウイルスのノブ領域及びノブ領域以外のファイバータンパク質を発現させた293T細胞について、細胞膜表面での存在をフローサイトメトリーにて検討した。
本実施例では、実施例1で使用したpCMV-Ad5fiber-FLAG、5型アデノウイルスファイバータンパク質遺伝子のテイル領域及びシャフト領域にGSリンカーを介してFLAGタグ配列を付加した配列(配列番号11)を含むpCMV-Ad5tail-shaft-FLAG、及び5型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域(配列番号13)にGSリンカーを介してFLAGタグ配列を付加した配列を含むpCMV-Ad5knob-FLAGを使用した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6 ウェルプレート(Corning, USA)に播種して37℃、5% CO2の条件下にて1日培養し、翌日、pCMV-Ad5fiber-FLAG、pCMV-Ad5tail-shaft-FLAG、pCMV-Ad5knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、1ウェルごとに2つのサンプルを調製して、フローサイトメトリー又はウェスタンブロッティング用のサンプルとした。
フローサイトメトリー用のサンプルは実施例1と同様の処理をした後、蛍光強度をフローサイトメトリー(FACSCalibur) を用いて測定した。また、ウェスタンブロッティング用のサンプルは実施例4と同様にして検出を行った。
検出には、抗Flag-tag抗体(Clone FLA-1)を用い、2次抗体として、抗マウス抗体ヤギIgGのFITC標識又はHRP標識を用いて検出した。
その結果、CARとの結合部位であるノブ領域のみで細胞表面への分布が認められた。よって、5型アデノウイルスのファイバータンパク質が細胞膜表面に分布するためには、ノブ領域が重要であること、さらにノブ領域のみでも細胞膜表面への分布が可能なことが示された(図8)。
[実施例6]
アデノウイルスノブ発現細胞から共存細胞(同種)へのノブの移行
5型アデノウイルスのノブ領域のみにおいても、発現細胞の細胞膜上での存在が確認され、細胞膜への分布能が存在することが明らかとなったため、ファイバータンパク質で得られた隣接細胞への細胞膜移行能について、すなわちアデノウイルスノブ領域がDDSキャリアータンパク質として利用可能であるかどうかについて、より分子量の小さいノブ領域を用いて検討した。
本実施例では、実施例5で使用したpCMV-Ad5knob-FLAG、及び35型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域(配列番号15)にGSリンカーを介してFLAGタグ配列を付加した配列を含むpCMV-Ad35knob-FLAGを使用した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG、pCMV-Ad35knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
得られた細胞をGFP恒常発現293T細胞と共培養し、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。検出には、抗Flag-tag抗体(Clone FLA-1)を用い、2次抗体として、抗マウス抗体ヤギIgGのアロフィコシアニン(APC)標識を用いて検出した。
その結果、5型及び35型アデノウイルスの両ノブ領域が、ノブ領域非発現細胞であるGFP発現293T細胞の膜表面に移行して存在することが示された(図9)。
[実施例7]
アデノウイルスノブ発現細胞から共存細胞(同種)へのノブの移行
細胞の共培養を行う実験では、細胞融合の有無が問題となることがあるため、5型又は35型アデノウイルスのノブ領域を発現するGFP発現293T細胞と、FarRed(青色蛍光)にて染色した293T細胞とを共培養し、FarRed及びGFPによる蛍光をフローサイトメトリーにより測定した。
GFP恒常発現293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG、pCMV-Ad35knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
一方、Far Red 粉末 (cell TraceTM Far Red DDAO-SE, invitrogen) をD-PBS 100μLで懸濁し、Far Red染色溶液を作製した。3×105個の293T細胞をD-PBS100μLに懸濁後、Far Red染色溶液を3μL加え、37℃、30分インキュベートした後3回PBS洗浄を行い、細胞懸濁液とした。
293T細胞へのプラスミド導入の6時間後、ディッシュ中のDMEMを除去し、2.5g/lトリプシン、1mmol/l-EDTA溶液にて細胞を剥離し、FarRedにて染色した293T細胞とそれぞれ1.5×105個/ウェルの細胞密度で共培養をおこなった。共培養には6ウェルプレートを用い、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離して1ウェルごとに回収し、PBSを1000μL加え洗浄した。PBS洗浄後、PBSにて400倍希釈した1次抗体(Anti-DDDDK-tag mAb, MBL)を100μL加えてピペッティングし、氷上にて60分間作用させた。PBS洗浄を3回行った後、PBSにて1200倍希釈した2次抗体 (anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen) を100μL加えてピペッティングし、氷上にて30分間作用させた。その後、PBS洗浄を5回行い、適量のPBSで懸濁した後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した(図10A)。また、FarRedにて染色した293T細胞のみをゲーティングし、FarRedにて染色した293T細胞上のノブ領域の存在をヒストグラムにて解析した(図10B)。
その結果、5型又は35型アデノウイルスのノブ領域を発現したGFP発現細胞と共培養したFarRed染色細胞の細胞膜表面において、ノブ領域(赤色蛍光)の発現が確認された。よって、ノブ領域の隣接細胞への移行は、ノブ領域の移動であり、細胞間の結合及び融合等の可能性は低いと考えられた。
[実施例8]
共存細胞へのノブ移行メカニズムの解析1
ノブ領域の隣接細胞への移行メカニズムについての検討を行うため、5型又は35型アデノウイルスのノブ領域を発現した293T細胞と、CAR及びCD46をノックダウンしたGFP発現293T細胞とを共培養し、24時間後の細胞膜表面のノブ領域の存在をフローサイトメトリーにより測定した。
293T細胞に、図11に示すレンチウイルスベクターを用いて、ヒトCAR及びヒトCD46遺伝子に対するshRNA(配列番号17及び18)を発現させて、各遺伝子をノックダウンしたGFP恒常発現293T細胞を作製した。
ヒトCAR遺伝子に対するshRNAの配列
accgttctttggttccagtgctttattcaagagataaagcactggaaccaaagaactttttc(配列番号17)
ヒトCD46遺伝子に対するshRNAの配列
accgtactatgagattggtgaacgattcaagagatcgttcaccaatctcatagtactttttc(配列番号18)
上記配列における下線部がそれぞれの標的配列である。ヒトCAR及びCD46遺伝子の塩基配列は、配列番号19及び20にそれぞれ示す。ただし、ヒトCARに対するshRNAの標的配列はヒトCAR mRNAの3'非翻訳領域に存在する。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG、pCMV-Ad35knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、DMEMを除去し、2.5g/lトリプシン、1mmol/l-EDTA溶液にて細胞を剥離し、hCAR発現ノックダウン、又はhCD46発現ノックダウンGFP恒常発現293T細胞と、それぞれ1.5×105個/ウェルの細胞密度で共培養をおこなった。共培養には6ウェルプレートを用い、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、実施例1と同様の処理をした後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。
検出には抗Flag-tag抗体(FLA-1)、抗CAR抗体(RmcB)、抗CD46抗体(E4.3)を用い、2次抗体として、アロフィコシアニン(APC)標識した抗マウス抗体ヤギIgGを用いた。
その結果、CARをノックダウンした細胞では、5型アデノウイルスノブ領域の移行が、CD46をノックダウンした細胞では、35型アデノウイルスノブ領域の移行がそれぞれ低下した。よって、ノブ領域の隣接細胞への移行にはCAR及びCD46の存在が重要であることが示唆された(図12)。
[実施例9]
共存細胞へのノブ移行メカニズムの解析2
CAR及びCD46陰性細胞であるSF295細胞(大阪大学 水口裕之博士より提供)に、ヒトCAR及びヒトCD46を強制発現させ、各ノブ領域の移行について評価した。
SF295細胞に、レンチウイルスベクター(図3)を用いてCAR(配列番号19)及びCD46遺伝子(配列番号20)を強制発現させ、hCAR又はhCD46発現GFP恒常発現SF295細胞(SF295 CAR)を作製した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG、pCMV-Ad35knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、DMEMを除去し、2.5g/lトリプシン、1mmol/l-EDTA溶液にて細胞を剥離し、hCAR又はhCD46強制発現SF295細胞とそれぞれ1.5×105個/ウェルの細胞密度で共培養をおこなった。共培養には6 ウェルプレートを用い、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、実施例1と同様の処理をした後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。
検出には抗Flag-tag抗体(FLA-1)、抗CAR抗体(RmcB)、抗CD46抗体(E4.3)を用い、2次抗体として、アロフィコシアニン(APC)標識した抗マウス抗体ヤギIgGを用いた。
その結果、CAR及びCD46の発現依存的に、5型及び35型アデノウイルスノブ領域の隣接細胞への移行が確認され、各ノブ領域の移行にはCAR及びCD46の発現が必須の条件であることが示された(図13)。
[実施例10]
異種共存細胞へのノブ移行
各種ヒト由来培養細胞を用い、実施例9と同様の検討を行った。
共存細胞として、CAR及びCD46の双方を発現するHepG2細胞、CD46のみを発現し、CARは発現しないK562細胞、及びCAR及びCD46のいずれも発現しないSF295細胞を用いた。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG、pCMV-Ad35knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、DMEMを除去し、2.5g/lトリプシン、1mmol/l-EDTA溶液にて細胞を剥離し、HepG2細胞、K562細胞、又はSF295細胞とそれぞれ1.5×105個/ウェルの細胞密度で共培養をおこなった。共培養には6ウェルプレートを用い、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、実施例1と同様の処理をした後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。
検出には抗Flag-tag抗体(FLA-1)、抗CAR抗体(RmcB)、抗CD46抗体(E4.3)を用い、2次抗体として、アロフィコシアニン(APC)標識した抗マウス抗体ヤギIgGを用いた。
その結果、HepG2細胞にはAd5及びAd35のノブ領域のいずれもが移行し、K562細胞にはAd35のノブ領域のみが移行し、SF295細胞にはAd5及びAd35のノブ領域はいずれも移行しなかった(図14)。すなわち、5型及び35型アデノウイルスのノブ領域の細胞間移行は、様々な細胞種において認められ、その移行にはCAR又はCD46の発現が必要であること、5型及び35型アデノウイルスノブ領域を用いたDDS技術は分子特異的なデリバリーが可能になることが示唆された。
[実施例11]
ルシフェラーゼ融合ノブ領域の細胞膜移行及び共存細胞への移行
機能性タンパク質の輸送キャリアー分子としての有用性を評価するため、ガウシアルシフェラーゼ(Gaussia luciferase(Gluc))と35型アデノウイルスノブ領域の融合タンパク質を発現した293T細胞を用いて、融合タンパク質の細胞膜発現とルシフェラーゼ活性を測定した。
本実施例では、35型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域遺伝子配列の5'末端側にGSリンカーを介してGluc遺伝子配列を、3'末端側にGSリンカーを介してMycタグを付加した配列(Gluc-Ad35knob-Myc、配列番号21)を含むpCMV-Gluc-Ad35knob-Mycを使用した。このプラスミドが発現する融合タンパク質(アミノ酸配列:配列番号22)の構造を図15Aに模式的に示す。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Gluc-Ad35knob-Myc発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。6時間後、DMEMを除去し、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離して1ウェルごとに2つのサンプルを調製して、フローサイトメトリー又はルシフェラーゼ測定用のサンプルとした。
フローサイトメトリー用のサンプルは、PBS洗浄後、PBSにて400倍希釈した1次抗体(Anti-Myc-tag mAb, MBL又はAnti-Gluc-tag mAb, Nanolight)を100μL加えてピペッティングし、氷上にて60分間作用させた。PBS洗浄を3回行った後、PBSにて1200倍希釈した2次抗体(anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen) を100μL加えてピペッティングし、氷上にて30分間作用させた。その後、PBS洗浄を5回行い、適量のPBSで懸濁した後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。また、共存細胞への移行性については、Gluc-Ad35knob-Myc発現293T細胞とGFP恒常発現293T細胞を一昼夜共培養し、上記と同様の抗体処理を行い、蛍光強度をフローサイトメトリー(FACSCalibur) を用いて測定した。
ルシフェラーゼ測定用のサンプルは、Passive Lysis バッファー(プロメガ株式会社)を蒸留水にて5倍希釈したものを500μL加えた。15-20分放置後、数回ウェルを傾けて混和し、細胞溶液を遠心用チューブに移した。4℃、5分、13200 rpm×1000 rpmの条件で遠心分離(マイクロ冷却遠心機 KUBOTA 3740)し、サンプルチューブに上清20μLをとり、Glucアッセイ溶液50μLを加え、ルミノメーター (Lumat LB 9507, BERTHOLD TECHNOLOGIES, Bad Wildbad, Germany) にてルシフェラーゼ活性を測定した。
検出には抗Myc-tag抗体(My3)、抗Gluc抗体(モノクローナル抗体、Nanolight Technologyより購入)を用い、2次抗体として、抗マウス抗体ヤギIgGのR-PE標識を用いた。
その結果、Glucと35型アデノウイルスノブの融合タンパク質においても、細胞膜に分布し、共存する細胞に移行することが明らかとなった。また、ルシフェラーゼ活性も保持していることから、融合タンパク質が機能していることが明らかとなった(図15B−D)。
[実施例12]
GFP融合ノブ領域の細胞膜移行及び共存細胞への移行
GFP蛍光タンパク質と35型アデノウイルスノブ領域(Myc-tag付)との融合タンパク質を発現した293T細胞を用いて、融合タンパク質の細胞膜分布と、GFP発現293T細胞(Ad35knob非発現細胞)への移行を共焦点レーザー顕微鏡により観察した。
本実施例では、35型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域遺伝子配列の5'末端側にGSリンカーを介してeGFP遺伝子を、3'末端側にGSリンカーを介してFLAGタグを付加した配列(eGFP-Ad35knob-FLAG、配列番号23)を含むpCMV-eGFP-Ad35knob-FLAGを使用した。このプラスミドが発現する融合タンパク質(アミノ酸配列:配列番号24)の構造を図16Aに模式的に示す。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-eGFP-Ad35knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、ディッシュ中のDMEMを除去し、2.5g/lトリプシン、1mmol/l-EDTA溶液にて細胞を剥離し、mcherry発現HepG2細胞と、それぞれ1.5×105個/ウェルの細胞密度で共培養をおこなった。共培養には6ウェルプレートを用い、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養メディウムを除去し、PBSにて洗浄、4%パラホルムアルデヒドによる固定後、PBS 洗浄を2回行い、共焦点レーザー顕微鏡 (Nikon A1)を用いて観察した。
その結果、蛍光タンパク質GFPと35型アデノウイルスノブ領域との融合タンパク質は、蛍光活性を保持していることから、融合タンパク質が機能していることが明らかとなった(図16B)。また、融合タンパク質は細胞膜に発現し、共存する細胞に移行することが明らかとなった。
[実施例13]
サイトカイン融合ノブ領域を利用した治療戦略への基礎検討
免疫細胞の活性化抑制サイトカインであるIL-10と35型アデノウイルスノブ領域(Myc-tag付)との融合タンパク質を発現した293T細胞を用いて、融合タンパク質の細胞膜発現をフローサイトメトリーにより測定した。また、融合タンパク質発現293T細胞(ヒト由来)とマウスマクロファージ由来細胞であるRAW264.7細胞を共培養し、24時間後のマウスIL-6の分泌量を指標に、RAW264.7細胞の活性化抑制機能について検討した。
本実施例では、35型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域遺伝子配列の5'末端側にGSリンカーを介してヒトIL-10遺伝子を、3'末端側にGSリンカーを介してMycタグを付加した配列(hIL-10-Ad35knob-Myc、配列番号25)を含むpCMV-hIL-10-Ad35knob-Mycを使用した。このプラスミドが発現する融合タンパク質(アミノ酸配列:配列番号26)の構造を図17Aに模式的に示す。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-hIL-10-Ad35knob-Myc、又は実施例11で使用したpCMV-Gluc-Ad35knob-Myc発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、フローサイトメトリーによりIL10-Ad35knobの293T細胞表面での分布を確認した。フローサイトメトリー用の293T細胞は、PBS洗浄後、PBSにて400倍希釈した1次抗体(Anti-Myc-tag mAb, MBL)を100μL加えてピペッティングし、氷上にて60分間作用させた。PBS洗浄を3回行った後、PBSにて1200倍希釈した2次抗体(anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen) を100μL加えてピペッティングし、氷上にて30分間作用させた。その後、PBS洗浄を5回行い、適量のPBSで懸濁した後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。また、共存細胞への移行性については、Gluc-Ad35knob-Myc発現293T細胞とGFP恒常発現293T細胞を一昼夜共培養し、上記と同様の抗体処理を行い、蛍光強度をフローサイトメトリー(FACSCalibur) を用いて測定した。
一方、293T細胞を5×104個/ウェルの細胞密度で12ウェルプレートに播種し、さらに翌日、DMEMを除去し、RAW264.7細胞を1×105個/ウェルの細胞密度で共培養した。DMEMで全量を1 mLとし、組み換えrh IL-10を最終濃度が10 ng/mLとなるように添加して1日培養した。翌日、細胞培養メディウムを回収してサンプルとし、マウスIL-6EKISAキット(Bio-Legend)を用いて、RAW264.7細胞の産生するマウスIL-6産生量をELISA法にて測定した。
マウスIL-6のELISA測定は、コーティングバッファーで200倍希釈した捕捉抗体をELISAアッセイプレートに100μL入れ、4℃、一晩置いた。サンプルの上清のみを回収し、5000rpm、1分間遠心して細胞を除去した。ELISAプレートの水分を除去し、洗浄液で4回洗浄した。PBSで5倍希釈したAssayDiluentを200μL入れ、RT、1時間振とうした。4回洗浄をした後、検量線とPBSで5倍希釈したサンプルを100μL入れ、RT、2時間振とうした。4回洗浄した後、Assay Diluentで200倍希釈した検出用抗体を100μL入れ、RT、1時間振とうした。4回洗浄した後、Assay Diluentで1000倍希釈したAvidin-HRP Solutionを100μL入れ、RT、30分振とうした。5回洗浄した後、用時調製したTMB基質溶液を100μL入れ、暗所、20分おいた。次に酵素反応停止液を100μL入れ、450nmの吸光度を測定した(Mouse IL-6 ELISA MAXTM Deluxe Sets)。
その結果、hIL-10と35型アデノウイルスノブ領域の融合タンパク質が、細胞膜上に発現することが明らかとなった。また、293T細胞表面に存在するhIL-10-Ad35knob-Mycタンパク質は、異種細胞である293T細胞を認識して活性化したRAW264.7細胞のIL-6産生(活性化)に影響しなかった(青色カラム)。一方、細胞表面に存在するhIL-10-Ad35knob-Mycタンパク質は、細胞培養液中に加えた組み換えhIL-10タンパク質によるRAW264.7細胞のIL-6産生(活性化)の抑制を阻害した(赤色カラム)。よって、293T細胞表面上のhIL-10-Ad35knob-Mycタンパク質がRAW264.7細胞のIL-10結合を阻害した可能性が考えられる。
また、IL-10との融合タンパク質は、マクロファージ由来培養細胞のIL-10による免疫活性化抑制を阻害すること(IL-6産生の抑制阻害)、免疫細胞への機能変化を確認した(図17)。
[実施例14]
コレラ毒素Aサブユニットとの融合ノブ領域の細胞膜移行及び細胞増殖抑制
コレラ毒素Aサブユニットは、細胞膜侵入能を持つBサブユニットを欠損しているため、単独では細胞増殖抑制能は持たない。5型アデノウイルスノブ領域との融合タンパク質を発現した293T細胞を用いて、融合タンパク質の細胞膜発現と細胞増殖抑制効果を測定した。
本実施例では、5型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域遺伝子配列の5'末端側にGSリンカーを介してコレラ毒素のAサブユニット遺伝子を、3'末端側にFLAGタグを付加した配列(NCTA-Ad35knob-FLAG、配列番号27)を含むpCMV-NCTA-Ad35knob-FLAGを使用した。このプラスミドが発現する融合タンパク質(アミノ酸配列:配列番号28)の構造を図18Aに模式的に示す。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、5又は10.0μgのpCMV-Ad5knob-FLAG及びpCMV-NCTA-Ad5knob-FLAG発現プラスミドをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、ディッシュ中のDMEMを除去し、DMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。上記は1ウェル当たりの量として記載した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離して1ウェルごとに回収し、フローサイトメトリー測定用のサンプルとした。また、1×104個/ウェルの細胞を24ウェルプレートに再播種し、播種後3日後の細胞増殖能をAlamar Blue測定により確認した。
フローサイトメトリー用のサンプルは、PBS洗浄後、PBSにて400倍希釈した1次抗体(Anti-DDDDK-tag mAb, MBL)を100μL加えてピペッティングし、氷上にて60分間作用させた。PBS洗浄を3回行った後、PBSにて1200倍希釈した2次抗体(anti-mouse IgG(H+L) RPE conjugate, invitrogen) を100μL加えてピペッティングし、氷上にて30分間作用させた。その後、PBS洗浄を5回行い、適量のPBSで懸濁した後、蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。
Alamar Blue測定用の細胞は、DMEMを除去し、Alamar Blue試薬を100倍希釈したDMEM 1 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて3時間培養した。3時間後の培養メディウムを回収し、マイクロプレートリーダーにて、蛍光強度(560/590)を測定した。
その結果、コレラ毒素Aサブユニットと5型アデノウイルスノブの融合タンパク質においても、細胞膜に分布することが明らかとなった。また、発現細胞への細胞増殖抑制効果が認められた(図18)。この結果からアデノウイルスファイバー及びノブ領域が機能性タンパク質の輸送キャリアー分子として利用可能なことを見出した。
[実施例15]
コレラ毒素Aサブユニットとの融合ノブ領域の腫瘍増殖抑制効果
コレラ毒素Aサブユニットと5型アデノウイルスノブ領域の融合タンパク質を発現した293T細胞を用いて、マウスCARを発現した固形腫瘍への治療効果を検討した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種し、37℃、5% CO2の条件下にて1日培養して、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG及び実施例14で使用したpCMV-NCTA-Ad5knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。
6時間後、ディッシュ中のDMEMを除去し、1ウェル当たりDMEM 3 mLを加え37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、1×105個ごとに回収した。
5週齢、メスのC57BL6マウスの腹部皮下に、B16細胞又はマウスCAR発現B16細胞を5×105個を移植した。5日後、腫瘍サイズが5mm程度にて、コレラ毒素Aサブユニットとの融合5型アデノウイルスノブ領域発現293T細胞1×105個を腫瘍内に投与した(図19A)。5、8、11日後に腫瘍サイズを以下の式により測定し、抗腫瘍活性を評価した。
腫瘍サイズ(mm3)測定法: a × b × b/2 ((a:腫瘍長径(mm)、b:腫瘍短径(mm))
その結果、図19Bに示すように、コレラ毒素Aサブユニットと5型アデノウイルスノブの融合タンパク質発現細胞を腫瘍形成後に投与することで、腫瘍の増殖抑制が観察された。
[実施例16]
ノブ領域の3量体構造形成
アデノウイルスファイバータンパク質及びノブ領域は、ウイルス粒子中では3量体構造をとることが知られているが、培養細胞中に発現させた際の3量体構造形成については確認されていない。そこで5型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域(FLAGタグ付き)を培養細胞に発現させ、3量体構造をSDS-Page及びNative-Page後にウェスタンブロッティングにて確認した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種して37℃、5% CO2の条件下にて1日培養し、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。6時間後、DMEMを除去し、ウェルあたりDMEM 3 mLを加えて37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、1ウェルごとに2つのサンプルを調製して、SDS-Page又はNative-Page用のサンプルとした。
SDS-Page及びウェスタンブロッティング用のサンプルは、実施例4と同様にして検出した。検出には、抗Flag-tag抗体(Clone FLA-1)を用い、2次抗体として、抗マウス抗体ヤギIgGのHRP標識を用いて検出した。
Native-Page及びウェスタンブロッティング用のサンプルは、上記SDS-Page及びウェスタンブロッティング用のサンプルと同様にして検出した。ただし、2-メルカプトエタノール及びSDSを除いたバッファーを用いた。
その結果、5型アデノウイルスノブ領域を発現した細胞中において、ノブタンパク質は3量体構造を形成していることが示された(図20)。
[実施例17]
精製タンパク質での細胞移行性評価
アデノウイルスファイバータンパク質及びそのノブ領域が薬剤の送達のための担体として使用可能であることを更に実証するために、アデノウイルスノブ領域を培養細胞中から単離・精製し、精製タンパク質を培養細胞へ作用させた際の隣接細胞への移行性について検討した。
293T細胞を3×105個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレート(Corning, USA)に播種して37℃、5% CO2の条件下にて1日培養し、翌日、pCMV-Ad5knob-FLAG発現プラスミド10.0μgをコニカルチューブに加え、実施例1と同様にして293T細胞に導入した。6時間後、DMEMを除去し、ウェルあたりDMEM 3 mLを加えて37℃、5% CO2の条件下にて1日培養した。
翌日、培養した293T細胞を1.0M EDTA/PBSで剥離し、タンパク精製用のサンプルとした。サンプルには、細胞溶解液(0.1%Triton-X100)を加え、4℃にて30分間インキュベートし、超音波処理によりタンパク質の抽出を行った。その後、13200 rpm、10分間遠心分離し、上清をタンパク質サンプルとして回収した。得られたタンパク質サンプルをDDDDK tagged Protein PURIFICATION KIT(株式会社 医学生物学研究所)を用いて単離・精製した。FLAGタグを用いたタンパク質精製により、ノブ領域タンパク質が単離・精製されていることが確認された(精製に用いたFLAGタグに対する抗体の重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)も検出されている)(図21A)。
精製したノブ領域タンパク質を、SDS-Page及びウェスタンブロッティング用のサンプルとして使用し、実施例4と同様にして検出した。検出には、抗Flag-tag抗体(Clone FLA-1)を用い、2次抗体として、抗マウス抗体ヤギIgGのHRP標識を用いて検出した。
また、精製したノブ領域タンパク質を、293T細胞を5×105個/100μLにてPBSに懸濁したものに、40μg/mLの濃度で4℃の温度条件下において60分間作用させた。60分後、PBSにて4回洗浄し、未結合のタンパク質を除去した。洗浄後、上記293T細胞にGFP発現293T細胞を5×105個を加え、4℃又は37℃で60分間インキュベートした。60分後、PBSにて4回洗浄し、実施例1と同様にて、293T細胞の蛍光強度をフローサイトメトリー (FACSCalibur) を用いて測定した。検出には、抗Flag-tag抗体(Clone FLA-1)を用い、2次抗体として、抗マウス抗体ヤギIgGのAPC標識を用いて検出した。
その結果、精製された5型アデノウイルスファイバータンパク質のノブ領域タンパク質が、37℃の温度条件下において、隣接する細胞へ移行することが示された(図21B)。