JPWO2014050836A1 - 質量分析装置および質量分離装置 - Google Patents

質量分析装置および質量分離装置 Download PDF

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Abstract

動作原理に起因する問題点によって装置の設計や性能が制限されることが少なく、原理上、扱うことのできる質量電荷比範囲に限界がなく、質量電荷比が異なる複数のイオン種を短時間のうちに繰り返し分析あるいは取り出し可能な質量分析装置および質量分離装置を提供する。質量分析装置(10)をイオン源(1)、イオン導入部(2)、質量分離部(3)、およびイオン検出部(4)などによって構成する。イオン群は一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして所定の加速電圧で分離空間(5)へ導入される。分離空間(5)内では、イオンは、入射方向に慣性で飛行するとともに、それに交差する方向(y方向)に作用する一次元高周波電場から受ける力によってy方向へ変位する。質量電荷比が互いに異なるイオン種は、変位量の違いによって分離される。この際、被測定イオン種が電場の作用を1周期間受けて分離空間(5)から出射されるように、加速電圧および一次元高周波電場の周期を設定する。

Description

本発明は、一次元高周波電場を用いてイオンを質量分離する質量分析装置および質量分離装置に関するものである。
質量分析法は、分析しようとする試料物質を適当な方法でイオン化し、生成したイオンを質量電荷比の違いに基づいて分別し、質量電荷比ごとに検出または定量することによって、試料物質の組成や構造に関する知見を得る分析法である。なお、本明細書では、用語「質量電荷比」を、「イオンの質量mを原子質量定数(12C原子1個の質量の1/12の質量)で割って無次元の精密な質量とし、さらにこれをイオンの電荷数zで割って得られる無次元の数」と定義して用いることにする。
質量分析装置はイオン源、イオン導入部、質量分析部、およびイオン検出部などによって構成され、少なくとも質量分析部とその前後のイオンの通路は高真空下にある。質量分析部では、質量電荷比が互いに異なるイオン種が真空中でのイオンの運動の違いによって分別される。現在市販されている汎用の質量分析装置では、多くの場合、次に説明する3種の質量分析部のいずれかが用いられている(非特許文献1〜4参照。)。以下、質量分析装置の各部において1つのまとまりとして扱われる複数個のイオンの集団を、1個のイオンや単なる複数個のイオンと区別するために、「イオン群」と呼ぶ。また、イオン源の各イオンが加速電圧Uで引き出される前にとっている運動状態を初期状態と呼ぶ。また、電気素量を記号eで表し、とくにことわらない限り物理量はSI単位で表す。
<飛行時間(TOF)型質量分析部>
TOF型質量分析部では、イオン群はイオン源から所定の加速電圧Uでパルス的に引き出され、電場や磁場の存在しない長さLの自由飛行空間に導入される。各イオンがこの空間を通過するのに要する時間Tは、イオンの飛行速度vから次式
=L/v
で与えられるので、TOF型質量分析部は速度分析器として機能する。
<扇形磁場型質量分析部>
扇形磁場型質量分析部では、イオン群はイオン源から所定の加速電圧Uで引き出され、運動エネルギーzeUを付与される。次にイオン群は一様な磁束密度Bをもつ扇形磁場中に、磁場に直交するように導入される。磁場中のイオンはローレンツ力によって飛行方向が偏向され続け、磁場に直交する円弧を描くように飛行する。イオンの飛行速度をvとすると、各イオンが描く円弧の半径Rは次式
R=mv/zeB
で与えられるので、扇形磁場型質量分析部は運動量分析器として機能する。
<四重極型質量分析部>
四重極型質量分析部では、同一形状の4本の棒状電極によって囲まれた細長い空間に四重極電場が形成され、この空間がイオンの通路として用いられる。イオン群は、長さ方向の一方の端部から中心線に沿うように導入され、電場から受ける力によって振動しながら、他方の端部へ向かって慣性飛行する。このとき、特定の質量電荷比をもつイオン種のみが電場に適合し、安定な振動運動を行いながら通路内を端部まで飛行することができる。他のイオンは振幅が大きくなり過ぎ、棒状電極に衝突するか、または棒状電極間のすき間から通路外へ飛び出すかして除かれる。
上記の他にリニア四重極または三次元四重極イオントラップ型質量分析部、あるいはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析部を備える質量分析装置も市販されている。しかし、これらのイオントラップ型質量分析部では、1回の分析を行うのにイオンの導入、保持、放出の各操作が必要であり、操作が煩雑になる。また、分析動作が断続的になり、少なくとも高速の実時間測定には適していない。したがってこれらの質量分析部は主としてイオントラップ機能が効果的な用途に用いられる。
TOF型質量分析部および扇形磁場型質量分析部では、イオン源のイオン群は所定の加速電圧Uで引き出され、同一の運動エネルギーzeUが付与される。そして、この結果生じる引き出し方向への速度または運動量の違いに基づいて、質量電荷比が互いに異なるイオン種が分離される。この場合、初期状態において各イオンがもつ運動エネルギーがzeUに比して無視できない場合には、そのばらつきによって質量分解能が制限される。このため、その影響を相対的に小さくして、高い質量分解能を実現するには、加速電圧Uを大きくする必要がある。この結果、イオンの飛行距離が長くなり、装置が大型化する。
四重極型質量分析部では、質量電荷比が大きいイオンは、安定な振動状態を実現することが難しく、透過率が低い。また、質量電荷比の大きいイオンを分析するには、棒状電極に印加する電圧を高くする必要があるが、それには耐圧や電力などの技術的な限界が存在する。高周波電圧の周波数を下げると、高周波電圧を変えずに質量電荷比の大きいイオンを測定できるようになるが、その場合には質量の小さいイオンが十分振動しないで質量分析部を通過してしまう不都合が生じる。このような理由で、分析できる質量電荷比の上限は2000〜4000程度に制限される。
加えて、既存の質量分析部では、質量電荷比が異なる複数のイオン種のイオン量を短時間のうちに繰り返し測定する性能が不十分である。次にこの点について説明する。
四重極型質量分析部および扇形磁場型質量分析部では、イオン量を実時間で連続的に測定することができる。ただし、四重極型質量分析部では、質量電荷比が異なる複数のイオン種を同時に検出することは原理的にできない。扇形磁場型質量分析部では、フォーカルプレーン検出器を用いることなどによって複数のイオン種を同時に検出できるが、その質量電荷比範囲は狭い。同時に測定できない複数のイオン種のイオン量を比較するには、質量走査する必要があるが、比較的速い四重極型質量分析部の質量走査でも、複数のイオン種を次々に選択して検出する選択(切り換え)走査で1イオン種につき1ms程度を要する。扇形磁場型質量分析部の質量走査はもっと遅い。これらの走査時間よりも短い時間内で複数のイオン種のイオン量を測定して比較することはできない。
この結果、例えばイオン源におけるイオン化条件(試料気体の圧力やイオン化のために注入されるエネルギーなど)に変動がある場合に、分析しようとするイオン種のイオン量と内部標準として用いるイオン種のイオン量とを質量走査して測定し、イオン化条件の変動を内部標準に基づいて補正しても、走査時間内に起こる変動は補正されず、定量の正確性が損なわれやすい。また、走査時間内に試料の組成が変化する系に対しては、複数のイオン種間のイオン量の関係を正しく把握することができない。このため、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)または液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS)において複数種の成分が完全に分離されずに流出してくる場合や、高速の化学反応が起こる場合などでは、系の変化を追跡する性能が不十分になりやすい。
一方、TOF型質量分析部では、原理的には1回のパルス状イオン群の導入で完全な質量スペクトルが得られる。したがって内部標準に基づくイオン量の較正が可能であり、また複数のイオン種間のイオン量の関係を正しく把握することができる。しかし、1回の測定にはすべてのイオンが飛行し終わるまでの時間、最短で100μs、通常で数ms〜数十msを要するので、これより短い時間間隔で系の変化を追跡することはできない。
上述した問題点は各質量分析部の動作原理に起因するものであるので、部分的な改良で解決することは難しい。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、動作原理に起因する問題点によって装置の設計や性能が制限されることが少なく、原理上、扱うことのできる質量電荷比範囲に限界がなく、質量電荷比が異なる複数のイオン種を短時間のうちに繰り返し分析あるいは取り出し可能な質量分析装置および質量分離装置を提供することにある。
即ち、本発明は、
試料をイオン化する手段、およびパルス状のイオン群を所定の加速電圧で質量分析部へ導入する手段を備えるイオン源と、
前記イオン群の飛行方向を収束させる手段、及び/又は所定の方向へ飛行する前記イオン群を選択して取り出す手段を備えるイオン導入部と、
導入した前記イオン群を飛行させる分離空間、および前記イオン群の入射方向に所定の角度で交差する方向(以下、y方向と呼ぶ。)に作用する一次元高周波電場を前記分離空間に形成する手段を備え、前記一次元高周波電場の作用によって、質量電荷比が互いに異なるイオン種に互いに異なる飛行路を飛行させる前記質量分析部と、
前記分離空間の末端の出射面上の所定のy方向位置に飛来するイオンを検出する手段を備えるイオン検出部と
を少なくとも有し、前記イオン群は前記一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして前記分離空間へ導入され、所定の質量電荷比を有する被測定イオン種が前記一次元高周波電場の作用をn周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、前記出射面上でのy方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して検出される、質量分析装置に係わるものである(ただしnは自然数である。)
また、本発明は、
試料をイオン化する手段、およびパルス状のイオン群を所定の加速電圧で質量分析部へ導入する手段を備えるイオン源と、
前記イオン群の飛行方向を収束させる手段、及び/又は所定の方向へ飛行する前記イオン群を選択して取り出す手段を備えるイオン導入部と、
導入した前記イオン群を飛行させる分離空間、および前記イオン群の入射方向に所定の角度で交差する方向(以下、y方向と呼ぶ。)に作用する一次元高周波電場を前記分離空間に形成する手段を備え、前記一次元高周波電場の作用によって、質量電荷比が互いに異なるイオン種に互いに異なる飛行路を飛行させる前記質量分析部と、
前記分離空間の末端の出射面上の所定のy方向位置に飛来するイオンを取り出す手段を備えるイオン選択部と
を少なくとも有し、前記イオン群は前記一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして前記分離空間へ導入され、所定の質量電荷比を有する被選択イオン種が前記一次元高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、前記出射面上でのy方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して取り出される、質量分離装置に係わるものである。
なお本発明において、高周波電場とは、波形は任意であるが、1周期の間にイオンが電場から受ける力積が0になる交流電場であって、周期が2ms以下であるものとする。また前記被測定イオン種または前記被選択イオン種とは、各々、単に検出または選択されるイオン種を言うのではなく、本発明の本質に関係して、前記一次元高周波電場の作用をn周期間また1周期間、あるいはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、検出または選別されるイオン種を言うものとする。また「実質的に」とは、要求される質量分解能などの装置性能に応じて、本発明の本質を変更することのない範囲の若干の増減や誤差が許容されるという意味である。
本発明の質量分析装置では、前記イオン群は前記イオン源から前記所定の加速電圧で前記分離空間へ導入される。この後、各イオンは前記入射方向へ慣性で飛行するとともに、前記入射方向に交差する方向(y方向)に作用する前記一次元高周波電場から受ける力によって、y方向へ変位する。この変位は静電場中での等加速度運動とは異なり、かつ変位量がイオンの質量電荷比に反比例する。変位は、前記一次元高周波電場がイオンに作用し始めるときの電場の位相によっても変化するが、位相が一定に固定されれば変位は一定になる。このため、前記イオン群が前記一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして導入される場合、質量電荷比が互いに異なるイオン種は互いに異なる飛行路を飛行し、空間的に分離される(後述の図6参照。)。一方、前記イオン検出部は前記出射面上の所定のy方向位置に飛来するイオンを検出する。前記出射面上におけるy方向飛来位置は、イオンが前記分離空間を飛行する間に生じた変位量に対応する。
このように、前記質量分析部における質量分離は、前記一次元高周波電場の作用による上記変位によって、質量電荷比の違いそのものに基づいて行われる。引き出し方向におけるイオンの運動はこの変位に関与しない。したがって前記質量分析部における質量分離は、前記イオン群が引き出される前にとっている初期状態のばらつきの影響を原理的に受けにくい。
ただし実際には次の不都合が生じる可能性がある。前記加速電圧Uによって引き出された前記イオン群が引き出し方向にもつ運動エネルギーは、zeUを標準とするものの、初期状態のばらつきに対応した広がりをもってその近傍に分布する。したがって、イオンが引き出し方向にもつ速度は、(2zeU/m)1/2を標準とするものの、広がりをもってその近傍に分布する。この結果、質量電荷比が同じイオン種であっても、イオンが前記分離空間の末端に到達するまでの時間(前記分離空間に滞在する時間)に広がりが生じる。この滞在時間の広がりによって前記出射面上におけるイオンの変位量に広がりが生じると、結果的に初期状態のばらつきによって質量分解能が制限されることになる。
本発明者は、イオンが高周波電場から受ける力積は1周期間で0になるので、前記一次元高周波電場の作用をn周期間受けた時点において上記変位量の変化速度は0になる事実に基づけば、上記の問題点を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の質量分析装置では、前記被測定イオン種は、前記分離空間に入射したのち、前記一次元高周波電場の作用をn周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けた時点で前記分離空間から出射されるか、あるいは前記一次元高周波電場の作用をn周期間受けたのち、その後に設けられた、電場の強さが0である休止期間の間に前記分離空間から出射される。
前者の場合、n周期間が経過した時点の前後には、上記変位量の変化速度が小さい時間領域が存在することに着目する。この時間領域では滞在時間の広がりによって生じる上記変位量の広がりが小さい。したがって、前記被測定イオン種のすべてのイオンがこの時間領域内に前記分離空間から出射され、前記一次元高周波電場の作用をn周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けるならば、前記出射面上における前記被測定イオン種の変位量は滞在時間の広がりの影響を受けにくい。後者の場合、n周期間が経過した時点で上記変位は停止状態になり、休止期間中はこの停止状態が保たれるので、滞在時間の広がりが上記変位量の広がりを生じさせることはない。したがって、前記被測定イオン種のイオンがすべて休止期間内に前記分離空間から出射されるならば、前記出射面上における前記被測定イオン種の変位量は滞在時間の広がりの影響を受けない。いずれの場合でも、本発明の質量分析装置では初期状態のばらつきに影響されることが少なく、そうでない場合に比べて高い質量分解能で前記被測定イオン種が質量分離される。この結果、高い質量分解能を実現するために前記加速電圧を大きくする必要が小さく、装置の大型化を招くことが少ない。
また、本発明の質量分析装置の質量分離は、イオンが振動や回転などの周期的運動を安定に行うことを条件としていない。したがって安定状態を実現するための条件や操作によって性能や機能が制限されることがない。具体的には、原理上、測定できる質量電荷比の範囲に限界がない。また、選択走査では、前記被測定イオン種はn周期間で前記分離空間を飛行し終わり、かつその他のイオンとは変位量の違いによって区別されるので、1つのイオン種から別のイオン種への前記被測定イオン種の切り換えは、前記高周波電場のn周期間程度で完了する。したがって高速の選択走査が可能である。
本発明の質量分離装置は、前記イオン検出部が前記イオン選択部に置き換えられており、また最も単純なn=1に限定されていることを除けば、本発明の質量分析装置と同じ構成を有する。共通の構成に基づく特徴は質量分析装置と同じである。したがって本発明の質量分離装置は、前記イオン群が引き出される前にとっている初期状態のばらつきに影響されることが少なく、前記イオン群の中から所定の質量電荷比を有する前記被選択イオン種を高い質量分解能で取り出すことができる。この結果、高い質量分解能を実現するために前記加速電圧を大きくする必要が小さく、イオンの飛行距離が短くなり、装置が小型、軽量になる。また、原理上、扱うことのできる前記被選択イオン種の質量電荷比の範囲に限界がない。さらに、取り出す前記被選択イオン種を高速で切り換えることができる。
本発明の実施の形態1に基づく質量分析装置の構成を示す概略図である。 同、質量分析部の構造を示す斜視図(A)、および長さ方向に直交する面で質量分析部を切断した断面形状を示す概略図(B)である。 同、質量分析装置において用いる矩形波高周波電場の例を示すグラフ(A)と(C)、および入射から1周期余までの時刻での経過時間t−t0とイオンの変位量yとの関係を、イオン入射時の矩形波高周波電場の位相を種々に変えて示すグラフ(B)である。 同、質量分析装置における、正弦波高周波電場が作用し始めてから1周期余(11μs)までの時刻での、イオンのz方向位置と変位量yとの関係を示すグラフである。 同、質量分析装置における、休止期間を有する矩形波高周波電場が作用し始めてから1周期余までの時刻での、イオンのz方向位置と変位量yとの関係を示すグラフである。 同、質量分析装置における各イオン種の飛行路を示すグラフ(A)、および第1の質量走査方法で走査した場合のその変化を示すグラフ(B)である。 同、質量分析装置のイオン検出部の例を示す概略図である。 同、質量分析装置において複数種の被測定イオン種を同時分析する際に用いる矩形波高周波電場の例を示すグラフ(A)、およびその場合の各イオン種の飛行路を示すグラフ(B)である。 本発明の実施の形態2に基づく質量分析装置の構成を示す概略図である。 本発明の実施の形態3に基づく質量分析装置の構成を示す概略図である。 本発明の実施の形態4に基づく質量分析装置の構成を示す概略図(A)、および長さ方向に直交する面で質量分析部を切断した断面形状を示す概略図(B)である。 同、質量分析装置において用いる矩形波高周波電場の例を示すグラフ(A)、および出射面上に飛来するイオン種の位置を示す平面図(B)である。 同、質量分析装置において用いる矩形波高周波電場の変形例を示すグラフである。
本発明の質量分析装置において、前記被測定イオン種は次の関係
T=L(m/2zeU)1/2
を満たし、前記イオン群は前記一次元高周波電場の強さが0である時点において前記分離空間へ導入され、前記被測定イオン種は実質的に1周期後の前記一次元高周波電場の強さが0である時点において前記分離空間から出射されるのがよい(ただし、zはイオン種の電荷数であり、m、e、U、L、およびTは、それぞれ、SI単位で表されたイオン種の質量、電気素量、前記加速電圧、前記分離空間の有効長、および前記一次元高周波電場の周期である。なお、前記分離空間の有効長とは、前記イオン群が前記一次元高周波電場の作用を受ける区間の長さを言うものとする。)。上式は、被測定イオン種のイオンのうち、引き出し方向に標準の運動エネルギーzeUをもつイオンが前記分離空間の前記有効長を1周期間で通過するための条件である。その他のイオンはその前後に前記有効長を通過する。前記イオン群の入射時を上記のように限定すると、1周期間の変位量が最大になり、かつ前記被測定イオン種が端縁場(フリンジ・フィールド)の影響をほとんど受けない利点がある。
また、別の構成として、前記一次元高周波電場は電場の強さが0になる休止期間を一周期の前後に有し、前記被測定イオン種は次の関係
T+T<T<T+T+T
を満たし、前記イオン群は前記一周期の前の前記休止期間において前記分離空間へ導入され、前記被測定イオン種は前記一周期の後の前記休止期間において前記分離空間から出射されるのがよい(ただし、T、T、およびTは、それぞれSI単位で表された、前記被測定イオン種のイオンが前記分離空間の前記有効長を通過するのに要する時間、前記イオン群が導入される時刻から前記一周期の始まりまでの時間、および前記一周期の後の前記休止期間の長さである。)。この場合、前記被測定イオン種のすべてのイオンが前記一次元高周波電場の作用を等しく前記一周期間受けるので、質量電荷比が同じイオン同士ではこの間の変位量は厳密に等しくなる。加えて、上記の条件を満たす前記被測定イオン種は複数が存在し得るので、前記休止期間の長さに応じた質量電荷比範囲の複数の前記被測定イオン種を同時分析することができる。
前記休止期間を有する一次元高周波電場を用いる質量分析装置は、複数個の前記質量分析部が連続して配置され、前記イオン群はまず初段質量分析部で質量分離され、分離された前記被測定イオン種の一部は前記イオン検出部で検出されるが、残りは後続の質量分析部へ導入されてさらに質量分離され、その後方に配置されたイオン検出部で検出される質量分析装置であるのがよい。この場合、前記残りの被測定イオン種は前記休止期間の間に前記質量分析部間を後続側へ移動する。
あるいは、前記休止期間を有する一次元高周波電場を用いる質量分析装置は、前記分離空間が飛行時間型質量分析装置の飛行空間の一部をなすように前記飛行時間型質量分析装置と合体して配置され、前記イオン群はまず前記分離空間に導入されて前記質量分析部で質量分離され、分離された前記被測定イオン種の一部は前記イオン検出部で検出されるが、残りは前記飛行空間における飛行を続け、前記飛行時間型質量分析装置で分析される質量分析装置であるのがよい。
また、本発明の質量分析装置は、
前記質量分析部が、前記一次元高周波電場(以下、y方向高周波電場と呼ぶ。)と周期が実質的に同じで位相が実質的に(1/4)周期異なり、作用する方向が前記イオン群の入射方向に所定の角度で交差し、かつy方向と直交する方向(以下、x方向と呼ぶ。)であるx方向高周波電場を前記分離空間に形成する手段を備え、
前記イオン検出部が、前記出射面上の所定のx方向位置に飛来するイオンを検出する手段を備え、
前記イオン群は前記y方向高周波電場の立ち上がり時またはその直前に前記分離空間に導入され、前記nは1であり、
これとは別のイオン群が前記x方向高周波電場の立ち上がり時またはその直前にパルス的に前記分離空間に導入され、このイオン群中の、所定の質量電荷比を有する被測定イオン種は、前記x方向高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、前記出射面上でのx方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して検出される、質量分析装置であるのがよい。
また、前記一次元高周波電場の波形が矩形波、正弦波(または余弦波)、階段波、台形波、三角波、のこぎり波、またはこれらの一部を改変した波形、あるいは複数のこれらの波形を合成した波形であるのがよい。
また、前記一次元高周波電場の周期を固定し、前記加速電圧を変化させて質量走査を行うのがよい。
また、前記加速電圧を固定し、前記一次元高周波電場の周期を変化させて質量走査を行うのがよい。
また、前記イオン検出部は、前記被測定イオン種とともに、または前記被測定イオン種とは別個に、前記被測定イオン種よりも質量電荷比の大きいイオン種を検出するイオン検出器を有するのがよい。
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
[実施の形態1]
実施の形態1では、請求項1〜3および7〜10に記載した、本発明の質量分析装置の例について説明する。なお、説明は主として通常最も好ましい場合、すなわちn=1で、被測定イオン種が一次元高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて分離空間から出射される場合について行う。説明に必要な場合、一次元高周波電場の例として主として矩形波高周波電場を用いる。また、請求項11に記載した、本発明の質量分離装置についても説明する。
[質量分析装置の概要]
図1は実施の形態1に基づく質量分析装置10の構成を示す概略図である。質量分析装置10はイオン源1、イオン導入部2、質量分析部3、およびイオン検出部4などからなり、少なくとも質量分析部3とその前後のイオンの通路は高真空下にある。
イオン源1は、試料をイオン化する手段、およびパルス状のイオン群を所定の加速電圧で質量分析部へ導入する手段を備える。イオン化の方法はとくに限定されることはなく、質量分析の目的や試料の性状などに応じて、種々の方法が適宜用いられる。具体的には、イオン化法として電子イオン化法、化学イオン化法、電界イオン化法または電界脱離イオン化法、高速原子衝撃イオン化法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法、およびエレクトロスプレーイオン化法などが用いられる。また、イオン源1は、親イオンから衝突誘起解離などによってフラグメントイオンを生成させる衝突室などであってもよい。この場合、質量分析部3は、例えばタンデム質量分析装置における最終段の質量分析部である。パルス化の方法は、試料をパルス的にイオン化する方法でもよいし、試料を連続的にイオン化する一方、イオン群をパルス的に引き出す方法でもよい。イオン群は一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして質量分析部3へ導入される。
イオン導入部2は、イオン群の飛行方向を収束させる手段(静電レンズ17など)、及び/又は所定の方向へ飛行するイオン群を選択して取り出す手段(スリットなどの、細孔を有する遮蔽部材など)を備え、イオン源1および質量分析部3の特性に適合するように構成されている。
質量分析部3は、導入したイオン群を飛行させる分離空間5と、分離空間5に一次元高周波電場を形成する手段とを備える。一次元高周波電場はイオン群の入射方向に交差する方向(後述するy方向)に作用し、各イオンをy方向に変位させ、質量電荷比が互いに異なるイオン種に互いに異なる飛行路を飛行させる。
イオン検出部4は、イオン検出器、出射面9とイオン検出器との間に配置され、所定のy方向位置に飛来するイオンを選択的または半選択的に通過させる遮蔽部材(スリットなど)、およびイオン検出器からの信号を増幅したり記憶したりする信号処理部などからなる。イオン検出部4は、出射面9上でのy方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して被測定イオン種を検出する。このy方向飛来位置は、イオンが分離空間5を飛行する間に生じた変位量に対応する。
質量分析装置10の特徴は、質量分析部として質量分析部3を有し、この質量分析部3に適合するイオン源1、イオン導入部2およびイオン検出部4を有することである。以下、より詳細に説明する。
[質量分析部の構造]
図2は質量分析部3の構造を示す斜視図(A)、および長さ方向に直交する面で質量分析部3を切断した断面形状を示す概略図(B)である。分離空間5は直方体形で、その上下には2つの電極6および7が対向して配置されている。両電極の分離空間5側の主面6aおよび7aは平坦であり、互いに平行に配置されている。典型的には、図2に示したように電極6および7は同じ長さおよび同じ幅を有する長方形の平板電極であり、長さ方向および幅方向において両端の位置が揃うように配置されている。
分離空間5の、長さ方向における2つの端面8および9が、それぞれ、イオンの入射および出射に用いられる。入射面8および出射面9は、一次元高周波電場が形成される分離空間5と、一次元高周波電場が形成されない外部空間との、仮想的な境界面である。実際には、分離空間5と外部空間との境界は面ではなく、境界領域になり、境界領域には端縁場(フリンジ・フィールド)が形成される。後述するように、質量分析装置10では、イオン群を分離空間5に導入するときの一次元高周波電場の位相を適切に選択することにより、被測定イオン種が端縁場の影響をほとんどあるいは全く受けないようにすることができる。端縁場が無視でき、電極6および7が上述した平板電極である場合には、電極6および7のイオン源1側の端面を含む平面が入射面8であり、電極6および7のイオン検出部4側の端面を含む平面が出射面9である。
ここで説明の便宜上、分離空間5におけるイオンの位置を表す直交座標系を次のように定める。すなわち、分離空間5を左右に二等分する面上で、電極7の主面7aに平行な直線をその近傍にとり、これをz軸とする。そしてz軸と入射面8との交点を原点O(0,0,0)とし、原点Oから両電極の主面と直交する方向にy軸をとり、y軸およびz軸と直交する方向にx軸をとる。このように定めると、出射面9は分離空間5の末端におけるx−y面である。また、イオン群の入射方向を示す直線を基準線11と呼ぶことにする。必ずしもこれに限られるものではないが、通常、イオン群は原点Oにおいて入射面8に垂直に分離空間5へ導入される。この場合、基準線11はz軸と一致する。
分離空間5の有効長Lは、イオン群が一次元高周波電場の作用を受ける区間の長さ、すなわち入射位置から出射面9までの基準線11の長さである。垂直入射で、図1に示されているように、イオン導入部2の末端の位置が長さ方向において入射面8の位置と一致するか、またはそれよりもイオン源1側にある場合、有効長Lは入射面8から出射面9までの長さ(分離空間5の長さ)Lである。一方、図示は省略するが、同じく垂直入射で、イオン導入部2の端部が分離空間5に入り込むように配置されている場合には、有効長Lはイオン導入部2の末端から出射面9までの長さである。
[一次元高周波電場中でのイオンの運動]
<一次元高周波電場>
図2(B)に示されているように、電極6および7は高周波電源に電気的に接続され、電極間に高周波電圧Vが印加される。両電極の主面間の距離をLとおくと、このときy方向に次式
=−V/L・・・(1)
で表されるy方向電場Eが形成される。なお、電極7はイオン導入部2の末端と同電位に保たれているものとする。
高周波電場は、1周期の間にイオンが電場から受ける力積が0になる交流電場であって、周期が2ms以下であるものとする。波形は任意であるが、矩形波高周波電場が最も好ましい。矩形波高周波電場を用いる利点として下記の(1)〜(3)が挙げられる。
(1)直流定電圧電源、その出力電圧を電極6および7に印加するための配線とそれを開閉するスイッチ回路、およびスイッチ回路を制御するタイマー回路によって、簡易かつ安価に、小型、軽量の高周波電源を作製することができる。
(2)直流安定化電源の出力電圧をほぼそのままの大きさで電極間に印加することができる。したがって、発振回路などのアナログ回路によって高周波電圧を作り出す高周波電源に比べて、はるかに効率よく、正確で高い電圧を電極間に印加することができる。また、矩形波高周波電場では各半周期を通じて電場の強さが一定値(最大値)に保たれるので、イオンを変位させる効率が最も高い。これらの結果、高周波電圧の大きさの限界によって質量分析装置の性能が制限されることが少ない。
(3)様々な時間間隔をもつ波形を、デジタルタイマー回路によって容易かつ正確に作り出すことができる。このため電場の強さが0になる休止期間を設けることが容易である。また、高周波電場の周期を広い範囲で変化させることができるので、後述する第2の質量走査方法を好適に利用することができる。
図3(A)は、休止期間のない通常の矩形波高周波電場を示すグラフである。矩形波高周波電場の強さをE、周期をTとし、時間軸の原点を電場の立ち上がり時にとり、時刻をtで表すと、この矩形波高周波電場は0≦t<Tでは次式
・0≦t<T/2のとき
=E・・・(2)
・T/2≦t<Tのとき
=−E・・・(2)
で表され、その後はこの繰り返しになる。なお、イオン入射時の矩形波高周波電場の位相は、電場の立ち上がり時から測った入射時の時刻Tiで表すものとする。
<一次元高周波電場中でのイオンの運動>
イオン群は原点Oにおいて分離空間5に導入されるものとし、分離空間5におけるイオンの位置を表す座標を(x,y,z)とする。また、イオンのx、yおよびz方向への速度をそれぞれv、vおよびvとし、入射時の速度をそれぞれvx0、vy0およびvz0とする。イオン群が加速電圧Uによってイオン源1から引き出され、各イオンが運動エネルギーzeUをもつとすると、各イオンの入射時の速度vは次式
v=(2zeU/m)1/2・・・(3)
で与えられる。
イオン群が入射面8に垂直に導入される場合、
x0=0;vy0=0
z0=v=(2zeU/m)1/2・・・(4)
である。分離空間5にx方向の電場は存在しないので、x方向における変位はない。また、z方向にも電場が存在しないので、vはvz0で一定である。したがって、イオン群が分離空間5に入射した時刻をt0とすると、その後、時間t−t0が経過した時刻tにおける各イオン種のz方向位置は、次式
z=(2zeU/m)1/2(t−t0)・・・(5)
で与えられる。式(5)を満たす基準線11上の位置は、仮に一次元高周波電場が作用しないとした場合に各イオン種が占める位置であるので、基準位置と呼ぶことにする。実際にはy方向電場が作用するので、時刻tにおいて各イオン種はそれぞれ基準位置からy方向へ変位し、基準位置において基準線11に直交するy軸上にある。
y方向に一次元高周波電場が形成された分離空間5中でのイオンの変位は、運動方程式
2y/dt2=dv/dt=zeE/m・・・(6)
で表される。以下、y座標上でのイオンの変位について検討する。
なお、イオン群の入射方向は電場の方向と交差すればよく、必ずしもx−y面に直交する必要はない。例えば、直交加速型イオン源を用いる場合には必然的に斜め入射になる。このような場合、入射方向がx方向へ傾くようにイオン群を入射させるのがよい。このようにすると
y0=0
となり、各イオンのy方向位置は垂直入射の場合と同じになるので、y方向変位に関しては斜め入射であることに特別な注意をはらう必要がない。
一方、入射方向がy方向へ傾いている斜め入射の場合、入射方向への慣性運動と一次元高周波電場による変位とがともにy方向成分をもつので、イオンの運動は少し複雑になる。このような斜め入射を利用する例については実施の形態2で図9(B)を用いて説明する。
<一次元高周波電場の作用を1周期間受けた時点の特徴>
特徴(I):
イオンが交流電場から受ける力積は1周期間で0になるので、y方向におけるイオンの変位速度vは、1周期後に初速度にもどる。
=vy0・・・(7)
ここではvy0=0である場合を考えているので、
=dy/dt=0
となり、y方向におけるイオンの変位は停止する。
特徴(II):
一次元高周波電場の作用を1周期間受けた時点でのy方向におけるイオンの変位量をYとおく。一次元高周波電場が矩形波高周波電場である場合、式(2)を式(6)に代入し、vy0=0としてイオン入射後の1周期間において運動方程式(6)を2度積分すると、矩形波高周波電場中でのYを表す式として次式
・0≦Ti≦T/2のとき
Y=zeET(T−4Ti)/4m・・・(8)
・T/2≦Ti≦Tのとき
Y=zeET(4Ti−3T)/4m・・・(8)
が得られる。式(8)には、イオン入射時の矩形波高周波電場の位相TiによってYの大きさが様々に変化することが示されている。これは、見方を変えれば、矩形波高周波電場の位相に同期して一定の位相でイオンが分離空間5に導入されるなら、一定の変位量Yが得られるということでもある。この変位量Yは質量電荷比に反比例する。なお、一次元高周波電場が矩形波高周波電場以外の高周波電場である場合、Yを表す式は変化するが、それ以外の特徴(I)および(II)は同様に成り立つ。
図3(B)は、入射から1周期余(11μs)までの時刻での経過時間t−t0とイオンの変位量yとの関係を示すグラフである。グラフは、vy0=0とし、6段5次のルンゲ・クッタ法で上記運動方程式(6)を数値積分することによって求めた。計算は、一例として、イオンが1価で質量100u(uは統一原子質量単位である。)である場合に、矩形波高周波電場の周期Tを10μs、その強さEを2546Vm−1とした例について行った。なお、後述する運動方程式の数値積分はすべてこれと同じルンゲ・クッタ法によって行った。
図3(B)は、イオン入射時の矩形波高周波電場の位相Tiを種々に変えた例を示している。Tiは−T/8、0、T/8、およびT/4とした(Tiが3T/8≦Ti<7T/8である場合のy値は、Tiが半周期異なる−T/8≦Ti<3T/8である場合のy値の正負を逆にした値になる。実質的な内容は同じであるので、これらの場合については図示を省略した。)。
式(8)および図3(B)によると、Tiが0またはT/2である場合、Yの絶対値が最大になり、最も好ましい。両者はy値の正負が逆になるだけで実質的な内容は同じであるので、以下、Tiが0である場合についてだけ説明する。このとき、式(8)は
Y=zeET/4m・・・(9)
となる。
なお、TiがT/4または3T/4である場合にはYは0になる。これは、矩形波高周波電場の作用による正方向への変位と負方向への変位とが1周期後にちょうど相殺するからである。この関係は実施の形態4で後述する質量分析装置40で利用する。
図3(B)にはまた、特徴(I)として述べたように、1周期が経過した時点において
=dy/dt=0
となること、そしてその前後にイオンの変位速度vがきわめて小さい時間領域が存在することが示されている。
[効果的な質量分析部の構成]
上述したように、分離空間5に導入された各イオンは、一次元高周波電場から受ける力によってy方向において変位する。この変位速度vはイオンの質量電荷比に反比例する。しかも交流電場中でのイオンの変位は静電場中での等加速度運動と異なる。この結果、質量電荷比が互いに異なるイオン種は互いに異なる飛行路を飛行することになり、空間的に分離される(後述する図6参照。)。
この質量分離は、上記変位によって、質量電荷比の違いそのものに基づいて行われる。引き出し方向(z方向)におけるイオンの運動はこの変位に関与しない。したがって、扇形磁場型質量分析部やTOF型質量分析部における質量分離と異なり、イオン群が初期状態でもつばらつきの影響を原理的に受けにくい。
ただし実際には次の不都合が生じる可能性がある。加速電圧Uによって引き出されたイオン群が引き出し方向にもつ運動エネルギーは、zeUを標準とするものの、初期状態のばらつきに対応した広がりをもってその近傍に分布する。したがって、イオンが引き出し方向にもつ速度は、(2zeU/m)1/2を標準とするものの、広がりをもってその近傍に分布する。この結果、質量電荷比が同じイオンであっても、分離空間5の末端に到達するまでの時間(分離空間5に滞在する時間)に広がりが生じる。この滞在時間の広がりによって出射面9上におけるイオンの変位量に広がりが生じると、結果的に初期状態のばらつきによって質量分解能が制限されることになる。
先述した特徴(I)に注目すると、この対策として2つの方法が考えられる。第1の方法は、被測定イオン種が一次元高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けた時点において分離空間5から出射されるようにする方法である。第2の方法は、電場の強さが0になる休止期間を一周期の前後に設ける方法である。以下、一次元高周波電場が正弦波高周波電場である場合を例として第1の方法を説明し、一次元高周波電場が矩形波高周波電場である場合を例として第2の方法を説明する。
<第1の方法>
一次元高周波電場が次式
=Esinωt・・・(10)
で表される正弦波高周波電場であるとする。式中、ωは正弦波高周波電場の角周波数である。式(10)を式(6)に代入し、vy0=0としてイオン入射後の1周期間において運動方程式を2度積分すると、正弦波高周波電場中でのYを表す式として次式
Y=(zeE/2πm)cosωt0・・・(11)
が得られる。
式(11)によると、イオン入射時の電場の位相ωt0が0またはπである場合、Yの絶対値が最大になる。また、位相ずれが生じた場合のY値の変化は最小になる。しかも、イオン入射時に
=Esinωt0=0
であるので、イオン群は電場の強さが0である時点において分離空間5に導入され、被測定イオン種は1周期後の電場の強さが0である時点およびその前後において分離空間5から出射されるので、被測定イオン種が端縁場の影響を受けることはほとんどない。以上から、イオン入射時の正弦波高周波電場の位相は0またはπであるのが最も好ましい。両者はy値の正負が逆になるだけで実質的な内容は同じであるので、以下、位相が0である場合についてのみ説明する。このとき式(11)は
Y=zeE/2πm・・・(12)
となる。
図4は、正弦波高周波電場が作用し始めてから1周期余(11μs)までの時刻における、イオンのz方向位置と変位量yとの関係を示すグラフである。この図は、第1の方法によって滞在時間の広がりによる質量分解能の低下を抑え得ることを、数値計算の結果によって示すグラフである。
図4(A)は、図3(B)に示した例と同じくイオンが1価で質量100uである場合に、正弦波高周波電場の周期Tを10μs、その強さEを4000Vm−1、そして加速電圧Uを100Vとした例について、上記運動方程式を数値積分して得られた結果を示している。曲線A(太線)は、1価で質量100uのイオンAが標準の運動エネルギーzeUでz方向へ飛行する飛行路を示す。曲線A−10およびA+10(細線)は、それぞれ、イオンAが標準に比べて10%小さい運動エネルギーおよび10%大きい運動エネルギーでz方向へ飛行する飛行路を示す。比較のために、質量がイオンAに比べて3%大きい1価のイオンB(質量103u)が標準の運動エネルギーでz方向へ飛行する飛行路B(太線)を同様にして計算し、その結果も示した。
図4(B)は、曲線Aの1周期後の点(z≒138.91mm,y≒61.42mm)を基準点とし、基準点との差ΔzおよびΔyによってz方向位置と変位量yを示すグラフである。なお、ΔzおよびΔyは、それぞれ、図4(A)に比べて2倍および20倍に拡大して示されている。曲線A、A−10およびA+10は入射後の時刻が7.8〜11.3μsである範囲を示し、曲線Bは入射後の時刻が8.3〜11.9μsである範囲を示している。
質量分析部3では、分離しようとするイオン群が同一の運動エネルギーをもって同一方向へ飛行しながら分離空間5に入射することが理想である。しかし、既述したように、イオン群が引き出し方向にもつ運動エネルギーは、zeUを標準とするものの、初期状態のばらつきに対応した広がりをもってその近傍に分布する。曲線A−10およびA+10は、イオンAが標準からはずれた運動エネルギーをもって飛行する飛行路の一例を示している。
イオンが標準の運動エネルギーzeUをもって飛行する場合、イオンのz方向位置は式(5)に示したように(2zeU/m)1/2(t−t0)で与えられる。しかし、運動エネルギーに広がりがあると、入射後に同一の時間t−t0が経過した時点におけるイオンのz方向位置は、同じイオン種であっても同一ではなく、上記z方向位置を標準の位置として、その近傍に分布する。曲線A−10およびA+10の、z方向(図の横方向)における曲線Aからのずれは、それぞれ、この広がりの下限および上限の一例を示している。これを言い換えると、同一のz方向位置に、同じイオン種でありながら、入射後の経過時間が様々に異なるイオンが飛来することになる。この場合、経過時間の違いによって変位量yに広がりが生じる。曲線A−10およびA+10の、y方向(図の縦方向)における曲線Aからのずれは、それぞれ、この広がりの上限および下限の一例を示している。
この広がりの結果、例えば曲線Bが曲線A−10と曲線A+10とで挟まれている領域でイオンBを検出すると、イオンAの一部分がイオンBの主要部分と重なり、分離されない。結果として、イオン群の初期状態のばらつきによって質量分解能が制限される。
しかしながら、図4に示されているように、イオンが分離空間5に入射した後、1周期が経過した時点およびその前後の時間領域では、イオンAの飛行路を示す曲線A、A−10およびA+10のすべてがほぼ1つに重なり、イオンBの標準的な飛行路を示す曲線Bと完全に分離する。このようになるのは、特徴(I)として述べたように、上記時間領域では変位速度vがきわめて小さく、実質的に
dy/dt=0
であるので、経過時間が様々に異なるイオンAが同一のz方向位置に飛来してきても、経過時間の違いによる変位量yの違いがわずかになり、変位量yがYにほぼ揃うからである。
したがって、被測定イオン種のすべてのイオンが上記時間領域内に分離空間5から出射されるならば、出射面9上における被測定イオン種の変位量は滞在時間の広がりの影響を受けにくい。このため、初期状態のばらつきに影響されることが少なく、そうでない場合に比べて高い質量分解能で被測定イオン種が質量分離される。
被測定イオン種のイオンのうち、引き出し方向に標準の運動エネルギーzeUをもつイオンを標準のイオンと呼ぶことにする。また、被測定イオン種のイオンが分離空間5の有効長Lを通過するのに要する時間をTとおき、このうち、標準のイオンのTをTL0とおく。式(3)からTL0は次式
L0=L/v=L(m/2zeU)1/2・・・(13)
で与えられる。標準のイオンが1周期後に分離空間5から出射され、その他の被測定イオン種のイオンがその前後に出射される条件は、
L0=T・・・(14)
である。これを式(13)に代入すると、次式
L(m/2zeU)1/2=T・・・(15)
が得られる。第1の方法では、被測定イオン種の質量電荷比に対して式(15)が満たされるように、加速電圧U、正弦波高周波電場の周期Tおよび分離空間5の有効長Lを選択する。
<第2の方法>
第2の方法では、図3(C)に示すように、電場の強さが0になる休止期間を矩形波高周波電場の一周期の前後に設け、イオン群は休止期間の間に分離空間5に導入され、被測定イオン種は矩形波高周波電場の作用を1周期間受けたのち、一周期後の休止期間の間に分離空間5から出射されるようにする。この場合、イオン群は矩形波高周波電場の作用をその立ち上がり時から受けるので、被測定イオン種の変位量YはTi=0の場合と同じになり、式(9)で与えられる。
図5は、休止期間を有する矩形波高周波電場が作用し始めてから1周期余(11μs)までの時刻における、イオンのz方向位置と変位量yとの関係を示すグラフである。この図は、第2の方法によって滞在時間の広がりによる質量分解能の低下を完全に防止できることを、数値計算の結果によって示すグラフである。
図5は、図4に示した例と同じくイオンが1価で質量100uである場合に、矩形波高周波電場の周期Tを10μs、その強さEを2546Vm−1、そして加速電圧Uを100Vとした例について、運動方程式(6)を数値積分して得られた結果を示している。曲線A、A−10、A+10、およびBについての説明は図4と同じであるので省略する。
図5(B)は、図4(B)と同様、曲線Aの1周期後の点(z≒138.91mm,y≒61.42mm)を基準点とし、基準点との差ΔzおよびΔyによってz方向位置および変位量yを示すグラフであり、ΔzおよびΔyは、それぞれ、図5(A)に比べて2倍および20倍に拡大して示されている。曲線A、A−10およびA+10は入射後の時刻が8.2〜11.3μsである範囲を示し、曲線Bは入射後の時刻が8.6〜11.3μsである範囲を示している。
図5(B)に示されているように、十分な長さの休止期間を設けると、一周期の後、休止期間の間にイオンAの飛行路を示す曲線A、A−10およびA+10のすべてが完全に重なり、イオンBの標準的な飛行路を示す曲線Bと完全に分離する。しかもこの重なりは休止期間の最後まで続く。このようになる原因は2つある。1つは、イオンAが矩形波高周波電場の作用を1周期間受ける限り、この間の変位量Yは式(9)で与えられ、すべてのイオンAで同じになることである。他の1つは、イオンAが分離空間5中に滞在する時間に広がりがあっても、それは休止期間において分離空間5に滞在する時間の長短を生ずるに過ぎないことである。1周期が経過した時点でy方向における変位は停止し、休止期間中はその停止状態が保たれるので、休止期間における滞在時間の長短がy方向における変位量の広がりを生じさせることはない。
したがって、イオン群の初期状態のばらつきが大きく、引き出し方向における被測定イオン種の速度に大きな広がりがある場合でも、それに対応する十分な長さの休止期間を設けるだけで、それによって変位量の広がりが生じるのを完全に防止することができる。これは、TOF型質量分析部および磁場型質量分析部では、高い質量分解能を実現するのに大きな加速電圧が必要になり、さらに質量分解能を向上させるには、リフレクトロンTOF型質量分析部や二重収束質量分析部などの特別な仕組みが必要になることと比較すると、特筆に値する。
加えて、イオン群が休止期間の間に分離空間5に導入され、被測定イオン種が休止期間の間に分離空間5から出射されるので、被測定イオン種が端縁場の影響を受けることがない。また、被測定イオン種は出射されたのち基準線に平行に飛行するので、スリットやイオン検出器を配置するz方向位置の自由度が著しく増加する。
<第1の方法と第2の方法との比較>
第1および第2の方法によれば、初期状態のばらつきに影響されることが少なく、高い質量分解能を実現するために加速電圧を大きくする必要が小さい。この結果、装置の大型化を招くことが少ない。ただし、図4(B)に示されているように、第1の方法では曲線A、A−10およびA+10が完全に1点に重なることはなく、これが質量分解能を制限する。また、一次元高周波電場が矩形波高周波電場である場合、正弦波高周波電場の場合ほど第1の方法は効果的ではない。この原因は、矩形波高周波電場では電場の強さが立ち上がりおよび立ち下がりで瞬間的に変化し、電場の強さが0近傍にある時間領域が存在しないことにある。
そこで、これから先は一次元高周波電場が矩形波高周波電場であり、第2の方法を用いる場合だけを説明する。なお、矩形波以外の一次元高周波電場、例えば正弦波高周波電場を用いる場合でも、休止期間を設けることによって同様の効果を得ることができる。しかし、それを実現する回路は複雑になるので、休止期間を設ける一次元高周波電場としては矩形波高周波電場が最も好ましい。
[被測定イオン種が満たすべき条件]
第1の方法の説明で述べたように、被測定イオン種のイオンが分離空間5の有効長Lを通過するのに要する時間をTとおき、そのうち、標準のイオンのTをTL0とおく。休止期間の間に導入されたこれらのイオンが、1周期後の休止期間の間に分離空間5から出射される条件は、図3(C)から次の関係
+T<T<T+T+T・・・(16)
が満たされることである。式中、Tはイオン群が導入される時刻から一周期の始まりまでの時間であり、Tは一周期後の休止期間の長さである。なお、本明細書では周期Tに休止期間の長さは含めないものとする。
初期状態のばらつきによってTに±Tの広がりが生じるとすると、式(16)は
+T+T<TL0<T+T−T+T・・・(17)
となる。上式に式(13)を代入すると、次式
+T+T<L(m/2zeU)1/2<T+T+T−T・・・(18)
が得られる。
イオン群パルスの持続時間をTとおく。イオン化がパルス的に行われる場合、通常、Tは短い。TがTに比べて無視できる場合には、Tに時間幅はないとみなせるので、式(17)からTは2Tより長ければよい。これに対し、イオン化が連続的に行われる場合などであって、イオン群がTに比して無視できない長さのパルスとして導入される場合には、TにTと同じ時間幅が生じる。この場合、Tは(T+2T)より長いことが必要になる。
原理的にはTは任意の長さであってよい。しかし、Tが長くなるとそれに応じてLを長くする必要が生じるので、Tの長さには実用上の限界がある。一方、Tが短いと、1回のイオン群パルスで導入できるイオン量が少なくなる。このためTは両者を勘案して適宜定める必要がある。
はイオン群パルスの終端で0より大きいことが必要であるが、これ以外に制限はない。Tをこれより少し大きめにしておけば、イオン群が導入される時刻にずれが生じてもこの増加分の範囲内であれば不都合が生じない利点がある。しかし、Tが大きくなるとそれに応じてLを長くする必要が生じる。
質量分析装置を無駄に大型化させず、時間的にも効率よく動作させるには、TおよびTは必要最小限の長さであるのがよい。すなわちTおよびT
≒0〜T・・・(19)
≒T+2T・・・(20)
を満たし、右辺よりわずかに大きいのがよい。このとき、イオン群パルスの先端で導入された被測定イオンのうち、滞在時間が最も短いイオンが休止期間の開始直後に分離空間5から出射される条件と、イオン群パルスの終端で導入された被測定イオンのうち、滞在時間が最も長いイオンが休止期間の終了直前に分離空間5から出射される条件とはほぼ同じになる。この条件は、TL0
L0=L(m/2zeU)1/2≒T+T+T・・・(21)
を満たし、最右辺の(T+T+T)よりわずかに大きいことである。
第2の方法では、被測定イオン種の質量電荷比に対して式(18)、より具体的には例えば式(21)が満たされるように、加速電圧U、一次元高周波電場の周期Tおよび分離空間5の有効長Lを選択する。式(18)を満たすLは、UおよびTが同じであれば、Tに(T+T)が加算されている分だけ、式(15)を満たすLよりも長くなる。また、式(18)を満たすUは、LおよびTが同じであれば、式(15)を満たすUよりも小さくなる。
[被測定イオン種が検出される条件]
イオン検出部4は、基準線11と出射面9との交点(0,0)から出射面上でy方向へ距離Cだけ離れた位置に飛来するイオンを検出するように構成される(後述する[イオン検出部]の項も参照。)。一方、被測定イオン種は、一次元高周波電場の作用を1周期間受けたのち、出射面上に飛来する。高周波電場はこの1周期の間に被測定イオン種をy方向へ距離Yだけ変位させる。したがって
C=Y・・・(22)
とすれば、イオン検出部4は、出射面上に飛来するイオンのy方向位置に基づいて他のイオン種と区別して、被測定イオン種を検出することができる。一次元高周波電場が矩形波高周波電場である場合、式(22)と式(9)から次式
C=zeET/4m・・・(23)
が得られる。質量分析装置10では、被測定イオン種の質量電荷比に対して式(23)が満たされるように、矩形波高周波電場の周期Tおよび強さEを選択する。Tが同じであれば、式(23)を満たすEは被測定イオン種の質量電荷比に比例する。
これまで、n=1で、被測定イオン種が一次元高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けた時点で分離空間5から出射される場合について説明してきた。しかし、mは2以上の自然数であるとして、イオンが高周波電場の作用をm周期間受けた時点t=t0+mTにおいても、先述した(I)および(II)の特徴が満たされる。したがって、質量分析装置10において、高周波電場の周期を1/mに短くして、被測定イオン種が高周波電場の作用をm周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けた時点で分離空間5から出射されるようにしても、n=1の場合と同様の効果が得られる。しかしながら、例えばn=2で、周期Tが高周波電場中での滞在時間の半分である場合、1周期間に生じるイオンの変位量は、n=1である場合の1/4になる(式(9)参照。)。この結果、高周波電場中での滞在時間が同じであれば、その間に生じる変位量はn=1である場合の1/2になる。このように、一定の滞在時間中に生じる変位量はn=1である場合に最大になる。したがって何らかの理由がない限り、n=1とするのがよい。
[質量走査]
質量走査では、質量電荷比が異なる複数のイオン種を時系列的に被測定イオン種として検出する。質量走査には、所定の質量電荷比の範囲を連続的に走査して、その範囲内にあるすべてのイオン種を質量電荷比の順に検出して質量スペクトルを得る通常走査と、質量電荷比が異なるいくつかのイオン種を次々に切り換えて選択的に検出する選択(切り換え)走査とがある。選択走査では、特定の質量電荷比を有するいくつかのイオン種のイオン量を、短時間のうちに繰り返し測定することができる。
質量分析装置10では、質量走査時に分離空間5の有効長Lは固定されているので、与えられたLにおいて、被測定イオン種の質量電荷比の変化に対し式(16)または(18)、より具体的には例えば式(21)が満たされるように、加速電圧Uまたは矩形波高周波電場の周期Tを変化させる。また、これら2つの質量走査方法を組み合わせることにより、単独で走査する場合よりも広い質量電荷比範囲を走査することもできる。
<第1の質量走査方法>
第1の質量走査方法では、周期Tを固定し、走査する各被測定イオン種の質量電荷比に応じて加速電圧Uを変化させ、各被測定イオン種が順次式(16)または(18)を満たすようにする。より具体的には、例えば各被測定イオン種の質量電荷比に比例するようにUを変化させ、各被測定イオン種のTL0が順次所定の一定値になるように走査する。このようにすると、始め式(21)が満たされており、その後Tの大きな増加がなければ、走査中も各被測定イオン種が順次式(21)を自動的に満たしていくことになり、装置の運用が簡易になる。
通常走査ではふつう1つのイオン検出器で複数のイオン種を時系列的に検出するので、距離Cは一定である。この場合、矩形波高周波電場の強さEも質量電荷比に比例するように変化させ、走査の進行につれて各被測定イオン種が順次式(23)を満たすようにする。
上述した質量走査方法では、UおよびEと質量電荷比とが比例するので、質量スペクトルのピーク位置から被測定イオン種の質量電荷比を決定することが容易である。走査する質量電荷比の範囲が広く、単一のTで連続して走査するとUやEの一部が過小または過大になる場合には、質量電荷比範囲を複数の領域に分割し、質量電荷比が小さい領域は短いTに固定して走査し、質量電荷比が大きい領域は長いTに固定して走査する。
選択走査でも、1つのイオン検出器で複数のイオン種を時系列的に検出する場合には、通常走査と同様、選択する被測定イオン種の質量電荷比に比例するようにUおよびEを変化させる。一方、異なるy方向位置に飛来するイオンをそれぞれ検出できるように複数個のイオン検出器を設けておき、複数種の被測定イオン種をそれぞれに対応する個別の検出器で検出する場合には、Eは固定し、Uだけを変化させればよい。いずれの場合でも、被測定イオン種は1周期間で分離空間5を飛行し終わり、かつその他のイオンとは変位量の違いによって区別されるので、1つのイオン種から別のイオン種への被測定イオン種の切り換えは、矩形波高周波電場の1周期間、例えば10μs程度で完了する。したがって複数のイオン種のイオン量を短時間のうちに繰り返し測定することができる。
<第2の質量走査方法>
第2の質量走査方法では、Uを固定し、走査する各被測定イオン種の質量電荷比に応じてTを変化させ、式(16)を満たす各イオン種を順次被測定イオン種として検出する。より具体的には、例えば周期の二乗Tが各被測定イオン種の質量電荷比に比例するように、Tを変化させる。この場合、Uが固定されているので、各イオン種のTL0は変化しない。その上でTを変えていくと、各Tごとに式(17)を満たすTL0が変化していくので、該当するTL0をもつ各イオン種が式(18)を満たす被測定イオン種として順次検出される。
通常、1つのイオン検出器で複数のイオン種を時系列的に検出するので、Eも固定する。走査する質量電荷比の範囲が広く、単一のUおよびEで連続して走査するとTの一部が過小または過大になる場合には、質量電荷比範囲を複数の領域に分割し、質量電荷比が小さい領域は小さなUおよびEに固定して走査し、質量電荷比が大きい領域は大きなUおよびEに固定して走査する。これらは通常走査でも選択走査でも同じである。
この際、下記の理由から、休止期間の長さTをTに比例するように変化させるのがよい。先述したように、分離空間5の有効長LはTの分だけ長くする必要があるが、この増加割合はTに対するTの比T/Tによってほぼ決まる。したがって有効長Lを最も効率よく利用するには、T/Tを最適な一定値に保てるように、TをTに比例させるのがよい。また、TはTL0ひいてはTにほぼ比例すると考えられる。したがってTが式(20)の関係を満たすものとすると、TをTに比例させるのが自然である。このようにすると、始め式(21)が満たされていれば、走査中も各被測定イオン種が順次式(21)を自動的に満たしていくことになり、装置の運用が簡易になる。
<質量走査の例>
図6は質量分析装置10における各イオン種の飛行路を示すグラフ(A)、および第1の質量走査方法で走査した場合のその変化を示すグラフ(B)である。図6は、イオン種が1価で質量50u、100u、200uおよび400uであり、矩形波高周波電場の周期Tが10μsである例について、運動方程式(6)を数値積分して得られた結果を示している。図示した飛行路は標準の運動エネルギーzeUでz方向へ飛行するイオンの飛行路であり、高周波電場の作用を受けている間は太線で示し、休止期間の間は細線で示した。ここで、TPおよびTは必要最小限の長さとし、分離空間5の有効長Lは、被測定イオン種のすべてが分離空間5内に少なくとも1周期間滞在するように、初期状態のばらつきを考慮して、上記T、被測定イオン種のm、および後述のUを式(15)に代入して求まる長さ138.9mmよりやや長い長さとする。イオン検出部4は、基準線11と出射面9との交点(0,0)から出射面9上でy方向へ距離C=61.42mmだけ離れた位置に飛来するイオンを検出するように構成されているものとする。
図6(A)は、加速電圧Uを100V、矩形波高周波電場の強さEを2546Vm−1とした場合の飛行路を示す。この場合、式(5)から、質量100uのイオン種は1周期の間にz方向へ標準で138.9mm飛行する。その後、このイオン種は休止期間の間にz方向へわずかに飛行して、出射面9に到達する。すなわち、質量100uのイオン種は高周波電場の作用を1周期間受けたのち、休止期間の間に被測定イオン種として分離空間5から出射される。このとき、このイオン種の変位量Yは61.42mmになっており、Cに等しい。これに対し、質量が100u未満、例えば50uであるイオン種は、1周期より早く出射面9に達し、そのときの変位量yはCより大きい(あるいは、変位量yが大き過ぎて電極に衝突してしまい、出射面9に到達しない。)。また、質量が100u超、例えば200uあるいは400uであるイオン種は、高周波電場の作用を1周期より長く受けた後に出射面9に到着し、そのときの変位量yはCより小さい。したがって質量100uの被測定イオン種だけがイオン検出部4によって検出される。なお、質量200uのイオン種の1周期後の変位量YはC/2である。また、質量400uのイオン種は分離空間5を通過するのに20μs(2周期)余を要し、出射面9における変位量はC/2である。
一方、図6(B)は、Uを200Vとし、Eを5092Vm−1とした場合の飛行路を示す。この場合、Uが2倍になっているので、図6(A)の飛行路と比べるとz方向の速度はどのイオン種も21/2倍になり(式(4)参照。)、より速く出射面9に到達する。この結果、質量100uのイオン種は高周波電場の作用を1周期間受ける前に分離空間5から出射される。このイオン種に代わって、質量が2倍でz方向の速度が(1/2)1/2倍である質量200uのイオン種が、高周波電場の作用を1周期間受けたのち、休止期間の間に被測定イオン種として分離空間5から出射される。一方、Eが2倍になっているので、1周期の間に起こる変位量Yは2倍になる(式(9)参照。)。この結果、質量200uのイオン種の変位量YはCと等しくなる。これに対し、質量100uのイオン種が出射面9に達するときの変位量yはCより大きく、質量400uのイオン種が出射面9に達するときの変位量yはCより小さい。したがって質量200uの被測定イオン種だけがイオン検出部4によって検出される。
図6(A)と図6(B)とを比べると、図6(A)における質量100uのイオンの飛行路と、図6(B)における質量200uのイオンの飛行路とが、同形であることがわかる。これは走査方法のいかんにかかわらず成り立ち、質量分析装置10では、LとCが同じであれば、被測定イオン種は常に同じ形の飛行路を飛行して検出される。
[イオン源およびイオン導入部]
イオン源1は、通常のイオン源であってもよいし、直交加速型イオン源であってもよい。イオン源1が直交加速型イオン源である場合、出射面9上に飛来するイオンの位置は直線状にのびるが、この方向をx方向にとれば、y方向における質量分解能を損なうことなく、直交加速型イオン源を利用することができる。直交加速型イオン源を用いると、試料のイオン化が時間に関して連続的に行われるイオン源において、断続する引き出し期間の間に生成するイオン群の一部も利用できるので、イオン利用率が向上する。なお、イオン利用率とは、イオン源において生成された被測定イオン種のイオンのうち、イオン検出器で検出されるイオンの割合を言うものとする。
イオン導入部2は、静電レンズ17などの収束手段を備えている。質量分析装置10では、質量分析部3で空間的に分離されたイオン種が、出射面9上への飛来位置に基づきイオン検出部4において選別される。したがって静電レンズ17は、被測定イオン種の収束性がイオン検出部4において最良になるように構成されているのがよい。静電レンズ17が高性能であるほどイオン透過率が高くなり、かつ質量分解能も向上するので、静電レンズ17は質量分析装置10にとって極めて重要な部材である。
図1ではイオン源1の後流側にイオン導入部2が配置されている例を示したが、両者の配置はこれに限られるものではない。イオン源1とイオン導入部2との区別は概念的、機能的なものであって、配置上の区分ではない。実際、両者は一体化して配置されることも多い。例えば、直交加速型イオン源に静電レンズを組み込んで、直交引き出し前のイオンの流れに収束性をもたせる場合などはこれにあたる。
[イオン検出部]
図7(A−1)はイオン検出部4の例を示す概略図である。このイオン検出部にはイオン検出器13、および出射面9とイオン検出器13との間に配置されたスリット12が設けられている。スリット12は被測定イオン種を選択的に通過させる遮蔽部材の例であり、上側スリット12aと下側スリット12bの間隙の大きさが変更可能である。間隙の中心は基準線11からy方向へCだけ離れた位置にある。間隙の大きさは、要求される質量分解能などに応じて選択されるが、例えば0.05〜0.5mm程度である。質量分析装置10は、スリット12を用いることによって、質量分解能を比較的低く抑え、被測定イオン種の透過率を優先する高感度測定にも、被測定イオン種の透過率は低下するものの、高い質量分解能が得られる高分解能測定にも対応することができる。
イオン検出器13は、スリット12を通過して飛来するイオンを検出できるものであればよく、イオン検出部4の構成に応じて適切なものを選択すればよい。イオン群がy軸上にのみ飛来する場合には、イオン検出器13としてイオン検出領域の幅の狭いイオン検出器を用いることができる。例えば、開口部の小さい二次電子増倍管、チャンネル電子増倍管、およびファラデーカップなどである。一方、x方向に広がりのあるイオン群が飛来する場合には、イオン検出領域の幅がその広がりに対応している必要がある。したがってイオン検出器13として、適切な大きさの開口部を有する二次電子増倍管、チャンネル電子増倍管、マイクロチャンネルプレート、およびファラデーカップなどを用いる。いずれの場合でも、検出感度を安定させるためなどの目的で、ポストアクセラレーション検出器やコンバージョンダイノードを用いることもできる。
図7(A−2)は、上記のイオン検出部を用いて第1の質量走査方法で走査する場合に得られる質量スペクトルの概念図である。この場合、加速電圧Uおよび矩形波高周波電場の強さEの増加に比例して、質量電荷比が小さいイオン種から順に被測定イオン種が走査され、各イオン種の存在量に応じた検出イオン量のピークが観察される。この際、UおよびEと質量電荷比とが比例するので、質量スペクトルのピーク位置から被測定イオン種の質量電荷比を決定することが容易である。
図7(B−1)はイオン検出部4の別の例を示す概略図である。このイオン検出部にはイオン検出器15、および出射面9とイオン検出器15との間に配置された遮蔽板14が設けられている。遮蔽板14は被測定イオン種を半選択的に通過させる遮蔽部材の例であり、被測定イオン種より質量電荷比が小さいイオン種は通過させないが、被測定イオン種およびそれより質量電荷比が大きいイオン種は通過させる。
図7(B−2)は、このイオン検出部を用いて第1の質量走査方法で質量走査する場合に得られる質量スペクトルの概念図である。この場合、UおよびEが小さい間は、イオン源1から出射されるすべてのイオン種が遮蔽板14を通過してイオン検出器15で検出される。その後、UおよびEを増大させていくと、質量電荷比の小さいイオン種から順に遮蔽板14によって通過を阻止され、イオン検出器15で検出されるイオン種群から除かれていく。この結果、図7(B−2)に示す階段状のスペクトルが得られる。この階段状のスペクトルにおいて検出イオン量が急減している位置が、通常の質量スペクトルにおいて検出イオン量のピークが観察される位置である。
このイオン検出部には下記の特徴がある。
(1)イオン源1から出射される全イオン種、または被測定イオン種およびそれより質量電荷比が大きいイオン種のイオン量を測定しているので、高質量イオンの見落としがなく、質量走査を打ち切る判定が容易かつ正確である。
(2)所定の被測定イオン種のイオン量は、その被測定イオン種の検出位置の前後における検出イオン量の差として直読できる。通常の質量スペクトルでこのイオン量を求めるには、そのイオン種のピークを積分してピーク面積を算出する必要がある。本方法はこれに比べて簡易かつ正確であり、データ処理システムを簡略化できる。
(3)通常の質量スペクトルが必要であれば、階段状のスペクトルを微分すればよい。スペクトルの微分は積分に比べて容易である。
イオン検出器15は、遮蔽板14を通過して飛来するイオンを検出できるものであればよく、イオン検出部4の構成に応じて適切なものを選択すればよい。ただし、上記の特徴が十分発揮されるためには、イオン検出器15が高い線形性、すなわち広範囲のイオン量に対してイオン量に比例した出力信号を出力する性能を有することが望ましい。また、イオンの飛来位置が線上または帯状に長いので、この領域に飛来するイオンをそのまま検出するのであれば、イオン検出器15は飛来位置に対応した長いイオン検出領域をもつ二次電子増倍管、チャンネル電子増倍管、マイクロチャンネルプレート、およびファラデーカップなどである必要がある。また、イオンを静電場などで収束させてから検出するのであれば、よりイオン検出領域の狭いこれらの検出器を用いることもできる。
図7(C)はイオン検出部4のさらに別の例を示す概略図である。このイオン検出部ではスリット12およびイオン検出器13に遮蔽板14およびイオン検出器16が追加されている。図7(C)にはz方向におけるこれらの配置が示されている。
前述したように、スリット12およびイオン検出器13は、高感度測定にも高分解能測定にも対応して被測定イオン種を検出する。一方、被測定イオン種より質量電荷比が大きいイオン種の大部分は、イオン検出器16によって検出される。このイオン検出部を用いて第1の質量走査方法で走査した場合、イオン検出器13から図7(A−2)に示した質量スペクトルが得られるとともに、イオン検出器16から図7(B−2)に示したものとほぼ同じ質量スペクトルが得られる。
したがって、このイオン検出部を用いると、イオン源1から出射される全イオン量、または被測定イオン種より質量電荷比が大きいイオン種のほぼ全量を常にモニタしながら走査できるので、高質量イオン種の見落としがなく、走査を打ち切る判定が容易かつ正確になる。しかも、イオン検出器13として感度の高いイオン検出器を用いることができるので、被測定イオン種を高感度で測定することができる。これに対し、図7(B−1)に示した構成では、イオン検出器がイオン検出器15だけであるので、被測定イオン種の高感度測定と、多くのイオン種のイオン量の測定とを両立させることが難しいことがある。
イオン検出器16はイオン検出器15と同様のものであればよい。ただし、単なるモニタとして用いるのであれば、イオン検出器16がイオン検出器15ほど高い線形性を有する必要はないので、その選択肢は広くなる。イオン検出器15とは異なるイオン検出器16の用い方として、マイクロチャンネルプレートに陽極をパターニングして設け、検出面をy方向位置の異なる複数の領域に分割し、各領域を個別に測定することもできる。このようにすると、被測定イオン種より質量電荷比の大きいイオン種のイオン量をy方向位置と関連づけて測定することができ、これらの存在量ばかりでなく、質量電荷比の範囲についても情報を得ることができる。
[複数種の被測定イオン種の同時分析]
式(18)の条件を満たす被測定イオン種は複数種存在し得るので、休止期間を有する矩形波高周波電場を用いる場合、休止期間の長さTに対応する質量電荷比範囲の複数種の被測定イオン種を同時分析することができる。
図8(A)は、1価で質量が100〜400uである被測定イオン種を同時分析する際に用いる矩形波高周波電場の例を示すグラフである。イオン群は高周波電場が立ち上がる直前に分離空間5に導入される。イオン入射の時期は休止期間中であればいつでもよいが、直前に入射すれば、分離空間5の有効長Lを最も効率よく利用でき、かつ1回の分析に要する時間を無駄に長引かせることがない。同様の理由から、1周期後の休止期間では、その開始後ほどなく質量100uの被測定イオン種が分離空間5から出射される。
休止期間の長さTは、休止期間の終了までに質量400uの被測定イオン種が分離空間5から出射されるように設定する。具体的には、質量400uの被測定イオン種が分離空間5を通過するのに、質量100uの被測定イオン種が要する時間に比べて余分に要する時間(10μs余)以上の長さにする。一般に、T0をTより少し長くとると、質量電荷比が4倍までの範囲のイオン種を同時分析することができる。
図8(B)は、上記矩形波高周波電場を用いて複数種の被測定イオン種を同時分析する場合の各イオン種の飛行路を示すグラフである。図8(B)は、イオン種が1価で質量50u、100u、200uおよび400uであり、Uが100V、Tが10μs、高周波電場の強さEが2546Vm−1である例について、運動方程式(6)を数値積分して得られた結果を示している。図示した飛行路は標準の運動エネルギーzeUでz方向へ飛行するイオンの飛行路であり、高周波電場の作用を受けている間は太線で示し、休止期間の間は細線で示した。Lは図6に示した例と同じ長さとし、イオン検出部4は、基準線11と出射面9との交点(0,0)から出射面9上でy方向へ距離C/4〜C(C=61.42mm)だけ離れた位置に飛来するイオンを検出するように構成されているとする。
質量が100u以下のイオン種の飛行路は、図6(A)に示した飛行路と同じである。質量100uの被測定イオン種の変位量YはCに等しい。質量が100u超、例えば200uあるいは400uである被測定イオン種は、入射後、高周波電場の作用を1周期間受け、この間にy方向へそれぞれYだけ変位する。各イオン種の変位量Yは質量電荷比に反比例する(式(9)参照。)ので、それぞれC/2およびC/4である。その後、これらの被測定イオン種は休止期間の間に比較的長い距離を基準線11に平行に飛行して、出射面9に到達する。なお、図示は省略したが、質量が400u超のイオン種は、高周波電場の作用を1周期より長く受けた後に出射面9に到着し、そのときの変位量yはC/4より小さい。
このようにして1価で質量が100〜400uのイオン種がイオン検出部4によって検出され、被測定イオンとして同時分析される。図8(B)を図6(A)と比べると、十分な長さの休止期間を設けることによって1周期の後の有害無益な変位がなくなり、被測定イオン種の同時分析が可能になることがわかる。
上述した例は一例であり、同時分析するイオン種の質量電荷比の上限は、休止期間Tを長くとることによって、原理的にはいくらでも大きくすることができる。また、下限は、加速電圧Uを小さくするか、あるいは周期Tを短くすることによって、原理的にはいくらでも小さくすることができる。したがって、上記の質量分析装置10によれば、原理的には、TOF型質量分析装置と同様、1回のパルス状イオン群の導入でほぼ完全な質量スペクトルを得ることができる。これは、単発現象または発現頻度の少ない現象の分析や、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法などのパルス的なイオン化法を用いる場合などに特に有効である。しかも、測定する質量電荷比の下限および上限は自在に設定できるので、不必要な質量電荷比の領域を測定することが少なく、1回の分析に要する時間を無駄に長引かせることが少ない。これはTOF型質量分析装置では得られない特徴である。
また、同時分析が可能である場合には、試料の組成が高速に変化する系に対しても、複数のイオン種間のイオン量の関係を正しく追跡することができ、正確で豊富な情報を得ることができる。また、検出されずに失われるイオンが減少するので、イオン利用率が向上する。ただし、質量分析装置10では質量分解能は変位量に比例するので、被測定イオン種の質量電荷比に反比例して低下する。
同時分析を行う場合、複数種の被測定イオン種を同時に検出するイオン検出器として、線状または帯状のイオン検出領域をもち、飛来位置ごとにイオン量を個別に測定できるイオン検出器、例えば、フォーカルプレーン検出器(アレイ検出器)やマイクロチャンネルプレートなどを用いることができる。この際、イオン検出面がy軸に対して傾斜するようにイオン検出器を配置することによって、イオン検出面における位置分解能を向上させることもできる。
フォーカルプレーン検出器は、例えば、イオンがマイクロチャンネルプレートで検出されて増幅され、この結果プレートの裏面から出射される電子群が裏面側に配置された蛍光板によって光子群に変換され、この光子群がフォトダイオードアレイまたはCCD(Charge Coupled Device)検出器によって検出されるように構成されている。光子への変換を行わない場合には、マイクロチャンネルプレートに陽極をパターニングして設け、検出面を基準線11からのy方向距離に応じて複数の領域に分割し、各領域から個別に信号を取り出すことによって、イオン量を個別に計測することもできる。
[質量分析装置の設計]
イオンの質量の変化m→m+Δm(Δm>0)によって変位量の変化Y→Y−ΔY(ΔY>0)が生じるとすると、式(9)から
Y−ΔY=zeET/4(m+Δm)
≒Y(1−Δm/m)
であり、次式
Δm/m≒ΔY/Y・・・(24)
が得られる(厳密には、滞在時間の増加によるΔYの減少も生じるが、これは2次以上の微小項になるので、無視できるとした。)。
式(24)は、ΔYの違いを識別できない場合、Δmの質量の違いを識別できないことを意味する。したがってΔYを位置分解能、すなわちイオン検出部4において隣り合って飛来してくるイオンを区別して検出することのできる最小の距離であるとすると、式(24)は質量分析装置10の質量分解能を与える式であると考えられる。位置分解能はイオン検出部4におけるイオン群の広がり(イオンビーム径)、スリットの間隙幅、およびイオン検出器の検出面の構造などによって決まる。
質量分析装置10の設計は例えば下記の順で行うのがよい。
(1)要求される質量分解能m/Δmと実現可能なイオン検出部4の位置分解能ΔYとから、式(24)を用いて、被測定イオン種に生じさせる変位量Yを定める。
(2)変位量Y、被測定イオン種の質量電荷比、および実現可能な高周波電場の強さEから、式(9)を用いて高周波電場の周期Tを定める。
(3)周期Tと被測定イオン種の質量電荷比とから、式(18)を用いて分離空間5の有効長Lおよび加速電圧Uを定める。
質量分析装置10では設計時または使用時に調整できるパラメータが多く、しかも、周期Tを介して関連し合っているものの、変位量Yおよび高周波電場の強さEと、分離空間5の有効長Lおよび加速電圧Uとは半ば独立している。したがって使用目的や使用環境などに応じて各パラメータを適宜選択し、その組み合わせとして質量分析装置10の最適な構成や動作を実現することが容易である。
<設計例1>
要求される質量分解能m/Δmが300であり、位置分解能ΔYが0.2mmであるとする。この場合、式(24)から、おおよそ
Y=60.0mm
であることが必要である。
次に、1価で質量1〜200uの被測定イオン種を第1の質量走査方法で走査でき、かつ矩形波高周波電場の強さEが大きくなり過ぎない条件を考えると、高周波電場の周期Tとしては、例えば
T=10μs
程度であるのがよい。この場合、被測定イオン種に上記の変位量Yを生じさせるためには、式(9)から
E≒24.9〜4970Vm−1
が必要である(上記のEの範囲は、被測定イオン種の質量の範囲1〜200uに対応する。以下、同様。)。ここで電極間距離Lが100mmであるとすると、高周波電源の電圧Vとして
≒2.49〜497V
が必要である。
一方、分離空間5の有効長Lおよび加速電圧Uとしては、質量分析装置10が小型、軽量であることを重視すると、例えば
U=1〜200V
程度であるのがよい。Lは式(18)を満たすように選択する。このLは、同じT、m、およびUに対し式(15)を満たすLの長さ139mmより、(TP+TE)の分だけ長くする。
上述した条件は容易に満たすことができるので、質量分析装置10によれば、小型、軽量で、安価な普及型質量分析装置を容易に実現することができる。このような質量分析装置は、例えばガス分析計などとして有用である。
また、上記の質量分析装置10は高分子量物質の初歩的な分析にも適している。例えば、加速電圧Uを200V、高周波電場の周期Tを50μs、その強さEを4970Vm−1として、1価で質量5000uの被測定イオン種を分析すると、その1周期後の変位量Yは式(9)から
Y≒60.0mm
となる。この場合、質量分解能は先述した例と同じく300になり、被測定イオン種の質量は5000u±17uの範囲にあることが確定する。例えば高分子量物質のおおまかな重合度を求める目的には、この程度のデータで十分である。このような有用なデータが上述した簡易な質量分析装置10から得られることは注目に値する。
従来、この分野の質量分析装置としては、四重極型質量分析装置が多く用いられてきた。既述したように、四重極型質量分析部には、質量電荷比の大きいイオンの透過率が低く、質量電荷比が上限を超えるイオンは検出できない短所があり、高質量イオンの見落としがあるのではないかという懸念がある。
これに対し、質量分析装置10では、原理上、測定できる質量電荷比の範囲に限界がない。質量分解能は質量電荷比の大きいイオン種に対して各イオン種を分離できるほど十分ではないかもしれないが、そのような場合でも、得られる質量電荷比の確度は高いので、そのイオン種が何であるか、十分な見当をつけることができる。とくに図7(B)または(C)に示したイオン検出器15または16を有する質量分析装置10では、全イオン種または被測定イオン種より質量電荷比の大きいイオン種の存在量をつねに把握しているので、高質量イオンの見落としがない。
また、質量分析装置10では、特定の質量電荷比を有する複数のイオン種のイオン量を、選択走査によって短時間の間に繰り返し測定することができる。したがって、イオン源1におけるイオン化条件が変動したとしても、内部標準とするイオン種のイオン量に基づいて較正することによって、短い走査時間の間に起こる変動以外の変動は補正され、定量の正確性が損なわれにくい。また、高速化学反応系など、試料の組成が高速で変化する系に対しても、複数のイオン種間のイオン量の関係を正しく追跡することができる。
<設計例2>
要求される質量分解能m/Δmが2500であり、位置分解能ΔYが0.1mmであるとする。この場合、式(24)から、おおよそ
Y=250.0mm
であることが必要である。
次に、1価で質量25〜1250uの被測定イオン種を第1の質量走査方法で走査でき、かつ矩形波高周波電場の強さEが大きくなり過ぎない条件を考えると、高周波電場の周期Tとしては、例えば
T=25μs
程度であるのがよい。この場合、被測定イオン種に上記の変位量Yを生じさせるためには、式(9)から
E≒414.6〜20700Vm−1
が必要である。ここで電極間距離Lが300mmであるとすると、高周波電源の電圧Vとして
≒124.4〜6219V
が必要である。
一方、分離空間5の有効長Lおよび加速電圧Uとしては、質量分析装置10が小型、軽量であることを重視すると、例えば
U=20〜1000V
程度であるのがよい。Lは式(18)を満たすように選択する。このLは、同じT、m、およびUに対し式(15)を満たすLの長さ311mmより、(TP+TE)の分だけ長くする。
広い質量電荷比範囲を第1の質量走査方法のみで走査しようとすると、矩形波高周波電場の強さEが大きくなり過ぎたり、加速電圧Uが小さくなり過ぎたりする。このような場合には第2の質量走査方法を併用するのがよい。例えば上記の例では、高周波電場の強さEを414.6Vm−1、加速電圧Uを20Vに固定して、高周波電場の周期Tを5〜25μsの間で変化させると、1価で質量1〜25uの被測定イオン種を走査することができる。また、高周波電場の強さEを20700Vm−1、加速電圧Uを1000Vに固定して、高周波電場の周期Tを25〜50μsの間で変化させると、1価で質量1250〜5000uの被測定イオン種を走査することができる。このように2つの質量走査方法を組み合わせると、1〜5000の質量電荷比範囲をほぼ連続的に走査することができる。
上述した質量分析装置10によれば、小型、軽量、安価で、比較的高性能の質量分析装置を容易に実現することができる。さらに、質量分析装置10では複数種の被測定イオン種の同時分析が可能であるので、複数種の被測定イオン種に関する情報が1回の分析で同時に得られるとともに、イオン利用率が向上する。
この質量分析装置10は、とくにGC−MS装置やLC−MS装置を構成する質量分析装置として最適である。この場合、複数種の被測定イオン種のイオン量を短時間の間に繰り返し測定することができ、簡易にクロマトグラムを得ることができる。このため、複数種の成分が完全に分離されずに流出してくる場合でも、各成分の関係を正しく把握することができる。イオン源1として直交加速型イオン源を用いると、質量分析装置10におけるイオン利用率は最大限に大きくなるので、高感度のGC−MS装置およびLC−MS装置を実現することができる。
[質量分離装置]
本発明の質量分離装置は、図示は省略するが、例えば、イオン源1、イオン導入部2、質量分析部3、およびイオン選択部などで構成され、少なくとも質量分析部3とその前後のイオンの通路は高真空下にある。イオン選択部は、出射面9上の所定のy方向位置に飛来するイオンを取り出す手段として、例えば細孔を有する遮蔽部材(スリット12など)などを備える(符号を付した部材については図1、図2および図7参照。)。
この質量分離装置は、イオン検出部4がイオン選択部に置き換えられていることを除けば、質量分析装置10と同じ構成を有する。共通の構成をもつ主要部に基づく特徴は質量分析装置10と同じである。すなわち、この質量分離装置は、イオン源1のイオン群が引き出される前にとっている初期状態のばらつきに影響されることが少なく、イオン群の中から所定の質量電荷比を有する被選択イオン種を高い質量分解能で取り出すことができる。この結果、高い質量分解能を実現するために加速電圧を大きくする必要が小さく、イオンの飛行距離が短くなり、装置が小型、軽量になる。また、原理上、扱うことのできる被選択イオン種の質量電荷比の範囲に限界がない。さらに、取り出す被選択イオン種を高速で切り換えることができる。この質量分離装置は、タンデム質量分析装置における初段の質量分析装置やイオンビーム発生装置の初段部などとして有用である。
[実施の形態2]
実施の形態2では、請求項4に記載した、複数個の質量分析部が連続して配置された質量分析装置の例について説明する。
図9(A)は、実施の形態2に基づく質量分析装置20Aの構成を示す概略図である。質量分析装置20Aは、イオン源1、イオン導入部2、初段質量分析部21、中間質量分析部22、終段質量分析部23、初段イオン検出部24、および終段イオン検出部25などによって構成される。また、必要に応じて、質量分析部間にイオン群加工手段26および27が設けられる。イオン群加工手段26および27は、静電レンズなどを有し、イオン群の収束性を向上させるためなどの目的で設けられる。また、イオン群を再加速または減速させる手段を有し、後続の質量分析部22および23に入射する被測定イオン種の速度を各質量分析部に最適な速度に変更するように構成されていてもよい。
初段質量分析部21は、実施の形態1で説明した質量分析部3と同じものであり、高周波電場として休止期間を有する矩形波高周波電場を用いる。質量分析装置20Aでは、イオン源1からイオン導入部2を介して導入されたイオン群は、まず初段質量分析部21で質量分離される。分離された被測定イオン種の多くは初段イオン検出部24で検出され、図8を用いて説明したように同時分析される。初段イオン検出部24はイオン検出部4と同様のものである。この場合も初段イオン検出部24がイオン検出器16と同様のイオン検出器を備え、被測定イオン種よりも質量電荷比が大きいイオン種のイオン量も測定できることが好ましい。
質量分離された被測定イオン種のうち、とくに高い質量分解能での分離が求められるイオン種は、後続の質量分析部22および23へ導かれ、さらに質量分離された後、終段イオン検出部25で検出される。初段イオン検出部24にはこれらのイオン種を中間質量分析部22へ取り出すための細孔が設けられている。中間質量分析部22および終段質量分析部23は初段質量分析部21と同様のものである。後続の質量分析部22および23で分析されるイオン種は、矩形波高周波電場の休止期間の間に質量分析部間を移動する。その結果、複数の質量分析部が質量分解能を低下させることなく連結され、各質量分析部の変位量Yの積み重ねによって高い質量分解能が達成される。
質量分析装置20Aのように多段構成にすると、一段構成で高分解能を実現する場合に比べて1段あたりの変位量Yが小さくなる。この結果、電極間の距離が小さくなり、全体として質量分析部が小型化する。また、各質量分析部は同時並列的に動作するので、1回の分析に要する分析時間は一段構成で高分解能を実現する場合に比べて短くなる。なお、中間質量分析部22は、要求される質量分解能に応じて、省略したり、複数の質量分析部で構成したりすることができる。
質量分析装置20Aでは、初段質量分析部21での質量分解能として2500程度、終段質量分析部23での質量分解能として7500〜10000程度を実現することは難しくないと考えられる。質量分析部21〜23全体の長さは900〜1000mm程度で、1回の分析に要する分析時間は数十μs程度である。このように、質量分析装置20Aによれば、比較的小型の装置で、所定の質量電荷比の範囲を高い質量分解能で測定し、かつ広い質量電荷比範囲の質量スペクトルを能率よく取得することができる。
図9(A)には、初段質量分析部21で質量分離された被測定イオン種のうち、質量電荷比が小さいイオン種を後続の質量分析部へ取り出す例を示した。しかし、これに限らず、質量電荷比が中間のイオン種を取り出し、後続の質量分析部でさらに質量分離することもできる。このようにすると、低質量側および高低質量側の被測定イオン種の質量スペクトルをともに取得しながら、所定の質量電荷比範囲のイオン種を高い質量分解能で分析することができる。また、質量電荷比が大きいイオン種を取り出し、後続の質量分析部でさらに質量分離することもできる。このようにすると、単独の質量分析部では質量分解能が低くなる高質量イオン種の質量分解能を向上させることができる。これにより、広い質量電荷比範囲のイオン種を同程度に揃った高い質量分解能で分析することができる。
また、複数の質量電荷比範囲の被測定イオン種をそれぞれ取り出し、少なくとも一方を静電場などで偏向させ、それぞれに後続の質量分析部を設けることもできる。
図9(B)は、実施の形態2に基づく別の質量分析装置20Bの構成を示す概略図である。質量分析装置20Bは、イオン源1、イオン導入部2、初段質量分析部21、終段質量分析部28、初段イオン検出部24、および終段イオン検出部25などによって構成される。また、必要に応じて、質量分析部間にイオン群加工手段29が設けられる。
質量分析装置20Bでは、終段質量分析部28の対向電極が被測定イオン種の飛行路に沿うように設けられている。この結果、大きな変位量Yを実現しているにもかかわらず、対向電極間の距離はそれほど大きくなっていない。このため、変位量Yの割りに終段質量分析部28が小型化するとともに、対向電極間に印加する高周波電圧が小さく抑えられる。
この場合、高周波電場のすべてがy方向に作用するのではないこと、および−z方向に作用する高周波電場成分によって−z方向への変位が生じ、この分だけイオンのz方向への飛行距離が短くなることに注意する必要がある。例えば、終段質量分析部28の長さ方向が初段質量分析部21のz方向に対し30°傾斜するように配置されている場合、高周波電場の強さをEdとすると、y方向に(31/2/2)Edの電場が作用するとともに−z方向に(1/2)Edの電場が作用して、y方向における変位の(31/2/3)倍の変位が−z方向へ生じる。したがって終段質量分析部28では、他の条件が同じであれば、周期の長さを例えば20〜30%増にしたときに、傾斜配置されていない質量分析部とz方向への飛行距離が同じになる。y方向に所定の変位を生じさせるために必要な高周波電場の強さは、この周期の増加によっても小さくなる。
なお、終段質量分析部28のようにイオンの入射方向に対して質量分析部の長さ方向が傾斜している配置は、質量分析部側から見ると、質量分析部の長さ方向に対しイオンの入射方向がy方向へ傾いている斜め入射に相当する。斜め入射の場合、イオンの飛行路に関して多少の制約が生じるが、上述したように、質量分析部が小型化し、対向電極間に印加する高周波電圧が小さくてすむ長所がある。したがって、実施の形態1においても、質量分析部3の長さ方向がイオンの入射方向に対して傾斜するように配置して、イオン群が分離空間5に斜め入射するように構成してもよい。
[実施の形態3]
実施の形態3では、請求項5に記載した、分離空間が飛行時間型質量分析装置の飛行空間の一部をなすように、飛行時間型質量分析装置と合体して配置された質量分析装置の例について説明する。
図10は、実施の形態3に基づく質量分析装置30の構成を示す概略図である。質量分析装置30は、イオン源1、イオン導入部2、質量分析部3、イオン検出部4、TOF部31、リフレクトロン32、およびイオン検出部34などによって構成される。また、必要に応じてイオン群加工手段33が設けられていてもよい。イオン群加工手段33は静電レンズなどを有し、イオン群の収束性などを向上させるために設けられる。また、イオン群を再加速する手段を有し、TOF部31での飛行を続けるイオン種の速度を最適な速度に変更するように構成されていてもよい。一般的には、イオン群が質量分析部3を飛行する際に好ましい条件とTOF部31を飛行する際に好ましい条件とが一致するとは限らない。イオン群加工手段33はこのような条件の違いを調整する。
質量分析装置30の特徴は、質量分析部3の分離空間5がTOF部31の飛行空間の一部と空間を共用するように配置されていることである。イオン源1、イオン導入部2、質量分析部3およびイオン検出部4は、実施の形態1で説明した質量分析装置10を構成する。一方、イオン源1、イオン導入部2、TOF部31、リフレクトロン32、イオン群加工手段33、およびイオン検出部34は、リフレクトロンTOF質量分析装置を構成する。質量分析装置30では両者が合体して配置されている。
質量分析装置30では、イオン群はイオン源1からイオン導入部2を介して分離空間5へ導入され、質量分析部3で質量分離される。分離された被測定イオン種の多くはイオン検出部4で検出され、図8を用いて説明したように同時分析される。質量分離された被測定イオン種のうち、とくに高い質量分解能での分離が求められるイオン種は、TOF部31の残りの飛行空間を飛行し続け、イオン検出部34で検出される。なお、図10では、TOF部31におけるイオンの飛行路がy−z面にある例を示したが、飛行路がx−z面にあるようにリフレクトロン32を構成してもよい。
図10では、被測定イオン種のうち、質量電荷比の小さいイオン種を取り出し、飛行時間型質量分析装置で分析する例を示したが、これに限らず、質量電荷比が中間または大きいイオン種を飛行時間型質量分析装置で分析することもできる。これは実施の形態2で述べたとおりである。
質量分析装置30によれば、所定の質量電荷比の範囲を高い質量分解能で測定し、かつ広い質量電荷比範囲の質量スペクトルを能率よく取得することができる。質量分析装置20と比べると、中間質量分析部や終段質量分析部の代わりに飛行時間型質量分析装置を有しているので、最高レベルの質量分解能を実現する場合でも検出感度が低下しにくい利点がある。
一方、通常の飛行時間型質量分析装置と比べると、飛行時間型質量分析装置で分析される被測定イオン種以外のイオン種が、質量分析部3によってTOF部31の飛行空間から除かれる利点が大きい。このため、質量分析装置30では、前回のパルスで導入されたイオン種のすべてが飛行し終わるまで次回のイオン群の導入を待つ必要はなく、矩形波高周波電場の繰り返しに合わせて次々にパルス状イオン群を導入し、数十μs程度の時間間隔で飛行時間型質量スペクトルを繰り返し測定することができる。質量分析部3を設ける主目的が一部のイオン種をTOF部31の飛行空間から取り除くことである場合には、イオン検出部34をイオン選択部に置き換えてもよい。この場合、イオン源1、イオン導入部2、質量分析部3、およびイオン選択部は本発明の質量分離装置を構成する。
[実施の形態4]
実施の形態4では、請求項6に記載した質量分析装置の例について説明する。
図11(A)は実施の形態4に基づく質量分析装置40の構成を示す概略図である。質量分析装置40は、イオン源1、イオン導入部2、質量分析部43、およびイオン検出部44などによって構成される。
図11(B)は長さ方向に直交する面で質量分析部43を切断した断面形状を示す概略図である。質量分析部43では、図2に示した電極6および7と同様の電極46〜49が、主面がx軸またはy軸に直交するように分離空間45の上下、左右に配置されている。電極46と電極47との間にはy方向高周波電圧が印加され、電極48と電極49との間にはx方向高周波電圧が印加され、y方向およびx方向にそれぞれ高周波電場が形成される。
2つの高周波電場はともに分離空間45に形成されるが、概念的には独立して機能する。これが可能であるのは、イオン入射の時刻が一次元高周波電場の立ち上がりの(1/4)周期後または(3/4)周期後である場合には、高周波電場の作用を1周期間受けた時点におけるイオンの変位速度および変位量は0になることによる(式(8)および図3(B)参照。)。したがって質量分析装置40では2つの質量分析部が分離空間45を共用するように重複して設けられていると考えるとわかりやすい。
図12(A)は、質量分析装置40において用いる高周波電場の例を示すグラフである。この高周波電場は、第1のイオン群と第2のイオン群とがほぼ(1/4)周期の間隔をおいて異なる加速電圧でパルス的に導入される場合に、第1のイオン群中の1種の被測定イオン種の分析と、第2のイオン群中の複数種の被測定イオン種の同時分析とを可能にする高周波電場である。
第2のイオン群はy方向高周波電場によって質量分離される。y方向電場は本質的には図8(A)に示した矩形波高周波電場と同じものであり、立ち上がりから1周期間続いた後、休止期間に入る。休止期間の長さは、同時分析する被測定イオン種の質量電荷比範囲に基づいて定められる。ただし、図8(A)に示した電場とは異なり、第1のイオン群の質量分離に悪影響を及ぼさないように、立ち上がりの前にy方向電場が作用する(1/4)周期間がある。第2のイオン群はy方向高周波電場の立ち上がりの直前にパルス的に導入される。
第1のイオン群はx方向高周波電場によって質量分離される。x方向電場は、y方向電場と同じ周期Tをもち、その立ち上がりはy方向電場の立ち上がりに(1/4)周期先行する。x方向電場は休止期間から立ち上がり、第1のイオン群を質量分離するための1周期間と、第2のイオン群の質量分離に悪影響を及ぼさないための(1/4)周期間とを合わせた(1+1/4)周期間続いたのち、再び休止期間に入る。第1のイオン群はx方向高周波電場の立ち上がりの直前にパルス的に導入される。
図12(B)は、質量分析部43の出射面50上に飛来するイオン種の位置を示す平面図である。図中、第2のイオン群の飛来位置は、図8に示した例と同じく、y方向高周波電場の周期Tが10μs、その強さEが2546Vm−1、加速電圧Uが100V、そして分離空間45の有効長Lが138.91mm余である場合についての計算結果を示している。一方、第1のイオン群の飛来位置は、x方向高周波電場の強さが2E(5092Vm−1)であり、加速電圧Uが200Vより少し大きい場合についての計算結果を示している。
図8を用いて説明したと同様に、第2のイオン群中の1価で質量100〜400uの被測定イオン種は、y方向電場の作用を1周期間受け、y方向へYだけ変位したのち、休止期間において分離空間45から出射され、同時分析される。図12(B)には、これらの被測定イオン種が飛来するy軸上の位置を2u刻みで示した(y座標は式(9)を用いて計算した。)。質量100uの被測定イオン種の変位量Yは約61.42mmである。図示省略したが、1価で質量が400uより大きいイオン種の飛来位置はy軸上からはずれた下方の位置になる。
図12(B)には、1価で質量100uのイオン種が入射から1周期の間にx−y座標上でたどる軌跡を細実線で示した(x座標およびy座標は、運動方程式(6)および変位量xに関するそれと同様の運動方程式に上記高周波電場を表す式を代入し、運動方程式を数値積分することによって求めた。)。x方向にも電場が作用するので途中の軌跡はy軸上からはずれているが、1周期後には変位量xは0になる。図示省略したが、他の被測定イオン種も同様の軌跡を描く。これは、第2のイオン群の入射時刻がx方向電場の立ち上がりの(1/4)周期後であるからである。またx方向への変位速度は1周期後に0になり、その後の休止期間の間この状態が保たれるからである。したがってx方向電場が第2のイオン群の被測定イオン種の質量分離の妨げになることはない。
一方、第1のイオン群では、分離空間45の有効長Lが138.91mmよりやや長いことを考慮して、加速電圧Uが200Vより少し大きく設定されている。これにより、1価で質量200uのイオン種がx方向電場の作用を1周期間受けた時点またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けた時点において被測定イオン種として分離空間45から出射される。したがって、既述したイオン検出器13と同様のイオン検出器をx方向飛来位置に配置しておけば、初期状態のばらつきによって質量分解能が低下することが少なく、このイオン種を検出することができる。なお、このイオン種の1周期後の変位量Xは約61.42mmである。
図12(B)には、この被測定イオン種が入射から1周期の間にx−y座標上でたどる軌跡を細実線で示した(これは、上述した第2のイオン群中の被測定イオン種の軌跡と同様にして求めた。)。y方向にも電場が作用するので途中の軌跡はx軸上からはずれているが、1周期後には変位量yは0になる。これは、第1のイオン群の入射時刻がy方向電場の立ち上がりの(1/4)周期前((3/4)周期後に相当)であるからである。したがってy方向電場がこの被測定イオン種の質量分離の妨げになることはない。参考として、図12(B)には、第1のイオン群中の1価で質量204〜800uのイオン種が飛来する中心位置も4u刻みで示した。これらのイオン種は、1周期間よりも最長で(1/4)周期間長くy方向電場の作用を受けるので、飛来位置がx軸上からはずれている。
なお、仮にx方向電場の強さがy方向電場の強さと同じであると、第1のイオン群中の質量200uの被測定イオン種の変位量Xは、第2のイオン群中の質量100uの被測定イオン種の変位量Yの半分になり、質量分解能も半分になる。そこでこの例ではx方向電場の強さをy方向電場の強さの2倍にした。このようにすると両被測定イオン種の変位量は同じになり、両者を同じ質量分解能で測定することができる。
図13は、図12(A)に示した矩形波高周波電場を少し変形した高周波電場の例を示すグラフである。このy方向電場は立ち上がりと立ち下り時に短い休止期間を有しており、第2のイオン群は立ち上がり時の休止期間の間に導入される。したがって第2のイオン群が端縁場の影響を受けることがない。この場合、y方向電場が作用する期間の長さは休止期間の分だけ短くなるので、同じ変位量を得るにはy方向電場の強さを少し強くする必要がある。
また、x方向電場は1周期間と残りの(1/4)周期間との間に短い休止期間を有しており、被測定イオン種はこの休止期間の間に出射される。この場合、既述した休止期間の効果によって、初期状態のばらつきに影響されることがさらに少なくなり、質量分解能が向上する。また限定的ではあるが第1のイオン群でも複数種の被測定イオン種の同時分析が可能になる。しかも被測定イオンが端縁場の影響を受けることがない。ただし、この休止期間が存在すると、第2のイオン群中の被測定イオン種が出射される時のx方向への変位量は0ではなくなる。したがってこの休止期間の長さが必要以上に長いのは好ましくない。なお、第1のイオン群および第2のイオン群中の被測定イオン種が分離空間45中に滞在する時間は、この休止期間に合わせて少し長くする必要があるので、各イオン群の加速電圧は少し小さくする。
質量分析装置40では、時間差がわずかな2つのパルス状イオン群に対して、被測定イオン種の質量電荷比をそれぞれ独立に設定し、同じ質量分解能で分析することができる。この時間差はほぼ(1/4)周期間であり、2.5μs程度の短時間である。しかも、第2のイオン群では任意の質量電荷比範囲の複数種の被測定イオン種を同時分析することができる。第1のイオン群で分析できる被測定イオン種は1種または数種程度に限定されるかもしれないが、内部標準として用いるイオン種を被測定イオン種とし、そのイオン量に基づいて第2のイオン群中の被測定イオン種のイオン量を較正する場合にはこれで十分である。このように質量分析装置40では優れた定量性を簡易に実現することができる。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
本発明の質量分析装置および質量分離装置は、質量分析装置および質量分離装置が化学、物理、生物、および医学などの研究や応用においてもつ有用性を高め、さらに普及するのに寄与する。
1・・・イオン源、2・・・イオン導入部、3・・・質量分析部、4・・・イオン検出部、5・・・分離空間、6、7・・・電極、6a、7a・・・電極6および7の、イオンの通路に面した主面、8・・・入射面、9・・・出射面、10・・・質量分析装置、11・・・基準線、12a・・・上側スリット、12b・・・下側スリット、13・・・イオン検出器、14・・・遮蔽板、15、16・・・イオン検出器、17・・・静電レンズ、20A、20B・・・質量分析装置、21・・・初段質量分析部、22・・・中間質量分析部、23・・・終段質量分析部、24・・・初段イオン検出部、25・・・終段イオン検出部、26、27・・・イオン群加工手段、28・・・終段質量分析部、29・・・イオン群加工手段、30・・・質量分析装置、31・・・TOF部、32・・・リフレクトロン、33・・・イオン群加工手段、34・・・イオン検出部、40・・・質量分析装置、43・・・質量分析部、44・・・イオン検出部、45・・・分離空間、46〜49・・・電極、50・・・出射面
日本化学会編,実験化学講座(第5版)第20−1巻,「分析化学」,第9章 質量分析,丸善,2007年 J.H.グロス著,「マススペクトロメトリー」,シュプリンガー・ジャパン,2007年 Edmond de Hoffmann,Vincent Stroobant著,「Mass Spectrometry;Principles and Applications」,Wiley-Interscience,2007年 不破敬一郎,藤井敏博編,「四重極質量分析計−原理と応用」,講談社,1977年
本発明の質量分析装置において、前記被測定イオン種は次の関係
T=L(m/2zeU)1/2
を満たし、前記イオン群は前記一次元高周波電場の強さが0である時点において前記分離空間へ導入され、前記被測定イオン種は実質的に1周期後の前記一次元高周波電場の強さが0である時点において前記分離空間から出射されるのがよい(ただし、zはイオン種の電荷数であり、m、e、U、L、およびTは、それぞれ、SI単位で表されたイオン種の質量、電気素量、前記加速電圧、前記分離空間の有効長、および前記一次元高周波電場の周期である。なお、前記分離空間の前記有効長とは、前記イオン群が前記一次元高周波電場の作用を受ける区間の長さを言うものとする。)。上式は、被測定イオン種のイオンのうち、引き出し方向に標準の運動エネルギーzeUをもつイオンが前記分離空間の前記有効長を1周期間で通過するための条件である。その他のイオンはその前後に前記有効長を通過する。前記イオン群の入射時を上記のように限定すると、1周期間の変位量が最大になり、かつ前記被測定イオン種が端縁場(フリンジ・フィールド)の影響をほとんど受けない利点がある。
また、別の構成として、前記一次元高周波電場は電場の強さが0になる休止期間を一周期の前後に有し、前記被測定イオン種は次の関係
T+T<T<T+T+T
を満たし、前記イオン群は前記一周期の前の前記休止期間において前記分離空間へ導入され、前記被測定イオン種は前記一周期の後の前記休止期間において前記分離空間から出射されるのがよい(ただし、T、T、およびTは、それぞれSI単位で表された、前記被測定イオン種のイオンが前記分離空間の有効長を通過するのに要する時間、前記イオン群が導入される時刻から前記一周期の始まりまでの時間、および前記一周期の後の前記休止期間の長さである。なお、前記分離空間の前記有効長とは、前記イオン群が前記一次元高周波電場の作用を受け得る区間の長さを言うものとする。)。この場合、前記被測定イオン種のすべてのイオンが前記一次元高周波電場の作用を等しく前記一周期間受けるので、質量電荷比が同じイオン同士ではこの間の変位量は厳密に等しくなる。加えて、上記の条件を満たす前記被測定イオン種は複数が存在し得るので、前記休止期間の長さに応じた質量電荷比範囲の複数の前記被測定イオン種を同時分析することができる。
また、前記一次元高周波電場の波形が矩形波、正弦波(または余弦波)、階段波、台形波、三角波、のこぎり波、または複数のこれらの波形を合成した波形であるのがよい。

Claims (11)

  1. 試料をイオン化する手段、およびパルス状のイオン群を所定の加速電圧で質量分析部へ導入する手段を備えるイオン源と、
    前記イオン群の飛行方向を収束させる手段、及び/又は所定の方向へ飛行する前記イオン群を選択して取り出す手段を備えるイオン導入部と、
    導入した前記イオン群を飛行させる分離空間、および前記イオン群の入射方向に所定の角度で交差する方向(以下、y方向と呼ぶ。)に作用する一次元高周波電場を前記分離空間に形成する手段を備え、前記一次元高周波電場の作用によって、質量電荷比が互いに異なるイオン種に互いに異なる飛行路を飛行させる前記質量分析部と、
    前記分離空間の末端の出射面上の所定のy方向位置に飛来するイオンを検出する手段を備えるイオン検出部と
    を少なくとも有し、前記イオン群は前記一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして前記分離空間へ導入され、所定の質量電荷比を有する被測定イオン種が前記一次元高周波電場の作用をn周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、前記出射面上でのy方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して検出される、質量分析装置。
    (ただし、nは自然数である。)
  2. 前記被測定イオン種は次の関係
    T=L(m/2zeU)1/2
    を満たし、前記イオン群は前記一次元高周波電場の強さが0である時点において前記分離空間へ導入され、前記被測定イオン種は実質的に1周期後の前記一次元高周波電場の強さが0である時点において前記分離空間から出射される、請求項1に記載した質量分析装置。
    (ただし、zはイオン種の電荷数であり、m、e、U、L、およびTは、それぞれ、SI単位で表されたイオン種の質量、電気素量、前記加速電圧、前記分離空間の有効長、および前記一次元高周波電場の周期である。)
  3. 前記一次元高周波電場は電場の強さが0になる休止期間を一周期の前後に有し、前記被測定イオン種は次の関係
    T+T<T<T+T+T
    を満たし、前記イオン群は前記一周期の前の前記休止期間において前記分離空間へ導入され、前記被測定イオン種は前記一周期の後の前記休止期間において前記分離空間から出射される、請求項1に記載した質量分析装置。
    (ただし、T、T、およびTは、それぞれSI単位で表された、前記被測定イオン種のイオンが前記分離空間の前記有効長を通過するのに要する時間、前記イオン群が導入される時刻から前記一周期の始まりまでの時間、および前記一周期の後の前記休止期間の長さである。)
  4. 複数個の前記質量分析部が連続して配置され、前記イオン群はまず初段質量分析部で質量分離され、分離された前記被測定イオン種の一部は前記イオン検出部で検出されるが、残りは後続の質量分析部へ導入されてさらに質量分離され、その後方に配置されたイオン検出部で検出される質量分析装置であって、前記残りの被測定イオン種は前記休止期間の間に前記質量分析部間を後続側へ移動する、請求項3に記載した質量分析装置。
  5. 前記分離空間が飛行時間型質量分析装置の飛行空間の一部をなすように前記飛行時間型質量分析装置と合体して配置され、前記イオン群はまず前記分離空間に導入されて前記質量分析部で質量分離され、分離された前記被測定イオン種の一部は前記イオン検出部で検出されるが、残りは前記飛行空間における飛行を続け、前記飛行時間型質量分析装置で分析される、請求項3に記載した質量分析装置。
  6. 前記質量分析部が、前記一次元高周波電場(以下、y方向高周波電場と呼ぶ。)と周期が実質的に同じで位相が実質的に(1/4)周期異なり、作用する方向が前記イオン群の入射方向に所定の角度で交差し、かつy方向と直交する方向(以下、x方向と呼ぶ。)であるx方向高周波電場を前記分離空間に形成する手段を備え、
    前記イオン検出部が、前記出射面上の所定のx方向位置に飛来するイオンを検出する手段を備え、
    前記イオン群は前記y方向高周波電場の立ち上がり時またはその直前に前記分離空間に導入され、前記nは1であり、
    これとは別のイオン群が前記x方向高周波電場の立ち上がり時またはその直前にパルス的に前記分離空間に導入され、このイオン群中の、所定の質量電荷比を有する被測定イオン種は、前記x方向高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、前記出射面上でのx方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して検出される、請求項1に記載した質量分析装置。
  7. 前記一次元高周波電場の波形が矩形波、正弦波(または余弦波)、階段波、台形波、三角波、のこぎり波、またはこれらの一部を改変した波形、あるいは複数のこれらの波形を合成した波形である、請求項1に記載した質量分析装置。
  8. 前記一次元高周波電場の周期を固定し、前記加速電圧を変化させて質量走査を行う、請求項1に記載した質量分析装置。
  9. 前記加速電圧を固定し、前記一次元高周波電場の周期を変化させて質量走査を行う、請求項1に記載した質量分析装置。
  10. 前記イオン検出部は、前記被測定イオン種とともに、または前記被測定イオン種とは別個に、前記被測定イオン種よりも質量電荷比の大きいイオン種を検出するイオン検出器を有する、請求項1に記載した質量分析装置。
  11. 試料をイオン化する手段、およびパルス状のイオン群を所定の加速電圧で質量分析部へ導入する手段を備えるイオン源と、
    前記イオン群の飛行方向を収束させる手段、及び/又は所定の方向へ飛行する前記イオン群を選択して取り出す手段を備えるイオン導入部と、
    導入した前記イオン群を飛行させる分離空間、および前記イオン群の入射方向に所定の角度で交差する方向(以下、y方向と呼ぶ。)に作用する一次元高周波電場を前記分離空間に形成する手段を備え、前記一次元高周波電場の作用によって、質量電荷比が互いに異なるイオン種に互いに異なる飛行路を飛行させる前記質量分析部と、
    前記分離空間の末端の出射面上の所定のy方向位置に飛来するイオンを取り出す手段を備えるイオン選択部と
    を少なくとも有し、前記イオン群は前記一次元高周波電場の位相に同期したパルスとして前記分離空間へ導入され、所定の質量電荷比を有する被選択イオン種が前記一次元高周波電場の作用を1周期間またはそれと実質的に同等とみなされる期間受けて前記分離空間から出射され、前記出射面上でのy方向飛来位置に基づいて他のイオン種と区別して取り出される、質量分離装置。
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