JPWO2013141400A1 - 電子増幅用細孔ガラスプレートおよび検出器 - Google Patents

電子増幅用細孔ガラスプレートおよび検出器 Download PDF

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Abstract

ガス中での電子雪崩増幅を利用して電離電子についての測定を行う検出器(1)に用いられ、板状部材(11)に二次元配列された複数の貫通孔(14)が設けられてなる電子増幅用細孔ガラスプレートにおいて、該ガラスプレートの薄板化及び前記貫通孔(14)の微細化を実現するために、前記板状部材(11)を、感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスによって形成する。

Description

本発明は、電子増幅用細孔ガラスプレートおよびその電子増幅用細孔ガラスプレートを用いて構成された検出器に関する。
近年、粒子線または電磁波の検出を行う検出器として、ガス電子増幅器(Gas Electron Multitplier、以下「GEM」と略す。)による電子雪崩増幅を利用したものが知られている。一般的なGEMは、50μm程度の厚さのポリイミド等からなる板状のフィルム部材に、その表裏に貫通する複数の貫通孔が形成されているとともに、そのフィルム部材の両面が銅で被覆されてなる電子増幅用基板を有している。そして、電子増幅用基板を検出ガス中に配した状態で、フィルム部材の両面を被覆する銅薄膜を電極として用いて二つの電極間に電位差を与え、複数の貫通孔の孔内に強い電場を作り出し、その電場によって電子雪崩増幅を起こして、電離電子数を増やして信号として捉え得るようにすることで、検出ガス中での電離電子についての測定を可能にするように構成されている(例えば特許文献1参照)。
ただし、上述した構成のGEMは、ポリイミド等からなるフィルム部材を用いているため、耐熱性、平滑性、剛性等が低く、またアウトガスが生じ得るといった問題がある。このことから、粒子線または電磁波の検出を行う検出器については、電子増幅用基板の基材として、鉛不含ソーダ石灰ガラスからなる基板(例えば特許文献2参照)や、耐熱ガラス等の無機材料からなる基板(例えば特許文献3参照)等を用いることが提案されている。
特開2006−302844号公報 特許第4058359号公報 特開2009−301904号公報
粒子線または電磁波の検出器用途の電子増幅用基板の基材としては、上述したように耐熱性等の観点から、ポリイミド等からなるフィルム部材ではなく、ガラス基板を用いることが好ましい。しかしながら、ソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス基板では、その板厚について、薄くても250μm程度の厚さが限界であり、ポリイミド等からなるフィルム部材と同等の厚さを実現することが非常に困難である。なぜならば、250μm程度より薄くなると、強度不足による割れ等が生じてしまうからである。割れ等が生じなければ、電子増幅用基板の基材となるガラス基板(以下「電子増幅用細孔ガラスプレート」という。)は薄板化したほうが好ましいと考える。その理由の一つとしては、以下のようなものが挙げられる。電子雪崩増幅に際して、電子は貫通孔の孔内で増幅される。このとき、電子増幅用細孔ガラスプレートの板厚が大きく、かつ、貫通孔の孔径が小さいと、貫通孔を抜ける前に孔内の壁面に電子が付着してしまう可能性が高くなり、その結果として十分な電子の増幅度(ゲイン)が得られなくなるおそれがある。換言すると、割れ等が生じてしまうことなく電子増幅用細孔ガラスプレートの薄板化を実現して、貫通孔の内壁面積を抑えるようにすれば、電極間に与える電位差を必要以上に増大させなくても、電子雪崩増幅に際して十分なゲインを得ることが実現可能となるため、電子雪崩増幅を利用した検出器用途としては非常に好適である。
また、粒子線または電磁波の検出器用途の電子増幅用細孔ガラスプレートに対しては、その表裏に貫通する複数の貫通孔について、孔径および配列ピッチを微細化したほうが好ましいと考える。貫通孔の孔径および配列ピッチが検出分解能に直接的な影響を及ぼし、検出分解能を向上させるためには孔径および配列ピッチの微細化が必要だからである。しかしながら、ソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス材料については、例えば微粉噴射法等の機械加工によって貫通孔を形成することが考えられるが、それでは孔径100μm程度、配列ピッチ150μm程度での形成が限界であり、それよりも微細な加工を行うことが非常に困難である。さらに、ソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス材料については、上述したように薄板化が困難であり、この点も貫通孔の孔径および配列ピッチの微細化を実現する上での障害となる。
そこで、本発明は、形成材料がガラスであっても薄板化および貫通孔の微細化を実現可能とする電子増幅用細孔ガラスプレートおよび検出器を提供することを目的とする。
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
この目的達成のために、本願発明者らは、先ず、貫通孔の孔径および配列ピッチの微細化について検討した。貫通孔の孔径および配列ピッチの微細化のためには、例えば半導体製造プロセスで用いられる微細加工技術を利用することが有効である。そこで、本願発明者らは、感光性ガラスに着目した。感光性ガラスは、露光することにより感光部分のみにフッ化水素(HF)による選択的なエッチングを行えるように構成されたもので、ガラスの特性を生かしつつ微細加工が可能な材料である。
ところが、感光性ガラスでは、微細加工が可能であっても、薄板化を実現することが困難である。なぜならば、感光性ガラスであっても、薄板化を実現しようとすると、ソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等と同様に、強度不足による割れ等が生じてしまうからである。つまり、感光性ガラスはソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等と同様に非晶質固体であり、このような非晶質固体であるガラスをポリイミド等からなるフィルム部材と同等に薄板化することは、必ずしも実現容易でないとも思われる。
この点につき、本願発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた。そして、感光性ガラスそのものではなく、感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスであれば、脆性材料であるガラスを用いた場合であっても、半導体製造プロセスで用いられる微細加工技術の利用を可能にしつつ、薄板化を実現し得る十分な強度が得られるのではないかとの考えに至った。ここでいう感光性結晶化ガラスとは、感光性ガラスに加熱処理を行ってガラス中に均等に微細な結晶を析出させたものであり、完全に結晶化が進行した多結晶状態となっており非晶質のものと比較して機械的特性に優れている。
本発明は、上述した本願発明者らによる新たな知見に基づいてなされたものである。
本発明の第1の態様は、ガス中での電子雪崩増幅を利用して電離電子についての測定を行う検出器に用いられる電子増幅用細孔ガラスプレートであって、板状部材に二次元配列された複数の貫通孔が設けられてなるとともに、前記板状部材が感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスによって形成されていることを特徴とする電子増幅用細孔ガラスプレートである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記感光性結晶化ガラスは、前記貫通孔の未形成状態における曲げ強度が150MPaより大きいことを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、前記複数の貫通孔は、孔径が100μm以下で形成されていることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれか1態様に記載の発明において、前記複数の貫通孔は、配列のピッチが400μm以下で形成されていることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれか1態様に記載の発明において、前記板状部材は、板厚が500μm以下に形成されていることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、板状部材に二次元配列された複数の貫通孔が設けられてなるとともに、前記板状部材が感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスによって形成されている電子増幅用細孔ガラスプレートと、前記電子増幅用細孔ガラスプレートの表裏面に形成された導電層を有してなり、当該表裏面の間に電位差を与えることで前記貫通孔内に電界を形成する電極と、前記電子増幅用細孔ガラスプレートおよび前記電極をガス中に配置するためのチャンバとを備え、前記ガス中で前記貫通孔内に形成された電界によって起こる電子雪崩増幅を利用して電離電子についての測定を行うように構成されたことを特徴とする検出器である。
本発明によれば、電子増幅用細孔ガラスプレートの形成材料としてガラスを用いた場合であっても、当該電子増幅用細孔ガラスプレートの薄板化および当該電子増幅用細孔ガラスプレートに形成する貫通孔の孔径および配列ピッチの微細化を実現することが可能となる。
本発明の実施形態における検出器の概略構成例を示す説明図である。 本発明の実施形態における感光性結晶化ガラスと感光性ガラスとの代表的な特性を示す説明図である。 本発明の実施形態における電子増幅用細孔ガラスプレートの製造手順の一例を示す説明図である。 実施例1における電子増幅用細孔ガラスプレートの要部平面形状を示す説明図である。 実施例1における電界収束状態を示す説明図である。 実施例1における電子雪崩増幅の一例を示す説明図である。 実施例1における電子雪崩増幅の他の例を示す説明図である。 実施例2における電子増幅用細孔ガラスプレートの要部平面形状を示す説明図である。 実施例2における電界収束状態を示す説明図である。 実施例2における電子雪崩増幅の一例を示す説明図である。 実施例2における電子雪崩増幅の他の例を示す説明図である。 実施例3における試験セットアップ状態を示す説明図である。 実施例3における電子雪崩増幅の際のゲイン特性を示す説明図である。 実施例4におけるエネルギースペクトルのエネルギー分解能を示す説明図である。 実施例5におけるドリフト試験を示す説明図である。 実施例6におけるエネルギースペクトルのピークチャンネルおよびエネルギー分解能の照射レート依存性を示す説明図である。 実施例7におけるエネルギースペクトルのピークチャンネルの照射位置依存性を示す説明図である。 実施例8における電子雪崩増幅の際のゲイン特性を示す説明図である。
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
本実施形態では、以下の順序で項分けをして説明を行う。
1.検出器の概略構成
2.電子増幅用細孔ガラスプレートの構成
3.電子増幅用細孔ガラスプレートの製造手順
4.検出器における電離電子の測定手順
5.本実施形態の効果
6.変形例等
<1.検出器の概略構成>
先ず、本実施形態における検出器の概略構成について説明する。
検出器は、検出ガス中での電子雪崩増幅を利用して電離電子についての測定を行うことを可能にし、これにより粒子線または電磁波の検出を行うように構成されたものである。
検出器が利用する「電子雪崩増幅」とは、強い電場の中で自由電子が気体分子と衝突すると新たな電子が叩き出され、これが電場で加速されてさらに別の分子と衝突して加速度的に電子数が増える現象をいう。電子雪崩増幅を利用する検出器には、例えばガス比例計数管(Capillary Gas Proportional Counter;CGPC)も含まれるが、本実施形態ではGEMを用いて電子雪崩増幅を起こすものを検出器と呼ぶ。
ここで「GEM」とは、二次元配列された微細な複数の貫通孔を有する電子増幅用基板を検出ガス中に配した状態で、その電子増幅用基板における貫通孔の孔内に強い電場を作り出し、その電場によって電子雪崩増幅を起こすように構成されたものをいう。電子増幅用基板は、単板状のものであっても、複数枚が多層化されたものであってもよい。
検出器での検出対象となり得る「粒子線」には、アルファ線、ベータ線、陽子線、重荷電粒子線、電子線(原子核崩壊によらず加速器で電子を加速するもの)、中性子線、宇宙線等が含まれる。また「電磁波」には、電波(低周波、超長波、長波、中波、短波、超短波、マイクロ波)、光(赤外線、可視光線、紫外線)、X線、ガンマ線等が含まれる。これらのうちでいずれのものを検出対象とするかは、検出ガスの種類や作り出す電場の強さ等を適宜選択することによって、所望のものに設定することが可能である。
以上のような本実施形態における検出器、すなわちGEMによる電子雪崩増幅を利用して粒子線または電磁波の検出を行う検出器は、具体的には以下に述べるように構成されている。
図1は、本実施形態における検出器の概略構成例を示す説明図である。
図例の検出器1は、所定種類の検出ガスが充填されるチャンバ2の内部に、ドリフト電極3と読み出し電極4とを備えるとともに、これらドリフト電極3と読み出し電極4との間に配置された電子増幅用基板10を備えている。電子増幅用基板10は、電子雪崩増幅を起こしてGEMとしての機能を実現するもので、板状部材11の両面に導電層12が形成されてなる積層体13に複数の貫通孔14が二次元配列されて構成されている。複数の貫通孔14は、電子増幅用基板10を平面視した場合に各々が円形形状を有し、互いが一定の間隔で配列されている。なお、チャンバ2内には、外部から検出対象となる粒子線または電磁波が入射し得るように構成されている。
チャンバ2内のドリフト電極3および読み出し電極4に対しては、図示せぬ電源部から所定の電圧が印加されるようになっている。さらに、電子増幅用基板10の両面における各導電層12に対しても、それぞれが電極として機能することで、図示せぬ電源部から所定の電圧が印加されるようになっている。このような電源部からの電圧印加により、ドリフト電極3と電子増幅用基板10の間の領域(以下「ドリフト領域」という。)5には電界E1が発生し、電子増幅用基板10と読み出し電極4の間の領域(以下「インダクション領域」という。)6には電界E3が発生する。また、電子増幅用基板10の貫通孔14の孔内には電界E2が発生する。そして、貫通孔14の孔内で電界E2が収束され、ここに侵入した電子が加速されることにより電子雪崩増幅が生じる。検出器1は、この電子雪崩増幅により増倍された電子を読み出し電極4で測定し、その測定結果を読み出し電極4に接続する図示せぬ信号読み出しのための電気回路等を通じて出力するように構成されている。
以上のような構成の検出器1において、電子増幅用基板10を構成する板状部材11については、当該電子増幅用基板10の基材となるものであるため、既に説明したように、ガラス材料を用いて形成することが考えられ、しかもその場合であっても薄板化および貫通孔14の微細化を実現可能とするものであることが好ましい。このことから、本実施形態における検出器1は、以下に述べるような電子増幅用細孔ガラスプレートを用いて電子増幅用基板10が構成されている。
<2.電子増幅用細孔ガラスプレートの構成>
次に、本実施形態における電子増幅用細孔ガラスプレートの構成について説明する。
電子増幅用細孔ガラスプレートは、ガラスを形成材料とする板状部材11に二次元配列された複数の貫通孔14が設けられてなるもの、すなわちガラス製毛細管(キャピラリ)が規則的に平行に束ねられてそれが板状に形成されたものであり、特にガス中での電子雪崩増幅作用を引き起こすことが可能に構成されたものである。このような電子増幅用細孔ガラスプレートの表裏面に電極として機能する導電層12が形成されると、電子増幅用基板10が構成されることになる。
本実施形態における電子増幅用細孔ガラスプレートは、感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスによって形成されている点に大きな特徴がある。
「感光性ガラス」とは、SiO−LiO−Al系ガラスに、感光性金属として少量のAu,Ag,Cu、さらに増感剤としてCeOを含んだガラスである。
感光性ガラスは、紫外線を照射することによって、酸化還元反応が起こり、金属原子が生じる。さらに加熱すると金属原子が凝集しコロイドを形成し、このコロイドを結晶核にしてLiO・SiO(メタケイ酸リチウム)の結晶が成長する。ここで析出するLiO・SiO(メタケイ酸リチウム)はHFに容易に溶解し、紫外線の照射されていないガラス部分と比べると約50倍程度の溶解速度の差がある。この溶解速度差を利用することで選択的エッチングが可能となり、機械加工を用いることなく微細な加工物を形成することができる。
このような感光性ガラスとしては、例えばHOYA株式会社製の「PEG3(商品名)」が挙げられる。
また、「感光性結晶化ガラス」とは、感光性ガラスに加熱処理(当該感光性ガラスに微細加工を行った際とは異なる条件での加熱処理)を行って、ガラス中に均等に微細な結晶を析出させたものである。ここで析出する結晶は、LiO・SiO(メタケイ酸リチウム)の結晶とは異なり、化学的耐久性に優れる。したがって、感光性結晶化ガラスは、完全に結晶化が進行した多結晶状態となっていることから、非晶質固体である感光性ガラスに比べて、機械的特性に優れるという利点を有する。
このような感光性結晶化ガラスとしては、例えばHOYA株式会社製の「PEG3C(商品名)」が挙げられる。
ここで、感光性結晶化ガラスである「PEG3C」の代表的な特性を、その基になった感光性ガラスである「PEG3」の代表的な特性と併せて、図2に示す。
図例から明らかなように、感光性結晶化ガラスは、感光性ガラスに比べて、優れた機械的特性を有している。具体的には、「PEG3」の曲げ強度が65MPaより大きいのに対して、「PEG3C」の曲げ強度は150MPaより大きくなっており、「PEG3C」のほうが大きな曲げ強度を有していることがわかる。
したがって、例えば「PEG3C」によって形成した場合、電子増幅用細孔ガラスプレートは、貫通孔14の未形成状態における曲げ強度が150MPaより大きいことになる。
さらに、感光性結晶化ガラスである「PEG3C」は、体積抵抗率が1014Ωm程度である。したがって、体積抵抗率が1015Ωm以上であるポリイミド等に比べると、絶縁抵抗の低さにより帯電し難いものであると言える。
また、本実施形態における電子増幅用細孔ガラスプレートは、一定間隔で二次元配列された平面視円形形状の複数の貫通孔14を備えているが、これら複数の貫通孔14について、孔径が100μm以下(例えば30〜100μm、好ましくは30〜50μm)、配列のピッチが400μm以下(例えば50〜400μm、好ましくは50〜360μm)で形成されているものとする。なお、孔径およびピッチの下限値は特に限定されるものではないが、後述する製造手順によって形成可能な大きさで電子が通過し得る大きさが下限値となり得る。
さらに、本実施形態における電子増幅用細孔ガラスプレートは、その板厚が500μm以下に形成されているものとする。400μm以下であれば電子増幅用基板10の用途に適すると言えるが、好ましくは300μm以下、より一層好ましくは100〜150μm程度に形成することが考えられる。特に、貫通孔14が孔径100μm以下であることを考慮すると、板厚が100〜150μm程度であれば、貫通孔14のアスペクト比(孔径と孔長の比)が過大になってしまうのを抑制することができる。
<3.電子増幅用細孔ガラスプレートの製造手順>
次に、以上のように構成された電子増幅用細孔ガラスプレートの製造手順について説明する。
図3は、本実施形態における電子増幅用細孔ガラスプレートの製造手順の一例を示す説明図である。
電子増幅用細孔ガラスプレートの製造にあたっては、先ず、図3(a)に示すように、「PEG3」等の感光性ガラスにより所望外形形状(例えば300mm×300mmの矩形状)で所望厚さに形成された平板状の板状部材11を用意する。
そして、図3(b)に示すように、用意した板状部材11上に、所望パターンが形成されたフォトマスク15を重ね、そのフォトマスク15を介して板状部材11に対して紫外線16を照射する。これにより、板状部材11では、紫外線照射箇所において、酸化還元反応が起こり、金属原子が生じる。
その後は、紫外線照射後の板状部材11に対して、例えば450〜600℃の温度で熱処理をする。そうすると、板状部材11では、図3(c)に示すように、紫外線照射によって生じた金属原子が凝集しコロイドを形成し、このコロイドを結晶核にしてLiO・SiO(メタケイ酸リチウム)の結晶が成長する。
ここで析出するLiO・SiO(メタケイ酸リチウム)はHF(フッ化水素)に容易に溶解し、紫外線16の照射されていないガラス部分と比べると約50倍程度の溶解速度の差がある。そこで、熱処理による結晶成長後は、図3(d)に示すように、板状部材11に対してHFを用いたエッチングを行う。これにより、熱処理で析出した結晶部分17を除去するエッチング、すなわちHFに対する溶解速度差を利用した選択的エッチングがされることになり、その結果として機械加工を用いることなくフォトマスク15のパターンと略同等の精度の微細な貫通孔14を板状部材11に形成することができる。
このようにして得られた貫通孔14形成後の板状部材11は、形成材料が「PEG3」等の感光性ガラスのままである。そこで、選択的エッチングによる貫通孔14の形成後は、その貫通孔14が形成された板状部材11に対して、図3(e)に示すように、さらに熱処理をする。このときの熱処理は、先に行った貫通孔14形成のための熱処理とは異なる条件で行う。具体的には、例えば1000℃を超えるような温度で熱処理をする。これにより、板状部材11は、先に行った熱処理の場合とは異なり、化学的耐久性に優れた微細な結晶がガラス中に均等に析出され、完全に結晶化が進行した多結晶状態となる。これは、「PEG3」等の感光性ガラスを結晶化して得られる「PEG3C」等の感光性結晶化ガラスに相当する。つまり、先に行った熱処理とは異なる条件で再度熱処理を行うことで、「PEG3C」等の感光性結晶化ガラスに複数の貫通孔14が二次元配列された電子増幅用細孔ガラスプレート18が得られるのである。このようにして得られた電子増幅用細孔ガラスプレート18は、感光性結晶化ガラスによって形成され、完全に結晶化が進行した多結晶状態となっていることから、非晶質固体である感光性ガラスによって形成されている場合に比べて、機械的特性に優れるという利点を有する(例えば図2参照)。
なお、上述した手順で電子増幅用細孔ガラスプレート18を製造した後は、その電子増幅用細孔ガラスプレート18の表裏面のそれぞれに対して、例えばスパッタリングによりCu(銅)等の導電性に優れた材料からなる導電層12を形成することで、検出器1用途の電子増幅用基板10が構成されることになる。
<4.検出器における電離電子の測定手順>
次に、以上のような本実施形態の電子増幅用細孔ガラスプレート18を基にして形成された電子増幅用基板10を用いつつ検出器1を構成した場合において、その検出器1で電離電子の測定を行い、これにより粒子線または電磁波の検出を行う際の手順について、図1を参照しながら具体的に説明する。ここでは、X線を検出対象とした場合を例に挙げて、以下の説明を行う。
検出器1のチャンバ2内には、所定種類の検出ガス(例えばAr+CFの混合ガス)を充填しておく。また、ドリフト電極3、読み出し電極4および電子増幅用基板10の導電層12に対しては、ドリフト領域5で発生した電子を読み出し電極4の側へ引き寄せるべく、それぞれに異なる大きさの電圧を印加して、電界E1,E2,E3を発生させておく。つまり、読み出し電極4の側ほど電子の引き寄せ力が大きくなるような電位差を与えるべく、ドリフト電極3、読み出し電極4および電子増幅用基板10の導電層12のそれぞれに対する電圧印加を行うのである。
このような状態でチャンバ2内にX線が入射すると、チャンバ2内では、ドリフト領域5において、入射したX線がガスを電離させ、この電離作用により電子が発生する。このとき、ドリフト領域5には電界E1が形成されているので、発生した電子は、電子増幅用基板10の側へ引き寄せられる。そして、電子増幅用基板10の貫通孔14を通過しようとする。
ただし、貫通孔14の孔内には、電界E2の形成によって高電場が生じている。そのため、貫通孔14を通過しようとする電子は、高電場によって速度が加速されて運動エネルギーが増加し、これにより他の周りの電子にエネルギーを与えて、新たな電離作用により電子を放出させる。このことが繰り返されることで、電子は増幅していき、結果として雪崩式に増幅していく。つまり、電子が貫通孔14の孔内を通過する際に、電子雪崩増幅が起こるのである。
電子雪崩増幅により増倍された電子は、インダクション領域に形成されている電界E3により、読み出し電極4の側へ引き寄せられる。そして、読み出し電極4にて電子数が信号として読み出される。このような信号読み出しを行う読み出し電極4は、小さくエリア分けされている。そのため、どのエリアにて電子が測定されたかを特定することができる。
なお、チャンバ2内のガス種によっては、ドリフト領域5において電子の電離と合わせて、または電子の電離に代わって、光が励起し、その励起光が貫通孔14の孔内で増幅することもある。その場合には、読み出し電極4としてCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子を用いることで、イメージング信号として測定することも実現可能である。
<5.本実施形態の効果>
本実施形態で説明した電子増幅用細孔ガラスプレート18および検出器1によれば、以下のような効果が得られる。
本実施形態においては、電子増幅用細孔ガラスプレート18が感光性結晶化ガラスによって形成されている。そのため、電子増幅用基板10の構成材料として脆性材料であるガラスを用いた場合であっても、半導体製造プロセスで用いられる微細加工技術(詳しくはフォトマスク15を用いたパターン転写技術)の利用を可能にしつつ、薄板化等を実現し得る十分な強度を得ることができる。つまり、ソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス材料では実現し得なかった電子増幅用細孔ガラスプレート18の薄板化を実現することが可能となり、さらにはポリイミド等のフィルム部材でもソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス材料でも実現し得なかった貫通孔14の孔径および配列ピッチの微細化を実現することが可能となる。
したがって、本実施形態における検出器1は、電子増幅用基板10を構成する電子増幅用細孔ガラスプレート18の薄板化により、電子増幅用基板10における各導電層12の間に与える電位差を必要以上に増大させなくても、またチャンバ2内の電子増幅用基板10が一枚のみの場合であっても、電子雪崩増幅に際して十分なゲイン(例えば10を超える電子増倍率)を得ることが実現可能となる。電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚が薄ければ、当該板厚が厚い場合に比べて、貫通孔14の内壁面積を減少させ得るようになるので、電子が孔内の壁面に付着することなく貫通孔14を抜ける可能性が高くなるからである。つまり、例えば電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚が大きく、かつ、貫通孔14の孔径が小さいと、貫通孔14を抜ける前に孔内の壁面に電子が付着してしまう可能性が高くなり、その結果として十分なゲインが得られなくなるおそれがあるが、本実施形態における検出器1では、これを解消して十分なゲインを得ることを実現可能としているのである。なお、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚は、薄くなり過ぎると電子雪崩増幅の際のゲイン低下を招き得ることに留意して設定する必要がある。これは、電子雪崩増幅に必要なギャップ幅(基板表裏の各導電層12間の距離)が小さくなるためと考えられる。
さらに、本実施形態における検出器1は、電子増幅用基板10のチャージアップ(帯電)も有効に抑制することができる。電子増幅用基板10を構成する電子増幅用細孔ガラスプレート18の薄板化を通じて貫通孔14の内壁面積を減少させ得るようにすることで、電子と同様にイオンについても貫通孔14の孔内の壁面への付着を抑えられるからである。つまり、電子増幅用細孔ガラスプレート18として、他のガラス材に比べて絶縁抵抗が高い感光性結晶化ガラスを用いた場合であっても、その薄板化の実現により、チャージアップを有効に抑制できるのである。また、電子増幅用細孔ガラスプレート18を形成する感光性結晶化ガラスはポリイミド等に比べると絶縁抵抗の低さにより帯電し難いものであることから、この点でもチャージアップが起こり難いと言える。
その上、本実施形態における検出器1は、電子増幅用基板10を構成する電子増幅用細孔ガラスプレート18の薄板化により、貫通孔14の孔径および配列ピッチの微細化を実現容易とする。貫通孔14等のアスペクト比が過大になるのを抑制できるからである。具体的には、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚が100〜150μm程度であれば、その電子増幅用細孔ガラスプレート18における単位面積当たりの画素数を10000画素/cm以上とすることが容易に実現可能となる。ここで「単位面積当たりの画素数」とは、電子増幅用細孔ガラスプレート18の単位面積当たりに形成されている貫通孔14の数のことをいう。つまり、一つの貫通孔14が1画素に相当することになる。このように、本実施形態における検出器1では、電子増幅用細孔ガラスプレート18に形成された貫通孔14の数が、検出分解能に直接的な影響を及ぼす。したがって、本実施形態における検出器1は、電子増幅用細孔ガラスプレート18の薄板化に伴う貫通孔14の孔径および配列ピッチの微細化によって、検出分解能(検出器1の解像度)の向上が図れるので、この点でも電子雪崩増幅を利用した検出器用途としては非常に好適である。しかも、フォトマスク15を用いたパターン転写技術の利用を可能にすることで、単に貫通孔14の小径化や狭ピッチ化等を実現するのみならず、各貫通孔14の径やピッチ等の均一性も高く保つことが可能となるので、この点でも検出分解能を向上させる上で非常に有効である。
なお、本実施形態で説明したように、電子雪崩増幅の際のゲインを確保し、かつ、検出分解能の向上を図れば、例えば読み出し電極4としてCCD等の撮像素子を用いることで、本実施形態で例に挙げたX線にとどまらず、可視光〜X線に対しても、電子雪崩増幅を利用しつつ、優れた位置分解能を持つイメージング検出器を構築し得るようにもなる。その場合には、上述したように電子増幅用細孔ガラスプレート18における単位面積当たりの画素数を増大させて高解像度化することが、非常に有用である。
また、本実施形態においては、貫通孔14の未形成状態における曲げ強度が150MPaより大きい感光性結晶化ガラスによって電子増幅用細孔ガラスプレート18が形成されている。つまり、電子増幅用細孔ガラスプレート18は、感光性結晶化ガラスによって形成されているので、150MPaより大きいという曲げ強度、すなわちソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス材料は勿論のこと、「PEG3」等の感光性ガラスであっても得られないような曲げ強度を有していることになる。したがって、このような優れた機械的特性を利用することで、上述した薄板化や貫通孔14の微細化等に対応する場合であっても、割れ等の破損が生じてしまうのを防止することができる。しかも、優れた機械的特性を利用することで、例えば300mm×300mmの矩形状といった従来では実現困難であった大面積の電子増幅用細孔ガラスプレート18を形成することも可能となる。
また、本実施形態においては、電子増幅用細孔ガラスプレート18における貫通孔14の孔径が100μm以下、配列のピッチが400μm以下で形成されている。つまり、電子増幅用細孔ガラスプレート18には、微粉噴射法等の機械加工では形成することができず、半導体製造プロセスで用いられる微細加工技術(詳しくはフォトマスク15を用いたパターン転写技術)を利用しなければ形成できない程度に微細化された貫通孔14が形成されている。したがって、検出器1における検出分解能を向上させる上で非常に好適である。
特に、貫通孔14の孔径については、100μm以下とすることで、以下のような効果が得られる。貫通孔14の孔径を小さくすれば(具体的には100μm以下)、これに伴って貫通孔14の配列ピッチも細かくできるので、その結果として検出分解能を向上させることができる。
また、貫通孔14の配列ピッチについては、400μm以下とすることで、以下のような効果が得られる。貫通孔14の配列ピッチを400μm以下とする場合、具体的には当該配列ピッチを例えば50〜400μmとすることが考えられる。50μm未満であると、電子増幅用細孔ガラスプレートの板厚を過度に薄くしなければならないからである。貫通孔14の配列ピッチが50〜400μmであれば、30〜350μmの孔径の貫通孔14を形成できるので、検出分解能もよくゲインもよく検出効率も維持できる。
また、本実施形態においては、電子増幅用細孔ガラスプレート18における板厚が500μm以下に形成されている。400μm以下であれば、電子増幅用基板10に用いた場合に、電子雪崩増幅を生じさせることができる。ただし、電子雪崩増幅に際して十分なゲインを得て、またチャージアップを抑制するためには、電子増幅用細孔ガラスプレート18の薄板化が有効である。このことから、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚は、好ましくは300μm以下とすることが考えられる。その一方で、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚が薄くなり過ぎると、電子雪崩増幅が起きず、放電が発生してしまう可能性も高くなる。そこで、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚は、より一層好ましくは100〜150μm程度とすることが考えられる。例えば、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚を100〜150μm程度とした場合であれば、ガス種類や印加電圧にもよるが、10を超える電子増倍率を得ることが実現可能となる。
<6.変形例等>
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上記の例示的な実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態では、チャンバ2内の電子増幅用基板10が一枚のみである場合を例示している。ただし、電子増幅用基板10は、チャンバ2内に複数枚が設けられていてもよい。電子増幅用基板10を複数枚備える構成の検出器1では、一枚のみの場合に比べると、装置構成の複雑化を招いてしまうが、電子雪崩増幅の際のゲインを増大させることが容易に実現可能となる。
また、上述した実施形態では、電子増幅用細孔ガラスプレート18における貫通孔14の孔径が100μm以下、配列のピッチが400μm以下で形成されている場合を例示しているが、必ずしもこのような範囲に限定されることはない。例えば、電子増幅用細孔ガラスプレート18の板厚が400μmであり、そこに形成される貫通孔14の孔径が200μm、配列のピッチが400μmの場合であっても、その電子増幅用細孔ガラスプレート18を用いて電子増幅用基板10を構成することで電子雪崩増幅を起こすことができる。
次に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明が、以下の実施例に限定されないことは勿論である。
(実施例1)
実施例1では、図4に示すように、貫通孔14が孔径30μm、配列ピッチ50μm、単位面積当たりの解像度が40000画素/cmで形成された板厚100μmの電子増幅用細孔ガラスプレート18の表裏面に1μm厚の導電層12が形成されてなる電子増幅用基板10について、以下のようなシミュレーションを行った。このような構成の電子増幅用基板10を、CF10%、Ne90%の混合ガスが温度300K、圧力1atmで充填された環境下に置き、各導電層12に500Vの電位差を与えたところ、図5に示すように貫通孔14の孔内で電界が収束され、図6または図7に示すように貫通孔14の孔内に侵入した電子が加速されて電子雪崩増幅が生じることがわかった。つまり、板厚100μmの電子増幅用細孔ガラスプレート18を用いた場合であっても、貫通孔14の孔内で電子雪崩増幅を生じさせることが可能であることが確認できた。
(実施例2)
実施例2では、図8に示すように、貫通孔14が孔径50μm、配列ピッチ70μm、単位面積当たりの解像度が20408画素/cmで形成された板厚100μmの電子増幅用細孔ガラスプレート18の表裏面に1μm厚の導電層12が形成されてなる電子増幅用基板10について、以下のようなシミュレーションを行った。このような構成の電子増幅用基板10を、CF10%、Ne90%の混合ガスが温度300K、圧力1atmで充填された環境下に置き、各導電層12に500Vの電位差を与えたところ、図9に示すように貫通孔14の孔内で電界が収束され、図10または図11に示すように貫通孔14の孔内に侵入した電子が加速されて電子雪崩増幅が生じることがわかった。つまり、ここでも、上述した実施例1の場合と同様に、板厚100μmの電子増幅用細孔ガラスプレート18を用いた場合であっても、貫通孔14の孔内で電子雪崩増幅を生じさせることが可能であることが確認できた。
(実施例3)
実施例3では、図12に示すように、貫通孔14が孔径100μm、配列ピッチ360μm、単位面積当たりの解像度が774画素/cmで形成された板厚150μmの電子増幅用細孔ガラスプレート18を用いて構成された電子増幅用基板10を、検出器1のチャンバ2内に配置した。チャンバ2内には、Ne+CFの混合ガスが圧力1atmで充填されており、また外部の放射線源から100μmφでコリメートされた6keVのX線が入射されるようになっている。さらに、チャンバ2内では、ドリフト電極3と電子増幅用基板10との間隔が5mm、そこに印加される電位差ΔVDriftが50V、電子増幅用基板10と読み出し電極4との間隔が2mm、そこに印加される電位差ΔVInductionが100Vとなるように、それぞれが配置されている。このような状況下で、電子増幅用基板10における各導電層12の間に可変可能な電位差(ギャップ電位)ΔVGAPを与えつつ、読み出し電極4および当該読み出し電極4の側の導電層12にて電子雪崩増幅の際のゲイン特性を調べたところ、図13に示すような結果が得られた。この結果によれば、各導電層12の電位差ΔVGAPが580V程度であれば、電子増幅用基板10が一枚のみの場合であっても、電子雪崩増幅に際して十分なゲイン、すなわち10程度の電子増倍率が得られることがわかる。このように、実施例3では、後述する実施例8の場合に比べて解像度は落ちるが、電子増倍率が10以上となり得る。
なお、電子増幅用細孔ガラスプレート18として感光性結晶化ガラスを用いていれば、ソーダ石灰ガラスや耐熱ガラス等のガラス材料に比べると絶縁抵抗が高いことから、図12に示したように導電層12からもギャップアウト信号を得ることができる。このギャップアウト信号は、例えば検出器1所定動作開始を指示するトリガー信号といった利用をすることが考えられる。
(実施例4)
実施例4では、実施例3の場合と同様の状況下で(図12参照)、各導電層12の電位差ΔVGAPを540V程度に設定し、読み出し電極4および当該読み出し電極4の側の導電層12にてエネルギー分解能を調べたところ、図14に示すような結果が得られた。ここで「エネルギー分解能」とは、放射線エネルギー測定の精度を表す指標のことをいう。X線等のエネルギーを測定する際に、その全エネルギーを検出器中で失うと、そのエネルギースペクトルは原理的には線スペクトルとなるが、実際の検出器では、ある広がりを持った分布スペクトルとして検出される。そのスペクトル分布の広がりを表したものがエネルギー分解能であり、広がりが狭いほど検出能力(精度)が高いことを意味する。図14の結果によれば、導電層12からのギャップアウト信号で15.7%程度、読み出し電極4からのアノード信号で17.2%程度のエネルギー分解能であり、ソーダ石灰ガラス等のガラス材料を用いた場合(例えば23%程度のエネルギー分解能)に比べて広がりが狭く、良好な検出結果が得られていることがわかる。これは、電子増幅用細孔ガラスプレート18として感光性結晶化ガラスを用いることで、各貫通孔14の微細化が実現でき、しかも各々の孔についてバラツキ等がなく均一性が高く保たれているためと考えられる。
(実施例5)
実施例5では、実施例3の場合と同様の状況下で(図12参照)、各導電層12の電位差ΔVGAPを530V程度に設定し、放射線源からのX線照射のオン/オフを図15(a)に示すように時間経過に伴って切り替えるようにした。その場合において、時間経過に伴うゲイン変動を調べたところ、図15(b)に示すように時間経過によるゲインの波高値に変動が認められないことがわかった。これは、電子増幅用基板10のチャージアップを有効に抑制できているからと考えられる。なお、比較のため、ポリイミドからなる一般的なGEMを利用した場合における時間経過に伴うゲイン変動を図15(c)に示す。この結果によれば、照射直後の10分間で28%程度のダウンが生じていることが認められるが、これは感光性結晶化ガラスを用いた場合とは異なり、チャージアップを有効に抑制できていないからと考えられる。
(実施例6)
実施例6では、実施例3の場合と同様の状況下で(図12参照)、各導電層12の電位差ΔVGAPを530V程度に設定し、放射線源からのX線照射のレート(Hz)を可変させた。その場合において、レート可変に伴うエネルギースペクトルのピークチャンネルおよびエネルギー分解能を調べたところ、図16に示すようにいずれについてもレート可変による変動が抑えられていることがわかった。これは、上述した実施例5の場合と同様に、電子増幅用基板10のチャージアップを有効に抑制できているからと考えられる。
(実施例7)
実施例7では、実施例3の場合と同様の状況下で(図12参照)、各導電層12の電位差ΔVGAPを530V程度に設定し、放射線源からのX線照射の位置を可変させた。ここでの位置は、電子増幅用基板10に対するX線照射の平面的な位置である。その場合において、X線照射位置可変に伴うエネルギースペクトルのピークチャンネルを調べたところ、図17に示すような結果が得られた。この結果によれば、X線の照射位置を変えても、例えば15mm程度の照射位置の変化に対してピークチャンネルは±3%以内で一定であることがわかる。これは、電子増幅用細孔ガラスプレート18として感光性結晶化ガラスを用いることで、各貫通孔14の微細化が実現でき、しかも各々の孔についてバラツキ等がなく均一性が高く保たれているためと考えられる。
(実施例8)
実施例8では、貫通孔14が孔径50μm、配列ピッチ70μm、単位面積当たりの解像度が20408画素/cmで形成された板厚130μmの電子増幅用細孔ガラスプレート18を用いて構成された電子増幅用基板10を、検出器1のチャンバ2内に配置した。チャンバ2内には、Ne+CFの混合ガスが圧力1atmで充填されており、また外部の放射線源から100μmφでコリメートされた6keVのX線が入射されるようになっている。さらに、チャンバ2内では、ドリフト電極3と電子増幅用基板10との間隔が5mm、そこに印加される電位差ΔVDriftが50V、電子増幅用基板10と読み出し電極4との間隔が2mm、そこに印加される電位差ΔVInductionが100Vとなるように、それぞれが配置されている。このような状況下で、電子増幅用基板10における各導電層12の間に可変可能な電位差(ギャップ電位)ΔVGAPを与えつつ、読み出し電極4および当該読み出し電極4の側の導電層12にて電子雪崩増幅の際のゲイン特性を調べたところ、図18に示すような結果が得られた。この結果によれば、各導電層12の電位差ΔVGAPが600V程度であれば、10程度の電子増倍率が得られることがわかる。本実施例によれば、微細な配列ピッチで高い解像度でありながら、電子増幅倍率が高水準であることがわかる。
1…検出器、2…チャンバ、3…ドリフト電極、4…読み出し電極、10…電子増幅用基板、11…板状部材、12…導電層、13…積層体、14…貫通孔、18…電子増幅用細孔ガラスプレート

Claims (6)

  1. ガス中での電子雪崩増幅を利用して電離電子についての測定を行う検出器に用いられる電子増幅用細孔ガラスプレートであって、
    板状部材に二次元配列された複数の貫通孔が設けられてなるとともに、
    前記板状部材が感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスによって形成されている
    ことを特徴とする電子増幅用細孔ガラスプレート。
  2. 前記感光性結晶化ガラスは、前記貫通孔の未形成状態における曲げ強度が150MPaより大きい
    ことを特徴とする請求項1記載の電子増幅用細孔ガラスプレート。
  3. 前記複数の貫通孔は、孔径が100μm以下で形成されている
    ことを特徴とする請求項1または2記載の電子増幅用細孔ガラスプレート。
  4. 前記複数の貫通孔は、配列のピッチが400μm以下で形成されている
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子増幅用細孔ガラスプレート。
  5. 前記板状部材は、板厚が500μm以下に形成されている
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子増幅用細孔ガラスプレート。
  6. 板状部材に二次元配列された複数の貫通孔が設けられてなるとともに、前記板状部材が感光性ガラスを結晶化して得られる感光性結晶化ガラスによって形成されている電子増幅用細孔ガラスプレートと、
    前記電子増幅用細孔ガラスプレートの表裏面に形成された導電層を有してなり、当該表裏面の間に電位差を与えることで前記貫通孔内に電界を形成する電極と、
    前記電子増幅用細孔ガラスプレートおよび前記電極をガス中に配置するためのチャンバとを備え、
    前記ガス中で前記貫通孔内に形成された電界によって起こる電子雪崩増幅を利用して電離電子についての測定を行うように構成された
    ことを特徴とする検出器。
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