JPWO2013084532A1 - 排尿障害の予防・治療剤 - Google Patents
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Abstract
Description
このように、排尿障害一般の予防および治療に対するニーズは非常に大きいが、十分な解決策が得られていないのが現状である。
[1]プロスルチアミンもしくはフルスルチアミンまたはそれらの代謝産物あるいはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、排尿障害の予防または治療剤。
[2]有効成分がプロスルチアミンまたはその医薬的に許容される塩である、上記[1]に記載の剤。
[3]排尿障害が蓄尿症状を呈するものである、上記[1]または[2]に記載の剤。
[4]蓄尿症状が、昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、および/または尿失禁である、上記[3]に記載の剤。
[5]排尿障害が、神経因性膀胱、間質性膀胱炎、および/または過活動膀胱に付随するものである、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の剤。
[6]神経因性膀胱が、痴呆、脳血管障害、脳外傷、脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、パーキンソン病、Shy-Drager症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、HTLV−I関連脊髄症、脊髄損傷、脊髄腫瘍、脊髄炎、ミエロパシー、脊髄血管障害、脊椎の疾患、二分脊椎症、多発性硬化症、糖尿病、ビタミンB12欠損神経障害、骨盤腔内手術、脊椎の疾患、および馬尾神経腫瘍からなる群から選択される原因に付随するものである、上記[5]に記載の剤。
[7]過活動膀胱が、HTLV−I関連脊髄症、脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍、脊髄損傷、多発性硬化症、α1受容体遮断薬抵抗性の前立腺肥大症、および、加齢による膀胱容量の低下からなる群から選択される1以上の疾患または状態に付随するものである、上記[5]に記載の剤。
[8]排尿障害が、HTLV−I関連脊髄症に付随する神経因性膀胱および/または過活動膀胱を伴うものである、上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の剤。
上位型の原因疾患としては、以下に限定されるものではないが、例えば、痴呆、脳血管障害、脳外傷、脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、パーキンソン病、Shy-Drager症候群、オリーブ橋小脳萎縮症等の脳障害;HTLV−I関連脊髄症(HAM)、脊髄損傷、脊髄腫瘍、脊髄炎、ミエロパシー、脊髄血管障害、脊椎の疾患(頸椎症、椎間板ヘルニア、頸部後縦靱帯骨化症等)、二分脊椎症、多発性硬化症等の脊髄障害等が挙げられ、本発明の薬剤は、これらの疾患のいずれに付随する上位型の神経因性膀胱を伴う排尿障害も、好ましい対象とする。
一方、下位型の原因疾患としては、以下に限定されるものではないが、例えば、糖尿病、アルコール中毒、ビタミンB12欠損神経障害、骨盤腔内手術(子宮癌、直腸癌根治療)、脊椎の疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離、すべり症)、Guillan-Barre症候群、骨盤骨折、馬尾神経腫瘍等の末梢神経障害等が挙げられる。限定されるものではないが、本発明の薬剤は、これらの疾患等のうち特に、糖尿病、ビタミンB12欠損神経障害、骨盤腔内手術(子宮癌、直腸癌根治療)、脊椎の疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離、すべり症)、馬尾神経腫瘍による末梢神経障害に付随する下位型の神経因性膀胱を伴う排尿障害に対して好ましく使用され得る。
また、神経因性膀胱は、排尿筋−括約筋協調不全(DSD)、過活動膀胱、および間質性膀胱炎のうちの1つ以上も伴うものであり得、そのような神経因性膀胱に対して、本発明の薬剤を使用することもまた、好ましい。
投与量は対象疾患、症状、投与対象、投与方法などによって異なるが、例えば、成人(体重50kg)1人に対して、経口投与する場合には、有効成分(例、プロスルチアミン、フルスルチアミン等)として約0.5mg〜1000mg/日、好ましくは約10mg〜500mg/日を1回または2ないし3回に分けて投与するのが好ましい。成人(体重50kg)1人に対して、非経口投与する場合には、有効成分(例、プロスルチアミン、フルスルチアミン等)として約0.1〜50mg/日、好ましくは約2〜20mg/日を1回または2ないし3回に分けて投与するのが好ましい。
また、投与期間についても、対象疾患、症状、投与対象、投与方法、投与の目的などによって異なるが、例えば、上述の好ましい投与量で、通常2週間以上、好ましくは4週間以上、より好ましくは8週間以上、更に好ましくは12週間以上である。所期の効果が得られるにつれて投与量を低減していったり、投与を中止したりすることもできる。
排尿障害を伴うHAM患者に対してプロスルチアミンを経口投与し、排尿障害に対する治療効果を確認することを目的として、臨床研究を行った。投与によるHTLV-Iウイルス量の減少効果についてもあわせて試験した。
実施場所:長崎大学病院
対象:15例のHAM患者(女性10例、男性5例、年齢:44-80歳)(表1)
投与方法:プロスルチアミン(製造元:Ildon Pharmaceutical Co., Ltd.(韓国)輸入元:渡辺ケミカル(輸入貨物の申請事務手続き代理人)商品名:Prosultiamine(プロスルチアミン原末))の経口用カプセルを12週間、1日1回、300mg/日の用量で連日経口投与した。
検査方法:尿量動態検査(urodynamic study;UDS)およびHTLV-Iプロウイルス量の測定を以下の通りに行った。また、治療開始時(0W)、ならびに治療の4週間目(4W)、8週間目(8W)、12週間目(12W)に、被験者に、夜間頻尿特異的QOL、および過活動膀胱に関するQOLについての質問表に回答してもらった。
・尿量動態検査について
以下の項目について、ウロダイナミック検査装置(Mediwatch社のDuet Logic G2, Urodyn 1000 system)を用いて測定した。
<ウロダイナミック装置にて直接的に分かること>
(1)膀胱容量:膀胱内に蓄尿し、最大尿意時の容量を機械で判定する。
(2)1回排尿量:蓄尿後に患者に排尿してもらい、その量をウロダイナミック装置に付属している尿流測定器で測定する。
(3)最大尿流量:排尿時の尿流はウロダイナミック装置に付属している尿流測定器で測定する。
(4)排尿筋圧:排尿時の膀胱排尿筋圧は、膀胱内に挿入した圧センサーで確認する。
(5)DSD(排尿筋括約筋協調不全)の有無:排尿時に、排尿筋圧と尿道括約筋筋電図を用いて評価する。排尿筋圧が上昇しているにも関わらず、尿道括約筋の収縮が起きている場合に陽性と判断する。
(6)OAB(過活動膀胱)の有無:蓄尿時に出現する、自覚症状である切迫感があれば陽性と判断する。
<ウロダイナミック装置にて間接的に分かること>
(7)残尿量:膀胱容量と1回排尿量との差を調べることで測定する。
・プロウイルス量の測定について
被験者から採取した末梢血中のHTLV-Iプロウイルス量をreal-time quantitative PCR法を用いて測定することにより行った。
・質問表について
夜間頻尿特異的QOL(N-QOL)の質問表は、概しては、夜間に尿をするために起きなければならなかったことに起因する日中の生活への影響、および心理的な不安や苦痛、煩わしさ等に関する12の質問に対する5段階評価(0:影響または不安等が全くない〜4:影響または不安等が非常に大きい)(Q1〜Q12)に加えて、夜間に尿をするために起きなければならないことがどのくらい日常生活を妨げているかの総合的な11段階評価(0:全体として日常生活の妨げが全くない〜10: 全体として日常生活の妨げが非常にある)(Q13)を含むものであった。
一方、過活動膀胱に関する質問表は、1.日中排尿の回数の3段階評価(0:7回以下、1:8〜14回、2:15回以上)、2.夜間排尿の回数(尿をするために何回くらい起きたか)の4段階評価(0:0回、1:1回、2:2回、3:3回以上)、3.尿意切迫感の発生頻度の6段階評価(0:なし、1:週に1回より少ない、2:週に1回以上、3:1日1回くらい、4:1日2〜4回、5:1日5回以上)、4.切迫性尿失禁の発生頻度の6段階評価(0:なし、1:週に1回より少ない、2:週に1回以上、3:1日1回くらい、4:1日2〜4回、5:1日5回以上)を含み、さらにこれらの点数を合計した。
(倫理面への配慮)
本臨床試験は長崎大学倫理委員会の承認を受け、また、施行時には研究の内容を十分に説明した上で、文書によるインフォームド・コンセントを得て行なった。
下記表1に、投与開始前と12週間の投与後とにおけるDSDの有無、OABの有無、およびHTLV-Iプロウイルス量を、被験者の性別および年齢と共に示す。
また、詳細な原因は不明であるが、HAM患者の半数近くにOABの合併があるとされる。本試験においては、投与開始前に9人(9/15人、60%)がOABに陽性であったが、投与12週後に全例についてOABが消失した。このことは、プロスルチアミンが排尿筋、あるいは膀胱間質や膀胱上皮の感覚センサーに作用し、直接的または間接的にOABの誘発を阻害している可能性を示唆している。
一方、HTLV-Iプロウイルス量の変化について、15例全体では有意差を伴って減少が認められたが、表1の下線からも分かるように、排尿障害の改善とウイルス量の減少とは必ずしも一致しなかった。
・膀胱容量
15例中11例において膀胱容量の増加が見られ、平均としても治療前の362.9mlから治療後には440.1mlに増加した。正常の膀胱容量は400-500mlであり、当院でUDSを行う際の生理食塩水の膀胱内注入最大量は約500mlである。そのことを踏まえてみても、治療後には有意差をもって、膀胱容量は改善していると言える。
・1回排尿量
治療の前後で有意差は見られなかったが、下記2つの特筆すべき点が見られた:1)1名で新たに自排尿が可能になったこと;2)投与前に100ml前後であった患者の一回排尿量について、3人中2人で1回排尿量が増加していた。
・残尿率
治療の前後で明らかな有意差はなかった。
・最大尿流量
治療の前後で明らかに有意差が認められた。また、自排尿が出現した症例が1名存在した。最大尿流量の改善は、DSDの消失と排尿筋圧の改善とが合いまった結果であると思われる。
・排尿筋圧
排尿筋圧の改善が12例(80%)で見られた。HAM症例において、排尿中枢より下位の末梢性神経因性膀胱患者に対して、末梢神経病変にプロスルチアミンが作用する可能性が示唆される。
換算得点(100点満点) = [{48 - (Q1〜Q12までの素点の総和)} / 12] * 100
質問表に関する上記の説明から明らかなように、図6のグラフでは点数が高いほどQOLが低いことを表し、一方図7のグラフでは、点数が高いほどQOLが高いことを表している。これらのグラフに示されるように、プロスルチアミン治療は、治療期間の経過につれて患者における夜間頻尿の改善を有意にもたらした。また、過活動膀胱に関する質問表の合計スコアについて、今回の実験では有意差は得られなかったが、全体的に改善傾向が見られた。
以上の結果から、プロスルチアミン治療により、患者の膀胱容量が大きくなり、かつ排尿筋圧が上昇する、すなわち、膀胱が広がりやすくなり、排尿し易くなることが確認できた。特に興味深いことに、プロスルチアミンの投与は、HTLV-Iプロウイルス量の減少を伴わずに排尿障害の改善効果を与えることが分かった。これらの結果は、プロスルチアミンによる排尿障害の改善は、HAM特異的な症状の改善に限られず、神経因性膀胱、間質性膀胱炎、過活動膀胱等を伴う一般の排尿障害に対して有効である可能性を示唆している。
上記の知見に基づき、非HAM患者における非神経因性過活動膀胱に対するプロスルチアミンの治療効果を確認することを目的として、臨床試験を行った。
長崎大学病院にて、上記のHAM患者に対する試験と同様の方法(即ち、1日1回、300mg/日の用量で12週間連日経口投与)でプロスルチアミンを投与した。対象とした症例は下記の通りである。
症例1:75歳男性、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱の患者
症例2:55歳女性、非神経因性過活動膀胱の患者
いずれの症例も、神経因性膀胱、泌尿器癌、尿路感染症を伴わず、試験に不適格とするその他の要因も見られなかった。また、HAM患者に対する試験と同様に、倫理面への配慮を行った。
治療開始時(0W)、治療開始から4週間後(4W)、8週間後(8W)および12週間後(12W)において、下記(1)〜(4)の検査項目で効果の評価を行った。副作用の有無については、適時に報告するよう患者に指示した。
(1)国際前立腺肥大症症状スコア(IPSS)
1ヶ月の間に、1. 残尿感があったか否か、2. 2時間以内に2回以上の排尿を必要とすることがあったか否か、3. 尿を我慢するのが難しいことがあったか否か、4. 尿の勢いが弱いことがあったか否か、5. 排尿開始のために腹部に力を入れることがあったか否かの5項目についての6段階評価(0:全くない、1:5回に1回の割合より少ない、2:2回に1回の割合より少ない、3:2回に1回の割合くらい、4:2回に1回の割合より多い、5:ほとんどいつも)、および6. 夜寝てから朝起きるまでに排尿のために起きた回数の6段階評価(0:0回、1:1回、2:2回、3:3回、4:4回、5:5回以上)を回答してもらった。上記の項目1-6のスコアを合計した。また、QOL(「現在の尿の状態がこのまま変わらず続くとしたらどう思うか?」)に関して7段階評価(0:とても満足、1:満足、2:ほぼ満足、3:何とも言えない、4:やや不満、5:嫌だ、6:とても嫌だ)で回答してもらった(IPSS-QOL)。
(2)過活動膀胱症状スコア(OABSS)
(3)夜間頻尿QOL質問表(N-QOL)
(4)尿流測定(1回排尿量、残尿量、最大尿流率)
上記(2)〜(4)については、上記したHAM患者に対する試験と同じ方法により評価した。
以下の結果が得られた。
(1)国際前立腺肥大症症状スコア(IPSS)
上記した6項目のトータルスコアについて、いずれの症例においても改善が見られた(図8)。一方、IPSS-QOLについて、症例1では有意な改善は認められなかったが、症例2ではQOLの向上が得られた(試験開始時のスコア: 5、12週間後のスコア: 3)。
(2)過活動膀胱症状スコア(OABSS)
上記した4項目のトータルスコアについて、症例1では有意な改善は認められなかったが、症例2では軽快が見られた(図9)。顕著なこととして、症例2において尿失禁が消失した(上記質問4のスコア: 0Wで2点、12Wで0点)。また、いずれの症例においても、質問3(切迫性)について改善が見られた(上記質問3のスコア:症例1について0Wで3点、12Wで1点、症例2について0Wで2点、12Wで1点)。
(3)夜間頻尿QOL質問表(N-QOL)
上記のQ1-Q12のトータルスコアについて、症例1で改善(睡眠/活力の改善および悩み/心配の減少)が見られた。一方、症例2は夜間頻尿について元々悪くなかった。
(4)尿流測定(1回排尿量、残尿量、最大尿流率)
症例1では有意な改善は認められなかった。一方、症例2では、1回排尿量(図10)および最大尿流率(図11)において劇的な改善が見られた。
いずれの症例についても、プロスルチアミン治療により全体的に改善傾向が認められた。いずれの症例においても尿切迫感の改善が認められ、特に症例2では、1回排尿量および最大尿流率において劇的な改善が認められた。また、女性に特徴的な切迫性尿失禁が消失した意義は大きい。
以上の結果は、本発明による治療が、HAMに付随する排尿障害のみならず、非HAM患者における排尿障害に対しても有効であることを示唆している。
Claims (8)
- プロスルチアミンもしくはフルスルチアミンまたはそれらの代謝産物あるいはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、排尿障害の予防または治療剤。
- 有効成分がプロスルチアミンまたはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の剤。
- 排尿障害が蓄尿症状を呈するものである、請求項1または2に記載の剤。
- 蓄尿症状が、昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、および/または尿失禁である、請求項3に記載の剤。
- 排尿障害が、神経因性膀胱、間質性膀胱炎、および/または過活動膀胱に付随するものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
- 神経因性膀胱が、痴呆、脳血管障害、脳外傷、脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、パーキンソン病、Shy-Drager症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、HTLV−I関連脊髄症、脊髄損傷、脊髄腫瘍、脊髄炎、ミエロパシー、脊髄血管障害、脊椎の疾患、二分脊椎症、多発性硬化症、糖尿病、ビタミンB12欠損神経障害、骨盤腔内手術、脊椎の疾患、および馬尾神経腫瘍からなる群から選択される原因に付随するものである、請求項5に記載の剤。
- 過活動膀胱が、HTLV−I関連脊髄症、脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍、脊髄損傷、多発性硬化症、α1受容体遮断薬抵抗性の前立腺肥大症、および、加齢による膀胱容量の低下からなる群から選択される1以上の疾患または状態に付随するものである、請求項5に記載の剤。
- 排尿障害が、HTLV−I関連脊髄症に付随する神経因性膀胱および/または過活動膀胱を伴うものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の剤。
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