JPWO2012137771A1 - アジピン酸の製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明はバイオマス資源由来の炭素源の存在下で、ロドバクター(Rhodobacter)属に属し、炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、その培養物からアジピン酸を採取するアジピン酸の製造方法、及びロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)を提供する。
Description
本発明は、微生物を用いたアジピン酸の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、炭素源の存在下で、ロドバクター(Rhodobacter)属に属し、炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、その培養物からアジピン酸を採取するアジピン酸の製造方法、及び前記アジピン酸を生産する能力を有するロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株に関する。
アジピン酸は、ナイロン6,6、ウレタン、可塑剤などの種々の有機化学製品の原料として使用されている。アジピン酸は、現在、化学合成法、例えば、シクロヘキサノール単独、またはシクロヘキサノールとシクロヘキサノンとの混合物(K/Aオイル)を硝酸で酸化する方法等により製造されている。一方、最近では地球温暖化防止及び環境保護の観点から、炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を従来の化石原料の代替として用いることが注目されており、これまでに、微生物の発酵法を利用したアジピン酸の製造方法も開発されてきている。
例えば、特許文献1(特開昭64−23894号公報)には、シクロヘキサノール、シクロヘキサノンあるいはその混合物よりアジピン酸を製造する能力を有するアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物を、シクロヘキサノール、シクロヘキサノンあるいはその混合物に作用させるアジピン酸の製造方法が開示されている。また、非特許文献1(N.A.Donoghue, P.W.Trudgill, Eur.J.Biochem., 60, 1-7(1975))には、アシネトバクター(Acinetobacter)属に属する微生物がシクロヘキサノールを資化してアジピン酸を生産することが開示されている。しかし、これらは、化石原料由来の前駆体を利用しており、生物由来資源の利用については開示していない。
生物由来資源を用いたものでは、例えば、特許文献2(国際公開第1995/007996号パンフレット)には、遺伝子組み換え体を用いて生物由来炭素源をcis, cis−ムコン酸に変換し、cis, cis−ムコン酸を水素化してアジピン酸を生産する方法が開示されている。特許文献3(国際公開第2010/104391号パンフレット)には、遺伝子組み換え体を用いてα−ケトグルタル酸からアジピン酸を生産する方法が開示されている。また、特許文献4(国際公開第2009/111513号パンフレット)には、二酸化炭素と水から炭素をベースとする化合物を合成することのできる遺伝子が組み換えられた微生物(an engineered microbial host cell)を開示し、多数列挙された微生物の1例としてロドバクター属が記載されており、また多数列挙された合成可能な炭素をベースとする化合物の1つとしてアジピン酸が記載されている。しかしながら、これらはいずれも遺伝子が組み換えられた微生物を用いたものであり、特許文献4にはアジピン酸を合成する実施例は示されていない。
以上のように、これまで自然界からアジピン酸を直接発酵生産する微生物が分離された事例は知られていない。
以上のように、これまで自然界からアジピン酸を直接発酵生産する微生物が分離された事例は知られていない。
N.A.Donoghue, P.W.Trudgill, Eur.J.Biochem., 60, 1-7(1975)
本発明は、バイオマス資源由来などの炭素源から、アジピン酸を直接発酵生産する能力を有する自然界に存在する微生物、及びその微生物を用いたアジピン酸の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は上記課題に対し、既存の公知微生物、及び土壌等の環境中より得られる広範な微生物属を対象として鋭意検討を重ねた結果、アジピン酸を生産する能力を有するロドバクター属に属する新規な微生物を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の事項からなる。
[1]炭素源の存在下で、ロドバクター(Rhodobacter)属に属し、炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、その培養物からアジピン酸を採取することを特徴とするアジピン酸の製造方法。
[2]バイオマス資源由来の炭素源を使用する前項1に記載のアジピン酸の製造方法。
[3]前記ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物が、ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)である前項1に記載のアジピン酸の製造方法。
[4]炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有するロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)。
[1]炭素源の存在下で、ロドバクター(Rhodobacter)属に属し、炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、その培養物からアジピン酸を採取することを特徴とするアジピン酸の製造方法。
[2]バイオマス資源由来の炭素源を使用する前項1に記載のアジピン酸の製造方法。
[3]前記ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物が、ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)である前項1に記載のアジピン酸の製造方法。
[4]炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有するロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)。
本発明によれば、炭素源の存在下でロドバクター属に属する微生物を通常の方法で培養するという極めて簡便な方法でアジピン酸を取得することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のアジピン酸の製造方法は、炭素源の存在下に、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物を作用させることを特徴とする。従来、自然界に生育するロドバクター属に属する微生物をそのまま用いてアジピン酸を生産できることは知られていない。
本発明のアジピン酸の製造方法は、炭素源の存在下に、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物を作用させることを特徴とする。従来、自然界に生育するロドバクター属に属する微生物をそのまま用いてアジピン酸を生産できることは知られていない。
本発明で使用される微生物は、ロドバクター(Rhodobacter)属に属し、バイオマス資源由来炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する菌株であればどのようなものでも使用できる。このような微生物の探索は、以下のようにして行うことができる。
例えば、土壌や活性汚泥などの微生物源を、適当な希釈倍率、具体的には103〜109程度の倍率に希釈し、バイオマス由来炭素源を含む固体培地、例えばLB寒天培地に塗沫し、コロニーを形成させることで微生物を分離する。さらに単離された微生物を、バイオマス由来炭素源を含む液体培地、例えば酢酸を炭素源とする最少培地で振盪培養する。得られた培養液について、アジピン酸の検出に適した既知の分析法、例えば、培養液を蒸発乾固し、存在する有機酸類に対し、ブチルエステル化などの誘導体化処理を行い、GC−MSにより分析することにより、アジピン酸の生成を確認する。このようにして、バイオマス資源由来の炭素源を資化してアジピン酸を生産する微生物を得ることができる。
例えば、土壌や活性汚泥などの微生物源を、適当な希釈倍率、具体的には103〜109程度の倍率に希釈し、バイオマス由来炭素源を含む固体培地、例えばLB寒天培地に塗沫し、コロニーを形成させることで微生物を分離する。さらに単離された微生物を、バイオマス由来炭素源を含む液体培地、例えば酢酸を炭素源とする最少培地で振盪培養する。得られた培養液について、アジピン酸の検出に適した既知の分析法、例えば、培養液を蒸発乾固し、存在する有機酸類に対し、ブチルエステル化などの誘導体化処理を行い、GC−MSにより分析することにより、アジピン酸の生成を確認する。このようにして、バイオマス資源由来の炭素源を資化してアジピン酸を生産する微生物を得ることができる。
このようにして見出されたロドバクター属に属する微生物としては、例えば、本発明者により、昭和電工(株)社で日本国内の活性汚泥より、ポリペプトンと酵母エキスを炭素源、及びエネルギー源とする培地を用いて分離された、ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株が挙げられるが、この菌株に限らず、ロドバクター属に属し、バイオマス資源由来の炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する菌株であれば、それらの変異株、例えば、紫外線、エックス線、放射線、薬品など野変異処理により取得できる人工変異株及び自然変異株を全て本発明に使用することができる。
ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2011年3月31日(原寄託日)付けで寄託申請し(受領番号NITE AP-1082)、「受託番号:NITE P−1082」として国内受託され、その後、2012年1月30日(移管日)付で同特許微生物寄託センターに国際移管請求し、「受託番号:NITE BP−1082」として国際受託されている。
ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株の分類的性状は以下に示す通りである。
<菌学的性質>
形態:桿菌、グラム染色:陰性、胞子形成:形成しない、運動性:なし、オキシダーゼ:陽性、カタラーゼ:陽性、集落の性状:淡黄色,スムーズ,不透明、硝酸塩還元:陰性、インドール産生:陰性、ブドウ糖酸性化:陰性、アルギニンジヒドロラーゼ:陰性、ウレアーゼ:陰性、エスクリン加水分解:陽性、ゼラチン加水分解:陰性、β−ガラクトシダーゼ:陰性、各種化合物の資化性:グルコース、L−アラビノース、D−マンノース、D−マンニトール、マルトース、dl−リンゴ酸、N−アセチル−D−グルコサミン、グルコン酸カリウム、n−カプリン酸、アジピン酸、クエン酸ナトリウム及び酢酸フェニルを資化しない。
形態:桿菌、グラム染色:陰性、胞子形成:形成しない、運動性:なし、オキシダーゼ:陽性、カタラーゼ:陽性、集落の性状:淡黄色,スムーズ,不透明、硝酸塩還元:陰性、インドール産生:陰性、ブドウ糖酸性化:陰性、アルギニンジヒドロラーゼ:陰性、ウレアーゼ:陰性、エスクリン加水分解:陽性、ゼラチン加水分解:陰性、β−ガラクトシダーゼ:陰性、各種化合物の資化性:グルコース、L−アラビノース、D−マンノース、D−マンニトール、マルトース、dl−リンゴ酸、N−アセチル−D−グルコサミン、グルコン酸カリウム、n−カプリン酸、アジピン酸、クエン酸ナトリウム及び酢酸フェニルを資化しない。
<16SrDNA解析>
本菌株より常法で得られた16SrDNA約1500塩基対領域配列の、BLASTを用いたGenbank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索によれば、本配列は一連のロドバクター(Rhodobacter)属近縁微生物の16SrDNA 配列に高い相同性が見られた。相同性上位配列群の常法による簡易分子系統解析の結果、本菌株はロドバクター(Rhodobacter)属の種で形成されるクラスターに含まれたが、同クラスター内における相同性は最大で96.8%であり、ロドバクター(Rhodobacter)属の既存種のいずれとも異なる分子系統学的位置を示した。
本菌株より常法で得られた16SrDNA約1500塩基対領域配列の、BLASTを用いたGenbank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索によれば、本配列は一連のロドバクター(Rhodobacter)属近縁微生物の16SrDNA 配列に高い相同性が見られた。相同性上位配列群の常法による簡易分子系統解析の結果、本菌株はロドバクター(Rhodobacter)属の種で形成されるクラスターに含まれたが、同クラスター内における相同性は最大で96.8%であり、ロドバクター(Rhodobacter)属の既存種のいずれとも異なる分子系統学的位置を示した。
<分類>
上記菌学的性質のBergey's Manual of Systematic Bacteriology Vol.2(2005)との照合結果、及び16SrDNAの解析結果を総合し、本菌株をロドバクター(Rhodobacter)属微生物と推定し、ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株と命名した。
上記菌学的性質のBergey's Manual of Systematic Bacteriology Vol.2(2005)との照合結果、及び16SrDNAの解析結果を総合し、本菌株をロドバクター(Rhodobacter)属微生物と推定し、ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株と命名した。
本発明のアジピン酸の製造方法は、最も簡便には、例えばロドバクターSD850をLB培地などの栄養培地で20〜40℃、望ましくは25〜30℃の温度で24時間程度培養したのち、通常の炭素源、例えば0.01〜5質量%、望ましくは0.1〜2質量%の酢酸を炭素源とする最小培地に移殖し、引き続き同様の温度で1〜200時間程度培養し、その過程で培養液中にアジピン酸を蓄積させることにより行われる。また菌の増殖・反応の進行による炭素源の消費に応じて、連続的あるいは間欠的に炭素源を添加してもよく、この場合の炭素源の反応液中濃度は前記の範囲に限られない。
微生物を培養しアジピン酸を得るための培地炭素源としては、バイオマス資源由来のものが好ましく用いられる。本発明でいうバイオマス資源とは、植物の光合成作用で太陽の光エネルギーがデンプンやセルロースなどの形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体や、植物体や動物体を加工してできる製品等が含まれる。この中でも、より好ましいバイオマス資源としては、例えば、資源作物、具体的には、米、麦、イモ類、とうもろこしなどの農産資源、菜種、落花生などの油脂資源、サトウキビ、テンサイなどの糖質資源等、未利用バイオマス、具体的には、野草、ススキ、葦などの草資源、林地残材などの林産資源、稲わら、籾殻、米ぬか、麦わら、とうもろこしわら、コーンコブ、バガス、廃糖蜜などの農産資源等、廃棄物系バイオマス、具体的には、食品加工残渣、家畜排泄物などの畜産資源、古紙、パルプ廃液などの製紙由来資源、製材残材、建築廃材等の木質資源、下水汚泥、等が挙げられる。これらの中でも、米、麦、イモ類、とうもろこし、林地残材、稲わら、籾殻、米ぬか、麦わら、とうもろこしわら、コーンコブ、バガス、廃糖蜜、食品加工残渣、古紙、パルプ廃液、建築廃材等の植物資源が好ましく、とうもろこし、稲わら、籾殻、米ぬか、麦わら、とうもろこしわら、コーンコブ、バガス、廃糖蜜がさらに好ましい。
そしてこれらのバイオマス資源は、特に限定はされないが、例えば酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導される。その工程には、例えば、通常、特に限定はされないが、バイオマス資源をチップ化する、削る、擦り潰す等の前処理による微細化工程が含まれる。必要に応じて、さらにグラインダーやミルで粉砕する工程が含まれる。こうして微細化されたバイオマス資源は、さらに前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導されるが、その具体的な方法としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸等の強酸で酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、超臨界流体処理、酸化剤処理等の化学的方法や、微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的方法、微生物や酵素処理による加水分解等生物学的処理が挙げられる。
上記のバイオマス資源から誘導される炭素源としては、通常、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース、ペントサン、サッカロース、澱粉、セルロース等の二糖・多糖類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノクチン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、セラコレン酸等の油脂、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が知られ、このうち酢酸、グルコース、フルクトース、キシロースが好ましく、特に酢酸が好ましい。なお酢酸を利用できることから、これら炭素源以外にも、生物学的にアセチルCoAに誘導しうることが知られる炭素源であれば、本発明に用いられるバイオマス資源由来原料は上記各炭素源に限定されない。これらの炭素源は、単独あるいは複数の組み合わせで、通常0.01〜30質量%、望ましくは0.1〜10質量%程度の濃度で用いることができる。
微生物を培養するための培地窒素源としては、例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの無機窒素化合物、また尿素、尿酸などの含窒素有機物、ペプトン、肉エキス、魚エキス、大豆粉等の天然有機物を単独、あるいはこれらの組み合わせにより、通常0.01〜30質量%、望ましくは0.1〜10質量%程度の濃度で用いることができる。
さらに必要に応じて、リン酸2水素カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、酢酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、硫酸ニッケルなどの金属塩が菌の生育改善のために添加される。添加濃度は培養条件により異なるが、通常、リン酸塩に関しては0.01〜5質量%、マグネシウム塩においては10ppm〜1質量%、他の化合物では0.1〜1000質量ppm程度である。また選択する培地により、ビタミン類、アミノ酸、核酸などの供給源として例えば酵母エキス、カザミノ酸、酵母核酸を1〜100ppm程度添加することにより、菌の生育を改善することができる。
いずれの成分を用いた場合も培地のpHは、5〜9、望ましくは6〜8に調整することが望ましい。また前記のごとき培地であらかじめ培養された微生物菌体を、遠心分離、膜ろ過などの方法により培養液から分取し、反応原料を含む水、生理食塩水、または培養のpHと同等のpHに調整されたリン酸、酢酸、ホウ酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなどとこれらの塩よりなる緩衝液などに再度懸濁し、反応することは、反応液中の夾雑物を低減し、後の生成物の分取を簡便にするために有用である。反応中のpHは、充分な濃度の緩衝液を用いる場合においては通常上記の範囲に維持されるが、反応の進行により上記pHを逸脱する場合には、水酸化ナトリウム、アンモニアなどを用いて適宜調整することが望ましい。
反応液中に生成したアジピン酸の分離回収及び精製は、アジピン酸の生成量が実質的な量に達した時点で、反応液にそのまま、あるいは反応液から菌体を遠心分離により除去した液に、一般の有機化合物の分離回収及び精製の手段を用いることで行うことができる。例えば、培養液から菌体その他を除去したろ液を酸性とし、エーテル等の有機溶媒で抽出する。この抽出物をさらに適当な溶媒で再結晶するか、あるいはシリカゲルのクロマトグラフィー等を用いて精製することにより、高純度のアジピン酸が得られる。
反応液中にアジピン酸が蓄積することにより、反応速度が低下する場合がある。このような場合には、生成物の濃度に応じて反応液中に、水、生理食塩水、反応緩衝液を追加し連続的に希釈してゆくことが好ましい。また、反応速度が低下した時点で菌を分取し、上清を生産物溶液として回収し、分取した菌は再度反応原料を含む溶液あるいは懸濁液に戻すことにより、反応速度を回復することができる。
以下に本発明を実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、実施例は本発明の範囲を規定するものではない。
実施例1:
ロドバクターSD850株を、LB寒天培地に画線し、30℃の恒温槽で24時間培養した。形成されたコロニーから1白金耳をかきとり、直口試験管中のLB液体培地5mLに懸濁した。試験管を、30℃の恒温振盪培養器に設置し、毎分300rpm、一晩培養した。得られた培養液の一部を表1に示した組成の培養液6mLを含む直口試験管に植菌し、30℃の恒温振盪培養器で、毎分300rpmで72時間振盪培養した。得られた培養液を、窒素パージにより蒸発乾固したのち定法に従いブタノール及び3−フッ化ホウ素を用いてブチルエステル化し、GC−MS(カラム:VF-5ms(0.32mmi.d.×32m,0.25pm)、キャリアガス:He(1.5mL/min)、注入口:280℃)により分析したところ、培養液中に、アジピン酸ジブチルの標品と保持時間が一致し、同一の構造を示唆するマススペクトルのフラグメントパターンを確認した。標品のGC−MS測定の結果から作成した検量線を用いて濃度を算出したところ、アジピン酸の反応溶液中の濃度は110ppmであった。
ロドバクターSD850株を、LB寒天培地に画線し、30℃の恒温槽で24時間培養した。形成されたコロニーから1白金耳をかきとり、直口試験管中のLB液体培地5mLに懸濁した。試験管を、30℃の恒温振盪培養器に設置し、毎分300rpm、一晩培養した。得られた培養液の一部を表1に示した組成の培養液6mLを含む直口試験管に植菌し、30℃の恒温振盪培養器で、毎分300rpmで72時間振盪培養した。得られた培養液を、窒素パージにより蒸発乾固したのち定法に従いブタノール及び3−フッ化ホウ素を用いてブチルエステル化し、GC−MS(カラム:VF-5ms(0.32mmi.d.×32m,0.25pm)、キャリアガス:He(1.5mL/min)、注入口:280℃)により分析したところ、培養液中に、アジピン酸ジブチルの標品と保持時間が一致し、同一の構造を示唆するマススペクトルのフラグメントパターンを確認した。標品のGC−MS測定の結果から作成した検量線を用いて濃度を算出したところ、アジピン酸の反応溶液中の濃度は110ppmであった。
本発明によれば、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物をバイオマス由来の炭素源の存在下、通常の方法で培養するという極めて簡便な方法で種々の有機化学製品の原料として有用なアジピン酸を取得することができる。
Claims (4)
- 炭素源の存在下で、ロドバクター(Rhodobacter)属に属し、炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、その培養物からアジピン酸を採取することを特徴とするアジピン酸の製造方法。
- バイオマス資源由来の炭素源を使用する請求項1に記載のアジピン酸の製造方法。
- 前記ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物が、ロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)である請求項1に記載のアジピン酸の製造方法。
- 炭素源を資化してアジピン酸を生産する能力を有するロドバクター・エスピー(Rhodobacter sp.)SD850株(受託番号:NITE BP-1082)。
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