JPWO2012095994A1 - 硬質皮膜被覆工具及びその製造方法 - Google Patents

硬質皮膜被覆工具及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

基体上に物理蒸着法により形成した硬質の下層、中間層及び上層を有し、上層は(AlxCry)cOdにより表される組成を有するととにもTC(110)が1.3以上のα型結晶構造を有し、中間層は酸素濃度が下層側から上層側にかけて増加するとともに窒素濃度が下層側から上層側にかけて減少する傾斜組成を有し、その平均組成が(AlsCrt)a(NvOw)bにより表される硬質皮膜被覆工具。

Description

本発明は、物理蒸着法により形成された密着性及び耐熱性に優れた硬質皮膜を有する硬質皮膜被覆工具、及びその製造方法に関する。
α型の(Al, Cr)2O3膜は優れた耐熱性及び耐酸化性を有するために、工具に設ける硬質皮膜の上層に用いられるようになった。α型の(Al, Cr)2O3膜は化学蒸着法及び物理蒸着法により形成することができる。化学蒸着法の場合、優れた密着性を有するα型の(Al, Cr)2O3膜が得られるが、成膜温度が約1000℃と高いので、基体との熱膨張係数の差により膜中に引張り応力が残留し、チッピングが起こり易いという問題がある。
これに対して、物理蒸着法では成膜温度が500℃前後と低いので種々の基体に成膜できるだけでなく、得られる皮膜中に圧縮応力が残留するので耐欠損性に優れた皮膜が得られる。しかし、物理蒸着法により形成したα型の(Al, Cr)2O3膜は密着性に劣り、剥離し易いだけでなく、結晶粒の脱落によりチッピングも起こり易いという問題がある。そのため、剥離やチッピングが起こりにくい硬質皮膜を物理蒸着法により形成する技術の開発が求められている。
特許第3323534号は、10〜50原子%のクロムを含有する(Al, Cr)2O3結晶からなる硬質層を形成した切削用工具を開示している。この文献では、アルミニウムにクロムを加えるという非常に簡単な対策によって、高温のCVD法でしか得られない結晶質の硬質層を1000℃未満の成膜温度で得た。しかし、この文献は、(Al, Cr)2O3硬質層と中間層との組合せを全く開示していない。
特開2008-168365号は、基材上に少なくとも酸化アルミニウム多層被膜が形成された表面被覆切削工具であって、前記酸化アルミニウム多層被膜は、α型結晶構造を有する酸化アルミニウムを含む第一の層と、γ型結晶構造を有する酸化アルミニウムを含む第二の層とが交互に積層した構造を有し、前記第一及び第二の層の厚さはそれぞれ0.5〜50 nmである表面被覆切削工具を開示している。この文献の表1は、基材上に形成したTiAlN層の上に、厚さ5.0 nmのAlCrN層と厚さ4.0 nmのAlCrNO層とを厚さ1.5μmになるまで交互に積層し、その上に7.5原子%のSiを含有する厚さ2.0 nmのγ-(Al, Si)2O3層と2.4原子%のCrを含有する厚さ3.5 nmのα-(Al, Cr)2O3層とを交互に積層した表面被覆切削工具を示している(実施例5)。しかし、この表面被覆切削工具では、AlCrNO層の組成が不明である上に、γ-(Al, Si)2O3層とα-(Al, Cr)2O3層とが混在しており、さらに成膜条件からα-(Al, Cr)2O3層は1.3未満の等価X線回折強度比TC(110)を有し、密着力が低いと推定される。
特表2010-506049号は、工具等を被覆するPVD皮膜システムであって、(Me11-xMe2x)2O3の組成を有する複酸化物の混合結晶皮膜を少なくとも1つ含み、Me1及びMe2はそれぞれAl,Cr,Fe,Li,Mg,Mn,Nb,Ti,Sb及びVの少なくとも1つの元素であって異なっている皮膜システムにおいて、前記混合結晶皮膜の結晶がコランダム型構造を有する皮膜システムを開示している。この文献は、コランダム型、三酸化二クロム型又は六方晶の結晶構造を有する複酸化物を生成することも可能であると記載している。さらに、この文献の図1A〜図1Cはそれぞれx=0.75、0.50及び0.30の場合の(Al1-xCrx)2O3皮膜のX線スペクトルを示している。中間皮膜の生成から複酸化物の混合結晶皮膜の生成への移行に関して、この文献は、AlCr (50/50)ターゲットをターンオンした後5分で酸素ガスの導入を開始し、酸素ガスの流量を10分以内に50 sccmから1000 sccmにし、同時にTiAl (50/50)ターゲットをターンオフし、窒素ガスの流量を約100 sccmに戻すと記載している。
しかし、本発明者によるトレース実験によると、後述の比較例9に示すとおり、本発明に係るAlCr酸窒化物中間層の成膜は困難であった。また図1A〜図1Cに示すX線スペクトルから明らかなように、特表2010-506049号のコランダム型構造の(Al1-xCrx)2O3膜は(202)面に配向している。その上、この(Al1-xCrx)2O3膜は1.3未満の等価X線回折強度比TC(110)を有するので、(110)面への配向が不十分である。そのため、例えば表6に示す実験番号93のように、AlCrONからなる中間皮膜の上に(Al0.5Cr0.5)2O3からなる混合結晶皮膜を形成しても、中間皮膜と混合結晶皮膜との密着性が十分ではない。
従って本発明の目的は、基体上に、下層、AlCr酸窒化物中間層及びAlCr酸化物上層からなる硬質皮膜を物理蒸着法により形成してなる硬質皮膜被覆工具であって、上層の結晶粒の脱落抑制効果によって中間層と上層との密着性が向上しており、かつ従来より平滑で耐溶着性及び耐欠損性に優れた上層を有することにより寿命を著しく長くした硬質皮膜被覆工具、及びその製造方法を提供することである。
本発明の硬質皮膜被覆工具は、基体上に硬質の下層、中間層及び上層を物理蒸着法により形成したもので、
(a) 前記下層は、周期律表のIVa、Va及びVIa族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、N、C及びBからなる群から選ばれた少なくとも一種の非金属元素とを含有し、
(b) 前記上層は、一般式:(AlxCry)cOd(ただし、x及びyはAl及びCrの原子比率を表わす数字であり、c及びdはAlCrとOの原子比率を表わす数字であり、x=0.1〜0.6、x+y=1、c=1.86〜2.14、及びd=2.79〜3.21の条件を満たす。)により表される組成、及びα型結晶構造を有し、等価X線回折強度比TC(110)が1.3以上の酸化物からなり、
(c) 前記中間層は、金属元素としてAlとCrを必須とする酸窒化物からなり、酸素濃度が前記下層側から前記上層側にかけて増加するとともに窒素濃度が前記下層側から前記上層側にかけて減少する傾斜組成を有し、その平均組成が一般式:(AlsCrt)a(NvOw)b(ただし、s及びtはAlとCrの原子比率を表わす数字であり、v及びwはNとOの原子比率を表わす数字であり、a及びbはAlCrとNOの原子比率を表わす数字であり、下記条件:
s=0.1〜0.6、
s+t=1、
v=0.1〜0.8、
v+w=1、
a=0.35〜0.6、及び
a+b=1を満たす。)により表されることを特徴とする。
前記下層、中間層及び上層はいずれも物理蒸着法により形成され、残留圧縮応力を有するのが好ましい。
前記中間層の結晶格子縞と前記上層の結晶格子縞とは両者の界面において少なくとも部分的に連続しているのが好ましい。
前記上層は等価X線回折強度比TC(110)が等価X線回折強度比TC(104) より大きく、表面粗さRaが0.2μm以下であり、ドロップレットの表面占有面積率が20%以下であるのが好ましい。
前記中間層の厚さ(Tm)は0.1〜4μmで、前記上層の厚さ(Tu)は0.2〜8μmで、Tm≦Tuの関係を満たすのが好ましい。前記下層の厚さは0.5〜10μmが好ましい。
前記中間層の前記傾斜組成において、酸素濃度の前記下層側から前記上層側にかけての平均勾配は10〜600原子%/μmであるのが好ましい。
前記中間層の前記傾斜組成において、窒素濃度の前記下層側から前記上層側にかけての平均勾配は−650〜−10原子%/μmであるのが好ましい。
前記下層は窒化物であるのが好ましい。
上記硬質皮膜被覆工具を製造する本発明の方法は、
(1) 前記中間層の成膜開始から終了までの間、反応ガスとして供給する酸素ガスの流量を600 sccm以下まで増大させるとともに、窒素ガスの流量を減少させ、その際、成膜開始時点における窒素ガス流量を400 sccm以上とし、窒素ガス流量が酸素ガス流量より50 sccm以上多い時間を1分以上とし、かつ成膜雰囲気の圧力を0.3〜7 Paとし、
(2) 前記上層の成膜温度を590〜700℃にするとともに、前記上層の成膜中の酸素ガスの流量を100〜600 sccmにして成膜雰囲気中の酸素分圧を0.5〜5 Paに制御し、かつ前記上層の成膜時に前記基体に印加するバイアス電圧を−35 V〜−10 Vにすることを特徴とする。
上記方法において、ドロップレットの生成を防止するために、上層成膜中の酸素ガスの流量を200〜500 sccmに制御するのが好ましい。
上記方法において、前記中間層の成膜終了時に前記上層用の酸素ガス流量に達しているのが好ましい。
物理蒸着法により形成した本発明の硬質皮膜被覆工具は、(111)配向を有する下層と(110)配向を有する上層との間に傾斜組成を有する中間層を有し、また上層が平滑で優れた耐溶着性及び耐欠損性を有するので、層間密着性及び上層の結晶粒の脱落抑制効果に優れており、特に断続切削等に好適である。また本発明の方法によれば、中間層成膜時に酸素ガス及び窒素ガスの流量を変化させるとともに、上層成膜中の成膜温度、酸素ガスの流量及び成膜雰囲気中の酸素分圧並びに印加するバイアス電圧を制御することにより、上記特徴を有する硬質皮膜被覆工具を安定的に製造することができる。
本発明に使用し得るAIP装置の一例を示す概略図である。 実施例1における下層、中間層及び上層の成膜工程において、酸素ガス、窒素ガス及びArガスの流量変化を示すグラフである。 実施例1の上層のX線回折パターンを示すグラフである。 実施例1の中間層における酸素濃度分布及び窒素濃度分布を示すグラフである。 実施例1の硬質皮膜被覆工具における中間層と上層の界面領域を示す透過型電子顕微鏡写真である。 図5(a)の模式図である。 実施例1の上層表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。 比較例6の上層表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。 実施例6における下層、中間層及び上層の成膜工程において、酸素ガス、窒素ガス及びArガスの流量変化を示すグラフである。 実施例12における下層、中間層及び上層の成膜工程において、酸素ガス、窒素ガス及びArガスの流量変化を示すグラフである。 実施例12の中間層における酸素濃度分布及び窒素濃度分布を示すグラフである。 比較例7における下層、中間層及び上層の成膜工程において、酸素ガス及び窒素ガスの流量変化を示すグラフである。 比較例7の中間層における酸素濃度分布及び窒素濃度分布を示すグラフである。 比較例9における下層、中間層及び上層の成膜工程において、酸素ガス及び窒素ガスの流量変化を示すグラフである。 実施例及び比較例の硬質皮膜被覆工具のTC(110)と寿命との関係を示すグラフである。
[1] 硬質皮膜被覆工具
(A) 基体
本発明の硬質皮膜被覆工具の基体用材料として、超硬合金、立方晶窒化ホウ素(CBN)、高速度鋼、工具鋼、サーメット又はセラミックス等が好適であり,特に超硬合金が好適である。
(B) 下層
物理蒸着法により基体上に形成する下層は、周期律表のIVa、Va及びVIa族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、N、C及びBからなる群から選ばれた少なくとも一種の非金属元素とからなる硬質皮膜である。非金属元素としては、Nが必須であるのが好ましい。下層組成の具体例としては、TiAlN、TiAlNbN、TiSiN、TiAlCrN、TiAlWN、AlCrSiN、CrSiBN、TiAlCN、TiSiCN、AlCrSiCN等が挙げられる。中間層との密着性を良好にするために、Al又はCrを含有するのが好ましい。これらの下層はfcc構造を有し、(111)面に配向している。下層の膜厚は0.5〜10μmが好ましく、0.5〜6μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。
(C) 中間層
(1) 平均組成
物理蒸着法により下層上に形成する中間層は、金属元素としてAl及びCrを必須とする酸窒化物の硬質皮膜である。中間層の平均組成は、一般式:(AlsCrt)a(NvOw)b(ただし、s及びtはAlとCrの原子比率を表わす数字であり、v及びwはNとOの原子比率を表わす数字であり、a及びbはAlCrとNOの原子比率を表わす数字であり、それぞれ
s=0.1〜0.6、
s+t=1、
v=0.1〜0.8、
v+w=1、
a=0.35〜0.6、及び
a+b=1
の条件を満たす。)により表わされる。平均組成として、中間層の厚さ方向中央における組成を用いることができる。この組成により中間層は下層と同様に(111)面に配向したfcc構造を有し、下層との密着性が高い。
Alの原子比率sとCrの原子比率tの合計(s+t)は1である。sは0.1〜0.6であり、好ましくは0.15〜0.58であり、最も好ましくは0.2〜0.5である。tは0.9〜0.4であり、好ましくは0.85〜0.42であり、最も好ましくは0.8〜0.5である。sが0.1未満では中間層におけるCrの含有量が過多であり、中間層の硬度及び機械的強度が低く、下層及び上層との密着性が低い。またsが0.6超では中間層におけるAlの含有量が過多であり、六方晶系結晶構造を有するため、やはり中間層の硬度及び機械的強度が低く、下層及び上層との密着性が低い。
窒素(N)の原子比率vと酸素(O)の原子比率wの合計(v+w)は1である。vは0.1〜0.8であり、好ましくは0.2〜0.7であり、最も好ましくは0.3〜0.6である。wは0.9〜0.2であり、好ましくは0.8〜0.3であり、最も好ましくは0.7〜0.4である。vが0.1〜0.8であると、中間層を構成するfcc構造のAlCr酸窒化物は(111)面が表面に現れるように配向し、その結晶格子縞が上層のAlCr酸化物の結晶格子縞と少なくとも部分的に連続する(エピタキシャル成長する)ので、中間層と上層の密着性が高い。vが0.1未満であると、中間層は酸素過剰のため脆いだけでなく、上層との密着性に劣る。一方、vが0.8超であると、中間層の格子定数が過大であり、上層のAlCr酸化物との整合性が悪く、上層との密着性に劣る。
AlCrの原子比率aは(s+t)/[(s+t)+(v+w)]に相当し、NOの原子比率bは(v+w)/[(s+t)+(v+w)]に相当する。a+bは1である。aは0.35〜0.6であり、好ましくは0.38〜0.57であり、最も好ましくは0.4〜0.55である。bは0.65〜0.4であり、好ましくは0.62〜0.43であり、最も好ましくは0.6〜0.45である。aが0.35未満であると中間層における金属成分(Al, Cr)が少な過ぎ、硬さが不十分である。aが0.6超であると金属成分が多過ぎ、金属成分と非金属成分のバランスが均一な中間層が得られず、機械的強度が劣る。
(2) 傾斜組成
下層及び上層と中間層とは残留応力が異なり、下層と中間層、及び中間層と上層との間で大きな応力差があると層間剥離が生じるおそれがある。これに対し、中間層が、酸素濃度が下層側から上層側にかけて増加するとともに窒素濃度が下層側から上層側にかけて減少する傾斜組成を有することにより、残留応力の急激な変化を抑制し、層間剥離を抑制できることが分った。
図4に示すように、中間層における酸素濃度及び窒素濃度は実質的に直線的に変化するのが好ましい。この場合、中間層の格子定数が直線的に変化するので、残留応力の急激な変化及び層間剥離がいっそう抑制される。勿論、中間層における酸素濃度及び窒素濃度が下層側から上層側にかけて直線的に変化しなくても(例えば断続的に変化する領域があっても)、下層側から上層側にかけて酸素濃度が増加するとともに窒素濃度が減少していれば、残留応力の急激な変化が抑制され、層間剥離が抑制される。
中間層の傾斜組成において、酸素濃度の平均勾配は膜厚に依存するが、一般に10〜600原子%/μmであり、20〜300原子%/μmが好ましく、30〜200原子%/μmがより好ましく、特に60〜150原子%/μmが最も好ましい。中間層が厚くなるに従って酸素濃度の平均勾配が小さくなるので、酸素濃度の平均勾配が10原子%/μm未満では中間層が厚すぎることになり、かえって硬質皮膜の耐チッピング性等が低下する。また酸素濃度の平均勾配が600原子%/μm超であると、酸素濃度変化が急激であり、傾斜組成の中間層を設けた意味が失われる。
窒素濃度の平均勾配は−650〜−10原子%/μmが好ましく、−330〜−22原子%/μmがより好ましく、−220〜−33原子%/μmが最も好ましく、−160〜−70原子%/μmが特に好ましい。窒素濃度の平均勾配における−の記号は、窒素濃度が下層側から上層側にかけて減少することを意味する。窒素濃度の平均勾配の絶対値が10原子%/μm未満では中間層が厚すぎることになり、かえって硬質皮膜の耐チッピング性等が低下する。また窒素濃度の平均勾配の絶対値が650原子%/μm超であると、窒素濃度変化が急激であり、傾斜組成の中間層を設けた意味が失われる。酸素濃度及び窒素濃度は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた局所領域の電子エネルギー損失分光法(EELS)により測定できる。
(3) 厚さ
下層及び上層との高い密着性とともに高い耐衝撃性を有するために、中間層の膜厚(Tm)は0.1〜4μmが好ましく、0.2〜3.5μmがより好ましく、0.3〜3μmが最も好ましく、0.4〜2.5μmが特に好ましい。
(D) 上層
(1) 組成
物理蒸着法により中間層上に形成する上層は、金属元素としてAl及びCrを必須とする酸化物の硬質皮膜である。上層の組成は、一般式:(AlxCry)cOd(ただし、x及びyはAl及びCrの原子比率を表わす数字であり、c及びdはAlCrとOの原子比率を表わす数字であり、x=0.1〜0.6、x+y=1、c=1.86〜2.14、及びd=2.79〜3.21の条件を満たす。)により表される。Alの原子比率xとCrの原子比率yの合計(x+y)は1である。xは0.1〜0.6であり、好ましくは0.15〜0.6であり、より好ましくは0.2〜0.6である。yは0.9〜0.4であり、好ましくは0.85〜0.4であり、より好ましくは0.8〜0.4である。0.1〜0.6のxにより上層はα型結晶構造を有する。xが0.1未満であるとCrが過多になり、上層の硬さ及び機械的強度が低く中間層との密着性に劣るだけでなく、Cr2O3が過多になるため耐熱性も劣る。xが0.6を超えると低融点のAlが過多になり、成膜時に正常にイオン化されない原子数が増すので、未反応の金属や異常に反応した生成物がドロップレットとして上層中又は表面に存在し、層密度が低下し、密着性及び耐チッピング性が悪化する。
上層は化学量論値である(AlCr)2O3を基本組成とするが、物理蒸着法で形成される組成は必ずしも化学量論値にはならない。従って、c及びdは2及び3を中心とする範囲内の値であり、具体的にはcは1.86〜2.14であり、好ましくは1.9〜2.1であり、より好ましくは1.93〜2.06であり、最も好ましくは1.94〜2.06である。またdは2.79〜3.21であり、好ましくは2.85〜3.15であり、より好ましくは2.90〜3.10であり、最も好ましくは2.91〜3.09である。
(2) 結晶構造
硬質皮膜被覆工具の刃先は800℃以上の切削熱に曝されるので、酸化物上層は優れた耐熱性を有する必要がある。ところが、酸化物上層がγ型、κ型又はδ型等のα型以外の結晶形態の場合、高温でα型に変態するとともに実用に耐えない収縮が発生する。また物理蒸着法により形成された硬質皮膜中には圧縮応力が残留するので、結晶形態の変態による収縮の影響が大きい。そのため、酸化物上層は中間層から剥離したり、チッピングしたりする。これに対して、本発明の硬質皮膜被覆工具は、α型結晶構造を有する平滑表面の上層を有し、優れた耐溶着性及び耐欠損性を有するとともに中間層との密着性に優れている。
物理蒸着法により形成したAlCr酸化物は化学蒸着法により形成したAlCr酸化物より密度が低いので、密着力に劣るものであった。この問題を解決するため、本発明では、(a) AlCr酸化物上層の結晶構造を、立方晶(fcc)構造を有するAlCrNO中間層中の結晶粒の(111)面と整合性が良い(110)面に配向した六方晶とするとともに、(b) (111)面に配向したAlCr酸窒化物中間層上に、(110)面に配向したAlCr酸化物上層を形成することにより、AlCr酸化物上層をAlCr酸窒化物中間層上にエピタキシャル成長させた。上層中に中間層からエピタキシャル成長した部分が多いために、上層は中間層に対して高い密着力を有し、工具寿命が長くなる。
AlCr酸化物上層の(110)面の配向度は、α型AlCr酸化物結晶粒の等価X線回折強度比TC(110)により評価する。同様にAlCr酸化物上層の(104)面及び(006)面の配向度は、α型AlCr酸化物結晶粒の等価X線回折強度比TC(104)及びTC(006)により評価する。上層中のα型AlCr酸化物結晶粒の主たる結晶面は(012)面、(104)面、(110)面、(006)面、(113)面、(202)面、(024)面及び(116)面であるので、全ての結晶面に対する(110)面、(104)面及び(006)面の割合を表す等価X線回折強度比TC(110)、TC(104)及びTC(006)は下記式により表される。
TC(110)=[I(110)/I0(110)]/Σ[I(hkl)/8I0(hkl)]
TC(104)=[I(104)/I0(104)]/Σ[I(hkl)/8I0(hkl)]
TC(006)=[I(006)/I0(006)]/Σ[I(hkl)/8I0(hkl)]
(ただし(hkl)は(012)、(104)、(110)、(006)、(113)、(202)、(024)及び(116)である。)
I(hkl)は上層の(hkl)面からの実測X線回折強度であり、I0(hkl)はASTMファイル番号381479に記載されているα型酸化クロムの標準X線回折強度である。I0(hkl)は、等方的に配向したα型酸化クロム粉末粒子の(hkl)面からのX線回折強度を表す。TC(110)は実測X線回折ピークの相対強度を示し、TC(110)が大きいほど(110)面からのX線回折ピーク強度が強い。これは、(110)面が膜厚方向に対して平行に配向していることを示す。
TC(110)は1.3以上であり、1.4〜3.6が好ましく、1.5〜3.6がより好ましく、1.8〜3.6が更に好ましい。TC(110)が大きいことは、AlCr酸化物結晶粒が(110)面(基体表面に対して平行)に強く配向していること、即ち、AlCr酸化物結晶粒が[110]方向に優先的に成長し、縦長の微細結晶粒になったことを示す。このように成長したAlCr酸化物結晶粒からなる上層は密度が高く、AlCr酸化物結晶粒の耐溶着性、耐欠損性及び中間層との密着性に優れている。かかる上層表面は成長したAlCr酸化物結晶粒の凹凸が従来より小さく抑制されるので、上層の平均表面粗さRaは0.2μm以下となる。TC(110)が1.8以上である場合、微細な結晶粒がより縦長に成長したので、密着性及びAlCr酸化物結晶粒の脱落抑制効果が非常に高い。しかしTC(110)が3.6を超えると、工具寿命はかえって短くなる傾向がある。
本発明の製造方法によれば、上層はさらにTC(110)>TC(104)の関係を満たす。高性能化のために、TC(110)>TC(104)>TC(006)の関係を満たすのが好ましく、TC(006)=0がより好ましい。TC(006)=0とするには、上層成膜時の酸素ガス流量を200 sccm以上、好ましくは250 sccm以上とする。またTC(110)>TC(104)であることにより、上層の結晶粒の脱落抑制効果がより顕著になる。
上層結晶粒の平滑化のメカニズムは以下の通りであると考えられる。一般に物理蒸着法により形成されたAlCr酸化物硬質皮膜では、AlCr酸化物結晶粒の表面は凹凸が大きいが、本発明ではAlCr酸化物結晶粒が基体に対して垂直(c軸方向)に成長するのではなく、平行に成長するから、AlCr酸化物結晶粒表面の凹凸が顕著に低減される。本発明はこの原理を利用したものである。即ち、本発明の硬質皮膜被覆工具では、α型のAlCr酸化物結晶粒の(110)面は基体(c面)に対して平行な[110]方向に成長しているので、AlCr酸化物結晶粒の表面は非常に平滑であり、またこの平滑化効果によりAlCr酸化物結晶粒の脱落が抑制される。なお、(104)面及び(116)面はc軸に対してそれぞれ38.3°及び42.3°傾いており、(110)面より平滑化効果が小さい。
上記のメカニズムからわかるように、上層にα型構造の(006)面のX線回折ピークが観察されないこと、即ちTC(006)=0であると、結晶粒の脱落抑制効果は最も顕著になる。TC(006)=0でないとc軸方向に成長したAlCr酸化物結晶粒が多く存在するので、AlCr酸化物結晶粒の脱落は多くなる。これに対してTC(006)=0であると、c軸方向に成長したAlCr酸化物結晶粒は非常に少なく、上層の結晶粒の脱落が抑制される。
(3) 厚さ
上層の特性を効果的に発揮するために、上層の膜厚(Tu)は0.2〜8μmが好ましく、0.2〜5μmがより好ましく、0.3〜3μmが最も好ましく、0.3〜2μmが特に好ましい。高性能化のために、上層と中間層との膜厚比(Tu/Tm)は1以上が好ましく、1〜100がより好ましく、2〜50が最も好ましく、3〜10が特に好ましい。膜厚比(Tu/Tm)が1未満又は100超であると、中間層と上層との密着力は低い。
(4) 表面粗さ(Ra)
上層の表面粗さ(Ra)は、曲率半径5μmのダイヤモンド製触針を使用し、表面粗さ測定器(商品名:サーフコーダSE-30D、小坂研究所株式会社製)により、上層表面の任意の5本の線分(長さ5 mm)に沿って表面粗さ(Ra)を測定し、平均することにより求める。表面粗さ(Ra)はドロップレットの表面占有面積率と相関しており、0.2μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましく、0.1μm以下が最も好ましい。
(5) ドロップレットの表面占有面積率(%)
上層表面におけるドロップレットの占有面積率は、加速電圧15 kV及び倍率3,000倍の条件で撮った上層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において、50μm×50μmの大きさの任意の5つの視野を画像処理し、ドロップレット(SEM写真上では輝度の高い粒状物)の表面占有面積率を求め、平均することにより求める。ドロップレットは単に上層表面に付着しているのではなく、その根が上層内部に位置するので、工具寿命を短くする上層の剥離や亀裂の原因となる。従って、良好な工具寿命を得るために、ドロップレットの表面占有面積率は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
[2] 成膜装置
物理蒸着法の成膜装置として、アークイオンプレーティング(AIP)装置、フィルター方式アークイオンプレーティング装置又はスパッタリング装置等が好適である。図1は本発明に使用し得るAIP装置1の一例を示す。このAIP装置1は、反応ガス供給パイプ11を具備する減圧容器10内に、回転自在の基体ホルダー12と、下層形成用のソース(ターゲット)13及びそのシャッター23と、中間層形成用のソース(ターゲット)14及びそのシャッター24と、上層形成用のソース(ターゲット)15,16及びそれらのシャッター25,26とを具備し、かつ減圧容器10外に基体にバイアス電圧を印加するためのバイアス電源27を具備する。なお上層の金属成分が中間層と同じ場合にはソース15,16及びそれらのシャッター25,26を省略しても良い。
[3] 製造方法
(A) 下層の形成
基体のクリーニング後、ソース13のシャッター23を開き、450〜600℃の温度で基体上に下層を形成する。下層の成膜温度が450℃未満では密着力が低く、また600℃を超えると加熱効果が飽和する。
成膜雰囲気は下層の組成に依存する。下層が窒化物の場合窒素雰囲気を用い、炭窒化物の場合炭化水素(アセチレン、メタン等)ガスと窒素ガスとの混合雰囲気を用いる。成膜時に供給する雰囲気ガスの流量は400〜1500 sccmが好ましい。400 sccm未満では窒化物又は炭窒化物の生成が不十分であり、また1500 sccm超としても雰囲気ガスの効果が飽和する。図2は反応ガスとして供給する窒素ガスの流量の一例を示す。点Aは下層の成膜開始時点を示し、点Bは下層の成膜終了時点を示す。
下層の成膜時に基体に印加するDCバイアス電圧は−400 V〜−10 Vが好ましい。DCバイアス電圧が−400 V未満では残留応力が大きすぎ、下層の剥離のおそれがある。また−10 V超では下層が形成されない。パルスバイアス電圧の場合、周波数は0.1〜300 kHzの範囲が好ましい。周波数が0.1 kHz未満では下層が形成されず、300 kHz超ではパルスバイアス電圧の印加効果が飽和する。
(B) 中間層の形成
下層形成用ソース13のシャッター23を閉じて中間層形成用ソース14のシャッター24を開く。中間層の成膜温度は550〜700℃が好ましく、570〜680℃がより好ましく、585〜650℃が最も好ましい。成膜温度が550℃未満では中間層の残留応力が高くなり密着性が低下する。また成膜温度が700℃を超えると残留応力が大きく低下し、皮膜の硬度及び機械的強度が低下する。特に後述する実施例1に示す通り、中間層の成膜温度と上層の成膜温度とが同じ場合には中間層の成膜工程から上層への成膜工程を温度調整を要することなく連続して行えるので、実用性に富む。
(1) 成膜雰囲気
中間層の成膜雰囲気に窒素ガス及び酸素ガスの混合ガス(反応ガス)を用いる。混合ガスはArガスを含有しても良い。この場合、Arガスの割合は混合ガスの70体積%以下が好ましく、50体積%以下がより好ましい。成膜雰囲気の圧力は0.3〜7 Paであり、0.3〜4 Paが好ましく、0.3〜3 Paがより好ましく、0.5〜2 Paが最も好ましい。成膜雰囲気圧力が上記範囲外であると、中間層の形成が困難になる。
(2) 反応ガスの流量変化
中間層に、酸素濃度が下層側から上層側にかけて増加するとともに窒素濃度が下層側から上層側にかけて減少する傾斜組成を与えるために、中間層の成膜時に供給する酸素ガスの流量を徐々に増大させるとともに、窒素ガスの流量を徐々に減少させる。図2は中間層成膜用の酸素ガス及び窒素ガスの流量変化の一例を示す。点T1は中間層の成膜開始時点を示し、点T2は中間層の成膜終了時点を示す。
図2において、窒素ガスの流量変化のパターンは点A,B,C,Dで表され、酸素ガスの流量変化のパターンは点E,F,G,Hで表される。中間層の成膜工程前半での酸化を抑制するために、成膜開始時点Eにおける酸素ガス流量は100 sccm以下が好ましく、50 sccm以下がより好ましく、10 sccm以下が最も好ましい。中間層から上層へのエピタキシャル成長を得るためには、成膜終了時点Fでの酸素ガス流量が600 sccm以下である必要があることが分った。酸素ガス流量が600 sccm超であるとドロップレットの生成が多く、密着性及び平滑性に優れた硬質皮膜が得られない上、上層の形成が早過ぎ、中間層から上層へのエピタキシャル成長が得られない。成膜終了時点Fでの酸素ガス流量は600 sccm以下が好ましく、200〜500 sccmがより好ましい。中間層の成膜終了後に上層の成膜を開始してもよいが、実用上中間層の成膜終了と同時に上層の成膜を開始するのが好ましい。中間層の成膜終了時の酸素ガス流量は上層成膜用の酸素ガス流量に達しているのが好ましいが、両者は完全に一致していなくても良い。中間層成膜終了時の酸素ガス流量と上層成膜用の酸素ガス流量との差は300 sccm以内が好ましく、50 sccm以内がより好ましく、10 sccm以内が最も好ましい。
また(a) 窒化を促進するために、中間層の成膜開始時点T1における窒素ガス流量を400 sccm以上にするとともに、成膜工程前半での窒素ガス流量が酸素ガス流量より50 sccm以上多い時間を1分間以上とし、かつ(b) 中間層の成膜開始から終了までの間に供給する酸素ガスの流量を600 sccm以下まで増大させるとともに、窒素ガスの流量を減少させる必要があることが分った。中間層の成膜開始時点T1における窒素ガス流量が400 sccm未満であるか、前半の成膜工程における窒素ガス流量が酸素ガス流量より50 sccm以上多くないと、窒化が不十分となり、所望の中間層が得られない。また中間層の成膜開始から終了までの間に供給する酸素ガスの流量が600 sccm超では、ドロップレットの生成が顕著になる。また成膜工程前半での窒素ガス流量が酸素ガス流量より50 sccm以上多い時間が1分間未満では窒化が不十分になる。この時間は2〜120分間にするのが好ましく、5〜100分間にするのがより好ましい。120分間を超えると工業生産性が大きく低下する。また中間層の成膜開始から終了までの間に供給する窒素ガスの流量を減少させないと、中間層に窒素濃度の傾斜を付与することができない。
中間層における酸素濃度分布は正の勾配を有する(下層側から上層側にかけて増加する)ので、点Eから点Fの間で酸素ガスの流量変化は正の傾斜を有する。点Eから点Fまでの期間(T1〜T2)における酸素ガス流量の平均勾配は1〜200 sccm/分が好ましく、3〜100 sccm/分がより好ましく、4〜50 sccm/分がさらに好ましく、4〜40 sccm/分が最も好ましく、4〜30 sccm/分が特に好ましい。酸素ガス流量は直線的に増加させるのが理想的であるが、段階的に増加させても良い。酸素ガス流量の平均勾配が1 sccm/分未満では酸化が不十分であり、200 sccm/分超ではエピタキシャル成長が得られない。
中間層の成膜開始時点Bにおける窒素ガス流量は400 sccm以上であり、好ましくは500〜1500 sccmであり、更に好ましくは600〜1200 sccmである。上層の成膜開始時点Dでは窒素ガス流量は0 sccmであるが、中間層の成膜終了時点Cでの窒素ガス流量を完全に0 sccmとする必要はなく、400 sccm以下が好ましく、100 sccm以下がより好ましく、50 sccm以下が最も好ましい。中間層における窒素濃度分布は負の勾配を有する(下層側から上層側にかけて減少する)ので、点Bから点Cまでの期間(T1〜T2)で窒素ガスの流量変化は負の傾斜を有する。期間(T1〜T2)での窒素ガス流量の平均勾配は−200 sccm/分〜−1 sccm/分が好ましく、−100 sccm/分〜−3 sccm/分がより好ましく、−50 sccm/分〜−5 sccm/分が更に好ましく、−40 sccm/分〜−5 sccm/分が最も好ましく、−30 sccm/分〜−5 sccm/分が特に好ましい。窒素ガス流量は直線的に減少するのが理想的であるが、段階的に減少しても良い。窒素ガス流量の平均勾配が−200 sccm/分未満では中間層における窒素濃度勾配が急激すぎ、また−1 sccm/分超では十分な傾斜組成が得られない。
図2では中間層の成膜時間(T1〜T2)は30分間であるが、限定的でない。AlCr酸窒化物中間層の形成を十分に行うために、及び工業生産性の観点から成膜時間(T1〜T2)は5〜180分間が好ましく、10〜60分間がより好ましい。
(3) バイアス電圧
中間層の成膜時に基体に印加するバイアス電圧は−150 V〜−10 Vが好ましい。−150 V未満では残留応力が大きすぎ、−10 V 超では下層に中間層が付かない。基体に入射するイオンのエネルギーを、例えば−50 V〜−20 Vとし、基体に入射するイオンエネルギーを低くすると、平滑な中間層が得られる。パルスバイアス電圧を使用する場合、中間層の密着性を大きくするため周波数は10〜80 kHzが好ましい。パルスバイアス電圧は、バイアス電圧が正負に振幅するバイポーラパルスが好ましい。正バイアス値は5〜10 Vの間で十分である。
(4) アーク電流
中間層は低融点のAlを含むので、急激な蒸発や異常なイオン化によりドロップレットが生成されやすい。これを抑制するために、放電電流である成膜アーク電流(アーク蒸発源に印加する電流)を100〜150 Aと低い範囲に保つのが好ましく、100〜140 Aとするのがより好ましい。アーク電流が100 A未満では安定した放電が維持されず、150 A超では急激なAlの蒸発のために平滑な中間層が得られない。
(C) 上層の形成
中間層の形成後に上層形成用ソース15,16のシャッター25,26を開き、上層を形成する。上層の金属成分が中間層のものと同じ場合には、中間層用ソース14をそのまま用いても良い。
(1) 成膜温度
上層の成膜温度は590〜700℃が好ましく、590〜680℃がより好ましく、595〜650℃が更に好ましい。成膜温度が590℃未満又は700℃超ではTC(110)を1.3以上にするのが困難である。
(2) 成膜雰囲気
上層成膜用の反応ガスとして酸素ガスを用いる。ドロップレットが基体に到達するのを防ぐために、成膜雰囲気中の酸素分圧は0.5〜5 Paである必要があり、1〜3 Paが好ましい。酸素分圧が0.5 Pa未満又は5 Pa超であると、1.3以上のTC(110)が得られない。成膜雰囲気がArガスを含有する場合、Arガスの含有量は成膜雰囲気の50体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。後述する表18に示すように、成膜雰囲気の10〜40体積%をArガスで置換すると、ドロップレットの抑制効果が十分に得られる。
(3) 酸素ガス流量
上層成膜時の酸素ガス流量は一般に100〜600 sccmである必要がある。酸素ガス流量が100 sccm未満では上層を十分に形成できず、また600 sccmを超えると上層が緻密化せず、また中間層からのエピタキシャル成長も得られない。上層成膜時の酸素ガス流量は好ましくは200〜500 sccmであり、より好ましくは150〜450 sccmであり、最も好ましくは200〜400 sccmである。図2において上層の成膜開始時点Gと上層の成膜終了時点Hとの時間は80分間であるが、限定的でない。酸化を十分に行うために、及び工業生産性の観点から上層の成膜時間は20〜150分間が好ましく、40〜100分間がより好ましい。
(4) バイアス電圧
上層成膜時に基体に印加するバイアス電圧は−35 V〜−10 Vが好ましく、−30 V〜−10 Vがより好ましい。この範囲のバイアス電圧により上層の生成が促進され、α型酸化物層の結晶配向は(110)優位となり、TC(110)が高くなる。またパルスバイアス電圧を使用する場合、バイアス電圧を正負に振幅させたバイポーラパルスが好ましい。正バイアスは5〜10 Vの間とするのが好ましい。パルスバイアスの周波数は10〜80 kHzが好ましい。
(5) アーク電流
上層は低融点のAlを含むので、Alの急激な蒸発や異常なイオン化によりドロップレットが生成されやすい。これを抑制するために、放電電流である成膜アーク電流(アーク蒸発源に印加する電流)を100〜150 Aと低い範囲に保つのが好ましく、100〜140 Aとするのがより好ましい。アーク電流が100 A未満では成膜が不可能となる。また150 A超では急激なAlの蒸発が促進されるため、平滑な上層を成膜できない。アーク電流値を前記特定範囲に設定することにより、平滑でドロップレットの少ない、優先的に(110)面に配向した[TC(110)が1.3以上]のAlCr酸化物結晶粒による耐溶着性及び耐欠損性に優れた上層が得られる。
上記成膜条件により、α型Cr酸化物の生成よりα型Al酸化物の生成が促進されるので、上層を構成するα型結晶構造のAlCr酸化物は、α型Al酸化物にCrが固溶した固溶体である。α型結晶構造のAlCr酸化物結晶粒が(110)面に優先的に配向し、等価X線回折強度比TC(110)が顕著に高くなる。
[4] 刃先処理
上層の結晶粒の脱落を減少させ、密着性を更に高めるために、上層をブラシ、バフ又はブラスト等により平滑にしても良い。また上層の上に、周期律表IVa、Va、VIa族、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、C、N、B及びOから選択される少なくとも一種の非金属元素とを必須とする硬質保護膜を形成しても良い。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。各実施例及び比較例において、各層の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)の2万倍の断面写真における任意の5箇所の膜厚を測定し、平均することにより求めた。また中間層の膜厚方向中心における組成を中間層の平均組成とした。
実施例1
(1) 下層の形成
6質量%のCo及び94質量%のWC及び不可避的不純物からなる切削工具用超硬合金製基体(CNMG120408)及び物性測定用の超硬合金製基体(SNGA120408及びSNMN120408)を図1に示す基本構造を有する大型AIP装置1内のホルダー12にセットし、真空排気と同時にヒーターで基体を500℃に加熱し、TiAlターゲット(Ti:50原子%、Al:50原子%)及び700 sccmの窒素ガスを使用し、基体上に(Ti0.50Al0.50)Nの組成(原子比率)を有する厚さ2.0μmの硬質の下層を形成した。
(2) 中間層の形成
AlCrターゲット(Al:50原子%、Cr:50原子%)を使用し、成膜温度:600℃、バイアス電圧:−20 V、パルスバイアス周波数:20 kHz及びAlCrターゲットに印加する電流:120 Aの条件で、図2に示すように窒素ガスの流量を30分間で700 sccmから200 sccmまで徐々に(実質的に直線的に)下げ、また酸素ガスの流量を30分間で0 sccmから500 sccmまで徐々に(実質的に直線的に)上げ、(Al0.48Cr0.52)0.46(N0.43O0.57)0.54(原子比率)の平均組成を有する厚さ0.5μmの硬質酸窒化物中間層を形成した。中間層の成膜開始時点T1から成膜終了時点T2までの雰囲気圧力は3 Paに制御した。
(3) 上層の形成
中間層の形成から連続して上層用のAlCrターゲット(Al:25原子%、Cr:75原子%)を使用し、成膜温度:600℃、バイアス電圧:−20 V、パルス周波数:20 kHz及び前記AlCrターゲットに印加する電流:120 A、酸素ガスの流量:300 sccm、Arガスの流量:100 sccmの条件に80分間保持することにより、(Al0.25Cr0.75)2O3(原子比率)の基本組成を有する厚さ1.5μmの硬質酸化物上層を形成した。上層成膜時の酸素ガスの分圧は2.0 Paであった。
(4) 上層の結晶構造の分析
得られた硬質皮膜被覆工具の上層の結晶構造を同定するため、理学電気(株)製のX線回折装置(RU-200BH)を用いて下記の条件でX線回折測定を行った。
X線源:CuKα1線(波長λ:0.15405 nm)
管電圧:120 kV
管電流:40 mA
X線入射角:5°
X線入射スリット:0.4 mm
2θ:20〜60°。
図3は上層表面のX線回折パターンを示す。図3より、α型の回折ピークが認められた。図3に示す上層のX線回折パターンには、α型の(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(024)面及び(116)面のピークが観察されたが、(202)面、(006)面は現れなかった。またα型酸化アルミニウム及びα型酸化クロムは、(124)面及び(030)面の標準X線回折強度Ioが大きいが、超硬合金製基体中のWCの(110)面及び(002)面と面間距離が近く、α型の酸化アルミニウムクロム(AlCr)2O3の(124)面及び(030)面のピークと重なることから、(116)面までを使用し、配向を定量的に評価した。
α型酸化アルミニウムのASTMファイル番号100173に記載されている面間距離d、標準X線回折強度Io、及び2θを表1に示し、α型酸化クロムのASTMファイル番号381479に記載されている面間距離d、標準X線回折強度Io及び2θを表2に示す。表3に、実施例1のX線回折パターンから得られた面間距離d、X線回折強度I及び2θを示す。実施例1(図3)のX線回折パターンから得られた面間距離dはα型酸化アルミニウムよりα型酸化クロムに近いことが分る。従って、等価X線回折強度比を求めるのにα型酸化クロムの標準X線回折強度Ioを用いた。
下記の等価X線回折強度比TC(110)、TC(104)及びTC(006)を用いて、上層の(110)面、(104)面及び(006)面の配向度を定量した。その結果、実施例1の上層のTC(110)は1.58であった。
TC(110)=[I(110)/I0(110)/Σ[I(hkl)/8I0(hkl)]
TC(104)=[I(104)/I0(104)]/Σ[I(hkl)/8I0(hkl)]
TC(006)=[I(006)/I0(006)]/Σ[I(hkl)/8I0(hkl)]
(ただし、(hkl)は(012)、(104)、(110)、(006)、(113)、(202)、(024)及び(116)であり、I0(hkl)はα型酸化クロムの標準X線回折強度である。)
(5) 組成分析
電子プローブマイクロ分析装置(EPMA、日本電子株式会社製JXA-8500F)を用いて、加速電圧10 kV、照射電流1.0 uA及びプローブ径0.01μmの条件で、中間層の厚さ方向中央部の組成を測定し、平均組成とした。中間層の厚さが1μm以上の場合はプローブ径を0.5×2μmとした。中間層の平均組成は、22.0原子%のAl、23.5原子%のCr、23.7原子%のN、及び30.8原子%のOであった。また上層の組成は、10.1原子%のAl、29.8原子%のCr及び60.1原子%のOであった。X線回折の結果、上層はα型の結晶構造を有することが分った。
(6) 中間層内の酸素濃度勾配及び窒素濃度勾配の測定
電子ビーム径が0.1 nmの電子エネルギー損失分光器(EELS、Gatan社製のENFINA1000)を用いて、中間層と下層との界面及び中間層と上層との界面を含む厚さ方向領域における酸素及び窒素の濃度分布を測定した。測定結果を図4に示す。図4において、縦軸のスケールは、酸素濃度と窒素濃度との合計を100原子%としている。横軸は基体と下層の界面(0μm)からの厚さを表す。図中、▲は窒素濃度を示し、○は酸素濃度を示す。酸素濃度は下層側から上層側まで実質的に直線的に増加しており、窒素濃度は下層側から上層側まで実質的に直線的に減少していた。酸素濃度及び窒素濃度の平均濃度は、測定値のプロットから最小二乗法により求めた平均勾配を四捨五入して表す。
(7) エピタキシャル成長の分析
中間層と上層との界面を含む領域の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図5(a) に示し、その模式図を図5(b) に示す。図5(a) から明らかなように、中間層と上層との界面領域の少なくとも一部では、中間層の結晶格子縞と上層の結晶格子縞とが連続しており、エピタキシャル成長が認められた。
(8) 表面粗さRaの測定
曲率半径5μmのダイヤモンド製触針を使用し、表面粗さ測定器(商品名:サーフコーダSE-30D、小坂研究所株式会社製)により、上層表面の任意の5本の線分(長さ5 mm)に沿って表面粗さ(Ra)を測定し、平均した。
(9) ドロップレットの表面占有面積率(%)の測定
図6(a) は加速電圧15 kVで撮った上層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。このSEM写真の50μm×50μmの任意の領域を画像処理し、ドロップレット(SEM写真上では輝度の高い粒状物)の表面占有面積率を求めた。この計算を5枚のSEM写真(視野)について行い、得られた表面占有面積率を平均して、実施例1の硬質皮膜被覆工具の上層におけるドロップレットの表面占有面積率(%)とした。
(10) 工具寿命の測定
硬質皮膜被覆工具に対して下記の条件で切削試験を行った後、工具の刃先を倍率100倍の光学顕微鏡で観察し、刃先の上層が剥離又はチッピングするまでの時間を工具寿命と判定した。上層の剥離はEPMAによる面分析により判断した。
被削材 :SUS304(2つ溝入り材)
切削方法:旋削加工
工具形状:CNMG120408
切削速度:180 m/分
送り :0.25 mm/rev
切り込み:2.0 mm
切削液 :無し(乾式加工)
実施例2
上層におけるAl及びCrの含有量の影響を調べるために、上層の成膜にAlCrターゲット(Al:40原子%、Cr:60原子%)を使用した以外実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
実施例3
上層におけるAl及びCrの含有量の影響を調べるために、上層の成膜にAlCrターゲット(Al:60原子%、Cr:40原子%)を使用した以外実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
実施例4
実施例1と同様にして中間層まで形成した後、実施例1と同じAlCrターゲットを使用し、成膜温度:600℃、バイアス電圧:−20 V、パルスバイアスの周波数:20 kHz、及びAlCrターゲットに印加する電流:120 Aの条件で、酸素ガスを225 sccm及びArガスを75 sccm流し、酸素ガスの分圧1.5 Paとして、(Al0.25Cr0.75)2O3(原子比率)の基本組成を有する上層を1.5 μmの厚さに形成した。
実施例5
実施例1と同様にして中間層まで形成した後、実施例1と同じAlCrターゲットを使用し、成膜温度:600℃、バイアス電圧:−20 V、パルスバイアスの周波数:20 kHz、及びAlCrターゲットに印加する電流:120 Aの条件で、酸素ガスを120 sccm及びArガスを40 sccm流し、酸素ガスの分圧1.0 Paとして、(Al0.24Cr0.76)2O3(原子比率)の基本組成を有する上層を1.5 μmの厚さに形成した。
実施例6
中間層におけるN及びOの含有量の影響を調べるために、図7に示すように窒素ガス及び酸素ガスの流量を変化させた以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製した。図7から明らかなように、6.7 sccm/分の酸素ガス流量勾配を得るために、酸素ガス流量を中間層成膜開始時点Eで0 sccmとし、中間層成膜終了時点Fで200 sccmとし、また−6.7 sccm/分の窒素ガス流量勾配を得るために、窒素ガス流量を中間層成膜開始時点Bで700 sccmとし、中間層成膜終了時点Cで500 sccmとした。中間層成膜の雰囲気圧力は3 Paであった。
実施例7
中間層におけるN及びOの含有量の影響を調べるために、酸素ガス流量を中間層成膜開始時点Eで0 sccmとし、中間層成膜終了時点Fで650 sccmとし、また窒素ガス流量を中間層成膜開始時点Bで700 sccmとし、中間層成膜終了時点Cで10 sccmとした以外は、実施例6と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製した。中間層成膜の雰囲気圧力は3 Paであった。
実施例6及び7における中間層成膜時のガス流量を表4に示す。
実施例8、9
中間層におけるAl及びCrの含有量の影響を調べるために、中間層の成膜に用いるAlCrターゲットの組成を実施例8ではAl10Cr90(原子比率)に、実施例9ではAl60Cr40(原子比率)に変えた以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製し、実施例1と同じ測定を行った。
実施例10
実施例1と同様にして基体上に形成した下層に、実施例1と同じAlCrターゲットを使用し、成膜温度:600℃、バイアス電圧:−20 V、パルスバイアスの周波数:20 kHz、及びAlCrターゲットに印加する電流:120 Aの条件で、30分間Arガスを一定量(800 sccm)流すとともに、窒素ガスの流量を中間層成膜開始時の700 sccmから30分間で200 sccmまで徐々に下げ、酸素ガスの流量を中間層成膜開始時の0 sccmから30分間で500 sccmまで徐々に上げ、7 Paの雰囲気圧力で(Al0.53Cr0.47)0.35(N0.43O0.57)0.65(原子比率)で表される組成を有する中間層を0.5μmの厚さに形成した。その後、実施例1と同様にして(Al0.25Cr0.75)2O3(原子比率)の基本組成を有する上層を1.5μmの厚さに形成した。
実施例11
実施例1と同様にして基体上に形成した下層に、実施例1と同じAlCrターゲットを使用し、成膜温度:600℃、バイアス電圧:−20 V、パルスバイアスの周波数:20 kHz、及びAlCrターゲットに印加する電流:120 Aの条件で、窒素ガスの流量を中間層成膜開始時の400 sccmから30分間で100 sccmまで徐々に下げ、酸素ガスの流量を中間層成膜開始時の0 sccmから30分間で200 sccmまで徐々に上げ、2.0 Paの雰囲気圧力で(Al0.50Cr0.50)0.60(N0.47O0.53)0.40(原子比率)で表される組成を有する中間層を0.5 μmの厚さに形成した。その後、実施例1と同様にして(Al0.25Cr0.75)2O3(原子比率)の基本組成を有する上層を1.5 μmの厚さに形成した。
実施例12
酸素ガス流量及び窒素ガス流量の供給パターンを図8に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、中間層を形成した。窒素ガス流量は、成膜開始時点B2では1000 sccm、点C1では500 sccmであり、点B2及び点C1間の窒素ガス流量の平均勾配は−8.3 sccm/分であった。点C1から点C2の間では窒素ガス流量を一定(500 sccm)にした。酸素ガス流量は、成膜開始時点Eでは0 sccm、成膜終了時点Fでは500 sccmであり、平均勾配は4.2 sccm/分であった。さらに点Fで酸素ガス流量を500 sccmから300 sccmに低下させた。中間層成膜の雰囲気圧力は4 Paであった。図9は、実施例1と同様にEELSにより測定した酸素及び窒素の濃度分布を示す。図8の時点T2(点C2及び点Fに対応する)以前では酸素ガス流量は窒素ガス流量より少ないにも拘わらず、図9に示すように中間層のほぼ中間より上の領域で酸素濃度が窒素濃度より高いことが分る。得られた中間層の上に、実施例1と同様にして(Al0.25Cr0.75)2O3(原子比率)の基本組成を有する上層を1.8 μmの厚さに形成した。
比較例1
AlCrターゲット(Al:4原子%、Cr:96原子%)を使用して、一般式:(AlsCrt)a(NvOw)bにおいてs=0.04及びt=0.96である中間層を形成した以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
比較例2
AlCrターゲット(Al:70原子%、Cr:30原子%)を使用して、一般式:(AlsCrt)a(NvOw)bにおいてs=0.70及びt=0.30である中間層を形成した以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
比較例3
中間層の成膜工程においてArガス流量を一定(1000 sccm)にするとともに、雰囲気圧力を8 Paとした以外は実施例10と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
比較例4
窒素ガスの流量を中間層成膜開始時の200 sccmから30分間で50 sccmまで徐々に下げ、酸素ガスの流量を中間層成膜開始時の0 sccmから30分間で100 sccmまで徐々に上げ、中間層成膜の雰囲気圧力を1.0 Paにした以外は実施例11と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
比較例5
中間層の成膜工程において窒素ガスの流量を一定(0 sccm)とし、酸素ガスの流量を成膜開始時点の0 sccmから30分間で700 sccmまで徐々に(実質的に直線的に)増加させた以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。
比較例6
中間層の成膜工程において酸素ガスの流量を一定(0 sccm)とし、窒素ガスの流量を成膜開始時点の900 sccmから30分間で700 sccmまで徐々に(実質的に直線的に)減少させた以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。実施例1と同様にして撮影したSEM写真を図6(b) に示す。
比較例7
図1に示す基本構造を有する小型AIP装置1を用いて、図10に示すように中間層の成膜工程において酸素ガス及び窒素ガスの流量をそれぞれ一定(500 sccm)にし、圧力を4 Paにした以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製し、実施例1と同じ測定を行った。EELS法により中間層と下層との界面及び中間層と上層との界面を含む領域の厚さ方向の酸素及び窒素の濃度分布を測定した。結果を図11に示す。小型AIP装置を用いたために成膜時間は短いが、得られた中間層の膜厚は実施例1と同様に0.5μmであった。図11から明らかなように、中間層における酸素濃度は下層側から上層側まで実質的に同じであった。これから、比較例7の中間層の成膜条件では、酸素濃度及び窒素濃度の傾斜は形成されないことが分る。
比較例8
特表2010-506049号のトレース実験として、中間層の成膜工程において酸素ガス及び窒素ガスの流量をそれぞれ一定(1000 sccm)にし、圧力を8 Paにした以外は比較例7と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。この工具に対して実施例1と同じ測定を行った結果、中間層における酸素濃度及び窒素濃度の傾斜は観察されなかった。
比較例9
図1に示す基本構造を有する小型AIP装置1を用いて、特表2010-506049号の段落61に記載された中間層成膜条件(窒素ガス及び酸素ガスの供給パターン)のトレース実験として、図12に示すように窒素ガス流量を一定(100 sccm)にし、酸素ガス流量を成膜開始時点の50 sccm から1000 sccmまでほぼ直線的に増加させ、成膜雰囲気圧力を10分間で4 Paまで増加させた以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製した。小型AIP装置を用いたために成膜時間は短いが、得られた中間層の膜厚は実施例1と同様に0.5μmであった。この工具に対して実施例1と同じ測定を行った結果、窒素ガス流量が過小のために窒化がほとんど起こらず、中間層における酸素濃度及び窒素濃度の傾斜は観察されなかった。
比較例10
実施例1と同じ基体上に、化学蒸着法によりTi(CN)下層、Ti(NO)中間層及びα型Al2O3層を形成することにより、硬質皮膜被覆工具を作製し、実施例1と同じ測定を行った。
各実施例及び各比較例の下層及び中間層の成膜方法、種類及び厚さ、並びにO及びNの連続的変化(Oの連続的増加及びNの連続的減少)の有無を表5に示し、中間層の組成を表6に示し、中間層の成膜条件及び傾斜組成を表7に示し、上層の成膜条件及び組成を表8に示し、上層の厚さ、結晶構造、等価X線回折強度比TC(110)、TC(104)、TC(006)、表面粗さRa及びドロップレットの表面占有面積率、並びに工具寿命を表9に示す。
表7(続き)
表8(続き)
実施例13〜16、比較例11
上層の成膜温度を表10に示すように変更した以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造及びTC(110)、並びに工具寿命を測定した。測定結果を成膜温度とともに表10に示す。
実施例17〜19、比較例12及び13
上層成膜時のバイアス電圧を表11に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造及びTC(110)、並びに工具寿命を測定した。測定結果をバイアス電圧とともに表11に示す。
実施例20及び21、比較例14及び15
上層成膜時の酸素ガスの分圧を表12に示すように変更した以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造及びTC(110)、並びに工具寿命を測定した。測定結果を雰囲気圧力とともに表12に示す。
実施例22〜25
上層成膜用の酸素ガスの流量を表13に示すように変更した以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造及びTC(110)、並びに工具寿命を測定した。測定結果を酸素ガスの流量とともに表13に示す。表13から明らかなように、酸素ガスの流量が100〜500 sccmの範囲で1.3以上のTC(110)及び長い工具寿命が得られた。特に酸素ガスの流量が200〜400 sccmの範囲で工具寿命が長かったので、その原因を調べるために実施例1と同様にして上層の表面粗さを測定した。その結果、酸素ガスの流量が200 sccm、300 sccm及び400 sccmの実施例1、23及び24では、上層の平均表面粗さRaは0.079μm及び0.082μmであり、酸素ガスの流量が500 sccmの実施例25では、上層の平均表面粗さRaは0.145μmであった。上層の表面粗さの主な原因はドロップレットであるので、酸素ガスの流量が150〜450 sccmの範囲、特に200〜400 sccmの範囲でドロップレットの生成が少ないことが分った。
実施例26〜29
中間層又は上層の成膜時間を変化させることにより中間層の厚さ及び上層の厚さを変更した以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造及びTC(110)、並びに工具寿命を測定した。結果を表14に示す。
中間層の厚さ(Tm)が0.2〜3.0μmで、上層の厚さ(Tu)が0.3〜6μmの実施例26〜29の硬質皮膜被覆工具はいずれも寿命が長かった。これから、Tmは0.1〜4μmが好ましく、またTuは0.2〜8μmが好ましいことが分かる。なお、実施例28及び29のTC(110)は2.54及び3.58と著しく高い。この理由は必ずしも明らかではないが、4〜6μmの範囲内で上層の膜厚が増加するにつれて、TC(110)が顕著に増大する傾向が認められた。
実施例30〜37
下層の成膜に使用するターゲット及び反応ガスを表15に示すように変更した以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製した。下層の成膜に用いた反応ガスの流量は400〜1500 sccmの範囲内であり、実施例35〜37では、アセチレンガスの流量を100 sccmとし、窒素ガスの流量を500 sccmとした。各硬質皮膜被覆工具の寿命、及び上層のTC(110)を実施例1と同様にして測定した。結果を表15に示す。実施例30〜37の硬質皮膜被覆工具はいずれも、下層の種類を変えても比較例の硬質皮膜被覆工具より十分に寿命が長かった。
実施例38〜42
下層の成膜時間を変更して下層の膜厚を変化させた以外は実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具を作製し、上層のTC(110)及び工具寿命を測定した。結果を表16に示す。表16より、下層の厚さが0.5〜10μmの場合に工具寿命が長いことが分る。
実施例43及び44、比較例16及び17
上層成膜時のアーク電流を表17に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造及びTC(110)、並びに工具寿命を測定した。測定結果をアーク電流とともに表17に示す。表17より、上層成膜時のアーク電流が100〜150 Aの場合に高性能であることが分る。
実施例45〜47
上層の成膜雰囲気を酸素ガスのみで構成したか(実施例45)、酸素ガスとArガスで構成した(実施例46及び47)以外実施例1と同様にして、硬質皮膜被覆工具を作製し、上層の結晶構造、TC(110)及び表面粗さRa、並びに工具寿命を測定した。測定結果をArガスの割合とともに表18に示す。表18より、上層成膜雰囲気の10〜40体積%をArガスとすると(実施例46及び47)、不可避的不純物以外酸素ガスのみからなる場合(実施例45)よりドロップレットの生成がはるかに少なくなることが分る。
実施例1〜47及び比較例10,12,13,15及び17の硬質皮膜被覆工具のTC(110)と寿命との関係を図13に示す。図中、●は実施例であり、△は比較例である。実施例1〜47の硬質皮膜被覆工具の寿命はいずれも5分を超えており、特にTC(110)が1.5以上の実施例1,2,6〜9,11,14,17,18,20,23,24,28,29,33,34,38,39,43,46,47は10分以上の工具寿命を有していた。なお、実施例26では中間層が0.2μmと薄いので、TC(110)が1.5以上であっても工具寿命は8.2分と10分未満であった。また実施例30〜32では下層がSiを含有しているので、TC(110)が1.5以上であっても工具寿命は8.1〜8.2分と10分未満であった。さらに実施例35〜37では下層が炭窒化物であるので、TC(110)が1.5以上であっても工具寿命は8.1〜8.3分と10分未満であった。
これに対して、比較例の工具寿命は短かった。本発明の工具がかかる長寿命を有するのは、(110)面に強く配向した上層が微細なAlCr酸化物結晶粒により形成されており、結晶粒の脱落が少なく、高い密着性を有し、耐チッピング性に優れているためであると考えられる。TC(110)が1.50〜3.58では、非常に長い工具寿命が得られた。

Claims (11)

  1. 基体上に硬質の下層、中間層及び上層を物理蒸着法により形成した硬質皮膜被覆工具であって、
    (a) 前記下層は、周期律表のIVa、Va及びVIa族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、N、C及びBからなる群から選ばれた少なくとも一種の非金属元素とを含有し、
    (b) 前記上層は、一般式:(AlxCry)cOd(ただし、x及びyはAl及びCrの原子比率を表わす数字であり、c及びdはAlCとOの原子比率を表わす数字であり、x=0.1〜0.6、x+y=1、c=1.86〜2.14、及びd=2.79〜3.21の条件を満たす。)により表される組成、及びα型結晶構造を有し、等価X線回折強度比TC(110)が1.3以上の酸化物からなり、
    (c) 前記中間層は、金属元素としてAlとCrを必須とする酸窒化物からなり、酸素濃度が前記下層側から前記上層側にかけて増加するとともに窒素濃度が前記下層側から前記上層側にかけて減少する傾斜組成を有し、その平均組成が一般式:(AlsCrt)a(NvOw)b(ただし、s及びtはAlとCrの原子比率を表わす数字であり、v及びwはNとOの原子比率を表わす数字であり、a及びbはAlCとNOの原子比率を表わす数字であり、下記条件:
    s=0.1〜0.6、
    s+t=1、
    v=0.1〜0.8、
    v+w=1、
    a=0.35〜0.6、及び
    a+b=1を満たす。)により表されることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  2. 請求項1に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記中間層の結晶格子縞と前記上層の結晶格子縞とが両者の界面において少なくとも部分的に連続していることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  3. 請求項1又は2に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記上層は等価X線回折強度比TC(110) が等価X線回折強度比TC(104) より大きいとともに、表面粗さRaが0.2μm以下であり、ドロップレットの表面占有面積率が20%以下であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記中間層の厚さ(Tm)が0.1〜4μmであり、前記上層の厚さ(Tu)が0.2〜8μmであり、Tm≦Tuの関係を満たすことを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記下層の厚さが0.5〜10μmであることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記中間層の前記傾斜組成における酸素濃度の前記下層側から前記上層側にかけての平均勾配が10〜600原子%/μmであることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記中間層の前記傾斜組成における窒素濃度の前記下層側から前記上層側にかけての平均勾配が−650〜−10原子%/μmであることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記下層が窒化物であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  9. 基体上に物理蒸着法により形成した硬質の下層、中間層及び上層を有する硬質皮膜被覆工具であって、(a) 前記下層は、周期律表のIVa、Va及びVIa族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、N、C及びBからなる群から選ばれた少なくとも一種の非金属元素とを含有し、(b) 前記上層は、一般式:(AlxCry)cOd(ただし、x及びyはAl及びCrの原子比率を表わす数字であり、c及びdはAlCとOの原子比率を表わす数字であり、x=0.1〜0.6、x+y=1、c=1.86〜2.14、及びd=2.79〜3.21の条件を満たす。)により表される組成、及びα型結晶構造を有し、等価X線回折強度比TC(110)が1.3以上の酸化物からなり、(c) 前記中間層は、金属元素としてAlとCrを必須とする酸窒化物からなり、酸素濃度が前記下層側から前記上層側にかけて増加するとともに窒素濃度が前記下層側から前記上層側にかけて減少する傾斜組成を有し、その平均組成が一般式:(AlsCrt)a(NvOw)b(ただし、s及びtはAlとCrの原子比率を表わす数字であり、v及びwはNとOの原子比率を表わす数字であり、a及びbはAlCとNOの原子比率を表わす数字であり、s=0.1〜0.6、s+t=1、v=0.1〜0.8、v+w=1、a=0.35〜0.6、及びa+b=1の条件を満たす。)により表される硬質皮膜被覆工具を製造する方法であって、
    (1) 前記中間層の成膜開始から終了までの間、反応ガスとして供給する酸素ガスの流量を600 sccm以下まで増大させるとともに、窒素ガスの流量を減少させ、その際、成膜開始時点における窒素ガス流量を400 sccm以上とし、窒素ガス流量が酸素ガス流量より50 sccm以上多い時間を1分以上とし、かつ成膜雰囲気の圧力を0.3〜7 Paとし、
    (2) 前記上層の成膜温度を590〜700℃にするとともに、前記上層の成膜中の酸素ガスの流量を100〜600 sccmにして成膜雰囲気中の酸素分圧を0.5〜5 Paに制御し、及び前記上層の基体に印加するバイアス電圧を−35 V〜−10 Vにすることを特徴とする方法。
  10. 請求項9に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記上層成膜中の酸素ガスの流量を200〜500 sccmに制御することを特徴とする方法。
  11. 請求項9又は10に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記中間層の成膜終了時に前記上層用の酸素ガス流量に達していることを特徴とする方法。
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