JP4968674B2 - 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具およびその製造方法 - Google Patents

高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具およびその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、鋼や鋳鉄等の高速切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)およびその製造方法に関する。
従来、被覆工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなる基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)化学蒸着で形成されたチタンの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.5〜15μmの全体平均層厚を有するチタン化合物層からなる下部層、
(b)化学蒸着で形成された、0.5〜13μmの平均層厚を有し、アルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.05〜0.35(但し、原子比)であるクロムとアルミニウムの酸化物固溶体[以下、(Cr,Al)で示す]層からなる上部層、
で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られている。
そして、上記被覆工具は、前記Ti化合物層からなる下部層を化学蒸着で形成した後、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
反応ガス組成(容量%): AlCl 1.43〜2.09%、CrCl 0.11〜0.77%、CO 5〜6 %、HCl 2〜3 %、H:残り、
反応雰囲気温度: 980〜1050 ℃、
反応雰囲気圧力: 10〜20 kPa、
の条件で上部層を化学蒸着で形成することにより製造されることが知られている。
また、工具基体の表面に、硬質被覆層として、チタン化合物層、チタンとアルミニウムの窒化物固溶体[以下、(Ti,Al)Nで示す]層からなる下部層、酸化アルミニウム[以下、Alで示す]からなる上部層を蒸着形成してなる被覆工具も知られており、そして、上記下部層の(Ti,Al)N層は、通常のアークイオンプレーティング装置にて、装置内を例えば500℃に加熱した状態で、所定組成のTi−Al合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に例えば100Aの電流を印加してアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方工具基体には例えば−50Vのバイアス電圧を印加するという条件で、物理蒸着することにより形成されることも知られている。
さらに、工具基体の表面に、硬質被覆層として、(Ti,Al)N層からなる下部層、クロム酸化物[以下、Crで示す]層あるいは(Cr,Al)層からなる中間層、酸化アルミニウム[以下、Alで示す]層からなる上部層を蒸着形成してなる被覆工具が知られており、そして、上記下部層の(Ti,Al)N層は、通常のアークイオンプレーティング(AIP)により形成され、また、中間層および上部層は、アンバランスドマグネトロンスパッタ(UBMS)による物理蒸着にて形成されることも知られている。
上記のごとき従来の被覆工具においては、その硬質被覆層は、通常、CVD法、アークイオンプレーティング、マグネトロンスパッタリング、アンバランスドマグネトロンスパッタ等のPVD法によって形成されていたが、近時、ダイナミックオーロラPLD(Pulsed Laser Deposition)法による薄膜の成膜法が注目されている。
ダイナミックオーロラPLD法に用いられる装置の概要を図1に示すが、このダイナミックオーロラPLD法によれば、ターゲットにエキシマレーザーを照射し、ターゲット−基板間に配置した電磁石で磁場を調整して成膜すると、成膜に関与するプルーム(電子、イオン、中性の原子や分子、多原子分子やクラスタ等の集合体)を高い電子温度や運動エネルギーを維持した状態で用いることができるため、成膜の結晶構造や特性を制御できる上、多種類のターゲットを使用することができ、さらに、ターゲットと膜組成のズレが少なく、コンタミネーションも少なくできることが知られている。
特開昭54−153758号公報 特許第2644710号明細書 特開平9−291353号公報 特開2002−53946号公報 セラミックデータブック2004,工業と製品, Vol.32,No.86,p.111〜115
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と厳しい条件下で行われる傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工に用いた場合には問題はないが、特にこれを切削条件の厳しい高速切削加工に用いた場合は、硬質被覆層の層間付着強度が不十分である場合にはチッピング(微小欠け)を発生したり、また、硬質被覆層の耐摩耗性が不十分である場合には、摩耗損傷が大となり、いずれの場合にも、比較的短時間で使用寿命に至るという問題点があった。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、硬質被覆層を構成する各層間の付着強度を高めるとともに、硬質被覆層の耐摩耗性をも高めるべく鋭意研究を行った結果、硬質被覆層の層構造および硬質被覆層の形成方法について、以下の知見を得た。
(a)例えば、従来被覆工具の硬質被覆層の層構造において、化学蒸着で形成されたTiC層、TiN層、TiCN層あるいは物理蒸着で形成された(Ti,Al)N層等のTi化合物層の上面に、(Cr,Al)層を形成し、さらにこの上にAl23層を形成することにより、Al23層の備えるすぐれた高温硬さと耐熱性を生かし、硬質被覆層の耐摩耗性を改善することも考えられるが、このような層構造の硬質被覆層は特に層間付着強度が不十分なために、層間剥離、欠損、チッピングの発生が避けられない。
(b)しかし、ダイナミックオーロラPLD法により硬質被覆層の成膜を行った場合、成膜した各層の層間付着強度を向上させることができるばかりか、Al23層からなる硬質被覆層の上部層の結晶性、結晶構造を制御することができるので、硬質被覆層全体としての高温強度が改善されるとともに、切削条件に適った結晶構造、結晶性の上部層を形成することによって、耐チッピング性の向上と耐摩耗性の向上を図ることができる。
すなわち、ダイナミックオーロラPLD法によれば、例えば、工具基体の温度を500〜850℃に保持し、酸素分圧を1×10−2〜10Paとした真空雰囲気中で、2000Ga以下の磁場を印加した状態で、ターゲットにレーザー、望ましくはエキシマレーザー、を照射することにより、所望の特性を備えた硬質被覆層の成膜を行うことができる。
(c)本発明の被覆工具の場合、まず、工具基体表面に、Ti化合物からなる下部層を化学蒸着および/または物理蒸着で形成した後、下部中間層、上部中間層および上部層の各層をダイナミックオーロラPLD法により順次成膜する。
次に、イットリウム安定化ジルコニア(以下、YSZで示す)焼結体をターゲットとし、前記(b)の温度条件、雰囲気条件、磁場条件の範囲内の条件で、前記YSZターゲットにレーザーを照射し、化学蒸着および/または物理蒸着で形成された下部層の上に、YSZ層からなる下部中間層を形成する。
ついで、同じく前記(b)の温度条件、雰囲気条件、磁場条件の範囲内の条件で、例えば、α(アルファ)アルミナ(以下、α−Alで示す)およびクロム酸化物(以下、Crで示す)の混合体からなるターゲットにレーザーを照射し、(Cr,Al)層からなる上部中間層を形成する。
次に、同じく前記(b)の温度条件、雰囲気条件、磁場条件の範囲内の条件で、α−Alからなるターゲットにレーザーを照射し、Al層からなる上部層を形成する。
なお、使用するレーザーはエキシマレーザーであることが望ましい。
上記のようにして、下部層、下部中間層、上部中間層および上部層からなる硬質被覆層を形成することができる。
(d)上記(c)のダイナミックオーロラPLD法による成膜において、磁場を印加した状態で、下部層と上部層の間に、YSZからなる下部中間層および(Cr,Al)層からなる上部中間層を形成することにより、各層間の付着強度が向上し、その結果、硬質被覆層全体としての高温強度が改善され、高速切削加工における耐チッピング性が大幅に改善される。
(e)また、例えば、上記(c)のダイナミックオーロラPLD法による(Cr,Al)層からなる上部中間層の成膜にあたり、α−AlおよびCrの混合体ターゲットのα−AlおよびCrの混合比率、レーザー照射条件(照射量、照射時間)、印加磁場条件等の成膜条件を調整することにより、上部中間層に含有されるAlとCrの含有割合を変化させることができ、その結果として、上部層に形成されるAl層を、上部中間層に含有されるAlとCrの含有割合に応じた特定の結晶構造に制御することができると同時に、上部層の結晶性を向上させることができる。
例えば、上部中間層におけるCr含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.01〜0.4となるように成膜条件を調整すると、上部層としてはκ(カッパ)アルミナ(以下、κ−Alで示す)が優先的に形成され、一方、上部中間層におけるCr含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.5以上1以下となるように成膜条件を調整すると、上部層としてはγ(ガンマ)アルミナ(以下、γ−Alで示す)が優先的に形成されるようになる。
なお、上部中間層におけるCr含有割合(Cr/(Al+Cr))=1とは、上部中間層がCr酸化物層で構成されていることであるから、この場合は、Crターゲットへのレーザー照射を行うということに他ならない。
さらに、上部中間層は、一つの層にて形成する必要はなく、例えば、第一層目をCr層で形成し、第二層目を(Cr,Al)層で形成した複層構造として上部中間層が形成されていても、何ら不都合を生じるものではない。
α−Al23、γ−Al23、κ−Al23、θ−Al23等はAl23の代表的な結晶構造として知られており、そして、α−Al23が特にすぐれた高温硬さと耐熱性を備え、γ−Al23は、α−Al23に比べて相対的に高温硬さは低いが、耐熱疲労性が高いという特性を有し、κ−Al23は、α−Al23に比べて相対的に高温硬さは低いが、高温強度が高いという特性を有し、また、θ−Al23は、α−Al23に比べて相対的に高温硬さは低いが、鉄系被削材との親和性が低いという特性を有することが知られているから、上記ダイナミックオーロラPLD法でAl層を形成する際、例えば、硬質被覆層の上部層として耐摩耗性に加え特に耐チッピング性が要求されるような場合には上部層をκ−Al23層で形成することが望ましいが、このような場合、例えば、AlとCrの混合体ターゲットのAlの割合を高めるという成膜条件の僅かな調整によって行うことができ、要求される工具特性に適った硬質被覆層を、簡易かつ確実に形成することができる。
(g)また、前記(c)においては、α−AlおよびCrの混合体ターゲットにレーザーを照射し、(Cr,Al)層からなる上部中間層を形成したが、ターゲットの種類はこれらのみに限られず、Crターゲットのみにレーザー照射を行い、Cr層からなる上部中間層を形成することによって、上部層をκ−Al23で形成することができ、また、CeOターゲットのみにレーザー照射を行い、CeO層からなる上部中間層を形成することによって、上部層をθ(シータ)アルミナ(以下、θ−Alで示す)で形成することができる。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、0.3〜3μmの合計層厚を有するチタンの炭化物(TiC)層、チタンの窒化物(TiN)層、チタンの炭窒化物(TiCN)層およびチタンとアルミニウムの複合窒化物((Ti,Al)N)層のうちの1層または2層以上からなるチタン化合物(Ti化合物)層、
(b)下部中間層として、0.02〜0.2μmの層厚を有するイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)層、
(c)上部中間層として、0.02〜0.2μmの合計層厚を有するクロムの酸化物(Cr)層、クロムとアルミニウムの酸化物固溶体((Cr,Al))層およびセリウム酸化物(CeO)層のうちの少なくとも一つの層、
(d)上部層として、0.3〜3μmの層厚を有し、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナ(κ−Al)、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナ(γ−Al)および主として単斜晶の結晶構造を有するθ(シータ)アルミナ(θ−Al)のいずれかからなる酸化アルミニウム(Al)層、
上記(a)〜(d)の下部層、下部中間層、上部中間層および上部層からなる硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具(被覆工具)。
(2) 上記(c)のクロムとアルミニウムの酸化物固溶体((Cr,Al))層からなる上部中間層において、アルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))は0.01以上0.4以下(但し、原子比)であり、また、上記(d)の上部層は、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナ(κ−Al)により構成されていることを特徴とする前記(1)の表面被覆切削工具(被覆工具)。
(3) 上記(c)のクロムとアルミニウムの酸化物固溶体((Cr,Al))層からなる上部中間層において、アルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))は0.5以上1以下(但し、原子比)であり、また、上記(d)の上部層は、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナ(γ−Al)により構成されていることを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)。
(4) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)化学蒸着又は物理蒸着により、チタンの炭化物(TiC)層、チタンの窒化物(TiN)層、チタンの炭窒化物(TiCN)層およびチタンとアルミニウムの複合窒化物((Ti,Al)N)層のうちの1層または2層以上からなるチタン化合物(Ti化合物)層を、0.3〜3μmの合計層厚になるまで蒸着して下部層を形成し、
(b)次に、工具基体の温度を500〜850℃に保持し、雰囲気中の酸素分圧を1×10−2〜10Paとした真空雰囲気中で、2000Ga以下の磁場を印加した状態で、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)からなるターゲットにレーザーを照射して、工具基体の下部層の表面に、0.02〜0.2μmの層厚のイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)層からなる下部中間層を形成し、
(c)次いで、クロム酸化物(Cr)、クロム酸化物(Cr)とα(アルファ)アルミナ(α−Al)の混合体、セリウム酸化物(CeO)のうちから選ばれたいずれか1種以上のターゲットに、上記(b)と同様な条件でレーザーを照射し、工具基体の下部中間層の表面に、0.02〜0.2μmの層厚の上部中間層を形成し、
(d)その後、α(アルファ)アルミナ(α−Al)からなるターゲットに、上記(b)と同様な条件でレーザーを照射することにより、工具基体の上部中間層の表面に、0.3〜3μmの層厚を有し、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナ(κ−Al)、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナ(γ−Al)および主として単斜晶の結晶構造を有するθ(シータ)アルミナ(θ−Al)のいずれかからなる酸化アルミニウム層を上部層として形成する、
ことを特徴とする下部層、下部中間層、上部中間層および上部層からなる硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具(被覆工具)の製造方法。
(5) 上部中間層の形成に際し、少なくとも、クロム酸化物(Cr)とα(アルファ)アルミナ(α−Al)の混合体からなるターゲットにレーザーを照射し、上部中間層におけるアルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))が0.01以上0.4以下(但し、原子比)となる(Cr,Al)層を成膜することにより、上部層を、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナ(κ−Al)で構成するようにしたことを特徴とする前記(4)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)の製造方法。
(6) 上部中間層の形成に際し、少なくとも、クロム酸化物(Cr)からなるターゲットにレーザーを照射し、あるいは、クロム酸化物(Cr)とα(アルファ)アルミナ(α−Al)の混合体からなるターゲットにレーザーを照射し、上部中間層におけるアルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))が0.5以上1以下(但し、原子比)となるCr層あるいは(Cr,Al)層を成膜することにより、上部層を、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナ(γ−Al)で構成するようにしたことを特徴とする前記(4)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)の製造方法。
(7) 上部中間層の形成に際し、セリウム酸化物(CeO)からなるターゲットにレーザーを照射し、セリウム酸化物(CeO)層を上部中間層として成膜することにより、上部層を、主として単斜晶の結晶構造を有するθ(シータ)アルミナ(θ−Al)で構成するようにしたことを特徴とする前記(4)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)の製造方法。
(8) 使用するレーザーがエキシマレーザーであることを特徴とする前記(4)〜(7)のいずれかに記載の表面被覆切削工具(被覆工具)の製造方法。」
に特徴を有するものである。
以下に、この発明の被覆工具の硬質被覆層および被覆工具の製造方法について、詳細に説明する。
(1)下部層(Ti化合物層)
通常のCVD法、PVD法等により形成されるTi化合物層からなる下部層は、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層に高温強度を保持せしめるほか、工具基体とYSZ層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その合計平均層厚が0.3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計層厚が3μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速切削では熱疲労を起し易くなり、これが熱亀裂の原因となることから、その合計層厚を0.3〜3μmと定めた。
(2)下部中間層(YSZ層)
下部中間層を構成するイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)層は、ダイナミックオーロラPLD法により、例えば、下部層を設けた工具基体の温度を500〜850℃に保持し、雰囲気中の酸素分圧を1×10−2〜10Paとした真空雰囲気中で、2000Ga以下の磁場を印加した状態で、ターゲットにレーザーを照射することにより形成するが、下部層および上部中間層のいずれとも強固な密着性を有し硬質被覆層の高温強度を改善するので、高速ミーリングのような高速切削加工において、硬質被覆層にチッピングが発生することを防止する。ただ、YSZ層の層厚が0.02μm未満では、層間接合強度の向上の効果は少なく、また、層厚が0.2μmを超えるとYSZ結晶が粒成長しやすくなり、その結果、YSZ層の強度が低下するため、下部中間層としてのYSZ層の層厚は0.02〜0.2μmと定めた。
(3)上部中間層
ダイナミックオーロラPLD法により、YSZ層の上に上部中間層を形成すると、成膜に用いるターゲットの種類によって種々の上部中間層が形成されるが、上部中間層の種類、組成等によって、その上方に形成されるAl層の結晶構造、特性が影響される。
既に述べたように、ターゲットとしては、Cr、Crとα−Alとの混合体、CeO等を使用することができるが、例えば、Crとα−Alとの混合体ターゲットを用い、(Cr,Al)層を上部中間層として形成し、しかも、該中間層において、アルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))が0.01以上0.4以下(但し、原子比)である場合には、上部中間層上に形成されるAl層は、主として斜方晶の結晶構造を有するκ−Alとなる。
一方、上記の上部中間層におけるクロム含有割合(Cr/(Cr+Al))が0.5以上1以下(但し、原子比)である場合には、上部層として、主として立方晶の結晶構造を有するγ−Al層が形成される。
なお、上部中間層におけるCr含有割合(Cr/(Al+Cr))=1とは、上部中間層がCr酸化物層で構成されていることであるから、この場合は、Crターゲットのみへのレーザー照射を行うということに他ならない。
さらに、上部中間層は一つの層のみで形成する必要はなく、例えば、第一層目をCr層で形成し、第二層目を(Cr,Al)層で形成した複層構造として上部中間層を構成することができ、このような場合には、第二層の(Cr,Al)層のCr含有割合に対応した結晶構造のAl層が上部層として形成されることになる。
また、CeOターゲットを用い、これにレーザー照射を行い、CeO層からなる上部中間層を形成した場合には、上部層としては、主として単斜晶の結晶構造を有するθ−Al層が形成される。
なお、ターゲットとしては、ZnO、TiOあるいはYを用いることも可能であり、レーザー照射によって、上部中間層をこれらの各酸化物で形成し、その上に、上部層としてのAl層を形成することによって、結晶性が高く特定の結晶構造をもったAl層を形成することができる。
上部層として形成される上記のAl層の結晶性は、特に、ダイナミックオーロラPLD法において印加した磁場の強さの影響を受けるが、Al層の結晶性の向上を図るためには2000G以下の磁場を印加することが必要である。
また、上部中間層の層厚は、0.02μm未満であると各層の層間強度の向上、硬質被覆層全体としての高温強度の向上が図れず、一方、層厚が0.2μmを超えると、上部中間層の結晶粒が粒成長しやすくなり、その結果、上部層のAl層も粒成長し、硬質被覆層にチッピングが発生しやすくなるため、上部中間層の層厚を0.02〜0.2μmと定めた。
(4)上部層(Al層)
α−Alターゲットにレーザー照射することによって、上部中間層の種類、組成等に応じ、γ、κ、θ等種々の結晶構造の結晶性の向上したAl層を上部中間層上に形成することができ、いかなる結晶構造のAl層を形成するかは、被削材の種類、切削条件に応じて必要とされる工具特性に適う最適なAl層を選択すればよい。
例えば、合金鋼を被削材とし、切削速度350〜450m/minで高速ミーリング加工を行う場合には、高温硬さと高温強度が特に優れたκ−Al層を上部層として設けることが望ましく、
また、ダクタイル鋳鉄を被削材として、切削速度350〜450m/minで高速ミーリング加工を行う場合には、高温硬さと耐熱疲労性が特に優れたγ−Al層を上部層として設けることが望ましい。
また、上部層として形成されるAl層は、上部中間層との密着性・付着強度にも優れているため、硬質被覆層全体としての高温強度を向上させ、すぐれた耐チッピング性を示し、また、Al層からなる上部層は、磁場が印加された状態で成膜されることによってその結晶性が向上し、すぐれた耐摩耗性を具備するようになることから、このようなAl層を硬質被覆層の構成層として設けた本発明の被覆工具は、高速切削という高熱発生を伴う厳しい切削条件で用いられた場合であっても、すぐれた耐チッピング性とともにすぐれた耐摩耗性を示し、工具特性が格段に改善されたものとなる。
ただ、上部層の層厚が0.3μm未満では、すぐれた工具特性を十分発揮することはできず、一方、層厚が3μmを超えると、切刃部に欠損・チッピングを発生しやすくなるので、上部層の層厚は0.3〜3μmと定めた。
(5)ダイナミックオーロラPLD法による成膜条件
本発明では、従来から知られているCVD法、PVD法により、まず、工具基体表面に、TiC層、TiN層、TiCN層および(Ti,Al)N層のうちの1層または2層以上からなるチタン化合物層を、0.3〜3μmの合計層厚になるまで蒸着して下部層を形成した後、ダイナミックオーロラPLD法により、下部中間層、上部中間層および上部層を成膜形成する。
ダイナミックオーロラPLD法は、永久磁石を用い磁場を発生させていた従来のPLD法に比べて、基板温度を高めることが可能であり、磁場の強弱を自由にコントロールでき、さらに、ターゲットあるいは基板に印加する磁場を調整して、成膜の結晶構造、特性を自由に制御できるという利点を有するが、本発明は、ダイナミックオーロラPLD法によるこれらの利点を生かしつつ、同時に、工具基体(基板)に成膜する、下部中間層、上部中間層および上部層の種類、成膜条件を特定することにより、被覆工具の硬質被覆層に要求される耐チッピング性および耐摩耗性という特有の課題の解決を図ったものである。
すなわち、ダイナミックオーロラPLD法による成膜にあたり、ターゲットにレーザーを照射して下部中間層、上部中間層および上部層を形成する際に、成膜速度および結晶性を高めるためには、工具基体の温度を500〜850℃に保持する必要があり、また、各層、酸化物の酸素量を適正範囲に制御するためには、雰囲気条件を、O分圧が1×10−2〜10Paの真空雰囲気とする必要があり、また、各層の結晶性や結晶構造、結晶粒の成長を制御するためには、印加磁場を2000G以下の範囲で調節することが必要である。
そして、通常のCVD法、PVD法により工具基体に下部層を形成した後、前記温度条件、雰囲気条件および磁場条件の下で、ダイナミックオーロラPLD法により下部中間層としてのYSZ層を成膜し、ついで、Cr、Crとα−Alの混合体、CeOのうちから選ばれたいずれか1種以上のターゲットにレーザーを照射して上部中間層を形成し、その後、α−Alからなるターゲットにレーザーを照射してAl層からなる上部層を形成するが、このように成膜した各層は強固な付着強度を有しており、また、ターゲットの種類、レーザーの照射条件、磁場の印加条件等を調整することによって、特に上部層を構成するAl層に所定の結晶構造、結晶性を有せしめることができ、その結果として、すぐれた耐チッピング性とすぐれた耐摩耗性を備えた硬質被覆層を形成することができる。
したがって、上記のような方法で製造した被覆工具は、高い発熱を伴う高速切削という厳しい条件下での切削加工においても、長期に亘ってすぐれた耐チッピング性とすぐれた耐摩耗性を発揮する。
この発明の被覆工具は、硬質被覆層を構成する層として下部層と上部層の間に、YSZ層からなる下部中間層および(Cr,Al)層等からなる上部中間層が形成され、これによって各層間の付着強度が高められ、硬質被覆層が全体としてすぐれた高温強度を具備し、また、上部層が、結晶性が高められたγ−Al23層、κ−Al23層あるいはθ−Al23層で構成され、上部層がすぐれた耐摩耗性を具備することから、この発明の被覆工具は、すぐれた耐チッピング性とすぐれた耐摩耗性を発揮する結果、長期に亘ってすぐれた工具特性を示すとともに、工具寿命の延命化が図られる。
また、この発明による被覆工具の製造方法は、予め、CVD法、PVD法により所定の下部層が形成された工具基体に対して、ダイナミックオーロラPLD法を利用し、しかも、要求される工具特性に応じて、ターゲットの種類、組成、成膜条件等を選定し、所望の上部中間層を形成することができ、またさらに、これによって所望の結晶構造、結晶性を備えた上部層を形成することができるので、耐チッピング性および耐摩耗性にすぐれた被覆工具を、簡易かつ確実に製造することができる。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.06mmのホーニング加工を施すことにより、ISO規格にSPMN120308として規定されるスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.06mmのホーニング加工を施すことにより、ISO規格にSPMN120308として規定されるスローアウエイチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
ついで、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fのそれぞれを、通常の化学蒸着装置またはアークイオンプレーティング装置に装入し、
(a)まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表5、6に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した。
ついで、下部層を形成した上記工具基体をダイナミックオーロラPLD装置に装入し、
(b)まず、表4に示される成膜条件で、YSZターゲットに対してエキシマレーザーを照射し、工具基体の下部層の上に、表5、6に示される目標層厚のYSZ層(下部中間層)を形成し、
(c)ついで、同じく表4に示される条件で、各種のターゲットに対してエキシマレーザーを照射し、YSZ層(下部中間層)の上に、表5,6に示される目標層厚の上部中間層を形成し、
(d)その後、同じく表4に示される条件で、α−Al23ターゲットに対してエキシマレーザーを照射し、目標層厚の上部層(Al23層)を形成することにより、本発明被覆工具1〜16を製造した。
また、比較の目的で、特開2002−53946号公報(特許文献4に同じ)に示されるアークイオンプレーティング法とアンバランスドマグネトロンスパッタ法により、表7に示されるような(Ti,Al)N層(本発明の下部層に相当)、(Cr,Al)層あるいはCr層(本発明の上部中間層に相当)、およびAl層(本発明の上部層に相当)という層構造の硬質被覆層を形成し、比較被覆工具1〜8をそれぞれ製造した。
つまり、工具基体表面に対して、Ti−Al合金ターゲットを用いたアークイオンプレーティング法で層厚3μmの(Ti,Al)N層を形成する。
続いて、Cr層を形成する場合には、アルゴンと酸素の混合雰囲気下でCrターゲットを用いたUBMS法でCr層を形成し、また、(Cr,Al)層を形成する場合には、Cr−Alターゲットを用い、窒素雰囲気下にてアークイオンプレーティング法で(Cr,Al)N層を形成した後に酸化雰囲気下にて450℃で酸化することにより(Cr,Al)層を形成する。
次に、アルゴンと酸素の混合雰囲気下でAlターゲットを用いたUBMS法でAl層を形成することにより、比較被覆工具1〜8を製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具1〜16および比較被覆工具1〜8について、これらの硬質被覆層の構成層をオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、目標組成と実質的に同じ組成を有することが確認され、また、これらの被覆工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
また、本発明被覆工具1〜16および比較被覆工具1〜8の硬質被覆層の上部層を構成するAl層について、X線回折によりその結晶構造を同定した。
その結果を表5〜7に示す。
つぎに、上記の本発明被覆工具1〜16および比較被覆工具1〜8について、次の切削条件A〜Cにより、単刃での高速ミーリング加工を実施した。
[切削条件A]
被削材: JIS・SCM440のブロック材、
切削速度: 380 m/min、
切り込み: 2.0 mm、
一刃送り量: 0.15 mm/刃、
切削時間: 8 分、
の条件での合金鋼の乾式高速切削試験(通常の切削速度は200m/min)。
[切削条件B]
被削材: JIS・FCD450のブロック材、
切削速度: 420 m/min、
切り込み: 2.5 mm、
一刃送り量: 0.18 mm/刃、
切削時間: 10 分、
の条件でのダクタイル鋳鉄の湿式高速切削試験(通常の切削速度は200m/min)。
[切削条件C]
被削材: JIS・SUS304のブロック、
切削速度: 360 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
一刃送り量: 0.20 mm/刃、
切削時間: 5 分、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速切削試験(通常の切削速度は150m/min)。
そして、上記の各切削試験における切刃の逃げ面摩耗幅を測定し、この測定結果を表8に示した。
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表5〜8に示される結果から、本発明被覆工具1〜16はいずれも、下部層と上部層の間に、下部中間層および上部中間層が介在形成されているため、硬質被覆層全体としての高温強度が高く耐チッピング性にすぐれ、また、上部中間層の上に形成されたAl23層からなる上部層は、いずれも高結晶性を有し所望の結晶構造のものが得られ、すぐれた耐摩耗性を備えている。
また、本発明被覆工具1〜16の製造方法は、通常のCVD法あるいはPVD法により硬質被覆層の下部層を形成し、ついで、所定条件下でのダイナミックオーロラPLD法により、硬質被覆層の下部中間層、上部中間層および上部層を形成するものであるが、ターゲットの種類、組成を選択し、所定の条件下で、ターゲットにレーザーを照射して、結晶性の向上した所定の結晶構造のAl23層を形成することができるので、要求される工具特性に適う所望の特性を備えた被覆工具を、簡易な方法でかつ確実に製造することができる。
これに対して、硬質被覆層の(Ti,Al)N層(下部層に相当)がアークイオンプレーティング法で形成され、Cr層あるいは(Cr,Al)層(上部中間層に相当)とAl23層(上部層に相当)がアンバランスドマグネトロンスパッタ法で形成された比較被覆工具1〜8においては、(Cr,Al)層のCr含有割合とは無関係に、主としてα−Alからなる上部層が形成(なお、一部γ−Alが含まれる場合がある)されてしまい、また、温度条件(例えば、工具基体温度が低い場合)によっては、結晶性が不十分であって非晶質Al層が形成される場合がある。
いずれにしても、比較工具1〜8においては、硬質被覆層の上部層は、α−Al、α+γ−Alあるいは非晶質Alに限られ、本発明のように、硬質被覆層の上部層の結晶性、結晶構造(例えば、κ−Al層、γ−Al層あるいはθ−Al層)を、要求される工具特性に応じて、簡易かつ確実に制御することはできなかった。
さらに、比較工具1〜8は、本発明の下部中間層(YSZ層)を硬質被覆層の構成層としていないため、(Ti,Al)N層(下部層)と、Cr層あるいは(Cr,Al)層(上部中間層)との層間付着強度が十分でなく、硬質被覆層全体としての高温強度も十分でないため、高速切削加工において層間剥離、欠損、チッピングを発生しやすく、その結果、比較的短時間で使用寿命に至るものであった。
上述のように、この発明の被覆工具およびその製造方法は、鋼や鋳鉄などの各種被削材の高速切削加工で、チッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
ダイナミックオーロラPLD法に用いられる装置の概要説明図である。

Claims (8)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層として、0.3〜3μmの合計層厚を有するチタンの炭化物層、チタンの窒化物層、チタンの炭窒化物層およびチタンとアルミニウムの複合窒化物層のうちの1層または2層以上からなるチタン化合物層、
    (b)下部中間層として、0.02〜0.2μmの層厚を有するイットリウム安定化ジルコニア層、
    (c)上部中間層として、0.02〜0.2μmの合計層厚を有するクロムの酸化物層、クロムとアルミニウムの酸化物固溶体層およびセリウム酸化物層のうちの少なくとも一つの層、
    (d)上部層として、0.3〜3μmの層厚を有し、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナ、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナおよび主として単斜晶の結晶構造を有するθ(シータ)アルミナのいずれかからなる酸化アルミニウム層、
    上記(a)〜(d)の下部層、下部中間層、上部中間層および上部層からなる硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具。
  2. 上記(c)のクロムとアルミニウムの酸化物固溶体層からなる上部中間層において、アルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))は0.01以上0.4以下(但し、原子比)であり、また、上記(d)の上部層は、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  3. 上記(c)のクロムとアルミニウムの酸化物固溶体層からなる上部中間層において、アルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))は0.5以上1以下(但し、原子比)であり、また、上記(d)の上部層は、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  4. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)化学蒸着又は物理蒸着により、チタンの炭化物層、チタンの窒化物層、チタンの炭窒化物層およびチタンとアルミニウムの複合窒化物層のうちの1層または2層以上からなるチタン化合物層を、0.3〜3μmの合計層厚になるまで蒸着して下部層を形成し、
    (b)次に、工具基体の温度を500〜850℃に保持し、雰囲気中の酸素分圧を1×10−2〜10Paとした真空雰囲気中で、2000Ga以下の磁場を印加した状態で、イットリウム安定化ジルコニアからなるターゲットにレーザーを照射して、工具基体の下部層の表面に、0.02〜0.2μmの層厚のイットリウム安定化ジルコニア層からなる下部中間層を形成し、
    (c)次いで、クロム酸化物、クロム酸化物とα(アルファ)アルミナの混合体、セリウム酸化物のうちから選ばれたいずれか1種以上のターゲットに、上記(b)と同様な条件でレーザーを照射し、工具基体の下部中間層の表面に、0.02〜0.2μmの層厚の上部中間層を形成し、
    (d)その後、α(アルファ)アルミナからなるターゲットに、上記(b)と同様な条件でレーザーを照射することにより、工具基体の上部中間層の表面に、0.3〜3μmの層厚を有し、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナ、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナおよび主として単斜晶の結晶構造を有するθ(シータ)アルミナのいずれかからなる酸化アルミニウム層を上部層として形成する、
    ことを特徴とする下部層、下部中間層、上部中間層および上部層からなる硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具の製造方法。
  5. 上部中間層の形成に際し、少なくとも、クロム酸化物とα(アルファ)アルミナの混合体からなるターゲットにレーザーを照射し、上部中間層におけるアルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))が0.01以上0.4以下(但し、原子比)となるクロムとアルミニウムの酸化物固溶体層を成膜することにより、上部層を、主として斜方晶の結晶構造を有するκ(カッパ)アルミナで構成するようにしたことを特徴とする請求項4記載の表面被覆切削工具の製造方法。
  6. 上部中間層の形成に際し、少なくとも、クロム酸化物からなるターゲットにレーザーを照射し、あるいは、クロム酸化物とα(アルファ)アルミナの混合体からなるターゲットにレーザーを照射し、上部中間層におけるアルミニウムとの合量に占めるクロムの含有割合(Cr/(Cr+Al))が0.5以上1以下(但し、原子比)となるクロム酸化物層あるいはクロムとアルミニウムの酸化物固溶体層を成膜することにより、上部層を、主として立方晶の結晶構造を有するγ(ガンマ)アルミナで構成するようにしたことを特徴とする請求項4記載の表面被覆切削工具の製造方法。
  7. 上部中間層の形成に際し、セリウム酸化物からなるターゲットにレーザーを照射し、セリウム酸化物層を上部中間層として成膜することにより、上部層を、主として単斜晶の結晶構造を有するθ(シータ)アルミナで構成するようにしたことを特徴とする請求項4記載の表面被覆切削工具の製造方法。
  8. 使用するレーザーがエキシマレーザーであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
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