JPWO2012011513A1 - アルミニウム合金導体の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金導体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐屈曲疲労特性に優れたアルミニウム合金導体を提供する。【解決手段】Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであるアルミニウム合金導体。【選択図】なし

Description

本発明は、電気配線体の導体として用いられるアルミニウム合金導体およびその製造方法に関する。
従来、自動車、電車、航空機等の移動体の電気配線体として、ワイヤハーネスと呼ばれる銅または銅合金の導体を含む電線に銅または銅合金(例えば、黄銅)製の端子(コネクタ)を装着した部材が用いられていたが、近年の移動体の軽量化の中で、電気配線体の導体として、銅又は銅合金より軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金を用いる検討が進められている。
アルミニウムの比重は銅の約1/3、アルミニウムの導電率は銅の約2/3(純銅を100%IACSの基準とした場合、純アルミニウムは約66%IACS)であり、純アルミニウムの導体線材に純銅の導体線材と同じ電流を流すためには、純アルミニウムの導体線材の断面積を純銅の導体線材の約1.5倍にする必要があるが、それでも質量では銅に比べて約半分となるので、有利な点がある。
なお、上記の%IACSとは、万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)の抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%IACSとした場合の導電率を表したものである。
そのアルミニウムを移動体の電気配線体の導体として用いるためには幾つかの課題がありそのひとつに耐屈曲疲労特性の向上がある。移動体の電気配線体に使用されるアルミニウム導体に耐屈曲疲労特性が要求されるのは、ドアなどに取り付けられたワイヤハーネスではドアの開閉により繰り返し曲げ応力を受けるためである。アルミニウムなどの金属材料は、一回の負荷では破断しないような低い荷重でもドアの開閉のように荷重を加えたり除いたりを繰り返し行なうと、ある繰り返し回数で破断する疲労破壊が生じる。前記アルミニウム導体が開閉部に用いられたとき、耐屈曲疲労特性が悪いとその使用中に導体が破断することが懸念され、耐久性、信頼性に欠けるという問題を生ずる。
一般に強度の高い材料ほど疲労特性は良好と言われている。そこで、強度の高いアルミニウム線材を適用すればよいが、ワイヤハーネスはその設置時の取り回し(車体への取り付け作業)がしやすいことが要求されているために、一般的には伸びが10%以上確保できる鈍し材(焼鈍材)が使われていることが多い。
よって、移動体の電気配線体に使用されるアルミニウム導体には、取扱い及び取り付け時に必要となる強度、及び電気を多く流すために必要となる導電率に加えて、耐屈曲疲労特性の優れた材料が求められている。
このような要求のある用途に対して、送電線用アルミニウム合金線材(JIS A1060やJIS A1070)を代表とする純アルミニウム系では、ドアなどの開閉で生じる繰り返し曲げ応力に十分耐えることはできない。また、種々の添加元素を加えた合金化した材料は強度には優れるものの、アルミニウム中への添加元素の固溶現象により導電率の低下を招くこと、アルミニウム中に過剰な金属間化合物を形成することで伸線加工中に断線を引き起こす場合があることが問題であった。そのため、添加元素を限定、選択して導電率低下及び加工性劣化を防ぎ、強度及び耐屈曲疲労特性を向上する必要があった。
移動体の電気配線体に用いられるアルミニウム導体として代表的なものに特許文献1〜3に記載のものがある。しかし下記のように、いずれの特許文献記載の発明も、さらに解決すべき課題を有する。
特許文献1に記載されている電線導体は、引張強度が高すぎであり、車体への取り付け作業がしにくくなることがある。
特許文献2に具体的に記載されているアルミ導電線では、仕上げ焼鈍を行なっていない。またCuが含まれていないため、伸びが低く、車体での取り付け作業にはさらに柔軟性が高いものが要望される。
特許文献3には軽量、柔軟かつ屈曲性に優れたアルミニウム導電線が開示されているが、移動体の電気配線体への特性改善の要求は強まるばかりであり、さらなる特性の向上が望まれている。
特開2008−112620号公報 特開2006−19163号公報 特開2006−253109号公報
本発明は、耐屈曲疲労特性などに優れたアルミニウム合金導体の提供を課題とする。
本発明者らは種々の検討を重ね、要求される耐屈曲疲労特性を満足するものとして、アルミニウム合金導体に含まれる成分、ならびに前記導体の仕上げ焼鈍製造工程を制御することにより、添加元素の効果を利用し、前記導体の結晶粒径を最適化することで、前記特性を改善し得ることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の解決手段を提供するものである。
(1)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであることを特徴とするアルミニウム合金導体。
(2)引張強度が120MPa以上、及び導電率が57%IACS以上、±0.17%の曲げ歪みが与えられた際の繰返破断回数が90000回以上であることを特徴とする(1)に記載のアルミニウム合金導体。
(3)前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする(1)または(2)に記載のアルミニウム合金導体。
(4)前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(5)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(6)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであることを特徴とするアルミニウム合金導体。
(7)(6)項に記載のアルミニウム合金導体に、さらにZrを0.001〜0.1mass%を含むアルミニウム合金導体。
(8)Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であることを特徴とする(7)項に記載のアルミニウム合金導体。
(9)引張強度が120MPa以上、及び導電率が52%IACS以上、±0.17%の曲げ歪みが与えられた際の繰返破断回数が80000回以上であることを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(10)前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする(6)〜(9)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(11)前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする(6)〜(10)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(12)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(13)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(14)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であり、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(15)Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体。
(16)Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、Fe0.01mass%〜1.0mass%と、Mg0.1〜0.35mass%とを含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体。
(17)(15)または(16)項に記載のアルミニウム合金導体に、さらにZrを0.001〜0.1mass%を含むアルミニウム合金導体。
(18)Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比が、0.6〜2.6であることを特徴とする(17)項に記載のアルミニウム合金導体。
(19)前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする(15)〜(18)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(20)前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする(15)〜(19)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(21)(15)〜(18)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金組成を与えるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなる(15)〜(18)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体を製造する方法であって、前記焼鈍熱処理を、急熱、急冷の工程を含む連続熱処理であって、下記<1>または<2>のいずれかを施すことによって行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法:
<1>線材温度y(℃)と焼鈍時間x(秒)が、
0.03≦x≦0.55、かつ
26x−0.6+377≦y≦23.5x−0.6+423
の関係を満たす連続通電熱処理;または
<2>焼鈍炉温度z(℃)と焼鈍時間x(秒)が、
1.5≦x≦5、かつ
−50x+550≦z≦−36x+650
の関係を満たす連続走間熱処理。
以下、前記(1)〜(4)項記載のアルミニウム合金導体と前記(5)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法とを併せて、本発明の第1の実施態様という。
前記(6)〜(11)項記載のアルミニウム合金導体と前記(12)〜(14)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法とを併せて、本発明の第1の実施態様という。
前記(15)〜(20)項記載のアルミニウム合金導体と前記(21)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法とを併せて、本発明の第3の実施態様という。
ここで、特に断らない限り、本発明とは、前記第1、第2および第3の実施態様を全て包含する意味である。
本発明のアルミニウム合金導体は強度、及び導電率に優れ、移動体に搭載されるバッテリーケーブル、ハーネスあるいはモータ用導体として有用なもので、優れた耐屈曲疲労特性が求められるドアやトランク、ボンネットなどにも好適に用いることができる。
さらに、本発明のアルミニウム合金導体は、高温(例えば120℃)に曝されても屈曲疲労特性が低下しない優れたものであり、耐食性に優れるものである。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
図1は、実施例の繰返破断回数試験の説明図である。
まず、本発明の第1の実施態様について説明する。
本発明の好ましい実施態様は、Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmのアルミニウム合金導体である。
本実施態様において、Feの含有量を0.01〜0.4mass%とするのは、主にAl−Fe系の金属間化合物による様々な効果を利用するためである。Feはアルミニウム中には655℃において0.05mass%しか固溶せず、室温では更に少ない。残りはAl−Fe系の第2相粒子として晶出または析出する。この晶出物または析出物は結晶粒の微細化材として働くと共に、強度、及び耐屈曲疲労特性を向上させる。一方、Feの固溶によっても強度が上昇する。Feの含有量が少なすぎるとこれらの効果が不十分であり、多すぎると晶出物の粗大化により伸線加工及び撚線加工において断線の原因となる。目的の耐屈曲疲労特性も得られない。Feの含有量は好ましくは0.10〜0.3mass%、さらに好ましくは0.15〜0.25mass%である。
本実施態様において、Cuの含有量を0.3〜0.5mass%とするのは、Cuはアルミニウム母材中に固溶して強化し、耐屈曲疲労特性を向上させるためであり、さらに、Al、Fe、Mg、Siと第2相粒子を形成し、耐屈曲疲労特性を向上させるためである。Cuの含有量が少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると耐食性及び導電率の低下を招く。さらに加工性が悪くなる。Cuの含有量は好ましくは0.35〜0.5mass%、さらに好ましくは0.4〜0.5mass%である。
本実施態様において、Mgの含有量を0.04〜0.3mass%とするのは、Mgはアルミニウム母材中に固溶して強化すると共に、その一部はAl、Fe、Cu、Siと第2相粒子を形成して強度、耐屈曲疲労特性、及び耐熱性を向上させることができるためである。Mgの含有量が少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると導電率を低下させる。また、Mgの含有量が多すぎると耐力が過剰となり、成形性、撚り性を劣化させ、加工性が悪くなることがある。Mgの含有量は好ましくは0.08〜0.3mass%、さらに好ましくは0.1〜0.28mass%である。
本実施態様において、Siの含有量を0.02〜0.3mass%とするのは、Siはアルミニウム母材中に固溶して強化すると共に、その一部はAl、Fe、Cu、Mgと第2相粒子を形成して強度、耐屈曲疲労特性、及び耐熱性を向上させることができるためである。Siの含有量が少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると導電率が低下し、成形性、撚り性を劣化させ、加工性が悪くなる。また、線材製造中の熱処理過程におけるSi単体の析出が断線の原因になる。Siの含有量は好ましくは0.04〜0.25mass%、さらに好ましくは0.04〜0.20mass%である。
本実施態様において、TiとVは共に溶解鋳造時の鋳塊の微細化材として作用する。鋳塊の組織が粗大であると、線材加工工程で割れが発生して工業的に望ましくない。TiとVの含有量は、少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると導電率を大きく低下させ、その効果も飽和する。TiとVの合計の含有量は好ましくは0.002〜0.008mass%、さらに好ましくは0.003〜0.006mass%である。
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体によれば、上記の成分以外に結晶粒径を厳密に規定することにより、所望の優れた耐屈曲疲労特性、強度、及び導電率を具備したアルミニウム合金導体を得ることができる。
(結晶粒径)
本発明のこの実施態様ではアルミニウム合金導体の伸線方向の垂直断面における結晶粒径を5〜25μmとする。この理由は、5μm未満では部分的な未再結晶組織が残存して伸びが著しく低下するためであり、25μmを上限とするのは、これを超えた粗大な組織を形成すると変形挙動が不均一となり、同様に伸びが低下、さらに強度が著しく低下するためである。結晶粒径は、より好ましくは5〜20μmである。
(引張強度)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体の引張強度は120MPa以上である。これは、引張強度が120MPa未満では取り扱いを含めて強度不足であり、工業用導体として使用することが難しいためである。引張強度は好ましくは120〜160MPaであり、さらに好ましくは120〜150MPaである。
(導電率)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体の導電率は57%IACS以上である。これは、導電率が57%IACS未満では、動力線に用いる場合では数十A(アンペア)の高電流が流れるため、電流ロスが激しいためである。導電率は好ましくは57〜62%IACS導電率であり、さらに好ましくは58〜62%IACSである。
(耐屈曲疲労特性)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体は、優れた耐屈曲疲労特性を有する。耐屈曲疲労特性の基準として、本実施形態ではひずみ振幅±0.17%で試験を行う。耐屈曲疲労特性はひずみ振幅によって変化する。ひずみ振幅が大きい場合疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さい場合疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は図1記載の線材(アルミニウム合金導体)1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径により決定することができるため、線材1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径は任意に設定して屈曲疲労試験を実施することが可能である。
次に、1日あたりの開閉回数を10回とし20年間の使用を想定した場合、開閉回数は73000回となる(1年365日として計算)。実際に使用される電線は単線ではなく、撚り線構造となり、さらに被覆処理がされているために電線導体への負担は数分の一となる。単線での評価値として十分な耐屈曲疲労特性が確保できる90000回以上の繰返破断回数が望ましいとし、表1及び表2に記載した。より好ましくは100000回以上である。
次に、本発明の第2の実施態様について説明する。
本発明の別の好ましい実施態様は、Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmのアルミニウム合金導体である。
Fe、Cu、Mg、Si、Ti、Vの作用効果、添加量の範囲の制限理由、好ましい添加量の範囲、は、先記した通りである。
耐屈曲疲労特性を、先記の合金よりもさらに向上させるためには、Al、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成を抑制することが好ましい。
ところで、Sn、CdおよびInは、アルミニウム合金中の空孔を捕獲する作用を有しており、すなわち空孔を伴って進行する拡散作用を抑制する、あるいは遅延する働きがあり、それによりAl、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成を抑制する。その結果、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の添加により、耐屈曲疲労特性をより向上させることができる。
Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量を、総量で0.01〜0.5mass%とするのは、0.01mass%未満では、第二相粒子生成の抑止効果が無く、0.5mass%を超えると生成を抑止する効果がなくなり逆に第二相粒子の生成を加速すると共に、伸びが低下し、また、この総量が多すぎると、伸線加工時に割れを生じやすくなり工業的な製造が成り立たないためである。
しかし、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の添加による、第二相粒子の生成を抑制する効果は、100℃以下の低温では顕著であるが、100℃を超える高温で、温度が高いほど、抑制の効果が現れなくなり、析出粒子が生成されることがある。そこで、さらにZrを添加することにより、析出抑制効果が消失してしまう現象をキャンセルすることができる。Zrは、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素と共に添加することにより、100℃を超える高温においても、Al、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成を抑制する効果を有している。Zrの添加量を0.001〜0.1mass%とするのは、0.001mass%未満では、その効果が不十分であり、0.1mass%を超えると、Al−Zr系の第二相粒子の生成量が多大となって、耐屈曲疲労特性を低下させるためである。
Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)において、より好ましい範囲は、0.6〜2.6である。この範囲において、100℃を超える高温においても、Al、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成をより効果的に抑制する効果を有する。
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体によれば、上記の成分以外に結晶粒径を厳密に規定することにより、所望の優れた耐屈曲疲労特性、強度、及び導電率を具備したアルミニウム合金導体を得ることができる。
(結晶粒径)
本発明のこの実施態様ではアルミニウム合金導体の伸線方向の垂直断面における結晶粒径を5〜25μmとする。この理由は、5μm未満では部分的な未再結晶組織が残存して伸びが著しく低下するためであり、25μmを上限とするのは、これを超えた粗大な組織を形成すると変形挙動が不均一となり、同様に伸びが低下、さらに強度が著しく低下するためである。結晶粒径は、より好ましくは5〜20μmである。
(引張強度)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体の引張強度は120MPa以上である。これは、引張強度が120MPa未満では取り扱いを含めて強度不足であり、工業用導体として使用することが難しいためである。引張強度は好ましくは120〜160MPaであり、さらに好ましくは120〜150MPaである。
(導電率)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体の導電率は52%IACS以上である。本来、導電率が57%IACS未満では、動力線に用いる場合では数十A(アンペア)の高電流が流れるため、電流ロスが激しくなる懸念があるため、好ましくは57〜62%IACS導電率である。しかし、例えば移動体内のバッテリーケーブルやワイヤハーネス等の通信線への適用に際しては、この57%IACS以上の範囲に限るものではなく、前記52%IACS以上であればよい。
(耐屈曲疲労特性)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体は、優れた耐屈曲疲労特性を有する。耐屈曲疲労特性の基準として、本実施形態ではひずみ振幅±0.17%で試験を行う。耐屈曲疲労特性はひずみ振幅によって変化する。ひずみ振幅が大きい場合疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さい場合疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は図1記載の線材(アルミニウム合金導体)1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径により決定することができるため、線材1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径は任意に設定して屈曲疲労試験を実施することが可能である。
次に、1日あたりの開閉回数を10回とし20年間の使用を想定した場合、開閉回数は73000回となる(1年365日として計算)。実際に使用される電線は単線ではなく、撚り線構造となり、さらに被覆処理がされているために電線導体への負担は数分の一となる。単線での評価値として十分な耐屈曲疲労特性が確保できる80000回以上の繰返破断回数が望ましいとし、表3に記載した。より好ましくは100000回以上であり、さらに好ましくは150000回以上である。また、自動車用途では、過酷な使用環境下、電線は高温に曝されることがある。一般に、10年の使用を想定した場合、120℃の高温にて120時間曝す加速試験が適用される。よって、120℃、120時間の放置後にも、80000回以上の繰返し破断回数であることが好ましく、90000回以上の繰返し破断回数であることがより好ましい。
(製造方法)
本発明の第1および第2の実施態様のアルミニウム合金導体の製造方法について説明する。
本発明の第1および第2の実施態様のアルミニウム合金導体は、[1]溶解、[2]鋳造、[3]熱間または冷間加工(溝ロール加工など)、[4]伸線加工、[5]熱処理(中間焼鈍)、[6]伸線加工、[7]熱処理(仕上げ焼鈍)の各工程を経て製造することができる。
本発明のアルミニウム合金組成を得るには、まず、Fe、Cu、Mg、Si、Ti、V及びAlの各合金成分、またはこれらにさらにSn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を併せた各合金成分、またはこれらいずれかの合金成分とさらにZrを併せた各合金成分を、所望の濃度となるような分量で溶製する。
次いで、鋳造輪とベルトを組み合わせたプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とする。鋳造から約φ10mmの線材の加工まで連続的に行なうことができ、更に再熱工程などの工程を省略することが可能であるため、生産性を大幅に向上させることができる。このときの鋳造冷却速度は好ましくは1〜20℃/秒である。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して荒引き線材とする。ここで、伸線加工前の線材断面積をA、伸線加工後の線材断面積をAとすると、η=ln(A/A)で表される加工度は、1以上6以下であることが好ましい。加工度が小さすぎると、次工程の熱処理時、再結晶粒が粗大化し強度及び伸びが著しく低下し、断線の原因にもなる。大きすぎると、伸線加工が困難となり、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題がある。表面の皮むきは、行なうことによって表面の清浄化がなされるが、行なわなくてもよい。
冷間伸線した荒引き線材にバッチ式焼鈍炉により中間焼鈍を施す。中間焼鈍の条件は、温度は300〜450℃である。300℃未満であると、未再結晶粒が残存して、後工程の伸線加工中に断線する原因となる。また、450℃を超えると粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下し、やはりこの場合も伸線加工中に断線するなど品質の面で問題がある。時間は10分〜6時間である。10分未満であると、未再結晶粒が残存して、後工程の伸線加工中に断線する原因となる。また、6時間を超えると熱処理温度によっては粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下し、伸線加工中に断線する恐れがある。生産性の点からも6時間を越えると良くない。中間焼鈍の条件は、好ましくは300〜450℃、30分〜4時間である。
さらに伸線加工を施して線材とする。この際も加工度は前述の理由により1以上6以下である。
冷間伸線した所定線径の線材にバッチ式焼鈍炉により仕上げ焼鈍を行ない、アルミニウム合金導体を得る。仕上げ焼鈍の条件は、温度は300〜450℃である。300℃未満であると、未再結晶粒が残存して、柔軟性が十分に確保できないためである。また、450℃を超えると粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下するためである。時間は10分〜6時間である。10分未満であると、未再結晶粒が残存して、柔軟性が十分に確保できないためである。また、6時間を超えると熱処理温度によっては粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下するためである。生産性の点からも6時間を越えると良くない。仕上げ焼鈍の条件は、好ましくは300〜450℃、30分〜4時間である。
なお、仕上げ焼鈍はバッチ式焼鈍の他に、例えば、導体に電気を流してジュール熱で焼鈍する通電焼鈍や、高温に保持した焼鈍炉中を線材が連続的に通過して焼鈍させる走間焼鈍や、磁場中を線材が連続的に通過して焼鈍させる誘導加熱でもよい。この場合、一般的に高温短時間の熱処理となるため、仕上げ焼鈍の条件はバッチ式焼鈍とは異なる。
以上詳述したように適正に熱処理を施して作製した本発明のこれらの実施態様のアルミニウム合金導体は、上記所定の結晶粒径を有することに加えて、再結晶組織を有する。再結晶組織とは、塑性加工により導入される転位などの格子欠陥が少ない結晶粒で構成された組織状態のことである。再結晶組織を有することにより、引張破断伸び、導電率が回復し、十分な柔軟性を得ることができる。
次に、本発明の第3の実施態様について説明する。
本発明のさらに別の好ましい実施態様は、Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体である。ここで、この実施態様のアルミニウム合金導体の合金組成における不可避不純物としては、JISH2110(電気用アルミニウム合金地金)に開示されており、Fe0.25mass%以下、Si0.1mass%以下、Cu0.005mass%以下、Mn0.005mass%以下、Ti+V0.005mass%以下が挙げられる。
また、実際に工業的に製造される地金中の不可避的不純物は、一般に、Fe0.05〜0.15mass%、Si0.04〜0.1mass%の範囲にある。なお、FeやSiの含有量が0.01mass%を下回るものは、一般に高純度アルミニウムとして取り扱われるが、高純度アルミニウムそのものは、FeやSiの含有量が低いため、前述の各実施態様と同様に、この実施態様においても好ましい範囲には含まれない。
また、この実施態様のアルミニウム合金導体の合金組成は、Mg0.1〜0.35mass%を含有していてもよい。また、Feは、前記不可避不純物の含有量を超えて、1.0mass%以下の量で含有してもよい。
耐屈曲疲労特性を、先記の合金よりもさらに向上させるためには、Cuが第二相粒子を形成せずに、アルミニウム中に固溶した状態とすることである。しかし、CuはAlと第二相粒子を容易に形成しやすく、この第二相粒子の形成量は、添加するCu量の増加と共に増え、形成された第二相粒子は、屈曲疲労特性に劣化をもたらす。
Cuを0.1〜1mass%としたのは、0.1mass%未満では、固溶量が少ないため耐屈曲疲労特性が良くないためであり、1mass%以上になると、以下に示す特定の製造方法においても、CuとAlの第二相粒子の形成を阻止することができず、その粒子が介在した腐食性が顕著となって耐食性が劣ると共に、その粒子により耐屈曲疲労特性の低下を招くことがあるためである。
ところで、Sn、CdおよびInは、アルミニウム合金中の空孔を捕獲する作用を有しており、すなわち空孔を伴って進行する拡散作用を抑制する、あるいは遅延する働きがあり、それによりAlとCuを成分とする第二相粒子の生成を抑制する。その結果、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の添加により、耐屈曲疲労特性をより向上させることができる。
Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量を、総量で0.01〜0.5mass%とするのは、0.01mass%未満では、第二相粒子生成の抑止効果が無く、0.5mass%を超えると生成を抑止する効果が飽和するとともに伸びが低下し、また、この総量が多すぎると、伸線加工時に割れを生じやすくなり工業的な製造が成り立たないためである。
しかし、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の添加による、第二相粒子の生成を抑制する効果は、100℃以下の低温では顕著であるが、100℃を超える高温で、温度が高いほど、抑制の効果が現れなくなり、析出粒子が生成されることがある。そこで、さらにZrを添加することにより、析出抑制効果が消失してしまう現象をキャンセルすることができる。Zrは、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素と共に添加することにより、100℃を超える高温においても、Al、Cuを成分とする第二相粒子の生成を抑制する効果を有している。Zrの添加量を0.001〜0.1mass%とするのは、0.001mass%未満では、その効果が不十分であり、0.1mass%を超えると、Al−Zr系の第二相粒子の生成量が多大となって、耐屈曲疲労特性を低下させるためである。
Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)において、より好ましい範囲は、0.6〜2.6である。この範囲において、100℃を超える高温においても、Al、Cuを成分とする第二相粒子の生成をより抑制する効果を有する。
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体によれば、上記の成分以外に製造方法を厳密に制御することにより、所望の優れた耐屈曲疲労特性、強度、及び導電率を具備したアルミニウム合金導体を得ることができる。
(引張強度)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体の引張強度は120MPa以上である。これは、引張強度が120MPa未満では取り扱いを含めて強度不足であり、工業用導体として使用することが難しいためである。引張強度は好ましくは120〜160MPaであり、さらに好ましくは120〜150MPaである。
(導電率)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体の導電率は52%IACS以上である。本来、導電率が57%IACS未満では、動力線に用いる場合では数十A(アンペア)の高電流が流れるため、電流ロスが激しくなる懸念があるため、好ましくは57〜62%IACS導電率である。しかし、例えば移動体内のバッテリーケーブルやワイヤハーネス等の通信線への適用に際しては、この57%IACS以上の範囲に限るものではなく、前記52%IACS以上であればよい。
(耐屈曲疲労特性)
本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体は、優れた耐屈曲疲労特性を有する。耐屈曲疲労特性の基準として、本実施形態ではひずみ振幅±0.17%で試験を行う。耐屈曲疲労特性はひずみ振幅によって変化する。ひずみ振幅が大きい場合疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さい場合疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は図1記載の線材(アルミニウム合金導体)1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径により決定することができるため、線材1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径は任意に設定して屈曲疲労試験を実施することが可能である。
次に、1日あたりの開閉回数を10回とし20年間の使用を想定した場合、開閉回数は73000回となる(1年365日として計算)。実際に使用される電線は単線ではなく、撚り線構造となり、さらに被覆処理がされているために電線導体への負担は数分の一となる。単線での評価値として十分な耐屈曲疲労特性が確保できる80000回以上の繰返破断回数が望ましいとし、表6に記載した。より好ましくは100000回以上であり、さらに好ましくは150000回以上である。また、自動車用途では、過酷な使用環境下、電線は高温に曝されることがある。一般に、10年の使用を想定した場合、120℃の高温にて120時間曝す加速試験が適用される。よって、120℃、120時間の放置後にも、80000回以上の繰返し破断回数であることが好ましく、90000回以上の繰返し破断回数であることがより好ましい。
(製造方法)
次に、本発明の第3の実施態様のアルミニウム合金導体の製造方法について説明する。
本発明の第3の実施態様のアルミニウム合金導体は、前記第1および第2の実施態様とは別の製造方法として、[1]溶解、[2]鋳造、[3]熱間または冷間加工(溝ロール加工など)、[4]伸線加工、[5]熱処理(中間焼鈍)、[6]伸線加工、[7]熱処理(仕上げ焼鈍)の各工程を経て製造することができる。
溶解は、前述のアルミニウム合金組成の合金成分をそれぞれの実施態様の濃度となるような分量で溶製する。
次いで、鋳造輪とベルトを組み合わせたプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とする。このときの鋳造冷却速度は好ましくは1〜20℃/秒である。鋳造及び熱間圧延は、ビレット鋳造、及び押出法などにより行なってもよい。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して荒引き線材とする。加工度は、1以上6以下が好ましい。ここで加工度ηは、伸線加工前の線材断面積をA、伸線加工後の線材断面積をAとすると、η=ln(A/A)で表される。このときの加工度が小さすぎると、次工程の熱処理時、再結晶粒が粗大化し強度及び伸びが著しく低下し、断線の原因にもなることがある。大きすぎると、伸線加工が困難となり、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題を生ずることがある。表面の皮むきは、行なうことによって表面の清浄化がなされるが、行なわなくてもよい。
冷間伸線した荒引き線材に中間焼鈍を施す。中間焼鈍は主に伸線加工で硬くなった線材の柔軟性を取り戻すために行なう。中間焼鈍温度が高すぎても低すぎても、後の伸線加工で断線を起し、線材が得られなくなる。中間焼鈍温度は好ましくは300〜450℃、より好ましくは350〜450℃である。中間焼鈍の時間は、10分以上とする。10分未満であると、再結晶粒形成及び成長に必要な時間が足りず、線材の柔軟性を取り戻すことができないためである。好ましくは1〜6時間である。また、中間焼鈍時の熱処理温度から100℃までの平均冷却速度は特に規定しないが、0.1〜10℃/分が望ましい。
さらに伸線加工を施して線材とする。上記のような再結晶集合組織を得るため、この際の加工度(連続熱処理前の加工度)を1以上6以下とする。加工度は再結晶粒形成及び成長に多大に影響を及ぼす。加工度が小さすぎると、次工程の熱処理時、再結晶粒が粗大化し強度及び伸びが著しく低下し、断線の原因になる場合がある。また、再結晶粒界が移動するための駆動力が不十分で目的の再結晶集合組織を形成できない場合がある。大きすぎると、伸線加工が困難となり、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題を生ずることがある。加工度は好ましくは2以上6以下である。
また、伸線速度は目的の再結晶集合組織を得るために制御する。伸線速度は、好ましくは500〜2000m/分とする。伸線速度が500m/分未満では次工程の仕上げ焼鈍時に目的の再結晶集合組織を得ることができない場合がある。伸線速度が2000m/分超では、線材に負荷される摩擦力が大きく、次工程の仕上げ焼鈍時に目的の再結晶集合組織を得ることができない場合があるばかりか、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題を生ずることがある。伸線速度は、より好ましくは800〜1800m/分である。
冷間伸線した所定線径の線材に、バッチ式熱処理又は連続熱処理により仕上げ焼鈍を行ない、アルミニウム合金導体を得る。
仕上げ焼鈍としてのバッチ式熱処理の条件は、前記と同様である。
この内、連続熱処理は、連続通電熱処理、連続走間熱処理の2つの方法のいずれかで行うことができる。
連続通電熱処理は、2つの電極輪を連続的に通過する線材に電流を流すことによって自身から発生するジュール熱により焼鈍するものである。急熱、急冷の工程を含み、線材温度と焼鈍時間で制御し線材を焼鈍することができる。冷却は、急熱後、水中または窒素ガス雰囲気中に線材を連続的に通過させることによって行なう。線材温度が低すぎるかまたは焼鈍時間が短すぎるかの一方または両方の場合は車載取り付け等の際に必要な柔軟性が得られず、一方、線材温度が高すぎるかまたは焼鈍時間が長すぎるかの一方または両方の場合は、過焼鈍により結晶方位が過剰に回転してしまい、目的の再結晶集合組織が得られず、さらには耐屈曲疲労特性も悪くなる。よって、以下の関係を満たす条件で行うと上記の所望の再結晶集合組織とすることができる。
連続通電熱処理においては線材温度をy(℃)、焼鈍時間をx(秒)とすると、
0.03≦x≦0.55、かつ
26x−0.6+377≦y≦23.5x−0.6+423
を満たすように行う。
なお、線材温度y(℃)は、線材として温度が最も高くなる、冷却工程に通過する直前の温度を表す。y(℃)は通常414〜616(℃)の範囲内である。
連続走間熱処理は、高温に保持した焼鈍炉中を線材が連続的に通過して焼鈍させるものである。急熱、急冷の工程を含み、焼鈍炉温度と焼鈍時間で制御し線材を焼鈍することができる。冷却は、急熱後、水中または窒素ガス雰囲気中に線材を連続的に通過させることによって行なう。焼鈍炉温度が低すぎるかまたは焼鈍時間が短すぎるかの一方または両方の場合は車載取り付け等の際に必要な柔軟性が得られず、一方、焼鈍炉温度が高すぎるかまたは焼鈍時間が長すぎるかの一方または両方の場合は、過焼鈍により結晶方位が過剰に回転してしまい、目的の再結晶集合組織が得られず、さらには耐屈曲疲労特性も悪くなる。よって、以下の関係を満たす条件で行うと上記の所望の再結晶集合組織とすることができる。
連続走間熱処理においては焼鈍炉温度をz(℃)、焼鈍時間をx(秒)とすると、
1.5≦x≦5、かつ
−50x+550≦z≦−36x+650
を満たすように行う。
なお、焼鈍炉温度z(℃)は、線材として温度が最も高くなる、冷却工程に通過する直前の温度を表す。z(℃)は通常300〜596(℃)の範囲内である。
また、連続熱処理による仕上げ焼鈍は上記2つの方法の他に、磁場中を線材が連続的に通過して焼鈍させる誘導加熱でもよい。
以上詳述したように適正に熱処理を施して作製した本発明のこの実施態様のアルミニウム合金導体は、上記所定の合金組成を有することに加えて、再結晶組織を有する。再結晶組織とは、塑性加工により導入される転位などの格子欠陥が少ない結晶粒で構成された組織状態のことである。再結晶組織を有することにより、引張破断伸び、導電率が回復し、十分な柔軟性を得ることができる。
本発明を以下の実施例に基づきさらに詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
実施例No.1〜24、比較例No.1〜12
(本発明の第1の実施態様、つまり前記(1)〜(5)項記載の発明の実施例および比較例)
後記の表1(実施例)及び表2(比較例)に示すように、Fe、Cu、Mg、Si、Ti、V及びAlを、所定量比(質量%)で用いて合金とした。ここで、Alについては、JIS−H4040 合金番号1070であって、不可避不純物の含有量が表1及び表2の値を超えないものとした。比較例No.1(純Al)、比較例No.2、比較例No.8については、Alとして高純度アルミニウム(フォーナイン(4N))を用いた。
この合金を、プロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とした。このときの鋳造冷却速度は1〜20℃/秒であった。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して、2.6mmφの荒引き線材とした。次に表1及び表2に示すように、この冷間伸線した加工材に温度300〜450℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を施し、更に、伸線加工を行って線径0.31mmφの線材とした。
最後に仕上げ焼鈍として、温度300〜450℃(比較例では250℃、500℃を含む)で0.5〜4時間のバッチ式熱処理を仕上げ焼鈍として施して、アルミニウム合金導体を得た。
比較例No.13
後記の表2に示すように、Fe、Cu、Mg、及びAlを、所定量比(質量%)で用いて常法により溶解し、25.4mm角の鋳型に鋳込んで鋳塊を得た。次に400℃に1時間鋳塊を保持し、溝ロールで熱間圧延を行い線径9.5mmの荒引線に加工した。
次いで、この荒引き線を線径0.9mmまで伸線加工した後、350℃で2時間保持の熱処理を加え焼き入れ後、更に伸線加工を続けて線径0.32mmのアルミニウム合金素線を作製した。
最後に、作製した線径0.32mmのアルミニウム合金素線を350℃で2時間保持の熱処理を加え徐冷した。
比較例No.14
後記の表2に示すように、Fe、Mg、Si及びAlを、所定量比(質量%)で用いて常法により溶解し、連続鋳造圧延法により線径9.5mmの荒引き線に加工した。
次いで、この荒引き線を線径2.6mmまで伸線加工した後、熱処理上がりの引張強度が150MPa以下となるような350℃で2時間保持の熱処理を加え、更に伸線加工を続けて線径0.32mmのアルミ合金素線を作製した。
比較例No.15
後記の表2に示すように、Fe、Mg、Si及びAlを、所定量比(質量%)で用いて溶製した合金溶湯を連続鋳造機により鋳造して、キャストバーを作製した。次いで、熱間圧延機によりφ9.5mmのワイヤロッドを作製し、得られたワイヤロッドに冷間伸線加工を施して、φ0.26mmの電線素線を作製した。次いで、電線素線7本を撚り合わせて撚線とした。その後、溶体化処理、冷却、時効熱処理を行ない、電線導体を得た。このときの溶体化処理温度は550℃、時効熱処理の焼き戻し温度は170℃、焼き戻し時間は12時間である。なお、表2に示す各特性は、撚線をばらして1本の素線とし、評価を行なった。
作製した各々の実施例及び比較例のアルミニウム合金導体について下記の方法により各特性を測定した。その結果を後記の表1及び表2に示す。
(a)結晶粒径(GS)
伸線方向に垂直に切り出した供試材の横断面を樹脂で埋め、機械研磨後、電解研磨を行った。電解研磨条件は、研磨液が過塩素酸20%のエタノール溶液、液温は0〜5℃、電圧は10V、電流は10mA、時間は30〜60秒である。次いで、結晶粒コントラストを得るため、2%ホウフッ化水素酸を用いて、電圧20V、電流20mA、時間2〜3分の条件でアノーダイジング仕上げを行なった。この組織を200〜400倍の光学顕微鏡で撮影し、交差法による粒径測定を行った。具体的には、撮影された写真に直線を引いて、その直線の長さと粒界が交わる数を測定して平均粒径を求めた。なお、粒径は50〜100個が数えられるように直線の長さと数を変えて算出した。
(b)引張強度(TS)及び柔軟性(引張破断伸び、El)
JIS Z 2241に準じて各3本ずつ試験し、その平均値を求めた。柔軟性については引張破断伸びを用いて評価し、引張破断伸びが10%以上を合格とした。
(c)導電率(EC)
長さ300mmの試験片を20℃(±0.5℃)に保持した恒温漕中で、四端子法を用いて比抵抗を各3本ずつ測定し、その平均導電率を算出した。端子間距離は200mmとした。
(d)繰返破断回数
藤井精機株式会社(現 株式会社フジイ)製の両振屈曲疲労試験機を用い、線材(アルミニウム合金導体)に±0.17%の曲げ歪みが与えられる治具を使用して、繰り返し曲げを実施することにより、繰返破断回数を測定した。繰返破断回数は各4本ずつ測定し、その平均値を求めた。図1の説明図に示すように、線材1を、曲げ治具2及び3の間を1mm空けて挿入し、冶具2及び3に沿わせるような形で繰り返し運動をさせた。線材の一端は繰り返し曲げが実施できるよう押さえ冶具5に固定し、もう一端には約10gの重り4をぶら下げた。試験中は押さえ冶具5が動くため、それに固定されている線材1も動き、繰り返し曲げが実施できる。繰り返しは1.5Hz(1秒間に往復1.5回)の条件で行い、線材の試験片1が破断すると、重り4が落下し、カウントを停止する仕組みになっている。
Figure 2012011513
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表1及び表2から明らかなように、純Alからなる比較例No.1の導体では結晶粒径が大きく、引張強度が低く、さらに、耐屈曲疲労特性に劣るため繰返破断回数の値が小さくなっている。比較例No.2〜10のアルミニウム合金導体では合金組成が本発明の規定範囲外となる例であるが、比較例No.2〜4、6、8〜10のアルミニウム合金導体では繰返破断回数が不足する。比較例No.5、7、9、10のアルミニウム合金導体では導電率が不足する。さらに、比較例2、4、6のアルミニウム合金導体では引張強度が不足する。比較例No.11、12のアルミニウム合金導体は製造条件が本発明の規定範囲外となる例であるが、どちらも引張破断伸びが不足し、比較例No.12のアルミニウム合金導体では引張強度及び繰返破断回数も不足する。比較例No.13のアルミニウム合金導体は特開2006−253109の実施例2を再現したものであるが、繰返破断回数が不足する。比較例No.14のアルミニウム合金導体は特開2006−19163の実施例6を再現したものであるが、本発明の結晶粒径が得られず、引張破断伸びが不足する。比較例No.15のアルミニウム合金導体は特開2008−112620の実施例3を再現したものであるが、本発明の結晶粒径が得られず、引張破断伸び及び導電率が不足する。
これに対し、実施例No.1〜24のアルミニウム合金導体では耐屈曲疲労特性、引張特性および導電性に優れ、移動車体のドアやトランク、ボンネットなどに用いられるワイヤハーネス等の用途に好適なアルミニウム合金導体であった。
実施例No.101〜120、比較例No.121〜127
(本発明の第2の実施態様、つまり前記(6)〜(14)項記載の発明の実施例および比較例)
後記の表3、表4に示すように、Fe、Cu、Mg、Si、Ti、V、Sn、Cd、In、Zr及びAlを、所定量比(質量%)で用いて、先述の実施例と同様にして、アルミニウム合金導体を作成した。
作製した各々の実施例及び比較例のアルミニウム合金導体について、先述の実施例と同様に各特性を測定した。また、繰り返し破断回数については、120℃に120時間放置した後の特性についても、計測した。その結果を表3及び表4に示す。また、先述の実施例中の表1に記載のアルミニウム合金導体No.1〜20について、120℃、120時間放置した後の繰り返し破断回数を測定した。その結果を表5に示す。
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表3より、No.101〜120のSn、Cd、In、Zrを含有するアルミニウム合金導体における、繰り返し破断回数は、表1記載のSn、Cd、In、Zrを含有しないアルミニウム合金導体に比べ、やや低いものであった。しかし、No.101〜114のアルミニウム合金導体は、120℃放置後の繰り返し破断回数が、該加熱放置をしない場合と比べてあまり低下しておらず、高い耐屈曲性を維持した。なお、表5は、表1記載の線材の、120℃放置後の繰り返し破断回数であるが、該加熱放置による低下が著しいことが分かる。
また、No.115〜120のアルミニウム合金導体は、120℃放置により繰り返し破断回数が逆に向上する結果であった。
以上より、No.101〜120のSn、Cd、In、Zrを含有するアルミニウム合金導体が、120℃放置後も、繰り返し破断回数を大幅に劣化させることはなく、あるいは逆に向上させることが分かった。
これに対し、Sn、Cd、Inの添加量の少なすぎたNo.121〜123のアルミニウム合金導体、および表5のSn、Cd、In、Zrを添加しなかったアルミニウム合金導体における、120℃放置後の繰り返し破断回数は全て120℃加熱放置前に比べて著しく低減する結果であった。また、Sn、Cd、In、Zrを過剰に添加した場合(表4、No.124〜126)は、120℃放置後の繰り返し破断回数が、放置しなかった場合に比べ大幅に低減しており、また、伸びの低下、導電率の低下が大きかった。また、過剰Zrを添加した場合(表4、No.127)は、120℃放置せずともくり返し破断回数が低かった。
実施例No.201〜212、比較例No.213〜218
(本発明の第3の実施態様、つまり前記(15)〜(21)項記載の発明の実施例および比較例)
後記の表6に示すように、各成分を所定量比(質量%)で用いて、先述の実施例と同様にして、アルミニウム合金導体を作成した。この実施例では、線材の伸線速度を1500m/分とし、加工度ηを2.1とし、最終線径は0.31mmとした。また、仕上げ焼鈍としての熱処理は、表6に示したように、連続通電熱処理またはバッチ式熱処理により、表6に記載の条件で行った。
作製した各々の実施例及び比較例のアルミニウム合金導体について、先述の実施例と同様に各特性を測定した。また、繰り返し破断回数については、120℃に120時間放置した後の特性についても、計測した。その結果を表6に示す。
さらに、これらの試験に加え、電線(アルミニウム合金導体)に対して塩水噴霧試験を実施した。作製したアルミニウム合金導体を1mほどの長さに切り出し、中性5%塩水噴霧試験(JISH8502)に96時間曝した。試験後の試料断面を樹脂埋め研磨し、光学顕微鏡にて観察した際に、アルミニウム合金導体表面側に、線径の1/5以上の長さの孔食、あるいは、アルミニウム合金導体表面から深さ方向に向かって線径の1/5以上の深さまで粒界腐食の様相が検出された場合を×と判定した、一方、孔食や粒界腐食があっても、その長さが1/5未満のものを○、ほとんど見られないものを◎と判定した。
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表6より、No.201〜212のSn、Cd、In、Zrを含有するアルミニウム合金導体における、繰り返し破断回数は、いずれも10万回を超えており、優れた屈曲特性であることが分かり、また、120℃放置後においても破断回数の低下はわずかであり、繰り返し破断回数は9万5千回を超えた。
これに対し、Cu添加の少なすぎたNo.213、214のアルミニウム合金導体は、繰り返し破断回数が9万回を大きく下回り、さらに120℃放置後に低下が顕著であった。また、Cu過剰のNo.215、216のアルミニウム合金導体は、120℃放置後の繰り返し破断回数低下が顕著であるとともに、塩水噴霧試験における劣化が悪かった。また、比較例No.217、218のアルミニウム合金導体は製造条件が本発明の規定範囲外となる例であるが、どちらも引張破断伸びが不足し、比較例No.218のアルミニウム合金導体では引張強度及び繰返破断回数も不足する。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
本願は、2010年7月20日に日本国で特許出願された特願2010−163416に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
1 試験片(線材、アルミニウム合金導体)
2、3 曲げ治具
4 重り
5 押さえ冶具
すなわち、本発明は、以下の解決手段を提供するものである。
(1)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであることを特徴とするアルミニウム合金導体。
(2)引張強度が120MPa以上、及び導電率が57%IACS以上、±0.17%の曲げ歪みが与えられた際の繰返破断回数が90000回以上であることを特徴とする(1)に記載のアルミニウム合金導体。
(3)前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする(1)または(2)に記載のアルミニウム合金導体。
(4)前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(5)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA 、加工後の線材断面積をA として、η=ln(A /A )で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(6)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであることを特徴とするアルミニウム合金導体。
(7)(6)項に記載のアルミニウム合金導体に、さらにZrを0.001〜0.1mass%を含むアルミニウム合金導体。
(8)Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であることを特徴とする(7)項に記載のアルミニウム合金導体。
(9)引張強度が120MPa以上、及び導電率が52%IACS以上、±0.17%の曲げ歪みが与えられた際の繰返破断回数が80000回以上であることを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(10)前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする(6)〜(9)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(11)前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする(6)〜(10)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(12)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA 、加工後の線材断面積をA として、η=ln(A /A )で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(13)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA 、加工後の線材断面積をA として、η=ln(A /A )で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(14)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であり、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA 、加工後の線材断面積をA として、η=ln(A /A )で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(15)Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体。
(16)Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、Fe0.01mass%〜1.0mass%と、Mg0.1〜0.35mass%とを含有し、さらにZr0.001〜0.1mass%を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体。
(17)(15)項に記載のアルミニウム合金導体に、さらにZrを0.001〜0.1mass%を含むアルミニウム合金導体。
(18)Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比が、0.6〜2.6であることを特徴とする(16)または(17)項に記載のアルミニウム合金導体。
(19)前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする(15)〜(18)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(20)前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする(15)〜(19)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
(21)(15)〜(18)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金組成を与えるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなる(15)〜(18)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体を製造する方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA 、加工後の線材断面積をA として、η=ln(A /A )で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を、加工度が1以上6以下で伸線速度が500〜2000m/分の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、急熱、急冷の工程を含む連続熱処理であって、下記<1>または<2>のいずれかを施すことによって行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法:
<1>線材温度y(℃)と焼鈍時間x(秒)が、
0.03≦x≦0.55、かつ
26x−0.6+377≦y≦23.5x−0.6+423
の関係を満たす連続通電熱処理;または
<2>焼鈍炉温度z(℃)と焼鈍時間x(秒)が、
1.5≦x≦5、かつ
−50x+550≦z≦−36x+650
の関係を満たす連続走間熱処理。
以下、前記(1)〜(4)項記載のアルミニウム合金導体と前記(5)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法とを併せて、本発明の第1の実施態様という。
前記(6)〜(11)項記載のアルミニウム合金導体と前記(12)〜(14)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法とを併せて、本発明の第の実施態様という。
前記(15)〜(20)項記載のアルミニウム合金導体と前記(21)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法とを併せて、本発明の第3の実施態様という。
ここで、特に断らない限り、本発明とは、前記第1、第2および第3の実施態様を全て包含する意味である。
次いで、鋳造輪とベルトを組み合わせたプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とする。鋳造から約φ10mmの線材の加工まで連続的に行なうことができ、更に再熱工程などの工程を省略することが可能であるため、生産性を大幅に向上させることができる。このときの鋳造冷却速度は1〜20℃/秒である。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して荒引き線材とする。ここで、伸線加工前の線材断面積をA、伸線加工後の線材断面積をAとすると、η=ln(A/A)で表される加工度は、1以上6以下である。加工度が小さすぎると、次工程の熱処理時、再結晶粒が粗大化し強度及び伸びが著しく低下し、断線の原因にもなる。大きすぎると、伸線加工が困難となり、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題がある。表面の皮むきは、行なうことによって表面の清浄化がなされるが、行なわなくてもよい。
次いで、鋳造輪とベルトを組み合わせたプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とする。このときの鋳造冷却速度は1〜20℃/秒である。鋳造及び熱間圧延は、ビレット鋳造、及び押出法などにより行なってもよい。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して荒引き線材とする。加工度は、1以上6以下である。ここで加工度ηは、伸線加工前の線材断面積をA、伸線加工後の線材断面積をAとすると、η=ln(A/A)で表される。このときの加工度が小さすぎると、次工程の熱処理時、再結晶粒が粗大化し強度及び伸びが著しく低下し、断線の原因にもなることがある。大きすぎると、伸線加工が困難となり、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題を生ずることがある。表面の皮むきは、行なうことによって表面の清浄化がなされるが、行なわなくてもよい。
冷間伸線した荒引き線材に中間焼鈍を施す。中間焼鈍は主に伸線加工で硬くなった線材の柔軟性を取り戻すために行なう。中間焼鈍温度が高すぎても低すぎても、後の伸線加工で断線を起し、線材が得られなくなる。中間焼鈍温度は300〜450℃、好ましくは350〜450℃である。中間焼鈍の時間は、10分以上6時間以下とする。10分未満であると、再結晶粒形成及び成長に必要な時間が足りず、線材の柔軟性を取り戻すことができないためである。好ましくは1〜6時間である。また、中間焼鈍時の熱処理温度から100℃までの平均冷却速度は特に規定しないが、0.1〜10℃/分が望ましい。
また、伸線速度は目的の再結晶集合組織を得るために制御する。伸線速度は、500〜2000m/分とする。伸線速度が500m/分未満では次工程の仕上げ焼鈍時に目的の再結晶集合組織を得ることができない場合がある。伸線速度が2000m/分超では、線材に負荷される摩擦力が大きく、次工程の仕上げ焼鈍時に目的の再結晶集合組織を得ることができない場合があるばかりか、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題を生ずることがある。伸線速度は、好ましくは800〜1800m/分である。
本発明は、電気配線体の導体として用いられるアルミニウム合金導体およびその製造方法に関する。
従来、自動車、電車、航空機等の移動体の電気配線体として、ワイヤハーネスと呼ばれる銅または銅合金の導体を含む電線に銅または銅合金(例えば、黄銅)製の端子(コネクタ)を装着した部材が用いられていたが、近年の移動体の軽量化の中で、電気配線体の導体として、銅又は銅合金より軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金を用いる検討が進められている。
アルミニウムの比重は銅の約1/3、アルミニウムの導電率は銅の約2/3(純銅を100%IACSの基準とした場合、純アルミニウムは約66%IACS)であり、純アルミニウムの導体線材に純銅の導体線材と同じ電流を流すためには、純アルミニウムの導体線材の断面積を純銅の導体線材の約1.5倍にする必要があるが、それでも質量では銅に比べて約半分となるので、有利な点がある。
なお、上記の%IACSとは、万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)の抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%IACSとした場合の導電率を表したものである。
そのアルミニウムを移動体の電気配線体の導体として用いるためには幾つかの課題がありそのひとつに耐屈曲疲労特性の向上がある。移動体の電気配線体に使用されるアルミニウム導体に耐屈曲疲労特性が要求されるのは、ドアなどに取り付けられたワイヤハーネスではドアの開閉により繰り返し曲げ応力を受けるためである。アルミニウムなどの金属材料は、一回の負荷では破断しないような低い荷重でもドアの開閉のように荷重を加えたり除いたりを繰り返し行なうと、ある繰り返し回数で破断する疲労破壊が生じる。前記アルミニウム導体が開閉部に用いられたとき、耐屈曲疲労特性が悪いとその使用中に導体が破断することが懸念され、耐久性、信頼性に欠けるという問題を生ずる。
一般に強度の高い材料ほど疲労特性は良好と言われている。そこで、強度の高いアルミニウム線材を適用すればよいが、ワイヤハーネスはその設置時の取り回し(車体への取り付け作業)がしやすいことが要求されているために、一般的には伸びが10%以上確保できる鈍し材(焼鈍材)が使われていることが多い。
よって、移動体の電気配線体に使用されるアルミニウム導体には、取扱い及び取り付け時に必要となる強度、及び電気を多く流すために必要となる導電率に加えて、耐屈曲疲労特性の優れた材料が求められている。
このような要求のある用途に対して、送電線用アルミニウム合金線材(JIS A1060やJIS A1070)を代表とする純アルミニウム系では、ドアなどの開閉で生じる繰り返し曲げ応力に十分耐えることはできない。また、種々の添加元素を加えた合金化した材料は強度には優れるものの、アルミニウム中への添加元素の固溶現象により導電率の低下を招くこと、アルミニウム中に過剰な金属間化合物を形成することで伸線加工中に断線を引き起こす場合があることが問題であった。そのため、添加元素を限定、選択して導電率低下及び加工性劣化を防ぎ、強度及び耐屈曲疲労特性を向上する必要があった。
移動体の電気配線体に用いられるアルミニウム導体として代表的なものに特許文献1〜3に記載のものがある。しかし下記のように、いずれの特許文献記載の発明も、さらに解決すべき課題を有する。
特許文献1に記載されている電線導体は、引張強度が高すぎであり、車体への取り付け作業がしにくくなることがある。
特許文献2に具体的に記載されているアルミ導電線では、仕上げ焼鈍を行なっていない。またCuが含まれていないため、伸びが低く、車体での取り付け作業にはさらに柔軟性が高いものが要望される。
特許文献3には軽量、柔軟かつ屈曲性に優れたアルミニウム導電線が開示されているが、移動体の電気配線体への特性改善の要求は強まるばかりであり、さらなる特性の向上が望まれている。
特開2008−112620号公報 特開2006−19163号公報 特開2006−253109号公報
本発明は、耐屈曲疲労特性などに優れたアルミニウム合金導体の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは種々の検討を重ね、要求される耐屈曲疲労特性を満足するものとして、アルミニウム合金導体に含まれる成分、ならびに前記導体の鋳造冷却速度や仕上げ焼鈍条件などの製造工程を制御することにより、添加元素の効果を利用し、前記導体の結晶粒径を最適化することで、前記特性を改善し得ることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の解決手段を提供するものである。
(1)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA、加工後の線材断面積をAとして、η=ln(A/A)で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(2)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA、加工後の線材断面積をAとして、η=ln(A/A)で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(3)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA、加工後の線材断面積をAとして、η=ln(A/A)で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
(4)Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であり、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記連続鋳造圧延を、鋳造冷却速度が1〜20℃/秒の条件で行い、前記冷間線引き加工を、加工前の線材断面積をA、加工後の線材断面積をAとして、η=ln(A/A)で表される加工度が1以上6以下の条件で行い、前記熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行い、前記伸線加工を加工度が1以上6以下の条件で行い、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
以下、前記(1)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法を、本発明の第1の実施態様という。
前記(2)(4)項記載のアルミニウム合金導体の製造方法を、本発明の第2の実施態様という。
ここで、特に断らない限り、本発明とは、前記第1および第2の実施態様を包含する意味である。
本発明の製造方法で製造されるアルミニウム合金導体は強度、及び導電率に優れ、移動体に搭載されるバッテリーケーブル、ハーネスあるいはモータ用導体として有用なもので、優れた耐屈曲疲労特性が求められるドアやトランク、ボンネットなどにも好適に用いることができる。
さらに、本発明の製造方法で製造されるアルミニウム合金導体は、高温(例えば120℃)に曝されても屈曲疲労特性が低下しない優れたものであり、耐食性に優れるものである。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
図1は、実施例の繰返破断回数試験の説明図である。
まず、本発明の第1の実施態様について説明する。
本発明の好ましい実施態様で製造されるアルミニウム合金導体は、Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmのアルミニウム合金導体である。
本実施態様において、Feの含有量を0.01〜0.4mass%とするのは、主にAl−Fe系の金属間化合物による様々な効果を利用するためである。Feはアルミニウム中には655℃において0.05mass%しか固溶せず、室温では更に少ない。残りはAl−Fe系の第2相粒子として晶出または析出する。この晶出物または析出物は結晶粒の微細化材として働くと共に、強度、及び耐屈曲疲労特性を向上させる。一方、Feの固溶によっても強度が上昇する。Feの含有量が少なすぎるとこれらの効果が不十分であり、多すぎると晶出物の粗大化により伸線加工及び撚線加工において断線の原因となる。目的の耐屈曲疲労特性も得られない。Feの含有量は好ましくは0.10〜0.3mass%、さらに好ましくは0.15〜0.25mass%である。
本実施態様において、Cuの含有量を0.3〜0.5mass%とするのは、Cuはアルミニウム母材中に固溶して強化し、耐屈曲疲労特性を向上させるためであり、さらに、Al、Fe、Mg、Siと第2相粒子を形成し、耐屈曲疲労特性を向上させるためである。Cuの含有量が少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると耐食性及び導電率の低下を招く。さらに加工性が悪くなる。Cuの含有量は好ましくは0.35〜0.5mass%、さらに好ましくは0.4〜0.5mass%である。
本実施態様において、Mgの含有量を0.04〜0.3mass%とするのは、Mgはアルミニウム母材中に固溶して強化すると共に、その一部はAl、Fe、Cu、Siと第2相粒子を形成して強度、耐屈曲疲労特性、及び耐熱性を向上させることができるためである。Mgの含有量が少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると導電率を低下させる。また、Mgの含有量が多すぎると耐力が過剰となり、成形性、撚り性を劣化させ、加工性が悪くなることがある。Mgの含有量は好ましくは0.08〜0.3mass%、さらに好ましくは0.1〜0.28mass%である。
本実施態様において、Siの含有量を0.02〜0.3mass%とするのは、Siはアルミニウム母材中に固溶して強化すると共に、その一部はAl、Fe、Cu、Mgと第2相粒子を形成して強度、耐屈曲疲労特性、及び耐熱性を向上させることができるためである。Siの含有量が少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると導電率が低下し、成形性、撚り性を劣化させ、加工性が悪くなる。また、線材製造中の熱処理過程におけるSi単体の析出が断線の原因になる。Siの含有量は好ましくは0.04〜0.25mass%、さらに好ましくは0.04〜0.20mass%である。
本実施態様において、TiとVは共に溶解鋳造時の鋳塊の微細化材として作用する。鋳塊の組織が粗大であると、線材加工工程で割れが発生して工業的に望ましくない。TiとVの含有量は、少なすぎると効果が不十分であり、多すぎると導電率を大きく低下させ、その効果も飽和する。TiとVの合計の含有量は好ましくは0.002〜0.008mass%、さらに好ましくは0.003〜0.006mass%である。
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体によれば、上記の成分以外に結晶粒径を厳密に規定することにより、所望の優れた耐屈曲疲労特性、強度、及び導電率を具備したアルミニウム合金導体を得ることができる。
(結晶粒径)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体ではアルミニウム合金導体の伸線方向の垂直断面における結晶粒径を5〜25μmとする。この理由は、5μm未満では部分的な未再結晶組織が残存して伸びが著しく低下するためであり、25μmを上限とするのは、これを超えた粗大な組織を形成すると変形挙動が不均一となり、同様に伸びが低下、さらに強度が著しく低下するためである。結晶粒径は、より好ましくは5〜20μmである。
(引張強度)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体の引張強度は120MPa以上である。これは、引張強度が120MPa未満では取り扱いを含めて強度不足であり、工業用導体として使用することが難しいためである。引張強度は好ましくは120〜160MPaであり、さらに好ましくは120〜150MPaである。
(導電率)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体の導電率は57%IACS以上である。これは、導電率が57%IACS未満では、動力線に用いる場合では数十A(アンペア)の高電流が流れるため、電流ロスが激しいためである。導電率は好ましくは57〜62%IACS導電率であり、さらに好ましくは58〜62%IACSである。
(耐屈曲疲労特性)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体は、優れた耐屈曲疲労特性を有する。耐屈曲疲労特性の基準として、本実施形態ではひずみ振幅±0.17%で試験を行う。耐屈曲疲労特性はひずみ振幅によって変化する。ひずみ振幅が大きい場合疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さい場合疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は図1記載の線材(アルミニウム合金導体)1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径により決定することができるため、線材1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径は任意に設定して屈曲疲労試験を実施することが可能である。
次に、1日あたりの開閉回数を10回とし20年間の使用を想定した場合、開閉回数は73000回となる(1年365日として計算)。実際に使用される電線は単線ではなく、撚り線構造となり、さらに被覆処理がされているために電線導体への負担は数分の一となる。単線での評価値として十分な耐屈曲疲労特性が確保できる90000回以上の繰返破断回数が望ましいとし、表1及び表2に記載した。より好ましくは100000回以上である。
次に、本発明の第2の実施態様について説明する。
本発明の別の好ましい実施態様で製造されるアルミニウム合金導体は、Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmのアルミニウム合金導体である。
Fe、Cu、Mg、Si、Ti、Vの作用効果、添加量の範囲の制限理由、好ましい添加量の範囲、は、先記した通りである。
耐屈曲疲労特性を、先記の合金よりもさらに向上させるためには、Al、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成を抑制することが好ましい。
ところで、Sn、CdおよびInは、アルミニウム合金中の空孔を捕獲する作用を有しており、すなわち空孔を伴って進行する拡散作用を抑制する、あるいは遅延する働きがあり、それによりAl、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成を抑制する。その結果、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の添加により、耐屈曲疲労特性をより向上させることができる。
Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量を、総量で0.01〜0.5mass%とするのは、0.01mass%未満では、第二相粒子生成の抑止効果が無く、0.5mass%を超えると生成を抑止する効果がなくなり逆に第二相粒子の生成を加速すると共に、伸びが低下し、また、この総量が多すぎると、伸線加工時に割れを生じやすくなり工業的な製造が成り立たないためである。
しかし、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の添加による、第二相粒子の生成を抑制する効果は、100℃以下の低温では顕著であるが、100℃を超える高温で、温度が高いほど、抑制の効果が現れなくなり、析出粒子が生成されることがある。そこで、さらにZrを添加することにより、析出抑制効果が消失してしまう現象をキャンセルすることができる。Zrは、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素と共に添加することにより、100℃を超える高温においても、Al、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成を抑制する効果を有している。Zrの添加量を0.001〜0.1mass%とするのは、0.001mass%未満では、その効果が不十分であり、0.1mass%を超えると、Al−Zr系の第二相粒子の生成量が多大となって、耐屈曲疲労特性を低下させるためである。
Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)において、より好ましい範囲は、0.6〜2.6である。この範囲において、100℃を超える高温においても、Al、Fe、Cu、Mg、Siの二種以上を成分とする第二相粒子の生成をより効果的に抑制する効果を有する。
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体によれば、上記の成分以外に結晶粒径を厳密に規定することにより、所望の優れた耐屈曲疲労特性、強度、及び導電率を具備したアルミニウム合金導体を得ることができる。
(結晶粒径)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体ではアルミニウム合金導体の伸線方向の垂直断面における結晶粒径を5〜25μmとする。この理由は、5μm未満では部分的な未再結晶組織が残存して伸びが著しく低下するためであり、25μmを上限とするのは、これを超えた粗大な組織を形成すると変形挙動が不均一となり、同様に伸びが低下、さらに強度が著しく低下するためである。結晶粒径は、より好ましくは5〜20μmである。
(引張強度)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体の引張強度は120MPa以上である。これは、引張強度が120MPa未満では取り扱いを含めて強度不足であり、工業用導体として使用することが難しいためである。引張強度は好ましくは120〜160MPaであり、さらに好ましくは120〜150MPaである。
(導電率)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体の導電率は52%IACS以上である。本来、導電率が57%IACS未満では、動力線に用いる場合では数十A(アンペア)の高電流が流れるため、電流ロスが激しくなる懸念があるため、好ましくは57〜62%IACS導電率である。しかし、例えば移動体内のバッテリーケーブルやワイヤハーネス等の通信線への適用に際しては、この57%IACS以上の範囲に限るものではなく、前記52%IACS以上であればよい。
(耐屈曲疲労特性)
本発明のこの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体は、優れた耐屈曲疲労特性を有する。耐屈曲疲労特性の基準として、本実施形態ではひずみ振幅±0.17%で試験を行う。耐屈曲疲労特性はひずみ振幅によって変化する。ひずみ振幅が大きい場合疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さい場合疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は図1記載の線材(アルミニウム合金導体)1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径により決定することができるため、線材1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径は任意に設定して屈曲疲労試験を実施することが可能である。
次に、1日あたりの開閉回数を10回とし20年間の使用を想定した場合、開閉回数は73000回となる(1年365日として計算)。実際に使用される電線は単線ではなく、撚り線構造となり、さらに被覆処理がされているために電線導体への負担は数分の一となる。単線での評価値として十分な耐屈曲疲労特性が確保できる80000回以上の繰返破断回数が望ましいとし、表3に記載した。より好ましくは100000回以上であり、さらに好ましくは150000回以上である。また、自動車用途では、過酷な使用環境下、電線は高温に曝されることがある。一般に、10年の使用を想定した場合、120℃の高温にて120時間曝す加速試験が適用される。よって、120℃、120時間の放置後にも、80000回以上の繰返し破断回数であることが好ましく、90000回以上の繰返し破断回数であることがより好ましい。
(製造方法)
本発明の第1および第2の実施態様のアルミニウム合金導体の製造方法について説明する。
本発明の第1および第2の実施態様の製造方法で製造されるアルミニウム合金導体は、[1]溶解、[2]鋳造、[3]熱間または冷間加工(溝ロール加工など)、[4]伸線加工、[5]熱処理(中間焼鈍)、[6]伸線加工、[7]熱処理(仕上げ焼鈍)の各工程を経て、所定の製造条件で製造することができる。
本発明のアルミニウム合金組成を得るには、まず、Fe、Cu、Mg、Si、Ti、V及びAlの各合金成分、またはこれらにさらにSn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を併せた各合金成分、またはこれらいずれかの合金成分とさらにZrを併せた各合金成分を、所望の濃度となるような分量で溶製する。
次いで、鋳造輪とベルトを組み合わせたプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とする。鋳造から約φ10mmの線材の加工まで連続的に行なうことができ、更に再熱工程などの工程を省略することが可能であるため、生産性を大幅に向上させることができる。このときの鋳造冷却速度は1〜20℃/秒である。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して荒引き線材とする。ここで、伸線加工前の線材断面積をA、伸線加工後の線材断面積をAとすると、η=ln(A/A)で表される加工度は、1以上6以下である。加工度が小さすぎると、次工程の熱処理時、再結晶粒が粗大化し強度及び伸びが著しく低下し、断線の原因にもなる。大きすぎると、伸線加工が困難となり、伸線加工中に断線するなど品質の面で問題がある。表面の皮むきは、行なうことによって表面の清浄化がなされるが、行なわなくてもよい。
冷間伸線した荒引き線材にバッチ式焼鈍炉により中間焼鈍を施す。中間焼鈍の条件は、温度は300〜450℃である。300℃未満であると、未再結晶粒が残存して、後工程の伸線加工中に断線する原因となる。また、450℃を超えると粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下し、やはりこの場合も伸線加工中に断線するなど品質の面で問題がある。時間は10分〜6時間である。10分未満であると、未再結晶粒が残存して、後工程の伸線加工中に断線する原因となる。また、6時間を超えると熱処理温度によっては粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下し、伸線加工中に断線する恐れがある。生産性の点からも6時間を越えると良くない。中間焼鈍の条件は、好ましくは300〜450℃、30分〜4時間である。
さらに伸線加工を施して線材とする。この際も加工度は前述の理由により1以上6以下である。
冷間伸線した所定線径の線材にバッチ式焼鈍炉により仕上げ焼鈍を行ない、アルミニウム合金導体を得る。仕上げ焼鈍の条件は、温度は300〜450℃である。300℃未満であると、未再結晶粒が残存して、柔軟性が十分に確保できないためである。また、450℃を超えると粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下するためである。時間は10分〜6時間である。10分未満であると、未再結晶粒が残存して、柔軟性が十分に確保できないためである。また、6時間を超えると熱処理温度によっては粗大な再結晶粒が形成され、引張強度、伸びが著しく低下するためである。生産性の点からも6時間を越えると良くない。仕上げ焼鈍の条件は、好ましくは300〜450℃、30分〜4時間である。
なお、仕上げ焼鈍はバッチ式焼鈍の他に、例えば、導体に電気を流してジュール熱で焼鈍する通電焼鈍や、高温に保持した焼鈍炉中を線材が連続的に通過して焼鈍させる走間焼鈍や、磁場中を線材が連続的に通過して焼鈍させる誘導加熱でもよい。この場合、一般的に高温短時間の熱処理となるため、仕上げ焼鈍の条件はバッチ式焼鈍とは異なる。
以上詳述したように適正に熱処理を施して作製した本発明のこれらの実施態様で製造されるアルミニウム合金導体は、上記所定の結晶粒径を有することに加えて、再結晶組織を有する。再結晶組織とは、塑性加工により導入される転位などの格子欠陥が少ない結晶粒で構成された組織状態のことである。再結晶組織を有することにより、引張破断伸び、導電率が回復し、十分な柔軟性を得ることができる。
本発明を以下の実施例に基づきさらに詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
実施例No.1〜24、比較例No.1〜12
(本発明の第1の実施態様、つまり前記(1)項記載の発明の実施例および比較例)
後記の表1(実施例)及び表2(比較例)に示すように、Fe、Cu、Mg、Si、Ti、V及びAlを、所定量比(質量%)で用いて合金とした。ここで、Alについては、JIS−H4040 合金番号1070であって、不可避不純物の含有量が表1及び表2の値を超えないものとした。比較例No.1(純Al)、比較例No.2、比較例No.8については、Alとして高純度アルミニウム(フォーナイン(4N))を用いた。
この合金を、プロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行ない、約10mmφの粗棒材とした。このときの鋳造冷却速度は1〜20℃/秒であった。
次いで、表面の皮むきを実施して、9〜9.5mmφとし、これを伸線加工して、2.6mmφの荒引き線材とした。次に表1及び表2に示すように、この冷間伸線した加工材に温度300〜450℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を施し、更に、伸線加工を行って線径0.31mmφの線材とした。
最後に仕上げ焼鈍として、温度300〜450℃(比較例では250℃、500℃を含む)で0.5〜4時間のバッチ式熱処理を仕上げ焼鈍として施して、アルミニウム合金導体を得た。
比較例No.13
後記の表2に示すように、Fe、Cu、Mg、及びAlを、所定量比(質量%)で用いて常法により溶解し、25.4mm角の鋳型に鋳込んで鋳塊を得た。次に400℃に1時間鋳塊を保持し、溝ロールで熱間圧延を行い線径9.5mmの荒引線に加工した。
次いで、この荒引き線を線径0.9mmまで伸線加工した後、350℃で2時間保持の熱処理を加え焼き入れ後、更に伸線加工を続けて線径0.32mmのアルミニウム合金素線を作製した。
最後に、作製した線径0.32mmのアルミニウム合金素線を350℃で2時間保持の熱処理を加え徐冷した。
比較例No.14
後記の表2に示すように、Fe、Mg、Si及びAlを、所定量比(質量%)で用いて常法により溶解し、連続鋳造圧延法により線径9.5mmの荒引き線に加工した。
次いで、この荒引き線を線径2.6mmまで伸線加工した後、熱処理上がりの引張強度が150MPa以下となるような350℃で2時間保持の熱処理を加え、更に伸線加工を続けて線径0.32mmのアルミ合金素線を作製した。
比較例No.15
後記の表2に示すように、Fe、Mg、Si及びAlを、所定量比(質量%)で用いて溶製した合金溶湯を連続鋳造機により鋳造して、キャストバーを作製した。次いで、熱間圧延機によりφ9.5mmのワイヤロッドを作製し、得られたワイヤロッドに冷間伸線加工を施して、φ0.26mmの電線素線を作製した。次いで、電線素線7本を撚り合わせて撚線とした。その後、溶体化処理、冷却、時効熱処理を行ない、電線導体を得た。このときの溶体化処理温度は550℃、時効熱処理の焼き戻し温度は170℃、焼き戻し時間は12時間である。なお、表2に示す各特性は、撚線をばらして1本の素線とし、評価を行なった。
作製した各々の実施例及び比較例のアルミニウム合金導体について下記の方法により各特性を測定した。その結果を後記の表1及び表2に示す。
(a)結晶粒径(GS)
伸線方向に垂直に切り出した供試材の横断面を樹脂で埋め、機械研磨後、電解研磨を行った。電解研磨条件は、研磨液が過塩素酸20%のエタノール溶液、液温は0〜5℃、電圧は10V、電流は10mA、時間は30〜60秒である。次いで、結晶粒コントラストを得るため、2%ホウフッ化水素酸を用いて、電圧20V、電流20mA、時間2〜3分の条件でアノーダイジング仕上げを行なった。この組織を200〜400倍の光学顕微鏡で撮影し、交差法による粒径測定を行った。具体的には、撮影された写真に直線を引いて、その直線の長さと粒界が交わる数を測定して平均粒径を求めた。なお、粒径は50〜100個が数えられるように直線の長さと数を変えて算出した。
(b)引張強度(TS)及び柔軟性(引張破断伸び、El)
JIS Z 2241に準じて各3本ずつ試験し、その平均値を求めた。柔軟性については引張破断伸びを用いて評価し、引張破断伸びが10%以上を合格とした。
(c)導電率(EC)
長さ300mmの試験片を20℃(±0.5℃)に保持した恒温漕中で、四端子法を用いて比抵抗を各3本ずつ測定し、その平均導電率を算出した。端子間距離は200mmとした。
(d)繰返破断回数
藤井精機株式会社(現 株式会社フジイ)製の両振屈曲疲労試験機を用い、線材(アルミニウム合金導体)に±0.17%の曲げ歪みが与えられる治具を使用して、繰り返し曲げを実施することにより、繰返破断回数を測定した。繰返破断回数は各4本ずつ測定し、その平均値を求めた。図1の説明図に示すように、線材1を、曲げ治具2及び3の間を1mm空けて挿入し、冶具2及び3に沿わせるような形で繰り返し運動をさせた。線材の一端は繰り返し曲げが実施できるよう押さえ冶具5に固定し、もう一端には約10gの重り4をぶら下げた。試験中は押さえ冶具5が動くため、それに固定されている線材1も動き、繰り返し曲げが実施できる。繰り返しは1.5Hz(1秒間に往復1.5回)の条件で行い、線材の試験片1が破断すると、重り4が落下し、カウントを停止する仕組みになっている。
Figure 2012011513
Figure 2012011513
表1及び表2から明らかなように、純Alからなる比較例No.1の導体では結晶粒径が大きく、引張強度が低く、さらに、耐屈曲疲労特性に劣るため繰返破断回数の値が小さくなっている。比較例No.2〜10のアルミニウム合金導体では合金組成が本発明の規定範囲外となる例であるが、比較例No.2〜4、6、8〜10のアルミニウム合金導体では繰返破断回数が不足する。比較例No.5、7、9、10のアルミニウム合金導体では導電率が不足する。さらに、比較例2、4、6のアルミニウム合金導体では引張強度が不足する。比較例No.11、12のアルミニウム合金導体は製造条件が本発明の規定範囲外となる例であるが、どちらも引張破断伸びが不足し、比較例No.12のアルミニウム合金導体では引張強度及び繰返破断回数も不足する。比較例No.13のアルミニウム合金導体は特開2006−253109の実施例2を再現したものであるが、繰返破断回数が不足する。比較例No.14のアルミニウム合金導体は特開2006−19163の実施例6を再現したものであるが、本発明の結晶粒径が得られず、引張破断伸びが不足する。比較例No.15のアルミニウム合金導体は特開2008−112620の実施例3を再現したものであるが、本発明の結晶粒径が得られず、引張破断伸び及び導電率が不足する。
これに対し、実施例No.1〜24のアルミニウム合金導体では耐屈曲疲労特性、引張特性および導電性に優れ、移動車体のドアやトランク、ボンネットなどに用いられるワイヤハーネス等の用途に好適なアルミニウム合金導体であった。
実施例No.101〜120、比較例No.121〜127
(本発明の第2の実施態様、つまり前記(2)(4)項記載の発明の実施例および比較例)
後記の表3、表4に示すように、Fe、Cu、Mg、Si、Ti、V、Sn、Cd、In、Zr及びAlを、所定量比(質量%)で用いて、先述の実施例と同様にして、アルミニウム合金導体を作成した。
作製した各々の実施例及び比較例のアルミニウム合金導体について、先述の実施例と同様に各特性を測定した。また、繰り返し破断回数については、120℃に120時間放置した後の特性についても、計測した。その結果を表3及び表4に示す。また、先述の実施例中の表1に記載のアルミニウム合金導体No.1〜20について、120℃、120時間放置した後の繰り返し破断回数を測定した。その結果を表5に示す。
Figure 2012011513
Figure 2012011513
Figure 2012011513
表3より、No.101〜120のSn、Cd、In、Zrを含有するアルミニウム合金導体における、繰り返し破断回数は、表1記載のSn、Cd、In、Zrを含有しないアルミニウム合金導体に比べ、やや低いものであった。しかし、No.101〜114のアルミニウム合金導体は、120℃放置後の繰り返し破断回数が、該加熱放置をしない場合と比べてあまり低下しておらず、高い耐屈曲性を維持した。なお、表5は、表1記載の線材の、120℃放置後の繰り返し破断回数であるが、該加熱放置による低下が著しいことが分かる。
また、No.115〜120のアルミニウム合金導体は、120℃放置により繰り返し破断回数が逆に向上する結果であった。
以上より、No.101〜120のSn、Cd、In、Zrを含有するアルミニウム合金導体が、120℃放置後も、繰り返し破断回数を大幅に劣化させることはなく、あるいは逆に向上させることが分かった。
これに対し、Sn、Cd、Inの添加量の少なすぎたNo.121〜123のアルミニウム合金導体、および表5のSn、Cd、In、Zrを添加しなかったアルミニウム合金導体における、120℃放置後の繰り返し破断回数は全て120℃加熱放置前に比べて著しく低減する結果であった。また、Sn、Cd、In、Zrを過剰に添加した場合(表4、No.124〜126)は、120℃放置後の繰り返し破断回数が、放置しなかった場合に比べ大幅に低減しており、また、伸びの低下、導電率の低下が大きかった。また、過剰Zrを添加した場合(表4、No.127)は、120℃放置せずともくり返し破断回数が低かった。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
本願は、2010年7月20日に日本国で特許出願された特願2010−163416に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
1 試験片(線材、アルミニウム合金導体)
2、3 曲げ治具
4 重り
5 押さえ冶具

Claims (21)

  1. Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであることを特徴とするアルミニウム合金導体。
  2. 引張強度が120MPa以上、及び導電率が57%IACS以上、±0.17%の曲げ歪みが与えられた際の繰返破断回数が90000回以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金導体。
  3. 前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金導体。
  4. 前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
  5. Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  6. Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体であって、その伸線方向の垂直断面における結晶粒径が5〜25μmであることを特徴とするアルミニウム合金導体。
  7. 請求項6に記載のアルミニウム合金導体に、さらにZrを0.001〜0.1mass%を含むアルミニウム合金導体。
  8. Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であることを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム合金導体。
  9. 引張強度が120MPa以上、及び導電率が52%IACS以上、±0.17%の曲げ歪みが与えられた際の繰返破断回数が80000回以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
  10. 前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
  11. 前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする請求項6〜請求項10のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
  12. Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  13. Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  14. Feを0.01〜0.4mass%と、Cuを0.3〜0.5mass%と、Mgを0.04〜0.3mass%と、Siを0.02〜0.3mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、さらにTiとVを合わせて0.001〜0.01mass%含み、Zrを0.001〜0.1mass%を含み、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比(W1/W2)が、0.6〜2.6であり、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなるアルミニウム合金導体の製造方法であって、前記焼鈍熱処理を、温度300〜450℃で10分〜6時間の条件で行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  15. Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体。
  16. Cuを0.1〜1mass%と、Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を総量で0.01〜0.5mass%とを含有し、Fe0.01mass%〜1.0mass%と、Mg0.1〜0.35mass%とを含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金導体。
  17. 請求項15または16に記載のアルミニウム合金導体に、さらにZrを0.001〜0.1mass%を含むアルミニウム合金導体。
  18. Sn、CdおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量の総量(W1)と、Zrの含有量(W2)の質量比が、0.6〜2.6であることを特徴とする請求項17に記載のアルミニウム合金導体。
  19. 前記導体が移動体内で、バッテリーケーブル、ハーネス、またはモータ用線材として用いられることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
  20. 前記導体が車両、電車、または航空機に用いられることを特徴とする請求項15〜請求項19のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体。
  21. 請求項15〜18のいずれか1項に記載のアルミニウム合金組成を与えるアルミニウム合金成分を溶解後、連続鋳造圧延を施して粗棒材とし、冷間線引き加工して荒引き線材とし、熱処理を施し、伸線加工を行って線材とし、さらに焼鈍熱処理を行う工程を有してなる請求項15〜18のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体を製造する方法であって、前記焼鈍熱処理を、急熱、急冷の工程を含む連続熱処理であって、下記<1>または<2>のいずれかを施すことによって行うことを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法:
    <1>線材温度y(℃)と焼鈍時間x(秒)が、
    0.03≦x≦0.55、かつ
    26x−0.6+377≦y≦23.5x−0.6+423
    の関係を満たす連続通電熱処理;または
    <2>焼鈍炉温度z(℃)と焼鈍時間x(秒)が、
    1.5≦x≦5、かつ
    −50x+550≦z≦−36x+650
    の関係を満たす連続走間熱処理。
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