JPWO2012002460A1 - イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング用材料及びその利用 - Google Patents

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Abstract

本発明は、イオンチャネルを標的とする効率性に優れたスクリーニング系を提供することを目的とする。本発明は、不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルをコードする1又は2以上の第1のDNAを保持し、静止膜電位が負の方向に深くなるようにKイオンチャネルが活性化された細胞を含む、標的イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング用材料を提供する。

Description

(関連出願)
本明細書の開示は、2010年6月29日出願の日本国特許出願である特願2010−147255を優先権主張の基礎とするものであり、その全内容が引用によりここに組み込まれるものとする。
本発明は、イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニングに用いる材料及びその利用に関し、詳しくは、イオンチャネル(膜輸送タンパク質を含む)に作用する化合物をスクリーニングするのに用いることができる細胞を含む材料及び当該材料を利用したスクリーニング方法等に関する。
イオンチャネルは生理的に重要な機能を有している。イオンチャネルを標的として、当該イオンチャネルに作用する作動剤や阻害剤を探索することで、有用な薬剤を提供することが期待されている。こうしたイオンチャネル、例えば、電位依存性イオンチャネルを標的とする薬剤のスクリーニング系の評価手法として、細胞における膜電位の変化を電位依存性蛍光色素で検出する蛍光膜電位測定法が知られている(特許文献1)。また、細胞膜に対してガラス電極を密着(シール)させて膜電位を電気的に検出するパッチクランプ法も知られている。さらに、近年、各ウェル中にガラス電極の先端に相当する開口部を有するマルチウェルパッチプレートを用い、細胞膜とパッチ電極とのシールをウェル中で自動的に行って膜電位を検出するオートメーションパッチクランプ法が開発されてきている(非特許文献1)。
従来の蛍光膜電位測定法は、多検体の評価に適しているものの、測定精度や適用可能なイオンチャネルの範囲が限定される場合があった。また、パッチクランプ法は、測定精度が高く、測定により得られる情報量も多いが、一度に測定できる数が少なく効率が悪かった。さらに、オートメーションパッチクランプ法は、多数検体を同時に評価する構造となっているものの、パッチの成功率が低く、ハイスループットなスクリーニングには不向きであった。また、オートメーションパッチクランプ法は、装置及びランニングコストが高いことも問題であった。
特開2006−126073号公報
Tim J. Daleら, Mol. Biosyst. 2007, 3, 714-722
イオンチャネルを標的とするスクリーニングの場合、内在性のリガンドはイオンであるため、標的に対して結合性を有する構造を予測するのが困難である。このため、イオンチャネルを標的とするスクリーニング系を構築する際には、受容体など他のタンパク質を標的とする場合に比較して、多数の被験化合物を適用できるハイスループット性が一層要求される。また、イオンチャネルを標的とするスクリーニングの場合には、リガンドの最適化も困難を伴うことが多く、ハイスループット性と同時に測定精度も求められる。
しかしながら、上記のとおり、従来のような細胞における微小な膜電位の変化を蛍光膜電位測定法では精度や適用範囲に問題があり、オートメーションパッチクランプ法では効率やコストに問題があった。したがって、現状において、イオンチャネルを標的とした、精度が良好で効率性に優れるスクリーニング系は構築されていない。
本明細書の開示は、イオンチャネルを標的とする効率性に優れたスクリーニング系の構築を目的とする。
本発明者らは、イオンチャネルを標的とするスクリーニング系では、生細胞の膜電位を検出するという評価手法を用いざるを得ず、かかる評価手法の問題点がスクリーニング系の構築を困難にしていることに着目した。そして、こうした評価手法でなく、より簡易な評価手法を適用できるスクリーニング系を構築することを目指して種々検討を行った。その結果、一旦細胞外部からの刺激により脱分極が惹起されると、細胞内外でのイオンの濃度差、典型的には、細胞内Naイオン濃度の増大により細胞死に至る細胞を、被験化合物のイオンチャネルへの作用の検出用媒体(スクリーニング材料)として用いることで、細胞死あるいは細胞死に至る若しくは細胞死に相当する持続的な活動電位を指標としてイオンチャネルに対する被験化合物の作動性/阻害性を検出できるという知見を得た。本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
本明細書の開示によれば、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルをコードする1又は2以上の第1のDNAを保持し、静止膜電位が負の方向に深くなるようにKチャネルが活性化された、標的イオンチャネルに作用する細胞を含む、化合物のスクリーニング用材料が提供される。
また、本明細書の他の開示によれば、上記スクリーニング用材料の前記細胞を用いて、前記標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用を前記細胞の生死を指標として検出する工程を、備える、スクリーニング方法が提供される。
さらに、本明細書の他の開示によれば、イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニングのための装置であって、細胞を収容する1又は2以上の領域を備える細胞収容ユニットと、前記1又は2以上の領域内の前記細胞の細胞死の測定ユニットと、を備える、装置も提供される。
本明細書に開示されるスクリーニング方法の一例の概要を示す図である。 HEK_Kir細胞にボルテージクランプ法によりKirチャネル電流を測定した結果を示す図である。(a)は、Kir2.1チャネルの特異的ブロッカーである100μM Baイオン投与前後における電流電圧関係を示し、(b)は、100μM Baイオン投与前後における膜電位変化を示す。 HEK_Kir細胞に野生型と変異型のNav1.5チャネルを一過性に発現させ、Naイオン電流の測定結果を示す電流原図である。(a)に野生型の結果を示し、(b)に変異型の結果を示す。 HEK_Kir細胞に野生型と変異型のNav1.5チャネルを一過性に発現させ、脱分極通電刺激により活動電位の発生を示す活動電位原図である。(a)に野生型の結果を示し、(b)に変異型の結果を示す。 HEK, HEK_Kir, HEK_Kir_mutated Navの3種類の細胞に電気刺激を行ない、MTT法により細胞数の変化を測定した結果を示す図である。刺激をしていないコントロールの吸光度を1として示す。 HEK_Kir_mutated Nav細胞にNaイオンチャネルの阻害薬であるリドカイン(Sigma)を投与し電気刺激を行なった結果を示す図である。刺激していないコントロールの吸光度を1として示す。 HEK細胞にhERGチャネルを一過性発現させた場合のニフェカラント投与前後における電流原図を示す図である。 hERGチャネルを一過性発現させたhERG-HEK細胞において、ニフェカラント投与前後における電流電圧曲線を示す図である。 Kir_mutated Nav細胞にhERGチャネルを一過性発現させたhERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞におけるニフェカラント投与前後における電流原図を示す図である。 hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞におけるニフェカラント投与前後の脱分極刺激により誘発される活動電位原図を示す図である。 hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞におけるニフェカラント投与前後の活動電位時間を示す図である。 hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞において、ニフェカラント投与により脱分極刺激による細胞死が誘発されたことを示す図である。 hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞を用いた細胞死の割合によるニフェカラントの用量作用曲線を示す図である。 HEK_Kir細胞でのhigh K+刺激による蛍光変化を示す図である。 HEK_Kir_mutated Nav細胞でのhigh K+刺激による蛍光変化を示す図である。 HEK_Kir細胞及びHEK_Kir_mutated Nav細胞において細胞外のK+を15.3mMとしたときの蛍光強度の違いを示す図である。 HEK_Kir_mutated Nav細胞において、リドカインがhigh K+刺激による蛍光変化を阻害していることを示す図である。
本明細書の開示は、イオンチャネルを標的とするスクリーニング系に関し、具体的には、イオンチャネル(膜輸送タンパク質)に作用する化合物をスクリーニングするのに用いることができる細胞を含むスクリーニング用材料及び当該材料を利用したスクリーニング方法、並びにスクリーニング用装置等に関する。本明細書の開示によれば、スクリーニングにおける標的イオンチャネルに対する作用を、スクリーニング用に構築した細胞の細胞死によって検出することができる。すなわち、この細胞は、一旦脱分極が惹起されて発生する活動電位が延長されているために細胞死に至るという細胞死制御機構が付与されている。すなわち、本明細書の開示は、このような細胞死制御機構を、被験化合物の標的イオンチャネルに対する作用の検出手段として用いている。
かかる細胞死制御機構による被験化合物の標的イオンチャネルに対する作用の検出の概要の一例を、図1に示す。図1に示すように、被験化合物が、細胞膜に標的イオンチャネルと不活性化が抑制されたNaイオンチャネルとを備え、静止電位を低下させるKイオンチャネルが活性化された細胞である本スクリーニング材料に供給されると、標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用は、脱分極の惹起あるいは抑制という結果で現れる。
そして、被験化合物が標的イオンチャネルに作用して脱分極が惹起するものであるとき、本スクリーニング材料の細胞膜上の上記NaイオンチャネルとKイオンチャネルによる細胞死制御機構のスイッチが「オン」となり、本スクリーニング材料は細胞死に至る。一方、被験化合物が標的イオンチャネルに作用して脱分極を抑制するものであるとき、上記細胞死制御機構のスイッチは「オン」されず「オフ」のままとなり、本スクリーニング材料は生存する。
このように、本スクリーニング用材料は、被験化合物の作用による脱分極の惹起の有無を、細胞死制御機構のオン/オフ、すなわち、細胞の生死あるいは細胞死に至る持続的な活動電位の有無によって検出する。こうすることで、標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用を、単に細胞膜の膜電位の変化を検出することによらないで、細胞の生死によって検出できるのである。
細胞の生死の検出は、単なる細胞の膜電位あるいは膜電流測定という電気的検出に比較して簡易ないし明確であり、多検体同時評価に適しているため、ハイスループット性が高い。また、操作の簡便性ゆえに測定精度も確保することができる。このようなスクリーニング方法は、イオンチャネルを標的とする化合物の一次スクリーニングなどにも好適である。以下、本明細書の開示についての各種の実施形態を詳細に説明する。
(スクリーニング用材料)
本明細書に開示されるスクリーニング用材料は、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルをコードする第1のDNAを保持し、同時に静止膜電位が負の方向に深くなるようにKチャネル、例えば内向き整流性Kイオンチャネルが活性化され、Naイオンの細胞内流入による細胞死が回避された細胞を含んでいる。以下、この細胞を、スクリーニング用細胞と称する。
本スクリーニング材料は、スクリーニング用細胞のみを含んでいてもよいし、スクリーニング用細胞以外に、スクリーニング用細胞の生存を許容又は生存に適した培養材料や添加剤等を含んでいてもよい。かかる培養材料としては、一般的な培地のほか、緩衝液、抗生物質等が挙げられる。
(不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネル)
スクリーニング用細胞は、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルをコードする第1のDNAを保持している。そして、こうしたNaイオンチャネルを発現している。ここで電位依存性Naイオンチャネルとは、細胞膜の膜電位に依存して開口してNaイオンの受動拡散を媒介する細胞膜上のタンパク質である。本明細書において用いる電位依存性Naイオンチャネルは、特に限定しないで公知の各種電位依存性Naイオンチャネルを用いることができるが、好ましくは、Nav1.5チャネルである。Nav1.5チャネルは、心筋細胞に分布しており、活動電位の発生と興奮伝導に関与していると考えられている。
電位依存性Naイオンチャネルは、膜電位に依存してゲートが開きNaイオン透過性を発揮した後、不活性化機構が働いてNaイオン透過性を失う(不活性化)。これに対して、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルは、こうした不活性化機構を抑制(消失)させたものである。すなわち、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルは、膜電位に依存してゲートが開きイオン透過性を発揮した後、こうした不活性化が生じないNaイオンチャネルを意味している。不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルでは、膜において脱分極が惹起されて当該イオンチャネル自身が活性化されるとチャネルを開口してNaイオンの受動拡散を媒介しうる状態をとるが、イオンチャネル自身の不活性化が抑制されているため、チャネルの開口した状態が維持される。この結果、不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルでは、刺激を受けて活動電位が一旦発生すると、チャネルの不活性化が遅延され、活動電位が本来の電位依存性Naイオンチャネルより長く継続する。
また、不活性化を抑制されたNaイオンチャネルは、定常的若しくは比較的に深い静止膜電位でも活性化されやすくなっている(いわゆるウインド電流が大きくなっている)。従って不活性化を抑制されたNaイオンチャネルを発現した細胞では、充分に深い負電位に静止膜電位を保持した場合にのみ、過剰なNaイオン流入を防ぐことができる。不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルを充分に発現した細胞においては、脱分極により容易にNaイオンチャネル活性が増大し、1分以上、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上程度、活動電位あるいは脱分極が維持される。このため細胞内への過剰なNa流入が生じ細胞を死に至らしめる。
かかる不活性化の抑制は、電位依存性Naイオンチャネルのアミノ酸配列に対してアミノ酸変異を導入することによって適宜実現することができる。Nav1.5チャネルの不活性化を抑制するには、いくつかの具体的な手法が開示されている。たとえば、IFMモチーフの改変(A. O. Grant et al. Biophys. J. Vol.79, pp.3019-3035, 2000)、406番目のアスパラギンをグルタミン酸やアルギニン、リシンに変異させること(M. M. McNulty et al., Mol. Pharmacol. Vol.70, pp.1514-1523, 2006)、ドメインIII-IVをつなぐIFM部分を含むリンカー部位を欠損させること(D. E. Patton et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol.89, pp.10905-10909, 1992、West JW, et., al, Proc Natl Acad Sci U S A. Vol.89, pp10910-4, 1992)、ドメインIVのセグメント4のアミノ酸を変異させること(L.-Q. Chen et al., J. Gen. Physiol. Vol. 108, pp.549-556, 1996)などが報告されている。アミノ酸配列に対する変異導入は、当業者であればこれらの文献や周知技術に基づいて適宜実施することができる。
スクリーニング用細胞は、かかる変異体タンパク質をコードする第1のDNAを当該変異体として発現可能に保持している。スクリーニング用細胞は、当該変異体、すなわち、不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルを定常的にあるいは一過性的に発現するものであってもよい。すなわち当該第1のDNAは染色体上に組み込まれて娘細胞に伝達されるようになっていてもよいし、染色体外で自律的に増幅するが娘細胞には必ずしも伝達されないプラスミドに組み込まれていてもよい。第1のDNAは、好ましくは、恒常的に作動するプロモーター(構成的プロモーター)の制御下に連結されている。このようなスクリーニング用細胞は、当業者であれば、周知の遺伝子工学技術及び形質転換体の作製技術に基づいて、第1のDNAを含む発現ベクター等を構築し、これをスクリーニング用細胞の宿主に導入し形質転換することで、定常発現もしくは一過性発現細胞を適宜取得することができる。
なお、電位依存性Naイオンチャネルが2以上のサブユニットからなる場合であって、不活性化のために有効な変異を含むサブユニットが全体の一部であるとき、当該一部のサブユニットのみをそれぞれコードするDNAを1又は2以上の第1のDNAとしてスクリーニング用細胞に発現させることもできるし、当該Naイオンチャネルを構成する他のサブユニットも同時に共発現させるように、これらのサブユニットをコードするDNAを第1のDNAとしてそれぞれ発現可能に保持させるようにしてもよい。さらに、発現される不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルを、より効果的に機能させるために必要な酵素や他のタンパク質があれば、これらのタンパク質を適宜発現させるようにしてもよい。
(Kイオンチャネルの活性化)
スクリーニング用細胞は、静止膜電位が負の方向に深くなるように、換言すれば、より負の電位が大きくなるように、Kイオンチャネルが活性化されている。すなわち、Kイオンの細胞内への流入が促進されている。上記第1のDNAを保持し、Naイオンチャネル変異体(不活性化が抑制された膜電位依存性Naイオンチャネル)が発現し活性化されていると、細胞内外におけるNaイオンの濃度差により、Naイオンが細胞内に過剰に流入する状態となり、最終的には細胞内のNaイオン濃度が高まり細胞は死んでしまう。スクリーニング用細胞として機能させるためには、かかる細胞死機構が誘導されるまでは細胞が生存している必要がある。そこで、静止膜電位を深く(低く)するために、細胞内へのKイオンの流入を促進するようKイオンチャネルが活性化されている。このようにKイオンチャネルが活性化されていると、通常よりも、静止膜電位を負の方向に深く設定することができる。
細胞の生存に影響しない範囲で静止膜電位は、負の方向に深いほど好ましい。膜電位は、好ましくは、−50mV、より好ましくは−60mV、さらに好ましくは−70mV程度、一層好ましくは−80mV程度とすることが適している。
静止膜電位が負の方向に深くなるようにKイオンチャネルが活性化されている状態とは、たとえば、内向き整流性Kイオンチャネル(Kir)、4回膜貫通型及び2ポア型のKイオンチャネル、直列ポアドメイン型のKイオンチャネルなどが活性化されている状態が挙げられる。4回膜貫通型及び2ポア型のKイオンチャネルは性質が異なる様々な種類が存在し、TWIK、TERK、TASK、TALK、THIK、TRESKなどに分類される。これらのチャネルは電位及び時間依存性がないことから漏洩チャネルとして機能している。漏洩チャネルの性質上、細胞の静止膜電位の固定に働いている。
内向き整流性Kイオンチャネルは、特に限定しないが、例えば、Kir2.1、2.2、2.3及び2.4チャネルなどの各種Kir.2.xイオンチャネルが挙げられる。Kir2.1チャネルは、2回膜貫通型構造を持つ内向き整流性K+チャネルである。電位依存性を持たず、膜電位をK+の平衡電位側に近づける性質を持つ。神経や心臓、骨格筋に発現しており、静止膜電位の形成やその安定化及び維持を行なっている。Kir2.2も挙げられる。Kir2.2はKir2.1と同様の内向き整流性KイオンチャネルであるがKir2.1よりも内向き整流性が強い。心臓や脳、骨格筋にKir2.1とともに発現しており、ヒトの血管内皮細胞においては他の内向き整流性Kイオンチャネルの中で主要な働きをしている。
Kir.2.xイオンチャネルについては、Circ. Res. 2004;94;1332-1339及びAm J Physiol Cell Physiol.2005. 289:C1134-C1144等に記載されている。例えば、ヒト由来のKir2.xチャネルをコードする塩基配列は、Kir2.1(GenBank accession No.U12507, NM_000891.2)、Kir2.2(GenBank accession No.AB074970、NM_021012(Human KCNJ12))、Kir2.3(GenBank accession No.U07364、U24056)、Kir2.4(GenBank accession No.AF081466.1)等が挙げられる。
同様に、GIRK(Kir3)が挙げられる。GIRK(Kir3)は、内向き整流性KイオンチャネルでありKir2と異なりGタンパク質によって活性化されるKチャネルである。これらのサブユニットは組織特異性があり心臓ではKir3.1/Kir3.4、中枢神経ではKir3.1/Kir3.2で構成させる異種四量体を形成している。通常時では活性化せず、アゴニスト刺激により活性化する。しかし、チャネルポアを形成する膜貫通ヘリックスのアミノ酸を変異させることで、常時チャネルが開くことがアフリカツメガエル卵母細胞の実験で報告されている(J Biol Chem, 2003, Vol.278, No.50, pp.50654-50663)。このことからこの変異体を利用することでKir2.1と同様に深い静止膜電位を形成できると考えられる。例えば、ヒト由来のKir3.xチャネルをコードする塩基配列は、Kir3.1 (GenBank accession No.NM_002239.2)、Kir3.2 (GenBank accession No.NM_002240.2)、Kir3.3 (GenBank accession No.NM_004983.2)、Kir3.4 (GenBank accession No.NM_000890.3)が挙げられる。
さらに、KATP(Kir6)チャネルが挙げられる。KATPチャネルはATPで抑制され、ADPで活性化される内向き整流性Kイオンチャネルである。KATPチャネルは細胞の代謝状態に応じて細胞の興奮性を制御している。KATPチャネルは4個のKATPチャネルと4個のスルフォニルウレア受容体(SUR)から構成される異種8量体である。KATPチャネルのみでは機能をもたないがKATPチャネルのC末端を欠損させることでKATPチャネルのみで機能をもつことが報告されている(EMBO J. Vol.17, NO.12, pp.3290-3296, 1998)。また、この欠損体にさらに変異をかけることでATP感受性を下げ、常時活性化させることができる。この変異体を用いることでも深い静止膜電位を形成できる。ヒト由来のKir6.xチャネルをコードする塩基配列は、Kir6.1(GenBank accession No.NM_004982.2)、Kir6.2(GenBank accession No.NM_001166290.1)が挙げられる。
また、4回膜貫通型及び2ポア型のKイオンチャネルとしては、例えば、THIKチャネル(HEK293細胞に発現させると膜電位が深くなること(V. A. Campanucci et al., Neuroscience Vol.135, pp.1087-1094, 2005))、TASK2チャネル(アフリカツメガエル卵母細胞に発現させると静止膜電位が深くなること(C. Kindler et al., J Pharmacol Exp Ther.Vol.306, pp.84-92, 2003))、Kvイオンチャネル(平滑筋組織でKvイオンチャネルが静止膜電位を深くすること(S. S. McDaniel et al., J Appl Physiol Vol.91, pp.2322-2333, 2001))などが知られている。
2ポア型のKイオンチャネルは、TWIK、TREK、TASK、TALK、THIK及びTRESKの各サブファミリーに分類される。TWIKサブファミリーは、TWIK-1、TWIK-2チャネルを含んでいる(Cell Biochem Biophys (2007),47: 209-256)。TWIKチャネルは、ヒトでは多くの組織に存在している。例えば、ヒト由来のTWIKイオンチャネルは、TWIK-1(GenBank accession No.NM_002245.3)及びTWIK-2(GenBank accession No.NM_004823.1)が挙げられる。
TREKサブファミリーは、TREK-1、TREK-2及びTRAAKチャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTREKイオンチャネルは、TREK-1(GenBank accession No.NM_014217.3)、TREK-2(GenBank accession No. NM_138317.2)及びTRAAK(GenBank accession No.NM_033310.2)が挙げられる。
TASKサブファミリーは、TASK-1、TASK-3及びTASK-5チャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTASKイオンチャネルは、TASK-1(GenBank accession No.NM_002246.2)、TASK-3(GenBank accession No.NM_016601.2)及びTASK-5(GenBank accession No.NM_022358.3)が挙げられる。
TALKサブファミリーは、TALK-1、TALK-2及びTASK-2チャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTALKイオンチャネルは、TALK-1(GenBank accession No.NM_001135106.1)、TALK-2(GenBank accession No.NM_001135111.1)及びTASK-2(GenBank accession No.NM_003740.3)が挙げられる。
THIKサブファミリーは、THIK-1、THIK-2チャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTHIKイオンチャネルは、THIK-1(GenBank accession No.NM_022054.2)、THIK-2(GenBank accession No.NM_022055.1)が挙げられる。
TRESKサブファミリーは、TRESK(GenBank accession No.NM_181840.1)が挙げられる。
本スクリーニング用細胞においては、こうしたKイオンチャネルを静止膜電位を深くする目的で、1又は2以上適宜組み合わせて用いることができる。
静止膜電位が負の方向に深くなるようにKイオンチャネルが活性化されている状態のスクリーニング用細胞は、かかるKイオンチャネルタンパク質をコードする第2のDNAを外来性DNAとして、当該タンパク質を発現可能に保持していることが好ましい。スクリーニング用細胞は、Kイオンチャネルを定常的にあるいは一過性的に発現するものであってもよい。すなわち当該第2のDNAは染色体上に組み込まれて娘細胞に伝達されるようになっていてもよいし、染色体外で自律的に増幅するが娘細胞には必ずしも伝達されないプラスミドに組み込まれていてもよい。第2のDNAは、好ましくは、恒常的に作動するプロモーター(構成的プロモーター)の制御下に連結されている。このようなスクリーニング用細胞は、当業者であれば、周知の遺伝子工学技術及び形質転換体の作製技術に基づいて、第2のDNAを含む発現ベクター等を構築し、これをスクリーニング用細胞の宿主に導入し形質転換することで、定常発現もしくは一過性発現細胞を適宜取得することができる。
なお、活性化させるKイオンチャネルが2以上の異なるサブユニット(異なるKイオンチャネルのサブユニットであってもよい)からなる場合、これらのサブユニットをそれぞれコードするDNAを1又は2以上の第2のDNAとしてスクリーニング用細胞に発現させることが好ましい。さらに、発現させるKイオンチャネルを、効果的に機能させるために必要な酵素や他のタンパク質がある場合、これらのタンパク質を共発現させてもよい。その場合、こうした他のタンパク質をコードするDNAを発現可能に保持させるようにすればよい。なお、他のタンパク質としては、例えば、KイオンチャネルがGタンパク質共役型Kイオンチャネルの場合にはGタンパク質などが挙げられる。
スクリーニング用細胞は、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルを細胞膜などの生体膜上に有し、同時に、静止膜電位が低下する(深くなる)ようにKイオンチャネルが作動していること、換言すれば、内向き整流性Kイオンチャネル等が細胞膜上で作動していることで、結果として、不活性化の抑制された変異型電位依存性Naイオンチャネルを有していても、脱分極が惹起されるまでは、Naイオンの細胞内流入による細胞死が回避された細胞となっている。すなわち、スクリーニング用細胞の細胞膜における脱分極の惹起を待って作動する細胞死誘導機構が待機した状態となっている。
スクリーニング用細胞は、新たに標的イオンチャネルをコードするDNAを遺伝子導入して発現させるための宿主細胞としても利用できる。
(標的イオンチャネル)
スクリーニング用細胞における標的イオンチャネルは、特に限定しないで、公知のあるいは新たなイオンチャネルから1又は2以上を適宜選択することができる。なお、イオンチャネルとは、動植物の細胞膜や内膜などの生体膜を貫通して存在し、特定のイオンを受動的に透過させるタンパク質を意味している。イオンとしては、Naイオン、Kイオン、Caイオン、Clイオン等が挙げられる。イオンチャネルには、その開閉の制御性により、電位依存性、リガンド依存性、機械刺激依存性、温度依存性、漏洩チャネル、リン酸化依存性等が挙げられる。本明細書の開示によれば、スクリーニング用細胞の生死で、標的イオンチャネルに対する作用(作動性と阻害性)を検出できるため、広くイオンチャネル全般を標的とすることができる。なお、本明細書において、イオンチャネルとは、電位依存性であるかリガンド依存性であるかなどその開閉の制御形式を問うものではない。また、イオンチャネルとしては、電位発生的なイオン輸送を行う細胞膜および核膜やその他の細胞内小器官膜などを含む生体膜の輸送体、イオン交換体(Na−Ca2+交換体など)、イオンポンプ(Na−Kポンプ)も包含している。スクリーニング用細胞における標的イオンチャネルを選択することで、当該標的イオンチャネルが関連する疾患の予防又は治療のためのスクリーニング用細胞が提供されることになる。
標的イオンチャネルとしては、まず、各種のイオンチャネル一体型薬物受容体が挙げられる。かかる受容体としては、ニコチン様アセチルコリン受容体、イオンチャネル型ATP受容体(P2x受容体)、イオンチャネル型グルタミン酸受容体、イオンチャネル型GABAA 受容体、イオンチャネル型グリシン受容体、3型セロトニン受容体などが挙げられる。また、各種のTRP(Transient Receptor Potential)チャネル(非選択性陽イオンチャネル)が挙げられる。また、OraiチャネルおよびStimチャネルなどのストア作動性Caイオンチャネルが挙げられる。また、標的イオンチャネルとしては、各種の電位依存性イオンチャネルが挙げられる。例えば、全ての電位依存性Caイオンチャネル、全ての電位依存性Kイオンチャネル(HERGチャネルを含む)、全ての電位依存性Naイオンチャネル、全ての電位依存性Clイオンチャネルが挙げられる。なお、その他のリガンド依存性のCaイオンチャネル、Naイオンチャネル、プロトンイオンチャネル、Kイオンチャネル、Clイオンチャネルが挙げられる。さらに、電位、温度、pHや張力などの刺激を感受して開閉する全てのイオンチャネルが挙げられる。
標的イオンチャネルとしては、なかでも、疾患や症状に関連深いとされている標的イオンチャネルが好ましい。例えば、Naイオンチャネルとしては、Nav1.1〜1.3及び1.5〜1.9が挙げられる。これらは、てんかん、神経因性疼痛、不整脈、疼痛などに関連しており、これらを治療又は予防する薬剤のスクリーニングが可能となる。また、Caイオンチャネルとしては、Cav1.1、1.2、1.3、1.4、2.1、2.2、2.3、3.1、3.2及び3.3が挙げられる。これらは、循環器疾患、アルツハイマー病、疼痛、てんかん、高血圧に関連しており、これらを治療又は予防する薬剤のスクリーニングが可能となる。また、Kイオンチャネルとしては、Kv1.1〜1.5、2.1、3.2、4.3、7.1〜7.5、10.1、11.1(hERGを含む)、12.1〜12.3が挙げられる。これらは、多発性硬化症、自己免疫疾患、疼痛、心房細動、糖尿病、てんかん、神経痛、アルツハイマー病、尿失禁、不整脈、ガン等に関連しており、これらを予防又は治療する薬剤のスクリーニングが可能となる。また、Clイオンチャネルとしては、CLC-1〜7及び、−Ka、Kbは、高血圧に関連しており、これを予防又は治療する薬剤のスクリーニングが可能となる。
特に、hERG Kイオンチャネルを標的イオンチャネルとすることが好ましい。このイオンチャネルは、6回膜貫通型構造を持ち4量体を形成する電位依存性Kイオンチャネルの1つである。他の電位依存性Kイオンチャネルとの違いとして内向き整流性を示すことが挙げられる。これはC型不活性化が非常に速く起こることに起因する。心臓における活動電位の第3相である再分極相で強く働いている。再分極相において電位を過分極させる働きを持つため不整脈と、また癌とも関わりが強いチャネルとして知られている。hERGチャネルを阻害すると致死性の高いQT延長症候群が誘発されるため、現在、全ての種類の薬剤の候補化合物において、心毒性としてのHERG Kイオンチャネル阻害作用による催不整脈作用の検討が求められる。このため、標的イオンチャネルをhERG Kイオンチャネルとするスクリーニング用細胞の有用性は高い。スクリーニング用細胞にhERG Kイオンチャネルを発現させた場合、例えば電気刺激により発生する活動電位が短縮されるため、細胞死が生じにくくなる。hERG Kイオンチャネル阻害作用を有する、もしくは有することを疑われる化合物を加えることにより、その阻害程度に依存してスクリーニング用細胞の細胞死が生じ易くなるため、hERGKイオンチャネルに対する阻害効果が定量的に評価できる。hERGとしては、例えば、GenBank accession No.NM_000238.2が挙げられる。
標的イオンチャネルを発現しているスクリーニング用細胞であればスクリーニングに使用可能である。好ましくは、スクリーニングに用いるスクリーニング用細胞は、標的イオンチャネルを特異的発現あるいは高発現している。より精度及び感度の良好なスクリーニングのためである。イオンチャネルは特定の細胞に分布していることが多いため、スクリーニング用細胞の親株として、予め標的とするイオンチャネルを高発現している細胞を選択することもできる。しかし、試験管外で安定してスクリーニング用細胞において標的イオンチャネルを発現させるには、スクリーニング用細胞が、当該標的イオンチャネルをコードするDNA(第3のDNA)を保持し、発現していることが好ましい。また、スクリーニング用細胞は、標的イオンチャネルを定常的にあるいは一過性的に発現するものであってもよい。すなわち当該第3のDNAは染色体上に組み込まれて娘細胞に伝達されるようになっていてもよいし、染色体外で自律的に増幅するが娘細胞には必ずしも伝達されないプラスミドに組み込まれていてもよい。
第3のDNAは、好ましくは、恒常的に作動するプロモーター(構成的プロモーター)の制御下に連結されている。このようなスクリーニング用細胞は、当業者であれば、周知の遺伝子工学技術及び形質転換体の作製技術に基づいて、第3のDNAを含む発現ベクター等を構築し、これをスクリーニング用細胞の宿主に導入し形質転換することで、定常発現もしくは一過性発現細胞を適宜取得することができる。
なお、発現させる標的イオンチャネルが2以上の異なるサブユニット(あるいは異なるイオンチャネルのサブユニットであってもよい)からなる場合、これらのサブユニットをそれぞれコードするDNAを1又は2以上の第3のDNAとしてスクリーニング用細胞に発現させることが好ましい。さらに、発現させる標的イオンチャネルを、効果的に機能させるために必要な酵素や他のタンパク質がある場合、これらのタンパク質を共発現させてもよい。その場合、こうした他のタンパク質をコードするDNAを発現可能に保持させるようにすればよい。なお、他のタンパク質としては、例えば、各種受容体タンパク質、GTP結合タンパク質、リン酸化酵素等が挙げられる。
スクリーニング用細胞の宿主細胞は、スクリーニング用として用いることができるものであれば特に限定しないで、各種の動植物細胞を用いることができる。動物細胞としては、哺乳動物や昆虫など特にその種類は限定されない。宿主細胞が、ヒトのほか、ウシ、ブタ、ウマ、トリ、イヌ、ネコ等の細胞の場合には、これらの動物における疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング用細胞を取得できる。また、昆虫細胞を宿主とする場合には、昆虫を対象とする農薬等のスクリーニング用細胞を取得できる。また、宿主細胞を植物細胞とするときは、農薬等のスクリーニング用細胞を取得できる。動物細胞としては、典型的には、ヒト胎児腎由来細胞(HEK細胞)、アフリカミドリザル腎由来細胞(COS細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ベビーハムスター腎細胞(BHK細胞)及びアフリカツメガエル卵母細胞が用いられる。
(スクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、本明細書に開示されるスクリーニング用材料のスクリーニング用細胞を用いて、標的チャネルに対する被験化合物の作用をスクリーニング用細胞の生死を指標として検出する工程、を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、本明細書に開示されるスクリーニング用細胞を用いることで、スクリーニング用細胞の生死を指標として、被験化合物の標的イオンチャネルへの作用を検出できる。このため、簡易に高効率に多検体を同時評価することが可能となっている。また、特別な操作や装置も必要としないため、操作に由来する精度低下もなく、スクリーニングコストも低下させることができる。
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、既に説明した各種のイオンチャネルを標的イオンチャネルとしたスクリーニング細胞を用いることで、当該標的イオンチャネルが関連する疾患や症状を予防又は治療する薬剤をスクリーニングすることができる。スクリーニングにあたっては、1又は2以上の被験化合物をスクリーニング細胞に供給することができる。単一の被験化合物を用いて当該化合物による作用を検出してもよいし、2以上の被験化合物を用いてこれらの化合物の複合作用あるいは相乗作用を検出してもよい。標的イオンチャネルに対する作用をスクリーニング用細胞の生死によって検出するにあたっては、被験化合物を供給しなかった場合のスクリーニング用細胞の生死をコントロールとすることができる。また、標的イオンチャネルに対する作用が既知である化合物をコントロールとしてもよい。こうしたコントロールとの比較によって、被験化合物の標的イオンチャネルに対する作用の有無やその作用の程度を検出することができる。
被験化合物は、特に限定しない。低分子化合物であるほか、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドなどの核酸(DNA、RNA)、オリゴ糖、多糖類、脂質等であってもよい。
スクリーニング用細胞には、必要に応じて、被験化合物のほか、各種刺激が付与されてもよい。これらの刺激との組み合わせで作用が促進又は抑制される場合もあるからである。また、刺激の存在下で活性化するあるいは不活性化する標的イオンチャネルへの作用を評価することもできる。こうした刺激としては、例えば、温度変化(高温、低温)、pH変化、O2/CO2濃度変化、浸透圧変化などが挙げられる。
また、後述するように、検出工程において、スクリーニング用細胞の細胞膜の脱分極の惹起させる必要がある場合がある。その場合には、電気刺激など、被験化合物に影響が出にくい刺激を用いることが好ましい。
スクリーニング用細胞の細胞死を指標として被験化合物の標的イオンチャネルへの作用を検出するのにあたっては、スクリーニング用細胞の死か生かといった二者択一的な結果を指標とすることに限定するものではなく、細胞死の比率(換言すれば、生細胞の比率でもある)を指標とすることも含まれる。細胞死の比率を指標とすることで、作用の強弱や程度を、感受性等も評価することができる。スクリーニング用細胞の細胞死(生細胞であってもよい)の検出方法を各種公知の手法を特に限定しないで採用できる。例えば、MTT法をはじめ細胞染色、核染色、酵素活性によるものなど各種手法が挙げられる。精度や効率性を考慮して適宜選択できる。また、細胞死は、細胞死に至る持続的な活動電位を検出することでも検出できる。すなわち、細胞死に至るような活動電位の持続時間を検出することによってもよい。こうした活動電位の持続状態は、従来の膜電位の電気的な検出のほか、蛍光膜電位検出法や膜電位感受性色素によって検出してもよい。
本明細書に開示されるスクリーニング方法では、標的イオンチャネルの種類に応じて適宜スクリーニング方法の態様が選択される。より具体的には、標的イオンチャネルの制御様式やその機能に応じて適宜選択される。例えば、標的イオンチャネルの制御様式(電位依存性、リガンド依存性、機械刺激依存性、温度依存性、漏洩チャネル、リン酸化依存性等)に応じ、標的イオンチャネルの活性化(又は不活性化)のための刺激の有無や刺激の種類が選択される。また、標的イオンチャネルの機能に応じて、細胞死を指標とした評価態様(標的イオンチャネルに対して作動性か阻害性か等)が選択される。例えば、標的イオンチャネルが電位依存性イオンチャネルの場合には、活性化(所定の膜電位による活性化)により各種の機能が発現されることが知られている。具体的には、活動電位の発生、興奮伝導(以上、Naイオンチャネル)、神経伝達物質の遊離、神経及び心筋での活動電位の発生(以上、Caイオンチャネル)、膜電位の維持、興奮性の制御、活動電位の再分極(以上、Kイオンチャネル)、膜電位再分極、タンパク質再吸収、骨器質吸収、Cl輸送(以上、Clイオンチャネル)が挙げられる。
例えば、標的イオンチャネルが活性化によりスクリーニング用細胞の細胞膜などの生体膜の脱分極を惹起するイオンチャネルであるときには、以下のような検出工程におけるスクリーニング態様が挙げられる。
すなわち、(1)被験化合物の存在下でスクリーニング用材料の標的チャネルに対する被験化合物の作用をスクリーニング用細胞の生死を指標として検出する工程が挙げられる。より具体的には、スクリーニング用細胞に被験化合物を付与後に、スクリーニング用細胞の生死を検出する。細胞死の促進を検出したとき、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対して作動性を有する作動剤(活性化剤)であると判定できる。
また、同様のイオンチャネルを標的とするとき、(2)被験化合物及び標的イオンチャネルに対する刺激の存在下で、被験化合物の作用を前記細胞の生死を指標として検出する工程が挙げられる。より具体的には、スクリーニング用細胞に予め被験化合物を付与しておき、その後標的イオンチャネルに対する既知の作動剤を加え、その後にスクリーニング用細胞の生死を検出する。細胞死を検出しないかあるいは細胞死が抑制されている場合、被験化合物は、標的イオンチャネルに対する阻害性を有する阻害剤(不活性化剤)であると判定できる。
また、標的イオンチャネルは、漏洩チャネルなど、スクリーニング用細胞の細胞膜などの脱分極及び/又は活動電位を抑制する(過分極を促進する)イオンチャネルであるときには、以下のような検出工程の態様が挙げられる。すなわち、被験化合物及びスクリーニング用細胞の生体膜の脱分極を惹起する刺激の存在下で、被験化合物の作用をスクリーニング用細胞の生死を指標として検出することが挙げられる。この場合、被験化合物の不存在下では、標的イオンチャネルは恒常的に作動して、脱分極を抑制しあるいは活動電位を抑制(再分極を促進)している。このため、電気刺激などのスクリーニング用細胞の細胞膜の脱分極を惹起する刺激を与えて細胞死制御機構を作動させても、活動電位が発生しない、あるいは延長しない。この結果、スクリーニング用細胞は生存する。一方、このスクリーニング細胞に、被験化合物と前記刺激とを付与したとき、スクリーニング用細胞の細胞死が促進されたのであれば、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対して阻害性を有する阻害剤として判定できる。
また、標的イオンチャネルが、HERG Kイオンチャネルなど、活性化によりスクリーニング用細胞の細胞膜などの生体膜の脱分極及び/又は活動電位を抑制する(再分極を促進する)イオンチャネルであるときには、以下のような検出工程におけるスクリーニング態様が挙げられる。すなわち、被験化合物及び前記スクリーニング用細胞の生体膜の脱分極を惹起する刺激の存在下で、前記被験化合物の作用を前記細胞の生死を指標として検出することが挙げられる。より具体的には、被験化合物をスクリーニング用細胞に付与と同時又はその後に電気刺激等で生体膜の脱分極を惹起したときに、スクリーニング用細胞の細胞死が抑制されたのであれば、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対する作動性を有する作動剤であると判定できる。一方、スクリーニング用細胞の細胞死が促進されたときは、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対して阻害性を有する阻害剤であると判定できる。
以上のように、本明細書に開示されるスクリーニング方法によれば、スクリーニング用細胞の生死を指標として、各種態様で標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用性を簡易にかつ効率的に検出することができる。このスクリーニング方法は、迅速性が求められるスクリーニング系のほか、構造設計が困難な、イオンチャネルを標的とする薬剤のスクリーニング、特に、ハイスループット性が求められる一次スクリーニングなどにも適している。
(検査方法)
本明細書の開示によれば、本明細書に開示されるスクリーニング用材料のスクリーニング用細胞を用いて、標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用をスクリーニング用細胞の生死を指標として検出する工程、を備える、被験化合物の検査方法も提供される。この検査方法によれば、簡易かつ迅速に、被験化合物の標的イオンチャネルへの作用(作動性や阻害性)を測定できる。したがって、被験化合物に一定以上の作用が求められる場合における検査方法として有用である。本明細書に開示される検査方法においては、すでに説明した本明細書に開示されるスクリーニング方法における各種態様をそのまま適用することができる。
(スクリーニング装置)
本明細書に開示されるスクリーニング装置は、イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニングのための装置であって、細胞を収容する1又は2以上の領域(細胞収容領域)を備える細胞収容ユニットと、前記1又は2以上の領域内の前記細胞の細胞死の測定ユニットと、を備えることができる。本明細書に開示されるスクリーニング装置によれば、細胞死測定ユニットを備えているため、細胞収容ユニット内の細胞死を効率的に検出することができる。このスクリーニング装置には、本明細書に開示されるスクリーニング用細胞を用いることができる。なお、細胞死の検出にあたっては、本スクリーニング方法において既に説明したように各種方法を採用することができる。
細胞収容ユニットは、細胞死の測定に適した細胞数の細胞が収容できればよく、公知のマルチウェルプレートあるいはそれと同等の大きさのウェルを細胞収容領域として備えることができる。こうしたウェルは、通常、細胞をインキュベーションすることができるように培地を収容することも可能となっている。ウェルは、アレイ状に配列されていることが好ましい。
細胞死測定ユニットは、細胞死の検出方法に応じて各種態様を採ることができる。例えば、細胞に対して、1又は2以上の薬剤を供給して、生細胞又は死細胞を検出する場合には、そのような薬剤を細胞収容領域の供給可能な薬剤供給部を備えることができる。薬剤供給部は、典型的には、細胞収容領域に同時にあるいは順次薬剤を供給するための薬剤注入部のほか、薬剤を貯留しておく薬剤貯留部、薬剤を貯留部から搬送して薬剤注入部から吐出させるためのポンプ部、薬剤の供給量を制御する制御部等が挙げられる。これらの各部のうち、薬剤注入部は備えることが好ましいが、その他の各部は適宜必要に応じて設けられる。
また、細胞死測定ユニットは、検出方法にもよるが、細胞収容部内の細胞の細胞死を電気的あるいは光学的に検出するための光学検出部を備えていてもよい。光学検出部は、光源のほか、通常は、スキャナー部、さらには、検出した信号をコントロール等を参照して光強度として算出する制御部等を備えることができる。
さらに、細胞死測定ユニットないしスクリーニング装置は、スクリーニング工程を制御し、結果を記憶する記憶部及び当該記憶部を備える制御部を備えることができる。さらに、こうした工程や結果を表示する表示部を備えることもできる。さらに、結果を印刷するプリンタ部を備えることもできる。
スクリーニング装置は、さらに、1又は2以上の細胞収容領域に電圧を印加する電圧印加ユニットを備えることもできる。細胞収容領域内の細胞に電気刺激を付与可能とすることで、スクリーニングの検出工程において、電機刺激付与操作を効率的に実施できる。かかる電圧印加ユニットは、細胞収容領域内の本スクリーニング用細胞に対して電気刺激を付与して細胞膜の脱分極を惹起し細胞死制御機構を作動させるために用いることができる。電圧印加ユニットは、細胞収容領域の一部又は全体に適用される電極と当該電極に電圧を印加する電源を備えることができる。また、印加される電圧は、既に説明した制御部によって制御されることが好ましい。
(スクリーニング用キット)
本明細書に開示されるスクリーニング用キットは、本明細書に開示されるスクリーニング用材料を備えている。こうしたキットによれば、本スクリーニング用細胞を用いてイオンチャネルに作用する化合物のスクリーニングを容易にかつ効率的に行うことができる。本キットは、本スクリーニング用材料の他、細胞死の測定用の試薬を備えていてもよい。また、スクリーニング用細胞に適した培地を備えていてもよい。本スクリーニング用キットは、さらに、本明細書に開示されるスクリーニング装置を備えることができる。本スクリーニング用キットに適用されるスクリーニング用細胞及びスクリーニング用材料並びにスクリーニング装置は既に説明した各種態様から適宜選択され、組み合わされる。
以下、本明細書の開示を具現化した実施例につき説明するが、本明細書の開示はこれに限定されるものではない。
(Nav1.5チャネル不活性化部位IFMモチーフ変異体の作製)
Nav1.5チャネルの不活性化を制御しているIII-IVリンカー領域中に存在する疎水性アミノ酸配列Ile-Phe-Met(IFMモチーフ)をすべてGlnに変異させることとした。変異後のアミノ酸配列(部分)を以下に示す。
hNav1.5アミノ酸配列(変異対象となるIFMを含む領域のみ表示)(配列番号1)
1470-IDNFNQQKKKLGGQDIFMTEEQKKYYNAMKK-1500
(下線部のIFMをQQQに変異)
ヒト由来のNav1.5 (GenBank Accession Number: NM_198056.2)をpcDNA3.1(+)(Invitrogen)にサブクローニングしたpcDNA3.1/Nav1.5を鋳型として、以下に示す特異的なPCRプライマー及びQuik change Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、不活性化変異体Nav-QQQを作製した。得られたクローンのDNA配列はBigDye Terminator ver 3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)、蛍光キャピラリーシークエンサー(ABI PRISM 3100-Avent Genetic Analyzer、Applied Biosystems)を用いて確認し、プラスミドDNAをHipure Plasmid Maxiprep Kit(Invitrogen)を用いて大量精製した。
プライマー
5’-gttagggggccaggaccaacaacagacagaggagcagaag-3’(配列番号2)
5’-cttctgctcctctgtctgttgttggtcctggccccctaac-3’(配列番号3)
(細胞培養及び遺伝子導入)
ヒト胎児腎由来細胞(HEK293細胞)はヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB)から購入した。10%FBS(Gibco)を添加し、100U /ml ペニシリン(和光純薬)、100μg/ml ストレプトマイシン(明治製菓)を加えたD-MEM培地(和光純薬)中で37℃、5%CO2において培養した。ヒト由来のKir2.1(NM_000891.2)をpcDNA3.1(+)(Invitrogen)にサブクローニングしたpcDNA/Kir2.1をLipofectamine 2000 regent(Invitrogen)を用いて遺伝子導入し、上記のD-MEM培地に0.2mg/ml Zeocin(Invitrogen)を加えた培地で培養し、Zeocin耐性細胞をクローニングし、Kir2.1定常発現細胞(HEK_Kir)を作製した。また同様の方法でKir2.1定常発現細胞に不活性化変異体Nav-QQQ(HEK_Kir_mutated Nav)を遺伝子導入し、24〜72時間後に実験を行なった。
(電気生理実験)
Hamill等によって確立されたパッチクランプ法を用いて電流導出等を行なった。外径1.04~1.08μmの芯入りガラス管から2段式の電極作製機(PB-7, 成茂科学)により、先端の径がおよそ1μmのガラス微小電極を作製し、500倍の顕微鏡下で熱加工して先端を滑らかにした。本実験では電極内液を充填した時の電極抵抗が2〜5MΩの電極を用いた。倒立顕微鏡(Nikon TMD)のステージ上に固定した容量約500μlのチャンバーに細胞を定着させたガラス片を固定し外液で灌流した。外液(正常HEPES緩衝液)の組成は(mM):137 NaCl, 5.9 KCl, 2.2 CaCl2, 1.2 MgCl2, 14 glucose, 10 HEPES (pH7.4 by NaOH)。ピペット内液の組成は(mM):140 KCl, 4 MgCl2, 5 ATP-2Na, 0.05 EGTA, 10 HEPES (pH7.2 by KOH)。実験はすべて室温(23±1℃)で行なった。ガラス片に付着している細胞に対し、油圧式微動マニピュレータ(MO-203: 成茂科学)を用いてガラス微小電極を押し当てて、電位固定法及び電流固定法により記録を行なった。測定した電流及び電位は微小電流用増幅器(EPC-7: HEKA Elektronik)を用いて増幅し、A-D変換機(Digdata 1400A: Axon Instruments)を用いてコンピュータ上に記録した。データの解析はClampfit10.2ソフトウェア(Axon Instruments)とOrigin6.0J(Microcal Software Inc.)を用いて行なった。
(細胞死の測定)
3種の細胞(HEK, HEK_Kir, HEK_Kir_mutated Nav)を100μlのD-MEM培地を入れた96ウェルプレートに5×103 cells/wellになるように蒔き5%CO2、37℃で培養した。1日後に径0.5mmの2本の刺激銀線電極を各ウェルの培養液内へ、その先端部分を2mm程度差し込み、40mA, 80mA, 120mA, 160mAの4種類の電流強度(強度1〜4)で、刺激幅200msの矩形波による電気刺激を電気刺激装置(日本光電)を用いて3分間隔で3回行なった。電気刺激条件は必ずしもこの通りである必要はなく、確実に活動電位を発生させることができる条件を選べばよい。その後、5%CO2、37℃で培養し、一日後にMTT試薬(リン酸緩衝食塩水PBS(-)で溶かし最終濃度を5mg/mLに調製)を10μl加え、4時間、5%CO2、37℃で培養後、溶解溶液(20% SDS / 50% DMF溶液)を100μl入れて細胞を溶解し、ホルマザン塩を溶解させた。さらに、37℃で8〜12時間インキュベート後、マルチスキャンJX(ver1.1, Thermo Labsystems, USA)を用いて測定波長: 595nm、対照波長: 650nmにおいて吸光度を測定し、生細胞数の間接的な指標とした。ただし、上記の4時間および8〜12時間はそれぞれ2時間、3時間に短縮しても測定できる。
(結果)
・ HEK_Kir細胞の発現解析
HEK_Kir細胞にボルテージクランプ法を適用しKirチャネル電流を測定した。結果は、図2(a)に示すように、内向きに流れるKirチャネル電流の特徴が見られ、選択的阻害薬である100μMのBaイオンを投与すると内向き電流が阻害された。また、カレントクランプ法により膜電位を測定すると、図2(b)に示すように、約-70mVの深い静止膜電位であり、100μMのBaイオン投与により静止膜電位が浅くなった。
2.野生型及び変異型Nav1.5チャネル電流の不活性化速度と活動電位発生時間の違い
HEK_Kir細胞に野生型と変異型のNav1.5チャネルを一過性に発現させ、Naイオンチャネル電流を測定した。結果は図3に示すように、変異型(図3(b))においてNaイオンチャネル電流の不活性化が非常に遅い電流が観測された。また同じ細胞を用いて脱分極通電刺激(野生型に対して300pA、10ms、変異型に対して200pA、100ms)により活動電位を発生させたところ、変異型(図4(b)において活動電位の発生時間が有意に長いことが判明した。結果を図4に示す。
・ 電気刺激による細胞死の変化
先の2.に示した結果から変異型のNav1.5チャネルにおいて非常に長い活動電位が発生することが明らかとなった。電気刺激により活動電位を発生させると細胞死が起こる可能性が考えられたため、次に電気刺激による細胞死の変化を検討した。HEK, HEK_Kir, HEK_Kir_mutated Navの3種類の細胞に電気刺激を行ない、MTT法により細胞数の変化を測定した。図5に示すように、80mA、200ms、3発(3分間隔)の矩形波電気刺激でHEK_Kir_mutated Navの細胞数が有意に減少した。このことは、HEK_Kir_mutated Nav細胞が脱分極の刺激に対して感受性が高いことを示している。また同様の刺激強度でNaイオンチャネルの阻害薬であるlidocaine(Sigma)を投与し電気刺激を行なった。結果は、図6に示すように、細胞死が起こるのを阻害した。このことからHEK_Kir_mutated Nav細胞は非常に長い活動電位が発生することで細胞死が起き、Naイオンチャネルを阻害すると細胞死が抑制されることが判明した。
実施例2に準じて、ヒト由来のhERG(NM_000238.2)を、pcDNA3.1(+)にサブクローニングし、ネイティブHEK細胞及び定常発現したHEK_Kir_mutated Nav細胞に遺伝子導入してhERG-HEK細胞及びhERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞を作製し、24〜72時間後に電気生理実験を行なった。電気生理実験は、ネイティブHEK細胞、hERG-HEK細胞、hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞について、実施例2に準じて電気生理実験を行い、hERGチャネル電流及び活動電位について測定した。hERGKイオンチャネルは、内向き整流性を示し、スクリーニング用細胞に発現させた場合には、電気刺激等により発生する活動電位を短縮して細胞死を抑制するように働く。
ネイティブHEK細胞にhERGチャネルを一過性発現させたhERG-HEK細胞にhERGチャネル阻害薬であるニフェカラント投与して投与前後における細胞膜における電位を測定した。電流原図を図7に示し、電流電圧曲線を図8に示す。図7及び図8に示すように、ニフェカラントが投与された場合には、hERGチャネル電流が阻害されたことがわかった。
また、HEK_Kir_mutated Nav細胞にhERGチャネルを一過性発現させたhERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞にニフェカラントを投与して投与前後における細胞膜の電位を測定した。電流原図を図9に示し、脱分極通電刺激により発生した活動電位原図を図10に示し、図11に、脱分極通電刺激による活動電位時間を示す。
図9〜図11に示すように、細胞死制御機構を備えてhERGを発現させたhERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞においては、ニフェカラントが投与されない場合には、hERGによってより活動電位の持続時間が短縮され、ニフェカラントが投与された場合には、hERGチャネルが阻害されて、活動電位の持続時間が有意に延長したことが判明した。以上の結果から、HEK_Kir_mutated Nav細胞にhERGチャネルを発現させると電気刺激による細胞死が抑制され、ニフェカラント投与により細胞死が誘発される可能性が考えられた。
本実施例では、hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞における電気刺激とニフェカラントとによる細胞死の誘発化を検討した。細胞死の測定については実施例2に準じて行った。なお、電気刺激は、150mAで、200msで、3回(3分間隔)の矩形波電気刺激とした。ニフェカラント投与による細胞死の誘発結果を図12に示し、細胞死を誘発するためのニフェカラントの用量作用曲線を図13に示す。
図12に示すように、hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞に対して矩形波電気刺激を与えても、細胞死は誘発されなかったが、ニフェカラント投与により脱分極刺激による細胞死が誘発されたことがわかった。また、図13に示すように、ニフェカラントの濃度依存的に細胞死が誘発されたことが判明した。以上のことから、hERG_HEK_Kir_mutated Nav細胞は、標的イオンチャネルとしてhERGなどを用いた場合の本スクリーニング用細胞を、細胞死などを指標としたイオンチャンネルを標的とするスクリーニング材料として好適であることがわかった。
本実施例では、細胞外高濃度Kイオンを脱分極刺激として用いて、膜電位感受性色素DiBAC4(3)を用いた膜電位の測定について検討した。DiBAC4(3) は膜電位が脱分極すると蛍光強度が増加し、膜電位と蛍光強度変化が相関する性質を持っている。
2種の細胞(HEK_Kir, HEK_Kir_mutated Nav)に100nMのDiBAC4(3)(ビス(1,3-ジブチルバルビツール酸)トリメチンオキソノール)を、当該色素を添加した正常HEPES緩衝液で30分間、室温で負荷後、488nmで励起し505nmのダイクロイックミラーで反射し520nm以上の蛍光を測定した。また刺激として、細胞外液のKイオンを上げたHigh K+を用い、細胞膜を脱分極させている。これは静止膜電位の形成には主にKイオンが関係しているためである。Na-Kポンプにより細胞内のKイオンは細胞外に比べて高く維持されているがリークチャネルによりKイオンを細胞外に排出する。このNa-KポンプによるKイオンの流入とリークチャネルによるKイオンの排出が釣り合う電位が静止膜電位となる。そこで細胞外のKイオン濃度を上げると細胞内外のKイオンの差が小さくなるため静止膜電位が浅くなる。本実施例ではこの脱分極刺激を用い、2種の細胞の蛍光強度変化を測定した。なお、細胞外のKイオン濃度を140mM K+にした場合の蛍光強度を1と規格として測定した。蛍光測定に用いた装置は高速冷却CCDカメラ蛍光イメージングシステム ARGUS / HiSCA(浜松ホトニクス)を使用した。結果を、図14〜図17に示す。
図14及び図15は、それぞれHEK_Kir細胞及びHEK_Kir_mutated Nav細胞でのhigh K+刺激による蛍光変化(横軸:時間(細胞外Kイオン濃度)、縦軸:蛍光強度)を示す図である。図14及び図15に示すように、細胞外Kイオン濃度が上昇するとともに、細胞から得られる蛍光強度が高まることがわかった。すなわち、細胞外Kイオン濃度が膜電位の脱分極を促進していることがわかった。
図16は、HEK_Kir細胞及びHEK_Kir_mutated Nav細胞のそれぞれの同一濃度の細胞外のKイオン(15.3mM)刺激を与えたときの蛍光強度を示す図である。図16に示すように、HEK_Kir_mutated Nav細胞においては、HEK_Kir細胞と比較して、同じKイオン濃度刺激に対してより高い蛍光強度を呈し、より鋭敏なあるいはより脱分極が促進されていることがわかった。
図17は、HEK_Kir_mutated Nav細胞において、細胞外Kイオン濃度を5.9mMから15.3mMで変化させた場合におけるリドカイン投与による蛍光強度への影響を示す図である。リドカインはNaイオンチャネルの阻害剤であり、図17において、1mMのリドカインの投与時間は下線で示す期間となる。図17に示すように、リドカインにより細胞外Kイオン濃度刺激による蛍光変化を阻害することがわかった。なお、リドカイン存在下では、HEK_Kir_mutated Nav細胞とHEK_Kir細胞とは同じ蛍光変化を示すことを確認している。以上のことから、HEK_Kir_mutated Nav細胞における細胞外Kイオン濃度刺激による有意な蛍光変化に、Naイオンチャネルが寄与していることがわかった。そして、膜電位感受性色素であるDiBAC4(3)を用いた蛍光測定においても本スクリーニング用細胞を利用できることがわかった。
配列番号2,3:プライマー

Claims (15)

  1. 不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルをコードする1又は2以上の第1のDNAを保持し、
    静止膜電位が負の方向に深くなるようにKイオンチャネルが活性化された細胞を含む、標的イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング用材料。
  2. 前記1又は2以上の第1のDNAは、Nav1.5チャネルの変異体をコードするDNAを含む、請求項1に記載のスクリーニング用材料。
  3. 前記Kイオンチャネルは、Kir2.1を含む、請求項1又は2に記載のスクリーニング材料。
  4. さらに、前記細胞は、前記Kイオンチャネルをコードする外来性の1又は2以上の第2のDNAを保持する、請求項1〜3のいずれかに記載のスクリーニング用材料。
  5. 前記標的イオンチャネルは、hERGイオンチャネルを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のスクリーニング用材料。
  6. 前記細胞は、前記標的イオンチャネルをコードする1又は2以上の第3のDNAを保持する、請求項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング用材料。
  7. 標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤をスクリーニングする方法であって、
    請求項1〜6のいずれかに記載のスクリーニング用材料であって、前記標的チャネルに対する被験化合物の作用を前記細胞の生死又は前記細胞死に相当する持続的な活動電位を指標として検出する工程、
    を備える、スクリーニング方法。
  8. 前記標的イオンチャネルは、活性化により前記細胞で細胞膜の脱分極を惹起するイオンチャネルであり、
    前記検出工程は、前記被験化合物の存在下でスクリーニング材料の前記標的チャネルに対する被験化合物の作用を検出する工程である、請求項7に記載の方法。
  9. 前記標的イオンチャネルは、活性化により前記細胞で細胞膜の脱分極を惹起するイオンチャネルであり、
    前記検出工程は、前記被験化合物及び前記標的イオンチャネルに対する前記刺激の存在下で、前記被験化合物の作用を検出する工程である、請求項7に記載のスクリーニング方法。
  10. 前記標的イオンチャネルは、前記細胞で細胞膜の脱分極及び/又は活動電位を抑制するイオンチャネルであり、
    前記検出工程は、前記被験化合物及び前記細胞で細胞膜の脱分極を惹起する刺激の存在下で、前記被験化合物の作用を検出する工程である、請求項7に記載の方法。
  11. 前記標的イオンチャネルは、活性化により前記細胞で細胞膜の脱分極を抑制するイオンチャネルであり、
    前記検出工程は、前記被験化合物及び前記細胞で細胞膜の脱分極を惹起する刺激の存在下で、前記被験化合物の作用を検出する工程である、請求項7に記載の方法。
  12. イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニングのための装置であって、
    細胞を収容する1又は2以上の領域を備える細胞収容ユニットと、
    前記1又は2以上の領域内の前記細胞の細胞死又は前記細胞死に相当する持続的な活動電位の測定ユニットと、
    を備える、装置。
  13. 前記測定ユニットは、前記1又は2以上の領域内の前記細胞の細胞死又は前記細胞死に相当する持続的な活動電位を検出するための1又は2以上の薬剤の供給部と、前記1又は2以上の領域内の前記細胞の細胞死又は前記細胞死に相当する持続的な活動電位を光学的に検出するための光学検出部と、を備える、請求項12に記載の装置。
  14. さらに、前記1又は2以上の領域に電圧を印加する電圧印加ユニットを備える、12又は13に記載の装置。
  15. 請求項1〜6のいずれかに記載のスクリーニング用材料を含む、イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング用キット。
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