JPWO2011162283A1 - シールリング - Google Patents
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Abstract
Description
図1にシールリングを用いた油圧回路の基本構造を示す。シールリング1は、軸2の外周面の油圧通路3の軸方向両側に形成された軸溝(リング溝)4に装着される。油圧通路3から供給される作動油をシールリングの受圧側面11と内周面12で受け、シールリングの外周面13がハウジング5の内面と接触し、シールリングの接触側面14が軸溝4の側面と接触することにより、油圧をシールする。一般的には軸2が回転し、ハウジング5が固定されるが、その逆の組み合わせもある。
特許文献1には、シールリングの側面を、外周側から内周側に向かって軸方向幅が小さくなるようなテーパ形状とすることにより、シールリング側面とリング溝との間にキャンセル荷重を発生させて、受圧荷重の低減を図る方法が記載されている。側面テーパ形状は、受圧荷重を大幅に低減することができ、現状で最もフリクションが小さいシールリングの形状として知られている。
また、特許文献2には、図2(A)に示すように、少なくとも接触側面の内周側に周方向に離間して形成された凹部(ポケット)6と凹部6間に配置された柱部7を有するシールリングが記載されている。図2(B)及び(C)に示すように、凹部6は、内周方向に向かいシールリングの軸方向幅(厚さ)が薄くなるように設けられた最深傾斜部51と、最深傾斜部51の周方向両側に位置し、隣接する柱部7の最も内周側の点に向かって収束する収束部52からなる。この構成では、シールリングの回転により、凹部6内に満たされた油を収束部52の斜面で絞り込むことにより発生する揚力60と、接触側面の凹部6に油圧が作用し、押し付け荷重を低減させる効果(キャンセル圧61)によりフリクションが低減する。さらに、特許文献2のシールリングでは、図2(D)に示すように、シールリングの側面がリング溝と面で摺接するため、合口隙間の漏れ流路が形成されず、低リーク特性が得られる。
図3に、本発明の一態様であるシールリングの斜視図を示す。図3の凹部形状は、特許文献2に記載されている凹部形状、すなわち図2に示す凹部形状と基本的に同様である。凹部6は、シールリングの少なくとも接触側面の内周側に周方向に離間して形成され、凹部6と凹部6間には柱部7が配置される。図2(B)に示すように、凹部6は、内周方向に向かいシールリングの軸方向幅(厚さ)が薄くなるように設けられた最深傾斜部51と、最深傾斜部51の周方向両側に位置し、隣接する柱部7の最も内周側の点に向かって収束する収束部52からなる。このような凹部6形状では、シールリングの回転によって、凹部6内に満たされたオイルが収束部52で絞り込まれ、その楔形状効果により回転方向に垂直な揚力が発生する。さらに、接触側面側の凹部6に油圧が作用し、押し付け荷重を低減するため、フリクションが低減する。
図2(B)の例では、収束部の傾斜面とシールリング側面とのなす角度、すなわち、図2(B)中の斜面角度θは、16°、最深傾斜部52の深さh、すなわち、収束部52の内周端における軸方向深さhは、0.42mmに設定されている。
ここで、凹部6の数(1本のシールリングの片側の側面に形成される凹部の数)は、4個〜16個が好ましく、8個〜12個がより好ましい。また、凹部6の周方向幅は、柱部7の周方向幅の8〜50倍とするのが好ましく、収束部52の周方向幅(片側)は、最深傾斜部51の周方向幅の1/50以上とするのが好ましい。
本発明の効果は、内壁8及び油導入孔10を備える凹部6をシールリングの接触側面に形成することにより得られる。しかし、本形態の凹部6形状は、周方向中央に対して両側が対称形状であるため、作業性を考慮すると、シールリングの接触側面及び受圧側面の両方に凹部6を設け、両側面とも対称で方向性のない構成とするのが好ましい。
ここで、回転方向反対側のみに内壁を設けた場合、内壁の周方向長さは、凹部全体の周方向長さを100として、5〜95とするのが好ましく、50〜95とするのがより好ましい。この範囲では、より優れた楔形状効果が得られ、フリクションがさらに低減する。
図中で、内壁8の軸方向の高さは、シールリング側面の高さとほぼ等しく設定、すなわち、内壁8の先端面と、凹部6が形成されていない側面とが同一平面となるように設定されている。そして、図3(A)では、凹部6の周方向の中央部に、図3(B)では、回転方向の端部に内壁8を設置しない部分を設けることにより、それぞれ、内壁8間、又は内壁8と柱部7との間に、内周面12に向かって開口する油導入孔10を形成している。しかし、油導入孔10の構成は、これに限定されず、例えば、凹部6の周方向全域にわたって内壁8を形成し、その軸方向の高さを部分的にシールリング側面より低く設定することにより、油導入孔10とすることもできる。
内壁8の幅、すなわち、内壁8の径方向の長さは、特に限定されないが、より優れたフリクション低減効果を得るためには、シールリングの径方向幅を100として、5〜20とするのが好ましい。また、凹部6の先端に向かって、内壁8の径方向幅を大きくし、すなわち、凹部6の径方向幅を小さくすることにより、収束部先端が深さ方向、すなわち、軸方向のみならず、径方向でも先細りの形状となるため、三次元の絞り効果がさらに向上する。このため、揚力が増加し、フリクションがさらに低減する。
また、図では、最深部21は、所定の周方向長さを有し、側面と平行な平坦面で形成されているが、平坦面を設けない構成とすることもできる。すなわち、凹部6の中央は、最深部21を含み、最深部21に向かって凸形状、すなわち、図4(E)において下に凸状の1つの曲面からなる斜面部22で構成され、この斜面部22の両側から柱部7までを、柱部7に向かって凸状、すなわち、図4(E)において上に凸状の曲面からなる絞り部20で連結した凹部6構成とすることもできる。但し、より優れたフリクション低減効果を得るためには、最深部21は、側面と平行な平坦面で構成されるのが好ましい。この場合、最深部の周方向の幅bは、1個の凹部6の周方向幅aを100として2〜20とするのが好ましく、8〜16とするのがより好ましい。
また、絞り部20のR曲面のダレ長さc、すなわち、凹部6先端から絞り部20と斜面部22との境界までの周方向幅は、凹部6片側の傾斜部の周方向幅、すなわち、絞り部20と斜面部22の周方向の幅の和(c+d)を100として、5〜20とするのが好ましい。また、絞り部20の深さe、すなわち、絞り部20と斜面部22との境界点の軸方向の減退量は、凹部6の最深部の深さh(軸方向の減退量)を100として、0を超え20%以下とするのが好ましい。
凹部6の数(1本のシールリングの片側の側面に形成される凹部の数)は、4個〜16個が好ましく、6個〜10個がより好ましい。また、凹部6の1個あたりの周方向幅aは、柱部7の1個あたりの周方向幅fの5〜20倍とするのが好ましい。凹部6深さh、すなわち、凹部6最深部21の軸方向幅hは、シールリングの軸方向幅を100として、2〜20とするのが好ましく、5〜10とするのがより好ましい。
本発明の効果は、内壁8及び油導入孔10を備える凹部6をシールリングの接触側面に形成することにより得られる。しかし、本態様の凹部6形状は、周方向中央に対して両側が対称形状であるため、作業性を考慮すると、シールリングの接触側面及び受圧側面の両方に凹部6を設け、両側面とも対称で方向性のない構成とするのが好ましい。
ここで、回転方向反対側のみに内壁を設けた場合、内壁8の周方向長さは、凹部全体の周方向長さを100として、5〜95とするのが好ましく、50〜95とするのがより好ましい。この範囲では、より優れた楔形状効果が得られ、フリクションがさらに低減する。
図4(C)には、図4(A)のシールリングの接触側面のスキャン画像を示す。ここで、内壁8は、凹部6端部から約4mmの個所から凹部先端に向かって径方向幅が大きくなるように、すなわち、凹部の径方向幅が小さくなるように傾斜角度4°で傾斜している。また、凹部6の外周側のシール面は、凹部6の先端部に向かって、径方向幅が大きくなるように、すなわち、凹部6の径方向幅が小さくなるように傾斜角度3°で傾斜している。このように先端部に向かって径方向幅が小さくなり、さらに軸方向幅が小さく(深さが浅く)なる先細り形状の凹部6を有する本形態のシールリングでは、三次元の絞り効果がさらに向上する。このため、揚力が増加し、フリクションがさらに低減する。なお、本形態では、凹部6の先端は曲面で形成されている。
図4(A)及び(B)では、内壁8の軸方向の高さは、側面の高さとほぼ等しく設定され、すなわち、内壁8の先端面と、凹部6が形成されていない側面とが同一平面となるように設定されている。そして、内壁8を周方向に不連続に配置することにより、図4(A)では、内壁8間に、図4(B)では、内壁8と柱部7との間に、内周面12に向かって開口する油導入孔10が形成されている。しかし、油導入孔10の構成は、これに限定されず、例えば、凹部6の周方向全域にわたって内壁8を形成し、内壁8の軸方向の高さを部分的にシールリング側面より低くなるように設計することにより、油導入孔10を形成することもできる。
図5(D)では、最深部21は、所定の周方向長さbを有し、側面と平行な平坦面で形成されている。そして、回転方向反対側の最深部21の一方の端部から絞り部20に向かい、最深部21に向かって凸形状、すなわち、図5(D)において下に凸状の曲面からなる斜面部22が形成されている。そして、斜面部22と絞り部20との境界も緩やかな曲面で連結されている。斜面部22をこのような構成とすることにより、より優れたフリクション低減効果を得ることができる。しかし、本発明のシールリングの斜面部22は、このような曲面に限定されず、平面単独としても、平面と曲面からなる構成としてもよい。
また、図では、最深部21は、所定の周方向長さbを有し、側面と平行な平坦面で形成されているが、平坦面を設けない構成とすることもできる。例えば、回転方向反対側の凹部6の先端から絞り部20と斜面部22との境界までを、柱部7に向かって凸状、すなわち、図5(D)において上に凸状の曲面で形成し、絞り部20と斜面部22との境界から最深部21までを、最深部21に向かって凸形状、すなわち、図5(D)において下に凸状の1つの曲面からなる斜面部22で形成し、最深部21に到達後、即、急な傾斜面23で柱部7に連結する凹部6構成とすることもできる。但し、より優れたフリクション低減効果を得るためには、最深部21は、側面と平行な平坦面で構成されるのが好ましい。この場合、最深部21の周方向の幅bは、1個の凹部6の周方向幅aを100として2〜20とするのが好ましく、8〜16とするのがより好ましい。
また、絞り部20のR曲面のダレ長さc、すなわち、凹部6先端から絞り部20と斜面部22との境界までの周方向幅は、絞り部20と斜面部22で構成される回転方向反対側の傾斜部の周方向幅の和(c+d)を100として、5〜20とするのが好ましい。また、絞り部20の深さe、すなわち、絞り部20と斜面部22との境界における軸方向の減退量は、凹部6の最深部21の深さh(軸方向の減退量)を100として、0を超え、20以下とするのが好ましい。
凹部6の数(1本のシールリングの片側の側面に形成される凹部の数)は、シールリングのサイズによるが、外径(呼び径)が20〜70mm程度のシールリングでは、4個〜16個が好ましい。また、凹部6の1個あたりの周方向幅aは、柱部7の1個あたりの周方向幅fの5〜20倍とするのが好ましい。凹部6深さh、すなわち、凹部6最深部21の軸方向減退量は、シールリングの軸方向幅を100として、2〜20とするのが好ましく、4〜10とするのがより好ましい。
また、本形態では、回転方向反対側の傾斜面にのみ内壁8を設けている。シールリングが右回転することにより、回転方向反対側(左側)の絞り部先端に油が絞り込まれ、揚力が発生する(楔形状効果)。このように楔形状効果は回転方向反対側の絞り部20で発生し、一方、回転方向側では、斜面の油膜が形成されにくく、潤滑状態が阻害される傾向にあるため、回転方向反対側にのみ内壁を設けることにより、さらにフリクションが低減する。さらに、本形態の凹部6は、楔形状効果が期待できない回転方向側の斜面を極力減らし、ほとんどが楔形状効果を有する斜面で構成されているため、内壁8を設けることにより、楔形状効果がさらに向上し、フリクションを低減することができる。
内壁8の周方向長さは、1個の凹部6の周方向長さを100として、5〜95とするのが好ましく、50〜95とするのがより好ましい。この範囲では、より優れた楔形状効果が得られ、フリクションがさらに低減する。
図5(B)には、図5(A)のシールリングの接触側面のスキャン画像を示す。ここで、内壁8は、凹部6の絞り部20及び斜面部22で構成される傾斜部側の先端から約4.5mmの個所から凹部6先端に向かって径方向幅が大きくなるように、すなわち、凹部6の径方向幅が小さくなるように傾斜角度4°で傾斜している。また、凹部6の外周側のシール面は、凹部6の先端部に向かって、径方向幅が大きくなるように、すなわち、凹部6の径方向幅が小さくなるように傾斜角度3°で傾斜している。このように、本形態のシールリングでは、先端部に向かって径方向幅が小さくなり、さらに軸方向幅も小さく(深さが浅く)なる先細り形状の凹部6を有するため、三次元の絞り効果がさらに向上する。このため、揚力が増加し、流体潤滑となり、フリクションがさらに低減する。なお、本形態では、凹部6の先端は曲面で形成されている。
図では、内壁8の軸方向の高さは、側面の高さとほぼ等しく設定され、すなわち、内壁8の先端面と、凹部6が形成されていない側面とが同一平面となるように設定されている。そして、内壁8は、凹部6の周方向の一部(回転方向反対側)に配置され、内壁8と柱部7との間に、内周面12に向かって開口する油導入孔10が形成されている。しかし、油導入孔10の構成は、これに限定されず、凹部6の周方向全体にわたって内壁8を形成し、軸方向の高さを部分的にシールリング側面より低くなるようにすることにより、油導入孔とすることもできる。
本発明のシールリングの製造方法は、特に限定されないが、シールリング材料として、PEEK、PPS、PI等の熱可塑性樹脂を用いる場合は、射出成形で製造するのが好ましい。射出成形用金型を用いることにより、複雑な内壁構造を有するシールリングも容易に製造できる。また、フッ素樹脂を用いる場合には、圧縮成型後、機械加工することにより製造することができる。
(実施例1)
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図3(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、凹部の斜面角度θは16°、最深傾斜部52の深さhは、0.42mmとし、接触側面に8個の凹部を形成した。それぞれの凹部の周方向の先端部から中央に向かって内周端に沿って、幅0.3mm、周方向長さが片側10mmの内壁を設け、中央に周方向長さが3mmの油導入孔を形成した。なお、シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は、2.3mm、幅(軸方向幅)は、2.32mmとし、合口は、図6に示すトリプルステップ合口とした。
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図4(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、絞り部の曲率がR40、最深部の深さが0.22mmの凹部を8個形成した。それぞれの凹部の両側から中央に向かって内周端に沿って、幅0.3 mm、周方向長さが片側10mmの内壁を設け、中央に周方向長さ3mmの油導入孔を形成した。なお、シールリングの外径(呼び径)は、67mm、厚み(径方向幅)は、2.3mm、幅(軸方向幅)は、2.32mmとし、合口は、図6に示すトリプルステップ合口とした。
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図5(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、絞り部の曲率がR100、最深部の深さが0.15mmの凹部を8個形成した。それぞれの凹部の回転方向反対側から内周端に沿って、幅0.3 mm、周方向長さ20mmの内壁を設け、回転方向側に周方向長さ2mmの油導入孔を形成した。なお、シールリングの外径(呼び径)67mm、厚み(径方向幅)は、2.3mm、幅(軸方向幅)は、2.32mmとし、合口は、図6に示すトリプルステップ合口とした。
実施例1〜3のシールリングを、図7に示すように、油圧回路を設けた固定軸(S45C製)の外周面に形成された軸溝に装着し、試験装置に設置した。次に、ハウジング(S45C製)を装着し、回転数2000rpmで回転させ、試験装置に取付けたトルク検出器から回転トルク・ロスを検出した。また同時に油の漏れ量を測定した。なお、ここで、油はオートマチックトランスミッションフルード(ATF)を用い、油温80℃、油圧0.8MPaとした。比較として、実施例1と同様の凹部形状で内壁を有しない構成のシールリング(比較例1)、及び外周側から内周側に向かい軸方向幅が小さくなるように両側面を傾斜角度5度で傾斜させた断面台形のシールリング(比較例2)についても同様に、フリクション及び油漏れ量を測定した。
これは、実施例2では、凹部の端部が柱部に向かって凸状の曲面で構成され、柱部と凹部が緩やかな傾斜角度で連結されているため、内壁を設けることにより、油がより効果的に凹部の先端に絞り込まれ、揚力が増加し、柱部に油膜が形成されやすくなり、シール面が潤滑化され、摩擦係数が低減したためと考えられる。 実施例3では、比較例1に比べ、40%近くフリクションが低減し、実施例1及び2より、さらに優れたフリクション低減効果が得られた。図9に、実施例3のシールリングについて、1000rpm〜4000rpmの間で回転数を変えてフリクションを測定した結果を示す。比較として、比較例1のシールリングについても同様にフリクションを測定した結果を図9に示す。ここで、縦軸は比較例1のシールリングの1000rpmにおけるフリクションを100として相対値で表した。図9より、従来の比較例1のシールリングでは、回転数の増加とともにフリクションが増加するのに対して、本発明の実施例3のシールリングでは、回転数が増加するとフリクションが低減する傾向があることが確認された。これは、実施例3のシールリングでは、油の絞り効果に優れ、油膜が形成されやすい回転方向反対側にのみ楔形状効果を有する緩やかな斜面を形成し、且つ内壁を設けたため、回転方向側での潤滑阻害の影響を受けることなく、揚力が効果的に作用し、柱部で形成される油膜が厚くなったことにより、流体潤滑に移行したことに起因すると考えられる。流体潤滑状態では、回転数の増加とともに揚力及び油膜厚さが増加するため、フリクションが低減すると推測される。
なお、実施例1〜3のシールリングのフリクションは、断面台形である比較例2のシールリングのフリクション以下の値となった。このことから、本発明により、従来の低フリクション仕様のシールリング以上のフリクション低減が可能であることがわかった。
比較例1のシールリングのキャンセル面積を100とすると、実施例1〜3のシールリングのキャンセル面積は、それぞれ、83.5、78.2、及び80.4であり、比較例1に比べ、20%程度小さい値であった。キャンセル面積とは、油溜り部となる凹部の平面画像による二次面積、すなわち投影面積のことであり、凹部のみ着色し、画像処理することにより算出される。通常、キャンセル面積が大きいほど、すなわち、油圧の作用する面積が大きいほど、反圧として押し返す力が大きくなるため、受圧荷重が低減され、フリクションは低減する。しかし、本発明の内壁を採用することにより、より小さいキャンセル面積でフリクションを低減できることが確認された。これは、本発明のシールリングでは、フリクション低減効果は、押し付け荷重の低減より、摺動面の潤滑化による摩擦係数の低減に大きく依存しているためと考えられる。このように、より小さいキャンセル面積でフリクションを低減できる本発明のシールリングでは、キャンセル面積に大きく依存した従来のシールリングより、限界特性を向上させたり、摩耗量を低減させたりすることが可能となる。
実施例1〜3のシールリングの油漏れ量は、断面台形である比較例2の油漏れ量の1/3程度と大幅に低減し、本発明のシールリングは、優れたリーク特性も有することが確認された。
図10に示すように回転方向反対側にのみ周方向長さがそれぞれ、10mm(B)、6.6mm(C)、3.3mm(D)の内壁を設けた以外、実施例2と同様の構成のシールリングを作製した(実施例4、5及び6)。なお、ここで凹部の周方向長さは、23mmであるので、実施例4、5及び6の内壁の周方向長さは、それぞれ、凹部の周方向長さの43%、29%及び14%に相当する。それぞれのシールリングについて、実施例1と同様に、フリクションを測定した。また、比較として、実施例2と同様の凹部形状で内壁を設けない構成のシールリングについても同様にフリクションを測定した(比較例3)。
図11に内壁の長さとフリクションの関係を示す。ここで、内壁の長さは、凹部の周方向長さを100として、それぞれの内壁の長さを相対値で表し、フリクションは、内壁のない比較例3のフリクションを100として、それぞれのフリクションを相対値で表した。また、凹部の両側に内壁を設けた実施例2の値も同様に図11に示す。内壁のない比較例3に比べ、両側に内壁を設けた実施例2及び片側(回転方向反対側)にのみ内壁を設けた実施例4〜6のいずれにおいてもフリクション低減効果が認められた。ここで、凹部の両側に内壁を設けた実施例2に比べ、回転方向反対側にのみ内壁を設けた実施例4〜6では、さらにフリクションが低減することが確認された。
これは、楔形状により作用する揚力が大きい回転方向反対側にのみ内壁を設け、楔形状により作用する揚力が小さく、斜面の油膜が形成されにくく、潤滑状態を阻害する傾向にある回転方向側に内壁を設けないことにより、シール面が潤滑化されたためと考えられる。内壁を回転方向反対側にのみ設けた場合、凹部の周方向長さを100として、内壁の周方向長さを、5〜95、好ましくは、50〜95とすることにより、より優れたフリクション低減効果が得られることがわかった。前述のとおり、通常は、キャンセル面積を増加させることにより、キャンセル荷重の増加により、受圧荷重が低減されフリクションは低減する。しかし、本発明のシールリングでは、内壁を長くする、すなわち、キャンセル面積を小さくすることにより、より優れたフリクション低減効果が認められた。これは、内壁を設置したことにより、内周面への油の流出が抑えられ、油が絞り部の傾斜面に効率的に導かれることに起因すると考えられる。そのため、シールリングが回転すると、より大きな揚力が作用し、柱部に油膜が形成されやすくなる。この柱部の油膜形成により、シールリングの内周側が浮き上がり、凹部の外周側に位置する環状のシール面への油の介在も促進され、摺動面が流体潤滑に移行するため、摩擦係数が減少し、大きなフリクション低減効果が得られたと考えられる。
2 軸
3 油圧通路
4 軸溝
5 ハウジング
6 凹部(ポケット)
7 柱部
8 内壁
10 油導入孔
11 受圧側面
12 内周面
14 接触側面
20 絞り部
21 最深部
22 斜面部
51 最深傾斜部
52 収束部
60 揚力
61 キャンセル圧
Claims (7)
- 軸の外周面に形成された軸溝に装着されるシールリングであって、少なくとも前記シールリングの接触側面の内周側に、周方向に離間して複数の凹部が形成され、前記凹部の内周側には、内壁、及び内周面に向かって開口する油導入孔が備えられていることを特徴とするシールリング。
- 前記内壁が前記凹部の周方向両側に備えられていることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
- 前記内壁片側の周方向長さが、前記凹部の周方向長さを100として、20〜45であることを特徴とする請求項2に記載のシールリング。
- 前記内壁が前記凹部の周方向の一方に備えられていることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
- 前記内壁の周方向長さが、前記凹部の周方向長さを100として、5〜95であることを特徴とする請求項4に記載のシールリング。
- 前記内壁の径方向幅が、前記凹部の周方向先端に向かって大きくなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシールリング。
- 前記内壁が備えられた前記凹部の周方向の一方の端部は、柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシールリング。
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