JPWO2011158829A1 - 表面増強ラマン散乱用金属粒子及び分子センシング - Google Patents
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Abstract
Description
詳細には、可視光領域において表面プラズモン吸収を有する金属ナノ粒子同士をDNAなどの有機分子により所定距離を設けて連結した金属ナノ粒子集合体よりなる分子センシング用金属ナノ粒子材料である。
SERSとは、具体的には、金属粒子同士が近接することにより、該粒子表面上で共鳴効果により、局在表面プラズモンを誘起し、さらに局在表面プラズモンが増強電場を誘起し、該増強電場中に金属粒子に吸着して存在してなるラマン活性分子(ローダミン6Gなどの色素有機分子)からのラマン散乱が増強された現象をいう。
このSERSが注目される1つの理由には、単一分子や単一粒子からでも振動スペクトルを得ることができることにある。これにより生体分子認識など微量化学物質の検出が可能となるため、種々の研究が現在盛んに検討されている。(非特許文献1、2,3)
ラマン散乱は測定分子とレーザー光から放出される光子(フォトン)の衝突に起因している。たとえば、1秒間に波長488nmアルゴンレーザーから放出されるフォトン数は1W出力でおよそ2.5×1018個と見積もることができる。このうち分子と衝突できるフォトンは1013〜1015個程度で、大多数のフォトンは素通りする。このわずかに衝突するフォトンの衝突モードには、弾性衝突と非弾性衝突の2種類がある。前者は衝突の間に分子とフォトン間でのエネルギーの授受がないもので、この衝突モードで起こる散乱を「レイリー散乱」と呼んでいる。レイリー散乱ではフォトンと分子間のエネルギー授受が無いため散乱光の振動数はあくまでも入射光の波長に等しいことになる。上記のわずかに起こる分子とフォトンの衝突の大部分がこの弾性散乱であり、このため散乱光の大部分がレイリー散乱である。
一方、非弾性散乱は弾性散乱とは逆にフォトンは分子と衝突し、そのエネルギーを分子へと移動する。このため散乱光の振動数は、レイリー散乱とは対照的に入射光の振動数とは異なってくる。このような散乱をラマン散乱と呼んでいる。特にラマン散乱光が入射光の振動数よりも大きい場合(フォトンが分子からエネルギーを得る場合)をアンチストークスラマン散乱、逆にフォトンが分子にエネルギーを与える場合をストークスラマン散乱と呼ぶ。このような非弾性衝突を起こすフォトンは衝突フォトン全体のおよそ1/107程度である。このように入射フォトン数に対して非弾性衝突を起こしラマン散乱を引き起こすフォトン数は非常に少ない。このため検出感度が低く、今まで分析手段として用いられることが少なかった。
しかし、1970年代に入るとW.Holzerら(非特許文献4)による気体ハロゲン分子の共鳴ラマン散乱スペクトルの測定など多数の共鳴ラマンに関する研究が報告され始めた。この共鳴ラマン散乱による散乱強度の増大(通常共鳴ラマン効果による強度増強は103〜105倍程度)に伴いラマン散乱は脚光を浴びるようになった。共鳴ラマンとは、ある分子の吸収帯に重なる波長の励起光を用いてラマン散乱を測定したときに、吸収帯の原因となる発色団部分の振動に由来するラマンバンドの強度が著しく増大する効果で、数μM程度の濃度の色素のラマンスペクトル測定を可能にした。
その後1977年に更にP.P.Van Duyneら(非特許文献5)とJ.A.Creightonら(非特許文献6)のグループが独立に表面増強ラマン散乱を見出した。実際は、それより3年前にFleischmannらのグループがこの現象を観測していたが、彼らは散乱断面積が共鳴ラマン効果同様に増大していることに気がつかなかったようである。
1)金属表面の粗さがSERS発現に何らかの関与をしている。
2)SERSスペクトルは一般に明確な波長依存性を示す。
3)SERS強度は金属表面に吸着した分子の配向に依存する。また、金属表面からの距離に依存する。
SERS発現のメカニズムは現在2つの考え方が提案されている。1つは表面プラズモンモデルである。このモデルは反射スペクトルを励起光が金属表面に当たることによって生じる表面プラズモンの吸収であるとみなし、吸着分子の分子振動とこの表面プラズモン励起とのカップリングによって発現するものと考えるものである。もう1つのモデルは、電荷移動モデルと呼ばれるもので、反射スペクトルを金属表面と分子が形成する錯体の吸収と考え、この吸収に起因する共鳴ラマン効果によりSERSが発現するという考え方である。いずれにせよ、現在そのメカニズムはまだ解明されていないにしても、先に説明した共鳴ラマン条件とSERSの条件が重なった表面増強ラマン散乱では散乱強度が1011〜1014倍程度にも増大することが明らかとなり、単一分子分光の可能性が大きく広がったのである。この感度の高さゆえ微量定性分析には既に応用され始めている。
SERS粒子の合成法としてはナノフレーク状金属複合体材料合成法(特許文献1参照)や、ナノ多孔質体表面にローダミン6Gなど色素(ラマン活性分子)を吸着させる方法(特許文献2参照)、また金ナノ粒子を応用した例では基板上に金ナノロッドを固定し、その表面分子の増強ラマン散乱を分析に用いるもの(特許文献3参照)などが知られている。
また、複数の会合した粒子の表面、および複数の金属粒子が最初に接触した複数の接合部に吸着した、複数のラマン活性有機化合物を含む金属クラスターを形成する、いくつかの融合または会合した複数の金属粒子を含む複数の合成有機無機ナノクラスター(特許文献4参照)が開示されている。
更に従来提案されている色素などの低分子系ラマン活性分子を用いた場合、該ラマン活性分子のナノ粒子への吸着プロセス(静電的吸着過程)において、ナノ粒子の表面電荷が変化し、粒子間の表面電荷反発が弱まるために起こるとされるナノ粒子の凝集が起きる点が問題となる。ナノ粒子の凝集は、ラマン活性分子の脱離を引き起こすだけでなく、分子認識前にラマン活性分子の吸着したナノ粒子の凝集が起こると、分子認識前にも関わらずSERS信号が出てしまうため誤認識につながる。特に生体環境下でこれら粒子を用いる場合、高塩濃度下での分散安定性確保は必須であり、凝集問題に対する対策が必要とされている。
また本発明者らは、金属ナノ粒子同士を連結する有機分子として特にDNAを用いることにより、金属ナノ粒子間の距離を所望の距離に為すことが容易にできるだけでなく、金属ナノ粒子の集合体を容易に製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
第2観点として、前記金属ナノ粒子が、表面プラズモン共鳴を生ずる共鳴波長を紫外光領域乃至赤外光領域に有する金属元素よりなる、第1観点に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第3観点として、前記金属ナノ粒子が、1nm乃至100nmの平均粒子径を有する粒子である、第1観点又は第2観点記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第4観点として、前記金属ナノ粒子集合体において、連結された金属ナノ粒子がその両隣の金属ナノ粒子との間で一直線上に結合されていない、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第5観点として、前記有機分子が、末端にチオール基又はアミノ基を有し、且つ、核酸、ポリエチレングリコール又は炭化水素を含む、第1観点乃至第4観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第6観点として、前記有機分子が、3乃至40の塩基数を有し、且つ、チオール基又はアミノ基を末端に有する核酸である、第5観点に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第7観点として、前記核酸がDNAである、第6観点に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第8観点として、前記ラマン活性分子は前記有機分子に結合してなる、第1観点乃至第7観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第9観点として、前記金属ナノ粒子が、少なくとも1個以上の分子認識プローブ分子をその金属ナノ粒子表面に結合してなる、第1観点乃至第8観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第10観点として、前記分子認識プローブ分子が、末端にチオール基又はアミノ基を有し、且つ、核酸、ポリエチレングリコール又は炭化水素を介して分子認識プローブが結合された分子である、第1観点乃至第9観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料に関する。
第11観点として、a)基体となる一本鎖核酸鎖(1)に、その核酸鎖(1)中の部分塩基構造に相補性を有し且つ片末端にチオール基を有する一本鎖核酸鎖(2)を少なくとも2つ会合させて2重らせんを形成させた変性核酸鎖を得る工程、
b)前記変性核酸鎖のチオール基と金属ナノ粒子とを反応させ、該金属ナノ粒子の表面に変性核酸鎖を結合させた後、60〜100℃に加熱して変性核酸鎖の2重らせん構造を解離させることにより一本鎖核酸鎖(1)を取り除き、チオール基を介して一本鎖核酸鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)を得る工程、
c)前記核酸鎖(2)と相補性を有し、片末端にチオール基を有する塩基鎖長が等しい一本鎖核酸鎖(3)と、金属ナノ粒子とを反応させ、チオール基を介して一本鎖核酸鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を得る工程、
d)一本鎖核酸鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)と一本鎖核酸鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を混合することにより、一本鎖核酸鎖(2)と一本鎖核酸鎖(3)を会合させて2重らせんを形成させて金属ナノ粒子集合体を製造する工程、
さらに、
前記a)工程で用いる一本鎖核酸鎖(2)若しくは前記c)工程で用いる一本鎖核酸鎖(3)、又は、これら両者にラマン活性分子を結合する工程を含む、
第1観点乃至第10観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法に関する。
第12観点として、a)基体となる一本鎖DNA鎖(1)に、そのDNA鎖(1)中の部分塩基構造に相補性を有し且つ片末端にチオール基を有する一本鎖DNA鎖(2)を少なくとも2つ会合させて2重らせんを形成させた変性DNA鎖を得る工程、
b)前記変性DNA鎖のチオール基と金属ナノ粒子とを反応させ、該金属ナノ粒子の表面に変性DNA鎖を結合させた後、60〜100℃に加熱して変性DNA鎖の2重らせん構造を解離させることにより一本鎖DNA鎖(1)を取り除き、チオール基を介して一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)を得る工程、
c)前記DNA鎖(2)と相補性を有し、片末端にチオール基を有する塩基鎖長が等しい一本鎖DNA鎖(3)と、金属ナノ粒子とを反応させ、チオール基を介して一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を得る工程、
d)一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)と一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を混合することにより、一本鎖DNA鎖(2)と一本鎖DNA鎖(3)を会合させて2重らせんを形成させて金属ナノ粒子集合体を製造する工程、
さらに
前記a)工程で用いる一本鎖DNA鎖(2)若しくは前記c)工程で用いる一本鎖DNA鎖(3)、又は、これら両者にラマン活性分子を結合する工程を含む、
第1観点乃至第10観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法に関する。
第13観点として、前記d)工程において、該一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)の1当量に対して、該一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を2当量用いて金属ナノ粒子集合体を製造する、第12観点に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法に関する。
第14観点として、前記一本鎖DNA鎖(2)は、互いに相補性を有する部位を持たないものである、第12観点又は第13観点に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法に関する。
第15観点として、さらに、a)乃至d)のうちいずれかの工程において、
e)核酸、ポリエチレングリコール又は炭化水素を含む分子鎖の一方の末端に分子認識プローブを有し、他方の末端にチオール基又はアミノ基を有する分子認識プローブ分子と、金属ナノ粒子とを反応させて、金属ナノ粒子表面に、チオール基又はアミノ基を介して末端に分子認識プローブ分子を結合させる工程
を含む、
第12観点乃至第14観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法に関する。
第16観点として、第1観点乃至第10観点のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料を、検体と接触させた後、検体のラマン散乱測定を行うことを特徴とする、分子センシング方法に関する。
第17観点として、前記分子センシング用金属ナノ粒子材料が基板上に固定されてなる、第16観点に記載の分子センシング方法に関する。
また、本発明の分子センシング用金属ナノ粒子材料は、該金属ナノ粒子集合体の金属ナノ粒子の表面にビオチンなどの分子認識プローブを連結させることにより、目的検体を認識することができる。
そして、本発明の分子センシング用金属ナノ粒子材料を用いることにより、通常のラマン散乱強度の10の11乗倍にも達する表面増強ラマン散乱の強度を安定に保つことが可能となるため、極めて濃度の薄い検体に対しても有効な検出が可能となる。
また、金属ナノ粒子間の距離は、DNAの塩基数を調整することにより自由にコントロールできるため、最も強い増強電場を発生させる距離に金属ナノ粒子同士を連結させた金属ナノ粒子集合体を製造できる。
更に該金属ナノ粒子集合体中の金属ナノ粒子表面に、目的検体に対して強い相互作用を有する分子(分子認識プローブ分子)を連結させることにより、目的検体の認識が可能なSERS活性分子認識粒子が合成できる。
上記金属ナノ粒子は、1nm乃至500nmの、好ましくは1nm乃至100nmの、より好ましくは5nm乃至100nmの、特に好ましくは5nm乃至20nmの平均粒子径を有することが望ましい。
中でも核酸(特にDNA)は、塩基数を調整することで所望の分子鎖長を有する有機分子とすることができ、すなわち、金属ナノ粒子間の距離を所望の長さに調整することが容易であるために特に好ましい。この場合、核酸の塩基数の数値範囲は3塩基乃至40塩基であることが好ましく、より好ましくは3乃至20塩基であり、例えば12塩基長のDNAを用いることが好ましい。
そして、金属ナノ粒子集合体において、連結された金属ナノ粒子はその両隣の金属ナノ粒子との間で一直線に結合されていないこと、すなわち、3個の金属ナノ粒子間の2つの有機分子は、180°以下、例えば10乃至160°の角度を有して真ん中の金属ナノ粒子の結合されていることが好ましい。
分子認識プローブ分子は、例えば上述の有機分子として用いた核酸(DNA)とは別の塩基配列を有する核酸(DNA)、ポリエチレングリコール、或いは炭化水素を含む分子鎖の一方の末端に分子認識プローブ(ビオチン等;検出部位ともいう)を導入し、他方の末端に金属ナノ粒子表面への結合能を有するチオール基、アミノ基などを導入した分子である。そして該チオール基等を介して、分子認識プローブ分子を金属ナノ粒子(表面)に結合させる。
a)基体となる一本鎖核酸鎖(1)に、その核酸鎖(1)中の部分塩基構造に相補性を有し且つ片末端にチオール基を有する一本鎖核酸鎖(2)を少なくとも2つ会合させて2重らせんを形成させた変性核酸鎖を得る工程、
b)前記変性核酸鎖のチオール基と金属ナノ粒子とを反応させ、該金属ナノ粒子の表面に変性核酸鎖を結合させた後、60〜100℃に加熱して変性核酸鎖の2重らせん構造を解離させることにより一本鎖核酸鎖(1)を取り除き、チオール基を介して一本鎖核酸鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)を得る工程、
c)前記核酸鎖(2)と相補性を有し、片末端にチオール基を有する塩基鎖長が等しい一本鎖核酸鎖(3)と、金属ナノ粒子とを反応させ、チオール基を介して一本鎖核酸鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を得る工程、
d)一本鎖核酸鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)と一本鎖核酸鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を混合することにより、一本鎖核酸鎖(2)と一本鎖核酸鎖(3)を会合させて2重らせんを形成させて金属ナノ粒子集合体を製造する工程。
a)基体となる一本鎖DNA鎖(1)に、そのDNA鎖(1)中の部分塩基構造に相補性を有し且つ片末端にチオール基を有する一本鎖DNA鎖(2)を少なくとも2つ会合させて2重らせんを形成させた変性DNA鎖を得る工程、
b)前記変性DNA鎖のチオール基と金属ナノ粒子とを反応させ、該金属ナノ粒子の表面に変性DNA鎖を結合させた後、60〜100℃に加熱して変性DNA鎖の2重らせん構造を解離させることにより一本鎖DNA鎖(1)を取り除き、チオール基を介して一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)を得る工程、
c)前記DNA鎖(2)と相補性を有し、片末端にチオール基を有する塩基鎖長が等しい一本鎖DNA鎖(3)と、金属ナノ粒子とを反応させ、チオール基を介して一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を得る工程、
d)一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)と一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を混合することにより、一本鎖DNA鎖(2)と一本鎖DNA鎖(3)を会合させて2重らせんを形成させて金属ナノ粒子集合体を製造する工程。
また、一本鎖DNA鎖(2)と一本鎖DNA鎖(3)の分子鎖長(すなわち塩基鎖長)は異なっていてもよいが、等しい長さであることが好ましい。
なお上記工程で用いる金属ナノ粒子(1)と金属ナノ粒子(2)に用いる金属は同一の金属種であっても異なる金属種であってもよいが、好ましくは同一の金属種を用いることが望ましい。
ここで、金属ナノ粒子を挟んで互いに反対側の位置に2つのDNA鎖(2)が結合すると、3つの金属ナノ粒子、すなわち、金属ナノ粒子(1)と、その後のd)工程で該DNA鎖(2)にDNA鎖(3)が会合して結合した2つの金属ナノ粒子(2)の3つの粒子が直線状に並ぶこととなる。すなわち、これら3つの金属ナノ粒子間に形成される2つの増強電場がなす角度が180°となり、前述した通り好ましくない。
このため、DNA鎖の鎖長や、金属ナノ粒子の大きさ(平均粒径)を調整し、3つの金属ナノ粒子の配列(角度)を好ましい角度に調整することが重要である。
例えば、2当量の一本鎖DNA鎖(2)を有する1つの金属ナノ粒子(1)と、1当量の一本鎖DNA鎖(3)を有する2つの金属ナノ粒子(2)を混合することによって得られる3つの金属ナノ粒子から構成される金属ナノ粒子集合体が好ましい。
図1中番号1、2、3に示す3種のDNA(以下、それぞれDNA1、DNA2、DNA3と称する)を準備する。DNA1とDNA2はそれぞれ相補鎖の関係にあるDNAであり、DNA3は中央部で2重鎖を組むがその両端はDNA1及びDNA2と相補鎖の関係にある塩基鎖である。またDNA1及びDNA2はその末端にチオール基を有する。
これらDNA1、DNA2、及びDNA3を混合し、図1中番号4に示すような変性DNAを合成する。合成された変性DNA4は金ナノ粒子5 コロイド溶液と混合し、金ナノ粒子表面にチオール基を介して結合させ図1中番号6に示すDNAが結合した金ナノ粒子となる。次に、溶液を加温(塩基数によって適宜温度を設定する)して2重鎖を解離させ、図1中番号7に示すDNA1とDNA2が結合した金ナノ粒子を合成する。
これに対して、予め金ナノ粒子表面にチオール基を介して、ラマン活性分子を含むDNA1及びDNA2を結合させた金ナノ粒子8及び9を、図1中番号7に示す金ナノ粒子に加えることにより、DNA同士で2重鎖を組ませ、図1中番号10に示す金粒子接合が完成する。この場合、金粒子同士は完全に制御された位置に固定することが可能である。
このとき、前記分子センシング用金属ナノ粒子材料は、基板上に固定されていてもよい。
以降の塩基配列における略号は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、チオール基(HS又はSH)である。
先ず、相補鎖の関係にあるシングルストランドDNA(a)及び(b)をそれぞれ準備した。
(a)5’−HS−C6−GCCACCAGCTCC−C6−TAMRA−3’
塩基配列がGCCACCAGCTCCの12塩基において、金表面に固定する部位としてチオール基を炭素原子数6のアルキル鎖を(C6)介して5’末端に結合させ、また、ラマン活性分子(ラマンプローブ)として色素であるローダミン(TAMRA)を炭素原子数6のアルキル鎖(C6)を介して3’末端に結合させた。
(b)5’−HS−C6−GGAGCTGGTGGC−3’
塩基配列がGGAGCTGGTGGCの12塩基において、金表面に固定する部位としてチオール基を炭素原子数6のアルキル鎖を(C6)介して5’末端に結合させた。
すなわち、100pmol/μLの5’−チオール化DNAのDTT(ジチオトレイトール)溶液から50μLを1.5mLのマイクロチューブに取り、2.5M NaClを20μL、−20℃に冷やしたエタノールを950μL添加し、−80℃で20分放置した。その後12,000回転、4℃で10分間遠心し、上澄みを捨て、50μLのTE溶液(トリス−EDTA Buffer:10mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン、1mM EDTA、pH〜8)で再溶解させ、精製チオール化DNAとした。
すなわち、金ナノ粒子溶液1mLに上述の方法にてS−S結合を還元した精製チオール化DNA 5nmolを添加した。このときチオール化DNAの最終濃度は5μLであった。
添加後、容器をボルテックス・ミキサーを用いて5分間撹拌し、その後、50℃恒温槽に4時間乃至24時間放置し、金ナノ粒子表面へのDNAの固定化を促進させた。このとき金ナノ粒子表面ではチオール基の結合だけでなく、DNA塩基の吸着も起こるため、緻密な吸着状態にはなっていない。そこで、金ナノ粒子とチオール化DNA溶液に、2.5M NaClを40μL、500mMリン酸緩衝液を20μL添加して、NaCl及びリン酸緩衝液(pH7)を最終濃度0.1M及び10mMになるようにし、更に50℃で40時間放置した。
上記手法により相補鎖同士のDNAをそれぞれ固定した2種の金ナノ粒子溶液を、0.5mLずつマクロチューブに測り取り、14,000rpmで25分間遠心にかけ、その後、上澄み液を取り除き、10mMリン酸緩衝液(0.1M NaCl含有、pH7)で再分散させた。このとき、擬似的に凝集することがあるが、その場合は50℃でしばらく暖め、再分散させた。この操作をもう一度繰り返し、上澄みを取り除いた後、0.01% tween−20 1μL、0.1M NaCl(10mMリン酸緩衝液、pH7)0.25mLに再分散させた。
すなわち、先ずPCRチューブに1% tween−20 1μL、DNA修飾金ナノ粒子5μL(相補関係にある修飾粒子をそれぞれ5μL)、5M NaCl 4μLを加え室温で10分間放置し、なお金ナノ粒子集合体の形成(凝集体のようにみえる)が見られない場合は氷冷して20分以上放置した後、卓上遠心器で軽く遠心し、得られた集合体を沈殿させた。
得られた金属ナノ粒子集合体について、透過型電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡により解析した。
まず、前記シングルストランドDNA(a)[5’−HS−C6−GCCACCAGCTCC−C6−TAMRA−3’]が結合した金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像を図2に、シングルストランドDNA(b)[5’−HS−C6−GGAGCTGGTGGC−3’]が結合した金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像を図3に、そしてこれら金ナノ粒子を混合し、得られた金ナノ粒子集合体の透過型電子顕微鏡像を図4に、それぞれ示す。
また、前記シングルストランドDNA(b)[5’−HS−C6−GGAGCTGGTGGC−3’]が結合した金ナノ粒子の原子間力顕微鏡像を図5に、前記シングルストランドDNA(b)が結合した金ナノ粒子とシングルストランドDNA(a)[5’−HS−C6−GCCACCAGCTCC−C6−TAMRA−3’]が結合した金ナノ粒子を混合
し、得られた金ナノ粒子集合体の原子間力顕微鏡像を図6に、それぞれ示す。
図4及び図6に示すように、単分散状態の2種の金ナノ粒子を混ぜ合わせることにより、集合体が形成できたことが、透過型電子顕微鏡像並びに原子間力顕微鏡像によって確認できた。
次に、隣接する金ナノ粒子の界面において形成される増強電場の計測と形状測定を近接場マイクロ顕微鏡を用いて同時に行った。
前記シングルストランドDNA(b)[5’−HS−C6−GGAGCTGGTGGC−3’]が結合した金ナノ粒子の近接場顕微鏡による像(位置情報、図7中 符号11)とその表面近傍に形成される電場(図7中 符号12)を図7に、前記シングルストランドDNA(b)が結合した金ナノ粒子とシングルストランドDNA(a)[5’−HS−C6−GCCACCAGCTCC−C6−TAMRA−3’]が結合した金ナノ粒子を混合し、得られた金ナノ粒子集合体の近接場顕微鏡による像(位置情報、図8中 符号13)とその表面近傍に形成される電場(図8中 符号14)を図8に、それぞれ示す。
図7及び図8に示すように、金ナノ粒子集合体が形成されている粒子からは非常に強い増強電場が得られていることが確認され、この増強電場中に含まれるラマン活性分子からは非常に強いラマン散乱が得られることが期待できる結果となった。
続いて、得られた金ナノ粒子集合体(溶液)を石英製のキャピラリー管に封入し、このキャピラリー管内の溶液のラマンスペクトルを測定した。なお、本試験で用いた12塩基DNAは90℃以上の温度でDNAの会合が解離し、シングルストランドDNAに戻ることから、90℃の温度下でのラマンスペクトルの測定も併せて行った。生体温度に相当する温度(およそ34〜38℃)で測定したラマンスペクトル結果(金ナノ粒子集合体)を図9の符号15に、90℃の温度下でのラマンスペクトル結果(シングルストランドDNAが結合した金ナノ粒子)を図9の符号16に示す。
図9より明らかなように、集合体が形成された金ナノ粒子からは、強いラマン散乱が観察された。これは図10に示すような金ナノ粒子同士の集合(結合)・解離状態が温度変化によって可逆的に変化するために起こったものといえる。
このようにして得られた金ナノ粒子集合体の金属ナノ粒子表面を、更に特定分子認識可能な分子認識プローブで修飾した。その方法は特に限定するものではないが、先に示したDNAを金ナノ粒子表面に固定するときに予め混合しておくことが一般的である。
すなわち、先ずPCRチューブに1%tween−20 1μL、DNA修飾金ナノ粒子5μL、前記DNA修飾金ナノ粒子の修飾に用いたDNAと相補鎖の関係にある1μM DNA 10μL中に10質量%の割合で片末端にアルキルアミンをもう片末端にビオチンを有するヘテロ2官能PEG(分子量5,000)混合した溶液、5M NaCl 4μLを加え室温で10分間放置し(金ナノ粒子集合体の形成(凝集体のようにみえる)が見られない場合は氷冷して20分以上放置した後)、卓上遠心器で軽く遠心し集合体を沈殿させた。
<DNAの調製>
2種の一本鎖DNAを準備した。
先ず、塩基配列がTTTCTATTCCTA CCAATGTAGCGACTACCTCAGの33塩基の5’末端に対して金表面に固定する部位としてチオール基を炭素数6のアルキル鎖を介して結合させたDNAを合成した。
一方これとは別に塩基配列がTTTCGATCTAATACAGTTAGTTAGTATACG TGCの33塩基の5’末端に対して金表面に固定する部位としてチオール基を炭素数6のアルキル鎖を介して結合させたDNAを合成した。
すなわち、先に示されたDNAと結合させる相補的DNAとして、5’末端からCTGAGGTAG TCGCTACATTGGTAGGAATAGGATTGCATGGGATACTATACACTGCACAGGCTTACの65塩基のDNAを合成した。
また後に示されたDNAと結合させる相補的DNAとして、5’末端からGCACGTATACTAACTAAC TGTATTAGATCGGTAAGCCTGTGCAGTGTATAGTATCCCATGCAATCの65塩基のDNAを合成した。
1:5’−HS−C6−TTTCTATTCCTACCAATGTAGCGACTACCTCAG−C6−TAMRA−3’
2:5’−HS−C6−TTTCGATCTAATACAGTTAGTTAGTATACGTGC−3’
3:5’−CTGAGGTAGTCGCTACATTGGTAGGAATAGGATTGCATGGGA TACTATACACTGCACAGGCTTAC−3’
4:5’−GCACGTATACTAACTAACTGTATTAGATCGGTAAGCCTGTG CAGTGTATAGTATCCCATGCAATC−3’
これら4種のDNAをそれぞれ相補鎖の関係で二重鎖構造として結合させた。その手法は特に限定するのもではないが、今回は次の方法を用いて行った。
すなわち、前記1から4のDNAをそれぞれ別々に濃度10μMになるように純水に溶解し、溶解後、DNA1:DNA3=9:10、及びDNA2:DNA4=9:10の体積割合でそれぞれマイクロチューブに入れ混合した。これに300mMのNaClを含有する30mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン−塩酸(pH8)バッファーを添加して、最終濃度100mM NaClになるように調整を行った。試料チューブを90℃10分間加熱放置した後、30℃まで冷却速度−1℃/minで冷却し、会合したこれらDNAを電気泳動法により分離精製した。
金ナノ粒子分散液(ブリティッシュ バイオセル インターナショナル製:粒子径:15nm)120μLに、予め調整した無水ビス(p−スルホナトフェニル)フェニルフォスフィン2カリウム塩溶液(10mg/mL水溶液、BSPPと称する)12μLをマイクロチューブ内で混合し、BSPPにより表面をコートされた金ナノ粒子を形成した。この混合溶液を4℃、1時間21,600Gで遠心分離し、上澄みを捨て、最終的に10μLとした。
この濃縮した金ナノ粒子分散液を2μLのトリス−ボレート−EDTA(TBEと称する)バッファー(0.5×TBE、1.4M NaCl含有)と混合した。
この溶液4μLに対して2μLのチオール末端DNA(2μM)(先に示したDNA1若しくはDNA2)を加え混合した。混合後、0.5×TBE(100mMNaCl含有)で最終体積を8μLに調整し、この混合溶液を室温で(22℃)で24時間放置した。放置後、BSPP(0.25mg/mL溶液)250μLを混合し、4℃、1時間、21,600Gで遠心沈降させ、上澄み液を捨て、未反応DNAを除去した。
上記(1)と同様の方法を用いてBSPPコート15nm金ナノ粒子を調製した。前出の<二重鎖DNAの製造>で合成した二重鎖構造の精製DNAを、モル比(金ナノ粒子溶液):(DNA溶液)=5:1にて、0.5×TBEバッファー(BSPP:1mg/mL、NaCl 166mM)中で混合した。混合後室温で24時間放置し、金粒子表面にDNAを固定した。その後、BSPP溶液(0.25mg/mL溶液)の希釈溶液中で40℃に保つことにより、2重鎖を解裂させ、遠心精製(4℃、1時間、21,600G)により精製した。
金ナノ粒子へのDNAの吸着(1)及び(2)で調製したDNA吸着金ナノ粒子分散液(a:DNA1吸着金ナノ粒子、b:DNA2吸着金ナノ粒子、c:DNA1及びDNA2吸着金ナノ粒子)をa:b:c=1:1:10の体積比で混合し、室温24時間放置した。放置後遠心精製(−4℃、10分、10,000G)し、未固定金ナノ粒子を除去した。得られた金ナノ粒子集合体の透過型電子顕微鏡像を図12に示す。
これによると、金ナノ粒子が3個結合していることが確認された。すなわち、c粒子を過剰に加え、a粒子−c粒子−b粒子が非直線状に3個結合した集合体が得られた。このとき得られた金ナノ粒子の粒子界面に形成された電場は先の例4の試験で得られた結果と同等の強度でを有していた。
上述の得られた金ナノ粒子集合体溶液に対して10質量%の割合にて、片末端にアルキルアミンをもう片末端にビオチンを有するヘテロ2官能PEG(分子量5,000、100mM)を分子認識プローブ分子として混合し、室温で2時間放置した。その後、遠心精製により未吸着のセンシングプローブを除去した。
こうして得られた分子認識プローブ含有金ナノ粒子集合体をストレプトアビジン・プレートに添加し、室温で数分間放置した後に、滅菌水で数回洗浄し、未固定の分子認識プローブ含有金ナノ粒子を洗浄し、洗浄水から金のプラズモン吸収が消えるまで充分に洗浄を行った。このようにして処理したストレプトアビジン・プレートをレーザーラマン顕微鏡で観察したところ、図13に示すようなラマン散乱スペクトルが得られ、分子認識プローブ含有金ナノ粒子による分子認識が出来たことが確認された。
以下に示す3種のDNA(DNA5,6,7,8,9,10)を準備した。
DNA5;5’−HS−TTTCTATTCCTACCAATGTAGCGACTACCTCAGTTTTTT−3’
DNA6;5’−HS−TTTCGATCTAATACAGTTAGTTAGTATACGTGCTTTTTT−3’
DNA7;5’−CTGAGGTAGTCGCTACATTGGTAGGAATAGGATTGCATGGGATAC−3’
DNA8;5’−GCACGTATACTAACTAACTGTATTAGATCGGTATCCCATGCAATC−3’
DNA9;5’−HS−TCTGAGGTAGTCGCTACATTGGTAGG−C6−TAMRA−3’
DNA10;5’−HS−TGCACGTATACTAACTAACTGTATTA−C6−TAMRA-3’
この二重鎖DNA鎖の5nmolを金ナノ粒子溶液1mLに添加した。添加後、容器をボルテックス・ミキサーを用いて5分間撹拌し、その後、50℃恒温槽に4時間乃至24時間放置し、金ナノ粒子表面へのチオール基を介した二重鎖DNA鎖の固定化を促進させ、DNAが結合した金ナノ粒子(図1中、金ナノ粒子6に相当する)を形成した。次にこの金ナノ粒子含有溶液を90℃で5時間に加熱し、2重鎖を解離させた(図1中、金ナノ粒子7に相当する)。
一方予め前記記載の方法でそれぞれ独立に準備しておいたDNA9及び10が吸着した金ナノ粒子(図1中、金ナノ粒子8及び金ナノ粒子9に相当する)を上記金ナノ粒子含有溶液に添加し、金ナノ粒子集合体(図1中、金ナノ粒子集合体10に相当する)を得た。
得られた金ナノ粒子集合体の透過型電子顕微鏡像を図14に示す。図14に示すように、非直線状に粒子が3個結合した集合体が得られた。
まず、相補鎖の関係にあるシングルストランドDNA11及びDNA12を準備した(表1参照)。
続いて、これらDNA11及びDNA12において、金表面に固定する部位としてチオール基を炭素原子数6の直鎖アルキル基(C6)を介して5’末端に結合させた。
続いて、合成したチオール末端のDNA11(又はDNA12)に、DTT(ジチオトレイトール)をDNAに対して200倍量となるように加え、さらにTE溶液(トリス−EDTA Buffer:10mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン、1mM EDTA、pH〜8)で溶解させた。ピペッティング、ボルテックスで溶液を攪拌後、常温で2時間反応させた。この操作により、SH化DNAの一部がS−S結合した部分を切断した。
その後、DTT処理した上記DNA溶液に、3M酢酸ナトリウム水溶液をDTT処理したDNA溶液に対して1/10倍量となるように加えた。さらにあらかじめ4℃に冷やしておいた冷エタノールを、DNA溶液に対して2.5倍量となるように加えた。その後、−20℃フリーザーに6時間以上静置し、DNAを沈殿させた。沈殿したDNAを遠心分離(4℃、12,000rpm;7,740G、30分間)により回収した。これらエタノール沈殿−遠心分離による精製即ち、3M酢酸ナトリウム水溶液を加えるところから沈殿精製させるところまでのサイクルをさらに2回行った。
金ナノ粒子分散液(BBInternational(ビービーインターナショナル)製造:粒子径:10nm)1mLに、例7でS−S結合を還元(切断)、精製したチオール末端DNA(DNA11若しくはDNA12)を5nM添加し、ピペッティング、ボルテックスで1分間攪拌後、50℃で12時間静置し、金ナノ粒子表面へのDNAの固定化を促進させた。
12時間静置後、UV測定により金ナノ粒子の分散、凝集状態を確認した。図15にチオール末端DNA11を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトル測定結果を示す。
40時間静置後、UV測定により金ナノ粒子の分散、凝集状態を確認した。図16にチオール末端DNA11(図16中、符号17)及びチオール末端DNA12(図16中、符号18)を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトルを示す。
上記手法により相補鎖同士のDNA(DNA11、DNA12)をそれぞれ固定した2種の金ナノ粒子溶液を、13,000rpmで30分間遠心にかけ、金ナノ粒子を沈殿させ、上澄み液を取り除いた。ここに10mMリン酸緩衝液(0.1M NaCl含有、pH7)0.5mLを加えて沈殿物を再分散させた。再度13,000rpmで30分間遠心にかけ、上澄み液を取り除いた後、0.01% tween−20 1μL、10mMリン酸緩衝液(0.1M NaCl含有、pH7)0.25mLに再分散させた。
すなわち、先ず1.5mLマイクロチューブに、1% tween−20 1μL、sample[1]溶液 10μL、sample[2]溶液 10μL、5M NaCl 4μLを加え、75℃の高温槽中で1時間放置した後、室温で10分間静置させた。
10分間静置後、溶液の色が赤から紫へ変化したのを確認し、さらに20分間静置後、軽く遠心分離を行い、得られた集合体を沈殿させた。
得られた金ナノ粒子集合体の透過型電子顕微鏡(TEM)像を図19に示す。
<DNAの調製>
下記表2に示す3種のDNA(DNA13〜DNA15)のそれぞれについて、次の処理を行った。
チオール末端DNA(DNA13〜DNA15)にDTT(ジチオトレイトール)をDNAに対して200倍量となるように加え、さらにTE溶液(トリス−EDTA Buffer:10mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン、1mM EDTA、pH〜8)で溶解させた。ピペッティング、ボルテックスで溶液を攪拌後、常温で2時間反応させた。
その後、DTT処理した上記DNA溶液に、3M酢酸ナトリウム水溶液をDTT処理したDNA溶液に対して1/10倍量となるように加えた。さらにあらかじめ4℃に冷やしておいた冷エタノールを、このDNA溶液のDNA溶液に対して2.5倍量となるように加えた。その後、−20℃フリーザーに6時間以上静置し、DNAを沈殿させた。沈殿したDNAを遠心分離(4℃、12,000rpm;7,740G、30分間)により回収した。これらエタノール沈殿−遠心分離による精製即ち、3M酢酸ナトリウム水溶液を加えるところから沈殿精製させるところまでのサイクルをさらに2回行った。
金ナノ粒子分散液(BBInternational(ビービーインターナショナル)製造:粒子径:10nm)1mLに前記工程で精製したチオール末端DNA(DNA13乃至DNA15)を5nM添加し、ピペッティング、ボルテックスで1分間攪拌後、50℃で24時間静置し、金ナノ粒子表面へのDNAの固定化を促進させた。
12時間静置後、各金ナノ分散液に2.5M NaClを40μL、200mM リン酸緩衝液(pH7)を50μL添加し、さらに50℃で45時間静置した。静置後の各チオール末端DNAを吸着させた金ナノ粒子分散液(図中、DNA13:符号19、DNA14:符号20、DNA15:符号21)の紫外・可視吸収スペクトル測定結果を図20に示す。
1.5mLマイクロチューブに、1% tween−20 1μL、sample[3]溶液(DNA鎖長:42mer) 10μL、sample[5]溶液(DNA鎖長:15mer) 10μL、5M NaCl 4μLを加え、75℃の高温槽中で1時間放置した後、室温で10分間静置させた。
10分間静置後、溶液の色が赤から紫へ変化したのを確認し、さらに20分静置後、軽く遠心分離を行い、DNA塩基の相補鎖を会合させることにより金ナノ粒子間の結合を形成させて得られた金ナノ粒子集合体を得た。得られた集合体をsample[6]と称する。
1.5mLマイクロチューブに、1% tween−20 1μL、sample[4]溶液(DNA鎖長:27mer) 10μL、sample[5]溶液(DNA鎖長:15mer) 10μL、5M NaCl 4μLを加え、75℃の高温槽中で1時間放置した後、室温で10分間静置させた。
10分間静置後、溶液の色が赤から紫へ変化したのを確認し、さらに20分静置後、軽く遠心分離を行い、DNA塩基の相補鎖を会合させることにより金ナノ粒子間の結合を形成させて得られた金ナノ粒子集合体を得た。得られた集合体をsample[7]と称する。
得られたsample[6]とsample[7]の外観(写真)を図22に示す。
肺がんに対する核酸製剤の1つであるアプタマーAS1411の末端をチオール基で修飾した分子(つくばオリゴサービス株式会社より入手)を、例9で製造した金ナノ粒子集合体表面に吸着させ、これを肺がん細胞(a549)に作用させ、作用前後のラマン散乱スペクトルを比較した。
詳細には、例9に従って製造した金ナノ粒子集合体分散液(10mM リン酸緩衝液(pH7.0)に分散)に5nMのアプタマーAS1411溶液を添加し、40℃で24時間攪拌した。その後14,000rpm(18,700G)で30分間遠心にかけ、粒子を沈殿させ、上澄み液を取り除いた。ここに10mMリン酸緩衝液(0.1M NaCl含有、pH7)0.5mLを加えて沈殿物を再分散させた。再度14,000rpmで30分間遠心にかけ上澄み液を取り除いた後、0.01% tween−20 1μL、10mMリン酸緩衝液(0.1M NaCl含有、pH7)0.25mLに再分散させた。
こうして得られたAS1411吸着−金ナノ粒子集合体を予め培養シャーレで培養した肺がん細胞に20uL添加し、48時間放置しがん細胞へ吸着させた。その後ラマン分光装置によりがん細胞表面を測定し、吸着させる前のがん細胞表面と吸着後のがん細胞表面のラマン散乱スペクトルを比較した。AS1411吸着−金ナノ粒子粒子集合体のラマン散乱スペクトルを図23に、a549がん細胞のラマン散乱スペクトルを図24に、そしてAS1411吸着−金ナノ粒子集合体を吸着させたa549がん細胞のラマン散乱スペクトルを図25に、それぞれ示す。
図24〜図25に示すように、AS1411吸着−金ナノ粒子集合体をがん細胞に作用させることでラマン散乱スペクトルが大きく変化しており、例9で製造した金ナノ粒子集合体を用いた分子認識が可能であることが確認された。
肺がんに対する核酸製剤の1つであるアプタマーAS1411の末端をチオール基で修飾した分子(つくばオリゴサービス株式会社より入手)を、実施例3に示す方法で製造した金ナノ粒子集合体表面に吸着させ、これを肺がん細胞(a549)に作用させ、吸着サイトのマッピングを試みた。
得られたAS1411吸着−金ナノ粒子集合体を予め培養シャーレで培養した肺がん細胞に20uL添加し、48時間放置しがん細胞へ吸着させた。その後ラマン分光装置によりがん細胞表面を測定し、吸着に係わるラマンスペクトルに関して測定を行いがん細胞由来DNAのリン酸由来のマッピングと金粒子吸着部位のマッピング更に顕微鏡写真を重ね合わせ比較を行った結果、がん細胞が認識されていることが確認された。
2.DNA1と相補鎖の関係にある一本鎖DNA2
3.中央部が二本鎖DNAであり、その両端に1および2で示した一本鎖DNAを配したDNA3
4.DNA3の両末端にDNA1及びDNA2が会合したDNA4
5.金ナノ粒子
6.表面にDNA4をチオール基を介して結合させた金ナノ粒子
7.加温により2重鎖を解離させて分離した後の金ナノ粒子
8.一本鎖DNA1が吸着した金ナノ粒子
9.相補鎖DNA2が吸着した金ナノ粒子
10.金ナノ粒子集合体
11.シングルストランドDNA(b)が結合した金ナノ粒子の位置情報
12.シングルストランドDNA(b)が結合した金ナノ粒子から発せられる電場情報
13.金ナノ粒子集合体における金ナノ粒子の位置情報
14.金ナノ粒子集合体における金ナノ粒子から発せられる電場情報
15.金ナノ粒子集合体における近接状態にある金ナノ粒子による増強ラマン散乱
16.加温による金ナノ集合体が解消された金ナノ粒子による増強ラマン散乱
17.チオール末端DNA11を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトル
18.チオール末端DNA12を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトル
19.チオール末端DNA13を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトル
20.チオール末端DNA14を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトル
21.チオール末端DNA15を吸着させた金ナノ粒子分散液の紫外・可視吸収スペクトル
Claims (17)
- 金属ナノ粒子を有機分子を介して連結させることにより、3乃至10個の金属ナノ粒子が各々隣の金属ナノ粒子との間で所定距離に結合された金属ナノ粒子集合体を備え、該集合体はそれに加わる電場内にラマン活性分子を含みてなる、増強電場においてラマン活性分子からの増強されたラマン散乱光を発するものである分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記金属ナノ粒子が、表面プラズモン共鳴を生ずる共鳴波長を紫外光領域乃至赤外光領域に有する金属元素よりなる、請求項1に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記金属ナノ粒子が、1nm乃至100nmの平均粒子径を有する粒子である、請求項1又は請求項2記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記金属ナノ粒子集合体において、連結された金属ナノ粒子がその両隣の金属ナノ粒子との間で一直線上に結合されていない、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記有機分子が、末端にチオール基又はアミノ基を有し、且つ、核酸、ポリエチレングリコール又は炭化水素を含む、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記有機分子が、3乃至40の塩基数を有し、且つ、チオール基又はアミノ基を末端に有する核酸である、請求項5に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記核酸がDNAである、請求項6に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記ラマン活性分子は前記有機分子に結合してなる、請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記金属ナノ粒子が、少なくとも1個以上の分子認識プローブ分子をその金属ナノ粒子表面に結合してなる、請求項1乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- 前記分子認識プローブ分子が、末端にチオール基又はアミノ基を有し、且つ、核酸、ポリエチレングリコール又は炭化水素を介して分子認識プローブが結合された分子である、請求項1乃至請求項9のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料。
- a)基体となる一本鎖核酸鎖(1)に、その核酸鎖(1)中の部分塩基構造に相補性を有し且つ片末端にチオール基を有する一本鎖核酸鎖(2)を少なくとも2つ会合させて2重らせんを形成させた変性核酸鎖を得る工程、
b)前記変性核酸鎖のチオール基と金属ナノ粒子とを反応させ、該金属ナノ粒子の表面に変性核酸鎖を結合させた後、60〜100℃に加熱して変性核酸鎖の2重らせん構造を解離させることにより一本鎖核酸鎖(1)を取り除き、チオール基を介して一本鎖核酸鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)を得る工程、
c)前記核酸鎖(2)と相補性を有し、片末端にチオール基を有する塩基鎖長が等しい一本鎖核酸鎖(3)と、金属ナノ粒子とを反応させ、チオール基を介して一本鎖核酸鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を得る工程、
d)一本鎖核酸鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)と一本鎖核酸鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を混合することにより、一本鎖核酸鎖(2)と一本鎖核酸鎖(3)を会合させて2重らせんを形成させて金属ナノ粒子集合体を製造する工程、
さらに、
前記a)工程で用いる一本鎖核酸鎖(2)若しくは前記c)工程で用いる一本鎖核酸鎖(3)、又は、これら両者にラマン活性分子を結合する工程を含む、
請求項1乃至請求項10のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法。 - a)基体となる一本鎖DNA鎖(1)に、そのDNA鎖(1)中の部分塩基構造に相補性を有し且つ片末端にチオール基を有する一本鎖DNA鎖(2)を少なくとも2つ会合させて2重らせんを形成させた変性DNA鎖を得る工程、
b)前記変性DNA鎖のチオール基と金属ナノ粒子とを反応させ、該金属ナノ粒子の表面に変性DNA鎖を結合させた後、60〜100℃に加熱して変性DNA鎖の2重らせん構造を解離させることにより一本鎖DNA鎖(1)を取り除き、チオール基を介して一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)を得る工程、
c)前記DNA鎖(2)と相補性を有し、片末端にチオール基を有する塩基鎖長が等しい一本鎖DNA鎖(3)と、金属ナノ粒子とを反応させ、チオール基を介して一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を得る工程、
d)一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)と一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を混合することにより、一本鎖DNA鎖(2)と一本鎖DNA鎖(3)を会合させて2重らせんを形成させて金属ナノ粒子集合体を製造する工程、
さらに、
前記a)工程で用いる一本鎖DNA鎖(2)若しくは前記c)工程で用いる一本鎖DNA鎖(3)、又は、これら両者にラマン活性分子を結合する工程を含む、
請求項1乃至請求項10のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法。 - 前記d)工程において、該一本鎖DNA鎖(2)が結合した金属ナノ粒子(1)の1当量に対して、該一本鎖DNA鎖(3)が結合した金属ナノ粒子(2)を2当量用いて金属ナノ粒子集合体を製造する、請求項12に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法。
- 前記一本鎖DNA鎖(2)は、互いに相補性を有する部位を持たないものである、請求項12又は請求項13に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法。
- さらに、a)乃至d)のうちいずれかの工程において、
e)核酸、ポリエチレングリコール又は炭化水素を含む分子鎖の一方の末端に分子認識プローブを有し、他方の末端にチオール基又はアミノ基を有する分子認識プローブ分子と、金属ナノ粒子とを反応させて、金属ナノ粒子表面に、チオール基又はアミノ基を介して末端に分子認識プローブ分子を結合させる工程
を含む、
請求項12乃至請求項14のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料の製造方法。 - 請求項1乃至請求項10のうちいずれか一項に記載の分子センシング用金属ナノ粒子材料を、検体と接触させた後、検体のラマン散乱測定を行うことを特徴とする、分子センシング方法。
- 前記分子センシング用金属ナノ粒子材料が基板上に固定されてなる、請求項16に記載の分子センシング方法。
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