JPWO2011148669A1 - 大腸がんマーカービトロネクチン、及び採血試料中のビトロネクチン濃度の分析方法 - Google Patents
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Abstract
Description
ASCO (American Society of Clinical Oncology)では、CEAを存在診断マーカーではなく、予後診断、ステージング、薬効評価のための「病勢マーカー」として使用することを推奨している。また、CA19-9については、現時点でのデータでは裏づけが不十分であるとして、単独では大腸がんマーカーとしての使用には適さない、と結論づけられている。
アメリカFDAでも、CEAを大腸がんマーカーとして認可している。
また、CEAやCA19-9については、がん以外の要因によってマーカー値が変動する例も知られている。従って、正確な病勢観察をするためには、これらのマーカーを使用するだけでなく、これらのマーカーを相補することができる新たなマーカーが臨床現場で強く求められている。
さらに、血液検査によって簡易に大腸がん存在の有無を判定する「存在診断マーカー」も存在しない。
以上より、大腸がん検出のための「存在診断マーカー」、及びCEAやCA19-9を相補することができる「病勢マーカー」の開発が急務である。
なお、本発明において「病勢マーカー」とは、がんの病態の進行に伴って濃度が増加する腫瘍マーカーをいう。病勢マーカーは、すでに存在していることがわかっているがんについて、進行度の判定や病態の経過観察を行う目的で用いられうる。
大腸がんの病勢マーカーとして用いられるビトロネクチン。
(2)
大腸がんの存在診断マーカーとして用いられるビトロネクチン。
(3)
大腸がんの予後予測マーカーとして用いられるビトロネクチン。
本発明において、ビトロネクチンの基準値には、別の採血試料において得られたビトロネクチンの測定値、及びビトロネクチンに固有の閾値が含まれる。
本明細書において、ある時点Tnで採血された血液に由来する採血試料をSn、その試料Snから得られたビトロネクチンの測定値をCn、ビトロネクチンの基準値をCref、試料Snから測定値Cnを得て基準値Crefと比較する工程をPnと表記する。また、ビトロネクチンの閾値をCthと記載する。なお、本文中での陽性率とは解析対象とした全患者のうち、Cthよりも高い値(陽性)を示す患者の割合(%)を指すものとする。
個体由来の採血試料Sn中の、ビトロネクチンの濃度を測定し測定値Cnを得て、前記測定値Cnと前記ビトロネクチンの基準値Crefとを比較することによって分析を行う工程Pnを含む、採血試料中のビトロネクチン濃度の分析方法。
前記工程Pn(n≧1)の前に、前記採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料Sn-1のビトロネクチンの濃度を測定し測定値Cn-1を得る工程Pn-1をさらに含み、
前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記測定値Cn-1及びビトロネクチンの閾値Cthからなる群から選ばれる値である、(4)に記載の方法。
上記(5)の態様の一例を模式的に図1に示す。
上記(5)において、前記個体は、前記工程Pnより前に大腸がんに対する治療を受けたものでありうる。
前記工程Pn(n≧2)の前に、前記採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料S1のビトロネクチンの濃度を測定し測定値C1を得る工程P1と、前記採血試料S1の採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料S0のビトロネクチンの濃度を測定し測定値C0を得る工程P0とを含み、
前記個体が、前記工程P0と工程P1との間において大腸がんに対する外科手術を受けたものであり、
前記工程P0における測定値C0がビトロネクチンの閾値Cthを上回り、前記工程P1における測定値C1が前記閾値Cthを下回り、
前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記閾値Cthである、(5)に記載の方法。
前記個体が、さらに、工程P1と工程Pnとの間において大量ガンに対する非外科的療法(例えば放射線療法や化学療法など)を受けたものである、(6)に記載の方法。
(8)
前記個体が、前記工程Pn-1と前記工程Pnとの間において少なくとも大腸がんに対する非外科的療法を受けたものであり、
前記工程P n-1における測定値Cn-1 がビトロネクチンの閾値Cthを上回り、前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記閾値Cth及び前記測定値Cn-1である、(5)に記載の方法。
(9)
前記工程Pn(n≧2)の前に、前記採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料Sn-1のビトロネクチンの濃度を測定し測定値Cn-1を得る工程Pn-1と、前記採血試料Sn-1の採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料S0のビトロネクチンの濃度を測定し測定値C0を得る工程P0とを含み、
前記個体が、前記工程P0と工程Pn-1との間において少なくとも大腸がんに対する非外科的療法を受け、前記工程Pn-1と前記工程Pnとの間においても前記非外科的療法を引き続いて受けたものであり、
前記工程P0における測定値C0がビトロネクチンの閾値Cthを上回り、前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記閾値Cth及び前記測定値Cn-1である、(5)に記載の方法。
(10)
前記ビトロネクチンの基準値Crefがその閾値Cthである、(4)に記載の方法。
(11)
前記閾値として、特異度が80%以上を示すビトロネクチンの濃度値が選択される、(5)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)
前記工程Pnにおいて、他の大腸がん病勢マーカーの前記採血試料Sn中の濃度を測定し測定値を得て、前記測定値と、前記他の大腸がん病勢マーカーの基準値とを比較することによって分析を行うことをさらに含む、(5)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(13)
前記他の大腸がん病勢マーカーが、がん胎児性抗原、及びCA19−9からなる群から選ばれる、(12)に記載の方法。
ビトロネクチンをマーカーとして用いることにより、早期ステージのがん患者の検出率が向上する。また、ビトロネクチンは、既存の大腸がんマーカーでは陽性を示さない症例について用いることによって、大腸がんの経過観察を可能にする。さらに、ビトロネクチンは、既存の大腸がんマーカーと併用することにより、患者の捕捉率(すなわち陽性率)の向上を実現する。
本発明は、大腸がんマーカーとしてビトロネクチンを提供する。このマーカーは、大腸がん患者グループと健常者グループとの間で、或いは大腸がんの病勢(大きさ)の異なる大腸がん患者グループの間で、確実に採血試料中における濃度差を示すものである。すなわち、これらのマーカーは、大腸がんにおいて発現亢進を示すものである。
本発明が提供する大腸がんマーカーは、病勢マーカー、存在診断マーカー及び予後予測マーカーとして用いることができる。
本発明の大腸がんマーカーは、採血試料中において検出・分析可能である。従って、本発明の方法においては、採血試料中の大腸がんマーカー濃度が分析される。
採血試料は、直接ビトロネクチン濃度測定に供される試料であり、全血、血漿、血清などが含まれる。個体から採取された全血を、適宜処理することによって調製することができる。採取された全血から採血試料の調製を行う場合に行われる処理としては特に限定されず、臨床学的に許容されるいかなる処理が行われてよい。例えば遠心分離などが行われうる。また、ビトロネクチン濃度測定に供される採血試料は、その調製工程の中途段階又は調製工程後に、適宜冷凍など低温下での保存が行われたものであってよい。なお、本発明において採血試料は、由来元の個体に戻すことなく破棄される。
本発明による採血試料中のがんマーカーの濃度分析は、測定値と基準値との比較によって行われる。より正確な分析のため、比較される測定値と基準値とは、同じ条件(前処理条件や保存条件など)で用意された採血試料に基づく値であることが好ましい。
本発明の方法においては、ある時点で採血された血液に由来する採血試料Sn中の大腸がんマーカーの濃度を測定し、大腸がんマーカーの測定値Cnを得て、大腸がんマーカーの測定値Cnとその大腸がんマーカーの基準値Crefとを比較する工程Pnを含む。
基準値Crefは、大腸がんの病態などの判断基準となる値である。前述のように、本発明の大腸がんマーカーは、大腸がん患者グループと健常者グループとの間で、或いは大腸がんの病勢(大きさ)の異なる大腸がん患者グループの間で、採血試料中における濃度差を示す。従って、適切な基準値Crefを設定することで、それらグループを有効に識別することができる。
従って、測定値Cnが基準値Crefより大きければ病態が悪い可能性が高く、測定値Cnが基準値Crefより小さければ病態が悪くない可能性が高いと判断することができる。
基準値の具体例の一つとして、個々の大腸がんマーカー特有の閾値Cthが挙げられる。本発明における閾値Cthは、人種、年齢などに応じて予め設定することができる。閾値Cthは、後述の測定法により、健常者グループに属する個人及び大腸がん患者グループに属する個人に由来する採血試料中の大腸がんマーカーの存在量を測定し、各々のグループにおける測定値を参照することによって設定することができる。
閾値Cthを設定する手法は、当業者によって適宜選択されるものである。一例として、ROC Curve(受信者動作特性曲線;Receiver Operating Characteristic Curve)分析などが挙げられる。
基準値の具体例の他の一つとしては、同一個体由来で事前に採血されていた採血試料における測定値が挙げられる。
上記基準値として、閾値を用いるか事前測定値を用いるかは、使用する大腸がんマーカーの種類及び大腸がんマーカーの使用の目的に応じて決定される。
本発明の大腸がんマーカービトロネクチンを存在診断マーカーとして用いる場合、存在診断マーカーの基準値Crefは、大腸がん患者由来の採血試料と健常者由来の採血試料との区別を行うための判断基準となるものである。具体的には、存在診断マーカーの基準値Crefはその存在診断マーカーの閾値Cthである。
従って、測定値Cnが基準値Crefより大きければ、採血試料Snが由来する個人が大腸がんである可能性が高く(すなわち大腸がんの疑いが高い)、測定値Cnが基準値Crefより小さければ、採血試料Snが由来する個人が健常者である可能性が高い(すなわち大腸がんの疑いが低い)と判断することができる。
本発明の大腸がんマーカービトロネクチンを予後予測マーカーとして用いる場合、予後予測マーカーの基準値は、予後が悪い大腸がん患者由来の採血試料と予後が悪くない大腸がん患者由来の採血試料との区別を行うための判断基準となるものである。具体的には、予後予測マーカーの基準値Crefはその予後予測マーカーの閾値Cthである。
従って、測定値Cnが基準値Cref(すなわち閾値Cth)より大きければ、採血試料Snが由来する個人の予後が悪い可能性が高く、測定値Cn[G4]が基準値Cref(すなわち閾値Cth)より小さければ、採血試料Snが由来する個人の予後が悪い可能性は低いと判断することができる。
本発明の大腸がんマーカービトロネクチンを病勢マーカーとして用いる場合、病勢マーカーの基準値は、病態の経過状態(具体的には大腸がんの進行、及び体内のがん存在量)が異なる同一個体由来の採血試料の評価を行うための判断基準となるものである。従って、病勢マーカーを用いる場合は、工程Pnに供される採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料について、そのマーカー値が測定される。
ここで、ある時点Tnから経時的に(T0,T1, T2,T3,・・・, Tn-1, Tn)大腸がん患者から採取した血液に由来する採血試料(S0, S1, S2,S3,・・・, Sn-1, Sn)の大腸がんマーカー測定値(濃度)を、それぞれC0, C1, C2, C3,・・・, Cn-1, Cnとする。
大腸がんに対する治療の例としては、外科手術や、非外科的療法が挙げられる。非外科的療法としては、例えば化学療法や放射線療法などの非侵襲的治療法が挙げられる。また、非外科的療法は、1回のみで終了する場合もあるが、しばしば複数回が継続して行われうる(継続的治療法)。これらの治療が行われる場合、本発明の病勢マーカーを用いた方法によって、治療効果の評価及び経過観察を行うことができる。
病勢マーカーを用いる態様の一例を模式的に図1に示す。
工程Pn(n≧1)の前に、採血試料Snの採血時期Tnより前の時期Tn-1に採血された同一個体由来の採血試料Sn-1を病勢マーカー濃度測定に供し、測定値Cn-1を得る工程Pn-1を行う。この測定値Cn-1が、その後に行われる工程Pnにおける基準値Crefとして採用される。すなわち、工程Pnにおいて、採血試料Sn-1より後に採取された同一個体由来の採血試料Snを病勢マーカー濃度測定に供し、測定値Cnを得て、基準値Crefとしての測定値Cn-1と比較する。
従って、放射線治療や化学療法などの継続治療の効果に関するフォローアップを行うことが可能になる。
治療法として外科手術を適用した場合における、病勢マーカーを用いるより具体的な態様の一例を模式的に図2に示す。
時期T0と時期T1との間で、大腸がんに対して外科手術による治療が行われた場合であって、外科手術により原発巣の大腸がんの遺残がないこと(すなわち根治度がAもしくはBであること)を確認できている症例が前提である。さらには、手術治療前の時期T0に採取された採血試料S0における病勢マーカーの測定値C0がその病勢マーカーの閾値Cthを上回り、手術後の時期T1に採取された採血試料S1における病勢マーカーの測定値C1がその病勢マーカーの閾値Cthを下回った(すなわち大腸がんの存在量が減少した又は大腸がんが消失した)ことがわかっている場合に、この態様が実施される。
測定値Cnが基準値Cref(すなわち閾値Cth)より大きければ、時期Tnにおいて、採血試料Snが由来する個体でのがんの再発又は転移の疑いがあり、測定値Cnが基準値Cref(すなわち閾値Cth)より小さければ、時期Tnにおいて、採血試料Snが由来する個体での大腸がんの再発や転移の可能性が低いと判断することができる。
治療法として非外科的療法を適用した場合における、病勢マーカーを用いるより具体的な態様の一例を模式的に図3に示す。
この態様においては、工程P0と工程Pn-1との間において大腸がんに対する少なくとも1回目の非外科的療法を受け、工程Pn-1と工程Pnとの間においても非外科的療法を引き続いて受けた場合を想定する。また、この態様においては、非外科的療法による1回目の治療前の時期T0に採取された採血試料S0における病勢マーカーの測定値C0がその病勢マーカーの閾値Cthを上回ることがわかっていることが前提である。1回目の非外科的療法の前に外科的療法を行った場合においては、外科的療法後(T0)においてなおその病勢マーカーの測定値Cn-1が閾値Cthを上回っている場合が該当する。
例えば、測定値Cnと基準値Cn-1との比較によれば、治療効果の有無を判断することができる。具体的には、測定値Cnが基準値Cn-1より大きければ、時期Tnにおいて、採血試料Snが由来する個体にとって治療の効果が出ていない可能性が高く、測定値Cnが基準値Cn-1より小さければ、時期Tnにおいて、採血試料Snが由来する個体にとって治療の効果が出ている可能性が高いと判断することができる。
このように、測定値Cnと測定値Cn-1との比較によって、がんの治療効果に関するフォローアップを行うことが可能になる。また、測定値Cnと閾値Cthを比較することによって、治療継続の要否に関する判断も併せて行うことが可能となる。
非外科的療法が一回で終了する態様においては、工程Pn-1と工程Pnとの間においてのみ大腸がんに対する非外科的療法を一回受けた場合を想定する。また、この態様においては、一回の非外科的療法による治療前の時期T n-1に採取された採血試料S n-1における病勢マーカーの測定値C n-1がその病勢マーカーの閾値Cthを上回ることがわかっていることが前提である。一回の非外科的療法の前に外科的療法を行った場合においては、外科的療法後(T n-1)においてなおその病勢マーカーの測定値Cn-1が閾値Cthを上回っている場合が該当する。当業者であれば、上述の非外科的療法が複数回継続して行われる場合を参照して、非外科的療法が一回で終了する場合についても本発明を実施することができる。
病勢マーカーを用いた本発明の方法は、他の大腸がん病勢マーカーを相補するために行うことも有用である。他の大腸がん病勢マーカーとしては、例えばがん胎児性抗原(CEA)やCA19−9などが挙げられる。
この場合においては、工程Pnで、他の大腸がん病勢マーカーの採血試料Sn中の濃度を測定し測定値を得て、測定値と、その病勢マーカーの基準値とを比較することがさらに行われる。
一方、本発明の病勢マーカーによっても陰性と判定された場合には、他の病勢マーカーによる陰性判定結果(すなわち大腸がんの疑いなし)を真であるとサポートすることが可能になる。
このように、本発明の病勢マーカーは、他の大腸がん病勢マーカーを相補することが可能になる。
本発明の大腸がんマーカーの測定は、好ましくは、生体特異的親和性に基づく検査によって行われる。生体特異的親和性に基づく検査は当業者に良く知られた方法であり、特に限定されないが、イムノアッセイが好ましい。具体的には、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay:サンドイッチイムノ法、競合法、直接吸着法を全て含む)、免疫沈降法、沈降反応、免疫拡散法、免疫凝集測定、補体結合反応分析、免疫放射定量法、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの、競合及び非競合アッセイ系を含むイムノアッセイが含まれる。イムノアッセイにおいては、採血試料中の大腸がんマーカーに結合する抗体を検出する。
なお、ビトロネクチン抗体の調製及び標識の具体的なプロトコルは、当業者であれば容易に選択することができるものである。
イムノアッセイのより具体的なプロトコルは、当業者であれば容易に選択することができるものである。
実施例において、血漿サンプルが以下のように調製された。1人につき、約15 mLの血液をBDバキュテイナ(Vacutainer)採血管CPTTMに採血した。採血後、直ちに遠心分離(1700×g、4℃、20分)を行い、上清を血漿成分として得た(約5mL)。得られた血漿サンプルは、−80℃にて保存した。
大阪大学医学部の倫理規定に沿って患者の同意が得られた採血試料(以下、血漿サンプルと記載する)について、以下の解析を行った。血漿サンプルは、大腸がん患者105名及び健常者100名から採取した血液から参考例1に従って調製した。表1に、この解析で用いた血漿サンプルの臨床情報を示す。実施例においては、既存のマーカー(具体的には、CEA、CA19−9、SCC抗原、CA125、CA15−3及びPSA)の値が全て正常範囲である者を「健常者」として定義した。ビトロネクチン濃度は、Vitronectin EIA Kit (TaKaRa社製)を用いて測定した(測定手順は添付の説明書に従った)。
この105症例の大腸がん患者をTMN分類に基づき、3つのグループ(ステージ0、ステージI-II及びステージIII-VI)に分け、各グループでのビトロネクチン濃度について比較検討した。図4(B)にその結果を示す。図4(B)において、縦軸はビトロネクチンの血漿サンプル中の濃度を表す。箱ひげ図において、箱で示した範囲は全検体のうち25-75%に当たる検体の濃度分布範囲、横線で示した範囲は、全検体のうち10〜90%に相当する検体の濃度分布範囲を示す。箱中の横棒は、各集団(Control(健常者)、CRC(大腸がん患者))における濃度の中央値を示す。
また、ビトロネクチンの血漿サンプル中濃度は、がんのステージが進行するに伴って増加する傾向を示した。この結果から、ビトロネクチンが病勢マーカーとしての特徴を有していることが示された。
得られたビトロネクチン濃度を基に、大腸がんと健常者との識別におけるROC(receiver operating characteristic)曲線を作成した。図5にビトロネクチンのROC曲線を示す。図5において、縦軸は陽性率を表し、横軸は偽陽性率(100-特異度)を表す。このROC曲線より、Youden’s Indexを用いて閾値を設定した。具体的には、ビトロネクチンの閾値を12.65 mg/mLと設定した。この閾値における大腸がん患者検出の特異度は96%, 検出感度に関しては26%であった。
実施例3において、血漿ビトロネクチンが臨床腫瘍マーカーとして有用性があることを示した。しかしながら、ビトロネクチンは元々血漿中に高濃度で存在しているため、上記示した発現変動が、元々血漿中に存在するビトロネクチンに直接起因するものではなくがん組織に直接起因するものであることを示すため、本実施例を行った。
血漿サンプル中ビトロネクチン濃度と大腸がんとの関連性をさらに検証するために、術前・術後での血漿サンプル中ビトロネクチン濃度の比較を行った。
以上より、ビトロネクチンの経過観察マーカーとしての有用性が示された。
次に、既存の大腸がんマーカーであるCEA及びCA19-9と、本発明の大腸がんマーカーであるビトロネクチンとについて、血漿サンプル中の濃度の相関性を調べた。図7(A)に示すように、CEA及びCA19-9は発現が統計学的有意に相関していた(Spearman’s rank correlation test: p値<0.0001)。これに対して、図7(B)及び(C)に示すように、ビトロネクチンはCEA及びCA19-9のいずれに対しても相関性を示さなかった。このことから、ビトロネクチンとこれら既存の大腸がんマーカーとは独立して変動していることがわかった。つまり、本発明の大腸がんマーカーであるビトロネクチンは、これら既存の大腸がんマーカーに対する相補マーカーとしての有用性が示された。
血漿サンプルの測定において、ビトロネクチンを単独のマーカー(Single marker)として用いた場合と、既存の大腸がんマーカーであるCEA及び/又はCA19−9を単独のマーカー(Single marker)又は組み合わされた2種のマーカー(Two markers)として用いた場合と、それらが組み合わされた2種のマーカー(Two markers)又は3種のマーカー(Three markers)として用いた場合とについて、検出率 (Sensitivity)、特異度 (Specificity)、陽性的中率 (Positive Predictive Value)、陰性的中率(Negative Predictive Value)及び検出精度(Accuracy)の比較を行った。その結果を表2に示す。
検出率 (Sensitivity):
がん患者のうち、マーカーによりがん患者として判定された検体数の割合。
特異度 (Specificity):
健常者のうち、マーカーにより健常者として判定された検体数の割合。
陽性的中率 (Positive Predictive Value):
マーカーにより陽性として判定された検体のうち、がん患者であった検体数の割合
陰性的中率 (Negative Predictive Value):
マーカーにより陰性として判定された検体のうち、健常者であった検体数の割合
検出精度(Accuracy):
全検体のうち、マーカー値により正確に判定されたがん患者、および健常者の検体総数の割合。
ビトロネクチン(VTN)を単独で大腸がんマーカーとして用いた場合と、既存の大腸がんマーカーであるCEAのみ又はCA19−9のみを単独で大腸がんマーカーとして用いた場合と、それら大腸がんマーカーを組み合わせて用いた場合とについて、がん患者捕捉率(すなわち陽性率(Positive Rate))を病態別に調べた。図8(A)にCEAとビトロネクチンとの比較、図8(B)にCA19−9とビトロネクチンとの比較結果を示す。また、(A)ではCEAとビトロネクチンとを組み合わせた場合、(B)ではCA19−9とビトロネクチンとを組み合わせた場合(どちらかのマーカー値が閾値を越えている場合を陽性とする)の陽性率も併せて図示した。
以上のことから、ビトロネクチンは既存の大腸がんマーカーであるCEAやCA19-9に対する相補的マーカーとしての有用性を持つことが示された。
Claims (13)
- 大腸がんの病勢マーカーとして用いられるビトロネクチン。
- 大腸がんの存在診断マーカーとして用いられるビトロネクチン。
- 大腸がんの予後予測マーカーとして用いられるビトロネクチン。
- 個体由来の採血試料Sn中の、ビトロネクチンの濃度を測定し測定値Cnを得て、前記測定値Cnと前記ビトロネクチンの基準値Crefとを比較することによって分析を行う工程Pnを含む、採血試料中のビトロネクチン濃度の分析方法。
- 前記工程Pn(n≧1)の前に、前記採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料Sn-1のビトロネクチンの濃度を測定し測定値Cn-1を得る工程Pn-1をさらに含み、
前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記測定値Cn-1及びビトロネクチンの閾値Cthからなる群から選ばれる値である、請求項4に記載の方法。 - 前記工程Pn(n≧2)の前に、前記採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料S1のビトロネクチンの濃度を測定し測定値C1を得る工程P1と、前記採血試料S1の採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料S0のビトロネクチンの濃度を測定し測定値C0を得る工程P0とを含み、
前記個体が、前記工程P0と工程P1との間において大腸がんに対する外科手術による治療を受けたものであり、
前記工程P0における測定値C0がビトロネクチンの閾値Cthを上回り、前記工程P1における測定値C1が前記閾値Cthを下回り、
前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記閾値Cthである、請求項5に記載の方法。 - 前記個体が、さらに、工程P1と工程Pnとの間において大腸がんに対する非外科的療法を受けたものである、請求項6に記載の方法。
- 前記個体が、前記工程Pn-1と前記工程Pnとの間において少なくとも大腸がんに対する非外科的療法を受けたものであり、
前記工程P n-1における測定値Cn-1 がビトロネクチンの閾値Cthを上回り、前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記閾値Cth及び前記測定値Cn-1である、請求項5に記載の方法。 - 前記工程Pn(n≧2)の前に、前記採血試料Snの採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料Sn-1のビトロネクチンの濃度を測定し測定値Cn-1を得る工程Pn-1と、前記採血試料Sn-1の採血時期より前に採血された同一個体由来の採血試料S0のビトロネクチンの濃度を測定し測定値C0を得る工程P0とを含み、
前記個体が、前記工程P0と工程Pn-1との間において少なくとも大腸がんに対する非外科的療法を受け、前記工程Pn-1と前記工程Pnとの間においても前記非外科的療法を引き続いて受けたものであり、
前記工程P0における測定値C0がビトロネクチンの閾値Cthを上回り、前記工程Pnにおいて前記測定値Cnと比較される前記基準値Crefが、前記閾値Cth及び前記測定値C n-1である、請求項5に記載の方法。 - 前記ビトロネクチンの基準値Crefがその閾値Cthである、請求項4に記載の方法。
- 前記閾値として、特異度が80%以上を示すビトロネクチンの濃度値が選択される、請求項5に記載の方法。
- 前記工程Pnにおいて、他の大腸がん病勢マーカーの前記採血試料Sn中の濃度を測定し測定値を得て、前記測定値と、前記他の大腸がん病勢マーカーの基準値とを比較することによって分析を行うことをさらに含む、請求項5に記載の方法。
- 前記他の大腸がん病勢マーカーが、がん胎児性抗原、及びCA19−9からなる群から選ばれる、請求項12に記載の方法。
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