以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ要素には同じ符号を付し、説明を省略する場合もある。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における生体疲労評価装置100の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、生体疲労評価装置100は、ユーザの脈波信号を計測する生体信号計測部101、脈波信号から特徴量を抽出する特徴量抽出部102、特徴量を記憶する記憶部103、及び疲労の有無を判断する疲労判断部104を備えている。なお、同図に示すように、生体疲労評価装置100は、疲労評価結果に基づいて外部機器を制御する機器制御部105をさらに備える構成でもよい。
生体信号計測部101は、トランデューサー等により検出されたユーザの脈波を所定のサンプリング周期でサンプリングして脈波データを時系列的に取得する。生体信号計測部101を装着する部位については、指尖部や耳朶部などが代表的ではあるが、前額や鼻尖部など、その他脈波を取得できる部位であればどこでもよい。
特徴量抽出部102は、生体信号計測部101により計測された脈波信号の収縮期後方成分から得られる第一特徴量を抽出する。具体的には、特徴量抽出部102は、脈波信号から加速度脈波を算出し、収縮期後方成分に対応した加速度脈波の成分波であるc波またはd波の情報を少なくとも含む複数の成分波の情報を用いて、第一特徴量を抽出する。
記憶部103は、特徴量抽出部102により抽出された第一特徴量を記憶するためのメモリである。
疲労判断部104は、特徴量抽出部102により抽出された第一特徴量を用いて、ユーザの疲労の有無を判断する。具体的には、疲労判断部104は、特徴量抽出部102により抽出された第一特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部103に記憶されている第一特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の有無を判断する。例えば、疲労判断部104は、抽出された複数の第一特徴量のうち、現在抽出された第一特徴量と過去に抽出された第一特徴量とを比較して、疲労の有無を判断する。
例えば、特徴量抽出部102が、加速度脈波のa波、b波またはe波の波高値に対するc波の波高値の比を第一特徴量として抽出した場合は、疲労判断部104は、第一特徴量の絶対値が時系列的に増加した場合に疲労していると判断する。
また、特徴量抽出部102が、加速度脈波のa波の波高値とc波の波高値との差を第一特徴量として抽出した場合は、疲労判断部104は、第一特徴量の絶対値が時系列的に減少した場合に疲労していると判断する。
さらに、特徴量抽出部102が、加速度脈波のc波の波高値とd波の波高値との差を、加速度脈波のa波で除した値を第一特徴量として抽出した場合は、疲労判断部104は、第一特徴量の絶対値が時系列的に増加した場合に疲労していると判断する。
図2Aは、生体信号計測部101が計測する容積脈波(Plethysmogram、略してPTG)波形の一例を示す図である。そして、図2Bは、図2Aの容積脈波を2階微分した加速度脈波(Accelerated Plethysmogram、略してAPG)波形の一例を示す図である。
図2Aに示すように、容積脈波には、駆出波(P1)と反射波(P2)が検出される。また、図2Bに示すように、加速度脈波の波形は、収縮初期陽性波(a波)、収縮初期陰性波(b波)、収縮中期再上昇波(c波)、収縮後期再下降波(d波)、そして拡張初期陽性波(e波)とで構成される。
図2Aが示す容積脈波と図2Bが示す加速度脈波との対応を見た場合、加速度脈波波形成分のa波とb波は容積脈波の収縮期前方成分に、加速度脈波波形成分のc波とd波は容積脈波の収縮期後方成分に含まれる。容積脈波の収縮期前方成分は血液の駆出によって生ずる駆動圧波を反映したものであり、収縮期後方成分は駆動圧波が末梢に伝搬し反射して戻ってきた反射圧波を反映したものである。
今回、本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、脈波を2階微分した加速度脈波波形成分のうちa波の波高値とb波の波高値、さらにe波の波高値が精神疲労負荷前後で有意に変化する傾向を見出した。ここで、有意に変化するとは、統計学的に5%或いは1%の有意水準を満たして変化することを示している。
一方、脈波の収縮期後方成分を反映した特徴量である、c波の波高値及びd波の波高値は精神疲労負荷前後で有意に変化しない(すなわち、疲労に伴った変化が見られない)傾向を見出した。またさらに、c波またはd波を含む複数の加速度脈波波形成分を用いた特徴量が、精神疲労負荷前後で有意に変化する傾向を見出した。以下、a波からe波の波高値をそれぞれaからeとして説明する。
c波またはd波の情報を含む、複数の加速度脈波波形成分の情報を用いた特徴量としては、c波とa波の波高比であるc/a値、c波とb波の波高比であるc/b値、c波とe波の波高比であるc/e値が挙げられる。また、その他に、c波とa波の波高差分である、a−c値或いはc−a値、c波とd波の波高差分をa波の波高値で除した|d−c|/a値などが挙げられる。本発明者らが実施した、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
ここでは、特徴量抽出部102が、数ある特徴量の中でもc/a値を抽出する場合を例にとり、以下に説明する。
まず、特徴量抽出部102は、生体信号計測部101により計測された脈波信号を2階微分して図2Bに示すような加速度脈波波形へ変換する。
そして、特徴量抽出部102は、加速度脈波波形成分の中から時間的に最も早くに起こる極値からa波の波高値aを抽出し、時間的に3つ目の極値からc波の波高値cを抽出し、それらの比であるc/a値を求める。ここで、特徴量抽出部102は、求めたc/a値を記憶部103に時系列的に記憶させる。
なお、特徴量抽出部102は、c/a値として、脈波信号1拍分ごとの値をそのまま出力してもよいし、予め定められた時間区間(例えば10秒など)における平均値を出力してもよい。
疲労判断部104は、少なくとも2つの時点におけるc/a値を比較して、疲労の有無を判断する。例えば、疲労判断部104は、特徴量抽出部102から新しくc/a値が出力されると、記憶部103に記憶されているc/a値の中で時系列的に1つ前の時点のc/a値と、現時点のc/a値とを比較する。
もちろん、これに限定するものではなく、疲労判断部104は、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶されたc/a値を基準値として、現時点のc/a値と比較してもよい。なお、他の比較方法として、例えば、疲労判断部104は、現時点からある期間分前までの、全ての時点のc/a値の合算を所定閾値と比較してもよい。そして、疲労判断部104は、c/a値の合算が所定閾値以上であれば疲労していると判断してもよい。
図3A及び図3Bは、本実施の形態1における疲労判断部104による疲労評価の一例を示すフローチャートである。
まず疲労判断部104が、図3Aに示す動作を行う場合について説明する。疲労判断部104は、特徴量抽出部102からc/a値が出力されると(ステップS31)、記憶部103に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点のc/a値を呼び出す(ステップS32)。
そして、疲労判断部104は、これら2つの現時点のc/a値と1つ前の時点のc/a値とを比較する(ステップS33)。
疲労判断部104は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS33でYes)、ユーザが疲労していると判断する(ステップS34)。
また、疲労判断部104は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きくないと判断した場合(ステップS33でNo)、次に特徴量抽出部102からc/a値が出力されるまで待機し、次のc/a値の出力後、ステップS31からの動作をくり返す。
また、疲労判断部104は、図3Bに示す動作を行ってもよい。図3Bに示す動作を行う場合、ステップS31〜ステップS33までの動作フローは図3Aに示した動作例と同様である。
疲労判断部104は、ステップS33において、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS33でYes)、1つ前の時点のc/a値から現時点のc/a値への変化量を算出し、予め設定された閾値L1(例えば、0.03程度の変化量)と比較する(ステップS35)。
疲労判断部104は、算出した変化量が閾値L1よりも大きいと判断した場合(ステップS35でYes)、ユーザが疲労していると判断する(ステップS36)。
疲労判断部104は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きくない場合や、算出した変化量が閾値L1よりも大きくないと判断した場合は(ステップS35でNo)、次に特徴量抽出部102からc/a値が出力されるまで待機し、次のc/a値の出力後、ステップS31からの動作をくり返す。
なお、閾値L1は、0.03程度に限ったものではないが、後述する実験結果に鑑みると0.03程度から0.035程度の範囲に含まれる値にすることが好ましい(図17参照)。
疲労判断部104は、疲労しているか否かの判断は、例えば疲労している場合には1を、疲労していない場合には0を出力するなどの情報を出力することで行う。
生体疲労評価装置100が、機器制御部105を備える場合、機器制御部105は、疲労判断部104により判断された結果に基づいて、外部機器を制御する。例えば、機器制御部105は、表示機能を持つディスプレイや、音を出力するスピーカーを制御してユーザやユーザを管理監督する部門へ疲労判断結果を報知してもよい。
また、機器制御部105は、疲労判断部104により疲労していると判断された場合、ユーザに刺激を与える外部機器を制御してもよい。例えば、機器制御部105は、気流や熱を発生する機器を制御して、疲労を回復または軽減させる効果のある香りや気流、温熱などの刺激を出力してもよい。或いは、機器制御部105は、疲労判断部104により判断された結果を保存・蓄積、伝送してもよい。
以上のように、生体疲労評価装置100は、脈波信号から疲労に特異的な変化をするc波またはd波を含む複数の加速度脈波波形成分を用いて抽出した特徴量に基づいて、疲労の有無を判断する。
このような構成により、脈波信号の収縮期後方成分から得られる第一特徴量を抽出し、抽出された第一特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部103に記憶されている第一特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の有無を判断する。ここで、脈波信号の収縮期後方成分は、疲労以外の要因による影響は受けるものの、疲労による影響は受けにくい。このため、当該収縮期後方成分から得られる第一特徴量を用いることで、脈波に含まれる疲労以外の要因による影響を軽減させ、疲労評価の評価精度を向上することができる。
また、本構成によって、c波またはd波の情報を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、a波、b波またはe波の波高値に対するc波の波高値の比を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、a波の波高値とc波の波高値との差を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、c波の波高値とd波の波高値との差をa波で除した値を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、疲労していると判断した場合にユーザに刺激を与えることで、疲労の評価結果の提示、または評価結果に基づいたケアを自動で行うことが可能となる。
なお、生体疲労評価装置100が機器制御部105を備えない場合は、外部の構成により外部機器を制御してもよい。
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における生体疲労評価装置400の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、生体疲労評価装置400は、生体信号を計測する生体信号計測部401、生体信号から特徴量を抽出する特徴量抽出部402、特徴量を記憶する記憶部403、及び疲労の質を判定する疲労質判定部406を備えている。なお、同図に示すように、生体疲労評価装置400は、疲労の質の判定結果に基づいて外部機器を制御する機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
生体信号計測部401は、ユーザの心拍或いは脈波を生体信号として計測する。具体的には、生体信号計測部401は、例えば、心電図、脈波、脳波、脳磁図のような生体信号を計測する生体センサー部である。
心電図や脳波などの生体電気量を取得する場合は、生体皮膚表面に複数の電極を装着し、電気信号として体外に導出する方法が代表的である。脳磁図など生体磁気量を取得する場合は、微弱な磁束密度を計測するため、フラックスゲート形磁束計またはさらに高感度の超伝導量子干渉計が用いられる。脈波を取得する場合は、LEDなどの光源を用いて生体に赤外光を照射し、フォトダイオードで生体を通過した光強度を電気信号へ変換して取得する方法が代表的である。
本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、困難な作業が原因で生じる疲労(以下、困難な作業による疲労と記す)、単調な作業が原因で生じる疲労(以下、単調な作業による疲労と記す)という疲労の質と、自律神経活動の1つである副交感神経活動量とが関連することを見出した。具体的には、困難な作業による疲労の際に副交感神経活動量は有意に低下し、単調な作業による疲労の際に副交換神経活動量は有意に低下しない(すなわち、単調な作業による疲労に伴った副交換神経活動量の低下が見られない)傾向を見出した。
副交感神経活動量を表す指標値は、心電図における心拍間隔や、脈拍間のa波間隔の時系列データを周波数解析して求めたパワースペクトルのうち0.15Hzから0.4Hzまでの高周波帯域(High Frequency、以下、HFと記す)のパワー値が代表的である。また、副交感神経活動量を表す指標値は、このパワー値に限ったものではなく、HFのパワー値を対数化したlnHFでもよい。また、その他にも、パワースペクトルのその他の帯域(0.04Hz以下の帯域であるVery Low Frequency(VLF)、0.04Hzから0.15Hzまでの帯域であるLow Frequency(LF)など)をあわせたトータルパワー値で、HFのパワー値を除した%HFなどでもよい。本発明者らが実施した、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
ここでは、脈波を用いて算出した値を副交感神経活動量の指標値とする場合を例にとり、生体疲労評価装置400の動作について以下に説明する。
まず、生体信号計測部401は、ユーザの脈波信号を生体信号として計測する。
特徴量抽出部402は、生体信号計測部401により計測された生体信号から得られる、副交感神経活動量を示す第二特徴量を抽出する。
具体的には、特徴量抽出部402は、生体信号計測部401により計測された脈波信号を2階微分した加速度脈波波形から脈拍間のa波の間隔(以下、aa間隔と記す)を求め、aa間隔の時系列データを用いて自律神経活動の1つである副交感神経活動量を求める。例えば、特徴量抽出部402は、高速フーリエ変換(FFT)や最大エントロピー法(MEM)などを用いて、aa間隔の時系列データに対して周波数解析を行い、パワースペクトルにおけるHFのパワー値を計算して求める。
そして、特徴量抽出部402は、計算したHFのパワー値を、記憶部403に時系列的に記憶させる。なお、特徴量抽出部402は、HFのパワー値を、周波数解析をするために必要となる最小時間区間(例えば30秒間など)における算出値としてもよいし、最小時間区間における算出値をさらに時系列的に集めたある一定区間(例えば2分間など)における平均値としてもよい。
記憶部403は、特徴量抽出部402により抽出された第二特徴量を記憶しているメモリである。具体的には、記憶部403は、特徴量抽出部402から特徴量としてHFのパワー値が出力される度に、時系列的にHFのパワー値を蓄積する。
疲労質判定部406は、特徴量抽出部402により抽出された第二特徴量を用いて、困難な作業による疲労か、或いは単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。
具体的には、疲労質判定部406は、少なくとも2つの時点におけるHFのパワー値を比較して疲労の質を判定する。つまり、疲労質判定部406は、特徴量抽出部402により抽出された第二特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部403に記憶されている第二特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の質を判定する。
例えば、疲労質判定部406は、特徴量抽出部402から新しくHFのパワー値が出力されると、記憶部403に記憶されているHFのパワー値の中で時系列的に1つ前の時点のHFのパワー値と、現時点のHFのパワー値を比較する。もちろん、疲労質判定部406による疲労の質の判定は、これに限定されるものではなく、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶されたHFのパワー値を基準値として、現時点のHFのパワー値と比較してもよい。
そして、疲労質判定部406は、第二特徴量が時系列的に減少した場合に、困難な作業による疲労であると判定し、減少しない場合に、単調な作業による疲労であると判定する。
図5A及び図5Bは、本実施の形態2における疲労質判定部406による疲労の質判定の一例を示すフローチャートである。
まず、疲労質判定部406が、図5Aに示す動作を行う場合について説明する。疲労質判定部406は、特徴量抽出部402からHFのパワー値が出力されると(ステップS51)、記憶部403に記憶されているHFのパワー値の中で、時系列的に1つ前の時点のHFのパワー値を呼び出す(ステップS52)。
そして、疲労質判定部406は、これら2つの値である現在のHFのパワー値と1つ前の時点のHFのパワー値とを比較する(ステップS53)。
疲労質判定部406は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さいと判断した場合(ステップS53でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS54)。
また、疲労質判定部406は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さくないと判断した場合(ステップS53でNo)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS55)。
その後、次に特徴量抽出部402からHFのパワー値が出力されれば、疲労質判定部406は、ステップS51からの動作をくり返す。
なお、2つ以上の時点における他の比較方法として、例えば、疲労質判定部406は、現時点からある期間分前までの、全ての時点のHFのパワー値の合算を所定閾値と比較してもよい。そして、疲労質判定部406は、HFのパワー値の合算が所定閾値以下であれば困難な作業による疲労であると判定し、HFのパワー値の合算が所定閾値以下でなければ単調な作業による疲労であると判定してもよい。
また、疲労質判定部406は、図5Bに示す動作を行ってもよい。図5Bに示す動作を行う場合、ステップS51〜ステップS53までの動作フローは図5Aに示した動作例と同様である。
疲労質判定部406は、ステップS53において、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さいと判断した場合(ステップS53でYes)、1つ前の時点のHFのパワー値から現時点のHFのパワー値の変化量を算出し、当該変化量と予め設定された閾値L2(例えば、lnHFの変化量が0.3程度になるようなHFのパワー値の変化量)とを比較する(ステップS56)。
疲労質判定部406は、算出した変化量が閾値L2よりも大きいと判断した場合(ステップS56でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS57)。
また、疲労質判定部406は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さくないと判断した場合(ステップS53でNo)、または算出した変化量が閾値L2よりも大きくないと判断した場合(ステップS56でNo)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS58)。
その後、次に特徴量抽出部402からHFのパワー値が出力されれば、疲労質判定部406は、ステップS51からの動作をくり返す。
なお、閾値L2は、lnHFの変化量が0.3程度になるようなHFのパワー値の変化量に限ったものではないが、後述する実験結果に鑑みると、lnHFの変化量が0.25程度から0.4程度の範囲に含まれる値になるようなHFのパワー値の変化量にするのが好ましい(図20参照)。
生体疲労評価装置400が、機器制御部405を備える場合、機器制御部405は、疲労質判定部406により判定された結果に基づいて、外部機器を制御する。例えば、機器制御部405は、表示機能を持つディスプレイや音を出力するスピーカーのようなものを制御して、ユーザやユーザを管理監督する部署へ疲労質判定結果を報知してもよい。
また、機器制御部405は、疲労質判定部406により判定された疲労の質に応じてユーザに刺激を与える外部機器を制御してもよい。例えば、機器制御部405は、気流や熱を発生する機器を制御して、疲労の質に適した回復または軽減させる効果のある香りや気流、温熱などの刺激を出力してもよい。或いは、機器制御部405は、疲労質判定部406により判定された結果を、保存・蓄積、伝送してもよい。
以上のように、生体疲労評価装置400は、副交感神経活動量を示す指標値に基づいて、困難な作業による疲労か、単調な作業による疲労かという疲労の質を判定する。このような構成により、ユーザの疲労の質を判定することができ、例えばそれにより与える処方(休息、睡眠、薬など)を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。また、生体疲労評価装置400は、場面によらず、計測が容易な心電図或いは脈波を用いて副交感神経活動量を抽出し、疲労の質を判定するため、優れた汎用性を有する。
また、本構成によって、疲労の質に応じてユーザに刺激を与えることで、疲労の質の判定結果をユーザへ提示したり、ユーザに適した回復支援を行うことができる。
なお、生体疲労評価装置400が機器制御部405を備えない場合は、外部の構成により外部機器を制御してもよい。
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3における生体疲労評価装置600の構成を示すブロック図である。図6において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する場合がある。
同図に示すように、生体疲労評価装置600は、生体信号計測部401、特徴量抽出部602、記憶部603、疲労質判定部606を備え、さらにユーザが開眼状態か閉眼状態かを識別する識別部601を備える。また、生体疲労評価装置600は、機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
今回、本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、脳内信号(脳波または脳磁図)に基づいて抽出される閉眼状態でのα波、または開眼状態及び閉眼状態でのβ波と、困難な作業による疲労、単調な作業による疲労という疲労の質とが関連することを見出した。具体的には、困難な作業による疲労の際に閉眼状態でのα波は有意に増加し、単調な作業による疲労の際に開眼状態及び閉眼状態のβ波が有意に低下することを見出した。
α波に関する指標値としては、脳内信号の時系列データを周波数解析して求めたパワースペクトルにおけるα波帯域(8Hz以上13Hz以下)のパワー値(以下、αと記す)が代表的である。また、α波に関する指標値は、αの対数値(以下の式1で示される値)、またはθ波帯域(3Hz以上8Hz以下)のパワー値(以下、θと記す)の対数値を用いて表現する、閉眼状態でのSlow‐wave Index(以下の式2で示される値)でもよい。
(式1)lnα
(式2)lnθ/lnα
また、α波に関する指標値は、αをθとαとβ波帯域(13Hz以上25Hz以下)のパワー値(以下、βと記す)とをあわせたトータルパワー値で除した%α(以下の式3で示される値)、θをトータルパワー値で除した%θ(以下の式4で示される値)、または%θを用いた閉眼状態でのSlow‐wave Index(以下の式5で示される値)でもよい。
(式3)%α=α/(θ+α+β)
(式4)%θ=θ/(θ+α+β)
(式5)%θ/%α
また、α波に関する指標値は、α波の最も特徴的な性質の一つである、開眼によって抑制されるα波ブロックを表現した値を用いてもよい。例えば、α波に関する指標値は、以下の式6に示すように、開眼状態におけるα(以下、α(開)と記す)と閉眼状態におけるα(以下、α(閉)と記す)との差としてのα‐blocking(閉眼−開眼)でもよいし、以下の式7に示すように、α(開)に対するα(閉)の比としてのα‐blocking(閉眼/開眼)でもよい。
(式6)α(閉)−α(開)
(式7)α(閉)/α(開)
また、当該指標値は、θとθ波帯域の中心周波数(Center frequency)との乗算値、αとα波帯域の中心周波数との乗算値、及びβとβ波帯域の中心周波数との乗算値の総和をトータルパワー値で除した平均周波数(Mean power frequency)(以下の式8で示される値)でもよい。
(式8)(θ×5.5+α×10.5+β×19)/(θ+α+β)
一方、β波に関する指標値としては、β波帯域(13Hz以上25Hz以下)のパワー値βが代表的である。その他、β波に関する指標値として、βの対数値(以下の式9で示される値)、開眼状態或いは閉眼状態のSlow‐wave Index(以下の式10で示される値)、開眼状態におけるSlow‐wave Index(以下の式11で示される値)、%β(以下の式12で示される値)、開眼状態或いは閉眼状態のSlow‐wave Index(以下の式13で示される値)などが挙げられる。
(式9)lnβ
(式10)lnθ/lnβ
(式11)(lnα+lnθ)/lnβ
(式12)%β=β/θ+α+β
(式13)%θ/%β
なお、式3に示された%α、式4に示された%θ、式12に示された%β、また式8に示された平均周波数を求める方法として、これに限定するものではなく、例えば、δ波帯域(0Hz以上3Hz以下)のパワー値もトータルパワーに加えて求めてもよい。しかし、通常、δ波帯域は瞬きの影響が大きい帯域であることから、除外される場合も少なくはない。
本発明者らが実施した生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
まず、上記で説明したαの対数値を指標値とする場合を例にとり、生体疲労評価装置600の動作について、以下に説明する。
まず、識別部601は、ユーザが開眼状態にあるか閉眼状態にあるかを識別する識別情報を生成する。具体的には、識別部601は、カメラや眼電位などの情報を用い、ユーザが開眼状態か、または閉眼状態かを識別し、生体信号計測部401へ識別情報として出力する。この識別情報は、例えば、開眼状態であれば1、閉眼状態であれば0というような情報である。
生体信号計測部401は、ユーザの脳内信号を生体信号として計測し、計測した生体信号に識別情報を付加する。具体的には、生体信号計測部401は、ユーザの脳内信号の中でも脳波を計測する。そして、生体信号計測部401は、識別部601から識別情報が入力されると、計測した脳波の時系列データに識別情報を付加して特徴量抽出部602へ出力する。
特徴量抽出部602は、生体信号計測部401により計測された生体信号から得られる、β波およびα波のうち少なくともどちらか一方に関連する第三特徴量を抽出する。つまり、特徴量抽出部602は、識別部601によりユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値、およびα波帯域のパワー値のうち少なくともどちらか一方のパワー値を用いた第三特徴量を抽出する。
例えば、特徴量抽出部602は、識別部601によりユーザが閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるα波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出する。また、特徴量抽出部602は、識別部601によりユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出する。
具体的には、特徴量抽出部602は、入力された脳波の時系列データに対して周波数解析を行い、α波に相当する周波数帯域(8Hz以上13Hz以下)、またはβ波(13Hz以上25Hz以下)に相当する周波数帯域、それぞれのパワー値(α、またはβ)を求める。これらは、周波数解析をするために必要となる最小時間区間(例えば30秒間など)におけるパワー値としてもよいし、最小時間区間における算出値をさらに時系列的に集めたある一定区間(例えば2分間など)におけるパワーの平均値としてもよい。そして、特徴量抽出部602は、それらを対数化したlnα、またはlnβを求める。
また、特徴量抽出部602は、求めたlnα、またはlnβを、入力された識別情報と共に記憶部603に時系列的に記憶させる。なお、上述したようにα波、β波に関連する指標値としては様々考えられ、パワー値の対数値に限定するものではない。
記憶部603は、特徴量抽出部602により抽出された第三特徴量を記憶するためのメモリである。具体的には、記憶部603は、特徴量抽出部602からlnα、またはlnβが出力される度に、時系列的にlnα、またはlnβを蓄積する。
疲労質判定部606は、特徴量抽出部602により抽出された第三特徴量を用いて、困難な作業による疲労か、或いは単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。具体的には、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602により抽出された第三特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部603に記憶されている第三特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の質を判定する。
具体的には、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から出力された識別情報が付与されているlnα、またはlnβと、記憶部603に記憶されている識別情報が付与されているlnα、またはlnβと、を比較して疲労の質を判定する。なお、疲労質判定部606は、lnαを用いる際は、識別情報として閉眼状態であるという情報が付与されたデータを用いることが望ましい。一方、疲労質判定部606は、lnβを用いる際は、開眼状態と閉眼状態のどちらの情報が付与されたデータを用いてもよい。
例えば、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602が、識別部601によりユーザが閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるα波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出し、当該第三特徴量が時系列的に増加した場合に、困難な作業による疲労であると判定する。また、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602が、識別部601によりユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出し、当該第三特徴量が時系列的に減少した場合に、単調な作業による疲労であると判定する。
具体的には、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαが出力されると、記憶部603に記憶されている閉眼状態におけるlnαの中で、時系列的に1つ前の時点のlnαと、現時点の閉眼状態におけるlnαを比較する。これは、開眼状態、或いは閉眼状態のlnβを用いる際も同様である。なお、ここでは疲労質判定部606は、時系列的に1つ前の時点の特徴量と現時点の特徴量とを比較するとしているが、これに限定するものではなく、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶された特徴量を基準値として、現時点の特徴量と比較してもよい。
図7A〜図9Bは、本実施の形態3における疲労質判定部606による疲労の質判定の一例を示すフローチャートである。
まず、疲労質判定部606が、図7Aに示す動作を行う場合について説明する。疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαが出力されると(ステップS71)、記憶部603に記憶されている閉眼状態におけるlnαの中で、時系列的に1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαを呼び出す(ステップS72)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の閉眼状態におけるlnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαとを比較する(ステップS73)。
疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きいと判断した場合には(ステップS73でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS74)。
また、疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きくないと判断した場合(ステップS73でNo)、次に特徴量抽出部602からlnαが出力されるまで待機し、次のlnαの出力後、ステップS71からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、図7Bに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602からα‐blocking(閉眼/開眼)が出力されると(ステップS75)、記憶部603に記憶されているα‐blocking(閉眼/開眼)の中で、時系列的に1つ前の時点のα‐blockingを呼び出す(ステップS76)。
疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点のα‐blockingと1つ前の時点のα‐blockingとを比較する(ステップS77)。
疲労質判定部606は、現時点のα‐blockingが1つ前の時点のα‐blockingよりも大きいと判断した場合には(ステップS77でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS78)。
また、疲労質判定部606は、現時点のα‐blockingが1つ前の時点のα‐blockingよりも大きくないと判断した場合には(ステップS77でNo)、次に特徴量抽出部602からα‐blockingが出力されるまで待機し、次のα‐blockingの出力後ステップS81からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、図8Aに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαとlnθ/lnα(以下、α特徴量と記す)とが出力されると(ステップS81)、記憶部603に記憶されている閉眼状態におけるα特徴量の中で、時系列的に1つ前の時点の閉眼状態におけるα特徴量を呼び出す(ステップS82)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の閉眼状態におけるlnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαとを比較する(ステップS83)。
まず、疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きいと判断した場合には(ステップS83でYes)、現時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαとを比較する(ステップS84)。
疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαよりも小さいと判断した場合には(ステップS84でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS85)。
疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きくない場合(ステップS83でNo)、次に特徴量抽出部602からα特徴量が出力されるまで待機し、次のα特徴量の出力後、ステップS81からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαよりも小さくないと判断した場合(ステップS84でNo)も同様に、次のα特徴量の出力後ステップS81からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、図8Bに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαと平均周波数とが抽出されると(ステップS86)、記憶部603に記憶されている時系列的に1つ前の閉眼状態におけるlnαと平均周波数とを呼び出す(ステップS87)。
疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の閉眼状態における平均周波数と1つ前の時点の閉眼状態における平均周波数とを比較する(ステップS88)。
疲労質判定部606は、これら2つの値の平均周波数が含まれる周波数帯域(θ波帯域、α波帯域、β波帯域など)に変化がなければ(ステップS88でYes)、現時点の閉眼状態におけるlnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαとを比較する(ステップS83)。
疲労質判定部606は、現時点のlnαが1つ前の時点のlnαより大きいと判断した場合(ステップS83でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS89)。
疲労質判定部606は、ステップS88で平均周波数が含まれる周波数帯域に変化があると判断した場合(ステップS88でNo)、及びステップS83で現時点のlnαが1つ前の時点のlnαよりも大きくないと判断した場合(ステップS83でNo)、次の特徴量が出力されるまで待機し、出力後、ステップS86からの動作をくり返す。
つづいて、疲労質判定部606が、図9Aに示す動作を行う場合について説明する。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から開眼状態におけるlnβが出力されると(ステップS91)、記憶部603に記憶されている開眼状態におけるlnβの中で、時系列的に1つ前の時点の開眼状態におけるlnβを呼び出す(ステップS92)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の開眼状態におけるlnβと1つ前の時点の開眼状態におけるlnβとを比較する(ステップS93)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態におけるlnβよりも小さいと判断した場合には(ステップS93でYes)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS94)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態のlnβよりも小さくないと判断した場合(ステップS93でNo)、次に特徴量抽出部602からlnβが出力されるまで待機し、次のlnβの出力後、ステップS91からの動作をくり返す。
なお、特徴量抽出部602において、閉眼状態におけるlnβを抽出し、疲労質判定部606において同様の処理を行ってもよい。この場合もステップS93の処理と同様に、疲労質判定部606は、現時点のlnβが1つ前の時点のlnβより小さいか否かに基づいて、単調な作業による疲労か否かを判定する。
また、疲労質判定部606は、図9Bに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から開眼状態におけるlnβとlnθ/lnβ(以下、β特徴量と記す)が出力されると(ステップS95)、記憶部603に記憶されている開眼状態におけるβ特徴量の中で、時系列的に1つ前の時点の開眼状態におけるβ特徴量を呼び出す(ステップS96)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の開眼状態におけるlnβと1つ前の時点の開眼状態におけるlnβとを比較する(ステップS93)。
まず、疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態におけるlnβよりも小さいと判断した場合には(ステップS93でYes)、現時点の開眼状態におけるlnθ/lnβと1つ前の時点の開眼状態におけるlnθ/lnβとを比較する(ステップS97)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnθ/lnβが1つ前の時点の開眼状態におけるlnθ/lnβよりも大きいと判断した場合(ステップS97でYes)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS98)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態のlnβよりも小さくないと判断した場合(ステップS93でNo)、次に特徴量抽出部602からβ特徴量が出力されるまで待機し、次のβ特徴量の出力後、ステップS95からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnθ/lnβが1つ前の時点の開眼状態のlnθ/lnβよりも大きくないと判断した場合(ステップS97でNo)も同様に、次のβ特徴量の出力後ステップS95からの動作をくり返す。
なお、特徴量抽出部602において、閉眼状態におけるβ特徴量を抽出し、疲労質判定部606において同様の処理を行ってもよい。この場合もステップS93、ステップS97の処理と同様に、疲労質判定部606は、現時点のlnβが1つ前の時点のlnβより小さいか否か、及び現時点のlnθ/lnβが1つ前の時点のlnθ/lnβより大きいか否か、に基づいて、単調な作業による疲労か否かを判定する。
以上では、困難な作業による疲労と判定する場合と単調な作業による疲労と判定する場合とで分けて説明したが、もちろん両者を組み合わせれば、脳内信号から、困難な作業による疲労か単調な作業による疲労かという疲労の質を判定できる。
以上のように、生体疲労評価装置600は、脳内信号からβ波、α波のうち少なくともいずれか一方に関連する特徴量に基づいて、困難な作業による疲労か、単調な作業による疲労かの疲労の質を判定することができる。判定した疲労の質に基づいて、例えば、ユーザに与える処方(休息、睡眠、薬など)を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。また、生体疲労評価装置600は、頭部にセンサーを接触させることで計測する脳内信号から疲労の質を判定することができるため、例えば、帽子やヘッドセットマイクなどを装着する職業の人々の労務管理に応用することもできる。
また、本構成によって、脳内信号におけるβ波帯域のパワー値、α波帯域のパワー値のうち少なくともどちらか一方のパワー値を、ユーザの開眼状態における値か閉眼状態における値かを区別して用いるため、より疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、ユーザが閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるα波帯域のパワー値からユーザの疲労が困難な作業による疲労かを判定するため、より疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。また、疲労の質判定により困難な作業による疲労に対して、ユーザに適した回復支援を図ることが可能となる。
また、本構成によって、ユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値からユーザの疲労が単調な作業による疲労かを判定するため、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。また、疲労の質判定により単調な作業による疲労に対して、ユーザに適した回復支援を図ることが可能となる。
また、本構成によって、疲労の質に応じてユーザに刺激を与えることで、疲労の質の判定結果をユーザへ提示したり、ユーザに適した回復支援を行うことができる。
なお、生体疲労評価装置600が、機器制御部405を備えない場合は、外部の構成により外部機器を制御してもよい。
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4における生体疲労評価装置1000の構成を示すブロック図である。図10において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
同図に示すように、生体疲労評価装置1000は、生体信号計測部401、特徴量抽出部1002、記憶部1003、疲労質判定部1006を備え、さらにユーザに対して聴覚刺激を出力する刺激出力部1001を備えている。また、生体疲労評価装置1000は、機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
今回、本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、トーンバースト刺激(1000Hzで90dB)による聴覚刺激に対する、加速度脈波波形における特徴量の変化が、疲労の質により異なることを見出した。
具体的には、聴覚刺激に対して加速度脈波波形に関連する特徴量は精神疲労負荷前も単調な作業による疲労負荷後も有意に変化するが、困難な作業による疲労負荷後には、有意に変化しないことを見出した。すなわち、困難な作業による疲労の際には、聴覚刺激に対する脈波の反応が鈍化するといえる。
ここでいう加速度脈波波形に関連する特徴量は、実施の形態1で挙げたc波またはd波の情報を含む、複数の加速度脈波波形成分の情報を用いた特徴量を用いればよい。本発明者らが実施した、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
ここでは、生体信号計測部401が脈波を計測し、特徴量抽出部1002がc波とa波の波高比であるc/a値を抽出する場合を例にとり、以下に説明する。
刺激出力部1001は、ユーザに対して聴覚を刺激する聴覚刺激を出力する。具体的には、刺激出力部1001は、聴覚刺激をユーザに対して出力し、聴覚刺激を出力したことを示す刺激情報を生体信号計測部401へ出力する。
ここで、ユーザに対して出力する聴覚刺激は、医学分野の臨床実験でよく用いられる1000Hzで90dBの音刺激を数分間与えるような刺激とするとよい。なお、この刺激情報は、例えば、聴覚刺激を出力している場合には1、出力していない場合には0というような情報である。
生体信号計測部401は、ユーザの脈波信号を計測するとともに、刺激出力部1001から刺激情報が入力されると、計測した脈波信号の時系列データに刺激情報を付加して特徴量抽出部1002へ出力する。
特徴量抽出部1002は、生体信号計測部401により計測された脈波信号の収縮期後方成分から得られる第一特徴量を抽出する。つまり、特徴量抽出部1002は、脈波信号から加速度脈波を算出し、加速度脈波のa波の波高値に対するc波の波高値の比を第一特徴量として抽出する。
具体的には、まず、特徴量抽出部1002は、生体信号計測部401により計測された脈波信号を2階微分して加速度脈波波形へ変換する。加速度脈波波形成分の中でも特に容積脈波の収縮期後方成分に相当するc波と、収縮期前方成分に相当するa波の比であるc/a値を求め、c/a値を刺激情報と共に記憶部1003に出力する。
記憶部1003は、特徴量抽出部1002により抽出された第一特徴量を時系列的に記憶する。なお、特徴量抽出部1002においてc/a値を抽出する際は、脈波信号1拍分ごとの値をそのまま出力してもよいし、予め定められた時間区間(例えば10秒など)における平均値を出力してもよい。
疲労質判定部1006は、特徴量抽出部1002により抽出された第一特徴量を用いて、困難な作業による疲労か、或いは単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。
具体的には、疲労質判定部1006は、記憶部1003に記憶されている刺激出力部1001により聴覚刺激が出力される前の時間区間における第一特徴量と、刺激出力部1001により聴覚刺激が出力された時の時間区間における第一特徴量とを比較して、疲労の質を判定する。
つまり、疲労質判定部1006は、記憶部1003に記憶されている刺激出力部1001により聴覚刺激が出力される前の時間区間における第一特徴量に対し、刺激出力部により聴覚刺激が出力された時の時間区間における第一特徴量が増加した場合に、単調な作業による疲労であると判定し、増加していない場合に、困難な作業による疲労であると判定する。
さらに具体的には、疲労質判定部1006は、刺激情報が付与されていないc/a値と刺激情報が付与されているc/a値とを比較して、疲労の質を判定する。したがって、疲労質判定部1006は、特徴量抽出部1002から新しく刺激情報が付与されているc/a値が出力されると、記憶部1003に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値を呼び出し、現時点の刺激情報が付与されているc/a値と比較する。
もちろん、疲労質判定部1006による疲労の質の判定は、これに限定されるものではなく、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶された刺激情報が付与されていないc/a値を基準値として、現時点の刺激情報が付与されているc/a値と比較してもよい。
図11は、本実施の形態4における疲労質判定部1006による疲労の質判定の一例を示すフローチャートである。
同図に示すように、疲労質判定部1006は、特徴量抽出部1002から刺激情報が付与されているc/a値が出力されると(ステップS111)、記憶部1003に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値を呼び出す(ステップS112)。
疲労質判定部1006は、これら2つの値である現時点の刺激情報が付与されているc/a値と1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値とを比較する(ステップS113)。
疲労質判定部1006は、現時点の刺激情報が付与されているc/a値が1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS113でYes)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS114)。
また、疲労質判定部1006は、現時点の刺激情報が付与されているc/a値が1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値よりも大きくないと判断した場合(ステップS113でNo)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS115)。
以上のように、生体疲労評価装置1000は、聴覚刺激に対する加速度脈波波形に関連する特徴量の変化から、ユーザの疲労が困難な作業による疲労か単調な作業による疲労かという疲労の質を判定する。このような構成により、ユーザの疲労の質を判定することができ、それにより与える処方(休息、睡眠、薬など)を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。また、生体疲労評価装置1000は、場面によらず、計測が容易な脈波と特別な装置が不要な聴覚刺激を用いて疲労の質を判定するため、優れた汎用性を有する。例えば、運転中にドライバが触れる箇所から脈波を計測し、カーナビが出力する音刺激に対する、脈波信号の変化を用いて疲労の質を判定することもでき、運転モニタリング装置としても応用することができる。
(実施の形態5)
図12は、本発明の実施の形態5における生体疲労評価装置1200の構成を示すブロック図である。図12において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
同図に示すように、生体疲労評価装置1200は、生体信号計測部401、特徴量抽出部1202、記憶部1203、疲労質判定部1206を備え、ユーザにおける疲労の有無を判断する疲労判断部1204をさらに備える。また生体疲労評価装置1200は、機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
ここでは、生体信号計測部401で脈波信号を計測する場合を例にとり、生体疲労評価装置1200の動作について、以下に説明する。
特徴量抽出部1202は、生体信号計測部401により脈波信号が計測されると、実施の形態1と同様にしてc/a値と、実施の形態2と同様にしてHFのパワー値とを抽出する。ここで、特徴量抽出部1202は、c/a値について、脈波信号1拍分ごとの値をそのまま出力してもよいし、HFのパワー値の最小時間区間(例えば30秒間など)と同じ時間区間における平均値を出力してもよい。
記憶部1203は、特徴量抽出部1202により抽出されたc/a値とHFのパワー値とを時系列的に蓄積する。
疲労判断部1204は、実施の形態1と同様にして、疲労の有無を判断する。
疲労質判定部1206は、疲労判断部1204が疲労していると判断した場合に、実施の形態2と同様にして、困難な作業による疲労か単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。
図13は、本実施の形態5における生体疲労評価装置1200の動作の一例を示すフローチャートである。
具体的には、同図は、生体疲労評価装置1200を自動車の運転時に適用した場合の処理を示すフローチャートである。ここで、生体信号計測部401の形態は、ステアリング部へ搭載した生体センサーでもよいし、ドライバの指や耳など適切な部位へ装着するウェアラブル生体センサーでもよい。
同図に示すように、生体信号計測部401により脈波が計測されると(ステップS1301)、特徴量抽出部1202によりc/a値とHFのパワー値とが抽出され出力される(ステップS1302)。
疲労判断部1204は、特徴量抽出部1202からc/a値が出力されると、記憶部1203に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点のc/a値を呼び出す(ステップS1303)。
そして、疲労判断部1204は、これら2つの値である現時点のc/a値と1つ前の時点のc/a値とを比較する(ステップS1304)。
疲労判断部1204は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS1304でYes)、疲労していると判断し、疲労している判断が下されたことを示す信号を疲労質判定部1206へ出力する(ステップS1305)。ここで、出力する疲労判断の信号は、例えば、疲労している場合には1、そうでない場合は0などとすればよい。
また、疲労判断部1204は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きくないと判断した場合(ステップS1304でNo)、次に特徴量抽出部1202からc/a値とHFのパワー値とが出力されるまで待機し、次のc/a値及びHFのパワー値の出力後、ステップS1302からの動作をくり返す。
次に、疲労質判定部1206は、疲労判断部1204から疲労している判断が下されたことを示す信号を受信すると、記憶部1203に記憶されているHFのパワー値の中で、時系列的に1つ前の時点のHFのパワー値を呼び出す(ステップS1306)。
そして、疲労質判定部1206は、これら2つの値である現時点のHFのパワー値と1つ前の時点のHFのパワー値とを比較する(ステップS1307)。
疲労質判定部1206は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さいと判断した場合(ステップS1307でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS1308)。
一方、疲労質判定部1206は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さくないと判断した場合(ステップS1307でNo)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS1309)。
次に、機器制御部405は、疲労質判定部1206から困難な作業による疲労という判定結果が出力された場合、カーナビの設定ルートの難易度を下げたり、安全な場所での停車を誘導して休息を促したりなどのアシスト機能を実行させる(ステップS1310)。
一方、機器制御部405は、疲労質判定部1206から単調な作業による疲労という判定結果が出力された場合、カーナビの設定のルートを単調さの少ないルートへ切り替えたり、リフレッシュ効果のある香りや温熱、気流刺激を出力したり、音楽のビートやテンポを速めたりなどのアシスト機能を実行させる(ステップS1311)。
ここでは、疲労判断部1204が脈波に関連する特徴量に基づいて疲労の有無を判断し、疲労質判定部1206が副交感神経活動量に関連する特徴量に基づいて疲労の質を判定したが、これに限定されるものではない。疲労判断部1204がさらに脳波に関連する特徴量を用いて疲労の有無を判断してもよいし、疲労質判定部1206が実施の形態3または実施の形態4と同様にして疲労の質を判定してもよい。
以上のように、生体疲労評価装置1200は、脈波に関連する特徴量と自律神経活動の1つである副交感神経活動量に関連する特徴量に基づいて、疲労の有無の判断及び困難な作業による疲労か、単調な作業による疲労かの疲労の質を判定する。このような構成により、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労の有無の判断精度及び疲労の質の判定精度を向上させることができる。また、疲労の質の判定結果により、ユーザに与える処方を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。
(その他の変形例)
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
(1)上記の各装置の全部、もしくは一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合、前記RAMまたはハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
(4)本発明は、上記に示すコンピュータの処理で実現する方法であるとしてもよい。また、本発明は、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録したものとしてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなどである。また、本発明は、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
また本発明は、マイクロプロセッサとメモリとを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
また前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、または前記プログラムまたは前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
(5)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ任意に組み合わせた構成としてもよい。
上記実施の形態1から5はいずれも、本発明者らが非侵襲的な生体疲労評価可能性検証を目的とした被験者実験を通じて、ヒトが疲労に陥った状態(疲労している状態)、及び疲労中に、困難な作業による疲労と単調な作業による疲労とで、心電図や加速度脈波や脳波、脳磁図の変化に異なる相関性があることを見出したことに基づくものである。
以下に、本被験者実験をより詳細に説明するが、本被験者実験はこれらに限定されるものではない。
<精神疲労負荷の妥当性検証>
(1)試験デザイン
本発明者らは、健常成人20名(男性、年齢32.0±10.2歳(平均±標準偏差))を被験者として、パーソナルコンピュータ(PC)を用いた2種類のN‐backテストを30分間実施することで精神疲労負荷を与え、その前後にAdvanced Trail Making Test(ATMT)によるパフォーマンス評価(課題遂行時の総トライアル数及びエラー数の測定)をそれぞれ30分間実施した。
また、ATMT実施前後には主観検査を実施し、その内容としては、Visual Analog Scale(VAS)により全体的疲労感、精神的疲労感、身体的疲労感、ストレス、意欲、眠気、難しさ、単調さ、退屈さを測定し、Karolinska Sleepness Scale(KSS)により眠気を測定した。2種類の試験はクロスオーバーで実施し、試験を行う順序による影響を除外した。
(2)精神疲労負荷方法
N‐backテストの中でも、0‐backテストと2‐backテストを採用した。0‐backテストは、ワーキングメモリを使用せず、指定された数字や文字或いは記号が表示されたかどうかを被験者に判断させるテストであり、単調作業を強いるものである。
本発明者らはこれを30分間連続して実施することにより、被験者に対して単調な作業による疲労を引き起こすことを想定した。具体的な作業としては、PCの画面に指定した数字や文字或いは記号が表示された場合はPCマウスの右クリックを、そうでない場合はPCマウスの左クリックを実行してもらう、というものである。
一方、2‐backテストは、ワーキングメモリを使用し、現在表示されている数字や文字或いは記号が、2つ前に表示された数字や文字或いは記号と同一かどうかを被験者に判断させるテストであり、困難作業を強いるものである。
本発明者らはこれを30分間連続して実施することにより、被験者に対して困難な作業による疲労を引き起こすことを想定した。具体的な作業としては、PCの画面に表示された数字や文字或いは記号が、2つ前に表示された数字や文字或いは記号と同一である場合はPCマウスの右クリックを、そうでない場合はPCマウスの左クリックを実行してもらう、というものである。数字や文字或いは記号の表示時間は0.5secとし、数字や文字或いは記号の表示を消滅させてから次の表示までの表示タイミングは2.5sec間隔とした。
(3)結果
図14は、精神疲労負荷前後のATMTの成績変化を示す図である。
30分間のN‐backテスト遂行にて疲労が誘発されるかどうかを判断するために、精神疲労負荷前後のATMTの成績を見てみると、0‐backテスト実施群及び2‐backテスト実施群ともにエラー数において有意な増加が認められた。なお、30分間のリラックス課題においては、課題前後のATMTのエラー数の変化が認められないことは、従前、確認されている。
ここで、同図に示す「*P<0.05」は、同図中の*マークのグラフにおいて、統計学的に5%の有意水準を満たしてエラー数が増加したことを示している。なお、以下の図においても同様であるため、各図において詳細な説明は省略する。
図15Aは、精神疲労負荷前後における主観申告スコアを示す図である。
精神疲労負荷前後の全体的疲労感及び精神的疲労感VASスコアの成績を見てみると、0‐backテスト実施群及び2‐backテスト実施群とも有意な増加が認められた。したがって、精神的パフォーマンスの低下及び疲労感の増加が、30分間のN‐backテスト遂行にて示され、本試験(30分間のN‐backテスト)は疲労試験として適切であると判定した。
また、図15Bは、試験終了時に記録したN‐backテスト遂行時の主観申告スコアを示す図である。
試験終了時に記録したN‐backテスト遂行時の主観検査では、2‐backテスト実施群は0‐backテスト実施群に比べて精神的疲労感及び難しさVASスコアが有意に高値を示した。一方、0‐backテスト実施群は2‐backテスト実施群に比べて、単調さ及び退屈さVAS及び眠気KSSスコアが有意に高値を示した。
このことは、30分間の0‐backテストが、「単調で、退屈な、負荷の小さい課題」であり、30分間の2‐backテストが、「困難で、負荷の大きい課題」であることを示している。
以上により、30分間の0‐backテストが、「単調で、負荷の小さい作業による疲労を引き起こす課題」として適切であると考えられた。また、30分間の2‐backテストが、「困難で、負荷の大きい作業による疲労を引き起こす課題」として適切であると考えられた。
<非侵襲的疲労評価可能性検証>
(1)試験デザイン
本発明者らは、健常成人10名(男性、年齢30.8±9.4歳(平均±標準偏差))を被験者として、実施例1で「単調で、負荷の小さい作業による疲労を引き起こす課題」として適切だと証明された0‐backテストと、「困難で、負荷の大きい作業による疲労を引き起こす課題」として適切だと証明された2‐backテストとを、精神疲労を引き起こす課題としてそれぞれ30分間実施した。
試験の具体的な流れとしては、課題実施前検査として、安静時検査、視覚刺激検査、聴覚刺激検査を行った。最初に安静時検査として、開眼状態で2分間安静にしてもらい、つづいて閉眼状態で1分間安静にしてもらった。次に視覚刺激検査として、赤色発光ダイオードの点滅による左半視野に対する光刺激を負荷した。刺激は1分ずつ2回試行し、1回目は1Hz、2回目は16Hzの点滅刺激を用いた。
その次に聴覚刺激検査として、トーンバースト刺激(1000Hz、90dB)を用いて約4分ずつ1回目は右耳へ、2回目は左耳へ刺激を負荷した。聴覚刺激検査終了の後、0‐backテスト及び2‐backテストを30分間実施した。
N‐backテスト実施後は、課題実施後検査を行った。課題実施後検査は課題実施前検査と同様であるが、安静時検査、聴覚刺激検査、視覚刺激検査の順に実施した。そして、課題実施前の安静時検査から課題実施後の視覚刺激検査までの間、連続で加速度脈波(APG)、心電図(ECG)、脳波(EEG)、脳磁図(MEG)を計測した。
また、課題実施前後には主観検査を実施し、Visual Analog Scale(VAS)により全体的疲労感、精神的疲労感、身体的疲労感、ストレス、意欲、眠気、難しさ、単調さ、退屈さを測定し、Karolinska Sleepness Scale(KSS)により眠気を測定した。
さらに、被験者における慢性的な疲労具合も調査するため、2種類の試験の実施日のうち初日のみ、試験開始前にChalder’s fatigue scaleにより疲労の強さを測定した。また、2種類の試験はクロスオーバーで実施し、試験を行う順序による影響を除外した。
(2)観察項目
APG検査:測定には指尖用フィンガープローブ(日本光電工業株式会社製)と独自開発した加速度脈波計測プログラムを用いた。これにより、指尖容積脈波を2階微分した加速度脈波を測定してa波、b波、c波、d波、e波それぞれの波高値を測定し、精神疲労負荷であるN‐backテストに伴う加速度脈波波形の波高値やそれらを用いた特徴量の変化を解析した。また、脈拍間のa波の間隔であるaa間隔変動の時系列データから最大エントロピー法により周波数解析を実施してLow Frequency component(LF)やHigh Frequency component(HF)を算出し、精神疲労負荷であるN‐backテストに伴う自律神経活動指標の変化を解析した。さらにN‐backテスト実施前と実施後に聴覚刺激を与えた際の加速度脈波波形の反応の違いを解析した。
ECG検査:測定にはアクティブトレーサー(アームエレクトロニクス株式会社製)を用いた。これにより、心拍変動を測定し、最大エントロピー法による周波数解析を実施してLFやHFを算出し、精神疲労負荷であるN‐backテストに伴う自律神経活動指標の変化を解析した。
EEG検査:測定にはNEUROFAX EEG 1518(日本光電工業株式会社製)を用いた。これにより、脳波の時系列データを取得し、高速フーリエ変換法(FFT)による周波数解析を実施した。解析対象部位は、Kaidaらの研究報告(非特許文献:Kaida K et al., Validation of Karolinska sleepiness scale against performance and EEG variables. Clinical Neurophysiology. 117: 1574−1581, 2006.)を参考として、国際10‐20法におけるF3、C3、O1とした。解析周波数帯域はθ波帯域(3Hz以上8Hz以下)、α波帯域(8Hz以上13Hz以下)、β波帯域(13Hz以上25Hz以下)とし、これらのパワー値の算術和をトータルパワー値とした。なお、δ波帯域(0Hz以上3Hz以下)は開眼状態での瞬目の影響を考慮し、解析から除外した。
MEG検査:測定には160チャネルヘルメット型脳磁図計(MEG vision)(横河電機株式会社製)を用いた。これにより、N‐backテスト実施前後における開眼安静時及び閉眼安静時に自発磁場活動を測定し、これに対してFFTによる周波数解析を実施した。FFTによる自発脳活動の周波数解析対象は全160チャネルとし、各周波数の範囲はEEGと同様に定義した。
なお、2群間の比較についてはPaired t‐testを実施した。2群間の相関についてはPearsonの相関分析を実施した。P値は0.05未満を統計学的有意と判定した。
(3)結果
N‐backテスト実施後の主観データでは、0‐backテスト実施群は2‐backテスト実施群に比べて、眠気、単調、退屈VASスコアが有意に高値を示した。一方では、2‐backテスト実施群は0‐backテスト実施群に比べて、ストレス及び難しさのVASスコアが有意に高値を示す傾向にあった。これらの結果は、実施例1の結果とほぼ同じ傾向であり、本試験の信頼性・妥当性を保証するものと考えられた。
図16Aは、精神疲労負荷(0‐back)前後におけるAPG波形の波高値の変化を表す図である。図16Bは、精神疲労負荷(2‐back)前後におけるAPG波形の波高値の変化を表す図である。
これらの図に示すように、APGの波形解析において、特許文献1が示すような先の研究でも報告があるように、0‐backテスト実施群及び2‐backテスト実施群ともに、N‐backテストによりa波、e波の有意な低下及びb波の有意な上昇が認められた。しかし、c波またはd波については、精神疲労負荷の影響が見られなかった。
つまり、c波またはd波は、疲労以外の要因による影響で変化する成分波である。このため、指標値にc波またはd波を用いることで、疲労以外の要因による影響を相殺することができる。
今回見出したこの現象は、単調な作業による疲労や困難な作業による疲労を問わず、疲労共通の特徴であると考えられた。そこで、c波またはd波を用いたc/a、c/b、c/e、a−c及びc−a、さらに|d−c|/aのような指標値を算出して精神疲労負荷に対する変化を分析した。
図17は、精神疲労負荷前後におけるAPGに基づく指標値(c/a、c/b、c/e)の変化を表す図である。また、図18は、精神疲労負荷前後におけるAPGに基づく指標値(a−c、c−a、|d−c|/a)の変化を表す図である。
これらの図に示すように、精神疲労負荷に対する変化を分析したところ、N‐backテストにより、c/a、c/e、c−a、|d−c|/aが有意に増加し、c/b、a−cが有意に減少することがわかった。例えば、図17に示すc/a値は、0‐backテスト実施群の場合、疲労前後で0.043から0.091へと有意に増加し、2‐backテスト実施群の場合、疲労前後で0.048から0.085へと有意に増加した。
これらの精神疲労負荷の影響が見られないc波またはd波を用いた指標値は、波高値をそのまま用いる場合に比べて、疲労以外の要因による影響を相殺することが可能になり、疲労評価においてはより有効な指標と考えられた。
図19は、精神疲労負荷前後における聴覚刺激に対するc/a値の変化を表す図である。
聴覚刺激に対するAPG波形の反応解析については、今回本発明者らが解析を行った結果、0‐backテスト実施群では、0‐backテスト実施前も実施後も、c/aが聴覚刺激前と聴覚刺激中で有意な変化を示すことがわかった。一方、2‐backテスト実施群では、2‐backテスト実施前は聴覚刺激前と聴覚刺激中で有意な変化を示すが、2‐backテスト実施後は聴覚刺激前と聴覚刺激中で有意な変化を示さない(2‐backテスト実施後のグラフに「**」マークが表示されていない)ことがわかった。
つまり、2‐backテスト実施後は、聴覚刺激前と聴覚刺激中で1%の有意水準を満たさなかったことを示しており、具体的には、聴覚刺激前よりも聴覚刺激中の方が高い値を示したのは、99%未満の確率であったことを示している。これにより、単調な作業による疲労と困難な作業による疲労とで聴覚刺激に対するc/aの挙動が異なると考えられた。これは、c/a以外の、c/b、c/e、a−c及びc−a、さらに|d−c|/aのような指標値でも同様の結果となった。
図20は、精神疲労負荷前後におけるlnHFの変化を表す図である。
APGまたはECGの周波数解析において、0‐backテスト実施群では、0‐backテスト実施前後でHFを対数化したlnHFは有意に変化しないが、2‐backテスト実施群では、2‐backテスト実施によりlnHFが有意に低下した。つまり、同図に示すlnHFは、0‐backテスト実施群の場合、疲労前後で6.20から6.01へと減少し(有意差なし)、2‐backテスト実施群の場合、疲労前後で6.67から6.25へと有意に減少した。
lnHFは副交感神経系活動の指標であると考えてられており、今回の結果から、単調な作業による疲労では、副交感神経系活動の変化を伴わず、困難な作業による疲労では、副交感神経系活動の低下が特徴であると考えられた。
図21は、精神疲労負荷前後におけるlnβ、lnθ及びlnθ/lnβの変化を表す図である。
EEGの周波数解析において、開眼安静時では、0‐backテスト実施群では、0‐backテスト実施によりβ波のパワー値を対数化したlnβが有意に減少し、Slow‐wave Indexであるlnθ/lnβが有意に増加した。2‐backテスト実施群では、2‐backテスト実施によりlnθ及びlnθ/lnβが有意に減少した。
図22は、精神疲労負荷前後におけるlnβ、lnα及びlnθ/lnαの変化を表す図である。
閉眼安静時では、0‐backテスト実施群では、0‐backテスト実施によりO1部のlnβが有意に減少した。2‐backテスト実施群では、2‐backテスト実施によりlnαが有意に増加し、閉眼時のSlow‐wave Indexであるlnθ/lnαが有意に減少した。
これにより、単調な作業による疲労は、徐波化を促進し、覚醒度の低下を誘発したと考えられ、一方、困難な作業による疲労は、速波化を促進し、覚醒度の持続或いは亢進を誘発したと考えられた。
図23Aは、精神疲労負荷前後における%θの変化を表す図であり、図23Bは、精神疲労負荷前後における%αの変化を表す図である。また、図24は、精神疲労負荷前後におけるα‐blockingの変化を表す図である。
図23Aに示すように、MEGの周波数解析においても、開眼安静時、0‐backテスト実施群において、0‐backテスト実施によりθ波とα波とβ波のトータルパワー値に対するθ波のパワー値の比率(%θ)が、有意に増加した。なお、θ波のパワー値でも同様の結果となり、EEGによる徐波化と一致した結果となった。
また、図23Bに示すように、閉眼安静時、2‐backテスト実施群では、2‐backテスト実施によりθ波とα波とβ波のトータルパワー値に対するα波のパワー値の比率(%α)が、有意に増加した。なお、α波のパワー値及びlnαでも同様の結果となった。
さらに、図24に示すように、2‐backテスト実施群では、開眼安静時のα波のパワー値と閉眼安静時のα波のパワー値の差としてのα‐blocking(閉眼−開眼)、開眼安静時のα波のパワー値と閉眼安静時のα波のパワー値の比としてのα‐blocking(閉眼/開眼)が、ともに有意に増加した。また、EEGでも同様の傾向が見られた。
この際、MEGやEEGのパワースペクトルにおける平均周波数を、θとθ波帯域の中心周波数(5.5Hz)の乗算値、αとα波帯域の中心周波数(10.5Hz)の乗算値、βとβ波帯域の中心周波数(19Hz)の乗算値の総和をトータルパワー値で除した式により求めたところ、平均周波数は2‐backテスト実施前後で変化していないことを確認した。これにより、困難な作業による疲労は、単に速波化を促進するだけではなく、脳の基礎律動の1つであるα波を増強(標準値に戻ると言うよりもさらに増強)する側面があると考えられた。
以上の結果から、APG波形のc波またはd波が精神疲労負荷の影響を受けにくいことを見出した。これにより、c波またはd波を用いた指標値を用いることで、従来よりも疲労評価の評価精度を向上することができることを見出した。さらに、APGまたはECGの周波数解析により算出した副交感神経活動指標、EEGまたはMEGの周波数解析により算出したα波のパワー値とβ波のパワー値が、「単調で、負荷の小さい作業により生じる疲労」と「困難で、負荷の大きい作業により生じる疲労」とで異なる挙動をすることを見出した。APGまたはECGの周波数解析により自律神経活動指標を算出し、疲労時に交感神経系活動の増加と副交感神経系活動の減少が見られることは既に知られていた。しかし、今回本発明者らは、副交感神経活動の減少を伴わないタイプの疲労が存在することを見出した。よって、副交感神経活動指標、α波のパワー値、β波のパワー値を用いることで、疲労の有無の判断にとどまらず、疲労の質的相違を差別化できることを見出した。
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ要素には同じ符号を付し、説明を省略する場合もある。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における生体疲労評価装置100の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、生体疲労評価装置100は、ユーザの脈波信号を計測する生体信号計測部101、脈波信号から特徴量を抽出する特徴量抽出部102、特徴量を記憶する記憶部103、及び疲労の有無を判断する疲労判断部104を備えている。なお、同図に示すように、生体疲労評価装置100は、疲労評価結果に基づいて外部機器を制御する機器制御部105をさらに備える構成でもよい。
生体信号計測部101は、トランデューサー等により検出されたユーザの脈波を所定のサンプリング周期でサンプリングして脈波データを時系列的に取得する。生体信号計測部101を装着する部位については、指尖部や耳朶部などが代表的ではあるが、前額や鼻尖部など、その他脈波を取得できる部位であればどこでもよい。
特徴量抽出部102は、生体信号計測部101により計測された脈波信号の収縮期後方成分から得られる第一特徴量を抽出する。具体的には、特徴量抽出部102は、脈波信号から加速度脈波を算出し、収縮期後方成分に対応した加速度脈波の成分波であるc波またはd波の情報を少なくとも含む複数の成分波の情報を用いて、第一特徴量を抽出する。
記憶部103は、特徴量抽出部102により抽出された第一特徴量を記憶するためのメモリである。
疲労判断部104は、特徴量抽出部102により抽出された第一特徴量を用いて、ユーザの疲労の有無を判断する。具体的には、疲労判断部104は、特徴量抽出部102により抽出された第一特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部103に記憶されている第一特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の有無を判断する。例えば、疲労判断部104は、抽出された複数の第一特徴量のうち、現在抽出された第一特徴量と過去に抽出された第一特徴量とを比較して、疲労の有無を判断する。
例えば、特徴量抽出部102が、加速度脈波のa波、b波またはe波の波高値に対するc波の波高値の比を第一特徴量として抽出した場合は、疲労判断部104は、第一特徴量の絶対値が時系列的に増加した場合に疲労していると判断する。
また、特徴量抽出部102が、加速度脈波のa波の波高値とc波の波高値との差を第一特徴量として抽出した場合は、疲労判断部104は、第一特徴量の絶対値が時系列的に減少した場合に疲労していると判断する。
さらに、特徴量抽出部102が、加速度脈波のc波の波高値とd波の波高値との差を、加速度脈波のa波で除した値を第一特徴量として抽出した場合は、疲労判断部104は、第一特徴量の絶対値が時系列的に増加した場合に疲労していると判断する。
図2Aは、生体信号計測部101が計測する容積脈波(Plethysmogram、略してPTG)波形の一例を示す図である。そして、図2Bは、図2Aの容積脈波を2階微分した加速度脈波(Accelerated Plethysmogram、略してAPG)波形の一例を示す図である。
図2Aに示すように、容積脈波には、駆出波(P1)と反射波(P2)が検出される。また、図2Bに示すように、加速度脈波の波形は、収縮初期陽性波(a波)、収縮初期陰性波(b波)、収縮中期再上昇波(c波)、収縮後期再下降波(d波)、そして拡張初期陽性波(e波)とで構成される。
図2Aが示す容積脈波と図2Bが示す加速度脈波との対応を見た場合、加速度脈波波形成分のa波とb波は容積脈波の収縮期前方成分に、加速度脈波波形成分のc波とd波は容積脈波の収縮期後方成分に含まれる。容積脈波の収縮期前方成分は血液の駆出によって生ずる駆動圧波を反映したものであり、収縮期後方成分は駆動圧波が末梢に伝搬し反射して戻ってきた反射圧波を反映したものである。
今回、本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、脈波を2階微分した加速度脈波波形成分のうちa波の波高値とb波の波高値、さらにe波の波高値が精神疲労負荷前後で有意に変化する傾向を見出した。ここで、有意に変化するとは、統計学的に5%或いは1%の有意水準を満たして変化することを示している。
一方、脈波の収縮期後方成分を反映した特徴量である、c波の波高値及びd波の波高値は精神疲労負荷前後で有意に変化しない(すなわち、疲労に伴った変化が見られない)傾向を見出した。またさらに、c波またはd波を含む複数の加速度脈波波形成分を用いた特徴量が、精神疲労負荷前後で有意に変化する傾向を見出した。以下、a波からe波の波高値をそれぞれaからeとして説明する。
c波またはd波の情報を含む、複数の加速度脈波波形成分の情報を用いた特徴量としては、c波とa波の波高比であるc/a値、c波とb波の波高比であるc/b値、c波とe波の波高比であるc/e値が挙げられる。また、その他に、c波とa波の波高差分である、a−c値或いはc−a値、c波とd波の波高差分をa波の波高値で除した|d−c|/a値などが挙げられる。本発明者らが実施した、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
ここでは、特徴量抽出部102が、数ある特徴量の中でもc/a値を抽出する場合を例にとり、以下に説明する。
まず、特徴量抽出部102は、生体信号計測部101により計測された脈波信号を2階微分して図2Bに示すような加速度脈波波形へ変換する。
そして、特徴量抽出部102は、加速度脈波波形成分の中から時間的に最も早くに起こる極値からa波の波高値aを抽出し、時間的に3つ目の極値からc波の波高値cを抽出し、それらの比であるc/a値を求める。ここで、特徴量抽出部102は、求めたc/a値を記憶部103に時系列的に記憶させる。
なお、特徴量抽出部102は、c/a値として、脈波信号1拍分ごとの値をそのまま出力してもよいし、予め定められた時間区間(例えば10秒など)における平均値を出力してもよい。
疲労判断部104は、少なくとも2つの時点におけるc/a値を比較して、疲労の有無を判断する。例えば、疲労判断部104は、特徴量抽出部102から新しくc/a値が出力されると、記憶部103に記憶されているc/a値の中で時系列的に1つ前の時点のc/a値と、現時点のc/a値とを比較する。
もちろん、これに限定するものではなく、疲労判断部104は、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶されたc/a値を基準値として、現時点のc/a値と比較してもよい。なお、他の比較方法として、例えば、疲労判断部104は、現時点からある期間分前までの、全ての時点のc/a値の合算を所定閾値と比較してもよい。そして、疲労判断部104は、c/a値の合算が所定閾値以上であれば疲労していると判断してもよい。
図3A及び図3Bは、本実施の形態1における疲労判断部104による疲労評価の一例を示すフローチャートである。
まず疲労判断部104が、図3Aに示す動作を行う場合について説明する。疲労判断部104は、特徴量抽出部102からc/a値が出力されると(ステップS31)、記憶部103に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点のc/a値を呼び出す(ステップS32)。
そして、疲労判断部104は、これら2つの現時点のc/a値と1つ前の時点のc/a値とを比較する(ステップS33)。
疲労判断部104は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS33でYes)、ユーザが疲労していると判断する(ステップS34)。
また、疲労判断部104は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きくないと判断した場合(ステップS33でNo)、次に特徴量抽出部102からc/a値が出力されるまで待機し、次のc/a値の出力後、ステップS31からの動作をくり返す。
また、疲労判断部104は、図3Bに示す動作を行ってもよい。図3Bに示す動作を行う場合、ステップS31〜ステップS33までの動作フローは図3Aに示した動作例と同様である。
疲労判断部104は、ステップS33において、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS33でYes)、1つ前の時点のc/a値から現時点のc/a値への変化量を算出し、予め設定された閾値L1(例えば、0.03程度の変化量)と比較する(ステップS35)。
疲労判断部104は、算出した変化量が閾値L1よりも大きいと判断した場合(ステップS35でYes)、ユーザが疲労していると判断する(ステップS36)。
疲労判断部104は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きくない場合や、算出した変化量が閾値L1よりも大きくないと判断した場合は(ステップS35でNo)、次に特徴量抽出部102からc/a値が出力されるまで待機し、次のc/a値の出力後、ステップS31からの動作をくり返す。
なお、閾値L1は、0.03程度に限ったものではないが、後述する実験結果に鑑みると0.03程度から0.035程度の範囲に含まれる値にすることが好ましい(図17参照)。
疲労判断部104は、疲労しているか否かの判断は、例えば疲労している場合には1を、疲労していない場合には0を出力するなどの情報を出力することで行う。
生体疲労評価装置100が、機器制御部105を備える場合、機器制御部105は、疲労判断部104により判断された結果に基づいて、外部機器を制御する。例えば、機器制御部105は、表示機能を持つディスプレイや、音を出力するスピーカーを制御してユーザやユーザを管理監督する部門へ疲労判断結果を報知してもよい。
また、機器制御部105は、疲労判断部104により疲労していると判断された場合、ユーザに刺激を与える外部機器を制御してもよい。例えば、機器制御部105は、気流や熱を発生する機器を制御して、疲労を回復または軽減させる効果のある香りや気流、温熱などの刺激を出力してもよい。或いは、機器制御部105は、疲労判断部104により判断された結果を保存・蓄積、伝送してもよい。
以上のように、生体疲労評価装置100は、脈波信号から疲労に特異的な変化をするc波またはd波を含む複数の加速度脈波波形成分を用いて抽出した特徴量に基づいて、疲労の有無を判断する。
このような構成により、脈波信号の収縮期後方成分から得られる第一特徴量を抽出し、抽出された第一特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部103に記憶されている第一特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の有無を判断する。ここで、脈波信号の収縮期後方成分は、疲労以外の要因による影響は受けるものの、疲労による影響は受けにくい。このため、当該収縮期後方成分から得られる第一特徴量を用いることで、脈波に含まれる疲労以外の要因による影響を軽減させ、疲労評価の評価精度を向上することができる。
また、本構成によって、c波またはd波の情報を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、a波、b波またはe波の波高値に対するc波の波高値の比を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、a波の波高値とc波の波高値との差を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、c波の波高値とd波の波高値との差をa波で除した値を用いることで、加速度脈波波形の波高値そのものに基づいて疲労を評価する場合よりも、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、疲労していると判断した場合にユーザに刺激を与えることで、疲労の評価結果の提示、または評価結果に基づいたケアを自動で行うことが可能となる。
なお、生体疲労評価装置100が機器制御部105を備えない場合は、外部の構成により外部機器を制御してもよい。
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における生体疲労評価装置400の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、生体疲労評価装置400は、生体信号を計測する生体信号計測部401、生体信号から特徴量を抽出する特徴量抽出部402、特徴量を記憶する記憶部403、及び疲労の質を判定する疲労質判定部406を備えている。なお、同図に示すように、生体疲労評価装置400は、疲労の質の判定結果に基づいて外部機器を制御する機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
生体信号計測部401は、ユーザの心拍或いは脈波を生体信号として計測する。具体的には、生体信号計測部401は、例えば、心電図、脈波、脳波、脳磁図のような生体信号を計測する生体センサー部である。
心電図や脳波などの生体電気量を取得する場合は、生体皮膚表面に複数の電極を装着し、電気信号として体外に導出する方法が代表的である。脳磁図など生体磁気量を取得する場合は、微弱な磁束密度を計測するため、フラックスゲート形磁束計またはさらに高感度の超伝導量子干渉計が用いられる。脈波を取得する場合は、LEDなどの光源を用いて生体に赤外光を照射し、フォトダイオードで生体を通過した光強度を電気信号へ変換して取得する方法が代表的である。
本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、困難な作業が原因で生じる疲労(以下、困難な作業による疲労と記す)、単調な作業が原因で生じる疲労(以下、単調な作業による疲労と記す)という疲労の質と、自律神経活動の1つである副交感神経活動量とが関連することを見出した。具体的には、困難な作業による疲労の際に副交感神経活動量は有意に低下し、単調な作業による疲労の際に副交換神経活動量は有意に低下しない(すなわち、単調な作業による疲労に伴った副交換神経活動量の低下が見られない)傾向を見出した。
副交感神経活動量を表す指標値は、心電図における心拍間隔や、脈拍間のa波間隔の時系列データを周波数解析して求めたパワースペクトルのうち0.15Hzから0.4Hzまでの高周波帯域(High Frequency、以下、HFと記す)のパワー値が代表的である。また、副交感神経活動量を表す指標値は、このパワー値に限ったものではなく、HFのパワー値を対数化したlnHFでもよい。また、その他にも、パワースペクトルのその他の帯域(0.04Hz以下の帯域であるVery Low Frequency(VLF)、0.04Hzから0.15Hzまでの帯域であるLow Frequency(LF)など)をあわせたトータルパワー値で、HFのパワー値を除した%HFなどでもよい。本発明者らが実施した、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
ここでは、脈波を用いて算出した値を副交感神経活動量の指標値とする場合を例にとり、生体疲労評価装置400の動作について以下に説明する。
まず、生体信号計測部401は、ユーザの脈波信号を生体信号として計測する。
特徴量抽出部402は、生体信号計測部401により計測された生体信号から得られる、副交感神経活動量を示す第二特徴量を抽出する。
具体的には、特徴量抽出部402は、生体信号計測部401により計測された脈波信号を2階微分した加速度脈波波形から脈拍間のa波の間隔(以下、aa間隔と記す)を求め、aa間隔の時系列データを用いて自律神経活動の1つである副交感神経活動量を求める。例えば、特徴量抽出部402は、高速フーリエ変換(FFT)や最大エントロピー法(MEM)などを用いて、aa間隔の時系列データに対して周波数解析を行い、パワースペクトルにおけるHFのパワー値を計算して求める。
そして、特徴量抽出部402は、計算したHFのパワー値を、記憶部403に時系列的に記憶させる。なお、特徴量抽出部402は、HFのパワー値を、周波数解析をするために必要となる最小時間区間(例えば30秒間など)における算出値としてもよいし、最小時間区間における算出値をさらに時系列的に集めたある一定区間(例えば2分間など)における平均値としてもよい。
記憶部403は、特徴量抽出部402により抽出された第二特徴量を記憶しているメモリである。具体的には、記憶部403は、特徴量抽出部402から特徴量としてHFのパワー値が出力される度に、時系列的にHFのパワー値を蓄積する。
疲労質判定部406は、特徴量抽出部402により抽出された第二特徴量を用いて、困難な作業による疲労か、或いは単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。
具体的には、疲労質判定部406は、少なくとも2つの時点におけるHFのパワー値を比較して疲労の質を判定する。つまり、疲労質判定部406は、特徴量抽出部402により抽出された第二特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部403に記憶されている第二特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の質を判定する。
例えば、疲労質判定部406は、特徴量抽出部402から新しくHFのパワー値が出力されると、記憶部403に記憶されているHFのパワー値の中で時系列的に1つ前の時点のHFのパワー値と、現時点のHFのパワー値を比較する。もちろん、疲労質判定部406による疲労の質の判定は、これに限定されるものではなく、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶されたHFのパワー値を基準値として、現時点のHFのパワー値と比較してもよい。
そして、疲労質判定部406は、第二特徴量が時系列的に減少した場合に、困難な作業による疲労であると判定し、減少しない場合に、単調な作業による疲労であると判定する。
図5A及び図5Bは、本実施の形態2における疲労質判定部406による疲労の質判定の一例を示すフローチャートである。
まず、疲労質判定部406が、図5Aに示す動作を行う場合について説明する。疲労質判定部406は、特徴量抽出部402からHFのパワー値が出力されると(ステップS51)、記憶部403に記憶されているHFのパワー値の中で、時系列的に1つ前の時点のHFのパワー値を呼び出す(ステップS52)。
そして、疲労質判定部406は、これら2つの値である現在のHFのパワー値と1つ前の時点のHFのパワー値とを比較する(ステップS53)。
疲労質判定部406は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さいと判断した場合(ステップS53でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS54)。
また、疲労質判定部406は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さくないと判断した場合(ステップS53でNo)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS55)。
その後、次に特徴量抽出部402からHFのパワー値が出力されれば、疲労質判定部406は、ステップS51からの動作をくり返す。
なお、2つ以上の時点における他の比較方法として、例えば、疲労質判定部406は、現時点からある期間分前までの、全ての時点のHFのパワー値の合算を所定閾値と比較してもよい。そして、疲労質判定部406は、HFのパワー値の合算が所定閾値以下であれば困難な作業による疲労であると判定し、HFのパワー値の合算が所定閾値以下でなければ単調な作業による疲労であると判定してもよい。
また、疲労質判定部406は、図5Bに示す動作を行ってもよい。図5Bに示す動作を行う場合、ステップS51〜ステップS53までの動作フローは図5Aに示した動作例と同様である。
疲労質判定部406は、ステップS53において、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さいと判断した場合(ステップS53でYes)、1つ前の時点のHFのパワー値から現時点のHFのパワー値の変化量を算出し、当該変化量と予め設定された閾値L2(例えば、lnHFの変化量が0.3程度になるようなHFのパワー値の変化量)とを比較する(ステップS56)。
疲労質判定部406は、算出した変化量が閾値L2よりも大きいと判断した場合(ステップS56でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS57)。
また、疲労質判定部406は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さくないと判断した場合(ステップS53でNo)、または算出した変化量が閾値L2よりも大きくないと判断した場合(ステップS56でNo)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS58)。
その後、次に特徴量抽出部402からHFのパワー値が出力されれば、疲労質判定部406は、ステップS51からの動作をくり返す。
なお、閾値L2は、lnHFの変化量が0.3程度になるようなHFのパワー値の変化量に限ったものではないが、後述する実験結果に鑑みると、lnHFの変化量が0.25程度から0.4程度の範囲に含まれる値になるようなHFのパワー値の変化量にするのが好ましい(図20参照)。
生体疲労評価装置400が、機器制御部405を備える場合、機器制御部405は、疲労質判定部406により判定された結果に基づいて、外部機器を制御する。例えば、機器制御部405は、表示機能を持つディスプレイや音を出力するスピーカーのようなものを制御して、ユーザやユーザを管理監督する部署へ疲労質判定結果を報知してもよい。
また、機器制御部405は、疲労質判定部406により判定された疲労の質に応じてユーザに刺激を与える外部機器を制御してもよい。例えば、機器制御部405は、気流や熱を発生する機器を制御して、疲労の質に適した回復または軽減させる効果のある香りや気流、温熱などの刺激を出力してもよい。或いは、機器制御部405は、疲労質判定部406により判定された結果を、保存・蓄積、伝送してもよい。
以上のように、生体疲労評価装置400は、副交感神経活動量を示す指標値に基づいて、困難な作業による疲労か、単調な作業による疲労かという疲労の質を判定する。このような構成により、ユーザの疲労の質を判定することができ、例えばそれにより与える処方(休息、睡眠、薬など)を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。また、生体疲労評価装置400は、場面によらず、計測が容易な心電図或いは脈波を用いて副交感神経活動量を抽出し、疲労の質を判定するため、優れた汎用性を有する。
また、本構成によって、疲労の質に応じてユーザに刺激を与えることで、疲労の質の判定結果をユーザへ提示したり、ユーザに適した回復支援を行うことができる。
なお、生体疲労評価装置400が機器制御部405を備えない場合は、外部の構成により外部機器を制御してもよい。
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3における生体疲労評価装置600の構成を示すブロック図である。図6において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する場合がある。
同図に示すように、生体疲労評価装置600は、生体信号計測部401、特徴量抽出部602、記憶部603、疲労質判定部606を備え、さらにユーザが開眼状態か閉眼状態かを識別する識別部601を備える。また、生体疲労評価装置600は、機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
今回、本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、脳内信号(脳波または脳磁図)に基づいて抽出される閉眼状態でのα波、または開眼状態及び閉眼状態でのβ波と、困難な作業による疲労、単調な作業による疲労という疲労の質とが関連することを見出した。具体的には、困難な作業による疲労の際に閉眼状態でのα波は有意に増加し、単調な作業による疲労の際に開眼状態及び閉眼状態のβ波が有意に低下することを見出した。
α波に関する指標値としては、脳内信号の時系列データを周波数解析して求めたパワースペクトルにおけるα波帯域(8Hz以上13Hz以下)のパワー値(以下、αと記す)が代表的である。また、α波に関する指標値は、αの対数値(以下の式1で示される値)、またはθ波帯域(3Hz以上8Hz以下)のパワー値(以下、θと記す)の対数値を用いて表現する、閉眼状態でのSlow−wave Index(以下の式2で示される値)でもよい。
(式1)lnα
(式2)lnθ/lnα
また、α波に関する指標値は、αをθとαとβ波帯域(13Hz以上25Hz以下)のパワー値(以下、βと記す)とをあわせたトータルパワー値で除した%α(以下の式3で示される値)、θをトータルパワー値で除した%θ(以下の式4で示される値)、または%θを用いた閉眼状態でのSlow−wave Index(以下の式5で示される値)でもよい。
(式3)%α=α/(θ+α+β)
(式4)%θ=θ/(θ+α+β)
(式5)%θ/%α
また、α波に関する指標値は、α波の最も特徴的な性質の一つである、開眼によって抑制されるα波ブロックを表現した値を用いてもよい。例えば、α波に関する指標値は、以下の式6に示すように、開眼状態におけるα(以下、α(開)と記す)と閉眼状態におけるα(以下、α(閉)と記す)との差としてのα−blocking(閉眼−開眼)でもよいし、以下の式7に示すように、α(開)に対するα(閉)の比としてのα−blocking(閉眼/開眼)でもよい。
(式6)α(閉)−α(開)
(式7)α(閉)/α(開)
また、当該指標値は、θとθ波帯域の中心周波数(Center frequency)との乗算値、αとα波帯域の中心周波数との乗算値、及びβとβ波帯域の中心周波数との乗算値の総和をトータルパワー値で除した平均周波数(Mean power frequency)(以下の式8で示される値)でもよい。
(式8)(θ×5.5+α×10.5+β×19)/(θ+α+β)
一方、β波に関する指標値としては、β波帯域(13Hz以上25Hz以下)のパワー値βが代表的である。その他、β波に関する指標値として、βの対数値(以下の式9で示される値)、開眼状態或いは閉眼状態のSlow−wave Index(以下の式10で示される値)、開眼状態におけるSlow−wave Index(以下の式11で示される値)、%β(以下の式12で示される値)、開眼状態或いは閉眼状態のSlow−wave Index(以下の式13で示される値)などが挙げられる。
(式9)lnβ
(式10)lnθ/lnβ
(式11)(lnα+lnθ)/lnβ
(式12)%β=β/θ+α+β
(式13)%θ/%β
なお、式3に示された%α、式4に示された%θ、式12に示された%β、また式8に示された平均周波数を求める方法として、これに限定するものではなく、例えば、δ波帯域(0Hz以上3Hz以下)のパワー値もトータルパワーに加えて求めてもよい。しかし、通常、δ波帯域は瞬きの影響が大きい帯域であることから、除外される場合も少なくはない。
本発明者らが実施した生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
まず、上記で説明したαの対数値を指標値とする場合を例にとり、生体疲労評価装置600の動作について、以下に説明する。
まず、識別部601は、ユーザが開眼状態にあるか閉眼状態にあるかを識別する識別情報を生成する。具体的には、識別部601は、カメラや眼電位などの情報を用い、ユーザが開眼状態か、または閉眼状態かを識別し、生体信号計測部401へ識別情報として出力する。この識別情報は、例えば、開眼状態であれば1、閉眼状態であれば0というような情報である。
生体信号計測部401は、ユーザの脳内信号を生体信号として計測し、計測した生体信号に識別情報を付加する。具体的には、生体信号計測部401は、ユーザの脳内信号の中でも脳波を計測する。そして、生体信号計測部401は、識別部601から識別情報が入力されると、計測した脳波の時系列データに識別情報を付加して特徴量抽出部602へ出力する。
特徴量抽出部602は、生体信号計測部401により計測された生体信号から得られる、β波およびα波のうち少なくともどちらか一方に関連する第三特徴量を抽出する。つまり、特徴量抽出部602は、識別部601によりユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値、およびα波帯域のパワー値のうち少なくともどちらか一方のパワー値を用いた第三特徴量を抽出する。
例えば、特徴量抽出部602は、識別部601によりユーザが閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるα波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出する。また、特徴量抽出部602は、識別部601によりユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出する。
具体的には、特徴量抽出部602は、入力された脳波の時系列データに対して周波数解析を行い、α波に相当する周波数帯域(8Hz以上13Hz以下)、またはβ波(13Hz以上25Hz以下)に相当する周波数帯域、それぞれのパワー値(α、またはβ)を求める。これらは、周波数解析をするために必要となる最小時間区間(例えば30秒間など)におけるパワー値としてもよいし、最小時間区間における算出値をさらに時系列的に集めたある一定区間(例えば2分間など)におけるパワーの平均値としてもよい。そして、特徴量抽出部602は、それらを対数化したlnα、またはlnβを求める。
また、特徴量抽出部602は、求めたlnα、またはlnβを、入力された識別情報と共に記憶部603に時系列的に記憶させる。なお、上述したようにα波、β波に関連する指標値としては様々考えられ、パワー値の対数値に限定するものではない。
記憶部603は、特徴量抽出部602により抽出された第三特徴量を記憶するためのメモリである。具体的には、記憶部603は、特徴量抽出部602からlnα、またはlnβが出力される度に、時系列的にlnα、またはlnβを蓄積する。
疲労質判定部606は、特徴量抽出部602により抽出された第三特徴量を用いて、困難な作業による疲労か、或いは単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。具体的には、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602により抽出された第三特徴量のうちのいずれかの特徴量と、記憶部603に記憶されている第三特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量とを比較して、疲労の質を判定する。
具体的には、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から出力された識別情報が付与されているlnα、またはlnβと、記憶部603に記憶されている識別情報が付与されているlnα、またはlnβと、を比較して疲労の質を判定する。なお、疲労質判定部606は、lnαを用いる際は、識別情報として閉眼状態であるという情報が付与されたデータを用いることが望ましい。一方、疲労質判定部606は、lnβを用いる際は、開眼状態と閉眼状態のどちらの情報が付与されたデータを用いてもよい。
例えば、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602が、識別部601によりユーザが閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるα波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出し、当該第三特徴量が時系列的に増加した場合に、困難な作業による疲労であると判定する。また、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602が、識別部601によりユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値を用いた第三特徴量を抽出し、当該第三特徴量が時系列的に減少した場合に、単調な作業による疲労であると判定する。
具体的には、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαが出力されると、記憶部603に記憶されている閉眼状態におけるlnαの中で、時系列的に1つ前の時点のlnαと、現時点の閉眼状態におけるlnαを比較する。これは、開眼状態、或いは閉眼状態のlnβを用いる際も同様である。なお、ここでは疲労質判定部606は、時系列的に1つ前の時点の特徴量と現時点の特徴量とを比較するとしているが、これに限定するものではなく、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶された特徴量を基準値として、現時点の特徴量と比較してもよい。
図7A〜図9Bは、本実施の形態3における疲労質判定部606による疲労の質判定の一例を示すフローチャートである。
まず、疲労質判定部606が、図7Aに示す動作を行う場合について説明する。疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαが出力されると(ステップS71)、記憶部603に記憶されている閉眼状態におけるlnαの中で、時系列的に1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαを呼び出す(ステップS72)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の閉眼状態におけるlnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαとを比較する(ステップS73)。
疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きいと判断した場合には(ステップS73でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS74)。
また、疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きくないと判断した場合(ステップS73でNo)、次に特徴量抽出部602からlnαが出力されるまで待機し、次のlnαの出力後、ステップS71からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、図7Bに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602からα−blocking(閉眼/開眼)が出力されると(ステップS75)、記憶部603に記憶されているα−blocking(閉眼/開眼)の中で、時系列的に1つ前の時点のα−blockingを呼び出す(ステップS76)。
疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点のα−blockingと1つ前の時点のα−blockingとを比較する(ステップS77)。
疲労質判定部606は、現時点のα−blockingが1つ前の時点のα−blockingよりも大きいと判断した場合には(ステップS77でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS78)。
また、疲労質判定部606は、現時点のα−blockingが1つ前の時点のα−blockingよりも大きくないと判断した場合には(ステップS77でNo)、次に特徴量抽出部602からα−blockingが出力されるまで待機し、次のα−blockingの出力後ステップS81からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、図8Aに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαとlnθ/lnα(以下、α特徴量と記す)とが出力されると(ステップS81)、記憶部603に記憶されている閉眼状態におけるα特徴量の中で、時系列的に1つ前の時点の閉眼状態におけるα特徴量を呼び出す(ステップS82)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の閉眼状態におけるlnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαとを比較する(ステップS83)。
まず、疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きいと判断した場合には(ステップS83でYes)、現時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαとを比較する(ステップS84)。
疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαよりも小さいと判断した場合には(ステップS84でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS85)。
疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαよりも大きくない場合(ステップS83でNo)、次に特徴量抽出部602からα特徴量が出力されるまで待機し、次のα特徴量の出力後、ステップS81からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、現時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαが1つ前の時点の閉眼状態におけるlnθ/lnαよりも小さくないと判断した場合(ステップS84でNo)も同様に、次のα特徴量の出力後ステップS81からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、図8Bに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から閉眼状態におけるlnαと平均周波数とが抽出されると(ステップS86)、記憶部603に記憶されている時系列的に1つ前の閉眼状態におけるlnαと平均周波数とを呼び出す(ステップS87)。
疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の閉眼状態における平均周波数と1つ前の時点の閉眼状態における平均周波数とを比較する(ステップS88)。
疲労質判定部606は、これら2つの値の平均周波数が含まれる周波数帯域(θ波帯域、α波帯域、β波帯域など)に変化がなければ(ステップS88でYes)、現時点の閉眼状態におけるlnαと1つ前の時点の閉眼状態におけるlnαとを比較する(ステップS83)。
疲労質判定部606は、現時点のlnαが1つ前の時点のlnαより大きいと判断した場合(ステップS83でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS89)。
疲労質判定部606は、ステップS88で平均周波数が含まれる周波数帯域に変化があると判断した場合(ステップS88でNo)、及びステップS83で現時点のlnαが1つ前の時点のlnαよりも大きくないと判断した場合(ステップS83でNo)、次の特徴量が出力されるまで待機し、出力後、ステップS86からの動作をくり返す。
つづいて、疲労質判定部606が、図9Aに示す動作を行う場合について説明する。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から開眼状態におけるlnβが出力されると(ステップS91)、記憶部603に記憶されている開眼状態におけるlnβの中で、時系列的に1つ前の時点の開眼状態におけるlnβを呼び出す(ステップS92)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の開眼状態におけるlnβと1つ前の時点の開眼状態におけるlnβとを比較する(ステップS93)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態におけるlnβよりも小さいと判断した場合には(ステップS93でYes)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS94)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態のlnβよりも小さくないと判断した場合(ステップS93でNo)、次に特徴量抽出部602からlnβが出力されるまで待機し、次のlnβの出力後、ステップS91からの動作をくり返す。
なお、特徴量抽出部602において、閉眼状態におけるlnβを抽出し、疲労質判定部606において同様の処理を行ってもよい。この場合もステップS93の処理と同様に、疲労質判定部606は、現時点のlnβが1つ前の時点のlnβより小さいか否かに基づいて、単調な作業による疲労か否かを判定する。
また、疲労質判定部606は、図9Bに示す動作を行う構成であってもよい。この場合、疲労質判定部606は、特徴量抽出部602から開眼状態におけるlnβとlnθ/lnβ(以下、β特徴量と記す)が出力されると(ステップS95)、記憶部603に記憶されている開眼状態におけるβ特徴量の中で、時系列的に1つ前の時点の開眼状態におけるβ特徴量を呼び出す(ステップS96)。
そして、疲労質判定部606は、これら2つの値である現時点の開眼状態におけるlnβと1つ前の時点の開眼状態におけるlnβとを比較する(ステップS93)。
まず、疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態におけるlnβよりも小さいと判断した場合には(ステップS93でYes)、現時点の開眼状態におけるlnθ/lnβと1つ前の時点の開眼状態におけるlnθ/lnβとを比較する(ステップS97)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnθ/lnβが1つ前の時点の開眼状態におけるlnθ/lnβよりも大きいと判断した場合(ステップS97でYes)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS98)。
疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnβが1つ前の時点の開眼状態のlnβよりも小さくないと判断した場合(ステップS93でNo)、次に特徴量抽出部602からβ特徴量が出力されるまで待機し、次のβ特徴量の出力後、ステップS95からの動作をくり返す。
また、疲労質判定部606は、現時点の開眼状態におけるlnθ/lnβが1つ前の時点の開眼状態のlnθ/lnβよりも大きくないと判断した場合(ステップS97でNo)も同様に、次のβ特徴量の出力後ステップS95からの動作をくり返す。
なお、特徴量抽出部602において、閉眼状態におけるβ特徴量を抽出し、疲労質判定部606において同様の処理を行ってもよい。この場合もステップS93、ステップS97の処理と同様に、疲労質判定部606は、現時点のlnβが1つ前の時点のlnβより小さいか否か、及び現時点のlnθ/lnβが1つ前の時点のlnθ/lnβより大きいか否か、に基づいて、単調な作業による疲労か否かを判定する。
以上では、困難な作業による疲労と判定する場合と単調な作業による疲労と判定する場合とで分けて説明したが、もちろん両者を組み合わせれば、脳内信号から、困難な作業による疲労か単調な作業による疲労かという疲労の質を判定できる。
以上のように、生体疲労評価装置600は、脳内信号からβ波、α波のうち少なくともいずれか一方に関連する特徴量に基づいて、困難な作業による疲労か、単調な作業による疲労かの疲労の質を判定することができる。判定した疲労の質に基づいて、例えば、ユーザに与える処方(休息、睡眠、薬など)を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。また、生体疲労評価装置600は、頭部にセンサーを接触させることで計測する脳内信号から疲労の質を判定することができるため、例えば、帽子やヘッドセットマイクなどを装着する職業の人々の労務管理に応用することもできる。
また、本構成によって、脳内信号におけるβ波帯域のパワー値、α波帯域のパワー値のうち少なくともどちらか一方のパワー値を、ユーザの開眼状態における値か閉眼状態における値かを区別して用いるため、より疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。
また、本構成によって、ユーザが閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるα波帯域のパワー値からユーザの疲労が困難な作業による疲労かを判定するため、より疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。また、疲労の質判定により困難な作業による疲労に対して、ユーザに適した回復支援を図ることが可能となる。
また、本構成によって、ユーザが開眼状態或いは閉眼状態にあることを識別された時間区間におけるβ波帯域のパワー値からユーザの疲労が単調な作業による疲労かを判定するため、疲労評価の評価精度を向上することが可能となる。また、疲労の質判定により単調な作業による疲労に対して、ユーザに適した回復支援を図ることが可能となる。
また、本構成によって、疲労の質に応じてユーザに刺激を与えることで、疲労の質の判定結果をユーザへ提示したり、ユーザに適した回復支援を行うことができる。
なお、生体疲労評価装置600が、機器制御部405を備えない場合は、外部の構成により外部機器を制御してもよい。
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4における生体疲労評価装置1000の構成を示すブロック図である。図10において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
同図に示すように、生体疲労評価装置1000は、生体信号計測部401、特徴量抽出部1002、記憶部1003、疲労質判定部1006を備え、さらにユーザに対して聴覚刺激を出力する刺激出力部1001を備えている。また、生体疲労評価装置1000は、機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
今回、本発明者らは、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験を通じ、トーンバースト刺激(1000Hzで90dB)による聴覚刺激に対する、加速度脈波波形における特徴量の変化が、疲労の質により異なることを見出した。
具体的には、聴覚刺激に対して加速度脈波波形に関連する特徴量は精神疲労負荷前も単調な作業による疲労負荷後も有意に変化するが、困難な作業による疲労負荷後には、有意に変化しないことを見出した。すなわち、困難な作業による疲労の際には、聴覚刺激に対する脈波の反応が鈍化するといえる。
ここでいう加速度脈波波形に関連する特徴量は、実施の形態1で挙げたc波またはd波の情報を含む、複数の加速度脈波波形成分の情報を用いた特徴量を用いればよい。本発明者らが実施した、生体疲労の非侵襲評価に関する可能性検証実験については、後に詳細に説明する。
ここでは、生体信号計測部401が脈波を計測し、特徴量抽出部1002がc波とa波の波高比であるc/a値を抽出する場合を例にとり、以下に説明する。
刺激出力部1001は、ユーザに対して聴覚を刺激する聴覚刺激を出力する。具体的には、刺激出力部1001は、聴覚刺激をユーザに対して出力し、聴覚刺激を出力したことを示す刺激情報を生体信号計測部401へ出力する。
ここで、ユーザに対して出力する聴覚刺激は、医学分野の臨床実験でよく用いられる1000Hzで90dBの音刺激を数分間与えるような刺激とするとよい。なお、この刺激情報は、例えば、聴覚刺激を出力している場合には1、出力していない場合には0というような情報である。
生体信号計測部401は、ユーザの脈波信号を計測するとともに、刺激出力部1001から刺激情報が入力されると、計測した脈波信号の時系列データに刺激情報を付加して特徴量抽出部1002へ出力する。
特徴量抽出部1002は、生体信号計測部401により計測された脈波信号の収縮期後方成分から得られる第一特徴量を抽出する。つまり、特徴量抽出部1002は、脈波信号から加速度脈波を算出し、加速度脈波のa波の波高値に対するc波の波高値の比を第一特徴量として抽出する。
具体的には、まず、特徴量抽出部1002は、生体信号計測部401により計測された脈波信号を2階微分して加速度脈波波形へ変換する。加速度脈波波形成分の中でも特に容積脈波の収縮期後方成分に相当するc波と、収縮期前方成分に相当するa波の比であるc/a値を求め、c/a値を刺激情報と共に記憶部1003に出力する。
記憶部1003は、特徴量抽出部1002により抽出された第一特徴量を時系列的に記憶する。なお、特徴量抽出部1002においてc/a値を抽出する際は、脈波信号1拍分ごとの値をそのまま出力してもよいし、予め定められた時間区間(例えば10秒など)における平均値を出力してもよい。
疲労質判定部1006は、特徴量抽出部1002により抽出された第一特徴量を用いて、困難な作業による疲労か、或いは単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。
具体的には、疲労質判定部1006は、記憶部1003に記憶されている刺激出力部1001により聴覚刺激が出力される前の時間区間における第一特徴量と、刺激出力部1001により聴覚刺激が出力された時の時間区間における第一特徴量とを比較して、疲労の質を判定する。
つまり、疲労質判定部1006は、記憶部1003に記憶されている刺激出力部1001により聴覚刺激が出力される前の時間区間における第一特徴量に対し、刺激出力部により聴覚刺激が出力された時の時間区間における第一特徴量が増加した場合に、単調な作業による疲労であると判定し、増加していない場合に、困難な作業による疲労であると判定する。
さらに具体的には、疲労質判定部1006は、刺激情報が付与されていないc/a値と刺激情報が付与されているc/a値とを比較して、疲労の質を判定する。したがって、疲労質判定部1006は、特徴量抽出部1002から新しく刺激情報が付与されているc/a値が出力されると、記憶部1003に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値を呼び出し、現時点の刺激情報が付与されているc/a値と比較する。
もちろん、疲労質判定部1006による疲労の質の判定は、これに限定されるものではなく、ある決まったタイミング(例えば起動直後など)に記憶された刺激情報が付与されていないc/a値を基準値として、現時点の刺激情報が付与されているc/a値と比較してもよい。
図11は、本実施の形態4における疲労質判定部1006による疲労の質判定の一例を示すフローチャートである。
同図に示すように、疲労質判定部1006は、特徴量抽出部1002から刺激情報が付与されているc/a値が出力されると(ステップS111)、記憶部1003に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値を呼び出す(ステップS112)。
疲労質判定部1006は、これら2つの値である現時点の刺激情報が付与されているc/a値と1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値とを比較する(ステップS113)。
疲労質判定部1006は、現時点の刺激情報が付与されているc/a値が1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS113でYes)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS114)。
また、疲労質判定部1006は、現時点の刺激情報が付与されているc/a値が1つ前の時点の刺激情報が付与されていないc/a値よりも大きくないと判断した場合(ステップS113でNo)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS115)。
以上のように、生体疲労評価装置1000は、聴覚刺激に対する加速度脈波波形に関連する特徴量の変化から、ユーザの疲労が困難な作業による疲労か単調な作業による疲労かという疲労の質を判定する。このような構成により、ユーザの疲労の質を判定することができ、それにより与える処方(休息、睡眠、薬など)を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。また、生体疲労評価装置1000は、場面によらず、計測が容易な脈波と特別な装置が不要な聴覚刺激を用いて疲労の質を判定するため、優れた汎用性を有する。例えば、運転中にドライバが触れる箇所から脈波を計測し、カーナビが出力する音刺激に対する、脈波信号の変化を用いて疲労の質を判定することもでき、運転モニタリング装置としても応用することができる。
(実施の形態5)
図12は、本発明の実施の形態5における生体疲労評価装置1200の構成を示すブロック図である。図12において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
同図に示すように、生体疲労評価装置1200は、生体信号計測部401、特徴量抽出部1202、記憶部1203、疲労質判定部1206を備え、ユーザにおける疲労の有無を判断する疲労判断部1204をさらに備える。また生体疲労評価装置1200は、機器制御部405をさらに備える構成でもよい。
ここでは、生体信号計測部401で脈波信号を計測する場合を例にとり、生体疲労評価装置1200の動作について、以下に説明する。
特徴量抽出部1202は、生体信号計測部401により脈波信号が計測されると、実施の形態1と同様にしてc/a値と、実施の形態2と同様にしてHFのパワー値とを抽出する。ここで、特徴量抽出部1202は、c/a値について、脈波信号1拍分ごとの値をそのまま出力してもよいし、HFのパワー値の最小時間区間(例えば30秒間など)と同じ時間区間における平均値を出力してもよい。
記憶部1203は、特徴量抽出部1202により抽出されたc/a値とHFのパワー値とを時系列的に蓄積する。
疲労判断部1204は、実施の形態1と同様にして、疲労の有無を判断する。
疲労質判定部1206は、疲労判断部1204が疲労していると判断した場合に、実施の形態2と同様にして、困難な作業による疲労か単調な作業による疲労かのユーザの疲労の質を判定する。
図13は、本実施の形態5における生体疲労評価装置1200の動作の一例を示すフローチャートである。
具体的には、同図は、生体疲労評価装置1200を自動車の運転時に適用した場合の処理を示すフローチャートである。ここで、生体信号計測部401の形態は、ステアリング部へ搭載した生体センサーでもよいし、ドライバの指や耳など適切な部位へ装着するウェアラブル生体センサーでもよい。
同図に示すように、生体信号計測部401により脈波が計測されると(ステップS1301)、特徴量抽出部1202によりc/a値とHFのパワー値とが抽出され出力される(ステップS1302)。
疲労判断部1204は、特徴量抽出部1202からc/a値が出力されると、記憶部1203に記憶されているc/a値の中で、時系列的に1つ前の時点のc/a値を呼び出す(ステップS1303)。
そして、疲労判断部1204は、これら2つの値である現時点のc/a値と1つ前の時点のc/a値とを比較する(ステップS1304)。
疲労判断部1204は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きいと判断した場合(ステップS1304でYes)、疲労していると判断し、疲労している判断が下されたことを示す信号を疲労質判定部1206へ出力する(ステップS1305)。ここで、出力する疲労判断の信号は、例えば、疲労している場合には1、そうでない場合は0などとすればよい。
また、疲労判断部1204は、現時点のc/a値が1つ前の時点のc/a値よりも大きくないと判断した場合(ステップS1304でNo)、次に特徴量抽出部1202からc/a値とHFのパワー値とが出力されるまで待機し、次のc/a値及びHFのパワー値の出力後、ステップS1302からの動作をくり返す。
次に、疲労質判定部1206は、疲労判断部1204から疲労している判断が下されたことを示す信号を受信すると、記憶部1203に記憶されているHFのパワー値の中で、時系列的に1つ前の時点のHFのパワー値を呼び出す(ステップS1306)。
そして、疲労質判定部1206は、これら2つの値である現時点のHFのパワー値と1つ前の時点のHFのパワー値とを比較する(ステップS1307)。
疲労質判定部1206は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さいと判断した場合(ステップS1307でYes)、困難な作業による疲労であると判定する(ステップS1308)。
一方、疲労質判定部1206は、現時点のHFのパワー値が1つ前の時点のHFのパワー値よりも小さくないと判断した場合(ステップS1307でNo)、単調な作業による疲労であると判定する(ステップS1309)。
次に、機器制御部405は、疲労質判定部1206から困難な作業による疲労という判定結果が出力された場合、カーナビの設定ルートの難易度を下げたり、安全な場所での停車を誘導して休息を促したりなどのアシスト機能を実行させる(ステップS1310)。
一方、機器制御部405は、疲労質判定部1206から単調な作業による疲労という判定結果が出力された場合、カーナビの設定のルートを単調さの少ないルートへ切り替えたり、リフレッシュ効果のある香りや温熱、気流刺激を出力したり、音楽のビートやテンポを速めたりなどのアシスト機能を実行させる(ステップS1311)。
ここでは、疲労判断部1204が脈波に関連する特徴量に基づいて疲労の有無を判断し、疲労質判定部1206が副交感神経活動量に関連する特徴量に基づいて疲労の質を判定したが、これに限定されるものではない。疲労判断部1204がさらに脳波に関連する特徴量を用いて疲労の有無を判断してもよいし、疲労質判定部1206が実施の形態3または実施の形態4と同様にして疲労の質を判定してもよい。
以上のように、生体疲労評価装置1200は、脈波に関連する特徴量と自律神経活動の1つである副交感神経活動量に関連する特徴量に基づいて、疲労の有無の判断及び困難な作業による疲労か、単調な作業による疲労かの疲労の質を判定する。このような構成により、疲労以外の要因による影響を緩和し、疲労の有無の判断精度及び疲労の質の判定精度を向上させることができる。また、疲労の質の判定結果により、ユーザに与える処方を切り替えて、ユーザにより適した回復支援を図ることが可能となる。
(その他の変形例)
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
(1)上記の各装置の全部、もしくは一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合、前記RAMまたはハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
(4)本発明は、上記に示すコンピュータの処理で実現する方法であるとしてもよい。また、本発明は、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録したものとしてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなどである。また、本発明は、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
また本発明は、マイクロプロセッサとメモリとを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
また前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、または前記プログラムまたは前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
(5)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ任意に組み合わせた構成としてもよい。
上記実施の形態1から5はいずれも、本発明者らが非侵襲的な生体疲労評価可能性検証を目的とした被験者実験を通じて、ヒトが疲労に陥った状態(疲労している状態)、及び疲労中に、困難な作業による疲労と単調な作業による疲労とで、心電図や加速度脈波や脳波、脳磁図の変化に異なる相関性があることを見出したことに基づくものである。
以下に、本被験者実験をより詳細に説明するが、本被験者実験はこれらに限定されるものではない。
<精神疲労負荷の妥当性検証>
(1)試験デザイン
本発明者らは、健常成人20名(男性、年齢32.0±10.2歳(平均±標準偏差))を被験者として、パーソナルコンピュータ(PC)を用いた2種類のN−backテストを30分間実施することで精神疲労負荷を与え、その前後にAdvanced Trail Making Test(ATMT)によるパフォーマンス評価(課題遂行時の総トライアル数及びエラー数の測定)をそれぞれ30分間実施した。
また、ATMT実施前後には主観検査を実施し、その内容としては、Visual Analog Scale(VAS)により全体的疲労感、精神的疲労感、身体的疲労感、ストレス、意欲、眠気、難しさ、単調さ、退屈さを測定し、Karolinska Sleepness Scale(KSS)により眠気を測定した。2種類の試験はクロスオーバーで実施し、試験を行う順序による影響を除外した。
(2)精神疲労負荷方法
N−backテストの中でも、0−backテストと2−backテストを採用した。0−backテストは、ワーキングメモリを使用せず、指定された数字や文字或いは記号が表示されたかどうかを被験者に判断させるテストであり、単調作業を強いるものである。
本発明者らはこれを30分間連続して実施することにより、被験者に対して単調な作業による疲労を引き起こすことを想定した。具体的な作業としては、PCの画面に指定した数字や文字或いは記号が表示された場合はPCマウスの右クリックを、そうでない場合はPCマウスの左クリックを実行してもらう、というものである。
一方、2−backテストは、ワーキングメモリを使用し、現在表示されている数字や文字或いは記号が、2つ前に表示された数字や文字或いは記号と同一かどうかを被験者に判断させるテストであり、困難作業を強いるものである。
本発明者らはこれを30分間連続して実施することにより、被験者に対して困難な作業による疲労を引き起こすことを想定した。具体的な作業としては、PCの画面に表示された数字や文字或いは記号が、2つ前に表示された数字や文字或いは記号と同一である場合はPCマウスの右クリックを、そうでない場合はPCマウスの左クリックを実行してもらう、というものである。数字や文字或いは記号の表示時間は0.5secとし、数字や文字或いは記号の表示を消滅させてから次の表示までの表示タイミングは2.5sec間隔とした。
(3)結果
図14は、精神疲労負荷前後のATMTの成績変化を示す図である。
30分間のN−backテスト遂行にて疲労が誘発されるかどうかを判断するために、精神疲労負荷前後のATMTの成績を見てみると、0−backテスト実施群及び2−backテスト実施群ともにエラー数において有意な増加が認められた。なお、30分間のリラックス課題においては、課題前後のATMTのエラー数の変化が認められないことは、従前、確認されている。
ここで、同図に示す「*P<0.05」は、同図中の*マークのグラフにおいて、統計学的に5%の有意水準を満たしてエラー数が増加したことを示している。なお、以下の図においても同様であるため、各図において詳細な説明は省略する。
図15Aは、精神疲労負荷前後における主観申告スコアを示す図である。
精神疲労負荷前後の全体的疲労感及び精神的疲労感VASスコアの成績を見てみると、0−backテスト実施群及び2−backテスト実施群とも有意な増加が認められた。したがって、精神的パフォーマンスの低下及び疲労感の増加が、30分間のN−backテスト遂行にて示され、本試験(30分間のN−backテスト)は疲労試験として適切であると判定した。
また、図15Bは、試験終了時に記録したN−backテスト遂行時の主観申告スコアを示す図である。
試験終了時に記録したN−backテスト遂行時の主観検査では、2−backテスト実施群は0−backテスト実施群に比べて精神的疲労感及び難しさVASスコアが有意に高値を示した。一方、0−backテスト実施群は2−backテスト実施群に比べて、単調さ及び退屈さVAS及び眠気KSSスコアが有意に高値を示した。
このことは、30分間の0−backテストが、「単調で、退屈な、負荷の小さい課題」であり、30分間の2−backテストが、「困難で、負荷の大きい課題」であることを示している。
以上により、30分間の0−backテストが、「単調で、負荷の小さい作業による疲労を引き起こす課題」として適切であると考えられた。また、30分間の2−backテストが、「困難で、負荷の大きい作業による疲労を引き起こす課題」として適切であると考えられた。
<非侵襲的疲労評価可能性検証>
(1)試験デザイン
本発明者らは、健常成人10名(男性、年齢30.8±9.4歳(平均±標準偏差))を被験者として、実施例1で「単調で、負荷の小さい作業による疲労を引き起こす課題」として適切だと証明された0−backテストと、「困難で、負荷の大きい作業による疲労を引き起こす課題」として適切だと証明された2−backテストとを、精神疲労を引き起こす課題としてそれぞれ30分間実施した。
試験の具体的な流れとしては、課題実施前検査として、安静時検査、視覚刺激検査、聴覚刺激検査を行った。最初に安静時検査として、開眼状態で2分間安静にしてもらい、つづいて閉眼状態で1分間安静にしてもらった。次に視覚刺激検査として、赤色発光ダイオードの点滅による左半視野に対する光刺激を負荷した。刺激は1分ずつ2回試行し、1回目は1Hz、2回目は16Hzの点滅刺激を用いた。
その次に聴覚刺激検査として、トーンバースト刺激(1000Hz、90dB)を用いて約4分ずつ1回目は右耳へ、2回目は左耳へ刺激を負荷した。聴覚刺激検査終了の後、0−backテスト及び2−backテストを30分間実施した。
N−backテスト実施後は、課題実施後検査を行った。課題実施後検査は課題実施前検査と同様であるが、安静時検査、聴覚刺激検査、視覚刺激検査の順に実施した。そして、課題実施前の安静時検査から課題実施後の視覚刺激検査までの間、連続で加速度脈波(APG)、心電図(ECG)、脳波(EEG)、脳磁図(MEG)を計測した。
また、課題実施前後には主観検査を実施し、Visual Analog Scale(VAS)により全体的疲労感、精神的疲労感、身体的疲労感、ストレス、意欲、眠気、難しさ、単調さ、退屈さを測定し、Karolinska Sleepness Scale(KSS)により眠気を測定した。
さらに、被験者における慢性的な疲労具合も調査するため、2種類の試験の実施日のうち初日のみ、試験開始前にChalder’s fatigue scaleにより疲労の強さを測定した。また、2種類の試験はクロスオーバーで実施し、試験を行う順序による影響を除外した。
(2)観察項目
APG検査:測定には指尖用フィンガープローブ(日本光電工業株式会社製)と独自開発した加速度脈波計測プログラムを用いた。これにより、指尖容積脈波を2階微分した加速度脈波を測定してa波、b波、c波、d波、e波それぞれの波高値を測定し、精神疲労負荷であるN−backテストに伴う加速度脈波波形の波高値やそれらを用いた特徴量の変化を解析した。また、脈拍間のa波の間隔であるaa間隔変動の時系列データから最大エントロピー法により周波数解析を実施してLow Frequency component(LF)やHigh Frequency component(HF)を算出し、精神疲労負荷であるN−backテストに伴う自律神経活動指標の変化を解析した。さらにN−backテスト実施前と実施後に聴覚刺激を与えた際の加速度脈波波形の反応の違いを解析した。
ECG検査:測定にはアクティブトレーサー(アームエレクトロニクス株式会社製)を用いた。これにより、心拍変動を測定し、最大エントロピー法による周波数解析を実施してLFやHFを算出し、精神疲労負荷であるN−backテストに伴う自律神経活動指標の変化を解析した。
EEG検査:測定にはNEUROFAX EEG 1518(日本光電工業株式会社製)を用いた。これにより、脳波の時系列データを取得し、高速フーリエ変換法(FFT)による周波数解析を実施した。解析対象部位は、Kaidaらの研究報告(非特許文献:Kaida K et al., Validation of Karolinska sleepiness scale against performance and EEG variables. Clinical Neurophysiology. 117: 1574−1581, 2006.)を参考として、国際10−20法におけるF3、C3、O1とした。解析周波数帯域はθ波帯域(3Hz以上8Hz以下)、α波帯域(8Hz以上13Hz以下)、β波帯域(13Hz以上25Hz以下)とし、これらのパワー値の算術和をトータルパワー値とした。なお、δ波帯域(0Hz以上3Hz以下)は開眼状態での瞬目の影響を考慮し、解析から除外した。
MEG検査:測定には160チャネルヘルメット型脳磁図計(MEG vision)(横河電機株式会社製)を用いた。これにより、N−backテスト実施前後における開眼安静時及び閉眼安静時に自発磁場活動を測定し、これに対してFFTによる周波数解析を実施した。FFTによる自発脳活動の周波数解析対象は全160チャネルとし、各周波数の範囲はEEGと同様に定義した。
なお、2群間の比較についてはPaired t−testを実施した。2群間の相関についてはPearsonの相関分析を実施した。P値は0.05未満を統計学的有意と判定した。
(3)結果
N−backテスト実施後の主観データでは、0−backテスト実施群は2−backテスト実施群に比べて、眠気、単調、退屈VASスコアが有意に高値を示した。一方では、2−backテスト実施群は0−backテスト実施群に比べて、ストレス及び難しさのVASスコアが有意に高値を示す傾向にあった。これらの結果は、実施例1の結果とほぼ同じ傾向であり、本試験の信頼性・妥当性を保証するものと考えられた。
図16Aは、精神疲労負荷(0−back)前後におけるAPG波形の波高値の変化を表す図である。図16Bは、精神疲労負荷(2−back)前後におけるAPG波形の波高値の変化を表す図である。
これらの図に示すように、APGの波形解析において、特許文献1が示すような先の研究でも報告があるように、0−backテスト実施群及び2−backテスト実施群ともに、N−backテストによりa波、e波の有意な低下及びb波の有意な上昇が認められた。しかし、c波またはd波については、精神疲労負荷の影響が見られなかった。
つまり、c波またはd波は、疲労以外の要因による影響で変化する成分波である。このため、指標値にc波またはd波を用いることで、疲労以外の要因による影響を相殺することができる。
今回見出したこの現象は、単調な作業による疲労や困難な作業による疲労を問わず、疲労共通の特徴であると考えられた。そこで、c波またはd波を用いたc/a、c/b、c/e、a−c及びc−a、さらに|d−c|/aのような指標値を算出して精神疲労負荷に対する変化を分析した。
図17は、精神疲労負荷前後におけるAPGに基づく指標値(c/a、c/b、c/e)の変化を表す図である。また、図18は、精神疲労負荷前後におけるAPGに基づく指標値(a−c、c−a、|d−c|/a)の変化を表す図である。
これらの図に示すように、精神疲労負荷に対する変化を分析したところ、N−backテストにより、c/a、c/e、c−a、|d−c|/aが有意に増加し、c/b、a−cが有意に減少することがわかった。例えば、図17に示すc/a値は、0−backテスト実施群の場合、疲労前後で0.043から0.091へと有意に増加し、2−backテスト実施群の場合、疲労前後で0.048から0.085へと有意に増加した。
これらの精神疲労負荷の影響が見られないc波またはd波を用いた指標値は、波高値をそのまま用いる場合に比べて、疲労以外の要因による影響を相殺することが可能になり、疲労評価においてはより有効な指標と考えられた。
図19は、精神疲労負荷前後における聴覚刺激に対するc/a値の変化を表す図である。
聴覚刺激に対するAPG波形の反応解析については、今回本発明者らが解析を行った結果、0−backテスト実施群では、0−backテスト実施前も実施後も、c/aが聴覚刺激前と聴覚刺激中で有意な変化を示すことがわかった。一方、2−backテスト実施群では、2−backテスト実施前は聴覚刺激前と聴覚刺激中で有意な変化を示すが、2−backテスト実施後は聴覚刺激前と聴覚刺激中で有意な変化を示さない(2−backテスト実施後のグラフに「**」マークが表示されていない)ことがわかった。
つまり、2−backテスト実施後は、聴覚刺激前と聴覚刺激中で1%の有意水準を満たさなかったことを示しており、具体的には、聴覚刺激前よりも聴覚刺激中の方が高い値を示したのは、99%未満の確率であったことを示している。これにより、単調な作業による疲労と困難な作業による疲労とで聴覚刺激に対するc/aの挙動が異なると考えられた。これは、c/a以外の、c/b、c/e、a−c及びc−a、さらに|d−c|/aのような指標値でも同様の結果となった。
図20は、精神疲労負荷前後におけるlnHFの変化を表す図である。
APGまたはECGの周波数解析において、0−backテスト実施群では、0−backテスト実施前後でHFを対数化したlnHFは有意に変化しないが、2−backテスト実施群では、2−backテスト実施によりlnHFが有意に低下した。つまり、同図に示すlnHFは、0−backテスト実施群の場合、疲労前後で6.20から6.01へと減少し(有意差なし)、2−backテスト実施群の場合、疲労前後で6.67から6.25へと有意に減少した。
lnHFは副交感神経系活動の指標であると考えてられており、今回の結果から、単調な作業による疲労では、副交感神経系活動の変化を伴わず、困難な作業による疲労では、副交感神経系活動の低下が特徴であると考えられた。
図21は、精神疲労負荷前後におけるlnβ、lnθ及びlnθ/lnβの変化を表す図である。
EEGの周波数解析において、開眼安静時では、0−backテスト実施群では、0−backテスト実施によりβ波のパワー値を対数化したlnβが有意に減少し、Slow−wave Indexであるlnθ/lnβが有意に増加した。2−backテスト実施群では、2−backテスト実施によりlnθ及びlnθ/lnβが有意に減少した。
図22は、精神疲労負荷前後におけるlnβ、lnα及びlnθ/lnαの変化を表す図である。
閉眼安静時では、0−backテスト実施群では、0−backテスト実施によりO1部のlnβが有意に減少した。2−backテスト実施群では、2−backテスト実施によりlnαが有意に増加し、閉眼時のSlow−wave Indexであるlnθ/lnαが有意に減少した。
これにより、単調な作業による疲労は、徐波化を促進し、覚醒度の低下を誘発したと考えられ、一方、困難な作業による疲労は、速波化を促進し、覚醒度の持続或いは亢進を誘発したと考えられた。
図23Aは、精神疲労負荷前後における%θの変化を表す図であり、図23Bは、精神疲労負荷前後における%αの変化を表す図である。また、図24は、精神疲労負荷前後におけるα−blockingの変化を表す図である。
図23Aに示すように、MEGの周波数解析においても、開眼安静時、0−backテスト実施群において、0−backテスト実施によりθ波とα波とβ波のトータルパワー値に対するθ波のパワー値の比率(%θ)が、有意に増加した。なお、θ波のパワー値でも同様の結果となり、EEGによる徐波化と一致した結果となった。
また、図23Bに示すように、閉眼安静時、2−backテスト実施群では、2−backテスト実施によりθ波とα波とβ波のトータルパワー値に対するα波のパワー値の比率(%α)が、有意に増加した。なお、α波のパワー値及びlnαでも同様の結果となった。
さらに、図24に示すように、2−backテスト実施群では、開眼安静時のα波のパワー値と閉眼安静時のα波のパワー値の差としてのα−blocking(閉眼−開眼)、開眼安静時のα波のパワー値と閉眼安静時のα波のパワー値の比としてのα−blocking(閉眼/開眼)が、ともに有意に増加した。また、EEGでも同様の傾向が見られた。
この際、MEGやEEGのパワースペクトルにおける平均周波数を、θとθ波帯域の中心周波数(5.5Hz)の乗算値、αとα波帯域の中心周波数(10.5Hz)の乗算値、βとβ波帯域の中心周波数(19Hz)の乗算値の総和をトータルパワー値で除した式により求めたところ、平均周波数は2−backテスト実施前後で変化していないことを確認した。これにより、困難な作業による疲労は、単に速波化を促進するだけではなく、脳の基礎律動の1つであるα波を増強(標準値に戻ると言うよりもさらに増強)する側面があると考えられた。
以上の結果から、APG波形のc波またはd波が精神疲労負荷の影響を受けにくいことを見出した。これにより、c波またはd波を用いた指標値を用いることで、従来よりも疲労評価の評価精度を向上することができることを見出した。さらに、APGまたはECGの周波数解析により算出した副交感神経活動指標、EEGまたはMEGの周波数解析により算出したα波のパワー値とβ波のパワー値が、「単調で、負荷の小さい作業により生じる疲労」と「困難で、負荷の大きい作業により生じる疲労」とで異なる挙動をすることを見出した。APGまたはECGの周波数解析により自律神経活動指標を算出し、疲労時に交感神経系活動の増加と副交感神経系活動の減少が見られることは既に知られていた。しかし、今回本発明者らは、副交感神経活動の減少を伴わないタイプの疲労が存在することを見出した。よって、副交感神経活動指標、α波のパワー値、β波のパワー値を用いることで、疲労の有無の判断にとどまらず、疲労の質的相違を差別化できることを見出した。