本発明は、波長変換素子を備えたレーザ光源及びそれを用いた画像表示装置に関するものである。
単色性が強くW級の高出力がRGBの三色で出力できる可視光レーザ光源は、色再現性が広く、低消費電力の大型ディスプレイや、小型で高輝度な照明装置を実現するうえで重要となる。
赤色および青色の高出力レーザ光源は半導体レーザにより実現されているものの、緑色の高出力レーザ光源は半導体レーザとして構成できる実用的に最適な材料の構成が難しく実現が困難である。そこで、例えば半導体レーザ、半導体レーザ励起の固体レーザ、ファイバレーザなどの赤外光を基本波とし、非線形光学結晶からなる波長変換素子を用いて、その第2高調波となる緑色光を出力する方法が注目されている。
しかしながら、光源としてレーザを用いた画像表示装置において、スペックルノイズが発生する。例えば、プロジェクタにより形成された虚像を観測者が鑑賞する場合には、観測者の網膜上においては、スクリーンの各領域からの光が重なって画像が形成される。このとき、このスクリーン上の異なる領域を経た光同士が複雑な位相関係で重ねられ、レーザ光は高いコヒーレンシ(可干渉性)を有していることから、互いに干渉し合うこととなる。このような干渉によって、干渉パターンが形成されてしまうため、意図しない光強度分布(スペックルノイズ)として、表示画像の画質低下を導く。
スペックルノイズは、コヒーレンシを有するレーザ光を画像表示装置、計測装置、露光装置などの光源として用いる場合に共通の課題であり、これまでにも、スペックルノイズを低減させるための種々の試みがなされてきた。
例えば、特許文献1に記載されるように回転拡散板を用いたものが提案されている。これらの構成では、光源から出射されたレーザ光の光路上に、高速で回転操作される拡散板が配設されている。この拡散板は、高速回転されることによって、レーザ光により発生される干渉パターンを、スクリーン上において高速に動き回らせることで平均化し、スペックルノイズを低減している。
すなわち、これらの構成においては、実際に干渉パターンが消失するわけではなく、複数の異なる(互いに相関の無い)干渉パターンが重ねあわされることで、あたかもスペックルノイズが消失したかのように見えるのである。
しかし、この場合も、完全にスペックルノイズを消失させることは難しく、特に、波長変換素子を用いて生成した緑色光のスペックルノイズが顕著に残る。これは、波長変換素子内で緑色光に変換される波長が限られているため、半導体レーザによる赤色、青色に比べて、波長幅が狭く、可干渉性が高いことが原因であった。
図2に概略構成を示すように、従来一般的に用いられてきた波長変換レーザ光源200では、基本波光源201にて生成された基本波203を波長変換素子202に入射し、第2高調波204に変換する。波長変換素子としては、非線形光学定数が大きく、高効率波長変換が可能との理由から、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムを主とする非線形光学結晶が広く用いられている。また、これらの非線形光学結晶を用いる場合、一定の周期(Λ)で分極方向が反転する擬似位相整合型波長変換素子とすることで、更に、高効率な波長変換が可能となる。
しかし、波長変換効率は基本波の波長に依存し、すべての波長の基本波に対して高い波長変換効率を満たすことは出来ていなかった。波長変換素子202と基本波となる赤外光の相互作用長(図2の例では波長変換素子202全長(L)が相互作用長となる。)を短くすることで、波長許容幅(高効率波長変換可能な波長の幅)を拡大することが可能となるが、波長変換効率(波長許容幅内の基本波を波長変換する効率)が低下する。つまり、波長許容幅と波長変換効率はトレードオフの関係であった。
これに対して、非特許文献1に示すように、波長変換素子内に周期の異なる複数の分極反転領域を形成する方法で、広い波長許容幅と高効率波長変換の両立が可能となった。図3に示すように、この方法を用いた波長変換レーザ光源300は、波長変換素子301を備え、波長変換素子301は分極反転周期と領域の長さがそれぞれ、Λ1、Λ2…、Λnと、L1、L2…、Lnとなる分極反転領域A1、A2…、Anを備える。また、各領域の分極反転周期Λi(i=1,2、…n)は、Λi=Λ1+ΔΛ(i−1)で表されるように、波長変換素子に基本波が入射する面から、波長変換された光が出射する面にかけて、各分極反転領域の分極反転周期が単調増加、または、単調減少する。
ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子を用いて赤外光をその第2高調波となる緑色光に変換する例について説明する。基本波光源は、図17にスペクトル分布を示すように1060nm〜1064nmの波長の光を同時に発振する波長幅の広い赤外光源とする。
ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子の場合、1060nmの波長の基本波を第2高調波となる530nmの波長の光に変換する最適な分極反転周期は6.91μmであり、1064nmの波長の基本波を第2高調波となる532nmの波長の光に変換する場合は6.95μmが最適な分極反転周期となる。
そこで、Λ1=6.91μm、Λn=6.95μmとし、素子の全長に併せて、最適なΔΛと各分極反転領域の長さを調節することで、1060nm〜1064nmのすべての波長の基本波をその第2高調波に変換することが可能な波長変換素子となる。
尚、図3では図2と同じ構成要素には同じ符号を付している。以後同様に、本明細書中では、同じ構成要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。
Journal of Lightwave Technology Vol,26,NO.3 February 1,2008
しかしながら、上記従来の波長変換レーザ光源の構成では、基本波出力が一定であっても波長変換された光の出力が変動するという新たな課題を有していた。
本発明は出力が安定した波長変換レーザ光源及びそれを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
本発明の一局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光を生成するレーザ光源と、前記基本波レーザ光を入射し、異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子が、周期が異なる複数の分極反転領域を備え、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記波長変換素子に入射する光路に対して傾くように形成されている。
上記の構成によれば、基本波レーザ光路に対して傾くように周期的分極反転構造を形成したことにより、波長変換素子内において基本波レーザ光から変換されて発生したレーザ光(第2高調波などの波長変換光)が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することが可能となる。この結果、波長変換効率の低下を回避できる。
本発明の波長変換レーザ光源は、上記のとおり効果的に“逆変換”による波長変換効率低下を回避できるので、出力安定性を高めることが可能となる。これにより、例えば本発明の波長変換レーザ光源を画像表示に適用した場合には、輝度の安定した画像表示が可能となる。
本発明の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
本発明の実施の形態1に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来型の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来型の波長幅の広い波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源において、波長変換素子内の分極反転角度とウォークオフ角度の関係を示す図である。
本発明の実施の形態1に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における分極反転角度の変化の一例を示す図である。
従来型の波長変換レーザ光源における分極反転周期の変化を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における分極反転周期の変化の一例を示す図である。
本発明の実施の形態2に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における分極反転角度の変化の他の例を示す図である。
本発明の実施の形態2に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態1に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源において、ウォークオフ角度と第2高調波出力の関係を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置の一例の概略構成を示す図である。
単一波長の基本波を本発明の波長変換素子に入射させて波長変換素子温度と波長変換効率の関係を示す図である。
従来型と本発明の波長変換レーザ光源における波長許容域と入射面から出射面の距離との関係を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における基本波スペクトル分布の一例を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における基本波スペクトル分布の他の一例を示す図である。
図18のスペクトル分布の基本波を本発明の波長変換素子に入射させて波長変換素子温度と波長変換効率の関係を示す図である。
基本波の波長間隔と波長変換効率変動の関係を示す図である。
本発明の第2高調波のスペクトル分布の一例を示す図である。
本発明の第2高調波のスペクトル分布の他の例を示す図である。
本発明の実施の形態3に係る波長変換素子の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態3に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来の波長変換レーザ光源における基本波波長と波長変換効率の関係を示す図である。
本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来の波長変換レーザ光源の一例の概略構成を示す図である。
従来の波長変換素子を切り出す非線形光学結晶基板の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換素子を切り出す非線形光学結晶基板の概略構成を示す図である。
図29に示す非線形光学結晶基板から切り出した非線形光学結晶小基板の概略構成を示す図である。
(a)本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。(b)本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の別の構成を示す図である。
本発明の実施の形態3に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来型と本発明の波長変換レーザ光源における波長許容域と入・出射面の位置ずれとの関係を示す図である。
本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態4に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態4に係るさらに他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
図36に示す波長変換レーザ光源の基本波波長に対する波長変換効率の関係を示す図である。
我々独自の検討の結果、複数の分極反転領域を備えた波長変換素子において波長変換出力が安定しない原因として、以下の知見が得られた。
前述のように、1060nm〜1064nmのように波長幅の広い赤外光を基本波として、波長変換素子301内にて第2高調波に波長変換する例について説明する。
まず、Λ1=6.91μmとなる分極反転領域A1では、波長1060nm付近の赤外光成分が波長530nm付近の第2高調波(緑色光)に変換される。そして、波長1064nm付近の赤外光成分は、Λn=6.95μmとなる分極反転領域An内で、波長532nm付近の緑色光に変換される。しかし、同時に、分極反転領域Anでは、波長1060nmの赤外光の第2高調波として発生した波長530nmの緑色光が、波長1060nm以外の赤外光との差周波を発生させる。例えば、波長530nmの緑色光と波長1064nmの赤外光との差周波として波長1056nmの赤外光が発生し、1062nmの赤外光との差周波として波長1058nmの赤外光が発生する。
このように、一旦波長変換されて生成した第2高調波が、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象は波長変換効率の低下を導く。また、差周波発生による波長変換効率低下量は、温度に大きく依存して変動する。このため、温度変化による波長変換効率の変化の割合が増大し、出力の安定性を低下させる。
この課題は、波長変換素子内に、分極反転周期が異なる分極反転領域が存在する場合に発生する課題である。
なお、波長変換素子内に、分極反転周期が異なる複数の分極反転領域が存在しない場合であっても、後述するように、固体結晶レーザと波長変換素子を含む内部共振器型波長変換レーザ光源で、基本波と第2高調波の光路が一致している場合にも同様の課題は起こりうる。この点については、実施の形態2で後述する。
以下、上記現象を軽減し、出力を安定させる本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1にかかる波長変換レーザ光源100の概略構成を示す。従来型同様に、基本波光源201にて生成する基本波を第2高調波に変換する構成とする。また、本実施の形態で用いる波長変換素子101も波長変換素子301と同様に、周期の異なる複数の分極反転領域を備える。しかし、波長変換素子101は周期分極反転が基本波203の光軸に対して傾けて形成されている点で、波長変換素子301と異なる。周期状の分極反転構造に対する垂線を分極反転軸102とし、分極反転軸102と基本波203の光軸の成す角度を分極反転角度θとすると、θが0でない場合、基本波と第2高調波の分散特性よりウォークオフ角度θwが発生し、高調波は基本波と異なる伝搬方向に発生する。なお、図1では、複数の分極反転領域の分極反転軸がなす角度を全て同一としているが、少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸がレーザの入射方向に対して傾斜していれば、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象を低減するという本願特有の効果を奏することが出来る。
なお、ウォークオフ角度が大きくなるほど、逆変換が軽減されるため第2高調波出力が増加するが、ある程度以上大きくなると、基本波と第2高調波の相互作用長が短くなることによる効率低下が顕著となる。そのため、ウォークオフ角度が大きくなるほど第2高調波出力が低下する。
このため、図13に実験結果を示すように、ウォークオフ角度の絶対値は0.1°以上、0.5°以下が特に望ましく、この範囲で、ウォークオフ角度が0の場合より高出力な第2高調波が得られる。また、ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子の場合、分極反転角度は2.9°以上、14.6°以下が上記範囲に相当するため特に望ましい。同様に、タンタル酸リチウムを主とする波長変換素子の場合は、3.3°以上、16.6°以下が上記範囲に相当するため望ましい。
図4に、ニオブ酸リチウムを波長変換素子とし、赤外光を基本波として第2高調波となる緑色光に変換する場合の、分極反転角度θとウォークオフ角度θwの関係を示す。
分極反転角度θを大きくするほどウォークオフ角度θwが大きくなり、発生した第2高調波と基本波の重なりを軽減することが可能となる。これによって、例えば分極反転領域A1で発生した第2高調波が、その後の分極反転領域A2〜Anにて基本波に逆変換されることを抑制することが可能となる。
そして、少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸が、その他の分極反転領域のうち少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸とは異なるように形成することによって、逆変換による出力不安定を効果的に抑制できる。
より望ましくは、図5に示す波長変換レーザ光源500のように、少なくとも2つの隣り合う分極反転領域の分極反転角度θが異なる角度となる波長変換素子501を用いることで、更に、逆変換による出力不安定を軽減することが可能となる。
また、図6に示すように、波長変換素子入射面から数えて奇数番目の分極反転領域(A1、A3、A5…)の分極反転角度が正で、偶数番目の分極反転領域(A2、A4、A6…)の分極反転が負となることが更に望ましい。また同様に、波長変換素子入射面から数えて奇数番目の分極反転領域(A1、A3、A5…)の分極反転角度が負で、偶数番目の分極反転領域(A2、A4、A6…)の分極反転が正となることが更に望ましい。
これらの場合、第2高調波は発生した直後の分極反転領域において、大きく逆変換されることを抑制することが可能となるため、より小さな分極反転角度で高い出力安定性が得られる。分極反転角度を小さく押さえることが可能となり、指向性の高い光が得られるため、この光源をプロジェクタなどの画像表示装置に利用する場合に、光学系の小型化が可能となる。
また、図10に示すように、奇数番目の分極反転領域の少なくとも二つは同じ分極反転角度であり、同様に、偶数番目の分極反転領域の少なくとも二つは別の同じ分極反転角度であることがより望ましい。
これにより、発生する第2高調波の伝播方向が揃うため、プロジェクタなどの画像表示装置とする場合に、より簡単な(安価な)光学系を用いることが可能となる。なお、分極反転角度θが0ではない分極反転領域が多くなるほど、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象を低減することが可能となり、出力の安定性を保つことが出来る。一方で、分極反転角度θの種類が多くなるほど、レーザ光の方向が多方向に出射することになる。また、波長変換素子内に存在する分極反転軸の種類が増加し、波長変換素子内部に多方向の応力が発生する可能性がある。よって、各分極反転領域の分極反転角度を極力少なく(例えば2種類、もしくは3種類)に揃えることで、出射するレーザの方向を減らす(2、3種類にする)ことが可能となり、プロジェクタなどに用いる場合に、より小型で安価な光学系で光利用効率の高い画像表示装置が可能となる。
また、言うまでも無く、上記理由により、奇数番目の分極反転領域のすべてが同じ分極反転角度であり、同様に、偶数番目の分極反転領域のすべてが別の同じ分極反転角度であり、奇数番目と偶数番目の分極反転角の正負が反対であることが最も望ましい。
また、非特許文献1に示す(図3に示す)従来型の波長変換レーザ光源では、既に示したとおり、分極反転周期Λi(i=1、2、…n)は、Λi=Λ1+ΔΛ(i−1)で表されるように、波長変換素子に基本波が入射する面から、波長変換された光が出射する面にかけて、各分極反転領域の分極反転周期が単調増加、または、単調減少する。図示すると、それぞれ図7(a)、図7(b)のようになる。従来構成では、基本波と第2高調波の光路が一致しており、周期が近い二つの分極反転領域が離れた位置に配置されることで、更に出力が不安定となるため、このような分極反転周期(領域)の並びとすることが必須であった。
しかし、本実施の形態のうち、隣り合う分極反転領域の分極反転角度が異なる場合、周期が近い二つの分極反転領域は、図8に示すように、隣り合わないことがより望ましい。隣り合う分極反転領域の分極反転周期の差が大きいほど、各領域から出射する光が相互に作用しにくくなるためである。これにより、更に、逆変換による出力不安定を抑制することが可能となる。
また、図12に示すように、隣り合う分極反転領域Aiと分極反転領域Ai+1の間に、分極反転構造を形成しない分極無反転領域Biを備えることがより望ましい。これによって、分極反転領域Ai+1において、分極反転領域Aiから発生する緑色光の光路と、赤外光の光路の間隔を物理的により広く取ることが可能となり、相互作用をより弱めることが可能となる。その結果、逆変換による出力不安定を更に抑制することが可能となる。
また、図5のように、分極反転角度が隣り合う領域で異なる場合は、分極反転領域の境界部に負荷がかかり、波長変換素子が時間と共に劣化(波長変換効率が低下)する場合がある。このような素子においては、上記のような分極無反転領域を間に挟むことで、波長変換素子の経時的な波長変換効率の低下を抑制することが可能となる。
また、更に、波長変換素子において、レーザ光の入射面以外であって、分極方向と交わる面については、絶縁性物質で覆うことが望ましく、これによって、更に、経時的な波長変換効率の劣化を抑制することが可能となる。
また、本実施の形態の基本波レーザ光源として、ファイバレーザを用いた例を示したが、{Gd2Y}Sc2(Al2Ga)O12などのセラミック材料等からなる固体レーザ結晶を用いてもよい。この場合、小型で波長幅の広い波長変換レーザ光源が可能となり、小型でスペックルノイズ軽減効果が大きい画像表示装置を実現することが可能となる。
なお、空間や他物質を挟んで分極反転周期が異なる波長変換素子が複数個配置されている場合にも、同様の課題が発生する可能性がある。しかし、このような構成の場合には、複数の素子の温度が一定になるように制御し、それぞれの波長変換素子の間隔をnmオーダーの精度で制御しないと、波長幅の広い光を波長変換することができない。対して、本実施の形態に係る発明のように、同一素子内に分極反転周期が異なる複数領域を有する場合には、温度を一定にしやすく、かつ波長変換素子の間隔(同一素子の場合は分極反転領域の間隔)が変化することはないという特有の効果を奏することが出来る。
(実施の形態2)
本発明の他の実施の形態について図面を参照し以下に説明する。
図9は本発明の実施の形態2にかかる波長変換レーザ光源900の概略構成を示す。本構成では、半導体レーザ901(励起レーザ光源)、固体レーザ結晶902、波長変換素子903を備える。半導体レーザ901で発振させた波長808nmの励起光904で、YVO4にNdを添加した固体レーザ結晶902を励起し、基本波907を発生させる。固体レーザ結晶902の励起光入射面905には、励起光に対する反射防止コートであり、基本波とその第2高調波に対する透過防止コートが形成されている。また、励起光入射面905の対面を親水化処理し、同様に親水化処理したニオブ酸リチウムからなる波長変換素子903を励起光入射面905の対面に貼り合わせて(以降、直接接合とする。)、光学的に接合した状態としている。波長変換素子903において、固体レーザ結晶902と直接接合された面の対面906には、基本波に対する透過防止コートであり、第2高調波に対する反射防止コートが形成されている。つまり、固体レーザ結晶902にて発生した基本波907を、固体レーザ結晶902と波長変換素子903を挟んだ2面の透過防止コート内で共振させて発振させる。この共振器内に備えた波長変換素子903は、実施の形態1(図1)の波長変換素子101と同様に、分極反転軸が基本波の光軸に対して傾くよう分極反転周期が形成されており、基本波907をその光軸に対して斜めに伝搬する第2高調波908、909に変換する。
本実施の形態のように、基本波の共振器内に波長変換素子を備える構成では、波長変換素子903内で固体レーザ結晶902側に伝搬する第2高調波909と、その反対側に伝播する第2高調波908が発生する。
このように、固体レーザ結晶902と波長変換素子903が一つの共振器内に設置され、基本波と第2高調波の光路が一致する場合においても、一旦波長変換されて生成した第2高調波が、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象が起こりうる。以下、この事象について説明する。
従来は、基本波の光軸と分極反転軸が一致している(分極反転角度が0の)構成が一般的であった。固体レーザ結晶902と波長変換素子903が接合されている場合、実施の形態1と異なり、光が固体レーザ結晶と波長変換素子内部を複数回往復する。このような場合には、第2高調波909のように波長変換素子から生成されて、固体レーザ結晶側に伝搬し、透過防止コート905を施した面で反射させられて再び波長変換素子に戻される光が、基本波との差周波によって逆変換される。ここで逆変換される量は、基本波と再び波長変換素子に戻された第2高調波の位相関係で変化し、固体レーザ結晶、波長変換素子の温度変化、共振している基本波の波長変化によって大きく変化し、出力不安定を導く。
以上のように、実施の形態1のように分極反転周期が異なる分極反転領域を複数具備する波長変換素子を用いる場合以外にも、基本波が発振する共振器内に波長変換素子が設置される場合には、分極反転領域が一つの場合や、複数の分極反転領域の分極反転周期が同一の場合にも同様の課題が発生し得る。
この出力不安定は、基本波の共振器内に波長変換素子を備え、第2高調波の反射面が基本波の波面に一致している構成の波長変換レーザ光源特有の課題であるが、本発明では、この課題に対しても軽減効果を発揮する。
なお、固体レーザ結晶902は巨視的に考えると、無周期領域とみなすことが可能であり、分極反転周期が異なる2つの領域が接合された素子において起こりうる特有の課題という点では、実施の形態1及び2において共通である。
ただし、全域にわたって分極反転周期が一定の波長変換素子より、分極反転周期が異なる分極反転領域を複数具備する波長変換素子を用いる方が望ましく、これによって、より広い波長範囲の基本波に対して高い波長変換効率が得られる。
また、複数の分極反転領域の分極反転周期が同一の場合で、且つ、各分極反転領域の間隔をあえて周囲の分極反転周期の整数倍から大きくはずしている(例えば、(0.2〜0.8 + 整数)倍の)波長変換素子を用いることが望ましく、これによって、より波長変動による波長変換効率の変動が少ない波長変換レーザ光源となる。
ここで、実施の形態1と同様に、ウォークオフ角度が大きくなるほど、逆変換が軽減されるため第2高調波出力が増加するが、ある程度以上大きくなると、基本波と第2高調波の相互作用長が短くなることによる効率低下が顕著となるため、ウォークオフ角度が大きくなるほど第2高調波出力が低下する。このため、図13に実験結果を示すように、ウォークオフ角度の絶対値は0.1°以上、0.5°以下が特に望ましく、この範囲で、ウォークオフ角度が0の場合より高出力な第2高調波が得られる。また、ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子の場合、分極反転角度は2.9°以上、14.6°以下が上記範囲に相当するため特に望ましい。同様に、タンタル酸リチウムを主とする波長変換素子の場合は、3.3°以上、16.6°以下が上記範囲に相当するため望ましい。
本実施の形態では、固体レーザ結晶と波長変換素子を直接接合させた構成について示したが、両者が離れている構成や、凹面ミラーやレンズを共振器内に備えた攻勢であってもよいことは言うまでもない。ただし、本構成のように、固体レーザ結晶902と波長変換素子903を直接接合させ、両者の接合面と反対の面で基本波の共振器を構成する波長変換レーザ光源は、より小型で安価な波長変換レーザ光源となるため望ましい。
また、固体レーザ結晶と直接接合される波長変換素子の面内において、分極方向が反転する場合、波長変換効率が経時的に低下する課題が発生することがわかった。このため、図11に示すように、固体レーザ結晶と接する面側に分極反転周期が形成されていない分極反転無形成領域1101を備えた波長変換素子1102を用いることがより望ましく、これによって、上記経時劣化を抑制することが可能となる。
また、本実施の形態の波長変換素子についても、実施の形態1と同様に、周期の異なる複数の分極反転領域を備えることで、発振波長幅を拡大することが可能となるため望ましい。更に、実施の形態1と同様に、分極反転領域ごとに分極反転角度が異なることが望ましく、入射面から奇数番目と偶数番目の分極反転角度の正負が入れ替わることが望ましく、奇数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度で、偶数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度であることが望ましく、周期が近い2つの分極反転領域は隣り合わないことが望ましく、分極反転領域間に分極反転構造が形成されていない無形成領域を備えることがより望ましい(理由、効果についても実施の形態1と同様)。
本実施の形態では、固体レーザ結晶902としてNdを添加したYVO4を用いたが、本発明は別の固体レーザ結晶材料を用いても同様の効果を奏でる。例えば、Ybを添加したYVO4や、Nd、Ybを添加したYAG等を用いてもよい。
また、本実施の形態の固体レーザ結晶としては、{Gd2Y}Sc2(Al2Ga)O12などのセラミック材料等を用いることで、波長幅の広い波長変換レーザ光源が可能となり、画像表示装置として用いた場合のスペックルノイズ軽減効果が大きい。
また、周期の異なる複数の分極反転領域を備えた波長変換素子に、単一波長の基本波を入射させると、波長変換効率は図15に実験結果を示すような凸凹の(複数の極大値を持つ)温度特性を示す。そこで、図18にスペクトル分布を示すように、二つ以上の波長を持つ基本波光源を用いることが望ましい。これによって、図19に実験結果を示すように温度特性の凹凸を軽減することが可能となる。
図15に示すように、単一波長の基本波に対して、約20℃間隔で波長変換効率のピーク(極大)がある波長変換素子の場合には、図18に示す波長間隔(2つの基本波の波長差)と図15に示す効率変動(波長変換効率の極大値から極小値への変化率)の関係が図20に示すような関係となる。
波長間隔が何れの場合であっても、単一波長の基本波を入射させた場合より効率変動を抑制することができる。また、より望ましくは、
(0.67+1.33×p)> 波長間隔 >(-0.67+1.33×p)
が満たされることが望ましい。この範囲では、効率変動を単一波長の場合の半分以下に減らすことが可能であり、より効率変動を軽減することが可能となる。ここでpは任意の正の整数とする。
また、より一般化すると、単一波長の基本波を入射した場合の波長変換効率のピーク間隔がq℃の場合は、
(0.033+0.067×p)×q>波長間隔 >(-0.033+0.67×p)×q
の範囲の波長間隔の基本波光源を用いることが望ましく、効率変動を半分以下に軽減することが可能となる。
上記は、擬似位相整合波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の場合に共通して言えることであり、ニオブ酸リチウムの他に、タンタル酸リチウム、KTPなどの結晶を主とする擬似位相整合波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の場合も同様のことが言える。
また、二つのピーク波長をもつ基本波光源を用いる場合、従来のように、分極反転角が一定の波長変換素子を用いると、それぞれの波長の第二高調波と二つの基本波波長の和周波が発生するため、図21に示すような三つの波長の緑色光が得られる。しかし、複数の分極反転領域の分極反転角が異なる波長変換素子を用いることで、この和周波の発生を抑えることが可能となり、図22に示すように、二つの波長の緑色光のみを生成することが可能となる。これによって、更にスペックルノイズ軽減効果を高めることが可能となるため望ましい。
また、波長880nmの励起光を発振する半導体レーザを用いて、固体レーザ結晶902を励起してもよい。この場合、励起光から基本波への励起効率が高まり、より低消費電力なレーザ光源が実現可能となるため望ましい。
(実施の形態3)
本発明のさらに他の実施の形態について図面を参照し以下に説明する。
従来の波長変換レーザ光源は、波長変換素子の作製バラツキによって、設計通りの波長許容域を確保することができないという課題も有していた。
また、この課題は、基本波光源の波長変動の発生によって、第2高調波の出力変動を引き起こす。以下に、その内容を説明する。
波長変換素子は、図27に示すように基本波を入射する入射面2306と波長変換された第2高調波を出射する出射面2307が必要であり、入射面2306と出射面2307は、光学研磨されている。しかし、その研磨の仕上がり位置が所望の位置からずれて入射面と出射面の距離が変わると、設計通りの波長許容域が得られない。
また、この課題は、実施の形態1及び2にて示した「周期の異なる複数の分極反転領域を備えた波長変換素子」だけでなく、入射面から出射面まで均一な周期の分極反転構造を形成した擬似位相整合波長変換素子(以降、単一周期波長変換素子とする)や、複屈折位相整合波長変換素子においても同様の課題が発生する。
例えば、単一周期波長変換素子の作製方法について図28を用いて示す。図28に示すように、一定周期の分極反転構造を形成した非線形光学結晶基板2801は、点線2802に沿って各波長変換素子に切り分けられる。そして、波長変換素子のうち、光の入射面と出射面に当たる切断面を研磨して作製される。
このように作製された波長変換素子は、図25に点線2501で示すように、最適波長で波長変換効率が最大となり、最適波長から波長がずれるほど波長変換効率が低くなる。
ここで、波長変換素子と基本波との相互作用長D(図27の構成の場合は、入射面から出射面までの距離に相当する。)が所望の距離の場合に、図25の点線2501で示すような波長と波長変換効率の関係を示す場合について考える。
このとき、波長変換素子と基本波との相互作用長Dが所望の距離より長い場合、図25に実線2502で示すように、最適波長での波長変換効率は増加するが、最適波長から波長がずれることによる波長変換効率の低下が激しくなる。
反対に、波長変換素子と基本波との相互作用長Dが所望の距離より短い場合、図25に破線2503で示すように、最適波長から波長がずれた場合の波長変換効率の低下は少なくなるが、最適波長での波長変換効率が低下する。
このため、例えば「図25のAで示す波長範囲全域で波長変換効率Bを越えること」を波長変換素子の特性として求めた場合、波長変換素子入射面から出射面間の距離は所望の距離より長くても、短くても、必要な特性が得られないことになる。距離を規定するには、研磨の仕上がり位置を厳密に制御する必要があるが、実用上非常に困難である。
実施の形態3及び4では、波長変換素子の入射面から出射面の距離が所望の距離から逸脱した場合にも、最適波長を含む所定の波長範囲において、波長変換効率の低下を低減することが出来る波長変換素子を備えた波長変換レーザ光源について示す。
また、ここで示す波長変換レーザ光源は、基本波の波長変動があっても出力がより安定した波長変換レーザ光源となる。
図23に、本発明の実施の形態3に係る波長変換レーザ光源の波長変換素子の概略構成について示す。
波長変換素子2301は、分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備え、波長変換領域2303の両端に非波長変換領域2302を有している。波長変換領域2303は、例えば周期が約7mmの分極反転構造が形成されており、ニオブ酸リチウムを主とする擬似位相整合型の波長変換素子である。波長変換素子2301に入射した基本波2304は、その第2高調波2305に変換されて出射する。
波長変換領域2303の一方の端面、好ましくは両端面に形成された非波長変換領域2302は、分極反転構造が形成されていない領域であって、基本波2304はほとんど波長変換されない。
非波長変換領域2302は、波長変換素子2301のうち、基本波2304が入射する端面2306、及び第2高調波2305が出射する端面2307のうち、何れか一方、もしくは両方に形成されている。すなわち、波長変換素子2301の端面のうち、波長変換領域2303の分極反転構造の分極反転壁(分極反転が入れ替わる境界面)の垂線と交わる端面に非波長変換領域2302が形成されている。また、図23では非波長変換領域2302は、波長変換素子2301の端面2306、2307の全面に形成されているが、基本波2304もしくは第2高調波2305が通過する領域を含むように形成されていればよい。
なお、図23では、2つの非波長変換領域2302の長さdは同等であることを示している。しかし、波長変換領域2303の左右、すなわち、基本波が入射する側に配置された非波長変換領域と、第2高調波が出射する側に配置された非波長変換領域の長さを、目的に応じて異ならせることが出来る。
例えば、出射する第2高調波のロスを低減し、出力をより高めたい場合は、第2高調波が出射する側に配置された非波長変換領域の長さ(以下、d2とする)を、基本波が入射する側に配置された非波長変換領域の長さ(以下、d1とする)よりも短くすることが好ましい。
この場合、非波長変換領域の長さを長くすることによって、端面研磨によって波長変換領域2303と基本波2304との相互作用長Dが変化する確率が低くなり、より安定した性能の波長変換素子が得られる。しかしながら、出射側の非波長変換領域の長さd2を長くすると、出射した第2高調波にロスが多く生じてしまう。そこで、上述のように、長さd2をd1よりも短くすることで、素子性能の安定性と第2高調波のロス低減を両立することが可能になる。
また、入射する基本波のパワーが比較的大きい場合は、非波長変換領域の長さd1をd2よりも短くすることが好ましい。基本波のパワーが大きい場合、長さd1の非波長変換領域において、基本波が吸収され、熱レンズ効果によってビーム品質が低下するケースが考えられる。そのため、組み合わせられる基本波のパワーが大きいことが予想される場合には、d1をd2よりも短くすることで、ビーム品質の低下を抑制すると共に、出射側においては素子性能の安定性を確保することが可能になる。
次に、図24に本発明の実施の形態3にかかる波長変換レーザ光源の概略構成を示す。
本構成では、基本波光源2401にて生成した基本波2304を波長変換素子2301に入射し、その第2高調波となる第2高調波2305に変換する構成とする。ここで、基本波光源2401は励起用の半導体レーザを備えたファイバレーザで、基本波の波長は1064nmの赤外光である。
波長変換素子2301は、周期が約7μmの分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備え、ニオブ酸リチウムを主とする擬似位相整合波長変換素子である。
波長変換素子2301内で基本波2304は、その第2高調波である波長532nmの緑色光(第2高調波2305)に変換される。
基本波光源2401は、ファイバレーザなどの特定の構成に限られず、半導体レーザ、半導体レーザ励起の固体レーザ等であってもよい。
このように、入射面2306、出射面2307に非波長変換領域2302が露出するように波長変換素子2301を作製することによって、波長変換領域2303と基本波2304との相互作用長Dの変動を低減することが可能なる。つまり、より一定した波長許容域の確保が可能となる。
従来型の波長変換素子2701と、本実施の形態の波長変換素子2301について、入射面から出射面までの距離に対する波長許容域(波長幅)の関係を図16に示す。従来型の波長変換素子2701では、端面研磨により相互作用長Dが変動してしまう。これに対して本発明の波長変換素子2301では、両端面、もしくは少なくとも一方の端面に非波長変換領域2302が形成されていることから、波長変換素子2701の相互作用長Dの変動を低減することが出来る。ここで、非波長変換領域2302では、基本波が波長変換される量が劇的に少ないので、端面研磨によって幅が変動したとしても、波長変換効率に与える影響が少ない。
つまり、非波長変換領域の何処に研磨位置がきても、波長変換効率をより一定に保つことが出来る。
図16は従来の波長変換素子と、実施の形態3の波長変換素子2301の特性の違いを示している。横軸には、波長変換領域2303の設計長に対して、実際に形成された波長変換領域2303の長さと非波長変換領域2302の長さとの比率を示している。すなわち、波長変換素子2301において、非波長変換領域2302が形成されていない場合を1と定義する。ここでは簡単のために、波長変換領域2303の両端部に非波長変換領域2302が形成されている場合のみを示し、波長変換素子2301において、入射面から出射面の距離が1のときに、入・出射面の非波長変換領域が同時に無くなるとする。
従来型では、図16の実線が示すように、波長変換領域2303の長さに対する光の入射面2306から出射面2307の距離が1のときに波長許容域が極大となり、そこから逸脱すると相互作用長Dが変化することになるため、波長許容域が狭まる。これに対して、本実施の形態の波長変換素子2301では、図16の点線が示すように、入射面から出射面までの距離が1以上のとき、すなわち、非波長変換領域2302が形成されている場合には、相互作用長Dは常に1となるため、波長許容域も一定となる。つまり、例えば、相互作用長が1のとき、入射面から出射面までの距離の平均値が1.5となるように切断位置を決めておけば、入射面から出射面までの距離が±0.5の範囲でばらついたとしても所望の波長許容域が得られる。また、図16には示していないが、入射面から出射面の距離が3.75より長い場合も、本発明の場合の波長許容域(点線1602)は一定となる。一方、従来型の場合の波長許容域(実線1601)は、入射面から出射面の距離が長くなるほど波長許容域が狭まる。
ここで、波長変換素子2701にて、相互作用長Dが1の長さのときの最大効率の半分以上の波長変換効率が得られる基本波波長の範囲を波長許容域とする。また、基本波、第2高調波の、波長変換素子内での吸収は無いとした。
なお、図23では、分極反転壁が基本波2304の入射方向に対して垂直である波長変換領域2303を示しているが、実施の形態1,2に示すように波長変換領域2303が基本波2304の入射方向に対して分極反転壁が斜めに形成された分極反転領域を有する構成であってもよい。この場合にも、最適波長を含む所定の波長範囲において、波長変換効率の低下を抑えることが出来るという効果を奏することが出来る。
次に、波長変換素子2301の形成方法の一例について述べる。ここで、本発明の実施の形態3である図24の波長変換レーザ光源は、図27に示した従来型の波長変換レーザ光源と異なり、図29に示す非線形光学結晶基板2901から切り出した波長変換素子を用いる。
非線形光学結晶基板2901は、分極反転周期構造を形成していない非波長変換領域2902(非分極反転領域)(斜線部)を有した構造となっている。この非波長変換領域2902内で切断することによって、図30に示すように向かい合う2つの切断面3002に非波長変換領域2902を備えた非線形光学結晶小基板3001に切り分けられる。
この非線形光学結晶小基板3001の非波長変換領域2902が露出した向かい合う2つの切断面3002を光学研磨することで、入射面2306、出射面2307となり、図24の波長変換素子2301となる。そのため、波長変換素子2301は、その入射面2306、出射面2307と波長変換領域2303の間に非波長変換領域2302が残る。
このように、本発明の実施の形態では、図29に示す非線形光学結晶基板2901に形成した非波長変換領域2902が、各波長変換素子に切断して端面研磨するための、切断・研磨しろとなる。そして、入・出射面の仕上がり位置が非波長変換領域2902内であれば、入・出射面の距離がずれても設計どおりの波長許容域が確保される。以上の効果により、入・出射面の位置ずれに対して尤度が確保され、歩留まりの向上を実現し、生産コストを下げることが可能となる。
なお、本発明の波長変換素子2301の作製方法は上記の方法に限られず、波長変換領域2303の形成後、別途非波長変換領域2302を接合することで、波長変換素子2301を作製してもよい。この場合、この非波長変換領域2302と波長変換領域2303は、直接接合により接合されていてもよい。直接接合による接合によって、光反射を低減することが可能になり、波長変換効率の減少を防止することが出来る。また、非波長変換領域2302と波長変換領域2303を、光学膜等を介して接合したり、また光透過領域以外の領域に接着剤を塗布して接合したりしてもよい。
(実施の形態4)
本発明のさらに他の実施の形態について図面を参照し以下に説明する。
図26は本発明の実施の形態4にかかる波長変換レーザ光源の概略構成を示す。
本構成では、半導体レーザ2601、固体レーザ結晶2602、波長変換素子2603を備える。半導体レーザ2601で発振させた波長808nmの励起光2604で、YVO4にNdを添加した固体レーザ結晶2602を励起し、波長1064nmの基本波2607を発生させる。励起光2604が入射する固体レーザ結晶2602の入射面2605には、励起光2604に対する反射防止コートであり、基本波とその第2高調波に対する透過防止コートが形成されている。
また、入射面2605の対面(接合面2608)を親水化処理し、同様に親水化処理したニオブ酸リチウムからなる波長変換素子2603を貼り合わせて、光学的に接合した状態としている。波長変換素子2603は、固体レーザ結晶2602との接合面2608の対面(出射面2606)に基本波2607に対する透過防止コートであり、第2高調波に対する反射防止コートを形成している。つまり、固体レーザ結晶2602にて発生した基本波2607を、固体レーザ結晶2602と波長変換素子2603を挟んだ2面(入射面2605と出射面2606)の透過防止コート内で共振させて発振させる。
本実施の形態における波長変換素子2603についても、周期が約7μmの周期的分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備えており、基本波2607は、その第2高調波となる波長532nmの第2高調波2609となって、出射面2606側から共振器外へ出射する。
また、波長変換素子2603は、実施の形態3の波長変換素子2301と同様、図29に示すように、分極反転周期構造を形成していない非波長変換領域2902(斜線部)を備えた非線形光学結晶基板2901を、非波長変換領域2902内で切断・研磨して作製する。ただし、本実施の形態の場合は、接合面2608、出射面2606がこのとき研磨された2つの面となる。つまり、接合面2608、出射面2606と波長変換領域2303の間に、分極反転構造を形成していない非波長変換領域2302を備えた波長変換素子2603となる。
このように、接合面2608と波長変換領域2303との間、および出射面2606と波長変換領域2303との間に非波長変換領域2302を残した構成とすることにより、切断位置のずれや、研磨による削り量のバラツキがあった場合にも、波長変換領域2303と基本波2607が相互作用する距離Lが変化するこがなく、設計通りの波長許容幅が得られる。
本実施の形態では、固体レーザ結晶2602としてNdを添加したYVO4を用いたが、本発明は別の固体レーザ結晶材料を用いても同様の効果を奏でる。例えば、Ybを添加したYVO4や、Nd、Ybを添加したYAG等を用いてもよい。
また、光学結晶以外でもYAGや{Gd2Y}Sc2(Al2Ga)O12などのセラミック材料等をレーザ媒質に用いることでも同様の結果が得られる。
また、前記構成では、波長変換素子(ニオブ酸リチウム)2603との屈折率差が少ないYVO4を主成分とした固体レーザ結晶2602を用いているため、接合面2608には誘電体多層膜コートを形成していないが、フレネル反射による基本波2607、第2高調波2609の反射は殆どない構成となるが、接合面2608に基本波2607の反射防止コートを備えてもよい。
また、波長880nmの励起光2604を発振する半導体レーザを用いて、固体レーザ結晶2602を励起してもよい。この場合、励起光から基本波への励起効率が高まり、より低消費電力なレーザ光源が実現可能となるため望ましい。
また、前記構成では、固体レーザ結晶2602及び、波長変換素子2603内において、励起光2604、基本波2607及び、その第2高調波を吸収することによって発生する熱レンズ効果によって、入射面2605と垂直方向の光閉じ込め効果を得ている。前記構成は、安価にレーザ光源を作製することが可能となるため望ましいが、凹面ミラーや、凸レンズを用いた共振器の構成でもよい。
凹面ミラーや凸レンズを用いた共振器構成にすることで、出射する第2高調波2609の広がり角が安定する効果が得られ、レーザ走査型画像表示装置用光源として用いる場合に、より安定して高精細な画像を形成することが可能となる点で望ましい。
以上、実施の形態3及び4において、周期的分極反転構造を形成した波長変換領域と分極反転構造のない非波長変換領域を備えた擬似位相整合型波長変換素子について示したが、本明細書にて、実施の形態に示した構成は一例であって、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、実施の形態3及び4に共通して以下のことが言える。
まず、実施の形態3及び4において、非波長変換領域2302は分極反転構造を形成しない(分極方向が一定の)領域としたが、分極反転構造が形成された分極反転領域と、分極反転構造を形成しない領域との境界部分では、設計どおりの分極反転構造を形成することが難しい。これは、分極反転構造の形成時に、分極反転領域と分極反転が形成されていない領域の境界面に電界が集中してしまい、端部における反転領域の長さが増えてしまいがちだからである。この場合、分極反転領域の長さが設計と異なるケースが発生し、素子の特性が所望の特性とは異なってしまう。そこで、非波長変換領域2302は、波長変換に寄与しない分極反転構造を備えることがより望ましい。
これによって、波長変換領域2303には、非波長変換領域と接する境界部まで、設計どおりの分極反転構造が形成されるため、より高い波長変換効率の波長変換素子をより高い歩留まりで生産することが可能となる。
以下に、波長変換に寄与しない分極反転構造の例について示す。
なお、本実施の形態では、非波長変換領域とは、分極反転構造が形成されていない領域のことではなく、入射する基本波の波長変換に寄与しない分極反転構造が形成されている領域を意味している。
例えば、図31(a)に示すように波長変換領域2303に形成した周期的分極反転方向Xに対して、垂直方向Yに分極反転構造を形成した領域は、入射する基本波の波長変換に寄与しないので非波長変換領域3101と言える。ここで、Y方向に分極反転構造を形成するとは、分極反転壁(分極が入れ替わる境界面)がY方向のベクトルに垂直な面となることを意味する。また、この場合、非波長変換領域3101の分極反転構造は周期的である必要は無い。また、非波長変換領域3101で変換される光が出射する第2高調波に与える影響が非常に小さいため、Y方向と分極反転壁の成す角が75度以上で、且つ、105度以下であれば、上記垂直の場合と同様の効果を得ることが出来るため望ましい。なお、波長変換領域2303から出射する第2高調波2609が、非波長変換領域3101に形成された分極反転構造の分極反転壁を通過しないように、波長変換素子外に出射することが好ましい。例えば、図31(b)に示すように、波長変換領域2303に、第2高調波の出射方向に対してφだけ傾いた分極反転壁を有する分極反転構造が形成されていたとする。この場合、非波長変換領域3101の幅をd、分極反転壁の間隔をtとすると、非波長変換領域の分極反転構造は、t≧d×tanφの関係を少なくとも満たすように形成されることが好ましい。
また、図32に示すように波長変換領域2303と非波長変換領域3201の両方に同方向の周期的分極反転構造を形成し、両領域の分極反転周期が下記のような関係となることを特徴とする構成であってもよい。特に、波長変換領域に形成した分極反転周期の1/n倍(nは正の偶数)倍の周期的分極反転構造を形成した非波長変換領域3201を備えた波長変換素子3202を用いることにより、波長変換領域2303によって変換された第2高調波が非波長変換領域によって変換されないため、特に望ましい。これにより、分極反転構造を形成しない非波長変換領域を備える場合などの他の構成に比べて、特に波長許容域のバラツキを押さえることが可能となる。
また、図示しないが、波長変換領域に形成した分極反転周期のm/4倍(mは3以上の奇数)、s/2倍(sは3以上の奇数)、u倍(uは正の偶数)の周期的分極反転構造を形成した非波長変換領域を備えた波長変換素子を用いることが特に望ましい。これにより、分極反転構造を形成しない非波長変換領域を備える場合などの他の構成に比べて、特に波長許容域のバラツキを押さえることが可能となるため望ましい。
波長変換領域2303と非波長変換領域3201の両方に同方向の周期的分極反転構造を形成し、両領域の分極反転周期を変える構成の中では、下記の順番で波長許容域のバラツキを押さえる効果が高い。
(1)波長変換領域の分極反転周期に対して、非波長変換領域の分極反転周期が1/n倍(nは正の偶数)
なお、nが大きいほどバラツキ抑制効果も大きい
(2)波長変換領域の分極反転周期に対して、非波長変換領域の分極反転周期がs/2倍(sは3以上の奇数)またはu倍(uは正の偶数)
(3)波長変換領域の分極反転周期に対して、非波長変換領域の分極反転周期がm/4倍(mは3以上の奇数)
なお、mが大きいほどバラツキ抑制効果は小さい
また、非波長変換領域に形成された分極反転構造の周期が大きいほど非波長変換領域3201の作製難度が下がるため、より生産コストの低減が可能となる。
しかし、波長変換領域の分極反転周期と、非波長変換領域の分極反転周期の差が大きいほど、非波長変換領域と波長変換領域の境界部の分極反転構造が設計どおり作製できなくなる。一般的には波長変換素子の厚みの5%以下の周期で分極反転構造が形成されていることが望ましく、波長変換素子の厚み(Y軸方向の幅)が1mmであれば50μm以下が望ましい。この範囲であれば、電界の集中を緩和し、設計どおりの分極反転構造を形成することが可能となる。また、この範囲であれば、上述の境界部の分極反転構造が設計どおり形成されるため、より高効率波長変換素子の作製が可能となる。
また、非波長変換領域3201の分極反転周期が上述の長さと略同一の場合も、本発明の同様の効果を奏でる。ここで、シミュレーションにより算出した結果、略同一とは、以下の範囲が含まれる。具体的には、上記(1)〜(3)で規定される分極反転周期に対して、実際に非波長変換領域に形成された分極反転周期が93.4%以上で且つ、107%以下の範囲を示す。また、上記分極反転周期に対して、87.7%以上で且つ、114%以下の範囲の場合、本発明に順ずる効果を奏でる。
また、研磨面の位置バラツキとしては、15μm程度の尤度が確保されていることが望ましい。また、市販されている物の中で最も薄い15μmのブレード幅のダイシングブレードを用いて切断するとしても、20μm程度の切断シロが必要となる。以上より、図29に示す非線形光学結晶基板2901の非波長変換領域2902の幅d0としては、少なくとも50μm以上が望ましい。これによって、より生産コストを下げることが可能となる。
また、実施の形態3及び4において、波長変換素子としてニオブ酸リチウムを用いたが、本発明はニオブ酸リチウムを用いた波長変換素子を備える構成に限定されるものではない。タンタル酸リチウムやKTPなどの別の非線形光学材料からなる波長変換素子を用いてもよく、同様の効果が得られる。
また、実施の形態3及び4における波長変換素子として、波長変換領域に周期的分極反転構造を形成した擬似位相整合波長変換素子を用いたが、本発明の波長変換素子は複屈折位相整合を利用した複屈折位相整合波長変換素子であってもよい。また、この場合は、波長変換領域に分極反転構造が形成されていない波長変換素子を用いてもよい。しかし、複屈折位相整合波長変換素子で、尚且つ、波長変換領域に分極反転構造を形成しない場合は、擬似位相整合波長変換素子の場合と反対に、非波長変換領域に周期的分極反転構造を形成することで本発明の効果が得られる。また、この場合、非波長変換領域の分極反転構造は、周期が短いほど波長許容幅のバラツキ抑制効果が大きい。
また、実施の形態3及び4の波長変換素子についても、実施の形態1及び2と同様に、周期の異なる複数の分極反転領域を備えることで、発振波長幅を拡大することが可能となるため望ましい。更に、実施の形態1及び2と同様に、分極反転領域ごとに分極反転角度が異なることが望ましく、入射面から奇数番目と偶数番目の分極反転角度の正負が入れ替わることが望ましく、奇数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度であることが望ましい。偶数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度であることが望ましく、周期が近い2つの分極反転領域は隣り合わないことが望ましい(理由、効果についても実施の形態1と同様)。
また、実施の形態1ないし4における波長変換素子は、波長1064nmの基本波を第2高調波となる波長532nmの第2高調波に変換する構成としたが、本発明は本構成に限定されるものではない。如何なる波長の基本波から、その高調波や和周波、差周波に変換するレーザ光源であっても、本発明を用いることによって同様の効果が得られる。また、複数の波長の基本波から、その和周波、差周波を発生させる構成でも、本発明によって同様の効果が得られる。
また、実施の形態3及び4における波長変換素子は、周期が一定の分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備えているが、図34に示すように複数の波長変換領域3401、3402、3403を備え、それぞれの領域の分極反転周期を異ならせる構成とすることがより望ましい。これにより、波長許容域をより拡大することが可能となる。
例えば、波長変換領域3401、3402、3403にそれぞれ周期6.95μm、周期6.93μm、周期6.91μmの周期的分極反転構造を形成し、各波長変換領域と基本波2607の相互作用長を最適化することで、1060nm〜1064nmの波長の基本波を第2高調波に変換することが可能となる。
また、図36に示すように、波長変換領域3601、3602、3603には一定の周期の分極反転構造を形成し、位相制御領域3604と組み合わせることで、波長許容域を拡大する方法を用いてもよい。これにより、より高効率で広い波長許容域を確保することが可能となるため望ましい。
また、ここで、波長変換領域3601、3603と基本波2607との相互作用長は同程度であることがより望ましく、更には、基本波2607と2つの位相制御領域3604との相互作用長は、あわせた距離が波長変換領域3602の分極反転周期のおよそ整数倍となることが望ましい。これらを組み合わせることにより、更に高効率で広い波長許容域を確保することが可能となる。
更に、前述のように、分極反転の周期構造をチャープ状に変化させることで、位相整合波長の許容度を拡大する方法を用いても良い。これにより、更に広い波長許容域を確保することが可能となるため望ましい。
ここで、波長変換領域に単一周期の分極反転構造が形成されている場合には、波長変換領域の長さが重要であった。しかし、これらの波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子や位相制御部を供えた波長変換素子(以降、両方を併せて『分極反転周期が一定でない波長変換素子とする』)を用いて、波長変換レーザ光源を作製したところ、入・出射面間の距離(すなわち、波長変換領域の長さ)が設計どおりでも、設計どおりの波長許容域が得られない場合があることがわかった。
我々はこの原因を評価し、上述のように波長変換素子の分極反転周期が一定でない波長変換素子の場合は、入・出射面の距離が一定であっても、それぞれの端面の位置が研磨によってずれることで、設計通りの波長許容域が得られないという新たな課題が発生することを発見した。
例えば、位相制御領域を備えた図36の波長変換レーザ光源において、波長変換領域3601と3602の間の位相制御領域と基本波2607との相互作用長を波長変換領域3602の分極反転周期の0.38倍とし、波長変換領域3603と3602の間の位相制御領域と基本波2607との相互作用長を波長変換領域3602の分極反転周期の0.62倍とする。また、波長変換領域3601と基本波2607との相互作用長を75μm、波長変換領域3602と基本波2607との相互作用長を350μmとする。
このとき、接合面2608(この構成の場合の入射面)と出射面2606が設計通りの位置にあるとした場合、図37の実線3701で示すように基本波の波長1060nmから1068nmまで均一な波長変換効率となる。ここで、従来からあった、非波長変換領域を備えない構成の場合、設計の位置に対して、接合面、出射面が同方向に25μmずれると、波長変換領域の長さに変化が無い場合でも、図37に点線3702に示すように、1064nm以上の波長の基本波に対して、実線3701の波長変換効率を大きく下回る。
また、入・出射面の位置ずれに対する波長許容域の関係で見ると、図33の実線に示すように、入・出射面の位置が13μm以上ずれると波長許容域は、所望の幅の6割以下となる。(ここで、図37の波長変換効率0.9以上となる基本波波長域を波長許容域とする)。
また、図37に示すように、波長許容域の中心波長も変化するため、ディスプレイ用光源として用いる場合には、色ずれなどを引き起こす。
これらの新たな課題を解決するため、波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子の場合、図34及び図36に示すように、非波長変換領域3404を備えることが望ましい。
これにより、図33の点線に示すように、波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子においても、入・出射面の位置がずれても設計通りの波長許容域が得られる構成となる。
また、波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子においても、非波長変換領域は、分極反転構造を形成していることが望ましい。これによって、波長変換領域に設計どおりの分極反転構造を形成することが可能となるため、より高い波長変換効率の波長変換素子を作製することが可能となる。
また、少なくとも基本波が透過する領域において、分極方向が反対となる2つの領域の面積比が1:1となることが望ましい。それにより、入・出射面の位置がずれることによる波長許容域の中心波長が変化することを抑制することが可能となる。また、1:1と略同一の範囲においても、同様に望ましい。ここで、略同一とは、10:8から10:12の範囲を示す。
また、周期の異なる複数の分極反転構造を備えた波長変換素子と、位相制御領域を備えた波長変換素子の場合、特に、波長変換領域に形成した平均分極反転周期の1/n倍(nは正の偶数)倍の周期的分極反転構造を非波長変換領域3404に形成していることが望ましい。
これにより、更に、波長許容域の中心波長が変化することを抑制することが可能となる。
また、図31、図32、図34及び図36にて、実施の形態4の別の構成を示したが、実施の形態3の他の構成についても同様のことが言える。
なお、実施の形態3及び4において、分極反転領域の分極反転壁は、基本波の入射方向に対して垂直な方向に形成されているケースを示したが、分極反転壁が基本波の入射方向と斜め、すなわち垂直方向以外で交わるような分極反転領域であってもよい。また、図35に示すように、分極反転利領域3501、3502、3503のように複数の領域に分割されており、そのうち少なくとも2つの領域の分極反転壁が、異なる方向を向いているものであってもよい。
また、実施の形態3及び4における波長変換レーザ光源は、特定の構造に限られず、ファイバレーザ、及び半導体レーザ等の何れであってもよい。
また、実施の形態3及び4でそれぞれ異なる波長変換領域、及び非波長変換領域の構成を示したが、それぞれ他の実施の形態の非波長変換領域、及び波長変換領域と組み合わせが可能であることは言うまでも無い。
また、実施の形態1乃至4における波長変換レーザ光源として、ニオブ酸リチウムを主成分とする波長変換素子を用いたものについて示したが、タンタル酸リチウムや、KTP等の非線形光学材料を波長変換素子の主成分とする波長変換レーザ光源についても、同様の効果を発揮する。
(実施の形態5)
図14は、実施の形態1乃至4で示した波長変換レーザ光源を含むバックライト照明装置を用いた、本発明の実施の形態5にかかる画像表示装置の構成の一例について示す概略構成図である。このような画像表示装置の例として液晶表示装置1406の模式的な構成図を示す。
図14に示すように液晶表示装置1406は、空間変調素子である液晶表示パネル1407と、液晶表示パネル1407を背面側から照明するバックライト照明装置1401と、を備えて構成されている。そして、バックライト照明装置1401の光源は、複数のレーザ光源1402を含んで構成され、このレーザ光源1402は少なくとも赤色、緑色および青色をそれぞれ出射する光源を用いた構成からなる。すなわち、R光源1402a、G光源1402bおよびB光源1402cは、それぞれ赤色、緑色および青色のレーザ光を出射する。このレーザ光源1402のうち、G光源1402bが本発明の実施の形態1〜4で示した波長変換レーザ光源からなるG光源を用いて構成される。
また、ここでは、R光源1402aには波長640nmのAlGaInP/GaAs系材料からなる半導体レーザを、青色レーザ光源(B光源)1402cには波長450nmのGaN系材料からなる半導体レーザを用いている。
次に本実施の形態の液晶表示装置1406の模式的な構成について説明する。本実施の形態における液晶表示装置1406は、バックライト照明装置1401と、このバックライト照明装置1401から出射されるR光、G光およびB光のレーザ光を利用して画像表示を行う偏光板1408および液晶板1409から構成される液晶表示パネル1407とからなる。すなわち、図14に示すように本実施の形態のバックライト照明装置1401は、レーザ光源1402、レーザ光源1402からのR光、G光およびB光のレーザ光をまとめて導光部1404を介して導光板1405に導く光ファイバ1403および導入したR光、G光およびB光のレーザ光で均一に満たされて主面(図示せず)からレーザ光を出射する導光板1405から構成されている。
レーザ光源を用いることにより、色再現性に優れ、低消費電力の画像表示装置を実現することができる。
また、ここでは、レーザ光源を用いた画像表示装置として、透過型の液晶パネルを空間変調素子として用いた液晶表示装置について示したが、DMDミラーや反射型LCOSを空間変調素子に用いてもよい。
また、ここでは、空間変調素子への光学系として、光ファイバと導光板を用いたが、レンズ光学系を用いたプロジェクタなどの画像表示装置であっても同様の効果を発現することは言うまでもない。
これらの画像表示装置における緑色レーザ光源として、本実施の形態1〜4に示した波長変換レーザ光源を用いることにより、より出力変動を軽減した画像表示装置を実現することが可能となる。
また、本明細書にて、実施の形態に示した構成は一例であって、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能であることは言うまでもない。
以上のように、本発明の一局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光を生成するレーザ光源と、前記基本波レーザ光を入射し、異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子が、周期が異なる複数の分極反転領域を備え、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記波長変換素子に入射する光路に対して傾くように形成されている。
上記の構成によれば、レーザ光源が生成した基本波レーザ光は波長変換素子により異なる波長のレーザ光に変換される。ここで波長変換素子が周期の異なる複数の分極反転領域を具備しているので、広い波長許容幅と高効率波長変換が実現される。そして、波長変換素子の有する複数の分極反転領域の少なくとも一つは、当該分極反転領域の分極反転軸が波長変換素子に入射する光路に対して傾斜している。このように、基本波レーザ光路に対して傾くように周期的分極反転構造を形成したことにより、波長変換素子内において基本波レーザ光から変換されて発生したレーザ光(第2高調波などの波長変換光)が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することが可能となる。すなわち、本発明のように分極反転領域の分極反転軸が基本波レーザ光路に対して傾斜している場合、基本波レーザ光から変換される波長変換光は、当該基本波レーザ光とは異なる伝搬方向に発生する。このように基本波レーザ光と波長変換光との伝搬方向が不一致ならば、発生した波長変換光が、元となる基本波レーザ光との差周波として基本波に逆変換される現象を回避できるのである。このように、波長変換素子で発生した波長変換光が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することによって、波長変換効率の低下を回避できる。
ところで、上記の“逆変換”(差周波発生)による波長変換効率低下は、温度に大きく依存して変動するため、温度変化による波長変換効率の変化の割合が増大し、出力の安定性を低下させる大きな要因である。しかしながら、本発明の波長変換レーザ光源は、上記のとおり効果的に“逆変換”による波長変換効率低下を回避できるので、出力安定性を高めることが可能となる。これにより、例えば本発明の波長変換レーザ光源を画像表示に適用した場合には、輝度の安定した画像表示が可能となる。
本発明の他の局面に係る波長変換レーザ光源は、励起光を生成する励起レーザ光源と、前記励起光で励起して基本波レーザ光を生成する固体レーザ結晶を含む一対の共振器と、前記共振器内に設けられ、前記基本波レーザ光を異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記周期的分極反転構造の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記共振器に入射する光路に対して傾くように形成されており、前記固体レーザ結晶と前記波長変換素子との間に、分極反転構造が形成されていない分極反転無形成領域を備えている。
上記の構成によれば、励起レーザ光源からの励起光で固体レーザ結晶が励起して基本波レーザ光が生成される。そして、生成された基本波レーザ光は、当該固体レーザ結晶を含む共振器内に設けられた周期的分極反転構造を備えた波長変換素子で異なる波長のレーザ光(第2高調波などの波長変換光)に変換される。ここで、周期的分極反転構造の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記共振器に入射する光路に対して傾くように形成されているので、基本波レーザ光から変換される波長変換光は、当該基本波レーザ光とは異なる伝搬方向に発生する。このように基本波レーザ光と波長変換光との伝搬方向が不一致ならば、波長変換素子内において基本波レーザ光から変換されて発生した波長変換光が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することが可能となる。そして、“逆変換”を防止することによって、波長変換効率の低下を回避し、出力安定性を高めることが可能となる。
ところで、固体レーザ結晶と直接接合される波長変換素子の面内において、分極方向が反転する場合、波長変換効率が経時的に低下するという新たな課題の存在を発見した。そこで、本発明の波長変換レーザ光源は、固体レーザ結晶と前記波長変換素子との間に、分極反転構造が形成されていない分極反転無形成領域を形成しており、これによって上記経時劣化を効果的に抑制することが可能となる。
上記の構成において、前記波長変換素子が、周期が異なる複数の分極反転領域を備えることが好ましい。
これにより、本発明の波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光の波長に対する広い波長許容幅と高効率波長変換を実現することができる。
上記の構成において、少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸が、その他の分極反転領域のうち少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸とは異なることが好ましい。
このように、波長変換素子において、分極反転領域の分極反転軸が異なる複数の領域が存在することにより、逆変換による出力不安定を効果的に抑制できる。
上記の構成において、分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が正の分極反転領域と、当該角度が負の分極反転領域とが隣接して形成されることが好ましい。
上記の構成によれば、隣接する分極反転領域の分極反転軸の傾きが互いに逆方向となり、隣接する分極反転領域同士の分極反転角度(分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度)の差を大きくすることができる。よって、基本波レーザ光から異なる波長のレーザ光(第2高調波などの波長変換光)に変換された直後の分極反転領域において、当該波長変換光が大きく逆変換されることを抑制することが可能となるため、より小さな分極反転角度で高い出力安定性が得られる。
上記の構成において、前記波長変換素子は、分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が正となる分極反転領域を複数具備し、当該分極反転領域のうち少なくとも2つの分極反転角度が一致することが好ましい。
これにより、波長変換素子で発生する複数の波長変換光の伝播方向が揃うため、波長変換レーザ光源から出射するレーザ光(波長変換光)の出射方向を減少させることが可能となる。よって、波長変換レーザ光源をプロジェクタなどの画像表示装置に適用する場合、より簡単な構成で安価な光学系を用いることが可能となる。
また、前記分極反転領域のうち、少なくとも二つの隣り合う分極反転領域の間に、分極反転無形成領域を備えることが好ましい。
上記の構成によれば、隣り合う分極反転領域(例えば分極反転領域Aiとその下流にある分極反転領域Ai+1)の間に分極反転無形成領域が存在するので、分極反転領域Aiで発生した波長変換光の光路と基本波レーザ光の光路とは、分極反転無形成領域を伝搬しながら物理的に広がる。これは、上述のように波長変換光と基本波レーザ光との伝搬方向が異なるからである。これにより、分極反転領域Aiの下流側にある分極反転領域Ai+1においては、分極反転無形成領域が存在しないときよりも、波長変換光の光路と基本波レーザ光の光路との間隔を物理的により広く取ることが可能となり、波長変換光と基本波レーザ光との相互作用をより弱めることが可能となり、上述の逆変換を効果的に抑制できる。
上記の構成において、前記固体レーザ結晶と前記波長変換素子とが直接接合されており、前記波長変換素子における前記固体レーザ結晶との接合面に前記分極反転無形成領域が形成されていることが好ましい。
このように、波長変換素子における固体レーザ結晶との接合面に分極反転無形成領域を形成し、固体レーザ結晶と波長変換素子とを直接接合することによって、波長変換レーザ光源の製作が容易となるとともに、より小型で安価な波長変換レーザ光源を実現できる。
上記の構成において、前記波長変換素子は、ニオブ酸リチウムを主とする結晶からなり、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が2.9°以上、14.6°以下であることが好ましい。
これにより、ニオブ酸リチウムを主とする結晶からかる波長変換素子を用いた場合に、発生した波長変換光が元となる基本波レーザ光との差周波として基本波に逆変換されることを効果的に防止して波長変換効率の低下を回避し、出力安定性を高めることが可能となる。
また、前記波長変換素子は、タンタル酸リチウムを主とする結晶からなり、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が3.3°以上、16.6°以下であることが好ましい。
これにより、タンタル酸リチウムを主とする結晶からかる波長変換素子を用いた場合に、発生した波長変換光が元となる基本波レーザ光との差周波として基本波に逆変換されることを効果的に防止して波長変換効率の低下を回避し、出力安定性を高めることが可能となる。
本発明のさらに他の局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光を生成するレーザ光源と、前記レーザ光源から入射した前記基本波レーザ光を異なる波長のレーザ光に変換する波長変換領域を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子は、前記基本波レーザ光を透過又は反射する複数の光学研磨端面を有し、前記光学研磨端面の少なくとも1つと前記波長変換領域との間に、前記基本波レーザ光の波長に対する非波長変換領域を備えることが好ましい。
上記の構成によれば、レーザ光源が生成した基本波レーザ光は波長変換素子の波長変換領域により異なる波長のレーザ光に変換される。ここで波長変換素子は、基本波レーザ光を透過又は反射する複数の光学研磨端面を有しており、その端面と波長変換領域との間に、基本波レーザ光の波長に対する非波長変換領域が形成されている。これにより、波長変換素子における光学研磨端面間の距離(例えば、波長変換素子の入射面から出射面の距離)が所望の距離から逸脱した場合にも、所望の波長許容域となる波長変換素子を実現できる。すなわち、波長変換素子における光学研磨端面の少なくともひとつは非波長変換領域であり、当該非波長変換領域では、基本波レーザ光が波長変換される量が劇的に少ないので、端面研磨によって波長変換素子における端面間の距離が変動したとしても、波長変換領域と基本波レーザ光との相互作用長の変動を低減することが出来る。よって、非波長変換領域の何処に研磨位置がきても、波長変換効率に与える影響が少なくなり、波長変換効率をより一定に保つことが出来る。
上記の構成において、前記レーザ光源は複数の波長ピークを有する基本波レーザ光を生成し、前記波長変換素子は、前記基本波レーザ光が単一の波長の場合に前記基本波レーザ光から前記異なる波長のレーザ光への変換効率が複数の極大値をもつ温度特性を示すものであることが好ましい。
上記の構成によれば、波長変換素子の変換効率についての温度特性は、単一の波長の基本波レーザ光に対しては複数の極大値を持つものであり、凸凹のある特性となっている。この場合、複数の波長ピークを有する基本波レーザ光を生成するレーザ光源を用いる。これにより、複数の波長ピークを有する基本波レーザ光を、上記温度特性を有する波長変換素子で波長変換することになるので、上記の温度特性の凹凸が軽減され、単一波長の基本波レーザ光を波長変換素子に入射させた場合よりも、波長変換効率の変動を大幅に軽減することが可能となる。
また、前記波長変換領域内に周期が異なる複数の分極反転領域を備えることが好ましい。
このように複数の分極反転領域を備える波長変換素子は、基本波レーザ光の波長に対する広い波長許容幅と高効率波長変換を実現することができる。
また、前記波長変換領域内に位相制御領域を備えることが好ましい。
これにより、基本波レーザ光の波長に対する広い波長許容幅と高効率波長変換を実現することができる。
また、前記変換効率が極大となる複数の温度をp[℃]とし、前記複数の波長ピークを有する基本波レーザ光の波長間隔をΔλ[nm]とし、qを任意の自然数としたとき、
(0.033+0.067×p)×q>Δλ>(-0.033+0.67×p)×q
が成り立つことが好ましい。
このように、複数の波長ピークを有する基本波レーザ光の波長間隔Δλを限定することにより、単一波長の基本波レーザ光を波長変換素子に入射させた場合よりも、波長変換効率の変動を半分以下に軽減することが可能となる。
また、前記波長変換領域のうち、前記基本波レーザ光が透過又は反射する2つの端面の何れにも、前記非波長変換領域が形成されていることが好ましい。
このように、波長変換領域の2つの端面の何れにも非波長変換領域を形成することによって、端面研磨によって波長変換素子における端面間の距離が変動したとしても、波長変換領域と基本波レーザ光との相互作用長の変動をより低減することが出来る。よって、波長変換効率をより安定的に保つことが出来る。
また、前記波長変換素子は、前記波長変換領域の分極反転方向が一定な複屈折位相整合波長変換素子であって、前記非波長変換領域に分極反転構造を備えることが好ましい。
このように、波長変換領域の分極反転方向が一定な複屈折位相整合波長変換素子を用いることができ、この場合は、非波長変換領域に分極反転構造を形成することにより、本発明の効果を得ることが可能となる。
また、前記非波長変換領域内に分極反転構造を形成し、分極方向が反対となる2つの領域の面積比が、10:8〜10:12となることが好ましい。
これによって、波長変換素子の入・出射面の位置がずれることによる波長許容域の中心波長が変化することを抑制することが可能となる。
また、前記2つの非波長変換領域のうち、前記レーザ光源に近い側に配置された非波長変換領域の長さをd1とし、前記レーザ光源から遠い側に配置された非波長変換領域の長さをd2とすると、d1>d2を満たすことが好ましい。
上記の構成は、例えば、波長変換から出射する波長変換光(第2高調波)のロスを低減し、出力をより高める目的の使用に適する。すなわち、非波長変換領域の長さd1を長くすることによって、端面研磨によって波長変換領域と基本波レーザ光との相互作用長が変化する確率が低くなり、より安定した性能の波長変換素子が得られる。しかしながら、出射側の非波長変換領域の長さd2を長くすると、出射した波長変換光にロスが多く生じてしまうので、長さd2をd1よりも短くすることで、素子性能の安定性と波長変換光のロス低減を両立することが可能になる。
また、前記2つの非波長変換領域のうち、前記レーザ光源に近い側に配置された非波長変換領域の長さをd1とし、前記レーザ光源から遠い側に配置された非波長変換領域の長さをd2とすると、d1<d2を満たすことが好ましい。
上記の構成は、例えば、波長変換素子に入射する基本波レーザ光のパワーが比較的大きい場の使用に適する。すなわち、基本波レーザ光のパワーが大きい場合、長さd1の非波長変換領域において、基本波レーザ光が多く吸収され、熱レンズ効果によってビーム品質が低下するケースが考えられる。そのため、基本波レーザ光のパワーが大きいことが予想される場合には、d1をd2よりも短くすることで、ビーム品質の低下を抑制するとともに、波長変換素子の出射側においては非波長変換領域の長さを確保し、素子性能の安定性を確保することが可能になる。
本発明のさらに他の局面に係る波長変換レーザ光源は、前記非波長変換領域に、分極反転構造が形成されており、前記非波長変換領域に入射する光の方向と、前記非波長変換領域に形成された分極反転構造の分極反転壁のなす角度をθ、前記非波長変換領域の幅をd、隣り合う前記分極反転壁の間隔をtとした場合に、t≧dtanθの関係を少なくとも満たすことが好ましい。
上記のように非波長変換領域に、分極反転構造が形成されている場合に、上記の条件式を満たすように分極反転構造を形成することにより、波長変換素子で生成された波長変換光(第2高調波)が非波長変換領域に形成された分極反転構造の分極反転壁を通過しないように、波長変換素子外に出射することができる。よって、非波長変換領域に分極反転構造を形成した場合にも、波長変換素子から出射する波長変換光に与える影響を抑制できる。
本発明のさらに他の局面に係る波長変換レーザ光源は、励起レーザ光源と、基本波レーザ光を生成する固体レーザ結晶を含む一対の共振器と、前記共振器内に前記基本波レーザ光を異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子は、ニオブ酸リチウムを主とする結晶からなり、前記分極反転構造の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記共振器に入射する光路に対して傾くように形成されており、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が2.9°以上、14.6°以下である。
上記の構成によれば、波長変換素子で発生した波長変換光が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を効果的に防止することによって、出力安定性を高めることが可能となる。
本発明のさらに他の局面に係る画像表示装置は、複数のレーザ光源と、空間変調素子と、前記レーザ光源から出射する光を前記空間変調素子に導く光学系と、を備え、前記レーザ光源は、少なくとも赤色、緑色および青色の光をそれぞれ出射し、前記レーザ光源のうち、少なくとも緑色の光を出射するものが、上記の何れかの構成の波長変換レーザ光源である。
このように、空間変調素子を用いた画像表示装置において、緑色のレーザ光源として本発明の波長変換レーザ光源の何れかを使用することにより、輝度の安定した高品質の画像表示が可能となる。
本発明のさらに他の局面に係る画像表示装置は、複数のレーザ光源と、前記レーザ光源を走査する走査部と、前記レーザ光源から出射する光を前記走査部に導く光学系と、を備え、前記レーザ光源は、少なくとも赤色、緑色および青色の光をそれぞれ出射し、前記レーザ光源のうち、少なくとも緑色の光を出射するものが、上記の何れかの構成の波長変換レーザ光源である。
このように、走査型の画像表示装置において、緑色のレーザ光源として本発明の波長変換レーザ光源の何れかを使用することにより、輝度の安定した高品質の画像表示が可能となる。
なお、発明を実施するための形態の項においてなされた具体的な実施態様又は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求事項との範囲内で、種々変更して実施することができるものである。
本発明の波長変換レーザ光源は、逆変換による出力変動を抑制することができる。これにより、特に、出力の安定した波長変換レーザ光源が可能となる。
本発明の波長変換レーザ光源を用いることで、小型で低消費電力などのレーザ光を用いた強みを発揮し、出力変動も抑制した画像表示装置が可能となる。
本発明は、波長変換素子を備えたレーザ光源及びそれを用いた画像表示装置に関するものである。
単色性が強くW級の高出力がRGBの三色で出力できる可視光レーザ光源は、色再現性が広く、低消費電力の大型ディスプレイや、小型で高輝度な照明装置を実現するうえで重要となる。
赤色および青色の高出力レーザ光源は半導体レーザにより実現されているものの、緑色の高出力レーザ光源は半導体レーザとして構成できる実用的に最適な材料の構成が難しく実現が困難である。そこで、例えば半導体レーザ、半導体レーザ励起の固体レーザ、ファイバレーザなどの赤外光を基本波とし、非線形光学結晶からなる波長変換素子を用いて、その第2高調波となる緑色光を出力する方法が注目されている。
しかしながら、光源としてレーザを用いた画像表示装置において、スペックルノイズが発生する。例えば、プロジェクタにより形成された虚像を観測者が鑑賞する場合には、観測者の網膜上においては、スクリーンの各領域からの光が重なって画像が形成される。このとき、このスクリーン上の異なる領域を経た光同士が複雑な位相関係で重ねられ、レーザ光は高いコヒーレンシ(可干渉性)を有していることから、互いに干渉し合うこととなる。このような干渉によって、干渉パターンが形成されてしまうため、意図しない光強度分布(スペックルノイズ)として、表示画像の画質低下を導く。
スペックルノイズは、コヒーレンシを有するレーザ光を画像表示装置、計測装置、露光装置などの光源として用いる場合に共通の課題であり、これまでにも、スペックルノイズを低減させるための種々の試みがなされてきた。
例えば、特許文献1に記載されるように回転拡散板を用いたものが提案されている。これらの構成では、光源から出射されたレーザ光の光路上に、高速で回転操作される拡散板が配設されている。この拡散板は、高速回転されることによって、レーザ光により発生される干渉パターンを、スクリーン上において高速に動き回らせることで平均化し、スペックルノイズを低減している。
すなわち、これらの構成においては、実際に干渉パターンが消失するわけではなく、複数の異なる(互いに相関の無い)干渉パターンが重ねあわされることで、あたかもスペックルノイズが消失したかのように見えるのである。
しかし、この場合も、完全にスペックルノイズを消失させることは難しく、特に、波長変換素子を用いて生成した緑色光のスペックルノイズが顕著に残る。これは、波長変換素子内で緑色光に変換される波長が限られているため、半導体レーザによる赤色、青色に比べて、波長幅が狭く、可干渉性が高いことが原因であった。
図2に概略構成を示すように、従来一般的に用いられてきた波長変換レーザ光源200では、基本波光源201にて生成された基本波203を波長変換素子202に入射し、第2高調波204に変換する。波長変換素子としては、非線形光学定数が大きく、高効率波長変換が可能との理由から、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムを主とする非線形光学結晶が広く用いられている。また、これらの非線形光学結晶を用いる場合、一定の周期(Λ)で分極方向が反転する擬似位相整合型波長変換素子とすることで、更に、高効率な波長変換が可能となる。
しかし、波長変換効率は基本波の波長に依存し、すべての波長の基本波に対して高い波長変換効率を満たすことは出来ていなかった。波長変換素子202と基本波となる赤外光の相互作用長(図2の例では波長変換素子202全長(L)が相互作用長となる。)を短くすることで、波長許容幅(高効率波長変換可能な波長の幅)を拡大することが可能となるが、波長変換効率(波長許容幅内の基本波を波長変換する効率)が低下する。つまり、波長許容幅と波長変換効率はトレードオフの関係であった。
これに対して、非特許文献1に示すように、波長変換素子内に周期の異なる複数の分極反転領域を形成する方法で、広い波長許容幅と高効率波長変換の両立が可能となった。図3に示すように、この方法を用いた波長変換レーザ光源300は、波長変換素子301を備え、波長変換素子301は分極反転周期と領域の長さがそれぞれ、Λ1、Λ2…、Λnと、L1、L2…、Lnとなる分極反転領域A1、A2…、Anを備える。また、各領域の分極反転周期Λi(i=1,2、…n)は、Λi=Λ1+ΔΛ(i−1)で表されるように、波長変換素子に基本波が入射する面から、波長変換された光が出射する面にかけて、各分極反転領域の分極反転周期が単調増加、または、単調減少する。
ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子を用いて赤外光をその第2高調波となる緑色光に変換する例について説明する。基本波光源は、図17にスペクトル分布を示すように1060nm〜1064nmの波長の光を同時に発振する波長幅の広い赤外光源とする。
ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子の場合、1060nmの波長の基本波を第2高調波となる530nmの波長の光に変換する最適な分極反転周期は6.91μmであり、1064nmの波長の基本波を第2高調波となる532nmの波長の光に変換する場合は6.95μmが最適な分極反転周期となる。
そこで、Λ1=6.91μm、Λn=6.95μmとし、素子の全長に併せて、最適なΔΛと各分極反転領域の長さを調節することで、1060nm〜1064nmのすべての波長の基本波をその第2高調波に変換することが可能な波長変換素子となる。
尚、図3では図2と同じ構成要素には同じ符号を付している。以後同様に、本明細書中では、同じ構成要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。
Journal of Lightwave Technology Vol,26,NO.3 February 1,2008
しかしながら、上記従来の波長変換レーザ光源の構成では、基本波出力が一定であっても波長変換された光の出力が変動するという新たな課題を有していた。
本発明は出力が安定した波長変換レーザ光源及びそれを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
本発明の一局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光を生成するレーザ光源と、前記基本波レーザ光を入射し、異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子が、周期が異なる複数の分極反転領域を備え、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記波長変換素子に入射する光路に対して傾くように形成されている。
上記の構成によれば、基本波レーザ光路に対して傾くように周期的分極反転構造を形成したことにより、波長変換素子内において基本波レーザ光から変換されて発生したレーザ光(第2高調波などの波長変換光)が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することが可能となる。この結果、波長変換効率の低下を回避できる。
本発明の波長変換レーザ光源は、上記のとおり効果的に“逆変換”による波長変換効率低下を回避できるので、出力安定性を高めることが可能となる。これにより、例えば本発明の波長変換レーザ光源を画像表示に適用した場合には、輝度の安定した画像表示が可能となる。
本発明の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
本発明の実施の形態1に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来型の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来型の波長幅の広い波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源において、波長変換素子内の分極反転角度とウォークオフ角度の関係を示す図である。
本発明の実施の形態1に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における分極反転角度の変化の一例を示す図である。
従来型の波長変換レーザ光源における分極反転周期の変化を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における分極反転周期の変化の一例を示す図である。
本発明の実施の形態2に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における分極反転角度の変化の他の例を示す図である。
本発明の実施の形態2に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態1に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源において、ウォークオフ角度と第2高調波出力の関係を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置の一例の概略構成を示す図である。
単一波長の基本波を本発明の波長変換素子に入射させて波長変換素子温度と波長変換効率の関係を示す図である。
従来型と本発明の波長変換レーザ光源における波長許容域と入射面から出射面の距離との関係を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における基本波スペクトル分布の一例を示す図である。
本発明の波長変換レーザ光源における基本波スペクトル分布の他の一例を示す図である。
図18のスペクトル分布の基本波を本発明の波長変換素子に入射させて波長変換素子温度と波長変換効率の関係を示す図である。
基本波の波長間隔と波長変換効率変動の関係を示す図である。
本発明の第2高調波のスペクトル分布の一例を示す図である。
本発明の第2高調波のスペクトル分布の他の例を示す図である。
本発明の実施の形態3に係る波長変換素子の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態3に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来の波長変換レーザ光源における基本波波長と波長変換効率の関係を示す図である。
本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来の波長変換レーザ光源の一例の概略構成を示す図である。
従来の波長変換素子を切り出す非線形光学結晶基板の概略構成を示す図である。
本発明の波長変換素子を切り出す非線形光学結晶基板の概略構成を示す図である。
図29に示す非線形光学結晶基板から切り出した非線形光学結晶小基板の概略構成を示す図である。
(a)本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。(b)本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の別の構成を示す図である。
本発明の実施の形態3に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
従来型と本発明の波長変換レーザ光源における波長許容域と入・出射面の位置ずれとの関係を示す図である。
本発明の実施の形態4に係る波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態4に係る他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
本発明の実施の形態4に係るさらに他の波長変換レーザ光源の概略構成を示す図である。
図36に示す波長変換レーザ光源の基本波波長に対する波長変換効率の関係を示す図である。
我々独自の検討の結果、複数の分極反転領域を備えた波長変換素子において波長変換出力が安定しない原因として、以下の知見が得られた。
前述のように、1060nm〜1064nmのように波長幅の広い赤外光を基本波として、波長変換素子301内にて第2高調波に波長変換する例について説明する。
まず、Λ1=6.91μmとなる分極反転領域A1では、波長1060nm付近の赤外光成分が波長530nm付近の第2高調波(緑色光)に変換される。そして、波長1064nm付近の赤外光成分は、Λn=6.95μmとなる分極反転領域An内で、波長532nm付近の緑色光に変換される。しかし、同時に、分極反転領域Anでは、波長1060nmの赤外光の第2高調波として発生した波長530nmの緑色光が、波長1060nm以外の赤外光との差周波を発生させる。例えば、波長530nmの緑色光と波長1064nmの赤外光との差周波として波長1056nmの赤外光が発生し、1062nmの赤外光との差周波として波長1058nmの赤外光が発生する。
このように、一旦波長変換されて生成した第2高調波が、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象は波長変換効率の低下を導く。また、差周波発生による波長変換効率低下量は、温度に大きく依存して変動する。このため、温度変化による波長変換効率の変化の割合が増大し、出力の安定性を低下させる。
この課題は、波長変換素子内に、分極反転周期が異なる分極反転領域が存在する場合に発生する課題である。
なお、波長変換素子内に、分極反転周期が異なる複数の分極反転領域が存在しない場合であっても、後述するように、固体結晶レーザと波長変換素子を含む内部共振器型波長変換レーザ光源で、基本波と第2高調波の光路が一致している場合にも同様の課題は起こりうる。この点については、実施の形態2で後述する。
以下、上記現象を軽減し、出力を安定させる本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1にかかる波長変換レーザ光源100の概略構成を示す。従来型同様に、基本波光源201にて生成する基本波を第2高調波に変換する構成とする。また、本実施の形態で用いる波長変換素子101も波長変換素子301と同様に、周期の異なる複数の分極反転領域を備える。しかし、波長変換素子101は周期分極反転が基本波203の光軸に対して傾けて形成されている点で、波長変換素子301と異なる。周期状の分極反転構造に対する垂線を分極反転軸102とし、分極反転軸102と基本波203の光軸の成す角度を分極反転角度θとすると、θが0でない場合、基本波と第2高調波の分散特性よりウォークオフ角度θwが発生し、高調波は基本波と異なる伝搬方向に発生する。なお、図1では、複数の分極反転領域の分極反転軸がなす角度を全て同一としているが、少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸がレーザの入射方向に対して傾斜していれば、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象を低減するという本願特有の効果を奏することが出来る。
なお、ウォークオフ角度が大きくなるほど、逆変換が軽減されるため第2高調波出力が増加するが、ある程度以上大きくなると、基本波と第2高調波の相互作用長が短くなることによる効率低下が顕著となる。そのため、ウォークオフ角度が大きくなるほど第2高調波出力が低下する。
このため、図13に実験結果を示すように、ウォークオフ角度の絶対値は0.1°以上、0.5°以下が特に望ましく、この範囲で、ウォークオフ角度が0の場合より高出力な第2高調波が得られる。また、ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子の場合、分極反転角度は2.9°以上、14.6°以下が上記範囲に相当するため特に望ましい。同様に、タンタル酸リチウムを主とする波長変換素子の場合は、3.3°以上、16.6°以下が上記範囲に相当するため望ましい。
図4に、ニオブ酸リチウムを波長変換素子とし、赤外光を基本波として第2高調波となる緑色光に変換する場合の、分極反転角度θとウォークオフ角度θwの関係を示す。
分極反転角度θを大きくするほどウォークオフ角度θwが大きくなり、発生した第2高調波と基本波の重なりを軽減することが可能となる。これによって、例えば分極反転領域A1で発生した第2高調波が、その後の分極反転領域A2〜Anにて基本波に逆変換されることを抑制することが可能となる。
そして、少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸が、その他の分極反転領域のうち少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸とは異なるように形成することによって、逆変換による出力不安定を効果的に抑制できる。
より望ましくは、図5に示す波長変換レーザ光源500のように、少なくとも2つの隣り合う分極反転領域の分極反転角度θが異なる角度となる波長変換素子501を用いることで、更に、逆変換による出力不安定を軽減することが可能となる。
また、図6に示すように、波長変換素子入射面から数えて奇数番目の分極反転領域(A1、A3、A5…)の分極反転角度が正で、偶数番目の分極反転領域(A2、A4、A6…)の分極反転が負となることが更に望ましい。また同様に、波長変換素子入射面から数えて奇数番目の分極反転領域(A1、A3、A5…)の分極反転角度が負で、偶数番目の分極反転領域(A2、A4、A6…)の分極反転が正となることが更に望ましい。
これらの場合、第2高調波は発生した直後の分極反転領域において、大きく逆変換されることを抑制することが可能となるため、より小さな分極反転角度で高い出力安定性が得られる。分極反転角度を小さく押さえることが可能となり、指向性の高い光が得られるため、この光源をプロジェクタなどの画像表示装置に利用する場合に、光学系の小型化が可能となる。
また、図10に示すように、奇数番目の分極反転領域の少なくとも二つは同じ分極反転角度であり、同様に、偶数番目の分極反転領域の少なくとも二つは別の同じ分極反転角度であることがより望ましい。
これにより、発生する第2高調波の伝播方向が揃うため、プロジェクタなどの画像表示装置とする場合に、より簡単な(安価な)光学系を用いることが可能となる。なお、分極反転角度θが0ではない分極反転領域が多くなるほど、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象を低減することが可能となり、出力の安定性を保つことが出来る。一方で、分極反転角度θの種類が多くなるほど、レーザ光の方向が多方向に出射することになる。また、波長変換素子内に存在する分極反転軸の種類が増加し、波長変換素子内部に多方向の応力が発生する可能性がある。よって、各分極反転領域の分極反転角度を極力少なく(例えば2種類、もしくは3種類)に揃えることで、出射するレーザの方向を減らす(2、3種類にする)ことが可能となり、プロジェクタなどに用いる場合に、より小型で安価な光学系で光利用効率の高い画像表示装置が可能となる。
また、言うまでも無く、上記理由により、奇数番目の分極反転領域のすべてが同じ分極反転角度であり、同様に、偶数番目の分極反転領域のすべてが別の同じ分極反転角度であり、奇数番目と偶数番目の分極反転角の正負が反対であることが最も望ましい。
また、非特許文献1に示す(図3に示す)従来型の波長変換レーザ光源では、既に示したとおり、分極反転周期Λi(i=1、2、…n)は、Λi=Λ1+ΔΛ(i−1)で表されるように、波長変換素子に基本波が入射する面から、波長変換された光が出射する面にかけて、各分極反転領域の分極反転周期が単調増加、または、単調減少する。図示すると、それぞれ図7(a)、図7(b)のようになる。従来構成では、基本波と第2高調波の光路が一致しており、周期が近い二つの分極反転領域が離れた位置に配置されることで、更に出力が不安定となるため、このような分極反転周期(領域)の並びとすることが必須であった。
しかし、本実施の形態のうち、隣り合う分極反転領域の分極反転角度が異なる場合、周期が近い二つの分極反転領域は、図8に示すように、隣り合わないことがより望ましい。隣り合う分極反転領域の分極反転周期の差が大きいほど、各領域から出射する光が相互に作用しにくくなるためである。これにより、更に、逆変換による出力不安定を抑制することが可能となる。
また、図12に示すように、隣り合う分極反転領域Aiと分極反転領域Ai+1の間に、分極反転構造を形成しない分極無反転領域Biを備えることがより望ましい。これによって、分極反転領域Ai+1において、分極反転領域Aiから発生する緑色光の光路と、赤外光の光路の間隔を物理的により広く取ることが可能となり、相互作用をより弱めることが可能となる。その結果、逆変換による出力不安定を更に抑制することが可能となる。
また、図5のように、分極反転角度が隣り合う領域で異なる場合は、分極反転領域の境界部に負荷がかかり、波長変換素子が時間と共に劣化(波長変換効率が低下)する場合がある。このような素子においては、上記のような分極無反転領域を間に挟むことで、波長変換素子の経時的な波長変換効率の低下を抑制することが可能となる。
また、更に、波長変換素子において、レーザ光の入射面以外であって、分極方向と交わる面については、絶縁性物質で覆うことが望ましく、これによって、更に、経時的な波長変換効率の劣化を抑制することが可能となる。
また、本実施の形態の基本波レーザ光源として、ファイバレーザを用いた例を示したが、{Gd2Y}Sc2(Al2Ga)O12などのセラミック材料等からなる固体レーザ結晶を用いてもよい。この場合、小型で波長幅の広い波長変換レーザ光源が可能となり、小型でスペックルノイズ軽減効果が大きい画像表示装置を実現することが可能となる。
なお、空間や他物質を挟んで分極反転周期が異なる波長変換素子が複数個配置されている場合にも、同様の課題が発生する可能性がある。しかし、このような構成の場合には、複数の素子の温度が一定になるように制御し、それぞれの波長変換素子の間隔をnmオーダーの精度で制御しないと、波長幅の広い光を波長変換することができない。対して、本実施の形態に係る発明のように、同一素子内に分極反転周期が異なる複数領域を有する場合には、温度を一定にしやすく、かつ波長変換素子の間隔(同一素子の場合は分極反転領域の間隔)が変化することはないという特有の効果を奏することが出来る。
(実施の形態2)
本発明の他の実施の形態について図面を参照し以下に説明する。
図9は本発明の実施の形態2にかかる波長変換レーザ光源900の概略構成を示す。本構成では、半導体レーザ901(励起レーザ光源)、固体レーザ結晶902、波長変換素子903を備える。半導体レーザ901で発振させた波長808nmの励起光904で、YVO4にNdを添加した固体レーザ結晶902を励起し、基本波907を発生させる。固体レーザ結晶902の励起光入射面905には、励起光に対する反射防止コートであり、基本波とその第2高調波に対する透過防止コートが形成されている。また、励起光入射面905の対面を親水化処理し、同様に親水化処理したニオブ酸リチウムからなる波長変換素子903を励起光入射面905の対面に貼り合わせて(以降、直接接合とする。)、光学的に接合した状態としている。波長変換素子903において、固体レーザ結晶902と直接接合された面の対面906には、基本波に対する透過防止コートであり、第2高調波に対する反射防止コートが形成されている。つまり、固体レーザ結晶902にて発生した基本波907を、固体レーザ結晶902と波長変換素子903を挟んだ2面の透過防止コート内で共振させて発振させる。この共振器内に備えた波長変換素子903は、実施の形態1(図1)の波長変換素子101と同様に、分極反転軸が基本波の光軸に対して傾くよう分極反転周期が形成されており、基本波907をその光軸に対して斜めに伝搬する第2高調波908、909に変換する。
本実施の形態のように、基本波の共振器内に波長変換素子を備える構成では、波長変換素子903内で固体レーザ結晶902側に伝搬する第2高調波909と、その反対側に伝播する第2高調波908が発生する。
このように、固体レーザ結晶902と波長変換素子903が一つの共振器内に設置され、基本波と第2高調波の光路が一致する場合においても、一旦波長変換されて生成した第2高調波が、元となる基本波との差周波として基本波に逆変換される現象が起こりうる。以下、この事象について説明する。
従来は、基本波の光軸と分極反転軸が一致している(分極反転角度が0の)構成が一般的であった。固体レーザ結晶902と波長変換素子903が接合されている場合、実施の形態1と異なり、光が固体レーザ結晶と波長変換素子内部を複数回往復する。このような場合には、第2高調波909のように波長変換素子から生成されて、固体レーザ結晶側に伝搬し、透過防止コート905を施した面で反射させられて再び波長変換素子に戻される光が、基本波との差周波によって逆変換される。ここで逆変換される量は、基本波と再び波長変換素子に戻された第2高調波の位相関係で変化し、固体レーザ結晶、波長変換素子の温度変化、共振している基本波の波長変化によって大きく変化し、出力不安定を導く。
以上のように、実施の形態1のように分極反転周期が異なる分極反転領域を複数具備する波長変換素子を用いる場合以外にも、基本波が発振する共振器内に波長変換素子が設置される場合には、分極反転領域が一つの場合や、複数の分極反転領域の分極反転周期が同一の場合にも同様の課題が発生し得る。
この出力不安定は、基本波の共振器内に波長変換素子を備え、第2高調波の反射面が基本波の波面に一致している構成の波長変換レーザ光源特有の課題であるが、本発明では、この課題に対しても軽減効果を発揮する。
なお、固体レーザ結晶902は巨視的に考えると、無周期領域とみなすことが可能であり、分極反転周期が異なる2つの領域が接合された素子において起こりうる特有の課題という点では、実施の形態1及び2において共通である。
ただし、全域にわたって分極反転周期が一定の波長変換素子より、分極反転周期が異なる分極反転領域を複数具備する波長変換素子を用いる方が望ましく、これによって、より広い波長範囲の基本波に対して高い波長変換効率が得られる。
また、複数の分極反転領域の分極反転周期が同一の場合で、且つ、各分極反転領域の間隔をあえて周囲の分極反転周期の整数倍から大きくはずしている(例えば、(0.2〜0.8 + 整数)倍の)波長変換素子を用いることが望ましく、これによって、より波長変動による波長変換効率の変動が少ない波長変換レーザ光源となる。
ここで、実施の形態1と同様に、ウォークオフ角度が大きくなるほど、逆変換が軽減されるため第2高調波出力が増加するが、ある程度以上大きくなると、基本波と第2高調波の相互作用長が短くなることによる効率低下が顕著となるため、ウォークオフ角度が大きくなるほど第2高調波出力が低下する。このため、図13に実験結果を示すように、ウォークオフ角度の絶対値は0.1°以上、0.5°以下が特に望ましく、この範囲で、ウォークオフ角度が0の場合より高出力な第2高調波が得られる。また、ニオブ酸リチウムを主とする波長変換素子の場合、分極反転角度は2.9°以上、14.6°以下が上記範囲に相当するため特に望ましい。同様に、タンタル酸リチウムを主とする波長変換素子の場合は、3.3°以上、16.6°以下が上記範囲に相当するため望ましい。
本実施の形態では、固体レーザ結晶と波長変換素子を直接接合させた構成について示したが、両者が離れている構成や、凹面ミラーやレンズを共振器内に備えた攻勢であってもよいことは言うまでもない。ただし、本構成のように、固体レーザ結晶902と波長変換素子903を直接接合させ、両者の接合面と反対の面で基本波の共振器を構成する波長変換レーザ光源は、より小型で安価な波長変換レーザ光源となるため望ましい。
また、固体レーザ結晶と直接接合される波長変換素子の面内において、分極方向が反転する場合、波長変換効率が経時的に低下する課題が発生することがわかった。このため、図11に示すように、固体レーザ結晶と接する面側に分極反転周期が形成されていない分極反転無形成領域1101を備えた波長変換素子1102を用いることがより望ましく、これによって、上記経時劣化を抑制することが可能となる。
また、本実施の形態の波長変換素子についても、実施の形態1と同様に、周期の異なる複数の分極反転領域を備えることで、発振波長幅を拡大することが可能となるため望ましい。更に、実施の形態1と同様に、分極反転領域ごとに分極反転角度が異なることが望ましく、入射面から奇数番目と偶数番目の分極反転角度の正負が入れ替わることが望ましく、奇数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度で、偶数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度であることが望ましく、周期が近い2つの分極反転領域は隣り合わないことが望ましく、分極反転領域間に分極反転構造が形成されていない無形成領域を備えることがより望ましい(理由、効果についても実施の形態1と同様)。
本実施の形態では、固体レーザ結晶902としてNdを添加したYVO4を用いたが、本発明は別の固体レーザ結晶材料を用いても同様の効果を奏でる。例えば、Ybを添加したYVO4や、Nd、Ybを添加したYAG等を用いてもよい。
また、本実施の形態の固体レーザ結晶としては、{Gd2Y}Sc2(Al2Ga)O12などのセラミック材料等を用いることで、波長幅の広い波長変換レーザ光源が可能となり、画像表示装置として用いた場合のスペックルノイズ軽減効果が大きい。
また、周期の異なる複数の分極反転領域を備えた波長変換素子に、単一波長の基本波を入射させると、波長変換効率は図15に実験結果を示すような凸凹の(複数の極大値を持つ)温度特性を示す。そこで、図18にスペクトル分布を示すように、二つ以上の波長を持つ基本波光源を用いることが望ましい。これによって、図19に実験結果を示すように温度特性の凹凸を軽減することが可能となる。
図15に示すように、単一波長の基本波に対して、約20℃間隔で波長変換効率のピーク(極大)がある波長変換素子の場合には、図18に示す波長間隔(2つの基本波の波長差)と図15に示す効率変動(波長変換効率の極大値から極小値への変化率)の関係が図20に示すような関係となる。
波長間隔が何れの場合であっても、単一波長の基本波を入射させた場合より効率変動を抑制することができる。また、より望ましくは、
(0.67+1.33×p)> 波長間隔 >(-0.67+1.33×p)
が満たされることが望ましい。この範囲では、効率変動を単一波長の場合の半分以下に減らすことが可能であり、より効率変動を軽減することが可能となる。ここでpは任意の正の整数とする。
また、より一般化すると、単一波長の基本波を入射した場合の波長変換効率のピーク間隔がq℃の場合は、
(0.033+0.067×p)×q>波長間隔 >(-0.033+0.67×p)×q
の範囲の波長間隔の基本波光源を用いることが望ましく、効率変動を半分以下に軽減することが可能となる。
上記は、擬似位相整合波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の場合に共通して言えることであり、ニオブ酸リチウムの他に、タンタル酸リチウム、KTPなどの結晶を主とする擬似位相整合波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の場合も同様のことが言える。
また、二つのピーク波長をもつ基本波光源を用いる場合、従来のように、分極反転角が一定の波長変換素子を用いると、それぞれの波長の第二高調波と二つの基本波波長の和周波が発生するため、図21に示すような三つの波長の緑色光が得られる。しかし、複数の分極反転領域の分極反転角が異なる波長変換素子を用いることで、この和周波の発生を抑えることが可能となり、図22に示すように、二つの波長の緑色光のみを生成することが可能となる。これによって、更にスペックルノイズ軽減効果を高めることが可能となるため望ましい。
また、波長880nmの励起光を発振する半導体レーザを用いて、固体レーザ結晶902を励起してもよい。この場合、励起光から基本波への励起効率が高まり、より低消費電力なレーザ光源が実現可能となるため望ましい。
(実施の形態3)
本発明のさらに他の実施の形態について図面を参照し以下に説明する。
従来の波長変換レーザ光源は、波長変換素子の作製バラツキによって、設計通りの波長許容域を確保することができないという課題も有していた。
また、この課題は、基本波光源の波長変動の発生によって、第2高調波の出力変動を引き起こす。以下に、その内容を説明する。
波長変換素子は、図27に示すように基本波を入射する入射面2306と波長変換された第2高調波を出射する出射面2307が必要であり、入射面2306と出射面2307は、光学研磨されている。しかし、その研磨の仕上がり位置が所望の位置からずれて入射面と出射面の距離が変わると、設計通りの波長許容域が得られない。
また、この課題は、実施の形態1及び2にて示した「周期の異なる複数の分極反転領域を備えた波長変換素子」だけでなく、入射面から出射面まで均一な周期の分極反転構造を形成した擬似位相整合波長変換素子(以降、単一周期波長変換素子とする)や、複屈折位相整合波長変換素子においても同様の課題が発生する。
例えば、単一周期波長変換素子の作製方法について図28を用いて示す。図28に示すように、一定周期の分極反転構造を形成した非線形光学結晶基板2801は、点線2802に沿って各波長変換素子に切り分けられる。そして、波長変換素子のうち、光の入射面と出射面に当たる切断面を研磨して作製される。
このように作製された波長変換素子は、図25に点線2501で示すように、最適波長で波長変換効率が最大となり、最適波長から波長がずれるほど波長変換効率が低くなる。
ここで、波長変換素子と基本波との相互作用長D(図27の構成の場合は、入射面から出射面までの距離に相当する。)が所望の距離の場合に、図25の点線2501で示すような波長と波長変換効率の関係を示す場合について考える。
このとき、波長変換素子と基本波との相互作用長Dが所望の距離より長い場合、図25に実線2502で示すように、最適波長での波長変換効率は増加するが、最適波長から波長がずれることによる波長変換効率の低下が激しくなる。
反対に、波長変換素子と基本波との相互作用長Dが所望の距離より短い場合、図25に破線2503で示すように、最適波長から波長がずれた場合の波長変換効率の低下は少なくなるが、最適波長での波長変換効率が低下する。
このため、例えば「図25のAで示す波長範囲全域で波長変換効率Bを越えること」を波長変換素子の特性として求めた場合、波長変換素子入射面から出射面間の距離は所望の距離より長くても、短くても、必要な特性が得られないことになる。距離を規定するには、研磨の仕上がり位置を厳密に制御する必要があるが、実用上非常に困難である。
実施の形態3及び4では、波長変換素子の入射面から出射面の距離が所望の距離から逸脱した場合にも、最適波長を含む所定の波長範囲において、波長変換効率の低下を低減することが出来る波長変換素子を備えた波長変換レーザ光源について示す。
また、ここで示す波長変換レーザ光源は、基本波の波長変動があっても出力がより安定した波長変換レーザ光源となる。
図23に、本発明の実施の形態3に係る波長変換レーザ光源の波長変換素子の概略構成について示す。
波長変換素子2301は、分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備え、波長変換領域2303の両端に非波長変換領域2302を有している。波長変換領域2303は、例えば周期が約7mmの分極反転構造が形成されており、ニオブ酸リチウムを主とする擬似位相整合型の波長変換素子である。波長変換素子2301に入射した基本波2304は、その第2高調波2305に変換されて出射する。
波長変換領域2303の一方の端面、好ましくは両端面に形成された非波長変換領域2302は、分極反転構造が形成されていない領域であって、基本波2304はほとんど波長変換されない。
非波長変換領域2302は、波長変換素子2301のうち、基本波2304が入射する端面2306、及び第2高調波2305が出射する端面2307のうち、何れか一方、もしくは両方に形成されている。すなわち、波長変換素子2301の端面のうち、波長変換領域2303の分極反転構造の分極反転壁(分極反転が入れ替わる境界面)の垂線と交わる端面に非波長変換領域2302が形成されている。また、図23では非波長変換領域2302は、波長変換素子2301の端面2306、2307の全面に形成されているが、基本波2304もしくは第2高調波2305が通過する領域を含むように形成されていればよい。
なお、図23では、2つの非波長変換領域2302の長さdは同等であることを示している。しかし、波長変換領域2303の左右、すなわち、基本波が入射する側に配置された非波長変換領域と、第2高調波が出射する側に配置された非波長変換領域の長さを、目的に応じて異ならせることが出来る。
例えば、出射する第2高調波のロスを低減し、出力をより高めたい場合は、第2高調波が出射する側に配置された非波長変換領域の長さ(以下、d2とする)を、基本波が入射する側に配置された非波長変換領域の長さ(以下、d1とする)よりも短くすることが好ましい。
この場合、非波長変換領域の長さを長くすることによって、端面研磨によって波長変換領域2303と基本波2304との相互作用長Dが変化する確率が低くなり、より安定した性能の波長変換素子が得られる。しかしながら、出射側の非波長変換領域の長さd2を長くすると、出射した第2高調波にロスが多く生じてしまう。そこで、上述のように、長さd2をd1よりも短くすることで、素子性能の安定性と第2高調波のロス低減を両立することが可能になる。
また、入射する基本波のパワーが比較的大きい場合は、非波長変換領域の長さd1をd2よりも短くすることが好ましい。基本波のパワーが大きい場合、長さd1の非波長変換領域において、基本波が吸収され、熱レンズ効果によってビーム品質が低下するケースが考えられる。そのため、組み合わせられる基本波のパワーが大きいことが予想される場合には、d1をd2よりも短くすることで、ビーム品質の低下を抑制すると共に、出射側においては素子性能の安定性を確保することが可能になる。
次に、図24に本発明の実施の形態3にかかる波長変換レーザ光源の概略構成を示す。
本構成では、基本波光源2401にて生成した基本波2304を波長変換素子2301に入射し、その第2高調波となる第2高調波2305に変換する構成とする。ここで、基本波光源2401は励起用の半導体レーザを備えたファイバレーザで、基本波の波長は1064nmの赤外光である。
波長変換素子2301は、周期が約7μmの分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備え、ニオブ酸リチウムを主とする擬似位相整合波長変換素子である。
波長変換素子2301内で基本波2304は、その第2高調波である波長532nmの緑色光(第2高調波2305)に変換される。
基本波光源2401は、ファイバレーザなどの特定の構成に限られず、半導体レーザ、半導体レーザ励起の固体レーザ等であってもよい。
このように、入射面2306、出射面2307に非波長変換領域2302が露出するように波長変換素子2301を作製することによって、波長変換領域2303と基本波2304との相互作用長Dの変動を低減することが可能なる。つまり、より一定した波長許容域の確保が可能となる。
従来型の波長変換素子2701と、本実施の形態の波長変換素子2301について、入射面から出射面までの距離に対する波長許容域(波長幅)の関係を図16に示す。従来型の波長変換素子2701では、端面研磨により相互作用長Dが変動してしまう。これに対して本発明の波長変換素子2301では、両端面、もしくは少なくとも一方の端面に非波長変換領域2302が形成されていることから、波長変換素子2701の相互作用長Dの変動を低減することが出来る。ここで、非波長変換領域2302では、基本波が波長変換される量が劇的に少ないので、端面研磨によって幅が変動したとしても、波長変換効率に与える影響が少ない。
つまり、非波長変換領域の何処に研磨位置がきても、波長変換効率をより一定に保つことが出来る。
図16は従来の波長変換素子と、実施の形態3の波長変換素子2301の特性の違いを示している。横軸には、波長変換領域2303の設計長に対して、実際に形成された波長変換領域2303の長さと非波長変換領域2302の長さとの比率を示している。すなわち、波長変換素子2301において、非波長変換領域2302が形成されていない場合を1と定義する。ここでは簡単のために、波長変換領域2303の両端部に非波長変換領域2302が形成されている場合のみを示し、波長変換素子2301において、入射面から出射面の距離が1のときに、入・出射面の非波長変換領域が同時に無くなるとする。
従来型では、図16の実線が示すように、波長変換領域2303の長さに対する光の入射面2306から出射面2307の距離が1のときに波長許容域が極大となり、そこから逸脱すると相互作用長Dが変化することになるため、波長許容域が狭まる。これに対して、本実施の形態の波長変換素子2301では、図16の点線が示すように、入射面から出射面までの距離が1以上のとき、すなわち、非波長変換領域2302が形成されている場合には、相互作用長Dは常に1となるため、波長許容域も一定となる。つまり、例えば、相互作用長が1のとき、入射面から出射面までの距離の平均値が1.5となるように切断位置を決めておけば、入射面から出射面までの距離が±0.5の範囲でばらついたとしても所望の波長許容域が得られる。また、図16には示していないが、入射面から出射面の距離が3.75より長い場合も、本発明の場合の波長許容域(点線1602)は一定となる。一方、従来型の場合の波長許容域(実線1601)は、入射面から出射面の距離が長くなるほど波長許容域が狭まる。
ここで、波長変換素子2701にて、相互作用長Dが1の長さのときの最大効率の半分以上の波長変換効率が得られる基本波波長の範囲を波長許容域とする。また、基本波、第2高調波の、波長変換素子内での吸収は無いとした。
なお、図23では、分極反転壁が基本波2304の入射方向に対して垂直である波長変換領域2303を示しているが、実施の形態1,2に示すように波長変換領域2303が基本波2304の入射方向に対して分極反転壁が斜めに形成された分極反転領域を有する構成であってもよい。この場合にも、最適波長を含む所定の波長範囲において、波長変換効率の低下を抑えることが出来るという効果を奏することが出来る。
次に、波長変換素子2301の形成方法の一例について述べる。ここで、本発明の実施の形態3である図24の波長変換レーザ光源は、図27に示した従来型の波長変換レーザ光源と異なり、図29に示す非線形光学結晶基板2901から切り出した波長変換素子を用いる。
非線形光学結晶基板2901は、分極反転周期構造を形成していない非波長変換領域2902(非分極反転領域)(斜線部)を有した構造となっている。この非波長変換領域2902内で切断することによって、図30に示すように向かい合う2つの切断面3002に非波長変換領域2902を備えた非線形光学結晶小基板3001に切り分けられる。
この非線形光学結晶小基板3001の非波長変換領域2902が露出した向かい合う2つの切断面3002を光学研磨することで、入射面2306、出射面2307となり、図24の波長変換素子2301となる。そのため、波長変換素子2301は、その入射面2306、出射面2307と波長変換領域2303の間に非波長変換領域2302が残る。
このように、本発明の実施の形態では、図29に示す非線形光学結晶基板2901に形成した非波長変換領域2902が、各波長変換素子に切断して端面研磨するための、切断・研磨しろとなる。そして、入・出射面の仕上がり位置が非波長変換領域2902内であれば、入・出射面の距離がずれても設計どおりの波長許容域が確保される。以上の効果により、入・出射面の位置ずれに対して尤度が確保され、歩留まりの向上を実現し、生産コストを下げることが可能となる。
なお、本発明の波長変換素子2301の作製方法は上記の方法に限られず、波長変換領域2303の形成後、別途非波長変換領域2302を接合することで、波長変換素子2301を作製してもよい。この場合、この非波長変換領域2302と波長変換領域2303は、直接接合により接合されていてもよい。直接接合による接合によって、光反射を低減することが可能になり、波長変換効率の減少を防止することが出来る。また、非波長変換領域2302と波長変換領域2303を、光学膜等を介して接合したり、また光透過領域以外の領域に接着剤を塗布して接合したりしてもよい。
(実施の形態4)
本発明のさらに他の実施の形態について図面を参照し以下に説明する。
図26は本発明の実施の形態4にかかる波長変換レーザ光源の概略構成を示す。
本構成では、半導体レーザ2601、固体レーザ結晶2602、波長変換素子2603を備える。半導体レーザ2601で発振させた波長808nmの励起光2604で、YVO4にNdを添加した固体レーザ結晶2602を励起し、波長1064nmの基本波2607を発生させる。励起光2604が入射する固体レーザ結晶2602の入射面2605には、励起光2604に対する反射防止コートであり、基本波とその第2高調波に対する透過防止コートが形成されている。
また、入射面2605の対面(接合面2608)を親水化処理し、同様に親水化処理したニオブ酸リチウムからなる波長変換素子2603を貼り合わせて、光学的に接合した状態としている。波長変換素子2603は、固体レーザ結晶2602との接合面2608の対面(出射面2606)に基本波2607に対する透過防止コートであり、第2高調波に対する反射防止コートを形成している。つまり、固体レーザ結晶2602にて発生した基本波2607を、固体レーザ結晶2602と波長変換素子2603を挟んだ2面(入射面2605と出射面2606)の透過防止コート内で共振させて発振させる。
本実施の形態における波長変換素子2603についても、周期が約7μmの周期的分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備えており、基本波2607は、その第2高調波となる波長532nmの第2高調波2609となって、出射面2606側から共振器外へ出射する。
また、波長変換素子2603は、実施の形態3の波長変換素子2301と同様、図29に示すように、分極反転周期構造を形成していない非波長変換領域2902(斜線部)を備えた非線形光学結晶基板2901を、非波長変換領域2902内で切断・研磨して作製する。ただし、本実施の形態の場合は、接合面2608、出射面2606がこのとき研磨された2つの面となる。つまり、接合面2608、出射面2606と波長変換領域2303の間に、分極反転構造を形成していない非波長変換領域2302を備えた波長変換素子2603となる。
このように、接合面2608と波長変換領域2303との間、および出射面2606と波長変換領域2303との間に非波長変換領域2302を残した構成とすることにより、切断位置のずれや、研磨による削り量のバラツキがあった場合にも、波長変換領域2303と基本波2607が相互作用する距離Lが変化するこがなく、設計通りの波長許容幅が得られる。
本実施の形態では、固体レーザ結晶2602としてNdを添加したYVO4を用いたが、本発明は別の固体レーザ結晶材料を用いても同様の効果を奏でる。例えば、Ybを添加したYVO4や、Nd、Ybを添加したYAG等を用いてもよい。
また、光学結晶以外でもYAGや{Gd2Y}Sc2(Al2Ga)O12などのセラミック材料等をレーザ媒質に用いることでも同様の結果が得られる。
また、前記構成では、波長変換素子(ニオブ酸リチウム)2603との屈折率差が少ないYVO4を主成分とした固体レーザ結晶2602を用いているため、接合面2608には誘電体多層膜コートを形成していないが、フレネル反射による基本波2607、第2高調波2609の反射は殆どない構成となるが、接合面2608に基本波2607の反射防止コートを備えてもよい。
また、波長880nmの励起光2604を発振する半導体レーザを用いて、固体レーザ結晶2602を励起してもよい。この場合、励起光から基本波への励起効率が高まり、より低消費電力なレーザ光源が実現可能となるため望ましい。
また、前記構成では、固体レーザ結晶2602及び、波長変換素子2603内において、励起光2604、基本波2607及び、その第2高調波を吸収することによって発生する熱レンズ効果によって、入射面2605と垂直方向の光閉じ込め効果を得ている。前記構成は、安価にレーザ光源を作製することが可能となるため望ましいが、凹面ミラーや、凸レンズを用いた共振器の構成でもよい。
凹面ミラーや凸レンズを用いた共振器構成にすることで、出射する第2高調波2609の広がり角が安定する効果が得られ、レーザ走査型画像表示装置用光源として用いる場合に、より安定して高精細な画像を形成することが可能となる点で望ましい。
以上、実施の形態3及び4において、周期的分極反転構造を形成した波長変換領域と分極反転構造のない非波長変換領域を備えた擬似位相整合型波長変換素子について示したが、本明細書にて、実施の形態に示した構成は一例であって、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、実施の形態3及び4に共通して以下のことが言える。
まず、実施の形態3及び4において、非波長変換領域2302は分極反転構造を形成しない(分極方向が一定の)領域としたが、分極反転構造が形成された分極反転領域と、分極反転構造を形成しない領域との境界部分では、設計どおりの分極反転構造を形成することが難しい。これは、分極反転構造の形成時に、分極反転領域と分極反転が形成されていない領域の境界面に電界が集中してしまい、端部における反転領域の長さが増えてしまいがちだからである。この場合、分極反転領域の長さが設計と異なるケースが発生し、素子の特性が所望の特性とは異なってしまう。そこで、非波長変換領域2302は、波長変換に寄与しない分極反転構造を備えることがより望ましい。
これによって、波長変換領域2303には、非波長変換領域と接する境界部まで、設計どおりの分極反転構造が形成されるため、より高い波長変換効率の波長変換素子をより高い歩留まりで生産することが可能となる。
以下に、波長変換に寄与しない分極反転構造の例について示す。
なお、本実施の形態では、非波長変換領域とは、分極反転構造が形成されていない領域のことではなく、入射する基本波の波長変換に寄与しない分極反転構造が形成されている領域を意味している。
例えば、図31(a)に示すように波長変換領域2303に形成した周期的分極反転方向Xに対して、垂直方向Yに分極反転構造を形成した領域は、入射する基本波の波長変換に寄与しないので非波長変換領域3101と言える。ここで、Y方向に分極反転構造を形成するとは、分極反転壁(分極が入れ替わる境界面)がY方向のベクトルに垂直な面となることを意味する。また、この場合、非波長変換領域3101の分極反転構造は周期的である必要は無い。また、非波長変換領域3101で変換される光が出射する第2高調波に与える影響が非常に小さいため、Y方向と分極反転壁の成す角が75度以上で、且つ、105度以下であれば、上記垂直の場合と同様の効果を得ることが出来るため望ましい。なお、波長変換領域2303から出射する第2高調波2609が、非波長変換領域3101に形成された分極反転構造の分極反転壁を通過しないように、波長変換素子外に出射することが好ましい。例えば、図31(b)に示すように、波長変換領域2303に、第2高調波の出射方向に対してφだけ傾いた分極反転壁を有する分極反転構造が形成されていたとする。この場合、非波長変換領域3101の幅をd、分極反転壁の間隔をtとすると、非波長変換領域の分極反転構造は、t≧d×tanφの関係を少なくとも満たすように形成されることが好ましい。
また、図32に示すように波長変換領域2303と非波長変換領域3201の両方に同方向の周期的分極反転構造を形成し、両領域の分極反転周期が下記のような関係となることを特徴とする構成であってもよい。特に、波長変換領域に形成した分極反転周期の1/n倍(nは正の偶数)倍の周期的分極反転構造を形成した非波長変換領域3201を備えた波長変換素子3202を用いることにより、波長変換領域2303によって変換された第2高調波が非波長変換領域によって変換されないため、特に望ましい。これにより、分極反転構造を形成しない非波長変換領域を備える場合などの他の構成に比べて、特に波長許容域のバラツキを押さえることが可能となる。
また、図示しないが、波長変換領域に形成した分極反転周期のm/4倍(mは3以上の奇数)、s/2倍(sは3以上の奇数)、u倍(uは正の偶数)の周期的分極反転構造を形成した非波長変換領域を備えた波長変換素子を用いることが特に望ましい。これにより、分極反転構造を形成しない非波長変換領域を備える場合などの他の構成に比べて、特に波長許容域のバラツキを押さえることが可能となるため望ましい。
波長変換領域2303と非波長変換領域3201の両方に同方向の周期的分極反転構造を形成し、両領域の分極反転周期を変える構成の中では、下記の順番で波長許容域のバラツキを押さえる効果が高い。
(1)波長変換領域の分極反転周期に対して、非波長変換領域の分極反転周期が1/n倍(nは正の偶数)
なお、nが大きいほどバラツキ抑制効果も大きい
(2)波長変換領域の分極反転周期に対して、非波長変換領域の分極反転周期がs/2倍(sは3以上の奇数)またはu倍(uは正の偶数)
(3)波長変換領域の分極反転周期に対して、非波長変換領域の分極反転周期がm/4倍(mは3以上の奇数)
なお、mが大きいほどバラツキ抑制効果は小さい
また、非波長変換領域に形成された分極反転構造の周期が大きいほど非波長変換領域3201の作製難度が下がるため、より生産コストの低減が可能となる。
しかし、波長変換領域の分極反転周期と、非波長変換領域の分極反転周期の差が大きいほど、非波長変換領域と波長変換領域の境界部の分極反転構造が設計どおり作製できなくなる。一般的には波長変換素子の厚みの5%以下の周期で分極反転構造が形成されていることが望ましく、波長変換素子の厚み(Y軸方向の幅)が1mmであれば50μm以下が望ましい。この範囲であれば、電界の集中を緩和し、設計どおりの分極反転構造を形成することが可能となる。また、この範囲であれば、上述の境界部の分極反転構造が設計どおり形成されるため、より高効率波長変換素子の作製が可能となる。
また、非波長変換領域3201の分極反転周期が上述の長さと略同一の場合も、本発明の同様の効果を奏でる。ここで、シミュレーションにより算出した結果、略同一とは、以下の範囲が含まれる。具体的には、上記(1)〜(3)で規定される分極反転周期に対して、実際に非波長変換領域に形成された分極反転周期が93.4%以上で且つ、107%以下の範囲を示す。また、上記分極反転周期に対して、87.7%以上で且つ、114%以下の範囲の場合、本発明に順ずる効果を奏でる。
また、研磨面の位置バラツキとしては、15μm程度の尤度が確保されていることが望ましい。また、市販されている物の中で最も薄い15μmのブレード幅のダイシングブレードを用いて切断するとしても、20μm程度の切断シロが必要となる。以上より、図29に示す非線形光学結晶基板2901の非波長変換領域2902の幅d0としては、少なくとも50μm以上が望ましい。これによって、より生産コストを下げることが可能となる。
また、実施の形態3及び4において、波長変換素子としてニオブ酸リチウムを用いたが、本発明はニオブ酸リチウムを用いた波長変換素子を備える構成に限定されるものではない。タンタル酸リチウムやKTPなどの別の非線形光学材料からなる波長変換素子を用いてもよく、同様の効果が得られる。
また、実施の形態3及び4における波長変換素子として、波長変換領域に周期的分極反転構造を形成した擬似位相整合波長変換素子を用いたが、本発明の波長変換素子は複屈折位相整合を利用した複屈折位相整合波長変換素子であってもよい。また、この場合は、波長変換領域に分極反転構造が形成されていない波長変換素子を用いてもよい。しかし、複屈折位相整合波長変換素子で、尚且つ、波長変換領域に分極反転構造を形成しない場合は、擬似位相整合波長変換素子の場合と反対に、非波長変換領域に周期的分極反転構造を形成することで本発明の効果が得られる。また、この場合、非波長変換領域の分極反転構造は、周期が短いほど波長許容幅のバラツキ抑制効果が大きい。
また、実施の形態3及び4の波長変換素子についても、実施の形態1及び2と同様に、周期の異なる複数の分極反転領域を備えることで、発振波長幅を拡大することが可能となるため望ましい。更に、実施の形態1及び2と同様に、分極反転領域ごとに分極反転角度が異なることが望ましく、入射面から奇数番目と偶数番目の分極反転角度の正負が入れ替わることが望ましく、奇数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度であることが望ましい。偶数番目の分極反転領域の少なくとも2領域が同じ分極反転角度であることが望ましく、周期が近い2つの分極反転領域は隣り合わないことが望ましい(理由、効果についても実施の形態1と同様)。
また、実施の形態1ないし4における波長変換素子は、波長1064nmの基本波を第2高調波となる波長532nmの第2高調波に変換する構成としたが、本発明は本構成に限定されるものではない。如何なる波長の基本波から、その高調波や和周波、差周波に変換するレーザ光源であっても、本発明を用いることによって同様の効果が得られる。また、複数の波長の基本波から、その和周波、差周波を発生させる構成でも、本発明によって同様の効果が得られる。
また、実施の形態3及び4における波長変換素子は、周期が一定の分極反転構造を形成した波長変換領域2303を備えているが、図34に示すように複数の波長変換領域3401、3402、3403を備え、それぞれの領域の分極反転周期を異ならせる構成とすることがより望ましい。これにより、波長許容域をより拡大することが可能となる。
例えば、波長変換領域3401、3402、3403にそれぞれ周期6.95μm、周期6.93μm、周期6.91μmの周期的分極反転構造を形成し、各波長変換領域と基本波2607の相互作用長を最適化することで、1060nm〜1064nmの波長の基本波を第2高調波に変換することが可能となる。
また、図36に示すように、波長変換領域3601、3602、3603には一定の周期の分極反転構造を形成し、位相制御領域3604と組み合わせることで、波長許容域を拡大する方法を用いてもよい。これにより、より高効率で広い波長許容域を確保することが可能となるため望ましい。
また、ここで、波長変換領域3601、3603と基本波2607との相互作用長は同程度であることがより望ましく、更には、基本波2607と2つの位相制御領域3604との相互作用長は、あわせた距離が波長変換領域3602の分極反転周期のおよそ整数倍となることが望ましい。これらを組み合わせることにより、更に高効率で広い波長許容域を確保することが可能となる。
更に、前述のように、分極反転の周期構造をチャープ状に変化させることで、位相整合波長の許容度を拡大する方法を用いても良い。これにより、更に広い波長許容域を確保することが可能となるため望ましい。
ここで、波長変換領域に単一周期の分極反転構造が形成されている場合には、波長変換領域の長さが重要であった。しかし、これらの波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子や位相制御部を供えた波長変換素子(以降、両方を併せて『分極反転周期が一定でない波長変換素子とする』)を用いて、波長変換レーザ光源を作製したところ、入・出射面間の距離(すなわち、波長変換領域の長さ)が設計どおりでも、設計どおりの波長許容域が得られない場合があることがわかった。
我々はこの原因を評価し、上述のように波長変換素子の分極反転周期が一定でない波長変換素子の場合は、入・出射面の距離が一定であっても、それぞれの端面の位置が研磨によってずれることで、設計通りの波長許容域が得られないという新たな課題が発生することを発見した。
例えば、位相制御領域を備えた図36の波長変換レーザ光源において、波長変換領域3601と3602の間の位相制御領域と基本波2607との相互作用長を波長変換領域3602の分極反転周期の0.38倍とし、波長変換領域3603と3602の間の位相制御領域と基本波2607との相互作用長を波長変換領域3602の分極反転周期の0.62倍とする。また、波長変換領域3601と基本波2607との相互作用長を75μm、波長変換領域3602と基本波2607との相互作用長を350μmとする。
このとき、接合面2608(この構成の場合の入射面)と出射面2606が設計通りの位置にあるとした場合、図37の実線3701で示すように基本波の波長1060nmから1068nmまで均一な波長変換効率となる。ここで、従来からあった、非波長変換領域を備えない構成の場合、設計の位置に対して、接合面、出射面が同方向に25μmずれると、波長変換領域の長さに変化が無い場合でも、図37に点線3702に示すように、1064nm以上の波長の基本波に対して、実線3701の波長変換効率を大きく下回る。
また、入・出射面の位置ずれに対する波長許容域の関係で見ると、図33の実線に示すように、入・出射面の位置が13μm以上ずれると波長許容域は、所望の幅の6割以下となる。(ここで、図37の波長変換効率0.9以上となる基本波波長域を波長許容域とする)。
また、図37に示すように、波長許容域の中心波長も変化するため、ディスプレイ用光源として用いる場合には、色ずれなどを引き起こす。
これらの新たな課題を解決するため、波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子の場合、図34及び図36に示すように、非波長変換領域3404を備えることが望ましい。
これにより、図33の点線に示すように、波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子においても、入・出射面の位置がずれても設計通りの波長許容域が得られる構成となる。
また、波長変換領域の分極反転周期が一定でない波長変換素子においても、非波長変換領域は、分極反転構造を形成していることが望ましい。これによって、波長変換領域に設計どおりの分極反転構造を形成することが可能となるため、より高い波長変換効率の波長変換素子を作製することが可能となる。
また、少なくとも基本波が透過する領域において、分極方向が反対となる2つの領域の面積比が1:1となることが望ましい。それにより、入・出射面の位置がずれることによる波長許容域の中心波長が変化することを抑制することが可能となる。また、1:1と略同一の範囲においても、同様に望ましい。ここで、略同一とは、10:8から10:12の範囲を示す。
また、周期の異なる複数の分極反転構造を備えた波長変換素子と、位相制御領域を備えた波長変換素子の場合、特に、波長変換領域に形成した平均分極反転周期の1/n倍(nは正の偶数)倍の周期的分極反転構造を非波長変換領域3404に形成していることが望ましい。
これにより、更に、波長許容域の中心波長が変化することを抑制することが可能となる。
また、図31、図32、図34及び図36にて、実施の形態4の別の構成を示したが、実施の形態3の他の構成についても同様のことが言える。
なお、実施の形態3及び4において、分極反転領域の分極反転壁は、基本波の入射方向に対して垂直な方向に形成されているケースを示したが、分極反転壁が基本波の入射方向と斜め、すなわち垂直方向以外で交わるような分極反転領域であってもよい。また、図35に示すように、分極反転利領域3501、3502、3503のように複数の領域に分割されており、そのうち少なくとも2つの領域の分極反転壁が、異なる方向を向いているものであってもよい。
また、実施の形態3及び4における波長変換レーザ光源は、特定の構造に限られず、ファイバレーザ、及び半導体レーザ等の何れであってもよい。
また、実施の形態3及び4でそれぞれ異なる波長変換領域、及び非波長変換領域の構成を示したが、それぞれ他の実施の形態の非波長変換領域、及び波長変換領域と組み合わせが可能であることは言うまでも無い。
また、実施の形態1乃至4における波長変換レーザ光源として、ニオブ酸リチウムを主成分とする波長変換素子を用いたものについて示したが、タンタル酸リチウムや、KTP等の非線形光学材料を波長変換素子の主成分とする波長変換レーザ光源についても、同様の効果を発揮する。
(実施の形態5)
図14は、実施の形態1乃至4で示した波長変換レーザ光源を含むバックライト照明装置を用いた、本発明の実施の形態5にかかる画像表示装置の構成の一例について示す概略構成図である。このような画像表示装置の例として液晶表示装置1406の模式的な構成図を示す。
図14に示すように液晶表示装置1406は、空間変調素子である液晶表示パネル1407と、液晶表示パネル1407を背面側から照明するバックライト照明装置1401と、を備えて構成されている。そして、バックライト照明装置1401の光源は、複数のレーザ光源1402を含んで構成され、このレーザ光源1402は少なくとも赤色、緑色および青色をそれぞれ出射する光源を用いた構成からなる。すなわち、R光源1402a、G光源1402bおよびB光源1402cは、それぞれ赤色、緑色および青色のレーザ光を出射する。このレーザ光源1402のうち、G光源1402bが本発明の実施の形態1〜4で示した波長変換レーザ光源からなるG光源を用いて構成される。
また、ここでは、R光源1402aには波長640nmのAlGaInP/GaAs系材料からなる半導体レーザを、青色レーザ光源(B光源)1402cには波長450nmのGaN系材料からなる半導体レーザを用いている。
次に本実施の形態の液晶表示装置1406の模式的な構成について説明する。本実施の形態における液晶表示装置1406は、バックライト照明装置1401と、このバックライト照明装置1401から出射されるR光、G光およびB光のレーザ光を利用して画像表示を行う偏光板1408および液晶板1409から構成される液晶表示パネル1407とからなる。すなわち、図14に示すように本実施の形態のバックライト照明装置1401は、レーザ光源1402、レーザ光源1402からのR光、G光およびB光のレーザ光をまとめて導光部1404を介して導光板1405に導く光ファイバ1403および導入したR光、G光およびB光のレーザ光で均一に満たされて主面(図示せず)からレーザ光を出射する導光板1405から構成されている。
レーザ光源を用いることにより、色再現性に優れ、低消費電力の画像表示装置を実現することができる。
また、ここでは、レーザ光源を用いた画像表示装置として、透過型の液晶パネルを空間変調素子として用いた液晶表示装置について示したが、DMDミラーや反射型LCOSを空間変調素子に用いてもよい。
また、ここでは、空間変調素子への光学系として、光ファイバと導光板を用いたが、レンズ光学系を用いたプロジェクタなどの画像表示装置であっても同様の効果を発現することは言うまでもない。
これらの画像表示装置における緑色レーザ光源として、本実施の形態1〜4に示した波長変換レーザ光源を用いることにより、より出力変動を軽減した画像表示装置を実現することが可能となる。
また、本明細書にて、実施の形態に示した構成は一例であって、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能であることは言うまでもない。
以上のように、本発明の一局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光を生成するレーザ光源と、前記基本波レーザ光を入射し、異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子が、周期が異なる複数の分極反転領域を備え、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記波長変換素子に入射する光路に対して傾くように形成されている。
上記の構成によれば、レーザ光源が生成した基本波レーザ光は波長変換素子により異なる波長のレーザ光に変換される。ここで波長変換素子が周期の異なる複数の分極反転領域を具備しているので、広い波長許容幅と高効率波長変換が実現される。そして、波長変換素子の有する複数の分極反転領域の少なくとも一つは、当該分極反転領域の分極反転軸が波長変換素子に入射する光路に対して傾斜している。このように、基本波レーザ光路に対して傾くように周期的分極反転構造を形成したことにより、波長変換素子内において基本波レーザ光から変換されて発生したレーザ光(第2高調波などの波長変換光)が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することが可能となる。すなわち、本発明のように分極反転領域の分極反転軸が基本波レーザ光路に対して傾斜している場合、基本波レーザ光から変換される波長変換光は、当該基本波レーザ光とは異なる伝搬方向に発生する。このように基本波レーザ光と波長変換光との伝搬方向が不一致ならば、発生した波長変換光が、元となる基本波レーザ光との差周波として基本波に逆変換される現象を回避できるのである。このように、波長変換素子で発生した波長変換光が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することによって、波長変換効率の低下を回避できる。
ところで、上記の“逆変換”(差周波発生)による波長変換効率低下は、温度に大きく依存して変動するため、温度変化による波長変換効率の変化の割合が増大し、出力の安定性を低下させる大きな要因である。しかしながら、本発明の波長変換レーザ光源は、上記のとおり効果的に“逆変換”による波長変換効率低下を回避できるので、出力安定性を高めることが可能となる。これにより、例えば本発明の波長変換レーザ光源を画像表示に適用した場合には、輝度の安定した画像表示が可能となる。
本発明の他の局面に係る波長変換レーザ光源は、励起光を生成する励起レーザ光源と、前記励起光で励起して基本波レーザ光を生成する固体レーザ結晶を含む一対の共振器と、前記共振器内に設けられ、前記基本波レーザ光を異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記周期的分極反転構造の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記共振器に入射する光路に対して傾くように形成されており、前記固体レーザ結晶と前記波長変換素子との間に、分極反転構造が形成されていない分極反転無形成領域を備えている。
上記の構成によれば、励起レーザ光源からの励起光で固体レーザ結晶が励起して基本波レーザ光が生成される。そして、生成された基本波レーザ光は、当該固体レーザ結晶を含む共振器内に設けられた周期的分極反転構造を備えた波長変換素子で異なる波長のレーザ光(第2高調波などの波長変換光)に変換される。ここで、周期的分極反転構造の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記共振器に入射する光路に対して傾くように形成されているので、基本波レーザ光から変換される波長変換光は、当該基本波レーザ光とは異なる伝搬方向に発生する。このように基本波レーザ光と波長変換光との伝搬方向が不一致ならば、波長変換素子内において基本波レーザ光から変換されて発生した波長変換光が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を防止することが可能となる。そして、“逆変換”を防止することによって、波長変換効率の低下を回避し、出力安定性を高めることが可能となる。
ところで、固体レーザ結晶と直接接合される波長変換素子の面内において、分極方向が反転する場合、波長変換効率が経時的に低下するという新たな課題の存在を発見した。そこで、本発明の波長変換レーザ光源は、固体レーザ結晶と前記波長変換素子との間に、分極反転構造が形成されていない分極反転無形成領域を形成しており、これによって上記経時劣化を効果的に抑制することが可能となる。
上記の構成において、前記波長変換素子が、周期が異なる複数の分極反転領域を備えることが好ましい。
これにより、本発明の波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光の波長に対する広い波長許容幅と高効率波長変換を実現することができる。
上記の構成において、少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸が、その他の分極反転領域のうち少なくとも一つの分極反転領域の分極反転軸とは異なることが好ましい。
このように、波長変換素子において、分極反転領域の分極反転軸が異なる複数の領域が存在することにより、逆変換による出力不安定を効果的に抑制できる。
上記の構成において、分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が正の分極反転領域と、当該角度が負の分極反転領域とが隣接して形成されることが好ましい。
上記の構成によれば、隣接する分極反転領域の分極反転軸の傾きが互いに逆方向となり、隣接する分極反転領域同士の分極反転角度(分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度)の差を大きくすることができる。よって、基本波レーザ光から異なる波長のレーザ光(第2高調波などの波長変換光)に変換された直後の分極反転領域において、当該波長変換光が大きく逆変換されることを抑制することが可能となるため、より小さな分極反転角度で高い出力安定性が得られる。
上記の構成において、前記波長変換素子は、分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が正となる分極反転領域を複数具備し、当該分極反転領域のうち少なくとも2つの分極反転角度が一致することが好ましい。
これにより、波長変換素子で発生する複数の波長変換光の伝播方向が揃うため、波長変換レーザ光源から出射するレーザ光(波長変換光)の出射方向を減少させることが可能となる。よって、波長変換レーザ光源をプロジェクタなどの画像表示装置に適用する場合、より簡単な構成で安価な光学系を用いることが可能となる。
また、前記分極反転領域のうち、少なくとも二つの隣り合う分極反転領域の間に、分極反転無形成領域を備えることが好ましい。
上記の構成によれば、隣り合う分極反転領域(例えば分極反転領域Aiとその下流にある分極反転領域Ai+1)の間に分極反転無形成領域が存在するので、分極反転領域Aiで発生した波長変換光の光路と基本波レーザ光の光路とは、分極反転無形成領域を伝搬しながら物理的に広がる。これは、上述のように波長変換光と基本波レーザ光との伝搬方向が異なるからである。これにより、分極反転領域Aiの下流側にある分極反転領域Ai+1においては、分極反転無形成領域が存在しないときよりも、波長変換光の光路と基本波レーザ光の光路との間隔を物理的により広く取ることが可能となり、波長変換光と基本波レーザ光との相互作用をより弱めることが可能となり、上述の逆変換を効果的に抑制できる。
上記の構成において、前記固体レーザ結晶と前記波長変換素子とが直接接合されており、前記波長変換素子における前記固体レーザ結晶との接合面に前記分極反転無形成領域が形成されていることが好ましい。
このように、波長変換素子における固体レーザ結晶との接合面に分極反転無形成領域を形成し、固体レーザ結晶と波長変換素子とを直接接合することによって、波長変換レーザ光源の製作が容易となるとともに、より小型で安価な波長変換レーザ光源を実現できる。
上記の構成において、前記波長変換素子は、ニオブ酸リチウムを主とする結晶からなり、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が2.9°以上、14.6°以下であることが好ましい。
これにより、ニオブ酸リチウムを主とする結晶からかる波長変換素子を用いた場合に、発生した波長変換光が元となる基本波レーザ光との差周波として基本波に逆変換されることを効果的に防止して波長変換効率の低下を回避し、出力安定性を高めることが可能となる。
また、前記波長変換素子は、タンタル酸リチウムを主とする結晶からなり、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が3.3°以上、16.6°以下であることが好ましい。
これにより、タンタル酸リチウムを主とする結晶からかる波長変換素子を用いた場合に、発生した波長変換光が元となる基本波レーザ光との差周波として基本波に逆変換されることを効果的に防止して波長変換効率の低下を回避し、出力安定性を高めることが可能となる。
本発明のさらに他の局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波レーザ光を生成するレーザ光源と、前記レーザ光源から入射した前記基本波レーザ光を異なる波長のレーザ光に変換する波長変換領域を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子は、前記基本波レーザ光を透過又は反射する複数の光学研磨端面を有し、前記光学研磨端面の少なくとも1つと前記波長変換領域との間に、前記基本波レーザ光の波長に対する非波長変換領域を備えることが好ましい。
上記の構成によれば、レーザ光源が生成した基本波レーザ光は波長変換素子の波長変換領域により異なる波長のレーザ光に変換される。ここで波長変換素子は、基本波レーザ光を透過又は反射する複数の光学研磨端面を有しており、その端面と波長変換領域との間に、基本波レーザ光の波長に対する非波長変換領域が形成されている。これにより、波長変換素子における光学研磨端面間の距離(例えば、波長変換素子の入射面から出射面の距離)が所望の距離から逸脱した場合にも、所望の波長許容域となる波長変換素子を実現できる。すなわち、波長変換素子における光学研磨端面の少なくともひとつは非波長変換領域であり、当該非波長変換領域では、基本波レーザ光が波長変換される量が劇的に少ないので、端面研磨によって波長変換素子における端面間の距離が変動したとしても、波長変換領域と基本波レーザ光との相互作用長の変動を低減することが出来る。よって、非波長変換領域の何処に研磨位置がきても、波長変換効率に与える影響が少なくなり、波長変換効率をより一定に保つことが出来る。
上記の構成において、前記レーザ光源は複数の波長ピークを有する基本波レーザ光を生成し、前記波長変換素子は、前記基本波レーザ光が単一の波長の場合に前記基本波レーザ光から前記異なる波長のレーザ光への変換効率が複数の極大値をもつ温度特性を示すものであることが好ましい。
上記の構成によれば、波長変換素子の変換効率についての温度特性は、単一の波長の基本波レーザ光に対しては複数の極大値を持つものであり、凸凹のある特性となっている。この場合、複数の波長ピークを有する基本波レーザ光を生成するレーザ光源を用いる。これにより、複数の波長ピークを有する基本波レーザ光を、上記温度特性を有する波長変換素子で波長変換することになるので、上記の温度特性の凹凸が軽減され、単一波長の基本波レーザ光を波長変換素子に入射させた場合よりも、波長変換効率の変動を大幅に軽減することが可能となる。
また、前記波長変換領域内に周期が異なる複数の分極反転領域を備えることが好ましい。
このように複数の分極反転領域を備える波長変換素子は、基本波レーザ光の波長に対する広い波長許容幅と高効率波長変換を実現することができる。
また、前記波長変換領域内に位相制御領域を備えることが好ましい。
これにより、基本波レーザ光の波長に対する広い波長許容幅と高効率波長変換を実現することができる。
また、前記変換効率が極大となる複数の温度をp[℃]とし、前記複数の波長ピークを有する基本波レーザ光の波長間隔をΔλ[nm]とし、qを任意の自然数としたとき、
(0.033+0.067×p)×q>Δλ>(-0.033+0.67×p)×q
が成り立つことが好ましい。
このように、複数の波長ピークを有する基本波レーザ光の波長間隔Δλを限定することにより、単一波長の基本波レーザ光を波長変換素子に入射させた場合よりも、波長変換効率の変動を半分以下に軽減することが可能となる。
また、前記波長変換領域のうち、前記基本波レーザ光が透過又は反射する2つの端面の何れにも、前記非波長変換領域が形成されていることが好ましい。
このように、波長変換領域の2つの端面の何れにも非波長変換領域を形成することによって、端面研磨によって波長変換素子における端面間の距離が変動したとしても、波長変換領域と基本波レーザ光との相互作用長の変動をより低減することが出来る。よって、波長変換効率をより安定的に保つことが出来る。
また、前記波長変換素子は、前記波長変換領域の分極反転方向が一定な複屈折位相整合波長変換素子であって、前記非波長変換領域に分極反転構造を備えることが好ましい。
このように、波長変換領域の分極反転方向が一定な複屈折位相整合波長変換素子を用いることができ、この場合は、非波長変換領域に分極反転構造を形成することにより、本発明の効果を得ることが可能となる。
また、前記非波長変換領域内に分極反転構造を形成し、分極方向が反対となる2つの領域の面積比が、10:8〜10:12となることが好ましい。
これによって、波長変換素子の入・出射面の位置がずれることによる波長許容域の中心波長が変化することを抑制することが可能となる。
また、前記2つの非波長変換領域のうち、前記レーザ光源に近い側に配置された非波長変換領域の長さをd1とし、前記レーザ光源から遠い側に配置された非波長変換領域の長さをd2とすると、d1>d2を満たすことが好ましい。
上記の構成は、例えば、波長変換から出射する波長変換光(第2高調波)のロスを低減し、出力をより高める目的の使用に適する。すなわち、非波長変換領域の長さd1を長くすることによって、端面研磨によって波長変換領域と基本波レーザ光との相互作用長が変化する確率が低くなり、より安定した性能の波長変換素子が得られる。しかしながら、出射側の非波長変換領域の長さd2を長くすると、出射した波長変換光にロスが多く生じてしまうので、長さd2をd1よりも短くすることで、素子性能の安定性と波長変換光のロス低減を両立することが可能になる。
また、前記2つの非波長変換領域のうち、前記レーザ光源に近い側に配置された非波長変換領域の長さをd1とし、前記レーザ光源から遠い側に配置された非波長変換領域の長さをd2とすると、d1<d2を満たすことが好ましい。
上記の構成は、例えば、波長変換素子に入射する基本波レーザ光のパワーが比較的大きい場の使用に適する。すなわち、基本波レーザ光のパワーが大きい場合、長さd1の非波長変換領域において、基本波レーザ光が多く吸収され、熱レンズ効果によってビーム品質が低下するケースが考えられる。そのため、基本波レーザ光のパワーが大きいことが予想される場合には、d1をd2よりも短くすることで、ビーム品質の低下を抑制するとともに、波長変換素子の出射側においては非波長変換領域の長さを確保し、素子性能の安定性を確保することが可能になる。
本発明のさらに他の局面に係る波長変換レーザ光源は、前記非波長変換領域に、分極反転構造が形成されており、前記非波長変換領域に入射する光の方向と、前記非波長変換領域に形成された分極反転構造の分極反転壁のなす角度をθ、前記非波長変換領域の幅をd、隣り合う前記分極反転壁の間隔をtとした場合に、t≧dtanθの関係を少なくとも満たすことが好ましい。
上記のように非波長変換領域に、分極反転構造が形成されている場合に、上記の条件式を満たすように分極反転構造を形成することにより、波長変換素子で生成された波長変換光(第2高調波)が非波長変換領域に形成された分極反転構造の分極反転壁を通過しないように、波長変換素子外に出射することができる。よって、非波長変換領域に分極反転構造を形成した場合にも、波長変換素子から出射する波長変換光に与える影響を抑制できる。
本発明のさらに他の局面に係る波長変換レーザ光源は、励起レーザ光源と、基本波レーザ光を生成する固体レーザ結晶を含む一対の共振器と、前記共振器内に前記基本波レーザ光を異なる波長のレーザ光に変換する周期的分極反転構造を備えた波長変換素子と、を備える波長変換レーザ光源であって、前記波長変換素子は、ニオブ酸リチウムを主とする結晶からなり、前記分極反転構造の分極反転軸が、前記基本波レーザ光が前記共振器に入射する光路に対して傾くように形成されており、少なくとも一つの前記分極反転領域の分極反転軸と前記レーザ光の光路とが成す角度が2.9°以上、14.6°以下である。
上記の構成によれば、波長変換素子で発生した波長変換光が再び基本波レーザ光に戻る“逆変換”を効果的に防止することによって、出力安定性を高めることが可能となる。
本発明のさらに他の局面に係る画像表示装置は、複数のレーザ光源と、空間変調素子と、前記レーザ光源から出射する光を前記空間変調素子に導く光学系と、を備え、前記レーザ光源は、少なくとも赤色、緑色および青色の光をそれぞれ出射し、前記レーザ光源のうち、少なくとも緑色の光を出射するものが、上記の何れかの構成の波長変換レーザ光源である。
このように、空間変調素子を用いた画像表示装置において、緑色のレーザ光源として本発明の波長変換レーザ光源の何れかを使用することにより、輝度の安定した高品質の画像表示が可能となる。
本発明のさらに他の局面に係る画像表示装置は、複数のレーザ光源と、前記レーザ光源を走査する走査部と、前記レーザ光源から出射する光を前記走査部に導く光学系と、を備え、前記レーザ光源は、少なくとも赤色、緑色および青色の光をそれぞれ出射し、前記レーザ光源のうち、少なくとも緑色の光を出射するものが、上記の何れかの構成の波長変換レーザ光源である。
このように、走査型の画像表示装置において、緑色のレーザ光源として本発明の波長変換レーザ光源の何れかを使用することにより、輝度の安定した高品質の画像表示が可能となる。
なお、発明を実施するための形態の項においてなされた具体的な実施態様又は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求事項との範囲内で、種々変更して実施することができるものである。
本発明の波長変換レーザ光源は、逆変換による出力変動を抑制することができる。これにより、特に、出力の安定した波長変換レーザ光源が可能となる。
本発明の波長変換レーザ光源を用いることで、小型で低消費電力などのレーザ光を用いた強みを発揮し、出力変動も抑制した画像表示装置が可能となる。