JPWO2011007565A1 - PPARγ阻害剤を用いる動脈瘤の予防および治療 - Google Patents

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直樹 海野
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Abstract

PPARγ阻害剤を有効成分とする動脈瘤予防および/または治療剤を提供する。腹部大動脈瘤壁外膜を構成する線維芽細胞は、血管壁内の循環障害によってPPARγを発現し脂肪細胞様細胞に分化し、血管壁にトリグリセリドを異常蓄積し、血管壁を脆弱化することが新たに見いだされた。PPARγ阻害剤により、これらの因子を綜合的に是正し、動脈瘤の発症、進展或いは破裂を予防し、動脈瘤患者の生命予後の改善をはかることができる。

Description

関連する出願
本出願は,日本特許出願2009−166883(2009年7月15日出願)に基づく優先権を主張しており,この内容は本明細書に参照として取り込まれる。
本発明は、動脈瘤の予防および/または治療に関する。
大動脈瘤は、大動脈の一部が瘤のように異常拡張した状態であり、中でも腹部大動脈瘤(AAA)は、65歳以上の男性の5-10%に見られる疾患である。大動脈瘤は、破裂に至らなければほぼ無症状であり、日常生活に支障はないが、放置すると次第に拡大し、拡大するにつれて破裂しやすくなる。一旦動脈瘤が破裂すると生命の危険があり、その救命率は30-50%とされる。現況では、動脈瘤を治療する内科的治療はなく、一定の大きさを超えたときに、外科手術により瘤部を摘出して人工血管に置き換える治療が唯一の根治的療法である。しかし、高齢者では手術が患者に与える負担が大きいため、より安全な新たな動脈瘤低侵襲治療、特に薬物療法が望まれている。
動脈瘤は、破裂するまではほとんど無症状であるため、動脈瘤に対する有効な治療とは、この破裂を防止し、生命予後を改善することであるといえる。また、破裂の危険性は瘤径が大きくなるほど高まってくる。このため瘤破裂の可能性がほとんどない小径動脈瘤に対しては、それ以上拡大しないような「拡大予防」効果をもつ薬剤が、治療効果をもつと考えられる。
大動脈瘤の予防や内科的治療を発達させるためには、その病態生理を理解することが重要である。大動脈瘤は、遺伝、局所、全身因子が絡み合って進行している。男性、タバコ、高血圧は、腹部大動脈瘤(AAA)の危険因子として特に知られている。近年では、高脂血症とAAAの関連についても報告されている。さらに、コホート研究から、血清コレステロール値を低下させるスタチンの使用により、AAAの進行を抑制できることが示唆されている。また、脂質関連では、AAA破裂死は、血清TG値と強い相関があるとの報告もある(Watt HC et al. Int J Epidemiol 27, 949-952 (1998);非特許文献1)。しかし未だに、これらの臨床的なエビデンスと大動脈瘤進行のメカニズムに結びつく統一した見解はない。
したがって、動脈瘤の瘤径拡大および破裂へと進行する病態機序を解明することにより、動脈瘤の発症や拡大を予防する方法を開発することが求められている。
Watt HC et al. Serum triglyceride: a possible risk factor for ruptured abdominal aortic aneurysm. Int J Epidemiol 27, 949-952 (1998)
本発明は、動脈瘤の予防ならびに治療に有効な薬剤を用いた、動脈瘤の予防および/または治療方法を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、発生した動脈瘤に対する治療全般に関わり、薬物的に瘤の進行を予防することができる動脈瘤予防用および/または治療用薬剤の提供を目的とする。
本発明者らは、瘤化部位の線維芽細胞がPPARγを発現し、脂肪細胞に分化していることを発見し、PPARγ阻害活性を有する物質が動脈瘤予防および/または治療剤として有効であることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、PPARγ阻害活性を有する物質を有効成分とする動脈瘤進行予防および/または治療剤を提供する。本発明においては、好ましくは、動脈瘤は真性大動脈瘤と解離性大動脈瘤とを含む大動脈瘤である。また好ましくは、動脈瘤は腹部大動脈瘤と胸部大動脈瘤を含む大動脈瘤である。
また好ましくは、本発明の動脈瘤予防および/または治療剤は経口投与用に製剤されているか、あるいは、注射用に製剤されている。
別の観点においては、本発明は、動脈瘤進行予防および/または治療剤の候補物質を選択する方法を提供する。この方法は、試験物質をPPARγを発現する細胞と接触させて、PPARγの発現を測定し、そして、試験物質の存在下において、非存在下と比較してPPARγの発現が低い場合に、その試験物質を動脈瘤進行予防および/または治療剤の候補物質として選択する、の各工程を含む。
さらに別の観点においては、本発明は、動脈瘤進行の予防および/または治療を必要とする哺乳動物に、PPARγ阻害活性を有する化合物を投与することにより、動脈瘤進行を予防および/または治療する方法を提供する。また別の観点においては、本発明は、動脈瘤進行の予防および/または治療に使用するための、PPARγ阻害活性を有する化合物を提供する。
本発明にしたがって、PPARγ阻害剤を投与することにより、動脈瘤の発症や拡大を予防し、破裂を防止することができ、このことにより動脈瘤患者の生命予後の改善を図ることができる。
図1は、摘出すべき腹部大動脈部のCT画像、ならびに摘出した大動脈壁組織におけるコレステロールエステル(CE)、トリグリセリド(TG)およびホスファチジールコリン(PC)の分布を示す。 図2は、大動脈壁の腎動脈下部位(infrarenal aortic neck)および瘤化部位(aneurysm sac)の内中膜(intima & media)および外膜(adventitia)における総コレステロール(TC)量およびトリグリセリド(TG)量を示す。 図3は、腎動脈下部位(neck)および瘤化部位(sac)の外膜組織標本の、エラスチカワンギーソン染色およびピクロシリウスレッド染色像、ならびに、線維芽細胞マーカーおよびPPARγ2の局在を示す。 図4は、腎動脈下部位(neck)および瘤化部位(sac)におけるHemB値、栄養血管(vasa vasorum)組織切片染色図および開存率(patency rate)を示す。 図5は、血管壁循環障害モデル動物の血管壁におけるTG量と脂肪細胞数(adipocyte)を示す。 図6は、血管壁循環障害モデル動物にPPARγ阻害薬を投与したときの、TG/PC、TG量および脂肪細胞数を示す。 図7は、血管壁循環障害モデル動物にPPARγ阻害薬を投与したときのTG量を示す。
本発明者らは、有効な動脈瘤の予防ならびに治療用薬剤の開発を目指して、ヒト腹部大動脈瘤に対し質量顕微鏡法を適用した観察や、ラット動物実験モデルを用いた基礎的研究を重ねた結果、動脈壁の脆弱化をもたらす鍵因子として、動脈外膜における線維芽細胞に発現するPPARγを見出した。
PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)は、細胞内のペルオキシゾームの増生を誘導するレセプターとして炭化水素、脂質、タンパク質等の細胞内代謝と細胞の分化に密接に関与している転写因子群である。サブタイプが存在し、本発明に関与しているPPARγ2は、組織のインスリン感受性を亢進させ、糖尿病治療のターゲットの一つとなっているほか、免疫過程への関与も指摘されている。近年のメタボリックシンドロームの重要性が広まる中、現代社会における生活習慣病の改善のターゲットとして期待されている分子の一つである。
多数あるPPARγ作用の中で、本発明において最も注目すべきは、その活性化により細胞機能を脂肪細胞に形質転換させることである。本発明者らは、手術患者の腹部大動脈瘤を質量顕微鏡法で観察し、さらにHE染色等で検討したところ、病変には無数の脂肪細胞が蓄積していることを確認した。インビトロで、線維芽細胞がPPARγを発現し脂肪細胞に分化することから、腹部大動脈瘤の病態にPPARγの関与が考えられた。すなわちPPARγは、動脈壁において血管強度の保持に重要な役割を果たしている外膜の線維芽細胞を脂肪細胞化し、血管壁強度を低下させ、このことにより、瘤径の拡大、破裂へ進行すると考えられる。
次に、本発明者らはこれらの新知見を基にして、PPARγ阻害が生体においてもインビトロと同様に、線維芽細胞の脂肪細胞化を抑制するか否かを、複数の動物モデルにおいて検討した。その結果、PPARγ阻害剤の投与が動脈瘤の予防または治療のための薬物療法として有用であることが強く示唆された。
本発明においては、PPARγの活性を阻害することにより、動脈壁を構成する線維芽細胞の脂肪細胞化を助長する因子の働きを阻害して、直接的に動脈壁の脂肪細胞化を抑制し、このことにより血管壁強度の低下を抑制し、瘤径の拡大、破裂を予防させるものである。
本発明でいう動脈瘤には、通常、動脈瘤といわれる病態を全て含むものである。動脈瘤はその発生部位、その原因、またはその形状により様々に分類され、例えば、発生部位による分類としては、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤を含む大動脈瘤、脳動脈瘤や腎動脈瘤などの内臓動脈瘤または末梢動脈に発生する瘤等が挙げられる。壁構造によっては、真性動脈瘤、解離性動脈瘤、仮性動脈瘤等に分類される。原因による分類としては、動脈硬化性動脈瘤、炎症性動脈瘤、外傷性動脈瘤または細菌性動脈瘤、真菌性動脈瘤、梅毒性動脈瘤に代表される感染性動脈瘤等が挙げられる。形状による分類としては、嚢状動脈瘤と紡錘状動脈瘤等が挙げられる。本発明はこれらのいずれにも特に限定されない。
動脈瘤の予防とは、動脈瘤の瘤破裂の可能性がほとんどない小径動脈瘤に対して、それ以上の拡大を阻止する「拡大予防」を表し、さらに、血管壁の脆弱化を防ぎ動脈瘤の発生を防ぐことも予防に含まれる。
PPARγ阻害活性を有する物質としては、これまでに多くの化合物が同定されており、例えば、GW9662、G3335、BADGE、HX531、βクリプトキサンチン、レチナール、T0070907[2-クロロ-5-ニトロ-N-(4-ピリジル)ベンズアミド]等が挙げられる。
本発明においては、PPARγ阻害活性を有する物質は、単独または溶解剤、増量剤、賦形剤あるいは担体と混合して、注射剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、貼付剤、軟膏剤、スプレー剤、溶液剤、徐放剤等の製剤として用いることができる。賦形剤または担体等の添加剤としては、薬剤学的に許容されるものが選ばれ、その種類および組成は投与経路や投与方法によって決まる。例えば注射剤の場合、一般に食塩、グルコ−ス、マンニト−ル等の糖類が望ましい。経口剤の場合、でんぷん、乳糖、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム等が望ましい。
投与経路は、経口的若しくは注射剤あるいは外用剤等により非経口的に全身性に投与される。また、軟膏剤、溶液剤、貼付剤やスプレー剤等により病変部あるいは病変部近傍局所に直接投与してもよく、カテーテル等により病変部あるいは病変部近傍に遠隔的に投与してもよく、ステントやグラフトあるいは一体化させたステントグラフトに薬剤を結合させてもよい。さらに、病変部あるいは病変部近傍に留置することにより徐放性に投与してもよい。動脈瘤予防剤としては、特に経口投与が好ましい。動脈瘤治療剤としては、その破裂の危険度によって、経口剤のみならず注射剤あるいは薬剤結合ステントグラフト等も望ましい。
本発明にしたがえば、PPARγの発現を指標として、動脈瘤進行予防および/または治療剤の候補物質を選択することができる。まず、試験物質をPPARγを発現する細胞と接触させて、PPARγの発現を測定する。発現は、PPARγをコードする遺伝子の配列に基づいてプローブまたはプライマーを設計し、細胞中のmRNAの量を測定することによって測定することができる。あるいは、PPARγに対する抗体を用いて、細胞中のPPARγ蛋白質の量を測定してもよい。これらの測定方法の原理ならびに手法は、当該技術分野においてよく知られている。試験物質の存在下において、非存在下と比較してPPARγの発現が低ければ、その試験物質は、動脈瘤進行予防および/または治療剤の候補物質であると考えられる。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
以下に本発明を実験例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はその内容に限定されるものではない。
[実施例1]
本発明者らが最近開発した、非標的化メタボローム分子イメージング法であるマトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージング質量分析(matrix-assisted laser desorption/ionization imaging mass spectrometry (MALDI-IMS)を用いて、開腹外科手術(人工血管置換術)を行った腹部大動脈瘤壁の組織標本を観察した。MALDI-IMSを用いて、開腹外科手術を受けた腹部大動脈瘤患者から、腎動脈下から左右の腸骨動脈分岐部までの大動脈壁の代謝物質の分布を調べた。
結果を図1に示す。最も左図はコンピュータ断層撮影法(CT)による画像である。動脈瘤の最大径は、術前の造影CTにて計測した。摘出する標本は、三次元(3D)-マルチディテクター(MD) CTから後述の如くデザインした。すなわち腎動脈下約2cmの部位の非拡張部の大動脈部から動脈瘤壁を含み、左右腸骨動脈分岐部までを、正中線上で短冊状に切除した。切片1は、摘出標本の最も中枢側で、肉眼的には病的な瘤化の見られない大動脈壁である。切片3は、最大瘤径の部位である。切片2は、両者の中間部位である。CT画像の右側は、HE染色と脂肪染色(Sudan III染色)で、MALDI-IMSの組織切片に対応している。
MALDI-IMSを施行し、組織切片の脂質の分子構造を調べると、驚くべき量のm/z879のイオンが動脈瘤壁の外膜に特化して局在していた。他に動脈瘤の瘤壁に限局してこれほど特徴的な物質はなかった。これらの物質はトリグリセリド(TG)であった。最大径(切片3)での879TG (52:2)のイオン強度比率は6.4であり、881TG (52:3)も同様であった。すなわち、瘤壁の中でもとくに腹部大動脈瘤外膜に著明に蓄積していることが明らかになった。このことは、瘤化部位の外膜にTGが特異的に局在することを示す。一方、ホスファチジルコリン(PC)はすべての層に、コレステロールエステル(CE)は内膜に一様に分布していた。このTGの動脈瘤部位に限局した外膜への異常蓄積は、通常の生化学的手法でも確認された。脂質形態を保持した病理所見では、瘤化部位に脂肪滴を含む細胞が多数存在した。
さらに、TGレベルの上昇を定量的に確かめるために、腹部大動脈瘤(AAA)10症例についてTGの定量を行った。結果を図2に示す。最大瘤壁の外膜のTG量は、内中膜の量より6.1倍多かった。腎動脈下の瘤化していない部分では、外膜と内中膜の間に差はなかった。最大瘤壁の外膜は、正常である腎動脈下大動脈壁外膜より5倍TG量が多かった。以上の結果はIMSで得られた結果に一致した。
[実施例2]
瘤化部に脂肪滴を含む細胞が多数存在する機構を明らかにするために、大動脈瘤壁の組織標本を染色した(図3)。外膜をエラスチカワンギーソン染色、ピクロシリウスレッド染色で染めた切片を観察したところ、瘤化していない部位(neck)では膠原線維、弾性繊維の構造が維持されているのに対し、瘤化部位(sac)は弾性線維、膠原線維の構造が破綻した中に脂肪細胞が観察され、膠原線維の面積や弾性繊維数は減少していた。さらに瘤化部位にはPPARγ2を発現している線維芽細胞のマーカー(プロリル-4-ヒドロキシラーゼ)陽性細胞が存在していた。一方、PPARγ2は同じ検体の正常部分の外膜の線維芽細胞には発現していなかった。以上のことから、線維芽細胞が瘤化部位でPPARγを発現し、脂肪細胞化していることが明らかになった。
[実施例3]
MALDI-IMSにて循環障害の指標であるHemB値の計測、外膜領域の循環を担う栄養血管(vasa vasorum)の開存率を計測し、瘤化部での循環障害の有無を検討した。ヘモグロビンを構成する分子であるHemBを、MALDI-IMSによって得られたHemBのイオン強度の積算から求めた。vasa vasorumの開存率は、HE染色で染めた後、血管周囲結合織に囲まれる面積に対する血管内腔の面積の割合によって計測した。結果を図4に示す。HemB値は瘤化部位の方が腎動脈下の瘤化していない部分よりも低値であり、両者の血液循環に違いを認めた。また組織切片上で、栄養血管は瘤化部で血管周囲の著しい線維増生のため、内腔の狭小化や閉塞している所見を認めた。その開存率は、腎動脈下部位で95%、瘤化部位で27%と、瘤化部位で有意に低下していた。以上のことから、脂質蓄積は循環障害が起点になることが示唆された。
[実施例4]
血管壁循環障害によって血管壁に脂肪細胞が沈着することを確かめるために、動物モデルを用いた実験を行った。体重700-900gの雄性ラット(Slc: WsRC-+/+;日本エスエルシー株式会社)を麻酔下で頚部正中を切開し、血管周囲の結合組織を剥離して片側の頚動脈を露出した。内外頚動脈分岐より中枢5cmの部位を4−0絹糸で結紮して、末梢側の血管壁循環障害モデルを作成した。14日後、動脈壁を摘出し、血管組織中に含まれるトリグリセリド量を質量顕微鏡、比色法にて測定した(図5)。対象群に比べ、血管壁循環障害モデルでは血管壁の脂質及び脂肪細胞が有意に上昇していた。
実施例1から4によって、血管壁への脂肪細胞沈着は循環障害を起点とした線維芽細胞のPPARγの発現によって生ずることが示された。
[実施例5]
次に、PPARγ阻害薬が血管壁の脂肪細胞沈着抑制効果を示すか否かを調べた。体重700-900gの雄性ラット(Slc: WsRC-+/+;日本エスエルシー株式会社)を麻酔下で頚部正中を切開し、血管周囲の結合組織を剥離して片側の頚動脈を露出した。内外頚動脈分岐より中枢5cmの部位を4−0絹糸で結紮して、末梢側の血管壁循環障害モデルを作成した。PPARγ阻害薬(GW9662、G3335)を手術施行3日前より、動脈を摘出する手術施行14日後まで連日1.5μg投与した。14日後、動脈壁を摘出し、血管組織中に含まれるトリグリセリド量を質量顕微鏡、比色法にて測定した。また血管壁外側に存在する脂肪細胞量を計測した。図6に、GW9662を投与した群(model)と対照群(control)について、TGとPCの比率、血管壁のTG量(TG content)および脂肪細胞の沈着(adipocyte)の結果を示す。図7に、G3335を投与した群(malperfusion)と対照群(contralateral)について、血管壁のTG量(TG content)の結果を示す。CMCはカルボキシメチルセルロース(G3335溶解薬剤)である。
PPARγ阻害薬GW9662の投与群は、血管壁のTG量、脂肪細胞の沈着が有意に減少を示していた。このことは、PPARγの阻害により、大動脈瘤の進行に関与する外膜脂肪細胞沈着を有意に抑制できたことを示す。GW9662、G3335いずれのPPARγ阻害薬とも、血管壁のトリグリセリド量、脂肪細胞沈着を抑制した。
以上の結果から、栄養血管の閉塞による局所循環障害から始まる一連の血管壁の脂肪化という腹部大動脈瘤の成因について、外膜におけるPPARγの発現が腹部大動脈瘤進展に関与するという新しい知見が得られた。従って、PPARγ阻害剤(GW9662、G3335等)を投与することにより血管壁のTGの上昇を抑制でき、腹部大動脈瘤の進展が抑制できると考えられる。

Claims (14)

  1. PPARγ阻害活性を有する化合物を有効成分とする動脈瘤進行予防および/または治療剤。
  2. 動脈瘤が真性大動脈瘤と解離性大動脈瘤とを含む大動脈瘤である、請求項1に記載の動脈瘤予防および/または治療剤。
  3. 動脈瘤が腹部大動脈瘤と胸部大動脈瘤を含む大動脈瘤である、請求項1に記載の動脈瘤予防および/または治療剤。
  4. 経口投与用に製剤されている、請求項1から3のいずれかに記載の動脈瘤予防および/または治療剤。
  5. 注射用に製剤されている、請求項1から3のいずれかに記載の動脈瘤予防および/または治療剤。
  6. 動脈瘤進行予防および/または治療剤の候補物質を選択する方法であって、
    試験物質をPPARγを発現する細胞と接触させて、PPARγの発現を測定し、そして、
    試験物質の存在下において、非存在下と比較してPPARγの発現が低い場合に、その試験物質を動脈瘤進行予防および/または治療剤の候補物質として選択する、
    の各工程を含む方法。
  7. 動脈瘤進行の予防および/または治療を必要とする哺乳動物に、PPARγ阻害活性を有する化合物を投与することにより、動脈瘤進行を予防および/または治療する方法。
  8. 動脈瘤が真性大動脈瘤と解離性大動脈瘤とを含む大動脈瘤である、請求項7に記載の方法。
  9. 動脈瘤が腹部大動脈瘤と胸部大動脈瘤を含む大動脈瘤である、請求項7に記載の方法。
  10. PPARγ阻害活性を有する化合物が経口投与用に製剤されている、請求項7から9のいずれかに記載の方法。
  11. PPARγ阻害活性を有する化合物が注射用に製剤されている、請求項7から9のいずれかに記載の方法。
  12. 動脈瘤進行の予防および/または治療に使用するための、PPARγ阻害活性を有する化合物。
  13. 動脈瘤が真性大動脈瘤と解離性大動脈瘤とを含む大動脈瘤である、請求項12に記載の化合物。
  14. 動脈瘤が腹部大動脈瘤と胸部大動脈瘤を含む大動脈瘤である、請求項12に記載の化合物。
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