(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1おけるプラズモンセンサ1の断面図である。プラズモンセンサ1は、金属層2と、中空領域4を介して金属層2に対向して金属層2の下方に配置された金属層3とを有する。金属層2、3は金、銀等の金属で構成される。中空領域4にはプラズモンセンサ1を使用する際に試料62を充填することができ、実質的に金属層2、3で挟まれている。試料62は、アナライト8と検体9と媒質61とを含有する。媒質61は気体または液体、ゲル等の流体よりなり、アナライト8と検体9とを運ぶ。
金属層2は概ね100nm以下の厚みを有するので単体ではその形状を維持できない。金属層2の上面2Aは保持部5の下面5Bに固定され、その形状が保持される。金属層3は保持部6の上面6Aに固定されて保持される。
金属層2の上面2Aから電磁波91が入射する。電磁波91が可視光である場合には、金属層2が金よりなる場合に35nm〜45nmの範囲内の膜厚を有することが望ましい。この範囲外の膜厚では、表面プラズモン共鳴による電磁波91の反射吸収量が少なくなる。
金属層3が金よりなる場合に、100nm以上の膜厚を有することが望ましい。100nm未満の膜厚では入射された電磁波91(可視光)は金属層3を透過し、表面プラズモン共鳴による電磁波91の反射吸収量が小さくなる。
金属層2、3間の距離が一定に維持されるように、プラズモンセンサ1は金属層2、3を保持する柱または壁を有していてもよい。この構造により、プラズモンセンサ1は中空領域4を実現することができる。
金属層2の上面2Aの上方、すなわち、金属層2について金属層3の反対の方向には電磁波源92が配置されている。電磁波源92は金属層2の上面2A上方から金属層2へ電磁波91を与える。
以下、プラズモンセンサ1の動作について説明する。実施の形態1においては、電磁波91は光であり、電磁波源92は光源である。光源である電磁波源92は、偏光板等の光の偏波を揃える装置を備えていない。図28に示す従来のプラズモンセンサ100と異なり、本発明のプラズモンセンサ1は、P偏光された光だけでなくS偏光された光でも表面プラズモン共鳴を励起させることが可能となる。
金属層2の上方から上面2Aに与えられた電磁波91は金属層2を透過して中空領域4に供給されて金属層3の上面3Aに到達する。電磁波91により金属層2の中空領域4の側である下面2Bに表面プラズモンが発生し、金属層3の中空領域4の側である下面3Bに表面プラズモンが発生する。中空領域4に供給された電磁波91の波数と金属層2の下面2Bに発生する表面プラズモンの波数とが一致した場合には、金属層2の下面2Bに表面プラズモン共鳴が励起される。電磁波91また、電磁波91と金属層3の上面3Aに発生する表面プラズモンの波数とが一致した場合には、金属層3の上面3Aに表面プラズモン共鳴が励起される。
表面プラズモン共鳴を発生させる周波数は、金属層2の形状の主に厚み、金属層3の形状の主に厚み、金属層2、3間の距離、金属層2の誘電率、金属層3の誘電率、金属層2、3間での媒質61の誘電率と、媒質61の誘電率の分布の少なくとも1つを調整することにより制御可能である。
金属層2の上面2Aの上方には光等の電磁波93を検知する検知部94が配置される。電磁波源92から与えられた電磁波91をプラズモンセンサ1が受けた時にプラズモンセンサ1から反射又は輻射された光等の電磁波93を受信する。
実施の形態1において、金属層2の厚みは概ね100nm以下である。金属層2が100nmより厚い場合、電磁波(光)の中の表面プラズモン共鳴の生じる波長成分が、金属層2を透過しなくなるので、金属層2の下面2Bや金属層3の上面3Aで表面プラズモン共鳴が励起されない。
金属層2は概ね100nm以下の厚みを有するので、それ単体では形状を維持できない。保持部5は金属層2の上面2Aに固定され、金属層2の形状を保持す。保持部5は電磁波91を金属層2へ効率良く供給させる必要があるので、電磁波91を減衰させにくい材質で形成される。実施の形態2においては電磁波91は光なので、光を効率的に透過させるガラスや透明プラスチック等の透明な材料で形成される。保持部5の厚みは機械強度的に許容できる範囲で、できるだけ小さい方が好ましい。
金属層3は概ね100nm以上の厚みを有する。金属層3の厚みが100nm未満の場合、金属層2を通過して中空領域4に供給された電磁波の一部が、金属層3を通過して中空領域4の外側へ漏れ出す場合がある。すなわち、本来、表面プラズモン共鳴の励起に利用されるべき電磁波のエネルギーの一部が中空領域4の外へ漏れ出るので、プラズモンセンサ1の感度が低くなる。したがって、金属層2を金属層3よりも薄くすることで、プラズモンセンサ1の感度を高くすることができる。
このような構造により、電磁波源92から供給される光である電磁波91を中空領域4に閉じ込めて表面プラズモン共鳴を励起することができると共に、表面プラズモンと電磁波91が結合することで表面プラズモンポラリトンが励起され、それにより供給された電磁波91が吸収され、その周波数の成分だけ電磁波93として輻射されず、その成分の他の成分が電磁波93として輻射される。
金属層3の下面3Bは保持部6の上面6Aに固定され、その形状を保持される。
プラズモンセンサ1の感度を高くするためには、供給される光等の電磁波91を金属層3に透過させないことが好ましい。したがって、保持部6は光等の電磁波91を遮断する材料より形成されることが好ましい。例えば、保持部6は100nm以上の厚みを有する金属や半導体より形成される。
保持部6の厚みは保持部5の厚みよりも大きいことが好ましい。これにより、プラズモンセンサ1自体の機械的強度を向上させることができ、プラズモンセンサ1の使用時に形状変形等が生じ、センシング特性が変化してしまうことを防止できる。
プラズモンセンサ1においては、金属層2の中空領域4の側である下面2Bに複数のリガンド7が配置されている。金属層3の中空領域4の側である上面3Aにリガンド7と同様のリガンド77が配置されていてもよい。もしくは、プラズモンセンサ1では、金属層2の下面2Bにリガンド7が配置されておらず、金属層2、3の下面2Bと上面3Aのうちの金属層3の上面3Aのみにリガンド77が配置されていてもよい。
アナライト8を含有する試料62がリガンド7に触れると、リガンド7とアナライト8とが特異的に結合する。図2はリガンド7とアナライト8の特異的結合を示す概念図である。試料62は非特異的検体である検体9と検体であるアナライト8とを含有している。抗体であるリガンド7は非特異的検体9とは特異的に結合せず、アナライト8のみと選択的に特異的結合を起こす。
図3Aと図3Bはプラズモンセンサ1の動作を示す断面図である。図3Aに示すように、真空または空気が充填された中空領域4に、検体9とアナライト8とを含有する試料62が充填されると、中空領域4の状態、特に誘電率が変化する。これにより、プラズモンセンサ1の表面プラズモン共鳴が発生する周波数である共鳴周波数が変化する。
次に、図3Bに示すように、金属層2の下面2Bに配置されたリガンド7とアナライト8とが特異的に結合すると、金属層2の下面2Bの近傍の有機物の厚み及び比誘電率が変化するので、金属層2、3間の媒質61の誘電率、及び、誘電率の分布が変化する。このように、プラズモンセンサ1の共鳴周波数がリガンド7とアナライト8との特異的結合の進行と共に変化する。したがって、共鳴周波数の変化を検知することにより、リガンド7とアナライト8との特異的結合の状態、具体的には、特異的結合の強さ、結合スピード等を検知することができる。
リガンド7とアナライト8との特異的結合によりプラズモンセンサ1の表面プラズモン共鳴を発生させる周波数の変化について、以下、電磁界シミュレーションを用いて説明する。図4Aと図4Bはそれぞれプラズモンセンサ1の電磁界シミュレーションの解析モデル501、502の概念図である。
図4Aに示す解析モデル501では、金属層2は銀により構成されて30nmの厚みを有する。金属層3は銀により構成されると共に130nmの厚みを有する。金属層2、3間の距離が160nmであり、中空領域4には比誘電率が1の空気が充填されている。金属層2の上面2Aの上方と金属層3の下面3Bの下方は空気で充填されている。解析モデル501では、金属層2、3と中空領域4が無限に続いている。
図4Bに示す解析モデル502では、図4Aに示す解析モデル501での金属層2の下面2Bにアナライト8が配置されている。アナライト8の厚みは10nmであり、比誘電率は3.0である。アナライト8と金属層3の上面3Aとの間の距離は150nmであり、中空領域4には比誘電率が1.0の空気が充填されている。金属層2の上面2Aの上方と金属層3の下面3Bの下方は空気で充填されている。解析モデル502では、金属層2、3と中空領域4が無限に続いている。
金属層2、3を構成する銀の誘電関数は「Handbook of Optical Constants of Solids」(Palik,Edward D. in 1998)に記載された屈折率の実験データを変換して作成できる。図4Aと図4Bに示す解析モデル501、502においては、簡易にシミュレーション解析を行うために、リガンド7をモデル化していない。
解析モデル501、502の金属層2の上面2Aの法線方向501Nに対して45度の仰角ANから電磁波591を与え、−45度の仰角で金属層2の上面2Aから輻射される電磁波593を検知することにより電磁界シミュレーション解析を行った。
図5は電磁界シミュレーションの結果を示す。図5において、横軸は電磁波591の波長を示し、縦軸は電磁波593の電力の電磁波591の電力に対する比である反射率を示す。図5は解析モデル501、502のそれぞれの反射率R501、R502を示す。
図5に示すように、反射率R501の値は電磁波591の波長が340nm付近で急激に局所的に小さくなる。反射率が小さくなる電磁波の波長である共鳴波長L501付近では、中空領域4に供給された電磁波の波数と金属層2の下面2Bに発生する表面プラズモンの波数とが一致しており、金属層2の下面2Bには表面プラズモン共鳴が励起さていれる。同様に、共鳴波長L501付近で、中空領域4に供給された電磁波591の波数と金属層3の上面3Aに発生する表面プラズモンの波数とが一致するので、金属層3の上面3Aには表面プラズモン共鳴が励起されている。
また、図5に示すように、図4Bに示す解析モデル502の反射率R502の値が局所的に小さくなる共鳴波長L502は解析モデル501の共鳴波長L501より約70nm長い。図4Bに示す解析モデル502の金属層2の下面2Bに付加されたアナライト8の比誘電率の値により、金属層2の下面2Bで励起される表面プラズモン共鳴を発生させる共鳴周波数が低くなるように変化し、結果、共鳴波長が約70nm長くなっている。
このように、図5に示すシミュレーション解析の結果は、金属層2の下面2Bで表面プラズモン共鳴が励起されることを示す。また、金属層2の下面2B近傍の媒質の状態の変化は、共鳴周波数(共鳴波長)の変化を測定することで検知可能である。
プラズモンセンサ1においては、共鳴周波数の変化だけでなく、反射率の変化も検知し、これら2つの指標を同時に使用して金属層2の下面2B近傍の媒質の状態の変化を検出でき、高い検出能力を発揮する事が可能である。中空領域4の媒質の状態とは、中空領域4の一部又は全部に充填されている物質の状態、例えばその物質自体の組成や、物質の中空領域4での分布を指している。
プラズモンセンサ1において、アナライト8を含有する試料62の媒質61は気体でも液体でもよいが、気体の媒質61を含む気体の試料63は中空領域4へ容易に挿入できる。気体の試料62は圧縮されて中空領域4へ挿入しても良い。これにより、試料62でのアナライト8の濃度を増すことができ、リガンド7とアナライト8との特異的結合を高速化させることが可能となり、プラズモンセンサ1の感度を高くすることができる。
プラズモンセンサ1を冷蔵庫等の食料品の保管庫内に設置し、食料品の状態管理に利用しても良い。例えば、食料品の腐敗を自動検知し、管理者へ通知するシステムにプラズモンセンサ1を適用できる。具体的には、保管庫に設置されたプラズモンセンサ1の金属層2の上面2Aの上方から金属層2へ発光ダイオード等の発光素子よりなる電磁波源92から電磁波91である光を常時又は一定間隔で供給する。プラズモンセンサ1から輻射された電磁波93である光をフォトダイオード等の受光素子よりなる検知部94で検知し、反射率を算出して監視する。反射率の値が所定範囲外となった時点で、このシステムが自動的に使用者へ通知する事で、使用者は、食料品の状態変化を直接的に逐次確認する事も無く、把握する事が可能となる。この場合も、保管庫内の気体を圧縮して中空領域4へ挿入する事により、プラズモンセンサ1の感度を高くすることができる。
また、人の吐いた息を中空領域4に注入することでプラズモンセンサ1を肺がんセンサとして利用できる。更に、加湿機や空気清浄機、更にはエアコンの空気吸引口付近にプラズモンセンサ1を配置し、室内のウィルスチェックに利用してもよい。尚、この場合、吸引した空気を加湿用に用意した水分の一部、もしくは除湿して吸い込んだ水分の一部に流し込み、その後、プラズモンセンサ1の中空領域4にその水分と共に注入しても、同様の効果を得る事ができる。他にも、洗濯機の浴槽のカビをチェックするために、浴槽内にプラズモンセンサ1を配置してもよい。
図1に示すプラズモンセンサ1では、リガンド7が金属層2の下面2Bに配置されている。実施の形態1におけるプラズモンセンサ1はリガンド7(77)を備える必要はない。リガンド7が金属層2の下面2Bまたは金属層3の上面3Aに配置されていないプラズモンセンサ1の中空領域4に任意の気体を挿入し、共鳴周波数の変化、共鳴波長の変化、または共鳴周波数の絶対値を測定することで検知したい気体の有無を検知することができる。これにより、リガンド7(77)を金属層2、3の表面に配置する工程を削除する事ができ、プラズモンセンサの製造効率の向上を図ることが可能となる。
検知したい気体と化学反応する物質をリガンド7(77)の代わりに金属層2の下面2Bまたは金属層3の上面3Aに配置してもよい。このプラズモンセンサでは、金属層2の下面2Bまたは金属層3の上面3Aでの化学的変化を共鳴周波数の変化や共鳴波長の変化により検知することができる。
図6は、プラズモンセンサ1の他の電磁気シミュレーションモデル503の概念図である。図6において、図4Aと図4Bに示す解析モデル501、502と同じ部分には同じ参照番号を付す。モデル503では、リガンド7は金属層2の下面2Bには配置されておらず、金属層3の上面3Aにリガンド77が配置されている。
図6に示す解析モデル503では、金属層3の上面3Aに配置されたアナライト8は厚み10nm、比誘電率3.0を有する。中空領域4の厚みは150nmであり、比誘電率1.0を有する。
解析モデル503の金属層2の上面2Aの法線方向501Nに対して45度の仰角ANから電磁波591を与え、−45度の仰角で金属層2の上面2Aから輻射される電磁波593を検知することにより電磁界シミュレーション解析を行った。
図7に図4Aと図6に示す解析モデル501、503の電磁界シミュレーションの解析結果を示す。図7において、横軸は電磁波591の波長を示し、縦軸は電磁波593の電力の電磁波591の電力に対する比である反射率を示す。図5は解析モデル501、503のそれぞれの反射率R501、R503を示す。
図7に示すように、金属層3の上面3Aにアナライト8が付着した場合にも共鳴波長の変化が生じている。このことは、金属層3の上面3Aにおいても、表面プラズモン共鳴が発生していることを示している。したがって、リガンド7は金属層2の下面2Bには配置されておらず、金属層3の上面3Aにリガンド77が配置されていてもよく、プラズモンセンサ1の設計自由度を向上させることができる。
プラズモンセンサ1は、金属層2の下面2Bに配置されたリガンド7と、金属層3の上面3Aに配置されたリガンド77とを備えていてもよい。これにより、金属層2の下面2Bと金属層3の上面3Aとで発生している表面プラズモン共鳴を共に利用し、より感度の高いプラズモンセンサ1を実現することが可能となる。
図8は、図4Aに示す解析モデル501における中空領域4の比誘電率が2.0である解析モデル504と、解析モデル501の解析結果を示す。図8において、横軸は電磁波591の波長を示し、縦軸は電磁波593の電力の電磁波591の電力に対する比である反射率を示す。解析モデル504は反射率R504を有する。
図5および図7、図8に示すように、中空領域4が真空や空気の場合であっても、すなわち高い誘電率を有する固体の誘電体で充填されていない場合であっても、表面プラズモン共鳴が発生する。
プラズモンセンサ1は、金属層2、3間に設けられた中空領域4は固体の誘電体で充填されていない。これにより、アナライト8を含む試料62を中空領域4に注入することでリガンド7(77)とアナライト8とを接触させることが可能となる。
また、図8に示すように、中空領域4の媒質61を空気または真空として比誘電率を低く設定すると、表面プラズモン共鳴の共鳴波長を短くすることができる。すなわち、同一の共鳴周波数を得るためには、中空領域4を空気または真空で充填したセンサ1は、任意の誘電体を充填した中空領域を有するプラズモンセンサと比較して、金属層2、3間の間隔を大きくすることが可能となる。
故に、本願のプラズモンセンサ1のように、中空領域4を比誘電率が概ね1となる空気または真空、若しくは比誘電率の小さな気体で充填することにより、固体の誘電体等を金属層2、3間に充填するプラズモンセンサと比較して、金属層2、3間の間隔を広げることが可能となる。したがって、中空領域4の厚みを大きくすることができるので、アナライト8を含有する試料62を中空領域4に容易に挿入することができる。
また、共鳴周波数において、金属層2、3間の電磁界強度が高次モードで分布していてもよい。すなわち、金属層2、3間に発生する電磁界強度が複数の箇所で局所的に大きくなっていても。図4Aに示す解析モデル501での中空領域4の厚みを10μmに設定した解析モデル505の電磁界シミュレーション結果を図9Aと図9Bに示す。
図9Aに示すモデルの共鳴波長は2883nmであり、図9Aは中空領域4の電界強度の分布を表わしている。図9Aにおいては、説明のために、中空領域4のすべての領域における電界分布は示しておらず、一部の領域95での電界分布のみを表わしている。
図9Aにおいて、金属層2、3間に存在する電界強度は、金属層2から金属層3に向かう位置で周期的に局所的な変化を繰り返しており、金属層2、3の近傍の領域では電界強度は小さい。図9Aでは、金属層2、3間の複数すなわち5つの領域で電界強度が局所的に大きく、基本モードより高い高次モードで電磁界強度が分布している。
金属層2、3間の電磁界強度が高次モードで分布することにより、金属層2、3の間隔を広げることができ、アナライト8が含有されている試料62を中空領域4に容易に挿入することができる。
図9Aに示す解析モデル505では中空領域4の比誘電率は1である。解析モデル505と、解析モデル505の中空領域の比誘電率が1.2である解析モデル506の電磁界シミュレーションの結果である反射率R505、R506を図9Bに示す。
図9Bに示すように、解析モデル505、506共に多数の共鳴波長で表面プラズモン共鳴が発生している。また、中空領域4の媒質の状態すなわち比誘電率を変えることで共鳴波長が変化する。
このように、中空領域4を厚くした場合に、金属層2、3間に高次モードの電磁界強度分布が発生し、表面プラズモン共鳴が高次の周波数で発生する。
プラズモンセンサ1は、高次モードの周波数で発生する表面プラズモン共鳴を利用して、中空領域4の媒質61の状態の時間的変化を検知することもできる。これにより、金属層2、3間の間隔を広げられるので、アナライト8が含有された試料62を中空領域4に挿入することが容易となる。
次に、プラズモンセンサ1において高次モードの次数を導出する方法を説明する。
アナライト8が含まれていない屈折率nの試料62が中空領域4に配置される前の金属層2、3間の電磁界強度がm次モードで分布すると、1以上の整数aを用いて式1が成り立つ。
(1/2)×λ×m=(1/2)×(λ/n)×(m+a)…(式1)
式1において、λは、中空領域4に媒質61が配置される前において、金属層2の上面2Aの上方から供給される電磁波91の中空領域4での波長である。
式1の左辺は、媒質61が中空領域4に配置される前での金属層2、3との距離を示す。つまり、媒質61が中空領域4に配置される前では、金属層2、3間にm次モードの電磁界強度分布が発生するので、金属層2、3間の距離は式1の左辺で表わされる。
式1の右辺は、媒質61が中空領域4に配置された後での金属層2、3間の距離を示す。つまり、屈折率nを有する媒質61が中空領域4に配置されると、電磁波91の中空領域4での波長λが1/nに短縮される。したがって、金属層2、3間には媒質61が配置される前と比較して、より多くの電磁界強度の腹と節が発生する。この時の電磁界強度分布が(m+a)次モードである場合に、金属層2、3間の距離は式1の右辺で表される。式1の左辺と右辺は共に金属層2、3間の距離を表すので等しい。整数aは、金属層2、3間において媒質61(アナライト8の含まれていない試料62)の有無で変化する電磁界強度分布のモードの次数の差を表わしている。
式1から高次モードの次数mと屈折率nと整数aは式2を満たす。
m=a/(n−1)…(式2)
プラズモンセンサ1の共鳴波長の変化は使用者の目により検知する、すなわちプラズモンセンサ1からの反射光の色により共鳴波長の変化を検知することができる。試料62がアナライト8を含有するか否かを判定するためには、アナライト8を含有しない試料62である媒質61のみが中空領域4に配置された場合にはプラズモンセンサ1からの反射光の色は変化せず、アナライト8を含有する試料62が中空領域4に配置された場合のみに反射光の色が変化する必要がある。すなわち、アナライト8を含有しない試料62つまり媒質61が中空領域4に配置されるか否かでプラズモンセンサ1からの反射光の色が変化することを防止する必要がある。
例えば、アナライト8の含まれていない試料62すなわち媒質61が水である場合の次数mを以下のように求める。水の屈折率nは1.3334である。整数aを1と設定すると式2よりm=2.9994≒3となる。
可視光帯とは人間の目で見える光の波長帯であり、380nm以上750nm以下の波長の範囲である。ここで、例えば、可視光帯である青色の450〜495nmの波長帯内の周波数fbで、プラズモンセンサ1に表面プラズモン共鳴を起こさせるようにプラズモンセンサ1を設計する。
中空領域4に水が配置されていない状態すなわち空気が配置されている状態において、中空領域4に周波数fbで3次モード(上記の計算結果がm≒3であったため)の電磁界分布が発生するように、金属層2、3間の距離を決定する。プラズモンセンサ1は、概ね、周波数fbで表面プラズモン共鳴が発生する。可視光帯全域の周波数成分を含む白色光が金属層2の上面2Aに入射すると、上面2Aで反射して上方へ放射される反射光は、入射した白色光の内、青色の光が特に減衰する。次に、アナライトの含まれていない試料62すなわち媒質61の水のみを中空領域4に配置した時、金属層2、3間には、周波数fbにおいて概ね4次モード(m+a=2.9994+1≒4)の電磁界分布が発生する。つまり、アナライト8の含まれていない試料62(媒質61)を中空領域4に配置しても、プラズモンセンサ1は周波数fbで表面プラズモン共鳴を生じるので、金属層2の上方へ向けて反射される光の色は概ね変化しない。これにより、アナライト8の含まれていない試料62(媒質61のみ)が中空領域4に配置されるか否かで、プラズモンセンサ1の共鳴波長が大きくずれる事を防止できる。
尚、上記の条件において、mは3に近似しているが、導出されるmが整数となることは稀であるので、導出されたmの値を四捨五入して得られた整数値を整数mとして設定する。
また、アナライト8の含まれていない試料62すなわち媒質61が中空領域4に配置されていない状態から、媒質61のみが中空領域4に配置された状態へ変化させた時、表面プラズモン共鳴が生ずる波長が、波長帯A(380nm以上450nm以下)、波長帯B(450nm以上495nm以下)、波長帯C(495nm以上570nm以下)、波長帯D(570nm以上590nm以下)、波長帯E(590nm以上620nm以下)、波長帯F(620nm以上750nm以下)のいずれかの所定の波長帯内でのみ変化するように、金属層2、3間の距離を設計してもよい。具体的には、上記と同様に、金属層2、3間に発生する電磁界分布モードの次数を設定する。
波長帯A(380nm以上450nm以下)は可視光帯の紫色に相当する波長帯であり、波長帯B(450nm以上495nm以下)は可視光帯の青色に相当する波長帯であり、波長帯C(495nm以上570nm以下)は可視光帯の緑色に相当する波長帯であり、波長帯D(570nm以上590nm以下)は可視光帯の黄色に相当する波長帯であり、波長帯E(590nm以上620nm以下)は可視光帯の橙色に相当する波長帯であり、波長帯F(620nm以上750nm以下)は可視光帯の赤色に相当する波長帯である。これらの波長帯のうちの1つの波長帯内で反射光の波長が変化することで、使用者は故に、アナライト8の含まれていない試料62の有無により、プラズモンセンサ1からの反射光の色が大きく変化する事を防止することができ、人の視覚により簡易にアナライト8の有無のみを検知でき抗原抗体反応を検知できるプラズモンセンサ1を実現できる。
尚、金属層2、3間の概ねすべての領域(リガンド7が設けられていない領域も含む)で中空領域4が設けられてもよい。また、金属層2、3の間で金属層2、3を支える柱や壁以外の領域(リガンド7が設けられていない領域を含む)に中空領域4が設けられていてもよい。また、金属層2の下面2Bと金属層3の上面3Aに腐食防止用コーティング層が塗布されていてもよい。その場合には、金属層2、3間の腐食防止用コーティング層以外の領域(腐食防止用コーティング剤の金属層2または金属層3と接していない表面に配置されたリガンド7の領域は含まない)に中空領域4を設けてもよい。試料62を挿入可能な領域が中空領域4であり、中空領域4が金属層2、3間の一部領域に確保されている。
金属層2、3間の間隔Lは、表面プラズモン共鳴の生ずる周波数Fにより以下の式3で表される。
L=N×C/(2×F)×cosθ…(式3)
式3において、NはN>0の整数であり、Cは金属層2、3間における実効的な光速であり、θは中空領域4において、金属層2、3の面2B,3Aに垂直な法線に対する電磁波の入射角度である。
なお、式3は金属層2、3の複素屈折率を考慮していないので、誤差を含む。
金属層2、3間に中空領域4以外の媒質(例えば、上記の柱や壁等)が存在する場合には、式3のCの値は、これらの媒質を考慮した値となる。
金属層2を透過して中空領域4に侵入した電磁波は金属層3の上面3Aで反射され、図9Bに示すように中空領域4中に電磁界の強度の定在分布が発生している。中空領域4に発生する定在分布した電磁界の一部をエネルギー源として、表面プラズモン共鳴が発生している。
尚、中空領域4の媒質61の状態を時間的に変化させることにより、共鳴波長が、可視光帯以外の波長帯である不可視光帯から可視光帯へ変化、又は、可視光帯から不可視光帯へ変化するように、プラズモンセンサ1が設計されてもよい。
例えば、リガンド7とアナライト8との特異的結合により中空領域4の媒質の状態が変化し、共鳴波長が不可視光帯から可視光帯へ変化すると、人の目で検知できる可視光帯の光の色の一部が表面プラズモン共鳴によりプラズモンセンサ1から反射または輻射されにくくなる。この結果、リガンド7とアナライト8との特異的結合などを人の目により検知することが可能となり、複雑で大規模な装置を具備しない簡易なプラズモンセンサ1を実現できる。
尚、上記において、プラズモンセンサ1に供給する電磁波は、少なくとも可視光帯の一部の波長を含む。具体的には、白色光である太陽光や照明の光をプラズモンセンサ1に当てて、その反射波または輻射波を人間の視覚にて検知する構成が考えられる。これにより、リガンド7とアナライト8との特異的結合などを人の目により簡易に検知することが可能となる。
尚、プラズモンセンサ1へ電磁波を供給する角度(例えば、金属層2への電磁波の入射角度)が変化すると共鳴波長も変化する。このため、プラズモンセンサ1を手で保持し、当該プラズモンセンサ1の金属層2側に太陽光を当てて、リガンド7とアナライト8との特異的結合を検知する場合には、特異的結合が起こる前の状態において、プラズモンセンサ1への電磁波の供給する角度を可能な範囲で変化させても、共鳴波長が不可視光帯の領域内に収まるように、又は、可視光帯の同一色の波長帯域内に収まるようにプラズモンセンサ1が設計されていてもよい。これによりプラズモンセンサ1への電磁波の供給角度を可能な範囲で変化させても、反射光の色が変化しないプラズモンセンサを実現できる。尚、特異的結合が起こる前の状態において、プラズモンセンサ1への電磁波の供給角度を可能な範囲で変化させても、共鳴波長が不可視光帯の領域内に収まるように、又は、可視光帯の同一色の波長帯域内に収まるようにプラズモンセンサ1を設計する為には、保持部5、6の材質や、金属層2、3の厚みや材質、金属層2、3間の距離等を調整する事により設計される。
尚、上記においては、プラズモンセンサ1の共鳴波長を不可視光帯から可視光帯へ変化、又は、可視光帯から不可視光帯へ変化させる。この変化が図28に示す従来のプラズモンセンサ100で起こるようにプラズモンセンサ100を設計してもよい。具体的には、図28に示したプリズム101を有する従来のプラズモンセンサ100の共鳴波長を、リガンドとアナライトの特異的結合の前後で、不可視光帯から可視光帯へ変化、又は、可視光帯から不可視光帯へ変化させた構成としてもよい。また、局在プラズモンを用いたセンサに同様の思想を適用してもよい。これにより、リガンドとアナライトとの特異的結合などを人の目により簡易に検知することが可能となる。
また、中空領域4での媒質61の状態を時間的に変化させることにより、表面プラズモン共鳴が生ずる波長が、不可視光帯から450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域へ変化、または、450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域から不可視光帯へ変化するように、本発明に係るプラズモンセンサ1が設計されても良い。
ここで、450nm以上570nm以下の波長の電磁波は、青色の光(波長:450nm以上495nm未満)と緑色の光(波長:495nm以上570nm以下)とで構成されており、620nm以上750nm以下の波長の電磁波は、赤色の光に相当する。
人間の網膜の中心部に密に分布する錐体細胞は、赤の光を吸収する錐体と、緑の光を吸収する錐体と、青の光を吸収する錐体の3つの錐体により構成されている。このことから、人が感じる事ができる光は、赤、青、緑の三色のみとなる。
このように、人の目の感度が極めて高い青と緑と赤の光を利用することで、人の視覚を使って検知することが容易なプラズモンセンサを実現することが可能となる。
例えば、リガンド7とアナライト8との特異的結合により中空領域4の媒質状態が変化し、共鳴波長が不可視光帯から450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域へ変化すると、人の視覚の最も感度の高い青色又は緑色又は赤色の内の1つの光の色が表面プラズモン共鳴によりプラズモンセンサ1から反射または輻射されにくくなる。この結果、リガンド7とアナライト8との特異的結合などを人の目により感度よく検知することが可能となる。
また、この場合も、プラズモンセンサ1へ電磁波を供給するときの供給角度(例えば、金属層2への電磁波の入射角度)が変化すると共鳴波長も変化する。このため、プラズモンセンサ1を手で保持し、当該プラズモンセンサ1の金属層2側に太陽光を当てて、リガンド7とアナライト8との特異的結合を検知する場合には、特異的結合が起こる前の状態において、プラズモンセンサ1への電磁波の供給角度を可能な範囲で変化させても、共鳴波長が不可視光帯の領域内に収まるように、又は、可視光帯の同一色の波長帯域内に収まるようにプラズモンセンサ1が設計されていてもよい。これによりプラズモンセンサ1への電磁波の供給角度を可能な範囲で変化させても、反射光の色が変化しないプラズモンセンサを実現できる。
尚、上記において、プラズモンセンサ1に供給する電磁波は、少なくとも青色、緑色、赤色の光の波長を含んだものとなっている。これにより、上記のとおり、リガンド7とアナライト8との特異的結合などを人の目により検知することが可能となる。
また、上記においては、プラズモンセンサ1の共鳴波長を不可視光帯から450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域へ変化、または、450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域から不可視光帯へ変化させる。この変化を従来のプラズモンセンサ100に適用しても良い。具体的には、図28に示すプリズム101を有する従来のプラズモンセンサ100の共鳴波長を、リガンドとアナライトの特異的結合の前後で、不可視光帯から450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域へ変化、または、450nm以上570nm以下または620nm以上750nm以下の領域から不可視光帯へ変化させた構成としてもよい。また、局在プラズモンを用いたセンサにこの変化を適用してもよい。これにより、リガンドとアナライトとの特異的結合などを人の目により簡易に検知することが可能となる。
更に、中空領域4での媒質61状態を時間的に変化させることにより、表面プラズモン共鳴が生ずる波長が、450nm以上495nm未満の領域から495nm以上580nm以下の領域へ変化するように、プラズモンセンサ1が設計されても良い。
波長が450nm以上495nm未満の領域の電磁波は、可視光線(人間の目で見える波長の光)の中の青色の光が該当し、495nm以上570nm以下の領域の電磁波は、可視光線の中の緑色の光が該当する。
具体的な一例としては、プラズモンセンサ1の金属層2の上面2Aの上方から、多数の可視光線が含まれた太陽光または照明光を投射した時に、当該プラズモンセンサ1からの反射光または輻射光を人の目で検知するものが想定される。当該プラズモンセンサ1の中空領域4の媒質変化前には、青の光に相当する450nm以上495nm未満の波長で表面プラズモン共鳴が発生するため、多数の可視光線が含まれた太陽光または照明光から共鳴波長に相当する青の光のみが弱められた電磁波(光)が、プラズモンセンサ1から反射または輻射されることとなる。そして、そのような電磁波(光)を人は視認することとなる。
次に、プラズモンセンサ1の中空領域4の媒質61の変化後には、緑の光に相当する495nm以上580nm以下の波長で表面プラズモン共鳴が発生するため、多数の可視光線が含まれた太陽光または照明光から共鳴波長に相当する緑の光のみが弱められた電磁波(光)が、プラズモンセンサ1から反射または輻射されることとなる。そして、そのような電磁波(光)を人は視認することとなる。人の目は、青、緑の光に対して、高い感度を持っているため、中空領域4の媒質変化により、共鳴波長が青の光の領域から緑の領域の光へ変化した事を認知することが容易である。故に、受光部のような機器を用いず、人の視覚のみで検知可能なプラズモンセンサを実現できる。
尚、上記においては、電磁波として太陽光、照明光を用いた例を示したが、これに限る必要はなく、少なくとも青と緑の光を含んでいればよい。
更に、上記において用いた青と緑の光の波長領域が隣り合っているため、中空領域4の媒質変化による共鳴波長の変化量を小さくすることが可能であり、アナライト8等の比誘電率が低いものに対しても使用できるプラズモンセンサを実現することが可能となる。
尚、上記においては、本発明のプラズモンセンサ1の共鳴波長を450nm以上495nm未満の領域から495nm以上580nm以下の領域へ変化させた事例を示したが、この設計思想の適用範囲を本発明のプラズモンセンサ1のみに限る必要はなく、従来のプラズモンセンサ100等に当該思想を適用しても良い。具体的には、図28に示したプリズム101を有する従来のプラズモンセンサ100の共鳴波長を、リガンドとアナライトの特異的結合の前後で、450nm以上495nm未満の領域から495nm以上580nm以下の領域へ変化させてもよい。また、局在プラズモンを用いたセンサに同様の思想を適用してもよい。これにより、リガンドとアナライトとの特異的結合などを人の目により簡易に検知することが可能となる。
また、中空領域4の媒質61の状態を時間的に変化させることにより、表面プラズモン共鳴が生ずる波長が、波長帯A(380nm以上450nm以下)、波長帯B(450nm以上495nm以下)、波長帯C(495nm以上570nm以下)、波長帯D(570nm以上590nm以下)、波長帯E(590nm以上620nm以下)、波長帯F(620nm以上750nm以下)のうちのいずれかの波長帯から他の波長帯へ変化するように、本発明に係るプラズモンセンサ1が設計(具体的には、プラズモンセンサ1の金属層2と金属層3との間隔や、金属層2の厚みなどの設計)されても良い。中空領域4の媒質状態が時間的に変化した場合(具体的には、中空領域4においてリガンドとアナライトとが特異的結合をした場合)、特異的結合前には共鳴波長が波長帯A〜Fの内の1つの帯域内にあったのが、特異的結合後には他の帯域内へ移動するため、リガンドとアナライトとの特異的結合などを人の目により簡易に検知することが可能となる。
尚、上記においては、本発明のプラズモンセンサ1の共鳴波長を波長帯A(380nm以上450nm以下)、波長帯B(450nm以上495nm以下)、波長帯C(495nm以上570nm以下)、波長帯D(570nm以上590nm以下)、波長帯E(590nm以上620nm以下)、波長帯F(620nm以上750nm以下)のいずれかの波長帯から他の波長帯へ変化させる。この変化を従来のプラズモンセンサ100に適用しても良い。具体的には、図28に示すプリズム101を有する従来のプラズモンセンサ100の共鳴波長を、リガンドとアナライトの特異的結合の前後で、波長帯A(380nm以上450nm以下)、波長帯B(450nm以上495nm以下)、波長帯C(495nm以上570nm以下)、波長帯D(570nm以上590nm以下)、波長帯E(590nm以上620nm以下)、波長帯F(620nm以上750nm以下)のいずれかの波長帯から他の波長帯へ変化させてもよい。また、局在プラズモンを用いたセンサに同様の変化を適用してもよい。これにより、リガンドとアナライトとの特異的結合などを人の目により簡易に検知することが可能となる。
更に、中空領域4での媒質61の状態を時間的に変化させることにより、表面プラズモン共鳴が生ずる波長が、不可視光帯から波長帯A(380nm以上450nm以下)、波長帯B(450nm以上495nm以下)、波長帯C(495nm以上570nm以下)、波長帯D(570nm以上590nm以下)、波長帯E(590nm以上620nm以下)、波長帯F(620nm以上750nm以下)のいずれかの波長帯へ変化、または、波長帯A、波長帯B、波長帯C、波長帯D、波長帯E、波長帯Fのいずれかの波長帯から不可視光帯へ変化する構成としてもよい。中空領域4での媒質61の状態が時間的に変化した場合(具体的には、中空領域4においてリガンドとアナライトとが特異的結合をした場合)、変化の前後の少なくとも一方の状態においては、波長帯A、波長帯B、波長帯C、波長帯D、波長帯E、波長帯Fのいずれかの波長帯の反射光(プラズモンセンサ1からの反射光)は表面プラズモン共鳴により減衰する。このため、リガンドとアナライトとの特異的結合などを、人の目により簡易に検知することが可能となる。
尚、上記においては、プラズモンセンサ1の共鳴波長を不可視光帯から波長帯A、波長帯B、波長帯C、波長帯D、波長帯E、波長帯Fのいずれかの波長帯へ変化、または、波長帯A、波長帯B、波長帯C、波長帯D、波長帯E、波長帯Fのいずれかの波長帯から不可視光帯へ変化させる。この設計思想の適用範囲をプラズモンセンサ1のみに限る必要はなく、従来のプラズモンセンサ100に適用しても良い。具体的には、図28に示すプリズム101を有する従来のプラズモンセンサ100の共鳴波長を、リガンドとアナライトの特異的結合の前後で、不可視光帯から波長帯A、波長帯B、波長帯C、波長帯D、波長帯E、波長帯Fのいずれかの波長帯へ変化する、または、波長帯A、波長帯B、波長帯C、波長帯D、波長帯E、波長帯Fのいずれかの波長帯から不可視光帯へ変化させてもよい。また、局在プラズモンを用いたプラズモンセンサに上記の反射光の波長の変化を起こさせるようにそのセンサを設計してもよい。これにより、リガンド7とアナライト8との特異的結合を人の目により簡易に検知することが可能となる。
また、人が手で持ってプラズモンセンサを使用する場合、図28に示す従来のプラズモンセンサでは、表面プラズモン共鳴が発生する部位すなわちリガンド104が配置された部位を人が手で触れてしまい、それにより共鳴周波数が変化する。しかし、実施の形態1におけるプラズモンセンサ1で、表面プラズモン共鳴が生じる部位が、金属層2の中空領域4に面する下面2Bと金属層3の中空領域4に面する上面3Aであるので、直接手で触れることが困難であり、人が手で持って使用したとしても、共鳴周波数が変化しにくい。
尚、図3Aと図3Bに示す金属層2の上面2Aの周囲の媒質状態を変化させても、共鳴周波数が大きく変化しないことを、電磁界シミュレーションにより確認した。同様に、金属層3の下面3Bの周囲の媒質状態を変化させても、共鳴周波数が大きく変化しないことも、電磁界シミュレーションにより確認した。
次に、実施の形態1におけるプラズモンセンサ1の製造方法を説明する。図10Aから図10Cはプラズモンセンサ1の製造方法を示す断面図である。
図10Aに示す保持部5の面5Bに、図10Bに示すようにスパッタ工法や蒸着工法等により金属層2を形成する。金属層2の厚み、材質により共鳴周波数が変化するので、予め決定された所望の共鳴周波数に最適な金属の厚み、材質を選択する。また、表面プラズモン共鳴を発生させるためには、図1に示す金属層2の面2Aの上方より供給される電磁波が金属層2を通過して中空領域4へ供給される必要があるので、それが可能となる金属層2の厚みと材質等、及び保持部5の厚みと材質等とが選択される。
次に、図10Cに示すように、物理的手法または化学的手法により金属層2の面2Bにリガンド7を固定する。
また、図10Bに示すように、スパッタ工法、蒸着工法等により保持部6の面6Aに金属層3を形成する。その後、図10Cに示すように、金属層3の面3Aにリガンド7を固定する。
次に、プラズモンセンサ1の製造方法を説明する。図11Aと図11Bはそれぞれプラズモンセンサ1の製造方法を説明する分解斜視図と断面図である。上記のプロセスにより形成された金属層2、3は、間隔保持部である壁10により相互に一定距離を離間して保持される。
壁10は、金属または誘電体等をエッチング工法等により加工したり、または、マスク後、蒸着工法等により形成したりすることで実現される。また、金属層2と壁10との接着性、及び、金属層3と壁10との接着性を向上させるため、金属層2、3と壁10とを同じ材質にて実現しても良い。また、金属層2と壁10との接着性、及び、金属層3と壁10との接着性を向上させるため、金属層2と壁10の間、及び、金属層3と壁10の間に接着層を設けても良い。
図12Aと図12Bはそれぞれ実施の形態1による他のプラズモンセンサ1001の製造方法を説明する分解斜視図と断面図である。図12Aと図12Bにおいて、図11Aと図11Bに示すプラズモンセンサ1と同じ部分には同じ参照番号を付す。プラズモンセンサ1001は、壁10の代わりに、間隔保持部である複数の柱11を備える。金属層2、3は柱11により相互に一定距離を離間して保持される。
柱11は、金属または誘電体等をエッチング工法等により加工したり、または、マスク後、蒸着工法等により形成したりすることで実現される。また、金属層2と柱11との接着性、及び、金属層3と柱11との接着性を向上させるため、金属層2、3と柱11とを同じ材質にて実現しても良い。また、金属層2と柱11との接着性、及び、金属層3と柱11との接着性を向上させるため、金属層2と柱11の間、及び、金属層3と柱11の間に接着層を設けても良い。
間隔保持部(壁10、柱11)は少なくとも2つの層により構成されてもよい。それらの層のうちの一方の層は金属層2、3のうち少なくとも一方の材質と同じであると共に、この一方の層の厚みは、他方の層の厚みよりも薄くする。間隔保持部が3つの層以上で構成される場合、一方の層以外の層のトータルの厚みが他方の層の厚みに相当する。このような設計によるメリットを、以下、説明する。
例えば、図12Bに示す構造を実現する1つの工法を説明する。保持部5の下面5Bに柱11が形成される部位のみ孔の空いたマスクを形成し、チタンを蒸着することにより柱11のチタンよりなる層511を形成する。層511が上記の他方の層に該当する。次に、マスクを除去した後、保持部5の層511が形成されていない領域と、層511の少なくとも下面に金を蒸着する。これにより、層511の下面に柱11の金よりなる層611が形成される。層611は金属層2と同じ材質よりなり、上記の一方の層に該当する。保持部5の下面5Bで柱11の層511が形成されていない領域に形成された金の層が金属層2となる。柱11のチタンの層511の厚さに比べて、柱11の金の層611の厚さは、薄くなるように設計される。また、柱11の層511に比べて柱11の層611の導電率は高くなるように設計される。更に、柱11の層611に比べて柱11の層511の硬度は高くなるように設計される。
保持部6の上面6Aに金を蒸着し、金よりなる金属層3を形成する。このように、金属層3は、金属層2及び柱11の層611で用いられている金属と同じ金属よりなる。次に、柱11の層611の下面と金属層3の上面3Aとを接合する事により、金属層3へ柱11を固定する。柱11の層611と金属層3とは、同一の金属により実現されているので、相互に強固に接合されることとなり、プラズモンセンサ1の機械的強度を向上させることができる。更に、柱11の大きな比率を占めている層511のチタンが、層611の金よりも硬度が高いので柱11が強固となり、プラズモンセンサ1の機械的強度を向上させることができる。また、金属層2や金属層3及び柱11の層611と比較して、柱11の層511はそれほど高い導電率が必要ないので、導電率の高い比較的高価な柱11の層611に比べて、層511には層611と比較して安価な金属を用いる事が出来る。層511が柱11の大きな比率を占めていることから、安価なプラズモンセンサ1を実現する事ができる。更に、金属層2を蒸着にて形成するのと同時に柱11の層611を形成する事が可能となるので、生産性を向上させることもできると共に、金属層3と同一の金属で柱11の層611を形成する事が出来るので、柱11と金属層3との接着性を向上させることもできる。
尚、保持部6の上面6Aにチタンを蒸着してチタン層を形成した後、チタン層の上面に金を蒸着することで、金属層3を形成してもよい。ここでも、保持部6の上面6Aに形成されたチタン層の厚さに比べて、チタン層の上面に形成された金の層の厚さは薄くなるように設計することで、安価なプラズモンセンサ1001を実現する事が容易となる。尚、上記では、層511にチタンを用い、層611と金属層2、3に金を用いるが、層611と金属層2、3の金属の材質が同一である場合では、同様の効果を実現できる。
更に、上記は、図12Bに示す柱11の構成を、図11Bに示す壁10に適用しても良く、上記同様の有利な効果を得る事ができる。
金の蒸着により金属層2を形成した後、金属層2の下面2Bにリガンド7を固定してもよい。また、金の蒸着により金属層3を形成した後、金属層3の上面3Aにリガンド7を固定してもよい。その後、柱11の層611の下面と金属層3の上面3Aとを接合する事でプラズモンセンサ1を実現してもよい。柱11の端面に形成された金の層と、金属層2とを接合する場合には、接合面の汚れ(リガンド等)を事前に掃除することで、これら金の層を接合することができる。別の方法としては、リガンド7を金属層2または金属層3の面に固定する前に、柱11の層611の下面と金属層3とを接合し、その後、毛細管現象によりリガンド7の含まれた液体を中空領域4に注入することで、金属層2または金属層3の表面にリガンド7を固定してもよい。
尚、間隔保持部である壁10や柱11の端部が、金属層2、3のうち少なくとも一方に挿入された状態で固定されることで、プラズモンセンサ1が実現されてもよい。図12Aに示すように、柱11の上面(端部)または下面(端部)の少なくとも一方が、金属層2、3の少なくとも一方に差し込まれて固定される。図12Aでは、柱11の上面が、金属層2に差し込まれている。柱11の端部(上面)を金属層2に容易に差し込む為に、柱11の端部を鋭利に尖らせてもよく、金属層2の下面2Bに柱11の端部が差し込まれ易いような導入穴を設けておいてもよい。柱11を金属層2に差し込むことで柱11を金属層2へ固定することにより、柱11の端部と金属層2とが接する領域に付着したリガンドを事前に取り除く作業が不要となる。例えば、柱11の端部に形成された金の層と、金属層2の金の層とを接合する場合、接合面の汚れ(リガンド等)を事前に掃除しておかないと、両者の金の層が接合しにくい。これにより、製造工程を簡略化でき、安価なプラズモンセンサ1001を実現できる。
また、壁10又は柱11の高さは、表面プラズモン共鳴を発生させたい共鳴周波数等を考慮して決定される。
更に、1つの壁10からそれ以外の壁10までの距離、または、ある1つの柱11からそれ以外の柱11までの距離は、共鳴波長よりも大きな値としてもよい。これにより、複数の壁10または複数の柱11の構造に起因して不要な表面プラズモン共鳴が励起され、プラズモンセンサ1の感度が劣化することを回避できる。
尚、壁10と金属層2とが接合する面、及び、壁10と金属層3とが接合する面には、リガンド7を固定しない構成としても良い。これにより、壁10と金属層2との密着性と、壁10と金属層3との密着性とを向上させることができる。
また、リガンド7は金属層2の一方側全面、及び、金属層3の一方側全面に固定されても良い。これにより、リガンド7が固定される領域、固定されない領域の2種類の領域を形成する必要がなくなり、製造効率が向上する。
更に、図10Aから図10Cでは、リガンド7は金属層2、3の両方に固定されるが、金属層2、3の内の少なくとも一方に配置されていれば良い。一方のみにリガンド7を配置する構成とすれば、製造効率を向上させることが可能となる。
尚、金属層2、3にリガンド7を付着させる手法としては、例えば、まず金属層2、3の表面に自己組織化膜(SAM)を形成し、その後、SAMにリガンド7を付着させる手法を採用しても良い。SAMはスルフィド基やチオール基をもつ有機物を採用する事が好ましい。この有機物をエタノール等の溶媒に溶かして溶液を作製する。その溶液中にUVオゾン洗浄を行った金属層2、3を数時間浸漬する。その後、金属層2、3をその溶液から取り出し、その溶液の作製時に用いた溶媒で洗浄し、純水洗浄を行う。以上で、金属層2、3の表面上にSAMを形成できる。
続いて、中空領域4を作製した後に、SAMと同様にリガンドをエタノール等の溶媒に溶かしてリガンド溶液を作製する。このリガンド溶液を毛細管現象を利用して中空領域4に注入する。これにより、リガンド7は金属層2、3の表面上に共有結合したSAMと共有結合し、リガンドを付着させることができる。
続いて、中空領域4に残った溶液を取り除くため、例えば、外部より熱を加えることで溶液を蒸発させる。もしくは、スピンコーターを使って、遠心力により内部の溶液を排出してもよい。スピンコーターを使う場合は、金属層2、3をリガンド溶液の溶媒で洗浄し、純水洗浄を行うことも可能なので、SAMと共有結合しなかったリガンドを洗い流すことが出来る。
尚、図11A、図11B、図12A、図12Bにおいては、便宜上、リガンド7は記載していない。
更に、壁10、柱11は、金属層2、3と同じ材質で構成されてもよい。これにより、壁10または柱11と、金属層2、3との密着性を向上させることができる。
また、保持部5と金属層2との密着性、及び、保持部6と金属層3との密着性を向上させるために、保持部5と金属層2との間、及び、保持部6と金属層3との間にチタン等の両者の密着性を向上させる物質を配置しても良い。これにより、壁10、柱11が金属層2、3に圧着される際に、保持部5から金属層2が剥離したり、保持部6から金属層3が剥離することを防止する事ができる。
上記の具体的な工法を以下に示す。
(ステップ1)
例えばガラスからなる保持部5の下面5Bに壁10もしくは柱11を形成する為、電子ビーム蒸着(EB蒸着)を用いて第1膜を成膜する。このEB蒸着を行う前に、保持部5の下面5Bの壁10もしくは柱11が形成される部分以外にはマスクを施しておき、プラズモン共鳴が発生ずる領域が第1膜で覆われないようにしておく。
第1膜は金(Au)とチタン(Ti)の2つの層からなる。第1膜は、保持部5の下面5Bにチタン層を形成した後、チタン層の表面に金層を形成することで形成できる。チタン層は、保持部5を構成するガラスと、壁10もしくは柱11を構成する金との密着力を高めるための密着層として用いる。
次に、マスクを除去した後、EB蒸着により保持部5及び第1膜の表面に金層を成膜する。これによりマスクを取り除いた領域に金属層2が形成される。尚、この際、壁10や柱11の表面にも金層が成膜されるが、壁10や柱11を構成する第1膜の表面も金層で覆われているので、金同士の金属接合となり、非常に高い密着性を持つことができる。
なお、第1膜成膜後、すぐ金属層2を成膜しない場合は、大気中のカーボンが第1膜表面を覆うので、金属層2の成膜の際に第1膜上方に形成される金層との密着性が弱まることもある。そのため、例えば、金属層2の成膜を行う前に、第1膜表面及び保持部5表面からプラズマ処理によりカーボンを取り除いてもよい。
一方、例えばガラスからなる保持部6の上面6Aには、金属層3がEB蒸着により成膜される。金属層3は第1膜と同様に金とチタンの2つの層からなり、保持部6の上面6Aにチタン層を形成した後、チタン層の表面に金層を形成することで形成することができる。チタン層は、保持部6と金属層3を構成する金との密着力を高めるための密着層として用いる。チタン層は、保持部5を構成するガラスと、壁10もしくは柱11を形成する金との密着力を高めるための密着層として用いる。
以上より、壁10もしくは柱11を有する保持部5、6が完成する。
なお、壁10もしくは柱11を保持部6に形成する場合は、保持部5の下面5Bの金属層2は金の薄膜のみで形成した方がよい。密着層となるチタン層のチタンの導電率が金と比較して低いので、表面プラズモン共鳴時のロスとなる。このため、チタン層を形成しないことで、プラズモンセンサ1の感度向上を図ることもできる。柱11と金属層2とを接合する際に金属層2の金の層が剥離する恐れがある。このため、壁10もしくは柱11は金属層2に蒸着等により形成した方が良い。金属層2の壁10もしくは柱11が形成される面では、表面プラズモン共鳴が起きにくいため、この面にはチタン層を形成し易い。
(ステップ2)
保持部5の壁10もしくは柱11の表面と、保持部6の金属層3の表面とは、金−金接合によって接合される。壁10および柱11の表面と金属層3の表面とは共に金なので、金属接合により非常に高い密着性で接合する。
なお、金−金接合前に、例えば、壁10もしくは柱11の表面及び金属層3の表面をプラズマ処理することで、壁10もしくは柱11と金属層3の表面を覆うカーボンを取り除くことが望ましい。
以上より、保持部5、6は、壁10もしくは柱11の表面と、金属層3の表面との金属接合を基に互いに固定保持され、図11Bもしくは図12Bに示す構造を実現できる。
図10Aから図12Bに示す工法により製造されたプラズモンセンサ1、1001を使用する上では、金属層2、3間の中空領域4の媒質の状態を変化させる必要がある。
中空領域4の媒質の状態を変化させるためには、アナライト等を含有した試料(気体または液体等)を中空領域4に挿入する必要がある。そのため、プラズモンセンサ1は図11Aに示す2つの試料挿入部12を備えている。
一方の試料挿入部12を介して中空領域4に試料を挿入するために、他方の試料挿入部12から中空領域4の媒質を吸引しても良い。
また、試料を加熱して膨張させ、その膨張力を利用して、一方の試料挿入部12から試料を挿入しても良い。
更に、圧電セラミック等を利用して実現した小型ポンプを利用して、一方の試料挿入部12から試料を挿入しても良い。
また、試料が液体である場合には、重力の方向に対して金属層2、3の面2B、3Aが直交しないように、プラズモンセンサ1を傾斜させた上で振動させることで、一方の試料挿入部12から試料を挿入しても良い。
更に、試料、特にアナライトをイオン化させた上で、外部から磁界または電界をかけて、一方の試料挿入部12から試料を挿入しても良い。
図13Aはプラズモンセンサ1に外部から電界を与えて使用する方法を示す断面図である。
下面2Bにリガンド7が配置された金属層2は保持部5に固定されている。金属層2と対向した位置に配置された金属層3の上面3Aにはリガンド7が配置されると共に、金属層3は保持部6に固定されている。金属層2、3間には交流電源21により交流電圧が印加される。
金属層2、3間の中空領域4には、アナライト8と非特異的結合検体9とを含む試料62が充填される。少なくともアナライト8はマイナス側かプラス側にイオン化されている。
例えば、アナライト8がマイナス側にイオン化されており、金属層2にプラスの電圧、金属層3にマイナスの電圧が印加されているときには、アナライト8は金属層2に引き寄せられ、金属層2に固定されたリガンド7と特異的結合を起こし易くなる。
次に、交流電源21から供給される交流電圧の極性が変化する期間、つまり、交流電圧の周期の半分の期間が経過すると、金属層2にマイナスの電圧、金属層3にプラスの電圧が印加され、アナライト8は金属層3に引き寄せられ、金属層3に固定されたリガンド7と特異的結合を起こし易くなる。これにより、金属層2、3に固定されたリガンド7と試料62中のアナライト8とを、効率的に、結合させることができる。
尚、交流電源の周期は、金属層2、3間のアナライト8の移動可能速度を考慮して、設定される。
また、金属層2、3のどちらか一方のみにリガンド7が配置される場合には、直流電圧を金属層2、3間に印加してもよい。これにより、電源の構成を簡易化できる。
図13Bはプラズモンセンサ1に外部から電界を与えて使用する他の方法を示す断面図である。図13Bでは、電極22が中空領域4に挿入されて固定されている。電極22と金属層2との間に直流電源23が接続され、電極22と金属層3との間に直流電源24が接続されている。
リガンド7がプラス側にイオン化されているので、マイナス側にイオン化されているアナライト8は、電極22に対してマイナスの電圧が印加される金属層2、3に引き寄せられる。そして、リガンド7とアナライト8との特異的結合を効率的に行う事が可能となる。
尚、図13A、図13Bでは、便宜上、壁10および柱11を記載していない。実際的には、金属層2、3を保持するための柱11または壁10は電極22を保持していてもよい。
別の構成として、金属層2の下面2Bの周囲の領域である近傍領域502Bと、金属層3の上面3Aの周囲の領域である近傍領域503Aの内の少なくとも一方の領域にはリガンド7が配置される。金属層2、3とは壁10、柱11等の間隔保持部で相互に固定されていない分離された状態で、リガンド7とアナライト8とを接触させ、その後、金属層2、3とを間隔保持部により固定し、相互に所定の位置に配置した構成としても良い。このような手順を経てプラズモンセンサ1を実現することで、容易にリガンド7とアナライト8とを接触させることができる。
図14Aは、保持部6と金属層3と柱11とが一体化された部材13の斜視図である。図14Bは、保持部5と金属層2とが一体化された部材14の斜視図である。このように、プラズモンセンサ1では、最初、第1部材13と第2部材14とで分離された状態となっている。
まず、図14Aの金属層3の上面3Aに配置されたリガンド7を、アナライト8が含有される試料と接触させる。また、図14Bの金属層2の面2Bに配置されたリガンド7をアナライトが含有される試料と接触させる。
その後、図14Aに示す部材13と、図14Bに示す部材14とを柱11を介して固定し、図12Bに示すプラズモンセンサ1001を組み上げる。
その後、図12Bの保持部5の上方に配置した光源より光を金属層2へ供給し、その反射光または輻射光を保持部5の上方に配置した受光部で受光し、受光された光の量の変化を測定することにより、リガンドとアナライトとの特異的結合の状態を検知する。
具体的には、リガンドとアナライトが特異的結合をすることにより、中空領域4での媒質変化(比誘電率の値の変化、及び、比誘電率の分布の変化)が生じると、共鳴周波数が変化するので、プラズモンセンサ1から反射又は輻射される光の量が変化する。故に、プラズモンセンサ1から反射又は輻射される光の量を測定することにより、リガンド7とアナライト8との特異的結合の状態を検知することができる。
以上の方法でプラズモンセンサ1を実現すれば、リガンド7とアナライト8の接触を容易に行う事ができる。
尚、図14Aと図14Bにおいては、部材13が柱11を有しているが、これに限る必要はなく、部材14が柱11を備えていても良いし、第1部材13および第2部材14の両方が備えていても良い。
尚、試料挿入部12とは、金属層2、3で挟まれた領域以外の領域と、中空領域4とが面する部分であり、試料を中空領域4に挿入可能な部分である。
また、試料は、アナライトを含有した気体または液体等の流体であってもよいし、アナライトを含有していない気体または液体等の流体であってもよい。プラズモンセンサ1がリガンド7を有していない場合には、試料はアナライト8を含まない気体または液体等の流体であってもよい。
更に、近傍領域502Bは、金属層2の中空領域4側の面2Bの近傍の領域であり、その領域の媒質の変化により、共鳴周波数が変化する。具体的には、近傍領域502Bは金属層2の面2B上である。金属層2の面2Bを誘電体の薄膜が覆っている場合には、近傍領域502Bはその薄膜の表面である。
また、近傍領域503Aは、金属層3の中空領域4側の面3Aの近傍の領域であり、その領域の媒質の変化により、共鳴周波数が変化する。具体的には、近傍領域503Aは金属層3の面3Aである。金属層3の面3Aを誘電体の薄膜が覆っている場合には、近傍領域503Aはその薄膜の表面である。
金属層2と金属層3とが分離された状態とは、柱11や壁10等の間隔保持部により金属層2、3とが相互に固定された状態ではなく、金属層2、3とがそれぞれ自由に移動できる状態を指している。
図15はプラズモンセンサ1の断面図である、金属層2、3が分離可能な構成において、近傍領域502Bは、リガンド7が配置された範囲17と、リガンド7が配置されていない範囲18とを有する。さらに、近傍領域503Aは、範囲17と対向すると共にリガンド7が配置された範囲19と、範囲18に対向すると共にリガンド7の配置されていない範囲20とを有する。
金属層2、3が分離された状態から、柱11や壁10等の間隔保持部を介して金属層2、3が相互に固定されている場合、金属層2、3間の間隔がばらつく場合がある。金属層2、3の間隔がばらつくと、共鳴波長がばらつくので、プラズモンセンサ1を使用する上で、最初に、製品個々に、共鳴波長を導出する必要がある。
上記の構成を採用すると、金属層2、3の間隔がばらついたとしても、範囲17に対向する保持部5の領域又は範囲17に対向する金属層2の領域に光を供給した場合と、範囲18に対向する保持部5の領域又は範囲18に対向する金属層2の領域に光を供給した場合とで、反射光又は輻射光の量を比較することで、リガンドとアナライトの特異的結合の有無を検知することができる。これにより、精度の高いプラズモンセンサ1を実現することができる。
図15において、保持部5の下面5Bには金属層2が配置され、金属層2の下面2Bには、金属層2の腐食を防止するための保護層15が配置されている。保護層15の下面15Bの範囲17にはリガンド7が固定される。一方、保護層15の下面15Bの範囲18には、リガンド7が固定されていない。
また、保持部6の上面6Aには金属層3が配置され、金属層3の上面3Aには、金属層3の腐食を防止するための保護層16が配置されている。そして、保護層16の上面16Aの範囲19には、リガンド7が固定される。範囲19は範囲17と概ね対向する。一方、保護層16の上面16Aの範囲20にはリガンド7が固定されていない。範囲20は第2範囲18と概ね対向する。
範囲17と対向すると共に金属層2の上面2Aの上方の領域617には光源601から電磁波である光が供給され、その時の反射光又は輻射光は受光部602により受光する。
同様に、範囲18と対向すると共に金属層2の上面2Aの上方の領域618には光源603から光である電磁波が供給され、その時の反射光又は輻射光は受光部604により受光する。
領域617、618へは光を交互に供給しても良い。これにより、領域617に光を供給した時の反射光又は輻射光と、領域618に光を供給した時の反射光又は輻射光とが、それぞれ、受光部604、602に入ってしまうことを防止できる。
尚、領域617のみに光源601から光を供給し、リガンド7とアナライト8との特異的結合が十分為された後に、光源601からの光の供給をストップし、次に、領域618のみに光源603から光を供給してもよい。これにより、上記のように、領域617に光を供給した時の反射光または輻射光と、領域618に光を供給した時の反射光または輻射光とが、それぞれ、受光部604および受光部602に入ってしまうことを防止できると共に、特異的結合の様子を時間途切れなく測定できる。また、特異的結合が為された後に、領域618のみに光を供給した時の反射光または輻射光からリファレンス値を導出することができる。
尚、範囲17、18は共鳴波長に対して十分大きなサイズを有している。例えば、範囲17、18の1辺が共鳴波長の2倍以上の範囲である。このような構成とすることにより、範囲17、19で生じる表面プラズモン共鳴と、範囲18、20で生じる表面プラズモン共鳴とのアイソレーションを向上させることができる。
また、金属層2、3が分離可能な構成の場合、リガンド7とアナライト8とを接触させた後、金属層2を金属層3とを組み合わせることで金属層2を金属層3に対して固定するので、当該組み合わせ作業中にもリガンド7とアナライト8との特異的結合は進んでしまう。よって、当該組み合わせ作業中のリガンド7とアナライト8との特異的結合をできるだけ遅延させるため、磁界または電界を外部から供給し、当該組み合わせ作業中はリガンド7とアナライト8を結合させにくくしておいても良い。
例えば、図15において、アナライト8がマイナス側にイオン化されている場合には、金属層2、3を所定位置に固定する作業が完了するまで、範囲18、20側がプラス側、範囲17、19側がマイナス側となるように外部から電界または磁界を印加する。この場合には、図13Aと図13Bに示すように金属層2、3に直接電圧を印加せず、外部からその電界または磁界を印加する。これにより、アナライト8を範囲18、20側に引きつけておき、金属層2、3を組み合わせる作業中に、リガンド7とアナライト8が特異的結合をすることを抑えることができる。
図14Aと図14Bに示す構造においても、近傍領域502B、503Aにリガンド7を配置しない領域を作っていてもよい。金属層2、3を組み上げる前の状態においては、外部から電界または磁界をかけて、このリガンドが配置されていない領域にアナライトを引き寄せておいても良い。
図16は実施の形態1によるさらに他のプラズモンセンサ1002の斜視図である。図16において図1に示すプラズモンセンサ1と同じ部分には同じ参照番号を付す。図16に示すプラズモンセンサ1002では、金属層3と保持部6とを貫通する貫通孔25が設けられている。
貫通孔25は、例えば、アナライト8が含有された試料を中空領域4に挿入するために利用され、容易に中空領域4に試料を挿入可能となる。
図17はプラズモンセンサ1002の解析モデルの電磁界シミュレーション解析結果を示す。この解析モデルは、図4Aに示す解析モデルの金属層3に150nm×150nmの複数の貫通孔25を300nm間隔で周期的に設けられている。
図17に示すように、複数の貫通孔25を金属層3に設けた場合の共鳴波長と、貫通孔25を設けない場合の共鳴波長がほぼ同一であり、金属層3の貫通孔25の有無が、表面プラズモン共鳴に大きな影響を与えない。
(実施の形態2)
図18は実施の形態2におけるプラズモンセンサ1003の断面図である。図18において、図1に示すプラズモンセンサ1と同じ部分には同じ参照番号を付す。図18のプラズモンセンサ1003は、図1のプラズモンセンサ1に、保持部6が固定されている位置可変ステージ26をさらに備える。位置可変ステージ26は、少なくとも上下方向に移動させることが可能な調整機構であり、金属層2、3の間隔を変化させることが可能である。
プラズモンセンサ1003の動作を説明する。アナライト8を含む試料が中空領域4に進入可能な程度に、位置可変ステージ26を移動させて金属層2、3を離間させた後、プラズモンセンサ1003全体を試料に接触させる。これにより、中空領域4に試料を進入させることが容易となる。この際、上記のように、外部から電界、磁界、熱、振動等を加えて、中空領域4に試料が、より進入しやすくしても良い。
その後、位置可変ステージ26を移動させて、表面プラズモン共鳴が発生する位置で金属層3を固定する。
その後、実施の形態1に示すプラズモンセンサ1と同様に、金属層2の上方より電磁波を供給し、その反射波又は輻射波を検知することで、リガンド7とアナライト8の特異的結合の状態を測定する。
図18に示すプラズモンセンサ1003は、位置可変ステージ26の位置を変化することで共鳴波長を調整できる。
例えば、リガンド7とアナライト8の特異的結合により中空領域4の媒質状態が変化する際、位置可変ステージ26の位置を調整して、共鳴波長が一定値となるように制御すれば、位置可変ステージ26の位置の変化は位置の変化のスピードにより、特異的結合の様子をモニタリングすることが可能となる。
1つの波長の光だけで検知していては、その光の波長以外の所での結合の様子まで追随してモニタリングすることが出来ない。このため、実施の形態2のプラズモンセンサ1003は複数の波長の光でプラズモン共鳴を起こすことができる。
図18に示すプラズモンセンサ1003においては、リガンド7を金属層2にのみ配置したが、実施の形態1に示したように、金属層3にも配置してもよい。
また、実施の形態1で示した、金属層3に貫通孔25を設ける等の変形を図18のプラズモンセンサに適応してもよい。
(実施の形態3)
図19と図20A、図20Bは、それぞれ実施の形態3に係るプラズモンセンサ27の分解斜視図、側面図、上面図である。プラズモンセンサ27は、金属層28、29と、金属層28、29を一定間隔空けて保持する間隔保持部37A、37Bと、金属層28の形状を保持する為の保持部31と、金属層29の形状を保持する為の保持部32とを有している。プラズモンセンサ27は、間隔保持部37A、37Bを除く金属層28、29間の領域からなる中空領域30を有する。金属層28、29と間隔保持部37A、37Bと保持部31、32と中空領域30は、それぞれ実施の形態における金属層2、3と間隔保持部(壁10、柱11)と保持部5、6と中空領域4と同じ構成である。金属層28の下面28Bは金属層29の上面29Aに対向し、金属層28の下面28Bと金属層29の上面29Aとの間に中空領域30が設けられている。保持部31の下面31Bに金属層29が固定されている。保持部32の上面32Aに金属層29が固定されている。プラズモンセンサ27は、保持部31の上面31Aに配置された樹脂部33と、保持部32の下面32Bに配置された樹脂部34と、樹脂部33に設けた窓35と、アナライトを含む試料を中空領域30に挿入する為の試料挿入部36とを有している。金属層28の中空領域30側と金属層29の中空領域30側の少なくとも一方にはリガンド607が配置されている。
保持部31は入射する電磁波を効率よく透過させるため、例えば200μmの厚みからなる低損失な薄膜の光学ガラスよりなる。このことから、図19、図20A、図20Bに示すプラズモンセンサ27も、図11Aからは図12Bに示すプラズモンセンサと同様の機能を発揮する。
保持部31は樹脂部33の上方より窓35を介して入射される電磁波を効率よく透過させるために、例えば、厚み200μm程度の薄い低損失な光学ガラスよりなる。この場合、光学ガラスがそのように薄いため、保持部31の端部が鋭利となる。したがって、プラズモンセンサ27を使用するユーザが保持部31の端部に触れて怪我をしないように、図20Bに示すように、樹脂部33の端部が保持部31の端部より外側に配置される。これにより、ユーザが安全に使用できるプラズモンセンサ27を実現することができる。
同様に、樹脂部34の端部が保持部32の端部より外側に配置され、同様の効果を得ることができる。
さらに、樹脂部33、34は補強板として機能するので、ユーザがプラズモンセンサ27を指で挟んで使用したとしても、プラズモンセンサ27が破損しにくい。また、図20Aと図20Bに示すように、ユーザがプラズモンセンサ27を指で保持する領域55を予め決めておいてもよい。この場合に、間隔保持部37Bは樹脂部33の領域55と樹脂部34の領域55との間に配置されてもよい。これにより、ユーザが指でプラズモンセンサ27を挟んで保持したとしても、間隔保持部37Bにより中空領域30のサイズが変化しにくい。したがって、ユーザがプラズモンセンサ27を指で挟んで使用しても、表面プラズモン共鳴の共鳴周波数が変化しにくいプラズモンセンサ27を実現できる。尚、プラズモンセンサ27は間隔保持部37Bを備えなくてもよく、この場合でも、実施の形態1や実施の形態2と同じ効果が得られる。
樹脂部33に設けられた窓35の上方より電磁波を入射して、ユーザはプラズモンセンサ27を使用する。例えば、ユーザは太陽光を窓35に入射し、その時の窓35からの反射光の色により、リガンドとアナライトの特異的結合の有無を視覚的に観測することが可能である。
ユーザは、試料挿入部36からアナライトを中空領域30へ挿入する。ここで、例えば、入射される電磁波が可視光である場合、金属層28、29の間隔は300nm〜1.0mm程度と非常に狭いので、試料挿入部36の近傍における金属層28、29の間隔も非常に狭い。故にアナライトを含む液体である試料の付着力と表面張力で毛細管現象により試料が中空領域30へ進入していく。結果、ユーザはアナライトを容易に中空領域30に注入することが可能となる。試料挿入部36の近傍における金属層28、29の間隔は、試料が毛細管現象により中空領域4へ浸入可能となるようなサイズが選択される。尚、試料挿入部36はプラズモンセンサ27の端部に設けられているが、図16に示すプラズモンセンサと同様に、金属層3と樹脂部34と保持部32とを貫通する貫通孔を通して試料が中空領域30に浸入させてもよい。
図21は実施の形態3における他のプラズモンセンサ1004の断面図である。図21において、図19と図20A、図20Bに示すプラズモンセンサ27と同じ部分には同じ参照番号を付す。プラズモンセンサ1004は、図19及び図20A、図20Bに示す樹脂部33、34の代わりに、樹脂部38、39を備え、間隔保持部37Bを備えていない。樹脂部38は、図20Aに示す樹脂部33と同様に、保持部31の上面31Aに設けられ、保持部31の上面31Aを露出させる窓35が形成されている。樹脂部39は、図20Aに示す樹脂部34と同様に、保持部32の下面32Bに設けられている。樹脂部38、39は、試料挿入部36と反対の方向の端部の周辺に、ユーザが指で保持するための領域55を有する。領域55において、樹脂部38、39は、中空領域30と接続されている中空領域56を介して対向する。すなわち、領域55において、樹脂部38、39の間には、保持部31、32や間隔保持部37Aと金属層28、29は設けられておらず、可動樹脂部38、39は中空領域56に直接的に面している。
そして、ユーザが領域55を指で強く挟んだり、緩めたりすることで中空領域56の容積を変化させることができる。これにより、アナライトを含む試料が試料挿入部36から毛細管現象により中空領域56に挿入されるのを補助できるとともに、小刻みに中空領域56の容積を変化させることによりアナライトが中空領域56で攪拌されるため、アナライトとリガンドの反応速度を速めることができる。
尚、図21のプラズモンセンサ1004においては、可動樹脂部38、39間の領域55には、保持部31、32と間隔保持部37Aと金属層28、29とは形成されていないが、これに限る必要はない。可動樹脂部38、39間の領域55の一部に、保持部31、32と間隔保持部37Aと金属層28、29のうちの少なくとも1つが存在する構造であっても、上記と同様の効果が得られる。
実施の形態3に係るプラズモンセンサ27、1004のリガンド607に、例えば、インフルエンザの抗体を採用すれば、自宅で簡易に、ユーザがインフルエンザに感染しているか否かを検査する事ができる。この場合、ユーザが被験者の鼻の粘膜等の体液を採取し、それを溶液中に溶かして試料を作製し、この試料中に実施の形態3に係るプラズモンセンサ27、1004の試料挿入部36を浸す事で、毛細管現象により中空領域56に試料を挿入し、リガンドと試料を接触させることになる。
尚、図19〜図21に示すプラズモンセンサ27、1004の試料挿入部36の位置については、図20〜図21に示したものに特定されるものではなく、ユーザの使用方法を考慮し、適切な位置に配置されればよい。これに応じて、間隔保持部37A、37Bの形状、配設位置についても適宜最適化されればよい。具体的には、図12Aと図12Bに示すプラズモンセンサ1001は、柱11以外の金属層2、3間の中空領域4が、金属層2、3のすべての端部領域で柱11により遮られず、解放されているので、金属層2、3のすべての端部領域が試料挿入部36として利用できる。
また、試料挿入部36の形状により、試料挿入部36が試料中の不純物により詰まることを防止できる。図22は実施の形態3におけるさらに他のプラズモンセンサ1005の断面図である。図22において、図1に示すプラズモンセンサ1と同じ部分には同じ参照番号を付す。プラズモンセンサ1005では、保持部5、6は端部の試料挿入部46に向かって薄くなるテーパー部665、666をそれぞれ有する。
試料挿入部46から毛細管現象を利用して中空領域4へ試料を注入する際、試料挿入部46よりもサイズの大きな試料中の不純物が試料挿入部46の一部を塞ぎ、試料の中空領域4への挿入効率が低下させる場合がある。しかし、試料挿入部46の近傍に設けられたテーパー部665、666により、不純物が試料挿入部46の近傍に留まる事を低減させ、試料の中空領域4への挿入効率が低下することを軽減できる。
(実施の形態4)
図23は実施の形態4に係るプラズモンセンサ40の分解斜視図である。プラズモンセンサ40は、保持部44と、保持部44の上面44Aに配置された金属層41と、金属層41の上面41Aに配置された間隔保持部47と、間隔保持部47の上面47Aに配置された金属層42と、金属層42の上面42Aに配置された保持部45とを有する。間隔保持部47を除く金属層41、42間の領域には中空領域43が設けられている。プラズモンセンサ40は、中空領域43に試料を挿入するための試料挿入部46をさらに備えている。金属層41の中空領域43に面する上面41Aと、金属層42の中空領域43に面する下面43Bの内の少なくとも一方にはリガンド607が配置されている。保持部44、45と金属層41、42と間隔保持部47は、図19に示す保持部32、31と金属層29、28と間隔保持部37Aと同じ材質よりなる。
プラズモンセンサ40では、保持部44の形状サイズが保持部45よりも大きい、または。金属層41の形状サイズが金属層42よりも大きい。
保持部44は入射する電磁波を効率よく透過させるため、例えば200μmの厚みからなる低損失な薄膜の光学ガラスよりなる。このことから、図23に示すプラズモンセンサ40も、図19に示すプラズモンセンサ27と同様の機能を発揮する。
プラズモンセンサ40の使用方法を説明する。図24はプラズモンセンサ40の使用方法を示す側面図である。光源50は保持部44へ電磁波の一種である光50Mを供給する。受光部51はプラズモンセンサ40からの反射光51Mを受信し検波する。金属層41又は保持部44は、金属層42又は保持部45よりもサイズが大きく設計されている。そして、金属層42、保持部45と対向していない金属層41、保持部44の部分であるセンサ固定部541において、プラズモンセンサ40は樹脂部48、49で挟まれて固定される。この構造により、保持部44、45を挟んでプラズモンセンサ40を保持する場合と比較して、金属層41、42間の間隔が変化する事を防止でき、表面プラズモン共鳴の共鳴波長が変化する事を低減できる。
アナライトを含有する液体状の試料が挿入される試料挿入部46は、プラズモンセンサ40が樹脂部48、49により固定された状態において、プラズモンセンサ40の下端部周辺に配置される。
図24に示すように、プラズモンセンサ40が樹脂部48、49で固定された状態で、プラズモンセンサ40の下方には、位置可変ステージ57に設置された容器58が配置されている。容器58にはアナライトが含有されている液体状の試料59が充填されている。
試料挿入部46から注入された試料59は、プラズモンセンサ40の中空領域43を移動して試料挿入部46と反対側の領域546から排出される。よって、試料59により保持部44の光源50および受光部51に対向する面44Bが試料59で汚れず、保持部44に入射される電磁波を試料59により遮られる事がないので、良好な測定環境を維持することができる。
プラズモンセンサ40は樹脂部48、樹脂部49で固定されており、アナライトを含む試料が充填された容器58を位置可変ステージ57に載せてもよい。位置可変ステージ57を上下に可動させることで、試料挿入部46を試料59に浸し、毛細管現象により中空領域43に試料59を注入する。
プラズモンセンサ40は樹脂部48、49で固定されたまま、アナライトを注入することができ、光源50から入射された光を常に同じ箇所に与えることができ、同じ箇所の反射特性を受光部51で観測できる。故に、実施の形態4に係るプラズモンセンサ40は、アナライトとリガンドの反応速度や共鳴波長の変化を連続的に精度良く測定できる。
尚、図24においては、容器58の代わりに、アナライトを含む試料59を数滴たらしたスライドガラスを用いてもよい。
金属層41または金属層41に配置されているリガンド607と試料中のアナライトの反応速度を速めるために、プラズモンセンサ40および容器58を配置する空間の大気圧を時間的に変動させて、中空領域43に注入される試料の攪拌を促してもよい。大気圧により試料の表面は押しつけられており、この力を利用して毛細管現象により中空領域43に試料59が注入されるので、大気圧を時間的に変動すれば、中空領域43内の試料もそれに応じて移動するため、攪拌が促される。
リガンド607と試料59中のアナライトの反応速度を速めるために、試料59の温度を上昇させて液体の試料を対流させてもよい。また、試料59に、光源50から放射される電磁波の周波数とは異なる電界又は磁界をかける事により、試料59に流れを発生させても良い。
尚、図23及び図24においては、保持部44の端部及び金属層41の端部に樹脂部48、49を固定するが、これに限る必要はない。保持部44又は金属層41よりも保持部45又は金属層42のサイズが大きくなるように設計し、保持部45の端部及び金属層42の端部の少なくとも一方に樹脂部48、49を固定しても、上記と同様の効果が得られる。
尚、図24においては、位置可変ステージ57を上下させることにより、試料挿入部46を試料59の中に浸したが、これに限る必要はなく、樹脂部48、49を上下に動作させても、同様の効果が得られる。
また、図24の領域546に、試料59を吸い取る吸収部材を配置しても良い。これにより、中空領域43の試料59が吸収部材により吸い上げられるため、中空領域43中の試料59の移動速度を向上させられる。これにより、リガンドとアナライトの反応スピードを向上させられる。
また、以下の方法で金属層41の面41A、または、金属層42の面42Bにリガンド607を配置することができる。毛細管現象を利用してリガンドを含む試料を試料挿入部46から中空領域43に注入した後、リガンドを含む試料を乾燥させる。これにより、金属層41の面41Aの周囲の近傍領域541Aと、金属層42の面42Bの周囲の近傍領域542Bのうちの少なくとも一方にリガンド607を配置することができる。この方法により、プラズモンセンサ40を組み立てた後にリガンド607の定着作業を行う事ができる。図11Aと図11Bに示すプラズモンセンサ1においては、壁10と金属層3を金−金接合により接着する場合には、壁10と金属層3の接着強度を向上させることができる。この場合に、例えば、壁10と金属層3とを金−金接合で接着させる前に、リガンド7を金属層2、3の面2B、3Aに定着させた場合、壁10と金属層3の間にリガンド7が入り込み、壁10と金属層3の接着性が低下する場合がある。しかし、プラズモンセンサ40と同様に、プラズモンセンサ1を組み立てた後でリガンド7を面2B、3Aに定着させることにより、壁10と金属層3の接着性が低下することを防止することができる。
(実施の形態5)
図25は、実施の形態5に係る金属層2(3)の斜視図である。図25において図1に示すプラズモンセンサ1と同じ部分には同じ参照番号を付す。図25に示す金属層2(3)の面2A(3B)上にリガンド7がマトリックス状に配置されている。
リガンド7間のピッチ幅Pは、保持部を介して金属層2へ供給される電磁波の波長より大きく200μmより小さい。
図28に示す従来のプラズモンセンサ100はプリズム101が必要であり、そのため、ある角度だけ傾斜して金属層102に光が入射されることとなる。このため、図28の従来のプラズモンセンサ100は、金属層102の表面近傍をプラズモンが伝播してしまう。故に、もしもリガンド104をマトリックス状に金属層102の表面に配置する場合にも、各リガンド間のピッチ幅は、プラズモンの伝播範囲以上、離間する必要があり、狭ピッチ幅で高密度にリガンド104を配置する事はできない。もし、プラズモンの伝播範囲内のピッチ幅でリガンド104を配置させると、相互干渉を起こし、高精度な測定結果が期待できない。故に、図28に示す従来のプラズモンセンサ100においては、マトリックス状にリガンドを配置したとしても、各リガンドは200μmより大きなピッチ幅で配置される。
それに対し、本発明の実施の形態1〜5のプラズモンセンサは、金属層2(3)へ垂直に電磁波を入射させることが可能となるので、プラズモンが伝播することはない。故に、外部から入射される電磁波の1波長サイズまで狭めたピッチでマトリックス状にリガンド7を配置させても、相互干渉することなく高精度な測定結果が得られる。その結果、単位面積当たりのリガンドの数を多くすることができ、より多数・多種のセンシングが可能となる。
尚、実施の形態1〜4の金属層2、28、41のみならず、金属層3、29、42にも同様にマトリックス状にリガンド53を配置することができ、これにより、センシング感度の向上を図ることができる。この場合、金属層2、28、41に配置されたリガンドと金属層3、29、42に配置されたリガンドが上下対向するように配置されても良い。これにより、プラズモンセンサのセンシング感度を向上させることができる。
実施の形態5に係るプラズモンセンサから反射される電磁波の検出には、CCDカメラを用いてもよい。これにより、マトリックス状に配置された各リガンド付近の金属層2、28、41から反射されてくる電磁波を一括で且つ高精度で検出する事ができ、リガンドが狭いピッチ幅でマトリックス状に配置された本構成においても、高感度で且つ簡易に検出できる。
尚、マトリックス状に配置されたリガンド7は、複数の種類のリガンドにより構成されていてもよい。これにより、1つのプラズモンセンサ1で試料中の複数のアナライトを検知する事が可能なプラズモンセンサを実現できる。
(実施の形態6)
図26は本発明の実施の形態6に係るプラズモンセンサ1006の断面図である。図26において、図1に示す実施の形態1におけるプラズモンセンサ1と同じ部分には同じ参照番号を付す。実施の形態6におけるプラズモンセンサ1006ではリガンド7が、中空領域4に面する金属層2の面2Bに配置されていない。具体的には、プラズモンセンサ1006は、保持部5の下面5Bに配置された金属層2と、金属層2の下面2Bに対向して金属層2の下方に配置された金属層3とを有する。金属層2、3間の少なくとも一部には中空領域4が設けられている。金属層2の上面2Aの上方から金属層2に向けて電磁波が与えられる。
そして、実施の形態6に係るプラズモンセンサ1006の試料挿入部46からは試料とリガンドとの混合液が挿入され、中空領域4には試料とリガンドとの混合液が充填される。
試料とリガンドの混合は、プラズモンセンサ1に挿入前に、プラズモンセンサ1の外部で行われてもよいし、試料とリガンドを別々のタイミングで中空領域4に注入し、中空領域4において混合されてもよい。
試料中にアナライトが存在する場合、試料とリガンドを混合する事により、試料中のアナライトとリガンドが特異的結合を起こし、特異的結合後、アナライト及びリガンドが単独で存在した時の比誘電率と異なる比誘電率に変化する。これは、アナライト及びリガンドが単独で存在した場合の分子構造と、アナライトとリガンドとが特異的結合をした後の分子構造とが異なる事に起因する。これにより試料中にアナライトが存在した時と存在しない時で、プラズモンセンサ1006の共鳴波長が異なる事となる。故に、プラズモンセンサ1006の金属層2又は金属層3の表面にリガンド7を配置しない構成で、リガンドとアナライトの特異的結合の有無を検知できるセンサ1006を実現できる。よって、プラズモンセンサ1にリガンド7を配置する手間のかかる工程を実施の形態6に係るプラズモンセンサ1006の構成により回避することができ、生産効率の高いプラズモンセンサ1006を実現できる。
尚、図27はプラズモンセンサ1006の解析モデルの電磁界シミュレーションの解析結果を示す。リガンドとアナライトとの特異的結合後の分子構造(比誘電率1.1、厚み100nmの層としてモデル化)が中空領域4内に存在した時の共鳴波長の変化、具体的には、特異的結合後の分子構造の中空領域4内の存在位置と共鳴波長の関係について説明する。その解析モデルは以下の条件を有する。
金属層2:材厚45nmの金の層
金属層3:材厚300nmの金の層
金属層2、3の間隔:1μm(空気の層)
光の入射角:金属層2の面2Aに対して垂直方向
尚、本願において使用したシミュレーション解析結果は、すべてCST製のMW−studioを解析ツールとして利用した。
図27に示す反射率P5は、リガンドとアナライトとの特異的結合後の分子構造が中空領域4に存在しない場合の反射率であり、共鳴波長は705.4nmとなる。反射率P1、P2はそれぞれその分子構造が金属層2の面2B、金属層3の面3Bに存在する場合の反射率であり、共鳴波長は707.1nmとなる。反射率P3、P4は、それぞれその分子構造が、中空領域4に面した金属層2、3の面2B、3Aに配置された場合、金属層2、3の中間位置に配置された場合の反射率であり、プラズモンセンサ1006の共鳴波長は710.4nmとなる。このように、金属層2、3の面2B、3A以外にリガンドとアナライトとの特異的結合後の分子構造が存在したとしても、プラズモンセンサ1006の共鳴波長は変化する。つまり、金属層2、3の表面にリガンドを配置しておかず、プラズモンセンサ1の外部で試料とリガンドを混合した後の混合液を中空領域4に注入しても、プラズモンセンサ1006はリガンドとアナライトの特異的結合の有無を確認できる。
尚、実施の形態6に係るプラズモンセンサ1006においては、リガンド7が金属層2、3の面2B、3Aに配置されていない、つまり、中空領域4の内壁にリガンド7が配置されていない。リガンド7は金属層2または金属層3の表面に配置されていてもよい。つまり、実施の形態1における図1のプラズモンセンサ1の中空領域4に試料とリガンド7との混合液が配置される。この場合、試料中に存在するリガンド7との特異的結合を起こしていないアナライトが、金属層2または金属層3の表面に配置されているリガンド7と特異的結合をすることで、共鳴波長が変化し、特異的結合の有無を検出できるセンサの感度を更に向上させることができる。また、この場合、中空領域4の外部で試料と混合する際に使用するリガンド7の量を、アナライトに対して減らしておいても良い。これにより、試料とリガンド7との混合液中にアナライトが残留でき、中空領域4に挿入後に、金属層2または金属層3の表面に配置されているリガンド7と特異的結合をさせることができる。
尚、実施の形態1から5において、保持部5は金属層2の上方に配置されているが、これに限る必要はなく、金属層2の下方に配置されてもよい。保持部5が下方に配置される場合には、リガンド7が保持部5の下面に配置されることとなる。保持部5の比誘電率が高ければ、共鳴波長を長く設定することが可能となるので、金属層2の上方より供給される電磁波の周波数をより低くすることができ、電磁波源のコスト低減を図ることも可能となる。
また、実施の形態1から5において、金属層2、保持部5、金属層3、保持部6は平坦な形状で示したが、これに限る必要はなく、凸凹がついた形状でも同様の効果が得られる。これにより、製造プロセス上で微細な凸凹が発生したとしても、プラズモンセンサとして問題なく機能する。
上記の説明においては、電磁波として光を用いた事例を中心に説明したが、光以外の波長を有する電磁波を用いたとしても、同様の効果が得られる。
実施の形態1から5において、「上面」「下面」「上方」「下方」等の方向を示す用語はプラズモンセンサの構成部品の相対的な位置関係にのみ依存する相対的な方向を示し、鉛直方向等の絶対的な方向を示すものではない。
金属層2の上方から上面2Aに与えられた電磁波91は金属層2を透過して中空領域4に供給されて金属層3の上面3Aに到達する。電磁波91により金属層2の中空領域4の側である下面2Bに表面プラズモンが発生し、金属層3の中空領域4の側である上面3Aに表面プラズモンが発生する。中空領域4に供給された電磁波91の波数と金属層2の下面2Bに発生する表面プラズモンの波数とが一致した場合には、金属層2の下面2Bに表面プラズモン共鳴が励起される。電磁波91と金属層3の上面3Aに発生する表面プラズモンの波数とが一致した場合には、金属層3の上面3Aに表面プラズモン共鳴が励起される。
金属層2は概ね100nm以下の厚みを有するので、それ単体では形状を維持できない。保持部5は金属層2の上面2Aに固定され、金属層2の形状を保持す。保持部5は電磁波91を金属層2へ効率良く供給させる必要があるので、電磁波91を減衰させにくい材質で形成される。実施の形態1においては電磁波91は光なので、光を効率的に透過させるガラスや透明プラスチック等の透明な材料で形成される。保持部5の厚みは機械強度的に許容できる範囲で、できるだけ小さい方が好ましい。
保持部6の上面6Aに金を蒸着し、金よりなる金属層3を形成する。このように、金属層3は、金属層2及び柱11の層611で用いられている金属と同じ金属よりなる。次に、柱11の層611の下面と金属層3の上面3Aとを接合する事により、金属層3へ柱11を固定する。柱11の層611と金属層3とは、同一の金属により実現されているので、相互に強固に接合されることとなり、プラズモンセンサ1001の機械的強度を向上させることができる。更に、柱11の大きな比率を占めている層511のチタンが、層611の金よりも硬度が高いので柱11が強固となり、プラズモンセンサ1001の機械的強度を向上させることができる。また、金属層2や金属層3及び柱11の層611と比較して、柱11の層511はそれほど高い導電率が必要ないので、導電率の高い比較的高価な柱11の層611に比べて、層511には層611と比較して安価な金属を用いる事が出来る。層511が柱11の大きな比率を占めていることから、安価なプラズモンセンサ1001を実現する事ができる。更に、金属層2を蒸着にて形成するのと同時に柱11の層611を形成する事が可能となるので、生産性を向上させることもできると共に、金属層3と同一の金属で柱11の層611を形成する事が出来るので、柱11と金属層3との接着性を向上させることもできる。
金の蒸着により金属層2を形成した後、金属層2の下面2Bにリガンド7を固定してもよい。また、金の蒸着により金属層3を形成した後、金属層3の上面3Aにリガンド7を固定してもよい。その後、柱11の層611の下面と金属層3の上面3Aとを接合する事でプラズモンセンサ1001を実現してもよい。柱11の端面に形成された金の層と、金属層2とを接合する場合には、接合面の汚れ(リガンド等)を事前に掃除することで、これら金の層を接合することができる。別の方法としては、リガンド7を金属層2または金属層3の面に固定する前に、柱11の層611の下面と金属層3とを接合し、その後、毛細管現象によりリガンド7の含まれた液体を中空領域4に注入することで、金属層2または金属層3の表面にリガンド7を固定してもよい。
更に、1つの壁10からそれ以外の壁10までの距離、または、ある1つの柱11からそれ以外の柱11までの距離は、共鳴波長よりも大きな値としてもよい。これにより、複数の壁10または複数の柱11の構造に起因して不要な表面プラズモン共鳴が励起され、プラズモンセンサ1001の感度が劣化することを回避できる。
なお、壁10もしくは柱11を保持部6に形成する場合は、保持部5の下面5Bの金属層2は金の薄膜のみで形成した方がよい。密着層となるチタン層のチタンの導電率が金と比較して低いので、表面プラズモン共鳴時のロスとなる。このため、チタン層を形成しないことで、プラズモンセンサ1、1001の感度向上を図ることもできる。柱11と金属層2とを接合する際に金属層2の金の層が剥離する恐れがある。このため、壁10もしくは柱11は金属層2に蒸着等により形成した方が良い。金属層2の壁10もしくは柱11が形成される面では、表面プラズモン共鳴が起きにくいため、この面にはチタン層を形成し易い。
例えば、リガンド7とアナライト8の特異的結合により中空領域4の媒質状態が変化する際、位置可変ステージ26の位置を調整して、共鳴波長が一定値となるように制御すれば、位置可変ステージ26の位置の変化や位置の変化のスピードにより、特異的結合の様子をモニタリングすることが可能となる。
図27に示す反射率P5は、リガンドとアナライトとの特異的結合後の分子構造が中空領域4に存在しない場合の反射率であり、共鳴波長は705.4nmとなる。反射率P1、P2はそれぞれその分子構造が金属層2の面2B、金属層3の面3Aに存在する場合の反射率であり、共鳴波長は707.1nmとなる。反射率P3、P4は、それぞれその分子構造が、中空領域4に面した金属層2、3の面2B、3Aに配置された場合、金属層2、3の中間位置に配置された場合の反射率であり、プラズモンセンサ1006の共鳴波長は710.4nmとなる。このように、金属層2、3の面2B、3A以外にリガンドとアナライトとの特異的結合後の分子構造が存在したとしても、プラズモンセンサ1006の共鳴波長は変化する。つまり、金属層2、3の表面にリガンドを配置しておかず、プラズモンセンサ1006の外部で試料とリガンドを混合した後の混合液を中空領域4に注入しても、プラズモンセンサ1006はリガンドとアナライトの特異的結合の有無を確認できる。