フレームとバッフル板との間、または被取付部材のいずれかの面に弾性体(防振材)を介在させる方法では、弾性体が跨る部材間での振動の伝播をある程度、抑止することはできるものの、上記したような被取付部材(ドアパネル)自身の剛性を向上させることは難しい。
またスピーカユニットを被取付部材に取り付けるべく、被取付部材とスピーカユニットとの間にブラケットを介在させる。この場合、例えばスピーカユニットのフレームは、ブラケットを被取付部材に取り付けた後に、ブラケットに取り付ける。一方で、ブラケットを被取付部材の背面側に取り付けた後にスピーカユニットをブラケットに取り付ける場合には、ブラケットが被取付部材の開口部を挿通可能な形状を有することが要求される。
本発明は、このような問題点に対処することを課題の一例とするものである。本発明の目的は、例えば、被取付部材の剛性の向上を図りながらも、被取付部材に形成される開口部に対し、挿通可能とするスピーカユニット用制振ブラケットを提供するものである。
本発明のスピーカユニット用制振ブラケットは、互いに連結され、被取付部材に取り付けられる複数の取付部材を備え、
前記取付部材の一端は、前記取付部材の一端側に配置される他の前記取付部材に対して、その厚さ方向の軸の回りに回動自在に直接又は間接的に連結されており、
前記取付部材の他端は、前記取付部材の他端側に配置される他の前記取付部材に対し、分離自在に直接又は間接的に連結されることを構成要件とする(請求項1)。
スピーカユニット用制振ブラケット(以下、制振ブラケットと呼称する)は、閉じた環状のブラケットが周方向に複数個の取付部材に分離し、分離した各取付部材が隣接する取付部材と互いに連結された形状をする。取付部材の数は問わない。
例えば、制振ブラケットが2個の取付部材から構成される場合には、いずれか一方の取付部材の一端が他方の取付部材に厚さ方向の軸回りに回動自在に連結され、他端が他方の取付部材に対し、連結することと、分離することが自在な状態にて連結される。この一方の取付部材の他端が他方の取付部材に連結されたときに、制振ブラケットが環状に閉じた形状になる。一方の取付部材の他端が他方の取付部材に連結された状態は、ねじ等の締結材によって保持される。
制振ブラケットが複数個の取付部材から構成され、取付部材の一端が他の取付部材に対して回動自在に連結され、他端が分離自在に連結されることで、いずれかの取付部材の他端が他の取付部材から分離したときに、制振ブラケットは開放した形状の線状になる。制振ブラケットは、線状の形状になることで、被取付部材に形成されている開口部から挿入され、被取付部材のスピーカユニットが取り付けられる面とは反対の面側(以下、被取付部材の背面側と呼称する)に配置されることが可能になる。
従って被取付部材の開口部が、閉じた状態にある制振ブラケットの外径より小さい場合にも、開口部を通じて被取付部材の表面側から背面側へ制振ブラケットを差し込み、その背面に取り付けることが可能になる。制振ブラケットはその面が被取付部材の面に対して交差した状態で開口部内に挿入されるため、開口部の形状と大きさを問わずに開口部内に挿入されることができる。
本発明の制振ブラケットは被取付部材の開口部からその背面側へ挿入可能な形状をするが、必ずしも被取付部材の背面に配置される必要はなく、表面に配置されることもある。制振ブラケットが被取付部材の表面に接合される場合には、スピーカユニットのフレームは制振ブラケットに取り付けられることになる。
制振ブラケットは閉じた状態で開口部回りの背面、もしくは表面に取り付けられ、開口部回りに当接した状態で取り付けられることで、開口部回りの部分の剛性を高め、その部分の振動を抑止することを可能にする。開口部回りの領域は開口部側が開放しているので、拘束のない自由な状態にあるため、開口部に面する部分が振動し易い状態にある。振動のし易さは被取付部材の厚みが小さい程、大きい。
これに対し、開口部回りの部分に制振ブラケットが当接して取り付けられることで、開口部回りの厚みが実質的に増すことになるため、被取付部材の剛性が大きくなり、振動しにくくなる。制振ブラケットによる制振性は制振ブラケットが被取付部材に取り付けられることにより向上する。
前記被取付部材はスピーカユニットを構成するフレーム又は車を構成する部材であり、前記被取付部材に取り付けるための複数の貫通孔は、前記1つの取付部材にのみ形成されていることがある(請求項2)。
複数の取付部材のうち、1つの取付部材にのみ、スピーカユニットのフレーム又は車を構成する部材である被取付部材に取り付けるための複数の貫通孔又は連結孔を形成することで、制振ブラケットを被取付部材に取り付ける際、被取付部材に対する取付部材の接触状態が異なる場合がある。具体的には、複数の取付部材が連結される位置の近傍で比較的小さいながらも、被取付部材への接触状態が異なり、良好に制振ブラケットを被取付部材に取り付けることができない場合がある。そこで、1つの取付部材にのみ、複数の貫通孔又は複数の連結孔を形成することで、被取付部材と制振ブラケットとの接触状態を良好にすることが可能となる。
被取付部材は車を構成する部材であり、複数の取付部材は、前記被取付部材の、スピーカユニットが取り付けられる面側とは反対側の面側に取り付けられており、制振ブラケットを構成する取付部材は溝部を有する筺体部を備えることもある(請求項3)。制振ブラケットは筺体部の溝部が被取付部材に面して取り付けられる場合と、筺体部の溝部が被取付部材と対向せず、反対側を向いて取り付けられる場合がある。
制振ブラケットはその質量が大きい程、振動しにくいことから、制振ブラケットの質量が大きい程、被取付部材を補剛することが可能になる。但し、制振ブラケットの質量を増せば、制振ブラケット自身の取り扱い易さが低下する上、被取付部材と制振ブラケットとの総質量を必要以上に増大させる不利益を招くことになる。
そこで、制振ブラケットの筺体部が溝部を有することで、中空の断面形状を構成するため、溝部を有しない中実の断面形状を構成する場合より制振ブラケットの軽量化が図られる。このため、制振ブラケット自身に金属材料のような比重の大きい材料(素材)を使用しても、制振ブラケット自身の取り扱い易さを維持しながら、被取付部材と制振ブラケットとの総質量の増大を抑制することが可能になる。
従って制振ブラケット、及び制振ブラケットと被取付部材の総質量を増大させることなく、被取付部材への取り付けによって被取付部材を補剛することと、開口部回りの部分における剛性を向上させること等が可能になる。
筺体部に溝部を形成する場合には、溝部が取付部材の周方向に複数形成されることで、制振ブラケット自身の剛性が向上する(請求項18)。この場合、溝部は制振ブラケットの全体として周方向に複数形成されればよく、各取付部材には1箇所形成される場合と複数形成される場合がある。
溝部が制振ブラケットの周方向に複数形成されることで、各溝部の境界に隔壁が形成され、この隔壁が溝部の形成に伴う筺体部の径方向の剛性低下分を補うことができるので、径方向の剛性低下による影響を回避することが可能になる。隔壁の数は溝部の形成数が多い程、多くなるため、隔壁により補剛でき、溝部を多く形成する程、剛性を向上させることができる。
制振ブラケットが溝部を有する筺体部を備える場合には、前記筐体部の溝部を覆うように、前記溝部を閉塞する蓋部材が取り付けられることもある(請求項4)。前記のように筺体部の溝部は被取付部材に面する場合と面しない場合があるが、溝部が被取付部材に面した状態で筺体部が被取付部材に取り付けられる場合には、制振ブラケットの被取付部材との接触面積が小さくなり、被取付部材に接触しない部分は被取付部材の剛性を向上させることに寄与しない場合がある。
これに対し、例えば、筺体部に溝部を閉塞する蓋部材が取り付けられることで、制振ブラケットを被取付部材に面接触させた状態で取り付けることが可能になり、蓋部材がない場合より制振ブラケットにより補剛することが可能である。この場合、蓋部材が被取付部材に接触した状態で、制振ブラケットが被取付部材に取り付けられるため、蓋部材の表面は平坦な面を持つ。蓋部材が被取付部材に面しない場合には、その表面が必ずしも平坦である必要はない。
前記のように制振ブラケットは被取付部材の表面に取り付けられる場合と背面に取り付けられる場合があり、それぞれの場合に、筺体部が被取付部材に面する場合と面しない場合があり、そのいずれの場合にも蓋部材は溝部を閉塞するように筺体部に取り付けられる。
例えば、筺体部の片面側に蓋部材が着脱自在に取り付けられる場合には、蓋部材は筺体部とは異なる材料で形成されることが振動の伝播を抑止する上で、有効である(請求項5)。蓋部材が筺体部(制振ブラケット本体)と同一の金属材料で構成されている場合には、双方の固有振動数が同一であるため、一方の振動によって他方が共振する場合がある。
これに対し、蓋部材と筺体部が異なる金属材料で形成されている場合には、一方の振動が他方の振動を相殺させることが期待できるため、共振の発生を抑止することが可能である。異なる金属材料とは、例えば筺体部(制振ブラケット)をアルミニウムで構成し、蓋部材を鉄で構成するようなことを言う。
制振ブラケットが筺体部を備える場合には、筺体部の溝部に内部構成部材(振動抑制材)が配置されることもある(請求項6)。ここでの内部構成部材の種類(材料)、形態は問われず、内部構成部材には減衰ゴム等の弾性体のように何らかの振動減衰性を有する板状、もしくは面状の材料の他、互いに接触することによってエネルギを消費する粒状体等が使用される。板状の内部構成部材として、筺体部(取付部材)の材質と相違する材料を使用する場合、内部構成部材によって取付部材に、振動の伝播を抑制させる機能を付与することができる。例えば、取付部材に金属材料を使用した場合に、内部構成部材として合成樹脂等を使用するような場合である。
内部構成部材は例えば筺体部の溝部の内部や表面等に接着されることにより、筺体部に配置される。特に内部構成部材を、筐体部と被取付部材との間、又は筺体部とスピーカユニットのフレームとの間に介在させることで、筺体部が制振性を発揮でき、筐体部と被取付部材との間、又はスピーカユニットと被取付部材との間で振動が伝播することを抑止することができる。
被取付部材の開口部回りの部分が厚肉部と薄肉部を有し、肉厚の相違に起因して各部の固有振動数が相違し、異音が発生する可能性がある場合には、制振ブラケットを被取付部材の薄肉部に接触させた(重ねた)状態で被取付部材に取り付けることが行われる(請求項7)。
被取付部材が厚肉部と薄肉部を有する場合にも、被取付部材の片面が面一(平坦)であれば、その片面に制振ブラケットを重ねたときに、被取付部材の剛性を制振ブラケットによって向上させることができるため、厚肉部と薄肉部の肉厚の差による制振性の差が抑止され、異音の発生が抑止される。
制振ブラケットが筺体部を備える場合には、筺体部の外周にフランジ部が形成されることもある(請求項8)。この場合、フランジ部は被取付部材との取り付けのための貫通孔を有し、筺体部はスピーカユニット(のフレーム)との取り付けのための連結孔を有する。フランジ部は筺体部から制振ブラケットの(放射(径)方向)外周側へ張り出す形で形成され、フランジ部の表面、もしくは背面が被取付部材に接触する。
制振ブラケットが被取付部材の表面に取り付けられる場合において、筺体部にフランジ部がない場合には、筺体部が被取付部材に取り付けられると共に、筺体部にスピーカユニットが取り付けられることになる。この結果、被取付部材に取り付けられるための貫通孔とスピーカユニットが取り付けられるための連結孔が接近するため、一方の孔に生じた振動が他方の孔に伝播し易くなる可能性がある。
具体的にはスピーカユニットのフレームが発生した振動はそのフレームが接合されている筺体部の連結孔から、連結孔内を貫通しているねじ等の締結材を通じて筺体部に伝播する。筺体部からは被取付部材に取り付けられるための貫通孔を貫通している締結材を通じて被取付部材に伝播することが想定される。
このことから、筺体部にスピーカユニットのフレームが接合される場合に、同じ筺体部において制振ブラケットが被取付部材に接合される場合には、フレーム用の連結孔と被取付部材用の貫通孔とが接近し、フレームから被取付部材に振動が伝播する可能性がある。
これに対し、制振ブラケットを被取付部材に接合するための貫通孔と、制振ブラケットにスピーカユニットを接合するための連結孔が分離、又は離間することで、貫通孔と連結孔間に所定の距離を確保することができるため、両孔間での振動の伝播を抑止することが可能になる。
特にフランジ部は筺体部から制振ブラケット本体の外周側へ張り出して形成されることで、少なくともその張り出した分の距離が筺体部からフランジ部までに確保されるため、貫通孔と連結孔間での振動の伝播が抑止される。筺体部における連結孔とフランジ部における貫通孔とが筺体部の周方向にずれていれば、両孔間の距離が拡大するため、制振性が向上する。
筺体部の外周にフランジ部が形成される場合には、フランジ部と筺体部はそれぞれ複数個の貫通孔と連結孔を有することが適切である(請求項9)。制振ブラケットがフランジ部において被取付部材に接合され、筺体部にスピーカユニットのフレームが取り付けられる場合、それぞれの接合状態での安定性を確保する上では、フランジ部の貫通孔と筺体部の連結孔が共に、複数個あることが望ましい。
その場合、フランジ部の貫通孔と筺体部の連結孔がそれぞれ周方向に複数配置されることで、例えば筺体部の周方向に隣接する連結孔の中間部にフランジ部の貫通孔が位置するように双方の孔を配置すれば、フランジ部の貫通孔と筺体部の連結孔との間の距離を大きく取ることが可能である。フランジ部の貫通孔と筺体部の連結孔の周方向の間隔は一定である必要はない。
筺体部の片面側に、溝部を閉塞する蓋部材が着脱自在に取り付けられる場合には、蓋部材はそれを貫通するねじ等の締結材により筺体部に取り付けられることが合理的である(請求項10)。蓋部材は係合や接着等の手段によって筺体部に取り付けられることもあるが、例えば係合の場合には、筺体部と蓋部材との間に振動を抑止する手段が介在しないことになる。
これに対し、筺体部と蓋部材との取り付けの手段として締結材(ねじ)を使用することで、筺体部(制振ブラケット)と蓋部材の双方と相違する材料を締結材に使用することができる。このため、筺体部と蓋部と相違する材料を締結材に使用することで、少なくとも締結材での共振を抑止することができ、締結材の部分において筺体部と蓋部材との間での振動の伝播を抑止することが可能になる。
締結材は制振ブラケットを構成する取付部材に、被取付部材に向けて延びた(突出した)状態で形成されていることもある(請求項20)。この場合、制振ブラケットの取付部材に予め締結材が形成されていることで、制振ブラケットを被取付部材に重ねるのみで、締結材を被取付部材の貫通孔に貫通させることができるため、制振ブラケットの被取付部材への取付作業が単純化される。
前記被取付部材はスピーカユニットを構成するフレーム又は車を構成する部材であり、前記被取付部材には、前記複数の取付部材のうち、前記1つの取付部材のみが取り付けられていることもある(請求項11)。
制振ブラケットは複数の取付部材から構成されることから、制振ブラケットの被取付部材への取付状態では、安定性の面から、各取付部材が被取付部材に取り付けられることが望ましい。但し、制振ブラケットを構成する複数の取付部材の内、いずれか一つの主要な取付部材において被取付部材に取り付けられれば十分な安定性を確保できることもあるため、必ずしも全取付部材が被取付部材に取り付けられる必要はない。
前記被取付部材と前記取付部材との間には、両者間での振動の伝播を抑止する緩衝材が配置されることもある(請求項12)。この場合、緩衝材の、取付部材の複数の貫通孔、または連結孔に対応する位置には開口部が形成され、この開口部に、不使用時に開口部を閉塞する充填部材が取り外し自在に埋設される。充填部材は緩衝材の使用時に開口部から抜き取られることで、開口部の両側を連通させ、取付部材の貫通孔や連結孔と連通させる。
緩衝材は制振ブラケットのいずれかの面における取付部材の複数の貫通孔、または連結孔に対応する位置に取り外し自在に配置され、充填部材を兼ねることもある(請求項21)。この場合、緩衝材は制振ブラケット(取付部材)の複数の貫通孔又は複数の連結孔に対応する箇所毎に配置され、いずれかの貫通孔又は連結孔毎に制振ブラケットから剥離(分離)自在になる。
緩衝材には主に、合成樹脂、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の弾性を有する材料が使用され、緩衝材は被取付部材から取付部材に伝播しようとする振動、または取付部材から被取付部材に伝播しようとする振動を抑止する働きをする。
取付部材の貫通孔や連結孔に連通する開口部を有する緩衝材の開口部に充填部材が取り外し自在に埋設されていることで、例えば取付部材の貫通孔、もしくは連結孔を貫通する締結材によって取付部材を被取付部材に取り付ける際に、他の充填部材を開口部内に留めたまま、締結材に対応した位置にある充填部材のみを取り外すことが可能である。この結果、締結材の貫通しない位置にある充填部材を開口部から離脱させるような誤った操作が回避される。複数の貫通孔又は複数の連結孔に対応する箇所が剥がせる緩衝材を制振ブラケット1と被取付部材7との間に介在させることで、ユーザーが締結材4を用いて制振ブラケット1と被取付部材7を取り付ける際、誤った貫通孔又は連結孔に締結材を挿入する等を行い、再度、取り付けをやり直すこと等を防止することを可能とする。
制振ブラケットを構成する取付部材のいずれかの、被取付部材と対向する面には、制振ブラケットを被取付部材に締結材等を用い取り付ける際に、制振ブラケットと被取付部材との接触状態を維持し易くなるよう、粘着剤や接着剤等の密着用部材を配置することもある(請求項19)。密着用部材は取付部材に塗布や付着等により配置される。
制振ブラケットが筺体部を備える場合には、筺体部に内部構成部材(振動抑制材)が配置されることもある(請求項13)。ここでの内部構成部材の種類(材料)、形態は問われず、内部構成部材には減衰ゴム等の弾性体のように何らかの振動減衰機能を有する板状、もしくは面状の材料の他、互いに接触することによってエネルギを消費する粒状体等が使用される。板状の内部構成部材として、筺体部(取付部材)の材質と相違する材料が使用されれば、内部構成部材が取付部材の振動の伝播を抑制するように機能することが期待される。例えば取付部材に金属材料を使用した場合に、振動抑制材として合成樹脂等を使用するような場合である。
板状(面状)の内部構成部材は例えば筺体部の内部や表面、もしくは背面等に接着されることにより筺体部に配置される。特に内部構成部材を筺体部とスピーカユニットのフレームとの間に介在させれば、内部構成部材の付加によって筺体部が振動抑制効果を発揮するため、スピーカユニットと被取付部材との間での振動の伝播が抑制される。板状の内部構成部材として、筺体部の溝部を閉塞する上記蓋部材を兼用させることもある。
内部構成部材は材料や形態によっては筺体部の溝部の内部に配置されることもある(請求項14)。例えば内部構成部材が粒状体である場合(請求項15)のように個々の振動抑制材が溝部の内部に納まる規模の場合には、溝部の内部に収納されることで、板状の内部構成部材が筺体部の表面等に露出する場合のように筺体部の厚さを増すことがなくなる。
内部構成部材が粒状体である場合には粒状体に振動が伝播したときに、各粒状体が運動することにより粒状体間に摩擦力が発生することで、振動エネルギが消費されるため、振動の伝播を効率よく抑止することが可能である。
内部構成部材が粒状体である場合、具体的には弾性体を含む場合(請求項16)と発泡体を含む場合(請求項17)が考えられる。弾性体を含む場合も発泡体を含む場合も粒状体自体が振動の伝播を抑止できるため、摩擦力による振動エネルギの消費も加わって振動の伝播を抑止することができる。
制振ブラケットが被取付部材の背面に取り付けられる場合には、制振ブラケットは被取付部材の表面に取り付けられるスピーカユニット用取付部材と組み合わせられることもある(請求項22)。スピーカユニット用取付部材は、制振ブラケットが取り付けられる被取付部材の面側に対し、反対の面側に配置される。
スピーカユニット用取付部材はスピーカユニットのフレームに対応した環状をし、制振ブラケットに対応する形状をする。スピーカユニット用取付部材はそれ自身と被取付部材を貫通し、制振ブラケットに到達する締結材によって被取付部材と制振ブラケットに取り付けられるため、スピーカユニット用取付部材と制振ブラケットは互いに重なり合う形状をする。
この場合、制振ブラケットにスピーカユニット用取付部材が組み合わせられることで、被取付部材の背面に制振ブラケットを、表面にスピーカユニット用取付部材を取り付け、制振ブラケットとスピーカユニット用取付部材とによって被取付部材を挟み込むことができる。この結果、制振ブラケットとスピーカユニット用取付部材の2つの部材によって被取付部材を補剛することができるため、被取付部材の剛性が向上し、被取付部材における振動の発生を効率的に抑止することができる。
制振ブラケットにスピーカユニット用取付部材が組み合わせられる結果として、両者を合わせた、被取付部材が負担する質量の増加が懸念される場合には、スピーカユニット用取付部材はその厚さ方向の片面側が開放した溝部を有する筺体部を備える形態を有する(請求項23)。この場合、スピーカユニット用取付部材が溝部を有する筺体部を備えることで、スピーカユニット用取付部材自身の質量が抑えられ、制振ブラケットも溝部を有する筺体部を備えることで、制振ブラケットとスピーカユニット用取付部材を合わせた質量を低減することができる。
被取付部材の開口部回りの部分が厚肉部と薄肉部を有し、肉厚の相違に起因して各部の固有振動数が相違し、異音が発生する可能性がある場合には、制振ブラケットを被取付部材の薄肉部に接触させた(重ねた)状態で被取付部材に取り付けることが行われる(請求項24)。
被取付部材が厚肉部と薄肉部を有する場合にも、被取付部材の片面が面一(平坦)であれば、その片面に制振ブラケットを重ねたときに、被取付部材を制振ブラケットによって一様に補剛することができるため、厚肉部と薄肉部の肉厚の差による振動数の差を低減でき、異音の発生が抑止される。
図1は互いに連結され、スピーカユニット8が取り付けられる、例えば自動車のドアパネル(インナーパネル)等の被取付部材7に取り付けられるための複数の取付部材21、22を備えたスピーカユニット用制振ブラケット(以下、制振ブラケットと言う)1の構成例を示す。図1では制振ブラケット1が2個の取付部材21、22に分割されているが、制振ブラケット1の分割数、すなわち取付部材21、22の個数は問われず、図21に示すように3個以上の場合もある。
取付部材21の一端はそれに隣接する取付部材22に厚さ方向の軸の回りに回動自在に連結され、他端はその側の取付部材22に分離自在に連結される。この取付部材21の他端がその側の取付部材22に連結されたときに、制振ブラケット1は閉じた環状に形成される。
制振ブラケット1が2個の取付部材21、22からなる図1では一方の取付部材21を制振ブラケット1の周長の1/4〜1/3程度の長さにしているが、各取付部材21、22の長さは任意である。以下、周長の小さい取付部材を21、大きい取付部材を22とする。図面では制振ブラケット1を円環状に形成しているが、車のドアの形状及び寸法等、または車のドアに取り付けられるスピーカの形状及び寸法等を考慮し、楕円形状や多角形状に形成することもある。制振ブラケット1の内周の形状は被取付部材7の開口部71の形状に対応し、図10〜図13に示すように開口部71が円形である場合には制振ブラケット1の内周の形状も円形になる。
取付部材21の一端には取付部材22に回動自在に連結されるための挿通孔21aと、連結状態で固定されるためのねじ孔等の固定孔21bが形成される。取付部材22の、挿通孔21aと固定孔21bに対応する箇所にも挿通孔22aと固定孔22bが形成される。取付部材21の一端はその挿通孔21aと取付部材22の挿通孔22aをピン等の連結材3が挿通することにより厚さ方向の軸の回りに回動自在に取付部材22に連結される。取付部材21の一端は取付部材22に連結された状態で、固定孔21bと固定孔22bにねじ等の締結材4が螺入等することにより取付部材22に固定される。
取付部材21の他端にはそれが閉じたときに締結材4によって取付部材22に固定されるための固定孔21cが形成され、それに対応する取付部材22にも締結材4が螺入等する固定孔22cが形成される。
取付部材21は連結材3によって取付部材22に連結された状態では図1−(b)に示すように連結材3の軸回りに回動自在となり、この状態で後述する被取付部材7の開口部71からその背面側へ挿入可能となる。取付部材21は(c)、(d)に示すように両側の固定孔21b、21cに締結材4が螺入したときに取付部材22に連結された状態になり、閉じた制振ブラケット1を構成する。(b)、(c)は(a)、(d)の反対側の面を示している。
取付部材21、22の板厚は制振ブラケット1の板厚が周方向に略一定となるよう、互いに略等しくなっているが、それぞれの両端部は板厚方向に互いに重なって連結されることから、両端部の板厚は重なったときに制振ブラケット1の板厚となるよう、制振ブラケット1の板厚の半分程度になっている。
挿通孔21aが形成された取付部材21の一端の周面は取付部材22に対し、連結材3の回りに自由に回動できるよう、連結材3を中心とする円弧状に形成されている。取付部材22の、取付部材21の一端が重なる部分には取付部材21に対応した円弧状の切り欠き部26が形成されている。取付部材22の、取付部材21の他端が重なる部分には取付部材22に連結されている取付部材21の他端が取付部材22の内周(中心)側へ回動しないよう、取付部材21の他端が係止する形状をしている。
取付部材21、22(制振ブラケット1)の材料は問われないが、被取付部材7に対する剛性を向上させる点では、質量の大きい鉄、アルミニウムその他の金属材料、木材の他、ABSやゴム等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂材料が適する。
制振ブラケット1には被取付部材7に取り付けられるための複数個のねじ孔等の貫通孔1aが周方向に間隔を置いて形成される。貫通孔1aは被取付部材7への取付状態で安定するよう、周方向に略等間隔にて配置される。図面では相対的に周長の大きい取付部材22に貫通孔1aを形成している。貫通孔1aにはねじ等の締結材41が貫通、もしくは螺入し、締結材41が被取付部材7に螺入することにより制振ブラケット1が被取付部材7に取り付けられる。
制振ブラケット1を構成する取付部材21、22のいずれかの、被取付部材7と対向する面には、被取付部材7に締結材4等を用いて取り付ける際、制振ブラケット1と被取付部材7との接触状態を確保するために、必要により粘着剤等の密着用部材が配置される。密着用部材には制振ブラケット1と被取付部材7との接触状態を維持できる材料であればよく、公知の材料を用いることができる。密着用部材を取付部材21、22に配置することで、制振ブラケット1を被取付部材7に簡易に取り付けることが可能になる。
制振ブラケット1は一方の面(片面)が被取付部材7の表面、もしくは背面に当接(接触)した状態で被取付部材7に取り付けられ、図6−(a)に示すように他方の面には何も取り付けられない場合と、図7に示すようにスピーカユニット8のフレーム81が重なって取り付けられる場合がある。
図7の場合、制振ブラケット1は一方の面が被取付部材7に当接して取り付けられ、他方の面にフレーム81が当接して取り付けられるから、フレーム81は取付部材21、22の、貫通孔1a以外の部分に取り付けられる。貫通孔1a以外の部分にはフレーム81を接合するためのねじ等の締結材42を受けるねじ孔等の連結孔1cが形成される。
この関係で、貫通孔1aがフレーム81に干渉しないよう、図1では環状の制振ブラケット1の外周寄りの位置にその外周側へ張り出すフランジ部1bを複数箇所、形成し、この各フランジ部1bに貫通孔1aを形成している。ここではフランジ部1bを制振ブラケット1の周方向に所定の間隔を置いた3箇所に形成している(図1ではフランジ部1bが略等間隔で配置されるように形成している)。
フランジ部1bの形成数は問われないが、奇数個となるように配置することが不要な振動を抑止できる点で、好ましい。スピーカユニット8のフレーム81は全貫通孔1aの内周側に配置されることになる。連結孔1cは取付部材21、22の、フランジ部1b以外の部分に形成される。連結孔1cも制振ブラケット1に対し、フレーム81を安定させて支持する上で、取付部材21、22の周方向に間隔を置いて複数個形成される(図1ではフランジ部1bが略等間隔で配置されるように形成している)。
図1ではまた、制振ブラケット1が被取付部材7に当接した状態で取り付けられるときに、被取付部材7の肉厚が制振ブラケット1の周方向に均一でない場合(厚肉の箇所と薄肉の箇所とを有する)に備えた貫通孔1aを形成している。具体的には被取付部材7と制振ブラケット1を貫通する締結材41の螺合長さ(深さ)の相違に対応するために、締結材41の螺入に伴って雌ねじ(貫通孔1a)が形成されるセルフタッピング型のインサートナット5、又は予めねじ切りされているナット等を使用し、フランジ部1bの貫通孔1a部分に形成された開口に挿入している。この場合、インサートナット5の雌ねじが貫通孔1aになる。
図2は取付部材21、22の板厚方向の片面側に筺体部23が形成され、この筺体部23に、その表面側が開放した溝部24が形成された制振ブラケット1の製作例を示す。筺体部23は図2、図3に示すように取付部材21、22本体の片面側に形成される。溝部24を有する筺体部23は主に取付部材21、22自身の質量を軽減するためと、溝部24内に後述の内部構成部材又は振動抑制材61(62)を配置、もしくは充填するために形成される。
図2では溝部24が制振ブラケット1の周方向に略等間隔にて配置されるよう、取付部材21に1つの溝部24を形成し、取付部材22に3つの溝部24を形成している。但し、溝部24の形状、形成数は適宜変更可能であり、溝部24は両取付部材21、22に周方向に連続的に形成されることもある。
筺体部23が形成される場合、取付部材21、22は筺体部23がない図1に示す取付部材21、22に筺体部23が付加された板厚を有し、上記したフランジ部1bにおいて被取付部材7に取り付けられる関係で、フランジ部1bは取付部材21、22の板厚方向の片側へ寄った位置(片面側)に形成される。フランジ部1bには貫通孔1aが形成される。
フランジ部1bが取付部材21、22(制振ブラケット1)の板厚方向の片側へ寄った位置(片面側)にあることから、筺体部23は制振ブラケット1の板厚方向には図6−(a)に示すようにフランジ1bが形成される面側とは反対の面側が開放している場合と、(b)に示すようにフランジ1bが形成される面側が開放している場合がある。フランジ1bが形成される面側とは反対の面側が開放した筺体部23を有する、図2に示す制振ブラケット1の一部を図4−(a)に、フランジ1bが形成される面側が開放した筺体部23を有する制振ブラケット1の一部を図4−(b)に示す。
図8、図9は制振ブラケット1と組み合わせられて使用されるスピーカユニット用取付部材(以下、ユニット用部材と言う)9の形成例を示している。上記した筺体部23のフランジ1bが形成される面側が開放している図6−(b)に示す制振ブラケット1は図8−(a)に示すユニット用部材9と同様の形態をする。フランジ1bが形成される面側とは反対の面側が開放した図6−(a)に示す制振ブラケット1は図9−(a)に示すユニット用部材9と同様の形態をする。
取付部材21、22に筺体部23が形成される場合にも、取付部材21、22にはスピーカユニット8のフレーム81が取り付けられるための連結孔1cが形成される。筺体部23が形成される場合の連結孔1cは筺体部23の溝部24を閉塞する後述の蓋部材25を取り付けるためにも兼用される。
図2ではフランジ部1bに形成されている貫通孔1aとの間の距離を確保するために、連結孔1cを溝部24内に形成しているが、溝部24外に形成することもある。連結孔1cと貫通孔1aとの間の距離を確保することで、貫通孔1aを貫通する締結材41に生ずる振動と、連結孔1cを貫通する締結材42に生ずる振動とを制振ブラケット1上で互いに干渉させ、前記締結材41に生ずる振動や、締結材42に生ずる振動を減衰、もしくは相殺することが可能になる。
筺体部23は図3−(a)、(b)に示すように取付部材21、22本体の片面に、制振ブラケット1の径方向又は周方向に並列する壁部23a、23aが板厚方向に張り出すことにより、取付部材21、22本体の片面側が開放した形状で形成される。(a)は並列する壁部23a、23a間に厚肉部23bが形成され、その厚肉部23bに溝部24が形成された場合、(b)は並列する壁部23a、23a間の空間が溝部24となった場合である。
図3はまた、並列する壁部23a、23a間に壁部23aに交差する方向に隔壁(仕切り壁)23cを形成した場合を示している。隔壁23cは溝部24を周方向に仕切ることで、溝部24に内部構成部材又は振動抑制材61(62)が充填される場合の、内部構成部材又は振動抑制材61(62)の収納領域を区画している。この他、隔壁23cは取付部材21、22本体の板厚方向と、壁部23aの板厚方向を向くことで、それぞれの方向の曲げ剛性を高め、筺体部23、すなわち取付部材21、22自身の剛性を高めている。
並列する2つの壁部23a、23a間に隔壁23cが形成された場合、溝部24は取付部材21、22の周方向に複数形成される形になる。溝部24が複数形成されることで、溝部24内部に内部構成部材又は振動抑制材61(62)を充填する場合に、充填箇所を任意に設定でき、制振性の向上を図ることができる。
前記のように制振ブラケット1にはスピーカユニット8のフレーム81が当接した状態で取り付けられる場合があり、その場合、フレーム81はフランジ部1a以外の位置における筺体部23に取り付けられるから、筺体部23には図3−(a)、(b)に示すようにフレーム81が取り付けられるための連結孔1cが形成される。
図3−(a)は並列する2つの壁部23a、23a間に厚肉部23bを有する場合の連結孔1cの形成例を示す。この場合、連結孔1cは厚肉部23bに穿設される形で形成される。厚肉部23bがない(b)の場合には連結孔1cが形成されたボス23dが並列する壁部23a、23a間の、底部23eから突設される。この場合、ボス23dが底部23eに突設されることで、ボス23dが底部23eの剛性を補っている。
図3−(b)の場合、ボス23dの先端が蓋部材25の背面を受けることで、ボス23dは蓋部材25と底部23eとの間の間隔を保持するスペーサにもなっているが、蓋部材25の安定性を高めるために、ボス23dとは別のスペーサを底部23eに突設することもある。図示するように蓋部材25の背面に、壁部23aに内接する脚部25bを形成した場合には、脚部25bの先端を底部23eに当接させることで、脚部25bをスペーサとして利用することもできる。
連結孔1cは筺体部23にフレーム81が取り付けられない場合には、蓋部材25を取り付けるために利用される。筺体部23にはまた、図7−(a)に示すように蓋部材25が取り付けられた状態で、蓋部材25に重なってフレーム81が取り付けられることもあり、その場合、連結孔1cは蓋部材25とフレーム81を同時に取り付けるために利用される。
フレーム81は図7−(a)に示すように筺体部23の溝部24側(開放側)に直接、または後述の蓋部材25を挟んで取り付けられる場合と、(b)に示すように溝部24の反対側に取り付けられる場合がある。(b)の場合、フレーム81を制振ブラケット1に取り付けるための締結材42はフレーム81と筺体部23の底部23eを貫通し、ボス23dの連結孔1cに螺入する。
フレーム81が溝部24側に取り付けられる場合には、筺体部23とフレーム81との接触面積を稼ぐために筺体部23とフレーム81との間に蓋部材25が介在させられることもある。蓋部材25が筺体部23とフレーム81との間に介在する場合には、連結孔1cに螺入する締結材42が蓋部材25にも螺入する。蓋部材25は筺体部23に対し、接着剤(接着用樹脂等を含む)等で接合されていてもよい。
筺体部23の溝部24内に粒状体の内部構成部材又は振動抑制材62が充填される場合には、内部構成部材又は振動抑制材62を漏れのないように溝部24内に収納するためと、筺体部23とフレーム81との接触面積を確保するために、筺体部23には蓋部材25が取り付けられる。蓋部材25が接合される場合、連結孔1cは前記のように蓋部材25を取り付けるための孔と、フレーム81を取り付けるための孔を兼ねる。すなわちフレーム81を貫通する締結材42は蓋部材25も貫通して連結孔1cに螺入等により締結される。蓋部材25は筺体部23に対し、接着剤(接着用樹脂等を含む)等で接合されていてもよい。
図3−(a)に示すように筺体部23が厚肉部23bを有する場合、並列する2つの壁部23a、23aと隔壁23cに囲まれた領域に一定の深さの空間(溝)が形成されるため、蓋部材25は板状であっても安定した状態で筺体部23に固定される。蓋部材25が空間(溝)に納まる形状と大きさを有していれば、全長に亘って厚肉部23bの表面に密着しながら、壁部23aと隔壁23cに内接するため、溝部24を完全に密閉しながら、筺体部23に固定されることになる。
図3−(b)に示すように底部23eにボス23dが突設された場合には、ボス23dがスペーサとして底部23eとの間の間隔を保持する。このため、隔壁23cの高さをボス23dの高さに合わせることで、蓋部材25が平板状であっても(a)の場合と同様に溝部24を密閉しながら、蓋部材25を筺体部23に固定することができる。いずれの場合も、蓋部材25の、連結孔1cに対応した位置に貫通孔25aが形成される。図3−(b)の場合には、蓋部材25の筺体部23側に、取り付けられた状態での安定性を高めるために底部23eに当接する板状、もしくは棒状の脚部25bが形成されることもある。
蓋部材25の形状と長さ(周長)は筺体部23の溝部24が筺体部23の周方向に連続的に形成されているか、断続的に形成されているかによって適宜決めてもよい。例えば図3−(a)に示すように溝部24が隔壁23cによって筺体部23の周方向に区分される場合には、蓋部材25は筺体部23を周方向に分割した形状をし、各蓋部材25はその区分された区間単位の周長を持つ。図3−(b)に示すように溝部24が隔壁によっては筺体部23の周方向に完全に区分されない場合には、蓋部材25は筺体部23を周回する形状の環状に、または環を周方向に複数に分割した形状に形成される。
筺体部23に重なった状態の蓋部材25は壁部23aと隔壁23cによって位置決めされることも可能であるが、図4では蓋部材25の位置決め作業を簡単に行うために、並列する壁部23a、23aの内、少なくともいずれか一方を他方側へ湾曲させ、湾曲部1dを形成している。蓋部材25の、湾曲部1dに対応した位置は湾曲部1dの形状に応じて切り欠かれた形状をする。この場合、湾曲部1dが対向する壁部23a側へ突出することで、壁部23a、23a間に蓋部材25を配置する際に、蓋部材25を筺体部23に落とし込むことのみで、その位置決めを行うことができる。
図4−(a)は筺体部23が図3−(a)に示す形態の場合の取付部材21(22)と蓋部材25との関係を、図4−(b)は筺体部23が図3−(b)に示す形態の場合の取付部材21(22)と蓋部材25との関係を示す。図4−(c)は(a)、または(b)に示す筺体部23に蓋部材25を取り付けた様子を示す。図4−(c)はまた、筺体部23の溝部24に形成されたボス23dの内部に図1に示すインサートナット5を使用(埋設)した場合を示している。
蓋部材25には筺体部23(制振ブラケット1)と同一の材料が使用されることもあるが、両者間での振動の伝播を抑制する場合には筺体部23と異なる材料の使用が適切である。例えば制振ブラケット1の筺体部23を金属であるアルミニウムで製作した場合には、蓋部材25にはアルミニウム以外の、鉄等の金属の他、合成樹脂、木材等で製作される。この他、筐体部23と蓋部材25の共振振動数を互いに異ならせることで、振動(共振)を減衰、又は相殺させるために、筐体部23と蓋部材25を互いに異なる材料で形成することもある。
筺体部23に蓋部材25が取り付けられる場合には、蓋部材25に筺体部23(取付部材21、22)と異なる(固有振動数の異なる)材料を使用することで、蓋部材25と筺体部23が、スピーカユニット8が発生する音波に起因して発生する振動を互いに打ち消すことが可能である。特に蓋部材25に例えば合成樹脂発泡体等の内部構成部材又は振動抑制材61と同様の材料を使用することで、スピーカユニット8が発生する振動の筺体部23(取付部材21、22)への伝播を効果的に抑止することが可能である。
内部構成部材又は振動抑制材61には筺体部23の溝部24の内部に納まる形状、もしくは筺体部23の溝部24の内部に納まる形態の材料が使用されることもある。溝部24内部に納まる内部構成部材又は振動抑制材61としては溝部24に嵌合する形状の板状、もしくは棒状の材料の他、溝部24の内部に充填される粒状体の材料が使用される。図5は溝部24内部に粒状体の振動抑制材62を充填した様子を示している。粒状体の振動抑制材62としては単一の材料が使用される場合と、複数の材料が混合された状態で使用される場合がある。
単一の材料としては例えば砂、合成樹脂発泡体のビーズ、あるいは金属製、もしくは合成樹脂製のベアリングボール等の粒状体が使用される。この粒状体に混合される材料としては無機材料の粉末、または合成樹脂発泡体の粉末等が使用される。
質量のある粒状体を使用する場合には粒状体間に接触時に生ずる摩擦力による熱エネルギに振動エネルギが変換され、消費されるため、振動の伝播を抑制でき、発泡体の粉末を混合した場合には発泡体自身が振動の伝播を抑制することができる。
制振ブラケット1(取付部材21、22)が筺体部23を有する場合、制振ブラケット1は図6に示すように被取付部材7の背面に取り付けられる場合と、図7−(a)、(b)に示すように表面に取り付けられる場合がある。それぞれの場合に、(a)に示すように筺体部23の溝部24が被取付部材7に面しない場合と、(b)に示すように面する場合がある。更にこれらの各場合に、筺体部23に蓋部材25が取り付けられる場合と取り付けられない場合がある。
図6、図7では図3−(b)に示す形状の筺体部23を有する制振ブラケット1を示しているが、図3−(a)に示す形状の筺体部23を有する制振ブラケット1も同様に使用される。図7−(c)、(d)は制振ブラケット1を被取付部材7の背面に取り付け、スピーカユニット8のフレーム81を被取付部材7の表面に取り付けた場合を示している。
制振ブラケット1が被取付部材7の背面に取り付けられる場合には、図6に示すように被取付部材7の表面にユニット用部材9が取り付けられ、基本的には制振ブラケット1とユニット用部材9とが対になった形で使用される。この他、図7−(c)、(d)に示すように被取付部材7の表面に取り付けられるスピーカユニット8と制振ブラケット1とが対になった形で使用される場合もある。図7−(c)、(d)の場合、制振ブラケット1の連結孔1c(ボス23d)はスピーカユニット8のフレーム81を貫通する締結材42を受けるために利用される。
制振ブラケット1が被取付部材7の表面に取り付けられる場合には、図7−(a)、(b)に示すように制振ブラケット1は単独でスピーカユニット8を被取付部材7に取り付けるために使用される。
筺体部23の溝部24が被取付部材7に面する図6−(b)、図7−(b)、(d)の場合には、制振ブラケット1の被取付部材7との接触面積を確保し、制振ブラケット1からの振動が被取付部材7へ伝播することを抑止するために、筺体部23に蓋部材25が重なった状態で、制振ブラケット1が被取付部材7に取り付けられる。
図7−(b)の場合、制振ブラケット1の底部23eの背面にスピーカユニット8のフレーム81が重なり、フレーム81と底部23eを貫通し、ボス23dの連結孔1cに螺入する締結材42によってフレーム81が制振ブラケット1に取り付けられる。
溝部24が被取付部材7に面しない状態で制振ブラケット1が被取付部材7の背面に取り付けられる図6−(a)の場合、筺体部23には蓋部材25が取り付けられる場合と取り付けられない場合がある。
筺体部23の溝部24が被取付部材7に面しない場合に、溝部24がスピーカユニット8に面する図7−(a)の場合には、両者間での振動の伝播を抑制するために、筺体部23に蓋部材25が取り付けられる。蓋部材25にスピーカユニット8のフレーム81が取り付けられる場合には、フレーム81と蓋部材25を貫通し、制振ブラケット1の貫通孔1cに螺入する締結材42によってフレーム81と蓋部材25が同時に筺体部23に取り付けられる。
被取付部材7の表面にユニット用部材9が配置される図6の場合、フレーム81はユニット用部材9に重ねられて取り付けられる。ここに示すユニット用部材9は後述のように溝部92が形成された筺体部91を有し、溝部92にユニット用部材9を取り付けるための締結材41が螺入する連結孔9cが形成される。筺体部91の溝部92は底部93によって区画され、筺体部91には溝部92を閉塞する蓋部材94が取り付けられる。
フレーム81はそれ自身と蓋部材94、または底部93を貫通し、連結孔9cに螺入する締結材42によってユニット用部材9に取り付けられる。前記のように被取付部材7の背面に制振ブラケット1(取付部材21、22)が取り付けられ、図7−(c)、(d)に示すようにスピーカユニット8のフレーム81と制振ブラケット1が被取付部材7を挟持するようにそれぞれが配置されることもある。
図8、図9にユニット用部材9の製作例を示す。ここでは、ユニット用部材9にも制振性を持たせるために、厚さ方向の片面側が開放した溝部92を有する筺体部91を形成しているが、ユニット用部材9は筺体部91を持たない場合もある。ユニット用部材9は制振ブラケット1と被取付部材7を挟んで対になった状態で被取付部材7に取り付けられる関係から、制振ブラケット1と同様の形状を有する。
具体的にはユニット用部材9の本体には筺体部91の有無に関係なく、被取付部材7に取り付けられるための貫通孔9aを有するフランジ部9bが複数個形成される。筺体部91を有する場合には、筺体部91に取り付けられる蓋部材94が取り付けられるための連結孔9cが形成される。筺体部91の溝部92内には前記した内部構成部材又は振動抑制材61、62が配置、もしくは充填されることもある。
ユニット用部材9のフランジ部9bは図6に示すように被取付部材7を挟んで制振ブラケット1のフランジ部1bと対向するから、フランジ部1bと略同一位置に形成され、被取付部材7にはフランジ部9bの貫通孔9aと被取付部材7の貫通孔7aを貫通し、フランジ部1bの貫通孔1aに螺入する締結材41によって取り付けられる。
図8はユニット用部材9のフランジ9bが形成される面側が開放した形で筺体部91が形成されたユニット用部材9を、図9はフランジ9bが形成される面側とは反対の面側が開放した形で筺体部91が形成されたユニット用部材9を示す。いずれの場合も、筺体部91には溝部92を閉塞する蓋部材94が取り付けられる。図8に示すように溝部92がユニット用部材9の周方向に連続して形成された場合には、それに対応して蓋部材94も周方向に連続した環状に形成される。図9に示すように溝部92が周方向に断続的に形成された場合には、周方向に分割された形の蓋部材94が使用される。
図6−(a)はフランジ部9bが形成された面とは反対の面側が開放した図9に示すタイプのユニット用部材9を制振ブラケット1と組み合わせて被取付部材7に取り付けた場合、(b)はフランジ部9bが形成された面側が開放した図8に示すタイプのユニット用部材9を組み合わせて被取付部材7に取り付けた場合である。いずれの場合も、ユニット用部材9の筺体部91にスピーカユニット8のフレーム81が重なって取り付けられる。筺体部91の溝部92には振動の低減、もしくは内部構成部材又は振動抑制材62の密封のために蓋部材94が配置され、蓋部材94はフレーム81を筺体部91に接合する締結材42により、フレーム81と共に筺体部91に取り付けられる。
図6−(a)、(b)の場合、前記のようにユニット用部材9はそのフランジ部9bにおいて貫通孔9aと被取付部材7の貫通孔7aを貫通し、その背面に配置されている制振ブラケット1の貫通孔1aに螺入する締結材41によって制振ブラケット1と共に被取付部材7に取り付けられる。
図6−(a)の場合、締結材42はフレーム81に形成された貫通孔81aと蓋部材94の貫通孔94aを貫通し、筺体部91の溝部92に形成されている連結孔9cに螺入する。(b)の場合、締結材42はフレーム81に形成されている貫通孔81aを貫通し、溝部92の貫通孔9cと蓋部材94の貫通孔94aに螺入する。
図7は制振ブラケット1を被取付部材7の表面に取り付け、その筺体部23にスピーカユニット8のフレーム81を重ねて取り付けた場合である。(a)は筺体部23の溝部24をフレーム81側に向けた場合、(b)は被取付部材7側に向けた場合である。いずれの場合も溝部24には蓋部材25が取り付けられる。
図7−(a)の場合、締結材42はフレーム81の貫通孔81aと蓋部材25の貫通孔25aを貫通し、筺体部23の連結孔1cに螺入する。(b)の場合、締結材42はフレーム81の貫通孔81aと筺体部23の底部23eを貫通し、連結孔1cと蓋部材25の貫通孔25aに螺入する。
図10は図6−(a)に示す接合例の制振ブラケット1とユニット用部材9、及びスピーカユニット8と被取付部材7との取り付けの関係を示す。ここでは被取付部材7が車両のドアパネルを構成するインナーパネルである場合を示しているが、被取付部材7はフロントパネルやリアパネル(ダッシュボード)等、静止した状態で使用される構造体の一部であることもある。
ドアパネルは室内側のインナーパネルと室外側のアウターパネルから構成されるが、制振ブラケット1はインナーパネル(被取付部材7)の背面側であるアウターパネル側の面に取り付けられる。インナーパネル(被取付部材7)には制振ブラケット1の貫通孔1a、またはユニット用部材9の貫通孔9aと貫通孔1aを貫通する締結材41が貫通、もしくは螺入する貫通孔7aが形成されている。図10は制振ブラケット1の筺体部23の溝部24側に蓋部材25を配置した様子を示している。
図11は図6−(b)に示す接合例の制振ブラケット1とユニット用部材9、及びスピーカユニット8と被取付部材7との関係を示す。図10、図11の場合、制振ブラケット1は一方の取付部材21を他方の取付部材22から分離させ、開放させた状態で被取付部材7の開口部71内にその表面側から背面側へ差し込まれる。制振ブラケット1の筺体部23に取り付けられる蓋部材25が開口部71を通過できない大きさである場合には、図1に示すように周方向に複数の蓋部材25に分割される。
図12、図13はそれぞれ図7−(a)、(b)に示す制振ブラケット1とユニット用部材9、及びスピーカユニット8と被取付部材7との関係を示す。図13では図7−(b)に示す蓋部材25を省略している。
図14は図10、または図11に示す接合例の場合のドアパネルと制振ブラケット1、及びユニット用部材9とスピーカユニット8との関係を概念的に示す。ここに示すように被取付部材7の背面に制振ブラケット1を配置する場合には、スピーカユニット8の背面側に位置するヨークの周囲を制振ブラケット1が包囲する形になるため、制振ブラケット1に、被取付部材7の背面に生じた結露水からスピーカユニット7を保護することが可能である。
図19は制振ブラケットの取付部材21、22に、被取付部材7に向けて延びる、ねじ等の締結材43を予め形成しておいた場合の被取付部材7への取り付け例を示す。取付部材21、22に形成される締結材43は例えば、被取付部材7の表面側に取り付けられるスピーカユニット8のフレーム81に形成される貫通孔81aを通過し、被取付部材7の表面側からナット44が取り付けられることで、スピーカユニット8のフレーム81と制振ブラケット1を被取付部材7に取り付ける。このように取付部材21、22に予め締結材4を形成しておくことで、制振ブラケット1を被取付部材7に取り付ける作業を単純化することが可能になっている。
図20は被取付部材7と制振ブラケット1の取付部材21、22との間に、両者間での振動の伝播を抑止する緩衝材10を配置した場合の例を示す。緩衝材10の、取付部材21、22の複数の貫通孔1a、または連結孔1cに対応する位置には締結材41(42)が貫通する開口部10aが形成される。この開口部10aには、不使用時に開口部10aを閉塞する充填部材11が取り外し自在に埋設されており、締結材41(42)による制振ブラケット1の被取付部材7への取り付け時に充填部材11が開口部10aから抜き取られる。
緩衝材10は充填部材11を兼ね、制振ブラケット1のいずれかの側面に剥離自在に配置されることもある。その場合、緩衝材10は制振ブラケット1(取付部材21、22)の複数の貫通孔1a又は複数の連結孔1cに対応する箇所毎に配置され、いずれかの貫通孔1a又は連結孔1c毎に制振ブラケット1から剥離(分離)自在になる。このため、制振ブラケット1の貫通孔1a又は連結孔1cを貫通する締結材41、42を被取付部材7、またはスピーカユニット8のフレーム81に挿通させる際に、必要な緩衝材10のみを制振ブラケット1から剥離することができ、誤った緩衝材10を剥離する操作を防止することが可能になる。複数の貫通孔1a又は複数の連結孔1cに対応する箇所が剥がせる緩衝材10を制振ブラケット1と被取付部材7との間に介在させることで、ユーザーが締結材41を用いて制振ブラケット1と被取付部材7を取り付ける際、誤った貫通孔1a又は連結孔1cに締結材41を挿入する等を行い、再度、取り付けをやり直すこと等を抑止させることを可能とする。
前述した例は本発明の代表的な実施形態を示したに過ぎず、各実施形態を自由に組み合わせることもできる。すなわち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
図15、図16に溝部24(筺体部23)を有する本発明の制振ブラケット1にスピーカユニット8を接合した状態でスピーカユニット8に振動を与えたときに、制振ブラケット1に伝達される振動の、時間の経過に伴う減衰の程度を確認した実験結果を示す。図15は溝部24に内部構成部材又は振動抑制材62を充填していない場合、図16は溝部24に内部構成部材又は振動抑制材62としての砂を充填した場合である。
比較のために溝部24(筺体部23)を有しない中実断面の木製ブラケットにスピーカユニット8を取り付けた場合の振動減衰の経過を図17に、溝部24(筺体部23)を有しない中空断面の樹脂製ブラケットの場合の振動減衰の経過を図18に示す。横軸に時間(ms)、縦軸に振幅加速度(m/s2)を取ってある。
図17、図18に示すように中実断面の場合と中空断面の場合のいずれも、ブラケットに伝播した振動(振幅加速度)が一定のレベル、例えば20m/s2以下になるまでにはそれぞれ28ms、32ms程度の時間を要している。
これに対し、図15、図16に示す溝部24を有する制振ブラケット1の場合には15ms程度の時間が経過した時点で、20m/s2以下の振幅加速度になっており、振動伝播の抑制効果が表れていることが分かる。特に図15の場合には17ms経過時から44ms経過時までの間に微小な振動が継続しているのに対し、図16の場合には22ms経過時から微小な振動が継続しないことが分かる。