JPWO2009048067A1 - 糖鎖を持たない遺伝子組換え血液凝固第x因子およびその製法 - Google Patents

糖鎖を持たない遺伝子組換え血液凝固第x因子およびその製法 Download PDF

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Abstract

高活性化血液凝固第X因子(以下、FXという)を提供する。二本鎖の遺伝子組換えFXの効率的な生産方法であって、FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加を阻害することにより、糖鎖を持たない遺伝子組換えFXを発現させることを特徴とする方法、および該方法により得られる糖鎖を持たない遺伝子組換えFXに関する。

Description

本願発明は、酵素活性ならびに遺伝子組換え発現において効率の良い二本鎖発現を可能とする遺伝子組換え血液凝固第X因子(以下、FXと称することがある)に関する。詳細には、本願発明は、FXの活性化ぺプチド領域内に存在する糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加を阻害することにより、糖鎖を持たない遺伝子組換えFXを発現させて発現効率を向上させることにより、二本鎖の遺伝子組換えFXを効率的に産生させる方法に関する。
FXはビタミンK依存性の血液凝固因子であることが広く知られている。他のビタミンK依存性凝固因子と同様にN末端から39残基までのアミノ酸配列に11個のγカルボキシグルタミン酸(以下、Glaと称することがある)からなるGla領域を有している(非特許文献1)。FXは、in vitroにおいて、活性化血液凝固第VII因子(以下、FVIIaと称することがある)、活性化血液凝固第IX因子(以下、FIXaと称することがある)によって、活性化血液凝固第X因子となる(以下FXaと称することがある)。FXは、FVIIIまたはFIXの補充療法により当該血液凝固因子に対してインヒビターを生じた血友病インヒビター患者の治療等に使用される。
ヒトFXは、その生合成の過程において、Gla化、プレプロ配列の切断(この切断後のFXの配列を配列表配列番号1に記載)、そして、配列番号1に記載の配列で63番目のアスパラギン酸のβヒドロキシレーションおよび181番目、191番目のアスパラギン型糖鎖付加および159番目、171番目、443番目のセリン/スレオニン型糖鎖付加などの翻訳後修飾を生じる。FXは一本鎖タンパク質として合成された後、シグナルペプチダーゼの1種であるフーリンにより配列番号1に記載の139番目から142番目に示されるArg-Arg-Lys-Argの切断モチーフにてペプチド鎖の限定分解を受けて、二本鎖タンパク質として分泌されると考えられている。
遺伝子組換えFXの発現においては、この二本鎖発現が重要であり、単に発現ベクターにFXのアミノ酸配列(プレプロ配列を含むFXのアミノ酸配列を配列番号2に記載)をコードするcDNA(配列番号3)を連結しただけの組換え発現では、その発現物の大部分は一本鎖として培養上清中へ分泌され、その比活性も低いことが知られている。
一般的に遺伝子組換え化血液凝固因子においてはその発現量が問題となるケースがあるが、本願発明の血液凝固第X因子の組換え化においては、発現量に加え、二本鎖化のプロセスが律速と考えられた(非特許文献2)。非特許文献2において、Himmelspachらはフーリンを共発現させることで二本鎖化を促進させ、その発現量も120μg/ml以上と十分な高発現を達成しているにもかかわらず、その活性は25%と低いものであった。
Journal of Thrombosis and Haemostasis, 3: 2633-2648 (2005) Thrombosis Research 97: 51-67 (2000)
本願発明の解決すべき課題は、高活性の遺伝子組換え二本鎖FXを作製・提供することである。
上記のような状況において、本発明者らは、高活性の遺伝子組換え二本鎖FXを作製すべく鋭意研究を重ね種々の検討を行った結果、FXの糖鎖に着目し、糖鎖付加を阻害することで二本鎖分泌FXを作製することに成功し本願発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(13)の発明を含むものである。
(1)二本鎖の遺伝子組換え血液凝固第X因子(以下、FXと称することもある)の効率的な生産方法であって、FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加を阻害することにより、糖鎖を持たない遺伝子組換えFXを発現させることを特徴とする方法。
(2)糖鎖を持たない遺伝子組換えFXが、FX内の配列番号1に記載の181番目のアスパラギン(Asn181)部位および/または191番目のアスパラギン(Asn191)部位にアスパラギン型糖鎖を持たない遺伝子組換えFXである、上記(1)に記載の方法。
(3)Asn181部位および/またはAsn191部位にアスパラギン型糖鎖を持たない遺伝子組換えFXが、Asn181および/またはAsn191をAsn以外のタンパク質構成アミノ酸残基に置換することにより得られる、上記(2)に記載の方法。
(4)Asn181部位および/またはAsn191部位にアスパラギン型糖鎖を持たない遺伝子組換えFXが、配列番号1に記載の183番目のトレオニン(Thr183)部位と193番目のトレオニン(Thr193)部位とがトレオニン(Thr)またはセリン(Ser)以外のタンパク質構成アミノ酸残基に置換されることにより得られる、上記(2)に記載の方法。
(5)FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加の阻害を、培養細胞培地中に糖転移酵素の阻害剤を添加することにより行う、上記(1)に記載の方法。
(6)糖転移酵素の阻害剤がツニカマイシン、RNAi、またはアンチセンスDNAのいずれかである上記(5)に記載の方法。
(7)FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加の阻害を、宿主細胞として糖転移酵素欠損細胞株を使用することにより行う、上記(1)に記載の方法。
(8)上記(1)ないし(7)のいずれかの方法により得られる、糖鎖を持たない遺伝子組換えFX。
(9)上記(8)に記載の糖鎖を持たない遺伝子組換えFXをコードする塩基配列を含む遺伝子断片。
(10)上記(9)に記載の遺伝子断片を含む発現ベクター。
(11)上記(10)に記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
(12)上記(8)に記載の糖鎖を持たない遺伝子組換えFXを有効成分として含有する医薬組成物。
(13)上記(12)に記載の医薬組成物からなる血友病患者の治療に有効な薬剤。
本願発明により得られた糖鎖を持たない遺伝子組換えFXは、効率よく二本鎖として発現される。従って、本願発明の遺伝子組換えFXは、血友病患者、特にインヒビター保有患者等への補充療法として極めて有効な薬剤となりうる。
図1は、本願発明により得られた各種遺伝子組換えFXに対する抗体によるウエスタンブロットの結果を示す。BHK細胞を宿主とした遺伝子組換えFXの培養上清中の発現パターンを示す。レーン1:63番目のアスパラギン酸をアラニンに置換した改変体(D63A)上清;レーン2:159番目のスレオニンをアラニンに置換した改変体(T159A)上清;レーン3:171番目のスレオニンをアラニンに置換した改変体(T171A)上清;レーン4:181番目のアスパラギンをアラニンに置換した改変体(N181A)上清;レーン5:191番目のアスパラギンをアラニンに置換した改変体(N191A)上清;レーン6:443番目のスレオニンをアラニンに置換した改変体(T443A)上清;レーン7:野生型組換えFX上清;レーン8:ネガティブコントロール上清
本発明者らは糖鎖付加などの翻訳後修飾部位に着目し、FXのアミノ酸配列の置換等を行うことによって、高い酵素活性を有する遺伝子組換えFXを作製することに成功した。以下に本発明による遺伝子組換えFXについて詳細に説明する。
一般にアスパラギン型糖鎖付加は、アミノ酸配列中のAsn-X-Thr/Ser(Xは、Pro以外の任意のアミノ酸)で表されるサイトに種々の糖転移酵素により小胞体にて開始され、最終的にゴルジ体でさらなる修飾が行われる(Molecular Biology of The Cell 2nd edition, Chapter 8, Bruce Alberts et al. Garland Publishing, Inc.)。したがって、このAsnあるいはThr/Serの配列を他のアミノ酸と置換することで糖鎖付加を阻止することにより、組換えFXの二本鎖化が効率的に行われ、高い活性を有する組換えFXを発現させることが可能となる。
本願発明では、置換に用いたアミノ酸残基は一例として、アラニン(Ala)を選択したが、置換によって酵素活性を失活させるなどの大きな障害を与えない限り、任意のアミノ酸が選択可能である。
前述した糖鎖付加阻止改変体は、遺伝子組換え法を用いて得ることができる。発現宿主としては、動物細胞等の真核細胞が好ましい。本願発明の改変体は、上記各改変体のアミノ酸配列をコードするcDNAを適当な発現ベクターに組み込み、宿主細胞にトランスフェクトし、目的の遺伝子を発現している細胞をクローニングし、得られた安定発現株を培養後、精製することにより得られる。
また、上記のようなアミノ酸置換を行う以外に、ツニカマイシンなどの糖転移酵素の阻害剤を培養細胞培地中に添加することによりアスパラギン型糖鎖付加を阻止することも可能である(Current Protocols in Protein Science VOL.2 Chapter 12, John E. Coligan et al. John Wiley & Sons, Inc.)。
さらに、RNAi、アンチセンスDNAなどの利用による糖転移酵素の発現阻害によってもアスパラギン型糖鎖付加を阻止することが可能である。
その他、宿主細胞として、糖転移酵素欠損細胞株を使用することにより、当該糖付加を阻止することが可能である。
本願発明のFX改変体は、治療、診断または他の用途のために製薬学的調合剤に処方することができる。静脈内投与のための調合剤に対しては、組成物を、通常、生理学的に適合しうる物質、例えば塩化ナトリウム、グリシン等を含み、かつ生理学的条件に適合しうる緩衝されたpHを有する水溶液中に溶解する。また、長期安定性の確保の観点から、最終的剤型として凍結乾燥製剤の形態をとることも考慮されうる。なお、静脈内に投与される組成物のガイドラインは政府の規則、例えば「生物学的製剤基準」によって確立されている。
本願発明のFX改変体からなる医薬組成物の具体的な用途としては、FVIIIまたはFIXの補充療法により当該血液凝固因子に対してインヒビターを生じた血友病インヒビター患者の治療が挙げられる。
以下、本願発明を実施例により例示するが、これら実施例は本願発明を限定するものではない。実施例は改変体を動物細胞(BHK)の培養上清中に発現させたものである。なお、特に断りが無い限り、遺伝子組換えに関わる試薬等は、宝酒造、東洋紡、パーキンエルマーアプライド、New England Biolabs社の製品を用いた。
《実施例1.FXcDNAのクローニング》
ヒト肝臓cDNAライブラリー(オリジーン社)を購入し、文献等(Molecular Basis of Thrombosia and Hemostasis edited by K. A. High and H. R. Roberts, Marcel Dekker, Inc. 1995)で公知のプレプロ配列を含むFXのアミノ酸配列をコードするcDNA配列(配列表3に記載)を基にSalIサイトを付加したFX合成DNAセンスプライマー(FX-S; GGCGTCGACCCACCATGGATGGGGCGCCCACTGCACCTC:配列番号10)及び、XhoIサイトを付加したアンチセンスプライマー(FX-AS; CTCGAGTTATCACTTTAATGGAGAGGA:配列番号11)を用いてPCRを行い、市販のクローニングベクターpCRII(Invitrogen社)にクローニングした。この際、常法によりDNAシークエンスを行い、文献等で公知の配列を有することを確認した。
《実施例2.FX発現ベクターの調製》
発現ベクターpCAGG(特許第2824434号公報)をSalIで消化し、そこにFXをコードした配列を含む上記実施例1で調製したDNAフラグメントをSalI/XhoIでカットしたものをライゲーションし、大腸菌JM109に形質転換し、アンピシリン含有のLB寒天培地上で培養し、形質転換大腸菌を選択した。出現したコロニーを市販の培地で一晩培養し、目的の発現プラスミドを抽出精製し「pCAGFX」を調製した。この発現ベクターのDNAシークエンスを行い、目的の遺伝子配列を有することを確認した。
《実施例3.変異の導入》
実施例1記載のFXのcDNAを制限酵素SalI/XhoIにて消化・抽出し、これをタカラ社製Site-Directed MutagenesisキットMutan-Super Express Km付属のpKFベクターへリクローニングし、キットの添付文書に従い、5'リン酸化合成DNAプライマー配列(表1)を作製し、これを用いて、目的部位荷電アミノ酸のアラニン置換体計6種を作製した。全ての改変体は、自動DNAシークエンサー(ベックマン社製)にて配列を確認した。
Figure 2009048067
《実施例4.改変体発現ベクターの調製》
発現ベクターpCAGG(特許第2824434号公報)をSalIで消化し、そこに点変異を導入した上記実施例3で調製したベクターをSalI/XhoIで消化して得られたフラグメントをライゲーションした。得られたベクターを大腸菌JM109に形質転換し、アンピシリン含有のLB寒天培地上で培養し、形質転換大腸菌を選択した。出現したコロニーを市販の培地で一晩培養し、目的の発現プラスミドを抽出精製し調製した。
《実施例5.各改変体の培養上清への発現》
実施例4で得られた改変体FX発現ベクターを、市販のリポフェクチン試薬(TransIT;タカラ社製)でBHK細胞に対して遺伝子導入を行い、一時発現培養上清を遺伝子導入後3日目に回収した。そして、その上清をセントリコンYM-10(ミリポア社製)で10倍濃縮後、市販のFX定量ELISAキット(フナコシ製)により定量した(表2)。
《実施例6.各改変体の凝固活性の測定》
各改変体の凝固活性は常法に従い、FX欠乏血漿を用いた凝固法で測定した。精製した各改変体を10ng/ml〜10μg/mlになるようにベロナール緩衝液(28.5mMバルビタールナトリウム、125.6mM NaCl、pH7.35)で希釈し、FX欠乏血漿と混合し、37℃で加温後、APTT試薬を添加し、0.025M塩化カルシウム溶液を添加して凝固反応を開始させた。凝固時間を測定し、標準曲線と希釈率より凝固活性を求めた(表2)。さらに凝固活性を蛋白濃度(実施例5、ELISA法で測定)当たりに換算し比活性を求めた(表2)。その結果、本願発明のFX改変体の中に、血漿由来FXあるいは野生型組換えFXと比較して、高い発現量と凝固活性を有するものが存在した(N181A、N191A)(表2)。
Figure 2009048067
《実施例7.各種遺伝子組換えFXのウェスタンブロット》
常法により(Current Protocols in Molecular Biology:Chapter 10 analysis of proteins、Chapter 11 immunologyなど)、本酵素のウエスタンブロット法による検出を行った。具体的には、遺伝子組み換え体の発現の確認として、実施例5に示す手順で得られた改変体発現BHK細胞の培養上清の還元状態でのSDS-PAGEを行った後、PVDF膜への転写後、抗ヒトFXモノクローナル抗体により確認した(図1)。その結果、明らかにAsn181、Asn191のアスパラギン型糖鎖付加サイトに変異を加えたものでは、二本鎖発現が優位であった。

Claims (13)

  1. 二本鎖の遺伝子組換え血液凝固第X因子(以下、FXと称することもある)の効率的な生産方法であって、FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加を阻害することにより、糖鎖を持たない遺伝子組換えFXを発現させることを特徴とする方法。
  2. 糖鎖を持たない遺伝子組換えFXが、FX内の配列番号1に記載の181番目のアスパラギン(Asn181)部位および/または191番目のアスパラギン(Asn191)部位にアスパラギン型糖鎖を持たない遺伝子組換えFXである、請求項1に記載の方法。
  3. Asn181部位および/またはAsn191部位にアスパラギン型糖鎖を持たない遺伝子組換えFXが、Asn181および/またはAsn191をAsn以外のタンパク質構成アミノ酸残基に置換することにより得られる、請求項2に記載の方法。
  4. Asn181部位および/またはAsn191部位にアスパラギン型糖鎖を持たない遺伝子組換えFXが、配列番号1に記載の183番目のトレオニン(Thr183)部位と193番目のトレオニン(Thr193)部位とがトレオニン(Thr)またはセリン(Ser)以外のタンパク質構成アミノ酸残基に置換されることにより得られる、請求項2に記載の方法。
  5. FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加の阻害を、培養細胞培地中に糖転移酵素の阻害剤を添加することにより行う、請求項1に記載の方法。
  6. 糖転移酵素の阻害剤がツニカマイシン、RNAi、またはアンチセンスDNAのいずれかである請求項5に記載の方法。
  7. FXの糖鎖付加に必須なアミノ酸配列への糖鎖付加の阻害を、宿主細胞として糖転移酵素欠損細胞株を使用することにより行う、請求項1に記載の方法。
  8. 請求項1ないし7のいずれかの方法により得られる、糖鎖を持たない遺伝子組換えFX。
  9. 請求項8に記載の糖鎖を持たない遺伝子組換えFXをコードする塩基配列を含む遺伝子断片。
  10. 請求項9に記載の遺伝子断片を含む発現ベクター。
  11. 請求項10に記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
  12. 請求項8に記載の糖鎖を持たない遺伝子組換えFXを有効成分として含有する医薬組成物。
  13. 請求項12に記載の医薬組成物からなる血友病患者の治療に有効な薬剤。
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