JPWO2009041633A1 - コイルドコイルを利用した膜タンパク質標識方法 - Google Patents

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Abstract

膜タンパク質を、その局在や機能に影響を与えることなく、細胞膜上に発現させて簡便かつ迅速に検出する方法を提供する。コイルドコイル2量体を形成する1対のαへリックスペプチドのうち、陰性コイルペプチドを目的膜タンパク質に融合させてタグとし、コイルドコイル2量体を形成する1対のαへリックスペプチドのもう一方のペプチド、陽性コイルペプチドを蛍光色素に結合させてプローブとすることで、目的膜タンパク質と蛍光色素を特異的に結合させ、簡便かつ迅速に該膜タンパク質を検出する。

Description

本発明は、膜タンパク質の細胞内局在及び機能を研究するための方法に関する。より詳細には、本発明は、細胞膜上で発現したタグ融合膜タンパク質を標識、解析する方法に関する。さらに、本発明は前記タグ融合膜タンパク質をコードする遺伝子構築物及びベクター並びにこれらを導入した形質転換体に関する。
生細胞に発現しているタンパク質の細胞内局在や機能を研究するうえで、蛍光イメージングは非常に重要な手法である。これまでに、特定のタンパク質だけを蛍光標識する手法として、目的とするタンパク質と例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)といった蛍光タンパク質を遺伝子レベルで融合させて発現させる方法が開発され、現在頻繁に使用されている。しかしながら、蛍光タンパク質の分子サイズは比較的大きく(GFPで238アミノ酸残基;分子量約26.9 kDa)、融合するタンパク質本来の局在や機能に大きく影響することがしばしばある。また、蛍光タンパク質は、化学合成による蛍光色素ほど、蛍光団を自由に選ぶことはできない。すなわち蛍光色素の吸収や発光の波長特性、明るさ、安定性、またタンパク質周囲の環境(pH、極性、イオン組成)の変化に対する応答性などに対して、選択肢が限られる。共焦点レーザー顕微鏡をはじめとする顕微鏡技術の進歩が著しい現在、生細胞でのタンパク質の構造変化やタンパク質間相互作用をより精度よく定量的に可視化したいという要望は高まっており、蛍光ラベルの小分子化および色素選択肢の拡大は重要な課題である。
一方、タンパク質に合成蛍光色素などの化学物質を標識する方法は、これまで主として精製したタンパク質のシステインやリジン残基などへの修飾に限られていた。しかし近年、生細胞においても、特定のタンパク質を選択的に標識する小分子ラベル法が開発されてきている。このような小分子ラベル法では、目的のタンパク質に6−200残基程度のアミノ酸配列(タグ配列)を融合させて発現させ、外部からタグ配列に特異的に結合する蛍光ラベル分子(プローブ)を加え、標識を行う方法を基本とする。当該方法は、上記の蛍光タンパク質を融合させる方法に比べ、目的タンパク質に融合させる分子(タグ)のサイズが一般に小さくすみ、また合成蛍光色素を利用できるために色素選択肢も拡大する。このため、目的タンパク質本来の局在や機能への影響が比較的小さく、複数の蛍光色素の使用やFRETを利用した解析も可能であり、大いに注目されている。
ラベル化原理としては、大きく分けて1)既知の分子間相互作用を用いるもの(非特許文献1、2及び3)、2)既知の酵素反応を利用するもの(非特許文献4、5及び6)、が報告されている。しかしこれらの手法においても、1)では、タグとして働くアミノ酸配列と金属イオン間の複合体形成を利用するものが多く、特にこの金属イオンが細胞にとって毒性を持ち、問題となる場合がある。また2)の酵素反応を利用する方法では、ラベル化に時間がかかる(典型的には 30分前後)うえに、蛍光ラベル基質を個別に加えなければならないという欠点がある。
このように、目的とするタンパク質本来の局在及び機能に影響せず、細胞毒性が少なく、短時間でラベル化が可能である簡便な生細胞蛍光標識法は開発されていないのが現状であり、特に膜タンパク質においては、標識のための様々な処理を行うことで、膜に局在しなくなったり、局在したとしても本来の機能を有さないおそれがある。
特に、創薬において重要なターゲットの1つである、膜貫通型受容体タンパク質を簡便に標識して視覚的に確認する標識方法の開発は、待ち望まれていた。
これまで、興味ある膜貫通型受容体タンパク質(例えばGPCR)と結合するリガンドを探索するため、興味ある膜貫通型受容体タンパク質又は膜貫通型受容体タンパク質と予測されるタンパク質を発現させた形質転換体に様々な分子を作用させ、その応答を検出するという手法が用いられてきた。しかし、この方法では、膜貫通型受容体タンパク質又は膜貫通型受容体タンパク質と予測されるタンパク質が形質転換体の膜上に実際に発現しているか否か確認できず、検出された応答が目的とする興味ある膜貫通型受容体タンパク質を介したものかどうかは不明確であった。また、この問題を解決するため、目的とする興味あるタンパク質に蛍光タンパク質又は合成蛍光色素を結合させ、タンパク質が膜に局在することを確認する試みもなされてきた。しかし、上述したように、これらの手法はいずれも膜貫通型受容体タンパク質の局在及び機能に影響する、あるいは細胞毒性を有するといった、問題を抱えている。
B. A. Griffin, S. R. Adams, R. Y. Tsien, Science, 281, 269 (1998). A. Ojida, K. Honda, D. Shinmi, S. Kiyonaka, Y. Mori, I. Hamachi, J. Am. Chem. Soc., 128, 10452 (2006). C. T. Hauser, R. Y. Tsien, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104, 3693 (2007). B. H. Meyer, J. M. Segura, K. L. Martinez, R. Hovius, N. George, K. Johnsson, H. Vogel, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103, 2138 (2006). I. Chen, M. Howarth, W. Lin, A. Y. Ting, Nat. Methods, 2, 99 (2005). C. W. Lin, A. Y. Ting, J. Am. Chem. Soc., 128, 4542 (2006).
本発明は、膜タンパク質又は膜タンパク質と予測されるタンパク質を、その局在や機能に影響を与えることなく、細胞膜上に発現させて簡便かつ迅速に検出する方法を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは、タンパク質間相互作用様式の1つであるコイルドコイルに着目して鋭意研究を重ねた結果、コイルドコイル2量体を利用した膜タンパク質標識方法により、上記課題を解決できることを見いだした。すなわち、コイルドコイル2量体を形成する1対のαへリックスペプチドのうち、陰性コイルペプチド(αへリックスの7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいて、生理的pHでe及びgが負に帯電したアミノ酸、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸であって、全体として生理的pHで負に帯電しているαへリックスペプチド)を目的膜タンパク質に融合させてタグとし、コイルドコイル2量体を形成する1対のαへリックスペプチドのもう一方のペプチド、陽性コイルペプチド(αへリックスの7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいて、生理的pHでe及びgが正に帯電したアミノ酸、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸であって、全体として生理的pHで正に帯電しているαへリックスペプチド)を蛍光色素に結合させてプローブとすることで、目的膜タンパク質と蛍光色素を特異的に結合させ、簡便かつ迅速に該膜タンパク質の検出が可能であることを見いだした。(なお、本明細書において、アミノ酸配列の記載は、特に断りがない場合、左側がN末端、右側がC末端を示す。)
さらに、本標識方法は細胞毒性が少なく、本標識方法で標識された膜貫通型受容体タンパク質はその本来の局在及び機能を有する(すなわち、膜に局在し、リガンドとの結合能およびシグナル伝達能力を有する)ことを見いだし、本発明を完成するに至った。なお、本発明はターゲットタンパク質研究プログラムおよびJSTシーズ発掘試験の援助を受けてなされたものである。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
項1.コイルドコイルを形成し得る陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を、陰性コイルペプチドが細胞外側に位置するように発現した形質転換体に、コイルドコイルを形成し得る陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させ;
(ここで、
前記コイルドコイルは、αへリックス構造を有する陰性コイルペプチドとαへリックス構造を有する陽性コイルペプチドからなる2量体コイルドコイルであり;
前記陰性コイルペプチドは、αへリックスの7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいて、生理的pHでe及びgが負に帯電したアミノ酸、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸、b、c及びfが任意のアミノ酸であって、全体として生理的pHで負に帯電しているαへリックスペプチドであり;
前記陽性コイルペプチドは、αへリックスの7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいて、生理的pHでe及びgが正に帯電したアミノ酸、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸、b、c及びfが任意のアミノ酸であって、全体として生理的pHで正に帯電しているαへリックスペプチドであり、
前記形質転換体は哺乳類由来細胞又は酵母を形質転換したものである)
当該形質転換体の膜上に存在する該膜タンパク質を検出する方法。
項2.さらに、陰性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfが生理的pHで正に帯電したアミノ酸である、項1に記載の方法。
項3.さらに、陽性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfが生理的pHで負に帯電したアミノ酸である、項1又は2に記載の方法。
項4.さらに、陰性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのe及びgがグルタミン酸である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
項5.さらに、陽性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのe及びgがリジンである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
項6.さらに、陰性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfがリジンである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
項7.さらに、陽性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfがグルタミン酸である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
項8.陰性コイルペプチドが、14から140アミノ酸残基からなる、項1から7のいずれか1項に記載の方法。
項9.陽性コイルペプチドが、14から140アミノ酸残基からなる、項1から8のいずれか1項に記載の方法。
項10.陰性コイルペプチドが、配列番号3もしくは4の配列からなる、項1から9のいずれか1項に記載の方法。
項11.陽性コイルペプチドが、配列番号1もしくは2の配列からなる、項1から10のいずれか1項に記載の方法。
項12.さらに、陰性コイルペプチドが1〜30アミノ酸残基よりなるリンカーを介して膜タンパク質に融合した、項1から11のいずれか1項に記載の方法。
項13.さらに、蛍光プローブが、陽性コイルペプチドが1〜30アミノ酸残基よりなるリンカーを介して蛍光分子に結合した蛍光プローブである、項1から12のいずれか1項に記載の方法。
項14.陽性コイルペプチドに蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)のためのドナー蛍光分子を結合させた蛍光プローブと、陽性コイルペプチドにFRETのための当該ドナー蛍光分子に対応するアクセプター蛍光分子を結合させた蛍光プローブの、2種類の蛍光プローブを同時に形質転換体に作用させ、陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質が2量体を形成し得るかをFRETにより検出する、項1から13のいずれか1項に記載の方法。
項15.形質転換体に、陰性コイルペプチドを融合した2種類の膜タンパク質を発現させ、当該2種類の膜タンパク質が2量体を形成し得るかを検出する、項14に記載の方法。
項16.膜タンパク質が、膜貫通型受容体タンパク質である、項1から15のいずれか1項に記載の方法。
項17.膜貫通型受容体タンパク質が、GPCRである、項16に記載の方法。
項18.蛍光分子が、Alexa、ローダミン、フルオレセイン、Bodipy、Cy3、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS、Dabcyl、SNARF、NBD、ピレン、クマリンからなる群から選択される、項1から17のいずれか1項に記載の方法。
項19.形質転換体が、HeLa、CHO、293、COS−7、PC12細胞からなる群より選択される哺乳類由来細胞を形質転換したものである、項1から18のいずれか1項に記載の方法。
項20.項1から19のいずれか1項に記載の方法用の陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質をコードする、遺伝子構築物又はベクター。
項21.項20に記載の遺伝子構築物又はベクターを導入し、陰性コイルペプチドが細胞外側に位置するよう、陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を発現した形質転換体。
項22.項16から19のいずれか1項に記載の方法により膜貫通型受容体タンパク質を検出した後に、該膜貫通型受容体タンパク質のシグナル応答を指標としてリガンドとなる物質をスクリーニングする方法。
項23.細胞内カルシウムイオン濃度変化をシグナル応答の指標とする、項22に記載の方法。
項24.項16から19のいずれか1項に記載の方法により膜貫通型受容体タンパク質を検出した後に、さらに該膜貫通型受容体タンパク質にリガンドを作用させることで、該膜貫通型受容体タンパク質が細胞内に取り込まれることを検出する方法。
項25.項13から19のいずれか1項に記載の方法により、細胞外側に陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を発現した形質転換体に、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させ、陰性コイルペプチドと陽性コイルペプチドがコイルドコイルを形成した後に、当該両コイルペプチドを化学的手法により架橋してコイルドコイルをさらに安定化する方法。
項26.架橋のためのリンカーとして用いられる化合物が、Sulfo−GMBSである、項25に記載の方法。
項27.項25又は26に記載の方法により、コイルドコイルを安定化した後、さらに当該両コイルペプチドの架橋に寄与しないペプチド部分を切断し、コイルドコイルの大きさを小さくする方法。
項28.ペプチド部分の切断が、プロテアーゼを用いて行われる、項27に記載の方法。
項29.プロテアーゼがFactor Xaである、項28に記載の方法。
項30.項25又は26に記載の方法において、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブに代えて、陽性コイルペプチドに固体支持体を結合させたものを使用し、陰性コイルペプチドと陽性コイルペプチドがコイルドコイルを形成した後に、当該両コイルペプチドを化学的手法により架橋してコイルドコイルをさらに安定化させ、当該固体支持体を形質転換体から引き離すことにより細胞膜から膜タンパク質を分離させ、当該膜タンパク質及びそれに付着した分子を質量分析装置で解析することで、当該膜タンパク質に付着した分子を同定する方法。
コイルドコイルは、αへリックス構造を持つペプチド(αへリックスペプチド)が相互作用して形成される。αへリックスペプチドを、7アミノ酸ごとにグループ化(a−b−c−d−e−f−g;各アルファベットは1つのアミノ酸を示す)すると、グループ内でa〜gそれぞれの位置にあるアミノ酸は、へリックスの筒上側から見たとき、ほぼ同じ位置に存在することがよく知られている(以後該グループ配列を7アミノ酸反復配列と記す)。
コイルドコイルの形成は、この7アミノ酸反復配列に主に依存している。7アミノ酸反復配列が何回も反復したペプチドがαへリックスを形成し得、特にa及びdの位置に存在する疎水性アミノ酸側鎖がコイルドコイル形成のコアとなり、さらにe及びgに位置するアミノ酸がこの疎水性コアを包みこむ(図1)ことで、へリックスどうしの相互作用を引き起こし得る(J. R. Litowski, R. S. Hodges, J.Biol.Chem., 277, 37372(2002))。また、e及びgに位置するアミノ酸が生理的pHで帯電するアミノ酸である場合、生理的pHでe及びgとは逆に帯電するアミノ酸がfに位置することで、へリックス構造がさらに安定化する。
コイルドコイル2量体は、2つのαへリックスペプチドからなる。
本発明において、コイルドコイル2量体の一方のαへリックスペプチドは、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいてe及びgが生理的pHで正に帯電したアミノ酸(好ましくはリジン、アルギニン、ヒスチジンであり、特に好ましくはリジン)、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸(好ましくはグリシン、アラニン、バリン、プロリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニンであり、特に好ましくはバリン、ロイシン、イソロイシン)であり、b、c及びfが任意のアミノ酸(好ましくはfは生理的pHで負に帯電したアミノ酸(好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸であり、特に好ましくはグルタミン酸))であり、ペプチド全体として生理的pHで正に帯電しているものである。本明細書では、当該αへリックスペプチドを「陽性コイルペプチド」と表記する。なお、陽性コイルペプチドは、必ずしも7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gの整数倍のアミノ酸、すなわち、N末端はa、C末端がgである必要はなく、少なくとも7アミノ酸反復配列が2回以上(好ましくは2〜10、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは3〜5回)反復して含まれていればよい。また、末端部に7アミノ酸反復配列に寄与しないアミノ酸が数残基(好ましくは1〜5アミノ酸残基、より好ましくは1〜3アミノ酸残基)付加されていても、αへリックス構造をとり得ることから、このようなものも本発明でいう陽性コイルペプチドに含まれる。
陽性コイルペプチドは、αへリックス構造を形成し得る程度のアミノ酸残基からなり、14から140アミノ酸残基からなるものが好ましく、14から70アミノ酸残基からなるものがより好ましく、21から35アミノ酸残基からなるものがさらに好ましい。
本発明において、コイルドコイル2量体のもう一方のαへリックスペプチドは、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいてe及びgが生理的pHで負に帯電したアミノ酸(好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸であり、特に好ましくはグルタミン酸)、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸(好ましくはグリシン、アラニン、バリン、プロリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニンであり、特に好ましくはバリン、ロイシン、イソロイシン)であり、b、c及びfが任意のアミノ酸(好ましくはfは生理的pHで正に帯電したアミノ酸(好ましくはリジン、アルギニン、ヒスチジンであり、特に好ましくはリジン))であり、ペプチド全体として生理的pHで負に帯電している。本明細書では、当該αへリックスペプチドを「陰性コイルペプチド」と表記する。なお、陰性コイルペプチドは、必ずしも7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gの整数倍のアミノ酸、すなわち、N末端はa、C末端がgである必要はなく、少なくとも7アミノ酸反復配列が2回以上(好ましくは2〜10、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは3〜5回)反復して含まれていればよい。また、末端部に7アミノ酸反復配列に寄与しないアミノ酸が数残基(好ましくは1〜5アミノ酸残基、より好ましくは1〜3アミノ酸残基)付加されていても、αへリックス構造をとり得ることから、このようなものも本発明でいう陰性コイルペプチドに含まれる。
本明細書で「任意のアミノ酸」とは、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、プロリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸であるが、これに限定されるものではない。
陰性コイルペプチドは、αへリックス構造を形成し得、かつ、当該ペプチドをタグとして付する膜タンパク質の局在及び機能に影響しない程度のアミノ酸残基からなり、14から140アミノ酸残基からなるものが好ましく、14から70アミノ酸残基からなるものがより好ましく、21から35アミノ酸残基からなるものがさらに好ましい。
本明細書において、生理的pHとは、細胞(好ましくは形質転換体)の生命活動が支障なく営まれ得るpHをいい、好ましくはpH4から10、より好ましくはpH5から9、さらに好ましくはpH5から8、なおさらに好ましくはpH5から7である。
本発明で用いる陽性コイルペプチドは、例えば、化学的合成法、遺伝子工学的手法、又は無細胞合成系を用いた合成法などにより得られる。化学合成的手法としては、例えば固相合成法が挙げられる。遺伝子工学的手法としては、例えば、陽性コイルペプチドをコードする核酸を有するベクターで形質転換した形質転換体により製造する方法が挙げられる。無細胞合成系としては、例えば小麦胚芽無細胞タンパク質合成系が挙げられる。
本発明では、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合させたものを蛍光プローブとして使用する。結合させる蛍光分子としては、蛍光強度が強く、かつ分子量がGFPといった蛍光タンパク質に比べて小さい物が好ましい。例えば、Alexa、ローダミン各種(ローダミン110、テトラメチルローダミン(TMR)、テキサスレッドなど)、フルオレセイン、Bodipy、Cy3、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS、SNARF, NBD等が挙げられる。また、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)のためのドナー蛍光分子及びアクセプター蛍光分子をそれぞれ陽性コイルペプチドに結合させ、蛍光プローブを2種類作製し、当該2種類の蛍光プローブを同時に形質転換体に作用させ、FRETにより、陰性コイルペプチドを細胞外側に融合した膜タンパク質が2量体を形成し得るかを検出することも可能である。すなわち、当該膜タンパク質が2量体を形成する場合、FRETが起こるため、これを指標として2量体形成がなされているか否かを調査できる。また、2量体以上の多量体、例えば3量体や6量体を形成する場合もFRETは起こりえるが、当該2種類の蛍光プローブ(ドナーとアクセプター)の使用量およびその比率を様々に変更して検討することで、何量体を形成しているのか予測可能である。FRETのためのドナー蛍光分子及びアクセプター蛍光分子としては、例えばNBD-TMR、Alexa488- Alexa568、フルオレセイン- ローダミン、ピレン- クマリン、EDANS- Dabcyl(それぞれ「ドナー蛍光分子−アクセプター蛍光分子」のペアを示す)等が挙げられる。
蛍光分子は、例えば、TMRまたはAlexa 488のsuccinimidyl エステル2当量を5% N,N-diisopropylethylamine を含むジメチルホルムアミド中 で48 時間反応させることにより、樹脂上の陽性コイルペプチドのN末端に結合される。
また、IANBD2当量を緩衝液 (pH 8.0)中で1時間反応させることにより、溶液中の陽性コイルペプチドのシステイン側鎖に結合される。
また、蛍光分子と陽性コイルペプチドの間に、リンカーを挿入して融合させたものも、本発明の方法に用いる蛍光プローブの範囲に含まれる。当該リンカーはペプチドからなり、1〜30アミノ酸からなるペプチドが好ましく、1〜10アミノ酸からなるペプチドがより好ましく、1〜5アミノ酸からなるペプチドがさらに好ましい。また、当該リンカーを形成するアミノ酸としては、任意のアミノ酸(好ましくはグリシン、アラニン、バリン、プロリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンであり、特に好ましくはグリシン又はアラニン)から選択される。
本発明では、蛍光プローブは、用いる濃度は特に限定されないが、好ましくは10〜500nMの濃度で、より好ましくは10〜200nMの濃度で、さらに好ましくは20〜100nMの濃度で、形質転換体に作用させることができる。
本発明において、膜タンパク質とは、細胞膜(プラズマメンブレン)の外側にその一部が存在して発現するものを意味し、例えば膜貫通型のタンパク質(膜貫通型受容体タンパク質など)や、GPIアンカー型タンパク質等が挙げられる。
本発明において、膜貫通型受容体タンパク質とは、形質転換体において、細胞膜を貫通した構造を有して発現し得、受容体として働き得るタンパク質をいい、自然界に存在するものはもちろん、それを基に例えば遺伝子工学的手法で改変、修飾等したものも含む。特に1回膜貫通型受容体タンパク質及び7回膜貫通型受容体タンパク質が好ましく列挙できるが、これらに限定されるものではなく、これらとは異なる回数膜を貫通した構造を有する受容体や、前述のように人工的な改変、修飾を施されたものも含む。なお、細胞膜を貫通した構造を有して発現し得、受容体として働き得るとは、実際にそのタンパク質の構造や機能の知見が十分に得られていなくとも、相同性検索等のコンピューターを用いた解析又はプレリミナリーな実験結果等により、膜貫通領域を持ち得、受容体として働く可能性が予測される程度で足りる。
本発明において特に好ましい膜貫通型受容体タンパク質としては、例えば、7回膜貫通型受容体タンパク質であるG蛋白質共役型受容体(GPCR)、特にプロスタグランジン受容体、アドレナリン受容体、ドパミン受容体、ケモカイン受容体などが挙げられる。また、上述のように、これらを遺伝子工学的手法等で改変、修飾等したものも、本発明における膜貫通型受容体タンパク質に含まれる。
本発明において、陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質は、陰性コイルペプチドが細胞外側に位置するよう形質転換体で発現される。融合部位は、当該膜タンパク質を形質転換体で発現させた際、細胞外に存在する部位であれば特に限定されるものではないが、C末端又はN末端が細胞外に存在している場合はこれら末端部位が好ましい。例えば、7回膜貫通型受容体タンパク質では、N末端が細胞外に存在することがよく知られており、7回膜貫通型受容体タンパク質に属する受容体(例えばGPCR)を本発明の方法に使用する場合は、N末端に陰性コイルペプチドを融合させるのが好ましい。
また、膜タンパク質と陰性コイルペプチドの間に、ペプチドからなるリンカーを挿入して融合させたものも、本発明の方法に用いるものの範囲に含まれる。特に、膜タンパク質が受容体タンパク質である場合、リンカーを挿入することにより、陰性コイルペプチドを受容体タンパク質のリガンド認識に重要である部位から空間的に離れた部位へ位置させることが可能である。但し、分子量が比較的大きいリンカーを使用すると受容体のリガンド認識を空間的に妨害するおそれもある。よって、当該リンカーとしては、1〜30アミノ酸からなるペプチドが好ましく、1〜10アミノ酸からなるペプチドがより好ましく、1〜5アミノ酸からなるペプチドがさらに好ましい。また、当該リンカーのペプチドは任意のアミノ酸からなる。
本発明は、細胞外側に陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を発現した形質転換体に、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させ、形質転換体の膜上に発現している当該膜タンパク質を検出する方法に係るものである。上記のように、陰性コイルペプチドと陽性コイルペプチドは、生理的pHにおいて安定な2量体コイルドコイルを形成し得るため、当該膜タンパク質の陰性コイルペプチドのみに蛍光プローブの陽性コイルペプチドが結合し、結果として当該膜タンパク質の特異的な検出が可能となる。
しかし、逆に、細胞外側に陽性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を発現した形質転換体に、陰性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させたとしても、形質転換体の膜上に発現している当該膜タンパク質を良好には検出できないことも、本願発明者等は見いだした。
細胞表面は一般に生理的pHで負に耐電しているため、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを形質転換体に作用させると、細胞表面に非特異的に結合するおそれがあり、陰性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを用いるのが妥当と考えられるが、本発明はこの考えを覆すものである。
また、前述したように、本発明の方法を用いて、興味ある膜タンパク質と2量体を形成する膜タンパク質を検出することも可能である。すなわち、興味ある膜タンパク質及び当該膜タンパク質と2量体を形成する可能性のある膜タンパク質それぞれの細胞外部分に陰性コイルペプチドを融合させて形質転換体で共発現させ、また、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を利用した分子間相互作用解析のためのドナー蛍光分子及びアクセプター蛍光分子をそれぞれ陽性コイルペプチドと結合させ、これら2種の蛍光プローブを、前記膜タンパク質を共発現させた形質転換体に作用させてFRETによる分子相互間作用解析を行うことで、共発現させた膜タンパク質が2量体を形成しているかどうかを確認できる。なお、この場合はあらかじめ、共発現させた膜タンパク質各々が、それ自身で2量体形成しないことを確かめておく必要があり、それ自身が2量体を形成する場合(すなわちホモ2量体を形成する場合)は、他のラベル法との併用が必要である。
このように、本発明の方法は、ヘテロ2量体として機能を有する受容体の解析にも有用である。現在までに、GABAB 受容体がGABAB(1)とGABAB(2)のヘテロ2量体ではじめて機能的受容体となること(Nature.1998;396:683−687)や、オピオイドκとδ受容体がヘテロ2量体を形成し,かつヘテロ2量体は単独の受容体の薬物特性とは異なること(Nature.1999;399:697−700)等が報告されており、ヘテロ2量体を形成してはじめて特異的な機能を有する受容体の解析への需要は大きい。前述のように、FRETを利用した本発明の方法を利用することで、受容体タンパク質がヘテロ2量体を形成し得るのかを、簡便に検出可能である。
なお、FRETは、ある波長で励起された蛍光分子(ドナー蛍光分子)のそばに別の蛍光分子(アクセプター蛍光分子)があって、前者の発光スペクトルと後者の吸収スペクトルに重なりがある場合に、ドナー蛍光分子の励起エネルギーがアクセプター蛍光分子へ移動する現象である。近年、生命科学研究において、特に分子間相互作用解析に広く用いられており、例えば、Clegg,1995, Current Opinionsin Biotechnology 6:103−110に概説されている。
本発明は、膜貫通型受容体タンパク質を蛍光プローブにより検出する前又は検出した後、さらに種々のリガンド候補分子を作用させたときの、当該膜貫通型受容体タンパク質の応答を検出することで、当該膜貫通型受容体タンパク質のリガンドをスクリーニングする方法をも含む。例えば、当該膜貫通型受容体タンパク質が細胞内にシグナルを伝える際に、セカンドメッセンジャーとして働く物質(例えばカルシウムイオンやサイクリックAMP等)の濃度変化や、シグナル下流のタンパク質(例えばERKやMEK)のリン酸化を指標として、アゴニストとして働き得るリガンド分子をスクリーニングすることが可能である。さらに、アゴニスト分子を特定した後、アンタゴニストとして働き得る分子をスクリーニングすることも可能である。すなわち、アゴニスト分子を単独で作用させた場合より、混合して作用させると受容体の応答が低くなる(すなわち拮抗して働く)分子を探索することで、アンタゴニスト分子をスクリーニングすることも可能である。
また、アドレナリン受容体など、多くの膜貫通型受容体タンパク質において、リガンド結合によってエンドサイトーシスが起こり、当該膜貫通型受容体タンパク質が細胞内に取り込まれてエンドソームに移行することが知られている。本発明は、膜貫通型受容体タンパク質を蛍光プローブにより検出した後、当該膜貫通型受容体タンパク質のリガンド分子を作用させ、当該膜貫通型受容体タンパク質が細胞内に取り込まれるかどうかを検出する方法をも含む。さらに、エンドサイトーシスにより細胞内にとりこまれると、pH環境が変化することがよく知られている。よって、陽性コイルペプチドに例えばフルオレセインといったpHに応じて蛍光励起波長が異なる蛍光分子を結合したものを蛍光プローブとして使用することで、細胞内に取り込まれたどうかを蛍光強度の変化によっても検出できる。
本発明は、本発明の方法に用いる、陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質をコードする核酸を有する遺伝子構築物及びベクターを含む。ベクターとしては、例えばプラスミドが使用できる。該遺伝子構築物及びベクターは、形質転換のために好ましく利用される。これらの遺伝子構築物及びベクターを細胞へ導入するために、例えば、カチオン性脂質複合体、HVJエンベロープ、カチオニックポリマー、アデノウイルス等を用いることができる。また、エレクトロポレーション、パーティクルガン等の手法を用い、遺伝子構築物及びベクターを直接細胞へ導入することも可能である。
本発明はまた、前記遺伝子構築物及びベクターを用いて形質転換した形質転換体を含む。本発明において、形質転換する細胞は真核生物由来細胞であり、例えば哺乳類由来細胞(好ましくはHeLa、CHO、293、COS−7、PC12細胞等)、酵母(好ましくは出芽酵母、分裂酵母等)等が好ましく例示できる。
また、本発明の方法は、細胞外側に陰性コイルペプチドを融合した膜貫通型受容体タンパク質を発現した形質転換体に、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させ、陰性コイルペプチドと陽性コイルペプチドがコイルドコイルを形成した後に、当該両コイルペプチドを化学的手法により架橋してさらに安定化する方法、及び、当該安定化の後に当該両コイルペプチドの架橋に寄与しないペプチド部分を切断し、コイルドコイルの大きさを小さくする方法も含む。例えば、リガンド候補分子をスクリーニングする際には、コイルドコイルの大きさが小さいほど、当該膜貫通型受容体タンパク質へのリガンド候補分子の結合がより空間的に妨げられにくくなるため、コイルドコイルの大きさを小さくすることは有用である。
当該方法における、架橋のためのリンカーとして用いられる化合物として、例えばSulfo−GMBS、Sulfo−EMCS、Sulfo−KMUS、BMPS、LC-SMCC、MBSが挙げられるが、好ましくはSulfo−GMBSである。また、当該方法における、架橋に寄与しないペプチド部分の切断方法としては、例えばプロテアーゼによる方法が挙げられる。HeLa、CHO、293、COS−7、PC12細胞等、ウシ血清を成分として含む培地で培養する細胞を形質転換して形質転換体として用いる場合は、プロテアーゼの中でも、Factor Xaが好ましい。
なお、特定のアミノ酸残基又はアミノ酸配列を認識する架橋方法やプロテアーゼを使用する場合は、当該アミノ酸残基またはアミノ酸配列を両コイルペプチドに、さらに融合させておく必要がある。リンカー配列中に当該アミノ酸残基またはアミノ酸配列を含ませてもよい。例えば、Sulfo−GMBSは反応基がマレイミド基及びSulfo−NHS基であり、それぞれSH基及びアミノ基と反応することから、側鎖にSH基を有するアミノ酸として例えばシステイン、及び、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸として例えばリジン、が架橋のために必要であるし、Factor Xaはアミノ酸1文字表記でIEGR配列を認識することから、当該配列が必要である。従って、例えば陽性コイルペプチド及び陰性コイルペプチドの各アミノ酸配列に、さらにIEGRC及びIEGRK(IEGRはFactor Xa認識配列であり、その後のC及びKがSulfo−GMBSの架橋に必要なアミノ酸である)配列を加える必要がある。
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。本実施例では下記に示すように、陰性コイルペプチドを融合させる膜貫通型受容体タンパク質としてマウス由来EP3βR(EP3β受容体)を、形質転換させる細胞としてChinese Hamster Ovary 由来CHO細胞を、陽性コイルペプチドに結合させる蛍光分子としてテトラメチルローダミン(TMR)あるいはAlexaFluor488(AF488)を、それぞれ使用した。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例にて用いた発現プラスミド、蛍光プローブ、形質転換体として用いた細胞は以下のように調製した。また、本実施例にて用いた蛍光イメージング、細胞毒性アッセイ方法も以下に示す。
タグ配列付加EP3βR発現プラスミド、並びに、タグ配列及びEYFP付加EP3βR発現プラスミドの作成
本実施例でタグとして使用した陽性コイルペプチド及び陰性コイルペプチドのアミノ酸配列を、表1に示す。なお、表中に、本明細書中での各配列の表記の仕方も示す(例えば、配列番号1のアミノ酸配列は以後「K3」と表記する)。
Figure 2009041633
Hatae, N. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 290, 162-168 (2002)に記載の方法に従って、pcDNA3ベクター(Invitrogen)にマウス由来EP3βR遺伝子をクローニングした。EP3βR−pcDNA3をHind III及びNhe Iで切断し、ここにK3またはE3タグ配列に、N末端に開始コドンを、C末端にGlyGlyGly配列をそれぞれ付与したものに対応する合成オリゴヌクレオチド(K3に対応;配列番号5、E3に対応;配列番号6)を挿入し、ベクターpcDNA3/K3−EP3βRおよびpcDNA3/E3−EP3βRを得た(タグとEP3βR配列の間にリンカーとしてGlyGlyGly配列を挿入した)。
さらに、PCRプライマーTag−EP3F(TAGGGAGACCCAAGCTTCC:配列番号7)およびTag−EP3R(TATCGCGGGCCCATCCTTCCCTGGGAGAAG:配列番号8)を用いて、K3−EP3βRあるいはE3−EP3βRコード領域をPCR法にて増幅し、EYFP−N1ベクター(Clontech) のHind III/Apa Iサイトに挿入してベクターN1/K3−EP3βR−EYFP またはN1/K3−EP3βR−EYFPを得た。なお、PCRはTakara PCR Thermal Cycler PERSONALを用いて、以下の条件にて行った:94℃2分を1サイクル、(94℃15秒、50℃30秒、68℃1分20秒)を30サイクル、その後4℃で保存。(なお、本明細書において、塩基配列の記載は、特に断りがない場合、左側が5’末端、右側が3’末端を示す。)
最後に、N1/K3−EP3βR−EYFP またはN1/K3−EP3βR−EYFPをHind III及びNot Iで切断、pcDNA3のHind III/Not Iサイトに挿入し、ベクターpcDNA3/K3−EP3βR−EYFPおよびpcDNA3/E3−EP3βR−EYFPを得た。DNAシーケンスにより目的の塩基配列を得たことを確認した。
蛍光プローブの調製
Fmoc固相合成法により、N末端を蛍光色素テトラメチルローダミン(TMR)あるいはAlexaFluor488(AF488)でラベルしたK3, K4, E3, E4 ペプチドを合成した。NovaSyn TGR 樹脂(Novabiochem)0.31mmol/g、0.1mmolに、DMF中0.5 mmolのFmocアミノ酸、0.5 mmolのHOBt、0.5 mmolのジイソプロピルカルボジイミドを加え2時間攪拌した。反応の完了はKeiser試験で確認した。Fmoc基の脱保護は20%ピペリジン、20分間行った。樹脂からの脱保護はTFA/エタジチオール/m−クレゾール/チオアニソール/水=12.5/1/1/1/1(v/v)で3時間行った。ジエチルエーテルでペプチドを沈殿後、HPLCにより精製を行った(純度90%以上)。エレクトロスプレーイオン化質量分析により分子量を測定し、目的とするラベル化ペプチドが合成されたことを確認した。
なお、以後、テトラメチルローダミンを結合したK3, K4, E3, E4 ペプチドを、それぞれTMR−K3、TMR−K4、TMR−E3、TMR−E4、と表記し、AlexaFluor488を結合したK3, K4, E3, E4 ペプチドを、それぞれAF488−K3、AF488−K4、AF488−E3、AF488−E4と表記する。
細胞培養およびEP3βR変異体の一過性発現
Chinese Hamster Ovary 由来CHO細胞の培養は、10%ウシ胎児血清(JRH) を含むalpha modification Eagle’s培地(Sigma)中、5% CO, 37°Cで行った。ベクターの導入にはLipofectAMINE およびPLUS試薬(Invitrogen)を用いた。1×10細胞を35 mm径のガラスボトムディッシュ(Iwaki)に播種して1日後、0.3 μgのDNA、2μLのLipofectAMINE、3μLのPLUS試薬を加え、37°C で3時間インキュベートした。
共焦点レーザー顕微鏡による蛍光イメージング
遺伝子導入後24−48時間に、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss LSM PascalまたはNikon C1)による観察を行った。10%血清を含む培地1mLにペプチドプローブを希釈して約5分インキュベート後、培地で一度洗浄し、観察を行った。EYFP、Alexa488は励起:488 nm、蛍光505−530 nm BPフィルター、TMRは励起543 nm、蛍光560 nm LPフィルターで観察した。ペプチドを滴定する場合は、顕微鏡ステージ上を5% CO, 37°C条件に保った。ペリスタックポンプでペプチド溶液10mLを循環し、顕微鏡ステージ外を循環している溶液(約5 mL)にペプチドを順次加えピペッティング混合した。ペプチド濃度が一定になるのを待つために、投与後10−15分待ってから各濃度での蛍光画像を取得した。複数の細胞膜領域の蛍光強度の平均値を用いて(n = 10)定量し、測定した蛍光強度範囲では、色素濃度と蛍光強度がリニアな関係にあることを確かめた。ペプチドを洗浄する場合は、ペプチドを含まない10%血清培地を毎分1mL流し続け、蛍光強度の減少を見た。
細胞毒性アッセイ
96ウェルプレートにCHO細胞(5000/ウェル)を播種して12時間後、培地に溶解したTMR−K3またはTMR−K4(100μL)を投与した。20時間後、WST試薬10μLを加え、1時間後450 nmの吸光度を測定した。また、この波長ではTMRの吸収はほとんど見られず、本アッセイ結果にTMRによる吸収の影響は無いこともあらかじめ確認した。
Fura2による細胞内Ca 2+ イメージング
遺伝子導入24−48時間後、0.5μMインドメタシン、0.5 mMプロベネシドを含む培地で細胞を洗浄後、10μM Fura2−AMで30分染色した。測定は、2mM Ca2+および20 nMのTMR−K4を含むPhysiological Saline Solution 1mL中で行った。測定開始約2分後に、6μMのEP3βアゴニスト(Sulprostone)1mLを混合した(最終濃度3μM)。Fura2蛍光レシオ画像は励起波長を340 nm/380 nmで切り替えながら、蛍光510 nmで取得した。
実施例1:タグ−プローブペアの検討
EP3βR のN末端にK3またはE3タグ配列を融合させ、C末端に受容体の局在を調べるためEYFPを付加した融合膜貫通型受容体タンパク質、K3−EP3βR−EYFPおよびE3−EP3βR−EYFPをそれぞれCHO細胞に一過性に発現させ、K3−EP3βR−EYFPに対してはTMR−E3、TMR−E4蛍光プローブを、E3−EP3βR−EYFPに対してはTMR−K3、TMR−K4プローブを濃度20 nMで加え、培地で1回洗浄後、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った(図2A)。その結果、K3タグに対してTMR−Eプローブを加えた場合にはTMR蛍光がほとんど観測されなかったのに対して、E3タグに対してTMR−K蛍光プローブを加えた場合には、受容体を発現している細胞だけがTMR染色された。また、EYFPの蛍光は細胞膜、細胞内いずれでも見られるのに対し、TMR蛍光は細胞膜のみで見られ、細胞膜表面の受容体のみを蛍光ラベルできることがわかった。ペプチド投与直後(1分以内)から、TMRの染色が見られた。また、E3−EP3βRをCHO細胞に一過性に発現させた場合において、蛍光分子AF488でラベルしたK4ペプチド(AF488−K4)でも、TMR−K4と同様にE3−EP3βR をラベルできた(図2B)。以降、E3タグ−TMR−Kプローブ系のみ詳しい検討を行った。
実施例2:タグ−プローブの結合力(コイルドコイルの安定性)の検討
TMR−K3、TMR−K4プローブのE3タグに対する結合力を調べるため、E3−EP3βR−EYFP発現CHO細胞に、2−100 nM程度の濃度範囲でプローブを滴定した(図3)。各プローブ濃度での、共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を図3Aに、細胞膜のTMR蛍光強度をプロットした結果を図3Bに示す。ここから各プローブの見かけの解離定数を求めた(TMR−K4:K = 6 ± 2 nM, TMR−K3:K = 64 ± 31 nM)。TMR−K3の解離定数は、報告されている緩衝液中のE3−K3の解離定数(約70 nM)と同程度だった(非特許文献7;なお、E3−K4に関しては報告なし)。従って、TMR−K4を用いれば、20 nM程度の低濃度でも、十分なラベル化が行えることが明らかになった。次に、蛍光ラベルされた細胞を、TMR−Kプローブを含んでいない培地でwash out(1mL/min)し、一度ラベルされたプローブがどの程度の時間保たれているか調べた(図3C)。TMR−K3は50 mLの洗浄で約50%解離したのに対し、TMR−K4は80 mLの洗浄後でも約20%しか解離せず、より長時間結合が保たれることがわかった。
実施例3:プローブの細胞毒性、安定性の検討
WST−1アッセイにより、TMR−K3、 TMR−K4のCHO細胞への毒性を調べた。いずれのペプチドも、10μM、1日程度で毒性は見られず、ラベル化に用いる濃度(数十μM)の100倍程度の濃度でも毒性を示さないことを確認した(図4)。
また、TMR−Kプローブの溶液中での安定性を調べた。4℃、0.5%アジ化ナトリウム中で、100〜150μM濃度で1ヶ月間保存した後、HPLCにより解析し、少なくとも1ヶ月程度安定に存在すること確認した(図5)。
実施例4:受容体の機能の確認
TMR−KプローブでラベルされたE3−EP3βRが、受容体の機能を持っているかどうか、Ca2+感受性蛍光色素Fura2による細胞内カルシウムイメージングを用いて調べた。E3−EP3βRを発現し、20 nMのTMR−K4で染色された細胞だけが、EP3βRのリガンドであるSulprostone投与による細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こした(図6)。このことから、TMR−K4が結合したE3−EP3βRが受容体の機能を持つことが確認できた。
すなわち、本標識方法でラベルした膜貫通型受容体タンパク質は、リガンドとの結合能およびシグナル伝達能力を有することが確認された。
このことから、細胞膜に膜貫通型受容体タンパク質を本手法で発現及び標識する前又は後で本形質転換体に対して様々な分子を作用させ、該膜貫通型受容体タンパク質との相互作用を検出することで、該膜貫通型受容体タンパク質のリガンドをスクリーニングすることが可能であることが示された。
実施例5:エンドサイトーシスによる受容体の細胞内在化の確認
βAR(βアドレナリン受容体)のN末端にE3タグを、C末端にEYFPを付加したE3−βAR−EYFPをコードするベクターpcDNA3/E3−βAR−EYFPを以下の手順により作製した。なお、基本的に各操作の条件は上記pcDNA3/E3−EP3βR−EYFPを用いた実験と同様とした。
PCRプライマーAR−F(atagcgataatagctagcgggcaacccgggaacgg:配列番号9)およびAR−R(ataaatgggcccttacagcagtgagtcatttgtactacaattcc:配列番号10)を用いて、 pDONR223/βAR (Open Biosystems)をテンプレートとしてβARコード領域をPCRにより増幅し、増幅断片をNhe IおよびApa Iで処理した。これをpcDNA3/E3−EP3β−EYFPをNheI及びApaIにより処理した断片のNhe I/Apa I サイトに挿入し、pcDNA3/E3−βARを得た。
さらに、PCRプライマーAR−FおよびAR−R2(ataaatgggcccacagcagtgagtcatttgtactacaattcc :配列番号11)を用いて上記と同様にしてpcDNA3/E3−βAR(Stopコドンなし)を作成し、そのApa Iサイトに、pcDNA3/E3−EP3β−EYFPからApa Iで処理した断片(YFPをコード)を挿入することで得た。
さらに、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、TMR−K4 (20 nM) を加え、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った(図7A)。受容体(EYFPで標識される、緑)は、細胞膜だけでなく細胞内部にも存在したが、TMR−K4(赤)は、細胞膜上でのみ観察され、細胞膜上の受容体のみラベルしたことが確認された。また、観察後、さらにTMR−K4プローブラベルした受容体にアゴニスト(イソプロテレノール)を加え、受容体が内在化することを確認した(図7B)。EYFPラベルでは、もともと細胞内に存在するβARをも検出するため、アゴニスト作用前後を比較して内在化の有無を判定することが困難だが、TMR−K4ラベルの場合は、アゴニスト作用前は膜に発現したβARのみを検出できるため、アゴニスト作用前後での内在化の判定が容易であった(図7AのTMR−K4及び図7BのTMR−K4)。
実施例6:タグの分子量を小さくする方法(Small coiled−coil−tag)
E3タグとTMR−K3プローブ(42残基)、及び、E3タグとTMR−K4プローブ(49残基)からなるコイルドコイルをさらに小さくするために、1)タグとプローブがコイルドコイル形成後、2)アミノ基反応性クロスリンカーを用いてプローブとタグを共有結合させ、3)特異的プロテアーゼによりコイルドコイル部分を切り離した(図8)。クロスリンカーには、システイン側鎖のチオール基とリジン側鎖のアミノ基をクロスリンクするSulfo−GMBS(図9)を、プロテアーゼとしてIEGR配列(アミノ酸1文字表記)のC末端側を切断することが知られているFactor Xaを用いた。また、蛍光プローブとして、R3配列のN末端にTMRを、C末端にフルオレセイン (FL) を結合させたものを使用した。すなわち、当該蛍光プローブ及びタグ融合EP3βRは下表に示すものである。
Figure 2009041633
プローブTMR−R3−Xa−C−FLは、不必要なクロスリンクを防ぐため、K3配列のLys をArgに置換し、プロテアーゼ切断配列IEGRおよびクロスリンカーを持つアナログである。蛍光色素としてN末端にTMR、C末端にフルオレセイン (FL) を持つため、プローブを投与後Factor Xa添加前では、FLからTMRへの蛍光励起エネルギー移動が見られ、Factor Xa添加によるIEGR配列切断後は、FLの蛍光が観測された(図8)。この方法では、最終的にK−リンカー−C−FLのみが受容体にラベルされるため、大幅にサイズを小さくすることが可能であった。
標的タンパク質の単離
K4プローブを基盤上に固定し、上述の方法でE3タグとクロスリンクさせることで、標的タンパク質を単離することができる(図10)。この際、細胞膜中において、標的タンパク質と会合している別のタンパク質や、標的タンパク質周囲に存在する脂質分子もともに引き抜かれてくる。これらを、MALDI−TOF型あるいはESI型の質量分析器を用いて解析し、標的膜貫通型受容体タンパク質に付着した分子を同定した。
図1は、コイルドコイル2量体を形成する7アミノ酸反復配列がへリックスを構成する模式図を示す。太い矢印が2つのコイルドペプチドのa−d、a−a、d−d間の疎水性相互作用を、細い矢印が2つのコイルドペプチドのe−g間の静電相互作用を示す。 図2は、GPCRであるEP3βRを、本発明の方法で標識できるか検討した結果を示す。Aは、K3−EP3βR−EYFPおよびE3−EP3βR−EYFPをそれぞれCHO細胞に一過性に発現させ、K3−EP3βR−EYFPに対してはTMR−E3、TMR−E4蛍光プローブを、E3−EP3βR−EYFPに対してはTMR−K3、TMR−K4プローブを濃度20 nMで加え、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った結果である(Aの下の行。またAにおいて左から1列目、2列目、3列目、4列目がそれぞれTMR−E3、TMR−E4、TMR−K3、TMR−K4プローブの結果である。)。なお、Aの中央の行はEYFPの蛍光観察イメージを、Aの上の行は微分干渉顕微鏡イメージを示す。また、Bは、E3−EP3βRをCHO細胞に一過性に発現させ、蛍光分子AF488でラベルしたK4ペプチド(AF488−K4)、TMR−E4蛍光プローブをそれぞれ25 nM加え、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った結果である。 図3は、本発明の方法の蛍光プローブの使用濃度による標識効率、及び本発明の方法におけるコイルドコイルの安定性を検討した結果を示す。
Aは、共焦点レーザー顕微鏡観察イメージであり、プローブ(TMR−K4)の濃度に応じて、細胞膜のTMR蛍光強度が変化する様子を示す(Aの中央列)。なお、Aの左列はEYFPの蛍光観察イメージを、Aの右列は微分干渉顕微鏡イメージを示す。加えたTMR−K4の濃度は、上から順に0、1.5、4.5、9.0、17.9、29.7、58.8、87.4nMである。
Bは、各TMR−K3及びTMR−K4プローブ濃度における、TMR蛍光強度をプロットした結果を示す。見かけの解離定数は、TMR−K4:K = 6 ± 2 nM、TMR−K3:K = 64 ± 31 nMであった。
Cは、蛍光ラベルされた細胞を、TMR−Kプローブを含んでいない培地でwash out(1mL/min)したあとの相対蛍光強度をプロットした結果を示す。TMR−K3は50 mLの洗浄で約50%解離したのに対し、TMR−K4は80 mLの洗浄後でも約20%しか解離しなかった。
図4は、本発明の方法の細胞毒性を検討した結果を示す。具体的には、WST−1アッセイ(20時間incubate)により、TMR−K3、TMR−K4のCHO細胞への毒性を調べた結果を示す。棒グラフは左から順にTMR−K3を1μM、TMR−K3を10μM、TMR−K4を1μM、TMR−K4を10μM加えて検討した結果を示す。また、縦軸はViabilityを示す。 図5は、本発明の方法の蛍光プローブの安定性を検討した結果を示す。具体的には、4℃、0.5%アジ化ナトリウム中で、100〜150μM濃度で1ヶ月間保存した後、HPLCにより解析して得られたクロマトグラムを示す。上側は保存開始時、下側は30日間保存した後のデータを、左側はTMR−K3、右側はTMR−K4のデータを示す。 図6は、本発明の方法で標識したGPCR(TMR−K4プローブでラベルされた、CHO細胞に発現したE3−EP3βR)の、シグナル伝達能を検討した結果を示す。Aの左図は、TMR−K4プローブでラベルされた細胞(すなわち、E3−EP3βRを発現したCHO細胞)を示し、Aの右図は、当該E3−EP3βRを発現したCHO細胞のみが、EP3βRのリガンドであるSulprostone投与によって蛍光強度を増しており、細胞内Ca2+濃度が上昇したことを示す。Bは、TMR−K4プローブでラベルされた細胞及びラベルされていない細胞の蛍光強度を示すものであり、ラベルされた細胞のみ、Sulprostone投与によって蛍光強度を増している。 図7は、アゴニストを作用させることで細胞内に取り込まれ得るGPCRを、本発明の方法により検出可能であることを示す。具体的には、ベクターpcDNA3/E3−βAR−EYFPを導入して発現させたCHO細胞に対し、TMR−K4を20nM加え、さらにβARアゴニストであるイソプロテレノールを添加する検討を行った結果を示す。Aはイソプロテレノール添加前の、Bはイソプロテレノール10μM添加30分後のイメージを示す。A及びBにおいて、下側はTMR−K4の蛍光観察イメージを、中央はEYFPの蛍光観察イメージを、上側は微分干渉顕微鏡観察イメージを示す。 図8は、コイルドコイルを化学的手法によりさらに安定化させ、当該コイルドコイルを切断してその大きさを小さくする方法を示す。 図9は、コイルドコイルの架橋のためのリンカーとして用いられる化合物である、Sulfo−GMBSの化学式及び分子量を示す。 図10は、本発明のコイルドコイルを利用した標識方法を応用して、膜貫通型受容体タンパク質及びそれに付着した分子を質量分析装置で解析することで、当該膜貫通型受容体タンパク質に付着した分子を同定する方法を示す。

Claims (30)

  1. コイルドコイルを形成し得る陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を、陰性コイルペプチドが細胞外側に位置するように発現した形質転換体に、コイルドコイルを形成し得る陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させ;
    (ここで、
    前記コイルドコイルは、αへリックス構造を有する陰性コイルペプチドとαへリックス構造を有する陽性コイルペプチドからなる2量体コイルドコイルであり;
    前記陰性コイルペプチドは、αへリックスの7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいて、生理的pHでe及びgが負に帯電したアミノ酸、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸、b、c及びfが任意のアミノ酸であって、全体として生理的pHで負に帯電しているαへリックスペプチドであり;
    前記陽性コイルペプチドは、αへリックスの7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gにおいて、生理的pHでe及びgが正に帯電したアミノ酸、a及びdが疎水性側鎖を有するアミノ酸、b、c及びfが任意のアミノ酸であって、全体として生理的pHで正に帯電しているαへリックスペプチドであり、
    前記形質転換体は哺乳類由来細胞又は酵母を形質転換したものである)
    当該形質転換体の膜上に存在する該膜タンパク質を検出する方法。
  2. さらに、陰性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfが生理的pHで正に帯電したアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
  3. さらに、陽性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfが生理的pHで負に帯電したアミノ酸である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. さらに、陰性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのe及びgがグルタミン酸である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
  5. さらに、陽性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのe及びgがリジンである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
  6. さらに、陰性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfがリジンである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
  7. さらに、陽性コイルペプチドが、7アミノ酸反復配列a−b−c−d−e−f−gのfがグルタミン酸である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 陰性コイルペプチドが、14から140アミノ酸残基からなる、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 陽性コイルペプチドが、14から140アミノ酸残基からなる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 陰性コイルペプチドが、配列番号3もしくは4の配列からなる、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 陽性コイルペプチドが、配列番号1もしくは2の配列からなる、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
  12. さらに、陰性コイルペプチドが1〜30アミノ酸残基よりなるリンカーを介して膜タンパク質に融合した、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
  13. さらに、蛍光プローブが、陽性コイルペプチドが1〜30アミノ酸残基よりなるリンカーを介して蛍光分子に結合した蛍光プローブである、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 陽性コイルペプチドに蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)のためのドナー蛍光分子を結合させた蛍光プローブと、陽性コイルペプチドにFRETのための当該ドナー蛍光分子に対応するアクセプター蛍光分子を結合させた蛍光プローブの、2種類の蛍光プローブを同時に形質転換体に作用させ、陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質が2量体を形成し得るかをFRETにより検出する、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 形質転換体に、陰性コイルペプチドを融合した2種類の膜タンパク質を発現させ、当該2種類の膜タンパク質が2量体を形成し得るかを検出する、請求項14に記載の方法。
  16. 膜タンパク質が、膜貫通型受容体タンパク質である、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 膜貫通型受容体タンパク質が、GPCRである、請求項16に記載の方法。
  18. 蛍光分子が、Alexa、ローダミン、フルオレセイン、Bodipy、Cy3、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS、Dabcyl、SNARF、NBD、ピレン、クマリンからなる群から選択される、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
  19. 形質転換体が、HeLa、CHO、293、COS−7、PC12細胞からなる群より選択される哺乳類由来細胞を形質転換したものである、請求項1から18のいずれか1項に記載の方法。
  20. 請求項1から19のいずれか1項に記載の方法用の陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質をコードする、遺伝子構築物又はベクター。
  21. 請求項20に記載の遺伝子構築物又はベクターが導入され、陰性コイルペプチドが細胞外側に位置するよう、陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を発現した形質転換体。
  22. 請求項16から19のいずれか1項に記載の方法により膜貫通型受容体タンパク質を検出した後に、該膜貫通型受容体タンパク質のシグナル応答を指標としてリガンドとなる物質をスクリーニングする方法。
  23. 細胞内カルシウムイオン濃度変化をシグナル応答の指標とする、請求項22に記載の方法。
  24. 請求項16から19のいずれか1項に記載の方法により膜貫通型受容体タンパク質を検出した後に、さらに該膜貫通型受容体タンパク質にリガンドを作用させることで、該膜貫通型受容体タンパク質が細胞内に取り込まれることを検出する方法。
  25. 請求項13から19のいずれか1項に記載の方法により、細胞外側に陰性コイルペプチドを融合した膜タンパク質を発現した形質転換体に、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブを作用させ、陰性コイルペプチドと陽性コイルペプチドがコイルドコイルを形成した後に、当該両コイルペプチドを化学的手法により架橋してコイルドコイルをさらに安定化する方法。
  26. 架橋のためのリンカーとして用いられる化合物が、Sulfo−GMBSである、請求項25に記載の方法。
  27. 請求項25又は26に記載の方法により、コイルドコイルを安定化した後、さらに当該両コイルペプチドの架橋に寄与しないペプチド部分を切断し、コイルドコイルの大きさを小さくする方法。
  28. ペプチド部分の切断が、プロテアーゼを用いて行われる、請求項27に記載の方法。
  29. プロテアーゼがFactor Xaである、請求項28に記載の方法。
  30. 請求項25又は26に記載の方法において、陽性コイルペプチドに蛍光分子を結合した蛍光プローブに代えて、陽性コイルペプチドに固体支持体を結合させたものを使用し、陰性コイルペプチドと陽性コイルペプチドがコイルドコイルを形成した後に、当該両コイルペプチドを化学的手法により架橋してコイルドコイルをさらに安定化させ、当該固体支持体を形質転換体から引き離すことにより細胞膜から膜タンパク質を分離させ、当該膜タンパク質及びそれに付着した分子を質量分析装置で解析することで、当該膜タンパク質に付着した分子を同定する方法。
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