JPWO2008126404A1 - チャンバを含む流路部位を有する基板、およびそれを用いて液体を移送する方法 - Google Patents

チャンバを含む流路部位を有する基板、およびそれを用いて液体を移送する方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、その内部を液体が移動する流路部位を有する基板であって、流路部位にチャンバ同士をつなぐマイクロ流路がなくても、基板の回転速度に応じて段階的に、ある領域から次の領域へ溶液が移動できる基板に関する。本発明の基板は、回転軸を中心に回転可能であり、その内部に形成された、チャンバを含む流路部位を有する。前記チャンバの内壁は、前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第1内部面;および前記第1内部面よりも前記中心から遠い位置に配置され、かつ前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第2内部面を有する。さらに、前記第1内部面は、提供される液体の液滴を保持する領域;および前記基板の回転により、前記保持された液滴の接触面積が拡がる領域であって、前記第2内部面と連なっている領域を有する。

Description

本発明は、チャンバを含む流路部位を有する基板、およびそれを用いて液体を移送する方法に関する。
近年、様々な健康診断チップが開発されている。これら健康診断チップのほとんどは、マイクロタス(μ−TAS:Micro Total Analysis System)と呼ばれる微小な流路構造を有するカード型デバイスである。流路を微細化すると、生体から抽出するサンプルの必要量が微量となる点で、非常に有用である。また流路の微細化により健康診断チップを含む装置全体を小型化できれば、比較的大規模の病院だけでなく、診療所や家庭での診断を行うPOCT(Point of care test:その場診断)用途に適用できる。
マクロな系では、送液手段としてポンプが一般的に用いられる。しかしながら、極少量の流体を扱う微小流路では、ポンプに接続したチューブで発生する無効体積(デッドボリューム)を無視することができない。したがってポンプは、POCT用途で用いられるチップの送液手段としては適さないことが多い。
POCT用途で好適に用いられる送液方法の一つに、遠心力を駆動源とした方法がある(例えば、特許文献1〜4)。遠心力による送液方法には、デッドボリュームが発生せず、同時かつ並列に多数の処理を実行できるなどの長所がある。
例えば非特許文献1に記載の基板は、複数の微小チャンバとマイクロ流路を有し、各微小チャンバ同士をつなぐマイクロ流路の幅を調整している。具体的には、約10μmから約100μmの範囲で、回転中心から遠いマイクロ流路ほど、その幅を狭くしている。それにより、回転中心線から遠いマイクロ流路ほど、大きな毛細管力を発生する。
マイクロ流路に発生する毛細管力によって送液が阻止されている微小チャンバ内の液体を、基板の回転により発生する遠心力によって、隣接する遠心方向の微小チャンバへと送液する。微小チャンバ内の液体を送液するのに必要な遠心力は、マイクロ流路に発生する毛細管力に相当する。前述の通りマイクロ流路に発生する毛細管力は、回転中心線から遠ざかるに従って大きくされている。よって回転速度を上げなければ、一つの微小チャンバから隣接する遠心方向の微小チャンバへと液体を送液することができない。その結果、段階的な送液を実現している。
特開2000−065778号公報 特表2001−503854号公報 特表2002−503331号公報 特表2000−514928号公報 Micro Total Analysis Systems 2000,pp.311−314
しかしながら、非特許文献1に開示されたチャンバ多段送液基板では、チャンバ同士をつなぐ流路の幅に関して、二つの制約がある。
第一の制約は、チャンバの部位(回転中心からの距離)に応じて可変させる流路の幅を、流路の深さと同等またはそれ以下とすることである。本発明者らは、上記第一の条件に反する、流路深さよりも大きな流路幅を有する扁平流路を含む基板を実際に作製した。チャンバ段数を3段として、内周側の流路幅を750μm、外周側の流路幅を300μm、流路深さ15μmとした。作製した基板を用いて多段送液の評価を行ったが、多段送液は実現されなかった。つまり、第一の回転速度を基板に印加すると、最内周のチャンバから送液された溶液は、次に接続されているチャンバで留まらずに、最外周のチャンバまで一気に送液された。
上記実験において所望の送液動作が実現しなかった理由は、流路幅(750μm、300μm)を、流路深さ(15μm)よりも大きくしたためであると考えられる。流路断面にかかる毛細管力による圧力は、流路断面の周囲長に比例し、流路の断面積に反比例する。したがって、流路断面にかかる毛細管力を大きく増加させるためには、断面積の増加分よりも、周囲長の増加分を大きくする必要がある。そのためには、幅・深さで構成される流路の断面のうち、一番短い寸法を小さくしなければならない。
第二の制約は、回転中心線から遠い流路ほど、その幅をより狭くすることである。約10μmから約100μmの幅または深さを有する流路は、一般にフォトリソグラフィー技術を用いて作製される。流路の幅はフォトマスクの線幅を変えることにより変化させることが可能である。しかしながら、チャンバの段数が増加するに従って流路幅をより小さくする必要があるが、流路幅を小さくするには作製限界がある。例えば、流路深さが100μmの流路において、流路の幅を約1μm以下に、すなわちアスペクト比を100以下とすることは、現状の技術では不可能である。また、流路の深さはエッチング深さによって決定されるため、各流路に相当する局所的な領域を異なる深さに形成することは難しい。
以上の理由から、マイクロ流路の断面積を調整することにより、段階的な送液を実現する基板を作製するプロセスは、負荷が大きい。さらに、多段送液を実現する基板は作製不可能になる場合もある。
本発明は、その内部を液体が移動する流路部位を有する基板であって、流路部位にチャンバ同士をつなぐマイクロ流路がなくても、基板の回転速度に応じて段階的に、ある領域から次の領域へ溶液が移動できる基板を提供することを目的とする。つまり本発明の基板において液体は、流路部位の一のチャンバにおけるある領域から次の領域に移動するか;または流路部位の一のチャンバからマイクロ流路を経ることなく他のチャンバへ移動するといえる。
また本発明は、その内部を溶液が移動する流路部位を有する基板を、負荷の少ないプロセスで作製する方法、つまりマイクロ流路を形成するステップを必要としない方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の第一は以下に示す基板に関する。
[1] 回転軸を中心に回転可能であり、その内部に形成された、チャンバを含む流路部位を有する基板であって、
前記チャンバの内壁は、前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第1内部面と、前記第1内部面よりも前記中心から遠い位置に配置され、かつ前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第2内部面とを有し、
前記第1内部面は、提供される液体の液滴を保持する領域と、前記基板の回転により、前記保持された液滴の接触面積が拡がる領域であって、前記第2内部面と連なっている領域とを有する基板。
本発明の第二は、以下に示す基板内部で液体を移送する方法に関する。
[2] [1]に記載の基板の内部に形成された一のチャンバにおいて、液体を移送する方法であって、
前記第1内部面の液滴を保持する領域に、液滴を保持させる工程と、前記回転軸を中心に前記基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、前記液体を第2内部面に移送する工程と、を含む方法。
本発明の第三は、以下に示す装置に関する。
[3] [1]に記載の基板と、前記基板を前記回転中心線まわりに回転駆動させる回転駆動部とを備える、液滴移送装置。
本発明により、基板の内部に形成された流路部位において、溶液を段階的に移動させることができる。溶液を段階的に移動させることができるので、基板に種々の機能を付与することができる。種々の機能とは、チャンバ中に担持させた乾燥試薬と溶液を、所定時間反応させたり;複数の領域に担持させた複数の乾燥試薬と溶液を、所定の順序で反応させたりすることなどを意味する。
しかも、本発明の基板は、チャンバどうしをつなぐマイクロ流路を必要としないので、その作製プロセスの負荷を小さくすることができるので、作製実現度も高い。
実施の形態1に係る基板の部分断面図。 図2Aは、図1のI−I線での部分断面図。図2Bは、図2Aの基板の部分上面図。 実施の形態1に係る基板を使用した送液方法を示すフローチャート。 実施の形態1に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が保持領域に保持された状態を示す。 実施の形態1に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。遠心力で液滴が拡がった状態を示す。 実施の形態1に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が第2内部面に移送された状態を示す。 実施の形態2に係る基板の部分断面図。 図6Aは、図5のI−I線での部分断面図。図6Bは、図6Aの基板の部分上面図。 実施の形態2に係る基板を使用した送液方法を示すフローチャート。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内に収容された液体が、毛細管力を受けている状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内に収容された液体が、毛細管力と遠心力を受けている状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内の液体が、接続部に流入した状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内の液体が、被供給チャンバに流入した状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が、被供給チャンバの保持領域に保持された状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。遠心力で液滴が拡がった状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が、第2内部面に移送された状態を示す。 実施の形態3に係る基板を示す模式図。 本発明の送液装置を示す模式図。 基板の別の構成を示す斜視図。 実施例1に係る基板の各設計値を説明するための概略平面図。 実施例1における段階送液試験の結果を示すグラフ。
1.本発明の基板について
本発明の基板は、回転中心線である回転軸を中心にして回転されうる。回転方向は、回転中心線に対して直交する仮想の線に対して直交し、かつこの仮想の線と同一の平面上にある方向として定義される。例えば基板が回転軸に固定される場合、前記回転軸の半径方向に対して直交する接線方向が回転方向である。回転方向は、平面視で回転中心線に対して時計方向および反時計方向のいずれでもよい。
基板の外形形状は、円盤形、立方体、直方体、五角形等の多角形、星形など、任意の形状にすればよい。基板の大きさは、流路部位が収まる寸法で任意に設定できる。基板の代表的な外形(平面視での長さ)は、例えば約10mm以上150mm以下に設定される。また、基板の厚みは、約0.1mm以上30mm以下に設定されることが好ましい。
本発明の基板は、その内部に形成されたチャンバを含む流路部位を有する。基板には1または2以上の流路部位が含まれる。また、各流路部位には1または2以上のチャンバが含まれる。
前述の通り、基板に形成された流路部位には1または2以上のチャンバが含まれる。そのうちの少なくとも1のチャンバの内壁は、第1内部面と第2内部面を有する。また、チャンバには、液体を注入するための注入口が設けられていてもよい。注入口の断面形状は円形に限定されず、楕円形、多角形などの他の形状であってもよい。
第1内部面は、チャンバの内壁の一部であって、前記基板の回転中心からの遠心方向と交差する面を含む。前記交差する面は、平面であっても、曲面であってもよい。ここで「交差角度」は特に限定されないが、基板が回転されたときに、当該面で液滴を保持する必要があるので、約−34〜+34°の交差角度であることが好ましい。ここで交差角度とは、遠心方向に対して直交する面と、第1内部面とがなす角度(図1の角度X参照)を意味する。
第2内部面とは、第1内部面と同様に、チャンバの内壁の一部であって、前記基板の回転中心からの遠心方向と交差する壁を意味する。ただし第2内部面は、第1内部面よりも、回転中心から遠い位置に配置されていることが好ましい。ここで、遠心方向と交差する面の「交差する角度」は特に限定されない。
本発明の基板に含まれるチャンバの第1内部面は、チャンバに提供された液体を、液滴として保持する領域(「保持領域」とも称する);および前記保持された液体の液滴の接触面積が、基板の回転による遠心力を受けたときに拡がるための領域(「拡がり領域」とも称する)を有する。つまり「拡がり領域」は、保持領域の周辺に配置される。さらに、「拡がり領域」は第2内部面と連なっていることを特徴とする。「拡がり領域」の周辺から第2内部面に連なる面と、遠心方向に対して直交する面とは、少なくとも約9°以上の交差角度を有し、好適には約+34°以上の交差角度(図1の角度X’参照)を有する。ただし交差角度は、遠心方向に対して直交する面に対して「拡がり領域」の周辺から第2内部面に連なる面が外周側に伸びる方向を正方向とする。この交差角度を調整することにより、「拡がり領域」の周辺を超えた液滴を、第2内部面へすべり落とす。
第1内部面に含まれる保持領域は、疎水性を有することが好ましい。保持領域が疎水性であれば、保持領域において液体を液滴として保持しやすくなるので、提供された液体が第1内部面の全面をぬらすことを防ぐ。
また、保持領域の疎水性を高めれば、保持領域に対する液滴の接触角を大きくすることができる。液滴の接触角が大きくなれば、液滴保持領域と液滴の接触面積が小さくなる。つまり、保持された液滴に作用する表面張力を下げることができる。本目的で、保持領域を皮膜処理して疎水性を高めてもよい。
後述するように、保持領域に保持された液滴の接触面積を遠心力によって拡げて、第2内部面に液体を移送するが、前記表面張力が小さければ、より小さな遠心力で液滴の接触面積を拡げることができる。したがって前記表面張力が小さければ、より低い回転速度で液体を移送することができる。低い回転速度で液体を移送することができれば、回転速度の制御による段階的な移送がより確実に実現される。
したがって、保持領域における水滴の静止接触角は30°〜118°であることが好ましく、より好適には60°〜90°であり、代表的には86°である。前記接触角が30°未満であると保持領域が親水性となり、液滴が保持領域で拡がりすぎるため好ましくない。一方、前記静止接触角で120°〜160°であると、保持領域の撥水性が高くなりすぎ、保持される液滴の形状が球形に近くなる。球形の液滴は、保持領域に液滴として保持されるが、基板を回転させても液滴が拡がりにくい。また前記接触角が160°であると、液滴が容易に第2内部面へと転がり落ちやすくなり、許容される交差角度(保持領域の面と遠心方向と直交する面とがなす角度)を4°〜7°と小さくする必要がある。このため、第1内部面の形状と向きが制限される。
一例を挙げると、保持領域が、液滴を静止接触角86°で保持する場合は、交差角度が−10°〜10°の範囲で液滴を保持できる。
保持領域の疎水性を高め、かつ交差角度を大きくするために、保持領域を皮膜処理してもよい。例えば、皮膜処理されていない保持領域における液滴の接触角が76°であるときに、エポキシ樹脂で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角92°で第1内部面(保持領域)に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−34°〜34°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
フッ素系の塗布剤で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角102°で第1内部面に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−12°〜12°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
シリコン系撥水剤で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角85〜95°で第1内部面に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−9°〜9°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
さらに、アクリルウレタン系撥水剤で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角70°で第1内部面に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−30°〜30°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
このように第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度は、第1内部面の疎水性を変化させたり、表面を皮膜処理したりすることで変化させることができる。
前述の通り、第1内部面の保持領域は疎水性を有することが好ましいが、第1内部面の全面が疎水性を有していてもよく、さらにチャンバの内壁の全面が疎水性を有していてもよい。それにより基板の生産性は高まる。
また、第1内部面の全面を疎水性にすれば、保持領域で液体の液滴をより確実に保持できるだけでなく、拡がり領域を含めた第1内部面の全面で液滴を保持する。したがって、第1内部面の全面が疎水性を有する場合は、一定量の液体を第1内部面から第2内部面に移送するために、閾値の回転速度以上の回転駆動を続ける必要がある。この回転駆動時間を制御することにより、より正確に定められた量の液体をチャンバの第1内部面から第2内部面へ移送することができる。回転駆動時間を調整して移送を制御する手段は、所定時間後に別の部位で反応を行うために液体を移送する場合などに有効である。
チャンバの第1内部面だけでなく、流路部位(他のチャンバやチャンバ同士をつなぐ接続部などを含む)の内壁の全面を疎水性としてもよい。流路部位の全面を、疎水性材料で形成するか、流路部位全体に疎水化処理を施せばよいので、生産性が向上する。
さらに、基板全体が疎水性を有していてもよい。基板全体を疎水性材料で形成するか、基板全体に疎水化処理を施せばよいので、生産性がさらに向上する。
また保持領域の断面積は、保持する液滴の量に応じて決定される。保持する液滴の量は、約0.1μL以上10μL以下であることが好ましい。溶液は、保持領域に液滴としてある断面積を介して接触する。チャンバ内の側壁などにつかず、保持領域である底面に液滴を形成するには、2つの条件を満たす必要がある。第一は、前述したように、保持領域を疎水性とすることである。第二は、液滴が接する断面積よりも保持領域を大きく設定することである。具体的には、保持する溶液量が0.1μL以上10μL以下である場合には、保持領域の平面視での横幅を0.5mm以上5mm以下とすることが好ましく;特に保持する溶液量が0.1μL以上2μL以下である場合には、保持領域の平面視での横幅を0.75mm以上2.4mm以下とすることが好ましい。保持領域の深さは0.1mm以上4mm以下が好ましく、0.2mm以上1mm以下がより好適である。
保持領域からチャンバの求心方向の天面19(図1参照)までのクリアランス距離は、保持された液滴の高さより大きく設定される。具体的には、保持する溶液量を0.1μL以上2μL以下であるときには、クリアランス距離が1.8mm以上であれば液滴が頂面に接触しないので、クリアランス距離を2mmとすることが好ましく、4mm以上とすればより確実に接触が防止される。
一方、第1内部面に含まれる拡がり領域は、保持領域の周辺に配置される。後述するように、保持領域に保持された液滴の接触面積を基板の回転による遠心力で拡げるが、その拡がりにより液滴が、拡がり領域に拡大する。
保持領域から延びる拡がり領域の幅は、平面視で0.3mm以上13mm以下が好ましく、より好適には0.5mm以上2.5mm以下である。拡がり領域の幅が0.3mm以下であると、保持領域での溶液の保持が不安定となる。容積10μLの液滴は、直径3.3mmの円形の断面積をもって保持領域に保持される。基板を回転速度3000rpmで回転させても、容積10μLの液滴の幅は28mm以上に拡がらない。保持する溶液の量は通常10μL以下であるので、保持領域の外周から拡がり領域の最外周に至る拡がり領域の幅は、12.3mmとすれば通常は充分である。
拡がり領域を大きくすると、第2内部面へ液体を移送するため、液滴の接触面積の拡がりも大きくしなければならない。よって移送のための基板の回転速度を上げて、遠心力を高めなければならない。したがって拡がり領域の大きさは、移送のための回転速度に応じて設定すればよい。
第2内部面は、第1内部面よりも基板の回転中心から遠い位置に配置されており、かつ第1内部面の拡がり領域と連なっている。したがって保持領域に保持された液体の液滴が、遠心力によって拡げられ、拡がり領域を超えて拡がろうとしたときに、第2内部面へ液体が移送される。
第2内部面にも、液滴の保持領域と拡がり領域を設けてもよい。その場合には、第3内部面を配置することが好ましい。第3内部面は、チャンバの内壁の一部であって、回転中心からの遠心方向に交差する面を含む。かつ第3内部面は、第2内部面よりも基板の回転中心から離れた位置に配置され、第2内部面の液滴の拡がり領域と連通していることが好ましい。
同様にして、さらに第4の内部面、第5の内部面・・・・第nの内部面を設けてもよい。
本発明の基板に形成された流路部位は、第1チャンバと第2チャンバを含む2以上のチャンバ、および第1チャンバと第2チャンバを連通させる接続部を有していてもよい。第1チャンバは、第2チャンバよりも基板の回転中心の近くに配置されることが好ましい。第1チャンバは、注入口を除いて空間的に閉じられている。第2チャンバは、前述した第1内部面と第2内部面を含む。
詳細は後述するが、基板の外部から注入口を介して注入された第1チャンバの液体は、基板の回転によって第2チャンバに供給されることが好ましい。したがって、第1チャンバと第2チャンバを連通させる接続部は、基板の回転中心から離れた第1チャンバ部位と接続していることが好ましい。遠心力により、適切に第1チャンバの液体を第2チャンバに供給するためである。
第1チャンバから第2チャンバへ供給された液体は、第2チャンバの第1内部面の保持領域に保持される。したがって第2チャンバへ向かう接続部の方向は、第1内部面の保持領域へ向かう方向へ調整されることが好ましい。
第1チャンバと第2チャンバとを連通させる接続部の断面は、いわゆる「マイクロ流路」と比べて大きくすることができる。よって、基板の作製負荷は大きくならない。
例えば接続部15(図5参照)の幅は、100μm以上2000μm以下程度であることが好ましく、300μm以上1000μm以下程度であることがより好ましい。さらに接続部15の深さは、供給チャンバ6および被供給チャンバ7よりも浅いことが好ましい。例えば、接続部15の幅が300μm以上1000μm以下程度のときに、接続部15の深さは50μm以上300μm以下程度であることが好ましく、100μm以上200μm以下程度であることがより好ましい。
本発明の基板には、1または2以上の流路部位を設けることができる。1の基板に、2以上の流路部位を集積化して設けることにより、基板の回転速度制御を1回実行すれば(後述)、各流路部位のチャンバの液体を、同時に第1内部面から第2内部面へ移送することができる。従って、流路部位の集積化により同時並列処理数を増加させて、多数の検体を短時間で処理することができる。
また流路部位ごとに、それに含まれるチャンバや流路の構造を変えてもよく、それにより、流路部位毎に、異なる回転速度で独立に送液を制御することができる。したがって、一つの基板で複数種類の測定シーケンスを同時に実施できる。例えば、流路部位1では1段反応のグルコース測定を、流路部位2では3段反応のコレステロール測定を実施でき、多項目化に適する。
また、一つの基板に多数の流路部位を形成することは、基板の製造コスト面からみても、一つの検体の処理コストを下げることに貢献する。
本発明の基板は、回転中心線として働く中心軸部材を有していてもよい。中心軸部材を有していれば、基板を回転駆動部に取り付ける機構を準備する必要がなく、基板自体をそのまま回転させることができ、送液装置(後述)が簡便になる。基板の製造コスト面からみても、一つの検体の処理コストを下げることに貢献する。
2.本発明の液体を移送する方法
本発明の液体を移送する方法(「送液方法」とも称する)は、本発明の基板の内部に形成された流路部位のチャンバにおいて、1の領域から、他の領域へ段階的に溶液を移送する方法である。本発明の送液方法は、本発明の基板を回転させるステップを含む。
本発明の送液方法の第一は、本発明の基板を準備し、1)チャンバの第1内部面の液滴の保持領域に、液滴を保持させる工程、および2)回転軸を中心に基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、第二の内部面に液体を移送する工程を含む。
1)液滴を保持させる工程について
チャンバに提供された液体が、第1内部面の保持領域に接触し、凝集力が働いて液滴様の形状を保つ。したがって液体は、第1内部面の保持領域に液滴として保持され、液滴は一定の接触角をもって保持領域に保持される。
液滴の第1内部面の保持領域に対する接触角は、求心性の方向(すなわち回転中心線へ向かう方向)に作用する表面張力の合力によって定まり、液滴が保持される領域の面積も表面張力の合力によって定まる。
チャンバへの液体の供給は、任意の方法で行なわれる。例えば、基板の外部からチャンバに形成された注入口を経て注入されてもよく、接続部を介して連通された他のチャンバから提供されてもよい。
2)第2内部面に移送する工程について
基板を、回転軸を中心に回転させると、第1内部面の保持領域に保持されている液体の液滴に、遠心性の方向(すなわち回転中心線から遠ざかる方向)の遠心力が作用する。遠心力が作用した液滴には、求心性の方向(すなわち回転中心線へ向かう方向)に、液滴であろうとする表面張力の合力が作用する。表面張力の合力が遠心力と釣り合おうとするため、液体の液滴の接触面積が拡がって、液滴の接触周囲長も拡がる。したがって、液滴は保持領域の周辺の「拡がり領域」にまで拡がる。
さらに回転速度を上昇させて遠心力を高めると、表面張力の合力もさらに大きくなろうとして液滴の接触周囲長が高まる。回転速度がある速度に到達すると、液滴は、拡がり領域を超えて拡がろうとして、連通している第2内部面へ液体が流れ込む。第2内部面へ液体が流れ込むときの、基板の回転速度を「移送回転速度」とも称する。
移送回転速度は、600rpm〜10000rpmの範囲で決定されることが望ましく、より好適には1000rpm〜3000rpmの範囲で設計される。また、移送回転速度は、拡がり領域の大きさに応じて自在に設定できる。
このように移送回転速度の印加により、第1内部面から第2内部面へ液体を移送することができる。したがって基板の回転速度を制御することで、液滴を移送するタイミングが調整でき、段階的な送液が実現される。
第2内部面も液滴の保持領域と拡がり領域を有し、かつ第2内部面よりも基板の回転中心から遠くに第3内部面を配置すれば、さらに基板の回転速度を上げることによって、第2内部面から第3内部面へと液体を移送することができる。
このように、マイクロ流路を経ることなく、回転速度に応じた段階的な液体の移送が実現される。
前述の通り、第1内部面の保持領域は疎水性を有する。したがって、第1内部面に接触した液体が、遠心力を受けることなく第1内部面の全面(拡がり領域を含む)を濡らすことを抑える。したがって、回転速度の制御による移送を確実に実現する。また、保持領域に対する液滴の接触角を大きくすることができるので、液滴の保持領域と液滴の接触周囲長を小さくすることができる。つまり、液滴にかかる表面張力が小さくなるため、より小さい遠心力で液滴の接触面積を拡げることができ、液体をより低い回転速度で移送することができる。より低い回転速度で液体を移送することができれば、移送の段数を多くすることができ、より複雑な移送の制御が可能となる。
前述の通り、本発明の基板の流路部位は、第1チャンバと第2チャンバ、および両チャンバを連通させる接続部を有していてもよい。本発明の送液方法の第二は、第1チャンバと第2チャンバを有する基板を準備して、A)前記回転軸を中心に第1回転速度で前記基板を回転させて、前記第1チャンバに注入された液体を前記第2チャンバに流入させて、前記第1内部面の液滴を保持する領域に、前記液体の液滴を保持させる工程、およびB)前記回転軸を中心に、前記第1回転速度より大きな第2回転速度で前記基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、前記液体を第2内部面に移送する工程を含む、液滴を移送する方法である。
第1チャンバに注入された液体は、第1回転速度よりも低い初期回転速度で基板を回転させると、遠心力を受けて第1チャンバの遠心方向の壁に押し付けられる。接続部の断面積を適切に設定すれば、初期回転速度では液体が第2チャンバに導かれない。
基板の回転速度を第1回転速度に上昇させると、第1チャンバに注入された液体は、接続部に浸入して第2チャンバ内に流入する。第2チャンバ内に流入した液体は、遠心方向と交差する面を有する第1内部面と接触し、第1内部面の保持領域に液滴として保持される。第1内部面は、遠心方向と交差する面を有しているので、接続部を経て流入した液体の運動を妨げて液体を受け止めることができる。
基板の回転によって、第1チャンバから、第2チャンバの第1内部面へ液体を提供でき、正確な位置に液滴を配置することができる。
注入口から注入された第1チャンバ内の液体は、接続部の接続端部において毛細管力によって保持される。このときの毛細管力を第1毛細管力と称する。基板を第1回転速度で回転させることにより、接続端部で保持されている液体に、遠心性の方向(すなわち回転中心線から遠ざかる方向)の第1遠心力を作用させる。第1遠心力がかかる溶液の体積は、接続端部を底面積として、溶液面までの距離を高さとした立方体領域である。第1遠心力が第1毛細管力を上回ると、第1チャンバ内の液体が接続部に流れ込み、第2チャンバの第1内部面へ導かれる。
第1内部面の保持領域に保持された液滴は、求心性の方向に作用する表面張力の合力と、遠心性の方向に作用する遠心力が釣り合うように、壁面との接触面の周囲長を決定する。
第1内部面の保持領域に液滴を保持した後は、前述の「本発明の送液方法の第一」と同様にして、第1内部面から第2内部面へ液体を移送すればよい。
本発明の第2の送液方法により、所定のタイミングで第1内部面に液体を提供することができるので、液体の移送の全自動化に適する。
本発明の送液方法により移送される液体の容量は微量であってもよく、例えば0.1μL以上10μL以下であることが好ましい。
3.本発明の液体を移送する装置
本発明の装置は、本発明の基板;および前記基板を前記回転中心線まわりに回転駆動可能な回転駆動部を備える。回転駆動部で基板を回転させることによって、前述の送液方法を実現する。
装置に含まれる回転駆動部は、基板を前記回転中心線まわりに回転させるモータと、モータに速度特性を与える速度特性印加部とを備えることが好ましい。基板に所定の回転速度を印加することができ、基板の流路部位において溶液を多段送液することができる。
回転駆動部に含まれるモータの例には、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ、およびステッピングモータが含まれる。ステッピングモータは、基板の急回転と急制動を外部の駆動信号を印加するだけで、容易に実現することができるため好適である。また、DCモータは駆動回路(後述)を特に必要としない。DCブラシレスモータを採用する場合、駆動回路(後述)が逆回転電圧を印加する機能を有していればより素早い急制動を実現できる。
回転駆動部は、回転中の基板の回転速度を検出する回転速度検出器と、回転速度検出器の検出した回転速度に基づいて、前記速度特性印加部がモータに与える速度特性を補正する回転速度補正部をさらに備えていてもよい。実際の回転速度をフィードバックして速度特性を補正しつつ、基板を回転駆動できるので、送液量が安定し、かつ送液量の繰り返し再現性も向上する。
次に、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[実施の形態1]
図1〜図4は、実施の形態1に係る基板2を示す。
図1に示すように、実施の形態1の基板2は、回転軸3と共に回転することができる。図1に示された矢印R1またはR2のように、基板は、回転軸3からの半径方向rに対して直交する方向に回転する。つまり回転方向は、回転軸3の軸線Sに対して直交する仮想の線に対して直交し、かつ、この仮想の線と同一の平面上にある方向として定義される。基板2は、平面視で時計方向R1および反時計方向R2のいずれにも回転することができる。
基板2は流路部位5を有する。図1および図2を併せて参照すると、流路部位5は被供給チャンバ7を備える。被供給チャンバ7は、移送の対象である液体10が収容されるチャンバである。被供給チャンバ7は、基板2の内部に形成され、空間的に閉じられていてもよい。
被供給チャンバ7の内壁面は、第1内部面8、および第2内部面9を有する。
第1内部面8は、液体10の液滴を保持する保持領域16;および保持領域16に保持された液滴が、基板の回転により拡がるための拡がり領域17の両方を備えている。第1内部面8は、遠心方向と交差する面を有しており、図1では遠心方向と略直交する面を有している。保持領域16および拡がり領域17に配置された液滴に作用する表面張力の合力の向きが、中心軸から見て遠心性の方向に向かないように、第1内部面8の向きを調整する。このように、第1内部面8の向きについて自由度が高く、基板の生産性等の面で好ましい。
一方、第2内部面9は、第1内部面8より軸線Sから離れて配置される。
被供給チャンバ7は、平面視で略長方形状が2つつながった形状を有する。被供給チャンバ7には断面円形の空気口12が形成されていてもよく、空気口12はチャンバ内部と基板2の外部とを連通させる。空気口12は、第1内部面8へ溶液を提供するための注入口として使用されてもよい。
空気口12は、第1内部面の保持領域16よりも軸線Sに近い位置に設けられる。それにより基板2の回転によって、空気口12から液体が散逸することを抑制する。液体10を液滴保持領域16に導入するための開口部を別途に設けてもよい。
空気口12の断面形状は円形に限定されず、楕円形、多角形などの他の形状であってもよい。また空気口12は、被供給チャンバ7を構成する壁面の一部を、空気を透過させるが液体を透過させない材料で形成して設けてもよい。この場合、基板2を回転させたときの液体10の漏れを考慮する必要がないので、空気口12を比較的大きな面積とすることができる。
保持領域16で液滴として保持される液体10の体積は、0.1μL以上10μL以下であることが好ましい。
被供給チャンバ7の第1内部面8の保持領域16は、疎水性を有することが好ましい。保持部16が疎水性を有していれば、第1内部面8の液滴保持領域16に保持された液体には表面張力が作用し、液体が液滴様の形状で存在することができる。
保持領域16の疎水性を高めれば、液滴の接触角を大きくすることができる。液滴の接触角を大きくすれば、液滴保持領域と液滴との周囲長を小さくすることができる。液滴保持領域と液滴との周囲長を小さくすれば、液滴に作用する表面張力が小さくなるため、より小さな遠心力で液滴を拡げることができる。つまり、液滴の移送を、より低い回転速度によって実現することができる。
一方、第1内部面8の拡がり領域17は、疎水性を有していても、親水性を有していてもよい。拡がり領域17に親水性を付与すれば、保持領域16に保持された液滴が、拡がり領域17に拡がると、湿潤効果によって濡れるようにさらに拡がる。
疎水性を付与するためには、当該部位を疎水性材料により形成するか、または当該部位に疎水化処理を施せばよい。
疎水性材料の例には、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素等に代表される半導体材料;アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素の群から選ばれる無機絶縁材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイド及びポリスルホン等の群から選ばれる有機材料が含まれる。好適に用いられる疎水性材料は、PETまたはPCである。
疎水化処理の例には、フッ素樹脂系の塗布剤、シリコン系の塗布剤、アクリルウレタン系の塗布剤、エポキシ系の塗布剤の塗布などがある。好適には、フッ素樹脂計の塗布剤が用いられる。
基板2の積層構造の第1の例
図2A、図2Bを参照して、基板2の積層構造の第1の例について説明する。基板2は3層構造を有し、上部板材41、チャンバ板材43および下部板材44が積層されている。
上部板材41には注入口(空気口)12が設けられ、注入口(空気口)12は板厚方向に貫通している。チャンバ板材43には溝孔が設けられ、溝孔は被供給チャンバ7に対応する形状を有し、かつ板厚方向に貫通している。下部板材44は被供給チャンバ7の底面を構成し、溝や孔は設けられていない。図2Bは、図2Aの基板に対応する上面図である。
図2Aに示された3層構造の基板2は、各板材を接合することで作製できるので、生産性に優れる。チャンバ板材43の厚みで、被供給チャンバ7の深さ25を設定できる。また、被供給チャンバ7の底部となる下部板材44は、他の板材とは別体であるので、接合前に下部板材44に反応試薬等を容易に担持させることができる。そこで、被供給チャンバ7の底部に、液体と反応させる目的で反応試薬を担持させておくことができる。
各板材の接合は、当業者に知られた任意の方法を採用すればよい。
例えば、各板材の間に接着性材料または接着性を有するシートを介在させてもよく、超音波接合、熱圧着接合、ラミネータ加工等の他の接合方法を採用してもよい。流路やチャンバは、当業者に知られた種々の方法を採用して形成される。例えば、半導体微細加工技術に代表されるフォトリソグラフィー加工、プラスチック成型に代表されるインジェクションモールド、切削加工、マスター基板から複製をつくる転写加工などを採用する。好適に用いられるのは、フォトリソグラフィー加工である。
実施の形態1の基板2を使用した送液方法を、図3のフローチャート、および図4A〜Cを参照して説明する。
送液方法は、1)第1内部面8の保持領域16に、液滴10を保持させる工程A、および2)基板2を、回転軸3を中心として第3回転速度rpmで回転させる工程Bを含む。工程Aで、液体10を供給チャンバ6に充填する方法は任意である。
図4Aを参照すると、第1内部面8の保持領域16が疎水性を有していれば、液体10は自身の凝集力によって、保持領域16上に液滴様に保持される。図4Aに示されるように、液体10の液滴は、第1内部面8の保持領域16と接触角θcをもって保持される。保持領域16に接触する液滴の周囲長Cにわたり、壁面と液体10の界面に表面張力T〜T(全方位の表面張力)が生じて、その合力Fcが発生する。Fcは求心性の方向、すなわち第1内部面8から回転軸3に向かう方向に発生する。一般に表面張力の合力Fcの大きさ、およびFcが保持領域16に作用する圧力Pcは、以下の式(1)および式(2)で表される。符号「T」は水の表面張力、「θc」は液体の壁面に対する接触角、「c」は液滴の接触面の周囲長、「S」は液滴の接触面積をそれぞれ表す。
Figure 2008126404
Figure 2008126404
被供給チャンバ7の液体10を、第1内部面8の保持領域16で保持する力である表面張力の合力Fcは、保持領域16の疎水性に基づく非湿潤性の現象により発生する。また、表面張力の合力Fcにより、第1内部面8に液体10を保持するためには、第1内部面8が液滴の接触断面積より大きい必要がある。実施の形態1では、第1内部面8(保持領域や拡がり領域を含む)の平面視での幅を、1.5mm以上18mm以下程度に設定する。より具体的には、幅を1.75mm以上7.5mm以下とする。第1内部面の深さは0.2mm以上1mm以下程度に設定される。
図4Aは、第3回転速度rpmより小さい第1回転速度rpmで基板2を回転しているときの液体10の様子を示す。図4Aに示すように、基板2が回転されると、毛細管力Fcによって保持領域16に保持されている液体10に対して、半径方向rで外向きの遠心力Fgが作用する。図4Aにおいて、「r2d」は第1内部面8の仮想液面底面における最大回転半径、「r2u」は第1内部面8の仮想液面頂点における最小回転半径をそれぞれ示す。遠心力Fgの大きさは、式(3)に示すように遠心力が作用する液体の領域の体積に比例し;回転軸から第1内部面8までの距離である回転半径に比例し;回転速度の2乗に比例する関係となる。ここで、式(3)に示すFgの大きさは、実際には、液滴の形状に即するように、最小回転半径r2uから最大回転半径r2dまでの各回転半径における微小体積要素dVを直径方向に積分することによって求められる。式(3)において、符号「ρ」は液体の密度、「V」は遠心力Fgが作用する液体の体積、「r」は回転半径、「ω」は回転角速度をそれぞれ表す。
Figure 2008126404
ただし、回転速度rpmと回転角速度ωには次の式(4)の関係が成り立つ。
Figure 2008126404
遠心力Fgによって保持領域16にかかる遠心圧力Pgが、毛細管力Fcによって液滴保持領域16にかかる表面張力合力Pcと相殺されると、基板の回転中においても液滴は第1内部面8に留まる。回転速度が上昇するに従い、液体10の液滴の形状が扁平になり、拡がり領域17で液滴が拡がっていく。
図4Bは、第2回転速度rpmで基板2を回転しているときの液体10の形状を示す。第2回転速度rpmは、第1回転速度rpmより大きく、かつ第3回転速度rpmより小さい。図4Bに示したように、回転速度の上昇により、遠心力がFgからより大きいFgに変化する。これに釣り合うように、表面張力の合力もFcから、より大きいFcに変化する。そのため、液体10の液滴の平面視での接触角はθcから、より小さいθcに変化する。
液体10の液滴の接触角が小さくなると、液滴接触面の周囲長が増大する。増大した周囲長は、図4Bに「C」として示される。このように、拡がり領域17へ液滴が拡がる。
図4Cに示すように、第2回転速度rpmよりも大きな第3回転速度rpmで基板2を回転させると、液滴は拡がり領域17の最外周に到達する。拡がり領域17の周縁部には、遠心方向に作用する遠心力を受け止める内部面が存在しないため、第2内部面9に液体が流れ出す。
つまり、第3回転速度rpmで基板2を回転駆動することによって、第1内部面8上の液体10を第2内部面9上に移送することができる。回転方向は、時計方向R1および反時計方向R2のいずれでもよい。
第3回転速度rpmに至る時間や加速度は任意に設定される。液体10は、第3回転速度rpm未満の回転速度で基板2を回転駆動している限りは、第1内部面8内で液体10は保持される。そこで所定時間、第3回転速度rpm未満の回転速度で基板2を回転させることにより、送液開始のタイミングを制御できる。
第1内部面8から第2内部面9に流入した液体10は、引き続き遠心力Fgを受けるため、第2内部面9上においても半径方向rの遠心方向に溜ろうとする。第2内部面9が疎水性を有していれば、液体10は表面張力Fcを受けて液滴様の形状で保持される。図4Cにおいて、「r3d」は第2内部面9の回転半径を示す。より正確には、第2内部面9の仮想液面底面における最大回転半径とも表現しうる。
そこで第2内部面9にも、液滴の保持領域と拡がり領域を設けて、かつ第2内部面よりも外側に第3内部面を配置すれば、さらに回転速度を上昇させることで、第2内部面から第3内部面(不図示)へ移送することも可能となる。
以上のように、実施の形態1の基板2は、拡がり領域の大きさを適切に設定し、第3回転速度rpmで回転駆動することで、第1内部面8から第2内部面9へ選択的に液体10を送液することができ、これを繰り返すことで段階的に送液することが可能となる。
このように、基板の回転速度に応じて、互いに連なった第1内部面と第2内部面を有するチャンバ内で、液体を段階的に送液する。したがって、チャンバどうしをつなぐマイクロ流路等を必要とせずに段階的な送液が実現される。マイクロ流路等を必要としないので、基板の作製が容易であり、作製プロセスに負荷がかからない。
[実施の形態2]
実施の形態2に係る基板2の構造が図5に示される。実施の形態2に係る基板2は、被供給チャンバ7に、接続部15を介して供給チャンバ6が設けられている。実施の形態1では、被供給チャンバ7の注入口12から液体を供給したが、実施の形態2では、基板2の回転により、供給チャンバ6から被供給チャンバ7の第1内部面8に液滴を供給する。
実施の形態2の基板2の流路部位5を、図5および図6を用いて説明する。
図5を参照すると、平面視で供給チャンバ(第1チャンバ)6が被供給チャンバ(第2チャンバ)7よりも回転軸3の近くに配置され、両者は接続部15を介して連通している。
供給チャンバ6は移送の対象である液体10が蓄えられるチャンバである。供給チャンバ6は基板2の内部に形成され、空間的に閉じられている。図5を参照すると、供給チャンバ6は平面視で略長方形状であるが、供給チャンバ6の外形形状は略長方形状に限定されず、円柱形状など任意に設定できる。
供給チャンバ6には注入口11が形成され、注入口11は供給チャンバ6の内部と基板2の外部とを連通させる円形の断面である。もちろん注入口11の形状は任意である。注入口11は、供給チャンバ6への液体10の注入に使用される。
供給チャンバ6に設けられた注入口11は、第1接続端部13よりも回転軸3に近い位置に設けられる。具体的には、注入口11は図5において供給チャンバ6の求心側に設けられている。また、注入口11の平面視での面積は、供給チャンバ6の平面視での面積よりも十分小さい。注入口11の位置及び面積をこのように設定すれば、基板2が回転しているときに作用する遠心力によって、液体10が注入口11から漏れたり飛散したりせず、接続部15に流れる。したがって、注入口11の位置及び面積をこのように設定した場合には、液体10を供給チャンバ6に注入して、注入口11を開放したまま基板2を回転させることができる。
逆に、供給チャンバ6に設けられた注入口11が、第1接続端部13よりも回転軸3から遠い位置に設けられている場合や、注入口11の面積が供給チャンバ6の面積に対して比較的大きい場合には、注入口11を封止してから基板2を回転させることが好ましい。基板2の回転により、供給チャンバ6内の液体10が注入口11から漏れたり飛散したりするのを防止するためである。
供給チャンバ6の寸法や体積は、試料液(液体10)の液量に従って決定する必要があるが、好適には、体積が0.1μL以上100μL以下であることが好ましい。
被供給チャンバ7の空気口12は、実施の形態1に示したような溶液の注入には用いられない。空気口12は、被供給チャンバ7に液体10を流入させるときに、被供給チャンバ7内の空気を基板2の外部に排出する機能を有する。空気口12は、必ずしも単一ではなく、同様の目的で複数の空気口を配置してもよい。
接続部15は、供給チャンバ6と被供給チャンバ7を流体的に互いに連通させる。接続部15は、供給チャンバ6内の液体10を、被供給チャンバ7に送液するための流路である。接続部15は基板2の内部に形成され、空間的に閉じられている。また接続部15の両端、すなわち入口端部(第1接続端部)13と出口端部(第2接続端部)14は、それぞれ供給チャンバ6と被供給チャンバ7に接続される。
接続部15は、第1接続端部13から軸線Sから遠心方向rに沿って第2接続端部14に延びている。第1接続端部13の断面積は、供給チャンバ6の断面積より小さい。接続部15の断面積は、供給チャンバ6および被供給チャンバ7と同等またはそれよりも小さいことが好ましい。
図6Aに示されるように、接続部15の深さ27は、供給チャンバ6の深さ24および被供給チャンバ7の深さ25よりも浅いことが好ましい。図6Bに示されるように、接続部15の幅20は、供給チャンバ6の幅21および被供給チャンバ7の幅22よりも狭いことが好ましい。具体的な数値は、前述の通りであり、いわゆる「マイクロ流路」よりも比較的大きくしてよい。
供給チャンバ6と接続している接続部15の第一接続端部13は、供給チャンバ6に収容された液体10のバルブとして機能しうる。接続部15は、第1接続端部13から遠心方向に、すなわち基板2の回転方向(時計方向R1及び反時計方向R2)に対して直交する方向に延びている。そのため、基板2の回転により液体10に作用する遠心力で、供給チャンバ6の液体10を接続部15内に流入させることができる。
一方、接続部15は、回転軸3に近い側から、被供給チャンバ7と接続する第2接続端部14に向かって延びている。そのため、いったん被供給チャンバ7に流入した液体10が、逆流せずに保持される。また、被供給チャンバ7に流入した液体10が第1内部面にあたるように、接続部15の向きが設計されている。図6Bにおいて、「r1d」は供給チャンバ6の回転半径、「r2d」は被供給チャンバ7の第1内部面8の回転半径をそれぞれ示す。
接続部15の第1接続端部13は疎水性を有する。疎水性を付与するためには、当該部位を疎水性材料で形成するか、当該部位に疎水化処理を施せばよい。入口端部13が疎水性を有していれば、前述の通りバルブとして機能する。
実施の態様2の基板2を用いて液体を移送する(送液する)方法を、図7のフローチャートと、図8A〜図8Gを参照して説明する。
実施の態様2の基板2を用いた送液方法は、基板2を第1回転速度rpmで回転駆動する工程D;第3回転速度rpmで回転駆動する工程Eを含む。工程Dの前に、基板2の注入口11から液体10を注入して、供給チャンバ6に充填してもよい(工程C)。このときに注入する液体10の体積を、仮想チャンバ体積18とする。
注入口11から第1チャンバ6に充填された液体10は、第1接続端部13で、接続部15への流入を妨げる向きの第1毛細管力Fcを受ける(図8A)。接続部15の第1接続端部13は疎水性を有し、かつ接続部15の断面積は供給チャンバ6の断面積より小さいので、液体10は表面張力による毛細管力Fcによって第1接続端部13で保持され、接続部15内に流入しない。
液体10と流路壁面の接触角θcが鈍角となるため、液体10を供給チャンバ6内に保持する方向の毛細管力Fcが発生する。詳細には、接続部15壁面と液体10の界面には表面張力T〜T(全方位の表面張力)が生じて、その合力である毛細管力Fcは求心性の方向、すなわち第1接続端部13から供給チャンバ6の内部に向かう方向に発生する。一般に、毛細管力Fcの大きさ、および毛細管Fcが流路端部13に作用する圧力Pcは、前述の式(1)、および式(2)で表される。
供給チャンバ6内の液体10を、第1接続端部13で保持する毛細管力Fcは、非湿潤性の現象に基づく力であるので、第1接続端部13が疎水性を有することにより生じる。また、毛細管力Fcによって第1接続端部13に液体10を保持するためには、接続部15の断面積を適切に設定することが重要である。
接続部15の幅を100μm以上2000μm以下程度に設定し、かつ接続部15の深さを供給チャンバ6、被供給チャンバ7よりも浅く設定すれば、毛細管力Fcによって第1接続端部13で液体10をより確実に保持することができる。
基板2の回転により液体10が飛散することを防止するために必要であれば、注入口11を封止することが好ましい(図7工程C’)。前述の通り、回転軸3に近い位置に注入口11を設ければ、基板2の回転による液体の飛散が起こりにくい。また、注入口11の開口面積を供給チャンバ6に比べて十分に小さくすれば、液体の飛散が起こりにくい。一方、注入口11が開いていると、工程Cにおいて充分な量の液体10を供給チャンバ6に注入することができない場合がある。よって注入口11を封止すれば、供給チャンバ6への充分量の液体10の注入と、基板2の回転時の液体10の飛散防止を両立することができる。図8Aにおいて、「r1d」は供給チャンバ6の回転半径、「r1u」は供給チャンバ6の仮想液面回転半径をそれぞれ示す。
次に、基板2を第1回転速度rpmで回転駆動する(工程D)。
図8Bに示すように、基板2を第1回転速度rpmで回転しているときには、第1接続端部13で毛細管力Fcにより保持されている液体10に対して、半径方向rで外向きの遠心力Fgが作用する。遠心力Fgの大きさは、1)遠心力が作用する液体の領域の体積に比例し、2)回転軸3から第1の接続端部13までの距離である回転半径r1d(図8A参照)に比例し、3)回転速度の2乗に比例する。
遠心力Fgによって第1接続端部13に作用する遠心圧力Pgが、毛細管力Fcによって第1接続端部13に作用する毛細管圧力Pcを上回ると、第1接続端部13の液体10が接続部15を濡らす。
つまり、PgがPcより小さい場合は、遠心力Fgが作用しても、液体10は第1接続端部13で保持され続ける。そして、遠心圧力Pgが、第1接続端部13に液体10を保持する毛細管圧力Pcを上回ると、第1接続端部13で保持されていた液体10が接続部15に流入する。
遠心圧力Pgが毛細管圧力Pcを上回るときの回転速度を、第1回転速度rpmとする。基板2を第1回転速度rpmで回転駆動することによって、第1チャンバ6内の溶液10を、接続部15内へ流入させることができる(図8Bおよび図8C)。接続部15は第1内部面8に向いているので、接続部15に流入した液体10は第1内部面8上に配置される。このように、第1回転速度rpmの印加に伴って、供給チャンバ6から被供給チャンバの第1内部面8へ液体10が移送される(図8D)。
第1回転速度rpmに至る時間や加速度は任意に設定される。
供給チャンバ6から第1内部面8へ液体10を移送した後(図8E〜G)は、実施の形態1と同様に、第3回転速度rpmによって、液体10を第1内部面8から第2内部面9へと移送すればよい。
以上のように、実施の形態2の基板2は、第1回転速度rpmで回転駆動することで、第1チャンバ6から第2チャンバ7へ選択的に液体10を移送することができ;第3回転速度rpmで回転駆動することで、第2チャンバ7における第1内部面8から第2内部面9へ選択的に液体10を移送することができる。このように、段階的な送液が実現される。図8Eにおいて、「r2d」は第1内部面8の回転半径、「r2u」は第1内部面8の仮想液面回転半径をそれぞれ示す。図8Gにおいて、「r3d」は第2内部面9の回転半径を示す。
基板2の積層構造の第2の例
図6を参照して、基板2の積層構造の第2の例について説明する。図6に示す基板2は3層構造を有し、空気口12を設けた上部板材41、接続部を開口した接続部材42、および供給チャンバ6、被供給チャンバ7を設けたチャンバ板材43を含む。
チャンバ板材43には溝孔が設けられ、溝孔は供給チャンバ6と被供給チャンバ7に対応する形状を有し、かつ板厚方向に貫通しておらず、凹形状である。かかるチャンバ板材43は、切削加工で作製することができる。また切削した部材を金型として利用することで、樹脂成型により一体成型してもよい。
接続部材42は、接続部、供給チャンバ6、被供給チャンバ7に相当する溝孔が設けられ、板厚方向に貫通している。かかる接続部材42は、樹脂フィルムや金属板金を抜き加工して作製することができる。これらの工法は量産性に優れており、コスト面からも好ましい。
[実施の形態3]
図9AおよびBに示す実施の形態3の基板2は、基板本体51;基板本体51に対して着脱可能なチップ体52を備える。各チップ体52に流路部位が形成され、基板本体51に流路部位は形成されていない。基板本体51の上面側に、複数のチップ体52のそれぞれが収容される複数の収容孔53が形成されている。収容孔53は回転軸3に対して放射状に配置されている。収容孔53の外側の壁面には凹部が形成されている。
収容孔53に収容されたチップ体52は、収容孔53内に保持される。特に、基板2の回転による遠心力によって、チップ体52は外周側に付勢されるので、チップ体52を収容孔53から脱落しないように、確実に回転基板本体51に保持することが好ましい。
第3実施形態のその他の構成及び作用は、第1実施形態と同様である。
送液装置
図10を参照して本発明の送液装置を説明する。図10に示すように装置1は、基板2;基板2が固定される回転軸3;および回転軸3を回転駆動する回転駆動部4を備える。回転軸3は、その軸線(回転中心軸線)Sが鉛直方向に延びており、その上端側に基板2が固定されている。基板2は平面視で円形であり、基板2の中心は回転軸3の軸線Sと一致している。一方、回転軸3の下端側はモータ31に連結されている。
基板2には複数の流路部位5が、回転軸3の周囲に放射状に配置されている。基板2の外形は流路部位5が収まる寸法で任意に設定すればよい。
前記回転中心線として働く中心軸部材を備えていれば、基板を回転駆動部に取り付ける機構を準備する必要がなく、その基板自体をそのまま回転させることができるので、送液装置が簡便になる。また、中心軸を備える基板は、製造コスト面から見ても、一つの検体の処理コストを下げることに貢献する。
回転駆動部4は、回転軸3;回転軸3に固定された基板を回転させるモータ31;モータ31の駆動回路32を備える。また、回転駆動部4は、制御信号を出力する制御信号出力部33;制御信号出力部33から入力される制御信号に基づいて、所望の速度特性をモータ31の駆動回路32に与える速度特性印加部34を備える。制御信号出力部33は、送液装置1とは別の外部コンピュータであってもよい。
回転駆動部4は、回転中の基板2の回転速度を検出する回転速度検出器35と、速度特性印加部34を補正する回転速度制御部36を備えている。回転速度検出器36が検出した基板2の実際の回転速度は回転速度制御部36に送られる。回転速度制御部36は検出された実際の回転速度と速度特性印加部34によりモータ31に与えるべき速度特性にずれがあれば、速度特性印加部34が与える速度特性を補正する。このように実際の基板2の回転速度をフィードバックして速度特性を補正しつつ基板2を駆動することにより、安定した送液を実現し、かつ送液の繰り返し再現性を向上することができる。
[実施の形態4]
基板2の積層構造の第3の例
図11を参照して、基板2の積層構造の第3の例について説明する。図11に示す基板2は2層構造を有し、空気口12を設けた上部板材41、ならびに供給チャンバ6、被供給チャンバ7および接続部15を設けた下部板材50を含む。
図11に示す2層構造の基板2は、例えばフォトリソグラフィー加工を用いて作製されうる。具体的には、下部板材50にフォトレジストを塗布し、リソグラフィーにより供給チャンバ6、被供給チャンバ7および接続部15を形成する工程;上部板材41に注入口11および空気口12を形成する工程;下部板材50の流路部位5の上部を上部板材41で封止する工程からなる。
まず、供給チャンバ6、被供給チャンバ7および接続部15を形成する工程を説明する。清浄に処理されたガラス基板にネガ型厚膜フォトレジストを塗布する。用いられるフォトレジストは、流路のサイズに適したレジストを選択する。例えば、KMPR1030(化薬マイクロケム)等が形成される膜の厚さや、アスペクト比の面から優れている。スピンコーターなど回転塗布型のものなどが用いられる。スピンコーターにてKMPR1030を回転塗布する場合には、500rpmで10秒間のプレ回転、および1000rpmで30秒間の本回転を行う。本回転の回転速度を変化させることにより、膜厚を変化させることができる。一例を示すと、本回転を1000rpmとすると57μm;1070rpmとすると48μmとすることができる。
その後、95℃で20分間プレベークを行い、流路とチャンバが描かれたマスクを露光する。露光強度と露光時間は膜厚によって適性に補正すればよい。一例を挙げると、露光強度は約1700mJ/cmが望ましい。
次に、95℃で6分間、PEB(Post Exposure Bake)し、現像を行い、チャンバパターンをフォトリソグラフィーにより形成させる。次に、下部板材50のチャンバ部位を、これを指標に、切削加工もしくはサンドブラスト加工等の当業者に公知の技術を用いて所定の深さまで拡張させる。最後に、注入口11と空気口12を開けた上部板材49を下部板材50に貼り付ける。
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。これらの実施は、本発明を限定するものではない。
[実施例1]
実施例1は、実施の形態2に対応する実施例である。
実施例1として、図5から図8(特に図5)に示す流路部位5を有する基板2を作製した。実施例1の流路部位5について、段階的送液駆動する実験を行った。
液滴移送基板2の設計
図12に示した基板2の流路部位5を設計した。各設計値を表1に示した。
Figure 2008126404
表1の設計値を反映させた基板2を作製し、段階送液挙動を確認する試験を行った。
基板2の作製
清浄に処理されたガラス基板にネガ型厚膜フォトレジストKMPR1030(化薬マイクロケム)を塗布した。スピンコーターにてKMPR1030を回転塗布する場合には、500rpmで10秒間プレ回転させ;1000rpmで30秒間本回転した。本回転の回転速度を変化させると、膜厚を変化させることができた。
その後、95℃で20分間プレベークを行い、接続部とチャンバが描かれたマスクを露光した。露光強度を約1700mJ/cmとした。次に、95℃で6分間の露光後焼きしめ(PEB:Post Exposure Bake)をして、現像を行い、流路とチャンバパターンをフォトリソグラフィーにより形成した。次に、下部板材50のチャンバ部位を切削加工により形成させた。最後に、注入口11と空気口12を開けた上部基板49を下部板材50に貼り付けた。
段階送液試験
試料溶液(液体10)として、純水または視認性を上げる目的で青色色素を混入させた純水を用いた。ハミルトンシリンジで、1μL;0.5μL;0.2μLの試料溶液を、実施例1の基板2の注入口11から第1チャンバ6に注入した。その後、送液装置1に基板2を取り付けて回転駆動させた。回転速度を、800rpmから10rpm/秒の上昇速度で徐々に回転速度を上昇させた。
第1チャンバ6から、第2チャンバ6に溶液が移送されたときの回転速度を第1回転速度;第2チャンバ7において、第1内部面から第2内部面へ溶液が移送されたときの回転速度を第2回転速度として、回転速度を求めた。同一の基板2に対して3重測定した。測定された各回転速度の平均値を、表2および図13に示す。
Figure 2008126404
第1チャンバ6に投入された1μLの溶液は、回転速度879rpmにおいて、第1チャンバ6から第2チャンバ7へ移送され、第1内部面8に液滴様として留まり、第2内部面9には流れなかった。保持領域である第1内部面8に保持された液滴の、平面視での液滴の幅は1.6mmであった。その後、回転速度を10rpm/秒で上昇させたところ、第1内部面で液滴が拡がり、回転速度1286rpmにて、第1内部面の拡がり領域の全面に拡がり、すなわち最外縁部に到達した。このときの平面視での液滴の幅は1.8mmであった。そして、第1内部面8から第2内部面9へ試料溶液が移送された。
0.5μLまたは0.2μLの溶液を投入した基板2についても同様に、第1チャンバ6から第2チャンバ7への試料溶液の送液が起こり、その後回転速度を上げると、第1内部面8から第2内部面9へと試料溶液が移送された。
第1チャンバ6からの送液は、溶液量0.5μLで993rpm;0.2μLで1108rpmであった。第2チャンバ7へ移送された時点での、保持領域である第1内部面8に保持された液滴の、平面視での液滴の幅は1.2mm(溶液量0.5μL);0.9mm(溶液量0.2μL)であった。また、第2チャンバにおける第1内部面から第2内部面への試料溶液の移送は、溶液量0.5μLで1600rpm;0.2μLで1658rpmであった。
このように、実験的に段階的送液が確認された。
第2内部面9へ移送された試料溶液の容積を計量し、第1チャンバ6に投入された容積に対する、第2内部面9へ移送された試料溶液の容積の割合、すなわち「送液割合」を求めた。その結果、投入された溶液の量が0.5μLのときの送液割合は、96.9%;投入された溶液の量が0.2μLのときの送液割合は、98.6%であった。移送での液体のロスは、投入容積のそれぞれ、3.1%;1.4%と非常に小さいことがわかった。よって、投入液量のほぼ全てを移送できるため、送液量の少量化に適する。
本出願は、2007年4月9日出願の特願2007−102090に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
本発明の、液滴を移送するための基板及び方法は、生体試料(特に血液など)に含まれるタンパク質などの生体構成成分を分析するデバイスとして有用である。特に、血液試料の分析は、前段階で血球血漿分離を行い、分離された血漿に含まれるタンパク質を被測定試料とすることがある。その分離は、遠心力を用いた遠心分離が好適に用いられる。そのため、血液試料の分析における血球血漿分離は、回転基板を用いた送液方式と組み合わせて、容易に行なうことができる。
さらに、各チャンバに試薬等を担持したり、各チャンバ上で加温などの物理的操作を施したりすることで、反応、精製、検出などの機能を基板に付与することができる。このため、血液試料中に含まれるタンパクや健康指標物質を分離、精製、反応、検出するPOCT(Point of care test その場診断)診断バイオセンサ等の用途にも応用できる。
符号の説明
1 送液装置
2 回転基板
3 回転軸
4 回転駆動部
5 部位
6 第1チャンバ(供給チャンバ)
7 第2チャンバ(被供給チャンバ)
8 第1内部面
9 第2内部面
10 液体
11 注入口
12 注入口もしくは空気穴
13 第1接続端部(入口端部)
14 第2接続端部(出口端部)
15 接続部
16 保持領域
17 拡がり領域
20 接続部幅
21 第1チャンバの幅
22 第2チャンバの幅
24 第1チャンバの深さ
25 第2チャンバの深さ
27 接続部の深さ
31 モータ
32 駆動回路
33 制御信号出力部
34 速度特性印加部
35 回転速度検出器
36 回転速度制御部
41 上部板材
42 接続部材
43 チャンバ板材
44 下部板材
49 チャンバ形成基板
50 下部板材
51 基板本体
52 チップ
53 収容孔
R1 時計方向
R2 反時計方向
S 回転中心線(軸線)
r 半径方向
r1d 第1チャンバの回転半径
r1u 第1チャンバの仮想液面回転半径
r2d 第2チャンバの第1内部面の回転半径
r2u 第2チャンバの第1内部面の仮想液面回転半径
r3d 第2チャンバの第2内部面の仮想液面回転半径
Fc 第1毛細管力
Fc 第2毛細管力
Pc 第1毛細管圧力
Pc 第2毛細管圧力
Fg 第1遠心力
Fg 第2遠心力
Pg 第1遠心力圧力
Pg 第2遠心力圧力
−T 全方位の表面張力
θc 接触角
本発明は、チャンバを含む流路部位を有する基板、およびそれを用いて液体を移送する方法に関する。
近年、様々な健康診断チップが開発されている。これら健康診断チップのほとんどは、マイクロタス(μ−TAS:Micro Total Analysis System)と呼ばれる微小な流路構造を有するカード型デバイスである。流路を微細化すると、生体から抽出するサンプルの必要量が微量となる点で、非常に有用である。また流路の微細化により健康診断チップを含む装置全体を小型化できれば、比較的大規模の病院だけでなく、診療所や家庭での診断を行うPOCT(Point of care test:その場診断)用途に適用できる。
マクロな系では、送液手段としてポンプが一般的に用いられる。しかしながら、極少量の流体を扱う微小流路では、ポンプに接続したチューブで発生する無効体積(デッドボリューム)を無視することができない。したがってポンプは、POCT用途で用いられるチップの送液手段としては適さないことが多い。
POCT用途で好適に用いられる送液方法の一つに、遠心力を駆動源とした方法がある(例えば、特許文献1〜4)。遠心力による送液方法には、デッドボリュームが発生せず、同時かつ並列に多数の処理を実行できるなどの長所がある。
例えば非特許文献1に記載の基板は、複数の微小チャンバとマイクロ流路を有し、各微小チャンバ同士をつなぐマイクロ流路の幅を調整している。具体的には、約10μmから約100μmの範囲で、回転中心から遠いマイクロ流路ほど、その幅を狭くしている。それにより、回転中心線から遠いマイクロ流路ほど、大きな毛細管力を発生する。
マイクロ流路に発生する毛細管力によって送液が阻止されている微小チャンバ内の液体を、基板の回転により発生する遠心力によって、隣接する遠心方向の微小チャンバへと送液する。微小チャンバ内の液体を送液するのに必要な遠心力は、マイクロ流路に発生する毛細管力に相当する。前述の通りマイクロ流路に発生する毛細管力は、回転中心線から遠ざかるに従って大きくされている。よって回転速度を上げなければ、一つの微小チャンバから隣接する遠心方向の微小チャンバへと液体を送液することができない。その結果、段階的な送液を実現している。
特開2000−065778号公報 特表2001−503854号公報 特表2002−503331号公報 特表2000−514928号公報 Micro Total Analysis Systems 2000,pp.311−314
しかしながら、非特許文献1に開示されたチャンバ多段送液基板では、チャンバ同士をつなぐ流路の幅に関して、二つの制約がある。
第一の制約は、チャンバの部位(回転中心からの距離)に応じて可変させる流路の幅を、流路の深さと同等またはそれ以下とすることである。本発明者らは、上記第一の条件に
反する、流路深さよりも大きな流路幅を有する扁平流路を含む基板を実際に作製した。チャンバ段数を3段として、内周側の流路幅を750μm、外周側の流路幅を300μm、流路深さ15μmとした。作製した基板を用いて多段送液の評価を行ったが、多段送液は実現されなかった。つまり、第一の回転速度を基板に印加すると、最内周のチャンバから送液された溶液は、次に接続されているチャンバで留まらずに、最外周のチャンバまで一気に送液された。
上記実験において所望の送液動作が実現しなかった理由は、流路幅(750μm、300μm)を、流路深さ(15μm)よりも大きくしたためであると考えられる。流路断面にかかる毛細管力による圧力は、流路断面の周囲長に比例し、流路の断面積に反比例する。したがって、流路断面にかかる毛細管力を大きく増加させるためには、断面積の増加分よりも、周囲長の増加分を大きくする必要がある。そのためには、幅・深さで構成される流路の断面のうち、一番短い寸法を小さくしなければならない。
第二の制約は、回転中心線から遠い流路ほど、その幅をより狭くすることである。約10μmから約100μmの幅または深さを有する流路は、一般にフォトリソグラフィー技術を用いて作製される。流路の幅はフォトマスクの線幅を変えることにより変化させることが可能である。しかしながら、チャンバの段数が増加するに従って流路幅をより小さくする必要があるが、流路幅を小さくするには作製限界がある。例えば、流路深さが100μmの流路において、流路の幅を約1μm以下に、すなわちアスペクト比を100以下とすることは、現状の技術では不可能である。また、流路の深さはエッチング深さによって決定されるため、各流路に相当する局所的な領域を異なる深さに形成することは難しい。
以上の理由から、マイクロ流路の断面積を調整することにより、段階的な送液を実現する基板を作製するプロセスは、負荷が大きい。さらに、多段送液を実現する基板は作製不可能になる場合もある。
本発明は、その内部を液体が移動する流路部位を有する基板であって、流路部位にチャンバ同士をつなぐマイクロ流路がなくても、基板の回転速度に応じて段階的に、ある領域から次の領域へ溶液が移動できる基板を提供することを目的とする。つまり本発明の基板において液体は、流路部位の一のチャンバにおけるある領域から次の領域に移動するか;または流路部位の一のチャンバからマイクロ流路を経ることなく他のチャンバへ移動するといえる。
また本発明は、その内部を溶液が移動する流路部位を有する基板を、負荷の少ないプロセスで作製する方法、つまりマイクロ流路を形成するステップを必要としない方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の第一は以下に示す基板に関する。
[1] 回転軸を中心に回転可能であり、その内部に形成された、チャンバを含む流路部位を有する基板であって、
前記チャンバの内壁は、前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第1内部面と、前記第1内部面よりも前記中心から遠い位置に配置され、かつ前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第2内部面とを有し、
前記第1内部面は、提供される液体の液滴を保持する領域と、前記基板の回転により、前記保持された液滴の接触面積が拡がる領域であって、前記第2内部面と連なっている領域とを有する基板。
本発明の第二は、以下に示す基板内部で液体を移送する方法に関する。
[2] [1]に記載の基板の内部に形成された一のチャンバにおいて、液体を移送す
る方法であって、
前記第1内部面の液滴を保持する領域に、液滴を保持させる工程と、前記回転軸を中心に前記基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、前記液体を第2内部面に移送する工程と、を含む方法。
本発明の第三は、以下に示す装置に関する。
[3] [1]に記載の基板と、前記基板を前記回転中心線まわりに回転駆動させる回転駆動部とを備える、液滴移送装置。
本発明により、基板の内部に形成された流路部位において、溶液を段階的に移動させることができる。溶液を段階的に移動させることができるので、基板に種々の機能を付与することができる。種々の機能とは、チャンバ中に担持させた乾燥試薬と溶液を、所定時間反応させたり;複数の領域に担持させた複数の乾燥試薬と溶液を、所定の順序で反応させたりすることなどを意味する。
しかも、本発明の基板は、チャンバどうしをつなぐマイクロ流路を必要としないので、その作製プロセスの負荷を小さくすることができるので、作製実現度も高い。
1.本発明の基板について
本発明の基板は、回転中心線である回転軸を中心にして回転されうる。回転方向は、回転中心線に対して直交する仮想の線に対して直交し、かつこの仮想の線と同一の平面上にある方向として定義される。例えば基板が回転軸に固定される場合、前記回転軸の半径方向に対して直交する接線方向が回転方向である。回転方向は、平面視で回転中心線に対して時計方向および反時計方向のいずれでもよい。
基板の外形形状は、円盤形、立方体、直方体、五角形等の多角形、星形など、任意の形状にすればよい。基板の大きさは、流路部位が収まる寸法で任意に設定できる。基板の代表的な外形(平面視での長さ)は、例えば約10mm以上150mm以下に設定される。また、基板の厚みは、約0.1mm以上30mm以下に設定されることが好ましい。
本発明の基板は、その内部に形成されたチャンバを含む流路部位を有する。基板には1または2以上の流路部位が含まれる。また、各流路部位には1または2以上のチャンバが含まれる。
前述の通り、基板に形成された流路部位には1または2以上のチャンバが含まれる。そのうちの少なくとも1のチャンバの内壁は、第1内部面と第2内部面を有する。また、チャンバには、液体を注入するための注入口が設けられていてもよい。注入口の断面形状は円形に限定されず、楕円形、多角形などの他の形状であってもよい。
第1内部面は、チャンバの内壁の一部であって、前記基板の回転中心からの遠心方向と交差する面を含む。前記交差する面は、平面であっても、曲面であってもよい。ここで「交差角度」は特に限定されないが、基板が回転されたときに、当該面で液滴を保持する必要があるので、約−34〜+34°の交差角度であることが好ましい。ここで交差角度とは、遠心方向に対して直交する面と、第1内部面とがなす角度(図1の角度X参照)を意味する。
第2内部面とは、第1内部面と同様に、チャンバの内壁の一部であって、前記基板の回転中心からの遠心方向と交差する壁を意味する。ただし第2内部面は、第1内部面よりも、回転中心から遠い位置に配置されていることが好ましい。ここで、遠心方向と交差する面の「交差する角度」は特に限定されない。
本発明の基板に含まれるチャンバの第1内部面は、チャンバに提供された液体を、液滴として保持する領域(「保持領域」とも称する);および前記保持された液体の液滴の接触面積が、基板の回転による遠心力を受けたときに拡がるための領域(「拡がり領域」とも称する)を有する。つまり「拡がり領域」は、保持領域の周辺に配置される。さらに、「拡がり領域」は第2内部面と連なっていることを特徴とする。「拡がり領域」の周辺から第2内部面に連なる面と、遠心方向に対して直交する面とは、少なくとも約9°以上の交差角度を有し、好適には約+34°以上の交差角度(図1の角度X’参照)を有する。ただし交差角度は、遠心方向に対して直交する面に対して「拡がり領域」の周辺から第2内部面に連なる面が外周側に伸びる方向を正方向とする。この交差角度を調整することにより、「拡がり領域」の周辺を超えた液滴を、第2内部面へすべり落とす。
第1内部面に含まれる保持領域は、疎水性を有することが好ましい。保持領域が疎水性
であれば、保持領域において液体を液滴として保持しやすくなるので、提供された液体が第1内部面の全面をぬらすことを防ぐ。
また、保持領域の疎水性を高めれば、保持領域に対する液滴の接触角を大きくすることができる。液滴の接触角が大きくなれば、液滴保持領域と液滴の接触面積が小さくなる。つまり、保持された液滴に作用する表面張力を下げることができる。本目的で、保持領域を皮膜処理して疎水性を高めてもよい。
後述するように、保持領域に保持された液滴の接触面積を遠心力によって拡げて、第2内部面に液体を移送するが、前記表面張力が小さければ、より小さな遠心力で液滴の接触面積を拡げることができる。したがって前記表面張力が小さければ、より低い回転速度で液体を移送することができる。低い回転速度で液体を移送することができれば、回転速度の制御による段階的な移送がより確実に実現される。
したがって、保持領域における水滴の静止接触角は30°〜118°であることが好ましく、より好適には60°〜90°であり、代表的には86°である。前記接触角が30°未満であると保持領域が親水性となり、液滴が保持領域で拡がりすぎるため好ましくない。一方、前記静止接触角で120°〜160°であると、保持領域の撥水性が高くなりすぎ、保持される液滴の形状が球形に近くなる。球形の液滴は、保持領域に液滴として保持されるが、基板を回転させても液滴が拡がりにくい。また前記接触角が160°であると、液滴が容易に第2内部面へと転がり落ちやすくなり、許容される交差角度(保持領域の面と遠心方向と直交する面とがなす角度)を4°〜7°と小さくする必要がある。このため、第1内部面の形状と向きが制限される。
一例を挙げると、保持領域が、液滴を静止接触角86°で保持する場合は、交差角度が−10°〜10°の範囲で液滴を保持できる。
保持領域の疎水性を高め、かつ交差角度を大きくするために、保持領域を皮膜処理してもよい。例えば、皮膜処理されていない保持領域における液滴の接触角が76°であるときに、エポキシ樹脂で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角92°で第1内部面(保持領域)に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−34°〜34°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
フッ素系の塗布剤で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角102°で第1内部面に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−12°〜12°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
シリコン系撥水剤で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角85〜95°で第1内部面に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−9°〜9°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
さらに、アクリルウレタン系撥水剤で保持領域を皮膜処理すると、液滴が接触角70°で第1内部面に保持される。この場合には、第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度を−30°〜30°の範囲で調整しても、液滴を保持できる。
このように第1内部面の面角度と遠心方向との交差角度は、第1内部面の疎水性を変化させたり、表面を皮膜処理したりすることで変化させることができる。
前述の通り、第1内部面の保持領域は疎水性を有することが好ましいが、第1内部面の全面が疎水性を有していてもよく、さらにチャンバの内壁の全面が疎水性を有していてもよい。それにより基板の生産性は高まる。
また、第1内部面の全面を疎水性にすれば、保持領域で液体の液滴をより確実に保持できるだけでなく、拡がり領域を含めた第1内部面の全面で液滴を保持する。したがって、第1内部面の全面が疎水性を有する場合は、一定量の液体を第1内部面から第2内部面に
移送するために、閾値の回転速度以上の回転駆動を続ける必要がある。この回転駆動時間を制御することにより、より正確に定められた量の液体をチャンバの第1内部面から第2内部面へ移送することができる。回転駆動時間を調整して移送を制御する手段は、所定時間後に別の部位で反応を行うために液体を移送する場合などに有効である。
チャンバの第1内部面だけでなく、流路部位(他のチャンバやチャンバ同士をつなぐ接続部などを含む)の内壁の全面を疎水性としてもよい。流路部位の全面を、疎水性材料で形成するか、流路部位全体に疎水化処理を施せばよいので、生産性が向上する。
さらに、基板全体が疎水性を有していてもよい。基板全体を疎水性材料で形成するか、基板全体に疎水化処理を施せばよいので、生産性がさらに向上する。
また保持領域の断面積は、保持する液滴の量に応じて決定される。保持する液滴の量は、約0.1μL以上10μL以下であることが好ましい。溶液は、保持領域に液滴としてある断面積を介して接触する。チャンバ内の側壁などにつかず、保持領域である底面に液滴を形成するには、2つの条件を満たす必要がある。第一は、前述したように、保持領域を疎水性とすることである。第二は、液滴が接する断面積よりも保持領域を大きく設定することである。具体的には、保持する溶液量が0.1μL以上10μL以下である場合には、保持領域の平面視での横幅を0.5mm以上5mm以下とすることが好ましく;特に保持する溶液量が0.1μL以上2μL以下である場合には、保持領域の平面視での横幅を0.75mm以上2.4mm以下とすることが好ましい。保持領域の深さは0.1mm以上4mm以下が好ましく、0.2mm以上1mm以下がより好適である。
保持領域からチャンバの求心方向の天面19(図1参照)までのクリアランス距離は、保持された液滴の高さより大きく設定される。具体的には、保持する溶液量を0.1μL以上2μL以下であるときには、クリアランス距離が1.8mm以上であれば液滴が頂面に接触しないので、クリアランス距離を2mmとすることが好ましく、4mm以上とすればより確実に接触が防止される。
一方、第1内部面に含まれる拡がり領域は、保持領域の周辺に配置される。後述するように、保持領域に保持された液滴の接触面積を基板の回転による遠心力で拡げるが、その拡がりにより液滴が、拡がり領域に拡大する。
保持領域から延びる拡がり領域の幅は、平面視で0.3mm以上13mm以下が好ましく、より好適には0.5mm以上2.5mm以下である。拡がり領域の幅が0.3mm以下であると、保持領域での溶液の保持が不安定となる。容積10μLの液滴は、直径3.3mmの円形の断面積をもって保持領域に保持される。基板を回転速度3000rpmで回転させても、容積10μLの液滴の幅は28mm以上に拡がらない。保持する溶液の量は通常10μL以下であるので、保持領域の外周から拡がり領域の最外周に至る拡がり領域の幅は、12.3mmとすれば通常は充分である。
拡がり領域を大きくすると、第2内部面へ液体を移送するため、液滴の接触面積の拡がりも大きくしなければならない。よって移送のための基板の回転速度を上げて、遠心力を高めなければならない。したがって拡がり領域の大きさは、移送のための回転速度に応じて設定すればよい。
第2内部面は、第1内部面よりも基板の回転中心から遠い位置に配置されており、かつ第1内部面の拡がり領域と連なっている。したがって保持領域に保持された液体の液滴が、遠心力によって拡げられ、拡がり領域を超えて拡がろうとしたときに、第2内部面へ液体が移送される。
第2内部面にも、液滴の保持領域と拡がり領域を設けてもよい。その場合には、第3内
部面を配置することが好ましい。第3内部面は、チャンバの内壁の一部であって、回転中心からの遠心方向に交差する面を含む。かつ第3内部面は、第2内部面よりも基板の回転中心から離れた位置に配置され、第2内部面の液滴の拡がり領域と連通していることが好ましい。
同様にして、さらに第4の内部面、第5の内部面・・・・第nの内部面を設けてもよい。
本発明の基板に形成された流路部位は、第1チャンバと第2チャンバを含む2以上のチャンバ、および第1チャンバと第2チャンバを連通させる接続部を有していてもよい。第1チャンバは、第2チャンバよりも基板の回転中心の近くに配置されることが好ましい。第1チャンバは、注入口を除いて空間的に閉じられている。第2チャンバは、前述した第1内部面と第2内部面を含む。
詳細は後述するが、基板の外部から注入口を介して注入された第1チャンバの液体は、基板の回転によって第2チャンバに供給されることが好ましい。したがって、第1チャンバと第2チャンバを連通させる接続部は、基板の回転中心から離れた第1チャンバ部位と接続していることが好ましい。遠心力により、適切に第1チャンバの液体を第2チャンバに供給するためである。
第1チャンバから第2チャンバへ供給された液体は、第2チャンバの第1内部面の保持領域に保持される。したがって第2チャンバへ向かう接続部の方向は、第1内部面の保持領域へ向かう方向へ調整されることが好ましい。
第1チャンバと第2チャンバとを連通させる接続部の断面は、いわゆる「マイクロ流路」と比べて大きくすることができる。よって、基板の作製負荷は大きくならない。
例えば接続部15(図5参照)の幅は、100μm以上2000μm以下程度であることが好ましく、300μm以上1000μm以下程度であることがより好ましい。さらに接続部15の深さは、供給チャンバ6および被供給チャンバ7よりも浅いことが好ましい。例えば、接続部15の幅が300μm以上1000μm以下程度のときに、接続部15の深さは50μm以上300μm以下程度であることが好ましく、100μm以上200μm以下程度であることがより好ましい。
本発明の基板には、1または2以上の流路部位を設けることができる。1の基板に、2以上の流路部位を集積化して設けることにより、基板の回転速度制御を1回実行すれば(後述)、各流路部位のチャンバの液体を、同時に第1内部面から第2内部面へ移送することができる。従って、流路部位の集積化により同時並列処理数を増加させて、多数の検体を短時間で処理することができる。
また流路部位ごとに、それに含まれるチャンバや流路の構造を変えてもよく、それにより、流路部位毎に、異なる回転速度で独立に送液を制御することができる。したがって、一つの基板で複数種類の測定シーケンスを同時に実施できる。例えば、流路部位1では1段反応のグルコース測定を、流路部位2では3段反応のコレステロール測定を実施でき、多項目化に適する。
また、一つの基板に多数の流路部位を形成することは、基板の製造コスト面からみても、一つの検体の処理コストを下げることに貢献する。
本発明の基板は、回転中心線として働く中心軸部材を有していてもよい。中心軸部材を有していれば、基板を回転駆動部に取り付ける機構を準備する必要がなく、基板自体をそ
のまま回転させることができ、送液装置(後述)が簡便になる。基板の製造コスト面からみても、一つの検体の処理コストを下げることに貢献する。
2.本発明の液体を移送する方法
本発明の液体を移送する方法(「送液方法」とも称する)は、本発明の基板の内部に形成された流路部位のチャンバにおいて、1の領域から、他の領域へ段階的に溶液を移送する方法である。本発明の送液方法は、本発明の基板を回転させるステップを含む。
本発明の送液方法の第一は、本発明の基板を準備し、1)チャンバの第1内部面の液滴の保持領域に、液滴を保持させる工程、および2)回転軸を中心に基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、第二の内部面に液体を移送する工程を含む。
1)液滴を保持させる工程について
チャンバに提供された液体が、第1内部面の保持領域に接触し、凝集力が働いて液滴様の形状を保つ。したがって液体は、第1内部面の保持領域に液滴として保持され、液滴は一定の接触角をもって保持領域に保持される。
液滴の第1内部面の保持領域に対する接触角は、求心性の方向(すなわち回転中心線へ向かう方向)に作用する表面張力の合力によって定まり、液滴が保持される領域の面積も表面張力の合力によって定まる。
チャンバへの液体の供給は、任意の方法で行なわれる。例えば、基板の外部からチャンバに形成された注入口を経て注入されてもよく、接続部を介して連通された他のチャンバから提供されてもよい。
2)第2内部面に移送する工程について
基板を、回転軸を中心に回転させると、第1内部面の保持領域に保持されている液体の液滴に、遠心性の方向(すなわち回転中心線から遠ざかる方向)の遠心力が作用する。遠心力が作用した液滴には、求心性の方向(すなわち回転中心線へ向かう方向)に、液滴であろうとする表面張力の合力が作用する。表面張力の合力が遠心力と釣り合おうとするため、液体の液滴の接触面積が拡がって、液滴の接触周囲長も拡がる。したがって、液滴は保持領域の周辺の「拡がり領域」にまで拡がる。
さらに回転速度を上昇させて遠心力を高めると、表面張力の合力もさらに大きくなろうとして液滴の接触周囲長が高まる。回転速度がある速度に到達すると、液滴は、拡がり領域を超えて拡がろうとして、連通している第2内部面へ液体が流れ込む。第2内部面へ液体が流れ込むときの、基板の回転速度を「移送回転速度」とも称する。
移送回転速度は、600rpm〜10000rpmの範囲で決定されることが望ましく、より好適には1000rpm〜3000rpmの範囲で設計される。また、移送回転速度は、拡がり領域の大きさに応じて自在に設定できる。
このように移送回転速度の印加により、第1内部面から第2内部面へ液体を移送することができる。したがって基板の回転速度を制御することで、液滴を移送するタイミングが調整でき、段階的な送液が実現される。
第2内部面も液滴の保持領域と拡がり領域を有し、かつ第2内部面よりも基板の回転中心から遠くに第3内部面を配置すれば、さらに基板の回転速度を上げることによって、第2内部面から第3内部面へと液体を移送することができる。
このように、マイクロ流路を経ることなく、回転速度に応じた段階的な液体の移送が実
現される。
前述の通り、第1内部面の保持領域は疎水性を有する。したがって、第1内部面に接触した液体が、遠心力を受けることなく第1内部面の全面(拡がり領域を含む)を濡らすことを抑える。したがって、回転速度の制御による移送を確実に実現する。また、保持領域に対する液滴の接触角を大きくすることができるので、液滴の保持領域と液滴の接触周囲長を小さくすることができる。つまり、液滴にかかる表面張力が小さくなるため、より小さい遠心力で液滴の接触面積を拡げることができ、液体をより低い回転速度で移送することができる。より低い回転速度で液体を移送することができれば、移送の段数を多くすることができ、より複雑な移送の制御が可能となる。
前述の通り、本発明の基板の流路部位は、第1チャンバと第2チャンバ、および両チャンバを連通させる接続部を有していてもよい。本発明の送液方法の第二は、第1チャンバと第2チャンバを有する基板を準備して、A)前記回転軸を中心に第1回転速度で前記基板を回転させて、前記第1チャンバに注入された液体を前記第2チャンバに流入させて、前記第1内部面の液滴を保持する領域に、前記液体の液滴を保持させる工程、およびB)前記回転軸を中心に、前記第1回転速度より大きな第2回転速度で前記基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、前記液体を第2内部面に移送する工程を含む、液滴を移送する方法である。
第1チャンバに注入された液体は、第1回転速度よりも低い初期回転速度で基板を回転させると、遠心力を受けて第1チャンバの遠心方向の壁に押し付けられる。接続部の断面積を適切に設定すれば、初期回転速度では液体が第2チャンバに導かれない。
基板の回転速度を第1回転速度に上昇させると、第1チャンバに注入された液体は、接続部に浸入して第2チャンバ内に流入する。第2チャンバ内に流入した液体は、遠心方向と交差する面を有する第1内部面と接触し、第1内部面の保持領域に液滴として保持される。第1内部面は、遠心方向と交差する面を有しているので、接続部を経て流入した液体の運動を妨げて液体を受け止めることができる。
基板の回転によって、第1チャンバから、第2チャンバの第1内部面へ液体を提供でき、正確な位置に液滴を配置することができる。
注入口から注入された第1チャンバ内の液体は、接続部の接続端部において毛細管力によって保持される。このときの毛細管力を第1毛細管力と称する。基板を第1回転速度で回転させることにより、接続端部で保持されている液体に、遠心性の方向(すなわち回転中心線から遠ざかる方向)の第1遠心力を作用させる。第1遠心力がかかる溶液の体積は、接続端部を底面積として、溶液面までの距離を高さとした立方体領域である。第1遠心力が第1毛細管力を上回ると、第1チャンバ内の液体が接続部に流れ込み、第2チャンバの第1内部面へ導かれる。
第1内部面の保持領域に保持された液滴は、求心性の方向に作用する表面張力の合力と、遠心性の方向に作用する遠心力が釣り合うように、壁面との接触面の周囲長を決定する。
第1内部面の保持領域に液滴を保持した後は、前述の「本発明の送液方法の第一」と同様にして、第1内部面から第2内部面へ液体を移送すればよい。
本発明の第2の送液方法により、所定のタイミングで第1内部面に液体を提供することができるので、液体の移送の全自動化に適する。
本発明の送液方法により移送される液体の容量は微量であってもよく、例えば0.1μL以上10μL以下であることが好ましい。
3.本発明の液体を移送する装置
本発明の装置は、本発明の基板;および前記基板を前記回転中心線まわりに回転駆動可能な回転駆動部を備える。回転駆動部で基板を回転させることによって、前述の送液方法を実現する。
装置に含まれる回転駆動部は、基板を前記回転中心線まわりに回転させるモータと、モータに速度特性を与える速度特性印加部とを備えることが好ましい。基板に所定の回転速度を印加することができ、基板の流路部位において溶液を多段送液することができる。
回転駆動部に含まれるモータの例には、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ、およびステッピングモータが含まれる。ステッピングモータは、基板の急回転と急制動を外部の駆動信号を印加するだけで、容易に実現することができるため好適である。また、DCモータは駆動回路(後述)を特に必要としない。DCブラシレスモータを採用する場合、駆動回路(後述)が逆回転電圧を印加する機能を有していればより素早い急制動を実現できる。
回転駆動部は、回転中の基板の回転速度を検出する回転速度検出器と、回転速度検出器の検出した回転速度に基づいて、前記速度特性印加部がモータに与える速度特性を補正する回転速度補正部をさらに備えていてもよい。実際の回転速度をフィードバックして速度特性を補正しつつ、基板を回転駆動できるので、送液量が安定し、かつ送液量の繰り返し再現性も向上する。
次に、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[実施の形態1]
図1〜図4は、実施の形態1に係る基板2を示す。
図1に示すように、実施の形態1の基板2は、回転軸3と共に回転することができる。図1に示された矢印R1またはR2のように、基板は、回転軸3からの半径方向rに対して直交する方向に回転する。つまり回転方向は、回転軸3の軸線Sに対して直交する仮想の線に対して直交し、かつ、この仮想の線と同一の平面上にある方向として定義される。基板2は、平面視で時計方向R1および反時計方向R2のいずれにも回転することができる。
基板2は流路部位5を有する。図1および図2を併せて参照すると、流路部位5は被供給チャンバ7を備える。被供給チャンバ7は、移送の対象である液体10が収容されるチャンバである。被供給チャンバ7は、基板2の内部に形成され、空間的に閉じられていてもよい。
被供給チャンバ7の内壁面は、第1内部面8、および第2内部面9を有する。
第1内部面8は、液体10の液滴を保持する保持領域16;および保持領域16に保持された液滴が、基板の回転により拡がるための拡がり領域17の両方を備えている。第1内部面8は、遠心方向と交差する面を有しており、図1では遠心方向と略直交する面を有している。保持領域16および拡がり領域17に配置された液滴に作用する表面張力の合力の向きが、中心軸から見て遠心性の方向に向かないように、第1内部面8の向きを調整する。このように、第1内部面8の向きについて自由度が高く、基板の生産性等の面で好ましい。
一方、第2内部面9は、第1内部面8より軸線Sから離れて配置される。
被供給チャンバ7は、平面視で略長方形状が2つつながった形状を有する。被供給チャンバ7には断面円形の空気口12が形成されていてもよく、空気口12はチャンバ内部と基板2の外部とを連通させる。空気口12は、第1内部面8へ溶液を提供するための注入口として使用されてもよい。
空気口12は、第1内部面の保持領域16よりも軸線Sに近い位置に設けられる。それにより基板2の回転によって、空気口12から液体が散逸することを抑制する。液体10を液滴保持領域16に導入するための開口部を別途に設けてもよい。
空気口12の断面形状は円形に限定されず、楕円形、多角形などの他の形状であってもよい。また空気口12は、被供給チャンバ7を構成する壁面の一部を、空気を透過させるが液体を透過させない材料で形成して設けてもよい。この場合、基板2を回転させたときの液体10の漏れを考慮する必要がないので、空気口12を比較的大きな面積とすることができる。
保持領域16で液滴として保持される液体10の体積は、0.1μL以上10μL以下であることが好ましい。
被供給チャンバ7の第1内部面8の保持領域16は、疎水性を有することが好ましい。保持部16が疎水性を有していれば、第1内部面8の液滴保持領域16に保持された液体には表面張力が作用し、液体が液滴様の形状で存在することができる。
保持領域16の疎水性を高めれば、液滴の接触角を大きくすることができる。液滴の接触角を大きくすれば、液滴保持領域と液滴との周囲長を小さくすることができる。液滴保持領域と液滴との周囲長を小さくすれば、液滴に作用する表面張力が小さくなるため、より小さな遠心力で液滴を拡げることができる。つまり、液滴の移送を、より低い回転速度によって実現することができる。
一方、第1内部面8の拡がり領域17は、疎水性を有していても、親水性を有していてもよい。拡がり領域17に親水性を付与すれば、保持領域16に保持された液滴が、拡がり領域17に拡がると、湿潤効果によって濡れるようにさらに拡がる。
疎水性を付与するためには、当該部位を疎水性材料により形成するか、または当該部位に疎水化処理を施せばよい。
疎水性材料の例には、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素等に代表される半導体材料;アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素の群から選ばれる無機絶縁材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイド及びポリスルホン等の群から選ばれる有機材料が含まれる。好適に用いられる疎水性材料は、PETまたはPCである。
疎水化処理の例には、フッ素樹脂系の塗布剤、シリコン系の塗布剤、アクリルウレタン系の塗布剤、エポキシ系の塗布剤の塗布などがある。好適には、フッ素樹脂計の塗布剤が用いられる。
基板2の積層構造の第1の例
図2A、図2Bを参照して、基板2の積層構造の第1の例について説明する。基板2は3層構造を有し、上部板材41、チャンバ板材43および下部板材44が積層されている。
上部板材41には注入口(空気口)12が設けられ、注入口(空気口)12は板厚方向に貫通している。チャンバ板材43には溝孔が設けられ、溝孔は被供給チャンバ7に対応する形状を有し、かつ板厚方向に貫通している。下部板材44は被供給チャンバ7の底面を構成し、溝や孔は設けられていない。図2Bは、図2Aの基板に対応する上面図である。
図2Aに示された3層構造の基板2は、各板材を接合することで作製できるので、生産性に優れる。チャンバ板材43の厚みで、被供給チャンバ7の深さ25を設定できる。また、被供給チャンバ7の底部となる下部板材44は、他の板材とは別体であるので、接合前に下部板材44に反応試薬等を容易に担持させることができる。そこで、被供給チャンバ7の底部に、液体と反応させる目的で反応試薬を担持させておくことができる。
各板材の接合は、当業者に知られた任意の方法を採用すればよい。
例えば、各板材の間に接着性材料または接着性を有するシートを介在させてもよく、超音波接合、熱圧着接合、ラミネータ加工等の他の接合方法を採用してもよい。流路やチャンバは、当業者に知られた種々の方法を採用して形成される。例えば、半導体微細加工技術に代表されるフォトリソグラフィー加工、プラスチック成型に代表されるインジェクションモールド、切削加工、マスター基板から複製をつくる転写加工などを採用する。好適に用いられるのは、フォトリソグラフィー加工である。
実施の形態1の基板2を使用した送液方法を、図3のフローチャート、および図4A〜Cを参照して説明する。
送液方法は、1)第1内部面8の保持領域16に、液滴10を保持させる工程A、および2)基板2を、回転軸3を中心として第3回転速度rpmで回転させる工程Bを含む。工程Aで、液体10を供給チャンバ6に充填する方法は任意である。
図4Aを参照すると、第1内部面8の保持領域16が疎水性を有していれば、液体10は自身の凝集力によって、保持領域16上に液滴様に保持される。図4Aに示されるように、液体10の液滴は、第1内部面8の保持領域16と接触角θcをもって保持される。保持領域16に接触する液滴の周囲長Cにわたり、壁面と液体10の界面に表面張力T〜T(全方位の表面張力)が生じて、その合力Fcが発生する。Fcは求心性の方向、すなわち第1内部面8から回転軸3に向かう方向に発生する。一般に表面張力の合力Fcの大きさ、およびFcが保持領域16に作用する圧力Pcは、以下の式(1)および式(2)で表される。符号「T」は水の表面張力、「θc」は液体の壁面に対する接触角、「c」は液滴の接触面の周囲長、「S」は液滴の接触面積をそれぞれ表す。
Figure 2008126404
Figure 2008126404
被供給チャンバ7の液体10を、第1内部面8の保持領域16で保持する力である表面張力の合力Fcは、保持領域16の疎水性に基づく非湿潤性の現象により発生する。また、表面張力の合力Fcにより、第1内部面8に液体10を保持するためには、第1内部面8が液滴の接触断面積より大きい必要がある。実施の形態1では、第1内部面8(保持領域や拡がり領域を含む)の平面視での幅を、1.5mm以上18mm以下程度に設定する。より具体的には、幅を1.75mm以上7.5mm以下とする。第1内部面の深さは0.2mm以上1mm以下程度に設定される。
図4Aは、第3回転速度rpmより小さい第1回転速度rpmで基板2を回転しているときの液体10の様子を示す。図4Aに示すように、基板2が回転されると、毛細管力Fcによって保持領域16に保持されている液体10に対して、半径方向rで外向きの遠心力Fgが作用する。図4Aにおいて、「r2d」は第1内部面8の仮想液面底面における最大回転半径、「r2u」は第1内部面8の仮想液面頂点における最小回転半径をそれぞれ示す。遠心力Fgの大きさは、式(3)に示すように遠心力が作用する液体の領域の体積に比例し;回転軸から第1内部面8までの距離である回転半径に比例し;回転速度の2乗に比例する関係となる。ここで、式(3)に示すFgの大きさは、実際には、液滴の形状に即するように、最小回転半径r2uから最大回転半径r2dまでの各回転半径における微小体積要素dVを直径方向に積分することによって求められる。式(3)において、符号「ρ」は液体の密度、「V」は遠心力Fgが作用する液体の体積、「r」は回転半径、「ω」は回転角速度をそれぞれ表す。
Figure 2008126404
ただし、回転速度rpmと回転角速度ωには次の式(4)の関係が成り立つ。
Figure 2008126404
遠心力Fgによって保持領域16にかかる遠心圧力Pgが、毛細管力Fcによって液滴保持領域16にかかる表面張力合力Pcと相殺されると、基板の回転中においても液滴は第1内部面8に留まる。回転速度が上昇するに従い、液体10の液滴の形状が扁平になり、拡がり領域17で液滴が拡がっていく。
図4Bは、第2回転速度rpmで基板2を回転しているときの液体10の形状を示す。第2回転速度rpmは、第1回転速度rpmより大きく、かつ第3回転速度rpmより小さい。図4Bに示したように、回転速度の上昇により、遠心力がFgからより大きいFgに変化する。これに釣り合うように、表面張力の合力もFcから、より大きいFcに変化する。そのため、液体10の液滴の平面視での接触角はθcから、より小さいθcに変化する。
液体10の液滴の接触角が小さくなると、液滴接触面の周囲長が増大する。増大した周囲長は、図4Bに「C」として示される。このように、拡がり領域17へ液滴が拡がる。
図4Cに示すように、第2回転速度rpmよりも大きな第3回転速度rpmで基板2を回転させると、液滴は拡がり領域17の最外周に到達する。拡がり領域17の周縁部
には、遠心方向に作用する遠心力を受け止める内部面が存在しないため、第2内部面9に液体が流れ出す。
つまり、第3回転速度rpmで基板2を回転駆動することによって、第1内部面8上の液体10を第2内部面9上に移送することができる。回転方向は、時計方向R1および反時計方向R2のいずれでもよい。
第3回転速度rpmに至る時間や加速度は任意に設定される。液体10は、第3回転速度rpm未満の回転速度で基板2を回転駆動している限りは、第1内部面8内で液体10は保持される。そこで所定時間、第3回転速度rpm未満の回転速度で基板2を回転させることにより、送液開始のタイミングを制御できる。
第1内部面8から第2内部面9に流入した液体10は、引き続き遠心力Fgを受けるため、第2内部面9上においても半径方向rの遠心方向に溜ろうとする。第2内部面9が疎水性を有していれば、液体10は表面張力Fcを受けて液滴様の形状で保持される。図4Cにおいて、「r3d」は第2内部面9の回転半径を示す。より正確には、第2内部面9の仮想液面底面における最大回転半径とも表現しうる。
そこで第2内部面9にも、液滴の保持領域と拡がり領域を設けて、かつ第2内部面よりも外側に第3内部面を配置すれば、さらに回転速度を上昇させることで、第2内部面から第3内部面(不図示)へ移送することも可能となる。
以上のように、実施の形態1の基板2は、拡がり領域の大きさを適切に設定し、第3回転速度rpmで回転駆動することで、第1内部面8から第2内部面9へ選択的に液体10を送液することができ、これを繰り返すことで段階的に送液することが可能となる。
このように、基板の回転速度に応じて、互いに連なった第1内部面と第2内部面を有するチャンバ内で、液体を段階的に送液する。したがって、チャンバどうしをつなぐマイクロ流路等を必要とせずに段階的な送液が実現される。マイクロ流路等を必要としないので、基板の作製が容易であり、作製プロセスに負荷がかからない。
[実施の形態2]
実施の形態2に係る基板2の構造が図5に示される。実施の形態2に係る基板2は、被供給チャンバ7に、接続部15を介して供給チャンバ6が設けられている。実施の形態1では、被供給チャンバ7の注入口12から液体を供給したが、実施の形態2では、基板2の回転により、供給チャンバ6から被供給チャンバ7の第1内部面8に液滴を供給する。
実施の形態2の基板2の流路部位5を、図5および図6を用いて説明する。
図5を参照すると、平面視で供給チャンバ(第1チャンバ)6が被供給チャンバ(第2チャンバ)7よりも回転軸3の近くに配置され、両者は接続部15を介して連通している。
供給チャンバ6は移送の対象である液体10が蓄えられるチャンバである。供給チャンバ6は基板2の内部に形成され、空間的に閉じられている。図5を参照すると、供給チャンバ6は平面視で略長方形状であるが、供給チャンバ6の外形形状は略長方形状に限定されず、円柱形状など任意に設定できる。
供給チャンバ6には注入口11が形成され、注入口11は供給チャンバ6の内部と基板2の外部とを連通させる円形の断面である。もちろん注入口11の形状は任意である。注入口11は、供給チャンバ6への液体10の注入に使用される。
供給チャンバ6に設けられた注入口11は、第1接続端部13よりも回転軸3に近い位置に設けられる。具体的には、注入口11は図5において供給チャンバ6の求心側に設けられている。また、注入口11の平面視での面積は、供給チャンバ6の平面視での面積よりも十分小さい。注入口11の位置及び面積をこのように設定すれば、基板2が回転しているときに作用する遠心力によって、液体10が注入口11から漏れたり飛散したりせず、接続部15に流れる。したがって、注入口11の位置及び面積をこのように設定した場合には、液体10を供給チャンバ6に注入して、注入口11を開放したまま基板2を回転させることができる。
逆に、供給チャンバ6に設けられた注入口11が、第1接続端部13よりも回転軸3から遠い位置に設けられている場合や、注入口11の面積が供給チャンバ6の面積に対して比較的大きい場合には、注入口11を封止してから基板2を回転させることが好ましい。基板2の回転により、供給チャンバ6内の液体10が注入口11から漏れたり飛散したりするのを防止するためである。
供給チャンバ6の寸法や体積は、試料液(液体10)の液量に従って決定する必要があるが、好適には、体積が0.1μL以上100μL以下であることが好ましい。
被供給チャンバ7の空気口12は、実施の形態1に示したような溶液の注入には用いられない。空気口12は、被供給チャンバ7に液体10を流入させるときに、被供給チャンバ7内の空気を基板2の外部に排出する機能を有する。空気口12は、必ずしも単一ではなく、同様の目的で複数の空気口を配置してもよい。
接続部15は、供給チャンバ6と被供給チャンバ7を流体的に互いに連通させる。接続部15は、供給チャンバ6内の液体10を、被供給チャンバ7に送液するための流路である。接続部15は基板2の内部に形成され、空間的に閉じられている。また接続部15の両端、すなわち入口端部(第1接続端部)13と出口端部(第2接続端部)14は、それぞれ供給チャンバ6と被供給チャンバ7に接続される。
接続部15は、第1接続端部13から軸線Sから遠心方向rに沿って第2接続端部14に延びている。第1接続端部13の断面積は、供給チャンバ6の断面積より小さい。接続部15の断面積は、供給チャンバ6および被供給チャンバ7と同等またはそれよりも小さいことが好ましい。
図6Aに示されるように、接続部15の深さ27は、供給チャンバ6の深さ24および被供給チャンバ7の深さ25よりも浅いことが好ましい。図6Bに示されるように、接続部15の幅20は、供給チャンバ6の幅21および被供給チャンバ7の幅22よりも狭いことが好ましい。具体的な数値は、前述の通りであり、いわゆる「マイクロ流路」よりも比較的大きくしてよい。
供給チャンバ6と接続している接続部15の第一接続端部13は、供給チャンバ6に収容された液体10のバルブとして機能しうる。接続部15は、第1接続端部13から遠心方向に、すなわち基板2の回転方向(時計方向R1及び反時計方向R2)に対して直交する方向に延びている。そのため、基板2の回転により液体10に作用する遠心力で、供給チャンバ6の液体10を接続部15内に流入させることができる。
一方、接続部15は、回転軸3に近い側から、被供給チャンバ7と接続する第2接続端部14に向かって延びている。そのため、いったん被供給チャンバ7に流入した液体10が、逆流せずに保持される。また、被供給チャンバ7に流入した液体10が第1内部面にあたるように、接続部15の向きが設計されている。図6Bにおいて、「r1d」は供給
チャンバ6の回転半径、「r2d」は被供給チャンバ7の第1内部面8の回転半径をそれぞれ示す。
接続部15の第1接続端部13は疎水性を有する。疎水性を付与するためには、当該部位を疎水性材料で形成するか、当該部位に疎水化処理を施せばよい。入口端部13が疎水性を有していれば、前述の通りバルブとして機能する。
実施の態様2の基板2を用いて液体を移送する(送液する)方法を、図7のフローチャートと、図8A〜図8Gを参照して説明する。
実施の態様2の基板2を用いた送液方法は、基板2を第1回転速度rpmで回転駆動する工程D;第3回転速度rpmで回転駆動する工程Eを含む。工程Dの前に、基板2の注入口11から液体10を注入して、供給チャンバ6に充填してもよい(工程C)。このときに注入する液体10の体積を、仮想チャンバ体積18とする。
注入口11から第1チャンバ6に充填された液体10は、第1接続端部13で、接続部15への流入を妨げる向きの第1毛細管力Fcを受ける(図8A)。接続部15の第1接続端部13は疎水性を有し、かつ接続部15の断面積は供給チャンバ6の断面積より小さいので、液体10は表面張力による毛細管力Fcによって第1接続端部13で保持され、接続部15内に流入しない。
液体10と流路壁面の接触角θcが鈍角となるため、液体10を供給チャンバ6内に保持する方向の毛細管力Fcが発生する。詳細には、接続部15壁面と液体10の界面には表面張力T〜T(全方位の表面張力)が生じて、その合力である毛細管力Fcは求心性の方向、すなわち第1接続端部13から供給チャンバ6の内部に向かう方向に発生する。一般に、毛細管力Fcの大きさ、および毛細管Fcが流路端部13に作用する圧力Pcは、前述の式(1)、および式(2)で表される。
供給チャンバ6内の液体10を、第1接続端部13で保持する毛細管力Fcは、非湿潤性の現象に基づく力であるので、第1接続端部13が疎水性を有することにより生じる。また、毛細管力Fcによって第1接続端部13に液体10を保持するためには、接続部15の断面積を適切に設定することが重要である。
接続部15の幅を100μm以上2000μm以下程度に設定し、かつ接続部15の深さを供給チャンバ6、被供給チャンバ7よりも浅く設定すれば、毛細管力Fcによって第1接続端部13で液体10をより確実に保持することができる。
基板2の回転により液体10が飛散することを防止するために必要であれば、注入口11を封止することが好ましい(図7工程C’)。前述の通り、回転軸3に近い位置に注入口11を設ければ、基板2の回転による液体の飛散が起こりにくい。また、注入口11の開口面積を供給チャンバ6に比べて十分に小さくすれば、液体の飛散が起こりにくい。一方、注入口11が開いていると、工程Cにおいて充分な量の液体10を供給チャンバ6に注入することができない場合がある。よって注入口11を封止すれば、供給チャンバ6への充分量の液体10の注入と、基板2の回転時の液体10の飛散防止を両立することができる。図8Aにおいて、「r1d」は供給チャンバ6の回転半径、「r1u」は供給チャンバ6の仮想液面回転半径をそれぞれ示す。
次に、基板2を第1回転速度rpmで回転駆動する(工程D)。
図8Bに示すように、基板2を第1回転速度rpmで回転しているときには、第1接続端部13で毛細管力Fcにより保持されている液体10に対して、半径方向rで外向きの遠心力Fgが作用する。遠心力Fgの大きさは、1)遠心力が作用する液体の領域の体積に比例し、2)回転軸3から第1の接続端部13までの距離である回転半径r1d
(図8A参照)に比例し、3)回転速度の2乗に比例する。
遠心力Fgによって第1接続端部13に作用する遠心圧力Pgが、毛細管力Fcによって第1接続端部13に作用する毛細管圧力Pcを上回ると、第1接続端部13の液体10が接続部15を濡らす。
つまり、PgがPcより小さい場合は、遠心力Fgが作用しても、液体10は第1接続端部13で保持され続ける。そして、遠心圧力Pgが、第1接続端部13に液体10を保持する毛細管圧力Pcを上回ると、第1接続端部13で保持されていた液体10が接続部15に流入する。
遠心圧力Pgが毛細管圧力Pcを上回るときの回転速度を、第1回転速度rpmとする。基板2を第1回転速度rpmで回転駆動することによって、第1チャンバ6内の溶液10を、接続部15内へ流入させることができる(図8Bおよび図8C)。接続部15は第1内部面8に向いているので、接続部15に流入した液体10は第1内部面8上に配置される。このように、第1回転速度rpmの印加に伴って、供給チャンバ6から被供給チャンバの第1内部面8へ液体10が移送される(図8D)。
第1回転速度rpmに至る時間や加速度は任意に設定される。
供給チャンバ6から第1内部面8へ液体10を移送した後(図8E〜G)は、実施の形態1と同様に、第3回転速度rpmによって、液体10を第1内部面8から第2内部面9へと移送すればよい。
以上のように、実施の形態2の基板2は、第1回転速度rpmで回転駆動することで、第1チャンバ6から第2チャンバ7へ選択的に液体10を移送することができ;第3回転速度rpmで回転駆動することで、第2チャンバ7における第1内部面8から第2内部面9へ選択的に液体10を移送することができる。このように、段階的な送液が実現される。図8Eにおいて、「r2d」は第1内部面8の回転半径、「r2u」は第1内部面8の仮想液面回転半径をそれぞれ示す。図8Gにおいて、「r3d」は第2内部面9の回転半径を示す。
基板2の積層構造の第2の例
図6を参照して、基板2の積層構造の第2の例について説明する。図6に示す基板2は3層構造を有し、空気口12を設けた上部板材41、接続部を開口した接続部材42、および供給チャンバ6、被供給チャンバ7を設けたチャンバ板材43を含む。
チャンバ板材43には溝孔が設けられ、溝孔は供給チャンバ6と被供給チャンバ7に対応する形状を有し、かつ板厚方向に貫通しておらず、凹形状である。かかるチャンバ板材43は、切削加工で作製することができる。また切削した部材を金型として利用することで、樹脂成型により一体成型してもよい。
接続部材42は、接続部、供給チャンバ6、被供給チャンバ7に相当する溝孔が設けられ、板厚方向に貫通している。かかる接続部材42は、樹脂フィルムや金属板金を抜き加工して作製することができる。これらの工法は量産性に優れており、コスト面からも好ましい。
[実施の形態3]
図9AおよびBに示す実施の形態3の基板2は、基板本体51;基板本体51に対して着脱可能なチップ体52を備える。各チップ体52に流路部位が形成され、基板本体51に流路部位は形成されていない。基板本体51の上面側に、複数のチップ体52のそれぞれが収容される複数の収容孔53が形成されている。収容孔53は回転軸3に対して放射状に配置されている。収容孔53の外側の壁面には凹部が形成されている。
収容孔53に収容されたチップ体52は、収容孔53内に保持される。特に、基板2の回転による遠心力によって、チップ体52は外周側に付勢されるので、チップ体52を収容孔53から脱落しないように、確実に回転基板本体51に保持することが好ましい。
第3実施形態のその他の構成及び作用は、第1実施形態と同様である。
送液装置
図10を参照して本発明の送液装置を説明する。図10に示すように装置1は、基板2;基板2が固定される回転軸3;および回転軸3を回転駆動する回転駆動部4を備える。回転軸3は、その軸線(回転中心軸線)Sが鉛直方向に延びており、その上端側に基板2が固定されている。基板2は平面視で円形であり、基板2の中心は回転軸3の軸線Sと一致している。一方、回転軸3の下端側はモータ31に連結されている。
基板2には複数の流路部位5が、回転軸3の周囲に放射状に配置されている。基板2の外形は流路部位5が収まる寸法で任意に設定すればよい。
前記回転中心線として働く中心軸部材を備えていれば、基板を回転駆動部に取り付ける機構を準備する必要がなく、その基板自体をそのまま回転させることができるので、送液装置が簡便になる。また、中心軸を備える基板は、製造コスト面から見ても、一つの検体の処理コストを下げることに貢献する。
回転駆動部4は、回転軸3;回転軸3に固定された基板を回転させるモータ31;モータ31の駆動回路32を備える。また、回転駆動部4は、制御信号を出力する制御信号出力部33;制御信号出力部33から入力される制御信号に基づいて、所望の速度特性をモータ31の駆動回路32に与える速度特性印加部34を備える。制御信号出力部33は、送液装置1とは別の外部コンピュータであってもよい。
回転駆動部4は、回転中の基板2の回転速度を検出する回転速度検出器35と、速度特性印加部34を補正する回転速度制御部36を備えている。回転速度検出器36が検出した基板2の実際の回転速度は回転速度制御部36に送られる。回転速度制御部36は検出された実際の回転速度と速度特性印加部34によりモータ31に与えるべき速度特性にずれがあれば、速度特性印加部34が与える速度特性を補正する。このように実際の基板2の回転速度をフィードバックして速度特性を補正しつつ基板2を駆動することにより、安定した送液を実現し、かつ送液の繰り返し再現性を向上することができる。
[実施の形態4]
基板2の積層構造の第3の例
図11を参照して、基板2の積層構造の第3の例について説明する。図11に示す基板2は2層構造を有し、空気口12を設けた上部板材41、ならびに供給チャンバ6、被供給チャンバ7および接続部15を設けた下部板材50を含む。
図11に示す2層構造の基板2は、例えばフォトリソグラフィー加工を用いて作製されうる。具体的には、下部板材50にフォトレジストを塗布し、リソグラフィーにより供給チャンバ6、被供給チャンバ7および接続部15を形成する工程;上部板材41に注入口11および空気口12を形成する工程;下部板材50の流路部位5の上部を上部板材41で封止する工程からなる。
まず、供給チャンバ6、被供給チャンバ7および接続部15を形成する工程を説明する。清浄に処理されたガラス基板にネガ型厚膜フォトレジストを塗布する。用いられるフォトレジストは、流路のサイズに適したレジストを選択する。例えば、KMPR1030(
化薬マイクロケム)等が形成される膜の厚さや、アスペクト比の面から優れている。スピンコーターなど回転塗布型のものなどが用いられる。スピンコーターにてKMPR1030を回転塗布する場合には、500rpmで10秒間のプレ回転、および1000rpmで30秒間の本回転を行う。本回転の回転速度を変化させることにより、膜厚を変化させることができる。一例を示すと、本回転を1000rpmとすると57μm;1070rpmとすると48μmとすることができる。
その後、95℃で20分間プレベークを行い、流路とチャンバが描かれたマスクを露光する。露光強度と露光時間は膜厚によって適性に補正すればよい。一例を挙げると、露光強度は約1700mJ/cmが望ましい。
次に、95℃で6分間、PEB(Post Exposure Bake)し、現像を行い、チャンバパターンをフォトリソグラフィーにより形成させる。次に、下部板材50のチャンバ部位を、これを指標に、切削加工もしくはサンドブラスト加工等の当業者に公知の技術を用いて所定の深さまで拡張させる。最後に、注入口11と空気口12を開けた上部板材49を下部板材50に貼り付ける。
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。これらの実施は、本発明を限定するものではない。
[実施例1]
実施例1は、実施の形態2に対応する実施例である。
実施例1として、図5から図8(特に図5)に示す流路部位5を有する基板2を作製した。実施例1の流路部位5について、段階的送液駆動する実験を行った。
液滴移送基板2の設計
図12に示した基板2の流路部位5を設計した。各設計値を表1に示した。
Figure 2008126404
表1の設計値を反映させた基板2を作製し、段階送液挙動を確認する試験を行った。
基板2の作製
清浄に処理されたガラス基板にネガ型厚膜フォトレジストKMPR1030(化薬マイクロケム)を塗布した。スピンコーターにてKMPR1030を回転塗布する場合には、500rpmで10秒間プレ回転させ;1000rpmで30秒間本回転した。本回転の
回転速度を変化させると、膜厚を変化させることができた。
その後、95℃で20分間プレベークを行い、接続部とチャンバが描かれたマスクを露光した。露光強度を約1700mJ/cmとした。次に、95℃で6分間の露光後焼きしめ(PEB:Post Exposure Bake)をして、現像を行い、流路とチャンバパターンをフォトリソグラフィーにより形成した。次に、下部板材50のチャンバ部位を切削加工により形成させた。最後に、注入口11と空気口12を開けた上部基板49を下部板材50に貼り付けた。
段階送液試験
試料溶液(液体10)として、純水または視認性を上げる目的で青色色素を混入させた純水を用いた。ハミルトンシリンジで、1μL;0.5μL;0.2μLの試料溶液を、実施例1の基板2の注入口11から第1チャンバ6に注入した。その後、送液装置1に基板2を取り付けて回転駆動させた。回転速度を、800rpmから10rpm/秒の上昇速度で徐々に回転速度を上昇させた。
第1チャンバ6から、第2チャンバ6に溶液が移送されたときの回転速度を第1回転速度;第2チャンバ7において、第1内部面から第2内部面へ溶液が移送されたときの回転速度を第2回転速度として、回転速度を求めた。同一の基板2に対して3重測定した。測定された各回転速度の平均値を、表2および図13に示す。
Figure 2008126404
第1チャンバ6に投入された1μLの溶液は、回転速度879rpmにおいて、第1チャンバ6から第2チャンバ7へ移送され、第1内部面8に液滴様として留まり、第2内部面9には流れなかった。保持領域である第1内部面8に保持された液滴の、平面視での液滴の幅は1.6mmであった。その後、回転速度を10rpm/秒で上昇させたところ、第1内部面で液滴が拡がり、回転速度1286rpmにて、第1内部面の拡がり領域の全面に拡がり、すなわち最外縁部に到達した。このときの平面視での液滴の幅は1.8mmであった。そして、第1内部面8から第2内部面9へ試料溶液が移送された。
0.5μLまたは0.2μLの溶液を投入した基板2についても同様に、第1チャンバ6から第2チャンバ7への試料溶液の送液が起こり、その後回転速度を上げると、第1内部面8から第2内部面9へと試料溶液が移送された。
第1チャンバ6からの送液は、溶液量0.5μLで993rpm;0.2μLで1108rpmであった。第2チャンバ7へ移送された時点での、保持領域である第1内部面8に保持された液滴の、平面視での液滴の幅は1.2mm(溶液量0.5μL);0.9mm(溶液量0.2μL)であった。また、第2チャンバにおける第1内部面から第2内部
面への試料溶液の移送は、溶液量0.5μLで1600rpm;0.2μLで1658rpmであった。
このように、実験的に段階的送液が確認された。
第2内部面9へ移送された試料溶液の容積を計量し、第1チャンバ6に投入された容積に対する、第2内部面9へ移送された試料溶液の容積の割合、すなわち「送液割合」を求めた。その結果、投入された溶液の量が0.5μLのときの送液割合は、96.9%;投入された溶液の量が0.2μLのときの送液割合は、98.6%であった。移送での液体のロスは、投入容積のそれぞれ、3.1%;1.4%と非常に小さいことがわかった。よって、投入液量のほぼ全てを移送できるため、送液量の少量化に適する。
本出願は、2007年4月9日出願の特願2007−102090に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
本発明の、液滴を移送するための基板及び方法は、生体試料(特に血液など)に含まれるタンパク質などの生体構成成分を分析するデバイスとして有用である。特に、血液試料の分析は、前段階で血球血漿分離を行い、分離された血漿に含まれるタンパク質を被測定試料とすることがある。その分離は、遠心力を用いた遠心分離が好適に用いられる。そのため、血液試料の分析における血球血漿分離は、回転基板を用いた送液方式と組み合わせて、容易に行なうことができる。
さらに、各チャンバに試薬等を担持したり、各チャンバ上で加温などの物理的操作を施したりすることで、反応、精製、検出などの機能を基板に付与することができる。このため、血液試料中に含まれるタンパクや健康指標物質を分離、精製、反応、検出するPOCT(Point of care test その場診断)診断バイオセンサ等の用途にも応用できる。
実施の形態1に係る基板の部分断面図。 図2Aは、図1のI−I線での部分断面図。図2Bは、図2Aの基板の部分上面図。 実施の形態1に係る基板を使用した送液方法を示すフローチャート。 実施の形態1に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が保持領域に保持された状態を示す。 実施の形態1に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。遠心力で液滴が拡がった状態を示す。 実施の形態1に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が第2内部面に移送された状態を示す。 実施の形態2に係る基板の部分断面図。 図6Aは、図5のI−I線での部分断面図。図6Bは、図6Aの基板の部分上面図。 実施の形態2に係る基板を使用した送液方法を示すフローチャート。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内に収容された液体が、毛細管力を受けている状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内に収容された液体が、毛細管力と遠心力を受けている状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内の液体が、接続部に流入した状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。供給チャンバ内の液体が、被供給チャンバに流入した状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が、被供給チャンバの保持領域に保持された状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。遠心力で液滴が拡がった状態を示す。 実施の形態2に係る基板の回転操作における液体に作用する力を説明するための概略断面図。液滴が、第2内部面に移送された状態を示す。 実施の形態3に係る基板を示す模式図。 本発明の送液装置を示す模式図。 基板の別の構成を示す斜視図。 実施例1に係る基板の各設計値を説明するための概略平面図。 実施例1における段階送液試験の結果を示すグラフ。
1 送液装置
2 回転基板
3 回転軸
4 回転駆動部
5 部位
6 第1チャンバ(供給チャンバ)
7 第2チャンバ(被供給チャンバ)
8 第1内部面
9 第2内部面
10 液体
11 注入口
12 注入口もしくは空気穴
13 第1接続端部(入口端部)
14 第2接続端部(出口端部)
15 接続部
16 保持領域
17 拡がり領域
20 接続部幅
21 第1チャンバの幅
22 第2チャンバの幅
24 第1チャンバの深さ
25 第2チャンバの深さ
27 接続部の深さ
31 モータ
32 駆動回路
33 制御信号出力部
34 速度特性印加部
35 回転速度検出器
36 回転速度制御部
41 上部板材
42 接続部材
43 チャンバ板材
44 下部板材
49 チャンバ形成基板
50 下部板材
51 基板本体
52 チップ
53 収容孔
R1 時計方向
R2 反時計方向
S 回転中心線(軸線)
r 半径方向
r1d 第1チャンバの回転半径
r1u 第1チャンバの仮想液面回転半径
r2d 第2チャンバの第1内部面の回転半径
r2u 第2チャンバの第1内部面の仮想液面回転半径
r3d 第2チャンバの第2内部面の仮想液面回転半径
Fc 第1毛細管力
Fc 第2毛細管力
Pc 第1毛細管圧力
Pc 第2毛細管圧力
Fg 第1遠心力
Fg 第2遠心力
Pg 第1遠心力圧力
Pg 第2遠心力圧力
−T 全方位の表面張力
θc 接触角

Claims (9)

  1. 回転軸を中心に回転可能であり、その内部に形成された、チャンバを含む流路部位を有する基板であって、
    前記チャンバの内壁は、前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第1内部面と、前記第1内部面よりも前記中心から遠い位置に配置され、かつ前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第2内部面とを有し、
    前記第1内部面は、提供される液体の液滴を保持する領域と、および前記基板の回転により、前記保持された液滴の接触面積が拡がる領域であって、前記第2内部面と連なっている領域とを有する基板。
  2. 前記液滴を保持する領域は疎水性を有する、請求項1に記載の基板。
  3. 回転軸として作用する中心軸部材を有する、請求項1に記載の基板。
  4. 回転軸を中心に回転可能であり、その内部に形成された流路部材を有する基板であって、
    前記流路部材は、第1チャンバ、および前記第1チャンバよりも前記中心から遠い位置に配置された第2チャンバ、ならびに第1チャンバと第2チャンバとを連通させる接続部を含み、
    前記第1チャンバは、注入口を除いて空間的に閉じられ、
    前記第2チャンバの内壁は、前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第1内部面と、前記第1内部面よりも前記中心から遠い位置に配置され、かつ前記中心からの遠心方向と交差する面を含む第2内部面とを有し、かつ
    前記第1内部面は、提供される液体の液滴を保持する領域と、前記基板の回転により、前記保持された液滴の接触面積が拡がる領域であって、前記第2内部面と連なっている領域とを有する基板。
  5. 請求項1に記載の基板の内部に形成された一つのチャンバにおいて、液体を移送する方法であって、
    前記第1内部面の液滴を保持する領域に、液滴を保持させる工程と、
    前記回転軸を中心に基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、前記液体を第2内部面に移送する工程と、を含む方法。
  6. 請求項4に記載の基板の内部に形成された第2チャンバにおいて、液体を移送する方法であって、
    前記回転軸を中心に第1回転速度で前記基板を回転させて、前記第1チャンバに注入された液体を前記第2チャンバに流入させて、前記第1内部面の液滴を保持する領域に、前記液体の液滴を保持させる工程と、
    前記回転軸を中心に、前記第1回転速度より大きな第2回転速度で前記基板を回転させて、前記保持された液滴の接触面積を拡げて、前記液体を第2内部面に移送する工程と、を含む方法。
  7. 請求項1に記載の基板と、
    前記基板を前記回転中心線まわりに回転駆動させる回転駆動部と、を備える液滴移送装置。
  8. 前記回転駆動部は、前記基板を前記回転中心線まわりに回転させるモータと、前記モータに速度特性を与える速度特性印加部とを含む、請求項7に記載の液滴移送装置。
  9. 前記回転駆動部は、回転中の前記基板の回転速度を検出する回転速度検出部と、前記回転速度検出器の検出した回転速度に基づいて、前記速度特性印加部が前記モータに与える速度特性を補正する回転速度補正部とをさらに備える、請求項8に記載の液滴移送装置。
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