本発明は、コート層を有するレンズ、およびその製造方法に関する。
コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、CDおよびDVDといった光ピックアップ用レンズの表面には、種々の目的で、コート層が形成される場合がある。コート層としては、例えば、レンズ表面で光が反射するのを防止するための反射防止膜、レンズ表面が傷付くのを防止するためのハードコート保護膜、レンズ基材の色収差を補正するための屈折率調整膜がある。
コート層の厚さの変動がレンズ性能に大きな影響を及ぼす場合、コート層の厚さを均一にする必要がある。厚さが均一なコート層を形成する方法として、金型成形を用いることができる。金型成形では、レンズ基材を金型にセットし、レンズ基材と金型との間にコート層の材料を流し込み、コート層の材料を硬化させる。その後、金型からレンズが取り出される。この方法では、コート層の形状は金型によって規定されるため、厚さが均一なコート層を形成できる。しかし、金型成形によって大量生産を行う場合、高価な金型が多数必要となり、生産コストが高くなるという問題がある。
このような問題に対し、スピンコート法によってコート層を形成する方法が開示されている(特開2002−263553号公報、特開2003−149423号公報、特開2003−154304号公報)。スピンコート法は、平面状の基材の上にコート層の材料を滴下し、次に、基材を回転させることによってその材料を基材に塗布する方法である。
しかしながら、レンズのコート層をスピンコート法によって形成する場合、レンズの形状が、コート層の材料が滑らかにレンズ曲面上を流れる形状である必要がある。そのため、スピンコート法を用いる場合、レンズ曲面の外縁部分の形状を、望ましいレンズ曲面とは異なる形状とする必要があった。その結果、レンズの外縁部分は、充分にレンズの機能を果たさないという問題があった。
また、浸漬法によってコート層を形成する方法も提案されている(特開2002−107502号公報)。この方法では、レンズ基材の表面全体にコート層が形成される。しかし、レンズ部以外の領域にコート層が形成されると、レンズをデバイスにマウントする際に、光軸がずれる可能性がある。
このような状況において、本発明は、厚さが均一なコート層を備え、正確なマウントが可能なレンズ、およびその製造方法を提供することを目的の1つとする。
上記目的を達成するために、本発明のレンズは、凸状のレンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、前記第1の領域を囲む第2の領域とを含み、前記第1の領域と前記第2の領域との間には、前記第1の領域を囲む溝が形成されており、前記レンズ部上にコート層が形成されている。
また、レンズを製造するための本発明の方法は、凸状のレンズ部と前記レンズ部上に形成されたコート層とを含むレンズの製造方法であって、(i)前記レンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、前記第1の領域を囲む第2の領域とを含むレンズ基材を準備する工程と、(ii)前記コート層の材料を前記レンズ部に配置する工程とを含み、前記レンズ基材の前記第1の領域と前記第2の領域との間には、前記第1の領域を囲む溝が形成されている。
本発明によれば、厚さが均一なコート層をレンズ部に形成できる。また、本発明では、従来の方法とは異なり、レンズの外縁部分の形状を、コート層の材料が滑らかにレンズ表面上を流れる形状とする必要がない。そのため、本発明によれば、レンズ部の全体を、レンズとして有効に機能させることができる。また、本発明によれば、レンズ部を囲む第2の領域にコート層が形成することを抑制できる。そのため、第2の領域を基準面として、レンズを正確に機器に組み込むことが可能である。
図1Aは、本発明のレンズの一例を示す上面図であり、図1Bはその断面図である。図1Cは、図1Aに示すレンズに用いられているレンズ基材の上面図である。
図2A〜図2Cは、スピンコート法によってコート層を形成する方法の一例を示す工程図である。
図3A〜図3Dは、スクリーン印刷法によってコート層を形成する方法の一例を示す工程図である。
図4A〜図4Dは、パッド印刷法によってコート層を形成する方法の一例を示す工程図である。
図5Aは、本発明のレンズの他の一例を示す上面図であり、図5Bはその断面図である。図5Cは、図5Aに示すレンズに用いられているレンズ基材の上面図である。
図6Aは、本発明のレンズのその他の一例を示す上面図であり、図6Bはその断面図である。
図7Aは、比較例1のレンズを示す上面図であり、図7Bはその断面図である。
図8は、コート層の厚さの測定方法を示す図である。
図9は、実施例1のレンズおよび比較例1のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図10は、実施例2のレンズおよび比較例2のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図11Aは、比較例3のレンズを示す上面図であり、図11Bはその断面図である。
図12は、コート層の厚さの測定方法を示す図である。
図13は、実施例3のレンズおよび比較例3のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図14は、実施例4のレンズおよび比較例4のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図15は、実施例5のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図16は、比較例5のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図17Aは、実施例6で用いたレンズ基材を示す上面図であり、図17Bはその断面図である。
図18は、実施例6のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図19は、比較例6のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである
図20は、実施例7のレンズおよび比較例7のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図21は、実施例8のレンズおよび比較例8のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
[レンズ]
本発明のレンズは、凸状のレンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、第1の領域を囲む第2の領域とを含む。第1の領域と第2の領域との間には、第1の領域を囲む溝が形成されている。そして、レンズ部上にコート層が形成されている。以下、第1および第2の領域を含む部材を、「レンズ基材」とよぶ場合がある。
レンズ基材の材料に限定はなく、溝と、レンズとして機能するレンズ部とを形成できる部材であればよい。レンズ基材の材料には、ガラスや、透明な合成樹脂を用いることができる。
それぞれの第1の領域は、凸状のレンズ部を含む。レンズ部の大きさに限定はない。一例では、レンズ部の直径は1mm〜10mmの範囲にあってもよい。レンズ部の形状は、用途に応じて決定される。レンズ部の形状は、球面形状であってもよいし、非球面形状であってもよい。また、レンズ部は、回折レンズであってもよい。典型的な回折レンズは、上にいくほど直径が小さくなるように、直径が異なる複数の円柱を積み上げたような形状を有する。このような形状は、ブレーズ形状(brazed grating)と呼ばれることがある。
レンズ部の表面には、コート層が形成されている。どのようなコート層を形成するかは、用途に応じて選択される。コート層は、反射防止膜、ハードコート保護膜、屈折率調整膜であってもよい。反射防止膜は、レンズ表面で光が反射するのを防止する。ハードコート保護膜は、レンズ表面が傷付くのを防止する。屈折率調整膜は、色収差を補正する。コート層は、単層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
コート層の材料は、コート層の用途および形成方法を考慮して選択される。コート層の材料は、たとえば、透明な合成樹脂である。コート層の材料は、光学的な特性を調整するための無機フィラーを含んでもよい。
溝は、通常、レンズ部の周囲を囲むように環状に形成されている。ただし、本発明の効果が得られる限り、溝は、完全な環状でなくてもよい。たとえば、溝は、所々で分断された環状の溝であってもよい。
本発明のレンズの好ましい一例では、第1の領域および溝の少なくとも一部にコート層が形成されており、第2の領域にコート層が形成されていない。この構成によれば、第2の領域を基準面として、レンズを正確に機器に組み込むことが可能である。第2の領域を基準面とする場合、第2の領域は、平坦であってもよいし、位置決めを容易にするための他の形状であってもよい。
本発明のレンズでは、第1の領域の全体がレンズ部であってもよい。そして、第1の領域を囲む溝が、レンズ部に隣接していてもよい。この構成によれば、レンズ部の外縁部分におけるコート層の厚さの均一性を、特に高めることができる。
本発明のレンズは、複数の第1の領域を含んでもよい。すなわち、本発明のレンズは、複数の凸状のレンズ部を含んでもよい。
[レンズの製造方法]
レンズを製造するための本発明の方法は、凸状のレンズ部と、そのレンズ部上に形成されたコート層とを含むレンズを製造する方法である。この方法によれば、本発明のレンズを製造できる。なお、本発明のレンズに関して説明した事項については、本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。本発明の製造方法は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
工程(i)では、レンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、第1の領域を囲む第2の領域とを含むレンズ基材を準備する。レンズ基材の第1の領域と第2の領域との間には、第1の領域を囲む溝が形成されている。レンズ基材については、実施形態1で説明したため、重複する説明を省略する。レンズ基材の形成方法に限定はない。レンズ基材は、たとえば、キャスト法やプレス成形法や射出成形法といった公知の方法で形成できる。
次の工程(ii)では、コート層の材料をレンズ部に配置する。コート層の材料は、レンズ部の表面全体に塗布されてもよい。また、コート層の材料は、レンズ部の一部(たとえば頂部)に塗布されたのち、下方に向かってレンズ部の表面を移動し、その結果、レンズ部の表面全体に塗布されてもよい。余分な材料は、溝にためられる。その結果、第2の領域にコート層が形成されることが抑制される。本発明の一例では、工程(ii)において、コート層の材料を第1の領域に配置する。また、本発明の他の一例では、工程(ii)において、第1の領域上にコート層を形成する。レンズ部に塗布された材料は、必要に応じて硬化される。その結果、レンズ部の表面にコート層が形成される。
コート層の材料は、形成するコート層に応じて選択される。コート層の材料の塗布方法に応じて、コート層の材料を溶媒で希釈してもよい。
コート層の材料の硬化方法は、コート層の材料に応じて選択される。たとえば、紫外線硬化樹脂を用いる場合には、紫外線照射(UV照射)によって硬化が行われる。また、コート層の材料に含まれる溶媒を除去した後に加熱処理することによって、硬化が行われてもよい。
本発明の好ましい一例では、第1の領域および溝の少なくとも一部にコート層が形成され、第2の領域にコート層が形成されない。第2の領域にコート層が形成されないことによって、第2の領域を基準面として利用することが可能になる。典型的な一例では、コート層は、レンズ部の表面全体および溝の少なくとも一部に形成され、第2の領域には形成されない。
工程(ii)では、コート層の材料をスピンコート法によってレンズ部に配置してもよい。また、工程(ii)では、コート層の材料をスクリーン印刷法によってレンズ部に配置してもよい。また、工程(ii)では、コート層の材料をパッド印刷法によってレンズ部に配置してもよい。スクリーン印刷法およびパッド印刷法を用いる場合、1つの基材に存在する複数のレンズ部に、1回の印刷によって材料を配置することが可能である。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
[実施形態1]
実施形態1のレンズの上面図を図1Aに示し、図1Aの線IB−IBにおける断面図を図1Bに示す。図1Aおよび1Bに示すレンズ100は、レンズ基材10と、レンズ基材10上に形成されたコート層14とを備える。レンズ基材10の上面図を、図1Cに示す。
レンズ基材10は、凸状のレンズ部11aを含む第1の領域11と、第1の領域11を囲む第2の領域12とを含む。実施形態1の例では、第1の領域11の全体がレンズ部11aとなっている。レンズ部11aは、底面が円であるレンズである。レンズ部11aの表面形状は、球面であってもよいし、非球面であってもよい。
第1の領域11と第2の領域12との間には、溝13が形成されている。溝13は、レンズ部11aを囲むように、円環状に形成されている。溝13の平面形状の中心と、レンズ部11aの平面形状の中心とは一致している。コート層14は、レンズ部11a(第1の領域11)の表面全体、および溝13の一部に形成されている。コート層14は、第2の領域12上には形成されていない。
溝13は、レンズ部11aの外縁に隣接するように形成されている。この構成によれば、コート層14を形成する際に、レンズ部11aの外縁部分に存在する余剰の材料を溝13内に収納することが可能である。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることができる。
以下に、レンズ100の製造方法について説明する。まず、レンズ基材10を形成する。レンズ基材10は、キャスト法やプレス成形や射出成形法などの成形法、切削法、またはそれらの組み合わせで形成できる。溝13は、第1の領域11および第2の領域12を形成した後に、切削などの手法によって形成してもよい。また、溝13は、第1の領域11および第2の領域12を形成する際に、一体成形によって形成してもよい。
次に、レンズ部11aの表面にコート層14を形成する。コート層14の形成方法としては、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、およびパッド印刷法といった方法を採用できる。これらは、低コストで生産性に優れる方法である。
スピンコート法によってコート層14を形成する一例を、図2A〜2Cに示す。まず、図2Aに示すように、レンズ基材10を回転ステージ25に載せて回転させる。そして、レンズ基材10が回転している状態で、コート層14の材料14aをレンズ部11aの中心に滴下する。なお、レンズ基材10を固定した状態でコート層14の材料14aをレンズ部11aの中心に滴下してもよい。
次に、レンズ基材10を高速で回転させることによって、図2Bに示すように、材料14aをレンズ部11aの表面に塗り広げさせる。図2Cに示すように、余剰の材料14aは、溝13に収納され、第2の領域12には塗られない。最後に、塗布された材料14aを硬化させることによって、コート層14が形成される。
溝13が存在しない場合、図7Bに示すように、余剰の材料14aが、レンズ部11aの外縁部分に偏在する現象(以下、「液溜まり現象」と呼ぶ場合がある)が発生する。その結果、レンズ部11aの外縁部分におけるコート層が、レンズ部11aの中央部分におけるコート層よりも厚くなってしまう。また、溝13が存在しない場合、レンズとして機能しない第2の領域12にまでコート層が形成されてしまう。これに対し、本発明の方法では、溝13によって液溜まり現象を防止できる。また、本発明の方法では、溝13によって、第2の領域12にコート層14が形成されることを抑制できる。
なお、スピンコート法によってレンズ部11aに材料14aを配置する場合には、材料14aがレンズ部11aの外縁に向かって塗れ拡がる必要がある。そのため、材料14aの粘度は、0.1Pa・s以下であることが好ましい。
スクリーン印刷法によってコート層14を形成する一例を、図3A〜3Dに示す。まず、図3Aに示すように、スクリーン版31を用意する。スクリーン版31のうちレンズ部11aに対応する透過部31aは、コート層14の材料14aが透過可能となっている。スクリーン版31の上には、材料14aが配置される。
次に、図3Bに示すように、スクレーパ32によって、スクリーン版31上の材料14aを移動させる。次に、図3Cに示すように、スキージ(squeegee)33によって、材料14aを、透過部31aに押しつける。その結果、材料14aの一部が透過部31aを透過し、図3Dに示すように、レンズ部11aに材料14aが配置される。最後に、塗布された材料14aを硬化させることによって、コート層14が形成される。
スクリーン印刷は、一般的に、平面状の部材に塗料を塗布する際に用いられる。しかし、柔軟性のある樹脂製のスクリーン版を用いることによって、レンズ部11aなどの曲面に対しても塗料を塗布することが可能である。また、スクリーン印刷法では、適切なスクリーン版を用いることによって、ほぼレンズ部11aのみに材料14aを配置することが可能である。そのため、スクリーン印刷法を用いることによって、レンズ部11a以外の領域に付着する材料14aの量を少なくすることができる。
しかし、レンズ部11aの全体をコート層14で被覆するためには、透過部31aをレンズ部11aよりも若干大きくする必要がある。溝13がない場合には、上述したように、レンズ部11aの外縁部分で液溜り現象が発生する。これに対し、本発明の方法では、レンズ部11aの周囲に溝13が形成されているため、そのような液溜まり現象を抑制できる。また、本発明の方法によれば、第2の領域12にコート層が形成されることを抑制できるため、第2の領域12を基準面として用いることが可能になる。
スクリーン印刷法によって材料14aを配置する場合、レンズ部11aの外縁部分に溝13が存在することによって、スクリーン版31がレンズ部11aの外縁部分に密着しやすくなる。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることが可能である。
スクリーン印刷法によってレンズ部11aに材料14aを配置する場合には、材料14aがスクリーン版からレンズ部11aに移行する必要がある。また、材料14aがレンズ部11a上に配置された後、レンズ部11aの表面上で材料14aの厚さが均一化される必要がある。そのため、材料14aの粘度は、0.1Pa・s〜100Pa・sの範囲にあることが好ましい。
パッド印刷法によってコート層14を形成する一例を図4A〜4Dに示す。まず、図4Aに示すように、材料14aが充填された印刷版41に、シリコンパッド42を押し当て、材料14aをシリコンパッド42に付着させる。次に、図4Bおよび4Cに示すように、シリコンパッド42をレンズ部11aに押し当て、材料14aをレンズ部11aに塗布する。このようにして、図4Dに示すように、レンズ部11aに材料14aが塗布される。最後に、塗布された材料14aを硬化させることによって、コート層14が形成される。
パッド印刷法は、柔軟な部材(たとえばシリコンパッド)を用いて印刷を行うため、曲面や、凹凸を有する表面にも良好な印刷が可能である。また、適切な印刷版と適切なパッドとを選択することによって、所定の部分にのみ材料14aを塗布することが可能である。しかし、レンズ部11aの全体に材料14aを塗布するには、若干大きめにパターニングされた印刷版41を用いて印刷を行う必要がある。そのため、パッド印刷法においても、溝13がない場合にはレンズ部11aの外縁部分で液溜り現象が発生する。これに対し、本発明の方法では、レンズ部11aの周囲に溝13が形成されているため、そのような液溜まり現象を抑制できる。また、溝13によって、第2の領域12にコート層が形成されることを抑制できる。そのため、第2の領域12を基準面として用いることが可能になる。
パッド印刷法によって材料14aを配置する場合、レンズ部11aの外縁部分に溝13が存在することによって、パッドがレンズ部11aの外縁部分に密着しやすくなる。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることが可能である。
パッド印刷法によってレンズ部11aに材料14aを配置する場合には、材料14aが印刷版からパッドに移行し、次に、パッドからレンズ部11a上に移行する必要がある。また、材料14aがレンズ部11a上に配置された後、レンズ部11aの表面上で材料14aの厚さが均一化される必要がある。そのため、材料14aの粘度は、0.1Pa・s〜100Pa・sの範囲にあることが好ましい。
上記構成によれば、余分な材料14aを溝13に収納することができる。そのため、本発明の方法では、レンズ部11aの外縁部分を、レンズとして望ましい形状とは異なる形状とする必要がない。したがって、レンズ部11aの全体を、レンズとして有効に機能させることができる。また、レンズ部11aの全体に、厚さの変動が小さいコート層14を形成できる。その結果、光学特性に優れるレンズ、たとえば、光学的な収差が小さいレンズが得られる。また、第2の領域12にコート層が形成されることを抑制できるため、第2の領域12を基準面として、レンズ100を機器に正確にマウントすることが可能である。
[実施形態2]
実施形態2のレンズの上面図を図5Aに示し、図5Aの線VB−VBにおける断面図を図5Bに示す。図5Aおよび5Bに示すレンズ100aは、レンズ基材20と、レンズ基材20上に形成されたコート層14とを備える。レンズ基材20の上面図を図5Cに示す。
レンズ基材20は、凸状のレンズ部21aを含む第1の領域11と、第1の領域11を囲む第2の領域12とを含む。実施形態2の例では、第1の領域11の全体がレンズ部21aとなっている。レンズ部21aは、回折レンズである。レンズ部21aは、特定の球面係数または非球面係数をベースとするレンズ凸面に、ブレーズと呼ばれる段差を設けることによって形成されている。このような形状を有するレンズ部21aは、回折現象を利用した回折レンズである。
第1の領域11と第2の領域12との間には、溝13が形成されている。溝13は、レンズ部21aを囲むように、円環状に形成されている。溝13の平面形状の中心と、レンズ部21aの平面形状の中心とは一致している。コート層14は、レンズ部21a(第1の領域11)の表面全体、および溝13の一部に形成されている。コート層14は、第2の領域12上には形成されていない。
溝13は、レンズ部21aの外縁に隣接するように形成されている。この構成によれば、コート層14を形成する際に、レンズ部21aの外縁部分に存在する余剰の材料を溝13内に収納することが可能である。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることができる。また、レンズ部21aの表面全体に、厚さの変動が小さいコート層14を形成できる。その結果、光学特性に優れるレンズ、たとえば、光学的な収差が小さいレンズが得られる。また、溝13によって、第2の領域12にコート層14が形成されることを抑制できる。そのため、第2の領域12を基準面として、レンズ100aを機器に正確にマウントすることが可能である。
回折レンズであるレンズ部21aには、段差が存在する。そのため、スピンコート法によってコート層14を形成する場合、レンズ部21aの頂上部に配置されたコート層14の材料14aが下部に向かって流れにくい傾向がある。この場合、溶剤で希釈して粘度を低くした材料14aを用いればよいが、所定の厚さのコート層14を形成するには、多量の材料14aを塗布する必要が生じる。溝13がない場合、材料14aは第2の領域12に大きく塗れ拡がり、第2の領域12をマウントの際の基準面として用いることができなくなる。これに対し、本発明によれば、第2の領域12にコート層14が形成されることを、溝13によって抑制できる。したがって、本発明は、レンズ部が回折レンズである場合に特に有効である。同様に、スクリーン印刷法やパッド印刷法を用いて回折レンズの表面にコート層を形成する場合も、本発明は有効である。
回折レンズのコート層としては、カメラの色収差を補正するための屈折率調整膜が知られている。レンズ基材の材料が有する屈折率の波長分散を相殺するような屈折率分散を有するコート層を回折レンズ上に形成することによって、広帯域にわたって高い回折効率が得られる。そのため、屈折率調整膜を形成した回折レンズをカメラモジュールに組み込むことによって、色収差を低減できる。コート層が形成されたレンズの波長λにおける1次回折効率が100%となるブレーズの段差dは、回折レンズの屈折率をnL、コート層の屈折率をnPとすると、[数式1]で与えられる。
[数式1]
d=λ/|nL−np|
[数式1]の右辺が可視域全域にわたって一定値になれば、可視域における回折効率の波長依存性がなくなる。
本発明の方法によって屈折率調整膜(コート層)を回折レンズ上に形成した場合、色収差を低減できると共に、コート層の厚さのバラツキによって生じる光学的な収差も低減できる。
[実施形態3]
実施形態3のレンズの上面図を図6Aに示し、図6Aの線VIB−VIBにおける断面図を図6Bに示す。図6Aおよび6Bに示すレンズ100bは、レンズ基材30と、レンズ基材30上に形成されたコート層14とを備える。
レンズ基材30は、凸状のレンズ部11aを含む2つの第1の領域11と、第1の領域11を囲む第2の領域12とを含む。実施形態3の例では、第1の領域11の全体がレンズ部11aとなっている。第1の領域11と第2の領域12との間には、溝13が形成されている。コート層14は、レンズ部11a(第1の領域11)の表面全体、および溝13の一部に形成されている。コート層14は、第2の領域12上には形成されていない。
レンズ100bは、1つのレンズ基材30の同一面上に形成された2つのレンズ部11aを含む。レンズ100bは、複眼レンズとして機能させることができる。レンズ100bの2つのレンズ部11aの視差を利用することによって、被写体までの距離の測定が可能になる。距離の測定の精度を向上させるためには、複眼レンズをカメラモジュールに組み込む際の基準面にバラツキがないことが特に重要である。基準面の精度が低い場合、複眼レンズと撮像面との間に傾きが生じる。この傾きは、距離の測定の精度が悪化する要因となる。
第1の領域11および溝13は、それぞれ、実施形態1のレンズ100のそれらと同じ構成を有する。したがって、レンズ100bでは、レンズ100と同様に、レンズ部11aの全体を効率的に活用できる。また、第2の領域12にコート層14が形成されていないため、レンズ100bをカメラモジュールに組み込む際の基準面として、第2の領域12を利用できる。
スピンコート法によってレンズ部11aにコート層14を形成する場合、溝13がないと、コート層14の材料14aが第2の領域12にまで塗れ拡がってしまう。その結果、それぞれのレンズ部11aに滴下した材料14aが干渉しあう。その結果、厚さのバラツキが小さいコート層14をそれぞれのレンズ部11aに形成することが困難になる。一方、実施形態3のレンズ100bには溝13が形成されているため、それぞれのレンズ部11aに滴下した材料14aが干渉することを抑制できる。その結果、全てのレンズ部11aにおいて、厚さのバラツキが小さいコート層14を形成できる。また、コート層14が第2の領域に形成されないため、レンズ100bをカメラモジュールに組み込む際の基準面として、第2の領域12を利用できる。そのため、距離の測定にレンズ100bを用いる場合、精度よく距離を測定できる。
なお、スピンコート法によって複数のレンズ部11aにコート層14を形成する場合、通常、以下の方法でコート層14が形成される。まず、第1のレンズ部11aにコート層14の材料14aを滴下し、第1のレンズ部11aを中心としてレンズ基材30を回転させることによって材料14aを第1のレンズ部11a上に塗布する。次に、第2のレンズ部11aに材料14aを滴下し、第2のレンズ部11aを中心としてレンズ基材30を回転させることによって材料14aを第2のレンズ部11a上に塗布する。1つのレンズ基材に3個以上のレンズ部が形成されている場合も、同様に、レンズ部ごとにスピンコート法を実施する。このような方法によって、厚さのバラツキが小さいコート層14を、各レンズ部11aに形成できる。
以上のように、本発明は、複眼レンズの個々のレンズ部にコート層を形成する場合に、特に有効である。
複眼レンズの場合も、実施形態1と同様に、スクリーン印刷法またはパッド印刷法を用いてコート層を形成してもよい。スクリーン印刷法またはパッド印刷法を用いる場合も、本発明は有効である。
実施形態3では、1つのレンズ基材に2個のレンズ部が形成されている場合について説明した。しかし、1つのレンズ基材に3個以上のレンズ部が形成されている場合も、同様の効果が得られる。
実施形態3では、複数のレンズ部11aのそれぞれに対して形成された溝13が離れて形成されている場合について説明したが、それらは繋がっていてもよい。
実施形態3では、すべてのレンズ部11aの周囲に溝13を形成する場合について説明した。しかし、複数のレンズ部に、コート層が不要なレンズ部が含まれる場合、そのレンズ部の周囲には溝13を形成しなくてもよい。
実施形態3では、レンズ部11aが非球面形状の場合について説明したが、その形状が球面形状の場合あるいは回折レンズの場合であっても、同様の効果が得られる。
実施形態1〜3では、溝13が、レンズ部11a(第1の領域11)の外縁部分の全体を囲むように環状に形成されている場合について説明した。しかし、溝13は、必ずしも完全な環状でなくてもよい。一部につながっていない部分があっても、切れている部分の幅が狭ければ、本発明の効果が得られる。
実施形態1〜3では、断面が矩形である溝13を用いる場合について説明した。しかし、本発明の効果が得られる限り、溝13の断面は、矩形でなくてもよく、たとえば、U字型であってもよいし、V字型であってもよい。
実施形態1〜3では、第1の領域11の全体がレンズ部である場合について説明した。しかし、第1の領域11は、レンズ部11aの周囲に配置されレンズとして機能しない部分を含んでもよい。
実施形態1〜3では、レンズ基材の片面のみにレンズ部が形成されている場合について説明した。しかし、レンズ基材の両面にレンズ部が形成されている場合でも、本発明の効果が得られる。例えば、レンズ基材の一主面に非球面レンズが形成され、他主面に回折レンズ部が形成されている場合でも、本発明の効果が得られる。
以下に、本発明のレンズおよびその製造方法について、具体例を挙げて説明する。なお、以下の実施例において、合成樹脂からなるレンズ基材は、射出成形によって形成した。また、ガラスからなるレンズ基材は、プレス成形によって形成した。
[実施例1]
実施例1では、図1Aおよび1Bに示すレンズ100を作製した一例について説明する。実施例1では、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503)を材料とするレンズ基材10を用いた。
レンズ基材10の平面形状は4mm角とした。レンズ部11a(第1の領域11)は、レンズ基材10の中央に配置された。レンズ部11aの直径は1.2mmであり、レンズ基材10の底面からレンズ部11aの頂部までの厚さは0.8mmであった。第2の領域の厚さは、0.6mmであった。溝13の幅は0.2mmであり、溝13の深さは0.2mmであった。
次に、アクリル系のオリゴマー(日本合成化学:UV−7000B)に光重合開始剤を配合し、それらをプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈することによって、コート層14の材料14aを調製した。材料14aの粘度は、0.1Pa・sとした。
次に、レンズ部11aの中心がスピンコートにおける回転中心と一致するように、スピンコート装置にレンズ基材10をセットした。そして、レンズ部11aの頂部に材料14aを滴下し、回転数2000rpmで10秒間のスピンコート処理を行った。次に、室温で10分間の減圧処理を行うことによって材料14a中の溶剤を揮発させた。次に、UV照射を行うことによって材料14aを硬化させた。このようにして、図1Aおよび1Bに示すレンズ100を得た。
[比較例1]
比較例1のレンズ1として、溝13を形成しないことを除き、レンズ100と同様のレンズを作製した。比較例1で作製したレンズ1を図7Aの上面図および図7Bの断面図に示す。レンズ1のレンズ基材1aは、溝13がないことを除き、実施例1のレンズ基材10と同じ構造を有する。レンズ基材1aのレンズ部11aには、実施例1と同じ材料および方法でコート層14を形成した。
実施例1のレンズと比較例1のレンズについて、レンズ部におけるコート層の厚さを測定した。コート層の厚さは、レーザー反射式形状測定装置を用いて測定した。具体的には、任意の一断面において、コート層形成前後の形状を測定した。この測定値から、図8に示すように、レンズの中心部からの距離が異なる位置におけるコート層14の厚さ(図8のt1、t2、t3など)を求めた。なお、図8に示すように、レンズの光軸に平行な方向の厚さを、コート層の厚さとした。測定結果を図9に示す。
図9に示すように、溝13を形成しなかった比較例1のレンズ1では、レンズ部11aの中心から離れるに従って、コート層14の厚さは単調に増加する傾向にあった。特に、レンズ部11aの外縁部分(レンズ部11aの中心からの距離が±0.6mm付近)では、その増加率が大きくなる傾向にあった。一方、溝13を形成した実施例1のレンズ100では、コート層14の厚さは、レンズ部11aの中心から離れた部分でもほとんど変化せず、レンズ部11aの全域にわたってほぼ均一であった。つまり、レンズ100では、コート層14の表面形状は、レンズ部11aの非球面形状とほぼ一致した。
次に、実施例1および比較例1のレンズの断面を観察した。比較例1のレンズ1では、図7Bに示すように、レンズ部11aの外縁部分において、コート層14が厚くなる液溜り現象が発生していた。それに対し、実施例1のレンズ100では、図1Bに示すように、液溜り現象は溝13の内部で発生しており、レンズ部11aの表面のコート層14の厚さは、ほぼ均一であった。
また、比較例1のレンズ1では、コート層14が第2の領域12にも形成されたが、実施例1のレンズ100ではコート層14が第2の領域12に形成されることはなかった。
[実施例2]
実施例2では、図1Aおよび1Bに示すレンズ100を作製した他の一例について説明する。実施例2では、光学ガラス(株式会社住田光学ガラス:K−LaKn14)を材料とするレンズ基材10を用いた。このレンズ基材10に、実施例1と同様の材料および方法でコート層14を形成し、レンズ100を得た。
[比較例2]
比較例2のレンズとして、溝13を形成しないことを除き、実施例2のレンズと同様のレンズを作製した。
実施例2のレンズと比較例2のレンズとについて、コート層の厚さを測定した。測定結果を図10に示す。コート層の厚さは、実施例1と同様の方法で求めた。図10に示すように、溝13が形成されていない比較例2のレンズでは、レンズ部11aの中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。一方、溝を形成した実施例2のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部11aの中心から離れた部分でもほとんど変化せず、レンズ部11aの全域にわたってほぼ均一であった。
次に、実施例2のレンズおよび比較例2のレンズのそれぞれの断面を観察した。比較例2のレンズでは、レンズ部の外縁部分で液溜り現象が発生していた。それに対し、実施例2のレンズでは、液溜り現象は溝13内で発生しており、レンズ部11a上のコート層14はほぼ均一な厚さであった。
また、比較例2のレンズでは、コート層14が第2の領域12にも形成されたが、実施例2のレンズではコート層14が第2の領域12に形成されることはなかった。
[実施例3]
実施例3では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを作製した一例について説明する。実施例3では、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503、d線屈折率1.59、アッベ数28)を材料とするレンズ基材20を用いた。レンズ基材20の平面形状は4mm角とした。レンズ部21a(第1の領域11)は、レンズ基材20の中央に配置された。レンズ部21aの直径を1.2mmとし、レンズ基材20の底面からレンズ部21aの頂部までの厚さは0.8mmとした。第2の領域12の厚さは0.6mmとした。ブレーズの段差は15.5μmとした。溝13の幅は0.2mmとし、溝13の深さは0.2mmとした。
コート層14の材料14aとして、脂環式炭化水素基含有アクリル系オリゴマー(d線屈折率1.53、アッベ数52)と酸化ジルコニウムフィラーとの混合物の、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液(全固形分75重量%)を調製した。酸化ジルコニウムのフィラー(filler)には、一次粒径が3nm〜10nmであり、シラン系表面処理剤を30重量%含有するものを用いた。酸化ジルコニウムフィラーは、材料14aの固形分中における重量比が56重量%となるように添加した。材料14aの粘度は、0.1Pa・sとした。
そして、実施例1と同様の条件で、スピンコート処理、溶剤揮発処理、およびUV照射処理を行い、レンズ100aを得た。硬化後のコート層14の屈折率特性を評価したところ、d線屈折率が1.62であり、アッベ数が43であった。
レンズ基材の材料とコート層の材料との組み合せ、およびブレーズの段差を適切に設計することによって、色収差が小さい回折レンズを実現できる。さらに、コート層の表面形状を、回折レンズの段差の下面を結ぶ面の形状に一致させることによって、レンズ機能を向上できる。
[比較例3]
比較例3では、図11Aの上面図および図11Bの断面図に示すレンズ3を作製した。比較例3では、レンズ基材3aを用いた。レンズ基材3aは、溝13がないことを除き、実施例3のレンズ基材20と同じである。実施例3と同様の材料および方法によって、レンズ基材3aにコート層14を形成し、比較例3のレンズ3を得た。
実施例3のレンズと比較例3のレンズについて、レンズ部におけるコート層14の厚さを測定した。具体的には、まず、任意の一断面におけるコート層形成前後の表面形状を、レーザー反射式形状測定装置を用いて測定した。そして、コート層形成前の測定から、ブレーズ段差の下面を結ぶ非球面曲線121(図12の点線)を求めた。そして、図12に示すように、非球面曲線121からコート層14の表面までの距離を求めて、コート層14の厚さとした。測定結果を図13に示す。
図13に示すように、溝を形成していない比較例3のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調増加する傾向にあった。特に、レンズ部の外縁部分(レンズ部の中心からの距離:±0.6mm付近)では、その増加率が大きくなる傾向にあった。一方、溝を形成した実施例3のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部の全域にわたってほぼ均一であった。つまり、実施例3のコート層の表面形状は、回折レンズのブレーズ段差の下面を結ぶ非球面形状と、ほぼ一致していた。
次に、実施例3のレンズおよび比較例3のレンズの断面を観察した。実施例3のレンズおよび比較例3のレンズは、共に、コート層が、気泡を含有することなくレンズ部の段差(ブレーズ)を埋めていた。また、実施例3のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象が溝13内で確認された。これに対し、比較例3のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象がレンズ部の外縁部分で確認された。また、比較例3のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例3のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例4]
実施例4では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを作製した他の一例について説明する。実施例4では、光学ガラス(株式会社住田光学ガラス:K−LaKn14、d線屈折率1.74、アッベ数53)を材料とするレンズ基材20を用いた。レンズ基材20の平面形状は、4mm角とした。レンズ部21aの直径は1.2mmとし、レンズ基材の底面からレンズ部21aの頂部までの厚さは0.8mmとした。第2の領域12の厚さは0.6mmとした。ブレーズの段差は4.7μmとした。溝13の幅は0.2mmとし、溝13の深さは0.2mmとした。
コート層の材料として、エポキシ系オリゴマー(旭電化工業株式会社:オプトマーKRX、d線屈折率1.62、アッベ数24)のメチルエチルケトン溶液(全固形分40重量%)を調製した。そして、実施例3と同様の条件で、スピンコート処理、溶剤揮発処理、UV照射処理を行い、レンズ100aを得た。この場合も、実施例3と同様に、レンズ基材の材料とコート層の材料との組み合せ、およびブレーズの段差を適切に設計することによって、色収差が小さい回折レンズを実現できる。また、コート層の表面形状を、回折レンズの段差の下面を結ぶ面の形状と一致させることによって、レンズ機能を向上できる。
[比較例4]
比較例4では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例4のレンズ100aと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例4のレンズと比較例4のレンズとについて、レンズ部のコート層の厚さを測定した。測定結果を図14に示す。コート層の厚さは、実施例3と同様の方法で求めた。
図14に示すように、溝を形成していない比較例4のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。一方、溝を形成した実施例4のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部の全域にわたってほぼ均一であった。つまり、コート層の表面形状は、回折レンズのブレーズ段差の下面を結ぶ非球面形状と、ほぼ一致していた。
次に、実施例4のレンズおよび比較例4のレンズの断面を観察した。実施例4のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象が溝13内で確認された。これに対し、比較例4のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象がレンズ部の外縁部分で確認された。また、比較例4のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例4のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例5]
実施例5では、図6Aおよび6Bに示すレンズ100bを製造した一例について説明する。実施例5では、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503)を材料とするレンズ基材30を用いた。
レンズ基材30の平面形状は5mm角とした。レンズ部11a(第1の領域11)は、レンズ基材30の中央付近に配置された。レンズ部11aの直径は1.2mmとした。レンズ基材30の底面からレンズ部11aの頂部までの厚さは、0.8mmとした。第2の領域12の厚さは0.6mmとした。溝13の幅は0.2mmとし、溝13の深さは0.2mmとした。2つのレンズ部11a間の距離は、1.0mmとした。
コート層の材料14aとして、実施例1と同じ溶液を準備した。次に、一方のレンズ部11aの中心が回転中心と一致するように、レンズ基材30をスピンコート装置にセットした。次に、上記一方のレンズ部11aの頂部に、材料14aを滴下し、回転数2000rpmで10秒間のスピンコート処理を行った。次に、他方のレンズ部11aの中心が回転中心と一致するようにレンズ基材30をスピンコート装置にセットした。次に、上記他方のレンズ部11aに材料14aを滴下し、回転数2000rpmで10秒間のスピンコート処理を行った。その後、室温で10分間の減圧処理を行うことによって、材料14a中の溶剤を揮発させた。最後に、UV照射を行うことによって材料14aを硬化させた。このようにして、実施例5のレンズを得た。
[比較例5]
比較例5では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例5のレンズ100bと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例5のレンズと比較例5のレンズについて、レンズ部上のコート層の厚さを測定した。厚さは、2つのレンズ部のそれぞれの中心を結ぶ線上において、実施例1と同様の方法で測定した。実施例5のレンズの測定結果を図15に示し、比較例5のレンズの測定結果を図16に示す。
図16に示すように、溝13を形成していない比較例5のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。特に、隣接するレンズ部に近い部分において、厚さの変動が大きくなった。
一方、図15に示すように、溝13を形成した実施例5のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部全域にわたってほぼ均一であった。また、隣接するレンズ部に近い部分においても、比較例5のレンズに比べて、コート層の厚さの変動は抑制されていた。また、比較例5のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例5のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例6]
実施例6では、1つのレンズ基材に2つの回折レンズが形成されているレンズを作製した。
まず、図17Aの上面図および図17Bの断面図に示すように、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503、d線屈折率1.59、アッベ数28)を材料とするレンズ基材170を準備した。レンズ基材170は、同一平面上に配置された2つのレンズ部21aを備える。レンズ部21aは、回折レンズである。実施例6のレンズでは、第1の領域11の全体がレンズ部21aである。レンズ基材170は、2つの第1の領域11とその周囲に配置された第2の領域12とを含む。第1の領域11と第2の領域12との間には溝13が形成されている。
レンズ基材170の平面形状は5mm角とした。レンズ部21aおよび溝13の形状は、実施例3のレンズのレンズ部および溝の形状と同じとした。2つのレンズ部21a間の距離は、1.0mmとした。レンズ基材170に実施例3と同様の方法および材料を用いてコート層を形成し、実施例6のレンズを得た。
[比較例6]
比較例6では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例6のレンズと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例6のレンズと比較例6のレンズについて、レンズ部におけるコート層の厚さを測定した。厚さの測定は、2つのレンズ部のそれぞれの中心を結ぶ線上において、実施例3と同様の方法で行った。実施例6のレンズの測定結果を図18に示し、比較例6のレンズの測定結果を図19に示す。
図19に示すように、溝13を形成していない比較例6のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。特に、隣接するレンズ部に近い部分において、厚さの変動が大きくなった。
一方、図18に示すように、溝13を形成した実施例6のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部の全域にわたってほぼ均一であった。また、隣接するレンズ部に近い部分においても、比較例6のレンズに比べて、実施例6のコート層の厚さの変動は抑制されていた。また、比較例6のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例6のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例7]
実施例7では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを、スクリーン印刷法を用いて作製した一例について説明する。
実施例7では、レンズ基材として、実施例3で用いたレンズ基材を用いた。また、コート層の材料には、実施例3で用いたコート層の材料と同じ組成を有し、粘度のみが異なる塗液を用いた。具体的には、実施例7では、コート層の材料の粘度を5Pa・sとした。
次に、スクリーン印刷法によって、コート層の材料をレンズ部に塗布した。スクリーン版には、テトロン製で乳剤厚さが20μmで、透過部の直径が1.5mmのスクリーン版を用いた。次に、室温で10分間の減圧処理を行うことによって、コート層の材料中の溶剤を揮発させた。次に、UV照射を行うことによって、コート層の材料を硬化させた。上記のスクリーン印刷、揮発処理、UV照射処理の工程を2回繰り返し行うことによって、実施例7のレンズを得た。
[比較例7]
比較例7では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例7のレンズと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例7のレンズと比較例7のレンズについて、レンズ部上のコート層の厚さを測定した。厚さの測定は、実施例3と同様の方法で行った。測定結果を図20に示す。
図20に示すように、溝13を形成していない比較例7のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さが単調に増加する傾向があった。これに対して、溝13を形成した実施例7のレンズでは、コート層の厚さの変動が抑制されていた。
また、比較例7のレンズでは第2の領域にコート層が形成された。これは、レンズ部に塗布されたコート層の材料が、第2の領域に流れ落ちたためであると考えられ得る。これに対し、実施例7のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例8]
実施例8では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを、パッド印刷法を用いて作製した一例について説明する。
実施例8では、レンズ基材として、実施例7で用いたレンズ基材を用いた。また、コート層の材料として、実施例7で用いたコート層の材料を準備した。次に、印刷版として、深さが25μmで直径が1.5mmの凹部を有するスチール版を用意した。このスチール版の凹部に配置したコート層の材料を、パッド印刷法によってレンズ部に塗布した。次に、室温で10分間の減圧処理を行うことによって、コート層の材料中の溶剤を揮発させた。次に、UV照射を行うことによって、コート層の材料を硬化させた。上記のパッド印刷、揮発処理、UV照射処理の工程を3回繰り返し行うことによって、実施例8のレンズを得た。
[比較例8]
比較例8では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例8のレンズと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例8のレンズと比較例8のレンズについて、レンズ部上のコート層の厚さを測定した。厚さの測定は、実施例3と同様の方法で行った。測定結果を図21に示す。
図21に示すように、溝13を形成していない比較例8のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さが単調に増加する傾向があった。これに対し、溝13を形成した実施例8のレンズでは、コート層の厚さの変動が抑制されていた。
また、比較例8のレンズでは第2の領域にコート層が形成された。これは、レンズ部に塗布されたコート層の材料が、第2の領域に流れ落ちたためであると考えられ得る。これに対し、実施例8のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
なお、実施例1〜8では、溝13の形状を同じにした。しかし、光学的に影響のない範囲であれば、溝13の形状は、上述の形状に限定されない。溝13の形状は、コート層の材料の物性(主に、粘度および表面張力)と、コート層の材料の塗布量を考慮して決定される。
また、実施例1〜8において、コート層の材料として溶剤を含む塗料を用いた。しかし、コート層の材料は、その粘度が、用いられる塗布法に適切であれば、溶剤を含まなくてもよく、その場合も、本発明の効果が得られる。
本発明のレンズは、レンズを含む様々な光学機器や電子機器に利用できる。たとえば、本発明のレンズは、携帯電話や車などに搭載されるカメラモジュールに利用できる。
本発明は、コート層を有するレンズ、およびその製造方法に関する。
コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、CDおよびDVDといった光ピックアップ用レンズの表面には、種々の目的で、コート層が形成される場合がある。コート層としては、例えば、レンズ表面で光が反射するのを防止するための反射防止膜、レンズ表面が傷付くのを防止するためのハードコート保護膜、レンズ基材の色収差を補正するための屈折率調整膜がある。
コート層の厚さの変動がレンズ性能に大きな影響を及ぼす場合、コート層の厚さを均一にする必要がある。厚さが均一なコート層を形成する方法として、金型成形を用いることができる。金型成形では、レンズ基材を金型にセットし、レンズ基材と金型との間にコート層の材料を流し込み、コート層の材料を硬化させる。その後、金型からレンズが取り出される。この方法では、コート層の形状は金型によって規定されるため、厚さが均一なコート層を形成できる。しかし、金型成形によって大量生産を行う場合、高価な金型が多数必要となり、生産コストが高くなるという問題がある。
このような問題に対し、スピンコート法によってコート層を形成する方法が開示されている(特開2002−263553号公報、特開2003−149423号公報、特開2003−154304号公報)。スピンコート法は、平面状の基材の上にコート層の材料を滴下し、次に、基材を回転させることによってその材料を基材に塗布する方法である。
しかしながら、レンズのコート層をスピンコート法によって形成する場合、レンズの形状が、コート層の材料が滑らかにレンズ曲面上を流れる形状である必要がある。そのため、スピンコート法を用いる場合、レンズ曲面の外縁部分の形状を、望ましいレンズ曲面とは異なる形状とする必要があった。その結果、レンズの外縁部分は、充分にレンズの機能を果たさないという問題があった。
また、浸漬法によってコート層を形成する方法も提案されている(特開2002−107502号公報)。この方法では、レンズ基材の表面全体にコート層が形成される。しかし、レンズ部以外の領域にコート層が形成されると、レンズをデバイスにマウントする際に、光軸がずれる可能性がある。
このような状況において、本発明は、厚さが均一なコート層を備え、正確なマウントが可能なレンズ、およびその製造方法を提供することを目的の1つとする。
上記目的を達成するために、本発明のレンズは、凸状のレンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、前記第1の領域を囲む第2の領域とを含み、前記第1の領域と前記第2の領域との間には、前記第1の領域を囲む溝が形成されており、前記レンズ部上にコート層が形成されている。
また、レンズを製造するための本発明の方法は、凸状のレンズ部と前記レンズ部上に形成されたコート層とを含むレンズの製造方法であって、(i)前記レンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、前記第1の領域を囲む第2の領域とを含むレンズ基材を準備する工程と、(ii)前記コート層の材料を前記レンズ部に配置する工程とを含み、前記レンズ基材の前記第1の領域と前記第2の領域との間には、前記第1の領域を囲む溝が形成されている。
本発明によれば、厚さが均一なコート層をレンズ部に形成できる。また、本発明では、従来の方法とは異なり、レンズの外縁部分の形状を、コート層の材料が滑らかにレンズ表面上を流れる形状とする必要がない。そのため、本発明によれば、レンズ部の全体を、レンズとして有効に機能させることができる。また、本発明によれば、レンズ部を囲む第2の領域にコート層が形成することを抑制できる。そのため、第2の領域を基準面として、レンズを正確に機器に組み込むことが可能である。
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
[レンズ]
本発明のレンズは、凸状のレンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、第1の領域を囲む第2の領域とを含む。第1の領域と第2の領域との間には、第1の領域を囲む溝が形成されている。そして、レンズ部上にコート層が形成されている。以下、第1および第2の領域を含む部材を、「レンズ基材」とよぶ場合がある。
レンズ基材の材料に限定はなく、溝と、レンズとして機能するレンズ部とを形成できる部材であればよい。レンズ基材の材料には、ガラスや、透明な合成樹脂を用いることができる。
それぞれの第1の領域は、凸状のレンズ部を含む。レンズ部の大きさに限定はない。一例では、レンズ部の直径は1mm〜10mmの範囲にあってもよい。レンズ部の形状は、用途に応じて決定される。レンズ部の形状は、球面形状であってもよいし、非球面形状であってもよい。また、レンズ部は、回折レンズであってもよい。典型的な回折レンズは、上にいくほど直径が小さくなるように、直径が異なる複数の円柱を積み上げたような形状を有する。このような形状は、ブレーズ形状(brazed grating)と呼ばれることがある。
レンズ部の表面には、コート層が形成されている。どのようなコート層を形成するかは、用途に応じて選択される。コート層は、反射防止膜、ハードコート保護膜、屈折率調整膜であってもよい。反射防止膜は、レンズ表面で光が反射するのを防止する。ハードコート保護膜は、レンズ表面が傷付くのを防止する。屈折率調整膜は、色収差を補正する。コート層は、単層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
コート層の材料は、コート層の用途および形成方法を考慮して選択される。コート層の材料は、たとえば、透明な合成樹脂である。コート層の材料は、光学的な特性を調整するための無機フィラーを含んでもよい。
溝は、通常、レンズ部の周囲を囲むように環状に形成されている。ただし、本発明の効果が得られる限り、溝は、完全な環状でなくてもよい。たとえば、溝は、所々で分断された環状の溝であってもよい。
本発明のレンズの好ましい一例では、第1の領域および溝の少なくとも一部にコート層が形成されており、第2の領域にコート層が形成されていない。この構成によれば、第2の領域を基準面として、レンズを正確に機器に組み込むことが可能である。第2の領域を基準面とする場合、第2の領域は、平坦であってもよいし、位置決めを容易にするための他の形状であってもよい。
本発明のレンズでは、第1の領域の全体がレンズ部であってもよい。そして、第1の領域を囲む溝が、レンズ部に隣接していてもよい。この構成によれば、レンズ部の外縁部分におけるコート層の厚さの均一性を、特に高めることができる。
本発明のレンズは、複数の第1の領域を含んでもよい。すなわち、本発明のレンズは、複数の凸状のレンズ部を含んでもよい。
[レンズの製造方法]
レンズを製造するための本発明の方法は、凸状のレンズ部と、そのレンズ部上に形成されたコート層とを含むレンズを製造する方法である。この方法によれば、本発明のレンズを製造できる。なお、本発明のレンズに関して説明した事項については、本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。本発明の製造方法は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
工程(i)では、レンズ部を含む少なくとも1つの第1の領域と、第1の領域を囲む第2の領域とを含むレンズ基材を準備する。レンズ基材の第1の領域と第2の領域との間には、第1の領域を囲む溝が形成されている。レンズ基材については、実施形態1で説明したため、重複する説明を省略する。レンズ基材の形成方法に限定はない。レンズ基材は、たとえば、キャスト法やプレス成形法や射出成形法といった公知の方法で形成できる。
次の工程(ii)では、コート層の材料をレンズ部に配置する。コート層の材料は、レンズ部の表面全体に塗布されてもよい。また、コート層の材料は、レンズ部の一部(たとえば頂部)に塗布されたのち、下方に向かってレンズ部の表面を移動し、その結果、レンズ部の表面全体に塗布されてもよい。余分な材料は、溝にためられる。その結果、第2の領域にコート層が形成されることが抑制される。本発明の一例では、工程(ii)において、コート層の材料を第1の領域に配置する。また、本発明の他の一例では、工程(ii)において、第1の領域上にコート層を形成する。レンズ部に塗布された材料は、必要に応じて硬化される。その結果、レンズ部の表面にコート層が形成される。
コート層の材料は、形成するコート層に応じて選択される。コート層の材料の塗布方法に応じて、コート層の材料を溶媒で希釈してもよい。
コート層の材料の硬化方法は、コート層の材料に応じて選択される。たとえば、紫外線硬化樹脂を用いる場合には、紫外線照射(UV照射)によって硬化が行われる。また、コート層の材料に含まれる溶媒を除去した後に加熱処理することによって、硬化が行われてもよい。
本発明の好ましい一例では、第1の領域および溝の少なくとも一部にコート層が形成され、第2の領域にコート層が形成されない。第2の領域にコート層が形成されないことによって、第2の領域を基準面として利用することが可能になる。典型的な一例では、コート層は、レンズ部の表面全体および溝の少なくとも一部に形成され、第2の領域には形成されない。
工程(ii)では、コート層の材料をスピンコート法によってレンズ部に配置してもよい。また、工程(ii)では、コート層の材料をスクリーン印刷法によってレンズ部に配置してもよい。また、工程(ii)では、コート層の材料をパッド印刷法によってレンズ部に配置してもよい。スクリーン印刷法およびパッド印刷法を用いる場合、1つの基材に存在する複数のレンズ部に、1回の印刷によって材料を配置することが可能である。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
[実施形態1]
実施形態1のレンズの上面図を図1Aに示し、図1Aの線IB−IBにおける断面図を図1Bに示す。図1Aおよび1Bに示すレンズ100は、レンズ基材10と、レンズ基材10上に形成されたコート層14とを備える。レンズ基材10の上面図を、図1Cに示す。
レンズ基材10は、凸状のレンズ部11aを含む第1の領域11と、第1の領域11を囲む第2の領域12とを含む。実施形態1の例では、第1の領域11の全体がレンズ部11aとなっている。レンズ部11aは、底面が円であるレンズである。レンズ部11aの表面形状は、球面であってもよいし、非球面であってもよい。
第1の領域11と第2の領域12との間には、溝13が形成されている。溝13は、レンズ部11aを囲むように、円環状に形成されている。溝13の平面形状の中心と、レンズ部11aの平面形状の中心とは一致している。コート層14は、レンズ部11a(第1の領域11)の表面全体、および溝13の一部に形成されている。コート層14は、第2の領域12上には形成されていない。
溝13は、レンズ部11aの外縁に隣接するように形成されている。この構成によれば、コート層14を形成する際に、レンズ部11aの外縁部分に存在する余剰の材料を溝13内に収納することが可能である。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることができる。
以下に、レンズ100の製造方法について説明する。まず、レンズ基材10を形成する。レンズ基材10は、キャスト法やプレス成形や射出成形法などの成形法、切削法、またはそれらの組み合わせで形成できる。溝13は、第1の領域11および第2の領域12を形成した後に、切削などの手法によって形成してもよい。また、溝13は、第1の領域11および第2の領域12を形成する際に、一体成形によって形成してもよい。
次に、レンズ部11aの表面にコート層14を形成する。コート層14の形成方法としては、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、およびパッド印刷法といった方法を採用できる。これらは、低コストで生産性に優れる方法である。
スピンコート法によってコート層14を形成する一例を、図2A〜2Cに示す。まず、図2Aに示すように、レンズ基材10を回転ステージ25に載せて回転させる。そして、レンズ基材10が回転している状態で、コート層14の材料14aをレンズ部11aの中心に滴下する。なお、レンズ基材10を固定した状態でコート層14の材料14aをレンズ部11aの中心に滴下してもよい。
次に、レンズ基材10を高速で回転させることによって、図2Bに示すように、材料14aをレンズ部11aの表面に塗り広げさせる。図2Cに示すように、余剰の材料14aは、溝13に収納され、第2の領域12には塗られない。最後に、塗布された材料14aを硬化させることによって、コート層14が形成される。
溝13が存在しない場合、図7Bに示すように、余剰の材料14aが、レンズ部11aの外縁部分に偏在する現象(以下、「液溜まり現象」と呼ぶ場合がある)が発生する。その結果、レンズ部11aの外縁部分におけるコート層が、レンズ部11aの中央部分におけるコート層よりも厚くなってしまう。また、溝13が存在しない場合、レンズとして機能しない第2の領域12にまでコート層が形成されてしまう。これに対し、本発明の方法では、溝13によって液溜まり現象を防止できる。また、本発明の方法では、溝13によって、第2の領域12にコート層14が形成されることを抑制できる。
なお、スピンコート法によってレンズ部11aに材料14aを配置する場合には、材料14aがレンズ部11aの外縁に向かって塗れ拡がる必要がある。そのため、材料14aの粘度は、0.1Pa・s以下であることが好ましい。
スクリーン印刷法によってコート層14を形成する一例を、図3A〜3Dに示す。まず、図3Aに示すように、スクリーン版31を用意する。スクリーン版31のうちレンズ部11aに対応する透過部31aは、コート層14の材料14aが透過可能となっている。スクリーン版31の上には、材料14aが配置される。
次に、図3Bに示すように、スクレーパ32によって、スクリーン版31上の材料14aを移動させる。次に、図3Cに示すように、スキージ(squeegee)33によって、材料14aを、透過部31aに押しつける。その結果、材料14aの一部が透過部31aを透過し、図3Dに示すように、レンズ部11aに材料14aが配置される。最後に、塗布された材料14aを硬化させることによって、コート層14が形成される。
スクリーン印刷は、一般的に、平面状の部材に塗料を塗布する際に用いられる。しかし、柔軟性のある樹脂製のスクリーン版を用いることによって、レンズ部11aなどの曲面に対しても塗料を塗布することが可能である。また、スクリーン印刷法では、適切なスクリーン版を用いることによって、ほぼレンズ部11aのみに材料14aを配置することが可能である。そのため、スクリーン印刷法を用いることによって、レンズ部11a以外の領域に付着する材料14aの量を少なくすることができる。
しかし、レンズ部11aの全体をコート層14で被覆するためには、透過部31aをレンズ部11aよりも若干大きくする必要がある。溝13がない場合には、上述したように、レンズ部11aの外縁部分で液溜り現象が発生する。これに対し、本発明の方法では、レンズ部11aの周囲に溝13が形成されているため、そのような液溜まり現象を抑制できる。また、本発明の方法によれば、第2の領域12にコート層が形成されることを抑制できるため、第2の領域12を基準面として用いることが可能になる。
スクリーン印刷法によって材料14aを配置する場合、レンズ部11aの外縁部分に溝13が存在することによって、スクリーン版31がレンズ部11aの外縁部分に密着しやすくなる。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることが可能である。
スクリーン印刷法によってレンズ部11aに材料14aを配置する場合には、材料14aがスクリーン版からレンズ部11aに移行する必要がある。また、材料14aがレンズ部11a上に配置された後、レンズ部11aの表面上で材料14aの厚さが均一化される必要がある。そのため、材料14aの粘度は、0.1Pa・s〜100Pa・sの範囲にあることが好ましい。
パッド印刷法によってコート層14を形成する一例を図4A〜4Dに示す。まず、図4Aに示すように、材料14aが充填された印刷版41に、シリコンパッド42を押し当て、材料14aをシリコンパッド42に付着させる。次に、図4Bおよび4Cに示すように、シリコンパッド42をレンズ部11aに押し当て、材料14aをレンズ部11aに塗布する。このようにして、図4Dに示すように、レンズ部11aに材料14aが塗布される。最後に、塗布された材料14aを硬化させることによって、コート層14が形成される。
パッド印刷法は、柔軟な部材(たとえばシリコンパッド)を用いて印刷を行うため、曲面や、凹凸を有する表面にも良好な印刷が可能である。また、適切な印刷版と適切なパッドとを選択することによって、所定の部分にのみ材料14aを塗布することが可能である。しかし、レンズ部11aの全体に材料14aを塗布するには、若干大きめにパターニングされた印刷版41を用いて印刷を行う必要がある。そのため、パッド印刷法においても、溝13がない場合にはレンズ部11aの外縁部分で液溜り現象が発生する。これに対し、本発明の方法では、レンズ部11aの周囲に溝13が形成されているため、そのような液溜まり現象を抑制できる。また、溝13によって、第2の領域12にコート層が形成されることを抑制できる。そのため、第2の領域12を基準面として用いることが可能になる。
パッド印刷法によって材料14aを配置する場合、レンズ部11aの外縁部分に溝13が存在することによって、パッドがレンズ部11aの外縁部分に密着しやすくなる。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることが可能である。
パッド印刷法によってレンズ部11aに材料14aを配置する場合には、材料14aが印刷版からパッドに移行し、次に、パッドからレンズ部11a上に移行する必要がある。また、材料14aがレンズ部11a上に配置された後、レンズ部11aの表面上で材料14aの厚さが均一化される必要がある。そのため、材料14aの粘度は、0.1Pa・s〜100Pa・sの範囲にあることが好ましい。
上記構成によれば、余分な材料14aを溝13に収納することができる。そのため、本発明の方法では、レンズ部11aの外縁部分を、レンズとして望ましい形状とは異なる形状とする必要がない。したがって、レンズ部11aの全体を、レンズとして有効に機能させることができる。また、レンズ部11aの全体に、厚さの変動が小さいコート層14を形成できる。その結果、光学特性に優れるレンズ、たとえば、光学的な収差が小さいレンズが得られる。また、第2の領域12にコート層が形成されることを抑制できるため、第2の領域12を基準面として、レンズ100を機器に正確にマウントすることが可能である。
[実施形態2]
実施形態2のレンズの上面図を図5Aに示し、図5Aの線VB−VBにおける断面図を図5Bに示す。図5Aおよび5Bに示すレンズ100aは、レンズ基材20と、レンズ基材20上に形成されたコート層14とを備える。レンズ基材20の上面図を図5Cに示す。
レンズ基材20は、凸状のレンズ部21aを含む第1の領域11と、第1の領域11を囲む第2の領域12とを含む。実施形態2の例では、第1の領域11の全体がレンズ部21aとなっている。レンズ部21aは、回折レンズである。レンズ部21aは、特定の球面係数または非球面係数をベースとするレンズ凸面に、ブレーズと呼ばれる段差を設けることによって形成されている。このような形状を有するレンズ部21aは、回折現象を利用した回折レンズである。
第1の領域11と第2の領域12との間には、溝13が形成されている。溝13は、レンズ部21aを囲むように、円環状に形成されている。溝13の平面形状の中心と、レンズ部21aの平面形状の中心とは一致している。コート層14は、レンズ部21a(第1の領域11)の表面全体、および溝13の一部に形成されている。コート層14は、第2の領域12上には形成されていない。
溝13は、レンズ部21aの外縁に隣接するように形成されている。この構成によれば、コート層14を形成する際に、レンズ部21aの外縁部分に存在する余剰の材料を溝13内に収納することが可能である。そのため、コート層14の厚さの均一性を特に高めることができる。また、レンズ部21aの表面全体に、厚さの変動が小さいコート層14を形成できる。その結果、光学特性に優れるレンズ、たとえば、光学的な収差が小さいレンズが得られる。また、溝13によって、第2の領域12にコート層14が形成されることを抑制できる。そのため、第2の領域12を基準面として、レンズ100aを機器に正確にマウントすることが可能である。
回折レンズであるレンズ部21aには、段差が存在する。そのため、スピンコート法によってコート層14を形成する場合、レンズ部21aの頂上部に配置されたコート層14の材料14aが下部に向かって流れにくい傾向がある。この場合、溶剤で希釈して粘度を低くした材料14aを用いればよいが、所定の厚さのコート層14を形成するには、多量の材料14aを塗布する必要が生じる。溝13がない場合、材料14aは第2の領域12に大きく塗れ拡がり、第2の領域12をマウントの際の基準面として用いることができなくなる。これに対し、本発明によれば、第2の領域12にコート層14が形成されることを、溝13によって抑制できる。したがって、本発明は、レンズ部が回折レンズである場合に特に有効である。同様に、スクリーン印刷法やパッド印刷法を用いて回折レンズの表面にコート層を形成する場合も、本発明は有効である。
回折レンズのコート層としては、カメラの色収差を補正するための屈折率調整膜が知られている。レンズ基材の材料が有する屈折率の波長分散を相殺するような屈折率分散を有するコート層を回折レンズ上に形成することによって、広帯域にわたって高い回折効率が得られる。そのため、屈折率調整膜を形成した回折レンズをカメラモジュールに組み込むことによって、色収差を低減できる。コート層が形成されたレンズの波長λにおける1次回折効率が100%となるブレーズの段差dは、回折レンズの屈折率をnL、コート層の屈折率をnPとすると、[数式1]で与えられる。
[数式1]
d=λ/|nL−np|
[数式1]の右辺が可視域全域にわたって一定値になれば、可視域における回折効率の波長依存性がなくなる。
本発明の方法によって屈折率調整膜(コート層)を回折レンズ上に形成した場合、色収差を低減できると共に、コート層の厚さのバラツキによって生じる光学的な収差も低減できる。
[実施形態3]
実施形態3のレンズの上面図を図6Aに示し、図6Aの線VIB−VIBにおける断面図を図6Bに示す。図6Aおよび6Bに示すレンズ100bは、レンズ基材30と、レンズ基材30上に形成されたコート層14とを備える。
レンズ基材30は、凸状のレンズ部11aを含む2つの第1の領域11と、第1の領域11を囲む第2の領域12とを含む。実施形態3の例では、第1の領域11の全体がレンズ部11aとなっている。第1の領域11と第2の領域12との間には、溝13が形成されている。コート層14は、レンズ部11a(第1の領域11)の表面全体、および溝13の一部に形成されている。コート層14は、第2の領域12上には形成されていない。
レンズ100bは、1つのレンズ基材30の同一面上に形成された2つのレンズ部11aを含む。レンズ100bは、複眼レンズとして機能させることができる。レンズ100bの2つのレンズ部11aの視差を利用することによって、被写体までの距離の測定が可能になる。距離の測定の精度を向上させるためには、複眼レンズをカメラモジュールに組み込む際の基準面にバラツキがないことが特に重要である。基準面の精度が低い場合、複眼レンズと撮像面との間に傾きが生じる。この傾きは、距離の測定の精度が悪化する要因となる。
第1の領域11および溝13は、それぞれ、実施形態1のレンズ100のそれらと同じ構成を有する。したがって、レンズ100bでは、レンズ100と同様に、レンズ部11aの全体を効率的に活用できる。また、第2の領域12にコート層14が形成されていないため、レンズ100bをカメラモジュールに組み込む際の基準面として、第2の領域12を利用できる。
スピンコート法によってレンズ部11aにコート層14を形成する場合、溝13がないと、コート層14の材料14aが第2の領域12にまで塗れ拡がってしまう。その結果、それぞれのレンズ部11aに滴下した材料14aが干渉しあう。その結果、厚さのバラツキが小さいコート層14をそれぞれのレンズ部11aに形成することが困難になる。一方、実施形態3のレンズ100bには溝13が形成されているため、それぞれのレンズ部11aに滴下した材料14aが干渉することを抑制できる。その結果、全てのレンズ部11aにおいて、厚さのバラツキが小さいコート層14を形成できる。また、コート層14が第2の領域に形成されないため、レンズ100bをカメラモジュールに組み込む際の基準面として、第2の領域12を利用できる。そのため、距離の測定にレンズ100bを用いる場合、精度よく距離を測定できる。
なお、スピンコート法によって複数のレンズ部11aにコート層14を形成する場合、通常、以下の方法でコート層14が形成される。まず、第1のレンズ部11aにコート層14の材料14aを滴下し、第1のレンズ部11aを中心としてレンズ基材30を回転させることによって材料14aを第1のレンズ部11a上に塗布する。次に、第2のレンズ部11aに材料14aを滴下し、第2のレンズ部11aを中心としてレンズ基材30を回転させることによって材料14aを第2のレンズ部11a上に塗布する。1つのレンズ基材に3個以上のレンズ部が形成されている場合も、同様に、レンズ部ごとにスピンコート法を実施する。このような方法によって、厚さのバラツキが小さいコート層14を、各レンズ部11aに形成できる。
以上のように、本発明は、複眼レンズの個々のレンズ部にコート層を形成する場合に、特に有効である。
複眼レンズの場合も、実施形態1と同様に、スクリーン印刷法またはパッド印刷法を用いてコート層を形成してもよい。スクリーン印刷法またはパッド印刷法を用いる場合も、本発明は有効である。
実施形態3では、1つのレンズ基材に2個のレンズ部が形成されている場合について説明した。しかし、1つのレンズ基材に3個以上のレンズ部が形成されている場合も、同様の効果が得られる。
実施形態3では、複数のレンズ部11aのそれぞれに対して形成された溝13が離れて形成されている場合について説明したが、それらは繋がっていてもよい。
実施形態3では、すべてのレンズ部11aの周囲に溝13を形成する場合について説明した。しかし、複数のレンズ部に、コート層が不要なレンズ部が含まれる場合、そのレンズ部の周囲には溝13を形成しなくてもよい。
実施形態3では、レンズ部11aが非球面形状の場合について説明したが、その形状が球面形状の場合あるいは回折レンズの場合であっても、同様の効果が得られる。
実施形態1〜3では、溝13が、レンズ部11a(第1の領域11)の外縁部分の全体を囲むように環状に形成されている場合について説明した。しかし、溝13は、必ずしも完全な環状でなくてもよい。一部につながっていない部分があっても、切れている部分の幅が狭ければ、本発明の効果が得られる。
実施形態1〜3では、断面が矩形である溝13を用いる場合について説明した。しかし、本発明の効果が得られる限り、溝13の断面は、矩形でなくてもよく、たとえば、U字型であってもよいし、V字型であってもよい。
実施形態1〜3では、第1の領域11の全体がレンズ部である場合について説明した。しかし、第1の領域11は、レンズ部11aの周囲に配置されレンズとして機能しない部分を含んでもよい。
実施形態1〜3では、レンズ基材の片面のみにレンズ部が形成されている場合について説明した。しかし、レンズ基材の両面にレンズ部が形成されている場合でも、本発明の効果が得られる。例えば、レンズ基材の一主面に非球面レンズが形成され、他主面に回折レンズ部が形成されている場合でも、本発明の効果が得られる。
以下に、本発明のレンズおよびその製造方法について、具体例を挙げて説明する。なお、以下の実施例において、合成樹脂からなるレンズ基材は、射出成形によって形成した。また、ガラスからなるレンズ基材は、プレス成形によって形成した。
[実施例1]
実施例1では、図1Aおよび1Bに示すレンズ100を作製した一例について説明する。実施例1では、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503)を材料とするレンズ基材10を用いた。
レンズ基材10の平面形状は4mm角とした。レンズ部11a(第1の領域11)は、レンズ基材10の中央に配置された。レンズ部11aの直径は1.2mmであり、レンズ基材10の底面からレンズ部11aの頂部までの厚さは0.8mmであった。第2の領域の厚さは、0.6mmであった。溝13の幅は0.2mmであり、溝13の深さは0.2mmであった。
次に、アクリル系のオリゴマー(日本合成化学:UV−7000B)に光重合開始剤を配合し、それらをプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈することによって、コート層14の材料14aを調製した。材料14aの粘度は、0.1Pa・sとした。
次に、レンズ部11aの中心がスピンコートにおける回転中心と一致するように、スピンコート装置にレンズ基材10をセットした。そして、レンズ部11aの頂部に材料14aを滴下し、回転数2000rpmで10秒間のスピンコート処理を行った。次に、室温で10分間の減圧処理を行うことによって材料14a中の溶剤を揮発させた。次に、UV照射を行うことによって材料14aを硬化させた。このようにして、図1Aおよび1Bに示すレンズ100を得た。
[比較例1]
比較例1のレンズ1として、溝13を形成しないことを除き、レンズ100と同様のレンズを作製した。比較例1で作製したレンズ1を図7Aの上面図および図7Bの断面図に示す。レンズ1のレンズ基材1aは、溝13がないことを除き、実施例1のレンズ基材10と同じ構造を有する。レンズ基材1aのレンズ部11aには、実施例1と同じ材料および方法でコート層14を形成した。
実施例1のレンズと比較例1のレンズについて、レンズ部におけるコート層の厚さを測定した。コート層の厚さは、レーザー反射式形状測定装置を用いて測定した。具体的には、任意の一断面において、コート層形成前後の形状を測定した。この測定値から、図8に示すように、レンズの中心部からの距離が異なる位置におけるコート層14の厚さ(図8のt1、t2、t3など)を求めた。なお、図8に示すように、レンズの光軸に平行な方向の厚さを、コート層の厚さとした。測定結果を図9に示す。
図9に示すように、溝13を形成しなかった比較例1のレンズ1では、レンズ部11aの中心から離れるに従って、コート層14の厚さは単調に増加する傾向にあった。特に、レンズ部11aの外縁部分(レンズ部11aの中心からの距離が±0.6mm付近)では、その増加率が大きくなる傾向にあった。一方、溝13を形成した実施例1のレンズ100では、コート層14の厚さは、レンズ部11aの中心から離れた部分でもほとんど変化せず、レンズ部11aの全域にわたってほぼ均一であった。つまり、レンズ100では、コート層14の表面形状は、レンズ部11aの非球面形状とほぼ一致した。
次に、実施例1および比較例1のレンズの断面を観察した。比較例1のレンズ1では、図7Bに示すように、レンズ部11aの外縁部分において、コート層14が厚くなる液溜り現象が発生していた。それに対し、実施例1のレンズ100では、図1Bに示すように、液溜り現象は溝13の内部で発生しており、レンズ部11aの表面のコート層14の厚さは、ほぼ均一であった。
また、比較例1のレンズ1では、コート層14が第2の領域12にも形成されたが、実施例1のレンズ100ではコート層14が第2の領域12に形成されることはなかった。
[実施例2]
実施例2では、図1Aおよび1Bに示すレンズ100を作製した他の一例について説明する。実施例2では、光学ガラス(株式会社住田光学ガラス:K−LaKn14)を材料とするレンズ基材10を用いた。このレンズ基材10に、実施例1と同様の材料および方法でコート層14を形成し、レンズ100を得た。
[比較例2]
比較例2のレンズとして、溝13を形成しないことを除き、実施例2のレンズと同様のレンズを作製した。
実施例2のレンズと比較例2のレンズとについて、コート層の厚さを測定した。測定結果を図10に示す。コート層の厚さは、実施例1と同様の方法で求めた。図10に示すように、溝13が形成されていない比較例2のレンズでは、レンズ部11aの中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。一方、溝を形成した実施例2のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部11aの中心から離れた部分でもほとんど変化せず、レンズ部11aの全域にわたってほぼ均一であった。
次に、実施例2のレンズおよび比較例2のレンズのそれぞれの断面を観察した。比較例2のレンズでは、レンズ部の外縁部分で液溜り現象が発生していた。それに対し、実施例2のレンズでは、液溜り現象は溝13内で発生しており、レンズ部11a上のコート層14はほぼ均一な厚さであった。
また、比較例2のレンズでは、コート層14が第2の領域12にも形成されたが、実施例2のレンズではコート層14が第2の領域12に形成されることはなかった。
[実施例3]
実施例3では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを作製した一例について説明する。実施例3では、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503、d線屈折率1.59、アッベ数28)を材料とするレンズ基材20を用いた。レンズ基材20の平面形状は4mm角とした。レンズ部21a(第1の領域11)は、レンズ基材20の中央に配置された。レンズ部21aの直径を1.2mmとし、レンズ基材20の底面からレンズ部21aの頂部までの厚さは0.8mmとした。第2の領域12の厚さは0.6mmとした。ブレーズの段差は15.5μmとした。溝13の幅は0.2mmとし、溝13の深さは0.2mmとした。
コート層14の材料14aとして、脂環式炭化水素基含有アクリル系オリゴマー(d線屈折率1.53、アッベ数52)と酸化ジルコニウムフィラーとの混合物の、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液(全固形分75重量%)を調製した。酸化ジルコニウムのフィラー(filler)には、一次粒径が3nm〜10nmであり、シラン系表面処理剤を30重量%含有するものを用いた。酸化ジルコニウムフィラーは、材料14aの固形分中における重量比が56重量%となるように添加した。材料14aの粘度は、0.1Pa・sとした。
そして、実施例1と同様の条件で、スピンコート処理、溶剤揮発処理、およびUV照射処理を行い、レンズ100aを得た。硬化後のコート層14の屈折率特性を評価したところ、d線屈折率が1.62であり、アッベ数が43であった。
レンズ基材の材料とコート層の材料との組み合せ、およびブレーズの段差を適切に設計することによって、色収差が小さい回折レンズを実現できる。さらに、コート層の表面形状を、回折レンズの段差の下面を結ぶ面の形状に一致させることによって、レンズ機能を向上できる。
[比較例3]
比較例3では、図11Aの上面図および図11Bの断面図に示すレンズ3を作製した。比較例3では、レンズ基材3aを用いた。レンズ基材3aは、溝13がないことを除き、実施例3のレンズ基材20と同じである。実施例3と同様の材料および方法によって、レンズ基材3aにコート層14を形成し、比較例3のレンズ3を得た。
実施例3のレンズと比較例3のレンズについて、レンズ部におけるコート層14の厚さを測定した。具体的には、まず、任意の一断面におけるコート層形成前後の表面形状を、レーザー反射式形状測定装置を用いて測定した。そして、コート層形成前の測定から、ブレーズ段差の下面を結ぶ非球面曲線121(図12の点線)を求めた。そして、図12に示すように、非球面曲線121からコート層14の表面までの距離を求めて、コート層14の厚さとした。測定結果を図13に示す。
図13に示すように、溝を形成していない比較例3のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調増加する傾向にあった。特に、レンズ部の外縁部分(レンズ部の中心からの距離:±0.6mm付近)では、その増加率が大きくなる傾向にあった。一方、溝を形成した実施例3のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部の全域にわたってほぼ均一であった。つまり、実施例3のコート層の表面形状は、回折レンズのブレーズ段差の下面を結ぶ非球面形状と、ほぼ一致していた。
次に、実施例3のレンズおよび比較例3のレンズの断面を観察した。実施例3のレンズおよび比較例3のレンズは、共に、コート層が、気泡を含有することなくレンズ部の段差(ブレーズ)を埋めていた。また、実施例3のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象が溝13内で確認された。これに対し、比較例3のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象がレンズ部の外縁部分で確認された。また、比較例3のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例3のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例4]
実施例4では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを作製した他の一例について説明する。実施例4では、光学ガラス(株式会社住田光学ガラス:K−LaKn14、d線屈折率1.74、アッベ数53)を材料とするレンズ基材20を用いた。レンズ基材20の平面形状は、4mm角とした。レンズ部21aの直径は1.2mmとし、レンズ基材の底面からレンズ部21aの頂部までの厚さは0.8mmとした。第2の領域12の厚さは0.6mmとした。ブレーズの段差は4.7μmとした。溝13の幅は0.2mmとし、溝13の深さは0.2mmとした。
コート層の材料として、エポキシ系オリゴマー(旭電化工業株式会社:オプトマーKRX、d線屈折率1.62、アッベ数24)のメチルエチルケトン溶液(全固形分40重量%)を調製した。そして、実施例3と同様の条件で、スピンコート処理、溶剤揮発処理、UV照射処理を行い、レンズ100aを得た。この場合も、実施例3と同様に、レンズ基材の材料とコート層の材料との組み合せ、およびブレーズの段差を適切に設計することによって、色収差が小さい回折レンズを実現できる。また、コート層の表面形状を、回折レンズの段差の下面を結ぶ面の形状と一致させることによって、レンズ機能を向上できる。
[比較例4]
比較例4では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例4のレンズ100aと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例4のレンズと比較例4のレンズとについて、レンズ部のコート層の厚さを測定した。測定結果を図14に示す。コート層の厚さは、実施例3と同様の方法で求めた。
図14に示すように、溝を形成していない比較例4のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。一方、溝を形成した実施例4のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部の全域にわたってほぼ均一であった。つまり、コート層の表面形状は、回折レンズのブレーズ段差の下面を結ぶ非球面形状と、ほぼ一致していた。
次に、実施例4のレンズおよび比較例4のレンズの断面を観察した。実施例4のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象が溝13内で確認された。これに対し、比較例4のレンズでは、コート層の材料の液溜り現象がレンズ部の外縁部分で確認された。また、比較例4のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例4のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例5]
実施例5では、図6Aおよび6Bに示すレンズ100bを製造した一例について説明する。実施例5では、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503)を材料とするレンズ基材30を用いた。
レンズ基材30の平面形状は5mm角とした。レンズ部11a(第1の領域11)は、レンズ基材30の中央付近に配置された。レンズ部11aの直径は1.2mmとした。レンズ基材30の底面からレンズ部11aの頂部までの厚さは、0.8mmとした。第2の領域12の厚さは0.6mmとした。溝13の幅は0.2mmとし、溝13の深さは0.2mmとした。2つのレンズ部11a間の距離は、1.0mmとした。
コート層の材料14aとして、実施例1と同じ溶液を準備した。次に、一方のレンズ部11aの中心が回転中心と一致するように、レンズ基材30をスピンコート装置にセットした。次に、上記一方のレンズ部11aの頂部に、材料14aを滴下し、回転数2000rpmで10秒間のスピンコート処理を行った。次に、他方のレンズ部11aの中心が回転中心と一致するようにレンズ基材30をスピンコート装置にセットした。次に、上記他方のレンズ部11aに材料14aを滴下し、回転数2000rpmで10秒間のスピンコート処理を行った。その後、室温で10分間の減圧処理を行うことによって、材料14a中の溶剤を揮発させた。最後に、UV照射を行うことによって材料14aを硬化させた。このようにして、実施例5のレンズを得た。
[比較例5]
比較例5では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例5のレンズ100bと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例5のレンズと比較例5のレンズについて、レンズ部上のコート層の厚さを測定した。厚さは、2つのレンズ部のそれぞれの中心を結ぶ線上において、実施例1と同様の方法で測定した。実施例5のレンズの測定結果を図15に示し、比較例5のレンズの測定結果を図16に示す。
図16に示すように、溝13を形成していない比較例5のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。特に、隣接するレンズ部に近い部分において、厚さの変動が大きくなった。
一方、図15に示すように、溝13を形成した実施例5のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部全域にわたってほぼ均一であった。また、隣接するレンズ部に近い部分においても、比較例5のレンズに比べて、コート層の厚さの変動は抑制されていた。また、比較例5のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例5のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例6]
実施例6では、1つのレンズ基材に2つの回折レンズが形成されているレンズを作製した。
まず、図17Aの上面図および図17Bの断面図に示すように、ポリカーボネート(帝人化成株式会社:AD−5503、d線屈折率1.59、アッベ数28)を材料とするレンズ基材170を準備した。レンズ基材170は、同一平面上に配置された2つのレンズ部21aを備える。レンズ部21aは、回折レンズである。実施例6のレンズでは、第1の領域11の全体がレンズ部21aである。レンズ基材170は、2つの第1の領域11とその周囲に配置された第2の領域12とを含む。第1の領域11と第2の領域12との間には溝13が形成されている。
レンズ基材170の平面形状は5mm角とした。レンズ部21aおよび溝13の形状は、実施例3のレンズのレンズ部および溝の形状と同じとした。2つのレンズ部21a間の距離は、1.0mmとした。レンズ基材170に実施例3と同様の方法および材料を用いてコート層を形成し、実施例6のレンズを得た。
[比較例6]
比較例6では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例6のレンズと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例6のレンズと比較例6のレンズについて、レンズ部におけるコート層の厚さを測定した。厚さの測定は、2つのレンズ部のそれぞれの中心を結ぶ線上において、実施例3と同様の方法で行った。実施例6のレンズの測定結果を図18に示し、比較例6のレンズの測定結果を図19に示す。
図19に示すように、溝13を形成していない比較例6のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さは単調に増加する傾向にあった。特に、隣接するレンズ部に近い部分において、厚さの変動が大きくなった。
一方、図18に示すように、溝13を形成した実施例6のレンズでは、コート層の厚さは、レンズ部の中心から離れてもほとんど変化せず、レンズ部の全域にわたってほぼ均一であった。また、隣接するレンズ部に近い部分においても、比較例6のレンズに比べて、実施例6のコート層の厚さの変動は抑制されていた。また、比較例6のレンズでは第2の領域にコート層が形成されたのに対し、実施例6のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例7]
実施例7では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを、スクリーン印刷法を用いて作製した一例について説明する。
実施例7では、レンズ基材として、実施例3で用いたレンズ基材を用いた。また、コート層の材料には、実施例3で用いたコート層の材料と同じ組成を有し、粘度のみが異なる塗液を用いた。具体的には、実施例7では、コート層の材料の粘度を5Pa・sとした。
次に、スクリーン印刷法によって、コート層の材料をレンズ部に塗布した。スクリーン版には、テトロン製で乳剤厚さが20μmで、透過部の直径が1.5mmのスクリーン版を用いた。次に、室温で10分間の減圧処理を行うことによって、コート層の材料中の溶剤を揮発させた。次に、UV照射を行うことによって、コート層の材料を硬化させた。上記のスクリーン印刷、揮発処理、UV照射処理の工程を2回繰り返し行うことによって、実施例7のレンズを得た。
[比較例7]
比較例7では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例7のレンズと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例7のレンズと比較例7のレンズについて、レンズ部上のコート層の厚さを測定した。厚さの測定は、実施例3と同様の方法で行った。測定結果を図20に示す。
図20に示すように、溝13を形成していない比較例7のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さが単調に増加する傾向があった。これに対して、溝13を形成した実施例7のレンズでは、コート層の厚さの変動が抑制されていた。
また、比較例7のレンズでは第2の領域にコート層が形成された。これは、レンズ部に塗布されたコート層の材料が、第2の領域に流れ落ちたためであると考えられ得る。これに対し、実施例7のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
[実施例8]
実施例8では、図5Aおよび5Bに示すレンズ100aを、パッド印刷法を用いて作製した一例について説明する。
実施例8では、レンズ基材として、実施例7で用いたレンズ基材を用いた。また、コート層の材料として、実施例7で用いたコート層の材料を準備した。次に、印刷版として、深さが25μmで直径が1.5mmの凹部を有するスチール版を用意した。このスチール版の凹部に配置したコート層の材料を、パッド印刷法によってレンズ部に塗布した。次に、室温で10分間の減圧処理を行うことによって、コート層の材料中の溶剤を揮発させた。次に、UV照射を行うことによって、コート層の材料を硬化させた。上記のパッド印刷、揮発処理、UV照射処理の工程を3回繰り返し行うことによって、実施例8のレンズを得た。
[比較例8]
比較例8では、レンズ基材に溝13がないことを除き、実施例8のレンズと同様の材料および方法でレンズを作製した。
実施例8のレンズと比較例8のレンズについて、レンズ部上のコート層の厚さを測定した。厚さの測定は、実施例3と同様の方法で行った。測定結果を図21に示す。
図21に示すように、溝13を形成していない比較例8のレンズでは、レンズ部の中心から離れるに従って、コート層の厚さが単調に増加する傾向があった。これに対し、溝13を形成した実施例8のレンズでは、コート層の厚さの変動が抑制されていた。
また、比較例8のレンズでは第2の領域にコート層が形成された。これは、レンズ部に塗布されたコート層の材料が、第2の領域に流れ落ちたためであると考えられ得る。これに対し、実施例8のレンズでは、第2の領域にコート層が形成されなかった。
なお、実施例1〜8では、溝13の形状を同じにした。しかし、光学的に影響のない範囲であれば、溝13の形状は、上述の形状に限定されない。溝13の形状は、コート層の材料の物性(主に、粘度および表面張力)と、コート層の材料の塗布量を考慮して決定される。
また、実施例1〜8において、コート層の材料として溶剤を含む塗料を用いた。しかし、コート層の材料は、その粘度が、用いられる塗布法に適切であれば、溶剤を含まなくてもよく、その場合も、本発明の効果が得られる。
本発明のレンズは、レンズを含む様々な光学機器や電子機器に利用できる。たとえば、本発明のレンズは、携帯電話や車などに搭載されるカメラモジュールに利用できる。
図1Aは、本発明のレンズの一例を示す上面図であり、図1Bはその断面図である。図1Cは、図1Aに示すレンズに用いられているレンズ基材の上面図である。
図2A〜図2Cは、スピンコート法によってコート層を形成する方法の一例を示す工程図である。
図3A〜図3Dは、スクリーン印刷法によってコート層を形成する方法の一例を示す工程図である。
図4A〜図4Dは、パッド印刷法によってコート層を形成する方法の一例を示す工程図である。
図5Aは、本発明のレンズの他の一例を示す上面図であり、図5Bはその断面図である。図5Cは、図5Aに示すレンズに用いられているレンズ基材の上面図である。
図6Aは、本発明のレンズのその他の一例を示す上面図であり、図6Bはその断面図である。
図7Aは、比較例1のレンズを示す上面図であり、図7Bはその断面図である。
図8は、コート層の厚さの測定方法を示す図である。
図9は、実施例1のレンズおよび比較例1のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図10は、実施例2のレンズおよび比較例2のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図11Aは、比較例3のレンズを示す上面図であり、図11Bはその断面図である。
図12は、コート層の厚さの測定方法を示す図である。
図13は、実施例3のレンズおよび比較例3のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図14は、実施例4のレンズおよび比較例4のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図15は、実施例5のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図16は、比較例5のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図17Aは、実施例6で用いたレンズ基材を示す上面図であり、図17Bはその断面図である。
図18は、実施例6のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図19は、比較例6のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図20は、実施例7のレンズおよび比較例7のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。
図21は、実施例8のレンズおよび比較例8のレンズについて、コート層の厚さの測定結果を示すグラフである。