以下、本発明を詳細に説明する。以下には、本発明が、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載される。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において「TSLC1」とは、肺非小細胞がんにおいてがん抑制遺伝子として報告された遺伝子である(Kuramochi M,Fukuhara H,Nobukuni T,et al.TSLC1 is a tumor-suppressor gene in human non-small-cell lung cancer.Nat Med.2001;27:427−430)。また、TSLC1遺伝子は、多くの肺がんにおいて共通して欠失している染色体部分から単離された遺伝子であり、最近の研究から上皮細胞の接着機能に関与していると考えられている(Masuda M,Yageta M,Fukuhara H,et al.The tumor suppressor protein TSLC1 is involved in cell-cell adhesion.J Biol Chem.2002;277:31014−31019)。肺がん等において、TSLC1遺伝子を含む染色体が欠失し、細胞接着能が低下することによって、がん細胞が他の臓器に転移しやすくなっていると考えられて
いる。
形態学的形質変換は、がん細胞を正常な上皮細胞と区別するための基本的表現型である。TSLC1は、染色体フラグメント11q23.2上にある腫瘍サプレッサー遺伝子であり、これは、機能的相補によって同定された(Kuramochi,M.,Fukuhara,H.,Nobukuni,T.,Kanbe,T.,Maruyama,T.,Ghosh,H.P.,Pletcher,M.,Isomura,M.,Onizuka,M.,Kitamura,T.,Sekiya,T.,Reeves,R.H.,and Murakami,Y.(2001)Nat Genet 27,427−430.)。プロモーターのメチル化およびTSLC1発現の喪失が、原発性肺がん、原発性食道がん、原発性膵臓がん、および種々の他のがんの進行期において頻繁に観察される(Kuramochi,M.,Fukuhara,H.,Nobukuni,T.,Kanbe,T.,Maruyama,T.,Ghosh,H.P.,Pletcher,M.,Isomura,M.,Onizuka,M.,Kitamura,T.,Sekiya,T.,Reeves,R.H.,and Murakami,Y.(2001)Nat Genet 27,427−430.;Murakami,Y.(2002).Oncogene,21,6936−6948.)。TSLC1は、細胞間接着を媒介する免疫グロブリンスーパーファミリー分子をコードする(Masuda,M.,Yageta,M.,Fukuhara,H.,Kuramochi,M.,Maruyama,T.,Nomoto,A.& Murakami,Y.(2002).J Bio Chem,277,31014−31019.)。TSLC1タンパク質の喪失は、原発性肺腺がんの浸潤性先端において主に見出された(Ito,A.,Okada,M.,Uchino,K.,Wakayama,T.,Koma,Y.,Iseki,S.,Tsubota,N.,Okita,Y.& Kitamura,Y.(2003a).Lab Invest,83,1175−1183.)。従って、TSLC1は、上皮細胞接着に主に関与しているようであり、一方、TSLC1機能の喪失は、がん細胞が浸潤および/または転移するのをもたらし得る。最近、TSLC1は、上皮細胞接着においてのみならず、セルトーリ細胞への精子形成細胞の接着、線維芽細胞への肥満細胞の接着、および神経細胞のシナプス形成においても役割を有することが見出され、TSLC1/IGSF4/N ecl−2/SgIGSF/RA175/SynCAM と呼ばれる(Biederer, T.,Sara,Y.,Mozhayeva,M.,Atasoy,D.,Liu,X.,Kavalali,E.T.& Sudhof,T.C.(2002).Science,297,1525−1531;Gomyo,H.,Arai,Y.,Tanigami,A.,Murakami,Y.,Hattori,M.,Hosoda,F.,Arai,K.,Aikawa,Y.,Tsuda,H.,Hirohashi,S.,Asakawa,S.,Shimizu,N.,Soeda,E.,Sakaki,Y.& Ohki,M.(1999).Genomics,62,139−146.; Kuramochi,M.,Fukuhara,H.,Nobukuni,T.,Kanbe,T .,Maruyama,T.,Ghosh,H.P.,Pletcher,M.,Iso mura,M.,Onizuka,M.,Kitamura,T.,Sekiya,T.,Reeves,R.H.,and Murakami,Y.(2001)Nat Genet 27,427−430.; Shingai,T.,Ikeda,W.,Kakunaga,S.,Morimoto,K.,Takekuni,K.,Itoh,S.,Satoh,K.,Takeuchi,M.,Imai,T.,Monden,M.& Takai,Y.(2003).J Biol Chem,278,35421−35427.;Urase,K.,Soyama,A.,Fujita,E.& Momoi,T.(2001).Neuroreport,12,3217−21.; Wakayama,T.,Ohashi,K.,Mizuno,K.& Iseki,S.(2001).Mol Reprod Dev,60,158−164.)。
TSLC1の細胞質ドメインは、プロテイン4. ファミリーの分子に対する結合モチーフを保有する。本発明者らは、TSLC1が、プロテイン4.1結合モチーフを介してDAL−1/4.1Bと結合することを以前に報告した(Yageta,M.,Kuramochi,M.,Masuda,M.,Fukami,T.,Fukuhara,H.,Maruyama,T.,Shibuya,M.& Murakami,Y.(2002).Cancer Res,62,5129−5133.)。DAL−1は、NSCLC、髄膜腫、および乳がんにおける腫瘍サプレッサーの候補であり、プロテイン4.1ファミリー分子に属する。このプロテイン4.1ァミリー分子は、膜貫通タンパク質をアクチンおよびスペクトリンからなる細胞骨格に連結する(Sun,C.X.,Robb,V.A.& Gutmann,D.H.(2002).J Cell Sci,115,3991−4000.)。本発明者らはまた、TSLC1は、MPP3( 膜結合型グアニル酸キナーゼホモログ(MAGuK)のメンバーである) に対して、TSLC1のカルボキシル末端にあるクラスII PSD95/Dlg/ZO−1(PDZ)ドメイン結合モチーフであるEYFIを介して結合することを示した(Fukuhara,H.,Masuda,M.,Yageta,M.,Fukami,T.,Kuramochi,M.,Maruyama,T.,Kitamura,T.& Murakami,Y.(2003).Oncogene,22,6160−6165.)。MPP3 のクラスII PDZドメインは、TSLC1との結合を担い、他の2 つのMAGuK タンパク質(MPP1/p55 およびMPP2/DLG2) において保存されている(Mazoyer,S.,Gayther,S.A.,Nagai,M.A.,Smith,S.A.,Dunning,A.,van Rensburg,E.J.,Albertsen,H.,White,R.& Ponder,B.A.(1995).Genomics,28,25−31.;Ruff,P.,Speicher,D.W.& Husain−Chishti,A.(1991).Proc Natl Acad Sci USA,88,6595−6599.)。MPP1、MPP2 、およびMPP3は、Drosophilastardust(Sdt)のヒト対応物であると考えられ、細胞分極に関与する(Bachmann,A.,Schneider,M.,Theilenberg,E.,Grawe,F.& Knust,E.(2001).Nature,414,638−643.)。
本出願において、本発明者らは、DLA−1およびMAGuKが、互いに直接結合すること、そしてTSLC1が、DAL−1およびMAGuKメンバーと3者結合タンパク質複合体を形成することを示す。siRNAによるTSLC1発現の抑制は、これらのタンパク質複合体が、成熟細胞接着を伴う上皮細胞構造の形成において重要な役割を果たすことを示す。
TSLC1/IGSF4Aは、免疫グロブリンスーパーファミリーである細胞細胞接着分子(IgCAM)(Masuda,M.,ら(2002)J Biol Chem 277,31014−31019)のファミリーに属する単一の膜貫通型糖タンパク質をコードする、非小細胞肺がん(NSCLC)(Gomyo,H., ら(1999)Geno mics 62,139−146; およびKuramochi,M., ら(2001)Nat Genet 27,427−430) における腫瘍抑制遺伝子である。種々の組織におけるその多様な機能に起因して、TSLC1は、いくつかの異なる研究グループにより特徴付けられている。この遺伝子は、それゆえ、RA175(Fujita,E.,ら(2003)Exp Cell Res 287,57−66)、SgIGSF(Ito ,A.,ら(2003)Blood 101,2601−2608)、NecI2(Shingai,T.,ら(2003)J Biol Chem 278,35421−35427)およびSynCAM1(Biederer,T., ら(2002)Science 297,1525−1531)としても知られている。原発性のNSCLCにおいて、本発明者らは、C末端の19アミノ酸残基の置き換えを生じるTSLC1に2bpの欠失を発見し、このことは、TSLC1の細胞質ドメインが、腫瘍の抑制に重要であることを示している(Kuramochi,M.,ら(2001)Nat Genet 27,427−430)。実際、細胞質ドメインは、ヌードマウスにおいて、TSLC1の腫瘍特性活性に必須であることが示された(Mao,X.,ら(2003)Cancer Res 63,7979−7985)。TSLC1の細胞質テイルは、C末端に、プロテイン4.1(protein 4.1)と相互作用する傍膜配列(juxtamembrane)(プロテイン4.1 結合モチーフ:プロテイン4.1−BM)およびクラスII PDZ結合モチーフ(PDZ−BM)を含む。
本発明者らは、プロテイン4.1B/DAL−1(プロテイン4.1ファミリーのメンバー)が、TLSC1をアクチン骨格に接続すること、そして、この相互作用が、アクチンの再構築に関与することを実証した(Yageta,M.,ら(2002)Cancer Res 62,5129−5133)。他の研究グループおよび本発明者らは、TSLC1がまた、そのクラスII PDZドメインを通して膜関連グアニル酸キナーゼホモログ(MAGuK)と相互作用することを報告し(Shingai,T.,ら(2003)J Biol Chem 278,35421−35427;Biederer,T.,ら(2002)Science 297,1525−1531;およびFukuhara,H.,ら(2003)Oncogene 22,6160−6165)、そして、TSLC1、プロテイン4.1およびMAGuKが、3 分子から構成される複合体を形成することを示唆した。TSLC1は、最初に、ヌードマウスにおいて、ヒト肺腺がんであるA549細胞のその腫瘍形成能に基づいて同定された(Kuramochi,M.,ら(2001)Nat Genet 27,427−430)。A549細胞におけるTSLC1発現の回復は、脾臓から肝臓への転移を阻害した(Yageta,M.,ら(2002)Cancer Res 62,5129−5133)。TLSC1の欠失は、進行した肺がんおよび多くの他のヒトがんにおいて高頻度で観察されている(Kuramoc hi,M., ら(2001)Nat Genet 27,427−430,11)。これらの観察は、TSLC1のC 末端モチーフが、腫瘍の浸潤および/ または転移において重要な役割を演じることを強く示唆するが、なお、腫瘍抑制におけるこれらのモチーフの正確な役割は、不明瞭なままである。
TSLC1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
TSLC1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加およ
び欠失からなる群より選択される1の変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリ
ペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によっ
てコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70 % であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。
TSLC1の代表的な配列は、配列番号1(核酸配列)および配列番号2(アミノ酸配列)において示される。
TSLC1は、ヒトのほか、他の動物(例えば、哺乳動物)でもそのホモログ(本明細書において、「対応する」遺伝子などという)が知られている。従って、本明細書においてTSLC1は、通常、特に言及しない場合は、ヒトのほか、生物一般において存在するTSLC1を指す。
本明細書において「TSLC1の分子経路」とは、TSLC1が媒介するシグナル伝達経路をいい、本発明において、Tiam1および低分子量G共役タンパク質Rac1が関与し、その因子であることが明らかになった。従って、本明細書では、TSLC1の分子経路というときには、TSLC1のほか、Tiam1(例えば、配列番号3および4)およびRac1(例えば、配列番号5および6)が因子として存在することが理解される。
本明細書において「Rac1」とは、がん遺伝子のRasサブファミリーの一つであり、Rasサブファミリーは、Rho,Rac1およびCdc4 からなる。Rasは、様々なシグナル伝達経路を制御するGTPaseーパーファミリーに属する。Rasは、細胞増殖および分化の制御に関与している (Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature 366,643−654)。これらのサブファミリーは、細胞増殖の制御、特に細胞の形質転換の制御、ならびに、細胞接着の形成の調節、および増殖因子刺激時のアクチン細胞骨格変化の調節に関与している(Coso.O.A., Chiariello.M.,Yu.J.−C.,Teramoto.H.,Crespo.P.,Xu.Nu.,Miki.T.and Gutkind.J.S.(1995)Cell 81,1137−1146:Hill.C.S.,Wy nne.J.and Treisman.R.(1995)Cell 81,1159−1170:Kozma.R.,Ahmed.S.,Best.A.and Lim.L.(1995)Mol.Cell.Biol.15,1942−1952:Minden.A.,Lin.A.,Claret.F.−X., Abo.A.and Karin.M.(1995)Cell 81,1147−1157:Nobes.C.D.and Hall.A.(1995)Cell 8l,53−62:Olson.M.F.,Ashworth.A.and Hall.A.(1995)Science 269,12 70−1272)。しかし、小細胞肺がんなどがん、新生物などに関しては関連が知られていなかった。Rac1は、葉状突起と呼ばれるアクチンに富んだ突起を形成することで細胞運動の際の駆動力を提供している。
Rasファミリーのタンパク質は、その全部に共通に、不活性(GDP結合)状態と活性(GTP結合)状態との間を転換する。従って、これらのGTPaseは、特定の経路を調節するために、分子スイッチとして働き、情報を処理し、そして伝達する。
GTP状態とGDP状態との間を転換する性質に基づいて、RasおよびRas近縁GTPaseのヌクレオチド状態を制御するタンパク質が同定および精製されている(Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature366,643−654)。GTPからGDPへの加水分解を検査することによって、多数のRasファミリーのタンパク質において、そのGTPaseの活性化タンパク質(GAP)が解析された(Boguski.M.S.and McCormick,F.( 1993)Nature 366,643−654:Barfod.E.T.,Zheng.Y.,Kuang.W.−J.,Hart.M.J.,Evans.T.,Ceri one.R.A.and Ashkenaz.A.(1993)J.Biol.Chem.268,26059−26062:Lamarche.N.and Hall.A.(1994)Trends Genet.10,436−440:Cerione.R.A.and Zheng.Y.(1996)Current Opinion in Cell Biology 8,216−222)。最後の参考文献では、RasおよびRas 近縁GTPase のグアニンヌクレオチド状態に影響するタンパク質の特性について良く考察されている。GDPの解離を抑制する性質に基づいて、グアニンヌクレオチド解離抑制因子(GDI)が同定された。これらはGTP状態にも結合して、内因性及びGAP刺激性のGTP加水分解を抑制することが見出された(Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature 366,643−654)。一般に、GAPおよび効果器(effector)は、GTP結合状態に対して高い親和性を有する。一方、GDIタンパク質は、GDP結合状態に最も強く結合する。この様な特性を利用して、Cdc42(Bagrodia.S.,Taylor.S.J.,Creasy.C.L. Chernoff.J.and Cerione.R.A.(1995)J.Biol.Chem.270,22731−22737:Manser.E.,Leung.T. Salihuddin.H.,Zhao.Z.−s.and Lim.L.(1994)Nature 367,40−46:Martin.G.A.,Bollag.G.,McCormick.F.and Abo.A.(1995)EMBO J.14,1970−1978)、Ras(Moodie.S.A.,Willumsen.B.M.,Weber.M.J.and Wolfman.A.(1993)Science 260,1658−1661:Rodriguez−Viciana.P.,Warne.P.H.,Dhand.R.Vanhaesebroeck.B., Gout.I.,Fry.M.J.,Waterfield.M.D.and Downward.J.(1994)Nature 370,527−532)およびRho(Leung.T.,Manser.E.,Tan.L.and Lim.L.(1995)J.Biol.Chem.270,29051−29054:Watanabe.G.,Saito.Y.,Madaule.P., Ishizaki.T.,Fujisawa.K.,Morii.N.,Mukai.H.,Ono.Y.,Kakizuki.A.and Narumiya.S.(1996)Science 271,645−648)の効果器を精製した。Cdc42Hs−GTP を利用した親和的方法によって、Cdc42によって誘導される細胞骨格変化の潜在的な仲介因子であるIQGAP1が解析された(Hart.M.J.,Callow.M.,Souza.B.and Polakis.P.(1996)EMBO J.15,2997−3005)。
この親和的方法の改法を用いて、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を同定および精製することもできる。ヌクレオチド欠失状態のG−タンパク質に優先的に相互作用する性質に基づいて、他の制御タンパク質から、GEFを識別することができる(Hart.M.J.,Eva.A.,Zangrilli.D., Aaronson.S.A .,Evans.T.,Cerione.R.A.and Zheng.Y.(1994)J.Biol.Chem.269,62−65:Mosteller,R.D.,Han.J.and Broek.D.(1994)Mol.Cell.Biol.14,1104−1112)。Ras類似タンパク質の活性化において、GEFは、GDPの解離とそれに続くGTP の結合を促進することによって、重要な機能を果たす。例えば、増殖因子の刺激によって、Ras特異的GEFであるSosが転移することによって、Rasは、GTP結合型に転換する(Buday.L.and Downward.J.(1993)Cell 73,611−620)。Rac1 ファミリーのタンパク質を特異的に活性化するGEFを解析することによって、それらのGTPase が関与するシグナル伝達経路が解明され、従って、、細胞増殖の分子機構がより良く理解されるだろう。更に、制御されない細胞増殖を原因とする疾患を予防および治療する薬を見出すことができる。Rac1は、シグナル伝達および細胞増殖において中心的な機能を果たすので、現在、Rac1−GEFの同定および解析は、科学上かなり注目されている。Rac1−GEFの1つとして、Tiam1 が知られている(Michiels,F.,Habets,G.G.,Stam,J.C.,van der Kammen,R.A.,and Collard,J.G.(1995)Nature 375,338−340.See also.Eva.A.and Aaronson.S.A.(1985)Nature 316,273−275:Toksoz.D. and Williams.D.A.(1994)Oncogene 9,621−628)。
GDP/GTP交換因子(GEF)としてこれまでに数10種類のものが知られており、これらGEFの中でも、Rac1特異的なGEFとして機能する分子として、胸腺腫細胞株の浸潤を規定するTiam1,2(例えば、Cell,77,537−549,1994、Nature,375,338−340,1995参照。)や、T細胞受容体シグナルを制御するVav1(例えば、Nature,385,169−172,1997参照。)の他Vav2、Vav3や、Trio(例えば、J.Cell Science,113,729−739,2000参照。)や、STEF(例えば、J.Biol.Chem.,277,2860−2868,2002 参照。)や、P−Rex1(例えば、非特許文献21参照。)が知られており、これら5種類はいずれも共通のドメインをもっており、GTPをRac1 に付与する機能を有している。
Rac1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号5に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号5に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
であり得る。
Rac1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号6に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号5に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号6に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。
Rac1の代表的な配列は、配列番号5(核酸配列)および配列番号6(アミノ酸配列)において示される。
本明細書においてTiam1とは、Rac1特異的なGDP/GTP交換因子(GEF)として機能する分子として同定された分子をいう(Michiels,F.,Habets,G.G.,Stam,J.C.,van der Kammen,R.A.,and Collard,J.G.(1995)Nature 375,338−340.See also.Eva.A.and Aaronson.S.A.(1985)Nature 316,273−275:Toksoz.D.and Williams.D.A.(1994)Oncogene 9,621−628)。
Tiam1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号3に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
であり得る。
Tiam1のアミノ酸配列は、
(a)配列番号4に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。
Tiam1の代表的な配列は、配列番号3(核酸配列)および配列番号4(アミノ酸配列)において示される。
本明細書において「因子」(agent)としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
したがって、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含むサンプル中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用することをいう。物質または因子について特異的な相互作用としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、リガンド−レセプター反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の両方が関係する場合、転写因子とその転写因子の結合部位との反応など、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、転写因子と、その転写因子が対象とする核酸分子の結合領域との間の相互作用が包含される。
本明細書において「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)2およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。
本明細書において使用される抗体は、擬陽性が減じられるかぎり、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本発明において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
本明細書中で使用される「化合物」は、任意の識別可能な化学物質または分子を意味し、これらには、低分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチド、または核酸が挙げられるが、これらに限定されず、そしてこのような化合物は、天然物または合成物であり得る。
本明細書において「有機低分子」とは、有機分子であって、比較的分子量が小さなものをいう。通常有機低分子は、分子量が約1000以下のものをいうが、それ以上のものであってもよい。有機低分子は、通常当該分野において公知の方法を用いるかそれらを組み合わせて合成することができる。そのような有機低分子は、生物に生産させてもよい。有機低分子としては、例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「リガンド」とは、あるタンパク質に特異的に結合する物質をいう。例えば,細胞膜上に存在する種々のレセプタータンパク質分子と特異的に結合するレクチン、抗原、抗体、ホルモン、神経伝達物質などがリガンドとして挙げられる。TSLC1の分子経路における因子がレセプターの場合は、その相手は、リガンドと称される。
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされた複合体をさし得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)などが挙げられる。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。特に言及する場合、本発明の「ポリペプチド」は、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)を指すこともある。
本明細書において「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
本明細書において「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。
本明細書において「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、上述のD型アミノ酸、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。
本明細書において「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1 文字コードにより言及され得る。
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「ヌクレオチド誘導体」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2’−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド型核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において「複合分子」とは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子をいう。そのような複合分子としては、例えば、糖脂質、糖ペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、配列番号2のアミノ酸を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントであって、診断に関与する生物学的な活性性を有する限り、それぞれの改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸分子も使用することができる。また、そのような核酸分子を含む複合分子も使用することができる。
本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。本発明において用いられる場合、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC 、Tiam1、Rac1など)はまた、この核酸形態をとり得る。
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
本明細書ではアミノ酸および塩基配列の類似性、相同性および同一性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。また、本発明の活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)では、対応するアミノ酸は、例えば、リン酸化される部位であり得る。別の実施形態では、本発明の活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)では、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、マウスのTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac など)A、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)Bなどの遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスのTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)A、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)Bなどの遺伝子)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーとして機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーとしての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
本明細書中で使用される「接触(させる)」とは、化合物を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して物理的に近接させることを意味する。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在し得る。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。
本明細書において「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38 、DNA Cloning1:Core Techniq ues,A PRac1tical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)には、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
本明細書において「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号2、4、6などで表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。核酸配列の相同性は、たとえばAltschulら(J.Mol.Biol.215,403−410(1990))が開発したアルゴリズムを使用した検索プログラムBLASTを用いることにより、score で類似度が示される。
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al 、Nucleic Acid Hybridization:A PRac1ticalApproa ch 、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%シ血清アルブミン、0.1% ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSO4またはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、NucleicAcid Hybridization:A PRac1tical Approach 第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
Tm(℃)=81.5+16.6(log[Na+])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(% ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na+]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015Mナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015Mナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1M NaClにおける融解温度の適切な概算は、
Tm=(1つのA−T 塩基につき2℃)+(1つのG−C 塩基対につき4℃)
によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。好ましい実施形態では、そのような発現されたポリペプチドは、恒常的または一過的に活性化されたRac1 であり得る。
本明細書においてポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つのタンパク質もしくは化合物または関連するタンパク質もしくは化合物の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
本明細書中で使用される用語「調節する(modulate)」または「改変する(modify)」は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または減少あるいは維持を意味する。
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「減少」または「抑制」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。本明細書においてプローブは、マーカー検出手段としてもちいられる。
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。
本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch 法(Needleman an Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970 ))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac など)などには、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2 つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLAST 、FASTA 、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul e al.,1990,J.Mol.Biol.215(3 ):403−410 、Thompson et al.,1994,Nuclei Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−40 、Altschu l et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Seul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215 403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
(1)BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリ配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2)BLASTNでヌクレオチドのクエリ配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3)BLASTXでヌクレオチドのクエリ配列(両方の鎖)を つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4)TBLASTNでタンパク質のクエリ配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5)TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet al.,1992,Science 256:1443−1445 、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAM またはPAM250 マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships:Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington:National Biomedical Research Foundationを参照のこと 。BLAST プログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268 参照のこと)。
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。本明細書においてプライマーはマーカー検出手段として使用され得る。
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも3 の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも5 の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
本明細書中で使用される「接触(させる)」とは、化合物を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して物理的に近接させることを意味する。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在し得る。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がリガンドである場合、その生物学的活性は、そのリガンドが対応するレセプターに結合する活性を包含する。本発明の活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam 、Rac1など)の場合は、その生物学的活性は、少なくともTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)が有する活性の少なくとも1つ(核内への移行能、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)コンセンサス配列への結合能など)を包含する。別の実施形態では、生物学的活性としては、転写因子としての活性(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のコンセンサス配列への結合能)が挙げられる。
本明細書において生物学的活性をアッセイする方法としては、(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)を判定するためのアッセイ)を利用したアッセイが挙げられるがそれらに限定されない。具体的には、以下が挙げられる。
(細胞におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)遺伝子転写産物の検出)
診断対象から採取した細胞におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の遺伝子転写産物を検出する手法としては、特に限定されないが、以下の方法を採用することができる。
(RT−PCR)
本明細書において、RT−PCRを適用する際には、例えば、先ず、診断対象の患者よりヘパリン化末梢血を採取する。このヘパリン化末梢血を比重遠心分離にかけ単核球を分離する。分離した単核球を患者検体とする。一方、コントロール検体としては、健常人のCD4陽性Tリンパ球を使用する。健常人のCD4陽性Tリンパ球は、健常人より採取したヘパリン化末梢血をCD8化、抗体混合物を用いて不要な細胞を沈降させた後、分離することができる。
この患者検体、コントロール検体に対してトリゾール液を用いて細胞可溶化し、RNAと、DNA・タンパク質・その他分画とに分離する。分離したRNAを用いて、オリゴdTプライマーを用い、逆転写酵素により一本鎖cDNAを合成する。次に、合成したcDNA を鋳型として、TSLC1 特異的プライマーにより、TaqDNAポリメラーゼを用いてサーマルサイクラーによるDNA合成を行う。
具体的に、TSLC1特異的プライマーとしては以下の配列からなる一対のオリゴヌクレオチドを使用することができる。
プライマー1;ATGATCGATATCCAGAAAGACACT(配列番号7)
プライマー2;GTACTTCTAGATACCGCTGGG(配列番号8)
なお、TSLC1特異的プライマーは、上述の配列からなるオリゴヌクレオチドに限定されず、TSLC1遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。例えば、配列番号2に示したTSLC1遺伝子の塩基配列において、445〜721番目の領域を増幅できるようにTSLC1特異的プライマーを設計することが好ましい。445〜721番目の領域を増幅する場合には、非特異的な核酸断片の増幅を防ぐことができるために好ましいこれに限定されない。また、他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など) もまた、同様にしてプライマーを設計することができる。
また、上述したDNA合成に際してサーマルサイクラーの条件としては、特に限定されないが、例えば、94℃5分1サイクル、94℃30秒、60℃30秒および72℃1分30サイクル、72℃5分1サイクルとすることができる。
次に、合成したDNA溶液を、例えばアガロースゲル電気泳動法により分離し、DNA染色によって可視化し、DNA撮影装置を用いて発現量を検討することが できる。このとき、患者検体におけるTSLC1遺伝子転写産物量と、コントロール検体におけるTSLC1遺伝子転写産物量との比が3倍以上、好ましくは5倍以上である場合、患者ががんを発症していると診断することができる。
(リアルタイム(Real−time)PCR)
上記「RT−PCR」と同様の方法により、患者検体、コントロール検体を採取し、同様にRNAを分離、cDNAを合成する。蛍光ラベルした特異的合成オリゴヌクレオチドにより、同様にRealtime PCR 装置によりDNA合成を行う。
具体的に、特異的合成オリゴヌクレオチドとしては、限定されないが、以下の配列からなるものを使用することができる。
特異的合成オリゴヌクレオチド;TTCGCCATGCTGTGCTTGCTCA(配
列番号9)
なお、特異的合成オリゴヌクレオチドは、上述の配列からなるものに限定されず、TSLC1遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。例えば、配列番号2に示したTSLC1遺伝子の塩基配列において、1159−1180番目の領域とハイブリダイズするように特異的合成オリゴヌクレオチドを設計することが好ましい。1159−1180番目の領域とハイブリダイズする場合には、特異的合成オリゴヌクレオチドの非特異的なハイブリダイズを防ぐことができるために好ましい。TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についてもまた、同様に任意の設計することができることが理解される。
リアルタイムPCR装置におけるDNA合成の条件としては、特に限定されないが、例えば94℃5分1サイクル、94℃30秒および60℃1分40サイクルとすることができる。
そして、リアルタイムPCR装置に備わる分光蛍光光度計によって、合成の回数に応じたDNA量が蛍光発色により定量する。このとき、コントロールとしてアクチン遺伝子等を同時に測定し、アクチン遺伝子発現量によってTSLC1遺伝子転写産物量を平均化して定量することもできる。
リアルタイムPCR装置によれば、先ず電気泳動による増幅DNA断片の分離が必要でないため、非常に簡易に且つ迅速に解析を行うことができる。また、リアルタイムPCR装置によれば、増幅が指数関数的に起こる領域で産物量を比較できるため、より正確に定量的に解析することができる。
( ハイブリダイゼーション法)
診断対象から採取した細胞におけるTSLC1遺伝子転写産物を検出する手法としては、上記「RT−PCR」と同様の方法により、患者検体、コントロール検体を採取し、同様にRNAを分離した後、TSLC1遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを用いて、TSLC1遺伝子転写産物を検出してもよい。また、上記「RT−PCR」と同様の方法によりRNAを分離してcDNAを合成し、合成したcDNAに特異的にハイブリダイズするプローブを用いて、TSLC1遺伝子転写産物を検出してもよい。
ここで、プローブとしては、特に限定されないが、例えば、TSLC1遺伝子の411〜1371番目と相補的な配列を有する核酸断片を使用することができる。なお、プローブは、上述の配列からなるものに限定されず、TSLC1遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。例えば、配列番号2に示したTSLC1遺伝子の塩基配列において、411〜1371番目の領域とハイブリダイズするようにプローブを設計することが好ましい。411〜1371番目の領域とハイブリダイズする場合には、プローブの非特異的なハイブリダイズを防ぐことができるために好ましい。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても、同様にプローブを設計することができることが理解される。
(細胞または血清におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のタンパク質の検出)
細胞または血清に含まれるTSLC1タンパク質を検出する際には、TSLC1タンパク質を特異的に認識する抗体(以下、TSLC1抗体と呼ぶ)を作製する。TSLC1抗体は、従来公知の手法を用いて作製することができる。なお、TSLC1抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であっても良い。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても、同様に抗体を作製することができる。
一例として、TSLC1モノクローナル抗体の調製方法を以下に記載する。TSLC1モノクローナル抗体は、抗原で免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られるハイブリドーマからTSLC1活性を特異的に阻害する抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。
動物の免疫に抗原として用いるTSLC1タンパク質としては、組換えDN 法または化学合成により調製したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列の全部若しくは一部のペプチドが挙げられる。例えば、配列番号1に示したTSLC タンパク質のアミノ酸配列における、431〜442番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用することができる。また、細胞表面に存在するTSLC1タンパク質を特異的に検出するためのTSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における232〜247番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用することが好ましい。一方、血中に存在する可溶化TSLC1タンパク質を特異的に検出するためのTSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における315〜331番目(可溶型特異領域を含む)のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用することが好ましい。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても同様に抗原を設計することができる。
得られた抗原用TSLC1をキャリアータンパク質(例えばサイログロブリン)に結合させた後、アジュバントを添加する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
上記のようにして得られた抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に投与する。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。
最終の免疫日から2〜3日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞が挙げられるが、一般に脾臓細胞が用いられる。抗原の免疫量は1 回にマウス1匹当たり、例えば100μg用いられる。
免疫した動物の免疫応答レベルを確認し、また、細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選択するため、免疫した動物の血中抗体価、または抗体産生細胞の培養上清中の抗体価を測定する。抗体検出の方法としては、公知技術、例えばEIA(エンザイムイムノアッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ)等が挙げられる。
抗体産生細胞と融合させるミエローマ(骨髄腫)細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8−アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。
ミエローマ細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immunol.(1979)123:1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978)81:1−7)、NS−1(Kohler,G.and Milstein,C.,Eur.J.Immunol.(1976)6:511−519)、MPC−11 (Margulies,D.H.et al.,Cell (1976)8:405−415)、SP2/0 (Shulman,M.et al.,Nature (1978)276:269−270)、FO(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods (1980)35:1−21)、S194 (Trowbridge,I.S.,J.Exp.Med.(1978)148:313−323)、R210 (Galfre,G.et al.,Nature (1979)277:131−133) 等が好適に使用される。
抗体産生細胞は、脾臓細胞、リンパ節細胞などから得られる。すなわち、前記各種動物から脾臓、リンパ節等を摘出または採取し、これら組織を破砕する。得られる破砕物をPBS、DMEM、RPMI1640等の培地または緩衝液に懸濁し、ステンレスメッシュ等で濾過後、遠心分離を行うことにより目的とする抗体産生細胞を調製する。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM 、RPME−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、混合比1:1〜1:10で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールまたはセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法等が挙げられる。すなわち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地(HAT培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
ハイブリドーマのスクリーニングは、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法等が挙げられる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10〜20%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地、または無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO2濃度)で2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法においては、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水または血清を採取する。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製する。
本明細書において「抗原」とは、抗体と結合したり、Bリンパ球、Tリンパ球などの特異的レセプターに結合して、抗体産生および/または細胞障害などの免疫反応をひきおこす物質(例えば、タンパク質、脂質、糖などが挙げられるがそれらに限定されない)をいう。抗体またはリンパ球レセプターとの結合性を、「抗原性」(antigecity)という。抗体産生などの免疫応答を誘導する特性を「免疫原性」(immunogenicity)という。抗原として使用される物質は、例えば、その目的とする物質(例えば、タンパク質)を少なくとも1つ含む。含まれる物質は、全長が好ましいが、免疫を惹起し得るエピトープを少なくとも一つ含んでいれば、部分配列でもよい。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
エピトープは、必ずしもその正確な位置および構造が判明していないとしても使用することができる。従って、エピトープには特定の免疫グロブリンによる認識に関与するアミノ酸残基のセット、または、T細胞の場合は、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合性複合体(MHC)レセプターによる認識について必要であるアミノ酸残基のセットが包含される。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫系分野において、インビボまたはインビトロで、エピトープは、分子の特徴(例えば、一次ペプチド構造、二次ペプチド構造または三次ペプチド構造および電荷)であり、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに独特な空間的コンフォメーション中に3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、代表的には少なくとも6つ、7つ、8つ、9つ、または10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さは、より長いほど、もとのペプチドの抗原性に類似することから一般的に好ましいが、コンフォメーションを考慮すると、必ずしもそうでないことがある。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、X線結晶学、および2次元核磁気共鳴分光法を含む。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野で周知の技術を使用して容易に達成される。例えば、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998(所定の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するために迅速にペプチドを合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、そして化学的に合成するための手順);およびGeysenら(1986)Molecular Immunology 23:709(所定の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。このように、ペプチドを含むエピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
従って、ペプチドを含むエピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、より好ましくは少なくとも5アミノ酸、少なくとも6アミノ酸、少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。エピトープは線状であってもコンフォメーション形態であってもよい。
高分子構造(例えば、ポリペプチド構造)は種々のレベルの構成に関して記述され得る。この構成の一般的な議論については、例えば、Albertsら、Molecular Biology of the Cell(第3版、1994)、ならびに、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry Part I:The Conformation of Biological Macromolecules(1980)を参照。「一次構造」とは、特定のペプチドのアミノ酸配列をいう。「二次構造」とは、ポリペプチド内の局所的に配置された三次元構造をいう。これらの構造はドメインとして一般に公知である。ドメインは、ポリペプチドの緻密単位を形成し、そして代表的には50〜350アミノ酸長であるそのポリペプチドの部分である。代表的なドメインは、βシート(βストランドなど)およびα−ヘリックスのストレッチ(stretch)のような、部分から作られる。「三次構造」とは、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造をいう。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有的会合により形成される三次元構造をいう。異方性に関する用語は、エネルギー分野において知られる用語と同様に使用される。したがって、本発明において使用されるポリペプチドは、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)と同等の能力を有するような高次構造を有する限り、どのようなアミノ酸配列のポリペプチドをも包含し得る。
(FACS スキャンを用いた白血病細胞表面抗原の同定)
以上のように調製したTSLC1モノクローナル抗体を用いて、診断対象の細胞の表面に存在するTSLC1タンパク質の有無をFACSスキャンにより検出することができる。この方法では、TSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における232〜247番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用して得られたものを使用する。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても、同様に抗原を設計することができる。
この場合、先ず、患者から採取した患者末梢血より、比重遠心法により単核球分画を単離する。次に、上述したように得られたTSLC1モノクローナル抗体を蛍光ラベルした蛍光化TSLC1抗体と単核球分画とを30〜60分混合する。反応後にFACSスキャン装置によって蛍光強度を測定して、測定した蛍光強度に基づいて細胞数を測定する。また、ソーティング装置付FACSを用いることで、蛍光標識された細胞を分離し、分離した細胞におけるTSLC1遺伝子または他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の発現の解析を行ってもよい。
この方法によれば、HTLV−1キャリアにおいて、TSLC1陽性細胞を染め分け、詳細な感染細胞を数えることができる。さらに、後述するように、血中に含まれる可溶化TSLC1タンパク質量を測定することにより、がんの発症予測が可能となる。さらに、この方法によれば、HTLV−1感染細胞を分離し、感染細胞における遺伝子発現異常を同定できるようになるため、発症予測がより正確にできるようになる。
(可溶性TSLC1タンパク質の血中濃度測定)
また、以上のように調製したTSLC1モノクローナル抗体を用いて、診断対象の血中に存在するTSLC1タンパク質を検出することができる。この方法では、TSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における315〜331番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用して得られたものを使用する。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても可溶性形態がある場合は、同様に抗原を設計することができることが理解される。
この場合、先ず、TSLC1モノクローナル抗体を固相プレートに吸着させ、その後、プレートにBSAなどのタンパク質を作用させ、非特異結合をブロックしておく。患者もしくは健常人血清を添加し、洗浄した後、異種由来TSLC1抗体を添加、さらに酵素標識抗種特異的免疫グロブリン抗体を添加する。加えてその酵素に対する酵素基質溶液を加え酵素反応の発色により、発現量を測定する。
以上、「細胞におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)遺伝子転写産物の検出」および「細胞または血清におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のタンパク質の検出」に従えば、診断対象の患者から採取した細胞あるいは血清を用いて、TSLC1遺伝子の発現を検出することができる。言い換えると、「細胞におけるTSLC1遺伝子転写産物の検出」に記載したようなTSLC1特異的プライマー、特異的合成オリゴヌクレオチドまたはプローブを含む試薬によって、全く新規ながん診断薬を提供することができる。また、「細胞または血清におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のタンパク質の検出」に記載したようなTSLC1抗体を含む試薬によって、全く新規ながん診断薬を提供することができる。
(改変体)
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
親水性指数もまた、本発明のアミノ酸配列を改変するのに有用である。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5 以内であることがさらにより好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において「ペプチドアナログ」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
本発明のポリペプチドがポリマーに結合している、化学修飾されたポリペプチド組成物は、本発明の範囲に包含される。このポリマーは、水溶性であり得、水溶性環境(例えば、生理学的環境)でこのタンパク質の沈澱を防止し得る。適切な水性ポリマーは、例えば、以下からなる群より選択され得る:ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、または他の炭水化物に基づくポリマー、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)およびポリビニルアルコール。この選択されたポリマーは、通常は改変され、単一の反応性基(例えば、アシル化のための活性エステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を有し、その結果、重合度は制御され得る。ポリマーは、任意の分子量であり得、そして、このポリマーは分枝状でも分枝状でなくてもよく、そしてこのようなポリマーの混合物はまた、使用され得る。この化学修飾された本発明のポリマーは、治療用途に決定付けられる場合、薬学的に受容可能なポリマーが使用するために選択される。
このポリマーがアシル化反応によって改変される場合、このポリマーは、単一の反応性エステル基を有するべきである。あるいは、このポリマーが還元アルキル化によって改変される場合、このポリマーは単一の反応性アルデヒド基を有するべきである。好ましい反応性アルデヒドは、ポリエチレングリコール、プロピオンアルデヒド(このプロピオンアルデヒドは、水溶性である)または、そのモノC1〜C10の、アルコキシ誘導体もしくはアリールオキシ誘導体である(例えば、米国特許第5,252,714号(これは、本明細書中で全体が参考として援用される)を参照のこと)。
本発明のポリペプチドのPEG化(Pegylation)は、例えば、以下の参考文献に記載されるような、当該分野で公知の、任意のPEG化反応によって実施され得るFocus on Growth Factors 3,4−10(1992);EP 0 154 316;およびEP 0 401 384(これらの各々は、本明細書中で、全体が参考として援用される)。好ましくは、このPEG化は、反応性ポリエチレングリコール分子(または、類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応を介して実施される。本発明のポリペプチド(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはその活性型あるいはその活性化因子など)のPEG化のための好ましい水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。本明細書中で使用される場合、「ポリエチレングリコール」は、PEGの任意の形態の包含することを意味し、ここで、このPEGは、他のタンパク質(例えば、モノ(C1〜C10)アルコキシポリエチレングリコールまたはモノ(C1〜C10)アリールオキシポリエチレングリコール)を誘導体するために使用される。
本発明のポリペプチドの化学誘導体化を、生物学的に活性な物質を活性化したポリマー分子と反応させるのに使用される適切な条件下で、実施され得る。PEG化した本発明のポリペプチドを調製するための方法は、一般に以下の工程を包含する:(a)TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはその活性型あるいはその活性化因子が1以上のPEG基に結合するような条件下で、ポリエチレングリコール(例えば、PEGの、反応性エステルまたはアルデヒド誘導体)とこのポリペプチドを反応させる工程および(b)この反応生成物を得る工程。公知のパラメータおよび所望の結果に基づいて、最適な反応条件またはアシル化反応を選択することは当業者に容易である。
PEG化された本発明のポリペプチドは、一般に、本明細書中に記載のポリペプチドを投与することによって、緩和または調節され得る状態を処置するために使用され得るが、しかし、本明細書中で開示された、化学誘導体化された本発明のポリペプチド分子は、それらの非誘導体分子と比較して、さらなる活性、増大された生物活性もしくは減少した生物活性、または他の特徴(例えば、増大された半減期または減少した半減期)を有し得る。本発明のポリペプチド、それらのフラグメント、改変体および誘導体は、単独で、併用して、または他の薬学的組成物を組み合わせて使用され得る。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、がんマーカー、神経疾患マーカーなど)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
本発明において使用されるポリペプチドは、任意の生物由来であり得る。好ましくは、その生物は、脊椎動物(例えば、哺乳動物、爬虫類、両生類、魚類、鳥類など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、齧歯類(マウス、ラットなど)、霊長類(ヒトなど)など)であり得る。本発明において使用されるポリペプチドは、所望の効果を発揮するかぎり、合成されたものでもよい。そのようなポリペプチドは、当該分野において周知の合成方法によって合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierc Chemical Co.;Grant ,G.A.(1992).Synthetic Peptides: A User’s Guide,W.H.Freeman;Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer−Verlag;Bodanszky,M.et al.(1994).The PRac1tice of Peptide Synthesis,Springer−Verlag;Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press;Pennington,M.W.et al.(1994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press;Fields,G.B.(1997).Solid−Phase Peptide Synthesis,Academic Pressにおいて記載されている。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A PRac1tical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A PRac1tical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A PRac1tical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
(遺伝子工学)
本発明において用いられるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)などならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産することができる。
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
本明細書において「ウイルスベクター」とは、ベクターのうち、ウイルス由来のものをいう。本明細書において「ウイルス」とは、DNAまたはRNAのいずれかをゲノムとして有する、感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体をいう。ウイルスとしては、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびヘパドナウイルス科からなる群より選択される科に属するウイルスが挙げられる。本明細書において「レトロウイルス」とは、RNAの形で遺伝情報を有し、逆転写酵素によってRNAの情報からDNAを合成するウイルスをいう。
本明細書において「レトロウイルスベクター」とは、レトロウイルスを遺伝子の担い手(ベクター)として使用した形態をいう。本発明において使用される「レトロウイルスベクター」としては、例えば、Moloney Murine Leukemia Virus(MMLV)、Murine Stem Cell Virus(MSCV)にもとづいたレトロウイルス型発現ベクターなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、レトロウイルスベクターとしては、pGen−、pMSCVなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
本明細書において「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
本明細書において、動物細胞に対する「組換えベクター」としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107(特開平3−22979、Cytotechnology,3,133(1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem.,101,1307(1987))、pAMo、pAMoA(J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993))、pCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))などが例示される。
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターとしては、哺乳動物由来のターミネーターのほかに、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp 以内の領域であることが多いので、DNA 解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、動物)の部位(例えば、動物の場合、心臓、心筋細胞など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、動物)の特定の段階(例えば、発作時など)に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
本明細書において、本発明のプロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上の同一または対応する部位のいずれにおいても実質的に発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「ストレス応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(例えば、分化刺激など)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス減少性」という。「ストレス減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析またはRT−PCRで発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス誘導性のプロモーターを本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された動物または動物の一部(特定の細胞、組織など)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件(例えば、分化刺激時)下での本発明において使用されるポリペプチドの発現を行うことができる。
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前初期エンハンサー(human cytomegalovirus immediate−early enhancer)の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1 個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入& 発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
本明細書において「動物」は、当該分野において最も広義で用いられ、脊椎動物および無脊椎動物を含む。動物としては、哺乳綱、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、動物は、哺乳動物を含む。
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、キット、システム、組成物および方法は、哺乳動物だけでなく他の動物を含む動物全体において機能することが企図される。なぜなら、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)に対応するリガンドは、哺乳動物以外の生物においても存在することが知られているからである。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、臓器(器官)の一部であり得る。臓器(器官)内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
本明細書において「器官(臓器)」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。動物では、胃、肝臓、腸、膵臓、肺、気管、鼻、心臓、動脈、静脈、リンパ節(リンパ管系)、胸腺、卵層、眼、耳、舌、皮膚等が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、動物( マウスなど)または植物を含む)をいう。
本発明においてトランスジェニック生物が利用される場合、そのようなトランスジェニック生物は、マイクロインジェクション法(微量注入法)、ウイルスベクター法、ES細胞法(胚性幹細胞法)、精子ベクター法、染色体断片を導入する方法(トランスゾミック法)、エピゾーム法などを利用したトランスジェニック動物の作製技術を使用して作製することができる。そのようなトランスジェニック動物の作成技術は当該分野において周知である。
(スクリーニング)
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。また本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
1実施形態において、本発明は、本発明のタンパク質または本発明のポリペプチド、あるいはその生物学的に活性な部分に結合するか、またはこれらの活性を調節する、候補化合物もしくは試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。本発明の試験化合物は、当該分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチの任意のものを使用して得られ得、これには、以下が挙げられる:生物学的ライブラリー;空間的にアクセス可能な平行固相もしくは溶液相ライブラリー;逆重畳を要する合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法。生物学的ライブラリーアプローチはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーもしくは化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該分野において、例えば以下に見出され得る:DeWittら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909;Erbら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422;Zuckermannら(1994)J.Med.Chem 37:2678;Choら(1993)Science 261:1303;Carrellら(1994)Angew Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carrellら(1994)Angew Chem.Int.Ed.Engl.33:2061; およびGallopら(1994)J.Med.Chem 37:1233 。
化合物のライブラリーは、溶液中で(例えば、Houghten(1992)BioTechniques 13:412〜421)、あるいはビーズ上(Lam(1991)Nature 354:82〜84)、チップ上(Fodor(1993)Nature 364:555〜556)、細菌(Ladner 米国特許第5,223,409号)、胞子(Ladner、上記)、プラスミド(Cullら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865〜1869)またはファージ上(ScottおよびSmith(1990)Science 249:386〜390;Devlin(1990)Science 249:404〜406;Cwirlaら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378〜6382;Felici(1991)J Mol Biol 222:301〜310;Ladner上記)において示され得る。
本発明は、他の実施形態において、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸)と同等に有効な因子をスクリーニングするための道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物もまた、本発明に包含される。ここで、コンピュータ技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の等価物)を設計することができる。
(投与・注入・医薬)
本発明の因子によって調製された組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
1つの実施形態において、本発明の因子(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはそれをコードする核酸など)は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
核酸分子を含む本発明の組成物を投与する場合、核酸分子は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
特定の実施形態において、本発明の正常な遺伝子の核酸配列、抗体またはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸は、本発明のポリペプチドの異常な発現および/または活性に関連した疾患または障害を処置、阻害または予防するために、遺伝子治療の目的で投与される。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
当該分野で利用可能な遺伝子治療のための任意の方法が、本発明に従って使用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載さ
れる。
したがって、本発明では、本発明の診断薬による診断結果を利用して、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸分子を用いた遺伝子治療が有用であり得る。
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene 108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸またはTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,Takeshita S,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
従って、本発明の組成物およびキットにおいて含まれる活性成分としてのポリペプチド(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)など)の量は、例えば、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約1000mg、好ましくは約5μg〜約100mgであり得る。このポリペプチドの量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約1mgの間の任意の数値であり得る。このポリペプチドの量の範囲の上限は、例えば、約1000mg、約900mg、約800mg、約700mg、約600mg、約500mg、約400mg、約300mg、約200mg、約100mg、約75mg、約50mg、約25mg、約10mg、約5mgなど、約1000mg〜約1mgの任意の数値であり得る。
本発明の活性成分が核酸形態(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸またはTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸など)の場合、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約10mg、好ましくは約1μg〜約1000μg、より好ましくは約5μg〜約400μgであり得る。この核酸の量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約20μgの間の任意の数値であり得る。この核酸の量の範囲の上限は、例えば、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、約750μg、約500μg、約250μg、約100μgなど、約10mg〜約10μgの任意の数値であり得る。2種類以上の細胞生理活性物質(SCFなど)が含まれる場合も、上記の量が個々に適用される。ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターとして投与される場合は、通常、0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mg、より好ましくは0.01〜1mgである。投与頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、骨格筋に投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、物質を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、物質を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする物質が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子または因子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、医薬ならびにそのようなポリペプチドまたは核酸によって調製された組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。本発明の組成物および医薬は、全身投与されるとき、発熱物質を含ない、経口的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能なタンパク質溶液の調製は、pH、等張性、安定性などに相当な注意を払うことを条件として、当業者の技術範囲内である。
本発明において医薬の処方のために使用される溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
本発明は、医薬または医薬組成物として処方される場合、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990)と、所望の程度の純度を有する選択された組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で、保存のために調製され得る。
そのような適切な薬学的に受容可能な因子としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。代表的には、本発明の医薬は、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに組成物の形態で投与され得る。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。そのような受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、本発明の医薬は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
本発明の製剤の処方手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、投与すべきポリペプチド量および細胞量を決定することができる。
1つの実施形態において、本発明の組成物および医薬は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態で投与される場合、活性成分(例えば、核酸またはポリペプチド)は、徐々に放出されるので、長期にわたり薬効が期待される場合に有効である。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
別の実施形態では、本発明では、さらに他の薬剤もまた投与することも企図される。そのような薬剤は、当該分野において公知の任意の医薬であり得、例えば、そのような薬剤は、薬学において公知の任意の薬剤(例えば、抗生物質など)であり得る。当然、そのような薬剤は、2種類以上の他の薬剤であり得る。そのような薬剤としては、例えば、日本薬局方最新版、米国薬局方最新版、他の国の薬局方の最新版において掲載されているものなどが挙げられる。
他の実施形態において、本発明の方法によって調製された組成物は2種類以上の細胞を含み得る。2種類以上の医薬を使用する場合、類似の性質または由来の医薬を使用してもよく、異なる性質または由来の医薬を使用してもよい。
本発明の方法において使用されるポリペプチド、核酸、組成物および医薬の量は、使用目的、対象物の齢、サイズ、性別、既往歴、ポリペプチド、核酸、組成物、医薬もしくは細胞の形態または種類、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
本発明の組成物を対象物に対して与える頻度もまた、使用目的、対象物の齢、サイズ、性別、既往歴、および処置経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、一日に1回〜数回、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
本発明が対象とする疾患は、がんである。本明細書において「がん」とは、悪性腫瘍一般をいう。本発明が特に対象とするがんは、固形がん(特に、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫および他の固形がん)などを挙げることができる。従って、本発明が対象とする疾患は、「小細胞肺がん」であり得る。「がん」は、通常、異型性が強く、増殖が正常細胞より速く、周囲組織に破壊性に浸潤し得あるいは転移をおこし得る悪性腫瘍またはそのような悪性腫瘍が存在する状態をいう。本発明においては、がんは固形がんおよび造血器腫瘍を含むがそれらに限定されない。
本明細書において「固形がん」は、固形の形状があるがんをいい、白血病などの造血器腫瘍とは対峙する概念である。そのような固形がんとしては、例えば、乳がん、肝がん、胃がん、肺がん、頭頸部がん、子宮頸部がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫、食道がん、脳腫瘍、骨腫瘍が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「肺がん」とは、肺のがんをいう。肺がんは固形がんの一種である。肺がんは気管、気管支、肺胞の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生する。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に拡がり、多くの場合、腫瘤(しゅりゅう)を形成する。肺がんになる人は世界的に増加傾向にある。2015年には、我が国での肺がんの1年間の新患者数は男性11万人、女性3万7千人になると予想されている。50歳以上に多く、男女比は約3:1である。1999年の肺がんによる年間死亡者数は約5万2千人であり(がんで亡くなった方は約29万人、うち胃がん約5万人)、1993年からは肺がんは男性のがん死亡率の第1位となり、女性では胃がんに次いで第2位となっている。肺がんの5年生存率(治療開始から5年間生存している割合)は25〜30%といわれている。
肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つの型に大きく分類される。非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型に分類される。肺がんの発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などの臨床像は多彩ですが、これも多くの異なる組織型があるためである。腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めている。肺がんの中でも他の組織型に比べ臨床像は多彩で、進行の速いものから進行の遅いものまでいろいろある。次に多い扁平上皮がんは、男性の肺がんの 40% 、女性の肺がんの15% を占めている。気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなる。大細胞がんは、一般に増殖が速く、肺がんと診断された時には大きながんであることが多くみられる。
本明細書において、「小細胞がん」は、顕微鏡で見るとリンパ球に似た比較的小さな細胞からなっており、燕麦(えんばく)のような小型の細胞に見えることより、燕麦細胞がんとも呼ばれている。小細胞がんは肺がんの約15〜20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんである。非小細胞肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいタイプのがんであることから、他のがんにおける知見が何ら役に立たないという特殊な性質を有する。約80%以上では、がん細胞が種々のホルモンを産生している。そのため、まれに副腎皮質刺激ホルモンによるクッシング症候群と呼ばれる身体の中心部を主体とした肥満、満月のような丸い顔貌、全身の皮膚の色が黒くなる、血圧が高くなる、血糖値が高くなる、血液中のカリウム値が低くなるなどの症候があらわれることもある。その他、まれに抗利尿ホルモンの産生による水利尿不全にともない、血液中のナトリウム値が低くなり、食欲不振などの消化器症状や神経症状・意識障害が出現することがある。大細胞がんでは、細胞の増殖を増やす因子の産生による白血球増多症や発熱、肝腫大などがあらわれることがあり、その形態ごとに、病態は全く異なるのが特徴である。
肺がんの診断は、通常、気管支鏡検査、穿刺吸引細胞診、CTガイド下肺針生検、胸膜生検、リンパ節生検などによって行われている。一般的には、胎児性タンパクのCEAが検査されるが、小細胞がんでは、がん細胞が神経内分泌系細胞の特徴も有していることから、神経内分泌系細胞のマーカーであるNSEまたはProGRPの検査も行われているが、その決め手にかいている。
病期に分類すると、小細胞肺がんでは、潜伏がん、0、I、II、III、IV期などの分類以外に、限局型、進展型に大別する方法も使われている。限局型で放射線療法と化学療法の合併療法を受けた場合、2年、3年、5年生存率はそれぞれ約50、30、25%といわれている。進展型で化学療法を受けた場合、3年生存率は約10%といわれている(以上、国立がんセンター、ウェブサイトhttp://www.ncc.go.jp/jp/ncc−cis/pub/cancer/010202.html より)。
本明細書において「抗がん剤」とは、がん(腫瘍)細胞の増殖を選択的に抑制し、がんの薬剤および放射線治療の両方を包含する。そのような抗がん剤は当該分野において周知であり、例えば、抗がん剤マニュアル第2版 塚越茂他編 中外医学社;Pharmacology;Lippincott Williams & Wilkins,Inc.に記載されている。
本明細書において「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAi を引き起こす因子と同義に用いられ得る。
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNA)であり得る。
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものを、RNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、ど
のような形態を採っていてもよい。
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3 突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の処置方法および組成物において有用である。
以下により詳細なRNAiの設計方法の説明を記載する。
本発明において用いられるRNAiとしては、標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる2本鎖ポリヌクレオチドを、細胞、組織、あるいは個体に導入することを特徴とする標的遺伝子の発現阻害方法を用いることができる。ここで、2本鎖ポリヌクレオチドが、自己相補性を有する1本鎖からなるものを用いることができる。あるいは、この2本鎖ポリヌクレオチドは、DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドであってもよい。好ましくは、使用されるDNA鎖とRNA鎖のハイブリッドは、センス鎖がDNAで、アンチセンス鎖がRNAであり得る。あるいは、使用される2本鎖ポリヌクレオチドは、DNAとRNAのキメラであってもよい。1つの実施形態では、使用される2本鎖ポリヌクレオチドが、該ポリヌクレオチドのうち、少なくとも上流側の一部はRNAであってもよい。1つの実施形態では、使用されるヌクレオチドの上流側の一部は、9〜13ヌクレオチドからなり得る。
1つの実施形態では、使用される2本鎖ポリヌクレオチドは、19〜25ヌクレオチドからなり、該ポリヌクレオチドのうち、少なくとも上流約1/2がRNAであり得る。
RNAi技術では、標的遺伝子は、複数であってもよい。RNAi技術による標的遺伝子の発現阻害の結果、該細胞、組織、あるいは個体に現れる表現型の変化を解析することにより効果確認を行うことができる。
RNAi技術を用いれば、標的遺伝子の発現の阻害により、細胞、組織、あるいは個体に特定の性質を付与することができる。
RNAi法におけるRNAの機能部位は、以下の工程を包含する方法により同定することができる:(i)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有する2本鎖ポリヌクレオチドであってDNAとRNAのキメラからなるものを作製し、(ii)該2本鎖ポリヌクレオチドを細胞、組織、あるいは個体に導入し、(iii)該細胞、組織、あるいは個体中の標的遺伝子の発現阻害度を測定し、(iv)標的遺伝子の発現阻害にRNAであることが必要とされる配列を特定すること。この方法では、使用される2本鎖ポリヌクレオチドが、その2本鎖のどちらか一方がRNA鎖であってもよい。
本明細書においてRNAi技術で使用される「標的遺伝子」とは、これを導入する細胞、組織、あるいは個体( 以下これを「被導入体」と称することがある)にmRNA 、および任意にタンパク質を産出するように翻訳され得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、導入する対象物の内在性のものでも、また外来性のものでもよい。また、染色体上に存在する遺伝子でも、染色体外のものでもよい。外来性のものとしては、例えば、被導入体に感染可能なウィルス、細菌、真菌または原生動物のような病原体由来のもの等が挙げられる。その機能については、既知のものでも、未知のものでもよく、また、他生物の細胞内では機能が既知であるが、被導入体内では機能が未知のもの等でもよい。
これらの遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチド(以下、これを「二本鎖ポリヌクレオチド」と称することがある)とは、標的遺伝子の塩基配列のうち、いずれの部分でもよい20ヌクレオチド以上の配列と実質的に同一な配列からなるものである。ここで、実質的に同一とは、標的遺伝子の配列と50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の相同性を有することを意味する。ヌクレオチドの鎖長は19ヌクレオチドから標的遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の全長までの如何なる長さでもよいが、19〜500ヌクレオチドの鎖長を有するものが好ましく用いられる。ただし、哺乳類動物由来の細胞においては、30ヌクレオチド以上の鎖長を有する二本鎖RNAに反応して活性化するシグナル伝達系の存在が知られている。これはインターフェロン反応と呼ばれており(Mareus,P.I.,et al.,Interferon,5,115−180(1983))、該二本鎖RNAが細胞内に侵入すると、PKR(dsRNA−responsive protein kinase: Bass,B.L.,Nature,411,428−429(2001))を介して多くの遺伝子の翻訳開始が非特異的に阻害され、それと同時に2’、5’oligoadenylate synthetase(Bass,B.L.,Nature,411,428−429(2001))を介してRNaseLの活性化が起こり、細胞内のRNAの非特異的な分解が惹起される。これらの非特異的な反応のために、標的遺伝子の特異的反応が隠蔽されてしまう。従って哺乳類動物、または該動物由来の細胞、あるいは組織を被導入体として用いる場合には19〜25、好ましくは19〜23、さらに好ましくは19〜21ヌクレオチドからなる二本鎖ポリヌクレオチドが用いられる。本発明の二本鎖ポリヌクレオチドは、その全体が2本鎖である必要はなく、5’、または3’末端が一部突出したものも含み、その突出末端は1〜5ヌクレオチド、好ましくは1〜3ヌクレオチド、さらに好ましくは2ヌクレオチドである。また、最も好ましい例としては、各ポリヌクレオチド鎖の3’末端が2ヌクレオチドずつ突出している構造を有するものが挙げられる。二本鎖ポリヌクレオチドは、相補性を有する部分が二本鎖となっているポリヌクレオチドを意味するが、自己相補正を有する1本鎖ポリヌクレオチドが自己アニーリングしたものでもよい。自己相補正を有する1本鎖ポリヌクレオチドとしては、例えば、逆方向反復配列を有するもの等が挙げられる。
さらに、DNAとRNAの混合については、DNA鎖とRNA鎖のハイブリッド型や、DNAとRNAのキメラ型等が用いられる。DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドは、それを被導入体に導入した際に、標的遺伝子の発現が阻害される活性を有するものである限り如何なるものであってもよいが、好ましくは、センス鎖がDNAであり、アンチセンス鎖がRNAであるものが用いられる。また、DNAとRNAのキメラ型では、それを被導入体に導入した際に、標的遺伝子の発現が阻害される活性を有するものである限り如何なるものであってもよい。二本鎖ポリヌクレオチドの安定性を高めるためにはDNAをできるだけ多く含むことが好ましいが、本発明のキメラ型二本鎖ポリヌクレオチドのうち、RNAであることが標的遺伝子の発現阻害に必要な配列については、後述する標的遺伝子の発現阻害度の解析を行いながら発現阻害の起こる範囲で適宜決定していくことが望ましい。これにより、RNAi法におけるRNAの機能部位を同定することもできる。このように決定されたキメラ型の好ましい例としては、例えば、二本鎖ポリヌクレオチドの上流側の一部がRNAであるものが挙げられる。ここで、上流側とは、センス鎖の5’側およびアンチセンス鎖の3’側を意味する。上流側の一部とは、上記二本鎖ポリヌクレオチドの上流の末端から9〜13ヌクレオチドの部分が好ましく挙げられる。また、このようなキメラ型二本鎖ポリヌクレオチドとして好ましい例としては、ポリヌクレオチドの鎖長がそれぞれ19〜21ポリヌクレオチドからなり、該ポリヌクレオチドのうち、少なくとも上流側1/2がRNAで、それ以外がDNAである二本鎖ポリヌクレオチドが挙げられる。また、このような二本鎖ポリヌクレオチドのうち、アンチセンス鎖が全てRNAのものは標的遺伝子の発現阻害効果がさらに高い。
二本鎖ポリヌクレオチドの調製方法としては、特に制限はないが、それ自体 既知の化学合成方法を用いることが好ましい。化学合成は、相補性を有する1本鎖ポリヌクレオチドを別個に合成し、これを適当な方法で会合させることにより二本鎖とすることができる。会合の方法として具体的には、例えば、合成した1本鎖ポリヌクレオチドを好ましくは少なくとも約3:7のモル比で、より好まし くは約4:6のモル比で、そして最も好ましくは本質的に同モル量(すなわち約5:5のモル比)で混合し、二本鎖が解離する温度にまで加熱し、その後徐々に冷却する方法等が挙げられる。会合した二本鎖ポリヌクレオチドは、必要に応じてそれ自体公知の通常用いられる方法により精製される。精製方法としては、例えばアガロースゲル等を用いて確認し、任意に残存する本鎖ポリヌクレオチドを適当な酵素により分解する等して除去する方法を用いることができる。また、自己相補正を有する1本鎖ポリヌクレオチドとして、逆方向反復配列を有するものを調製する場合には、該ポリヌクレオチドを化学合成等の方法で作製した後に 上記と同様の方法で自己相補性を有する配列を会合させることにより調製する。
(二本鎖ポリヌクレオチドの細胞、組織、あるいは個体への導入、および標的遺伝子の発現阻害)
このようにして調製した二本鎖ポリヌクレオチドを導入する被導入体としては、標的遺伝子がその細胞内でRNAに転写、またはタンパク質に翻訳され得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、本発明で用いる被導入体は、細胞、組織、あるいは個体を意味する。本発明に用いられる細胞としては、生殖系列細胞、体性細胞、分化全能細胞、多分化能細胞、分割細胞、非分割細胞、実質組織細胞、上皮細胞、不滅化細胞、または形質転換細胞等何れのものであってもよい。具体的には、例えば、幹細胞のような未分化細胞、器官または組織由来の細胞あるいはその分化細胞等が挙げられる。組織としては、単一細胞胚ま たは構成性細胞、または多重細胞胚、胎児組織等を含む。また、上記分化細胞としては、例えば、脂肪細胞、繊維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、神経細胞、グリア、血液細胞、巨核球、リンパ球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、白血球、顆粒球、ケラチン生成細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、肝細胞および内分泌線または外分泌腺の細胞等が挙げられる。このような細胞の具体例としては、CHO−KI細胞(RIKEN Cell bank)、ショウジョウバエS2細胞(Schneider,I.,et al.,J.Embryol.Exp.Morph.,27,353−365(1972))、ヒトHeLa細胞(ATCC:CCL−2)、あるいはヒトHEK293細胞(ATCC:CRL−1573)等が好ましく用いられる。さらに、本発明で被導入体として用いられる個体として、具体的には、植物、動物、原生動物、ウイルス、細菌、または真菌種に属するもの等が挙げられる。植物は単子葉植物、双子葉植物または裸子植物であってよく、動物は、脊椎動物または無脊椎動物であってよい。本発明の被導入体として好ましい微生物は、農業で、または工業によって使用されるものであり、そして植物または動物に対して病原性のものである。真菌には、カビおよび酵母形態両方での生物体が含まれる。脊椎動物の例には、魚類、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ハムスター、マウス、ラット、サルおよびヒトを含む哺乳動物が含まれ、無脊椎動物には、線虫類および他の虫類、キイロショウジョウバエ(Drosophila)、および他の昆虫が含まれる。上記培養細胞として、具体的には、例えば、CHO−KI細胞(RIKEN Cell bank)、ショウジョウバエS2細胞(Schneider,I.,et al.,J.Embryol.Exp.Morph.,27,353−365(1972))、ヒトHeLa細胞(ATCC:CCL−2)、あるいはヒトHEK293細胞(ATCC:CRL−1573)等が好ましく用いられる。
被導入体への二本鎖ポリヌクレオチドの導入法としては、被導入体が細胞、あるいは組織の場合は、カルシウムフォスフェート法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、ウイルス感染、二本鎖ポリヌクレオチド溶液への浸漬、あるいは形質転換法等が用いられる。また、胚に導入する方法としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション法、あるいはウィスル感染等が挙げられる。被導入体が植物の場合には、植物体の体腔または間質細胞等への注入または灌流、あるいは噴霧による方法が用いられる。また、動物個体の場合には、経口、局所、(皮下、筋肉内および静脈内投与を含む)非経口、経膣、経直腸、経鼻、経眼、腹膜内投与等によって全身的に導入する方法、あるいはエレクトロポレーション法またはウイルス感染等が用いられる。経口導入のための方法には、二本鎖ポリヌクレオチドを生物の食物と直接混合することができる。さらに、個体に導入する場合には、例えば埋め込み長期放出製剤等として投与することや、二本鎖ポリヌクレオチドを導入した導入体を摂取させることにより行うこともできる。
導入する二本鎖ポリヌクレオチドの量は、導入体や、標的遺伝子によって適宜選択することができるが、細胞あたり少なくとも1 コピー導入されるに充分量を導 入することが好ましい。具体的には、例えば、被導入体がヒト培養細胞で、カルシウムホスフェート法により二本鎖ポリヌクレオチドを導入する場合、0.1〜1000nMが好ましい。
ここで、二本鎖ポリヌクレオチドは、2種類以上のものを同時に導入することもできる。この場合、該ポリ ヌクレオチドの導入を受けた細胞、組織、あるいは個体( 以下これを「導入体」と称することがある)においては、2種類以上の標的遺伝子の発現阻害が期待される。本発明において、標的遺伝子の発現阻害とは、その発現を完全に阻害することだけでなく、mRNA、もしくはタンパク質の発現量として20%以上の阻害を意味する。標的遺伝子の発現阻害度は、標的遺伝子のRNAの蓄積、または標的遺伝子によってコードされるタンパク質の産出量を、二本鎖ポリヌクレオチドの導入体と非導入体において比較することにより測定することができる。mRNA量は、それ自体既知の通常用いられる方法により測定することができる。具体的には、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、定量的リバーストランスフェレースPCR、あるいは In situ hybridization等を用いて行うことができる。また、タンパク質の産生量は、標的遺伝子がコードするタンパク質を抗原とする抗体によるウェスタンブロッティング法や、標的遺伝子がコードするタンパク質が有する酵素活性を測定すること等により測定することができる。
(RNAi技術におけるポリヌクレオチドの導入)
(RNAi 技術を用いた体内の遺伝子の発現阻害による遺伝子機能解析方法)
本発明の二本鎖ポリヌクレオチドによる導入体内の遺伝子の発現阻害の結果、該導入体に現れる表現型の変化を解析することにより導入した二本鎖ポリヌクレオチドが標的とする遺伝子の機能を同定することができる。
ここで、標的遺伝子はその機能が既知であっても、被導入体内での機能が未知のものであってもよい。該標的遺伝子に対応する二本鎖ポリヌクレオチドは上記上記のとおり調製され、被導入体に同様にして導入する。導入体でその変化を解析すべき表現型は特に制限はされないが、例えば導入体の形態、導入体内物質量、導入体が分泌する物質量、導入体内物質の動態、導入体間接着、導入体の運動、あるいは導入体の寿命等の生命体行動が挙げられる。標的遺伝子の機能が、他の被導入体において既知の場合には、その機能に連関する表現型について解析することが好ましい。表現型の変化を解析する手段としては、導入体の形態の変化を解析する場合には、顕微鏡、あるいは肉眼的に検出する方法を用いることができる。また、導入体内の物質として、例えばmRNAの場合には、その量の解析方法として、ノーザンハイブリダイゼーション、定量的リバーストランスフェレースPCR、あるいはIn situ hybridization等が挙げられる。タンパク質の場合には、その量の解析方法として、標的遺伝子がコードするタンパク質を抗原とする抗体によるウェスタンブロッティング法や、標的遺伝子がコードするタンパク質が有する酵素活性を測定する方法等が挙げられる。このようにして解析した、導入体にのみ現れる表現型の変化は、標的遺伝子の発現阻害の結果生じているものであるので、これを標的遺伝子の機能として同定することができる。
(二本鎖ポリヌクレオチドを用いた標的遺伝子発現阻害により細胞、組織、あるいは個体に特定の性質を付与する方法)
本発明の二本鎖ポリヌクレオチドを用いた標的遺伝子の発現阻害により、細胞、組織、あるいは個体に特定の性質を付与することができる。特定の性質とは、標的遺伝子の発現阻害の結果、該導入体に現れるものをさす。ここでの標的遺伝子としては、その発現の阻害が導入体に与える性質がすでに判明しているものでもよいし、機能、もしくは導入体内での機能が未知のものでもよい。機能が未知の標的遺伝子については、これに対する二本鎖ポリヌクレオチドを導入した後に、該導入体が示す表現型のうち所望のものを選択することにより、該導入体に所望の性質を付与することができる。
被導入体に付与するべき所望の性質として、具体的には、例えば、細胞内生産機能、細胞外分泌を阻害する機能、細胞やDNAに対する障害の修復機能、特定の疾患に対する耐性機能等が挙げられる。具体的には、被導入体が植物個体等の場合、標的遺伝子としては、果実熟成に関連する酵素、植物構造タンパク質、若しくは病原性に関連する遺伝子等が挙げられる。標的遺伝子の発現阻害が、特定の疾患に対する耐性機能を有する場合としては、特定のタンパク質の発現の上昇が特定の疾患の原因となる場合で、標的遺伝子は、上記タンパク質をコードする遺伝子や、上記タンパク質の発現を制御する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子等が挙げられる。具体的例としては、標的遺伝子ががん化/腫瘍化表現型の保持に必要である遺伝子であり、被導入体ががん性細胞、または腫瘍組織等である。
このような標的遺伝子に対する二本鎖ポリヌクレオチドは、標的遺伝子がコードするタンパク質の発現を阻害することから、標的遺伝子が関連する疾患の治療または予防薬として用いることができる。二本鎖ポリヌクレオチドを上記薬剤の有効成分として用いる場合には、該ポリヌクレオチドを単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また、かかる薬剤は種々の形態で投与することができ、それらの投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口投与、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口投与を挙げることができる。また、その投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選択することができる。
このような遺伝子を標的とする二本鎖ポリヌクレオチドが導入された導入体は、その遺伝子発現阻害に付随すると予測される表現型によって選択される。また、導入する二本鎖ヌクレオチドにおいて、特定の遺伝標識、例えば蛍光タンパク質等をコードする配列を連結しておけば、被導入体に該二本鎖ポリヌクレオチドと共に導入した蛍光タンパク質の発現阻害度に基づいて選択することも可能である。このうち、例えばガン抑制に機能する遺伝子を標的遺伝子とした場合、選択されるべき細胞の形質としては、増殖能の亢進や、細胞接着能の低下、あるいは運動(転移)能の亢進等、悪性腫瘍の形質等が挙げられる。また、生体リズムを調製する遺伝子を標的遺伝子とした場合、選択されるべき細胞の形質としては、細胞固有の慨日リズムの消失等が挙げられる。さらには、環境変異原によるDNA損傷の修復等に関与する遺伝子を標的遺伝子とした場合、選択されるべき細胞の形質としては、変異原に対して感受性を示すこと等が挙げられる。
選択された導入体は、それぞれに適したそれ自体既知のクローン化技術により系として樹立、取得することができる。具体的には、被導入体が細胞である場合には、導入体は通常の培養細胞における細胞株樹立法である、限界希釈法、薬剤耐性マーカーによる方法等により細胞株として樹立、取得することができる。本発明で取得された特定の機能を付与された導入体は、有用物質の産生あるいは分泌効率が上昇した細胞株、細胞あるいはDNA等に対する障害を与える環境要因に対して高感受性を示す細胞株、疾病に付随する形質を示し、疾病治療のモデルとして使用することができる。
このうち、疾病治療のモデルとなる細胞株の取得方法を、本発明のさらなる具体的な適用例として説明する。標的遺伝子としては、その発現量の低下、または欠如が疾病の原因となる遺伝子 が挙げられる。具体的には、小細胞肺がんにおけるTSLC1の分子経路の因子(TSLC1、Rac1、Tiam1など)遺伝子等が挙げられる。
これらのヒト遺伝子等の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチドを、例えばヒト由来の培養細 胞に導入することにより、ヒト型の疾病モデル細胞を取得することができる。さらにこの特定の性質を付与された細胞、組織、あるいは個体に被検物質を接触させて、その遺伝子が関与する疾病の症状、あるいは形質に変化が現れるか否かを解析することによれば、上記疾病の治療剤、および/または予防剤のスクリーニングを行うことも可能である。
このようなスクリーニングにより選択された物質を上記薬剤の有効成分として用いる場合には、該物質を単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また、かかる薬剤は種々の形態で投与することができ、それらの投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口投与、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口投与を挙げることができる。また、その投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選択することができる。
(指標遺伝子の発現阻害度を指標とした一次選択を用いる方法)
本明細書において上記したRNAi技術は、被導入体に標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチドを導入する方法であるが、本発明の方法では、さらに(a)指標タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクター、(b)該指標タンパク質をコードする塩基配列の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチドを導入し、該指標タンパク質から発せられる信号量を指標として導入体を一次スクリーニングすることにより、導入体内での遺伝子の発現阻害がかかった導入体のみを解析することができ、効率的な解析を行うことができる。
本発明のさらに具体的な例として、被導入体を脊椎動物由来の培養細胞とし、指標タンパク質を蛍光タンパク質とした場合を説明する。脊椎動物由来の培養細胞に蛍光タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターを導入して培養し、該指標タンパク質から発せられる蛍光量が、特定の強さ以上の細胞を選択する。ここで選択された細胞に、さらに指標タンパク質をコードするDNAの少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチドを導入して培養して、指標遺伝子の発現の阻害度を、該指標タンパク質から発せられる蛍光量の減弱度により解析する。
このような一次スクリーニングは、いずれも被導入体への二本鎖ポリヌクレオチドの導入が行われたことや、該導入体内で標的遺伝子の発現阻害が起こっていることを確認するものであるので、指標タンパク質は、そのタンパク質量とそれが発する信号量とが相関するものである必要がある。このようなタンパク質の具体例としては、ルシフェラーゼタンパク質が挙げられる。
さらには、標的遺伝子発現の阻害度を測定する場合に、指標タンパク質の発現量を基準として、標的遺伝子がコードするタンパク質量を算出することもできる。
(RNAi技術に用いられるキット)
本明細書において記載したRNAi技術実施するためのキットとしては、二本鎖ポリヌクレオチド、指標タンパク質をコードするDNAを含むベクター、指標遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチド、酵素、バッファー等の試薬類、ポリヌクレオチオド導入のための試薬類等が含まれる。本発明のキットは、これら全ての試薬類等を含む必要はなく、上記した本発明の方法に用いられるキットであればいかなる試薬類等の組み合わせであってもよい。
RNAi技術を用いた場合に、RNAi効果の発現が弱い細胞であっても、特にRNAi効果の高く発現している細胞を一次スクリーニングして、より強いものを利用すればよい。
上述のような例示のDNAとRNAからなるポリヌクレオチド、具体的にはDNA鎖とRNA鎖からなるハイブリッドポリヌクレオチド、またはDNA−RNAキメラポリヌクレオチドを用いることによって導入するポリヌクレオチドの物質としての安定性を高め、製造費用を低減することが可能である。このことから、RNAi技術を用いて、導入するポリヌクレオチド自体を、がん治療を目的とした製剤として開発することができる。また、DNAはRNAと比較して蛍光標識、ビオチン標識、アミン化、リン酸化、チオール化等の修飾をより多種にわたり容易に行うことができる。従って、医薬品あるいは試薬として使用する場合に、このような化学的修飾を行うことによって目的に応じた機能を付加することができる。
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
1つの局面において、本発明は、がんの診断方法を提供する。ここで、この方法は、A)被験体におけるTSLC1の発現の増加または糖鎖の変化を観察する工程であって、正常個体と比較して増大した該発現または変化した糖鎖の存在は、該被験体におけるがんの発現を示す、工程を包含する。
別の局面において、本発明は、がんの診断方法であって、被験体におけるRacの活性化を観察する工程であって、正常個体と比較したときの発現の増加または活性の増加は、該被験体におけるがんの発現を示す、工程、
を包含する、方法を提供する。
本明細書において、正常個体とは、がんを有しておらず、その素因も有していない個体をいう。可能であれば、当該分野において広く認められた標準の個体またはその平均集団をさす。
本明細書において、正常個体と比較して「増大した発現または変化した糖鎖」は、上記正常個体における数値と比較して変化が認められる、発現または糖鎖に関する任意の数値をいう。このような数値の変化は、統計学的に有意であることが好ましいが、変化が観察される限りこれに限定されない。
本明細書におけるこの診断方法において、増大した発現または変化した糖鎖は、当該分野において公知の任意の手法を用いて検出することができる。そのような手法としては、本明細書において上記において詳述されたもののほか、他の手法を挙げることができ、例えば、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、PCR、RT−PCR、ELISA などを挙げることができる。
本発明のがんの診断方法では、がんは、小細胞肺がん、一部の大腸がん、一部の肝臓がん、一部の卵巣がん、一部の骨肉種、一部の軟部組織肉腫等であり得る。これらのがんは、白血病とは違い、診断について、白血病の知見からは予測不可能である。
1つの実施形態では、本発明において実施されるTSLC1の過剰発現または糖鎖の変化は、TSLC1分子の直接の観察の他、およびTSLC1の分子経路の他の分子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1および低分子量Gタンパク質Rac1、プロテイン4.1B,プロテイン 4.1N、MPP3、プロテインPals 2、プロテインCASKを含み得る。)の変化によって観察され得る。本発明では、がんにおいてTSLC1が予想外に過剰発現および糖鎖の変化をしていることを見出し、Rac1が予想外に活性化していることを見出したことから、Rac1の活性化ががんの指標であることをみいだすしたことから、これらの分子の動向を検査することによってがんの診断を行うことができることを見出した。
1つの実施形態では、本発明において対象となるTSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、TSLC1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましい。本発明の診断において、観察の対象となるのは生体であることから、生体が有し得る任意の改変体が本発明におけるTSLC1の範囲に入ることが理解される。
1つの実施形態では、本発明において対象となるRac1は、配列番号5に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号6に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、Rac1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましい。
具体的な実施形態では、本発明の診断方法において、TLSC1(特に、8A+8Bスプライシング変異体)の発現の増加は、mRNAまたはタンパク質レベルで生じたものであることが好ましい。この場合、詳細には発現の増加は、mRNAレベルが、正常値より多い範囲であり、統計学的に有意な変化であればより好ましく、さらに通常もっとも鋭敏にとって2倍、妥当なレベルで2倍、ベストな範囲は3倍以上になることである。あるいは、発現の増加は、タンパク質レベルが正常値より多い範囲であり、統計学的に有意な変化であればより好ましく、さらに通常もっとも鋭敏にとって2倍、妥当なレベルで2倍、ベストな範囲も3倍以上になることである。本発明において糖鎖の変化が診断対象となる場合、糖鎖の変化は、タンパク質の糖鎖パターンが正常パターンとは異なることである。そのような糖鎖パターンとしては、以下を挙げることができる:N−型糖鎖修飾のがんにおける増加と、それに伴うがんでのTSLC1タンパク質の分子量の増大、O 型糖鎖修飾のがんにおける増加と、それに伴うがんでのTSLC1タンパク質の分子量の増大、がん特異的糖鎖に対する単クローン性抗体への反応。上記のような場合において、本発明では、がんと診断され得る。
別の具体的な実施形態では、本発明の診断方法において、Rac1の発現の増加は、mRNAまたはタンパク質レベルで生じたものであることが好ましい。この場合、詳細には発現の増加は、mRNAレベルが、正常値より多い範囲であり、統計学的に有意な変化であればより好ましく、さらに通常もっとも鋭敏にとって2倍、妥当なレベルで3倍、ベストな範囲も4倍以上になることである。あるいは、発現の増加は、タンパク質レベルが正常値より多い範囲であり、統計学的に有意な変化であればより好ましく、さらに通常もっとも鋭敏にとって2倍、妥当なレベルで3倍、ベストな範囲も4倍以上になることである。あるいはRac1の活性化は、遺伝子産物の活性化であることが好ましい。そのような活性は、p21活性化キナーゼのRac結合ドメインと結合可能なRacタンパク質の細胞内全Racタンパク質に占める割合により測定することができる。このような場合、がんと診断され得るのは、活性の増加が、p21活性化キナーゼのRac結合ドメインと結合可能なRacタンパク質の、細胞内全Racタンパク質に占める割合として測定することができるRac1タンパク質の活性レベルが正常値より多い範囲であり、統計学的に有意な変化であればより好ましく、さらに通常もっとも鋭敏にとって2倍、妥当なレベルで3倍、ベストな範囲も4倍以上になる場合である。上記のような場合において、本発明では、がんと診断され得る。
本明細書において、好ましい実施形態では、発現の増加は、8A+8B型スプライシング変異体の発現の増加を含む。理論に束縛されることを所望しないが、TSLC1遺伝子のうち、8A+Bスプライシング変異体の発現増加が、がん(特に、小細胞肺がん)と密接に関連していることが見出されたからである。TSLC1遺伝子には、8A+8Bスプライシング変異体のほか、8A、8(−)などの変異体があるが、特にこの8A+8Bスプライシング変異体を観察することによって効率的な診断を行うことができる。8A+8B型スプライシング変異体は、(配列情報別添致します) により同定される。
本明細書において、1つの実施形態では、糖鎖の変化は、O−型修飾糖鎖において糖鎖修飾が行われているがこれに限定されない。
本明細書において、1つの実施形態では、糖鎖の変化は、N−型修飾糖鎖において糖鎖修飾が行われているがこれに限定されない。
本明細書において、1つの実施形態では、糖鎖の変化は、O−型修飾糖鎖および 型修飾糖鎖において糖鎖修飾が行われているがこれに限定されない。
本明細書において、TSLC1、Rac1などを観察するために、これらの分子に特異的に結合する因子(すなわち、特異的因子)を用いることができる。使用される因子は、本発明において説明される任意の因子が使用されることが理解される。
1つの実施形態では、上記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。このような特異的因子は、標識されまたは標識され得る。
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(たとえば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。上記の核酸断片および相補性を示すオリゴヌクレオチドを何れも蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。蛍光物質としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G 試薬、N−アセトキシ−N2−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
ここで、より具体的には、使用され得る因子は、TSLC1、Rac1などをコードする核酸配列の相補配列を少なくとも一部含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのプライマーまたはプローブあるいはその改変体あるいは、特異的な抗体であり得る。そのようなプライマーまたはプローブの具体的な設計方法は、本明細書において別の場所において詳述されたとおりであり得る。プライマーによる増幅の検出は、予測される産物のサイズを確認することによって行うことができる。プローブによる検出は、対象のサイズまたは標識を利用することによって行うことができる。このような抗体は、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。ここで、本発明において使用される抗体は、配列番号6に示す配列のポリペプチドのみを検出する能力を必要とするのではない。むしろ、何らかの方法で、配列番号6に示す配列のポリペプチドを検出することができ、擬陽性が減じられるかぎり、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本発明において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
別の具体的な実施形態では、含有され得る因子は、TSLC1、Rac1などに対する抗体であり得る。
本明細書において「発現」は、直接標識抗体、一次抗体(例えば、ビオチン化抗体)および二次抗体を用いた際の蛍光強度(FI)で示すことができる。このような表示は、絶対レベルまたは相対レベルで表すことができる。
mRNAレベルの発現強度は、RT−PCRまたはマイクロアレイを用いて解析することができる。RT−PCRを用いた場合は、相対的にデンシトメーターを用いて定量化することができ、より詳細に数値化する場合は、マイクロアレイにおいてハウスキーピング遺伝子であるHRPTに対してそれより少ない発現は陰性、同等を弱陽性およびそれより強い(統計学的に強い)レベルを強陽性であらわすことができる。
本明細書において発現などの「レベル」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現されるレベルをいう。そのような発現レベルとしては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現レベル、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現レベルが挙げられる。「発現レベルの変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。発現レベルは、絶対レベルまたは相対レベルで評価され得る。
好ましい実施形態では、本発明の診断対象は、小細胞肺がん、一部の大腸がん、一部の肝臓がん、一部の卵巣がん、一部の骨肉種、一部の軟部組織肉腫を含む。
具体的な実施形態では、本発明の特異的因子は、配列番号1または配列番号 に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である。
別の実施形態では、本発明の特異的因子は、配列番号2または配列番号6に示す配列のポリペプチドに対する抗体である。
他の実施形態では、本発明の検出は、配列番号1または配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を用いて行われ得る。
他の実施形態では、本発明の検出は、配列番号1または配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を用いて行われ得る。
他の実施形態では、本発明の検出は、配列番号2または配列番号6に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われ得る。
他の実施形態では、本発明の検出は、活性化型Rac1を特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われ得る。
1つの好ましい実施形態では、本発明は、がんの診断方法であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを測定する工程を包含する、方法を提供する。ここで、対象となるTSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1であってもよい。ここで、因子のレベルは、その因子に対する特異的因子によって測定され得る。ここで、特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。ここで、この特異的因子は、標識されまたは標識され得る。例えば、そのように標識がされている場合、本発明の因子によって測定することができる種々の状態を直接および/または容易に測定することができる。そのような標識は、識別可能に標識される限り、どのような標識でもよく、例えば、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応などの技法が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。
別の局面において、本発明は、がんの診断薬であって、TSLC1またはRac1のレベルを測定する手段を備える、診断薬を提供する。
本明細書において、上記手段は、TSLC1の分子経路の因子(例えば、TSLC1、Rac1など)を観察するための、これらの分子に特異的に結合する因子(すなわち、特異的因子)であり得る。使用される因子は、本発明において説明される任意の因子が使用されることが理解される。
1つの実施形態では、本発明の上記手段は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。このような特異的因子は、標識されまたは標識され得る。
1つの実施形態では、本発明の上記手段は、TSLC1の発現または糖鎖修飾を同定する手段(例えば、プローブ、プライマー、抗体など)またはRac1の活性化を同定する手段(例えば、活性化型Rac1を特異的に認識する抗体)を含む試薬であり得る。
他の実施形態では、本発明の上記手段は、細胞または血清においてTSLC1またはRac1 遺伝子の転写産物またはRac1タンパク質の有無を検出する手段であり得る。
具体的な実施形態では、本発明の上記手段は、配列番号1または配列番号5に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子であであり得る。あるいは、本発明の上記手段は、配列番号2または配列番号6に示す配列のポリペプチドに対する抗体であり得る。
他の実施形態では、本発明の上記手段は、配列番号1または配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬であり得る。
他の実施形態では、本発明の上記手段は、配列番号1または配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬であり得る。
他の実施形態では、本発明の上記手段は、配列番号2または配列番号6に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬であり得る。
好ましい実施形態では、本発明の診断薬の診断対象は、小細胞肺がん、一部の大腸がん、一部の肝臓がん、一部の卵巣がん、一部の骨肉種、一部の軟部組織肉腫を含む。
別の局面において、本発明は、がんの診断薬をスクリーニングする方法であって、該方法は:A)正常被験体とがん患者とにおけるTSLC1またはRac1のレベルの相違を観察し、相違が見出される正常被験体とがん患者とを選択する工程;およびB)選択された正常被験体とがん患者とにおいてTSLC1またはRac1のレベルと相関する因子を同定する工程を包含する、方法を提供する。
ここで、このスクリーニング方法における、TSLC1またはRac1のレベルの同定は、本明細書において別の場所において説明されている任意の手法を用いて行うことができることが理解される。ここで、TSLC1またはRac1のレベルには、遺伝子発現(mRNA,タンパク質レベルなど)のレベルの他、翻訳後修飾のレベル(例えば、糖鎖修飾の違い)などを挙げることが理解される。
本発明のスクリーニング方法において、選択された正常被験体とがん患者とにおいてTSLC1またはRac1のレベルと相関する因子を同定することは、当該分野において公知の任意の手法を用いて行うことができる。相関解析には、統計学的手法(たとえば、回帰分析など)を用いることができる。
別の局面において、本発明は、本発明のスクリーニング方法で同定されたがんの診断薬を提供する。
他の局面において、本発明は、がんの診断薬をスクリーニングするシステムであって、該システムは:A)正常被験体とがん患者とにおけるTSLC1またはRac1のレベルの相違を観察し、相違が見出される正常被験体とがん患者とを選択する手段;およびB)選択された正常被験体とがん患者とにおいてTSLC1またはRac1のレベルと相関する因子を同定する手段をとをそなえる、システムを提供する。
本発明のスクリーニングシステムにおいて、選択された正常被験体とがん患者とにおいてTSLC1またはRac1のレベルと相関する因子を同定する手段は、当該分野において公知の任意の手法であり得る。相関解析には、統計学的手法(たとえば、回帰分析など)を用いることができる。
あるいは、別の局面において、本発明は、がんの処置または予防のための因子をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)候補物質を提供する工程、B)該候補物質をTSLC1の分子経路のアッセイ系に供する工程;C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、該調節する因子を、がんの処置または予防のための因子であると決定する工程
を包含し得る。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1 であってもよい。
1つの実施形態では、本発明において使用される候補物質は、どのような物質であってもよいが、例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であり得る。ここで、TSLC1の分子経路を調節する因子の同定は、その分子経路中の因子の活性化または不活化、あるいは、発現量の増減、リン酸化量の増減、分子量の増減などを観察することによって行うことができる。ここでは、例えば、TSLC1の分子経路の因子の優性欠失改変体を用いてもよい。
他の好ましい局面において、本発明は、がんの処置または予防ための因子をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)候補物質を提供する工程、B)該候補物質をTSLC1の分子経路のアッセイ系に供する工程;C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、該調節する因子を、がんの処置または予防のための因子であると決定する工程;D)さらに、該調節因子の候補を、がんの処置または予防のためのアッセイ系に供する工程;E)該調節因子の候補の内、がんの処置または予防のための因子を選択する工程を包含し得る。
別の局面において、本発明は、TSLC1の分子経路の因子の優性欠失改変体を提供する。ここで、本発明の改変体は、ゲノム、細胞、組織、臓器または個体の全部または一部であってもよい。好ましくは、個体であり得、この場合は、がんの処置または予防ためのモデル動物として薬物のスクリーニングに使用することができる。
別の局面では、本発明は、本発明のスクリーニング方法によって、同定されたがんの処置または予防ための因子を提供する。この調節分子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよく、このような分子は、周知のコンビナトリアルケミストリー技術を用いて製造することができる。
(使用)
別の局面において、本発明は、TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの診断のための組成物の製造における、使用を提供する。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1であってもよい。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
他の局面において、本発明は、TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの処置または予防のための組成物の製造における、使用を提供する。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1であってもよい。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。