JPWO2007013696A1 - 6’−アミジノ−2’−ナフチル4−グアニジノベンゾエート又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤 - Google Patents

6’−アミジノ−2’−ナフチル4−グアニジノベンゾエート又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2007013696A1
JPWO2007013696A1 JP2007526954A JP2007526954A JPWO2007013696A1 JP WO2007013696 A1 JPWO2007013696 A1 JP WO2007013696A1 JP 2007526954 A JP2007526954 A JP 2007526954A JP 2007526954 A JP2007526954 A JP 2007526954A JP WO2007013696 A1 JPWO2007013696 A1 JP WO2007013696A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
fut
cancer
inhibitor
hydrochloride
antitumor agent
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Abandoned
Application number
JP2007526954A
Other languages
English (en)
Inventor
匡 宇和川
匡 宇和川
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Torii Pharmaceutical Co Ltd
Original Assignee
Torii Pharmaceutical Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Torii Pharmaceutical Co Ltd filed Critical Torii Pharmaceutical Co Ltd
Publication of JPWO2007013696A1 publication Critical patent/JPWO2007013696A1/ja
Abandoned legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61KPREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
    • A61K45/00Medicinal preparations containing active ingredients not provided for in groups A61K31/00 - A61K41/00
    • A61K45/06Mixtures of active ingredients without chemical characterisation, e.g. antiphlogistics and cardiaca
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61KPREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
    • A61K31/00Medicinal preparations containing organic active ingredients
    • A61K31/21Esters, e.g. nitroglycerine, selenocyanates
    • A61K31/215Esters, e.g. nitroglycerine, selenocyanates of carboxylic acids
    • A61K31/235Esters, e.g. nitroglycerine, selenocyanates of carboxylic acids having an aromatic ring attached to a carboxyl group
    • A61K31/24Esters, e.g. nitroglycerine, selenocyanates of carboxylic acids having an aromatic ring attached to a carboxyl group having an amino or nitro group
    • A61K31/245Amino benzoic acid types, e.g. procaine, novocaine
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P1/00Drugs for disorders of the alimentary tract or the digestive system
    • A61P1/18Drugs for disorders of the alimentary tract or the digestive system for pancreatic disorders, e.g. pancreatic enzymes
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P35/00Antineoplastic agents
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P35/00Antineoplastic agents
    • A61P35/04Antineoplastic agents specific for metastasis
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P43/00Drugs for specific purposes, not provided for in groups A61P1/00-A61P41/00

Landscapes

  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Pharmacology & Pharmacy (AREA)
  • Veterinary Medicine (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Public Health (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Animal Behavior & Ethology (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • General Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Nuclear Medicine, Radiotherapy & Molecular Imaging (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Epidemiology (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Emergency Medicine (AREA)
  • Oncology (AREA)
  • Pharmaceuticals Containing Other Organic And Inorganic Compounds (AREA)
  • Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
  • Acyclic And Carbocyclic Compounds In Medicinal Compositions (AREA)

Abstract

本発明の目的は、既存の抗腫瘍剤の問題点である重篤な副作用や薬剤耐性誘導を起こさず、治療係数の高い新しいタイプの抗腫瘍剤を提供することである。特に現時点で有効な治療方法および化学療法剤が存在しない膵臓癌に有効であり、さらには癌転移及び癌浸潤を抑制することも可能である新しいタイプの薬剤及び治療方法を提供することである。本願発明の抗腫瘍剤、特に膵臓癌治療薬および癌転移抑制剤は、6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその塩、特にそのメシル酸塩であるメシル酸ナファモスタット(一般名。「フサン」、「FUT」、「FUT175」ともいう。)を有効成分として含有するものである。また、本発明の別の態様は、これらFUTと既存の抗癌剤・抗腫瘍剤、特に好ましくはゲムシタビン塩酸塩との併用である。

Description

本願発明は、6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその塩、特にそのメシル酸塩であるメシル酸ナファモスタット(一般名。「フサン」、「FUT」、「FUT175」ともいう。;以下「FUT」という。)を有効成分として含有する抗腫瘍剤、特に膵臓癌治療薬および癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤、及びこれら抗腫瘍剤又は抑制剤を投与することを特徴とする腫瘍及び癌の治療方法に関する。また、本発明は、これらFUTと既存の抗癌剤・抗腫瘍剤とからなる医薬、及びそれら医薬を投与することを特徴とする腫瘍及び癌の治療方法に関する。
現在、癌の治療法としては、外科的療法、放射線照射療法、化学的療法、ホルモン療法、色疫学的療法又はそれらの併用が行われている。外科的療法、放射線照射療法の進歩によってある種の疾患部位については完全に近い治療が期待されるようになったが、外科的に切除できる範囲については限界がある。手術後の再発や癌の転移の防止又は手術が不可能な場合には化学療法が最も有効な治療手段となりうる。又、放射線照射療法の補助的手段として、あるいは症状の軽減の為にも化学療法は行われる。
抗癌剤は作用の仕方や由来などにより、「細胞障害性抗癌剤」と「分子標的治療薬」に分類される。「細胞障害性抗癌剤」はさらに、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗癌性抗生物質、微小管阻害薬などに分類されている。アルキル化剤や抗癌性抗生物質は、ある一定の濃度に達すると作用時間が短くても確実に効くが、正常細胞に対する傷害も大きい。そこで、薬をより効果的に癌病巣に到達させる研究がさかんに行われている。また最近は、癌に特異性の高い標的を探し出し、その標的に効率よく作用する薬(分子標的治療薬)の開発も積極的に行われており、すでに医療の現場で使われはじめている。またこのような化学療法剤に対しては、癌細胞が薬剤耐性を獲得し、薬効が持続しないという問題点もある。より薬物有害反応が少なく、効果の高い薬の開発が期待されている。
現在、これら化学療法に用いられる薬剤としては、ナイトロジェンマスタードNオキシド、シクロホスファミド、トリエチレンチオホスホルアミド、サルコリジン等のアルキル化剤、5−フルオロウラシル、ゲムシタビン、シタラビン、メトトレキサート等の代謝拮抗剤、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、クロモマイシンA、ダウノマイシン、ドキソルビシン等の抗癌性抗生物質、ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル等の微小管阻害薬、その他、塩酸イリノテカン、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ネダプラチン、ミトキサントロン、L−アスパラギナーゼ、プロカルバジン、コルヒチン誘導体、ピシバニール等が知られている。
既存の抗癌剤の作用機序は,基本的にいずれも癌細胞に対して直接殺癌細胞効果として働くものばかりである.しかし、近年、催奇形性が間題となって睡眠薬としての治療薬から姿を消したサリドマイド(thalidomide)が、その催奇形性の原因迫及から全く新しい概念のもとに抗腫瘍効果が浮かび上がってきた。特徴は薬効標的を癌細胞にするのでなく血管新生を阻害することにある。すなわち、血管内皮細胞に対する細胞分裂抑制作用により血管新生が抑制され、細胞増殖に必要な酸素や栄養供給を遮断し、癌細胞の発達を防ぎ、また転移を抑制するものである。したがって、殺細胞効果を有しないため抗癌剤特有の種々の重篤な副作用も持ち合わせず、また耐性も生じないため理想的な薬物と期待されている。血管新生は、成人では創傷治癒、性周期や癌細胞、リウマチ、虚血など一部の病的状態を除いては通常起こらないように調節されている。その調節は正と負の調節因子によって行われ、プロテアーゼ活性、血管内皮の活性、線維芽細胞の活性、免疫応答やCXCケモカイン調節などが複雑に絡んでいる。
例えば、血管新生を促進するmatrix metalloproteinase(MMP)やそれを抑制するtissue inhibitor of MMP(TIMP)があり、腫瘍細胞ではMMPの発現量が増えることがわかっているため、MMPの発現を抑制することができるMMP阻害剤は、抗癌剤として有効であると考えられる。現在開発中のMMP阻害剤としては、Marimastat(BritishBiotech社、米国、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、前立腺癌、食道癌に対してPhase III)、AG3340(Agouron社、米国、非小細胞肺癌、ホルモン抵抗性前立腺癌に対しPhase.III、神経芽細胞腫に対しPhase II)、COL−3(Collagenex社、米国、各種固形癌に対しPhase I)、Neovastat(Aeterna社、カナダ、非小細胞肺癌などに対しPhase III)、BMS−275291(Bristol−Myers社、米国、Phase I)等がある。MMPの発現は核因子(nuclear factor)κB(本明細書全体を通して、NF−κB と略記する)によって制御されていることがわかっているため、腫瘍細胞において発現が増強しているMMPの発現を抑制する方法のひとつとしては、NF−κBの活性化を抑制することも有効であると考えられる。
ところで、抗癌剤や癌の治療方法が大きく進歩したにも関わらず、膵臓癌に関しては、手術が可能な場合であっても術後生存期間は12ヶ月から14ヶ月と短く、現在でも最も予後が悪い癌のひとつである。十分な有効性が示されている薬剤は現時点ではないため、新しい作用メカニズムを有する薬剤開発が切望されている。このような状況の中、最近分子生物学的アプローチとして、転写調節因子の一つとして知られているNF−κBの抑制剤を用いて化学療法剤に対する感受性を上げようという試みも行われている。従来の化学療法剤の問題点のひとつである薬剤耐性は、癌細胞のNF−κBが薬剤により活性化されることが原因のひとつであると考えられている。従って、既存の化学療法剤によって活性化されるNF−κBを抑制することによって、薬剤耐性の獲得を防ぎ、化学療法剤に対する効果を持続させることも可能と考えられる。
NF−κBは、免疫グロブリン(Ig)κ鎖遺伝子のエンハンサーに結合するB細胞特異的な核因子として同定され、その後、各種サイトカインや受容体の遺伝子上流のプロモーター領域に結合することで、これらの遺伝子の発現誘導に関与し、免疫応答や炎症性疾患の病態形成において重要な役割を果たしていることが明らかとなってきている。NF−κBは、p50およびp65タンパク質に代表されるRelファミリーサブユニットの複合体で、通常、細胞質内では制御サブユニットであるIκBタンパク質と結合して存在している。しかし、細胞に一定の刺激が加えられるとIκBがIκBリン酸化酵素(IκB kinasecomplex:以下IKKという)によりリン酸化され、NF−κBが複合体から遊離され活性化される。このように活性化されたNF−κBが、核内へ移行し、ゲノムDNA上の特異塩基配列と結合することで遺伝子の発現誘導に関与していることが知られている。NF−κBにより制御される遺伝子には、例えば、IL−1、IL−6、IL−8などの炎症性サイトカイン類や、VCAM−1やICAM−1などの接着因子がある。また、NF−κB自身のインヒビターであるIκBαの遺伝子発現も制御し、フィードバックをかけている。
NF−κBに起因する疾患としては、例えば虚血性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、癌の転移・浸潤、悪液質等が挙げられる。虚血性疾患としては虚血性臓器疾患(例えば心筋梗塞、急性心不全、慢性心不全等の虚血性心疾患、脳梗塞等の虚血性脳疾患および肺梗塞等の虚血性肺疾患等)、臓器移植・臓器手術後の予後の悪化(例えば心移植、心臓手術、腎移植、腎臓手術、肝移植、肝臓手術、骨髄移植、皮膚移植、角膜移植、肺移植等の予後の悪化)、再潅流障害、PTCA後の再狭窄等が知られている。炎症性疾患としては腎炎、肝炎、関節炎等の種々の炎症、急性腎不全、慢性腎不全、動脈硬化等が挙げられる。また、自己免疫疾患としてはリウマチ、多発性硬化症、橋本甲状腺炎等が挙げられる。(例えば、特許文献1参照)。
NF−κBは炎症反応以外に、細胞の増殖・生存においても重要な役割を果たしており、NF−κBの制御機構が崩壊すると、多くの炎症性疾患や癌を引き起こすと言われている。例えば、本願発明者らは、多くのヒト膵臓癌組織やヒト膵臓癌細胞株においては、NF−κBのサブユニットであるp65分子が持続的に活性化していること、NF−κBを不活性化することによって、膵臓癌細胞の肝転移や腫瘍形成を抑制することができるということも報告されている。
NF−κBを抑制することによって様々な疾患を治療しようとする試みも行われている。NF−κBの阻害剤としては、プロテアソーム阻害剤、IKK阻害剤、サリドマイドのような免疫調整剤などが知られている。また、例えば非ステロイド系薬物であるアスピリンやサリチル酸ナトリウムが高濃度でNF−κBの活性化阻害作用を有していること(例えば、非特許文献1参照)、プリン系化合物であるキサンチン誘導体がNF−κBの活性化阻害作用を有していること(例えば、特許文献2参照)、および、ステロイド系薬物であるデキサメタゾンがIκBの産生を誘導してNF−κBの活性化阻害作用を有していることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。これらのうちいくつかについては臨床試験が行われている段階である。
ところで、本発明の6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩、特にメシル酸ナファモスタット(FUT)を有効成分として含有する薬剤は、すでに膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の急性膵炎、外傷性膵炎)の改善、汎発性血管内血液凝固症(DIC)の改善、出血性病変または出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析及びプラスマフェレーシス)に有効であるとして、本邦において承認されている薬剤であり、その安全性も既に確認されている。
また、FUTは肥満細胞が脱顆粒を起こす際に放出する蛋白分解酵素であるトリプターゼ阻害活性を有し、全身アナフィラキシー疾患、アスピリン過敏性喘息、喘息、間質性肺疾患、間質性膀胱炎、過敏性腸症候群、アレルギー性疾患、アトピー性疾患、皮膚水疱症、知覚過敏症、疼痛、掻痒症、歯肉炎、浮腫、乾癬、肺繊維症、関節炎、歯周病、血液凝固障害、腎間質線維化、X線造影剤の副作用としての血管透過性亢進または肺浮腫、及び花粉症からなる群から選ばれる疾患の治療または予防に有効であることも知られている。
さらに本出願人は、FUTが、炎症局所に集積する免疫担当細胞におけるNF−κBの活性化を抑制することにより、炎症反応を抑える効果があり、免疫調節剤とて有効であるということ見出している。
以上のように、現在使用されている抗癌剤には、上述したような様々な問題点がある。即ち、癌細胞内のNF−κBの活性化による薬剤耐性の獲得、正常細胞に対する強い毒性、重篤な副作用等である。従って、薬剤耐性を誘導せず、副作用のない新しいタイプの抗癌剤の開発が望まれている。また、特に膵臓癌については現時点で有効な治療方法や抗癌剤がなく、現在最も予後の悪い癌であるといわれており、有効や薬剤の開発が切望されている。
特開2003−128559号公報 特開平9−227561号公報 Science,265,956(1994) Science,270,283(1995)
現在、化学的療法剤として使用されている抗腫瘍剤は、腫瘍細胞のDNA、RNA合成を選択的に阻害したり、細胞分裂を阻害する事によって悪性腫瘍の増殖を抑えるものであって、正常細胞、特に細胞分裂の速い組織、例えば骨髄組織や生殖腺組織までも障害してしまう為に、重篤な副作用を発現することがしばしばあり、心毒性、悪心、嘔吐、下痢、血球減少、発熱、脱毛、肝障害等の副作用を伴う例が多い。この為、腫瘍を根絶するのに十分な量の薬剤を投与できず、既存の化学療法剤は十分な効果を示すに到っていないのが現状である。更には、化学療法を施行中に腫瘍細胞が薬剤耐性を獲得してしまう問題もあり、薬剤耐性を克服するに足る活性を有し、かつ低毒性で治療係数の高い新薬の開発が望まれている。さらには癌転移を抑制することができる新しいタイプの薬剤及び治療方法の開発が切望されている。また、特に膵臓癌については、現時点で有効な治療方法および化学療法剤が存在しないため、最も予後の悪い癌であり、有効な治療方法および新薬の開発が切望されている。
本発明者は、このような問題点を解決すべく鋭意研究を進めた結果、膵炎治療剤、汎発性血管内血液凝固症(DIC)治療剤、血液体外循環時の灌流血液の凝固防止剤としてその有用性と安全性がすでに確認されているFUTが抗腫瘍作用を有する薬剤として極めて有効であることを具体的に見出し、本発明を完成した。
より詳しくは、本発明者は、本発明の6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩、特にメシル酸ナファモスタット(FUT)を有効成分として含有する薬剤は、腫瘍細胞に対して作用し、その生存率を下げるとともに、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する効果を有するものであることを見出し、さらに詳細な研究により、腫瘍細胞におけるIKKの抑制により、IκB−αのリン酸化を抑制し、さらにはNF−κBの活性化を抑制するというメカニズムにより腫瘍細胞の増殖を阻止する新しいタイプの薬剤であることも見出した。また、FUTが現在有効な治療薬が切望されている膵臓癌に対して顕著な効果を示し、その生体における効果をヒト膵臓がん細胞を移植した動物実験によって確認することにも成功し、本発明を完成した。
また、本発明の別の態様は、上記のごときFUTが既存の抗癌剤と併用することにより更に優れた効果を発揮し、しかも体重減少等の副作用を全く示さないことを見出して、本発明を完成し得たものである。即ち、既存の抗癌剤は薬剤耐性を誘導するという問題点を有しているが、FUTは薬剤耐性の原因である細胞内のNF−κBの活性化を抑制する作用があるため、両者を併用することにより、既存の抗癌剤の効果をさらに増強することが可能となった。
他剤特にゲムシタビンとのFUTの併用による腫瘍抑制効果及び副作用の抑制効果は、全く予想し得ない驚くべきことであった。我々は、その併用効果を動物実験においても確認した。特に膵臓癌に対して顕著な抑制効果と副作用抑制効果を示した。特に、ゲムシタビン等の抗腫瘍剤とFUTとの併用が、体重減少等の重篤な副作用を顕著に低減できることは予想し得ない、驚くべき現象であった。
癌細胞表面でその発現が増強しているMMPは、癌組織の腫脹や癌細胞の転移、浸潤に関与している分子であるが、FUTはこの分子の発現を抑制する効果を有することが明らかとなり、抗腫瘍効果のみならず、癌転移抑制剤としても極めて有効であることが明らかとなった。特に、ゲムシタビン等の他の抗腫瘍剤との併用は、その薬理効果のみならず、体重減少等の副作用の抑制の観点からも、大いに実用化が期待されるものである。
即ち本願発明は、メシル酸ナファモスタットを有効成分とする抗腫瘍剤に関するものであり、以下に示す通りである。
(1)下記式で表される6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩を有効成分として含有してなる抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤。
(2)塩がメシル酸塩である上記1に記載の抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤。
(3)抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤が、それぞれ、膵臓癌治療剤、膵臓癌転移若しくは膵臓癌浸潤の抑制剤である上記1又は2に記載の薬剤。
(4)6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩を有効成分として含有してなるNF−κB抑制剤。
(5)塩がメシル酸塩である上記4に記載のNF−κB抑制剤。
(6)6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩を有効成分として含有してなるIKK(IκBリン酸化酵素)抑制剤。
(7)塩がメシル酸塩である上記6に記載のIKK(IκBリン酸化酵素)抑制剤。
(8)上記1乃至7のいずれか1項に記載の薬剤と、他の抗腫瘍剤を組み合わせてなる医薬。
(9)他の抗腫瘍剤がアルキル化剤、抗代謝薬、抗生物質、植物アルカロイド、白金錯体誘導体およびホルモンからなる群から選ばれる1以上の抗腫瘍剤である上記8に記載の医薬。
(10)他の抗腫瘍剤がゲムシタビン塩酸塩、ナイトロゲン・マスタード・N−オキサイド、サイクロホスファミド、メルファラン、カルボクオン、ブスルファン、ニマスチン塩酸塩、ラニマスチン、ダカルバジン、フルオロウラシル、テガフル、サイタラビン、アンサイタビン塩酸塩、ブロキシウリジン、ドキシフルウリジン、メルカプトプリン、チオイノシン、メトトレキセート、マイトマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、ピラルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、ネオカルジノスタチン、アクチノマイシンD、ヴィンクリスチン硫酸塩、ヴィンデシン硫酸塩、ヴィンブラスチン硫酸塩、エトポサイド、タモキシフェンクエン酸塩、プロカルバジン塩酸塩、マイトブロニトール、マイトキサントン塩酸塩、カルボプラチンおよびシスプラチンからなる群から選ばれる1以上の抗腫瘍剤である上記8または9に記載の医薬。
(11)癌患者又は腫瘍患者に対して、請求項1に記載の抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤を投与することを特徴とする癌又は腫瘍の治療又は予防方法。
(12)癌患者又は腫瘍患者に対して、請求項1に記載の抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤と他の抗腫瘍剤を同時に投与するか、または時期をずらして投与することを特徴とする上記(11)に記載の癌又は腫瘍の治療又は予防方法。
一般的に、制癌剤は極めて強い副作用を有しているのが普通であって、患者の苦痛は大きな問題となっている。一方、本発明の6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩、特にメシル酸ナファモスタット(FUT)を有効成分として含有する薬剤は、すでに膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の急性膵炎、外傷性膵炎)の改善、汎発性血管内血液凝固症(DIC)の改善、出血性病変または出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析及びプラスマフェレーシス)に有効であるとして、本邦において承認されている薬剤であり、その安全性も既に確認されている。
したがって、安全性が確認されているFUTを有効成分とする制癌剤が実現し、しかも未だその治療法が確立されていない膵臓癌への適用が実現するならば、患者は制癌剤の副作用の苦痛から解放され、その効果は絶大なるものである。
さらには、直接の抗腫瘍作用を有しているだけでなく、癌が増大していく過程のひとつである癌浸潤や、癌転移を抑制する効果も有していることは、外科的手術後の転移抑制剤としての効果をもたらすものと期待される。
また、既存の抗癌剤や抗腫瘍剤によって引き起こされる薬剤耐性を抑制する効果も有しているため、既存の抗癌剤や抗腫瘍剤との併用により、さらに高い抗癌・抗腫瘍効果を発揮し得るものである。加えて、FUTが既存の抗癌・抗腫瘍剤に対して優れた併用効果を有することから、結果的に抗癌・抗腫瘍剤の投与量を低減することが可能となり、患者に苦しみをもたらした多くの副作用を低減することが可能となった。さらに注目すべきことは、これらの併用効果が、本発明者らによって動物実験によっても確認されたことである。本発明者らは、特にヒト膵臓癌細胞を移植した動物において顕著な抑制効果を示すこと、体重減少等の副作用が全くないことを見出しており、これら実験事実は、有効な治療薬が切望されている膵臓癌に対して大きな期待をもたらすものであるばかりか、臨床への適用可能性が極めて高いことを意味するものである。
図1は、FUT処理によるNF−κBおよびIκBαの変化を示す図である(実施例1,2)。
図1−a、cは、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28を各濃度のFUTで処理した後の活性化NF−κBをゲルシフトアッセイにより検出した結果を示す図である。
図1−b、dはヒトMDAPanc−28を各濃度のFUTで処理した後の細胞質画分のIκBをウェスタンブロットにより検出した結果を示す図である。
図2は、FUT処理によるIKK活性、リン酸化IκBα量の変化、およびアポトーシスの誘導を示す図である(実施例2,3,4)。
図2−aは、FUT処理前後のMDAPanc−28細胞質画分中のIKK1、IKK2発現をウェスタンブロットにより検出した結果と、それぞれの細胞質画分の酵素活性(リン酸化されたIκBα量)を検出した結果を示す図である。
図2−bはFUT処理のMDAPanc−28細胞質中のリン酸化IκBα量を経時的に検出した結果を示す図である。
図2−cはMDAPanc−28を各濃度のFUTで処理した後のDNAを抽出し、分断化が起こっているか否かを検出したものを示す図である。
図3は、FUT処理によるTNFRI発現量増強を示す図である(実施例5)。
図3−a及び図3−bは、MDAPanc−28細胞をFUTで処理した後のTNFRIのmRNA発現および蛋白発現の変化を示した図である。
図4は、FUT処理によるTNFRI発現上昇のメカニズムを検討した結果を示す図である(実施例6)。
図4−aは、異なるサイズのTNFRIプロモーターを含むベクターを作成し、それぞれを組み込んだ細胞を用いてレポータージーンアッセイを行った結果を示した図である。−384と−211bpの間にTNFRIの発現を誘導する転写因子の結合部位が存在することが明らかとなった。
図4−bは、さらにTNFRIの発現を誘導する転写因子の結合部位を特定するために、2種類のプライマーを用いてPCRを行い、ゲルシフトアッセイを行った結果を示した図であり、−345と−286bpの間に転写因子の結合部位が存在することが明らかとなった。
図4−cは、PEA3のcDNAをトランスフェクションした細胞ではTNFRIプロモーターの活性化が起こったが、コントロールの細胞では活性化が起こらなかったことを示した図である。
図5は、TNFRIプロモーター領域へのPEA3の結合を検討した結果を示す図である(実施例6)。
図5−aは、TNFRIプロモーター領域にPEA3が結合することを確認するために、PEA3プローブと、それに一部変異を入れたプローブを用いた、阻害実験の結果を示す図である。
図5−bは、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28対するFUT処理によるPEA3の発現の経時的上昇を示した図である。
図6は、FUTによるカスパーゼ8の活性化を示す図である(実施例7)。
図6−aは、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28を各濃度のFUTで24時間処理した後、細胞質画分を調整し、ウェスタンブロットを行い、抗カスパーゼ8抗体で検出した結果を示す。
図6−b,c,dは、FUTの処理濃度を一定とし(80μg/ml)、処理時間を0〜24時間の間で細かく取り、カスパーゼ8、p−FADD、Bid、jBidの発現の経時的変化をウェスタンブロットにより検出した結果を示す図である。
図7は、FUTとTNF−αの併用効果を示す図である(実施例8,9);ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28について以下の処理をした後、細胞質画分を調整しウェスタンブロットによりリン酸化FADD、カスパーゼ8、NF−κB、IκBαの発現を調べた結果を示している。
図7−aは、細胞をFUT(80μg/ml)で前処理した後、TNF−α(5ng/ml)で24時間刺激した場合である。
図7−bは、TNF−αにより活性化されたNF−κBが、FUT処理により抑制されることを示す図である。
図7−cは、IκBαの発現についての図である。
図8は、FUTとTNF−αの併用効果を示す図である(実施例9)。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をTNF−αで24時間処理した後、各濃度のFUTを添加しさらに24時間培養した。
図8−aは、このようにして培養された細胞についてMTTアッセイを行い、細胞生存率を算定した結果を示す図である。
図8−bは、DNAを抽出し、DNAフラグメンテーションアッセイを行った結果を示す図である。
図9は、FUTによるカスパーゼ8の活性化のメカニズムを検討した結果を示す図である(実施例10)。TNFRIの発現をsiRNA(small interfering RNA)により抑制した細胞を調整し、FUT処理をした後、FADDのリン酸化及びカスパーゼ8の活性化を検討した結果を示している。
図10は、FUT処理による、抗腫瘍剤ゲムシタビン誘導活性化NF−κBの抑制について示す図である(実施例11)。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をゲムシタビンで12時間処理した後、ゲルシフトアッセイを行い、NF−κBの活性化の有無を検討した結果を示す。
図10−aは、さらにゲムシタビンとFUTの併用効果を検討した結果を示す図である。
図10−bは、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をFUT、PS1145又はPS341で3時間前処理後、ゲムシタビン処理を3時間行い、ゲルシフトアッセイを行った結果を示す図である(実施例11)。
図11は、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28の生細胞率に対するFUT処理の影響を検討した結果を示す図である(実施例12)。FUT、PS1145又はPS341それぞれの薬剤単独での、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28の生存率に対する影響を検討した。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をそれぞれの薬剤で24時間及び48時間処理した後、MTTアッセイを行った結果示す図である。
図12は、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28のアポトーシスに対するゲムシタビンとNF−κB抑制剤との併用効果を検討した結果を示す図である(実施例13)。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をFUT、PS1145又はPS341で3時間前処理後、ゲムシタビンで48時間処理した細胞について、アポトーシスを起こしている細胞の割合を算定した。アポトーシスを起こしているか否かの確認は、FACScanを用いて測定した。
図13は、正常細胞に対する FUT処理の影響を示す図である(実施例14)。FUT処理のマウス繊維細胞に対する影響を検討した結果を示す。
図14は、FUT処理によるMMP−2、MMP−9の発現抑制を示す図である(実施例15)。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28を、FUT 0μg/mlまたは80μg/mlで処理した後、細胞質画分についてウェスタンブロットを行い、MMP−2およびMMP−9の発現を検討した結果を示す。
図15は、FUT処理のヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28に対する浸潤抑制効果を検討した結果を示す図である(実施例16)。FUT 80μg/mlで24時間処理した細胞、無処理の細胞を、それぞれマトリゲルをコーティングしたチャンバーに1ウェルあたり20000個播種し、37℃で22時間、FUT 80μg/ml存在下または非存在下でインキュベートした。ライトギムザ染色を行い、浸潤した細胞数を顕微鏡下で計数した結果を示す。
図15−aは、処置なし(対照)、図15−bは、FUT175(80μg/ml)22時間処理、図15−cは、FUT175(80μg/ml)24時間予備処理、図15−dは、FUT175(80μg/ml)24時間予備処理、22時間処理したものである。
図16は、ヒト膵がん細胞株Panc−1を皮下に5×106個移植し、移植後6週間後に腫瘤径が平均化するように3群に分け、Control群:処置なし(n=4)、GEM群(ゲムシタビン投与群):ゲムシタビン(100mg/kg,週1回,i.p.)(n=4)、FUT group:FUT−175(30mg/kg,週3回,i.p.)+ゲムシタビン(100mg/kg,週1回,i.p.)(n=4)、の処置を6週間行い、腫瘍サイズの測定を行った結果を示す図である(実施例17)。
図17は、上記図16の処置を行った後に、マウスの体重測定を行った結果を示す図である(実施例17)。
図18は、上記図16の処置を行った後に、摘出腫瘤の重量を測定した結果を示す図である(実施例17)。
図19は、上記図16の処置を行った後のマウスを写真撮影したものである。
本明細書において、「メシル酸ナファモスタット(FUT)」とは、上記したとおり、下記式で表される6−アミジノ−2−ナフチル p−グアニジノベンゾエート ジメタンスルホネート(6−Amidino−2−naphthylp−guanidinobenzoate dimethanesulfonate)を意味する。
メシル酸ナファモスタット(FUT)は、すでに本邦において承認されており、その効能効果は、
1)膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の急性膵炎、外傷性膵炎)の改善:
2)汎発性血管内血液凝固症(DIC):
3)出血性病変または出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析及びプラスマフェレーシス):である。
本願発明に係るメシル酸ナファモスタット(FUT)の投与量は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状などによっても異なるが、例えば患者に経口投与する場合、1日あたり、2.8mg/kg乃至9.6mg/kgで投与するのが望ましい。非経口投与の場合、その投与形態(例えば注射剤、外用剤、坐剤等)によっても異なるが一日投与量は、1.4mg/kg乃至4.8mg/kgが望ましい。
本願発明の薬剤は、経口投与のための固体組成物、液体組成物及びその他の組成物、あるいは非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤、経皮吸収性製剤、吸入剤等の形態を取ることができ、その使用形態については特に限定されるものではない。経口投与のための固体組成物には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセル及びソフトカプセルが含まれる。好ましくは、非経口投与のための注射剤である。
このような固体組成物においては、FUTからなる活性物質が、少なくともひとつの不活性な希釈剤、例えばラクトース、マンニトール、マンニット、グルコース、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、グルタミン酸またはアスパラギン酸のような溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤または丸剤は必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液体組成物においては、FUTからなる活性物質が、一般的に用いられる不活性な希釈剤(例えば精製水、エタノール)中に溶解される。これら液体組成物は、不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、防腐剤を含有していてもよい。
経口投与のためのその他の組成物としては、FUTからなる活性物質を含み、それ自体公知の方法により処方されるスプレー剤が含まれる。この組成物は不活性な希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような安定化剤、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。
本願発明による非経口投与のための液剤、例えば注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(登録商標)等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含んでいてもよい。これらはバクテリア保留フィルターを通すろ過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することもできる。
非経口投与のためのその他の組成物としては、メシル酸ナファモスタット(FUT)を有効成分として含み、常法により処方される注腸剤、外溶液剤、軟膏、塗布剤、坐剤等が含まれる。
吸入剤、エアゾール剤として使用するには、活性成分を溶液、懸濁液または微小粉体の形で、気体または液体噴射剤と共に、且つ所望により湿潤剤または分散剤のような通常の補助剤と共にエアゾール容器内に充填する。本願発明化合物は、ネブライザーまたはアトマイザーのような非加圧型の剤形にしてもよい。
併用に用いる既存の抗癌剤・抗腫瘍剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ゲムシタビン塩酸塩、ナイトロゲン・マスタード・N−オキサイド、サイクロホスファミド、メルファラン、カルボクオン、ブスルファン、ニマスチン塩酸塩、ラニマスチン、ダカルバジン、フルオロウラシル、テガフル、サイタラビン、アンサイタビン塩酸塩、ブロキシウリジン、ドキシフルウリジン、メルカプトプリン、チオイノシン、メトトレキセート、マイトマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、ピラルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、ネオカルジノスタチン、アクチノマイシンD、ヴィンクリスチン硫酸塩、ヴィンデシン硫酸塩、ヴィンブラスチン硫酸塩、エトポサイド、タモキシフェンクエン酸塩、プロカルバジン塩酸塩、マイトブロニトール、マイトキサントン塩酸塩、カルボプラチンおよびシスプラチンからなる群から選ばれる1以上の抗腫瘍剤を挙げることができる。特に好ましくはゲムシタビン塩酸塩である。
併用に用いるこれら既存の抗癌剤・抗腫瘍剤の好ましい投与量は、それぞれの薬剤に対してFDAや厚生労働省が規定乃至は推奨するところの投与量である。しかし、上記のとおりFUTとの併用によりその効果が増大されることから、上記規定の投与量より少ない投与量で十分な効果を発揮することが可能である。したがって、これら既存の抗癌剤・抗腫瘍剤のより好ましい投与量は、FDAや厚生労働省が規定乃至は推奨するところの投与量の0.3倍乃至1倍である。
また、これら既存の抗癌剤・抗腫瘍剤の投与方法は、FDAや厚生労働省が規定乃至は推奨するところの方法に従えばよい。また、これら既存の抗癌剤・抗腫瘍剤とFUTとの投与タイミングについては、これら薬剤を患者に同時に投与してもよいし、或いは既存薬の投与に先立ってFUTを投与しても、或いは逆に既存薬の投与した後にFUTを投与してもよい。
以下、本願発明を実施例により詳しく説明するが、これは例示的なものであり、本願発明はこれに限定されるものではない。
FUT175によるNF−κBの抑制;
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28に各濃度のFUTを添加し、NF−κB活性化に及ぼす影響を調べた。MDAPanc−28は常にNF−κBが活性化している細胞株である。各濃度のFUTで処理後の細胞の核抽出物についてκBプローブを用いたゲルシフトアッセイを行い、活性化し核移行しているNF−κBを検出した。具体的には、10μgの核抽出物をバインディングバッファー(75mM NaCl,15mM Tris−HCl,pH7.5,1.5mM dithiothreitol,25% glycerol,20mg/ml bovine serum albumin)中で、30分間、4℃の条件下、1μgのpoly(dI−dC)(Pharmacia,Picataway,N.J.)と反応させた。32P標識したオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号1〜4)を室温で20分反応させた後、電気泳動を行った(4%polyacrylamide gel,0.25xTBE;22.5mM Tris,22.5mMborate,500uM EDTA,pH8.0)。ゲルは80℃で1時間乾燥させた後、−80℃にてKodak film(Eastman Kodak Co.,Rochester,N.Y.)に露光させ、検出した。陽性コントロールとしては、Oct−1を用いた。
結果を図1−a、cに示した。FUTの濃度依存的にNF−κBの活性化が抑制された。またFUT添加後24時間目までは経時的にNF−κBの活性化が抑制され、48時間目には定常状態に戻っていた。
FUTによるリン酸化IκBαの減少;
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28に各濃度のFUTを添加し、IκBαに及ぼす影響を調べた。各濃度のFUTで処理後の細胞の細胞質抽出液を常法に従って抽出し、ウェスタンブロットにより、各蛋白を検出した。具体的には、1レーンあたり50μgの蛋白を添加し、電気泳動を行った。PVDF膜(Osmonics)に転写し、5%nonfat milk含有PBS中で、室温、2時間のブロッキングを行った。次に0.1%nonfat milk含有PBSで希釈した1次抗体(抗IκBα抗体)を4℃で一晩反応させた。PVDF膜をPBSで洗浄し、0.1%nonfat milk含有PBSで希釈した2次抗体液を室温、2時間反応させた。蛋白の検出はLumi−Ligh Western Blotting Substrateで行った。
結果を図1−b、d及び図2−bに示した。図1−bでは、FUTの濃度依存的に細胞質中のIκBαが増加しているのがわかる。これは、細胞質中で不活性型のNF−κBに結合した状態のIκBαがFUTの濃度依存的に増加していることを示している。図1−dはFUT添加後24時間目まではNF−κBの不活性化に伴い細胞質中のIκBα量が増加するが、48時間後には定常状態に戻っていることを示している。この結果は実施例1に示したNF−κBの活性化と相関しているものである。図2−bの実験では、1次抗体として、リン酸化したIκBαのみを認識できる抗体を用いている。FUTの添加により細胞質中のリン酸化したIκBαが経時的に減少しており、NF−κBの活性化が抑制されていることを示すものである。
FUTによるIKK活性の変化;
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をFUTで処理した後、氷冷したPBSで洗浄し、800μgの細胞質画分を調製した。グルタチオンセファローズビーズ(Amersham Pharmacia Biotech)を添加し、4℃で3時間転倒混和し、非特異的吸着画分を取り除いた。上清に抗IKK1/2抗体(Santa Cruz Biotechnology)4μgを添加し、4℃で一晩反応させた後、グルタチオンセファローズビーズを添加し4℃で3時間混和した。免疫複合体が結合したビーズをPBSで2回洗浄したものを、免疫沈降と酵素活性測定に用いた。
酵素活性測定においては、上記のビーズをキナーゼバッファー(150mM NaCl,25mM beta−glycerophosphate,10mM MgCl2含有25mM HEPES)で洗浄し、酵素反応を行った。5uCiの32P標識γ−ATPと、基質であるGST−IκBαを1μg含むキナーゼバッファー中で37℃、30分反応させた。SDSサンプルバッファーで反応を停止し、SDS−PAGEを行い、オートラジオグラフィーにより検出した。
その結果を図2−aに示した。FUT処理により、IKK1およびIKK2の発現量に変化は生じないが、IKK1,IKK2の酵素活性が低下し、リン酸化し得るIκBα量が減少しているのがわかる。
FUTによる膵臓癌細胞のアポトーシス誘導
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をFUTで処理した後、DNA抽出バッファー(0.1mM EDTA,0.5%SDS,20μg/ml RNase含有10mM Tris,pH8.0)中、37℃、1時間インキュベートした。1000U/mlのプロテイナーゼKを添加し、50℃で5時間インキュベートした。DNAをフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで抽出後、水溶性画分を回収し、イソプロパノール及び酢酸アンモニウムを添加し、沈殿を回収した。沈殿を70%エタノールで洗浄し、Tris−EDTAバッファーに溶解させた。2%アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、エチジウムブロマイドにてDNAのバンドを確認した。
その結果を図2−cに示した。40μg/ml以上のFUTで処理したMDAPanc−28細胞では、DNAの断片化が生じており、FUTによってアポトーシスが誘導されたことを示している。
FUTによるTNF受容体typeI(以下TNFRIという)の発現の上昇
FUTによって誘導される癌細胞のアポトーシスが、どのような作用メカニズムによって起こるのかを明らかにするために、FUT処理によるヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28におけるTNFRIの発現の変化を確認した。
ハイブリダイゼーションに用いるためのcDNAプローブを以下の方法で作成した。FUTで処理したヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28よりTRIZOL Reagent(Life Technologies,Inc.)を用いてRNAを抽出した。15μgのRNAを1%変性ホルムアルデヒドアガロースゲルを用いて電気泳動し、ナイロン膜に転写した。TNFRIのmRNAの検出に用いるcDNAプローブを作成するために、RT−PCRを行った。このとき、配列番号5および6に示したプライマーを用いた。得られたcDNAをpCR2.1−TOPOベクターに導入した。得られたcDNAの塩基配列は、Gene Bankの配列と一致した。作成したcDNAプローブを、ランダムラベリングキット(Roche)を用いてα−32PdCTPで標識し、ハイブリダイゼーションに使用した。
TNFRIのmRNA発現は上記プローブを用いて定法に従い、ノーザンブロット法により確認した。図3−aに示したように、FUTの濃度依存的にTNFRIのmRNA発現は増加した。また、細胞表面上のTNFRIの発現はウェスタンブロット法により検出した。具体的方法は実施例2に示したものと同様である。検出には、Mouse monoclonal anti−TNFR1(H−5;Santa Cruz Biotechnology)を用いた。その結果、図3−bに示したようにFUT処理により細胞表面上のTNFRIの発現は増加した。
実施例1の結果と合わせると、活性型NF−κBとTNFRIは、その発現をお互いにフィードバック制御していることがわかる。
FUTによる転写因子PEA3の活性化;
NF−κBとTNFRIのフィードバック制御に関与している転写因子が何であるかを明らかにするために、異なるサイズのTNFRIプロモーターを含むベクターを作成し、レポータージーンアッセイを行った。その結果、−384と−211bpの間にTNFRIの発現を誘導する転写因子の結合部位が存在することが明らかとなった。
さらにTNFRIの発現を誘導する転写因子の結合部位を特定するために、2種類のプライマーの組み合わせ(配列番号7及び8、配列番号8及び9)を用いてPCRを行い、−384と−286bpの配列の前半部分の配列、後半部分の配列をそれぞれ認識する2種類のプローブを作成した。これらのプローブを用いて、実施例1と同様の方法でゲルシフトアッセイを行った。その結果、−345と−285bpの間に転写因子の結合部位が存在することが明らかとなった。検索ソフトIFTI−MIRAGEを用いて解析したところ、この配列に結合する転写因子はPEA3であることが判明した(図4)。
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28に、TNFRIプロモーター領域にルシフェラーゼ遺伝子を結合した配列を導入したベクターと、PEA3のcDNAをトランスフェクションし、レポータージーンアッセイを行った。PEA3のcDNAをトランスフェクションした細胞ではTNFRIプロモーターの活性化が起こったが、PEA3のcDNAをトランスフェクションしていないコントロールの細胞では活性化が起こらなかった。
TNFRIプロモーター領域にPEA3が結合することを確認するために、PEA3プローブと、それに一部変異を入れたプローブを用いて、阻害実験を行った。常にNF−κBが不活性型になっている細胞(MDAPanc−28/IκBα)においては、TNFRIの高い発現が見られ、標識したPEA3プローブがTNFRIプロモーター領域に結合する。それに対して上記の2種類の非標識のプローブを導入して阻害活性を比較したところ、非標識のPEA3プローブを入れた方では標識PEA3プローブの結合阻害が起きたが、非標識の変異プローブを入れた方では全く起きなかった(図5−a)。また、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28対するFUT処理によってPEA3の発現が経時的に高くなることも示された(図5−b)。
FUTによるカスパーゼ8の活性化;
FUT処理によるTNFRIの発現レベルの上昇に伴って、アポトーシスシグナルカスケードが動くか否かを、カスパーゼ8の活性化を指標に検討した。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28を各濃度のFUTで24時間処理した後、細胞質画分を調整し、ウェスタンブロットを行い、抗カスパーゼ8抗体(Santa Cruz Biotechnology)で検出した(図6−a)。FUTの処理濃度を一定とし(80μg/ml)、処理時間を0〜24時間の間で細かく取り、カスパーゼ8、p−FADD、Bid、jBidの発現の経時的変化をウェスタンブロットにより調べた(図6−b,6−c,6−d)。抗FADD抗体はSanta Cruz Biotechnology社、抗Bid抗体はBD Pharmingen社のものを用いた。
FUT処理の濃度依存的にカスパーゼ8の活性化が起こることから、FUTはNF−κBの活性化抑制と、TNFR1の発現誘導に加えて、アポトーシスシグナルカスケードの始動についても重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに、図6−b、cに示したように、FUT処理により経時的にFADDのリン酸化が促進し、その後カスパーゼ8の活性化が促進することから、TNFが誘導するアポトーシス経路において、FADDがカスパーゼ8の活性化によるアポトーシスシグナルカスケードの始動に関与していることも明らかとなった。JNKを介した経路において必須であるBidの分解産物JBidの発現もまた同様に経時的に増加していた(図6−d)。以上のことから、FUTによるカスパーゼ8の活性化には、FADD及びJNKを介した2つの独立した経路が関与していることが明らかとなった。
FUTとTNF−αの相乗効果1;
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28について以下の処理をした後、細胞質画分を調整しウェスタンブロットによりリン酸化FADD、カスパーゼ8、NF−κB、IκBαの発現を調べた。まず、細胞をFUT(80μg/ml)で前処理した後、TNF−α(5ng/ml)で24時間刺激場合には、図7−aに示すようにFADDのリン酸化及びカスパーゼ8の活性化は、FUT処理単独に比べ、TNF−α処理によって増強した。また、TNF−αにより活性化されたNF−κBが、FUT処理により抑制されることも明らかとなった(図7−b)。IκBαの発現も同様であった(図7−c)。
FUTとTNF−αの相乗効果2;
癌細胞のアポトーシスに対するFUTとTNF−αの併用効果を調べた。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をTNF−αで24時間処理した後、各濃度のFUTを添加しさらに24時間培養した。これらの細胞について定法に従ってMTTアッセイを行い、細胞生存率を算定した。またDNAを抽出し、DNAフラグメンテーションアッセイを行った。
MTTアッセイについて具体的には、細胞2000個を96穴マイクロタイタープレートに100μlの培地中播種し、上記処理を行った後、プレート遠心し、5mg/ml MTT(Sigma)PBS溶液に置き換え37℃、4時間インキュベートした。上清を除去し、DMSOを100μl添加し、細胞を溶解した。570nmの吸光度をマイクロプレートリーダーを用いて測定した。8穴について同条件で実験を行った。独立した実験を合計2回行い、それらの平均値を算定した。DNAフラグメンテーションアッセイについては、実施例4と同様の方法で行った。
結果を図8に示した。コントロールと比較して、FUT処理により細胞の生存率が顕著に低下した。さらにTNF−αを併用することにより、生存率は低下傾向にあった(図8−a)。また、DNAフラグメンテーションについては、TNF−α 5ng/mlのみの処理では起こらないのに対し、FUTを併用することにより起こるようになった(図8−b)。以上のことから、FUTとTNF−αの併用により、癌細胞のアポトーシスを相乗的に起こすことができることが明らかとなった。
FUTによるカスパーゼ8の活性化のメカニズム;
FUT処理によってTNFRIの発現が上昇することが、カスパーゼ8の活性化に必要であるか否かを確認するために、TNFRIの発現をsiRNA(small interfering RNA)により抑制した細胞を調整した。
図9に示すように、TNFRIの発現が抑制された細胞については、FUTを処理しても、FADDのリン酸化及びカスパーゼ8の活性化も起こらなかった。従って、FUTによるカスパーゼ8の活性化はTNFRI依存的であることが明らかとなった。
FUT処理による、抗腫瘍剤ゲムシタビン誘導の活性化NF−κBの抑制;
化学療法剤の中には、細胞内のNF−κBの活性化を誘導し、その結果薬剤耐性を引き起こすものがあり、問題になっている。そこで、本発明者らはまず、ゲムシタビンがヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28に作用してNF−κBの活性化を誘導するか否かを確認した。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をゲムシタビンで12時間処理した後、常法に従ってゲルシフトアッセイを行い、NF−κBの活性化の有無を検討した。具体的には、実施例1に記載した方法と同様の方法により行った。その結果、図10−aに示すように、ゲムシタビン処理によりNF−κBの活性化が誘導されることが確認できた。
次に、ゲムシタビンとFUTの併用効果を検討した。同時に、他のNF−κB阻害剤であるPS1145およびPS341との比較も行った。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をFUT、PS1145又はPS341で3時間前処理を行った。その後ゲムシタビン処理を3時間行った後に、ゲルシフトアッセイを行いNF−κBの活性化に対する影響を検討した。その結果、図10−bに示すように、FUTはゲムシタビンによって誘導されるNF−κBの活性化を抑制する作用を有することが明らかとなった。他の2種類の薬剤についても同様の傾向を示したが、FUTによる抑制効果が最も顕著であった。
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28の生細胞率に対するFUT処理の影響;
FUT、PS1145又はPS341はNF−κBの活性化抑制効果を示したが、これらの薬剤は異なった作用メカニズムを有する異なったタイプの薬剤であるので、それぞれの薬剤単独での、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28の生存率に対する影響を検討した。ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28をそれぞれの薬剤で24時間及び48時間処理した後、MTTアッセイを行った。MTTアッセイは実施例9に記載した方法で行った。その結果、図11−aに示すようにFUTの濃度依存的にヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28の細胞増殖が抑制され、48時間目では24時間目と比較して生細胞率のわずかな増加が見られた。それに対してPS1145は、48時間処理においては、濃度依存的な増殖抑制効果を示したが、24時間処理においては、有意な抑制効果は示さなかった。また、PS341には、24時間処理、48時間処理とも有意な増殖抑制効果は見られなかった(図11−b、11−c)。以上より、FUT及びPS1145は、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28に対する増殖抑制効果を有していたが、その抑制効果はFUTの方が早い時間に起こることが明らかとなった。
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28のアポトーシスに対するゲムシタビンとNF−κB抑制剤との併用効果の検討;
FUT、PS1145およびPS341は、ゲムシタビン誘導のNF−κBの活性化を抑制する作用を有することが明らかとなったが、ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28のアポトーシス誘導に関してはどのような効果を有するかについて検討した。FUT、PS1145又はPS341で3時間前処理後、ゲムシタビンで48時間処理した細胞について、アポトーシスを起こしている細胞の割合を算定した。アポトーシスを起こしているか否かの確認は、フローサイトメトリーにより行った。薬剤処理後の細胞を回収し、70%エタノールで−20℃の条件下で24時間固定した。細胞をPBSで洗浄し、50μg/mlプロピウムイオダイド、0.1%トライトンX−100、0.1%クエン酸ナトリウム、1μg/ml Dnase free RNase含有PBSに懸濁した。室温で30分インキュベートした後、DNA量をFACScanを用いて測定した。その結果、図12に示すように、ゲムシタビン単独でもアポトーシスを誘導したが、FUT、PS1145またはPS341とゲムシタビンを併用することにより、その効果がさらに増大した。
正常細胞に対する FUT処理の影響;
抗腫瘍剤としての有効であると判断されるためには、正常細胞に対して影響がないということが重要である。そこで、次にFUT処理の正常細胞に対する影響を検討した。正常細胞としては、マウス繊維細胞を用いた。その結果、80μg/mlの濃度のFUTで処理しても、細胞の生存率には影響が見られなかった(図13)。それに対して、他のNF−κB阻害剤であるPS1145およびPS341は、細胞にアポトーシスを誘導する濃度で用いると、正常細胞の生細胞率を顕著に減少させることが明らかとなった。
FUT処理によるMMP−2, MMP−9の発現抑制;
ヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28を、FUT 0μg/mlまたは80μg/mlで処理した後、細胞質画分を調製した。得られた細胞質蛋白についてウェスタンブロットを行い、MMP−2およびMMP−9の発現を検討した。具体的な実験方法は実施例2に示した通りである。検出にはウサギポリクローナル抗MMP−2抗体、ヤギポリクローナル抗MMP−9抗体、マウス抗B−アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)を用いた。その結果、図14に示すように、FUTの濃度依存的にMMP−2,MMP−9の発現が抑制された。
FUT処理による膵臓癌細胞株の浸潤抑制;
FUT処理によるヒト膵臓癌細胞株MDAPanc−28の浸潤抑制効果を検討するために、マトリゲル浸潤アッセイを行った。FUT 80μg/mlで24時間処理した細胞、無処理の細胞を、それぞれマトリゲルをコーティングしたチャンバーに1ウェルあたり20000個播種した。37℃で22時間、FUT 80μg/ml存在下または非存在下でインキュベートした。常法に従ってライトギムザ染色を行い、浸潤した細胞数を顕微鏡下で計数した。その結果を図15に示した。FUTで前処理した細胞群において、顕著な浸潤抑制効果が見られた。
FUT175およびゲムシタビンのin vivo投与効果;
雄性のヌードマウス(8週)にたいしてヒト膵がん細胞株Panc−1を皮下に5×106個移植し、移植後6週間後に腫瘤径が平均化するように3群に分けて、それぞれの群に以下の処置を行った。Control群:処置なし(n=4)、GEM群(ゲムシタビン投与群):ゲムシタビン(100mg/kg,週1回,i.p.)(n=4)、FUT group:FUT−175(30mg/kg,週3回,i.p.)+ゲムシタビン(100mg/kg,週1回,i.p.)(n=4)、以上の処置を6週間行い、腫瘍サイズの測定、体重の測定、摘出腫瘤重量の測定、写真撮影を行った。
腫瘍サイズの測定結果を図16に示した。Control群に対して、ゲムシタビン単独投与群では、腫瘍サイズが約50%に、FUTの併用群では約25%にまで退縮した。この事実は、誰しも予想し得ない驚くべき成果であった。投与後のマウスの体重を図17に示した。ゲムシタビン単独投与群では、体重減少が観察されたが、驚くべきことにFUTとの併用群では、全く体重減少が見られず、コントロール群と同等であった。また、摘出腫瘤重量は、図18に示すように、Control群に対して、ゲムシタビン単独投与群で約50%に、FUTとの併用群では約6%にまで退縮していた。図19には、処置後のマウスの様子を写真撮影したものを示した。FUTとの併用群で、腫瘍が著しく退縮しているのがわかる。
上記試験結果から明らかなとおり、ゲムシタビンとFUTの併用は、優れた抗腫瘍効果をもたらすだけでなく、体重減少等の重篤な副作用が全く観察されなかった。これは腫瘍患者にとって大いなる福音であり、早期の実用化が期待される。
本願発明の抗腫瘍剤は、腫瘍細胞におけるIKKの抑制により、IκB−αのリン酸化を抑制し、さらにはNF−κBの活性化を抑制するというメカニズムにより腫瘍細胞の増殖を阻止する新しいタイプの薬剤である。現時点で有効な治療方法および化学療法剤が存在しない膵臓癌に特に有効であり、さらには癌転移を抑制する効果も有している。更には既存の抗腫瘍剤によって引き起こされる薬剤耐性を抑制する効果も有しているため、本発明の抗腫瘍剤単独のみならず、既存の抗腫瘍剤との併用により、さらに高い抗腫瘍効果を発揮するものである。最も注目すべきは、これらの顕著な抗腫瘍効果が、動物実験においても確認できている点である。すでに承認済みの薬剤なのでその安全性も確認されているため、副作用の恐れもなく、安全な抗腫瘍剤としてその実用化が期待される。特に、ゲムシタビン塩酸塩に対してFUTを併用した場合には、体重減少等の副作用が観察されず、腫瘍治療に対する効果のみならず、その安全性が大いに記載される。
[配列表]

Claims (12)

  1. 下記式で表される6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩を有効成分として含有してなる抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤。
  2. 塩がメシル酸塩である請求項1に記載の抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤。
  3. 抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤が、それぞれ、膵臓癌治療剤、膵臓癌転移若しくは膵臓癌浸潤の抑制剤である請求項1又は2に記載の薬剤。
  4. 6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩を有効成分として含有してなるNF−κB抑制剤。
  5. 塩がメシル酸塩である請求項4に記載のNF−κB抑制剤。
  6. 6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート又はその薬理学上許容される塩を有効成分として含有してなるIKK(IκBリン酸化酵素)抑制剤。
  7. 塩がメシル酸塩である請求項6に記載のIKK(IκBリン酸化酵素)抑制剤。
  8. 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の薬剤と、他の抗腫瘍剤を組み合わせてなる医薬。
  9. 他の抗腫瘍剤がアルキル化剤、抗代謝薬、抗生物質、植物アルカロイド、白金錯体誘導体およびホルモンからなる群から選ばれる1以上の抗腫瘍剤である請求項8に記載の医薬。
  10. 他の抗腫瘍剤がゲムシタビン塩酸塩、ナイトロゲン・マスタード・N−オキサイド、シクロホスファミド、メルファラン、カルボクオン、ブスルファン、ニマスチン塩酸塩、ラニマスチン、ダカルバジン、フルオロウラシル、テガフル、サイタラビン、アンサイタビン塩酸塩、ブロキシウリジン、ドキシフルウリジン、メルカプトプリン、チオイノシン、メトトレキサート、マイトマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、ピラルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、ネオカルジノスタチン、アクチノマイシンD、ヴィンクリスチン硫酸塩、ヴィンデシン硫酸塩、ヴィンブラスチン硫酸塩、エトポサイド、タモキシフェンクエン酸塩、プロカルバジン塩酸塩、マイトブロニトール、マイトキサントン塩酸塩、カルボプラチンおよびシスプラチンからなる群から選ばれる1以上の抗腫瘍剤である請求項8または9に記載の医薬。
  11. 癌患者又は腫瘍患者に対して、請求項1に記載の抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤を投与することを特徴とする癌又は腫瘍の治療又は予防方法。
  12. 癌患者又は腫瘍患者に対して、請求項1に記載の抗腫瘍剤又は癌転移若しくは癌浸潤の抑制剤と他の抗腫瘍剤を同時に投与するか、または時期をずらして投与することを特徴とする請求項11に記載の癌又は腫瘍の治療又は予防方法。
JP2007526954A 2005-07-29 2006-07-28 6’−アミジノ−2’−ナフチル4−グアニジノベンゾエート又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤 Abandoned JPWO2007013696A1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2005220590 2005-07-29
JP2005220590 2005-07-29
PCT/JP2006/315455 WO2007013696A1 (ja) 2005-07-29 2006-07-28 6’-アミジノ-2’-ナフチル4-グアニジノベンゾエート又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPWO2007013696A1 true JPWO2007013696A1 (ja) 2009-02-12

Family

ID=37683563

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2007526954A Abandoned JPWO2007013696A1 (ja) 2005-07-29 2006-07-28 6’−アミジノ−2’−ナフチル4−グアニジノベンゾエート又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤

Country Status (5)

Country Link
US (1) US20100015249A1 (ja)
EP (1) EP1911449A1 (ja)
JP (1) JPWO2007013696A1 (ja)
CA (1) CA2616534A1 (ja)
WO (1) WO2007013696A1 (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CA2706656A1 (en) * 2007-11-26 2009-06-04 Nestec S.A. Compositions and methods for inhibiting the activation of dsrna-dependent protein kinase and tumor growth inhibition
MX2023010520A (es) * 2021-03-09 2023-09-20 Ensysce Biosciences Inc Composiciones de liberacion modificada de nafamostat y metodos para usar estas.

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4159836B2 (ja) 1995-05-12 2008-10-01 アンジェスMg株式会社 NF−κBに起因する疾患の治療および予防剤
JPH09227561A (ja) 1996-02-21 1997-09-02 Tanabe Seiyaku Co Ltd キサンチン誘導体
US20060024691A1 (en) * 2004-03-25 2006-02-02 Buck Institute For Age Research Novel pathways in the etiology of cancer
JP2006169156A (ja) * 2004-12-15 2006-06-29 Torii Yakuhin Kk 免疫調節剤としてのメシル酸ナファモスタット

Also Published As

Publication number Publication date
CA2616534A1 (en) 2007-02-01
EP1911449A1 (en) 2008-04-16
US20100015249A1 (en) 2010-01-21
WO2007013696A1 (ja) 2007-02-01

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US11331290B2 (en) Niclosamide for the treatment of cancer metastasis
US20230092181A1 (en) Intermittent dosing of mdm2 inhibitor
RU2597844C2 (ru) Введение гипоксически активируемых пролекарств и средств, препятствующих ангиогенезу, для лечения рака
US20160122758A1 (en) Agents for downregulation of the activity and/or amount of bcl-xl and/or bcl-w
RU2762573C2 (ru) Доза и режим введения для ингибиторов взаимодействия hdm2 с p53
JP2013533257A (ja) 血液癌の治療法
US10307401B2 (en) Compositions and methods for treatment of prostate cancer
WO2021263250A2 (en) Method of treating severe forms of pulmonary hypertension
CN110464844B (zh) Alox12抑制剂在制备心脏缺血再灌注损伤治疗药物中的应用
KR102034276B1 (ko) Idf-11774 및 자가용해소체 형성 저해제를 포함하는 암의 예방 또는 치료용 조성물
US11123314B2 (en) Pharmaceutical composition for preventing and treating pancreatic cancer, containing gossypol and phenformin as active ingredients
US7468355B2 (en) Methods for inhibiting cancer and scar formation
JP2020537695A (ja) ストレプトニグリンおよびラパマイシンを有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学的組成物
JPWO2007013696A1 (ja) 6’−アミジノ−2’−ナフチル4−グアニジノベンゾエート又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤
KR101878650B1 (ko) 내성암의 내성 극복 또는 치료용 약학 조성물
JP6937738B2 (ja) 特定の泌尿器系障害の治療における使用のためのil−8阻害剤
WO2021025148A1 (ja) 抗ccr4抗体抵抗性のがんの治療剤
CN112741896A (zh) 一种具缓解抗癌药物抗药性及增加抗癌药物敏感性的医药组合物及其用途
JP7352248B1 (ja) 抗がん剤
EP2908820A1 (en) Treatment of pulmonary fibrosis using an inhibitor of cbp/catenin
RU2597795C2 (ru) Ингибитор скопления жидкости в полостях организма
US20230270814A1 (en) Combination pharmaceutical of temozolomide and mutant idh1 enzyme inhibitor
US9872882B2 (en) Aurantiamide dipeptide derivatives for treatment or prevention of angiogenesis-related diseases
KR101599259B1 (ko) 혈관 신생작용 관련 질환 치료를 위한 HIF-1α 저해 화합물
WO2024054902A1 (en) Methods of treating ischemia-reperfusion injuries

Legal Events

Date Code Title Description
A762 Written abandonment of application

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A762

Effective date: 20090929

A762 Written abandonment of application

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A762

Effective date: 20091019