JPWO2007007841A1 - 人工膝関節 - Google Patents

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Abstract

骨性インピンジと軟部組織インピンジとの双方を回避でき、長期間の使用に耐える人工膝関節を提供することを目的とする。本発明の人工膝関節は、大腿骨コンポーネントと、脛骨トレイと、該脛骨トレイの上面に固定されたインサートプレートと、から成る。大腿骨コンポーネントは、大腿骨関節面と、該大腿骨関節面の後端部に設けられて大腿骨関節面より突出したカム部とを備え、インサートプレートは、大腿骨関節面と当接する脛骨関節面と、カム部と当接するカム摺動面と、を備えている。膝部伸展時には、大腿骨関節面が脛骨関節面に摺動する第1の摺動状態であり、90°〜160°の屈曲角度において、第1の摺動状態からカム部がカム摺動面に摺動する第2の摺動状態へ移行する。屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、第2の摺動状態により、大腿骨コンポーネントの骨切り面とインサートプレートの後端部とがオフセットする。

Description

本発明は、変形性膝関節症や慢性関節リウマチなどによって高度に変形した膝部の関節を、正常な機能に回復させるために用いる人工膝関節に関する。
人工膝関節は、大腿骨遠位部に固定する大腿骨コンポーネントと、脛骨の近位部に固定する脛骨コンポーネントとから構成されている。人工膝関節の一例としては、大腿骨コンポーネントの後部中央摺動部に、球状又は楕円球状の凸状摺動面が形成され、また、脛骨コンポーネントの後部中央摺動部に、球状又は楕円球状の凹部が形成された人工膝関節が知られている(例えば特許文献1)。凸状摺動面と凹状摺動面とは、膝部の屈曲時に嵌合し、後方で摺動回転することにより、可動域を向上させている。さらに、凸状摺動面の高さTと凹状摺動面の深さTとの関係を、T≦Tにすることにより、屈曲時においても、荷重を主関節面で支持しながら、凸状及び凹状摺動面が嵌合し摺動回転できるようにされている。
また、別の人工膝関節として、脛骨要素と大腿骨要素とから構成されていて、大腿骨要素の関節表面が遠位顆から上顆まで滑らかに伸びており、そして、少なくとも160°の可動域を有している人工膝関節が知られている(例えば特許文献2)。
特開平4−158860号公報 特開平11−313845号公報
しかしながら、特許文献1の人工膝関節では、150°以上まで屈曲すると、大腿骨の残骨と大腿骨コンポーネントとが接触する骨性インピンジが発生する(特に特許文献1の図4参照)。骨性インピンジが起こると、それ以上の屈曲ができなくなる。正座をする場合の屈曲角度は、一般的に160°程度といわれているので、この人工膝関節で正座することができない症例もあった。
骨性インピンジを回避するためには、大腿骨の関節部分を切除する骨切りのときに、残骨を適切に整形することも有効である。しかしながら、そのような骨の整形は高度な熟練技術を要する。そのため、より簡便に骨性インピンジを回避できる人工膝関節が求められている。
特許文献2の人工膝関節は、脛骨要素の棘と大腿骨要素のカムとが接触し摺動することにより、屈曲角度160°まで骨性インピンジを回避して、深屈曲を可能にしている。しかしながら、160°まで深屈曲して骨性インピンジが生じると、膝関節周囲の軟部組織が大腿骨3の残骨や大腿骨コンポーネント2と接触する、いわゆる軟部組織インピンジまでもが生じると考えられている。この軟部組織インピンジは、軟部組織の損傷に繋がる恐れがあるので、回避するのが望ましい。軟部組織インピンジを回避するためには、人工膝関節の屈曲角度の許容範囲(可動域)を、実際の膝運動で発生する屈曲角度の角度範囲よりも広く設計することが効果的である。
また、この特許文献2では、脛骨コンポーネントの棘が超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)製であり、そして、大腿骨コンポーネントのカムが摺動するときに棘とカムとの接触する面積が小さい。そのため、比較的短期間の使用であっても、カムと接触している棘の表面部分が局部的に異常摩耗し、その結果として人工膝関節置換の再手術を余儀なくされる問題があった。
このように、通常の生活をするときに、骨性インピンジの発生と軟部組織インピンジの発生との双方を回避するためには、人工膝関節の屈曲可能な可動域を少なくとも屈曲角度160°以上にまで拡張した工膝関節を使用することが望まれる。そこで、本発明の目的は、屈曲角度160°以上の可動域を有する人工膝関節を提供することである。
本発明の別の目的は、大腿骨の整形の程度にかかわらず、確実に骨性インピンジを回避できる人工膝関節を提供することである。
また、本発明のさらなる目的は、人工膝関節を構成する部品の局部的な異常摩耗を低減して、長期間の使用に耐える人工膝関節を提供することである。
また、一般的な人工膝関節では、脛骨コンポーネントの摺動部材(インサートプレート)は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から形成されている。このインサートプレートは、金属製又はセラミックス製の大腿骨コンポーネントが当接して摺動することにより、微量ではあるが摩耗している。よって、人工膝関節を体内で長期間にわたって使用すると、インサートプレートの厚みが減少することが知られている。そこで、一般的には、インサートプレートの厚みを、摩耗分を加味して所定の厚さ(一般的には2〜5mm程度)に設定する。しかしながら、インサートプレートの摺動面は、通常は、インサートプレート上面よりもくぼんだ凹状曲面であるので、摺動面の厚さを保持するには、インサートプレート全体の厚さを、上記の所定の厚さよりも厚くしなくてはならない。インサートプレートの厚さが増加すると、脛骨の骨切り量が増え、手術後の骨折の危険性が増加する、という問題があった。
そこで、本発明の別の目的は、インサートプレートの摺動面の厚さを維持しながら、骨切り量を減らすことのできる人工膝関節を提供することである。
本発明の第1の人工膝関節は、大腿骨の遠位部に固定される大腿骨コンポーネントと、脛骨の近位部に固定される脛骨トレイと、該脛骨トレイの上面に固定されて大腿骨コンポーネントが摺動するインサートプレートと、から成る人工膝関節において、大腿骨コンポーネントが、湾曲した2つの大腿骨関節面と、該大腿骨関節面の後端部に設けられて大腿骨関節面より突出した楕円球状もしくはほぼ円柱状のカム部とを備えており、インサートプレートが、2つの大腿骨関節面の各々と当接する2つの脛骨関節面と、カム部と当接するカム摺動面と、を備えており、膝部伸展時には、大腿骨関節面が脛骨関節面に摺動する第1の摺動状態であり、90°〜160°の屈曲角度において、主な接触面が、第1の摺動状態からカム部がカム摺動面に摺動する第2の摺動状態へ移行し、屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、第2の摺動状態により、大腿骨コンポーネントの骨切り面とインサートプレートの後端部とがオフセットすることを特徴とする。
本発明において、「オフセット」とは、屈曲角度180°の深屈曲時に、大腿骨コンポーネントの骨切り面と、インサートプレートの後端部とが離間していることを意味している。
本発明の第2の人工膝関節は、大腿骨の遠位部に固定される大腿骨コンポーネントと、脛骨の近位部に固定される脛骨トレイと、該脛骨トレイの上面に固定されて大腿骨コンポーネントが摺動するインサートプレートと、から成る人工膝関節において、大腿骨コンポーネントが、湾曲した内側及び外側の2つの大腿骨関節面と、2つの大腿骨関節面の後端部を接続する接続部と、外側の大腿骨関節面の後端部に形成された凹状の大腿骨外側オフセット曲面と、を備えており、インサートプレートが、2つの大腿骨関節面が摺動する内側及び外側の2つの脛骨関節面と、接続部と摺動可能に当接する曲面を後部に備えたスパインと、大腿骨外側オフセット曲面が摺動するようにインサートプレートの後端縁部に形成された脛骨外側オフセット曲面と、を備えており、膝部伸展時には、外側及び内側の2つの大腿骨関節面が脛骨関節面に摺動可能に当接する第1の摺動状態であり、90°〜160°の屈曲角度において、第1の摺動状態のうちの外側の関節面の当接が、大腿骨外側オフセット曲面が脛骨外側オフセット曲面に摺動可能に当接する第3の摺動状態に移行し、且つ大腿骨コンポーネントの接続部とインサートプレートのスパインの後部曲面とが摺動可能に当接する第4の摺動状態が形成され、屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、第3及び第4の摺動状態により、大腿骨コンポーネントの骨切り面とインサートプレートの後端部とがオフセットすることを特徴とする。
本発明の第1及び第2の人工膝関節は、大腿骨コンポーネントの骨切り面とインサートプレート後端部とが最も接近する屈曲角度180°であっても、骨切り面とインサートプレート後端部とが接触することなく離間している、つまりオフセットしている。これは、0°〜180°の屈曲角度の範囲で、骨性インピンジが生じず、理論的には180°までの深屈曲が可能であることを意味している。
第1の人工膝関節と第2の人工関節では、大腿骨関節面と脛骨関節面とが当接する第1の摺動状態から、別の部分が当接する第2乃至第4の摺動状態に移行することにより、上記のオフセットが達成される点で共通している。しかしながら、オフセットするために必要な構成が異なっている。
第1の人工膝関節は、第1の摺動状態から、カム部がカム摺動面に当接して摺動する第2の摺動状態に移行することにより、オフセットを可能にしている。第1の摺動状態であれば、従来の人工膝関節と同様に、屈曲角度120°〜160°程度で骨性インピンジが生じる。本発明は、骨性インピンジが生じる前に、第1の摺動状態から第2の摺動状態に移行することにより、大腿骨コンポーネントとインサートプレートとの間を離して、深屈折であっても骨性インピンジの発生を回避することができる。そのため、骨切り面に合わせて大腿骨の遠位部を切除する基本的な施術を行うことができれば、高度な骨の整形技術がなくても、骨性インピンジを回避できる。
第1の人工膝関節は、第2の摺動状態においても、大腿骨コンポーネントのカム部と脛骨コンポーネントとのカム摺動面との接触面積が、特許文献2の棘とカムとの接触面積に比べて大きいので、局所的な応力の偏重がない。よって、インサートプレートの局部的な異常摩耗が起こりにくく、長期間にわたって使用することができる。
また、健康な膝関節では、正座した場合には、膝関節が10〜30°程度で内旋するが、本発明の人工膝関節も、第2の摺動状態であれば、膝関節の回旋が可能であり、自然な膝関節の運動を実現することができる。
第2の人工膝関節は、第1の摺動状態で当接している2つの当接部分の少なくとも一方が、大腿骨外側オフセット曲面が脛骨外側オフセット曲面に当接して摺動する第3の摺動状態に移行することにより、オフセットを可能にしている。第3の摺動状態では、大腿骨コンポーネントの後端部の大腿骨外側オフセット曲面が、インサートプレートの後端縁部に形成された脛骨外側オフセット曲面に引っかかる状態になり、大腿骨コンポーネントの外側が上方及び後方に僅かにずれ上がる。これにより、大腿骨コンポーネントとインサートプレートとの間が、さらに離れるので、深屈折であっても骨性インピンジの発生を回避することができる。そのため、骨切り面に合わせて大腿骨の遠位部を切除する基本的な施術を行うことができれば、高度な骨の整形技術がなくても、骨性インピンジを回避できる。
また、第2の人工膝関節では、第3の摺動状態が形成されると、大腿骨コンポーネントの外側が後方に移動することから、大腿骨コンポーネントが自動的に内旋して、自然な膝関節の運動を実現することができる。内旋が生じる屈曲角度や内旋の程度は、大腿骨外側オフセット曲面の形成位置と寸法により、任意に調節することができる。
さらに、第2の人工膝関節では、第3の摺動状態が形成されたときに、大腿骨コンポーネントが前方にずれないように、2つの大腿骨関節面の後部をつなぐ接続部をスパインの後部曲面に当接して摺動する第4の摺動状態が形成されるのが好ましい。
第4の摺動状態は、特許文献2の棘(スパインに相当)とカム(接続部に相当)との摺動に相当するものであり、棘の異常摩耗が問題になる可能性がある。しかし、本発明では、大腿骨コンポーネントは、第3の摺動状態によって、前方にずれるのを十分に抑制されているので、第4の摺動状は、大腿骨コンポーネントの前方へのずれを補助的に抑制しているのみである。よって、第4の摺動状態においてスパインの後部曲面にかかる荷重は、特許文献2に比べて大幅に抑制されており、スパインの異常摩耗が起こりにくい。
本発明の第1及び第2の人工膝関節では、第1の摺動状態で骨性インピンジが生じる屈曲角度よりも小さい屈折角度で、第1の摺動状態から第2乃至第4の摺動状態に移行する必要がある。この摺動状態の移行が起こる屈曲角度は、第1の人工膝関節ではカム部及びカム摺動面の寸法形状により、第2の人工膝関節では大腿骨外側オフセット曲面の形成位置及び寸法により、それぞれ調節することができる。この移行の起こる屈曲角度を、本発明では「オフセット角度」と称する。オフセット角度は、90°〜160°の範囲で、任意に設定することができる。これにより、膝関節に大きい荷重のかかる屈曲角度90°以下では、2つの関節面が当接しているので膝部が安定し、また第1の摺動状態であれば骨性インピンジを避けられない屈曲角度160°以上では、第2乃至第4の摺動状態に移行して、骨性インピンジを避けることができる。
本発明の人工膝関節は、可動域が屈曲角度0°〜180°であり、理論的には180°までの深屈曲を達成できる。これにより、骨性インピンジを回避して自由に深屈曲できるだけでなく、深屈曲時に軟部組織インピンジが生じるのを抑制できる。よって、本発明の人工膝関節は、膝関節置換術を行った患者にとって、歩行時に安定しており、正座しても痛みを伴わないものであり、快適な生活を提供することができる。
本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の側面図である。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の斜視図である。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の正面図である。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の背面図である。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の上面図である。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す側面図であり、屈曲角度0°(膝部の伸展時)の状態を示している。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す側面図であり、屈曲角度90°の状態を示している。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す側面図であり、屈曲角度180°(膝部の深屈曲時)の状態を示している。 本発明の実施形態1にかかる人工膝関節の内旋動作を示す上面図(A)及び側面図(B)を示す。 本発明の実施形態2にかかる人工膝関節の側面図である。 本発明の実施形態2にかかる人工膝関節の2つの形態を示している(A、B)。 本発明の実施形態3にかかる人工膝関節の側面図(A)と、比較例の側面図(B)である。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の内側の側面図である。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の外側の側面図である。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の斜視図である。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の正面図である。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す内側(A)及び外側(B)の端面図であり、屈曲角度90°の状態を示している。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す内側(A)及び外側(B)の端面図であり、屈曲角度120°の状態を示している。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す内側(A)及び外側(B)の端面図であり、屈曲角度150°の状態を示している。 本発明の実施形態4にかかる人工膝関節の屈曲動作を示す内側(A)及び外側(B)の端面図であり、屈曲角度180°(膝部の深屈曲時)の状態を示している。
符号の説明
1 人工膝関節
2 大腿骨コンポーネント
21 カム部(接続部)
22 顆
22a 内側顆
22b 外側顆
23 後端部
25 大腿骨関節面
25a 内側の大腿骨関節面
25b 外側の大腿骨関節面
3 脛骨コンポーネント
31 脛骨トレイ
4 インサートプレート
41 カム摺動面(後部曲面)
45 脛骨関節面
45a 内側の脛骨関節面
45b 外側の脛骨関節面
52 大腿骨外側のオフセット関節面
6 大腿骨
61 残骨
7 骨切り面
82 脛骨外側のオフセット曲面
(実施形態1)
本発明の人工膝関節1は、図1〜図5に示すように、大腿骨の遠位部に固定される大腿骨コンポーネント2と、脛骨の近位部に固定される脛骨コンポーネント3から構成される。
大腿骨コンポーネント2は、湾曲して膨出した2つの大腿骨関節面25と、大腿骨関節面25の後端部23に設けられて大腿骨関節面25より突出した楕円球状もしくはほぼ円柱状のカム部21とを備えている。
脛骨コンポーネント3は、脛骨の近位部に固定される脛骨トレイ31と、脛骨トレイ31の上面に固定されるインサートプレート4と、から構成されている。
インサートプレートは、2つの大腿骨関節面25の各々と当接する2つの脛骨関節面45と、カム部21と当接するカム摺動面41と、を備えており、大腿骨コンポーネント2と直接接触して摺動する。
本実施形態の人工膝関節1は、膝部の伸展時には、第1の摺動状態であり、大腿骨関節面25が脛骨関節面45に摺動しながら当接している。屈折角度が90°〜160°になると、第2の摺動状態への移行が始まり、主な摺動面が、大腿骨関節面25と脛骨関節面45とから、カム部21とカム摺動面41とに変化する。そして、屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、完全に第2の摺動状態になり、大腿骨コンポーネント3の骨切り面7とインサートプレート4の後端部とがオフセットする。
図1は、本実施形態にかかる人工膝関節1が、屈曲角度0°のときの側面図であり、大腿骨6が垂直上方に伸びている。ここで、人工膝関節1の大腿骨コンポーネント2は、長く上方に延びた部分が前方(矢印Aの方向)に、後端部23が後方(矢印Pの方向)に配置されて使用される。
大腿骨コンポーネント2は、側面から見たときにU字状に大きく湾曲した形状であり、大腿骨6の縁位部を骨切りした後に、大腿骨6端部を前後から挟み込むようにして取り付けられる。大腿骨コンポーネント2の外表面には、前後方向に伸びる2つの顆22(ここで顆とは凸状部分を指す)が形成されており、その表面を大腿骨関節面25と呼ぶ。大腿骨関節面25は、膝関節の屈曲時に容易に摺動できるように、非常になめらかにされている。
大腿骨コンポーネント2の後端部23には、2つの顆22の間に、楕円球状のカム部21が形成されている。カム部21は、大腿骨関節面25から、後方Pに大きく突出している。
大腿骨コンポーネント2の内側は、大腿骨6に接触する大腿骨固定面28である。大腿骨は、病変した関節部分の骨を切除され、且つ大腿骨コンポーネント2の大腿骨固定面28の寸法形状に合わせて整形(骨切り)される。大腿骨6の後方P側は、大腿骨コンポーネント2の骨切り面7と呼ばれる平面に合わせて骨切りされており、その際に、大腿骨6の曲線と骨切り面7との交差部分に、残骨61と呼ばれる突出部分が残存する。骨性インピンジは、この残骨61と脛骨コンポーネント3との接触により生じることが多く、残骨61の突出を減らすように大腿骨6を整形する技術もある。しかしながら、そのような整形処理は、高度な技術を要し、多くの場合は、図に示すような形状の残骨61が残存する。
大腿骨コンポーネント2の大腿骨固定面28には、必要に応じてポール29を設けることができる。ポール29は、大腿骨に挿入して大腿骨コンポーネントの固定状態を安定させる機能を有する。大腿骨コンポーネント2は、必要に応じて骨セメントにより、大腿骨に固定される。大腿骨コンポーネント2は、チタン合金及びコバルト−クロム合金等の生体安全性の高い金属や、アルミナ及びジルコニア等のセラミックスから形成される。
脛骨コンポーネント3のインサートプレート4は、大腿骨コンポーネント2を摺動させるための部材である。インサートプレート4には、前後に伸びる2つの窩42(ここで、「窩」とは凹状部分を指す)が形成されており、大腿骨コンポーネント2の2つの顆22が摺動できる。それぞれの窩42の表面には、非常に滑らかな脛骨関節面45が形成されており、大腿骨コンポーネント2の大腿骨関節面25との間で、滑らかな摺動運動が可能である。
インサートプレート4の中央付近にはスパイン44が形成されており、大腿骨コンポーネント2の中央に形成された前後に伸びるスロット27から突出している。スパイン44の後方P側の表面は、カム摺動面41に連続している。
カム摺動面41は、大腿骨コンポーネント2のカム部21を受容する形状に形成されている。カム摺動面41とカム部21とは、人工膝関節1が所定角度以上、例えば90°以上に屈曲した場合に接触するように設計されている。カム摺動面41とカム部21の表面とは、共に滑らかにされており、滑らかな摺動運動が可能である。インサートプレート44は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から形成されている。
脛骨コンポーネント3の脛骨トレイ31は、下面を脛骨の近位部に固定され、上面にインサートプレート4を受容している。脛骨トレイ31は、インサートプレート4が大腿骨コンポーネント2から受ける荷重を分散して、脛骨の一部に応力が集中するのを抑制する機能がある。脛骨トレイ31の固定では、まず、脛骨近位部の病変した関節部分を切除し、次いで脛骨トレイ31のステム32を脛骨に挿入する。脛骨トレイの上面がほぼ水平になるように位置決めして、ネジや骨セメントにより、脛骨トレイ31を脛骨に固定する。
脛骨トレイ31は、チタン合金及びコバルト−クロム合金等の生体安全性の高い金属や、アルミナ及びジルコニア等のセラミックスから形成される。
本発明の人工膝関節1は、主な接触面を構成する摺動状態が、屈曲角度90°〜160°を境にして、第1の摺動状態から第2の摺動状態に移行する。この摺動状態の移行する角度が「オフセット角度」である。第1の摺動状態は、広い面積で接触するので、直立状態や歩行状態のように膝部に大きい荷重がかかる場合に適している。これに対して、第2の摺動状態は、膝部に大きな荷重がかると支えきれないものの、深屈曲できるという長所がある。そのため、オフセット角度は、膝部にかかる荷重の程度と、骨性インピンジの回避とのバランスを取りながら決定される。
オフセット角度は、90°より小さいと、膝部にかかる荷重が大きいにも拘わらず、第2の摺動状態になってしまい、膝部の安定性が低くなるので好ましくなく、また、160°より大きいと、第1の摺動状態のまま骨性インピンジが生じてしまうので、好ましくない。
本発明の人工膝関節は、図6〜図8に示すように、屈曲角度が0°から180°まで屈曲することが可能である。この人工膝関節1は、オフセット角度が90°である。
図6に示すように、屈曲角度が0°(膝を伸展した状態)には、大腿骨関節面25と脛骨関節面45とが接触して、第1の摺動状態が形成されている。この状態は、例えば直立姿勢や歩行姿勢において発生するものであり、膝関節にかかる荷重が大きい。本発明の人工膝関節は、屈曲角度0°では、第1の摺動状態が形成されているので、膝関節にかかる大きい荷重を安定して支持できる。
屈曲角度がオフセット角度の90°になると、図7に示すように、第1の摺動状態から、カム部21とカム摺動面41とが接触する第2の摺動状態に移行する。屈曲角度90°というのは、歩行や階段の昇降の時に発生する可能性のある屈曲角度のうちで最大の屈曲角度であり、膝関節にかかる荷重は、屈曲角度0°と比較すると大幅に小さい。そのため、通常生活における動作程度であれば、90°以上の屈曲角度で膝関節にかかる荷重は、第2の摺動状態で支持することが可能である。ただし、深い屈曲状態で重労働をする場合には、この限りではなく、オフセット角度をより大きい角度に設定する必要がある。
膝関節の屈曲角度を人工膝関節のオフセット角度90°よりも大きくしてゆくと、カム部21とカム摺動面41とから形成される第2の摺動状態が支配的になる。カム部21とカム摺動面41とが接触して摺動すると、大腿骨コンポーネントと脛骨コンポーネントとが徐々に離れてゆく。それに伴い、大腿骨関節面25と脛骨関節面45とが、摺動しながら離れて、第1の摺動状態が解消される。このようにして、オフセット角度より大きい屈曲角度では、主な接触面が第1の摺動状態から第2の摺動状態に移行する。第2の摺動状態は、椅子に座る姿勢や正座の姿勢のように、膝関節にかかる荷重が小さい状態が多い。そのため、耐荷重性の低い第2の摺動状態であっても、膝関節が不安定になるという問題が殆ど生じない。この実施形態では、オフセット角度を約90°に設定している。オフセット角度は、90°〜160°の範囲に設定できる。
そして、屈曲角度が180°のときには、図8に示すように、骨切り面7とインサートプレート4の後端縁部とは完全に離れた、いわゆるオフセットの状態であることがわかる。これは、本実施形態の人工膝関節を用いて膝関節の置換術を行えば、膝関節の屈曲角度0°〜180°の範囲では、大腿骨6の残骨61とインサートプレートとか接触しない、つまり骨性インピンジが生じないことを意味している。これにより、本発明の人工膝関節は、従来の人工膝関節では不可能であった屈折角度0〜180°の可動域を達成した。
しかしながら、膝関節の周囲には、骨格以外の周辺組織が存在するので、人間の膝関節が実際に180°まで屈曲することはない。本発明が180°まで骨性インピンジを生じない人工膝関節であることは、180°までの屈曲が可能であるという直接的な作用効果以外に、膝関節の周囲にある軟部組織が残骨や人工膝関節に接触して損傷を受ける軟部組織インピンジを回避できるという間接的な作用効果がある。
従来の人工膝関節では、骨性インピンジを回避することで十分とされているが、より自然な膝関節を再現し、不快感や痛みを伴わない人工膝関節を提供するには、軟部組織インピンジを回避することも重要である。本発明の人工膝関節では、最も深屈曲する正座の状態(屈曲角度が約165°)においても、屈曲角度に余裕があることから、軟部組織インピンジを抑制することができる。
本発明の人工膝関節1は、大腿骨コンポーネント2がオフセットする第2の摺動状態において、カム部21とカム摺動面41との接触点からインサートプレート4の後端部までの距離aと、カム部21とカム摺動面41との接触点から大腿骨コンポーネント2の骨切り面7までの距離bとの関係が、b>aとなるように、オフセット量を調節しているのが好ましい。図8に示すように、骨切り面7とインサートプレート4の後端部とが最も近づく状態、すなわち屈曲角度180°の状態において、b>aに設定することにより、残骨とインサートプレートとは(b−a)だけ離間する。これにより、屈曲角度0°〜180°の範囲において、骨性インピンジを確実に回避することができる。
本発明の人工膝関節1は、図9に示すように、オフセット後の状態では、楕円球状のカム部21を曲面のカム摺動面41により受容しているので、大腿骨の回旋(水平面内における大腿骨の回転)が可能である。このことから、本発明の人工膝関節は、正座したときに、大腿骨がわずかに内旋しようとする動きを妨げることがなく、自然な膝の屈曲運動を再現することができる。この例では、残骨61とインサートプレートとが回旋角度θ=25°で接触するので、回旋角度θ=0〜25°の内旋及び外旋が可能である。
本発明の人工膝関節1は、カム部21とカム摺動面41とを備えることにより、深屈曲状態において第2の摺動状態が形成され、さらに大腿骨コンポーネント2がオフセットすることにより、従来の人工膝関節では不可能であった屈折角度0〜180°の可動域を達成した。
(実施形態2)
本実施形態では、実施形態1と同様に、大腿骨コンポーネント2と脛骨コンポーネント3とから成る人工膝関節であるが、カム部21が、大腿骨コンポーネント2の後端部23にスライド可能に固定されており、カム部21が大腿骨関節面25から突出する突出量を変更することにより、オフセット量を調節できることを特徴としている。
図10に示すように、大腿骨コンポーネント2の後端部23には、カム用穴26が形成されており、カム部21は、このカム用穴26にカム軸部24を挿入して固定されている。カム軸部24とカム用穴26とは、カム軸部24の表面とカム用穴26の内面に係合機構を形成することにより、又は別体の係合用部品を用いることにより、確実に固定されている。また、カム軸部24は、固定状態を解除することによりカム用穴26内での位置を変更することができ、例えばカム軸部24を、カム軸部24’の位置まで移動することができる。この状態で、カム軸部24’をカム用穴26に固定することにより、カム部21をカム部21’まで突出させた状態で使用することができる。
本実施形態の人工膝関節1では、図11に示すように、大腿骨コンポーネント2のカム部21と、脛骨コンポーネント3のインサートプレート4に形成されたカム摺動面41と、が摺動する第2の摺動状態において、カム部21が突出してない第2の摺動状態状態(A)と、カム部21’が突出した第2の摺動状態状態(B)とを選択することができる。図11(B)の人工膝関節1では、図11(A)のものに比べて、大腿骨6の残骨61と、インサートプレート4の端部との距離が大きくなるので、骨性インピンジの発生しやすい患者に好適である。また、病変前の膝関節の状態により近くなるように、カム部21又はカム部21’の位置を選択することにより、人工膝関節1に置換した後の患者の違和感を小さくすることができる。
本実施形態では、カム部21、21’の2段階に位置変更できる人工膝関節を示したが、さらに、カム部21の位置を、複数段階に変更できる形態や、無段階に変更できる形態にすることもできる。
(実施形態3)
本実施形態は、実施形態1と同様に、大腿骨コンポーネント2と脛骨コンポーネント3とから成る人工膝関節1であるが、インサートプレートが、カム摺動面に対応する中央位置の裏面側に、下方傾斜した突出部を備え、脛骨トレイが、下方傾斜した突出部を受ける凹部を有することを特徴としている。
本発明の人工膝関節1は、第1の摺動状態と、第2の摺動状態の2つの摺動状態により、膝の屈曲を可能にしており、それらの摺動は、繰り返し生じることにより、インサートプレート4を摩耗してゆく。そのため、脛骨関節面45とカム摺動面41との下側が、摩耗を考慮した所定の厚さt以上になるように、インサートプレート4の厚さを設定する必要がある。
図12(B)は、インサートプレート4を、従来の設計手法により形成した人工膝関節1である。本発明の人工膝関節1では、カム摺動面41が大きく抉られているので、カム摺動面41下部の厚さtを維持するために、インサートプレート4の厚さT’は、tに比べて非常に大きくなっている。
これに対して、本実施形態の人工膝関節1は、図12(A)に示すように、カム摺動面42の裏面側に突出部47を形成することにより、カム摺動面42の下側の厚さtを確保することができる。この実施形態では、突出部47を除いたインサートプレート4の厚さTが、所定の厚さtと同程度にまで抑えることができる。これにより、脛骨コンポーネント3を埋設するときに脛骨を骨切りする長さは、およそ(T’―T)だけ短くすることができるので、人工膝関節の置換手術後の骨折を抑制する効果がある。なお、突出部47の外形状に合わせて、脛骨を部分的に骨切りする必要があるが、その骨切りで除去される骨の量は、インサートプレート4の厚さが厚い場合に除去される骨の量に比べて少なくできる。
突出部47は、カム摺動面42下部の厚さを確保できれば、様々な形状にすることができ、例えば、立方体形状、球状、又は楕円球状の突出部にすることができる。特に、突出部47の形状は、図12に示すように、下方に傾斜した形状が好ましい。これは、突出部47の外形状に合わせて脛骨を骨切りするときに骨切りしやすい形状であることと、突出部47の容量を小さくできるので、骨切り量を減らすことができるからである。
脛骨トレイ31は、インサートプレート4の突出部47の形状に合わせて凹部37が形成されており、インサートプレート4を脛骨トレイ31に固定するときに、突出部47を凹部37にはめ込む。この脛骨トレイ31の凹部37は、インサートプレート4の突出部47にかかる荷重を受けて、脛骨トレイ31全体に荷重を分散するので、脛骨に局部的な応力集中が発生するのを回避でき、骨折の危険を抑制する効果がある。
また、脛骨トレイ31の裏面側には、凹部37の形状に対応した凸部が形成されている。これにより、脛骨トレイ31の凹部37を、ほぼ一定の肉厚にすることができる。脛骨トレイ31を、必要最小限の一定の肉厚にすることにより、応力分散機能を維持したまま、脛骨の骨切り量を減らすことができる。
(実施形態4)
本実施形態の人工膝関節1は、図13〜図16に示すように、大腿骨6の遠位部に固定される大腿骨コンポーネント2と、脛骨の近位部に固定される脛骨コンポーネント3から構成される。
大腿骨コンポーネント2は、湾曲して膨出した2つの大腿骨関節面(内側大腿骨関節面25aと外側大腿骨関節面25b)と、2つの大腿骨関節面の後端部を接続する接続部21(この例では、カム部)と、外側大腿骨関節面25bの後端部に形成されたオフセット用の凹状の曲面(大腿骨外側オフセット曲面52と称する)、を備えている。大腿骨外側オフセット曲面52から上方に伸びた先端部には、くちばし状に平たく延びたオフセット先端部51が形成されている。
脛骨コンポーネント3は、脛骨の近位部に固定される脛骨トレイ31と、脛骨トレイ31の上面に固定されたインサートプレート4と、から構成されている。
インサートプレート4は、内側大腿骨関節面25a及び外側大腿骨関節面25bの各々と当接する2つの脛骨関節面(内側脛骨関節面45aと外側脛骨関節面45b)と、接続部21が乗り越えることのできない高さのスパイン44と、接続部21が摺動可能に当接するように、スパイン44の後方P側に形成された後部曲面41(この例ではカム摺動面)と、大腿骨外側オフセット曲面52が摺動するように、インサートプレート4の後端縁部に形成された脛骨外側オフセット曲面82と、を備えている。
本実施形態の人工膝関節1は、膝部の伸展時には、外側及び内側の大腿骨関節面25a、25bが外側及び内側の脛骨関節面45a、45bに摺動可能に当接する第1の摺動状態である。膝関節が90°〜160°の屈曲角度になると、第1の摺動状態のうち外側大腿骨関節面25b及び外側脛骨関節面45bによる外側の関節面の当接状態が、大腿骨外側オフセット曲面と脛骨外側オフセット曲面との摺動可能な当接状態である第3の摺動状態に移行する。ほぼ同じ屈曲角度において、大腿骨コンポーネント2の接続部21と、インサートプレート4のスパイン44の後部曲面41とが摺動可能に当接して、第4の摺動状態を構成する。そして、屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、第3及び第4の摺動状態が共存して、大腿骨コンポーネント3の骨切り面7とインサートプレート4の後端部とがオフセットする。
図13及び図14は、本実施形態にかかる右膝用の人工膝関節1の屈曲角度0°のときの側面図であり、図13は、人工膝関節1の内側からの側面図であり、図14は、人工膝関節1の外側からの側面図である。これらの図では、大腿骨6が垂直上方に伸びている。ここで、人工膝関節1の大腿骨コンポーネント2は、長く上方に延びた部分が前方(矢印Aの方向)に、後端部23が後方(矢印Pの方向)に配置されて使用される。
大腿骨コンポーネント2は、側面から見たときにU字状に大きく湾曲した形状であり、大腿骨6の縁位部を骨切りした後に、大腿骨6端部を前後から挟み込むようにして取り付けられる。大腿骨コンポーネント2の外表面には、前後方向に伸びる内側顆22a及び外側顆22bが形成されており、その表面を内側大腿骨関節面25a及び外側大腿骨関節面25bと呼ぶ。内側及び外側大腿骨関節面25a、25bは、膝関節の屈曲時に容易に摺動できるように、非常になめらかにされている。
大腿骨コンポーネント2の後端部23には、2つの顆22a、22bの間に、楕円球状の接続部21が形成されている。この例では、接続部21は、大腿骨関節面25から後方Pに突出したカム部21として形成されている。しかしながら、接続部21は、この形態に限定されず、円柱状、楕円柱状、球状等の摺動に適した外形を有しているものが利用できる。
大腿骨コンポーネント2の内側は、大腿骨6に接触する大腿骨固定面28である。大腿骨は、病変した関節部分の骨を切除し、且つ大腿骨コンポーネント2の大腿骨固定面28の寸法形状に合わせて整形(骨切り)される。大腿骨6の後方P側は、大腿骨コンポーネント2の骨切り面7と呼ばれる平面に合わせて骨切りされており、その際に、大腿骨6の曲線と骨切り面7との交差部分に、残骨61と呼ばれる突出部分が残存する。骨性インピンジは、この残骨61と脛骨コンポーネント3との接触により生じることが多く、残骨61の突出を減らすように大腿骨6を整形する技術もある。しかしながら、そのような整形処理は、高度な技術を要し、多くの場合は、図に示すような形状の残骨61が残存する。
大腿骨コンポーネント2の大腿骨固定面28には、必要に応じてポール29を設けることができる。ポール29は、大腿骨に挿入して大腿骨コンポーネントの固定状態を安定させる機能を有する。大腿骨コンポーネント2は、必要に応じて骨セメントにより、大腿骨に固定される。大腿骨コンポーネント2は、チタン合金及びコバルト−クロム合金等の生体安全性の高い金属や、アルミナ及びジルコニア等のセラミックスから形成される。
脛骨コンポーネント3のインサートプレート4は、大腿骨コンポーネント2を摺動させるための部材である。インサートプレート4には、前後に伸びる内側窩42a及び外側窩42aの2つの窩が形成されており、大腿骨コンポーネント2の内側顆22a及び外側顆22bの2つの顆が摺動できる。内側顆22a及び外側顆22bの表面には、非常に滑らかな内側脛骨関節面45a及び外側脛骨関節面45bが形成されており、大腿骨コンポーネント2の内側大腿骨関節面25a及び外側大腿骨関節面25bとの間で、滑らかな摺動運動が可能である。
インサートプレート4の中央付近にはスパイン44が形成されており、大腿骨コンポーネント2の中央に形成された前後に伸びるスロット27から突出している。スパイン44の後方P側の表面には、接続部21が摺動するように、後部曲面41が形成されている。
スパイン44の後部曲面41は、大腿骨コンポーネント2の接続部21を受容する形状に形成されている。後部曲面41と接続部21とは、人工膝関節1が所定角度以上、例えば90°以上に屈曲した場合に接触するように設計されている。後部曲面41と接続部21の表面とは、共に滑らかにされており、滑らかな摺動運動が可能である。インサートプレート44は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から形成されている。
脛骨コンポーネント3の脛骨トレイ31は、下面を脛骨の近位部に固定され、上面にインサートプレート4を受容している。脛骨トレイ31は、インサートプレート4が大腿骨コンポーネント2から受ける荷重を分散して、脛骨の一部に応力が集中するのを抑制する機能がある。脛骨トレイ31の固定では、まず、脛骨近位部の病変した関節部分を切除し、次いで脛骨トレイ31のステム32を脛骨に挿入する。脛骨トレイの上面がほぼ水平になるように位置決めして、ネジや骨セメントにより、脛骨トレイ31を脛骨に固定する。
脛骨トレイ31は、チタン合金及びコバルト−クロム合金等の生体安全性の高い金属や、アルミナ及びジルコニア等のセラミックスから形成される。
本発明の人工膝関節1は、主な接触面を構成する摺動状態が、屈曲角度90°〜160°を境にして、第1の摺動状態から第3の摺動状態に移行する。この摺動状態の移行する角度も「オフセット角度」と呼んでいる。第1の摺動状態は、広い面積で接触するので、直立状態や歩行状態のように膝部に大きい荷重がかかる場合に適している。これに対して、第3の摺動状態は、第1の摺動状態に比べると、安定性が低く、膝部に大きな荷重がかると支えきれない。その代わりに、第3の摺動状態は、深屈曲できるという長所がある。そのため、オフセット角度は、膝部にかかる荷重の程度と、骨性インピンジの回避とのバランスを取りながら決定される。
オフセット角度は、90°より小さいと、膝部にかかる荷重が大きいにも拘わらず、第3の摺動状態になってしまい、膝部の安定性が低くなるので好ましくなく、また、160°より大きいと、第1の摺動状態のまま骨性インピンジが生じてしまうので、好ましくない。
本発明の人工膝関節は、図13、図14、図17〜図20に示すように、屈曲角度が0°から180°まで屈曲することが可能である。ここで、図17〜図20の(A)が内側の端面図であり、(B)が外側の端面図である。この人工膝関節1は、オフセット角度が90°である。
図13(内側の側面図)及び図14(外側の側面図)に示した屈曲角度0°(膝を伸展した状態)では、内側大腿骨関節面25a及び外側大腿骨関節面25bと、内側脛骨関節面45a及び外側脛骨関節面45bとがそれぞれ接触して、第1の摺動状態が形成されている。この状態は、例えば直立姿勢や歩行姿勢において発生するものであり、膝関節にかかる荷重が大きい。本発明の人工膝関節は、屈曲角度0°では、第1の摺動状態が形成されているので、膝関節にかかる大きい荷重を安定して支持できる。
屈曲角度がオフセット角度の90°になると、図17(B)に示す外側の摺動状態が、第1の摺動状態から、大腿骨外側オフセット曲面52と脛骨外側オフセット曲面82とが当接する第3の摺動状態に移行し始める。これに対して、図17(A)に示す内側側の摺動状態は、変化していない。
これと同時に、接続部21と後部曲面41とが当接して、第4の摺動状態を形成する。
膝関節の屈曲角度を人工膝関節のオフセット角度90°よりも大きくしてゆくと、図18(B)及び図19(B)に示すように、外側の摺動は、まず大腿骨外側オフセット曲面52が脛骨外側オフセット曲面82に嵌って、さらにオフセット先端部51が脛骨外側オフセット曲面82の後方に引っかかるようにして、進行する。このとき、外側大腿骨関節面25bは、オフセット先端部51の厚さだけ後方P側にずれる。この外側のずれは、第4の摺動状態(図示していない接続部21とスパイン44後部の曲面41との摺動状態)と協働して、図18(A)及び図19(A)に示すように、内側の大腿骨関節面25aを前方にずらす結果になる。大腿骨コンポーネント2の内側と外側とが異なる方向にずれることにより、大腿骨コンポーネント2の回旋を生じ、特に、内側が前方Aに、外側が後方Pにずれると、大腿骨コンポーネント2の内旋を生じる。このように、本実施形態の人工膝関節1は、屈折角度が進むに従って、健康的な膝関節と同様の内旋を達成できる。
図20に示すように、膝関節を180°に屈曲すると、外側(図20(B))は、オフセット先端部51の厚みだけオフセットして、骨切り面7とインサートプレート4の後端部とが離間する。これに対して、内側(図20(A))は、外側に比べて前方Aにずれているので、外側に比べるとオフセット量が少ない。内側が、屈曲角度180°以下で骨性インピンジが生じる恐れがある場合には、大腿骨コンポーネント2の後端部23の厚みを厚くして、骨切り面7とインサートプレート4の後端縁部とを離すことができる。
本実施形態の人工膝関節を用いて膝関節の置換術を行えば、膝関節の屈曲角度0°〜180°の範囲では、大腿骨6の残骨61とインサートプレートとか接触しない、つまり骨性インピンジが生じないことを意味している。これにより、本発明の人工膝関節は、従来の人工膝関節では不可能であった屈折角度0〜180°の可動域を達成した。
しかしながら、膝関節の周囲には、骨格以外の周辺組織が存在するので、人間の膝関節が実際に180°まで屈曲することはない。本発明が180°まで骨性インピンジを生じない人工膝関節であることは、180°までの屈曲が可能であるという直接的な作用効果以外に、膝関節の周囲にある軟部組織が残骨や人工膝関節に接触して損傷を受ける軟部組織インピンジを回避できるという間接的な作用効果がある。
従来の人工膝関節では、骨性インピンジを回避することで十分とされているが、より自然な膝関節を再現し、不快感や痛みを伴わない人工膝関節を提供するには、軟部組織インピンジを回避することも重要である。本発明の人工膝関節では、最も深屈曲する正座の状態(屈曲角度が約165°)においても、屈曲角度に余裕があることから、軟部組織インピンジを抑制することができる。
さらに、図18〜図20(A)の第3の摺動状態から明らかなように、オフセット先端部51は、インサートプレート4の後方に引っかかっている。これにより、スパイン44の局所的な異常摩耗を抑制することができる。一般的に、膝関節の屈曲が深くなると、大腿骨コンポーネント2が前方Aに移動しようとする応力がかかる。従来の人工膝関節では、その応力を全て接続部21とスパイン44後部の曲面41とで受けていたので、後部曲面41に異常摩耗が生じていた。これに対して、本実施形態の人工膝関節では、オフセット先端部51も、大腿骨コンポーネントの前方A方向への応力を受けるので、後部曲面41にかかる応力が分散して、異常摩耗を抑制することができる。
この実施形態の変形例としては、さらに、大腿骨コンポーネントが、内側大腿骨関節面の後端部に形成された凹状の大腿骨内側オフセット曲面(図示せず)を備え、且つ大腿骨内側オフセット曲面が摺動する脛骨内側オフセット曲面をインサートプレート4の後端縁部に備えており、90°〜160°の屈曲角度において、第1の摺動状態の内側の関節面の当接が、大腿骨内側オフセット曲面が脛骨内側オフセット曲面に摺動可能に当接する第3の摺動状態に移行することを特徴とする人工膝関節がある。
すなわち、大腿骨コンポーネント2の外側のみならず、大腿骨コンポーネントの内側にもオフセット先端部51を形成して、内側及び外側の両方がオフセットする人工膝関節にすることもできる。この変形例では、オフセット先端部51とインサートプレート4の後端部との引っかかりが2箇所になるので、大腿骨コンポーネントが前方Aに移動しようとする応力が、より分散できるので好ましい。内側及び外側のオフセット先端部は、同一の寸法形状にすることもできるが、異なる寸法形状にして、自然な内旋を達成するのが好ましい。
大腿骨コンポーネント2の接続部21は、大腿骨関節面25から突出しない楕円球状もしくはほぼ円柱状であると、接続部21を受容するスパイン44後部の曲面41の深さを浅くすることができる。これは、インサートプレート4の厚みの増加を抑えるので、脛骨の骨切り量を減らすことができる。
これとは反対に、大腿骨コンポーネント2の接続部21を、大腿骨関節面25から突出した楕円球状もしくはほぼ円柱状のカム部21とし、インサートプレート4のスパイン44の後部曲面41を、カム部21を摺動させるカム摺動面41とすることもできる。接続部21をカム部にすると、第4の摺動状態における当接面の面積が増大するので、スパイン44後部の異常摩耗が抑制され、長期間にわたって使用できる人工膝関節を得ることができる。
本発明の人工膝関節は、従来の人工膝関節では不可能であった深屈曲を可能にし、理論的には180°まで屈曲可能な膝関節にすることにより、膝の骨性インピンジのみでなく、軟部組織インピンジをも回避することができる。さらに、本発明の人工膝関節は、健康な膝で自然に起きているのと同様に、大腿骨の内旋を実現することができる。これにより、膝関節の置換術を行った患者にとって、違和感の少ない人口膝関節を得ることができる。
また、本発明の人工膝関節は、部品の異常摩耗が起こりにくいので、長期間にわたって使用でき、再々にわたる置換手術を余儀なくされていた患者にとって、非常に好ましい人工膝関節といえる。また、様々な部分に骨切り量を抑える工夫がされているので、骨量が減少した患者にも好適である。

Claims (10)

  1. 大腿骨の遠位部に固定される大腿骨コンポーネントと、
    脛骨の近位部に固定される脛骨トレイと、
    該脛骨トレイの上面に固定されて大腿骨コンポーネントが摺動するインサートプレートと、から成る人工膝関節において、
    大腿骨コンポーネントが、湾曲した2つの大腿骨関節面と、該大腿骨関節面の後端部に設けられて大腿骨関節面より突出した楕円球状もしくはほぼ円柱状のカム部とを備えており、
    インサートプレートが、上記2つの大腿骨関節面の各々と当接する2つの脛骨関節面と、上記カム部と当接するカム摺動面と、を備えており、
    膝部伸展時には、大腿骨関節面が脛骨関節面に摺動する第1の摺動状態であり、
    90°〜160°の屈曲角度において、主な接触面が、上記第1の摺動状態からカム部がカム摺動面に摺動する第2の摺動状態へ移行し、
    屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、第2の摺動状態により、大腿骨コンポーネントの骨切り面とインサートプレートの後端部とがオフセットすることを特徴とする人工膝関節。
  2. 屈曲角度180°の第2の摺動状態において、
    カム部とカム摺動面との接触点からインサートプレートの後端部までの距離aと、カム部とカム摺動面との接触点から大腿骨コンポーネントの骨切り面までの距離bとの関係がb>aとなるように、オフセット量を調節しており、
    これにより、上記骨切り面とインサートプレートの後端部とが、少なくとも(b−a)だけオフセットすることを特徴とする請求項1に記載の人工膝関節。
  3. 上記カム部が、大腿骨コンポーネントとの後端部に取り換え可能に固定されており、カム部の大腿骨関節面から突出する突出量を変更することにより、オフセット量を調節できることを特徴とする請求項1に記載の人工膝関節。
  4. 上記インサートプレートが、上記カム摺動面に対応する中央位置の裏面側に、下方に突出部を備え、上記脛骨トレイが、上記突出部を受ける凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の人工膝関節。
  5. 人工膝関節用の大腿骨コンポーネントと共に使用される人工膝関節用の脛骨コンポーネントにおいて、
    上記脛骨コンポーネントが、脛骨の近位部に固定される脛骨トレイと、該脛骨トレイの上面に固定されて大腿骨コンポーネントが摺動するインサートプレートと、から構成されおり、
    インサートプレートが、大腿骨コンポーネントの後端部に備えられたカム部が摺動するカム摺動面を備え、
    さらに、インサートプレートが、カム摺動面に対応する中央位置の裏面側に、下方に突出部を備え、上記脛骨トレイが、上記突出部を受ける凹部を有することを特徴とする脛骨コンポーネント。
  6. 上記インサートプレートの突出部が、下方傾斜した形状に成形されており、上記脛骨トレイの凹部の裏面側が、該凹部形状に対応した形状に成形されていることを特徴とする請求項5に記載の脛骨コンポーネント。
  7. 大腿骨の遠位部に固定される大腿骨コンポーネントと、
    脛骨の近位部に固定される脛骨トレイと、
    該脛骨トレイの上面に固定されて大腿骨コンポーネントが摺動するインサートプレートと、から成る人工膝関節において、
    大腿骨コンポーネントが、湾曲した内側及び外側の2つの大腿骨関節面と、上記2つの大腿骨関節面の後端部を接続する接続部と、上記外側の大腿骨関節面の後端部に形成された凹状の大腿骨外側オフセット曲面と、を備えており、
    インサートプレートが、上記2つの大腿骨関節面が摺動する内側及び外側の2つの脛骨関節面と、上記接続部と摺動可能に当接する曲面を後部に備えたスパインと、上記大腿骨外側オフセット曲面が摺動するようにインサートプレートの後端縁部に形成された脛骨外側オフセット曲面と、を備えており、
    膝部伸展時には、外側及び内側の2つの大腿骨関節面が脛骨関節面に摺動可能に当接する第1の摺動状態であり、
    90°〜160°の屈曲角度において、上記第1の摺動状態のうちの外側の関節面の当接が、上記大腿骨外側オフセット曲面が上記脛骨外側オフセット曲面に摺動可能に当接する第3の摺動状態に移行し、且つ上記大腿骨コンポーネントの接続部と上記インサートプレートのスパインの後部曲面とが摺動可能に当接する第4の摺動状態が形成され、
    屈曲角度180°の膝部深屈曲時には、第3及び第4の摺動状態により、大腿骨コンポーネントの骨切り面とインサートプレートの後端部とがオフセットすることを特徴とする人工膝関節。
  8. さらに、大腿骨コンポーネントが、上記内側の大腿骨関節面の後端部に形成された凹状の大腿骨内側オフセット曲面を備え、
    インサートプレートが、且つ上記大腿骨内側オフセット曲面が摺動する脛骨内側オフセット曲面をインサートプレートの後端縁部に備えており、
    90°〜160°の屈曲角度において、第1の摺動状態の内側の関節面の当接が、上記大腿骨内側オフセット曲面が上記脛骨内側オフセット曲面に摺動可能に当接する第3の摺動状態に移行することを特徴とする請求項7に記載の人工膝関節。
  9. 上記大腿骨コンポーネントの接続部が、大腿骨関節面から突出しない楕円球状もしくはほぼ円柱状であることを特徴とする請求項8に記載の人工膝関節。
  10. 上記大腿骨コンポーネントの接続部が、大腿骨関節面より突出した楕円球状もしくはほぼ円柱状のカム部であり、上記インサートプレートのスパインの後部曲面が、カム部を摺動させるカム摺動面であることを特徴とする請求項8に記載の人工膝関節。

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