JPWO2007001094A1 - 人工肺サーファクタント組成物 - Google Patents

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Abstract

この発明に係るペプチドは、高いサーファクタント活性を持ちかつ溶血活性を有していないペプチドであって、構成アミノ酸の約5%ないし40%がD−アミノ酸から構成されていることを特長とする。また、この発明に係る肺サーファクタント組成物は、かかるペプチドと、大豆レシチンなどの天然レシチンから構成されているところから、動物由来の物質を含まずかつ安価に量産可能な高いサーファクタント活性を有する肺サーファクタント医薬品として期待できる。

Description

この発明は、人工肺サーファクタントに関するものである。更に詳細には、この発明は両親媒性ペプチドへD−アミノ酸を導入することによって肺サーファクタント活性を改善した人工肺サーファクタントに関するものである。また、この発明は、サーファクタント活性を有しかつ溶血活性を持たない新規なペプチドであって、人工肺サーファクタントとして好適なペプチドに関するものである。さらに、この発明は、かかるペプチドまたは人工肺サーファクタントを、特にRDSやARDSなどの重篤な呼吸系疾患に使用する使用方法及び喘息などの他の肺サーファクタントの関与する疾患に使用する方法に関するものである。
肺サーファクタントは、肺胞II型細胞により合成分泌され、その表面張力を低下することにより肺機能を司る生命維持に必須の脂質−蛋白質複合体である(吉田清一編「肺表面活性物質の現在」真興交易医書出版部、東京、1990;J.R.Riordan:Molecular Basis of Disease:Pulmonary Surfactant,Ed.,Biochem.Biophys.Acta,77−363,1998)。肺サーファクタントが欠乏または不足すれば、重篤な呼吸不全に陥ることになる。かかる疾患として、例えば、新生児、特に未熟児に起こる新生児呼吸窮迫症候群(RDS:Respiratory Distress Syndrome)や、成人の重篤な呼吸障害を引き起こす急性呼吸窮迫症候群(ARDS:Acute Respiratory Distress Syndrome)がある。
かかる重篤な呼吸障害を引き起こす呼吸窮迫症候群のうち、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の治療には、現在、医薬品として牛肺由来人工調整肺サーファクタントが適用されている。しかし、この医薬品は、非常に高価であるため、成人の重篤な呼吸障害を引き起こす急性呼吸窮迫症候群(ARDS)への適用は制限されているのが実情である。したがって、肺サーファクタント製剤が廉価で製造することができれば、かかる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)へも適用することができるようになり、重篤な呼吸不全の治療に大きく貢献することが期待される。
さらに、肺サーファクタントの必要性は、RDSやARDSなどの疾患への適用という側面のみならず、重症急性呼吸器症候群(SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome)や肺炎などの感染性炎症性肺疾患や、近年死亡率が急速に上昇している肺ガン等による重篤な末期呼吸不全症状の緩和からも増している。また、気管支での肺サーファクタント物質の分泌も知られており、それらが去痰的役割をしているとも言われている。肺サーファクタントの吸入によって、喘息発作が軽減する(Babu K.S.,et al.Eur.Respir.J.,21,1046−1049(2003))など、呼吸障害の改善を必要とする多くの疾病に対する有用性も期待されている。安価な肺サーファクタントが開発されれば,これら疾患にも、適用が可能となり、極めて有用である。
肺サーファクタントは、上述したように脂質と蛋白質との複合体からなる一種のリポ蛋白である。脂質の主成分は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC:dipalmitoyl−phosphatidylcholine)とホスファチジルグリセロール(PG:phosphatidylglycerol)などのリン脂質であり、サーファクタント活性にはDPPCやPGなどのリン脂質が必須であると言われている。その他にも、脂質として、コレステロールやトリグリセロールなどの中性脂質も含まれている。一方、全体の約5%の含量を占めるサーファクタント蛋白質(surfactant protein,SP)はSP−A、SP−B、SP−CおよびSP−Dの4種類が知られている。これらの蛋白質のうちでも、SP−BとSP−Cは肺サーファクタント活性を示すのに重要な働きをしている。
他方、肺サーファクタント製剤として市販されている治療薬としては、サーファクテン(登録商標)がある。この肺サーファクタント製剤は、牛肺から抽出した1〜2%のタンパク質(SP−BおよびSP−C)と、DPPCとPGを含む脂質成分とから成っている。この市販サーファクタント製剤は効果はあるが、原材料として牛肺を使用していることから、その安全性に不安があるとともに、高価であるという問題がある。したがって、安全性に問題がなくかつより安価なサーファクタント製剤の開発が要望されていた。
最近、米国FDAによって早産幼児の気管支肺異形成症に対する優先審査薬剤に指定されたサーファクシン(Surfaxin)は、完全合成型であり、牛肺由来の人工肺サーファクタント製剤であるサーファクテン(登録商標)よりは生存率がわずかではあるが良いとの報告がある(Ninha,S.K.et al.,Pediatrics,115,1030−1038(2005))。サーファクシンは、1991年Cochraneらによって初めて報告された、アミノ酸21残基からなる人工合成ペプチドKLとある種の脂質混合物とからなる(Cochrane C.G.and Revak S.D.,Science,254,566−568(1991))。しかし、それも依然として高価であることが見積もられており、サーファクテン(登録商標)とあまりかわらない、ということができる。
肺サーファクタント活性を示すのに重要である肺サーファクタント蛋白質SP−BおよびSP−Cは、膜に対する作用様式が異なり、SP−Bは膜表面に存在し、SP−Cは膜を貫通して存在していて、肺気体−液体界面で起こる単分子膜−二分子膜相互移行を触媒すると考えられている。
そこで、本発明者らは、膜表面滞在型および膜貫通型を同時に模した親水部分と疎水部分からなる両親媒性ペプチドの設計を行えば、肺サーファクタント活性を有するのではないかと考えた。
本発明者らは、以前、この蛋白質成分の代わりに、この考えに基づいて設計したいくつかのペプチドがサーファクテン(登録商標)と同等の表面活性を示すことを見出した。これらのペプチドはいずれもL−アミノ酸で構成されていて、そのうちでも、特にペプチドHel13−5は、肺の呼吸圧の変化を模したWilhelmy表面張力計で表面張力−表面積曲線(ヒステレシス曲線)を測定したところ、サーファクテン(登録商標)と同等の曲線を示すことを報告した(日本国特開2004−305006号公報;発明者:李相男、雪竹浩、杉原剛介および柴田攻)。
これらのペプチドは、塩基性で高い脂溶性を有する両親媒的性質を示し(Kiyota,T.,Lee,S.& Sugihara,G.,Biochemistry,35,13196−13204(1996))、かつ、酸性および中性リン脂質膜の中に脂溶性部分を深く侵入させる性質を持っている(Kitamura,A.et al.,Biophys.J.76,1457(1999))。これらのペプチドは、DPPC−PG−PA(パルミチン酸)−ペプチド混合系において、優れた肺サーファクタントペプチドの性質を有することが分かった。また、これらのペプチドにおいて、そのアミノ酸の1個もしくは複数個が欠失、置換もしくは付加されたものも肺サーファクタント活性を有することが記載されている(特開2004−305006号公報)。より詳細には、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換もしくはK(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換、さらにはW(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基または芳香族疎水性残基への置換が記載されている。
更に、本発明者らは、高価なDPPCやPGの代わりに、安価な大豆脂質の使用が可能であることを示した(PCT/JP2005/8234;発明者:李相男、雪竹浩および中村幸弘)。サーファクタントには,L−α−ホスファチジルコリン(PC)含有量が約60%と高く、其の半分は飽和脂質系DPPCである。このDPPCの含有量の高いことが,肺の虚脱を防ぐ一要因であると言われている。そこで、飽和脂質からなるDPPCに代わるものとして,大豆レシチンを水素化することにより得られる水素添加大豆レシチンのうち、PC含有量が高い分別レシチンを用いた。この結果、水素添加大豆レシチン−大豆レシチン−パルミチン酸−ペプチド系は、市販肺サーファクタント製剤サーファクテン(登録商標)にも劣らぬ性質を示すことを見出した。尚、大豆レシチンの使用に関しては,飽和脂質系のDPPC−DSPC(ジステアロイルPC)を主として、大豆レシチン系を不飽和脂質系として少量加えた脂質混合系が報告されているが,水素添加レシチンの報告はない(特開昭62−96425号公報)。
ところが、これらのペプチド自体は、単独では、強い溶血活性を有している(Kiyota,T.,Lee,S.& Sugihara,G.,Biochemistry,35,13196−13204(1996))。しかしながら、これらのペプチドは、脂質との複合体としては溶血性質を有していないので、医薬品としての適用の際に、実用上殆ど問題はないと考えられる。それでも、溶血活性のないペプチドを使用することは、医薬品の安全性を更に高めるためにも有用である。
さらに、近年、溶血活性を示す塩基性両親媒性ペプチドに、D−アミノ酸を導入すると膜特異性や選択性が生まれ、溶血活性が低下するとの報告がなされた(Papo et al.,J.Biol.Chem.,278,21018(2003))。
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、膜作用様式に特異性を付与すべく以前合成した両親媒性ペプチドの構成アミノ酸の一部をD−アミノ酸に置換するとともに、高価なDPPCやPGの代わりに、水素添加大豆レシチンを含む安価な大豆脂質である大豆レシチンと混合した新規サーファクタント製剤を調製したところ、市販医薬品であるサーファクテン(登録商標)よりも高活性であることを見出して、この発明を完成するに至った(アメリカ特許出願番号第60/694701号;発明者:李相男、雪竹浩および中村幸弘)。
したがって、この発明は、親水部分と疎水部分からなる両親媒性ペプチドであって、溶血活性を有しないペプチドを提供することを目的としている。
この発明は、その別の形態として、上記ペプチドと天然脂質とを含む人工肺サーファクタントを提供することを目的としている。
さらに、この発明は、その別の形態として、上記ペプチドを人工肺サーファクタント組成物に使用する方法および上記ペプチドと人工肺サーファクタント組成物とを肺サーファクタントが関与する疾患の治療に使用する方法を提供することを目的としている。
これらの目的を達成するために、この発明は、親水部分と疎水部分からなる両親媒性ペプチドであって、その構成アミノ酸の数が約5個ないし60個、好ましくは10個ないし40個、さらに好ましくは10個から20個からなるアミノ酸配列を有するとともに、サーファクタント活性を有しかつ溶血活性を有しないペプチドを提供する。
更に詳細には、この発明は、そのアミノ酸配列の5%ないし50%、好ましくは10%ないし40%、より好ましくは20%ないし30%がD−アミノ酸からなるペプチドを提供する。換言すると、その構成アミノ酸の1個もしくは複数個、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし7個、特に好ましくは2個ないし6個がD−アミノ酸からなるペプチドが提供される。
この発明のさらに好ましい態様として、上記ペプチドがリジンおよび/またはロイシンを主要構成アミノ酸とするペプチドを提供する。更に好ましい態様としては、この発明は、L−リジンおよび/またはL−ロイシンがそれぞれD−リジンおよび/またはD−ロイシンで置換されているペプチドを提供する。さらに、この発明は、トリプトファンがさらに含まれていることからなるペプチドを提供する。
また、この発明は、上記ペプチドと天然脂質、一般的には植物性脂質、好ましくは大豆脂質とから構成される人工肺サーファクタントを提供する。
さらに、この発明は、別の態様として、上記ペプチドを人工肺サーファクタント組成物として使用する使用方法および上記ペプチドと人工肺サーファクタント組成物とを肺サーファクタントが関与する疾患の治療に使用する使用方法を提供する。
図1は、Hel 13−5およびD−アミノ酸含有ペプチドのCDおよびHPLCデータを示すグラフである。
図2は、D−アミノ酸含有Hel 13−5D3およびHel 13−5D5ペプチドのヒステレシス曲線を示すグラフである。
図3は、肺洗浄モデルラットを用いた各種肺サーファクタントの肺機能回復効果を示すグラフである。
図4は、喘息モデルにおける肺サーファクタントの効果を示すグラフである。
この発明に係るペプチドは、膜作用様式に特異性を付与された親水部分と疎水部分からなる両親媒性ペプチドであって、溶血活性を有しないペプチドであるのがよい。ここでいう両親媒性ペプチドとは、塩基性で高い脂溶性を有する両親媒的性質を示すとともに、酸性および中性リン脂質膜の中に脂溶性部分を深く侵入させる性質を持っているペプチドを意味していて、かかる性質を有している限り、天然ペプチドであっても、合成ペプチドであっても特に限定されるものではない。また、かかる両親媒性ペプチドは、その分子内に、10個以上の疎水性アミノ酸残基を有するのがよく、また、疎水性アミノ酸残基は1種類であっても、2種類以上であってもよい。かかる疎水性アミノ酸残基としては、例えば、ロイシン、リジンなどが挙げられる。さらに、このペプチドは、トリプトファンをさらに含んでいてもよい。
この発明に係るペプチドは、約5個ないし60個、好ましくは約10個ないし40個、さらに好ましくは約10個ないし20個のアミノ酸から構成され、かつ、リジンおよび/またはロイシンを主要構成アミノ酸として構成されているとともに、その構成アミノ酸の一部がD−アミノ酸で構成されている両親媒性ペプチドであるがよい。更に詳細には、D−アミノ酸の導入数は、特に限定されるものではないが、導入する位置を適当に均衡させて全体の約5%−50%、好ましくは約10%−40%、さらに好ましくは約20%−30%とするのがよい。したがって、ペプチドの構成アミノ酸数によるが、その構成アミノ酸のうち1個ないし10個、好ましくは1個ないし7個、さらに好ましくは2個ないし6個がD−アミノ酸から構成されているのがよい。
この発明に係るペプチドの一例を配列表に例示するが、下記の例では、L−リジンおよび/またはL−ロイシンがそれぞれD−リジンおよび/またはD−ロイシンで置換されているが、この発明のペプチドはそれらに限定されるものではなく、適宜選択して、適切なアミノ酸を置換することができる。ただし、この発明はそれらのペプチドに一切限定されるものではない。
例えば、下記ペプチド(配列表1ないし6)は特許文献(特開2004−305006号公報)に記載したペプチドであるが、この発明のペプチドとしては、下記ペプチドのロイシンならびにリジンをそれぞれD−ロイシンならびにD−リジンに置換したものが使用することができる。
ペプチドHel13−5(配列番号1):
NH−Lys Leu Leu Lys Leu Leu Leu Lys Leu Trp Leu Lys Leu Leu Lys Leu Leu Leu−COOH
ペプチドHel11−7(配列番号2):
NH−Lys Leu Leu Lys Leu Leu Leu Lys Leu Trp Lys Lys Leu Leu Lys Leu Leu Lys−COOH
ペプチドHel7−11−P24(配列番号3):
AcNH−Lys Lys Leu Lys Lys Leu Leu Lys Lys Trp Lys Lys Leu Leu Lys Lys Leu Lys Gly Gly Gly Lys Lys Gly Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Lys Lys Ala−CONH
ペプチドP24(配列番号4):
AcNH−Lys Lys Gly Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Leu Lys Lys Ala−CONH
ペプチドKL24(配列番号5):
NH−Lys Leu Leu Leu Leu Lys Leu Leu Leu Leu Lys Leu Leu Leu Leu Lys Leu Leu Leu Leu Lys−COOH
ペプチドHel7−11(配列番号6):
NH−Lys Lys Leu Lys Lys Leu Leu Lys Lys Trp Lys Lys Leu Leu Lys Lys Leu Lys−COOH
さらに、この発明のペプチドとしては、例えば、上記ペプチドHel13−5(配列番号1)の7位と14位のロイシンならびに8位のリジンがそれぞれD−ロイシンならびにD−リジンであるペプチドHel13−5D3(配列番号7)と、7位、11位、14位ならびに16位のロイシンおよび8位のリジンがそれぞれD−ロイシンならびにD−リジンであるペプチドHel13−5D5(配列番号8)などが挙げられる。
ペプチドHel13−5D3(配列番号7):
NH−Lys Leu Leu Lys Leu Leu D−Leu D−Lys Leu Trp Leu Lys D−Leu Leu Lys Leu Leu Leu−COOH
ペプチドHel13−5D5(配列番号8):
NH−Lys Leu Leu Lys Leu Leu D−Leu D−Lys Leu Trp D−Leu Lys Leu D−Leu Lys D−Leu Leu Leu−COOH
この発明に係るペプチドのうち、合成ペプチドは当該技術分野で公知の化学的手法により合成することができる。
また、化学的方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法としては、例えば、アミノ酸配列情報に基づいて、固相法では樹脂に各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくFmoc−ケミストリー法及びBoc−ケミストリー法のいずれも可能である。液相法では、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法を挙げることができる。
上記ペプチド合成に採用される縮合法としても、公知の各種方法が使用でき、その具体例としては、例えばベンゾイルトリアゾル関連縮合剤法(HATU、TBTUなど)、DCC法、活性エステル法、などを挙げることができる。これら各方法に利用する溶媒は、かかるペプチド縮合反応に使用できる一般的な溶媒から適宜選択することができる。かかる溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等およびこれらの混合溶媒などを使用することができる。
また、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸ならびにペプチドにおけるカルボキシル基は、反応に支障を及ぼさない限り必ずしも保護を行う必要はないが、一般的には、エステル化により、例えば、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステル、p−フェナシールなどにして保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、Lysは、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチルオキシカルボニル基などの保護基で保護されてもよく、Trp残基は、保護してもしなくても良い。また、これら保護基は、慣用される方法、例えばピペリジン、接触還元法や、塩化水素、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸等を用いる方法などに従って容易に脱離することができる。
なお、この発明に係るペプチドは、D−アミノ酸を含むため、遺伝子工学的方法による合成は困難が伴い有効的な方法とはいえないが、ペプチドの種類によっては利用することも可能である。
上記のようにして得られるこの発明のペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って適宜精製することができる。
この発明に係る人工肺サーファクタント組成物は、上記ペプチド類と、天然脂質としての、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチンなどの大豆リン脂質などとの混合物であるのがよい。この人工肺サーファクタントには、オクタデカノールなどの高級飽和アルコール、脂肪酸類、コレステロール、トリアシルグリセロールなどの中性脂質などが含まれていてもよい。このうち、脂肪酸類としては、例えば、遊離脂肪酸、脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸グリセリンエステルもしくは脂肪酸アミドまたはこれら2種以上からなる混合物が挙げられ、遊離脂肪酸としては、パルミチン酸(PA)、ミリスチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
さらに、この発明の人工肺サーファクタントには、上記リン脂質の他に、例えば、1,2−ジパルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))、1,2−ジステアロイルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルグリセロ−(3)−ホスホコリンもしくは1−ステアロイル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1,2−ジアシルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1−ヘキサデシル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリンもしくは1−オクタデシル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1−アルキル−2−アシルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1,2−ジヘキサデシルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1,2−ジアルキルグリセロ−(3)−ホスホコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等のホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−リン酸(L−α−ホスファチジン酸)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−L−セリン(ホスファチジルセリン)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−sn−グリセロール(ホスファチジルグリセロール(PG))、ジホスファチジルグリセロール、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−(1)−L−myo−イノシトール(ホスファチジルイノシトール)などのリン脂質も添加することができる。
この発明の人工肺サーファクタント組成物におけるペプチドの含有量は、ペプチドやその他の成分である脂質などの種類などによって適宜決定することができ、特に制限されるものではない。この発明において、ペプチドの脂質に対する割合は、例えば、w/w比で1〜70%程度であるのがよい。
以下、この発明を実施例によって詳細に説明するが、この発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(ペプチドの合成)
ペプチドの合成は、Fmoc−Leu−PEG樹脂(渡辺化学社製、Fmoc−Leu−OH 0.21mmol/g樹脂)を出発原料とし、PerSeptive Biosystems社製自動合成装置により連続フロー式Fmoc固相合成法で行なった。トリフロロ酢酸で脱保護基して脱樹脂後、得られた粗ペプチドは、30% CHCOOHに溶解させ、Sephadex G−25カラムクロマトグラフィーによりペプチド部分を集め、さらに逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(COSMOSIL 5C18−AR20×250mm、0.1% TFA含有の三次水(アセトニトリル系)で、精製した。
目的のペプチドならびにその確認は、HPLC分析(COSMOSIL 5C18−AR4.6×150mm;溶媒系、0.1% TFA含有の三次水(同アセトニトリル)、およびTOF−Mass分析法(PerSeptive Biosystems社製Voyager型)を用いて行った。
その結果、7位と14位のロイシンならびに8位のリジンがそれぞれD−ロイシンならびにD−リジンであるペプチドHel13−5D3(配列番号7)と、7位、11位、14位ならびに16位のロイシンおよび8位のリジンがそれぞれD−ロイシンならびにD−リジンであるペプチドHel13−5D5(配列番号8)が得られたことを確認した。
(CD測定)
CDスペクトルの測定には日本分光J−700スペクトロメーターを使用した。セル長0.1cmの石英セル(ウォータージャケット付))を用い、室温25℃、測定波長領域196−260nm、積算回数4回で行なった。
また、ペプチド溶液は、ペプチド約2mgを2mlの20mM Tes Buffer(150mM NaCl含有)に溶かし、280nmにおけるTrp(Trpのモル吸光係数:5,000/cm▲.▼mol)の吸光度より、濃度の決定を行った。
(脂質材料、試料(脂質又ペプチド−脂質混合物)の調製)
リン脂質としては、卵黄から精製されたL−α−フォスファチジルコリン(egg PC:Avanti Polar Lipids,Inc.社)を用いた。水素添加大豆レシチンとしてはSLPホワイトH(辻製油株式会社、日本)を使用、また分別大豆レシチンとしては分別レシチンSLP−PC70(辻製油株式会社、日本)を使用し、さらに黄土色に着色している大豆レシチンPC70を更に分画して着色をほとんど除いたレシチン(大豆レシチンPC70D:同仁化学株式会社、日本)を使用した。卵黄レシチン及びその他の脂質および試薬は和光純薬株式会社(日本)を用いた。サーファクテン(Surfacten)は三菱ウエルファーマ株式会社(日本)製を、又ExosurfおよびSurfaxinは文献に従って調製した。
上記ペプチド、脂質、脂肪酸、アルコールを各配合量で秤量し、クロロホルム/メタノールに溶解させた。上記各試料にペプチドを2.5%濃度(w/w)となるように秤量して添加した。上記ペプチド−脂質混合液に、窒素ガスを吹き込み、減圧乾燥し、完全に有機溶媒を揮発させ、容器の壁面にフィルム状の乾燥品を形成させた。これに生理食塩水を加え、撹拌して、これを懸濁液に調製し、各試料とした。
各試料の組成は下記の通りである。
試料A:オクタデカノール−egg PC−PA(40:35:25w/w)
試料B:分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA(40:40:20)
試料C:OD−egg PC−PA−Hel13−5(40:35:22.5:2.5)
試料D:分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5(40:40:17.5:2.5)
試料E:分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3(40:40:17.5:2.5)
試料F:Murosurf SLPD5;分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D5(40:40:17.5:2.5)
(表面張力実験方法)
表面張力は、Wilhelmy Balancer(アコマ医科工業製)により室温(25℃)で測定した。テフロン水槽(78×138×30mm)に生理食塩水を張り、閉鎖された液面を作り、この液面の気−液界面に上記試料をそれぞれ100μgずつ展開し、自発的に拡がるまで3分間放置した。この間の表面張力の変化を水槽中に垂直に懸垂された白金プレートを用いて表面拡散率(surface spreading rate)として記録した。3分後に形成された単分子膜は、最大45cmから最小9cmまでの表面積に、3分/サイクルの速度で圧縮・膨張を繰り返した。白金プレートに作用する表面張力は、力変換器により電気信号に変換し、表面積の変化とともにX−Y記録計により自動的に連続記録した。この循環はもはやこれ以上変化が認められないというところまで続けた。
(動物実験における肺サーファクタントの活性評価)
ラット肺を温生食で洗浄し肺サーファクタ欠乏モデルを作成して100%酸素下に人工換気を行い、この発明に係る人工肺サーファクタントを投与して延命効果および肺コンプライアンスを測定して肺機能における効果を検討した。比較対照としては、広く臨床で使用されている牛肺サーファクタント由来であるサーファクテン(登録商標)、DPPCを主成分とし、リジン(K)およびロイシン(L)からなるペプチドを含んだSurfaxin(ペプチドKL24(配列番号5):KL4)ならびに脂質系のみで構成されペプチドを含まないExosurf(登録商標)の3種類の肺サーファクタントおよび肺サーファクタント無投与例を用いた。尚、肺洗浄は、洗浄前は0.60ml/cmHO前後あった肺コンプライアンスが0.2ml/cmHO前後になるまで行い、肺サーファクタ欠乏モデルが作成されているのを確認後に各種のサーファクタント投与実験を行った。また、それぞれのサーファクタント群毎に6匹以上のラットを使用した。
(喘息モデルにおける肺サーファクタントの効果)
ブラウン・ノルウェー・ラットを卵白アルブミン(OVA)で感作し、OVA吸入で肺抵抗が上昇する喘息モデルを作成した。OVA吸入前に、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3およびサーファクテン(登録商標)をそれぞれ0.1ml(20mg/ml)づつ気道内に投与して前処置を行った後にOVAを吸入し、Gilesらの方法に準じて経時的に肺抵抗を測定し、肺抵抗亢進の抑制作用により、喘息に対する効果を検討した。統計学的検討はTukey−Kremer法により各群の有意差検定を行った(p<0.05)。
(溶血活性)
各ペプチドの溶血活性を次のようにして調べた。
各ペプチドを約1mg取り、100%酢酸(20μl)で溶かし、全量5mlになるようにリン酸バッファーを加えた。この溶液を吸光度(280nm)測定をして濃度を決定した。実験時には、これを順次リン酸バッファーで希釈し用いた。
赤血球は、血液(約3ml)を遠心分離(2,000rpm,10min、4℃)にかけ、上清を取り除いて調製した。その後、リン酸バッファーを1ml加え、良く撹拌した後、上記と同様に遠心分離した。この操作を3回繰り返して行い、赤血球のみを得た。さらに、赤血球にリン酸バッファーを1ml加え、よく撹拌したものを60μlづつマイクロチューブに振り分けさらに遠心分離し、上清を取り除いたものを実験に用いた。
ペプチドおよびタンパク質溶液を赤血球にそれぞれ1mlづつ加え、よく撹拌した後、25℃で60分間放置した。その後、チューブを遠心分離にかけ上清のみ(100μl)を採り、吸光度(542nm)を測定した。上清はチューブに戻した。さらに、各チューブに界面活性剤トリトンXを1滴加えよく撹拌し、上清を吸光度(542nm)で測定した。
その結果、Hel13−5D3の溶血活性は濃度依存的であり、約20μMで溶血度は100%付近に達する一方、Hel13−5D5においては30μM〜50μMで最大35%、50μM〜75μMでは濃度依存的に活性が増加することが確認された。尚Hel13−5は1〜5μMで完全溶血した。
(膜特異性の高いD−アミノ酸含有ペプチドのデザイン)
天然蛋白質やペプチドの二次構造において、親水部分と疎水部分からなる両親媒性構造は、その構成するアミノ酸の種類により、固有の疎水性−親水性バランス(Hydrophobic−Hydrophilic Balance(以下、「HHB」と略す)を有する。そのHHBの違いが、蛋白質やペプチドの立体構造やその安定性、また生理機能を決定する上で、重要である。近年それら両親媒性ペプチドの中に一部D−アミノ酸を導入すると、その二次構造に微妙な変化が生じ、それが生理活性に劇的な変化を起こす事が報告された。例えば、Shaiらは、抗菌活性はあるが、同時に溶血活性などの毒性の強い両親媒性ペプチドにD−アミノ酸を導入すると、抗菌活性は変化なく、溶血活性のみなくなる事、さらに、正常細胞には毒性が少なくガン細胞のみに選択的に働くこととを示し、新たなる抗腫瘍化学療法剤の可能性を示した((Papo et al.,J.Biol.Chem.,278,21018(2003))。それは、おそらくD−アミノ酸を導入することにより生ずる微妙な親水性−疎水性バランスの違いによって、細胞膜への作用洋式に変化が生じたものと考えられるが詳細は明らかでない。
本発明者らは、Hel13−5は、両親媒的性質をし、かつ優れた肺サーファクタントペプチドの性質を有するが、一方では、それ自身、単独では強い溶血活性も示すことを見出した。そこで、Hel 13−5にD−アミノ酸を導入して、溶血活性の軽減を試みた。D−アミノ酸の導入する位置は適当にバランスよくなるように設定し、その導入割合は全体の20−30%とした。
(ペプチドのコンフォメーションと脂溶性)
D−アミノ酸導入による構造および性質の変化を検討するため、CDスペクトル測定ならびに逆相HPLC分析を行った。その結果を図1に示す。
この発明に係るペプチドならびにその関連物質について、CDスペクトル測定により、これらの物質のとる構造を調べた(図1A)。CDスペクトル測定結果から、Hel13−5では、デザイン通りαヘリックス構造をとることが確認され、D−アミノ酸を導入したHel13−5D3およびHel13−5D5は、αヘリックス構造が減少しランダム様の構造になることが分かった。そこでフェーリエ変換赤外分光減衰全反射法(ATR−FTIR)を測定したところ、ヘリックス構造の他にβ−構造も含まれることが分かった(図1B)。さらに、逆相HPLC実験から、D−アミノ酸導入率が高まるにつれ、それらの脂溶性は低下していくことも分かった。
上記の結果から、本発明者らがこれまでL−アミノ酸のみで形成したペプチドは、期待した如く、構造およびそれらの脂溶性に影響をおよぼすことが分かった。これらの影響は、構造中の側鎖に由来するものと思われる。通常L−アミノ酸のみで形成されたα−ヘリックスの場合、それらの側鎖はヘリックス軸にそって一定に配向する。しかし、本発明に係るペプチドのように、その一部にD−アミノ酸を導入すると、側鎖の出方の違うものが存在するようになり、それまで一定に保たれていた側鎖間が一部近接(衝突)した状態となる。これにより、元来のα−ヘリックス構造を保つことができなくなった結果、ヘリックス構造の減少及びβ−構造を含むランダムな構造になったと考えられる。また、それは両親媒性構造の部分的な崩壊を招き、脂溶性の低下を引き起こしたと推定される。しかし、Trpの蛍光スペクトルを測定したところ、これらペプチドは、脂質二分子膜の脂溶性部分に部分的に埋め込まれていることが示唆された。
(In vitroにおける肺サーファクタントの活性評価)
肺サーファクタントの活性発現メカニズムを考慮する時、安定な単分子膜−二分子膜を形成する必要がある。この間の相互移行を形成する上で、飽和と不飽和リン脂質は必須と考えられる。肺サーファクタントは蛋白質と脂質からなるが、蛋白質は肺胞の気−液界面でおこるリン脂質の単分子膜−二分子膜相互移行を、スムーズに行うための触媒的な作用をすると考えられている。この相互移行は、肺の呼吸圧の変化を模したWilhelmy表面張力計で表面張力−表面積曲線(ヒステレシス曲線)を測定することによって、容易に観察する事ができる。一般に圧縮時の表面張力の低下速度が速いほど、又自発的な表面拡散能力が速やかなものほど、良好なin vivo活性を示す。すなわち、ヒステレシスカーブの形成する面積の大きい程、又圧縮時の表面張力の小さいものほど良好であるといわれている。
D−アミノ酸含有ペプチド−大豆レシチン脂質混合系のヒステレシス曲線を図2に示す。D−アミノ酸を3個含むHel13−5D3系においては、試みられた脂質混合系において、全て最小表面張力(13mNm−1)はサーファクテン(登録商標)に及ばないまでも、良好な曲線が得られた。一方、D−アミノ酸を5個含むHel13−5D5系においては、Hel13−5D3系に対してより良好な曲線は得られなかった。
なお、図2中の符号は次の通りである。
Surfacten−サーファクテン(登録商標) (1)
Exosurf:エキソサーフ (2)
Surfaxin:サーファクシン (3)
オクタデカノール−egg PC−PA(40:35:25w/w) (4)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA(40:40:20) (5)
OD−egg PC−PA−Hel13−5(40:35:22.5:2.5) (6)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5(40:40:17.5:2.5) (7)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3(40:40:17.5:2.5) (8)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D5(40:40:17.5:2.5) (9)
(動物実験における肺サーファクタントの活性評価)
肺サーファクタント欠乏により、ヒト未熟児に発症する呼吸窮迫症候群のモデルとしての肺洗浄ラットを用いて、肺コンプライアンスを基に、この発明にかかるペプチド−脂質系の活性評価を行った。生理食塩水でウィスターラットの肺を洗浄する事で呼吸障害モデルを作成、その後肺サーファクタントを投与し、肺機能(コンプライアンス:compliance)を測定した。その結果を図3に示す。一般に、コンプライアンスの値は、肺サーファクタント投与直後から、迅速に上昇し、かつ上昇するほど良好な肺サーファクタントであると考えられている。市販のサーファクテン(登録商標)は、コンプライアンスの値が投与直後から少しずつ上昇し2時間位で一定になる。一方、Hel13−5D3−脂質混合系(分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel13−5D3(40:40:17.5:2.5)では、サーファクテン(登録商標)と同様の傾向を示すが、0.5時間ならびに1時間では、むしろその価が大きかった。この事は、肺機能の快復が、サーファクテン(登録商標)より良好であることを示している。一方、Hel13−5D5系では、肺機能回復力はHel13−5D3よりも弱かった。さらに、Hel13−6D3は、本発明者らが開発したD−アミノ酸を含まないHel 13−5と安価な大豆脂質との混合系(分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5)よりも良好であった。また、Hel13−5D3系のサーファクタント活性は、ペプチドとしてKL24を含んでいるペプチド−脂質混合系として開発された人工サーファクタント(surfaxin)のサーファクタント活性よりもより良好であるといえる。
なお、図3中の符号は次の通りである。
サーファクテン(登録商標) (□)
エキソサーフ (▲)
サーファクシン (●)
オクタデカノール−egg PC−PA(40:35:25w/w) (◆)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA(40:40:20) (■)
OD−egg PC−PA−Hel13−5(40:35:22.5:2.5) (△)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5(40:40:17.5:2.5) (×)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3(40:40:17.5:2.5) (◇)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D5(40:40:17.5:2.5) (○)
(喘息モデルにおける肺サーファクタントの効果)
図4に示すように、サーファクタントを投与していないコントロールに比べて、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA(40:40:20)、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5(40:40:17.5:2.5)、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3(40:40:17.5:2.5)およびサーファクテン(Surfacten)のいずれのサーファクタントも有意に卵黄アルブミン(OVA)誘発の気道抵抗の亢進を、OVA投与後45分まで抑制した。
なお、図4中の符号は下記の通りである。
サーファクテン(登録商標)(▲)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA(40:40:20)(●)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5(40:40:17.5:2.5)(◆)
分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3(40:40:17.5:2.5)(■)
生理食塩水(×)
この発明に係るペプチドであるD−アミノ酸を含有するペプチド中の1つの化合物であるHel 13−5D3からなる大豆脂質との混合系(分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3(40:40:17.5:2.5))は、良好なヒステレシス曲線を示すとともに、肺洗浄ラットを用いての肺コンプライアンス測定実験において高い肺サーファクタント活性を示した。さらに、その活性は、市販のサーファクテン(登録商標)の活性を凌ぐものであった。しかもその系の脂質は、高価なDPPCやPGの代わりに安価な大豆レシチンを用いている。大豆レシチンは、高脂血症の治療薬として、用いられているので、医薬品としての脂質の毒性の問題は排除出来ると考えられる。ペプチド自体の溶血活性については、Hel 13−5D3はHel 13−5比べて,数倍と低く,その面でも毒性の改良がなされた。勿論、脂質混合系では、Hel 13−5においても.溶血性はない。その上、現在市販されている動物肺由来の人工調製サーファクタントは常に狂牛病などの危険性を常に有する。それに対して、この発明に係る人工肺サーファクタントは、動物肺由来ではないので、その心配もなく、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)などの重篤な呼吸障害などの疾患に対する治療薬として安定した供給をする事ができる。
一方、本発明に係るD−アミノ酸含有ペプチドの合成にしても、ペプチド合成法により大量合成も可能であるとともに、その合成も単純なアミノ酸を出発原料として合成可能であることから実用化が期待できる。
このように有用でかつ高いサーファクタント活性を有するペプチドは、動物由来の蛋白質を含んでいないため、病原菌等による感染の心配がなくかつ極めて安全に使用することができると共に、安価に量産することができることから、これまであまりにも高価であることから適用がされていなかった大人の罹る急性呼吸窮迫症候群(ARDS)への適用も可能となることも期待される。
サーファクテン(登録商標)をはじめとするいくつかの人工サーファクタントで喘息発作に対する抑制効果が報告されている。しかしながら、コスト・パフォーマンスやメカニズムが明確でないため、小規模な実験報告に留まっている。今回の我々の実験結果も、サーファクテンと同様に、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5および分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA−Hel 13−5D3も喘息発作に対する効果を確認するものであるが、これらは従来のサーファクタントに比べて安価に製造が可能であり、喘息治療薬としての開発も十分可能であると考えられる。また、サーファクタント蛋白質を含まない、分別大豆レシチン70D−水素化大豆レシチン−PA、も同等の効果を示したことは、サーファクタントの喘息発作抑制効果のメカニズムを考える上で興味深い。
この発明に係る肺サーファクタントは、牛肺に依存しない新規人工肺サーファクタントとして、RDSやADRS疾患への適用のみならず、安価であるが故に喘息への適用、肺ガン等による重篤な末期症状の呼吸窮迫の緩和、その他、肺炎をはじめとする多くの呼吸器疾患の重症例への適用への可能性を示すものである。
[配列表]
Figure 2007001094
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Claims (18)

  1. 膜作用様式に特異性を付与された親水部分と疎水部分からなる両親媒性ペプチドであって、アミノ酸数が5個ないし60個からなるアミノ酸配列を有しかつアミノ酸配列の6%ないし50%がD−アミノ酸からなるとともに、サーファクタント活性を有しかつ溶血活性を持たないペプチド。
  2. 請求の範囲1項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列の20%ないし30%がD−アミノ酸からなるペプチド。
  3. 請求の範囲1項または2項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列の10%ないし40%がD−アミノ酸からなるペプチド。
  4. 請求の範囲1項ないし3項のいずれか1項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列の20%ないし30%がD−アミノ酸からなるペプチド。
  5. 請求の範囲1項ないし4項のいずれか1項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列のうち1個ないし10個がD−アミノ酸からなるペプチド。
  6. 請求の範囲1項ないし6項のいずれか1項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列のうち1個ないし7個がD−アミノ酸からなるペプチド。
  7. 請求の範囲1項ないし6項のいずれか1項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列のうち2個ないし6個がD−アミノ酸からなるペプチド。
  8. 請求の範囲1項ないし7項のいずれか1項に記載のペプチドにおいて、上記アミノ酸配列がロイシンおよび/またはリジンを主な構成アミノ酸であることからなるペプチド。
  9. 請求の範囲1項ないし8項のいずれか1項に記載のペプチドにおいて、トリプトファンがさらに含まれていることからなるペプチド。
  10. 請求の範囲1項ないし9項のいずれか1項に記載のペプチドを含む天然レシチンとの混合系からなる肺サーファクタント組成物。
  11. 請求の範囲10項に記載の肺サーファクタント組成物において、ペプチドと天然レシチンとの混合割合が約2対8ないし約8対2である肺サーファクタント組成物。
  12. 請求の範囲10項または11項に記載の肺サーファクタント組成物において、ペプチドと天然レシチンとの混合割合が約3対7ないし約7対3である肺サーファクタント組成物。
  13. 請求の範囲10項ないし12項のいずれか1項に記載の肺サーファクタント組成物において、ペプチドと天然レシチンとの混合割合が約4対6ないし約6対4である肺サーファクタント組成物。
  14. 請求の範囲10項ないし13項のいずれか1項に記載の肺サーファクタント組成物において、脂肪酸および・または高級アルコールがさらに含まれている肺サーファクタント組成物。
  15. 請求の範囲10項ないし14項のいずれか1項に記載の肺サーファクタント組成物において、脂肪酸がパルミチン酸であり、高級アルコールがオクタデカノールであることからなる肺サーファクタント組成物。
  16. 請求の範囲1項ないし9項のいずれか1項に記載のペプチドを肺サーファクタントとして使用することからなるペプチドの使用方法。
  17. 請求の範囲1項ないし9項のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求の範囲10項ないし15項のいずれか1項に記載の肺サーファクタント組成物を呼吸不全に適用することからなる使用方法。
  18. 請求の範囲17項に記載する使用方法において、呼吸不全が新生児呼吸窮迫症候群もしくは急性呼吸窮迫症候群または喘息によることからなる使用方法。
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