本発明に係る電動パワーステアリング用モータの最も代表的な最良の実施形態は次の通りである。
すなわち、多相の交流電力により駆動されて操舵用のトルクを出力する電動パワーステアリング用モータであって、フレームと、該フレームに固定されたステータと、該ステータに空隙を介して対向配置されたロータとを有し、前記ステータは、ステータコアと、該ステータコアに組み込まれた多相のステータコイルとを備えており、前記ステータコアは、分割された複数のコア片を結合することにより形成されたものであって、前記分割された複数のコア片は、前記バックコア部を周方向に複数に分割して得られるコア片の1片と、前記ティースコア部に対応するコア片とが一体になったT字形のコア片であり、前記ステータコアは、前記T字形のコア片を周方向に複数結合することによって形成されており、前記ステータコアの隣接する前記ティースコア部間にはスロット部が形成されており、前記ステータコイルは前記スロット部に収納されるとともに、前記ティースコア部に対して集中巻で巻回されており、前記ロータは、ロータコアと、該ロータコアの外周表面に固定された複数のマグネットとを備えている電動パワーステアリング用モータにある。
また、本発明に係る電動パワーステアリングシステムの最も代表的な最良の実施形態は次の通りである。
すなわち、車載電源と、この車載電源からワイヤーハーネスを介して供給された直流電力を多相の交流電力に変換するとともに、ステアリングに加えられたトルクに応じて、その出力を制御する制御装置と、この制御装置から供給される交流電力によって駆動され、操舵用のトルクを出力する電動パワーステアリング用モータとを有する電動パワーステアリングシステムであって、前記電動パワーステアリング用モータは、フレームと、該フレームに固定されたステータと、該ステータに空隙を介して対向配置されたロータとを有し、前記ステータは、ステータコアと、該ステータコアに組み込まれた多相のステータコイルとを備えており、前記ステータコアは、分割された複数のコア片を結合することにより形成されたものであって、前記分割された複数のコア片は、前記バックコア部を周方向に複数に分割して得られるコア片の1片と、前記ティースコア部に対応するコア片とが一体になったT字形のコア片であり、前記ステータコアは、前記T字形のコア片を周方向に複数結合することによって形成されており、前記ステータコアの隣接する前記ティースコア部間にはスロット部が形成されており、前記ステータコイルは前記スロット部に収納されるとともに、前記ティースコア部に対して集中巻で巻回されており、前記ロータは、ロータコアと、該ロータコアの外周表面に固定された複数のマグネットとを備えており、前記マグネットの個数(極数)と前記スロット部の個数との間には、8極−9スロット或いは10極−9スロット若しくは10極−12スロットの関係がある電動パワーステアリングシステムにある。
以下、本発明の実施例である電動パワーステアリング用モータの構成及び動作を図1〜図10に基づいて説明する。
最初に、図1を用いて、本実施例の電動パワーステアリング用モータを用いた電動パワーステアリングのシステム構成について説明する。
図1は、本実施例の電動パワーステアリング用モータを用いた電動パワーステアリングの構成を示すシステム構成図である。
ステアリングSTを回転させると、その回転駆動力は、ロッドROを介して、マニュアルステアリングギアSTGにより減速して、左右のタイロッドTR1,T2に伝達し、左右の車輪WH1,WH2に伝達され、左右の車輪WH1,WH2を舵取りする。
本実施例によるEPSモータ100は、ステアリングSTのロッドROの近傍に取り付けられており、ギアGEを介して、その駆動力をロッドROに伝達する。ロッドROには、トルクセンサTSが取り付けられており、ステアリングSTに与えられた回転駆動力(トルク)を検出する。制御装置200は、トルクセンサTSの出力に基づいて、EPSモータ100の出力トルクが目標トルクとなるようにモータ100への通電電流を制御する。制御装置200及びEPSモータ100の電源は、バッテリーBAから供給される。
なお、以上の構成は、ステアリングの近傍にEPSモータを備えるコラム型のパワーステアリングであるが、EPSモータをラック&ピニオンギアの近傍に備えるラック型のパワーステアリングに対しても、本実施例のEPSモータ100は同様に適用できるものである。
先ず、EPSモータ100、制御装置200、バッテリーBAのエネルギー収支について説明する。EPSモータ100の動力源であるバッテリーBAとして、例えば、12V,80Aのものを用いる場合、その出力は、約1kW(960W)である。バッテリーBAと制御装置200とはワイヤーハーネスで接続されており、太いワイヤーハーネスを用いることで低抵抗化しても(引きまわしの容易性を考慮すると、導体断面積8平方mm程度のワイヤーハーネスが限界)、上述のように大電流が流れる場合、ワイヤーハーネスの消費電力は、200W程度となる。また、制御装置200自体の内部抵抗値を小さくしたとしても、その消費電力は、約200〜300Wとなる。したがって、バッテリーBAの出力可能な電力(約1kW)の内、約半分がワイヤーハーネスや制御装置200で消費され、EPSモータ100で消費可能な電力は半減する。
従来用いられているEPSモータとしては、4極12スロットの永久磁石式分布巻きのブラシレスモータが知られている。このEPSモータは、小排気量(小車両総重量)の車両に用いられている。大排気量(大車両総重量)の車両では、現状では、油圧式のパワーステアリング装置が実用化されている。このような大排気量(大車両総重量)の車両(例えば、排気量1.8L以上、車両総重量1.5t以上)に、従来から用いられている4極12スロットの永久磁石式ブラシレスモータを用いることは実用上不可能であった。その理由は、大排気量(大車両総重量)の車両においては、据え切り状態では車両重量が大きすぎるため、ステアリングと地面の間の摩擦が大きすぎ、据え切りが不可能になるからである。
従来の4極12スロットの永久磁石式分布巻きのブラシレスモータにおいて、低速時のトルクを大きくできない理由は、モータの銅損が大きく、前述のエネルギー収支の関係から、十分なモータ電流が流れ込まないことによる。そこで、第1に、本実施例では、銅損の小さなEPSモータとする必要がある。
また、EPSモータに必要な特性として、トルク脈動の低減が上げられる、両振幅値で100〜200mNmに押さえる必要がある。この点、4極12スロットのブラシレスモータでは、トルク脈動が大きくなるという問題も生じ、回転子のスキューなどの手段により、トルク脈動を打ち消すことが必須になる。一方、4極12スロットのブラシレスモータでは、固定子の内径真円度誤差によるコギングトルクが大きいため、内径真円度誤差が小さくても、相対的にコギングトルクが大きくなってしまう。そこで、第2に、本実施例では、固定子の内径真円度誤差によるコギングトルクが小さなEPSモータとする必要がある。
さらに、騒音の問題が上げられる。特に、コラム型のパワーステアリングでは、EPSモータは車室内に配置されるため、騒音の問題が顕著となる。大排気量の車両では、高級車の分類に入るため、車室内の静音が求められる。ここでEPSモータの騒音は、一般的には、その音色で評価される。要するに、耳障りな音が発生しない,若しくは非常に小さいことが求められる。問題となる音色とは、具体的には、数10〜数100Hz帯域の電磁音が関係する、ウー音ないしジリジリ音が聴感上問題となることがある。従って、第3には、これらのノイズを低減した低騒音のEPSモータとする必要がある。
これらの課題を達成するのが、本実施例によるEPSモータである。
次に、図2及び図3を用いて、本実施例の電動パワーステアリング用モータの構成について説明する。
図2は、本実施例の電動パワーステアリング用モータの構成を示す横断面図である。図3は、図2のA−A断面図である。図3(A)は全体の断面図を示し、図3(B)は要部の断面図を示している。
電動パワーステアリング用モータ(以下、EPSモータと記す)100は、ステータ110と、このステータ110の内側に回転可能に支持されたロータ130とを備えた、表面磁石型の同期電動機である。EPSモータ100は、バッテリ−を備えた車載電源、例えば14ボルト系電源(バッテリーの出力電圧が12ボルト)あるいは24ボルト系電源若しくは42ボルト系電源(バッテリーの出力電圧36ボルト)又は48ボルト系電源から供給される電力で駆動される。
ステータ110は、珪素鋼板を積層した磁性体で形成されたステータコア112と、ステータコア112のスロット内に保持されたステータコイル114とを備えている。ステータコア112は、図3を用いて後述するように、12個のT字形状のティース一体型分割バックコアからなり、これらを一体化してステータコア112としている。T字形状のティース一体型分割バックコアのティース部分には、それぞれ、ステータコイル114が予め巻回されている。ステータコイル114は集中巻の方式で、しかも、整列巻の方式で、巻かれている。
ステータコイル114を集中巻とすることにより、ステータコイル114のコイルエンド長を短くできる。これにより、EPSモータ100の回転軸方向の長さを短くすることができる。また、ステータコイル114のコイルエンドの長さを短くできるので、ステータコイル114の抵抗を小さくでき、モータの温度上昇を抑えることができる。また、集中巻にすることで、予めティース部分にステータコイルを整列巻で巻回することができるため、隣接するティース間に形成されるステータスロットに対するステータコイルの占積率を向上できる。また、分布巻とした場合に比べてコイルエンド長を短くできるため、コイルの全長を短くできる。したがって、コイル抵抗を小さくできることから、モータの銅損を小さくできる。以上の理由から、モータへの入力エネルギーの内、銅損によって消費される割合を小さくでき、入力エネルギーに対する出力トルクの効率を向上することができるので、従来の4極12スロットのモータと同一体格とした時、低速時(低回転時)の最大出力トルクを30〜40%程度向上することができる。その結果、大排気量の車両(大車両重量の車両)に対するEPSモータとして実用に供することができる。
EPSモータは上述のごとく車両に搭載された電源により駆動される。上記電源は出力電圧が低い場合が多い。電源端子間にインバータを構成するスイッチング素子や上記モータ、その他電流供給回路の接続手段が等価的に直列回路を構成し、上記回路においてそれぞれの回路構成素子の端子電圧の合計が上記電源の端子間電圧になるので、モータに電流を供給するためのモータの端子電圧は低くなる。このような状況でモータに流れ込む電流を確保するにはモータの銅損を低く押えることが極めて重要である。この点から車両に搭載される電源は50ボルト以下の低電圧系が多く、ステータコイル114を集中巻とすることが望ましい。特に12ボルト系電源を使用する場合は極めて重要である。
また、EPSモータはステアリングコラムの近傍に置かれる場合、ラックアンドピニオンの近傍に置かれる場合などがあるが、何れも小型化が要求される。また、小型化された構造でステータ巻線を固定することが必要であり、巻線作業が容易なことも重要である。分布巻に比べ集中巻は巻線作業、巻線の固定作業が容易である。
ステータコイル114のコイルエンドはモールドされている。EPSモータはコギングトルクなどのトルク変動をたいへん小さく押えることが望ましく、ステータ部を組み上げてからステータ内部を再度切削加工することがある。このような機械加工により、切削紛が発生する。この切削紛がステータコイルのコイルエンドへの入り込みを防止することが必要であり、コイルエンドのモールドが望ましい。コイルエンドは、ステータコイル114が、ステータコア112の軸方向両端部から軸方向に突出した部位を指す。尚、本実施例では、ステータコイル114のコイルエンドを覆ったモールド樹脂と、フレーム150との間に空隙がられているが、フレーム150,フロントフランジ152F及びリアフランジ152Rと接触する位置までモールド樹脂を充填してもよい。こうすることにより、ステータコイル114からの発熱を、コイルエンドからモールド樹脂を介して直接、フレーム150,フロントフランジ152F及びリアフランジ152Rに伝達して外部に放熱できるので、空気を介して熱伝達する場合に比べてステータコイル114の温度上昇を低減することができる。
ステータコイル114は、U相,V相,W相の3相から構成され、それぞれ複数の単位コイルから構成される。複数の単位コイルは、図4を用いて後述するように、3相の各相毎に、図示の左側に設けられた結線リング116によって結線されている。
EPSモータは大きなトルクが要求される。例えば車の走行停止状態、あるいは走行停止に近い運転状態でステアリングホイール(ハンドル)が早く回転されると操舵車輪と地面との間の摩擦抵抗のため、上記モータには大きなトルクが要求される。このときには大電流がステータコイルに供給される。このような大電流を安全に供給でき、また上記電流による発熱を低減するために結線リング116を用いることはたいへん重要である。上記結線リング116を介してステータコイルに電流を供給することにより接続抵抗を小さくでき、銅損による電圧降下を押えることができる。このことにより、大電流の供給が容易になる。またインバータの素子の動作に伴う電流の立ち上がり時定数が小さくなる効果がある。
ステータコア112とステータコイル114は、樹脂(電気的な絶縁性を有するもの)により一体にモールドされ、一体に形成されてステータSubAssy を構成している。この一体成形されたステータSubAssy は、アルミなど金属で形成された円筒状のフレーム150の内側に圧入されて固定された状態でモールド成形される。尚、一体成形されたステータSubAssy は、ステータコイル114がステータコア112に組み込まれた状態でモールド成形され、この後、フレーム1に圧入されてもよい。
自動車に搭載されるEPSには色々な振動が加わる。また、車輪からの衝撃が加わる。また、気温変化の大きい状態で利用される。摂氏マイナス40度の環境温度も考えられ、また、温度上昇によりモータ本体の温度が摂氏100度以上も考えられる。さらに、モータ内に水が入らないようにしなければならない。このような条件で固定子がヨーク150に固定されるためには、筒状フレームの少なくともステータ鉄心の外周部には螺子穴以外の穴が設けられていない、円筒金属にステータ部(SubAssy )を圧入することが望ましい。また、圧入後さらにフレームの外周から螺子止めしてもよい。圧入に加え回止を施すことが望ましい。
ロータ130は、珪素鋼板を積層した磁性体からなるロータコア132と、このロータコア132の表面に接着剤によって固定された複数の永久磁石であるマグネット134と、マグネット134の外周に設けられた非磁性体からなるマグネットカバー136を備えている。マグネット134は、Nd−Fe−Bなどの希土類磁石である。ロータコア132は、シャフト138に固定されている。ロータコア132の表面に接着剤により複数のマグネット134が固定されるとともに、その外周側をマグネットカバー136で覆うことにより、マグネット134の飛散を防止している。上記マグネットカバー136はステンレス鋼(俗称SUS)で構成されているが、テープを巻きつけても良い。
円筒形状のフレーム150の一方の端部には、フロントフランジ152Fが設けられている。フレーム150とフロントフランジ152FとはボルトB1により固定されている。また、フレーム150の他方の端部には、リアフランジ152Rが圧入されている。フロントフランジ152F及びリアフランジ152Rには、それぞれ、軸受154F,154Rが取り付けられている。これらの軸受154F,154Rにより、シャフト138及び、このシャフト138に固定されたステータ110が回転自在に支承されている。
フロントフランジ152Fには円環状の突出部(或いは延出部)が設けられている。フロントフランジ152Fの突出部は軸方向に突出したものであり、フロントフランジ152Fのコイルエンド側の側面からコイルエンド側に延出している。フロントフランジ152Fの突出部の先端部は、フレーム150にフロントフランジ152Fを固定した際、フロントフランジ152F側のコイルエンドのモールド材とフレーム150との間に形成された空隙内に挿入されるようになっている。また、コイルエンドからの放熱を向上させるために、フロントフランジ152Fの突出部は、フロントフランジ152F側のコイルエンドのモールド材と密に接触していることが好ましい。
リアフランジ152Rには円筒状の窪みが設けられている。リアフランジ152Rの窪みはシャフト138の中心軸と同心のものであり、フレーム150の軸方向端部よりも軸方向内側(ステータコア112側)に入り込んでいる。リアフランジ152Rの窪みの先端部は、リアフランジ152R側のコイルエンドの内径側まで延びて、リアフランジ152R側のコイルエンドと径方向に対向している。リアフランジ152Rの窪みの先端部には軸受154Rが保持されている。シャフト138のリアフランジ152R側の軸方向端部は軸受154Rよりもさらに軸方向外方(ロータコア132側とは反対側)に延びて、リアフランジ152Rの窪みの開口部近傍或いは開口部よりも若干軸方向外方に突出する位置まで至っている。
リアフランジ152Rの窪みの内周面とシャフト138の外周面との間に形成された空間にはレゾルバ156が配置されている。レゾルバ156はレゾルバステータ156Sとレゾルバロータ156Rを備えており、軸受154Rよりも軸方向外側(ロータコア132側とは反対側)に位置している。レゾルバロータ156Rはシャフト138の一方の端部(図示左側の端部)にナットN1によって固定されている。レゾルバステータ156Sは、レゾルバ押さえ板156BがネジSC1によってリアフランジ152Rに固定されることにより、リアフランジ152Rの窪みの内周側に固定され、レゾルバロータ156Rと空隙を介して対向している。レゾルバステータ156Sとレゾルバロータ156Rによりレゾルバ156を構成し、レゾルバロータ156Rの回転をレゾルバステータ156Sによって検出することにより、複数のマグネット134の位置を検出できる。さらに具体的に説明すると、レゾルバは、外周表面が凹凸状(例えば楕円形状或いは花びら形状)であるレゾルバロータ156Rと、2つの出力用コイル(電気的に90°ずれている)及び励磁用コイルがコアに巻かれたレゾルバステータ156Sとを有する。励磁用コイルに交流電圧を印加すると、2つの出力用コイルには、レゾルバロータ156Rとレゾルバステータ156Sとの間の空隙の長さの変化に応じた交流電圧が、回転角度に比例する位相差をもって発生する。このように、レゾルバは、位相差をもった2つの出力電圧を検知するためのものである。ロータ130の磁極位置は、検知された2つの出力電圧の位相差から位相角を求めることによって検出できる。リアフランジ152Rの外周には、レゾルバ156を覆うようにして、リアホルダ158が取り付けられている。
結線リング116によって接続されたU相,V相,W相の各相には、パワーケーブル162を介して、外部のバッテリーから電力が供給される。パワーケーブル162は、グロメット164によりフレーム150に取り付けられている。レゾルバステータ156Sから検出された磁極位置信号は、信号ケーブル166により外部に取り出される。信号ケーブル166は、グロメット168により、リアホルダ158に取り付けられている。結線リング116とパワーケーブル1の一部分はコイルエンドと共にモールド材によってモールドされている。
次に、ステータ110及びロータ130の構成を図3に基づいてさらに具体的に説明する。図3は、図2のA−A矢視図である。図3(B)は、図3(A)の要部の拡大断面図である。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。
本例では、12個のT字形状のティース一体型分割バックコア112(U1+),112(U1−),112(U2+),112(U2−),112(V1+),112(V1−),112(V2+),112(V2−),112(W1+),112(W1−),112(W2+),112(W2−)から構成されている。ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)は、それぞれ、珪素鋼板などの磁性体の薄板をプレス成形により打ち抜き、それを積層した構成となっている。
ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)のティース部には、それぞれ、ステータコイル114(U1+),114(U1−),114(U2+),114(U2−),114(V1+),114(V1−),114(V2+),114(V2−),114(W1+),114(W1−),114(W2+),114(W2−)が集中巻で巻回されている。
ここで、ステータコイル114(U1+)と、ステータコイル114(U1−)では、コイルを流れる電流の向きが逆方向となるように巻回されている。同様に、ステータコイル114(U2+)と、ステータコイル114(U2−)では、コイルを流れる電流の向きが逆方向となるように巻回されている。また、ステータコイル114(U1+)と、ステータコイル114(U2+)では、コイルを流れる電流の向きが同一方向となるように巻回されている。同様に、ステータコイル114(U1−)と、ステータコイル114(U2−)では、コイルを流れる電流の向きが同一方向となるように巻回されている。ステータコイル114(V1+),114(V1−),114(V2+),114(V2−)の電流の流れ方向の関係、及びステータコイル114(W1+),114(W1−),114(W2+),114(W2−)の電流の流れ方向の関係も、U相の場合と同様である。
ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)に、それぞれ、ステータコイル114(U1+),…,114(W2−)を巻回した後、ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)の周方向の端面に形成された凹部と嵌合形状の凸部とを圧入して、ステータ110の組立が完了する。次に、バックコア112Bの外周側の複数箇所をフレーム150の内周側に圧入した状態で、ステータコア112とステータコイル114とを熱硬化性樹脂MRにより一体モールド成形し、ステータSubAssy を構成する。尚、本実施例では、ステータコア112にステータコイル114を組み込んだものを、フレーム150に圧入した状態で、ステータコア112とステータコイル114とを一体モールドする場合について説明したが、ステータコア112にステータコイル114を組み込んだ状態で、ステータコア112とステータコイル114とを一体モールドし、その後、ステータコア112をフレーム150に圧入してもよい。
モールド材によるモールド成形にあたっては、ステータコア112と、ステータコア112の軸方向端部から軸方向に突出するステータコイル114のコイルエンド部を、図示省略した治具とフレーム150によって囲むように、図示省略した治具を、ステータコア112とステータコア112とフレーム150からなる構造体に対して取り付け、図示省略した治具とフレーム150によって囲まれている中に流体状のモールド材を注入し、コイルエンド部,ステータコア112の隙間,ステータコイル114の隙間,ステータコア112とステータコイル114との間の隙間及びステータコア112とフレーム150との間の隙間にモールド材を充填し、モールド材を固化させ、モールド材が固化したら、図示省略した治具を取り外す。
モールド成形したステータSubAssyの内周面,すなわち、ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)のティース部の先端部であって、ロータ130と径方向に対向する面側には、必要に応じて切削加工が施される。これにより、ステータ110とロータ130とのギャップ長さのバラツキを低減して、ステータ110の内径真円度をさらに向上させることができる。また、モールド成形により一体化することにより、モールドしない場合に比べて、ステータコイル114に通電することにより発生する熱の放熱性をよくすることができる。また、モールド成形することにより、ステータコイルやティースの振動を防止することもできる。また、モールド成形した後、内径を切削加工することにより、内径真円度に基づくコギングトルクを低減することができる。コギングトルクを低減することにより、ステアリングの操舵感を向上することができる。
例えば、ロータ130のロータコアの外周と、ステータ110のティースの内周の間のギャップ長さを、3mm(3000μm)としたとき、バックコア112Bの製作誤差,ティース112Tの製作誤差や、バックコア112Bとティース112Tと圧入組み立てた時の組み付け誤差等により、内径真円度は、±30μm程度生じる。この真円度は、ギャップの1%(=30μm/3000μm)に相当するため、この内径真円度によってコギングトルクが発生する。しかし、モールド成形した後、内径を切削加工することにより、内径真円度に基づくコギングトルクを低減することができる。コギングトルクを低減することにより、ステアリングの操舵感を向上することができる。
フレーム150の内側には凸部150Tが形成されている。バックコア112Bの外周には、凸部150Tと対応するように凹部112BO2が形成されている。凸部150Tと凹部112BO2は、相互に異なる曲率を有して係合しあう係合部IPを構成しており、軸方向に連続して形成されかつ周方向に間隔をあけて8個設けられている。係合部は圧入部を兼ねている。すなわちフレーム150にステータコア112を固定する場合、係合部の凸部150Tの突端面と凹部112BO2の底面とが圧接するように、フレーム150の凸部150Tにバックコア112Bの凹部112BO2を圧入する。このように、本実施例は、部分圧入によってフレーム150にステータコア112を固定している。この圧入によって、フレーム150とステータコア112との間には微細な空隙が形成される。本実施例では、ステータコア112とステータコイル114とをモールド材MRによってモールドする際、フレーム150とステータコア112との間に形成された空隙にモールド材RMを同時に充填している。また、係合部は、フレーム150に対してステータコア112が周方向に回転することを防止するための回り止め部を兼ねている。
このように、本実施例では、フレーム150にステータコア112を部分的に圧入しているので、フレーム150とステータコア112との間のすべりを大きくしかつフレーム150の剛性を小さくできる。これにより、本実施例では、フレーム150とステータコア112との間における騒音の減衰効果を向上させることができる。また、本実施例では、フレーム150とステータコア112との間の空隙にモールド材を充填しているので、騒音の減衰効果をさらに向上させることができる。
なお、凸部150Tと凹部112BO2とは非接触として、両者は回り止めとしてのみ用い、この凸部150Tと凹部112BO2の部分以外のフレーム150の内周面に対してバックコア112Bの外周面を圧入するように構成してもよいものである。
また、ステータコイル114(U1+),114(U1−)と、114(U2+),114(U2−)とは、ステータ110の中心に対して、対称位置に配置されている。すなわち、ステータコイル114(U1+)と114(U1−)は隣接して配置され、また、ステータコイル114(U2+)と114(U2−)も隣接して配置されている。さらに、ステータコイル114(U1+),114(U1−)と、ステータコイル114(U2+),114(U2−)とは、ステータ110の中心に対して、線対称に配置されている。すなわち、シャフト138の中心を通る破線C−Cに対して、ステータコイル114(U1+)と、ステータコイル114(U2+)とが線対称に配置され、また、ステータコイル114(U1−)と、114(U2−)とが線対称に配置されている。
ステータコイル114(V1+),114(V1−)と、114(V2+),114(V2−)も同様に線対称に配置され、ステータコイル114(W1+),114(W1−)と、114(W2+),114(W2−)とも線対称に配置されている。
また、同相の隣接するステータコイル114は1本の線で連続して巻回されている。すなわちステータコイル114(U1+)と114(U1−)とは、1本の線を連続して巻回し、2つの巻回コイルを構成し、それぞれ、ティースに巻回した構成となっている。ステータコイル114(U2+)と114(U2−)も、1本の線で連続して巻回されている。ステータコイル114(V1+)と114(V1−),ステータコイル114(V2+)と114(V2−),ステータコイル114(W1+)と114(W1−),ステータコイル114(W2+)と114(W2−)も、それぞれ、1本の線で連続して巻回されている。
このような線対称配置と、隣接する2つの同相のコイルを1本の線で巻回することにより、図7を用いて後述するように、各相同士、また異相を結線リングで結線する際に、結線リングの構成を簡単にすることができる。
次に、ロータ130の構成について説明する。ロータ130は、磁性体からなるロータコア132と、このロータコア132の表面に接着剤によって固定された10個のマグネット134(134A,134B,134C,134D,134E,134F,134G,134H,134I,134J)と、マグネット134の外周に設けられたマグネットカバー136を備えている。ロータコア132は、シャフト138に固定されている。
マグネット134は、その表面側(ステータのティース112Tと対向する側)をN極とすると、その裏面側(ロータコア132に接着される側)がS極となるように、半径方向に着磁されている。また、マグネット134は、その表面側(ステータのティース112Tと対向する側)をS極とすると、その裏面側(ロータコア132に接着される側)がN極となるように、半径方向に着磁されているものもある。そして、隣接するマグネット134は、着磁された極性が周方向に交互になるように着磁されている。例えば、マグネット134Aの表面側がN極に着磁されているとすると、隣接するマグネット134B,134Jの表面側はS極に着磁されている。すなわち、マグネット134A,134C,134E,134G,134Iの表面側がN極に着磁されている場合、マグネット134B,134D,134F,134H,134Jの表面側は、S極に着磁されている。
また、マグネット134は、それぞれ、断面形状が、その上面,すなわち、ステータ110の内周側と対向する面が、中央部が突出するように湾曲している形状(かまぼこ型の形状)となっている。かまぼこ形状とは、周方向において、左右の半径方向の厚さが、中央の半径方向の厚さに比べて薄い構造のことである。このようなかまぼこ型の形状とすることにより、ギャップにおける磁束分布を正弦波状にでき、EPSモータを回転させることによって発生する誘起電圧波形を正弦波状とすることができるので、トルク脈動とコギングトルクを低減することができる。トルク脈動とコギングトルクを小さくできることにより、ステアリングの操舵感を向上できる。なお、ロータ130にリング状(円筒状)マグネットを適用してもよく、着磁力を制御することにより、同様のトルク脈動とコギングトルクの低減効果が得られる。
また、マグネット134は、モータ100の軸方向に2分割されている。2分割されたマグネット134は、ロータ130の周方向に、必要に応じて、機械角で3度ないし6度ずらして配置してもよい。このように、2分割のマグネットを機械角で3度ないし6度ずらして配置することにより、比較的低次のモードの電磁加振力を低減することができる。上記のスキューによる磁束利用率の低減は数%以下であり、特に大きな問題にはならない。また、2分割のマグネットを機械角で3度ずらして、スキュー効果を持たせることで、コギングトルクを低減するようにすることもできる。さらに、前述のように、リング状(円筒状)マグネットを使用する場合には、その着磁方向を、軸方向に進むに従って所定の角度(機械角で6度)だけ連続的にスキューさせることで、同様に、コギングトルクを低減することができる。
ロータコア132には、同心円上に大きな直径の10個の貫通穴132Hと、その内周に小さな直径の5個の窪み132Kとが形成されている。ロータコア132は、電磁鋼板などの磁性体の薄板をプレス成形により打ち抜き、それを積層した構成となっている。窪み132Kは、プレス成形時に薄板をかしめることにより形成する。複数の薄板を積層する際に、この窪み132Kを互いに嵌合して位置決めを行っている。貫通穴132Hは、イナーシャを低減するためである。マグネット134の外周側は、マグネットカバー136により覆われており、マグネット134の飛散を防止している。なお、バックコア112Bとロータコア132は、同じ薄板から同時にプレス打ち抜きにより成形される。
以上説明したように、本実施例のロータ130は、10個のマグネット134を備えており、10極である。また、前述したように、ティース112Tは12個であり、隣接するティースの間に形成されるスロットの数は、12個である。すなわち、本実施例のEPSモータは、10極12スロットの表面磁石型の同期電動機となっている。
なお、ステータコアの構成としては、円環状のバックコアと、このバックコアとは分離して構成された12個のティースとから構成し、その後、バックコアに複数のティースを機械的に固定した構成についても、検討を行った。このような分割ティースによる分割コアでは、図2及び図3に示したティース一体型分割バックコア方式に比べて、内径真円度に関して不利であることが判明した。すなわち、分割ティース型分割コア方式では、ティースの端部をバックコアの溝に挿入する部分に隙間が必要である。この隙間の影響によって、ガタが生じる。このガタの分だけ、分割ティース型分割コア方式では、内径真円度の誤差が、ティース一体型分割バックコア方式に比べて大きくなる。したがって、分割ティース型分割コア方式に対して、本実施例のティース一体型分割バックコア方式では、ステータコアに対して内径切削加工を行う場合でも、その切削量を小さくできるか、または、内径切削レスとすることも可能である。
また、分割ティース型分割コア方式では、ガタが大きい分だけ、トルク発生時の電磁加振力によってサブミクロン単位で振動し、これが原因で騒音が発生する可能性が高いことが判明した。一方、本実施例のティース一体型分割バックコア方式では、バックコア自体が分割されているものの、組み合わせたバックコアを剛性の高いフレーム内に収納保持することで、ステータコア全体としての剛性を高めることができる。したがって、振動の振幅を低減できるので、騒音低減の観点から有利である。
このように、本実施例のティース一体型分割バックコア方式では、振動を低減できた結果、騒音も低減できている。すなわち、前述のウー音ないしジリジリ音に代表される、微弱なノイズを数dB低減することができ、モータの騒音を音色で評価した際にも、聴感上問題のないノイズレベルであることが確認できた。
ここで、図4を用いて、同期モータにおける極数Pとスロット数Sとの関係について説明する。
図4は、同期モータの極数Pとスロット数Sに関する説明図である。
図4において、横線によるハッチングを施した組合せが、極数とスロット数の最大値をそれぞれ10と15に限定したときの、3相の同期モータ(ブラシレスモータ)として、取り得る極数Pとスロット数Sの組合せである。すなわち、3相同期モータとしては、2極3スロット,4極3スロット,4極6スロット,6極9スロット,8極6スロット,8極9スロット,8極12スロット,10極9スロット,10極12スロット,10極15スロットの組合せが成立する。この中で、左斜線と右斜線を施した組合せの10極12スロットが本実施例によるモータの極数とスロット数である。なお、左斜め斜線を施した8極9スロットと10極9スロットとについては、後述する。また、図1に示したEPSモータは、外径が85φと小型のモータであり、このような小型モータにおいては、極数Nが12以上のモータの場合、極数の増大による製造上のデメリットが大きいため、図示を省略している。
ここで、2極3スロット,4極3スロット,4極6スロット,6極9スロット,8極6スロット,8極12スロット,10極15スロットのモータは、その特性が近似するものであり、ここでは、6極9スロットのものを代表例として説明する。
6極9スロットの同期モータに対して、本実施例の10極12スロットのモータでは、磁石磁束の利用率が高くできる。すなわち、6極9スロットの同期モータにおける巻線係数(巻線の利用率)kwは0.87であり、スキュー係数ksは0.96であるので、磁石磁束の利用率(kw・ks)は、「0.83」となる。一方、本実施例の10極12スロットのモータでは、巻線係数kwは0.93であり、スキュー係数ksは0.99であるので、磁石磁束の利用率(kw・ks)は、「0.92」となる。したがって、本実施例の10極12スロットのモータでは、磁石磁束の利用率(kw・ks)を高くすることができるので、高トルク化の観点で好適である。
また、コギングトルクの周期は、極数Pとスロット数Sの最小公倍数となるため、6極9スロットの同期モータにおけるコギングトルクの周期は、「18」となり、本実施例の10極12スロットのモータでは、「60」とできるため、コギングトルクを低減する観点から非常に有利である。
さらに、内径真円度の誤差によるコギングトルクも小さくできるものである。すなわち、6極9スロットの同期モータにおける内径真円度の誤差によるコギングトルク(相対値)を、「3.7」とすると、本実施例の10極12スロットのモータでは、「2.4」とできるため、内径真円度の誤差によるコギングトルクに関してロバストになる特長がある。また、従来の4極12スロットの同期モータでは、内径真円度の誤差によるコギングトルクは、「3.0」であり、これに対しても、本実施例の10極12スロットのモータは、内径真円度の誤差によるコギングトルクの観点から有利である。つまり、10極12スロットの組合せによれば、コギングトルクの原因となる内径真円度の誤差が生じやすい、分割工法によるステータコアの欠点を改善でき、かつ、モータの銅損を小さくできる、分割工法によるステータコアの長所を活かすことができる。さらに、本実施例では、モールド成形したステータSubAssyの内径を切削加工して、内径真円度を向上させる結果、さらに、内径真円度の誤差によるコギングトルクを低減することができる。
ここで、図5を用いて、本実施例の電動パワーステアリング用モータにおけるコギングトルクの実測値について説明する。
図5は、本実施例の電動パワーステアリング用モータにおけるコギングトルクの実測値の説明図である。
図5(A)は、角度(機械角)が0〜360°の360°の範囲について実測したコギングトルク(mNm)を示している。図5(B)は、図5(A)に示したコギングトルクの高調波成分を各時間次数毎に分離して、波高値(mNm)示したものである。時間次数「60」は、前述したように、10極12スロットのモータにおけるコギングトルクの周期であり、発生するコギングトルクはほぼ0になっている。時間次数「12」は、10極のマグネットの着磁量(界磁力)のバラツキや貼り付け位置の誤差などによるものである。時間次数「10」は、12スロットのステータの各ティースのバラツキ(内径真円度やティースの倒れなど)によるものである。モールド成形後の切削加工により内径真円度を向上させた結果、ティースのバラツキによるコギングトルクは2.6mNmまで低減できている。
時間次数「0」は、DC成分であり、いわゆるロストルク(回転数がほぼ零のとき発生する摩擦トルク)である。ロストルクも26.3mNmと低減できているので、ステアリングから手を離した場合でも、ステアリングが直進方向に戻ろうとする復元力に対して、ロストルクの方が小さいため、ステアリングの復元性に問題はない。
以上のように、各コギングトルク成分を低減できた結果、図5(A)に示すように、コギングトルクは、約9mNmまで低減できている。例えば、EPSモータの最大トルクが4.5Nmであるとすると、コギングトルクは0.2%(=9mNm/4.5Nm)と小さくできてる。また、ロストルクも、0.6%(=26.3mNm/4.5Nm)と小さくできている。
本実施例のEPSモータ100は、車載のバッテリー(例えば出力電圧12V)を電源とするモータである。EPSモータ100の取り付け位置は、ステアリングの近傍やステアリングの回転力を車輪に伝達するラック&ピニオンギアのラックの近傍に配置される。従って、取り付け位置の制限から小型化する必要がある。その一方では、ステアリングをパワーアシストするために大トルクを必要とする。
必要とされるトルクをAC100Vを電源とするACサーボモータで出力しようとすると、モータ電流は5A程度でよい。しかし、本実施例のようにDC14VをDC/AC変換した14Vの交流で駆動する場合、同じ程度のモータ体格で、同じ程度のトルクを出力するためには、モータ電流を70A〜100Aとする必要がある。このような大電流を流すため、ステータコイル114の直径は大径とする必要がある。また、ステータコイル114の巻回数は、ステータコイル114の線径、コイルの結線方法にもよるが、9〜21Tである。例えば、ステータコイル114の直径は1.8φとしたとき、ターン数は9Tとなる。なお、最近の車両では、42Vのバッテリーを搭載する電動車両などがあるが、この場合、モータ電流を小さくすることができるため、ステータコイル114の巻回数は20〜30Tとなる。
隣接するティース112Tにおいて、ティース112Tの先端(ロータ130と面する側)の開口部の間隔W1(例えば、ティース112T(U1−)とティース112T(W1−)の先端の開口部の間隔W1(最も周方向に近接する部位の周方向間隔))は、1mmとしている。このように、ティースの間隔を狭くすることにより、ステータコア112の内周の磁気的な構造が一様化するので、コギングトルクを低減することができる。しかも、モータに振動が加えられたとしても、間隔W1よりもステータコイル114の線形が太いため、ティースの間から、ロータ側にステータコイル114が抜け落ちることを防止できる。隣接するティースの間隔W1は、例えば、ステータコイル114の線径以下の0.5mm〜1.5mmが好適である。このように、本実施例では、隣接するティースの間隔W1を、ステータコイル114の線径以下としている。
次に、図6及び図7を用いて、本実施例の電動パワーステアリング用モータにおけるステータコイルの結線関係について説明する。
図6は、本実施例の電動パワーステアリング用モータにおけるステータコイルの結線図である。図7は、本実施例の電動パワーステアリング用モータにおけるステータコイルの結線状態を示す側面図である。なお、図7は、図2のB−B矢視図である。また、図3と同一符号は、同一部分を示している。
図6において、コイルU1+は、図3に示したステータコイル112T(U1+)を示している。コイルU1−,U2+,U2−,V1+,V1−,V2+,V2−,W1+,W1−,W2+,W2−も、それぞれ、図3に示したステータコイル112T(U1−),…,112T(W2−)を示している。
本実施例のステータコイルは、U相,V相,W相を、デルタ(Δ)結線としている。また、各相は、それぞれ並列回路を構成している。すなわち、U相について見ると、コイルU1+とコイルU1−の直列回路に対して、コイルU2+とコイルU2−の直列回路を並列接続している。ここで、コイルU1+とコイルU1−とは、前述したように、1本の線を連続的に巻回してコイルを構成している。また、V相,W相についても、同様である。
結線方法は、スター結線でも可能であるが、デルタ結線とすることにより、スター結線に比べて端子電圧を低くすることができる。例えば、U相の直並列回路の両端電圧をEとするとき、端子電圧はEであるが、スター結線では、√3Eとなる。端子電圧を低くできるため、コイルのターン数を大きくでき、線径の細い線を使用できる。また、並列回路とすることにより、4コイルが直列の場合に比べて、各コイルに流す電流を小さくできる点からも、線径の細い線を使用することができるので、曲げやすく、製作性も良好となる。このことは、占積率を高くする上で好都合である。
次に、図6及び図7を用いて、結線リングによる3相及び各相毎の結線方法について説明する。
図6に示すように、コイルU1−,U2−,V1+,V2+は、結線リングCR(UV)により接続される。コイルV1−,V2−,W1+,W2+は、結線リングCR(VW)により接続される。コイルU1+,U2+,W1−,W2−は、結線リングCR(UW)により接続される。以上のように結線すれば、3相デルタ結線とすることができる。
そこで、図7に示すように、3つの結線リングCR(UV),CR(VW),CR(UW)を用いる。結線リングCR(UV),CR(VW),CR(UW)は、大電流を流すことができるように、バスバータイプの結線板を円弧状に曲げ加工して用いている。各結線リングは、同一形状を有している。例えば、結線リングCR(UV)は、小半径の円弧と、大半径の円弧を接続した形状となっている。他の結線リングCR(VW),CR(UW)も同一構成である。これらの結線リングCR(UV),CR(VW),CR(UW)は、周方向に120度ずらした状態で、ホルダH1,H2,H3により保持されている。結線リングCRとホルダH1,H2,H3は、コイルエンド部と共にモールド材によってモールドされる。
一方、図7において、ステータコイル端部T(U1+)は、ティース112T(U1+)に巻回されたステータコイル114(U1+)の一方の端部である。ステータコイル端部T(U1−)は、ティース112T(U1−)に巻回されたステータコイル114(U1−)の一方の端部である。ステータコイル114(U1+)とステータコイル114(U1−)とは、前述したように、1本の線で連続的にコイルを形成しているため、2つのコイル114(U1+),114(U1−)に対して、2つの端部T(U1+),T(U1−)が存在する。ステータコイル端部T(U2+),T(U2−),T(V1+),T(V1−),T(V2+),T(V2−),T(W1+),T(W1−),T(W2+),T(W2−)は、それぞれ、ステータコイル114(U2+),…,(W2+)の一方の端部である。
ステータコイル端部T(U1−),T(U2−),T(V1+),T(V2+)は、結線リングCR(UV)により接続され、これにより、図6に示したコイルU1−,U2−,V1+,V2+の結線リングCR(UV)による接続が行われる。ステータコイル端部T(V1−),T(V2−),T(W1+),T(W2+)は、結線リングCR(VW)により接続され、これにより、図6に示したコイルV1−,V2−,W1+,W2+の結線リングCR(VW)による接続が行われる。ステータコイル端部T(W1−),T(W2−),T(U1+),T(U2+)は、結線リングCR(UW)により接続され、これにより、図6に示したコイルU1+,U2+,W1−,W2−の結線リングCR(UW)による接続が行われる。
次に、図8を用いて、本実施例の電動パワーステアリング用モータを制御する制御装置の構成について説明する。
図8は、本実施例の電動パワーステアリング用モータを制御する制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
制御装置200は、インバータとして機能するパワーモジュール210と、パワーモジュール210を制御する制御モジュール220とを備えている。バッテリーBAからの直流電圧は、インバータとして機能するパワーモジュール210によって3相交流電圧に変換され、EPSモータ100のステータコイル114に供給される。
制御モジュール220の中のトルク制御221は、トルクセンサTSによって検出されたステアリングSTのトルクTfと、目標トルクTsとからトルクTeを算出し、これにPI制御(P:比例項、I:積分項)等によってトルク指令,即ち、電流指令Isとロータ130の回転角θ1を出力する。
位相シフト回路222は、エンコーダEよりのパルス,即ち、回転子の位置情報θを、トルク制御回路(ASR)221からの回転角θ1の指令に応じて位相シフトして出力する。正弦波・余弦波発生器2223は、ロータ130の永久磁石磁極の位置を検出するレゾルバ156と、位相シフト回路222からの位相シフトされた回転子の位置情報θに基づいて、ステータコイル114の各巻線(ここでは3相)の誘起電圧を位相シフトした正弦波出力を発生する。位相シフト量は、零の場合でもよい。
2相−3相変換回路224は、トルク制御回路(ASR)221からの電流指令Isと正弦波・余弦波発生器223の出力に応じて、各相に電流指令Isa,Isb,Iscを出力する。各相はそれぞれ個別に電流制御系(ACR)225A,225B,225Cを持ち、電流指令Isa,Isb,Iscと電流検出器CTからの電流検出信号Ifa,Ifb,Ifcに応じた信号を、インバータ210に送って各相電流を制御する。この場合、各相合成の電流は、界磁磁束に直角,あるいは位相シフトした位置に常に形成される。
なお、以上の説明は、10極12スロットのEPSモータについて説明したものであるが、次に、図4に左斜め斜線を施した8極9スロットと10極9スロットのEPSモータについて説明する。
6極9スロットの同期モータに対して、8極9スロットと10極9スロットのモータは、磁石磁束の利用率が高くできる。すなわち、6極9スロットの同期モータにおける磁石磁束の利用率(kw・ks)は、前述したように、「0.83」となる。一方、8極9スロットと10極9スロットのモータでは、巻線係数kwは0.95であり、スキュー係数ksは1.00であるので、磁石磁束の利用率(kw・ks)は、「0.94」となる。したがって、本実施例の8極9スロットと10極9スロットのモータでは、磁石磁束の利用率(kw・ks)を高くすることができるので、高トルク化の観点で好適である。
また、コギングトルクの周期は、極数Pとスロット数Sの最小公倍数となるため、6極9スロットの同期モータにおけるコギングトルクの周期は、「18」となり、8極9スロットと10極9スロットのモータでは、「72」とできるため、コギングトルクを低減する観点から非常に有利である。
さらに、内径真円度の誤差によるコギングトルクも小さくできるものである。すなわち、6極9スロットの同期モータにおける内径真円度の誤差によるコギングトルク(相対値)を、「3.7」とすると、8極9スロットと10極9スロットのモータでは、「1.4」とできるため、内径真円度の誤差によるコギングトルクに関してロバストになる特長がある。つまり、8極9スロットと10極9スロットの組合せによれば、コギングトルクの原因となる内径真円度の誤差が生じやすい、分割工法によるステータコアの欠点を改善でき、かつ、モータの銅損を小さくできる、分割工法によるステータコアの長所を活かすことができる。さらに、モールド成形したステータSubAssyの内径を切削加工して、内径真円度を向上させる結果、さらに、内径真円度の誤差によるコギングトルクを低減することができる。
なお、8極9スロットと10極9スロットのモータにおいては、図6において説明したような10極12スロットのEPSモータのように、例えば、U相について見ると、コイルU1+とコイルU1−の直列回路に対して、コイルU2+とコイルU2−の直列回路を並列接続する構成はとりえず、各相のコイルを直列接続する必要がある。
8極9スロットと10極9スロットのEPSモータについて
次に、図9及び図10を用いて、本実施例の電動パワーステアリング用モータを制御する制御装置の構造について説明する。
図9は、本発明の一実施例による電動パワーステアリング用モータを制御する制御装置の回路構成を示す回路図である。
モータ制御装置200は、パワーモジュール210と、制御モジュール220と、導体モジュール230とを備えている。
導体モジュール230は、電力線となるバスバー230Bがモールドにより一体成形されている。図中、太い実線部分は、バスバーを示している。導体モジュール230においては、コモンフィルタCF,ノーマルフィルタNF,コンデンサCC1,CC2,リレーRY1が、電源であるバッテリBAとパワーモジュール210のIGBTなどの半導体スイッチング素子SSWのコレクタ端子を接続するバスバーに、図示のように接続されている。
また、図中、二重丸で示す部分は、溶接接続部を示している。例えば、コモンフィルタCFの4個の端子は、バスバーの端子に溶接により接続されている。また、ノーマルフィルタNFの2個の端子,セラミックコンデンサCC1,CC2のそれぞれ2個の端子,リレーRY1の2個の端子も、それぞれ、バスバーの端子に溶接により接続されている。コモンフィルタCF及びノーマルフィルタNFは、ラジオノイズを防止するために設置されている。
また、パワーモジュール210からモータ100にモータ電流が供給される配線にもバスバーを用いている。リレーRY2,RY3は、パワーモジュール210からモータ100に至るバスバー配線に、それぞれ溶接により接続されている。リレーRY1,RY2,RY3は、モータの異常時、制御モジュールの異常時等において、モータへの通電を遮断するフェールセーフのために用いられている。
制御モジュール220は、CPU222及びドライバ回路224を備えている。CPU222は、トルクセンサTSによって検出されたトルクや、レゾルバ156によって検出されたモータ100の回転位置に基づいて、パワーモジュール210の半導体スイッチング素子SSWをオンオフ制御する制御信号を、ドライバ回路224に出力する。ドライバ回路224は、CPU222から供給される制御信号に基づいて、パワーモジュール210の半導体スイッチング素子SSWをオンオフ駆動する。パワーモジュール210からモータに供給されるモータ電流は、モータ電流検出抵抗(シャント抵抗)DR1,DR2によって検出され、増幅器AP1,AP2によってそれぞれ増幅された上、CPU222に入力する。CPU222は、モータ電流が目標値となるようにフィードバック制御する。CPU222は、外部のエンジンコントロールユニットECU等とCAN等により接続されており、情報の授受を行える構成となっている。
ここで、図中、△印は、リードフレームを用いて半田付けにより接続された部分を示している。リードフレームを用いることにより応力を緩和する構造としている。リードフレームの形状等については、図15を用いて後述する。制御モジュール220と、パワーモジュール210若しくは導体モジュール230との電気的接続部には、リードフレームを用いた半田付け接続が用いられている。
パワーモジュール210は、IGBTなどの6個の半導体スイッチング素子SSWを備えている。半導体スイッチング素子SSWは、3相(U相,V相,W相)の各相毎に、上アームと下アームにそれぞれ直列されている。ここで、図中、×印は、ワイヤボンディングにより接続した電気的接続部を示している。すなわち、パワーモジュール210から導体モジュール230のバスバーを介して、モータ100にモータ電流が供給されるが、この電流は、例えば、100Aの大電流である。そこで、大電流を流すことができ、しかも、応力を緩和できる構造として、ワイヤボンディングにより接続している。この詳細については、図16を用いて後述する。また、半導体スイッチング素子SSWに対する電源供給ライン及びアースラインもワイヤボンディング接続されている。
図10は、本実施例の電動パワーステアリング用モータを制御する制御装置の構造を示す斜視図である。なお、図9と同一符号は、同一部分を示している。
図10は、ケース240の中に、パワーモジュール210と、導体モジュール230とを取り付けた状態を示しており、図9の制御モジュール220は未取り付け状態を示している。
導体モジュール230は、複数のバスバーBB1,BB2,BB3,BB4,BB5,BB6,BB7がモールド成形されている。バスバーの端子と、コモンフィルタCF,ノーマルフィルタNF,コンデンサCC1,CC2,リレーRY1,RY2,RY3などの電気部品の端子は、TIG溶接(アーク溶接)により接続される。
パワーモジュール210は、メタル基板の上に絶縁物を介して配線パターンが形成され、その上に、MOSFET(電界効果トランジスタ)などの半導体スイッチング素子SSWが取り付けられている。パワーモジュール210と導体モジュール230の間は、5カ所において、ワイヤボンディングWB1,WB2,WB3,WB4,WB5によって電気的に接続されている。一つのワイヤボンディングWB1についてみると、例えば、直径500μmのアルミワイヤを5本並列に接続している。
ケース240は、アルミ製である。組立時には、ケース240の中に、パワーモジュール210及び導体モジュール230が、それぞれ、ネジ止めされる。次に、パワーモジュール210及び導体モジュール230の上の位置に、制御モジュール220が同じくネジ止めされる。そして、リードフレーム210LFの多端が制御モジュール220の端子と半田付けされる。最後に、シールドカバー250をネジ止めすることにより、モータ制御装置200が製造される。
パワーモジュール210と導体モジュール230は、同一平面上に、対向して配置している。すなわち、パワーモジュール210は、ケース240の一方の側に配置し、導体モジュール230は、ケース240の他方の側に配置している。したがって、ワイヤボンディングの作業が容易に行うことができる。
本発明によれば、トルク脈動の低減を図ると共に、大トルクを発生できる、トルク脈動の低減と大トルク発生の両方に優れたパワーステアリング用モータおよびそれを用いた電動パワーステアリングシステムを得ることができる。