以下、図1〜図15を用いて、本発明の一実施形態による回転電機の構成及びその製造方法について説明する。ここでは、電動パワーステアリング用モータを一例として説明する。
最初に、図1及び図2を用いて、本発明の一実施形態による回転電機の構成について説明する。
図1は、本実施形態の回転電機の構成を示す横断面図である。図2は、図1のA−A断面図である。
図1に示すように、回転電機100は、ステータ110と、このステータ110の内側に回転可能に支持されたロータ130とを備えた、表面磁石型の同期電動機である。回転電機100は、バッテリ−を備えた車載電源、例えば14ボルト系電源(バッテリーの出力電圧が12ボルト)あるいは24ボルト系電源若しくは42ボルト系電源(バッテリーの出力電圧36ボルト)又は48ボルト系電源から供給される電力で駆動される。
ステータ110は、珪素鋼板を積層した磁性体で形成されたステータコア112と、ステータコア112のスロット内に保持されたステータコイル114とを備えている。ステータコア112は、図2を用いて後述するように、円環状のバックコアを分割し、分割されたバックコアとティースが一体化されたT字形状のコアから構成される。複数のティースには、それぞれ、ステータコイル114が巻回されている。ステータコイル114は集中巻の方式で巻かれている。
ステータコイル114を集中巻とすることにより、ステータコイル114のコイルエンド長を短くできる。これにより、回転電機100の回転軸方向の長さを短くすることができる。また、ステータコイル114のコイルエンドの長さを短くできるので、ステータコイル114の抵抗を小さくでき、モータの温度上昇を抑えることができる。また、コイル抵抗を小さくできることから、モータの銅損を小さくできる。したがって、モータへの入力エネルギーの内、銅損によって消費される割合を小さくでき、入力エネルギーに対する出力トルクの効率を向上することができる。
回転電機は上述のごとく車両に搭載された電源により駆動される。上記電源は出力電圧が低い場合が多い。電源端子間にインバータを構成するスイッチング素子や上記モータ、その他電流供給回路の接続手段が等価的に直列回路を構成し、上記回路においてそれぞれの回路構成素子の端子電圧の合計が上記電源の端子間電圧になるので、モータに電流を供給するためのモータの端子電圧は低くなる。このような状況でモータに流れ込む電流を確保するにはモータの銅損を低く押えることが極めて重要である。この点から車両に搭載される電源は50ボルト以下の低電圧系が多く、ステータコイル114を集中巻とすることが望ましい。特に12ボルト系電源を使用する場合は極めて重要である。
また、回転電機はステアリングコラムの近傍に置かれる場合、ラックアンドピニオンの近傍に置かれる場合などがあるが、何れも小型化が要求される。また、小型化された構造でステータ巻線を固定することが必要であり、巻線作業が容易なことも重要である。分布巻に比べ集中巻は巻線作業、巻線の固定作業が容易である。
ステータコイル114のコイルエンドはモールドされている。回転電機はコギングトルクなどのトルク変動をたいへん小さく押えることが望ましく、ステータ部を組み上げてからステータ内部を再度切削加工することがある。このような機械加工により、切削紛が発生する。この切削紛がステータコイルのコイルエンド入り込むのを防止することが必要であり、コイルエンドのモールドが望ましい。コイルエンドは、ステータコイル114の複数の部位のうち、ステータコア112の軸方向両端部から軸方向に突出した部位を指す。尚、本実施形態では、ステータコイル114のコイルエンドを覆ったモールド樹脂と、フレーム150との間に空隙がられているが、フレーム150,フロントフランジ152F及びリアフランジ152Rと接触する位置まで充填してもよい。こうすることにより、ステータコイル114からの発熱を、コイルエンドからモールド樹脂を介して直接、フレーム150,フロントフランジ152F及びリアフランジ152Rに伝達して外部に放熱できるので、空気を介して熱伝達する場合に比べてステータコイル114の温度上昇を低減することができる。
ステータコイル114は、U相,V相,W相の3相から構成され、それぞれ複数の単位コイルから構成される。複数の単位コイルは、3相の各相毎に、図示の左側に設けられた結線リング116によって結線されている。
回転電機は大きなトルクが要求される。例えば車の走行停止状態、あるいは走行停止に近い運転状態でステアリングホイール(ハンドル)が早く回転されると操舵車輪と地面との間の摩擦抵抗のため、上記モータには大きなトルクが要求される。このときには大電流がステータコイルに供給される。この電流は条件により異なるが50アンペア以上の場合がある。70アンペアはるいは150アンペアの場合も考えられる。このような大電流を安全に供給でき、また上記電流による発熱を低減するために結線リング116を用いることはたいへん重要である。上記結線リング116を介してステータコイルに電流を供給することにより接続抵抗を小さくでき、銅損による電圧降下を押えることができる。このことにより、大電流の供給が容易になる。またインバータの素子の動作に伴う電流の立ち上がり時定数が小さくなる効果がある。
ステータコア112とステータコイル114は、樹脂(電気的な絶縁性を有するもの)により一体にモールドされ、一体に形成されてステータSubAssy を構成している。この一体成形されたステータSubAssy は、アルミなど金属で形成された円筒状のフレーム150の内側に圧入されて固定された状態でモールド成形される。尚、一体成形されたステータSubAssy は、ステータコイル114がステータコア112に組み込まれた状態でモールド成形され、この後、フレーム1に圧入されてもよい。
自動車に搭載されるEPSモータにはは色々な振動が加わる。また、車輪からの衝撃が加わる。また、気温変化の大きい状態で利用される。摂氏マイナス40度の状態も考えられ、また、温度上昇により100度以上も考えられる。さらに、モータ内に水が入らないようにしなければならない。このような条件で固定子がヨーク150に固定されるためには、筒状フレームの少なくともステータ鉄心の外周部には螺子穴以外の穴が設けられていない、円筒金属にステータ部(SubAssy )を圧入することが望ましい。また、圧入後さらにフレームの外周から螺子止めしてもよい。圧入に加え回止を施すことが望ましい。
ロータ130は、珪素鋼板を積層した磁性体からなるロータコア132と、このロータコア132の表面に接着剤によって固定された複数の永久磁石であるマグネット134と、マグネット134の外周に設けられた非磁性体からなるマグネットカバー136を備えている。マグネット134は、希土類磁石であり、例えば、ネオジウムからなる。ロータコア132は、シャフト138に固定されている。ロータコア132の表面に接着剤により複数のマグネット134が固定されるとともに、その外周側をマグネットカバー136で覆うことにより、マグネット134の飛散を防止している。上記マグネットカバー136はステンレス鋼(俗称SUS)で構成されているが、テープを巻きつけても良い。ステンレス鋼の方が製造が容易である。上述のごとく回転電機は振動や熱変化が極めて大きく破損し易い永久磁石を保持するのに優れている。また上述のとおり、仮に破損しても飛散を防止できる。
円筒形状のフレーム150の一方の端部には、フロントフランジ152Fが設けられている。フレーム150とフロントフランジ152FとはボルトB1により固定されている。また、フレーム150の他方の端部には、リアフランジ152Rが圧入されている。フロントフランジ152F及びリアフランジ152Rには、それぞれ、軸受154F,154Rが取り付けられている。これらの軸受154F,154Rにより、シャフト138及び、このシャフト138に固定されたステータ110が回転自在に支承されている。
フロントフランジ152Fには円環状の突出部(或いは延出部)が設けられている。フロントフランジ152Fの突出部は軸方向に突出したものであり、フロントフランジ152Fのコイルエンド側の側面からコイルエンド側に延出している。フロントフランジ152Fの突出部の先端部は、フレーム150にフロントフランジ152Fを固定した際、フロントフランジ152F側のコイルエンドのモールド材とフレーム150との間に形成された空隙内に挿入されるようになっている。また、コイルエンドからの放熱を向上させるために、フロントフランジ152Fの突出部は、フロントフランジ152F側のコイルエンドのモールド材と密に接触していることが好ましい。
リアフランジ152Rには円筒状の窪みが設けられている。リアフランジ152Rの窪みはシャフト138の中心軸と同心のものであり、フレーム150の軸方向端部よりも軸方向内側(ステータコア112側)に入り込んでいる。リアフランジ152Rの窪みの先端部は、リアフランジ152R側のコイルエンドの内径側まで延びて、リアフランジ152R側のコイルエンドと径方向に対向している。リアフランジ152Rの窪みの先端部には軸受154が保持されている。シャフト138のリアフランジ152R側の軸方向端部は軸受154よりもさらに軸方向外方(ロータコア132側とは反対側)に延びて、リアフランジ152Rの窪みの開口部近傍或いは開口部よりも若干軸方向外方に突出する位置まで至っている。
リアフランジ152Rの窪みの内周面とシャフト138の外周面との間に形成された空間にはレゾルバ156が配置されている。レゾルバ156はレゾルバステータ156Sとレゾルバロータ156Rを備えており、軸受154Rよりも軸方向外側(ロータコア132側とは反対側)に位置している。レゾルバロータ156Rはシャフト138の一方の端部(図示左側の端部)にナットN1によって固定されている。レゾルバステータ156Sは、レゾルバ押さえ板156BがネジSC1によってリアフランジ152Rに固定されることにより、リアフランジ152Rの窪みの内周側に固定され、レゾルバロータ156Rと空隙を介して対向している。レゾルバステータ156Sとレゾルバロータ156Rによりレゾルバ156を構成し、レゾルバロータ156Rの回転をレゾルバステータ156Sによって検出することにより、複数のマグネット134の位置を検出できる。さらに具体的に説明すると、レゾルバは、外周表面が凹凸状(例えば楕円形状或いは花びら形状)であるレゾルバロータ156Rと、2つの出力用コイル(電気的に90°ずれている)及び励磁用コイルがコアに巻かれたレゾルバステータ156Sとを有する。励磁用コイルに交流電圧を印加すると、2つの出力用コイルには、レゾルバロータ156Rとレゾルバステータ156Sとの間の空隙の長さの変化に応じた交流電圧が、回転角度に比例する位相差をもって発生する。このように、レゾルバは、位相差をもった2つの出力電圧を検知するためのものである。ロータ130の磁極位置は、検知された2つの出力電圧の位相差から位相角を求めることによって検出できる。リアフランジ152Rの外周には、レゾルバ156を覆うようにして、リアホルダ158が取り付けられている。
結線リング116によって接続されたU相,V相,W相の各相には、パワーケーブル162を介して、外部のバッテリーから電力が供給される。パワーケーブル162は、グロメット164によりフレーム150に取り付けられている。レゾルバステータ156Sから検出された磁極位置信号は、信号ケーブル166により外部に取り出される。信号ケーブル166は、グロメット168により、リアホルダ158に取り付けられている。結線リング116とパワーケーブル1の一部分はコイルエンドと共にモールド材によってモールドされている。
次に、図2を用いて、ステータ110及びロータ130の構成をさらに具体的に説明する。図2は、図1のA−A矢視図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
最初に、ステータ110の構成について説明する。ステータ110において、ステータコア112は、12個のT字形状のティース一体型分割バックコア112(U1+),112(U1−),112(U2+),112(U2−),112(V1+),112(V1−),112(V2+),112(V2−),112(W1+),112(W1−),112(W2+),112(W2−)から構成されている。すなわち、円環状のバックコアが、周方向に12分割された形状となっている。そして、この分割されたバックコアの部分に、それぞれティースが一体型となった形状となっている。ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)は、それぞれ、珪素鋼板などの磁性体の薄板をプレス成形により打ち抜き、それを積層した構成となっている。
ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)のティース部には、それぞれ独立した12個のティースそれぞれのティース112T(U1+),…,112T(W2−)には、ステータコイル114(U1+),114(U1−),114(U2+),114(U2−),114(V1+),114(V1−),114(V2+),114(V2−),114(W1+),114(W1−),114(W2+),114(W2−)が集中巻で巻回されている。
ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)に、それぞれ、ステータコイル114(U1+),…,114(W2−)を巻回する。ここで、ステータコイル114(U1+)と、ステータコイル114(U1−)とは、コイルを流れる電流の向きが逆方向となるように巻回されている。ステータコイル114(U2+)と、ステータコイル114(U2−)とも、コイルを流れる電流の向きが逆方向となるように巻回されている。また、ステータコイル114(U1+)と、ステータコイル114(U2+)とは、コイルを流れる電流の向きが同一方向となるように巻回されている。ステータコイル114(U1−)と、ステータコイル114(U2−)とも、コイルを流れる電流の向きが同一方向となるように巻回されている。ステータコイル114(V1+),114(V1−),114(V2+),114(V2−)の電流の流れ方向の関係、及びステータコイル114(W1+),114(W1−),114(W2+),114(W2−)の電流の流れ方向の関係も、U相の場合と同様である。
次に、ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)の周方向の端面に形成された凹部と嵌合形状の凸部とを圧入して、ステータ110の組立が完了する。
次に、バックコア112Bの外周側の複数箇所をフレーム150の内周側に圧入した状態で、ステータコア112とステータコイル114とを熱硬化性樹脂MRにより一体モールド成形し、ステータSubAssy を構成する。尚、本実施形態では、ステータコア112にステータコイル114を組み込んだものを、フレーム150に圧入した状態で、ステータコア112とステータコイル114とを一体モールドする場合について説明したが、ステータコア112にステータコイル114を組み込んだ状態で、ステータコア112とステータコイル114とを一体モールドし、その後、ステータコア112をフレーム150に圧入してもよい。
モールド材によるモールド成形にあたっては、ステータコア112と、ステータコア112の軸方向端部から軸方向に突出するステータコイル114のコイルエンド部を、図示省略した治具とフレーム150によって囲むように、図示省略した治具を、ステータコア112とステータコア112とフレーム150からなる構造体に対して取り付け、図示省略した治具とフレーム150によって囲まれている中に流体状のモールド材を注入し、コイルエンド部,ステータコア112の隙間,ステータコイル114の隙間,ステータコア112とステータコイル114との間の隙間及びステータコア112とフレーム150との間の隙間にモールド材を充填し、モールド材を固化させ、モールド材が固化したら、図示省略した治具を取り外す。
モールド成形したステータSubAssyの内周面,すなわち、ティース一体型分割バックコア112(U1+),…,112(W2−)のティース部の先端部であって、ロータ130と径方向に対向する面側には切削加工が施されている。これにより、ステータ110とロータ130とのギャップのバラツキを低減して、ステータ110の内径真円度をさらに向上させている。また、モールド成形により一体化することにより、モールドしない場合に比べて、ステータコイル114に通電することにより発生する熱の放熱性をよくすることができる。また、モールド成形することにより、ステータコイルやティースの振動を防止することもできる。また、モールド成形した後、内径を切削加工することにより、内径真円度に基づくコギングトルクを低減することができる。コギングトルクを低減することにより、ステアリングの操舵感を向上することができる。
フレーム150の内側には凸部150Tが形成されている。バックコア112Bの外周には、凸部150Tと対応するように凹部112BO2が形成されている。凸部150Tと凹部112BO2は、相互に異なる曲率を有して係合しあう係合部IPを構成しており、軸方向に連続して形成されかつ周方向に間隔をあけて8個設けられている。係合部は圧入部を兼ねている。すなわちフレーム150にステータコア112を固定する場合、係合部の凸部150Tの突端面と凹部112BO2の底面とが圧接するように、フレーム150の凸部150Tにバックコア112Bの凹部112BO2を圧入する。このように、本実施形態は、部分圧入によってフレーム150にステータコア112を固定している。この圧入によって、フレーム150とステータコア112との間には微細な空隙が形成される。本実施形態では、ステータコア112とステータコイル114とをモールド材MRによってモールドする際、フレーム150とステータコア112との間に形成された空隙にモールド材RMを同時に充填している。また、係合部は、フレーム150に対してステータコア112が周方向に回転することを防止するための回り止め部を兼ねている。
このように、本実施形態では、フレーム150にステータコア112を部分的に圧入しているので、フレーム150とステータコア112との間のすべりを大きくしかつ剛性を小さくできる。これにより、本実施形態では、フレーム150とステータコア112との間における騒音の減衰効果を向上させることができる。また、本実施形態では、フレーム150とステータコア112との間の空隙にモールド材を充填しているので、騒音の減衰効果をさらに向上させることができる。
なお、凸部150Tと凹部112BO2とは非接触として、両者は回り止めとしてのみ用い、この凸部150Tと凹部112BO2の部分以外のフレーム150の内周面に対してバックコア112Bの外周面を圧入するように構成してもよいものである。
また、ステータコイル114(U1+),114(U1−)と、114(U2+),114(U2−)とは、ステータ110の中心に対して、対称位置に配置されている。すなわち、ステータコイル114(U1+)と114(U1−)は隣接して配置され、また、ステータコイル114(U2+)と114(U2−)も隣接して配置されている。さらに、ステータコイル114(U1+),114(U1−)と、ステータコイル114(U2+),114(U2−)とは、ステータ110の中心に対して、線対称に配置されている。すなわち、シャフト138の中心を通る破線C−Cに対して、ステータコイル114(U1+)と、ステータコイル114(U2+)とが線対称に配置され、また、ステータコイル114(U1−)と、114(U2−)とが線対称に配置されている。
ステータコイル114(V1+),114(V1−)と、114(V2+),114(V2−)も同様に線対称に配置され、ステータコイル114(W1+),114(W1−)と、114(W2+),114(W2−)とも線対称に配置されている。
また、同相の隣接するステータコイル114は1本の線で連続して巻回されている。すなわちステータコイル114(U1+)と114(U1−)とは、1本の線を連続して巻回し、2つの巻回コイルを構成し、それぞれ、ティースに巻回した構成となっている。ステータコイル114(U2+)と114(U2−)も、1本の線で連続して巻回されている。ステータコイル114(V1+)と114(V1−),ステータコイル114(V2+)と114(V2−),ステータコイル114(W1+)と114(W1−),ステータコイル114(W2+)と114(W2−)も、それぞれ、1本の線で連続して巻回されている。
このような線対称配置と、隣接する2つの同相のコイルを1本の線で巻回することにより、各相同士、また異相を結線リングで結線する際に、結線リングの構成を簡単にすることができる。
次に、ロータ130の構成について説明する。ロータ130は、磁性体からなるロータコア132と、このロータコア132の表面に接着剤によって固定された10個のマグネット134(134A,134B,134C,134D,134E,134F,134G,134H,134I,134J)と、マグネット134の外周に設けられたマグネットカバー136を備えている。ロータコア132は、シャフト138に固定されている。
マグネット134は、その表面側(ステータのティース112Tと対向する側)をN極とすると、その裏面側(ロータコア132に接着される側)がS極となるように、半径方向に着磁されている。また、マグネット134は、その表面側(ステータのティース112Tと対向する側)をS極とすると、その裏面側(ロータコア132に接着される側)がN極となるように、半径方向に着磁されているものもある。そして、隣接するマグネット134は、着磁された極性が周方向に交互になるように着磁されている。例えば、マグネット134Aの表面側がN極に着磁されているとすると、隣接するマグネット134B,134Jの表面側はS極に着磁されている。すなわち、マグネット134A,134C,134E,134G,134Iの表面側がN極に着磁されている場合、マグネット134B,134D,134F,134H,134Jの表面側は、S極に着磁されている。
また、マグネット134は、それぞれ、断面形状がかまぼこ型の形状となっている。かまぼこ形状とは、周方向において、左右の半径方向の厚さが、中央の半径方向の厚さに比べて薄い構造のことである。このようなかまぼこ型の形状とすることにより、磁束分布を正弦波状とでき、回転電機を回転させることによって発生する誘起電圧波形を正弦波状とすることができ、脈動分を低減することができる。脈動分を小さくできることにより、ステアリングの操舵感を向上できる。なお、リング状の磁性体に着磁してマグネットを構成するとき、着磁力を制御することのにより、磁束分布を正弦波状類似のものとしてもよいものである。
ロータコア132には、同心円上に大きな直径の10個の貫通穴132Hと、その内周が出あって小さな直径の5個の窪み132Kとが形成されている。ロータコア132は、SUSなどの磁性体の薄板をプレス成形により打ち抜き、それを積層した構成となっている。窪み132Kは、プレス成形時に薄板をかしめることにより形成する。複数の薄板を積層する際に、この窪み132Kを互いに嵌合して位置決めを行っている。貫通穴132Hは、イナーシャを低減するためであり、この132H穴によりロータのバランスを向上できる。マグネット134の外周側は、マグネットカバー136により覆われており、マグネット134の飛散を防止している。なお、バックコア112Bとロータコア132は、同じ薄板から同時にプレス打ち抜きにより成形される。
以上説明したように、本実施形態のロータ130は、10個のマグネット134を備えており、10極である。また、前述したように、ティース112Tは12個であり、隣接するティースの間に形成されるスロットの数は、12個である。すなわち、本実施形態の回転電機は、10極12スロットの表面磁石型の同期電動機となっている。
次に、図3〜図17を用いて、本実施形態の回転電機の製造方法について説明する。
図3〜図5,図7,図8は、本発明の一実施形態による回転電機の製造時の斜視図である。図6,図10は、本発明の一実施形態による回転電機の製造時の正面図である。図9,図11は、本発明の一実施形態による回転電機の製造時の平面図である。図12〜図15は、本発明の一実施形態による回転電機の製造時の要部断面図である。図16は、図14に示した例における本発明の一実施形態による回転電機の製造時の要部正面図である。図17は、図15に示した例における本発明の一実施形態による回転電機の製造時の平面図である。なお、図1及び図2と同一符号は、同一部分を示している。
以下の説明では、図2に示した複数のステータコイル114の内、同相のコイルである114(U1+),114(U1−)を、T字形状のティース一体型分割バックコア112(U1+),112(U1−)のティース部に連続して集中巻きで巻回する場合について説明するが、他の同相コイルの連続巻きも同様に行うことができる。
図3において、ボビン112BOは、例えばプラスチックのような絶縁物から形成されている。ティース一体型分割バックコア112(U1+)に用いられるボビンは、2分割された形状のボビン112BO(U1+A),112BO(U1+B)からなる。それぞれ、プラスチック成形され、同一の寸法形状のものである。ボビン112BO(U1+A),112BO(U1+B)は、それぞれ、枠状の物を、中央から分割した形状である。ボビン112BO(U1+A)は、その開口部を、図示の上方向から、ティース一体型分割バックコア112(U1+)のティース部に挿入され、また、ボビン112BO(U1+B)は、その開口部を、図示の下方向から、ティース一体型分割バックコア112(U1+)のティース部に挿入されている。ティース一体型分割バックコア112(U1−)に用いられるボビンも、2分割された形状のボビン112BO(U1−A),112BO(U1−B)からなる。
ボビン112BO(U1+A),112BO(U1+B)の取り付けられたティース一体型分割バックコア112(U1+)、及びボビン112BO(U1−A),112BO(U1−B)の取り付けられたティース一体型分割バックコア112(U1−)は、それぞれ、図3に示すように両バックの内径側を外側に向け、巻線治具10に固定される。2個のバックコア112(U1+),112(U1−)は、巻線に必要なノズル(図4で後述)の移動空間を確保できるように、所定の角度(図3の場合は90度)を付けて、巻線治具10に保持される。
ここで、治具10は軸Cの周りに回転可能である。また、最初に巻線するバックコア112(U1+)に対して、二番目に巻線するバックコア112(U1−)の位置は、渡り線のあるコイルエンド側から見て、距離X1だけ遠方の位置で、巻線治具10に固定する。第2バックコア112(U1−)の取り付け後、第2バックコアのボビン2bの背面にガイド12を配置する。ガイド12は、巻線治具10にボルトなどで取り付け、第2バックコア112(U1−)の巻線後に矢印S1の方向に取り出し可能である。
次に、図4を用いて、第1ステータコイル114(U1+)の巻回工程について説明する。自動巻線機のノズル4の回転軌道面を第1バックコア112(U1+)の径方向と垂直に位置させ、第1バックコア112(U1+)の周りにノズル20を動かして、第1ステータコイル114(U1+)を巻線する。
次に、図5〜図7を用いて、第2ステータコイル114(U1−)の巻回工程について説明する。第2ステータコイル114(U1−)は、第1ステータコイル114(U1+)の巻線に引き続いて、連続して巻回される。図4に示した状態に対して、第2ステータコイル114(U1−)の巻回時には、巻線治具10を回転させる。ここでは、前述したように、2個のバックコア112(U1+),112(U1−)が、所定の角度(図3の場合は90度)だけ離されているため、回転する角度は、90度である。なお、図5に示す状態は、図4に示す状態に対して、巻線治具10を矢印S2方向に90度回転させた状態である。なお、図示の状態では、説明の都合上、図4に対して図示する角度を矢印S2と逆方向に90度回転した位置から見た状態を図示している。
巻線治具10を矢印S2方向に90度回転させると、図5に示すように、第2バックコア112(U1−)の径方向とノズル20の回転軌道面が垂直になる。そして、ガイド12の上に移行部の電線CA1を引回し、第2バックコア112(U1−)のボビン112BO(U1−)の背面の溝から第2ステータコイル114(U1−)の巻き始め電線を落とし込む。
ここで、図6に示すように、第1ステータコイル114(U1+)から第2コイル114(U1−)への移行部の電線CA1がガイド12に搭載される面は、第2ステータコイル114(U1−)(バックコア、ボビンを含む)の輪郭の外周側としている。ここで、第2ステータコイル114(U1−)(バックコア、ボビンを含む)の輪郭とは、図6に破線RK1で示す外径ラインである。この例では、ボビン112BO(U1−)のバックコア側(図示の奥方向)の寸法が最も大きいため、ボビン112BO(U1−)の外径が、第2ステータコイル114(U1−)(バックコア、ボビンを含む)の輪郭となっている。移行部の電線CA1がガイド12に搭載される面は、ボビン112BO(U1−)の外形寸法よりも大きい面となっている。
次に、図7に示すように、第2バックコア112(U1−)に、第2ステータコイル114(U1−)を第1ステータコイル114(U1+)と逆方向に巻線する。
第1ステータコイル114(U1+)と第2ステータコイル114(U1−)の巻回が終了すると、図8に示すように、ガイド12を矢印S3の方向に退避させ、その後、両コイル114(U1+),114(U1−)の巻回されたバックコア112(U1+),(U1−)を矢印S4方向に引き抜いて、巻線治具10の上方から取り出す。
次に、図9に示すように、バックコア112(U1+)に対して、バックコア(U1−)を矢印S5方向に回転させ、取り出した両コイル114(U1+),114(U1−)の、バックコア112(U1+)と、バックコア(U1−)の分割面を合わせる。ここで、ガイド12によってコイル114(U1−)(バックコア、ボビン含む)の外周側に、移行部の電線CA1が形成されているため、コイル114(U1+)と、移行部の電線CA1は干渉しないものとなる。
次に、図9に示したように、移行部の電線CA1は、ボビン112BO(U1−)の背面から第2コイル114(U1−)に巻き込まれているので、両コイルを回転させた後で、移行部の電線CA1の位置をボビン2bの背面より内径側に移動させる。
次に、図10(A)に示すように、第1ステータコイル114(U1+)(バックコア、ボビン含む)を回転電機の軸方向(矢印S6方向)に移動し、図10(B)のように第1ステータコイル114(U1+)と第2ステータコイル114(U1−)の軸方向位置を一致させる。この動作により、図10(B)に示すように、第2コイル114(U1−)のコイルエンドの上部にある移行部の電線CA1の一部が、第1ステータコイル114(U1−)の最終ターンの一部として吸収され、図11に示すような位置に渡り線ELが配置され、従来よりも渡り線ELの長さを短縮することができる。巻線治具10のバックコア取り付け位置の差X1を調整することで、渡り線ELの長さを所望の寸法にできる。図3〜図10にて説明した製造方法は、コイルに使用する導体の線径が細く、曲げ加工しやすい場合に(例えば、線径が1.6φ以下)に有効である。一つのステータコイル114に、14Tのコイルを巻回する場合で、取付位置差X1は、例えば、8mmである。もちろん、ティースの寸法形状等により、差X1の値は異なるため、渡り線ELが最も短くなるような最適値が選択される。
ここで、図12〜図15を用いて、本実施形態の回転電機の製造方法によって製造されたステータコイルのステータコアに対する位置関係について説明する。
図12に示す例では、第1ステータコイル114(U1+)と第2ステータコイル114(U1−)を繋ぐ渡り線ELは、第2ステータコイル114(U1−)のコイルエンド上に位置し、渡り線ELの底面が、コイルボビンの上端面よりも高さH1だけ低い位置にある。なお、従来は、破線で示す渡り線ELpのように、渡り線ELの底面が、コイルボビンの上端よりも上側の位置,すなわち、コイルボビンの上端から高さHpだけ高い位置に配置されていたため、コイルエンド部が長くなっていたものである。それに対して、本実施形態では、渡り線の位置を低くできるので、コイルエンド部を短くできる。
また、図13に示す例では、第1ステータコイル114(U1+)と第2ステータコイル114(U1−)を繋ぐ渡り線ELは、第2ステータコイル114(U1−)のコイルエンド上に密着しており、渡り線ELの底面が、コイルボビンの上端面よりも高さH2だけ低い位置にある。
さらに、図14に示す例では、第1ステータコイル114(U1+)と第2ステータコイル114(U1−)を繋ぐ渡り線ELは、コイルボビン112BO(U1+)の回転電機の軸方向の端面上に位置し、渡り線ELの底面がコイルの最外層よりも低い位置にある。
また、図15に示す例では、コイルエンドの最外層で最外周と、ボビン112BO(U1−)のツバの間に空隙を有するように巻線され、第1ステータコイル114(U1+)と第2ステータコイル114(U1−)を繋ぐ渡り線ELは、この空隙内に配置し、渡り線ELの底面がコイルの最外層よりも高さH3だけ低い位置にある。
図16は、図14に示したように、コイル114(U1+),114(U1−)の最外層よりもコイルボビン112BO(U1+),112BO(U1−)の回転電機の軸方向の端面を低くし、渡り線ELをコイル114(U1+)の径方向外側で、ボビン112BO(U1−)の端面の上部を通過するように配置した場合の正面図を示している。渡り線ELの底面は、コイル114(U1+)の最外層よりも低くなり、結線用部品などの搭載部品の下面を、コイルエンド最外層+線径の高さまで近づけることができる。
図17は、図15に示した例の製造時の状態を示す平面図である。図17(A)に示すように、第2コイル114(U1−)の最外層、最外周とボビン112BO(U1−)のツバの間に空隙(矢印の位置)を有するように巻線し、図17(B)に示すように渡り線5をこの空隙内に納めることもできる。この場合、渡り線ELの底面は、コイル最外層よりも低くなり、結線用部品などの搭載部品の下面を、コイルエンド最外層+線径の高さまで近づけることができる。渡り線をボビンの内側に納められるので、部品の運搬や組立によるコイルの絶縁損傷の可能性を低くできる。
図12〜図15の例に共通する要素としては、図3〜図11に示したように、第1及び第2のステータコイルのコイル軸心が、ステータの軸方向にずれた状態で連続巻線し、第1及び第2のステータコイルを繋ぐ渡り線を、第2のステータコイルのコイルエンド上に移動した後、前記渡り線のあるコイルエンド側から見た両コイルの相対位置を一致させるという製造方法によってステータコイルを巻回することで、渡り線ELは、ボビン112BO(U1−)の最外周を含み、最外周の位置よりも内周側に位置するものである。このような構成により、渡り線を短くでき、結果としてコイルエンド部を短くできるため、回転電機の軸方向の長さを短縮できる。
さらに、移行部の電線の余長を吸収する量を増やすと、図10(B)のように第1ステータコイル114(U1−)の最終半ターンCA1がスロット内で各コイルの角部を支点として対角に直線状に配置され、渡り線を第2コイルのコイルエンド上に密着させることもできる。渡り線ELの遊びがないので、第1ステータコイル114(U1−)の最終半ターンCA1と第2コイル114(U1+)の接触を完全に回避でき、同相内の短絡の危険をなくせる。
なお、ここではT字型の分割バックコアにボビンを取り付けて巻線する構造で説明したが、治具にボビンを挿入する軸心を設け、バックコアのない2連続巻コイルを製造してもよく、ティースと環状のバックコアバックコアに分割するタイプのバックコアにも適用できる。
以上説明したように、本実施形態によれば、渡り線がコイルエンドから突出する長さが減り、回転電機の軸方向寸法を短縮できる。また、渡り線がコイルボビンの外周を通らないので、この部分を結線用部品の脚などを搭載する空間として有効に活用できる。
次に、図18〜図21を用いて、本実施形態の回転電機の第2の製造方法について説明する。なお、この例は、ステータコイルに用いる導体の線径が太い場合,例えば、2.3φ以上の場合に有効なものである。
図18,図19は、本発明の一実施形態による回転電機の第2の方法による製造時の正面図である。図20,図21は、本発明の一実施形態による回転電機の第2の方法による製造時の平面図である。なお、図1〜図15と同一符号は、同一部分を示している。
最初に、図18に示すように、第1のバックコア112(U1+)にボビン112BO(U1−)を取り付け、巻線治具10Aに把持手段14Aで固定する。次に、第1のバックコア112(U1+)に取り付けられたボビン112BO(U1−)の周囲に、第1のステータコイル114(U1+)を巻線する。
次に、図19及び図20に示すように、巻線治具10Aの上には、スペーサ16が取り付けられている。そして、スペーサ16に把持手段14Bで固定した第2のバックコア112(U1−)を治具12に取り付ける。なお、第2のバックコア112(U1−)には、予めボビン112BO(U1−)が装着されている。このような位置関係とすることで、コイルの巻回軸方向の相対位置を、第1ステータコイル114(U1−)とずらし、かつコイルエンド側が対向するように配置することができる。そして、第2のステータコイル114(U1−)を第1コイル114(U1+)と逆方向に巻線する。ここで、両バックコアの位置をコイルの巻回軸方向にずらすことで、ノズル20は第1ステータコイル114(U1+)と干渉しないようにすることができる。
次に、把持手段14A,14Bを除去し、両コイル114(U1+),114(U1−)を、巻線治具10Aから取り出し、両コイルの巻回軸方向の位置を一致させる。移行部の電線CA2は、第2コイル3bのボビン2bの背面から第2コイルに巻き込まれているので、移行部の電線CA2の位置を第2コイルのボビン背面より内径側に移動させる。
次に、図21(A)に示すように、第2ステータコイル114(U1−)に対して、第1ステータコイル114(U1+)を180度反転させ、図21(B)に示すように、渡り線のあるコイルエンド側から見た両コイルの相対位置を一致させる。治具10Aに固定する両コイル間の距離X2を調整することで、渡り線ELの長さを所望の寸法にできる。
なお、第2の製造方法も、T字型の分割バックコアにボビンを取り付けて巻線する構造で説明したが、治具にボビンを挿入する軸心を設け、バックコアのない2連続巻コイルを製造してもよく、ティースと環状のバックコアバックコアに分割するタイプのバックコアにも適用できる。
以上説明したように、本実施形態によっても、第1及び第2のステータコイルのコイル軸心が、ステータの軸方向にずれた状態で連続巻線し、第1及び第2のステータコイルを繋ぐ渡り線を、第2のステータコイルのコイルエンド上部に移動した後、第1及び第2のステータコイルを相対的に反転させて、渡り線のあるコイルエンド側から見た両コイルの相対位置を一致させるという製造方法によってステータコイルを巻回することで、渡り線は、ボビンの最外周を含み、最外周の位置よりも内周側に位置するものである。このような構成により、渡り線を短くでき、結果としてコイルエンド部を短くできるため、回転電機の軸方向の長さを短縮できる。また、渡り線がコイルボビンの外周を通らないので、この部分を結線用部品の脚などを搭載する空間として有効に活用できる。