JPWO2006090838A1 - 有機エレクトロルミネッセント素子及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1は、基板2と、前記基板上に形成された第1の電極3と、前記第1の電極3上に、第1の電極3と接触するように形成された有機発光層5と、前記有機発光層5上に形成された第2の電極6と、を有し、前記第1の電極3と前記有機発光層5との接触界面Bの近傍に、ドーパントとして水素イオン又は水酸化物イオンをドープしたイオンドープ表面を備えることを特徴とする。この特徴により、低電圧駆動が可能となり、長寿命化が実現された有機エレクトロルミネッセント素子を得ることが出来る。

Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)及びその製造方法に関する。
最近の情報化、IT技術の進展はすさまじく、光を発するルミネッセント素子、光を吸収してエネルギ変換する太陽電池、さらに、電圧のON−OFFにより光透過率が変化する液晶系及びエレクトロクロミック系の調光素子の開発が加速している。
これらの素子は、その両面に陽極と陰極とを配置している。特に素子内に光を入射又は出射させたい場合には透明電極を用いることにより、素子内で生成した光を効率良く外部に出射させ、又は外部からの光を素子内部に入射する構成となっている。
有機EL素子、太陽電池、調光素子及びトランジスタ素子(FET素子)に代表される素子は、基本的に、少なくとも一種の機能性薄膜の両面に陽極と陰極を挟み、サンドイッチ型に構成される。これらの各素子を機構的にみると、2つの電極と機能性薄膜との界面、又は機能性薄膜と機能性薄膜との界面、すなわち、異種材料の接触界面での荷電キャリア(電子、正孔)の動きを積極的に利用し、電子的機能又は光学的機能を発現させている。
以下、最近脚光を浴びている有機エレクトロルミネッセント素子を例に挙げて説明する。図15では、有機EL素子の縦断面図を示す。有機EL素子20は、透明基板21上に、陽極22を形成し、陽極22上に、機能性薄膜たる発光層23と、陰極24と、を形成している。そして、陽極22と陰極24は、直流電源25の正極と負極にそれぞれ接続されている。
陽極22と陰極24間に電圧を印加すると、陽極22側から正孔が、さらに陰極24側から電子がそれぞれの接触界面における電位障壁の高さΔφを超えて発光層23に注入される。そして発光層23において、注入された電子と正孔が再結合することにより、発光する仕組みとなっている。そして、この発光は、光透過性の材料から形成された透明基板21側から出射される。
有機EL素子20の電子及び正孔の流れと、接触界面での電位障壁を模式的に表したバンド構造を図16に示す。図16に示す構造において、陽極22のイオン化ポテンシャルの大きさφは約4.5eV〜4.7eVであり、発光層23のイオン化ポテンシャルの大きさφは約5.4eV〜5.8eVであることから、電位障壁の高さΔφは約0.7eV〜1.3eVと非常に大きくなる。電位障壁の高さΔφが大きくなると、陽極22から正孔が注入され難くなり、狙いとする発光輝度を得るために、陽極22と陰極24との間に高電圧を印加せざるを得ず、有機EL素子20の低電圧駆動を妨げていた。また、正孔が注入され難くなると、陰極24から注入される電子との注入バランスを確保することが難しくなり、発光の安定性を維持することができなかった。このような課題を解決するため、いくつかのアプローチが行われている。
第1は、陽極を固定しておき、陽極と発光層との間に、両者のイオン化ポテンシャルの中間値であるバッファ層を挿入する方法である(日刊工業新聞社編「有機ELの話」、49頁参照)。
第2は、陽極を固定しておき、陽極のイオン化ポテンシャルφの大きさに比較的近い値の発光層を選択する方法である。
第3は、発光層を固定しておき、発光層のイオン化ポテンシャルφの大きさに比較的近い値の陽極を選択する方法である。
しかし、前述した3つの方法では、それぞれ問題を有していた。
第1の方法では、バッファ層を挿入すると、陽極と発光層間のエネルギ差を段階的に変えられるため、陽極側から見ると、そのキャリアである正孔は、電位障壁の高さΔφを容易に乗り越えることができる。しかし、バッファ層のイオン化ポテンシャルの大きさφは、任意に制御できるものではなく、しかも、そのバッファ層の塗布、硬化によるプロセスも増えてコスト高騰の要因となり実用的ではなかった。
第2の方法では、イオン化ポテンシャルの大きさφに着眼して発光材料を選択すると、発光色を自在に選択できず、しかも高い発光効率も得られないという問題を有していた。
第3の方法では、陽極として要求される低抵抗、高光透過率、エッチング性などの電極パターン形成性及び表面平滑性を満足させた上で、発光層のイオン化ポテンシャルの大きさφに近い値の陽極を選択することは極めて難しかった。さらに、透明導電性が要求される陽極として、最も汎用されているITO(Indium Tin Oxide)電極以外にも、ATO(Antimony doped Tin Oxide)、FTO(Fluorine doped Tin Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)の電極が知られているが、これらの電極もITO電極と同様の問題を有していた。
このように陽極と陰極あるいは発光層との接触界面における電位障壁の高さφを制御した機能性素子を開発し、この機能性素子を用いたディスプレイを製品化することが要望されている。しかし実際には、金属や酸化物半導体、さらに機能性薄膜固有の物性値(イオン化ポテンシャル)に基づき各層を組み合わせて使用せざるを得なかった。
また従来技術として、陽極と発光層との間に、ルイス酸としての性質を有する化合物を有機化合物にドーピングした化学ドーピング層を有する有機EL素子が開示されている(特開2001−244079号公報参照)。しかし製造工程において、化学ドーピング層を設けるプロセスが増加するため、上記第1の方法と同様に、コスト高騰の要因となり実用的ではなかった。また特開2001−244079号公報では、陽極層と正孔輸送層との間に、第三の層(化学ドーピング層)が設けられた構成となっているが、このような第三の層が形成されると素子の抵抗低下に貢献するどころか、逆に直列抵抗として働き、陽極層と正孔輸送層との間の抵抗が増加する可能性もある。また、第三の層が存在することによる光透過率の低下を招く可能性もある。この光透過率の低下は、発光層で発生した光を陽極透明電極、及び透明基板を通して外部へ出射させる際、光損失となってしまい、発光輝度の低下をもたらすことになる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、低電圧駆動及び長寿命化を実現した有機EL素子、及び製造プロセスが簡易であり、さらに低コスト化を図った有機EL素子の製造方法を提供することにある。
本発明の第一の態様に係る有機エレクトロルミネッセント素子は、基板と、前記基板上に形成された第1の電極と、前記第1の電極上に、第1の電極と接触するように形成された有機発光層と、前記有機発光層上に形成された第2の電極と、を有し、前記第1の電極と前記有機発光層との接触界面の近傍に、ドーパントとして水素イオン又は水酸化物イオンをドープしたイオンドープ表面を備えることを特徴とする。
本発明の第二の態様に係る有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法は、基板上に第1の電極を形成する工程と、前記第1の電極上に、水素イオン又は水酸化物イオンを含む水溶液を付着させ、水素イオン又は水酸化物イオンを前記第1の電極の表面にドープする工程であって、前記水素イオン又は水酸化物イオンがドープされた第1の電極の表面に有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層上に第2の電極を形成する工程と、を有し、前記水素イオンが前記接触界面の分子にドープされた場合、負に帯電した陰イオンが第1の電極表面に吸着されることで電気二重層が形成されており、前記水酸化物イオンが前記接触界面の分子にドープされた場合、水酸化物イオン濃度を上昇させることで、第1の電極のイオン化ポテンシャルが低下することを特徴とする。
本発明の第三の態様に係る表面処理方法は、水素イオンを含む酸溶液又は水酸化物イオンを含むアルカリ溶液に電極を浸漬させて、電極の表面に水素イオン若しくは水酸化物イオンをドープすることにより、前記電極表面のイオン化ポテンシャルを制御することを特徴とする。
図1は、本発明の実施の形態に係る有機EL素子の縦断面図である。 図2は、陽極にITO電極、有機発光層にPPV(ポリフェニレンビニレン)を用いたときのバンド構造を示す図である。 図3は、本発明の実施の形態に係る有機EL素子の陽極表面に水素イオンをドープした際の陽極の様子を示す図であり、(a)は未処理状態の陽極表面を示す図、(b)は、水素イオンが陽極表面にドープされた状態を示す図、(c)は陽極表面に電気二重層が形成された状態を示す図である。 図4は、酸溶液処理によるイオン化ポテンシャル変化のメカニズムを示す図である。 図5は、(a)が陽極表面から飛び出す光電子を測定する説明図であり、(b)が陽極表面のイオン化ポテンシャルを測定する説明図である。 図6は、イオンドープ表面を説明するための拡大図である。 図7は、本発明における他の実施の形態に係る有機EL素子の縦断面図である。 図8は、酸溶液としてHSO及びHClを用い、さらに酸溶液処理時の濃度を変えた場合の電極表面のイオン化ポテンシャルIpを測定したデータを示すグラフである。 図9は、イオン化ポテンシャルと、酸溶液処理時間との関係を示すグラフである。 図10は、pHと表面抵抗率との関係を示すグラフである。 図11は、PEDOT:PSS電極を酸処理若しくはアルカリ処理した後の表面のXPSスペクトルを示す図である。 図12は、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)によりPEDOT:PSS電極の内部を分析した際のデータを示す図である。 図13は、酸溶液処理による表面抵抗率の低下を説明するための模式図であり、(a)は分子内のキャリア移動を示し、(b)は分子間のキャリア移動を示し、(c)は粒子間のキャリア移動を示す。 図14は、アルカリ溶液としてNaOH及びNHを用い、さらにアルカリ処理時の濃度を変えた場合の電極表面のイオン化ポテンシャルIpを測定したデータを示すグラフである。 図15は、従来の有機EL素子の縦断面図である。 図16は、従来の有機EL素子の電子と正孔の流れと、接合界面での電位障壁を模式的に表したバンド構造を示す図である。
(有機EL素子)
本発明の実施の形態に係る有機EL素子1を図1に示す。有機EL素子1は、基板2と、基板2上に形成された陽極3と、陽極3上に形成された有機発光層5と、有機発光層5上に形成された陰極6と、を有する。さらに陽極3及び陰極6は、直流電源7の正極及び負極にそれぞれ接続されている。光透過性を有する材料により基板2と陽極3を構成すると、有機発光層5で生成した発光は、陽極3、基板2を透過して出射される。
そして本発明では、陽極3と有機発光層5とが接することにより形成される界面の近傍に、ドーパントとして水素イオン(H)がドープされたイオンドープ表面(数分子分)4を設けていることを特徴とする。このように陽極3と有機発光層5との接触界面に、イオンドープ表面4を形成し、接触界面近傍の水素イオン濃度を上昇させることにより、陽極3のイオン化ポテンシャルが大きくなり、正孔側から見ると、陽極3と有機発光層5との接触界面の電位障壁φが低くなる。
図2では、陽極3としてITO(Indium Tin Oxide)を用い、有機発光層5材料としてPPV(ポリフェニレンビニレン)を用いたときのバンド構造を模式的に示す。
文献によると、ITO電極(陽極3)のイオン化ポテンシャルφは概ね4.5eV〜4.7eVであり、PPV(有機発光層5)のイオン化ポテンシャルは概ね5.2eV〜5.5eVであり、両者の値を基本に考えると、陽極3と有機発光層5との接触界面の電位障壁φは0.5eV〜1.0eVと見積もられることになる。陽極3と有機発光層5との接触界面に大きな電位障壁φが生じた場合、所望の発光輝度を得るためには陽極3と陰極6間に高電圧を印加して、積極的に正孔または電子を注入しなければならない。しかし、陽極3と陰極6間に高電圧を印加すると、有機発光層5での発光安定性や発光寿命が低下し、実用に耐えることができない。しかし、本発明のように、陽極3と有機発光層5との接触界面に水素イオン(H)をドープしたイオンドープ表面4を形成することにより、陽極3のイオン化ポテンシャルφの値を増大させ、発光輝度と発光寿命が向上したと考えられる。なお、陽極3材料のITOに対して「イオン化ポテンシャル」の用語を使用したが、イオン化ポテンシャルは、中性の原子から電子を外部に取り出すのに必要なエネルギであると定義する。なお、ITOは半導体であり、厳密には「イオン化ポテンシャル」ではなく「仕事関数」の語を使用するのが適切であるが、両者は基本的に同一の概念であるため、ここでは「イオン化ポテンシャル」の用語を使用する。
次に、陽極3表面に水素イオン(H)をドープした際の作用効果について、図3及び図4により説明する。なお、水素イオン(H)をドープする手法としては、水素イオン(H)を含む各種酸溶液に適宜浸漬させた例を挙げて説明する。
まず、試料表面を酸溶液に浸漬して水素イオン(H)をドープしたとき、陽極3のイオン化ポテンシャルIpが大きくなる理由を説明する。なお、現在、その理由は明確ではないが、以下の機構に基づくものと考えられる。また図2に示すバンド構造では、電極のイオン化ポテンシャルをIpと表記したが、ここでは酸処理による水素イオンドープ後のイオン化ポテンシャルという意味でIpと表記する。また、電極材料としては、π共役系物質の一つであるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT):ポリスチレンスルフォン酸(PSS)(PEDOT:PSS)を一例として説明する。
図3では、電極(陽極3)表面に対し、酸溶液処理で水素イオン(H)をドープした場合の前後の様子を示す。未処理状態の陽極3表面を図3(a)に示し、陽極3表面に水素イオン(H)をドープした状態を図3(b)に示す。陽極3表面に水素イオン(H)8がドープされ、陽極3表面の水素イオン濃度が上昇すると、陽極3表面での電気的安定性に欠ける状態となることから、電気的中性を保つために負に帯電した陰イオン9が誘起されて陽極3表面に電気二重層10が形成される。この様子を図3(c)に示す。陽極3表面に電気二重層10が形成されると、陽極3に存在する電子は最表面に位置する陰イオン9の存在により反発し合う確率が増大し、電子は外部に放出され難くなる。即ち、未処理状態の陽極3のイオン化ポテンシャルに比べて、水素イオン(H)のドープ処理後における陽極3のイオン化ポテンシャルの値が増大するものと推察される。
電極材料としてPEDOT:PSSを用い、さらに酸溶液としてHSOを用いた場合のモデルを使って、図3の考察を具体的に説明する。図4に示すように、PEDOT:PSS複合体の中のPEDOT分子がHSOによりドーピングされたとすると、PEDOT分子の内側が正に帯電する。一方、PEDOT分子の外側は負に帯電し、結果的に電気二重層が形成され、それ故、イオン化ポテンシャルが大きくなると考える。
光電子分光装置(理研計器(株)社製、AC−2)を用いることにより、大気中における、陽極3表面に水素イオン(H)がドープされ、電気二重層10が形成された陽極3表面のイオン化ポテンシャルを測定することができる。図5(a)に示すように、陽極3表面に単色光の波長を入射し、この単色光の波長(言い換えると、照射エネルギ)を可変させて、陽極3表面から飛び出す光電子を図示しないカウンタにより測定する。すると、ある閾値から急激に光電子が放出される状態となる。陽極3表面のイオン化ポテンシャルの測定原理図を図5(b)に示す。直線Aは、図3(a)に示す未処理状態の陽極3表面の光電子プロットを示し、直線Cは、水素イオン(H)をドープしてイオンドープ表面4を形成し、図3(c)に示すように陽極3表面に電気二重層10を形成した状態での光電子プロットを示す。横軸は照射光エネルギ(eV)、縦軸は光電子収率の1/2乗をそれぞれ示し、直線Aと直線Cが横軸の照射光エネルギと交わる交点11、12が、イオン化ポテンシャルの値となる。直線Aのイオン化ポテンシャルの値は4.7eV、直線Cのイオン化ポテンシャルの値は5.2eVであり、直線Cに示すように、陽極3表面に水素イオン(H)がドープされたイオンドープ表面4を形成すると、イオン化ポテンシャルの値が大きくなることが実証された。従って、図5(b)に示すように、未処理状態とした陽極3表面のイオン化ポテンシャルの大きさIpに対して、水素イオン(H)のドープにより誘起された陰イオン、そしてその両者により形成される電気二重層の効果により、イオン化ポテンシャルIpの値が大きくなるものと考えられる。つまり、本発明では、ドーパントたる水素イオンがドープされていない電極表面のイオン化ポテンシャルをIpとし、水素イオンがドープされた電極表面のイオン化ポテンシャルをIpとすると、両者の差Ip−Ipが0よりも大きくなる。
なお上記イオンドープ表面4において、水素イオン8は、図6に示すように、陽極3と有機発光層5の接触界面Bの近傍に存在している。つまり水素イオン8は、符号8aのように接触界面B上に存在している場合もあれば、符号8bのように主として有機発光層5内し存在している場合もあるし、さらに符号8cに示すように主として陽極3内に存在している場合もある。しかし本発明では、水素イオン8が接触界面Bに接している状態であれば、陽極3のイオン化ポテンシャルを大きくすることができる。
これまで、陽極3及び有機発光層5の界面近傍に水素イオンをドープし、イオンドープ表面4を形成した有機EL素子1について説明したが、本発明では、陰極及び有機発光層の界面に水酸化物イオンをドープしたイオンドープ表面を形成しても良い。
陰極及び有機発光層の接触界面に水酸化物イオンをドープした有機EL素子13の縦断面図を図7に示す。有機EL素子13は、基板14と、基板14上に形成された陰極15と、陰極15上に形成された有機発光層17と、有機発光層17上に形成された陽極18と、を有する。さらに陰極15及び陽極18は、直流電源19の負極及び正極にそれぞれ接続されている。光透過性を有する材料により基板14、陰極15、陽極18を構成すると、有機発光層17内で生成した発光は、有機EL素子13の両面側から出射できる。
そして本発明では、陰極15と有機発光層17とが接することにより形成される界面の近傍に、ドーパントとして水酸化物イオン(OH−)がドープされたイオンドープ表面(数分子分)16を設けてもよい。このように陰極15と有機発光層17との接触界面に水酸化物イオンをドープしたイオンドープ表面16を形成し、接触界面近傍の水酸化物イオン濃度を上昇させることにより、陰極15のイオン化ポテンシャルが小さくなり、陰極15と有機発光層17との接触界面の電位障壁φが低くなる。なお、図6に示す水素イオンと同様に、水酸化物イオンが陰極15と有機発光層17との接触界面に接している状態であれば、陰極15のイオン化ポテンシャルを低くすることができる。
次に、具体的に数種類の酸溶液あるいはアルカリ溶液を用いて処理した場合のイオン化ポテンシャルIpの変化を図8及び図14により説明する。
電極としてPEDOT:PSSを使用し、酸溶液としてHSOとHClとを用いて、酸処理時の処理濃度を変えた場合の電極(PEDOT:PSS)表面のイオン化ポテンシャルIpを測定したデータを図8に示す。なお、この時の処理温度は室温とし、処理時間は600秒とした。また、大気中でのイオン化ポテンシャルは、光電子分光装置(理研計器製、AC−2)を用いて測定した。
図8に示すように、酸溶液としてHSOまたはHClを使用した場合、横軸の溶液濃度(pH)が低く、強酸となるに従い、イオン化ポテンシャルIpの値が大きくなることが判明した。特に、本発明において、酸溶液の濃度(pH)は、6.5〜0.5の範囲とすることが好ましい。この理由は、酸溶液の濃度(pH)が0.5未満となり強酸になり過ぎると、電極又は有機発光層の膜質が粗悪となり実用上好ましくないからである。逆に、酸溶液の濃度(pH)が6.5を超えると、酸処理をしていない未処理状態の電極と差異が生じないからである。
さらに、図8に示すように、酸溶液であるHSOとHClとの溶液濃度(pH)を同一とした場合には、HClに比べてHSOを用いて酸処理すると、イオン化ポテンシャルの値が大きくなる傾向を示していた。この理由は明確ではないが、使用する酸溶液の種類により誘起される陰イオンの大きさや量が異なり、電気二重層の効果も異なるものと考えられる。
また、酸溶液処理時の濃度(pH)以外にも、処理温度、処理時間に応じてイオン化ポテンシャルの値が変化し、イオンドープを制御する因子となる。イオン化ポテンシャルの値は、処理時間又は処理温度に応じて変化するため、所望のイオン化ポテンシャルとするためには各条件を適宜設定する必要がある。図9には、電極材料としてPEDOT:PSS薄膜を用い、酸溶液としてHSO(pH=0.5)を用いた際の、イオン化ポテンシャルと浸漬処理時間との関係を示す。この場合、図9からも明らかなように、数十秒から数百秒でイオン化ポテンシャルの値が、約5.25eVで一定となっていることがわかる。このように、本発明の処理方法は、比較的短時間で安定したイオン化ポテンシャルの値を得ることができるという特徴を持っている。また、酸溶液処理時の温度が高くなり過ぎると、イオンドープが加速されてしまい、処理時間では制御できない可能性もある。このため、処理温度は室温(約25℃)〜40℃の範囲、さらに室温近傍とすることが好ましい。
なお、図8は、HSOおよびHClを酸溶液として用いた例を挙げたが、これ以外のプロトン酸(HNO、HF、HClO、FSOH、CHSOHなど)、あるいはルイス酸溶液(BF、PF、AsF、SbF、SOなど)を酸溶液として用いた場合においても、ほぼ同様の傾向を示すことが確認された。
すなわち本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は、ドーパントとして水素イオンをドープしたイオンドープ表面を備え、前記水素イオンとしてプロトン酸、ルイス酸及びこれらの混合物を選択することができる。そして前記プロトン酸としては、HSO、HCl、HNO、HF、HClO、FSOH及びCHSOHの中から選択される少なくとも一種であり、前記ルイス酸としては、BF、PF、AsF、SbF及びSOの中から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
さらに、電極表面又は有機発光層表面を酸溶液処理して水素イオン(H)をドープすると、電極表面又は有機発光層の表面抵抗率が小さくなることが判明した。つまり図10に示すように、PEDOT:PSS薄膜電極に、例えばHSO溶液あるいはHCl溶液を用いて室温下で酸処理を施すと、両者とも処理濃度pHが5から0.5へと小さくなるに従い、表面抵抗率Rも小さくなる。つまりpH=0.5付近での表面抵抗率Rに関し、HSO溶液処理では初期表面抵抗率Rの約1/100に低下し、HCl溶液処理では初期表面抵抗Rの約1/10に低下した。このようにHSO溶液による処理と、HCl溶液による処理とでは、その挙動がやや異なるものの、いずれもpHが小さくなるに従い、表面抵抗率Rも小さくなっている。なお、表面抵抗率の測定は四端針法を採用している。この現象メカニズムについてはまだ定かではないが、現時点では次のように考える。
図10のデータ、AFM像(原子間力顕微鏡像)、図11のXPS(X線光電子分光分析)スペクトル及び図12のTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)による電極膜内部のOH及びOの強度が低くなっているという結果から、酸処理溶液の濃度pHを小さくすると、(1)電極表面又は有機発光層表面に存在する不純物を除去する効果がより顕著になっている、あるいは(2)分子内への二次ドーピングが起こっているのではと考える。この作用により表面低効率Rに寄与するキャリア移動が促進されたものと推察する。そのメカニズムイメージを図13に記載する。つまり図13(a)に示すように、電極表面だけでなくPEDOT:PSS分子30内部もドーピングすることにより、キャリア31の移動が促進されるものと考えられる。さらに図13(b)及び13(c)に示すように、PEDOT:PSS分子30間及びPEDOT:PSS粒子32間のキャリア31の移動も促進されるものと考える。
以上の点から、本現象は、電極あるいは有機発光層表面に直接イオンがドープされることによって発現するものと考えられる。また、直接イオンがドープされる構成、つまり従来技術のような第三の層は存在せず、それ故、明確な層厚としては検出されない構成となっていることにより、可視光線領域の光透過率低下も認められず、透明導電膜あるいは透明電極として利用できるというメリットも生じている。
なお、特開2001−244079号公報記載の発明は、機能性薄膜に積層して機能性薄膜とは別体(独立)のイオンドープ層を備えるものである。つまり特開2001−244079号公報では、化学ドーピング層が蒸着膜や溶液塗布層から形成されること、その厚さが50オングストローム以上であることなどが記載されていており、化学ドーピング層が発光層とは分離されて形成されている。このように独立した層となると、積層体の厚みが増したり、界面が増加することで電気抵抗が増加してしまうなどの問題が生じる。一方、本願発明は接触界面の分子に水素イオン又は水酸化物イオンをドープさせるものである。このため、本発明によれば、特開2001−244079号公報記載の発明と異なり、機能性薄膜の厚みを薄くできるとともに、機能性薄膜の表面抵抗率を低減できるという作用効果が奏することになる。
次に、アルカリ溶液により処理を行い、水酸化物イオン(OH)をドープした場合を説明する。
電極としてPEDOT:PSSを使用し、アルカリ溶液として、NaOHとNHとを用いて、アルカリ処理時の処理濃度を変えた場合の電極(PEDOT:PSS)表面のイオン化ポテンシャルIpを測定したデータを図14に示す。なお、この時の処理温度は室温(約25℃)とし、処理時間は15秒とした。また、イオン化ポテンシャルは、大気中の光電子分光装置(理研計器製、AC−2)を用いて測定した。
図14に示すように、アルカリ溶液としてNaOHまたはNHを使用した場合、横軸の溶液濃度(pH)が大きく強アルカリ性となるに従い、イオン化ポテンシャルIpの値が徐々に小さくなり、特に、NaOHを用いて処理した場合には、pHの値が12のとき、イオン化ポテンシャルIpの値が急激に小さくなる傾向を示していた。また、アルカリ溶液の処理濃度(pH)は、基本的に7.0〜14.0の範囲とすることができるが、7.5〜12.0とすることが好ましい。この理由は、pHの値が本範囲を外れると、電極又は有機発光層の膜質が粗悪になる可能性があり、実用上好ましくないからである。実用的な処理濃度(pH)は、電極材料又は有機発光層材料の分子構造を考慮して選択する必要があるが、処理濃度が高すぎない方が好ましい。なお、NaOHおよびNH以外のKOHを用いてアルカリ溶液処理した場合にも、ほぼ同様の傾向を示すことが確認された。
さらに、この溶液処理で濃度(pH)を高くして強アルカリ性にすると、電極表面又は有機発光層表面の表面抵抗率Rが大きくなることが判明した。このメカニズムも明確ではないが、恐らく、処理濃度を高くすると、電極あるいは有機発光層材料自身の分子構造が変化することによるものと考えられる。つまり、NaOH処理した場合、Naが分子構造末端に結合することにより、電極若しくは有機発光層の分子構造が変化するものと考えられる。
また、ドーパントたる水酸化物イオンがドープされていない電極表面のイオン化ポテンシャルをIpとし、水酸化物イオンがドープされた電極表面のイオン化ポテンシャルをIpとしたとき、両者の差Ip−Ipが0よりも小さいことが好ましい。これは、アルカリ溶液により処理すると、処理後の電極表面のイオン化ポテンシャルIpが、処理前の電極表面のイオン化ポテンシャルIpよりも小さくなることを意味する。このため、有機EL素子の陰極自体のイオン化ポテンシャルを任意に制御できるというメリットを生むことになる。
次に、有機EL素子1、13の構成材料を説明する。
電極(陽極及び陰極)としては、可視光領域における平均光透過率が60%以上である透明電極を使用することが好ましい。透明電極を使用した場合、光を容易に出射させることが可能となる。このような透明電極としては、以下に示す金属薄膜、酸化物半導体及び有機材料薄膜を挙げることができる。なお、使用する目的に応じて電極材料を選択すると良いが、これらの透明電極によれば、室温(25℃)下においても低抵抗とすることができる。
金属薄膜は、可視光領域において金属特有の反射ピーク(プラズマ反射)を有するため、必ずしも透明性は高くないが、低抵抗であり安定性に優れることから、高付加価値のもたらす部位に適用されることが多い。金属薄膜としては、Au、Ag、Cu、Ni、Cr、Zn、In、Al、Sn、Pb、Pt、Pd、Ti及びこれらの混合体の中から選択される少なくとも一種を挙げることができる。また上述のように例示した中でも、実用的な観点から、Au、Ag、Cu、またはPtを選択することが好ましい。なお、金属薄膜は、真空蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、あるいはスパッタリング法を用いて形成することが可能である。
酸化物薄膜は、可視光領域での透明性と比抵抗のバランスに優れた、酸化錫(SnO)、酸化インジウム錫(ITO;Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛(ZnO)の無機系酸化物及びこれらの複合物の中から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これらの中でも、特に、ITOは透明電極として広く使用されている。この理由は、ITOが低表面抵抗、高光透過率であり、さらにエッチングによる回路パターンの形成が容易であるという利点を有するからである。このように優れた特性を有するITOではあるが、次のような大きな欠点もある。ITOはセラミックス薄膜体であるためフレキシビリティに欠け、さらに耐熱性に劣る有機材料上あるいは有機薄膜上にITO薄膜を形成することが困難であるため、素子として構成することができない場合がある。また、主に真空プロセス(例えば、スパッタ法、イオンプレーティング法、蒸着法など)を用いてITO薄膜を形成するため、成膜速度が遅く、しかも大きな設備投資が必要となるため、高コスト化を避けることができない。このため、電極として以下の有機材料薄膜を用いることが好ましい。
有機材料薄膜は、π共役系物質の薄膜を用いることが好ましい。π共役系物質によれば、共役二重結合中のπ電子の作用により、低表面抵抗と高光透過率とを両立することができる。このπ共役系物質は、分子量に応じて、低分子量あるいは高分子量のものに大別することができるが、素子の構成、又は成膜プロセスに応じて適宜選択すると良い。
低分子量のπ共役系物質としては、ポルフィリン、フタロシアニン、トリフェニルアミン、キナクリドン及びその誘導体の中から選択される少なくとも一種を挙げることができる。フタロシアニンは、無金属のものでも良いし、銅やマグネシウムなどとの錯体でも良い。
高分子量のπ共役系物質としては、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリチェフェンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種を挙げることができる。さらに、導電性を高める点から、π共役系高分子にドーピング処理した材料を用いることが好ましい。これにより、低抵抗であり光透過性に優れ、さらに発色や光起電力等の所望の光機能を発現することができる。
さらに、有機材料薄膜として、水または有機溶媒に可溶なポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリプロピレンオキシド(PO)及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種を用いても良い。これにより取扱いが容易で、しかも種々の印刷法を適宜用いることが容易となる。特に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)系の中のポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT):ポリスチレンスルフォン酸(PSS)は、機能的に、低表面抵抗率Rと高透過率を兼備えている上、水や有機溶媒に可溶であり、分散させることも可能であるため、電極材料として好ましい。なお、可視光領域での光透過性に関しては、π共役系物質の膜厚と光吸収量との関係を考慮して決定しなければいけない。
すなわち本発明の有機エレクトロルミネッセント素子において、第1の電極及び第2の電極の少なくとも一方は、金属薄膜、酸化物薄膜又は有機材料薄膜のいずれかである。そして前記金属薄膜は、Au、Ag、Cu、Ni、Cr、Zn、In、Al、Sn、Pb、Pt、Pd及びTiの中から選択される少なくとも1つの元素もしくはこれらの混合体から形成されることが好ましい。前記酸化物薄膜は、酸化錫、酸化インジウム錫、酸化亜鉛及びこれらの複合物の中から選択される少なくとも一種から形成されることが好ましい。また前記有機材料薄膜は、π共役系物質を含む材料から形成されることが好ましい。つまり前記π共役系物質は水または有機溶媒に可溶な高分子であることが好ましく、具体的にはドーピング処理されたポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリイソチアナフテン及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種、またはポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンオキシド及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
また、上記π共役系物質以外の有機材料薄膜として、導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料を用いても良い。導電性ナノ粒子としては、例えば、Au,Ag,Pt,Pd,Ni,Cu,Zn,Al,Sn,Pb,C,Tiの中から選択される元素、又はこれらの中から選択される元素を含む化合物を挙げることができる。導電性ナノ粒子の粒径は、概ね50nm以下とすることが好ましく、粒径を50nm以下にすると、可視光領域における入射光の波長λ(380〜780nm)より導電性ナノ粒子の粒径が小さくなり、光透過率が高くなる。なお、導電性ナノ粒子の形状は、例示した粒状に限定されず、針状や棒状であっても構わない。このような光透過性を発現させるためには、高分子樹脂中における導電性ナノ粒子の分散性が非常に重要となる。導電性ナノ粒子同士が凝集すると、粒径が大きくなり、上述した入射光の波長λ以下のサイズとならないことから、レイリー散乱やミー散乱に基づく散乱作用により、光透過性を損ねてしまう。また、電極表面粗度をも大きくしてしまう。また、金属薄膜、酸化物薄膜、有機材料薄膜のいずれの透明電極においても、その膜厚は、光透過率と表面抵抗率とのバランスから決定されるものであって一義的には決まらないが、概ね、数十nmから数百nmが実用的なレベルである。
有機EL素子のように素子外部に発光を出射させる場合には、基板の光透過性を高くすることが好ましい。光透過性の高い基板材料としては、ガラス、セラミックス、高分子樹脂を挙げることができる。なお、これらの基板材料の形状は特に限定されず、板状、フィルム状、線状や各種3次元形状であっても構わない。
なお、基板の光透過率としては、基板の厚さや表面平滑性、さらに、これらの素子を構成する全ての材料の透過率、反射率、吸収率を勘案して基板の透過率も設定する必要がある。基板自身の表裏面での光反射がトータルで約8%〜10%発生することから、基板の可視光線領域における平均透過率は80%以上、さらに85%以上とすることが好ましい。基板の平均光透過率を高くすると、光の散乱又は吸収による損失を極力軽減できるため、基板を介して有機発光層から発光する光を外部に効率的に出射させることができる。
基板としては、上記光透過率の他にも、高分子樹脂面内の屈折率の異方性も問題となる。これは、屈折率の異方性が発生すると、光の出射する方向に影響を及ぼすからである。具体的には、複屈折Δnが0.1を超えると、必要とする方向への出射が困難となり、結果的に光損失してしまい、実用上好ましくないため、複屈折Δnは0.1以下とすることが好ましい。さらに、有機EL素子を曲面又は3次元形状にする場合には、基板のフレキシブル性が要求されるため、基板を高分子樹脂フィルムで形成することが好ましい。基板に適用可能な光透過性を有する高分子樹脂フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルサルフォン(PES)及びこれらの誘導体の中から選択される一種を挙げることができる。
(表面処理方法)
次に、本発明の実施の形態に係る表面処理方法を説明する。なお、この表面処理方法は、前述したイオンドープ表面を形成する方法である。
本発明の表面処理方法は、水素イオンを含む酸溶液又は水酸化物イオンを含むアルカリ溶液を電極表面に付着させて、電極の表面に水素イオン若しくは水酸化物イオンをドープして電極表面のイオン化ポテンシャルを制御するものである。
さらに詳細に説明すると、まず、光透過性を有する基板(ガラス、セラミックス、高分子樹脂など)の表面をクリーニングする。表面のクリーニング方法としては公知の方法を用いることができるが、例えば、中性洗剤による脱脂又は有機溶媒(エチルアルコールなど)による超音波洗浄が挙げられる。
基板表面をクリーニングした後、基板の表面に、透明電極材料であるPEDOT:PSS(=1:1.6)溶液を薄膜形成法により塗布し、その後、熱処理をして硬化させて、光透明性を有する基板上に透明電極を形成する。ここで、薄膜形成法としては湿式法を用いると良く、湿式法としては、キャスティング法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法や種々の印刷法(インクジェット法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法)を挙げることができる。例えば、スピンコート法を使用する場合、ガラス基板上にPEDOT:PSS(=1:1.6)溶液を室温下で適量滴下した後、スピンコータで回転数を任意に設定して(例えば、1,500rpm)、所定の厚さの膜を形成し、その後、大気圧下、200℃で10分間の熱処理をして硬化させて、ガラス基板上にPEDOT:PSS薄膜の透明電極を形成することができる。なお、工業生産的には印刷法を用いることが好ましく、この場合には、基板上に電極をパターン印刷した後、硬化させて、基板上に透明電極パターンを形成することができる。
さらに、水素イオンを含む酸溶液あるいは水酸化物イオンを含む溶液を準備し、この溶液中に、透明電極を形成した基板を数秒間から数百秒間浸漬させて、透明電極の表面に水素イオンあるいは水酸化物イオンのいずれかをイオンドープする。その後、処理面を超純水によりリンス処理した後、200℃、10分間の熱処理をして透明電極の表面にイオンドープ表面を形成して一連の処理が完了する。例えば、酸溶液としてHSO溶液を用いたときの浸漬時間は約600秒、アルカリ溶液としてNaOH溶液を用いた場合の浸漬時間は約15秒とすると良い。なお、イオンをドープする際の処理条件(処理溶液濃度、浸漬時間、温度)は、電極あるいは有機発光層の材料や厚さ、あるいは表面粗さなどに応じて適宜設定すると良い。なお、上述の「浸漬」とは、酸溶液またはアルカリ溶液で試料表面を単に濡らすという意味も包含されるものである。
上述した表面処理方法によれば、電極及び有機発光層を有し、さらに電極と有機発光層との接触界面の近傍に水素イオン又は水酸化物イオンのいずれかがドープされたイオンドープ表面を有する部材を得ることができる。
電極あるいは有機発光層表面のイオン化ポテンシャルを任意に制御できるばかりでなく、その表面抵抗率をも低下させる(導電率が大きくする)ことが可能となる本発明の表面処理方法が、他の様々な用途へ展開できることについて説明する。
本発明は、有機EL素子、太陽電池、調光素子、トランジスタ(FET素子)に代表される素子に適用されるものであって、そのポイントは異種材料の接合界面でのキャリア(電子、正孔)の動きを積極的に利用するところにある。本発明の処理方法はこのような素子、及びそれを用いたユニット(集合体)にとって極めて有効となることは明らかである。例えば、有機EL素子及びそれを用いた表示体へ本発明を展開すると、低電圧化、長寿命化そして高透過率化という性能向上に加え、使用材料の削減及び製造プロセスの簡素化、さらに将来的には、オールウェットプロセスの適用による低コスト化が可能となる。
(有機EL素子の製造方法)
本発明の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法を説明する。
本発明の有機EL素子の製造方法は、まず、基板の表面をクリーニングする。表面のクリーニング方法は、前述した方法と同様である。クリーニング後、基板上に、第1の電極を形成する。具体的には、水または有機溶媒に可溶なπ共役系物質を含む材料を用いて湿式薄膜形成法により第1の電極を形成して前記部材とする。ここでの湿式薄膜形成法も前述した方法と同様である。
次に、部材の第1の電極表面に水素イオンまたは水酸化物イオンのいずれかをドープしたイオンドープ表面を形成する。水素イオンまたは水酸化物イオンをドープする手法としては、水素イオンを含む酸溶液または水酸化物イオンを含むアルカリ溶液を部材に付着させる方法をとることができる。酸溶液若しくはアルカリ溶液を部材に付着させる方法としては、部材を浸漬させるか、又はその雰囲気ガスに部材を暴露させる方法を挙げることができる。例えば、酸溶液として、プロトン酸(HSO、HCl、HNO、HF、HClO、FSOH、CHSOH)又はルイス酸(BF、PF、AsF、SbF、SO)を含む水溶液を使用する場合には、その溶液濃度pHを0.5〜6.5として酸処理することが好ましい。一方、アルカリ溶液として、NaOH、KOH、NH及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種を含む水溶液を使用する場合には、その溶液濃度pHを7.5〜12.0としてアルカリ処理することが好ましい。
その後、上述のように酸処理面またはアルカリ処理面を洗浄し、乾燥させた後、イオンドープ表面が形成された第1の電極上に、有機発光層を形成する。具体的には水又は有機溶媒に可溶なπ共役系物質を含む材料を用いて湿式薄膜形成法により有機発光層を形成する。
さらに、有機発光層上に、第2の電極を形成して、有機EL素子とする。具体的には、水または有機溶媒に可溶なπ共役系物質を含む材料を用いて湿式薄膜形成法により第2の電極を形成する。
上記有機EL素子の製造方法によれば、電極(陽極、陰極)及び有機発光層の形成と、イオンドープの処理とを連続した湿式プロセスとすることができる。このため、従来の真空蒸着法と比べると、製造プロセスを簡易とすることができ、さらに大幅にコストを削減することができる。
すなわち本発明に係る有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法において、前記第1の電極は陽極であり、前記ドープ工程では水素イオンをドープし、さらに前記水溶液は、プロトン酸、ルイス酸及びこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種の水溶液であることを特徴とする。そして前記プロトン酸は、HSO、HCl、HNO、HF、HClO、FSOH及びCHSOHの中から選択される少なくとも一種であり、前記ルイス酸は、BF、PF、AsF、SbF及びSOの中から選択される少なくとも一種で、前記水溶液の濃度pHは、0.5〜6.5であることが好ましい。また本発明に係る有機エレクトロルミネッセント素子の他の製造方法において、前記前記第1の電極は陰極であり、前記ドープ工程では水酸化物イオンをドープし、さらに前記水溶液は、NaOH、KOH、NH及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種の水溶液であることを特徴とする。そして前記水溶液の濃度pHは、7.5〜12.0であることが好ましい。
また前記第1の電極は、水または有機溶媒に可溶なπ共役系物質を含む材料を用いて湿式薄膜形成法により形成され、前記有機発光層は、水又は有機溶媒に可溶なπ共役系物質を含む材料を用いて湿式薄膜形成法により形成され、前記第2の電極は、水または有機溶媒に可溶なπ共役系物質を含む材料を用いて湿式薄膜形成法に形成されることが好ましい。さらに前記ドープ工程では、前記基板及び第1の電極を前記水溶液に浸漬させることにより、前記第1の電極表面に水溶液を付着させることが好ましく、前記ドープ工程後及び有機発光層の形成工程前に、第1の電極表面を洗浄し、乾燥する工程を有することが好ましい。
また、上記製造方法により製造される有機EL素子は、電極と有機発光層との間に、電位障壁を制御するためにイオンドープ表面を設けたため、有機EL素子を低電圧で駆動することができ、この結果、有機EL素子の長寿命化を実現することができる。さらに、有機EL素子中の基板または電極を前述した光透過性の高い材料透明材料から構成すると、光の出射方向を任意に設定することができる。この結果、使用目的に応じて構成材料を選択することにより、表示体及び照明体として有機EL素子を適用することも可能となる。
以下、具体的に実施例を用いて説明するが、例示した実施例により本発明は限定されるものではない。
(実施例1−1)
まず、石英ガラス基板をエチルアルコールにより超音波洗浄した後、ガラス基板上にPEDOT:PSS(=1:1.6)溶液を室温下で適量滴下し、スピンコータで回転数1,500rpmとして薄膜を形成した。その後、200℃で10分間熱処理をして硬化させた。これによりガラス基板上に膜厚100nmの透明電極を形成した部材Aを得た。
次に、溶液濃度pHを5.0としたHSOの酸溶液を調整し、HSOの酸溶液中に部材Aを600秒間浸漬させて、部材A表面に水素イオンをドープした。その後、部材Aの表面を超純水で5回リンス処理し、200℃で600秒間熱処理をして、部材Aの透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例1−2〜実施例1−5)
実施例1−2から実施例1−5では、酸溶液による処理時に、HSOの酸溶液の濃度pHを変えた以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。実施例1−2から実施例1−5までのHSOの酸溶液の濃度pHは、順次、pH3.0、pH1.3、pH0.6、pH0.2とした。
(比較例1)
比較例1では、酸溶液による処理を行わず、実施例1−1で作製した部材Aを試料とした。
(実施例2−1)
実施例2−1では、酸溶液による処理時に、溶液濃度pHを5.0としたHClの酸溶液を使用した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例2−2〜実施例2−5)
実施例2−2から実施例2−5では、酸溶液による処理時に、HClの酸溶液の濃度pHを変えた以外は、実施例2−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。実施例2−2から実施例2−5までのHClの酸溶液の濃度pHは、順次、pH5.0、pH3.0、pH1.3、pH0.6、pH0.2とした。
(比較例2)
比較例2では、酸溶液による処理を行わず、実施例1−1と同様の方法を用いて作製した部材Aを試料とした。
(実施例3−1)
実施例3−1では、酸溶液による処理時に、溶液濃度pHを5.0としたCHSOHの酸溶液を使用した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例3−2〜実施例3−5)
実施例3−2から実施例3−5では、酸溶液による処理時に、CHSOHの酸溶液の濃度pHを変えた以外は、実施例3−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。実施例3−2から実施例3−5までのCHSOHの酸溶液の濃度pHは、順次、pH3.0、pH1.3、pH0.2とした。
(比較例3)
比較例3では、酸溶液による処理を行わず、実施例1−1と同様の方法を用いて作製した部材Aを試料とした。
(実施例4−1)
実施例4−1では、酸溶液による処理時に、溶液濃度pHを5.0としたBFの酸溶液を使用した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例4−2、実施例4−3)
実施例4−2及び実施例4−3では、酸溶液による処理時に、BFの酸溶液の濃度pHを変えた以外は、実施例4−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。実施例4−2及び実施例4−3におけるBFの酸溶液の濃度は、それぞれpH3.0、pH1.3とした。
(比較例4)
比較例4では、酸溶液による処理を行わず、実施例1−1と同様の方法を用いて作製した部材Aを試料とした。
(実施例5−1)
実施例5−1では、まず、実施例1−1と同様の方法を用いて部材Aを作製した。
次に、溶液濃度pHを7.5としたNaOHのアルカリ溶液を調整し、NaOHのアルカリ溶液中に部材Aを15秒間浸漬させて、部材A表面に水酸化物イオンをドープした。その後、部材Aの表面を超純水で5回リンス処理し、200℃で600秒間熱処理をして、部材Aの透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例5−2、実施例5−3)
実施例5−2及び実施例5−3では、アルカリ溶液による処理時に、NaOHのアルカリ溶液の濃度pHを変えた以外は、実施例5−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。実施例5−2及び実施例5−3におけるNaOHのアルカリ溶液の濃度は、それぞれpH10.0、pH12.1とした。
(比較例5)
比較例5では、アルカリ溶液による処理を行わず、実施例1−1と同様の方法を用いて作製した部材Aを試料とした。
(実施例6−1)
実施例6−1では、アルカリ溶液による処理時に、溶液濃度pHを7.2としたNHのアルカリ溶液を使用した以外は、実施例5−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例6−2、実施例6−3)
実施例6−2及び実施例6−3では、アルカリ溶液による処理時に、NHのアルカリ溶液の濃度pHを変えた以外は、実施例6−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。実施例6−2及び実施例6−3におけるNHのアルカリ溶液の濃度は、それぞれpH10.0、pH12.1とした。
(比較例6)
比較例6では、アルカリ溶液による処理を行わず、実施例1−1と同様の方法を用いて作製した部材Aを試料とした。
(実施例7−1)
まず、石英ガラス基板をエチルアルコールにより超音波洗浄した後、ガラス基板上に、マグネトロン・スパッタリング法を用いてITO薄膜を形成し、ガラス基板上に膜厚100nmの透明電極を形成した部材Bを得た。
その後、溶液濃度pHを7.5としたNaOHのアルカリ溶液中に部材Bを浸漬させて、実施例5−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(実施例7−2)
実施例7−2は、アルカリ溶液による処理時に、NaOHのアルカリ溶液の濃度pHを12.0に変えた以外は、実施例7−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(比較例7)
比較例7では、アルカリ溶液による処理を行わず、実施例7−1と同様の方法を用いて作製した部材Bを試料とした。
(実施例8)
まず、石英ガラス基板をエチルアルコールにより超音波洗浄した後、ガラス基板上に、真空蒸着法を用いてAu薄膜を形成し、ガラス基板上に膜厚100nmの透明電極を形成した部材Cを得た。
その後、溶液濃度pHを10.0としたNaOHのアルカリ溶液中に部材Cを浸漬させて、実施例5−1と同様の方法を用いて、透明電極上にイオンドープ表面を形成した試料を作製した。
(比較例8)
比較例8では、アルカリ溶液による処理を行わず、実施例8と同様の方法を用いて作製した部材Aを試料とした。
上述した実施例1〜実施例8及び比較例1〜比較例8により作製した各試料について、大気中にて光電子分光装置(理研計器(株)社製、AC−2)を用いてイオン化ポテンシャルを測定した。また、各試料の抵抗率を四端子法(JIS K7194)により実測した。
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4の各試料の測定結果を表1に示し、実施例5〜実施例8及び比較例8の各試料の測定結果を表2に示す。なお、酸溶液により処理した各実施例のイオン化ポテンシャルをIpとし、アルカリ溶液により処理した各実施例のイオン化ポテンシャルをIpとし、酸溶液又はアルカリ溶液による処理をしていない部材A、部材B及び部材Cのイオン化ポテンシャルをIpとした。
Figure 2006090838
Figure 2006090838
なお、比較例1から比較例6までは、実施例1の製造方法を用いて製造した部材Aを試料としているが、各比較例での試作日が異なるためイオン化ポテンシャルの値が異なる。これに対し、同一の実験系(例えば、実施例1−1〜実施例1−5及び比較例1)では同日に試作し、実施例と比較例とを比較している。同一の実験系において試作日が同日であるのは、他の実験系でも同様である。
表1に示すように、水素イオンをドープした実施例は、水素イオンをドープしていない比較例に比べてイオン化ポテンシャルの値が大きくなっていた。また、抵抗率も低く導電性が高くなる傾向を示していた。特に、同一の実験系である実施例1−1から実施例1−5までを比較すると、水素イオンを含む酸溶液のpHを小さくする程、イオン化ポテンシャルの値が大きくなる傾向を示しており、さらに抵抗率の値も低くなり導電率が高くなる傾向を示していた。他の実験系でも同様の傾向を示していることが判明した。
また、表2に示すように、水酸化物イオンをドープした実施例は、水酸化物イオンをドープしていない比較例に比べてイオン化ポテンシャルの値が小さくなっていた。特に、同一の実験系である実施例5−1〜実施例5−3を比較すると、アルカリ溶液のpHを高くする程、イオン化ポテンシャルの値が小さくなる傾向を示しており、他の実験系においても同様の傾向を示していることが判明した。
特願2005−51987号(出願日:2005年2月25日)の全内容はここに援用される。
以上、実施の形態及び実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
本発明の有機EL素子によれば、電極と有機発光層との間にイオンドープ表面を形成し、電極と有機発光層との接触界面での電位障壁を制御したため、低電圧駆動が可能となり、長寿命化を図ることができる。
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、素子構成が単純になると共に、製造プロセスも簡易であり、さらに低コスト化することができる。
本発明の有機EL素子を用いた物品によれば、低電圧駆動を可能とし、長寿命化を図ることができる。

Claims (18)

  1. 基板と、
    前記基板上に形成された第1の電極と、
    前記第1の電極上に、第1の電極と接触するように形成された有機発光層と、
    前記有機発光層上に形成された第2の電極と、を有し、
    前記第1の電極と前記有機発光層との接触界面の近傍に、ドーパントとして水素イオン又は水酸化物イオンをドープしたイオンドープ表面を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
  2. 前記水素イオンが前記接触界面の分子にドープされた場合、負に帯電した陰イオンが第1の電極表面に吸着されることで電気二重層が形成されており、
    前記水酸化物イオンが前記接触界面の分子にドープされた場合、水酸化物イオン濃度を上昇させることで、第1の電極のイオン化ポテンシャルが低下することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  3. 前記第1の電極は陽極であり、前記接触界面の近傍には水素イオンがドープされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  4. 前記水素イオンは、プロトン酸、ルイス酸及びこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種の水溶液を用いた酸処理によりドープされることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  5. 水素イオンは、前記水溶液の濃度pHを0.5〜6.5とした酸処理によりドープされることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  6. 水素イオンがドープされた前記第1の電極のイオン化ポテンシャルIpと、水素イオンがドープされていない前記第1の電極のイオン化ポテンシャルIpとの差Ip−Ipが0より大きいことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  7. 前記第1の電極は陰極であり、前記接触界面の近傍には水酸化物イオンがドープされていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  8. 水酸化物イオンは、NaOH、KOH、NH及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種の水溶液を用いたアルカリ処理によりドープされることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  9. 水酸化物イオンは、前記水溶液の濃度pHを7.5〜12.0としたアルカリ処理によりドープされることを特徴とする請求項7又は8に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  10. 水酸化物イオンがドープされた前記第1の電極のイオン化ポテンシャルIpと、水素イオンがドープされていない前記第1の電極のイオン化ポテンシャルIpとの差Ip−Ipが0より小さいことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  11. 前記第1の電極及び第2の電極の少なくとも一方は、可視光領域における平均光透過率が60%以上であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  12. 前記第1の電極及び第2の電極の少なくとも一方は、金属薄膜、酸化物薄膜又は有機材料薄膜のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  13. 前記第1の電極及び第2の電極の少なくとも一方は、導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料から形成されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  14. 前記基板は、可視光線領域において平均光透過率が80%以上であるガラス、セラミックス及び高分子樹脂の中から選択される一種であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  15. 前記高分子樹脂の面内の複屈折Δnが、0.1以下であることを特徴とする請求項14記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  16. 前記高分子樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルサルフォン及びこれらの誘導体の中から選択される一種であることを特徴とする請求項14又は15記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
  17. 基板上に第1の電極を形成する工程と、
    前記第1の電極上に、水素イオン又は水酸化物イオンを含む水溶液を付着させ、水素イオン又は水酸化物イオンを前記第1の電極の表面にドープする工程であって、
    前記水素イオン又は水酸化物イオンがドープされた第1の電極の表面に有機発光層を形成する工程と、
    前記有機発光層上に第2の電極を形成する工程と、を有し、
    前記水素イオンが前記接触界面の分子にドープされた場合、負に帯電した陰イオンが第1の電極表面に吸着されることで電気二重層が形成されており、
    前記水酸化物イオンが前記接触界面の分子にドープされた場合、水酸化物イオン濃度を上昇させることで、第1の電極のイオン化ポテンシャルが低下することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
  18. 水素イオンを含む酸溶液又は水酸化物イオンを含むアルカリ溶液に電極を浸漬させて、電極の表面に水素イオン若しくは水酸化物イオンをドープすることにより、前記電極表面のイオン化ポテンシャルを制御することを特徴とする表面処理方法。
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