本発明は、通信品質の評価に要する通信品質評価方法、該通信品質評価方法を適用した導出装置、該導出装置を用いた通信品質評価システム、及び前記導出装置を実現するためのコンピュータプログラムに関し、特にIP電話機等のリアルタイム系の通信の通信状況のシミュレートに用いる通信品質評価方法、導出装置、通信品質評価システム及びコンピュータプログラムに関する。
近年、IP網などの通信網を介して装置間で音声及び映像のデータの送受信を行うVoIP(Voice over Internet Protocol)、VoPN(Voice over Packet Network)、ストリーム配信等のリアルタイム系のアプリケーションの利用が増えてきている。リアルタイム系のアプリケーションを利用する際には、アプリケーション上で受信した音声及び映像のデータを再生する際の再生品質がIP網の状況により影響を受ける。そのため総務省が定めたガイドラインでは、IP電話サービスの提供業者が提供するサービスに対し一定の通信品質を保つことを定めている。
ところがIP網、公衆回線網等の複数の通信網で構成されたIP電話サービスを提供するVoIP網は、一般的にマルチベンダーの環境で構築されため、VoIP網の伝送品質の確保及び評価が困難である。そこでVoIP網での通信状況である通信網の特性をシミュレートして実際に端末装置間で通話することにより、通話を行う端末装置間、即ちエンド・ツー・エンドの通信品質を予測する評価方法が必要となる。
現在用いられている評価方法では、通信網におけるパケットのロス率、遅延等の通信網の特性を、平均値、最大値、最小値、標準偏差、又は分散などとして表現するため、通信網の特性をシミュレートする上での情報が十分ではない。特にVoIP通話の通信品質の評価に重要なパケット毎の遅延時間の変化、バースト性等の通信網特性の時間変動等の通信状況を正確にシミュレートすることができないという問題がある。
そこでパケットの遅延時間の変化、バースト性等の通信状況をシミュレートする方法が例えば特許文献1に提案されている。図17は、パケットの到着時刻の遅延を模式的に示す説明図である。図17は、パケットの通信状況を測定し、測定した結果を、期待する到着時刻と、実際の到着時刻との関係を示す説明図として模式的に示している。図17の上方は、各パケットに対して期待される到着時刻を左から右へ時間が経過する様に時系列に示しており、1〜5番目までの送出順序が付与されたパケットに対して送出間隔dでの到着が期待されていることを5個の長方形により示している。図17の下方は、実際に測定した各パケットの到着時刻を示している。図17に示す様に1番目に送出されたパケットは、遅延時間が0d、即ち期待された通りに到着しているが、2番目に送出されたパケットは3dの遅延時間が生じている。同様に3番目、4番目及び5番目に送出されたパケットは、夫々2d、1d及び1dの遅延時間が生じている。即ち図17に示したVoIP網では、遅延時間0d、1d、2d及び3dが1個、2個、1個及び1個であることが測定されたことより、遅延時間0d、1d、2d及び3dが20%、40%、20%及び20%で分布していると考えられる。
図18は、図17の測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験(シミュレーションテスト)を行った結果を模式的に示す説明図である。図18の上方は、パケットを送出する送出端末装置から送出すべき時刻を時系列で示しており、1〜5番目までの送出順序が付与されたパケットに対して送出間隔dでの送出が本来の送出時刻として設定されていることを5個の長方形により示している。図18の下方は、図17に示した測定結果に基づく遅延時間を付加してVoIP網を模した結果を示している。図18に示す様に1番目に送出されるパケットには、1dの遅延時間が付加され、2番目、3番目、4番目及び5番目に送出されるパケットには、夫々2d、3d、0d及び2dの遅延時間が付加されている。図18から明らかな様に遅延時間の分布をシミュレートすることはできているが、2番目のパケット及び3番目のパケット、並びに4番目のパケット及び5番目のパケットに送出時刻の逆転が生じており、実際の通信状況をシミュレートしているとは言い難い。
図19は、図17の測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験を行った結果を模式的に示す説明図である。図19の上方は、パケットを送出する送出端末装置から送出すべき時刻を時系列で示しており、1〜5番目までの送出順序が付与されたパケットに対して送出間隔dでの送出が本来の送出時刻として設定されていることを5個の長方形により示している。図19の下方は、図18に示した結果から送出時刻の逆転を回避すべく送出時刻を調整した結果を示している。即ちn番目のパケットの送出時刻より、(n+1)番目のパケットの送出時刻が早くなる場合、(n+1)番目のパケットは、n番目のパケットの直後に送出する様に調整する。図19に示す例では、2番目のパケットの送出時刻より早くなる3番目のパケットの送出時刻を調整し、4番目のパケットの送出時刻より早くなる5番目のパケットの送出時刻を調整している。このようにして送出時刻の逆転が生じることを回避する。しかしながら、最終的に観測される遅延時間は、1番目に送出されるパケットには、1dの遅延時間が付加され、2番目、3番目、4番目及び5番目に送出されるパケットには、夫々3d、2d、2d及び1dの遅延時間が付加されている。この結果は、図17の測定結果である遅延時間の分布とは異なる分布であり、この場合でも、実際の通信状況をシミュレートしているとは言い難い。
特許第2997607号公報
しかしながら通信状況をシミュレートする従来の方法では、図18に示す様に遅延時間の分布に基づいて送出時刻を決定すると、送出時刻の逆転が生じ、実際の通信状況と異なる状況が発生するという問題がある。また図19に示す様に送出時刻の逆転を回避すべく送出時刻を調整すると、遅延時間の分布が実際の通信状況とは異なる様になり、実際の通信状況を模していないことになるという問題がある。
さらに最も模擬試験が必要な通信状況とは、通信網でのパケットのロス率、遅延等の通信状況が最も劣悪となる状況であるが、従来の方法では、そのことについての考慮がなされていないという問題がある。
そして新たに開発した端末装置及び通信網を用いてVoIP網を構成した場合でも、汎用型の端末装置及び通信網を用いてVoIP網を構成する場合でも、模擬試験には同様の作業量が必要となるため、汎用型の端末装置及び通信網を用いる場合、模擬試験が非効率であるという問題がある。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、遅延時間を加味した送出時刻の算出及び調整を行うことにより、実際の通信網の特性を模した送出時刻の導出が可能な通信品質評価方法、該通信品質評価方法を適用した導出装置、該導出装置を用いた通信品質評価システム、及び前記導出装置を実現するためのコンピュータプログラムの提供を主たる目的とする。
さらに本発明では、異なる条件下で計測した通信状況の中で最も通信状況が劣悪である通信状況を特定してシミュレートすることにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能な通信品質評価方法等の提供を他の目的とする。
また本発明では、予め端末装置、通信網の特性等の通信条件と、通信品質の評価結果を対応付けて記録しておくことにより、汎用的な通信条件に対しては、効率的に通信品質の評価を行うことが可能な通信品質評価方法等の提供を更に他の目的とする。
第1発明に係る通信品質評価方法は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置を用い、通信品質の評価に要する処理を実行する通信品質評価方法において、前記導出装置は、予め記録されている送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法では、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出を行うことにより、任意の遅延時間の分布を再現することが可能である。
第2発明に係る通信品質評価方法は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置を用い、通信品質の評価に要する処理を実行する通信品質評価方法において、前記導出装置は、予め記録されている送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出し、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定し、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、送出順序が変化しない様に調整したパケットの送出時刻を導出することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法では、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出及び調整を行って通信品質の評価に用いる各パケットの送出時刻を導出することにより、本来の送出順序と異なる送出順序でパケットの送出時刻が決定されることが無く、また遅延時間の分布が模すべき分布となるので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。従って通信品質を正確に評価することが可能となる。
第3発明に係る通信品質評価方法は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置を用い、通信品質の評価に要する処理を実行する通信品質評価方法において、前記導出装置は、異なる条件下で計測した夫々の通信状況を読み取り、読み取った通信状況の中で、通信品質が最も劣悪な通信状況を特定し、特定した通信状況での、遅延時間の分布を記録することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法では、最も劣悪な通信状況を記録することにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能である。従って実用上問題となる通信品質を評価することが可能となる。
第4発明に係る通信品質評価方法は、順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置を用い、通信品質の評価に要する処理を実行する通信品質評価方法において、前記導出装置は、通信条件の入力を受け付け、予め記録されている、通信条件及び該通信条件に対応する通信品質の評価結果の関係から、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応する通信品質の評価結果を抽出することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法は、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
第5発明に係る導出装置は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置において、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースと、該遅延時間データベースに記録されている遅延時間の分布を読み取る手段と、読み取った遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換する手段と、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出する手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出を行うことにより、任意の遅延時間の分布を再現することが可能である。
第6発明に係る導出装置は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置において、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースと、該遅延時間データベースに記録されている遅延時間の分布を読み取る手段と、読み取った遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換する手段と、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出する手段と、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定する手段と、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、送出順序が判定しない様に調整したパケットの送出時刻を導出する導出手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、送出時刻の算出及び調整を行って通信品質の評価に用いる各パケットの送出時刻を導出することにより、本来の送出順序と異なる送出順序にパケットの送出時刻が決定されることが無く、また遅延時間の分布が模すべき分布となるので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
第7発明に係る導出装置は、第6発明において、前記所定の変換方法は、前記導出手段が導出した送出時刻に基づく遅延時間の分布を、遅延時間データベースに記録している遅延時間の分布に合致させるべく変換することを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、遅延時間データベースに記録している本来の遅延時間の分布に合致させることにより、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
第8発明に係る導出装置は、第6発明又は第7発明において、前記導出手段は、遅延時間を加味した送出時刻に基づく送出順序が、元の送出順序と異なるパケットの送出時刻を調整するように構成してあることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、送出順序の逆転が生じることなく、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
第9発明に係る導出装置は、第5発明乃至第8発明のいずれかにおいて、前記遅延時間データベースは、遅延時間の分布として、送出されたパケットの到着時の遅延時間及び該遅延時間の発生率を対応付けて記録してあり、前記所定の変換方法は、遅延時間の発生率を変換する変換方法であることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、遅延時間の分布を容易に表現することが可能である。
第10発明に係る導出装置は、第5発明乃至第9発明のいずれかにおいて、前記遅延時間データベースは、送出されたパケットの到着時の消失率を記録してあり、遅延時間データベースに記録されている消失率を読み取る手段と、読み取った消失率に基づいて、送出すべきパケットを破棄する手段とを更に備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、パケットの消失率を加味することにより、実際の通信状況を模すことが可能である。
第11発明に係る導出装置は、第5発明乃至第10発明のいずれかにおいて、異なる条件下で計測した夫々の通信状況を読み取る手段と、読み取った通信状況の中で、通信品質が最も劣悪な通信状況を特定する特定手段と、特定した通信状況での、送出されたパケットの遅延時間の分布を遅延時間データベースに記録する手段とを更に備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、最も劣悪な通信状況を記録することにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能である。
第12発明に係る導出装置は、第11発明において、前記異なる条件は、計測する時刻であり、前記特定手段は、通信品質を示すR値、パケットの消失率及び遅延状況の中の少なくとも一つに基づいて、最も劣悪な通信状況を特定するように構成してあることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、通信品質への影響が高い要素に基づいて時間毎の劣悪性を判定することにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能である。
第13発明に係る導出装置は、第5発明乃至第12発明のいずれかにおいて、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベースと、通信条件の入力を受け付ける手段と、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を評価結果データベースから抽出する手段とを更に備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
第14発明に係る導出装置は、第13発明において、前記通信条件は、通信に用いる装置の特性及び通信網の特性であることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、実際に用いられている装置及び通信網の特性に応じて、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
第15発明に係る導出装置は、順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置において、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベースと、通信条件の入力を受け付ける手段と、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を、評価結果データベースから通信状況として抽出する手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
第16発明に係る通信品質評価システムは、第5発明乃至第14発明のいずれかに記載の導出装置と、該導出装置と通信する通信端末装置とを備え、前記導出装置は、送出時刻に基づいてパケットを前記通信端末装置へ送出する手段を備えることを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価システムでは、導出装置から送出されるパケットを通信端末装置にて受信することにより、実際のVoIP網に適用した場合の状況をシミュレートすることができ、通信品質を評価することが可能である。
第17発明に係る通信品質評価システムは、第16発明において、前記パケットは、音声データを含むことを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価システムでは、音声データを用いることにより、IP電話機を通信端末装置として用いた場合の通信状況、特に音声の聞こえ方をシミュレートすることができ、通信品質を評価することが可能である。
第18発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースから、遅延時間の分布を読み取らせる手順と、コンピュータに、読み取った遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換させる手順と、コンピュータに、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出させる手順とを実行させることを特徴とする。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出を行うことにより、任意の遅延時間の分布を再現することが可能である。
第19発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースから、遅延時間の分布を読み取らせる手順と、コンピュータに、読み取った遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換させる手順と、コンピュータに、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出させる手順と、コンピュータに、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定させる手順と、コンピュータに、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、送出順序が変化しない様に調整したパケットの送出時刻を導出させる手順とを実行させることを特徴とする。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、通信用コンピュータにて実行することにより、コンピュータが導出装置として動作し、所定の変換方法にて遅延時間の分布を変換した上で、送出時刻の算出及び調整を行って通信品質の評価に用いる各パケットの送出時刻を導出することにより、本来の送出順序と異なる送出順序でパケットの送出時刻が決定されることが無く、また遅延時間の分布が模すべき分布となるので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
第20発明に係るコンピュータプログラムは、第19発明において、コンピュータに、異なる条件下で計測した夫々の通信状況を読み取らせる手順と、コンピュータに、読み取った通信状況の中で、通信品質が最も劣悪な通信状況を特定させる手順と、コンピュータに、特定した通信状況での、送出されたパケットの遅延時間の分布を遅延時間データベースに記録させる手順とを実行させることを特徴とする。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、最も劣悪な通信状況を記録することにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能である。従って実用上問題となる通信品質を評価することが可能となる。
第21発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、通信条件の入力を受け付けた場合に、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベースから、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を、通信状況として抽出させる手順を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、通信用コンピュータにて実行することにより、コンピュータが導出装置として動作し、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
本発明に係る通信品質評価方法、導出装置、通信品質評価システム及びコンピュータプログラムは、例えば実測により求めたパケットの到着時の遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出する。
この構成により、実際に計測した通信状況と同様のパケット到着の遅延時間の分布を再現することが可能となり、IP電話機をネットワークに接続した際の音声の再生状況等の確認を、実際の通信状況により近い状態で行うことが可能となる等、優れた効果を奏する。
また本発明に係る通信品質評価方法、導出装置、通信品質評価システム及びコンピュータプログラムは、例えば実測により求めたパケットの到着時の遅延時間の分布を所定の変換方法にて変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出し、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定し、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、遅延時間を加味した送出時刻を調整して、送出順序が変化しないように、遅延時間を加味した送出時刻に基づく送出順序が元の送出順序より後となる一のパケットより送出順序が後となる他のパケットの送出時刻を調整する。
この構成により、送出順序が逆転することが無いので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である等、優れた効果を奏する。特に遅延時間の分布を変換する変換方法は、遅延時間の調整により導出した送出時刻に基づく遅延時間の分布が、変換前の遅延時間の分布に合致するように変換する式であるので、実際の遅延時間の分布を再現することが可能であり、従ってVoIP通話の通信品質の評価に重要なパケット毎の遅延時間の変化、バースト性等の、通信網特性の時間変動等の通信状況を正確にシミュレートすることが可能である等、優れた効果を奏する。しかも導出した送出時刻に基づいて音声データをストリーミング通信等の通信方法により導出装置からIP電話機等の通信端末装置へ送出することにより、IP電話機等の実際の通信システムに適用した場合の通信状況を再現することができるので、平均オピニオンスコア等の被験者の体感による通信品質の評価にも適用することが可能となる等、優れた効果を奏する。
また本発明では、時間等の計測条件を変えて計測した複数の通信状況の中で、R値、パケットの消失率及び遅延状況等の通信品質が最も劣悪な通信状況を特定し、特定した通信状況での遅延時間の分布に基づいてパケットの送出時刻を導出する。
この構成により、実用上最も問題となる通信状況を再現し、通信品質を評価することが可能である等、優れた効果を奏する。
さらに本発明では、通信に用いる装置の特性、通信網の特性等の通信条件と、通信品質の評価結果とを予め対応付けて記録しておき、通信条件の入力を受け付けた場合に、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である等、優れた効果を奏する。
本発明の実施の形態1における通信品質評価システムを例示した概念図である。
本発明の実施の形態1における通信品質評価システムが備える各種装置の構成例を示すブロック図である。
本発明の実施の形態1における導出装置が備える遅延時間データベースの記録内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態1における導出装置が備える蓄積手段に蓄積されるパケットの記録内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態1における導出装置の遅延時間分布記録処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態1における通信品質評価システムの遅延時間分布記録処理を概念的に示す説明図である。
本発明の実施の形態1における導出装置の送出時刻導出処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態1における導出装置の遅延時間の分布の変換処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態1における導出装置のパケット送出処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態2における通信品質評価システムが備える導出装置の構成例を示すブロック図である。
本発明の実施の形態2における導出装置が備える評価結果データベースの記録内容を例示する概念図である。
本発明の実施の形態2における導出装置が備える評価結果データベースに記録されている通信端末装置の特性の内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態2における導出装置が備える評価結果データベースに記録されている通信網の特性の内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態2における導出装置1の通信品質評価処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにおける通信網の特性の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにおける通信網の特性の例を概念的に示す図表である。
パケットの到着時刻の遅延を模式的に示す説明図である。
測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験(シミュレーションテスト)を行った結果を模式的に示す説明図である。
測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験を行った結果を模式的に示す説明図である。
符号の説明
1 導出装置
2 通信端末装置
100 通信線
201,202 コンピュータプログラム
301,302 記録媒体
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。本発明の通信品質評価システムでは、先ずVoIP網等の既存の通信網のエンド・ツー・エンド、即ち端末装置間におけるパケットの遅延、消失率、揺らぎ等の通信状況である通信網の特性を、例えば本願出願人が出願した特願2004−188922に記載している通信特性測定方法にて測定する。そして測定した結果に基づいて既存の通信網又は新たに設計した通信網の通信状況を、例えばIP電話網に用いられる擬似網としてシミュレートする。そしてシミュレートしたIP電話機による通話を被験者が体感することにより、平均オピニオンスコア等の方法を用いて通話品質を評価する。なお、通話品質の評価は、既存の測定装置を用いるなどの方法もある。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における通信品質評価システムを例示した概念図である。図1中1は、通信用コンピュータを用いた本発明の導出装置であり、導出装置1は、本発明の通信品質評価方法を実施する場合に、評価すべき通信網上でのパケットの遅延を再現するパケットの送出時刻の導出、導出した送出時刻に基づくパケットの送出等の様々な処理を行う。導出装置1には、擬似網として用いられる通信線100,100を介して、IP電話機を用いた2台の通信端末装置2,2が接続されている。そして2台の通信端末装置2,2は、一方が送話側の通信端末装置2として用いられ、他方が受話側の通信端末装置2として用いられる。なお夫々の通信端末装置2を特に区別する必要がある場合、送話側の通信端末装置2を第1通信端末装置2aとし、受話側の通信端末装置2を第2通信端末装置2bとして区別する。
図2は、本発明の実施の形態1における通信品質評価システムが備える各種装置の構成例を示すブロック図である。導出装置1は、装置全体を制御するCPU等の制御手段11、本発明の実施の形態1における導出装置用のコンピュータプログラム201及びデータ等の各種情報を記録したCD−ROM等の記録媒体301から各種情報を読み取るCD−ROMドライブ等の補助記憶手段12、補助記憶手段12により読み取った各種情報を記録するハードディスク等の記録手段13を備えている。そして記録手段13から本発明のコンピュータプログラム201及びデータ等の各種情報を読み取り、情報を一時的に記憶するRAM等の記憶手段14に記憶させてコンピュータプログラム201に含まれる各種手順を制御手段11により実行することで、コンピュータは、本発明の導出装置1として動作する。さらに導出装置1は、第1通信端末装置2aと通信する第1通信手段15a、第2通信端末装置2bと通信する第2通信手段15b、及び受信したパケットを一時的に蓄積するバッファメモリ等の蓄積手段16、並びに蓄積手段16に蓄積したパケットを送出する時刻を示す時計手段17を備えている。なお記憶手段14の記憶領域の一部を蓄積手段16として用いてもよい。また記録手段13の記録領域の一部は、パケットの遅延時間の分布を記録する遅延時間データベース(遅延時間DB)13a等の各種データベースとして用いられる。なお記録手段13の記録領域の一部を遅延時間データベース13aとして用いるのではなく、導出装置1に接続する他の装置の記録領域の一部を遅延時間データベース13aとして用いてもよい。
通信端末装置2は、制御手段21、記録手段22、記憶手段23、通信手段24、デジタル信号として受信した音声データをアナログ信号に変換し、音声として出力する音声出力手段25、及び音声として入力されたアナログ信号をデジタル信号の音声データに変換する音声入力手段26を備えている。なお、通信端末装置2は、一般的なIP電話機の端末装置を用いることが可能である。またIP電話機能を備えた端末装置であればいかなる態様であっても良い。
図3は、本発明の実施の形態1における導出装置1が備える遅延時間データベース13aの記録内容の例を概念的に示す図表である。遅延時間データベース13aには、遅延時間の分布を、パケットの消失率(ロス率)、固定遅延、揺らぎ遅延等の項目及び項目に関するデータである設定値を示している。遅延時間データベース13aに記録している揺らぎ遅延の遅延時間とは、シミュレートすべきVoIP網を介して送出されたパケットについて、到着が期待される時刻と実際に到着した時刻との差を示す遅延時間である。以下、単に遅延時間と示す場合は、揺らぎ遅延の遅延時間を意味する。消失率とは、到着先に到着せずに消失するパケットの割合を百分率で示したものであり、図3に示す例では、3.1%となっている。固定遅延とは、揺らぎ遅延とは別に通信網の物理的な距離、装置数等の要因による一定の遅延である。なお揺らぎ遅延のみを考慮する場合、固定遅延に示す数値は無くても良い。揺らぎ遅延とは、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を、補助項目として示される分級された遅延時間及び該遅延時間の発生率を対応付けることにより示した値である。図3に示す例では、遅延時間を30ms毎に分級しており、0ms〜30msの揺らぎ遅延が発生する確率は、代表値である0msとして示した揺らぎ遅延に対応付けて記録しており、30〜60msの揺らぎ遅延が発生する確率は、代表値である30msとして示した揺らぎ遅延に対応付けて記録しており、60〜90msの揺らぎ遅延が発生する確率は、代表値である60msとして示した揺らぎ遅延に対応付けて記録している。なお遅延時間の発生率は、VoIP網を伝送中に消失したパケットを除く到着したパケット内での割合を百分率で示したものである。
図4は、本発明の実施の形態1における導出装置1が備える蓄積手段16に蓄積されるパケットの記録内容の例を概念的に示す図表である。蓄積手段16には、索引に対応付けて、各パケットの送出予定時刻及びパケットデータが記録されている。送出予定時刻とは、導出装置1が、後述する処理により導出したパケットの送出時刻である。パケットデータとは、各パケットのデータ部に示される情報であり、本発明では、音声を再現するための音声データ等の情報が含まれる。
次に本発明の実施の形態1における通信品質評価システムにて用いられる各種装置の処理について説明する。図5は、本発明の実施の形態1における導出装置1の遅延時間分布記録処理を示すフローチャートである。遅延時間分布記録処理とは、通信状況をシミュレートする処理の前処理として、遅延時間データベース13aに遅延時間の分布状況を示す各種データを記録する処理である。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、異なる条件下で計測した通信状況を、例えば記録手段13から読み取る(S101)。異なる条件とは、ここでは通信状況を計測した時間が異なることを示す。また記録手段13から読み取るのではなく、通信状況を計測した計測装置又は該計測装置にて計測された計測値を記録した記録媒体から読み取る様にしても良い。さらに導出装置1を用いて通信状況を計測する様にしても良い。
そして導出装置1は、制御手段11の制御により、読み取った条件毎の通信状況からR値、パケットの消失率及び遅延状況を含む通信品質を、条件毎に導出し(S102)、各条件での通信状況の中で、通信品質が最も劣悪である通信状況を特定し(S103)、特定した通信状況における遅延時間の分布を遅延時間データベース13aに記録する(S104)。R値とは、ITU−T G.107にて規定されるE−modelと呼ばれる音声通話の品質設計モデルに則った音声の再生品質の評価値である。遅延状況とは、ここでは揺らぎ遅延の分布を示す。またステップS102に示した条件毎での導出とは、計測値に基づく集計処理を行うことを示しているが、本発明はこれに限らず、通信状況を計測した計測装置にて集計を行い、集計した結果をステップS101にて読み取る様にしても良い。ステップS103に示した通信品質が最も劣悪である通信状況の特定は、下記の式1にて算出される通信品質指数が最大である通信状況を、通信品質が最も劣悪であると判定する。
通信品質指数=100/A+B+C×5 ……(式1)
但し、A:R値
B:パケットの消失率(%)
C:90ms以上の揺らぎ遅延の発生率(%)
なお通信品質を判定する式は、上記の式1に限らず、目的に応じて適宜設定することが望ましい。また必ずしもR値、消失率及び遅延状況を全て考慮する必要はなく、R値、消失率及び遅延状況の中のいずれか一つから最も劣悪な通信状況を特定する様にしても良い。
図6は、本発明の実施の形態1における通信品質評価システムの遅延時間分布記録処理を概念的に示す説明図である。図6(a)は、本発明の実施の形態1における遅延時間分布処理を概念的に示しており、10:00から5分毎の通信状況を計測して集計し、10:15〜10:20を最も劣悪である条件下の通信状況として特定し、導出装置1が備える遅延時間データベース13aに記録した状態を概念的に示している。なお図6(b)は、比較用として示した従来の遅延時間分布記録処理であり、全ての条件下、ここでは計測した全ての時間における平均的な通信状況に基づく遅延時間分布を記録することになる。実用上問題となるのは、最も劣悪な条件下でどの程度の通信品質を保つことができるかであるので、本発明の処理が優れていることは明らかである。なお通信状況を区分する条件としては、時間毎の計測に限らず、例えば通信経路毎の通信状況を計測し、最も劣悪な通信状況を特定する様にしても良い。
図7は、本発明の実施の形態1における導出装置1の送出時刻導出処理を示すフローチャートである。本発明の通信品質評価システムでは、第1通信端末装置2aから導出装置1へ音声データを含むパケットを送出し、導出装置1では、第1通信端末装置2aから受信したパケットを蓄積手段16に蓄積し、送出時刻の導出を行った上で、導出した送出時刻に基づいて蓄積手段16に蓄積したパケットを第2通信端末装置2bへ送出する。そして第2通信端末装置2bでは、受信したパケットに含まれる音声データに基づく音声を出力することにより、音声を聞いた被験者が通信品質を判定する。なお音声データを含むパケットは、VoIP通信に用いられる通信規約であるRTP(Realtime Transport Protocol)等の規定に基づいている。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、第1通信手段15aにて、音声データを含むRTPにて規定される通信規約に基づくパケット(以下、RTPパケットという)を受信する(S201)。
そして導出装置1は、制御手段11の制御により、受信したRTPパケットに含まれる音声データのフレーム長F(ms)を導出する(S202)。フレーム長Fは、RTPパケットのヘッダ情報として示されているCODEC種別及びペイロード長のバイト数から導出される。なお後述する送出時刻を導出する導出処理Gを複数個記録している場合、この時点でどの導出処理Gを実行するかが決定される。ここでは導出処理Gとして、「遅延時間D(ms)を付加したパケットの後に{ceil(D/F)−1}個のパケットを連続して送出する。但しceil()は切り上げ整数化の関数」という処理を実行する導出処理G1を用いるものとする。なお導出処理Gとしては、その目的に応じて適宜定義することが可能であり、例えば「遅延時間D(ms)を付加したパケットの後、所定時間(ms)待機後、{ceil(D/F)−1}個のパケットを連続して送出する。」という様な様々な処理を定義することが可能である。
そして導出装置1は、制御手段11の制御により、遅延時間データベース13aに記録されている遅延時間の分布として、揺らぎ遅延の分級幅W(ms)、遅延時間の分布{Xn}、及び消失率L(%)を読み取る(S203)。分級幅Wとは、揺らぎ遅延を分級した時間間隔を示し、図3に示す例では、分級幅W=30msとなる。遅延時間の分布{Xn}とは、遅延時間の代表値及び発生率の関係である。以下、{Xn}は、1×n行列であるXを示す。なお計測した通信網における通信状況を再現する場合、計測した通信状況における遅延時間の分布を記録している遅延時間データベース13aの記録内容を読み取って以降の処理にそのまま使用することになるが、新たに設計した通信網の通信状況をシミュレートする場合、計測した通信状況を示す様々な情報を適宜変更することとなる。
導出装置1は、制御手段11の制御により、遅延時間データベース13aから読み取った遅延時間の分布{Xn}を、フレーム長F、導出処理G及び分級幅Wをパラメータとして含む所定の変換方法にて、遅延時間の分布{Yn}に変換する変換処理を実行する(S204)。ステップS204に示す変換処理とは、導出処理G1を用いて導出した調整後の送出時刻による遅延時間の分布を、遅延時間データベース13aに記録されている変換前の遅延時間の分布{Xn}に合致させるべく、予め遅延時間の分布を変換する処理である。なお変換処理の詳細については後述する。
導出装置1は、制御手段11の制御により、導出処理G1を用いた処理として、0以上10000未満のいずれかの値をとる乱数R1を発生させ(S205)、発生させた乱数R1が100×パケットの消失率L(%)未満か否かを判定する(S206)。ステップS205〜S206の処理により、VoIP網を伝送中のパケットが、消失率L(%)の割合で消失する状況をシミュレートする。
ステップS206にて乱数R1が100×パケットの消失率L(%)以上であると判定した場合(S206:NO)、当該パケットは消失することなく到着したと判断し、導出装置1は、制御手段11の制御により、0以上10000未満のいずれかの値をとる乱数R2を発生させ(S207)、下記の式2を満足する最大のMを求めることで、分級された揺らぎ遅延のレベルをnとして導出する(S208)。変換された遅延時間の分布{Yn}は、遅延時間データベース13aに記録されている遅延時間の分布{Xn}を変換したものであるため、揺らぎ遅延は30ms間隔の分級幅Wにて分級されており、分級された各レベルは、遅延時間の発生率に対応付けられている。式2では、分級された揺らぎ遅延の代表値が0msのレベルをレベル0とし、乱数R2に基づく発生率に応じて、下記の条件式を満たす揺らぎ遅延のレベルmの中で、最小のmである遅延のレベルMを導出する。
導出装置1では、制御手段11の制御により、当該パケットを受信した時刻を、本来パケットを送出すべき所定の送出時刻とし、所定の送出時刻から、分級された遅延時間のレベルn×分級幅W(ms)として示される遅延時間D後の時刻を、遅延時間を加味したパケットの送出時刻Tdとして算出し(S209)、算出した送出時刻Tdを対応付けて、受信したパケットを蓄積手段16に記録する(S210)。ステップS210にて記録した状態を概念的に示したものが図4である。算出した送出時刻Tdを、送出予定時刻とし、送出予定時刻に対応付けてパケットのパケットデータが記録される。
そして導出装置1では、制御手段11の制御により、第1通信手段15aにて、次に送出されたRTPパケットを受信する(S211)。なおステップS206にて乱数R1が100×パケットの消失率L(%)未満であると判定した場合(S206:YES)、当該パケットは消失したと判断し、導出装置1では、制御手段11の制御により、ステップS207〜S210にて示したパケットを蓄積する処理は行わず、受信したパケットを破棄し(S212)、ステップS211へ進み次のRTPパケットを受信する(S211)。
そして導出装置1では、ステップS209にて求めた遅延時間Dからフレーム長Fを減じた値を新たな遅延時間Dとし、新たな遅延時間Dが0より大きいか否かを判定する(S213)。即ちD=D−Fの演算を行い、D>0の真偽を判定する。ステップS213の判定処理では、ステップS209にて算出した遅延時刻を加味した送出時刻Tdにより、パケットの送出順序が変化するか否かを判定する。
ステップS213にて、新たな遅延時間Dが0より大きいと判定した場合(S213:YES)、遅延時間Dが大きいため、後から受信したパケットの送出時刻が、先に受信したパケットの送出時刻より先となり、パケットの送出順序が変化する可能性があると判断して、当該パケットを受信した時刻に基づく所定の送出時刻から、ステップS213にて求めた遅延時間D後の時刻を、遅延時間を加味したパケットの送出時刻Tdとして導出し(S214)、ステップS210へ進み、導出した送出時刻Tdを対応付けて、受信したパケットを蓄積手段16に記録する(S210)。即ちステップS213〜S214及びS210の処理により、遅延時間を加味した送出時刻Tdに基づく送出順序が元の送出順序より後となる可能性のある先に受信したパケットより送出順序が後となる後で受信したパケットの送出時刻を調整して、パケットの送出順序が変化しない様にする。
ステップS213にて、新たな遅延時間Dが0以下であると判定した場合(S213:NO)、パケットの送出順序が変化する可能性はないと判断して、ステップS205へ進み、以降の処理を繰り返す。このようにステップS201〜S204の処理は、最初に受信したパケットにのみ適用され、以降に受信したパケットは、導出処理G1を用いたステップS205〜S214の処理により、送出時刻Tdの導出又は破棄が行われる。なお導出処理Gが導出処理G1以外の処理である場合、ステップS205〜S214に示した処理は適宜変更される。例えばパケットの到着順序が変化する可能性の有る通信網をシミュレートする場合、送出順序の変化以外の条件に基づき送出時刻Tdを調整する導出処理Gを用いる様にしても良い。
図8は、本発明の実施の形態1における導出装置1の遅延時間の分布の変換処理を示すフローチャートである。導出装置1では、図7を用いて説明した送出時刻導出処理のステップS204において、遅延時間データベース13aから読み取った遅延時間の分布{Xn}を変換する変換処理を実行する。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、0≦i、j≦Nとなる変数i及び変数j、並びに変数i及び変数jを用いて示されるN行×N列の行列A={Aij}を定義し、Aの全ての要素Aij=0で初期化する(S301)。
そして導出装置1では、制御手段11の制御により、変数iに0を代入してi=0とし(S302)、行列Aの対角要素Aiiに1を加算してAii=Aii+1とし(S303)、分級幅W及びフレーム長Fを用いたceil(i・W/F)−1:(但しceil()は切り上げ整数化の関数)にて求められる変数Hを定義する(S304)。そして導出装置1では、制御手段11の制御により、変数jに1を代入してj=1とし(S305)、分級幅W及びフレーム長Fを用いたfloor((i・W−j・F)/W):(但しfloor()は切り捨て整数化の関数)にて求められる変数kを定義する(S306)。導出装置1では、制御手段11の制御により、行列Aの要素Akiに1を加算して、Aki=Aki+1とし(S307)、変数jに1を加算してj=j+1とし(S308)、変数j及び変数Hを比較する式j≦Hの真偽を判定する(S309)。
ステップS309において、変数jが変数Hより大きく式j≦Hが偽であると判定した場合(S309:NO)、導出装置1では、制御手段11の制御により、変数iに1を加算してi=i+1とし(S310)、変数i及び変数Nを比較する式i≦Nの真偽を判定する(S311)。なおステップS309にて式j≦Hが真であると判定した場合(S309:YES)、ステップS306へ戻り、以降の処理を繰り返す。
ステップS311において、式i≦Nが真であると判定した場合(S311:YES)、ステップS303へ戻り、以降の処理を繰り返す。ステップS311において、式i≦Nが偽であると判定した場合(S311:NO)、行列Aの算出が完了したと判断し、導出装置1では、制御手段11の制御により、行列Aの逆行列A−1を変換行列として導出する(S312)。
そして導出装置1では、制御手段11の制御により、導出した変換行列A−1を用いて遅延時間の分布を示す行列{Xn}を変換して行列{Yn}を導出する(S313)。具体的には、行列の積A−1XにてYを算出する。なお導出処理Gが導出処理G1以外の処理である場合、ステップS301〜S311に示した処理は適宜変更される。また予め導出処理G、フレーム長F及び分級幅W毎に変換行列A−1を導出しておき、導出処理G、フレーム長F及び分級幅Wに対応付けて記録しておく様にしても良い。
上記のステップS301〜S311にて示した処理は、以下の様に解釈することもできる。ステップS205以降に与える入力値である遅延時間の分布がn列の列行列{X1n}として示すことができる場合で、図7を用いて示した送出時刻導出処理におけるステップS205以降の処理をL=0の条件で実施したとき、導出される遅延時間の分布はn列の列行列{X2n}になるものとする。そしてX1=AX2の関係が成立する行列Aを求め、更に行列Aの逆行列A−1を求める。逆行列A−1については、X2=A−1X1の関係が成立するので、逆行列A−1を、行列{X1n}を行列{X2n}に変換する変換行列として考えることができる。逆行列A−1にて変換された行列は、図7を用いて示した送出時刻導出処理におけるステップS205以降の処理を実施したとき、逆行列A−1にて変換される前の行列となる。即ち遅延時間データベース13aに記録されている変換前の遅延時間の分布{Xn}を予め変換行列A−1を用いて変換後の遅延時間の分布{Yn}に変換しておくことにより、図7を用いて示した送出時刻導出処理におけるステップS205以降の処理を実施したとき、遅延時間の分布は、{Xn}となる。上記のステップS301〜S311にて示した処理は、この様な変換処理の前提となる行列Aを求める演算処理である。例えば、フレーム長F=20ms及び分級幅W=30msである際の、変換前の遅延時間の分布{Xn}の具体例が下記の式3である場合、変換後の遅延時間の分布{Yn}は、下記の式4となる。
図9は、本発明の実施の形態1における導出装置1のパケット送出処理を示すフローチャートである。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、1ms等の所定時間待機し(S401)、時計手段17が示す時刻Tを読み取り(S402)、読み取った時刻Tと、蓄積手段16に記録されているパケットの送出時刻Tdとを比較して、Td≦Tの関係にあるRTPパケットを蓄積手段16から読み取り(S403)、読み取ったRTPパケットを第2通信手段15bから第2通信端末装置2bへ送出し(S404)、ステップS401へ戻り、以降の処理を繰り返す。このようにして導出装置1は、導出した送出時刻Tdに基づいてRTPパケットを第2通信端末装置2bへ送出し、第2通信端末装置2bを操作する被験者は、受信したRTPパケットに基づき第2通信端末装置2bから出力される音声を試聴する。出力される音声の品質は、遅延時間データベース13aに記録された情報に基づく、RTPが通過する通信網の通信状況を再現した通信品質である。
前記実施の形態1では、導出装置が第1通信端末装置から受信したRTPパケットを第2通信端末装置へ送出する場合の送出時刻を導出する形態を示したが、本発明はこれに限らず、送出用のRTPパケット又は音声データを予め送出時刻に対応付けて導出装置に記録しておき、通信状況を再現する場合に対応付けて記録している送出時刻及び通信条件に基づいて送出時刻を導出し、導出した送出時刻に基づいて、記録しているRTPパケット又は音声データから生成したRTPパケットを受話側の通信端末装置へ送出する形態等、様々な形態に展開することが可能である。
さらに前記実施の形態1では、IP電話機として用いられるVoIP網の通信状況を導出し、再現して通信品質を評価する形態を示したが、本発明はこれに限らず、テレビジョン画像のストリーミング配信に関する通信品質の評価に用いる等、様々な形態に展開することが可能である。また、第1通信端末装置及び第2通信端末装置間の送信及び受信の方向が入れ替わっても良いし、双方向の通信を行っても良いことは自明である。なお、パケットの送出時刻が逆転するような導出処理を用いることも可能である。
実施の形態2.
実施の形態2は、通信条件が汎用的なものである場合に、通信状況を再現することなく、通信品質の評価を行えるようにした形態である。図10は、本発明の実施の形態2における通信品質評価システムが備える導出装置の構成例を示すブロック図である。導出装置1は、本発明の実施の形態2における導出装置用のコンピュータプログラム202及びデータ等の各種情報を記録した記録媒体302から各種情報を読み取る補助記憶手段12、記録手段13、記憶手段14、キーボード及びマウス等の入力手段18、並びにモニタ及びプリンタ等の出力手段19を備えている。なお記録手段13の記録領域の一部は、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベース(評価結果DB)13bとして用いられている。
図11は、本発明の実施の形態2における導出装置1が備える評価結果データベース13bの記録内容を例示する概念図である。評価結果データベース13bには、通信に用いる装置の特性及び通信網の特性を示す通信条件と、通信品質を数値化して示す評価結果とが対応付けて記録されている。装置の特性とは、RTPパケットを送出する側の通信端末装置の特性及びRTPパケットを受信する側の通信端末装置の特性である。通信網の特性とは、通信網の通信状況を示す特性である。評価結果データベース13bに記録されている通信条件及び通信品質は事前に行った品質評価テストにより求めたものである。
図12は、本発明の実施の形態2における導出装置1が備える評価結果データベース13bに記録されている通信端末装置の特性の内容の例を概念的に示す図表である。図12は、図11の通信端末装置の特性として「AAA」、「BBB」として表現した内容を更に詳細に記載したものである。図12に示す様に通信端末装置の特性として、通信端末装置の機種名、CODEC種別、バッファ長、PLC(Packet Loss Concealment)等の各種項目にデータが記録されている。なお図12に示した項目はあくまでも一つの例に過ぎず、必要に応じて様々な項目を設けることが可能である。
図13は、本発明の実施の形態2における導出装置1が備える評価結果データベース13bに記録されている通信網の特性の内容の例を概念的に示す図表である。図13は、図11の通信網の特性として「特性1」、「特性2」として表現した内容を更に詳細に記載したものである。図13に示す様に通信網の特性として、通信状況の計測開始時刻、計測時間、R値、消失率、固定遅延、及び揺らぎ遅延等の各種項目にデータが記録されている。なお図13に示した項目はあくまでも一つの例に過ぎず、必要に応じて様々な項目を設けることが可能である。
次に本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにて用いられる導出装置1の処理について説明する。図14は、本発明の実施の形態2における導出装置1の通信品質評価処理を示すフローチャートである。本発明の実施の形態2では、予め通信品質を評価する通信網の特性の計測又は想定を行い、使用すべき通信端末装置を決定し、導出装置1の操作者は、計測又は想定した通信網の特性並びに決定した通信端末装置の特性を導出装置1に入力する。なお入力の方法としては、入力手段18を用いた入力、記録媒体に記録した各種特性の補助記憶手段12による読み取り、接続している他の装置からの読み取り等、適宜選択することが可能である。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム202を実行する制御手段11の制御により、通信網の特性並びに送出側及び受信側の通信端末装置の特性、即ち通信条件の入力を受け付け(S501)、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を評価結果データベース13bから抽出し(S502)、抽出した通信品質の評価結果により示された出力手段19から出力する(S503)。このようにして出力された通信品質の評価結果は、想定した装置及び通信網にて構成されるVoIP網の通信状況に係る通信品質の評価結果とみなすことができる。
ステップS502において、受け付けた通信条件に合致する通信条件が評価結果データベース13bに記録されている場合は、その通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を抽出する。但し受け付けた通信条件に合致する通信条件が評価結果データベース13bに記録されていない場合、その通信条件に最も近似する通信条件を判定することになる。通信条件の一つである通信端末装置の特性は、特別に設計した装置を用いる場合を除き、合致する通信条件が評価結果データベース13bに既に記録されている可能性が高いため、通信条件の近似の判定は、通信網の特性を比較することにより行われる。
通信網の特性の比較は、受け付けた通信網の特性と、評価結果データベース13bに通信網の特性として各種項目に記録されているデータを所定の方法で比較することにより行われる。例えば下記の式5にて求められる評価値Vが最小となる通信網の特性が最も近似する通信網の特性であると判定する。
V=|Ka−Fna|+|Kb−Fnb|+|Kc−Fnc|+|Kd−Fnd| ……(式5)
但し、V:評価値
Ka:受け付けた通信条件における0msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fna:記録されている通信条件における0msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Kb:受け付けた通信条件における30msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fnb:記録されている通信条件における30msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Kc:受け付けた通信条件における60msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fnc:記録されている通信条件における60msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Kd:受け付けた通信条件における90msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fnd:記録されている通信条件における90msの揺らぎ遅延(分布の割合)
図15及び図16は、本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにおける通信網の特性の例を概念的に示す図表である。図15は、受け付けた通信条件に係る通信網の特性を示しており、図16(a)、図16(b)及び図16(c)は、夫々評価結果データベース13bに記録されている特性1、特性2及び特性3を示している。図15及び図16に例示した通信網の特性を用いて評価値Vを算出した場合、特性1の評価値V1、特性2の評価値V2及び特性3の評価値V3は夫々以下の様になる。
V1=|61−95|+|14−3|+|7−2|+|8−0|=58
V2=|61−62|+|14−13|+|7−8|+|8−7|=4
V3=|61−50|+|14−30|+|7−10|+|8−10|=32
この場合の大小関係は、V2<V3<V1であるので、特性2が最も近似しているとして判定される。
前記実施の形態2では、評価値を算出して近似している通信網の特性を判定する形態を示したが本発明はこれに限らず、他の数学的手法、例えば揺らぎ遅延の分布を二次曲線にて近似し、近似度の高さで通信網の特性を判定する等、様々な形態に展開することが可能である。
本発明は、通信品質の評価に要する通信品質評価方法、該通信品質評価方法を適用した導出装置、該導出装置を用いた通信品質評価システム、及び前記導出装置を実現するためのコンピュータプログラムに関し、特にIP電話機等のリアルタイム系の通信の通信状況のシミュレートに用いる通信品質評価方法、導出装置、通信品質評価システム及びコンピュータプログラムに関する。
近年、IP網などの通信網を介して装置間で音声及び映像のデータの送受信を行うVoIP(Voice over Internet Protocol)、VoPN(Voice over Packet Network) 、ストリーム配信等のリアルタイム系のアプリケーションの利用が増えてきている。リアルタイム系のアプリケーションを利用する際には、アプリケーション上で受信した音声及び映像のデータを再生する際の再生品質がIP網の状況により影響を受ける。そのため総務省が定めたガイドラインでは、IP電話サービスの提供業者が提供するサービスに対し一定の通信品質を保つことを定めている。
ところがIP網、公衆回線網等の複数の通信網で構成されたIP電話サービスを提供するVoIP網は、一般的にマルチベンダーの環境で構築されため、VoIP網の伝送品質の確保及び評価が困難である。そこでVoIP網での通信状況である通信網の特性をシミュレートして実際に端末装置間で通話することにより、通話を行う端末装置間、即ちエンド・ツー・エンドの通信品質を予測する評価方法が必要となる。
現在用いられている評価方法では、通信網におけるパケットのロス率、遅延等の通信網の特性を、平均値、最大値、最小値、標準偏差、又は分散などとして表現するため、通信網の特性をシミュレートする上での情報が十分ではない。特にVoIP通話の通信品質の評価に重要なパケット毎の遅延時間の変化、バースト性等の通信網特性の時間変動等の通信状況を正確にシミュレートすることができないという問題がある。
そこでパケットの遅延時間の変化、バースト性等の通信状況をシミュレートする方法が例えば特許文献1に提案されている。図17は、パケットの到着時刻の遅延を模式的に示す説明図である。図17は、パケットの通信状況を測定し、測定した結果を、期待する到着時刻と、実際の到着時刻との関係を示す説明図として模式的に示している。図17の上方は、各パケットに対して期待される到着時刻を左から右へ時間が経過する様に時系列に示しており、1〜5番目までの送出順序が付与されたパケットに対して送出間隔dでの到着が期待されていることを5個の長方形により示している。図17の下方は、実際に測定した各パケットの到着時刻を示している。図17に示す様に1番目に送出されたパケットは、遅延時間が0d、即ち期待された通りに到着しているが、2番目に送出されたパケットは3dの遅延時間が生じている。同様に3番目、4番目及び5番目に送出されたパケットは、夫々2d、1d及び1dの遅延時間が生じている。即ち図17に示したVoIP網では、遅延時間0d、1d、2d及び3dが1個、2個、1個及び1個であることが測定されたことより、遅延時間0d、1d、2d及び3dが20%、40%、20%及び20%で分布していると考えられる。
図18は、図17の測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験(シミュレーションテスト)を行った結果を模式的に示す説明図である。図18の上方は、パケットを送出する送出端末装置から送出すべき時刻を時系列で示しており、1〜5番目までの送出順序が付与されたパケットに対して送出間隔dでの送出が本来の送出時刻として設定されていることを5個の長方形により示している。図18の下方は、図17に示した測定結果に基づく遅延時間を付加してVoIP網を模した結果を示している。図18に示す様に1番目に送出されるパケットには、1dの遅延時間が付加され、2番目、3番目、4番目及び5番目に送出されるパケットには、夫々2d、3d、0d及び2dの遅延時間が付加されている。図18から明らかな様に遅延時間の分布をシミュレートすることはできているが、2番目のパケット及び3番目のパケット、並びに4番目のパケット及び5番目のパケットに送出時刻の逆転が生じており、実際の通信状況をシミュレートしているとは言い難い。
図19は、図17の測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験を行った結果を模式的に示す説明図である。図19の上方は、パケットを送出する送出端末装置から送出すべき時刻を時系列で示しており、1〜5番目までの送出順序が付与されたパケットに対して送出間隔dでの送出が本来の送出時刻として設定されていることを5個の長方形により示している。図19の下方は、図18に示した結果から送出時刻の逆転を回避すべく送出時刻を調整した結果を示している。即ちn番目のパケットの送出時刻より、(n+1)番目のパケットの送出時刻が早くなる場合、(n+1)番目のパケットは、n番目のパケットの直後に送出する様に調整する。図19に示す例では、2番目のパケットの送出時刻より早くなる3番目のパケットの送出時刻を調整し、4番目のパケットの送出時刻より早くなる5番目のパケットの送出時刻を調整している。このようにして送出時刻の逆転が生じることを回避する。しかしながら、最終的に観測される遅延時間は、1番目に送出されるパケットには、1dの遅延時間が付加され、2番目、3番目、4番目及び5番目に送出されるパケットには、夫々3d、2d、2d及び1dの遅延時間が付加されている。この結果は、図17の測定結果である遅延時間の分布とは異なる分布であり、この場合でも、実際の通信状況をシミュレートしているとは言い難い。
特許第2997607号公報
しかしながら通信状況をシミュレートする従来の方法では、図18に示す様に遅延時間の分布に基づいて送出時刻を決定すると、送出時刻の逆転が生じ、実際の通信状況と異なる状況が発生するという問題がある。また図19に示す様に送出時刻の逆転を回避すべく送出時刻を調整すると、遅延時間の分布が実際の通信状況とは異なる様になり、実際の通信状況を模していないことになるという問題がある。
さらに最も模擬試験が必要な通信状況とは、通信網でのパケットのロス率、遅延等の通信状況が最も劣悪となる状況であるが、従来の方法では、そのことについての考慮がなされていないという問題がある。
そして新たに開発した端末装置及び通信網を用いてVoIP網を構成した場合でも、汎用型の端末装置及び通信網を用いてVoIP網を構成する場合でも、模擬試験には同様の作業量が必要となるため、汎用型の端末装置及び通信網を用いる場合、模擬試験が非効率であるという問題がある。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、遅延時間の分布を変換した上で、遅延時間を加味した送出時刻の算出及び調整を行うことにより、実際の通信網の特性を模した送出時刻の導出が可能な通信品質評価方法、該通信品質評価方法を適用した導出装置、該導出装置を用いた通信品質評価システム、及び前記導出装置を実現するためのコンピュータプログラムの提供を主たる目的とする。
また本発明では、予め端末装置、通信網の特性等の通信条件と、通信品質の評価結果を対応付けて記録しておくことにより、汎用的な通信条件に対しては、効率的に通信品質の評価を行うことが可能な通信品質評価方法等の提供を更に他の目的とする。
第1発明に係る通信品質評価方法は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出して、通信品質を評価する通信品質評価方法において、予め記録されている送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出し、算出したパケットの送出時刻に基づいて、通信品質を評価することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法では、遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出を行うことにより、任意の遅延時間の分布を再現することが可能である。
第2発明に係る通信品質評価方法は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出して、通信品質を評価する通信品質評価方法において、予め記録されている送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出し、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定し、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、送出順序が変化しない様に調整したパケットの送出時刻を導出し、導出したパケットの送出時刻に基づいて、通信品質を評価することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法では、遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出及び調整を行って通信品質の評価に用いる各パケットの送出時刻を導出することにより、本来の送出順序と異なる送出順序でパケットの送出時刻が決定されることが無く、また遅延時間の分布が模すべき分布となるので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。従って通信品質を正確に評価することが可能となる。
第3発明に係る通信品質評価方法は、順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出して、通信品質を評価する通信品質評価方法において、通信条件の入力を受け付け、予め記録されている、通信条件及び該通信条件に対応する通信品質の評価結果の関係から、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応する通信品質の評価結果を抽出することを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価方法は、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
第4発明に係る導出装置は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置において、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースと、該遅延時間データベースに記録されている遅延時間の分布を読み取る手段と、読み取った遅延時間の分布を変換する手段と、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出する手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出を行うことにより、任意の遅延時間の分布を再現することが可能である。
第5発明に係る導出装置は、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置において、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースと、該遅延時間データベースに記録されている遅延時間の分布を読み取る手段と、読み取った遅延時間の分布を変換する手段と、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出する手段と、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定する手段と、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、送出順序が変化しない様に調整したパケットの送出時刻を導出する導出手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、遅延時間の分布を変換した上で、送出時刻の算出及び調整を行って通信品質の評価に用いる各パケットの送出時刻を導出することにより、本来の送出順序と異なる送出順序にパケットの送出時刻が決定されることが無く、また遅延時間の分布が模すべき分布となるので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
第6発明に係る導出装置は、順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出する導出装置において、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベースと、通信条件の入力を受け付ける手段と、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を、評価結果データベースから通信状況として抽出する手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る導出装置では、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
第7発明に係る通信品質評価システムは、第4発明又は第5発明に記載の導出装置と、該導出装置と通信する通信端末装置とを備え、前記導出装置は、送出時刻に基づいてパケットを前記通信端末装置へ送出する手段を備えることを特徴とする。
本発明に係る通信品質評価システムでは、導出装置から送出されるパケットを通信端末装置にて受信することにより、実際のVoIP網に適用した場合の状況をシミュレートすることができ、通信品質を評価することが可能である。
第8発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースから、遅延時間の分布を読み取らせる手順と、コンピュータに、読み取った遅延時間の分布を変換させる手順と、コンピュータに、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出させる手順とを実行させることを特徴とする。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、遅延時間の分布を変換した上で、パケットの送出時刻の算出を行うことにより、任意の遅延時間の分布を再現することが可能である。
第9発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、所定の送出時刻で順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を記録する遅延時間データベースから、遅延時間の分布を読み取らせる手順と、コンピュータに、読み取った遅延時間の分布を変換させる手順と、コンピュータに、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出させる手順と、コンピュータに、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定させる手順と、コンピュータに、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、送出順序が変化しない様に調整したパケットの送出時刻を導出させる手順とを実行させることを特徴とする。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、通信用コンピュータにて実行することにより、コンピュータが導出装置として動作し、遅延時間の分布を変換した上で、送出時刻の算出及び調整を行って通信品質の評価に用いる各パケットの送出時刻を導出することにより、本来の送出順序と異なる送出順序でパケットの送出時刻が決定されることが無く、また遅延時間の分布が模すべき分布となるので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
第10発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、順次送出すべき複数のパケットの通信状況を導出させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、通信条件の入力を受け付けた場合に、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベースから、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を、通信状況として抽出させる手順を実行させることを特徴とする。
本発明に係るコンピュータプログラムでは、通信用コンピュータにて実行することにより、コンピュータが導出装置として動作し、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
本発明に係る通信品質評価方法、導出装置、通信品質評価システム 及びコンピュータプログラムは、例えば実測により求めたパケットの到着時の遅延時間の分布を変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出する。
この構成により、実際に計測した通信状況と同様のパケット到着の遅延時間の分布を再現することが可能となり、IP電話機をネットワークに接続した際の音声の再生状況等の確認を、実際の通信状況により近い状態で行うことが可能となる等、優れた効果を奏する。
また本発明に係る通信品質評価方法、導出装置、通信品質評価システム及びコンピュータプログラムは、例えば実測により求めたパケットの到着時の遅延時間の分布を変換し、変換した遅延時間の分布及び所定の送出時刻に基づいて、遅延時間を加味したパケットの送出時刻を算出し、算出した遅延時間を加味した送出時刻により、パケットの送出順序が変化するか否かを判定し、パケットの送出順序が変化すると判定した場合、遅延時間を加味した送出時刻を調整して、送出順序が変化しないように、遅延時間を加味した送出時刻に基づく送出順序が元の送出順序より後となる一のパケットより送出順序が後となる他のパケットの送出時刻を調整する。
この構成により、送出順序が逆転することが無いので、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である等、優れた効果を奏する。しかも導出した送出時刻に基づいてパケットをストリーミング通信等の通信方法により導出装置からIP電話機等の通信端末装置へ送出することにより、IP電話機等の実際の通信システムに適用した場合の通信状況を再現することができるので、平均オピニオンスコア等の被験者の体感による通信品質の評価にも適用することが可能となる等、優れた効果を奏する。
さらに本発明では、通信に用いる装置の特性、通信網の特性等の通信条件と、通信品質の評価結果とを予め対応付けて記録しておき、通信条件の入力を受け付けた場合に、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である等、優れた効果を奏する。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。本発明の通信品質評価システムでは、先ずVoIP網等の既存の通信網のエンド・ツー・エンド、即ち端末装置間におけるパケットの遅延、消失率、揺らぎ等の通信状況である通信網の特性を、例えば本願出願人が出願した特願2004−188922に記載している通信特性測定方法にて測定する。そして測定した結果に基づいて既存の通信網又は新たに設計した通信網の通信状況を、例えばIP電話網に用いられる擬似網としてシミュレートする。そしてシミュレートしたIP電話機による通話を被験者が体感することにより、平均オピニオンスコア等の方法を用いて通話品質を評価する。なお、通話品質の評価は、既存の測定装置を用いるなどの方法もある。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における通信品質評価システムを例示した概念図である。図1中1は、通信用コンピュータを用いた本発明の導出装置であり、導出装置1は、本発明の通信品質評価方法を実施する場合に、評価すべき通信網上でのパケットの遅延を再現するパケットの送出時刻の導出、導出した送出時刻に基づくパケットの送出等の様々な処理を行う。導出装置1には、擬似網として用いられる通信線100,100を介して、IP電話機を用いた2台の通信端末装置2,2が接続されている。そして2台の通信端末装置2,2は、一方が送話側の通信端末装置2として用いられ、他方が受話側の通信端末装置2として用いられる。なお夫々の通信端末装置2を特に区別する必要がある場合、送話側の通信端末装置2を第1通信端末装置2aとし、受話側の通信端末装置2を第2通信端末装置2bとして区別する。
図2は、本発明の実施の形態1における通信品質評価システムが備える各種装置の構成例を示すブロック図である。導出装置1は、装置全体を制御するCPU等の制御手段11、本発明の実施の形態1における導出装置用のコンピュータプログラム201及びデータ等の各種情報を記録したCD−ROM等の記録媒体301から各種情報を読み取るCD−ROMドライブ等の補助記憶手段12、補助記憶手段12により読み取った各種情報を記録するハードディスク等の記録手段13を備えている。そして記録手段13から本発明のコンピュータプログラム201及びデータ等の各種情報を読み取り、情報を一時的に記憶するRAM等の記憶手段14に記憶させてコンピュータプログラム201に含まれる各種手順を制御手段11により実行することで、コンピュータは、本発明の導出装置1として動作する。さらに導出装置1は、第1通信端末装置2aと通信する第1通信手段15a、第2通信端末装置2bと通信する第2通信手段15b、及び受信したパケットを一時的に蓄積するバッファメモリ等の蓄積手段16、並びに蓄積手段16に蓄積したパケットを送出する時刻を示す時計手段17を備えている。なお記憶手段14の記憶領域の一部を蓄積手段16として用いてもよい。また記録手段13の記録領域の一部は、パケットの遅延時間の分布を記録する遅延時間データベース(遅延時間DB)13a等の各種データベースとして用いられる。なお記録手段13の記録領域の一部を遅延時間データベース13aとして用いるのではなく、導出装置1に接続する他の装置の記録領域の一部を遅延時間データベース13aとして用いてもよい。
通信端末装置2は、制御手段21、記録手段22、記憶手段23、通信手段24、デジタル信号として受信した音声データをアナログ信号に変換し、音声として出力する音声出力手段25、及び音声として入力されたアナログ信号をデジタル信号の音声データに変換する音声入力手段26を備えている。なお、通信端末装置2は、一般的なIP電話機の端末装置を用いることが可能である。またIP電話機能を備えた端末装置であればいかなる態様であっても良い。
図3は、本発明の実施の形態1における導出装置1が備える遅延時間データベース13aの記録内容の例を概念的に示す図表である。遅延時間データベース13aには、遅延時間の分布を、パケットの消失率(ロス率)、固定遅延、揺らぎ遅延等の項目及び項目に関するデータである設定値を示している。遅延時間データベース13aに記録している揺らぎ遅延の遅延時間とは、シミュレートすべきVoIP網を介して送出されたパケットについて、到着が期待される時刻と実際に到着した時刻との差を示す遅延時間である。以下、単に遅延時間と示す場合は、揺らぎ遅延の遅延時間を意味する。消失率とは、到着先に到着せずに消失するパケットの割合を百分率で示したものであり、図3に示す例では、3.1%となっている。固定遅延とは、揺らぎ遅延とは別に通信網の物理的な距離、装置数等の要因による一定の遅延である。なお揺らぎ遅延のみを考慮する場合、固定遅延に示す数値は無くても良い。揺らぎ遅延とは、送出されたパケットの到着時の遅延時間の分布を、補助項目として示される分級された遅延時間及び該遅延時間の発生率を対応付けることにより示した値である。図3に示す例では、遅延時間を30ms毎に分級しており、0ms〜30msの揺らぎ遅延が発生する確率は、代表値である0msとして示した揺らぎ遅延に対応付けて記録しており、30〜60msの揺らぎ遅延が発生する確率は、代表値である30msとして示した揺らぎ遅延に対応付けて記録しており、60〜90msの揺らぎ遅延が発生する確率は、代表値である60msとして示した揺らぎ遅延に対応付けて記録している。なお遅延時間の発生率は、VoIP網を伝送中に消失したパケットを除く到着したパケット内での割合を百分率で示したものである。
図4は、本発明の実施の形態1における導出装置1が備える蓄積手段16に蓄積されるパケットの記録内容の例を概念的に示す図表である。蓄積手段16には、索引に対応付けて、各パケットの送出予定時刻及びパケットデータが記録されている。送出予定時刻とは、導出装置1が、後述する処理により導出したパケットの送出時刻である。パケットデータとは、各パケットのデータ部に示される情報であり、本発明では、音声を再現するための音声データ等の情報が含まれる。
次に本発明の実施の形態1における通信品質評価システムにて用いられる各種装置の処理について説明する。図5は、本発明の実施の形態1における導出装置1の遅延時間分布記録処理を示すフローチャートである。遅延時間分布記録処理とは、通信状況をシミュレートする処理の前処理として、遅延時間データベース13aに遅延時間の分布状況を示す各種データを記録する処理である。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、異なる条件下で計測した通信状況を、例えば記録手段13から読み取る(S101)。異なる条件とは、ここでは通信状況を計測した時間が異なることを示す。また記録手段13から読み取るのではなく、通信状況を計測した計測装置又は該計測装置にて計測された計測値を記録した記録媒体から読み取る様にしても良い。さらに導出装置1を用いて通信状況を計測する様にしても良い。
そして導出装置1は、制御手段11の制御により、読み取った条件毎の通信状況からR値、パケットの消失率及び遅延状況を含む通信品質を、条件毎に導出し(S102)、各条件での通信状況の中で、通信品質が最も劣悪である通信状況を特定し(S103)、特定した通信状況における遅延時間の分布を遅延時間データベース13aに記録する(S104)。R値とは、ITU−T G.107にて規定されるE−modelと呼ばれる音声通話の品質設計モデルに則った音声の再生品質の評価値である。遅延状況とは、ここでは揺らぎ遅延の分布を示す。またステップS102に示した条件毎での導出とは、計測値に基づく集計処理を行うことを示しているが、本発明はこれに限らず、通信状況を計測した計測装置にて集計を行い、集計した結果をステップS101にて読み取る様にしても良い。ステップS103に示した通信品質が最も劣悪である通信状況の特定は、下記の式1にて算出される通信品質指数が最大である通信状況を、通信品質が最も劣悪であると判定する。
通信品質指数=100/A+B+C×5 ……(式1)
但し、A:R値
B:パケットの消失率(%)
C:90ms以上の揺らぎ遅延の発生率(%)
なお通信品質を判定する式は、上記の式1に限らず、目的に応じて適宜設定することが望ましい。また必ずしもR値、消失率及び遅延状況を全て考慮する必要はなく、R値、消失率及び遅延状況の中のいずれか一つから最も劣悪な通信状況を特定する様にしても良い。
図6は、本発明の実施の形態1における通信品質評価システムの遅延時間分布記録処理を概念的に示す説明図である。図6(a)は、本発明の実施の形態1における遅延時間分布処理を概念的に示しており、10:00から5分毎の通信状況を計測して集計し、10:15〜10:20を最も劣悪である条件下の通信状況として特定し、導出装置1が備える遅延時間データベース13aに記録した状態を概念的に示している。なお図6(b)は、比較用として示した従来の遅延時間分布記録処理であり、全ての条件下、ここでは計測した全ての時間における平均的な通信状況に基づく遅延時間分布を記録することになる。実用上問題となるのは、最も劣悪な条件下でどの程度の通信品質を保つことができるかであるので、本発明の処理が優れていることは明らかである。なお通信状況を区分する条件としては、時間毎の計測に限らず、例えば通信経路毎の通信状況を計測し、最も劣悪な通信状況を特定する様にしても良い。
図7は、本発明の実施の形態1における導出装置1の送出時刻導出処理を示すフローチャートである。本発明の通信品質評価システムでは、第1通信端末装置2aから導出装置1へ音声データを含むパケットを送出し、導出装置1では、第1通信端末装置2aから受信したパケットを蓄積手段16に蓄積し、送出時刻の導出を行った上で、導出した送出時刻に基づいて蓄積手段16に蓄積したパケットを第2通信端末装置2bへ送出する。そして第2通信端末装置2bでは、受信したパケットに含まれる音声データに基づく音声を出力することにより、音声を聞いた被験者が通信品質を判定する。なお音声データを含むパケットは、VoIP通信に用いられる通信規約であるRTP(Realtime Transport Protocol) 等の規定に基づいている。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、第1通信手段15aにて、音声データを含むRTPにて規定される通信規約に基づくパケット(以下、RTPパケットという)を受信する(S201)。
そして導出装置1は、制御手段11の制御により、受信したRTPパケットに含まれる音声データのフレーム長F(ms)を導出する(S202)。フレーム長Fは、RTPパケットのヘッダ情報として示されているCODEC種別及びペイロード長のバイト数から導出される。なお後述する送出時刻を導出する導出処理Gを複数個記録している場合、この時点でどの導出処理Gを実行するかが決定される。ここでは導出処理Gとして、「遅延時間D(ms)を付加したパケットの後に{ceil(D/F)−1}個のパケットを連続して送出する。但しceil()は切り上げ整数化の関数」という処理を実行する導出処理G1を用いるものとする。なお導出処理Gとしては、その目的に応じて適宜定義することが可能であり、例えば「遅延時間D(ms)を付加したパケットの後、所定時間(ms)待機後、{ceil(D/F)−1}個のパケットを連続して送出する。」という様な様々な処理を定義することが可能である。
そして導出装置1は、制御手段11の制御により、遅延時間データベース13aに記録されている遅延時間の分布として、揺らぎ遅延の分級幅W(ms)、遅延時間の分布{Xn}、及び消失率L(%)を読み取る(S203)。分級幅Wとは、揺らぎ遅延を分級した時間間隔を示し、図3に示す例では、分級幅W=30msとなる。遅延時間の分布{Xn}とは、遅延時間の代表値及び発生率の関係である。以下、{Xn}は、1×n行列であるXを示す。なお計測した通信網における通信状況を再現する場合、計測した通信状況における遅延時間の分布を記録している遅延時間データベース13aの記録内容を読み取って以降の処理にそのまま使用することになるが、新たに設計した通信網の通信状況をシミュレートする場合、計測した通信状況を示す様々な情報を適宜変更することとなる。
導出装置1は、制御手段11の制御により、遅延時間データベース13aから読み取った遅延時間の分布{Xn}を、フレーム長F、導出処理G及び分級幅Wをパラメータとして含む所定の変換方法にて、遅延時間の分布{Yn}に変換する変換処理を実行する(S204)。ステップS204に示す変換処理とは、導出処理G1を用いて導出した調整後の送出時刻による遅延時間の分布を、遅延時間データベース13aに記録されている変換前の遅延時間の分布{Xn}に合致させるべく、予め遅延時間の分布を変換する処理である。なお変換処理の詳細については後述する。
導出装置1は、制御手段11の制御により、導出処理G1を用いた処理として、0以上10000未満のいずれかの値をとる乱数R1を発生させ(S205)、発生させた乱数R1が100×パケットの消失率L(%)未満か否かを判定する(S206)。ステップS205〜S206の処理により、VoIP網を伝送中のパケットが、消失率L(%)の割合で消失する状況をシミュレートする。
ステップS206にて乱数R1が100×パケットの消失率L(%)以上であると判定した場合(S206:NO)、当該パケットは消失することなく到着したと判断し、導出装置1は、制御手段11の制御により、0以上10000未満のいずれかの値をとる乱数R2を発生させ(S207)、下記の式2を満足するMを求めることで、分級された揺らぎ遅延のレベルをnとして導出する(S208)。変換された遅延時間の分布{Yn}は、遅延時間データベース13aに記録されている遅延時間の分布{Xn}を変換したものであるため、揺らぎ遅延は30ms間隔の分級幅Wにて分級されており、分級された各レベルは、遅延時間の発生率に対応付けられている。式2では、分級された揺らぎ遅延の代表値が0msのレベルをレベル0とし、乱数R2に基づく発生率に応じて、下記の条件式を満たす揺らぎ遅延のレベルmの中で、最小のmである遅延のレベルMを導出する。
導出装置1では、制御手段11の制御により、当該パケットを受信した時刻を、本来パケットを送出すべき所定の送出時刻とし、所定の送出時刻から、分級された遅延時間のレベルn×分級幅W(ms)として示される遅延時間D後の時刻を、遅延時間を加味したパケットの送出時刻Tdとして算出し(S209)、算出した送出時刻Tdを対応付けて、受信したパケットを蓄積手段16に記録する(S210)。ステップS210にて記録した状態を概念的に示したものが図4である。算出した送出時刻Tdを、送出予定時刻とし、送出予定時刻に対応付けてパケットのパケットデータが記録される。
そして導出装置1では、制御手段11の制御により、第1通信手段15aにて、次に送出されたRTPパケットを受信する(S211)。なおステップS206にて乱数R1が100×パケットの消失率L(%)未満であると判定した場合(S206:YES)、当該パケットは消失したと判断し、導出装置1では、制御手段11の制御により、ステップS207〜S210にて示したパケットを蓄積する処理は行わず、受信したパケットを破棄し(S212)、ステップS211へ進み次のRTPパケットを受信する(S211)。
そして導出装置1では、ステップS209にて求めた遅延時間Dからフレーム長Fを減じた値を新たな遅延時間Dとし、新たな遅延時間Dが0より大きいか否かを判定する(S213)。即ちD=D−Fの演算を行い、D>0の真偽を判定する。ステップS213の判定処理では、ステップS209にて算出した遅延時刻を加味した送出時刻Tdにより、パケットの送出順序が変化するか否かを判定する。
ステップS213にて、新たな遅延時間Dが0より大きいと判定した場合(S213:YES)、遅延時間Dが大きいため、後から受信したパケットの送出時刻が、先に受信したパケットの送出時刻より先となり、パケットの送出順序が変化する可能性があると判断して、当該パケットを受信した時刻に基づく所定の送出時刻から、ステップS213にて求めた遅延時間D後の時刻を、遅延時間を加味したパケットの送出時刻Tdとして導出し(S214)、ステップS210へ進み、導出した送出時刻Tdを対応付けて、受信したパケットを蓄積手段16に記録する(S210)。即ちステップS213〜S214及びS210の処理により、遅延時間を加味した送出時刻Tdに基づく送出順序が元の送出順序より後となる可能性のある先に受信したパケットより送出順序が後となる後で受信したパケットの送出時刻を調整して、パケットの送出順序が変化しない様にする。
ステップS213にて、新たな遅延時間Dが0以下であると判定した場合(S213:NO)、パケットの送出順序が変化する可能性はないと判断して、ステップS205へ進み、以降の処理を繰り返す。このようにステップS201〜S204の処理は、最初に受信したパケットにのみ適用され、以降に受信したパケットは、導出処理G1を用いたステップS205〜S214の処理により、送出時刻Tdの導出又は破棄が行われる。なお導出処理Gが導出処理G1以外の処理である場合、ステップS205〜S214に示した処理は適宜変更される。例えばパケットの到着順序が変化する可能性の有る通信網をシミュレートする場合、送出順序の変化以外の条件に基づき送出時刻Tdを調整する導出処理Gを用いる様にしても良い。
図8は、本発明の実施の形態1における導出装置1の遅延時間の分布の変換処理を示すフローチャートである。導出装置1では、図7を用いて説明した送出時刻導出処理のステップS204において、遅延時間データベース13aから読み取った遅延時間の分布{Xn}を変換する変換処理を実行する。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、0≦i、j≦Nとなる変数i及び変数j、並びに変数i及び変数jを用いて示されるN行×N列の行列A={Aij}を定義し、Aの全ての要素Aij=0で初期化する(S301)。
そして導出装置1では、制御手段11の制御により、変数iに0を代入してi=0とし(S302)、行列Aの対角要素Aiiに1を加算してAii=Aii+1とし(S303)、分級幅W及びフレーム長Fを用いたceil(i・W/F)−1:(但しceil()は切り上げ整数化の関数)にて求められる変数Hを定義する(S304)。そして導出装置1では、制御手段11の制御により、変数jに1を代入してj=1とし(S305)、分級幅W及びフレーム長Fを用いたfloor((i・W−j・F)/W):(但しfloor()は切り捨て整数化の関数)にて求められる変数kを定義する(S306)。導出装置1では、制御手段11の制御により、行列Aの要素Akiに1を加算して、Aki=Aki+1とし(S307)、変数jに1を加算してj=j+1とし(S308)、変数j及び変数Hを比較する式j≦Hの真偽を判定する(S309)。
ステップS309において、変数jが変数Hより大きく式j≦Hが偽であると判定した場合(S309:NO)、導出装置1では、制御手段11の制御により、変数iに1を加算してi=i+1とし(S310)、変数i及び変数Nを比較する式i≦Nの真偽を判定する(S311)。なおステップS309にて式j≦Hが真であると判定した場合(S309:YES)、ステップS306へ戻り、以降の処理を繰り返す。
ステップS311において、式i≦Nが真であると判定した場合(S311:YES)、ステップS303へ戻り、以降の処理を繰り返す。ステップS311において、式i≦Nが偽であると判定した場合(S311:NO)、行列Aの算出が完了したと判断し、導出装置1では、制御手段11の制御により、行列Aの逆行列A-1を変換行列として導出する(S312)。
そして導出装置1では、制御手段11の制御により、導出した変換行列A-1を用いて遅延時間の分布を示す行列{Xn}を変換して行列{Yn}を導出する(S313)。具体的には、行列の積A-1XにてYを算出する。なお導出処理Gが導出処理G1以外の処理である場合、ステップS301〜S311に示した処理は適宜変更される。また予め導出処理G、フレーム長F及び分級幅W毎に変換行列A-1を導出しておき、導出処理G、フレーム長F及び分級幅Wに対応付けて記録しておく様にしても良い。
上記のステップS301〜S311にて示した処理は、以下の様に解釈することもできる。ステップS205以降に与える入力値である遅延時間の分布がn列の列行列{X1n}として示すことができる場合で、図7を用いて示した送出時刻導出処理におけるステップS205以降の処理をL=0の条件で実施したとき、導出される遅延時間の分布はn列の列行列{X2n}になるものとする。そしてX1=AX2の関係が成立する行列Aを求め、更に行列Aの逆行列A-1を求める。逆行列A-1については、X2=A-1X1の関係が成立するので、逆行列A-1を、行列{X1n}を行列{X2n}に変換する変換行列として考えることができる。逆行列A-1にて変換された行列は、図7を用いて示した送出時刻導出処理におけるステップS205以降の処理を実施したとき、逆行列A-1にて変換される前の行列となる。即ち遅延時間データベース13aに記録されている変換前の遅延時間の分布{Xn}を予め変換行列A-1を用いて変換後の遅延時間の分布{Yn}に変換しておくことにより、図7を用いて示した送出時刻導出処理におけるステップS205以降の処理を実施したとき、遅延時間の分布は、{Xn}となる。上記のステップS301〜S311にて示した処理は、この様な変換処理の前提となる行列Aを求める演算処理である。例えば、フレーム長F=20ms及び分級幅W=30msである際の、変換前の遅延時間の分布{Xn}の具体例が下記の式3である場合、変換後の遅延時間の分布{Yn}は、下記の式4となる。
図9は、本発明の実施の形態1における導出装置1のパケット送出処理を示すフローチャートである。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム201を実行する制御手段11の制御により、1ms等の所定時間待機し(S401)、時計手段17が示す時刻Tを読み取り(S402)、読み取った時刻Tと、蓄積手段16に記録されているパケットの送出時刻Tdとを比較して、Td≦Tの関係にあるRTPパケットを蓄積手段16から読み取り(S403)、読み取ったRTPパケットを第2通信手段15bから第2通信端末装置2bへ送出し(S404)、ステップS401へ戻り、以降の処理を繰り返す。このようにして導出装置1は、導出した送出時刻Tdに基づいてRTPパケットを第2通信端末装置2bへ送出し、第2通信端末装置2bを操作する被験者は、受信したRTPパケットに基づき第2通信端末装置2bから出力される音声を試聴する。出力される音声の品質は、遅延時間データベース13aに記録された情報に基づく、RTPが通過する通信網の通信状況を再現した通信品質である。
前記実施の形態1では、導出装置が第1通信端末装置から受信したRTPパケットを第2通信端末装置へ送出する場合の送出時刻を導出する形態を示したが、本発明はこれに限らず、送出用のRTPパケット又は音声データを予め送出時刻に対応付けて導出装置に記録しておき、通信状況を再現する場合に対応付けて記録している送出時刻及び通信条件に基づいて送出時刻を導出し、導出した送出時刻に基づいて、記録しているRTPパケット又は音声データから生成したRTPパケットを受話側の通信端末装置へ送出する形態等、様々な形態に展開することが可能である。
さらに前記実施の形態1では、IP電話機として用いられるVoIP網の通信状況を導出し、再現して通信品質を評価する形態を示したが、本発明はこれに限らず、テレビジョン画像のストリーミング配信に関する通信品質の評価に用いる等、様々な形態に展開することが可能である。また、第1通信端末装置及び第2通信端末装置間の送信及び受信の方向が入れ替わっても良いし、双方向の通信を行っても良いことは自明である。なお、パケットの送出時刻が逆転するような導出処理を用いることも可能である。
実施の形態2.
実施の形態2は、通信条件が汎用的なものである場合に、通信状況を再現することなく、通信品質の評価を行えるようにした形態である。図10は、本発明の実施の形態2における通信品質評価システムが備える導出装置の構成例を示すブロック図である。導出装置1は、本発明の実施の形態2における導出装置用のコンピュータプログラム202及びデータ等の各種情報を記録した記録媒体302から各種情報を読み取る補助記憶手段12、記録手段13、記憶手段14、キーボード及びマウス等の入力手段18、並びにモニタ及びプリンタ等の出力手段19を備えている。なお記録手段13の記録領域の一部は、通信条件及び通信品質の評価結果を対応付けて記録する評価結果データベース(評価結果DB)13bとして用いられている。
図11は、本発明の実施の形態2における導出装置1が備える評価結果データベース13bの記録内容を例示する概念図である。評価結果データベース13bには、通信に用いる装置の特性及び通信網の特性を示す通信条件と、通信品質を数値化して示す評価結果とが対応付けて記録されている。装置の特性とは、RTPパケットを送出する側の通信端末装置の特性及びRTPパケットを受信する側の通信端末装置の特性である。通信網の特性とは、通信網の通信状況を示す特性である。評価結果データベース13bに記録されている通信条件及び通信品質は事前に行った品質評価テストにより求めたものである。
図12は、本発明の実施の形態2における導出装置1が備える評価結果データベース13bに記録されている通信端末装置の特性の内容の例を概念的に示す図表である。図12は、図11の通信端末装置の特性として「AAA」、「BBB」として表現した内容を更に詳細に記載したものである。図12に示す様に通信端末装置の特性として、通信端末装置の機種名、CODEC種別、バッファ長、PLC(Packet Loss Concealment)等の各種項目にデータが記録されている。なお図12に示した項目はあくまでも一つの例に過ぎず、必要に応じて様々な項目を設けることが可能である。
図13は、本発明の実施の形態2における導出装置1が備える評価結果データベース13bに記録されている通信網の特性の内容の例を概念的に示す図表である。図13は、図11の通信網の特性として「特性1」、「特性2」として表現した内容を更に詳細に記載したものである。図13に示す様に通信網の特性として、通信状況の計測開始時刻、計測時間、R値、消失率、固定遅延、及び揺らぎ遅延等の各種項目にデータが記録されている。なお図13に示した項目はあくまでも一つの例に過ぎず、必要に応じて様々な項目を設けることが可能である。
次に本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにて用いられる導出装置1の処理について説明する。図14は、本発明の実施の形態2における導出装置1の通信品質評価処理を示すフローチャートである。本発明の実施の形態2では、予め通信品質を評価する通信網の特性の計測又は想定を行い、使用すべき通信端末装置を決定し、導出装置1の操作者は、計測又は想定した通信網の特性並びに決定した通信端末装置の特性を導出装置1に入力する。なお入力の方法としては、入力手段18を用いた入力、記録媒体に記録した各種特性の補助記憶手段12による読み取り、接続している他の装置からの読み取り等、適宜選択することが可能である。導出装置1は、記憶手段14に記憶させた本発明のコンピュータプログラム202を実行する制御手段11の制御により、通信網の特性並びに送出側及び受信側の通信端末装置の特性、即ち通信条件の入力を受け付け(S501)、受け付けた通信条件に合致又は近似する通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を評価結果データベース13bから抽出し(S502)、抽出した通信品質の評価結果により示された出力手段19から出力する(S503)。このようにして出力された通信品質の評価結果は、想定した装置及び通信網にて構成されるVoIP網の通信状況に係る通信品質の評価結果とみなすことができる。
ステップS502において、受け付けた通信条件に合致する通信条件が評価結果データベース13bに記録されている場合は、その通信条件に対応付けられた通信品質の評価結果を抽出する。但し受け付けた通信条件に合致する通信条件が評価結果データベース13bに記録されていない場合、その通信条件に最も近似する通信条件を判定することになる。通信条件の一つである通信端末装置の特性は、特別に設計した装置を用いる場合を除き、合致する通信条件が評価結果データベース13bに既に記録されている可能性が高いため、通信条件の近似の判定は、通信網の特性を比較することにより行われる。
通信網の特性の比較は、受け付けた通信網の特性と、評価結果データベース13bに通信網の特性として各種項目に記録されているデータを所定の方法で比較することにより行われる。例えば下記の式5にて求められる評価値Vが最小となる通信網の特性が最も近似する通信網の特性であると判定する。
V=|Ka −Fna|+|Kb −Fnb|+|Kc −Fnc|+|Kd −Fnd| ……(式5)
但し、 V:評価値
Ka :受け付けた通信条件における0msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fna:記録されている通信条件における0msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Kb :受け付けた通信条件における30msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fnb:記録されている通信条件における30msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Kc :受け付けた通信条件における60msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fnc:記録されている通信条件における60msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Kd :受け付けた通信条件における90msの揺らぎ遅延(分布の割合)
Fnd:記録されている通信条件における90msの揺らぎ遅延(分布の割合)
図15及び図16は、本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにおける通信網の特性の例を概念的に示す図表である。図15は、受け付けた通信条件に係る通信網の特性を示しており、図16(a)、図16(b)及び図16(c)は、夫々評価結果データベース13bに記録されている特性1、特性2及び特性3を示している。図15及び図16に例示した通信網の特性を用いて評価値Vを算出した場合、特性1の評価値V1、特性2の評価値V2及び特性3の評価値V3は夫々以下の様になる。
V1=|61−95|+|14−3|+|7−2|+|8−0|=58
V2=|61−62|+|14−13|+|7−8|+|8−7|=4
V3=|61−50|+|14−30|+|7−10|+|8−10|=32
この場合の大小関係は、V2<V3<V1であるので、特性2が最も近似しているとして判定される。
前記実施の形態2では、評価値を算出して近似している通信網の特性を判定する形態を示したが本発明はこれに限らず、他の数学的手法、例えば揺らぎ遅延の分布を二次曲線にて近似し、近似度の高さで通信網の特性を判定する等、様々な形態に展開することが可能である。
このように、本実施の形態では、最も劣悪な通信状況を記録することにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能である。従って実用上問題となる通信品質を評価することが可能となる。
また本実施の形態では、遅延時間データベースに記録している本来の遅延時間の分布に合致させることにより、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
また本実施の形態では、送出順序の逆転が生じることなく、実際の通信状況を模した送出時刻の導出が可能である。
また本実施の形態では、遅延時間の分布を容易に表現することが可能である。
また本実施の形態では、パケットの消失率を加味することにより、実際の通信状況を模すことが可能である。
また本実施の形態では、通信品質への影響が高い要素に基づいて時間毎の劣悪性を判定することにより、実用上最も問題となる状況での模擬試験を行うことが可能である。
また本実施の形態では、予め記録されている通信条件及び評価結果の関係に基づいて通信品質の評価結果を抽出することにより、汎用的な通信条件に対しては、実際に模擬試験を行うことなく、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
また本実施の形態では、実際に用いられている装置及び通信網の特性に応じて、効率的に通信品質の評価を行うことが可能である。
また本実施の形態では、音声データを用いることにより、IP電話機を通信端末装置として用いた場合の通信状況、特に音声の聞こえ方をシミュレートすることができ、通信品質を評価することが可能である。
また本実施の形態では、遅延時間の分布は、遅延時間の調整により導出した送出時刻に基づく遅延時間の分布が、変換前の遅延時間の分布に合致するように変換されるので、実際の遅延時間の分布を再現することが可能であり、従ってVoIP通話の通信品質の評価に重要なパケット毎の遅延時間の変化、バースト性等の、通信網特性の時間変動等の通信状況を正確にシミュレートすることが可能である等、優れた効果を奏する。
さらに本実施の形態では、時間等の計測条件を変えて計測した複数の通信状況の中で、R値、パケットの消失率及び遅延状況等の通信品質が最も劣悪な通信状況を特定し、特定した通信状況での遅延時間の分布に基づいてパケットの送出時刻を導出するので、実用上最も問題となる通信状況を再現し、通信品質を評価することが可能である等、優れた効果を奏する。
本発明の実施の形態1における通信品質評価システムを例示した概念図である。
本発明の実施の形態1における通信品質評価システムが備える各種装置の構成例を示すブロック図である。
本発明の実施の形態1における導出装置が備える遅延時間データベースの記録内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態1における導出装置が備える蓄積手段に蓄積されるパケットの記録内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態1における導出装置の遅延時間分布記録処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態1における通信品質評価システムの遅延時間分布記録処理を概念的に示す説明図である。
本発明の実施の形態1における導出装置の送出時刻導出処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態1における導出装置の遅延時間の分布の変換処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態1における導出装置のパケット送出処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態2における通信品質評価システムが備える導出装置の構成例を示すブロック図である。
本発明の実施の形態2における導出装置が備える評価結果データベースの記録内容を例示する概念図である。
本発明の実施の形態2における導出装置が備える評価結果データベースに記録されている通信端末装置の特性の内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態2における導出装置が備える評価結果データベースに記録されている通信網の特性の内容の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態2における導出装置1の通信品質評価処理を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにおける通信網の特性の例を概念的に示す図表である。
本発明の実施の形態2における通信品質評価システムにおける通信網の特性の例を概念的に示す図表である。
パケットの到着時刻の遅延を模式的に示す説明図である。
測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験(シミュレーションテスト)を行った結果を模式的に示す説明図である。
測定結果に基づいてVoIP網の通信状況の模擬試験を行った結果を模式的に示す説明図である。
符号の説明
1 導出装置
2 通信端末装置
100 通信線
201,202 コンピュータプログラム
301,302 記録媒体