JPWO2006041048A1 - 肝再生・修復制御剤 - Google Patents

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Abstract

本発明は、HGFa活性を阻害するPCI、及びHGFa阻害を中和する抗PCI抗体の利用に関し、PCIを有効成分とする組織再生及び/または修復の制御調節剤、並びに、抗PCI抗体(特に、PCIに対し中和作用を有する抗PCI抗体(抗PCI中和抗体))を有効成分とする組織再生及び/または修復の促進剤に関する。

Description

本発明は、プロテインCインヒビター(protein C inhibitor;PCI)を有効成分とする組織再生及び/または修復の制御調節剤、並びに、抗PCI抗体(特に、PCIに対し中和作用を有する抗PCI抗体(抗PCI中和抗体))を有効成分とする組織再生及び/または修復の促進剤・誘導剤に関する。
肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)は、肝細胞の増殖を促す物質として単離され、1989年にその遺伝子がクローニングされた。実験的にラット肝臓を70%切除したモデルにおいては、肝臓の間質細胞、並びに、肺及び腎等の遠隔臓器でのHGFの産生が肝臓の再生に寄与することが報告されている。この肝再生は、リコンビナントHGFを投与したマウス、及びHGFを発現させたトランスジェニックマウスでさらに強く認められる。
臨床においても、肝炎及び肝障害時に血中HGFレベルが増加し、肝再生の終結とともにHGF活性がすみやかに低下することから、HGFは肝再生に重要な役割を果たしていると考えられている。HGFは薬剤性肝炎、劇症肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変などの病態において再生因子として機能するほか、肺繊維症、腎硬化症、心筋症などでも組織再生を誘起して繊維化の進行を阻害することが知られている。従って、HGF補充療法は、新しい再生医学療法として難治性臓器疾患の進行阻止、及び病態の改善へ繋がることが期待されている。
HGFは、不活性な1本鎖前駆体として分泌され、HGF特異的な活性化酵素であるHGFアクチベーター(HGFa)により分子内で切断され、活性型の2本鎖HGFが形成される。
HGFaは、セリンプロテアーゼの一種であり、1本鎖のプロHGFaとして肝臓で分泌され、トロンビンにより限定分解を受けて、2本鎖の活性型HGFaが形成される。
活性化プロテインC(activated protein C;aPC)は、様々な知見に基づき、血栓症及び敗血症等の治療及び予防に有効であると考えられている(非特許文献1〜3)。
プロテインCインヒビター(protein C inhibitor;PCI)は、凝固制御因子であるaPCの生理的阻害物質として見出された(非特許文献4)。PCIは、aPCとアシル酵素複合体を形成することにより非可逆的に酵素活性を阻害する(非特許文献5)。それのみならず、aPCの生成酵素であるトロンビン/トロンボモデュリン(Thr/TM)複合体を阻害し、aPCの生成を抑制する(非特許文献6)。即ち、PCIは、aPCの生成及び活性の両方を阻害することによってaPCの働きを抑制している。従って、PCIの作用を阻害することにより、内因性に生成されるaPC及び外因的に投与されるaPCの作用を増強することができ、効果的な抗血液凝固作用を得ることできる。そこで、本発明者らは、aPCの生成及び酵素活性を阻害するPCIに対し、中和作用を有する抗PCI抗体を作成した(特許文献1)。このような中和抗体は、aPCの作用増強を通して血液凝固系の働きを抑制するため、血栓症の治療及び予防のために極めて有用である。また、該抗体は、aPCによる敗血症の治療等において、aPCと併用して用いることにより、血中におけるaPCの不活化を抑制し、aPCの作用を増強する薬剤として利用することができる。
この作用に加え、PCIには、HGFaと複合体を形成することによるHGFa活性の阻害作用が報告されている(特許文献2)。しかしながら、PCIが実際に肝再生を抑制、又は遅延させる作用を有するかどうかは知られていない。
国際公開WO04/065418号パンフレット 特開2002-273号公報 J.Biol.Chem.(2001)276:11199-203 J.Clin.Invest.(1987)79:918-25 Blood(1991)78: 364-8 J.Clin.Invest.(1980)66:1186-9 J.Biochem.(1984)95:187-95 Blood(1998)91:1542-7
本発明は、抗PCI抗体、特に、抗PCI中和抗体を有効成分とする肝再生促進剤又は誘導剤を提供することを目的とする。また、PCIを有効成分とする肝再生の制御剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、PCIがin vivoで組織再生、修復を遅延させること、及び、PCIに対する中和抗体がPCIのHGFa阻害を中和することにより活性型HGFの形成抑制を解除して肝再生を促進する作用を有することを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。即ち本発明は、HGFa活性を阻害するPCI、及びHGFa阻害を中和する抗PCI抗体の利用に関し、PCIを有効成分とする組織再生及び/または修復の制御調節剤、並びに、抗PCI抗体(特に、PCIに対し中和作用を有する抗PCI抗体(抗PCI中和抗体))を有効成分とする組織再生及び/または修復の促進剤・誘導剤に関する。具体的には、
〔1〕 抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝再生促進剤又は誘導剤、
〔2〕 抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝疾患治療剤、
〔3〕 抗PCI抗体が、PCIに対して中和作用を有する抗体である、〔1〕または〔2〕記載の剤、
〔4〕 肝疾患が肝炎又は肝硬変である、〔2〕記載の治療剤、
〔5〕 PCIを有効成分として含有する、肝再生の制御剤、
〔6〕 肝再生の制御が、肝再生の遅延である、〔5〕記載の制御剤、
に関する。
PCI cDNAの塩基配列(タグなし)を示す図である。全長PCI遺伝子の塩基配列を示す。動物細胞用発現ベクター(pCHOI)のEcoRI-BamHI間に挿入する目的で、5'末端及び3'末端にそれぞれEcoRI及びBamHI認識配列(下線)を、さらに転写効率を上げるために開始コドンの手前にKozak配列を付加してある。塩基配列を配列番号:4、アミノ酸配列を配列番号:5に示す。 PCI cDNAの塩基配列(FLAGタグ付き)を示す図である。Flagタグ付きのPCI遺伝子の塩基配列を示す。動物細胞用発現ベクター(pCHO2-FLAG)のEcoRI-BamHI間に全長PCIをコードするcDNAを挿入することにより、全長PCI遺伝子の3'側にFlag配列(波線)を付加した。塩基配列を配列番号:6、アミノ酸配列を配列番号:7に示す。 PCI-Flag及びPCIのSDS-PAGEとウェスタンブロッティングによる分析結果を示す写真である。A: PCI-Flag(レーン1および2)、または B: タグなしのPCI(レーン3及び4)をSDS-PAGEにより分離し、クマシーブルー染色(レーン1及び3)または抗PCI抗体を用いたウェスタンブロッティング(レーン2及び4)により検出した。 各抗PCI抗体のaPC/PCI及びThr/TM/PCIアッセイにより求められた中和活性を比較した図である。白い円はaPC/PCIアッセイ、黒い円はThr/TM/PCIアッセイの結果を表す。PCI非添加時を100%とし、PCI添加で抗体非添加時を0%とした時の相対値で示す。 各抗PCI中和抗体のH鎖のアミノ酸配列を示す図である。CDR1、2及び3を囲みで示す。図中のアミノ酸配列は上から順に配列番号:8〜14として示す。 各抗PCI中和抗体のL鎖のアミノ酸配列を示す図である。CDR1、2及び3を囲みで示す。図中のアミノ酸配列は上から順に配列番号:15〜21として示す。 A:PCI-TgマウスおよびWTマウスの血漿中での肝部分切除後のHGFa活性を示す写真である。指定された時点に血漿200μlをHeparin HPカラムにかけて濃縮した。続いて試料を、実施例に記載した通り、抗HGFa抗体を用いるイムノブロット法によって分析した。B:PCI-TgマウスおよびWTマウスにおける活性型HGFaを示した密度測定分析および統計分析結果を示すグラフである。これらのデータはAに記した通りに入手した。これらの値は、各条件に関して、非処置対照であるWTマウス血漿に対して標準化した。データは平均±SD(n=6)として表している。*p<0.05、**p<0.01、WTマウスとの比較。 特異的酵素免疫アッセイを用いた、PCI-Tgマウスにおける肝部分切除後の血漿ヒトPCIレベルの変化を示すグラフである。データは平均±SD(n=6)として表している。*p<0.05、**p<0.01、術前状態(pre)との比較。 PCI-Tgマウスにおける肝部分切除後の抗ヒトPCI抗体による免疫沈降および抗HGFa抗体によるイムノブロット法による血漿HGFa-PCI複合体の検出結果を示す写真である。指定された時点に血漿200μlを抗ヒトPCI IgGを結合させたセファロースと室温で1時間インキュベートした。十分に洗浄した後に、実施例に記した通りに、抗ヒトPCI IgGセファロースビーズをLaemmli液で処理してその抽出物をSDS-PAGEにかけ、抗HGFa抗体によるイムノブロット法を行った。 肝切除後肝組織および術前肝組織に由来する抽出物中のHGFの分子形態に関するウエスタンブロット分析の結果を示す写真である。肝切除後の肝臓では、PCI-TgマウスおよびWTマウスともに活性化型HGF(hcHGF)が観察されたが、PCI-TgマウスのhcHGFの強度の方がWTマウスよりもはるかに低かった。これに対して、PCI-Tgマウスの不活性型HGF(scHGF)はWTマウスよりも低値であった。PCI-TgマウスにおけるHGFの活性化率は43.5%であり、これはWTマウスでの63.5%よりも著しく低かった。 PCIトランスジェニック(PCI-Tg)マウス及び野生型(Wild)マウスを用いて部分肝切除を行った後の肝重量/体重比を、sham operationを行ったマウスの肝重量/体重比で除した値を経時的に表す。縦軸は肝重量/体重比、横軸は時間を示す。 肝部分切除48時間後のPCI-TgマウスおよびWTマウスの残存肝におけるBrdU標識肝細胞を示した光学顕微鏡写真である。A:肝部分切除48時間後のWTマウス肝臓の切片。B:肝部分切除48時間後のPCI-Tgマウス肝臓の切片。マウスを殺処理する6時間前にBrdUを腹腔内に投与した。DNA合成は、BrdUの取り込みおよびBrdUに対するモノクローナル抗体を用いた免疫化学染色によって検出した。C:PCI-TgマウスおよびWTマウスにおけるBrdU標識指数。データは平均±SD(n=3)として表している。**p<0.01、WTマウスとの比較。 PCI-TgマウスおよびWTマウスにおける肝部分切除後の血漿サイトカインレベルの変化を示す写真およびグラフである。血漿IL-6(A)およびTNF-α(B)を特異的酵素免疫アッセイにより決定した。データは平均±SD(n=6)として表している。 PCI-TgマウスおよびWTマウスにおける肝部分切除後のトランスアミナーゼおよびHAの血漿レベルの変化を示すグラフである。AST(A)、ALT(B)およびHA(C)の血漿レベルを市販のアッセイキットを用いて測定した。データは平均±SD(n=6)として表している。*p<0.05、WTマウスとの比較。 抗体投与後の血漿中プロテインC活性に対するPCIの影響の変化を示すグラフである。PCIの影響は、実施例に記載した通りに、プロテインCアクチベーターおよびS-2366を用いて決定した。データは平均±SD(n=6)として表している。†p<0.01、WT対照血漿との比較。**p<0.01、食塩液群との比較。 PCI-Tgマウスにおける肝部分切除後の肝再生に対する抗PCI抗体投与の効果を示す図および写真である。肝再生を肝部分切除後POD 9での残存肝重量(A)および肝部分切除48時間後での残存肝のBrdU取り込み(B、C)によって評価した。データは平均±SD(n=6)として表している。*p<0.05、**p<0.01、抗PCI抗体投与群との比較。
1.肝再生促進剤・誘導剤
本発明により、抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝再生促進剤及び/または誘導剤が提供される。本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤に含まれる抗PCI抗体は、好ましくは、PCIに対して中和作用を有する抗体である。PCIは、HGFaと複合体を形成することにより、HGFaのHGF前駆体を分子内切断する作用を阻害する。本発明において使用される抗PCI抗体は、このようなPCIの活性を有意に阻害するものである。本発明で用いられる抗PCI抗体は、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、またはそれらの変異体であってもよい。均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。
本発明における「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団、即ち、集団を構成する個々の抗体が、天然において起こり得る少量で存在する変異体を除いては均一である抗体集団から得られた抗体を指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して作用するものである。さらに、異なる抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含む慣用なポリクローナル抗体調製物と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の抗原決定基に向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンにより汚染されていないハイブリドーマ培養により合成される点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団より得られた抗体の特性を示唆するものであって、抗体が特定の方法により製造されることを意味するものではない。例えば、本発明において用いられるモノクローナル抗体は、これに限定されるわけではないが、ハイブリドーマ法(Kohler and Milstein,Nature(1975)256:495)、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。本発明において使用するモノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al.,Nature(1991)352:624-8; Marks et al., J.Mol.Biol.(1991)222:581-97)。本発明におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖(H鎖)及び/または軽鎖(L鎖)の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、抗体変異体、並びに抗体の断片が含まれる(米国特許第4,816,567号; Morrison et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1984)81:6851-5)。
本発明において、「抗体変異体」とは、1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列バリアントを指す。例えば、抗体の可変領域を、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するために改変することができる。このような改変は、部位特異的変異(Kunkel, Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82: 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。このような変異体は、抗体の重鎖または軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となった抗体のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。
具体的には、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information) の BLAST (Basic Local Alignment Search Tool) のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
本発明において用いられるポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。例えば以下の方法により作製することができる。
動物の免疫に用いるPCIとしては、組換えDNA法又は化学合成により調製したPCIのアミノ酸配列の全部または一部からなるペプチド等が挙げられる。ヒト及びその他の哺乳動物のPCIのアミノ酸配列が公知であり(Suzuki, K. et al.,J.Biol.Chem.(1987)262:611-6)、本発明において使用される抗体を作成するために用いることができる。哺乳動物のPCIとしては、例えばマウス、ラット、またはウシ等のPCIを用いることができるが、本発明はこれらに制限されない(Zechmeister-Machhart, M. et. al.,Gene(1997)186(1):61-6; Wakita, T. et. al., FEBS Lett.(1998)429(3):263-8; Yuasa, J. et. al.,Thromb.Haemost.(2000)83(2):262-7)。組換えPCI蛋白質は、例えば、実施例1に記載したようにして調製することができる。抗原としてはPCIまたはその部分ペプチド自体を用いることもできるし、それらをキャリアー蛋白質に結合させて使用してもよい。キャリアー蛋白質を用いる場合は、例えば抗原であるPCIをキャリアー蛋白質(例えばサイクログロブリン)に結合させた後、アジュバントを添加する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイントの不完全なアジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
上記のようにして得られた抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、またはヒツジ等の哺乳動物に投与する。免疫は、既存の方法であれば何れの方法によって行ってもよいが、例えば、静脈内注射、皮下注射、または腹腔内注射等によって行うことができる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。抗原蛋白質の免疫量は、1回にマウス1匹当たり、例えば、10〜100μg(例えば20〜60μg)である。
初回免疫前及び2回目以降の免疫から3〜7日後に動物から採血し、血清を抗体力価について分析する。また、免疫応答を増幅するため、ミョウバン等の凝集剤が好ましくは用いられる。選択された哺乳動物抗体は通常、抗原に対して十分に強い結合親和性を有する。抗体の親和性は、飽和結合、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、または競合分析(例えば、放射性免疫分析)により決定することができる。
ポリクローナル抗体のスクリーニング法としては、Antibodies, A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratoriey、Harlow and David Lane edit.(1988)) に記載されるような慣用の交差結合分析を行うことができる。また、代わりに、例えば、エピトープマッピング(Champe et al.,J.Biol.Chem.(1995)270:1388-94)を行ってもよい。ポリペプチドまたは抗体の効力の測定方法として好ましいのは、抗体結合親和性の定量化を用いた方法であるが、その他の態様では、それに加えて、または結合親和性測定に代えて、抗体の1またはそれ以上の生物学的特性を評価する方法が含まれる。このような分析法は特に、抗体の治療的な有効性を示すので有用である。通常、必ずしもではないが、このような分析において改善された特性を示す抗体は、結合親和性もまた増幅されている。
モノクローナル抗体の調製におけるハイブリドーマの作製は、例えば、ミルステインらの方法(Kohler, G. and Milstein, C., Methods Enzymol.(1981)73:3-46)等に準じて行うことができる。抗体産生細胞と融合させるミエローマ(骨髄腫)細胞として、マウス、ラットまたはヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に、8-アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。ミエローマ細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えば P3x63Ag8.653(J. Immunol. (1979) 123: 1548-50)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81: 1-7)、NS-1(Kohler, G. and Milstein, C., Eur.J.Immunol.(1976)6:511-9)、MPC-11(Margulies, D. H. et al., Cell(1976)8: 405-5)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978) 276: 269-70)、F0(de St. Groth, S. F. et al., J.Immunol.Methods (1980) 35:1-21)、S194(Trowbridge, I. S., J.Exp.Med. (1978)148: 313-23)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277: 131-3)、P3U1(J.Exp.Med. 1979;150:580; Curr.Top.Microbiol.Immunol. 1978;81:1)等が好適に使用される。また、ヒトミエローマ、及び、マウス-ヒトheteromyclomaセルラインも、ヒトモノクローナ抗体の産生に用いることができる(Kozbar, J.Immunol.(1984)133:3001; Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Application, (Marcel Dekker, Inc., New York(1987)pp.51-63)。抗体産生細胞は、例えば、最終の免疫日から2〜3日後に犠牲死させた動物から採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞及び末梢血細胞が挙げられるが、特に一般的には、脾臓細胞が用いられる。具体的には、前記各種動物から脾臓またはリンパ節等を摘出又は採取し、破砕する。得られる破砕物をPBS、DMEMまたはRPMI1640等の培地又は緩衝液に懸濁し、ステンレスメッシュ等で濾過後、遠心分離を行うことにより目的とする抗体産生細胞を調製する。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEMまたはRPMI-1640培地等の動物細胞培養用培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、混合比 1:1〜1:20 で融合促進剤の存在下、30〜37℃で 1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000(Da)のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルス等の融合促進剤を用いてもよく、また、融合ウイルスを使用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法等が挙げられる。すなわち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地(HAT培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
また別の態様として、McCaffertyら(Nature (1990)348:552-4)により記載された技術を用いて製造された抗体ファージライブラリーより、抗体、または抗体断片を単離することもできる。Clacksonら(Nature(1991)352:624-8)、及びMarksら(J.Mol.Biol.(1991)222:581-97)は、各々、ファージライブラリーを用いたマウス及びヒト抗体の単離について記載しており、本発明で用いる抗体の作製に当たって参照することができる。また、高親和性(nM範囲)ヒト抗体のチェーンシャッフリングによる製造(Marks et al., Bio/Technology(1992)10:779-83)、そして、巨大なファージライブラリーを構築するための方法としてのコンビナトリアル感染、及びin vivo組換え(Waterhouse et al., Nucleic Acids Res.(1993)21:2265-6)等が知られている。これらの技術も、モノクローナル抗体の単離のために従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代えて利用し得る。
本発明の抗PCI中和抗体は、好適には以下のスクリーニングにより選択することができる。
・1次スクリーニング:
抗体の結合特異性を、公知技術、例えばEIA(エンザイムイムノアッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ)、HTRF(homogenous time-resolved fluorescence)、または蛍光免疫法等(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)により測定し、PCIへ結合するものを選択する。
・2次スクリーニング:
2次スクリーニングにおいては、PCIに対する阻害の度合いが相対的に強い抗体を選択する。PCIは、HGFaと複合体を形成することによりHGFa活性を阻害し、ひいては活性型2本鎖HGFの形成を阻害する。そこで、抗体のPCIに対する阻害作用は、PCIを抗PCI抗体とインキュベートした後、これをHGFaを含む溶液等に加えてインキュベートし、HGFaの活性を測定する。PCIを加えなかった場合(PCIによる阻害なしの条件下のHGFa活性)、及び抗PCI抗体を加えなかった場合(PCIにより阻害した場合のHGFa活性)のHGFa活性の値を基に、抗PCI抗体がPCIによるHGFa活性の阻害作用を阻害した割合が決定される。PCIとHGFaの混合は、適当な溶液中で行う。溶液としては、これに限定されるわけではないが、生理的リン酸緩衝液を挙げることができる。通常、このような活性測定においては、0.001〜1000μg/mlの濃度のHGFaに対し、0.001〜1000μg/mlの濃度のPCIを、モル比で1:1〜1:1000で混合する。反応は、例えば、20〜40℃で5分〜6時間行うことができる。抗体とPCIとのインキュベーションにより、抗体を加えなかった場合よりもHGFa活性に対するPCIの阻害の程度が低下すれば、この抗体はPCIが持つHGFaの活性阻害作用を阻害する活性を有すると判断される。HGFa活性は、特開2002-273号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法、即ち、合成基質(Ac-AKTKQLR(同文献の配列番号:1)-MCA)を用いて分解反応により生じたAMC(7-アミノ-4-メチルクマリン)量を、励起波長380nm、蛍光波長460nmの条件で測定することにより測定できる。これらのPCIの作用に対する抗体の阻害の程度を測定し、その阻害の程度が相対的に高いものを選択する。例えば、ハイブリドーマ等の抗体産生細胞から得られた抗体を用いてアッセイしているならば、目的の活性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を同定し、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により生育させる(Goding, Monoclonal Antibodies:Principals and Practice, Academic Press (1986)pp.59-103,)。培養培地としては、例えば D-MEMまたはRPIM-1640培地を用いることができる。スクリーニングを繰り返して、より強い抗PCI中和抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより、ハイブリドーマのクローニングを行うことが可能である。
ハイブリドーマ培養上清を用いた上記アッセイにおいては、PCI非添加の場合の値を100、ハイブリドーマ培養上清の代わりにハイブリドーマ培養のための培養液(例えばHAT培地)を用いた場合を0としたPCI阻害活性の相対値で、好ましくは45以上、より好ましくは48以上、より好ましくは50以上、より好ましくは60以上、より好ましくは70以上、より好ましくは80以上、より好ましくは90以上の阻害活性を示すものが選択される。本発明は、このアッセイにおいて、培養上清中のPCI活性阻害の相対値が好ましくは45以上、より好ましくは48以上、より好ましくは50以上、より好ましくは60以上、より好ましくは70以上、より好ましくは80以上、より好ましくは90以上であるハイブリドーマを提供する。
ハイブリドーマ培養上清からは、常法により抗体を精製することができる。本発明の抗体は、抗体非添加の場合の値を100%、PCI非添加の場合を0%としたアッセイにおいて、50%阻害濃度が好ましくは100μg/ml以下、より好ましくは80μg/ml以下、より好ましくは60μg/ml以下、より好ましくは50μg/ml以下、より好ましくは40μg/ml以下、より好ましくは25μg/ml以下、より好ましくは15μg/ml以下、より好ましくは12.5μg/ml以下である。あるいは本発明の抗体は、このアッセイにおいて、抗体濃度25μg/mlにおけるPCI阻害の相対値が、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。50%阻害濃度を決定するには、抗体濃度を変えてアッセイを行い、グラフを作成して50%阻害に相当する抗体濃度を求めればよい。
本発明の抗体は、一般に、PCIとの結合力が強いものほど好ましいと考えられる。本発明の抗体は、PCIと相互作用における解離定数(KD)が、好ましくは50 nM以下、より好ましくは20 nM以下、より好ましくは10 nM以下、より好ましくは5 nM以下、より好ましくは3 nM以下、より好ましくは1 nM以下、より好ましくは0.8 nM以下、より好ましくは0.6 nM以下、より好ましくは0.4 nM以下、より好ましくは0.2 nM以下である。解離定数、並びに、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)及び最大結合量(Rmax)等の結合速度論的パラメーターは、例えば、BIACORE等の表面プラズモン共鳴分析等により決定することができる。
また、本発明の抗体は、好ましくは血液によるHGFaの不活性化を抑制する活性を有している。本発明の抗体は、血液によるHGFaの不活性化を、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上抑制する抗体である。このような抑制レベルは不活性化抑制率(%)と定義され、血液により不活性化した場合のHGFaの活性と同レベルのHGFa活性を0%、しない場合のHGFa活性と同レベルのHGFa活性を100%とした相対値で表される。
取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法等が挙げられる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10〜20%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地、又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO2 濃度)で 2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法においては、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水又は血清を採取する。腹水形成を促進するために、例えばプリスタン(2,6,10,14-tetramethylpentadecane)等を予め腹腔内投与することができる。
本発明で使用される抗体は、プロテインA-セファロース、プロテインG-セファロース、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、硫黄塩析法、イオン交換クロマトグラフィー及びアフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせて行うことにより精製することができる。
また、本発明では、上記の方法に従って得られた抗体の遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD(1990)参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー及び/またはプロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明において用いる抗体として特に好適なのは、実施例において単離されたいずれかのモノクローナル抗体(PC19G8, PC23A7, PC23D8, PC30G1, PC31E2, PC31F1, または PC39C6)の可変領域を含む抗体と抗体結合部位が重複する(または同一の)抗体である。このような抗体を、本発明においては、該モノクローナル抗体(PC19G8, PC23A7, PC23D8, PC30G1, PC31E2, PC31F1, または PC39C6)のPCI結合部位と実質的に同じ部位に結合する抗体と呼ぶ。2つの抗体が抗原蛋白質の同じ部位に結合するかどうかは、例えば競合実験により決定することができる。具体的には、第一の抗PCI抗体とPCIとの結合が、第二の抗PCI抗体によって競合阻害を受けるとき、第一の抗体と第二の抗体は同じ抗原部位に結合していると判断される。例えば、PC19G8, PC23A7, PC23D8, PC30G1, PC31E2, PC31F1, または PC39C6の抗体、あるいは、配列番号:8、9、10、11、12、13、または14に記載のアミノ酸配列を含むH鎖可変領域に対して、それぞれ配列番号:15、16、17、18、19、20、または21に記載のアミノ酸配列を含むL鎖可変領域を組み合わせた抗体のいずれかと、抗体結合部位が競合する抗体は、本発明において好適である。または、上記のモノクローナル抗体のエピトープを、PCIの部分ペプチド等を用いた公知のエピトープマッピング法により解析し、同定されたエピトープを含むペプチドを抗原に用いて、これに結合する抗体を調製することにより、上記モノクローナル抗体のPCI結合部位と実質的に同じ部位に結合する抗体を得ることもできる。このような抗体は、HGFa活性に対して実施例で単離した抗体と同様の阻害作用を発揮することが期待される。このように、実施例で単離した抗体のPCI結合部位と実質的に同じ部位に結合する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体を本発明では好適に使用することができる。
また本発明の抗体には、実施例において単離されたいずれかのモノクローナル抗体(PC19G8, PC23A7, PC23D8, PC30G1, PC31E2, PC31F1, または PC39C6)の相補性決定領域(CDRs)またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む抗体が含まれる。機能的に同等とは、実施例において単離されたいずれかのモノクローナル抗体のCDRsのアミノ酸配列と類似したアミノ酸配列を有し、PCIに結合してその機能を阻害する作用を有することを言う。CDRとは抗体の可変領域(V領域とも言う)に存在する抗原への結合の特異性を決定している領域であり、H鎖とL鎖にそれぞれ3箇所ずつ存在し、それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3と命名されている。CDRを挟むようにフレームワークと呼ばれるアミノ酸配列の保存性の高い4つの領域が介在する。CDRは他の抗体に移植することが可能であり、所望の抗体のフレームワークと組み合わせることにより組み換え抗体を作製することができる。また抗原に対する結合性を維持しながら1または数個のCDRのアミノ酸を改変することが可能である。例えば、CDR中の1または数個のアミノ酸を、置換、欠失及び/または付加することができる。
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Ma rk, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、各CDRのアミノ酸の40%以内であり、好ましくは35%以内であり、さらに好ましくは30%以内(例えば、25%以内)である。アミノ酸配列の同一性は、上述の方法により決定することができる。
本発明に含まれる抗体としては、例えば D(T/Y)(F/Y)(M/I)H(配列番号:49)、RID(Y/L)(V/E)(N/K)(G/V)N(T/I)(K/I)YDP(K/N)FQ(G/D)(配列番号:50)、及びGGYDV(R/P)(E/S)FAY(配列番号:51)(スラッシュで区切られたアミノ酸は、それらのいずれかのアミノ酸であることを表す)のアミノ酸配列からなる3つのCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを有する抗体が挙げられる。それぞれのアミノ酸配列は、抗体H鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3に対応する。これらのCDRを、所望のH鎖可変領域のフレームワークの間のCDR1、CDR2、及びCDR3に相当する位置に挿入すれば、本発明のPCI中和抗体を作製することができる。このような抗体のH鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としてはDTFMH(配列番号:22)またはDYYIH(配列番号:23)、CDR2としては RIDYVNGNTKYDPKFQG(配列番号:26)、RIDLVNVNTKYDPNFQD(配列番号:27)、または RIDLEKGNIIYDPKFQG(配列番号:28)、CDR3としては GGYDVREFAY(配列番号:32)、または GGYDVPSFAY(配列番号:33)が挙げられる。また、上記の各CDRのアミノ酸は、得られた抗体がPCIに対する中和活性を有する限り、適宜置換等により改変してもよい。例えば、各CDRのアミノ酸を保存的に置換された抗体は、元の抗体の中和活性を維持していると考えられ本発明の抗体として使用可能である。より具体的には、各CDRは、モノクローナル抗体 PC23D8, PC19G8, PC23A7, または PC39C6 のH鎖のCDR1, 2, 及び3の組み合わせを用いることができる(図5参照)。これらの抗体は、上記クローンと同等のPCI中和活性を有することが期待される。
上記のH鎖CDRを含む抗体には、適宜抗体L鎖の可変領域を組み合わせて用いることができる。L鎖CDRとしては、例えば SA(T/S)SS(L/V)(I/S)YMH(配列番号:55)、STSNLASGVPA(配列番号:56)、及びRSSYPFT(配列番号:57)のアミノ酸配列からなるCDR、またはこれらと機能的に同等のCDRを組み合わせることが好ましい。それぞれのアミノ酸配列は、抗体L鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3に対応する。また、これらのL鎖CDRsは、上記のH鎖とは独立に用いてもよい。これらのCDRは、所望のL鎖可変領域のフレームワークの間のCDR1、CDR2、及びCDR3に相当する位置に挿入される。このような抗体のL鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としては SATSSLIYMH(配列番号:37)またはSASSSVSYMH(配列番号:38)、CDR2としては STSNLASGVPA(配列番号:42)、CDR3としては RSSYPFT(配列番号:46)が用いられるが、本発明はこれらに制限されない。
具体的には、本発明の抗体には、以下のH鎖相補性決定領域を有する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:49、50、及び51に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:49、50、及び51の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:49の3個以内、配列番号:50の8個以内、及び配列番号:51の5個以内のアミノ酸が、置換、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:55、56、及び57とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:49の2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:50の7個以内、さらに好ましくは6個以内、さらに好ましくは5個以内、さらに好ましくは4個以内、さらに好ましくは3個以内である。また好ましくは配列番号:51の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
また本発明の抗体には、以下のL鎖相補性決定領域を有する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:55、56、及び57に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:55、56、及び57の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:55の5個以内、配列番号:56の5個以内、及び配列番号:57の4個以内のアミノ酸が、置換、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:55、56、及び57とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:55の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:56の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:57の3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。特に、上記のH鎖相補性決定領域とL鎖相補性決定領域の両方を有する抗体は、本発明の抗体として好適である。
また本発明で用いる抗体としては、RYWMS(配列番号:52)、EINPDSSTI(N/T)YT(P/S)SLKD(配列番号:53)、及び(F/L)FYYGTPDY(配列番号:54)のアミノ酸配列からなるCDR、またはこれらと機能的に同等のCDRを有する抗体が挙げられる。上記と同様に、それぞれのアミノ酸配列は、抗体H鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3に相当する。このような抗体のH鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としてはRYWMS(配列番号:24)、CDR2としては EINPDSSTINYTPSLKD(配列番号:29)または EINPDSSTITYTSSLKD(配列番号:30)、CDR3としては FFYYGTPDY(配列番号:34)または LFYYGTPDY(配列番号:35)が挙げられる。具体的には、モノクローナル抗体 PC30G1またはPC31F1のH鎖のCDR1, 2, 及び3の組み合わせを用いることができる。これらの抗体は、PC30G1またはPC31F1と同等のPCI中和活性を有することが期待される。この場合はL鎖CDRsとして、例えば KASQDVI(V/K)AVA(配列番号:58)、S(A/T)SYRYTG VPD(配列番号:59)、及びHYSSPPWT(配列番号:60)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを組み合わせることが好ましい。それぞれのアミノ酸配列は、抗体L鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3に対応する。また、これらのL鎖CDRsは、上記のH鎖とは独立に用いてもよい。L鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としては KASQDVIVAVA(配列番号:39)またはKASQDVIKAVA(配列番号:40)、CDR2としては SASYRYTGVPD(配列番号:43)またはSTSYRYTGVPD(配列番号:44)、CDR3としては HYSSPPWT(配列番号:47)が用いられるが、本発明は、これらの配列には制限されない。
具体的には、本発明の抗体には、以下のH鎖相補性決定領域を有する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:52、53、及び54に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:52、53、及び54の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:52の3個以内、配列番号:53の8個以内、及び配列番号:54の5個以内のアミノ酸が、置換、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:52、53、及び54とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:52の2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:53の7個以内、さらに好ましくは6個以内、さらに好ましくは5個以内、さらに好ましくは4個以内、さらに好ましくは3個以内である。また好ましくは配列番号:54の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
また本発明の抗体には、以下のL鎖相補性決定領域を有する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:58、59、及び60に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:58、59、及び60の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:58の5個以内、配列番号:59の5個以内、及び配列番号:60の4個以内のアミノ酸が、置換、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:58、59、及び60とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:58の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:59の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:60の3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。特に、上記のH鎖相補性決定領域とL鎖相補性決定領域の両方を有する抗体は、本発明の抗体として好適である。
また本発明の抗体としては、TYPIE(配列番号:25)、KFHPDNDDTNYNEKFKG(配列番号:31)、およびGHDYDYGMDY(配列番号:36)のアミノ酸配列からなるCDR、またはこれらと機能的に同等のCDRを有する抗体が挙げられる。上記と同様に、それぞれのアミノ酸配列は、抗体H鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3に相当する。これらの抗体は、PC31E2と同等のPCI中和活性を有することが期待される。この場合はL鎖CDRとして、例えば KASQSVDYDGDSYLN(配列番号:41)、GASNLESGTPA(配列番号:45)、及びSNEDPPT(配列番号:48)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを組み合わせることが好ましい。それぞれのアミノ酸配列は、抗体L鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3に対応する。
具体的には、本発明の抗体には、以下のH鎖相補性決定領域を有する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:25、31、及び36に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:25、31、及び36の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:25の3個以内、配列番号:31の8個以内、及び配列番号:36の5個以内のアミノ酸が、置換、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:25、31、及び36とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:25の2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:31の7個以内、さらに好ましくは6個以内、さらに好ましくは5個以内、さらに好ましくは4個以内、さらに好ましくは3個以内である。また好ましくは配列番号:36の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
また本発明の抗体には、以下のL鎖相補性決定領域を有する抗体であって、HGFa活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:41、45、及び48に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:41、45、及び48の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:41の5個以内、配列番号:45の5個以内、及び配列番号:48の4個以内のアミノ酸が、置換、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:41、45、及び48とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:41の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:45の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:48の3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。特に、上記のH鎖相補性決定領域とL鎖相補性決定領域の両方を有する抗体は、本発明の抗体として好適である。
CDRのアミノ酸配列を改変するには、例えばアミノ酸配列を改変したCDRを含む可変領域をコードするオリゴヌクレオチドを合成し、これらを基にPCRにより可変領域をコードする核酸を生成させる。これを適当な発現ベクターに組み込んで発現させることにより、所望のCDRを有する抗体を得ることができる。例えば、オリゴヌクレオチドの合成時に塩基を混合させて、CDRの特定の位置に様々なアミノ酸を有する抗体をコードするDNAライブラリーを作製する。このライブラリーから、PCIに結合しその機能を抑制する抗体をコードするクローンを選択することによって、本発明において使用される抗体を得ることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体等を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体等が挙げられ、例えば、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖及び軽鎖の定常領域からなる抗体が挙げられる。このような抗体は、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体等の非ヒト抗体の重鎖または軽鎖の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域に置き換えたものであり、その一般的な遺伝子組換え手法は知られている(例えば、Jones et al., Nature (1986)321: 522-5; Reichmann et al., Nature(1988) 332: 323-9; Presta, Curr.Op.Struct.Biol.(1992) 2: 593-6参照)。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体に導入させたCDRまたはフレームワーク配列のどちらにも含まれないアミノ酸残基を含んでいてもよい。通常、このようなアミノ酸残基の導入は、抗体の抗原認識・結合能力をより正確に至適化するために行われる。例えば必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K. et al., Cancer Res. (1993) 53: 851-6)。
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878 参照)。また、ヒト抗体遺伝子の一部または全てのレパートリーを有するトランスジェニック(Tg)動物を抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(Nature Genetics(1994) 7:13-21; Nature Genetics(1997)15:146-56; Nature(1994)368:856-9; 国際特許出願公開WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。このようなTg動物は、具体的には、非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome, YAC)ベクター等を介してヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物及びTg動物の作製、並びに、これらの動物同士の掛け合わせにより作り出す。免疫グロブリン重鎖遺伝子座の機能的な不活性化には、例えば、J領域またはC領域(例えばCμ領域)の一部に障害を導入することにより達成でき、免疫グロブリン軽鎖(例えばκ鎖)の機能的不活性化には、例えば、J領域若しくはC領域の一部、またはJ領域及びC領域にまたがる領域を含む領域に障害を導入することにより達成可能である。
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト化抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体を培養上清中から得ることもできる。ここで、該宿主は例えば所望の真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞である。
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考に実施することができる。
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞及び真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1) 哺乳類細胞、例えば、CHO, COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2) 両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、または (3) 昆虫細胞、例えば、Sf9, Sf21, Tn5等、若しくはカイコ等の個体が挙げられる。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
本発明の抗体のアイソタイプは特に限定されず、例えば IgG(IgG1, IgG2, IgG3, IgG4)、IgM、IgA(IgA1, IgA2)、IgDまたはIgE等が挙げられるが、好ましくはIgGまたはIgMである。また本発明の抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の断片又はその修飾物であってもよい。「抗体断片」とは、全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合領域または可変領域を含む断片のことである。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、または重鎖及び軽鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、diabody (diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体等が挙げられる。従来、抗体断片は天然の抗体のプロテアーゼによる消化により製造されてきたが、現在では、遺伝子工学的に組み換え抗体として発現させること方法も公知である(Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods(1992)24:107-17; Brennan et al., Science(1985) 229:81; Co, M. S. et al., J.Immunol.(1994)152:2968-76; Better, M. & Horwitz, A. H., Methods in Enzymology (1989)178:476-96; Plueckthun, A. & Skerra, A., Methods in Enzymology(1989)178: 476-96; Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121:663-9; Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991) 9: 132-7参照)。
「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含むものである。この領域は1つの重鎖及び軽鎖の可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである(VH-VLダイマー)。各可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)が相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。即ち、重鎖と軽鎖をあわせて6つのCDRが抗体の抗原結合部位として機能している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位を含む場合よりは低い親和性ではあるものの、抗原を認識し、結合する能力を有していることが知られている。従って、本発明における抗体断片はFv断片が好ましいが、これに限定されるものではなく、重鎖または軽鎖のCDRが保存され抗原を認識し、結合する能力を有する抗体の断片を含むポリペプチドであってよい。
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、軽鎖の定常領域及び重鎖の定常領域(CH1)を含む。例えば、抗体のパパイン消化により、Fab断片と呼ばれる、1つの抗原結合部位を形成する重鎖及び軽鎖の可変領域を含む抗原結合断片、並びに、残りの部分からなる容易に結晶化する「Fc」と呼ばれる断片が生じる。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域の1またはそれ以上のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数個の残基を付加的に有する点でFab断片と異なるが、1つの抗原結合部位を形成する重鎖及び軽鎖の可変領域を含む抗原結合断片である点で構造的にFabと同等である。本発明においては、プロテアーゼによる消化で生成した抗体断片と同一でなくても、パパイン消化により得られるものと同等な、1つの抗原結合部位を形成する重鎖及び軽鎖の可変領域を含む抗原結合断片をFab様抗体と称する。Fab'-SHとは、定常領域の1またはそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を示すものである。F(ab')断片は、F(ab')2のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られている。抗体をペプシンで消化すると、2つの抗原結合部位を有し、抗原を交差結合し得るF(ab')2断片、及び、残りの別な断片(pFc'と呼ばれる)が得られる。本発明においては、ペプシン消化により得られるものと同等な2つの抗原結合部位を有し、抗原を交差結合し得る抗体断片を、F(ab')2様抗体と称する。例えば、これらの抗体断片は組換技術により製造することも可能である。例えば、上述の抗体ファージライブラリーから抗体断片を単離することもできる。また、大腸菌等の宿主より直接F(ab')2-SH断片を回収し、F(ab')2断片の形態に化学的結合させることもできる(Carter et al., Bio/Technology(1992)10:163-7)。さらにまた別の方法としては、F(ab')2断片を直接、組換宿主培養物から単離することもできる。
さらに、本発明で使用される抗体は多特異性抗体であってもよい。多特異性抗体は、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する抗体である。通常このような分子は2個の抗原を結合するものであるが(即ち、二重特異性抗体 (bispecific antibody))、本発明における「多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類)の抗原に対して特異性を有する抗体を包含するものである。多特異性抗体は全長からなる抗体、またはそのような抗体の断片(例えば、F(ab')2 二特異性抗体)であり得る。二重特異性抗体は2種類の抗体の重鎖と軽鎖(HL対)を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる(Millstein et al., Nature(1983)305:537-9)。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。具体的には、結合特異性を有する抗体の可変領域を免疫グロブリンの定常ドメイン配列に融合する。該定常ドメイン配列は、好ましくは免疫グロブリンの重鎖の定常領域の内、ヒンジ、CH2及びCH3領域の一部を少なくとも含むものである。好ましくは、さらに軽鎖との結合に必要な重鎖のCH1領域が含まれる。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、及び、所望により免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAをそれぞれ別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に形質転換する。別々の発現ベクターに各遺伝子を挿入することにより、それぞれの鎖の存在割合が同じでない方が、得られる抗体の収量が上がる場合に、各鎖の発現割合の調節が可能となり都合が良いが、当然ながら、複数の鎖をコードする遺伝子を一つのベクターに挿入して用いることも可能である。
ダイアボディ(diabody; Db)は、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(P. Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90: 6444-8;EP404,097号;WO93/11161号等)。一般にダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中で軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖V領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。このとき2つの異なる抗原(a、b)に対するVLとVHをVLa-VHbとVLb-VHaの組合わせで5残基程度のリンカーで結んだものを同時に発現させると二種特異性Dbとして分泌される。本発明で用いる抗体は、このようなDbであってもよい。
一本鎖抗体(scFvとも記載する)は、抗体の重鎖V領域と軽鎖V領域とを連結することにより得られる。scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg及びMoore編、Springer Verlag, New York(1994)pp.269-315)参照。一本鎖抗体を作成する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。このscFvにおいて、重鎖V領域と軽鎖V領域は、リンカー、好ましくはポリペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A(1988)85: 5879-83)。scFvにおける重鎖V領域及び軽鎖V領域は、同一の抗体に由来してもよく、別々の抗体に由来してもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えば12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。scFvをコードするDNAは、前記抗体の重鎖または重鎖V領域をコードするDNA、及び軽鎖または軽鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、及びその両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明において用いられる「抗体」には、これらの抗体も包含される。
また本発明の抗体は、sc(Fv)2であってもよい。本発明においてsc(Fv)2とは、4つ以上の抗体可変領域をリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である。例えば、[可変領域1](リンカー1)[可変領域2](リンカー2)[可変領域3](リンカー3)[可変領域4] の順に並んでいることを特徴とする抗体が挙げられる。
また、通常、sc(Fv)2は2つのVLと2つのVHの4つの可変領域をリンカーなどで結合して一本鎖にした抗体である(Hudson et al、J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。この2つのVHとVLは異なるモノクローナル抗体由来であってもよい。
sc(Fv)2は、当業者に公知の方法で作製することができ、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。scFvには、抗体のVHおよびVLが含まれ、これらの領域は単一のポリペプチド鎖に存在する(scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg and Moore ed (Springer Verlag, New York) pp.269-315, 1994)を参照)。
また、本発明のsc(Fv)2としては、2つのVH及び2つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が挙げられるが、2つのVHと2つのVLの順序は特に上記配置に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような、配置も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
本発明のsc(Fv)2は抗体可変領域、リンカー以外のアミノ酸配列を含んでいてもよい。
本発明で用いられる抗体の可変領域は、可変領域の全長でもよいが、抗原への結合活性を維持する限り可変領域の部分配列でもよい。又、可変領域中のアミノ酸配列を置換、欠失、付加、挿入などがされていてもよい。例えば、抗原性を低下させるために、キメラ化やヒト化されていてもよい。
また本発明のsc(Fv)2は、そのN末端あるいはC末端にIgGのFc部分等の別のタンパク質を融合してもよい(Clinical Cancer Research, 2004, 10, 1274-1281)。融合するタンパク質は当業者が適宜選択することができる。また本発明のsc(Fv)2は、PEG等のキャリアー高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。また糖鎖付加配列を挿入し、糖鎖を付加してもよい。
抗体の可変領域を結合するリンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996参照)に開示されるリンカー等を用いることができるが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、全て同じ長さのペプチドリンカーを用いてもよいし、異なる長さのペプチドリンカーを用いてもよい。
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser)n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly)n
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となるが、全て同じリンカーを用いてもよいし、異なるリンカーを用いてもよい。
本発明において得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせて抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization: A Laboratoy Course Manual, Daniel R.Marshak et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996);Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)) が、これらに限定されるものではない。クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー及び吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia) 等が挙げられる。また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、上述のようにして得られる抗PCI抗体を有効成分として含有するものである。なお、本発明の抗体を「有効成分として含有する」とは、本発明の抗体を活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、本発明の抗体の含有率を制限するものではない。また、本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、抗PCI抗体に加え、他の肝再生を促進または誘導する有効成分、例えば、HGF等を含有してもよい。
本発明の抗体は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、抗体を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。
本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射、経鼻投与、経肺投与及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射または皮下注射等により全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
また、上述の抗体をコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うための肝再生促進剤及び/または誘導剤とすることも考えられる。遺伝子の投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、HVJベクター等の各種ウイルスベクターとして形成するか(Adolph『ウイルスゲノム法』, CRC Press, Florid (1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内において抗体が発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入若しくは筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、添鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウイルス感染を利用して細胞に投与し、該細胞を動物に再導入することにより抗体をコードする遺伝子を投与してもよい。
2.肝疾患治療剤
上述の抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝再生促進剤及び/または誘導剤は、肝臓の再生を促進または誘導するものであり、薬剤性肝炎、劇症肝炎及びアルコール性肝炎を含む種々の肝炎、並びに肝硬変等の肝臓の再生を必要とする肝疾患に対し有効である。従って、本発明は、抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝疾患治療剤を提供するものである。
3.肝再生制御剤
本発明により、PCIがin vivoにおいて、組織再生及び/または修復を遅延させることが見出された。このような性質より、PCIを肝再生の制御剤として使用できることが判明した。従って、本発明は、PCIを有効成分として含有する、肝再生の制御剤を提供するものである。PCIを有効成分とする本発明の肝再生の制御剤は、肝臓の再生を遅延するものである。
PCIは、分子量約57kDaの一本鎖糖蛋白である。本発明において使用するPCIとしては、天然PCI及び人工的に作製したPCIを用いることができる。ヒト及びその他の哺乳動物のPCIが公知であり(Suzuki, K. et al.,J.Biol.Chem.(1987)262:611-6)、本発明において好適に使用され得る。哺乳動物のPCIとしては、例えばマウス、ラット、またはウシ等のPCIを用いることができるが、本発明はこれらに制限されない(Zechmeister-Machhart, M. et. al.,Gene(1997)186(1):61-6; Wakita, T. et. al., FEBS Lett.(1998)429(3):263-8; Yuasa, J. et. al.,Thromb.Haemost.(2000)83(2):262-7)。本発明において好適なPCIとして、配列番号:4の塩基配列によりコードされる、配列番号:5のアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。本発明において用いるPCIは、HGFaと複合体を形成し、HGFaの活性を阻害するものであればよく、PCIの全長を含むポリペプチドに加え、HGFaとの結合能及び生理活性阻害能を保持したPCIの断片を用いることができる。PCIの全長を含むポリペプチドには、その他のペプチドにより修飾された融合ポリペプチドが包含される。
本発明において使用するPCIは、HGFaと複合体を形成し、HGFaの活性を阻害するものであればよいことから、配列番号:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドの他、該アミノ酸配列において1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、アミノ酸配列バリアントであってもよい。例えば、生体内における安定性、及びHGFaとの結合性等のPCIの物理的及び生物学的特性を改善するために改変を行うことができる。このような改変は、部位特異的変異(Kunkel, Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82: 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。このような変異体は、元のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となったPCIのアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。具体的には、上述の抗体変異体についてのアミノ酸配列の同一性についての説明を参照することができる。
本発明において使用するPCIは、HGFaと複合体を形成し、HGFaの活性を阻害するものである。このようなPCIの活性は、PCIとHGFaとの結合能を測定したり、または、PCIをHGFaと混合してインキュベートし、HGFaの活性を測定することにより検定することができる。PCIを加えなかった場合(PCIによる阻害なしの条件下のHGFa活性)のHGFa活性の値を基に、使用しようとするPCIが所望のHGFa活性の阻害作用を阻害するかどうか、またその阻害の割合が決定される。HGFaの活性の測定は、抗PCI抗体の活性測定についての説明を参照して行うことができる。
PCIは、血液、尿、精漿、滑液またはPCIを発現する細胞若しくは組織等を原料として、その物理的性質等に基づいて天然より単離することができる。また、公知の配列情報に基づき、化学的に合成してもよい。また、遺伝子組換え技術によりPCIをコードする遺伝子、好ましくは該遺伝子を含むベクターにより宿主細胞を形質転換し、遺伝子組換えPCIを産生する形質転換細胞を培養することにより、該細胞またはその培養上清中から得ることもできる。組み換えPCI蛋白質は、例えば、実施例1に記載したようにして調製することができる。
遺伝子工学的方法によりPCIを製造する際に適当なベクターとして、ウイルス、コスミド、プラスミド、バクテリオファージ等を利用した各種ベクターを利用することができる(Molecular Cloning 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987))。所望の宿主細胞内に導入された場合にPCIが発現されるよう、ベクターには適当な制御配列が含まれ、PCIをコードする遺伝子は、該制御配列に対して読み枠がずれないように挿入される。ここで、PCIをコードする遺伝子は、選択されたベクター及び宿主において発現され得るものであればよく、好適には、cDNAを挙げることができるが、場合によっては、RNA等も利用することができる。また、「制御配列」とは、宿主細胞として原核細胞を選択した場合には、少なくともプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターが含まれ、真核細胞の場合には、プロモーター及びターミネーターであり、さらに必要に応じ、エンハンサー、スプライシングシグナル、転写因子、トランスアクチベーター、ポリAシグナル及び/またはポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。PCIを発現するためのベクターは、さらに必要に応じ、形質転換された宿主細胞の選択を容易にするため、選択可能なマーカーを含んでいてもよい。さらに、細胞内で発現されたPCIを、小胞体内腔若しくは細胞外、または、宿主がグラム陰性菌の場合にはペリプラズム内への移行させるためにシグナルペプチドコード配列をPCI遺伝子に付加するようにしてベクターに組み込んでもよい。このようなシグナルペプチドは、選択された宿主細胞において正確に認識されればよく、PCI固有のものでも、異種蛋白質由来のものであってもよい。また、必要に応じリンカー、開始コドン及び終止コドン等を付加してもよい。
ベクターへの遺伝子の挿入は、制限酵素部位を利用したリガーゼ反応により達成できる(Molecular Cloning 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989)Section5.61-5.63; Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987)11.4-11.11)。また、使用する宿主細胞のコドン使用頻度を考慮して、高い発現効率が得られる塩基配列を選択し、ベクターを設計することができる(Grantham et al., Nucleic Acids Res.(1981)9:r43-74)。
適当な宿主に導入してPCIを作製する場合には、上述の発現ベクターと適当な宿主との組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞及び真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1) 哺乳類細胞、例えば、CHO, COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2) 両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、または (3) 昆虫細胞、例えば、Sf9, Sf21, Tn5等、若しくはカイコ等の個体が挙げられる。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、PCI遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりPCIが得られる。
宿主細胞の形質転換は、選択した宿主及びベクターに適した方法を採用すればよい。例えば、原核細胞を宿主とする場合には、カルシウム処理及びエレクトポレーション等による方法が知られている。植物細胞についてはアグロバクテリウム法を、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示できる。本発明は、特にこれらの方法に限定されるわけではなく、公知の核マイクロインジェクション、細胞融合、電気パルス穿孔法、プロトプラスト融合、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、DEAE-デキストラン法、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法を包含する様々な方法を採用することができる。
宿主細胞の培養は、選択した細胞に適した公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とする場合、DMEM、MEM、RPMI-1640、199またはIMDM等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等を添加して、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。その他、培養中、必要に応じ培地の交換、通気、攪拌等の必要とされる操作を行うことができる。
PCIは、公知の手法により精製して用いることが好ましい。PCIは、一般的な蛋白質の精製方法に従って均一に精製することができる。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせてPCIを分離・精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization: A Laboratoy Course Manual, Daniel R.Marshak et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996);Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)) が、本発明は、これらに限定されるものではない。クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー及び吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーは、例えば、PCIに対する抗体を用いて行うことができる。これに限定されるわけではないが、PCIは、下記実施例2記載の方法により好適に精製することができる。
本発明の肝再生の制御剤は、上述のようにして得られるPCIを有効成分として含有するものである。なお、PCIを「有効成分として含有する」とは、PCIを活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、その含有率を制限するものではない。また、本発明の肝再生制御剤は、PCIと合わせて他の肝再生を制御する有効成分を含有してもよい。
PCIは、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、PCIを、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
また、必要に応じPCIをマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、PCIに適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。
本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射、経鼻投与、経肺投与及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射または皮下注射等により全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の肝再生制御剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
また、上述のPCIをコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うための肝再生制御剤とすることも考えられる。遺伝子の投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、HVJベクター等の各種ウイルスベクターとして形成するか(Adolph『ウイルスゲノム法』, CRC Press, Florid (1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内においてPCIが発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入若しくは筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、添鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウイルス感染を利用して細胞に投与し、該細胞を動物に再導入することによりPCIをコードする遺伝子を投与してもよい。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、すべて本発明の一部を構成する。
[実施例1]PCI発現ベクターの構築
1.1 PCI遺伝子のクローニング
全長PCI遺伝子のクローニングは、以下のプライマーを用いたPCR法によって行った。
PCI-up: 5'- ACG AAT TCC ACC ATG CAG CTC TTC CTC (配列番号:1)
PCI-low: 5'- CTG GAT CCT CAG GGG CGG TTC ACT TTG C (配列番号:2)
Human kidney marathon ready cDNA(Clontech)を鋳型とし、上記プライマーを用いPCRを行い、5'末端にEcoRI配列、3'末端にBamHI配列を持つ全ORFを含むヒトPCI遺伝子を増幅した。増幅されたDNA断片を EcoRIとBamHIで消化し、動物細胞発現ベクターであるpCHOIのEcoRIとBamHI切断部位に挿入した。ベクター中のPCI遺伝子について塩基配列を解析し、正しい配列を有したプラスミドをpCHOI-PCIベクターとして選別し、以下の実験において用いた(図1)。
また、Flagタグ付きPCI (PCI-Flag) 発現ベクターの構築は、以下のようにして行った。まず、pCHOI-PCIベクターを鋳型にして、PCI-up及びPCI-low2プライマーを用いてPCRを行いPCI遺伝子の増幅を行った。
PCI-low2: 5'- TTG GAT CCG GGG TTC ACT TTG CCA AG (配列番号:3)
このDNA断片を EcoRIとBamHIで消化し、クローニングサイトの直後にFlagタグを持つ動物細胞発現ベクターpCHOII-FlagのEcoRIとBamHI切断部位に挿入し、Flagタグ付きPCI発現ベクターpCHOII-PCI-Flagを得た(図2)。挿入された塩基配列より、確かにPCI-Flagをコードすることを確認した。
1.2 PCI及びPCI-Flag産生細胞株の樹立
pCHOI-PCI、pCHOII-PCI-FlagをそれぞれPvuIで切断し、直鎖化を行った。このDNA 30μgをCHO細胞(DXB11株)にエレクトロポレーション法により導入した。その後、細胞を5 % FBS (GIBCO BRL CAT#10099-141)を添加したα(-)MEM(核酸未含有)(GIBCO BRL CAT# 12561-056) で培養し、PCIあるいはPCI-Flag産生株の選抜を行った。この段階で得られた細胞株を、終濃度50 nMとなるようにMTXを加えた同培地で培養し、高産生細胞株を樹立した。PCIおよびPCI-Flagの発現は抗PCI抗体(Affinity Biologicals CAT#GAPCI-IG)を用いて確認した。
[実施例2]PCI-Flagの精製
PCI-Flag高発現CHO株を、ローラーボトル(1700 cm2)を用いて、5 % FBSを添加したα(-)MEM(核酸未含有)培地中で培養した。細胞がコンフルエントになるまで培養(37℃、0.5 rpm)した後、培地を除去し、PBSによる洗浄を行い、CHO-S-SFMII培地(GIBCO BRL CAT#12052-098)を添加しさらに72時間培養した。得られた培養上清は、遠心分離により細胞破砕物を除去後、0.45μmフィルターによりろ過して以下の精製に用いた。即ち、培養上清を0.05% Tween20を含む50 mMトリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したCM sepharose Fast Flow カラム(Amersham CAT# 17-0719-01)に添加し、洗浄後、400 mM NaClを含む同緩衝液により溶出した。溶出画分をNaCl濃度が200 mMとなるよう希釈し、150 mM NaClと0.05% Tween20を含む50 mMトリス緩衝液(pH7.4)で平衡化したAnti-Flag M2 agarose affinity gel カラム(SIGMA CAT#A-2220)に添加した。溶出は、0.05% Tween20を含む100 mM グリシン緩衝液 (pH3.5)により行い、溶出画分は、1 M トリス緩衝液(pH8.0)を用いて直ちに中和した。次に、PCI-Flagを含む画分を0.05% Tween20を含む50 mM リン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したCM sepharose Fast Flowカラムに添加後、400 mMのNaClを含む同緩衝液で溶出を行うことにより溶媒置換を行った。さらに、Centricon YM-3(Amicon)による限外ろ過濃縮を行い、PCI-Flagを調製した。精製タンパクは、SDS-PAGEにより分離したのち、クマシー染色、およびPVDF膜へ転写後、抗PCI抗体によるウエスタン解析により確認した(図3A)。
[実施例3]PCIの精製
PCI高発現CHO株を、上記実施例2と同様の方法にてローラーボトル(1700 cm2)を用いて培養し、培養上清を調製した。培養上清を0.05% Tween20を含む50 mMトリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したCM sepharose Fast Flowに添加し、洗浄後、400 mM NaClを含む同緩衝液により溶出した。次に、PCIを含む画分を0.05% Tween20を含む10 mM リン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したHiTrap Heparin HP (Amersham CAT# 17-0407-01)カラムに添加し、段階的にNaCl濃度(0 mMから1000 mM)を上昇させることにより溶出を行った。溶出画分をSuperdex 200 26/60カラム (Amersham CAT# 17-1071-01) に添加し、分子量に従って分画した。溶媒として0.01% Tween 20を含むPBS(PBS-T)を用いた。これを2回繰り返し、PCIを精製した。精製タンパクは、SDS-PAGEにより分離したのち、クマシー染色、及びPVDF膜へ転写後、抗PCI抗体によるウエスタン解析で確認した(図3B)。
[実施例4]PCIに対する中和活性を持つ抗PCI抗体の作製
4.1 免疫及びハイブリドーマの作製
PCI-Flagを免疫抗原として、Balb/cマウス(雌、13週齢、日本チャールズリバー)5匹に定法に従い免疫した。初回免疫には抗原を100μg/headとなるように調製し、FCA{フロイント完全アジュバント(H37 Ra)、Difco(3113-60)ベクトンディッキンソン(cat#231131)}を用いてエマルジョン化したものを皮下に投与し、2週間後に50μg/headとなるように調製したものをFIA{フロイント不完全アジュバント、Difco(0639-60)、ベクトンディッキンソン(cat#263910)}でエマルジョン化したものを皮下に投与した。以降、2週間間隔で追加免疫を合計5回行い、最終免疫では、抗原を50μg/headとなるようにPBSに希釈し、尾静脈内または皮下に投与した。PCIを0.5μg/mlまたは100μl/wellでコートしたイムノプレートを用いたELISAにより、PCIに対する血清中の抗体価が上昇しているのを確認後、No.2マウスは尾静脈内、No.4マウスは皮下に最終免疫を施し、定法に従い、マウスミエローマ細胞P3U1とマウス脾臓細胞を混合し、PEG1500(ロシュ・ダイアグノスティック、cat#783 641)により細胞融合を行った。それぞれマウス由来のハイブリドーマは96穴培養プレート16枚ずつ培養した。フュージョン翌日よりHAT培地{10%FBS / RPMI1640 / 1 x HAT media supplement (SIGMA CAT# H-0262) / 4% BM-Condimed H1 Hybridoma cloning supplement (Roche CAT# 1088947)}で選択を開始し、フュージョン後10日目に培養上清を回収しELISAスクリーニングを行った。ELISAスクリーニングは前述の抗体価測定と同様にPCIを0.5μg/mlまたは100μl/wellでコートしたイムノプレートを用いて行った。
4.2 スクリーニング
4.2.1 ELISA
PCIを用いたELISAスクリーニングにより陽性ウェルを選択した。選択した陽性ウェルは24ウェルプレートに拡大した後、限界希釈法(1陽性ウェルの細胞100個を96ウェルプレート1枚に播き込む)によりクローニングした。クローニングしたハイブリドーマを拡大培養し、培養上清から抗体の精製を行った。290個の陽性ウェルを選択し24ウェルプレートに拡大した後、1次スクリーニングでOD値の高かった方から111個を選び、限界希釈法によりクローニングを行った。限界希釈を行わなかった179個は培養上清を回収し、細胞の保存のみを行った。111個の限界希釈を行ったウェルから最終的に抗体を安定に産生する81クローンを樹立した。
4.2.2 aPC/PCIアッセイ
aPC/PCIアッセイによるPCIに対する中和活性の測定法では、反応液 (50 mM Tris-HCl (pH8.0), 150 mM NaCl, 2 mM CaCl2, 0.1% BSA, 5 U/ml Heparin) にハイブリドーマの培養上清または精製抗体、及び5μg/ml PCIを添加して37℃、30分加温した。0.25μg/ml aPCを添加してさらに37℃、30分加温した。0.4 mM Spectrozyme aPC(American Diagnostica Inc.)を添加し室温で2時間反応させた後、405 nmで比色した(前述の表示濃度はすべて最終濃度で示す)。単一クローン化したハイブリドーマの培養上清81検体について、aPC/PCIアッセイを行い、PCI活性が中和されることによりaPC活性が回復されるクローンの選抜を行った。PCIに対する中和活性が強かったクローンから順番に16クローンを選択し、培養上清からProtein Gカラムにて抗体の精製を行った。精製した抗体を用いて、aPC/PCIアッセイを行ったところ、16クローン中8クローンに抗体の用量に依存した強い中和活性が確認された。これらのうち7クローンの用量依存曲線を図4に示す。
4.2.3 Thrombin(Thr)/Thrombomodulin(TM)/PCIアッセイ
Thrombin(Thr)/Thrombomodulin(TM)/PCIアッセイによるPCIに対する中和活性の測定法では、反応液 (50 mM Tris-HCl (pH8.0), 150 mM NaCl, 2 mM CaCl2, 0.1% BSA, 5 U/ml Heparin) に精製抗体、5μg/ml PCI、2 nM Thr、10 nM TMを添加して37℃、30分加温した。0.73μg/ml PCを添加してさらに37℃、50分加温した後、0.875μg/ml argathrobanを加えて反応を停止した。0.4 mM Spectrozyme aPCを添加し室温で2時間反応させた後、405 nmで比色した(前述の表示濃度はすべて最終濃度で示す)。
精製した抗体のうち、aPC/PCIアッセイにより中和活性が確認された7クローンについてThr/TM/PCIアッセイを行った。その結果、7クローン中3クローン(PC31E2、PC31F1、及びPC30G1)について用量に依存した強い中和活性が確認された(図4)。
4.3 抗体精製
アイソタイプがIgG1、IgG2a、IgG2bであった抗体は、それぞれハイブリドーマ培養上清を20 mM リン酸緩衝液 (pH7.0) で平衡化したHi Trap Protein G HP (Amersham CAT# 17-0404-01) に添加し、洗浄後、0.1 M グリシン緩衝液 (pH2.7) で溶出することにより精製した。溶出画分は1 M トリス緩衝液 (pH9.0) で直ちに中和を行った。抗体を含む画分をプールした後、0.05% Tween20を含むPBSで一昼夜、透析を行い溶媒置換後、0.02%となるようにNaN3を添加した。
4.4 抗PCI抗体のアイソタイプ解析
抗PCI抗体のアイソタイピングは、ImmunoPure Monoclonal Antibody Isotyping Kit II (PIERCE CAT# 37502) を用い、添付のマニュアルに従って行った。樹立した抗PCI抗体81クローンについてアイソタイプ解析をしたところ、IgG1が70クローン、IgG2aが6クローン、IgG2bが4クローン、IgMが1クローンであった。
4.5 BIACOREによる抗PCI抗体の速度論的解析
10 mM 酢酸ナトリウム (pH5.0) で25μg/mlに希釈したPCI-Flagを、アミンカップリングキット(BIACORE社、BR-1000-50)に記載された方法により、センサーチップCM5(BIACORE社、BR-1000-14)にアミンカップリングした。この操作により約3000 RUのPCI-Flagが、CM5チップ上に固定化された。このセンサーチップを用いてBIACORE2000により以下の速度論的解析を行った。即ち、各抗PCI抗体をHBS-EP 緩衝液(BIACORE社、BR-1001-88)により1.25、2.5、5、10、及び20μg/mlになるように希釈した。チップをHBS-EP 緩衝液で平衡化後、流速20μl/minにて各濃度の抗体40μlを添加した。抗体を添加中の2分間を結合相とし、その後HBS-EP 緩衝液に切り換え、2分間を解離相とした。解離相終了後、40μlの10 mM 塩酸、及び40μlの0.05% SDSを連続して添加することにより、センサーチップを再生した。この操作により得られたセンサーグラムを重ね書きし、データ解析用ソフト(BIAevaluation ,ver.3.0) を用い結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、解離定数(KD)及び最大結合量(Rmax)を算出した。
精製抗体を用いたaPC/PCIアッセイにおいてPCIに対する強い中和活性の認められた8つのクローンについて、BIACOREによる速度論的解析を行った結果、解離定数が10-9〜10-10 Mで比較的高親和性の抗体が多く含まれていることが明らかとなった。表1に得られたクローンの抗PCI抗体の性質をまとめる。
中和抗体の性質
[実施例5]抗PCI中和抗体のH鎖及びL鎖の解析
各抗体を産生するハイブリドーマ約1×107 個の細胞よりRNeasy Plant Mini Kits(QIAGEN、Cat. No. 74904)を用いてtotal RNAの抽出を行った。SMART RACE cDNA Amplification Kit (Clontech、Cat. No. K1811-1)を用いて、total RNAからcDNAの合成を行った。PC19G8、PC30G1、PC31E2、PC31F1及びPC39C6は、IgG1の定常領域特異的なプライマー、またPC23A7及びPC23D8はIgG2aの定常領域特異的なプライマーを用いてAdvantage2 PCR Kitにて5'-RACEによるPCRを行い、H鎖及びL鎖の増幅を行った。増幅されたH鎖及びL鎖のDNA断片は、pGEM-T easy vector (Promega、Cat. No. A1360)を用いてクローニングし、塩基配列の決定を行った。
決定された塩基配列を解析されたH鎖及びL鎖の可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ図5及び6に示す。PC19G8及びPC23D8は、アミノ酸配列が一致したことから、同一クローン由来の抗体であることが予測された。ただし、それぞれのアイソタイプは、PC19G8はIgG1であり、PC23D8はIgG2aであったので、クラススイッチが起きたと考えられた。PC23A7及びPC39C6は上記2クローンの抗体に類似した配列を有しており、これら4クローンの抗体のエピトープが近傍にあることが予測された。一方、PC30G1とPC31F1の配列は、前述の4クローンの抗体との類似性は低かったが、これら2クローンは類似の配列を有していたのでお互いのエピトープは近いことが予測された。PC31E2の配列に関しては他の6クローンとは類似性が低いことが明らかとなった。PC19G8、PC23A7、PC23D8及びPC39C6はaPC-PCI系のみ、またPC30G1、PC31E2及びPC31F1はaPC-PCI系及びThr-TM-PCI系の両方を抑制することから、配列上のグループ分けがPCIに対する中和活性の様式をほぼ反映していることが推察された。
[実施例6] PCIの肝再生・修復の制御調節作用の検討
ヒトPCIを過剰発現するPCIトランスジェニックマウス(Journal of Thrombosis and Haemostasis(2004)2:949-61)を用いて、部分肝切除モデルを作製し、PCIの肝再生・修復の制御調節作用の検討を行った。続いて、同モデルマウスにPCI中和抗体を投与し、PCI依存性の肝再生、修復の制御調節に対する作用を検討した。
6. PCIトランスジェニック(PCI-TG)マウスにおけるPCIの肝再生・修復制御調節作用の検討
6.1 マウス
実験は三重大学動物実験審査委員会の承認を得た。実験は米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)の動物実験指針に従って行った。ヒトPCI遺伝子導入(PCI-Tg)マウスの開発および特性評価は以前の研究に記した通りに行った(Hayashi T et al., J Thromb Haemost 2004;2:949-961.)。PCI-Tgマウスおよび野生型(WT)マウスの識別は以前の研究で記したように酵素免疫アッセイにより行った(Hayashi T et al., J Thromb Haemost 2004;2:949-961.)。PCI-TgマウスおよびWTマウスはいずれも餌および水を自由に摂取させ、12時間毎の明暗サイクルを用いる温度調節環境下で飼育した。
6.2 肝部分切除術および試料採取
10〜12週齡のPCI-TgマウスおよびWTマウスを用いた。マウスは体重20〜30gであり、群間差はなかった。ジエチルエーテル吸入下で、マウスに対する2/3肝部分切除術をHiggins and Anderson (Higgins GM et al., Arch Pathol 1931;12:186-202.)に記載された通りに行った(各群n=6)。対照マウスに対しては腹腔切開術のみを行った(各群n=6)。指定された時点でマウスにネンブタール腹腔内投与により麻酔を施した。血液試料は心臓穿刺により採取し、0.38%クエン酸ナトリウム(Nacalai Tesque Inc., Kyoto, Japan)を加えた。残存肝臓は食塩液で洗浄し、切除した上で秤量した。秤量後に血液試料および肝臓試料を液体窒素中で凍結し、使用時まで-80℃で保存した。
6.3 血漿からの34kDa活性型HGFaの検出
34kDa活性型HGFaの精製は、以前の研究に記したものに若干の変更を加えたヘパリン-セファロースクロマトグラフィーを用いて行った。検出にはウエスタンブロット法を用いた(Miyazawa K et al., J Biol Chem 1996;271:3615-3618.)。マウス血漿200μlを、0.05%CHAPS(Dojindo Molecular Technologies, Inc., Kumamoto, Japan)および1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF;Nacalai Tesque Inc., Kyoto, Japan)を含む10mMリン酸緩衝液(pH 7.0)で3倍に希釈した上で、0.05%CHAPSおよび50mM NaCl(Nacalai Tesque Inc., Kyoto, Japan)を含む10mMリン酸ナトリウム(pH 7.0)により平衡化したHi Trap Heparin HPカラム(1cm, Amersham Biosciences Corp., Tokyo, Japan)にかけた。このカラムを1mM PMSFを含む平衡化バッファー4mlで洗浄した。結合したタンパク質を、0.05%CHAPSおよび800mM NaClを含む10mMリン酸ナトリウム(pH 7.0)10mlにより溶出させた。各々の溶出液は、Centricon 30(YM-30;Millipore Corp.)を用いる限外濾過によって40μlに濃縮し、Laemmli液で変性させた上で、ウエスタンブロット分析のための還元条件下でドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)にかけた。
6.4 肝切除後の血漿PCIレベルの検出
PCI-Tgマウスで発現されたヒトPCIの血漿レベルは、以前の研究に記したように(Hayashi T et al., J Thromb Haemost 2004;2:949-961.)、捕捉抗体(0.5μg/ml)用の抗ヒトPCIモノクローナル抗体(2μg/ml)、検出抗体用のビオチン化抗ヒトPCIウサギIgG、およびストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ結合物を用いるELISAによって分析した。
6.5 血漿中のHGFa-PCI複合体の検出
マウス血漿中のHGFa-PCI複合体を検出するために、抗ヒトPCIモノクローナル抗体(Chugai Pharmaceutical Co. Ltd., Tokyo, Japanにより供与)による免疫沈降を行い、抗HGFa抗体を用いるウエスタンブロット法を行った。TgマウスおよびWTマウスの血漿(200μl)をそれぞれ室温で1時間混合した。抗ヒトPCI IgG-セファロースを、1mgの抗ヒトPCIモノクローナル抗体および500μlのBrCN-活性化セファロース4B(Amersham Bioscience, Tokyo, Japan)を製造元の指示に従って用いて調製した。続いてこのセファロースをTris緩衝食塩液(TBS、50mM Tris-HCl pH 7.5、150mM NaCl)で3回洗浄し、1M NaClを含むTBSでさらに3回洗浄した。その後、セファロースを2%SDSおよび5%2-メルカプトエタノールからなるLaemmli液中で変性させ、ウエスタンブロット分析のためにSDS-PAGEにかけた。
6.6 組織のホモジネート化および残存肝におけるHGF活性化アッセイ
肝臓試料のホモジネート化のために用いた緩衝液は、1%SDS、5mmol/l EDTA、3mmol/l EGTAおよびプロテアーゼインヒビター混合物(Nacalai Tesque Inc., Kyoto, Japan)を含む20mM Tris-HCl(pH 7.5)からなる。肝組織0.2gを氷冷ホモジネート化バッファー2ml中に入れて氷上でホモジネート化処理を数分間行った。続いて試料を15000rpm、4°Cで15分間遠心した。上清を集め、これらの試料のタンパク質濃度をビシンコニン酸法(BCA Protein Assay Kit;Pierce Chemical Co., Rockford, IL)を用いて測定した。同量(200μg)ずつのホモジネートを均一な容積にした上で、Laemmli液中で変性させた。続いてこれらを抗HGF抗体を用いるイムノブロット法のためにSDS-PAGEにかけた。
6.7 ウエスタンブロット分析
SDS-PAGEの後、ゲルを20mM Tris、150mMリジンおよび20%メタノールからなるトランスファーバッファー中にて50Vで一晩かけてImmobile-P膜に移行させた。続いて膜を10%脱脂粉乳とともにブロッティングバッファー中に2時間浸漬した。ブロッティングバッファーは0.05%Tween-20を含むDulbeccoリン酸緩衝食塩液(PBS;Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)とした。HGFa検出のための一次抗体はsc-1371(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)とした。HGFに対する抗体はInstitute of Immunology, Co. Ltd.(Tokyo, Japan)から入手した。HGFaに対する一次抗体は1:1000濃度で用いた。HGFに対するものは、2%ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)を含むブロッティングバッファーで1:500として用いた。各一次抗体と室温で2時間インキュベートした後に、1%脱脂粉乳を含むブロッティングバッファー中で膜を3回、合計30分間洗浄した。続いて膜を、2%BSA、ならびにHGFa検出用のアルカリホスファターゼ結合抗ヤギIgG抗体(Promega Corp., Madison, WI)およびHGF検出用の抗マウスIgG抗体(Promega Corp., Madison, WI)を1:5000希釈したものを含むブロッティングバッファー中に置いた。室温で1時間インキュベートした後に、膜をブロッティングバッファーで5回、合計50分間洗浄し、続いてWestern blue安定化基質(Promega Corp., Madison, WI)を用いて免疫染色した。各陽性バンドの強度を画像解析ソフトウエア:Image Gauge(Fuji Photo Film Co. Ltd., Japan)を用いて計測した。
6.8 サイトカインレベルの決定
マウスTNF-αおよびIL-6の血漿中濃度は、市販の酵素免疫アッセイキット(eBioscience, Kobe, Japan)を製造元の指示に従って用いて測定した。
6.9 BrdU取り込みアッセイ
肝切除48時間後の時点でブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みを評価した。50mg/kgのBrdU(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)を腹腔内に注射し、6時間後に殺処理した。肝臓試料を4%ホルマリン中で一晩固定した後に、Dulbeccoリン酸緩衝食塩液(PBS;Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)で洗浄した。続いて標本をパラフィン包埋し、5mm切片を作製した。BrdUの取り込みは抗BrdUモノクローナル抗体(DakoCytomation Japan Co., Kyoto, Japan)を用いて免疫細胞化学的に評価した。各標本のBrdU陽性細胞を無作為に選択した4つの顕微鏡視野で算定した。BrdU標識指数(BrdU L.I.)を以下の通りに算出した:(BrdU陽性細胞)/(同一領域の細胞)× 100(%)。
6.10 生化学的分析
AST、ALTおよびビリルビンの血清レベルをそれぞれ肝壊死マーカーとして、トランスアミナーゼおよびビリルビン用のTest Wako(Wako Pure Chemical Industries Ltd., Osaka, Japan)を用いて測定した。HAの血清レベルはアッセイ(Seikagaku Corp., Tokyo, Japan)を製造元の指示に従って用いて類洞細胞機能として測定した。
6.11 抗ヒトPCI抗体の投与
肝切除実験の前に、抗体の影響を検出するために、PCI-TgマウスおよびWTマウスの両方に対して、ヒトPCIに対する中和抗体200mgを含む食塩液100μlまたは食塩液のみを尾静脈から投与した(各群n=6)。指定された時点にマウスを殺処理し、血漿を上記の通りに採取した。血漿中のPCI活性はS-2366発色性基質を用いるプロテインC活性の定量法により検出した。血漿試料15μlを蒸留水で3倍に希釈し、希釈試料25μlをプロテインCアクチベーター50μl(Protac;American Diagnostica Inc., Greenwich, CT)とともに10分間インキュベートした。続いてS-2366(濃度:0.83mg/ml;Daiichi Pure Chemicals Co. Ltd., Japan)を50μl添加した。37°Cで10分間インキュベートした後に、20%酢酸50μlを添加してこの反応を停止させ、405nmでの吸光度を読み取った。投与手法を決定した後に肝部分切除術を実施し、肝再生に対する影響を、上記と同じ様式で術後第9日の重量および術後48時間でのBrdU取り込みによって評価した。
6.12 統計分析
データは平均および標準偏差として表した。実験はすべて少なくとも3回繰り返した。2群間または3群もしくはそれ以上の群の間の平均の差はそれぞれStudentのt検定および分散分析により検定した。値がp<0.05であれば統計学的に有意とみなした。
6.13 肝切除後早期の残存肝における血漿HGFa、PCIおよびHGFa-PCIレベルならびにHGF活性化の割合の検討
本発明者らはまず、肝切除後早期の残存肝における血漿HGFa、PCI、HGFa-PCI形成、およびHGF活性化の割合を検出した。野生型マウスでは34kDa HGFaの血漿レベルは肝切除から6時間後に術前状態の10倍に上昇した。しかし、PCI-Tg群ではHGFaレベルは上昇しなかった。最高レベルには術後12時間で到達し、これは術前状態の5倍であった(図7)。PCIの血漿レベルも肝部分切除後に急速に低下した。最低レベルに術後12時間で到達し、48時間の時点で回復した(図8)。抗PCI抗体を用いる免疫沈降法および抗HGFa抗体によるウエスタンブロット法により、PCI-TgマウスではHGFa-PCI複合体が術後12時間で検出されることが判明した(図9)。このため残存肝におけるHGFの活性化の割合はPCI-Tgマウスの方が低かった(図10)。これらの所見から、HGFaおよびPCIがともに消費されてHGFa-PCI複合体を形成することが示唆された。このため、肝部分切除後早期のPCI-Tgマウスの残存肝ではHGF活性化が抑制されている。
6.14 肝再生に対するPCIの影響
本発明者らは次に、肝部分切除後の肝再生に対するPCIの影響を評価した。具体的には、PCI-Tgマウス及び同腹の野生型(WT)マウスを用い、定法に従って70%肝切除モデルを作製した。マウスの右横隔葉、左横隔葉及び左臓側葉を手術により切除し、切除から6、24及び48時間、並びに5、7、9、13及び17日後に肝臓を回収し、その湿重量及び体重を計測し、臓器/体重比を求めた。得られた臓器/体重比よりsham operationを行ったマウス(肝切除マウスと同じように麻酔、開腹等の処置を行なうが、肝切除しないマウス)の肝重量/体重比を除した結果を図11に示す。両群ともマウスはすべて生存していた。両群とも肝再生は術後第(POD)5日に始まった。WTマウスではPOD 9に肝重量が完全に回復した。しかし、PCI-Tgマウスでは肝重量が完全には回復せず、偽手術肝の約80%であった。PCI-TgマウスではPOD 17に肝再生過程が完了した(図11、POD 7および9にそれぞれ、WTマウスとの比較でp<0.05)。残存肝の再生能力を調べるために、肝部分切除48時間後の残存肝のBrDU取り込みを評価した(図12)。BrdU標識指数はWTマウスでは19.2±2.5%であったが、PCI-Tgマウスではこの指数は4.9±0.1%と著しく低値であった(WTマウスとの比較でp<0.01)。これらの所見により、PCI-TgマウスはWTマウスに比較して、肝再生能が低いことが認められた。
HGFaおよびPCIの血漿レベルは、PCI-Tgマウスでは肝切除後12時間にわたり低下した(図7および8)。HGFa-PCI複合体は肝切除後12時間の時点でのみ検出された(図9)。これらのデータによれば、PCI-Tgマウスでは肝部分切除後早期にHGFaおよびPCIが消費されてHGFa-PCI複合体を形成する。このために、肝部分切除後の残存肝におけるHGFの活性化が抑制される(図10)。そしてこの障害は増殖活性を低下させる(図11)。その結果、肝部分切除後の肝再生が遅れる(図12)。
ヒトの場合には、PCIが血漿中に正常な状態でも検出され、肝切除直後24時間はHGFaおよびPCIの血漿レベルが急速に低下し、HGFa-PCI複合体が増加する(非提示データ)。これらのデータは、ヒトモデルにおいても、PCIがHGFaを阻害して肝再生に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
6.15 PCI-TgマウスおよびWTマウス間の損傷の違いの評価
本発明者らは、PCI-TgマウスおよびWTマウスの二群間での肝部分切除後の損傷の違いを評するために、炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)および腫瘍壊死因子(TNF)-αの血漿レベルを評価した。図13Aでは、IL-6の血清レベルが急速に上昇し、肝切除24時間後に正常範囲に回復した。血漿IL-6がピークに到達した時点はPCI-Tgマウスの方がWTマウス群よりも早かった。しかし、値に差はみられなかった。いずれの群にもTNF-αレベルに関して有意差は認められなかった(図13B)。
本発明者らは次に、トランスアミナーゼおよびビリルビン血漿HAレベルの長期的変化について評価した。図14Aおよび14Bはそれぞれ、ASTおよびALTレベルが急速に上昇し、肝切除後12時間の時点でピークに達したことを示している。しかし、いずれの群にも有意差は認められなかった。肝再生過程におけるビリルビンレベル(総、直接)は両群とも正常範囲にあった(非提示データ)。HAの血漿レベルも術後の各時点でPCI-Tgマウスの方がWTマウスよりも高かった(図14C、肝切除12時間後にはWTマウスとの比較でp<0.05、他の時点はいずれも有意差なし)。これらの所見は、肝部分切除後のPCI-Tgマウスでは非実質細胞の傷害が悪化していることを示唆する。
6.16 PCI-Tgマウスでの肝再生障害に対する抗PCI抗体投与の効果
この実験に先立ち、本発明者らは投与手法を決定するために、PCI-Tgマウスに対するこの抗体の効果を評価した。具体的には、PCI-Tgマウス及び同腹のWTマウスを用い、実施例1と同様の方法により部分肝切除を行った。肝切除の12時間前にPCI中和抗体(clone#19G8:WO04/065418記載)10mg/kgをマウス尾静脈より投与し、肝切除の2、5及び8日後に同様にPCI中和抗体の投与を行った。緩衝液には、saline(生理食塩水)を用いた。コントロール群として、生理食塩水を同様の方法により投与した。部分肝切除9日後に肝臓を回収し、その湿重量と体重を測定し、臓器/体重比を求めた。
注射の前には、PCI-Tgマウス由来の血漿中のaPC活性は、WTマウス由来の対照血漿による値の35.8±4.3%であった(p<0.01)。投与12時間後には早くもaPC活性が約100%に上昇した。この効果はある程度の期間にわたって持続したが、一部の試料では投与5日後までに約70%に低下した(図15)。この理由から、本発明者らは投与を肝切除の12時間前に開始し、この抗体を72時間毎に投与することを決定した。
得られた臓器/体重比よりsham operationを行ったマウスの肝重量/体比を除した結果を図16Aに示した。図16Aは、抗体を投与したマウスの肝重量がPOD 9にはWTマウスと同様に術前の状態に回復したことを示している(食塩液対照との比較でp<0.01)。BrdUの取り込みも抗体投与によって12.1±1.2%まで増加した(図16Bおよび16C、PCI-Tgマウスの食塩液群との比較でp<0.01、WTマウスとの比較でp<0.05)。これに対して、WTマウスでは抗体投与による効果は認められなかった。これらのデータから、PCI中和抗体の投与により、PCI-Tgマウスで観察された肝再生の遅延が改善されることが判明した。
以上より、抗PCI抗体投与療法は今後、肝臓の再生療法において有望な代替的治療法となり得ることが示された。
本発明により提供される薬剤により、肝臓の再生の制御が可能となる。抗PCI抗体を有効成分とする本発明の肝再生促進剤及び/または誘導剤は、薬剤性肝炎、劇症肝炎及びアルコール性肝炎を含む種々の肝炎、並びに肝硬変等の肝臓の再生を必要とする肝疾患に対し有効である。一方、HGF、PCI中和抗体、あるいは未知の方法で肝再生を促進させた場合、再生反応が過剰に進む可能性がある。PCIを有効成分とする本発明の肝再生の制御剤は、そのような過剰に進行した肝再生を制御・調節するために利用することができる。
本発明により抗PCI抗体が、肝切除モデルマウスにおいて肝再生を促進させることが確認された。これは、PCIがHGFa活性を阻害するという報告(特許文献2)を裏付けるものである。抗PCI抗体の投与によりPCIの活性が中和され、HGFaによる活性型HGFの形成が行われ、肝再生が促進されたと考えられる。即ち、抗PCI抗体の投与により、結果的に、in vivoにおける活性型HGFの産生を助けることができるものと期待される。従って、抗PCI抗体を含む本発明の促進剤及び/または誘導剤は、肝再生のみならず、HGFが有効とされるその他の疾患の治療においても有用である。HGFが治療薬として期待される主な疾患としては、次のものが挙げられる:(1)急性肝炎、脂肪肝、肝硬変、劇症肝炎及び肝ガン等の肝における疾患、(4)心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症等の血管障害、及び拡張型心筋症等の循環器系疾患、(5)変形性関節症及びリウマチ性関節炎等の骨系疾患、並びに(6)脳梗塞及びパーキンソン病等の脳神経系疾患。その他、胃、十二指腸及び皮膚等の傷、並びに、虚血が関与する種々の症状の治癒へのHGFの関与も報告されており、本発明の抗PCI抗体を含む促進剤及び/または誘導剤は、これら多様な疾患に対して効果を示すものと期待される。

Claims (6)

  1. 抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝再生促進剤又は誘導剤。
  2. 抗PCI抗体を有効成分として含有する、肝疾患治療剤。
  3. 抗PCI抗体が、PCIに対して中和作用を有する抗体である、請求項1または2記載の剤。
  4. 肝疾患が肝炎又は肝硬変である、請求項2記載の治療剤。
  5. PCIを有効成分として含有する、肝再生の制御剤。
  6. 肝再生の制御が、肝再生の遅延である、請求項5記載の制御剤。
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