JPWO2006019183A1 - 粘膜免疫、その感作剤を用いる粘膜ワクチン及び予防接種システム - Google Patents
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Abstract
最初に「粘膜免疫能の感作」を行い、次いで「粘膜免疫の創発」を行う予防接種システムおよびアレルギー治療システムを提供する。この予防接種システムは、呼吸器感染症や消化管感染症に対する、粘膜免疫ないしは特異的IgA抗体による安全かつ有効、そして極めて効果的な感染防御手段である。またアレルギー治療システムは、アレルゲンの経口投与又は軽粘膜投与により達成され、IgE依存型のI型アレルギーの治療と予防に福音をもたらす画期的な手段である。
Description
本発明は、粘膜免疫、その感作剤を用いる粘膜ワクチン及び予防接種システムに関するものであり、更に詳しくは、抗原特異的な分泌型免疫グロブリンA(IgA)の優先的かつ効果的、特に選択的な誘導による産生を可能にする粘膜免疫技術に関するものである。
従来の不活化ワクチンには以下に示す欠陥が知られている。
(I)従来の不活化ワクチンの接種ルートは通常、皮下や筋肉内等であり、病原性の細菌やウイルス等の自然感染ルートである粘膜ではない。その結果、被接種者の体内に誘導かつ産生される抗体は主に、血液中の免疫グロブリンG(以下「IgG」又は「IgG抗体」と略記する)である。これに対し、粘膜での分泌型免疫グロブリンA(以下「IgA」又は「IgA抗体」と略記する)は、インフルエンザや新型肺炎SARS等の呼吸器感染症の病原体の感染門戸である鼻腔、気管等の粘膜における感染防御の責任因子であるにも拘わらず、その産生は皆無に近いか極めて僅かである。従って、従来ワクチンの有効性は、確認されてはいるが、感染防御は粘膜に浸出する微量のIgGに依存するため、その効果には限界がある(非特許文献1及び2)。更に、IgG抗体は抗原に対する特異性が高いので、変異抗原や変異ウイルス等には無効であるか有効性が低い。これに対し、IgA抗体は、抗原との交差反応性のスペクトルが広いので、変異ウイルスに対しても中和活性を呈し有効である。この様に、自然感染ルートにおける感染防御には、血中のIgG抗体に比べ、粘膜免疫の責任因子としての粘膜での分泌型IgA抗体の方がはるかに重要であるにも拘わらず、従来の不活化ワクチンによる予防接種においては、該IgAの誘導あるいは粘膜免疫による感染防御は絶望的であった。
(II)更に、従来の不活化ワクチンでは、初回接種による免疫の初期化(priming)だけでは免疫効果が不十分であるので、免疫力を高めるための追加接種によるブースター効果を必要とする。それゆえ、基礎免疫を獲得の、ブースター効果が生じ易い高齢者、成人、学童等でのワクチン効果は顕著であるが、初期化経験のない低年齢層、特に、2歳以下の乳幼児では有効性が認められないことがあった(非特許文献3)。
上述した実情から、粘膜ワクチンや粘膜免疫の実現を目的とした様々な試行錯誤が既に世界の各地で進められてきた。以下、これに係る科学と技術につき説明する。
(i)ワクチン抗原の増量:皮下や筋肉内に接種するワクチン抗原を増量し、抗体産生量を高めることにより、粘膜に浸出するIgG量の増加を図る試み。例えば、インフルエンザウイルスワクチンの場合、現行ワクチンにウイルス膜蛋白のノイラミニダーゼを添加混合することにより抗体産生量の増加を図る技術、アジュバントとしてMF59を用いる方法(非特許文献2)等が試みられているが、痛みや副反応が強くなる等の不都合が報告されている。
(ii)経鼻投与型ワクチン:最も有効だと考えられるIgAによる感染防御のため、液状のスプリット抗原を経鼻に直接接種する方法が試みられたが、IgA産生量の低いことが指摘されている。そこでIgA抗体の産生量を高めるため、上記スプリット抗原にアジュバントとして大腸菌易熱性毒素やコレラ毒素を用いることにより粘膜免疫応答の誘導強化を図り、IgA抗体産生能を上げる試みがなされてはいるが、アジュバントの安全性が保証されていない現状から実用化は困難である。尚、1997年にスイスで臨床使用が認可された経鼻投与型ワクチン、即ち、大腸菌易熱性エンテロ毒素を用いるインフルエンザHA/NAワクチンは、市販後調査の結果、被接種者にベル麻痺(顔面神経麻痺の類)が生じる頻度の統計学的有意性が確定されたため、2004年2月に臨床使用の中止が報じられた(非特許文献4)。
(iii)低温馴化生ワクチンの鼻腔接種:25℃で良好に増殖し、39℃ではほとんど増殖しない低温馴化インフルエンザウイルス株を鼻腔内に接種する方法が実用化されている。しかし、低温馴化親株の弱毒のメカニズムが明らかでなく毒性復帰の可能性が否定できない。また、生きたウイルスが有効成分であるため、細胞への吸着と侵入力が高く、免疫の初期化と持続には優れているが、軽度のインフルエンザ症状が出現するので、インフルエンザに感染すると重症化し易いハイリスク患者や高齢者等には使用できない等の欠点が知られている。
(iv)その他、粘膜免疫や局所免疫に係る体液性免疫だけではなく細胞性免疫をも誘導することを目的とした生ワクチンとして、ワクチニアウイルスのゲノムDNAをウイルスベクターとして用いる技術やリバースジェネティクス等による弱毒生ワクチン、DNAワクチン等々の開発が実験的に行われている。例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスのエンベロープ・スパイク抗原遺伝子を移入することより作成した組換え弱毒パラインフルエンザウイルスを有効成分として用いる粘膜ワクチンのサルへの経鼻及び経気管接種による感染防御例が報告されている(非特許文献5)。しかし、これは未だ前臨床試験の段階にあり、実用化には至っていない。
ところで、この発明に係る粘膜免疫能の感作剤の有効成分として用いるアンブロキソールとその類縁体に係る従来の技術と知見につき、以下、説明する。
アンブロキソール(一般名 ambroxol;CAS登録番号18638−91−5)とその塩酸塩、塩酸アンブロキソール(一般名 ambroxol hydrochlrode;CAS登録番号23828−92−4)は、安全で副作用のほとんど無い去痰剤として乳幼児から老人にまで広く使用されており、急性気管支炎、気管支拡張症等の疾患の治療に用いられている(非特許文献6)。その薬理作用としては、肺表面活性物質(サーファクタント)の産生を高め、痰と気道粘膜との粘着性を低下させ、喀痰喀出を促進させることが一般的に知られている。また、抗酸化作用(非特許文献7)や抗炎症作用(非特許文献8及び9)を呈することも知られている。
ブロムヘキシン(一般名 bromhexine;CAS 登録番号 3572−43−8)とその塩酸塩、塩酸ブロムヘキシン(一般名 bromhexine hydrochrolide;CAS 登録番号 611−75−6)もまた、去痰剤及び慢性気管支炎の治療剤として実用に供されている。尚、ブロムヘキシンは、アンブロキソールの代謝前駆体(アンブロキソールはブロムヘキシンの代謝産物)の関係にあり、アンブロキソールはブロムヘキシンに比べ、水溶性に優れ、毒性が低い。
更に、上述した化合物の用途に関し、アンブロキソール、ブロムヘキシン及びこれ等の薬理学的に許容されうる塩がインフルエンザウイルスの増殖を抑制する作用を利用の用途発明、即ち、抗インフルエンザ薬(本件筆頭発明者の木戸による)が知られている(特許文献1)。尚、この用途発明を支持するインフルエンザウイルスの増殖抑制は、上記化合物による次の作用によることが知られている:(a)インフルエンザウイルスの感染性を誘起する気道内プロテアーゼに対する阻害物質の誘導により、細胞へのウイルス粒子の吸着侵入(感染)をこの段階で阻止すること;(b)該ウイルス感染後に粘膜免疫物質IgAとIgGの分泌を促進すること;及び(c)炎症サイトカインの放出を抑制すること。
しかし、これ等の化合物、即ち、アンブロキソールとその類縁体の用途として、上記のインフルエンザの治療と予防だけに限定しない、任意の感染症に対する粘膜免疫能の感作剤、粘膜ワクチン及び予防接種システムへの利用に関しては、未だ知られていない。
特開2003−155230号公報 日本臨床、第61巻(第11号)、1993−2000頁、2003年 小児内科、第35巻(第10号)、1739−1741頁、2003年 小児内科、第35巻(第10号)、1714−1717頁、2003年 New England Journal of Medicine、第350巻(第9号)、893−903頁、2004年 Lancet、第363巻(第9427号)、2122−2127、2004年 Lung、第163巻、337−344頁、1985年 Research inExperimental Medicine、第196巻、389−398頁、1997年 EuropeanJournal of Medical Research、第2巻、129−132頁、1997年 Inflammation Research、第48巻、86−93頁、1999年
(I)従来の不活化ワクチンの接種ルートは通常、皮下や筋肉内等であり、病原性の細菌やウイルス等の自然感染ルートである粘膜ではない。その結果、被接種者の体内に誘導かつ産生される抗体は主に、血液中の免疫グロブリンG(以下「IgG」又は「IgG抗体」と略記する)である。これに対し、粘膜での分泌型免疫グロブリンA(以下「IgA」又は「IgA抗体」と略記する)は、インフルエンザや新型肺炎SARS等の呼吸器感染症の病原体の感染門戸である鼻腔、気管等の粘膜における感染防御の責任因子であるにも拘わらず、その産生は皆無に近いか極めて僅かである。従って、従来ワクチンの有効性は、確認されてはいるが、感染防御は粘膜に浸出する微量のIgGに依存するため、その効果には限界がある(非特許文献1及び2)。更に、IgG抗体は抗原に対する特異性が高いので、変異抗原や変異ウイルス等には無効であるか有効性が低い。これに対し、IgA抗体は、抗原との交差反応性のスペクトルが広いので、変異ウイルスに対しても中和活性を呈し有効である。この様に、自然感染ルートにおける感染防御には、血中のIgG抗体に比べ、粘膜免疫の責任因子としての粘膜での分泌型IgA抗体の方がはるかに重要であるにも拘わらず、従来の不活化ワクチンによる予防接種においては、該IgAの誘導あるいは粘膜免疫による感染防御は絶望的であった。
(II)更に、従来の不活化ワクチンでは、初回接種による免疫の初期化(priming)だけでは免疫効果が不十分であるので、免疫力を高めるための追加接種によるブースター効果を必要とする。それゆえ、基礎免疫を獲得の、ブースター効果が生じ易い高齢者、成人、学童等でのワクチン効果は顕著であるが、初期化経験のない低年齢層、特に、2歳以下の乳幼児では有効性が認められないことがあった(非特許文献3)。
上述した実情から、粘膜ワクチンや粘膜免疫の実現を目的とした様々な試行錯誤が既に世界の各地で進められてきた。以下、これに係る科学と技術につき説明する。
(i)ワクチン抗原の増量:皮下や筋肉内に接種するワクチン抗原を増量し、抗体産生量を高めることにより、粘膜に浸出するIgG量の増加を図る試み。例えば、インフルエンザウイルスワクチンの場合、現行ワクチンにウイルス膜蛋白のノイラミニダーゼを添加混合することにより抗体産生量の増加を図る技術、アジュバントとしてMF59を用いる方法(非特許文献2)等が試みられているが、痛みや副反応が強くなる等の不都合が報告されている。
(ii)経鼻投与型ワクチン:最も有効だと考えられるIgAによる感染防御のため、液状のスプリット抗原を経鼻に直接接種する方法が試みられたが、IgA産生量の低いことが指摘されている。そこでIgA抗体の産生量を高めるため、上記スプリット抗原にアジュバントとして大腸菌易熱性毒素やコレラ毒素を用いることにより粘膜免疫応答の誘導強化を図り、IgA抗体産生能を上げる試みがなされてはいるが、アジュバントの安全性が保証されていない現状から実用化は困難である。尚、1997年にスイスで臨床使用が認可された経鼻投与型ワクチン、即ち、大腸菌易熱性エンテロ毒素を用いるインフルエンザHA/NAワクチンは、市販後調査の結果、被接種者にベル麻痺(顔面神経麻痺の類)が生じる頻度の統計学的有意性が確定されたため、2004年2月に臨床使用の中止が報じられた(非特許文献4)。
(iii)低温馴化生ワクチンの鼻腔接種:25℃で良好に増殖し、39℃ではほとんど増殖しない低温馴化インフルエンザウイルス株を鼻腔内に接種する方法が実用化されている。しかし、低温馴化親株の弱毒のメカニズムが明らかでなく毒性復帰の可能性が否定できない。また、生きたウイルスが有効成分であるため、細胞への吸着と侵入力が高く、免疫の初期化と持続には優れているが、軽度のインフルエンザ症状が出現するので、インフルエンザに感染すると重症化し易いハイリスク患者や高齢者等には使用できない等の欠点が知られている。
(iv)その他、粘膜免疫や局所免疫に係る体液性免疫だけではなく細胞性免疫をも誘導することを目的とした生ワクチンとして、ワクチニアウイルスのゲノムDNAをウイルスベクターとして用いる技術やリバースジェネティクス等による弱毒生ワクチン、DNAワクチン等々の開発が実験的に行われている。例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスのエンベロープ・スパイク抗原遺伝子を移入することより作成した組換え弱毒パラインフルエンザウイルスを有効成分として用いる粘膜ワクチンのサルへの経鼻及び経気管接種による感染防御例が報告されている(非特許文献5)。しかし、これは未だ前臨床試験の段階にあり、実用化には至っていない。
ところで、この発明に係る粘膜免疫能の感作剤の有効成分として用いるアンブロキソールとその類縁体に係る従来の技術と知見につき、以下、説明する。
アンブロキソール(一般名 ambroxol;CAS登録番号18638−91−5)とその塩酸塩、塩酸アンブロキソール(一般名 ambroxol hydrochlrode;CAS登録番号23828−92−4)は、安全で副作用のほとんど無い去痰剤として乳幼児から老人にまで広く使用されており、急性気管支炎、気管支拡張症等の疾患の治療に用いられている(非特許文献6)。その薬理作用としては、肺表面活性物質(サーファクタント)の産生を高め、痰と気道粘膜との粘着性を低下させ、喀痰喀出を促進させることが一般的に知られている。また、抗酸化作用(非特許文献7)や抗炎症作用(非特許文献8及び9)を呈することも知られている。
ブロムヘキシン(一般名 bromhexine;CAS 登録番号 3572−43−8)とその塩酸塩、塩酸ブロムヘキシン(一般名 bromhexine hydrochrolide;CAS 登録番号 611−75−6)もまた、去痰剤及び慢性気管支炎の治療剤として実用に供されている。尚、ブロムヘキシンは、アンブロキソールの代謝前駆体(アンブロキソールはブロムヘキシンの代謝産物)の関係にあり、アンブロキソールはブロムヘキシンに比べ、水溶性に優れ、毒性が低い。
更に、上述した化合物の用途に関し、アンブロキソール、ブロムヘキシン及びこれ等の薬理学的に許容されうる塩がインフルエンザウイルスの増殖を抑制する作用を利用の用途発明、即ち、抗インフルエンザ薬(本件筆頭発明者の木戸による)が知られている(特許文献1)。尚、この用途発明を支持するインフルエンザウイルスの増殖抑制は、上記化合物による次の作用によることが知られている:(a)インフルエンザウイルスの感染性を誘起する気道内プロテアーゼに対する阻害物質の誘導により、細胞へのウイルス粒子の吸着侵入(感染)をこの段階で阻止すること;(b)該ウイルス感染後に粘膜免疫物質IgAとIgGの分泌を促進すること;及び(c)炎症サイトカインの放出を抑制すること。
しかし、これ等の化合物、即ち、アンブロキソールとその類縁体の用途として、上記のインフルエンザの治療と予防だけに限定しない、任意の感染症に対する粘膜免疫能の感作剤、粘膜ワクチン及び予防接種システムへの利用に関しては、未だ知られていない。
上述したように、皮下や筋肉内に接種する従来の不活化ワクチンから、ウイルスの自然感染ルートである粘膜でのIgA産生を誘導する粘膜ワクチンへの切り替えの必要性は世界的に深く認識されてはいる。しかしながら、粘膜ワクチンに適した安全かつ有効なアジュバントは特定されておらず、また、生ワクチンの危険性が否定できない等の事情により、安全で有効な粘膜ワクチンの実用化は未だ達成されていない。従って、安全かつ有効な粘膜ワクチンの開発及び粘膜免疫を確保する技術の確立は急務の課題であり、その実用化は全世界で待望されているところである。
かかる実情に鑑み、本発明者らは、塩酸アンブロキソールとその類縁体が粘膜免疫にもたらす作用につき、鋭意研究を重ねた結果、これ等の化合物に次の驚くべき新規な薬理作用(1)と(2)のあることを発見した。
(1)塩酸アンブロキソールとその類縁体は「粘膜免疫能の感作」をもたらすこと。ここで言う「粘膜免疫能の感作」とは、「生体の粘膜免疫担当細胞が選択的に活性化ないしは賦活化された状態」を意味する。尚、かかる状態(粘膜免疫能の感作)は、抗原の経粘膜投与により、分泌型IgA抗体、及びIgA産生促進サイトカイン、例えば、TGF−β1の産生量が共に、極めて顕著に増加することにより検出あるいは確認できる。
(2)粘膜免疫能の感作を受けた生体への抗原の経粘膜投与は「粘膜免疫の創発」をもたらすこと。ここで言う「粘膜免疫の創発」とは、「粘膜免疫の感作を受けた生体に、所望の抗原を経粘膜投与すると、その生体において該抗原に対する粘膜免疫が成立(その生体が該抗原に対する粘膜免疫を獲得)すること」を意味する。尚、粘膜免疫の成立は、例えば、上記抗原が病原体の場合、粘膜免疫を獲得した生体に該病原体を経粘膜感染させると、かかる生体において、その病原体の増殖阻止あるいは感染防御が生じることにより確認できる。具体例として、従来のアジュバントワクチンでは、抗原とアジュバントとを共存させたかたちで同時に皮下や筋肉内等の局所に接種することにより、そこでの局所炎症を惹起し、抗原提示能を増強していた。これに対し、本発明では、抗原とは別途又は独立に塩酸アンブロキソールとその類縁体を、抗原やワクチン接種の約3日前から約3日後の期間に経口、皮下、筋肉内等に投与する。尚、マウスやラット等の実験小動物にあっては腹腔内投与が可能である。この投与により、生体の粘膜免疫担当細胞が抗原接種前に一時的に賦活化される(粘膜免疫能の感作)。かかる感作下の生体に所望の抗原やワクチンを鼻腔、口腔、気道等に接種すると、病原体の自然感染ルートである鼻腔、腸管、肺等の粘膜において、その病原体に対する分泌型IgA抗体の産生が極めて効果的かつ優先的、特に選択的に誘導され、粘膜免疫が成立する(粘膜免疫の創発)。
この発明は、上記の発見(1)と(2)に基づくものであり、本発明によれば、以下に記載の、前述課題を解決するための手段が提供される。
1:次の2つ過程(A)粘膜免疫能の感作及び(B)粘膜免疫の創発を、(A)及び(B)の順に行うことを特徴とする予防接種システムあるいは粘膜免疫システム。
2:上記1の予防接種システムあるいは粘膜免疫システムの過程(A)において使用される粘膜免疫能の感作剤(以下「粘膜免疫能感作剤」と記載することがある)。
3:粘膜免疫能の感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する上記2の粘膜免疫能の感作剤。
4:前記1の予防接種システムあるいは粘膜免疫システムの過程Bにおいて使用される抗原やワクチン等。尚、この発明に係る粘膜免疫の創発に用いるワクチンを粘膜ワクチンと呼ぶ。
5:接種ルートが経粘膜、経口等である上記4の抗原、ワクチンないしは粘膜ワクチン等。
6:前記2又は3の粘膜免疫能の感作剤と前記4又は5の抗原やワクチンないしは粘膜ワクチン等とを備えた粘膜ワクチンキット。このキットは、予防接種での使用を容易かつ円滑にするため、粘膜免疫能の感作剤と、所望の抗原やワクチン等とを事前に適宜組合せてセットにすることにより製品化できる。
7:次の2つ過程(A)粘膜免疫能の感作及び(B)粘膜免疫の創発を、(A)及び(B)の順に行うことを特徴とするアレルギー治療システム。
8:粘膜免疫能の感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、前記7に記載のアレルギー治療システムに用いられる感作剤。
9:前記8に記載の感作剤と、経粘膜投与又は経口投与されるアレルゲンとを備えたアレルギー治療キット。
かかる実情に鑑み、本発明者らは、塩酸アンブロキソールとその類縁体が粘膜免疫にもたらす作用につき、鋭意研究を重ねた結果、これ等の化合物に次の驚くべき新規な薬理作用(1)と(2)のあることを発見した。
(1)塩酸アンブロキソールとその類縁体は「粘膜免疫能の感作」をもたらすこと。ここで言う「粘膜免疫能の感作」とは、「生体の粘膜免疫担当細胞が選択的に活性化ないしは賦活化された状態」を意味する。尚、かかる状態(粘膜免疫能の感作)は、抗原の経粘膜投与により、分泌型IgA抗体、及びIgA産生促進サイトカイン、例えば、TGF−β1の産生量が共に、極めて顕著に増加することにより検出あるいは確認できる。
(2)粘膜免疫能の感作を受けた生体への抗原の経粘膜投与は「粘膜免疫の創発」をもたらすこと。ここで言う「粘膜免疫の創発」とは、「粘膜免疫の感作を受けた生体に、所望の抗原を経粘膜投与すると、その生体において該抗原に対する粘膜免疫が成立(その生体が該抗原に対する粘膜免疫を獲得)すること」を意味する。尚、粘膜免疫の成立は、例えば、上記抗原が病原体の場合、粘膜免疫を獲得した生体に該病原体を経粘膜感染させると、かかる生体において、その病原体の増殖阻止あるいは感染防御が生じることにより確認できる。具体例として、従来のアジュバントワクチンでは、抗原とアジュバントとを共存させたかたちで同時に皮下や筋肉内等の局所に接種することにより、そこでの局所炎症を惹起し、抗原提示能を増強していた。これに対し、本発明では、抗原とは別途又は独立に塩酸アンブロキソールとその類縁体を、抗原やワクチン接種の約3日前から約3日後の期間に経口、皮下、筋肉内等に投与する。尚、マウスやラット等の実験小動物にあっては腹腔内投与が可能である。この投与により、生体の粘膜免疫担当細胞が抗原接種前に一時的に賦活化される(粘膜免疫能の感作)。かかる感作下の生体に所望の抗原やワクチンを鼻腔、口腔、気道等に接種すると、病原体の自然感染ルートである鼻腔、腸管、肺等の粘膜において、その病原体に対する分泌型IgA抗体の産生が極めて効果的かつ優先的、特に選択的に誘導され、粘膜免疫が成立する(粘膜免疫の創発)。
この発明は、上記の発見(1)と(2)に基づくものであり、本発明によれば、以下に記載の、前述課題を解決するための手段が提供される。
1:次の2つ過程(A)粘膜免疫能の感作及び(B)粘膜免疫の創発を、(A)及び(B)の順に行うことを特徴とする予防接種システムあるいは粘膜免疫システム。
2:上記1の予防接種システムあるいは粘膜免疫システムの過程(A)において使用される粘膜免疫能の感作剤(以下「粘膜免疫能感作剤」と記載することがある)。
3:粘膜免疫能の感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する上記2の粘膜免疫能の感作剤。
4:前記1の予防接種システムあるいは粘膜免疫システムの過程Bにおいて使用される抗原やワクチン等。尚、この発明に係る粘膜免疫の創発に用いるワクチンを粘膜ワクチンと呼ぶ。
5:接種ルートが経粘膜、経口等である上記4の抗原、ワクチンないしは粘膜ワクチン等。
6:前記2又は3の粘膜免疫能の感作剤と前記4又は5の抗原やワクチンないしは粘膜ワクチン等とを備えた粘膜ワクチンキット。このキットは、予防接種での使用を容易かつ円滑にするため、粘膜免疫能の感作剤と、所望の抗原やワクチン等とを事前に適宜組合せてセットにすることにより製品化できる。
7:次の2つ過程(A)粘膜免疫能の感作及び(B)粘膜免疫の創発を、(A)及び(B)の順に行うことを特徴とするアレルギー治療システム。
8:粘膜免疫能の感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、前記7に記載のアレルギー治療システムに用いられる感作剤。
9:前記8に記載の感作剤と、経粘膜投与又は経口投与されるアレルゲンとを備えたアレルギー治療キット。
図1は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種での鼻腔(a)及び肺胞(b)、並びに皮下接種での鼻腔(c)及び肺胞(d)におけるインフルエンザウイルス増殖に及ぼす塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図2は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種(a)、及び皮下接種(b)による鼻腔粘膜での抗インフルエンザ特異抗体(IgA、IgG)産生に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図3は不活化インフルエンザワクチン経鼻接種(a)、及び皮下接種(b)による肺胞粘膜での抗インフルエンザ抗体(IgA、IgG)産生に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図4は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種(a)、及び皮下接種(b)による血中での抗インフルエンザ抗体(IgA、IgG)産生に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図5は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種による鼻腔(a)及び肺胞(b)粘膜におけるTGF−βの産生量に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図6は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種による肺胞洗浄液(a)と(b)、及び血中(c)と(d)での抗インフルエンザ抗体産生量に及ぼす塩酸アンブロキソールの投与量と投与回数の影響を示す。
発明の効果
この発明は、次の効果をもたらす。
(1)粘膜免疫は、呼吸器や腸管等の感染症病原体に対し、ヒトを含む動物が保有の最強の感染防御機構であり、この発明は、市販されている従来の不活化ワクチンを用いることにより、かかる粘膜免疫を全てのヒトを含む動物に獲得させることを可能にし、これ等の動物を上記感染症への罹患から解放した。このことは、全人類の福音となる。
(2)特に、インフルエンザや新型肺炎SARS等の気道感染症及び人畜共通感染症に対する感染防御は、全人類の社会活動、生産活動、国際交流、生活行動等々において計り知れない精神的かつ経済的な恩恵をもたらす。
(3)予防接種方式に関し、この発明に係るワクチン接種は経口や経鼻等であるので、従来の皮下注射による投与に比べはるかに簡便にあり、しかも全く苦痛を伴わず、また、乳幼児には恐怖をもたらすことなく、容易かつ迅速に予防接種することができる。
(4)アレルギー治療システムは、例えば、アトピー型気管支喘、アレルギー性鼻炎、花粉症、食物アレルギー等のIgE依存型のI型アレルギーの改善や治療に著効を奏する。また、アレルゲンの投与ルートが経口や経鼻等であるので、注射に比べ苦痛を伴わない。
(5)この発明に係る粘膜免疫能の感作剤は、去痰剤として長年にわたる臨床使用と評価に耐え、その安全性は既に確定されている。更に、この予防接種は、経口又は経粘膜で実施され、注射器や注射針を用いないので、疼痛や苦痛を伴わず、乳幼児には恐怖を起こさせない。従って、本発明に係る予防接種システムは、従来の生ワクチンやアジュバントワクチンに比べ、はるかに高い安全性と有効性が保証され、安心状態での非侵襲的な予防接種を可能にする。併せて、この発明は、上記の結果として保健及び医療行政に寄せる国民の信頼性を強力に高める。
(6)本発明は、感染症の蔓延あるいは流行による国内総生産の低下と医療費の上昇を共に防止し、いわゆる富国強産(国が富み産業が強まる)に寄与する。
図2は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種(a)、及び皮下接種(b)による鼻腔粘膜での抗インフルエンザ特異抗体(IgA、IgG)産生に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図3は不活化インフルエンザワクチン経鼻接種(a)、及び皮下接種(b)による肺胞粘膜での抗インフルエンザ抗体(IgA、IgG)産生に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図4は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種(a)、及び皮下接種(b)による血中での抗インフルエンザ抗体(IgA、IgG)産生に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図5は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種による鼻腔(a)及び肺胞(b)粘膜におけるTGF−βの産生量に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を示す。
図6は、不活化インフルエンザワクチン経鼻接種による肺胞洗浄液(a)と(b)、及び血中(c)と(d)での抗インフルエンザ抗体産生量に及ぼす塩酸アンブロキソールの投与量と投与回数の影響を示す。
発明の効果
この発明は、次の効果をもたらす。
(1)粘膜免疫は、呼吸器や腸管等の感染症病原体に対し、ヒトを含む動物が保有の最強の感染防御機構であり、この発明は、市販されている従来の不活化ワクチンを用いることにより、かかる粘膜免疫を全てのヒトを含む動物に獲得させることを可能にし、これ等の動物を上記感染症への罹患から解放した。このことは、全人類の福音となる。
(2)特に、インフルエンザや新型肺炎SARS等の気道感染症及び人畜共通感染症に対する感染防御は、全人類の社会活動、生産活動、国際交流、生活行動等々において計り知れない精神的かつ経済的な恩恵をもたらす。
(3)予防接種方式に関し、この発明に係るワクチン接種は経口や経鼻等であるので、従来の皮下注射による投与に比べはるかに簡便にあり、しかも全く苦痛を伴わず、また、乳幼児には恐怖をもたらすことなく、容易かつ迅速に予防接種することができる。
(4)アレルギー治療システムは、例えば、アトピー型気管支喘、アレルギー性鼻炎、花粉症、食物アレルギー等のIgE依存型のI型アレルギーの改善や治療に著効を奏する。また、アレルゲンの投与ルートが経口や経鼻等であるので、注射に比べ苦痛を伴わない。
(5)この発明に係る粘膜免疫能の感作剤は、去痰剤として長年にわたる臨床使用と評価に耐え、その安全性は既に確定されている。更に、この予防接種は、経口又は経粘膜で実施され、注射器や注射針を用いないので、疼痛や苦痛を伴わず、乳幼児には恐怖を起こさせない。従って、本発明に係る予防接種システムは、従来の生ワクチンやアジュバントワクチンに比べ、はるかに高い安全性と有効性が保証され、安心状態での非侵襲的な予防接種を可能にする。併せて、この発明は、上記の結果として保健及び医療行政に寄せる国民の信頼性を強力に高める。
(6)本発明は、感染症の蔓延あるいは流行による国内総生産の低下と医療費の上昇を共に防止し、いわゆる富国強産(国が富み産業が強まる)に寄与する。
粘膜免疫のための予防接種システム:
このシステムでは被接種者に、先ず「粘膜免疫能の感作」を、次いで「粘膜免疫の創発」を順に行うことにより、粘膜免疫を獲得させる。粘膜免疫能の感作は、粘膜免疫能の感作剤を経口、皮下、筋肉内等にて投与することにより行う。粘膜免疫の創発は、通常、市販の不活化ワクチンや抗原等を、例えば、経粘膜、経口等、具体的には、経鼻、点鼻、経気道、点眼、服薬等々にて接種することにより行う。このシステムは、ヒトだけではなく、実験動物、家畜、家禽、ペット類、魚類等の粘膜免疫にも適用できる。
アレルギー治療システム:
このシステムでは、上述の予防接種システムでの不活化ワクチンや抗原等に代わりアレルゲンを用いる。アレルゲンは、例えば、経粘膜、経口等、具体的には、経鼻、経気道、服用等々により投与する。
粘膜免疫能の感作剤:
この感作剤は、粘膜免疫感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体(類縁化合物)を有効成分として含有する。尚、この発明でいう「アンブロキソールとその類縁体とは、アンブロキソール、ブロムヘキシン、及びこれ等の薬理学的に許容され得る塩」を意味する。
上記有効成分の具体例としては、例えば、アンブロキソール、塩酸アンブロキソール、ブロムヘキシン、塩酸ブロムヘキシン等を上げることができる。これ等の化合物は、それぞれ単独で、又はこれ等の2種以上を組合せて用いることができる。尚、アンブロキソールとその類縁体に関する類縁類似関係、化学的性状に係るCAS登録番号、薬理作用、用途等については、前述した「背景技術」欄に示す通りである。
これ等の化合物の毒性LD50に関し、塩酸アンブロキソールのLD50(重量/体重kg)は、マウスでは腹腔内268mg、経口2,720mg、また、ラットでは腹腔内380mg、経口13,400mgである。ブロムヘキシンのLD50(重量/体重kg)は、ウサギでは10g以上である。アンブロキソールの生殖毒性に関し、経口投与量(重量/体重kg)において、ラット500mgでは生産仔(F1)の出生時体重の有意な低下が、また、ラット3,000mg及びウサギ500mgでは共に胎仔体重の低下がそれぞれ見られ、最大無作用量はラットでは50mg/体重kg、また、ウサギでは40mg/体重kgであるとする報告が知られている。尚、上記の投与量では、ラット及びウサギ共、催奇性は検出されていない。
これ等の化合物の臨床使用とその安全性に関し、例えば、塩酸アンブロキソールはカプセル剤(45mg/ドーズ/カプセル)の去痰剤として、また、塩酸ブロムヘキシンは注射液(4mg/ドーズ/アンプル)の気道粘液溶解剤として、既に約10年以上前から、ベーリンガーインゲルハイム社(ドイツ)で製造・市販され、年間数千万ドーズが臨床使用され、その安全性は市販後調査されている。その結果、重篤な副作用例の報告は知られておらず、これ等の化合物の安全性は世界で広く確定されているところである。
粘膜免疫能感作剤の投与とその時期:
抗原、ワクチン、アレルゲン等の接種の約5日前から約5日後の期間、望ましくは、接種の約2日前から約2日後の期間に連日投与する。投与ルートとしては、経口、皮下や筋肉内等、公知のルートが使用できる。但し、簡便で、しかも苦痛を伴わずに乳幼児でも容易に実施できることを考慮すると、経口投与が好ましい。
粘膜免疫能感作剤の形態:
公知の医薬品担体を添加混合することにより常法に従って製剤化することができる。経口投与剤では、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、トローチ剤、チュアブル剤等、また、液剤では、例えば、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤等として製剤化することができる。
粘膜免疫能感作剤の投与量:
投与量は、ヒトや動物等、被投与対象の年齢、体重、投与ルート等に基づき変量する必要があるが、例えば、塩酸アンブロキソールの経口投与量/体重kg/日は約100mg〜約1mg、望ましくは約20mg〜約5mgの範囲にある。
抗原及びワクチン等:
粘膜免疫の創発に用いる抗原としては、真核細胞、原核細胞、病原菌、ウイルス、クラミジア等々に由来の所望の抗原を、また、ワクチンとしては、市販あるいは従来の不活化ワクチン、例えば、細菌、ウイルス、トキソイド、病原体の構成成分を有効成分として含有する因子ワクチンやスプリットワクチン等々、所望のワクチンをそれぞれ用いることができる。特に、飛沫感染あるいは気道感染ウイルス、例えば、アデノ、コロナ、インフルエンザ、麻疹、風疹、ムンプス、新型肺炎SARS等のウイルスに対する不活化ワクチン、腸管ウイルス、例えば、エンテロ、ポリオ、ロタ等のウイルスに対する不活化ワクチン、細菌ワクチン、例えば市販のDP(ジフテリア・百日せき)混合不活化ワクチン、その他、HIV不活化ワクチン等の使用においては、粘膜免疫による顕著な感染防御効果を得ることができる。
尚、生ワクチンはそれ自身、細胞性免疫及び粘膜免疫を誘導するので本発明に係る予防接種システムは不要であり、その適用外にある。また、生ワクチンは、この発明に係る粘膜免疫の創発に使用できない。その理由は、生ワクチンの有効成分は増殖性の弱毒菌や弱毒ウイルス等であり、細胞性免疫の成立には生ワクチン被接種者の体内でそれ自身の増殖による抗原量の増幅を前提としているので、生ワクチン中の抗原量は不活化ワクチンのそれに比べ約1万分の1以下である。この発明に係る粘膜免疫能の感作下では、生ワクチン中の有効抗原である増殖性の弱毒病原体の増殖・増幅はむしろ阻害あるいは阻止されるため、かかる抗原は量的に免疫学的に認識され得ない。その結果、細胞性免疫は成立せず、また、粘膜免疫は創発されず、粘膜免疫も成立しないことにある。
アレルゲン:
粘膜免疫の創発に用いるアレルゲンとしては、ダニ、ペット動物、昆虫、草本花粉、木本花粉、真菌、食物等に由来の公知あるいは市販の精製アレルゲンを用いることができる:例えば:ダニ由来のDer pI、Der fI、Der mI、Eur mI、ネコ由来のFed dI、ブタクサ由来のAmb aI、スギ由来のCry jI、Cry jII、アスペルギルス由来のAsp fI、鶏卵由来のGal dI、Gal dII等々。
抗原、ワクチン又はアレルゲンの接種あるいは投与ルート:
粘膜免疫応答能の創発を目的とする接種ルートとしては、皮下、皮内、筋肉内等の公知ルートのうち、粘膜が最も望ましい。粘膜に関し、例えば、鼻孔、気管、気道、眼瞼、口腔、腸管等々における組織学的に公知の粘膜を接種ルートとして採用することができる。
抗原、ワクチン又はアレルゲンの粘膜への接種あるいは投与方式:
抗原、ワクチン又はアレルゲンの粘膜への接種は、例えば、経鼻、経口、経眼、経気道等により行うことができる。具体例としては、非経口・経粘膜的には、例えば、液状製剤の抗原、ワクチン又はアレルゲンの点鼻、点眼、噴霧の経気道吸引、粘膜への滴下・噴射・散布・塗布等々、また、経口的には、例えば、シロップ剤、トローチ剤、散剤、錠剤等の抗原やワクチンの服薬、嚥下等により行うことができる。
このシステムでは被接種者に、先ず「粘膜免疫能の感作」を、次いで「粘膜免疫の創発」を順に行うことにより、粘膜免疫を獲得させる。粘膜免疫能の感作は、粘膜免疫能の感作剤を経口、皮下、筋肉内等にて投与することにより行う。粘膜免疫の創発は、通常、市販の不活化ワクチンや抗原等を、例えば、経粘膜、経口等、具体的には、経鼻、点鼻、経気道、点眼、服薬等々にて接種することにより行う。このシステムは、ヒトだけではなく、実験動物、家畜、家禽、ペット類、魚類等の粘膜免疫にも適用できる。
アレルギー治療システム:
このシステムでは、上述の予防接種システムでの不活化ワクチンや抗原等に代わりアレルゲンを用いる。アレルゲンは、例えば、経粘膜、経口等、具体的には、経鼻、経気道、服用等々により投与する。
粘膜免疫能の感作剤:
この感作剤は、粘膜免疫感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体(類縁化合物)を有効成分として含有する。尚、この発明でいう「アンブロキソールとその類縁体とは、アンブロキソール、ブロムヘキシン、及びこれ等の薬理学的に許容され得る塩」を意味する。
上記有効成分の具体例としては、例えば、アンブロキソール、塩酸アンブロキソール、ブロムヘキシン、塩酸ブロムヘキシン等を上げることができる。これ等の化合物は、それぞれ単独で、又はこれ等の2種以上を組合せて用いることができる。尚、アンブロキソールとその類縁体に関する類縁類似関係、化学的性状に係るCAS登録番号、薬理作用、用途等については、前述した「背景技術」欄に示す通りである。
これ等の化合物の毒性LD50に関し、塩酸アンブロキソールのLD50(重量/体重kg)は、マウスでは腹腔内268mg、経口2,720mg、また、ラットでは腹腔内380mg、経口13,400mgである。ブロムヘキシンのLD50(重量/体重kg)は、ウサギでは10g以上である。アンブロキソールの生殖毒性に関し、経口投与量(重量/体重kg)において、ラット500mgでは生産仔(F1)の出生時体重の有意な低下が、また、ラット3,000mg及びウサギ500mgでは共に胎仔体重の低下がそれぞれ見られ、最大無作用量はラットでは50mg/体重kg、また、ウサギでは40mg/体重kgであるとする報告が知られている。尚、上記の投与量では、ラット及びウサギ共、催奇性は検出されていない。
これ等の化合物の臨床使用とその安全性に関し、例えば、塩酸アンブロキソールはカプセル剤(45mg/ドーズ/カプセル)の去痰剤として、また、塩酸ブロムヘキシンは注射液(4mg/ドーズ/アンプル)の気道粘液溶解剤として、既に約10年以上前から、ベーリンガーインゲルハイム社(ドイツ)で製造・市販され、年間数千万ドーズが臨床使用され、その安全性は市販後調査されている。その結果、重篤な副作用例の報告は知られておらず、これ等の化合物の安全性は世界で広く確定されているところである。
粘膜免疫能感作剤の投与とその時期:
抗原、ワクチン、アレルゲン等の接種の約5日前から約5日後の期間、望ましくは、接種の約2日前から約2日後の期間に連日投与する。投与ルートとしては、経口、皮下や筋肉内等、公知のルートが使用できる。但し、簡便で、しかも苦痛を伴わずに乳幼児でも容易に実施できることを考慮すると、経口投与が好ましい。
粘膜免疫能感作剤の形態:
公知の医薬品担体を添加混合することにより常法に従って製剤化することができる。経口投与剤では、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、トローチ剤、チュアブル剤等、また、液剤では、例えば、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤等として製剤化することができる。
粘膜免疫能感作剤の投与量:
投与量は、ヒトや動物等、被投与対象の年齢、体重、投与ルート等に基づき変量する必要があるが、例えば、塩酸アンブロキソールの経口投与量/体重kg/日は約100mg〜約1mg、望ましくは約20mg〜約5mgの範囲にある。
抗原及びワクチン等:
粘膜免疫の創発に用いる抗原としては、真核細胞、原核細胞、病原菌、ウイルス、クラミジア等々に由来の所望の抗原を、また、ワクチンとしては、市販あるいは従来の不活化ワクチン、例えば、細菌、ウイルス、トキソイド、病原体の構成成分を有効成分として含有する因子ワクチンやスプリットワクチン等々、所望のワクチンをそれぞれ用いることができる。特に、飛沫感染あるいは気道感染ウイルス、例えば、アデノ、コロナ、インフルエンザ、麻疹、風疹、ムンプス、新型肺炎SARS等のウイルスに対する不活化ワクチン、腸管ウイルス、例えば、エンテロ、ポリオ、ロタ等のウイルスに対する不活化ワクチン、細菌ワクチン、例えば市販のDP(ジフテリア・百日せき)混合不活化ワクチン、その他、HIV不活化ワクチン等の使用においては、粘膜免疫による顕著な感染防御効果を得ることができる。
尚、生ワクチンはそれ自身、細胞性免疫及び粘膜免疫を誘導するので本発明に係る予防接種システムは不要であり、その適用外にある。また、生ワクチンは、この発明に係る粘膜免疫の創発に使用できない。その理由は、生ワクチンの有効成分は増殖性の弱毒菌や弱毒ウイルス等であり、細胞性免疫の成立には生ワクチン被接種者の体内でそれ自身の増殖による抗原量の増幅を前提としているので、生ワクチン中の抗原量は不活化ワクチンのそれに比べ約1万分の1以下である。この発明に係る粘膜免疫能の感作下では、生ワクチン中の有効抗原である増殖性の弱毒病原体の増殖・増幅はむしろ阻害あるいは阻止されるため、かかる抗原は量的に免疫学的に認識され得ない。その結果、細胞性免疫は成立せず、また、粘膜免疫は創発されず、粘膜免疫も成立しないことにある。
アレルゲン:
粘膜免疫の創発に用いるアレルゲンとしては、ダニ、ペット動物、昆虫、草本花粉、木本花粉、真菌、食物等に由来の公知あるいは市販の精製アレルゲンを用いることができる:例えば:ダニ由来のDer pI、Der fI、Der mI、Eur mI、ネコ由来のFed dI、ブタクサ由来のAmb aI、スギ由来のCry jI、Cry jII、アスペルギルス由来のAsp fI、鶏卵由来のGal dI、Gal dII等々。
抗原、ワクチン又はアレルゲンの接種あるいは投与ルート:
粘膜免疫応答能の創発を目的とする接種ルートとしては、皮下、皮内、筋肉内等の公知ルートのうち、粘膜が最も望ましい。粘膜に関し、例えば、鼻孔、気管、気道、眼瞼、口腔、腸管等々における組織学的に公知の粘膜を接種ルートとして採用することができる。
抗原、ワクチン又はアレルゲンの粘膜への接種あるいは投与方式:
抗原、ワクチン又はアレルゲンの粘膜への接種は、例えば、経鼻、経口、経眼、経気道等により行うことができる。具体例としては、非経口・経粘膜的には、例えば、液状製剤の抗原、ワクチン又はアレルゲンの点鼻、点眼、噴霧の経気道吸引、粘膜への滴下・噴射・散布・塗布等々、また、経口的には、例えば、シロップ剤、トローチ剤、散剤、錠剤等の抗原やワクチンの服薬、嚥下等により行うことができる。
以下、実験例および実施例を上げ、本発明を具体的に説明する。但し、この発明の範囲は、これ等の説明だけに限定されるものではない。
なお、以下の実験例および実施例における試験動物としては、6週齢メスBALB/cマウスおよび、10週齢Hartleyモルモットを日本エスエルシー株式会社(日本・静岡)から購入して用いた。全ての動物実験は徳島大学医学部実験動物センターの感染動物舎(P2レベル)で行われ、徳島大学医学部動物実験委員会のガイドラインに従って行われた。
実験例1
不活化スプリット型インフルエンザワクチンの作製
インフルエンザウイルス A Aichi/68/2/H3N2株を接種した発育鶏卵由来浮遊液(1×108 Plaque forming unit(PFU))(川崎医科大学・微生物学教室 大内正信教授より供与された)を用いて以下の操作でスプリット型インフルエンザワクチンの作成を行った。0.004M PBS(タカラバイオ株式会社 日本・東京・滋賀)で一晩透析されたウイルス浮遊液にβプロピオラクトン(和光純薬株式会社 日本・大阪)を液量の0.05%、最終濃度8nMになるように添加し、氷浴中で18時間インキュベートした。その後、37℃で1.5時間インキュベートすることで、βプロピオラクトンの加水分解を行った。終濃度0.1%となるようにTween20(和光純薬株式会社)を加え、さらにTweenと等量のジエチルエーテル(和光純薬株式会社)を加え、4℃で2時間転倒混和した。この液を2000rpm、5分間遠心分離することにより水層を回収した。さらにAutomatic Environmental SpeedVac System(SAVANT INSTRUMENTS,INC.アメリカ・ニューヨーク)を用いて水層よりジエチルエーテルの除去を行った。これをMillex 0.45μmフィルター(MILLIPORE アメリカ・マサチューセッツ)で濾過し、不活化スプリット型インフルエンザワクチンとして用いた(化学及び血清療法研究所・菊池研究所・熊本)。
実験例2
免疫方法
不活化ワクチンの経鼻投与においては、上記の方法で作製されたスプリット型インフルエンザワクチンを0.2μg/2μl溶液になるようにPBSで希釈し、これをマウスの両鼻腔に1μlずつ合計2μl点鼻投与した。比較のために行った皮下注射においては、同じスプリット型インフルエンザワクチンを0.2μg/50μl溶液になるようにPBSで希釈し、これをマウス頸部皮下に投与した。対照群にはワクチン液と同量のPBSを投与した。4週間後、初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソール(日本ベーリンガーインゲルハイム日本・神戸)はワクチン投与の2日前から2日後にわたり、10mg/マウス体重kgになるように200μlPBS溶液として連日腹腔内投与した。
実験例3
マウス鼻腔・肺洗浄液および血清の調製
2次免疫後2週間目のマウスをペントバルビタール麻酔下で開腹開胸そして気管を切開し、アトム静脈カテーテル節付3Fr(アトムメディカル株式会社 日本・東京)を肺へ挿入後、生理食塩水1mlを注入し、この液を回収した。これを3回繰り返して採取した液、計3mlを肺洗浄液として用いた。肺洗浄液採取後、切開した気管から鼻腔方向へアトム静脈カテーテルを挿入し、1mlの生理食塩水を注入し、鼻から出てきた液を採取した。この液を鼻腔洗浄液として用いた。さらに、心臓より採血を行い5000rpm、10分間の遠心分離により血清を調製した。
実験例4
タンパク定量
鼻腔洗浄液、肺洗浄液、及び血清のタンパク含有量をBCA Protein Assay Reagent Kit(PIERCE アメリカ・イリノイ)を用いて測定した(Analytical Biochemistry、150巻、76−85頁、1985年)。562nmの吸光度はSPECTRA max PLUS 384(Molecular Devices Corporation アメリカ・カリフォルニア)を用いて測定した。
実験例5
ウイルス感染実験及び感染価の評価
実験例1の不活化スプリット型インフルエンザワクチンの調製に用いたのと同じインフルエンザウイルス A Aichi/68/2/H3N2株の卵由来浮遊液を、2次免疫後2週間目のマウスに対して、両鼻腔に合計6.6×104PFU/3μlを滴下して経鼻感染させた。感染3日後に鼻腔、肺洗浄液を上記実施例3と同様にして調製し、ウイルス感染価の評価に用いた。ウイルス感染価の評価はA549細胞(川崎医科大学・微生物学教室 大内正信教授より供与された)を用いて行った。A549細胞は5%牛胎児血清(FCS)/DMEM(Gibco アメリカ・ニューヨーク)を用いて培養を行った。A549細胞を6well培養プレート(グレイナー ドイツ・シュトゥットガルト)に100%コンフルエントになるように継代し、24時間後に無血清培地に交換した。各ウェルにインフルエンザ感染マウスの鼻腔、肺洗浄液を500μlずつ滴下し、CO2インキュベーターにて12時間から16時間37℃で培養を行った。これにモルモットより採血した赤血球1%PBS液を加え、5分間室温下で静置した。これを1mM Ca2+/Mg2+PBSを用いて洗浄し、赤血球を凝集させた細胞をウイルス感染細胞としてカウントし、ウイルス感染価の評価を行った(Infection and Immunity、39巻、879−888頁、1983年)。
実験例6
抗インフルエンザ特異的IgA及びIgGの精製
ELISAアッセイにおける定量の基準として用いるために、抗インフルエンザ特異的IgA及びIgGの精製を以下のようにして行った。rec−Protein Gセファロース 4Bカラム(ZYMED LABORTORIES INC、アメリカ・サンフランシスコ)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、インフルエンザワクチン投与及びウイルス感染マウスの肺洗浄液からIgG画分を精製した。抗マウスIgAヤギIgG(SIGMA)をBrCN活性化セファロース 4Bカラム(Amersham bioscience アメリカ・ニュージャージー)カラムに結合し、Protein Gの素通り画分からこれを用いたクロマトグラフィーによりIgA画分を精製した。免疫に用いた不活化スプリット型インフルエンザワクチンをBrCN活性化セファロースカラムに結合し、IgA、IgG画分からこれを用いた抗原アフィニティークロマトグラフィーによりそれぞれ抗インフルエンザ特異的IgA及びIgGを精製した。リガンドとしての不活化スプリット型インフルエンザワクチンのカラムへのカップリングは0.1M NaHCO3/0.5M NaCl緩衝液(pH8.5)を用いて結合反応を行い、フリーのリガンドを0.1M酢酸/0.5M NaCl緩衝液(pH8.5)を用いて除去後、PBS(pH7.5)により中和を行った。各アフィニティクロマトグラフィーはPBS(pH7.5)によりアフィニティ結合反応及びフリーの抗体の除去を行い、Glycine−HCl緩衝液(pH2.8)によって溶出を行った。溶出された画分は直ちに0.5M Tris−HCl緩衝液(pH9.0)により中和を行い、MilliQ水にて透析後凍結乾燥し、用時PBSに溶解して用いた。
実験例7
抗インフルエンザ抗体の定量
鼻腔、肺洗浄液及び血清中の抗インフルエンザIgA、IgG含有量を、ELISA assayにより定量した。ELISA assayはBETHYL LABORATORIES社(アメリカ・テキサス)のMouse ELISA quantitation kitの方法を一部改変して行った。96穴Nuncイムノプレート(Nalgen Nunc International アメリカ・ニューヨーク)各ウェルにワクチン1μg、ウシ血清アルブミン(BSA,SIGMA アメリカ・ミズーリ)1μg/ml PBS溶液100μlを加え、4℃で一晩固層化反応を行った。その後wash solution(50mM Tris,0.14M NaCl,0.05% Tween20,pH8.0)で3回すすぎワクチン液を除去した。各ウェルに0.15M NaCl,1%BSAを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)200μlを加え、室温で1時間ブロッキング反応を行った。各ウェルをwash solutionで3回すすいだのち、sample/conjugate diluent(50mM Tris,0.15M NaCl,1%BSA,0.05%Tween20,pH8.0)にて適量に希釈した鼻洗浄液・肺洗浄液あるいは血清を100μl加え、室温で2時間反応させた。Goat anti−mouse IgAまたはIgG−HRP(BETHYL LABORATORIES INC.)を二次抗体として用い、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(Kirkegaard & Perry Laboratories,Inc.アメリカ・メリーランド)を用いて発色反応を行った。各ウェルに100μl 2M H2SO4(和光純薬株式会社)を添加することにより反応を停止し、450nmの吸光度をSPECTRA max PLUS 384で測定した。定量のためのスタンダードとして、上記肺洗浄液から精製した抗インフルエンザIgA及びIgG 10ngにつき、前記と同様にして得られた吸光度を用いた。
実験例8
TGF−β1の定量
鼻腔、肺洗浄液中のTGF−β1分泌量を、ELISA assayにより定量した。ELISA assayはTGF−β1 ELISA kit(BIOSOURCE INTERNATIONAL アメリカ・カリフォルニア)を用いて、キットに添付された使用法に従って行った。
実施例1
塩酸アンブロキソールの作用効果(1)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による鼻腔及び肺胞でのウイルス増殖抑制に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻接種では、実験例1で作製の不活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液としてBALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫から2週間経過後に6.6×104 PFUのインフルエンザウイルスを3μl PBS溶液として経鼻感染させた。感染3日後にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で鼻腔、肺洗浄液を調製し、これらを用いてウイルス感染価の評価を行った。その結果を図1に示す。
結果
図1は、経鼻接種での鼻腔洗浄液(a)、肺洗浄液(b)におけるウイルス感染価、皮下接種での鼻腔洗浄液(c)、肺洗浄液(d)におけるウイルス感染価をそれぞれ示す(n=15〜20,平均±SD;+,t検定による有意水準はワクチン投与群に対してp<0.01)。図1(a)と(b)に示すように、経鼻接種の場合、ワクチン投与だけではウイルスの増殖はほとんど抑制されない。しかし、塩酸アンブロキソールの使用はウイルスの増殖を著しく抑制した。他方、皮下接種では、図1(c)と(d)に示すように、塩酸アンブロキソールの使用による効果は認められなかった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールが粘膜免疫担当細胞だけを特異的に賦活性化すること(塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能の感作)及びかかる感作下で不活化ワクチンを経粘膜接種すると、鼻腔や肺粘膜において病原体に対する感染防御・粘膜免疫が成立すること(ワクチンによる粘膜免疫の創発)を示す。
実施例2
塩酸アンブロキソールの作用効果(2)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による鼻腔粘膜での抗体(IgAとIgG)産生に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻では、実験例1で作製した不活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液としてBALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で鼻腔洗浄液を調製しこれらを用いて抗インフルエンザ抗体(IgAとIgG)産生量の定量を行った。その結果を図2に示す。
結果
図2は、経鼻接種(a)、皮下摂取(b)での鼻腔洗浄液中における抗インフルエンザ抗体産生量をそれぞれ示す。図中の白いバーはIgA、黒いバーはIgGをそれぞれ示している。(n=15〜20,平均±SD;+,ワクチン投与群に対してp<0.01)。
図2(a)に示すように、経鼻接種では、塩酸アンブロキソールの使用が、ワクチン接種だけで産生される鼻腔洗浄液中のIgA量を有意に増加させた。特筆すべきは、このアンブロキソール効果は、粘膜免疫の責任因子であるIgA産生量の増加には顕著であるが、IgG産生量の増加ではほとんど認められなかった。尚、皮下接種では、図2(b)に示すように、鼻腔洗浄液ではIgAの産生が見られたが、塩酸アンブロキソールによるIgAの産生量の増加は認められなかった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下での不活化ワクチンの経鼻接種により、粘膜免疫の責任因子である分泌型IgA抗体の鼻腔粘膜での産生量が著しく増加すること(塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーとしての鼻腔粘膜でのIgAの増量)を示す。
実施例3
塩酸アンブロキソールの作用効果(3)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による肺胞粘膜での抗体(IgAとIgG)産生量に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻接種では、実験例1で作製した不活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液として、BALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で肺洗浄液を調製しこれらを用いて抗インフルエンザ抗体(IgAとIgG)産生量の定量を行った。その結果を図3に示す。
結果
図3は、経鼻接種(a)、皮下接種(b)での肺洗浄液中における抗インフルエンザ抗体産生量をそれぞれ示す。図中の白いバーはIgA、黒いバーはIgGをそれぞれ示している。(n=15〜20,平均±SD;+,ワクチン投与群に対してp<0.01)。
図3(a)に示すように、経鼻接種の場合、塩酸アンブロキソールの投与は、ワクチン投与だけで産生される肺洗浄液中のIgA量を有意に増加させた。但し、この効果は、粘膜免疫の責任因子であるIgAに極めて顕著で、IgGには産生量の増加はほとんど認められなかった。尚、図3(b)に示すように、皮下接種の場合でも、肺洗浄液でIgAの産生が見られたが、塩酸アンブロキソールによるIgAの産生量の増加は認められなかった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下での不活化ワクチンの経鼻接種により、粘膜免疫の責任因子である分泌型IgA抗体の肺胞粘膜での産生量が著しく増加すること(塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーとしての肺胞粘膜でのIgAの増量)を示す。
実施例4
塩酸アンブロキソールの作用効果(4)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による血液中での抗体(IgAとIgG)産生量に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻接種では、実験例1で作製した付活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液とし、BALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で血清を調製しこれらを用いて抗インフルエンザ抗体(IgAとIgG)産生量の定量を行った。その結果を図4に示す。
結果
図4は、経鼻接種(a)、皮下接種(b)での血液中における抗インフルエンザ抗体産生量をそれぞれ示す。図中の白いバーはIgA、黒いバーはIgGをそれぞれ示している。(n=15〜20,平均±SD;+,ワクチン投与群に対してp<0.01)。
図4(a)に示すように、経鼻接種の場合、血液中の抗インフルエンザIgA抗体は顕著に増加したが、塩酸アンブロキソールはこの作用に影響を与えなかった。また、血液中の抗インフルエンザIgG抗体の誘導もわずかに認められたが、塩酸アンブロキソールはこの作用にも影響を与えなかった。一方、図4(b)に示すように、皮下接種では、血液中の抗インフルエンザIgGは顕著に増加したが、塩酸アンブロキソールはこの作用に影響を与えなかった。また、血液中の抗インフルエンザIgA抗体の誘導も認められたが、塩酸アンブロキソールはこの作用にも影響を与えず、むしろその産生量は若干、抑制傾向にあった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下であっても、不活化ワクチンの経鼻接種によるIgAの血液中での産生量にはあまり変化が見られないこと(血液中のIgA量は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーにならないこと)を示す。
実施例5
塩酸アンブロキソールの作用効果(5)
−ワクチン経鼻接種による鼻腔及び肺胞粘膜でのTGF−β1産生に対する上記の作用効果−
手続
抗原提示細胞からシグナルを受けたTリンパ球がB細胞に抗体産生を促す段階でサイトカインのTGF−β1が作用するとされている。そこで、ワクチンの経鼻接種による鼻腔及び肺胞両粘膜でのTGF−β1分泌に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を調べた。経鼻接種のワクチンとして、実験例1で作製した付活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液としてBALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与を行った。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で鼻腔洗浄液を調製しこれらを用いてTGF−β1分泌量の定量を行った。その結果を図5に示す。
結果
図5は、ワクチン経鼻接種での鼻腔(a)、肺胞(b)各粘膜におけるTGF−β1濃度を示す。図中の黒いバーはTGF−β1のレベルを示している。(n=8,平均±SE;+,ワクチン投与群に対してp=0.08)。
図5(a)(b)に示すように、塩酸アンブロキソールの投与は、ワクチン経鼻接種だけで誘導されるTGF−β1分泌量を有意に増加させた。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下での不活化ワクチンの経鼻接種により、鼻腔及び肺胞粘膜でのTGF−β1の産生量が著しく増加すること(TGF−β1の増量は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーである)を示す。
実施例6
ワクチン経鼻接種における塩酸アンブロキソールの至適な投与量と投与回数
手続
塩酸アンブロキソールはワクチン接種当日1回あるいは、接種前2日から2日後の5日間に渡って、1、3、及び10mg/マウス体重kgになるよう、それぞれ200μl PBS溶液として腹腔内に投与した。経鼻接種では、インフルエンザ不活化ワクチン0.1μgを1μl PBS溶液としてBALB/cマウス両鼻腔にそれぞれ投与した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与当日1回あるいは、投与前2日から2日後の5日間にわたり、1、3、及び10mg/マウス体重kgになるよう、それぞれ200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫から2週間後にマウスを屠殺し、鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清を採取し、これ等の抗インフルエンザIgA及びIgG抗体量をそれぞれ定量した。その結果を図6に示す。
結果
図6は、肺胞粘膜でのIgA(a)、肺胞粘膜でのIgG(b)、血液中でのIgA(c)及び血液中でのIgG(d)各抗体産生量をそれぞれ示す。図中、白いバーは1回投与;黒いバーは5日間連続投与をそれぞれ示している(n=10〜15,平均±SD;+,アンブロキソール非投与群に対してp<0.01;++,アンブロキソール非投与群に対してp<0.05)。
図6(a)と(b)に示すように、塩酸アンブロキソールの1回投与のみでも、肺胞洗浄液中のIgA抗体は投与量に依存して増加し、3mg/kg体重以上の濃度で有意差(p<0.01)が見られた。検定した濃度の中では、10mg/kg体重で最も強い効果が得られた。投与回数を増やして、投与前2日から2日後の5日間塩酸アンブロキソールを連続投与した場合、1回投与に比べて10mg/kgでのみ、有意な(p<0.05)さらなる増加が見られた。ワクチンのみの処理に対して10mg/kgを5回投与することで、約3倍のIgA抗体の増加が見られた。一方、この条件下における肺胞洗浄液中のIgG抗体量の増加は、塩酸アンブロキソール10mg/kg体重を1回投与した場合を除いて、有意な増加が見られなかった。また、鼻腔洗浄液においては、肺胞洗浄液とほぼ同様な結果が得られ、塩酸アンブロキソールの有効投与量と投与回数において同一の結論に達した。
上記の実験条件下における血液中のIgA及びIgG抗体量は、ほとんど変動が認められなかったが、塩酸アンブロキソール10mg/kgを5回投与した場合でのみ、血液中のIgAに有意な増加が認められた[図6(c)と(d)]。
以上に基づき、塩酸アンブロキソールは、抗原特異的IgAの産生を濃度依存性にて、しかも優先的に増加させた。また、粘膜免疫能の感作剤としての塩酸アンブロキソールのマウス腹腔内投与での必要最小量は10mg/kgであると判断した。
尚、本実施例1〜6では、塩酸アンブロキソールを腹腔内に投与したが、同量を経口投与した場合でも同様の結果が得られた。
参考例1
インフルエンザ不活化ワクチンの代わりにスギ花粉アレルゲンCry j1及びCry J2[生化学工業(株)(日本)製]0.1μg/鼻腔ドーズを用い、実施例2及び3と同様にして上記アレルゲンに対する特異的IgA抗体の産生を確認することができる。但し、ELISAによる抗体測定には抗Cry J1及びJ2各モノクローナル抗体[生化学工業(株)(日本)製]を用いる。
参考例2
日本におけるスギ花粉が飛来の時期(4月上旬〜5月上旬)のうち、そのピーク時の4月中旬に、塩酸アンブロキソール(45mg/ドーズ/カプセル)を毎日1カプセルずつ5日間、連続して服用する。服用終了の後、実験例3の記載に従って鼻腔洗浄液を採取し、実験例7の記載に基づき、スギ花粉アレルゲンCry j1及びCry J2に対する特異的IgA抗体の産生を確認することができる。但し、ELISAによる抗体測定には抗Cry J1及びJ2各モノクローナル抗体[生化学工業(株)(日本)製]を用いる。
なお、以下の実験例および実施例における試験動物としては、6週齢メスBALB/cマウスおよび、10週齢Hartleyモルモットを日本エスエルシー株式会社(日本・静岡)から購入して用いた。全ての動物実験は徳島大学医学部実験動物センターの感染動物舎(P2レベル)で行われ、徳島大学医学部動物実験委員会のガイドラインに従って行われた。
実験例1
不活化スプリット型インフルエンザワクチンの作製
インフルエンザウイルス A Aichi/68/2/H3N2株を接種した発育鶏卵由来浮遊液(1×108 Plaque forming unit(PFU))(川崎医科大学・微生物学教室 大内正信教授より供与された)を用いて以下の操作でスプリット型インフルエンザワクチンの作成を行った。0.004M PBS(タカラバイオ株式会社 日本・東京・滋賀)で一晩透析されたウイルス浮遊液にβプロピオラクトン(和光純薬株式会社 日本・大阪)を液量の0.05%、最終濃度8nMになるように添加し、氷浴中で18時間インキュベートした。その後、37℃で1.5時間インキュベートすることで、βプロピオラクトンの加水分解を行った。終濃度0.1%となるようにTween20(和光純薬株式会社)を加え、さらにTweenと等量のジエチルエーテル(和光純薬株式会社)を加え、4℃で2時間転倒混和した。この液を2000rpm、5分間遠心分離することにより水層を回収した。さらにAutomatic Environmental SpeedVac System(SAVANT INSTRUMENTS,INC.アメリカ・ニューヨーク)を用いて水層よりジエチルエーテルの除去を行った。これをMillex 0.45μmフィルター(MILLIPORE アメリカ・マサチューセッツ)で濾過し、不活化スプリット型インフルエンザワクチンとして用いた(化学及び血清療法研究所・菊池研究所・熊本)。
実験例2
免疫方法
不活化ワクチンの経鼻投与においては、上記の方法で作製されたスプリット型インフルエンザワクチンを0.2μg/2μl溶液になるようにPBSで希釈し、これをマウスの両鼻腔に1μlずつ合計2μl点鼻投与した。比較のために行った皮下注射においては、同じスプリット型インフルエンザワクチンを0.2μg/50μl溶液になるようにPBSで希釈し、これをマウス頸部皮下に投与した。対照群にはワクチン液と同量のPBSを投与した。4週間後、初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソール(日本ベーリンガーインゲルハイム日本・神戸)はワクチン投与の2日前から2日後にわたり、10mg/マウス体重kgになるように200μlPBS溶液として連日腹腔内投与した。
実験例3
マウス鼻腔・肺洗浄液および血清の調製
2次免疫後2週間目のマウスをペントバルビタール麻酔下で開腹開胸そして気管を切開し、アトム静脈カテーテル節付3Fr(アトムメディカル株式会社 日本・東京)を肺へ挿入後、生理食塩水1mlを注入し、この液を回収した。これを3回繰り返して採取した液、計3mlを肺洗浄液として用いた。肺洗浄液採取後、切開した気管から鼻腔方向へアトム静脈カテーテルを挿入し、1mlの生理食塩水を注入し、鼻から出てきた液を採取した。この液を鼻腔洗浄液として用いた。さらに、心臓より採血を行い5000rpm、10分間の遠心分離により血清を調製した。
実験例4
タンパク定量
鼻腔洗浄液、肺洗浄液、及び血清のタンパク含有量をBCA Protein Assay Reagent Kit(PIERCE アメリカ・イリノイ)を用いて測定した(Analytical Biochemistry、150巻、76−85頁、1985年)。562nmの吸光度はSPECTRA max PLUS 384(Molecular Devices Corporation アメリカ・カリフォルニア)を用いて測定した。
実験例5
ウイルス感染実験及び感染価の評価
実験例1の不活化スプリット型インフルエンザワクチンの調製に用いたのと同じインフルエンザウイルス A Aichi/68/2/H3N2株の卵由来浮遊液を、2次免疫後2週間目のマウスに対して、両鼻腔に合計6.6×104PFU/3μlを滴下して経鼻感染させた。感染3日後に鼻腔、肺洗浄液を上記実施例3と同様にして調製し、ウイルス感染価の評価に用いた。ウイルス感染価の評価はA549細胞(川崎医科大学・微生物学教室 大内正信教授より供与された)を用いて行った。A549細胞は5%牛胎児血清(FCS)/DMEM(Gibco アメリカ・ニューヨーク)を用いて培養を行った。A549細胞を6well培養プレート(グレイナー ドイツ・シュトゥットガルト)に100%コンフルエントになるように継代し、24時間後に無血清培地に交換した。各ウェルにインフルエンザ感染マウスの鼻腔、肺洗浄液を500μlずつ滴下し、CO2インキュベーターにて12時間から16時間37℃で培養を行った。これにモルモットより採血した赤血球1%PBS液を加え、5分間室温下で静置した。これを1mM Ca2+/Mg2+PBSを用いて洗浄し、赤血球を凝集させた細胞をウイルス感染細胞としてカウントし、ウイルス感染価の評価を行った(Infection and Immunity、39巻、879−888頁、1983年)。
実験例6
抗インフルエンザ特異的IgA及びIgGの精製
ELISAアッセイにおける定量の基準として用いるために、抗インフルエンザ特異的IgA及びIgGの精製を以下のようにして行った。rec−Protein Gセファロース 4Bカラム(ZYMED LABORTORIES INC、アメリカ・サンフランシスコ)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、インフルエンザワクチン投与及びウイルス感染マウスの肺洗浄液からIgG画分を精製した。抗マウスIgAヤギIgG(SIGMA)をBrCN活性化セファロース 4Bカラム(Amersham bioscience アメリカ・ニュージャージー)カラムに結合し、Protein Gの素通り画分からこれを用いたクロマトグラフィーによりIgA画分を精製した。免疫に用いた不活化スプリット型インフルエンザワクチンをBrCN活性化セファロースカラムに結合し、IgA、IgG画分からこれを用いた抗原アフィニティークロマトグラフィーによりそれぞれ抗インフルエンザ特異的IgA及びIgGを精製した。リガンドとしての不活化スプリット型インフルエンザワクチンのカラムへのカップリングは0.1M NaHCO3/0.5M NaCl緩衝液(pH8.5)を用いて結合反応を行い、フリーのリガンドを0.1M酢酸/0.5M NaCl緩衝液(pH8.5)を用いて除去後、PBS(pH7.5)により中和を行った。各アフィニティクロマトグラフィーはPBS(pH7.5)によりアフィニティ結合反応及びフリーの抗体の除去を行い、Glycine−HCl緩衝液(pH2.8)によって溶出を行った。溶出された画分は直ちに0.5M Tris−HCl緩衝液(pH9.0)により中和を行い、MilliQ水にて透析後凍結乾燥し、用時PBSに溶解して用いた。
実験例7
抗インフルエンザ抗体の定量
鼻腔、肺洗浄液及び血清中の抗インフルエンザIgA、IgG含有量を、ELISA assayにより定量した。ELISA assayはBETHYL LABORATORIES社(アメリカ・テキサス)のMouse ELISA quantitation kitの方法を一部改変して行った。96穴Nuncイムノプレート(Nalgen Nunc International アメリカ・ニューヨーク)各ウェルにワクチン1μg、ウシ血清アルブミン(BSA,SIGMA アメリカ・ミズーリ)1μg/ml PBS溶液100μlを加え、4℃で一晩固層化反応を行った。その後wash solution(50mM Tris,0.14M NaCl,0.05% Tween20,pH8.0)で3回すすぎワクチン液を除去した。各ウェルに0.15M NaCl,1%BSAを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)200μlを加え、室温で1時間ブロッキング反応を行った。各ウェルをwash solutionで3回すすいだのち、sample/conjugate diluent(50mM Tris,0.15M NaCl,1%BSA,0.05%Tween20,pH8.0)にて適量に希釈した鼻洗浄液・肺洗浄液あるいは血清を100μl加え、室温で2時間反応させた。Goat anti−mouse IgAまたはIgG−HRP(BETHYL LABORATORIES INC.)を二次抗体として用い、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(Kirkegaard & Perry Laboratories,Inc.アメリカ・メリーランド)を用いて発色反応を行った。各ウェルに100μl 2M H2SO4(和光純薬株式会社)を添加することにより反応を停止し、450nmの吸光度をSPECTRA max PLUS 384で測定した。定量のためのスタンダードとして、上記肺洗浄液から精製した抗インフルエンザIgA及びIgG 10ngにつき、前記と同様にして得られた吸光度を用いた。
実験例8
TGF−β1の定量
鼻腔、肺洗浄液中のTGF−β1分泌量を、ELISA assayにより定量した。ELISA assayはTGF−β1 ELISA kit(BIOSOURCE INTERNATIONAL アメリカ・カリフォルニア)を用いて、キットに添付された使用法に従って行った。
実施例1
塩酸アンブロキソールの作用効果(1)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による鼻腔及び肺胞でのウイルス増殖抑制に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻接種では、実験例1で作製の不活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液としてBALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫から2週間経過後に6.6×104 PFUのインフルエンザウイルスを3μl PBS溶液として経鼻感染させた。感染3日後にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で鼻腔、肺洗浄液を調製し、これらを用いてウイルス感染価の評価を行った。その結果を図1に示す。
結果
図1は、経鼻接種での鼻腔洗浄液(a)、肺洗浄液(b)におけるウイルス感染価、皮下接種での鼻腔洗浄液(c)、肺洗浄液(d)におけるウイルス感染価をそれぞれ示す(n=15〜20,平均±SD;+,t検定による有意水準はワクチン投与群に対してp<0.01)。図1(a)と(b)に示すように、経鼻接種の場合、ワクチン投与だけではウイルスの増殖はほとんど抑制されない。しかし、塩酸アンブロキソールの使用はウイルスの増殖を著しく抑制した。他方、皮下接種では、図1(c)と(d)に示すように、塩酸アンブロキソールの使用による効果は認められなかった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールが粘膜免疫担当細胞だけを特異的に賦活性化すること(塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能の感作)及びかかる感作下で不活化ワクチンを経粘膜接種すると、鼻腔や肺粘膜において病原体に対する感染防御・粘膜免疫が成立すること(ワクチンによる粘膜免疫の創発)を示す。
実施例2
塩酸アンブロキソールの作用効果(2)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による鼻腔粘膜での抗体(IgAとIgG)産生に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻では、実験例1で作製した不活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液としてBALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で鼻腔洗浄液を調製しこれらを用いて抗インフルエンザ抗体(IgAとIgG)産生量の定量を行った。その結果を図2に示す。
結果
図2は、経鼻接種(a)、皮下摂取(b)での鼻腔洗浄液中における抗インフルエンザ抗体産生量をそれぞれ示す。図中の白いバーはIgA、黒いバーはIgGをそれぞれ示している。(n=15〜20,平均±SD;+,ワクチン投与群に対してp<0.01)。
図2(a)に示すように、経鼻接種では、塩酸アンブロキソールの使用が、ワクチン接種だけで産生される鼻腔洗浄液中のIgA量を有意に増加させた。特筆すべきは、このアンブロキソール効果は、粘膜免疫の責任因子であるIgA産生量の増加には顕著であるが、IgG産生量の増加ではほとんど認められなかった。尚、皮下接種では、図2(b)に示すように、鼻腔洗浄液ではIgAの産生が見られたが、塩酸アンブロキソールによるIgAの産生量の増加は認められなかった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下での不活化ワクチンの経鼻接種により、粘膜免疫の責任因子である分泌型IgA抗体の鼻腔粘膜での産生量が著しく増加すること(塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーとしての鼻腔粘膜でのIgAの増量)を示す。
実施例3
塩酸アンブロキソールの作用効果(3)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による肺胞粘膜での抗体(IgAとIgG)産生量に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻接種では、実験例1で作製した不活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液として、BALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で肺洗浄液を調製しこれらを用いて抗インフルエンザ抗体(IgAとIgG)産生量の定量を行った。その結果を図3に示す。
結果
図3は、経鼻接種(a)、皮下接種(b)での肺洗浄液中における抗インフルエンザ抗体産生量をそれぞれ示す。図中の白いバーはIgA、黒いバーはIgGをそれぞれ示している。(n=15〜20,平均±SD;+,ワクチン投与群に対してp<0.01)。
図3(a)に示すように、経鼻接種の場合、塩酸アンブロキソールの投与は、ワクチン投与だけで産生される肺洗浄液中のIgA量を有意に増加させた。但し、この効果は、粘膜免疫の責任因子であるIgAに極めて顕著で、IgGには産生量の増加はほとんど認められなかった。尚、図3(b)に示すように、皮下接種の場合でも、肺洗浄液でIgAの産生が見られたが、塩酸アンブロキソールによるIgAの産生量の増加は認められなかった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下での不活化ワクチンの経鼻接種により、粘膜免疫の責任因子である分泌型IgA抗体の肺胞粘膜での産生量が著しく増加すること(塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーとしての肺胞粘膜でのIgAの増量)を示す。
実施例4
塩酸アンブロキソールの作用効果(4)
−ワクチンの経鼻と皮下、各接種による血液中での抗体(IgAとIgG)産生量に対する上記作用効果の違い−
手続
経鼻接種では、実験例1で作製した付活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液とし、BALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与した。皮下接種では、経鼻接種に用いたワクチンと同一かつ同量を、50μl PBS溶液としてBALB/cマウス頸部皮下に注射した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で血清を調製しこれらを用いて抗インフルエンザ抗体(IgAとIgG)産生量の定量を行った。その結果を図4に示す。
結果
図4は、経鼻接種(a)、皮下接種(b)での血液中における抗インフルエンザ抗体産生量をそれぞれ示す。図中の白いバーはIgA、黒いバーはIgGをそれぞれ示している。(n=15〜20,平均±SD;+,ワクチン投与群に対してp<0.01)。
図4(a)に示すように、経鼻接種の場合、血液中の抗インフルエンザIgA抗体は顕著に増加したが、塩酸アンブロキソールはこの作用に影響を与えなかった。また、血液中の抗インフルエンザIgG抗体の誘導もわずかに認められたが、塩酸アンブロキソールはこの作用にも影響を与えなかった。一方、図4(b)に示すように、皮下接種では、血液中の抗インフルエンザIgGは顕著に増加したが、塩酸アンブロキソールはこの作用に影響を与えなかった。また、血液中の抗インフルエンザIgA抗体の誘導も認められたが、塩酸アンブロキソールはこの作用にも影響を与えず、むしろその産生量は若干、抑制傾向にあった。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下であっても、不活化ワクチンの経鼻接種によるIgAの血液中での産生量にはあまり変化が見られないこと(血液中のIgA量は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーにならないこと)を示す。
実施例5
塩酸アンブロキソールの作用効果(5)
−ワクチン経鼻接種による鼻腔及び肺胞粘膜でのTGF−β1産生に対する上記の作用効果−
手続
抗原提示細胞からシグナルを受けたTリンパ球がB細胞に抗体産生を促す段階でサイトカインのTGF−β1が作用するとされている。そこで、ワクチンの経鼻接種による鼻腔及び肺胞両粘膜でのTGF−β1分泌に対する塩酸アンブロキソールの作用効果を調べた。経鼻接種のワクチンとして、実験例1で作製した付活化スプリット型インフルエンザワクチン0.1μgをPBS溶液としてBALB/cマウスの両鼻腔に1μlずつ投与を行った。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与前2日から2日後に渡って10mg/マウス体重kgになるように、200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫後2週間目にマウスを屠殺し、上記実験例3と同様の方法で鼻腔洗浄液を調製しこれらを用いてTGF−β1分泌量の定量を行った。その結果を図5に示す。
結果
図5は、ワクチン経鼻接種での鼻腔(a)、肺胞(b)各粘膜におけるTGF−β1濃度を示す。図中の黒いバーはTGF−β1のレベルを示している。(n=8,平均±SE;+,ワクチン投与群に対してp=0.08)。
図5(a)(b)に示すように、塩酸アンブロキソールの投与は、ワクチン経鼻接種だけで誘導されるTGF−β1分泌量を有意に増加させた。
以上の結果は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫担当細胞の特異的感作下での不活化ワクチンの経鼻接種により、鼻腔及び肺胞粘膜でのTGF−β1の産生量が著しく増加すること(TGF−β1の増量は、塩酸アンブロキソールによる粘膜免疫能感作のマーカーである)を示す。
実施例6
ワクチン経鼻接種における塩酸アンブロキソールの至適な投与量と投与回数
手続
塩酸アンブロキソールはワクチン接種当日1回あるいは、接種前2日から2日後の5日間に渡って、1、3、及び10mg/マウス体重kgになるよう、それぞれ200μl PBS溶液として腹腔内に投与した。経鼻接種では、インフルエンザ不活化ワクチン0.1μgを1μl PBS溶液としてBALB/cマウス両鼻腔にそれぞれ投与した。4週間後に初回免疫と同様の方法によって2次免疫を行った。塩酸アンブロキソールはワクチン投与当日1回あるいは、投与前2日から2日後の5日間にわたり、1、3、及び10mg/マウス体重kgになるよう、それぞれ200μl PBS溶液として連日腹腔内に投与した。対照群にはそれぞれ同容量のPBSを投与した。2次免疫から2週間後にマウスを屠殺し、鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清を採取し、これ等の抗インフルエンザIgA及びIgG抗体量をそれぞれ定量した。その結果を図6に示す。
結果
図6は、肺胞粘膜でのIgA(a)、肺胞粘膜でのIgG(b)、血液中でのIgA(c)及び血液中でのIgG(d)各抗体産生量をそれぞれ示す。図中、白いバーは1回投与;黒いバーは5日間連続投与をそれぞれ示している(n=10〜15,平均±SD;+,アンブロキソール非投与群に対してp<0.01;++,アンブロキソール非投与群に対してp<0.05)。
図6(a)と(b)に示すように、塩酸アンブロキソールの1回投与のみでも、肺胞洗浄液中のIgA抗体は投与量に依存して増加し、3mg/kg体重以上の濃度で有意差(p<0.01)が見られた。検定した濃度の中では、10mg/kg体重で最も強い効果が得られた。投与回数を増やして、投与前2日から2日後の5日間塩酸アンブロキソールを連続投与した場合、1回投与に比べて10mg/kgでのみ、有意な(p<0.05)さらなる増加が見られた。ワクチンのみの処理に対して10mg/kgを5回投与することで、約3倍のIgA抗体の増加が見られた。一方、この条件下における肺胞洗浄液中のIgG抗体量の増加は、塩酸アンブロキソール10mg/kg体重を1回投与した場合を除いて、有意な増加が見られなかった。また、鼻腔洗浄液においては、肺胞洗浄液とほぼ同様な結果が得られ、塩酸アンブロキソールの有効投与量と投与回数において同一の結論に達した。
上記の実験条件下における血液中のIgA及びIgG抗体量は、ほとんど変動が認められなかったが、塩酸アンブロキソール10mg/kgを5回投与した場合でのみ、血液中のIgAに有意な増加が認められた[図6(c)と(d)]。
以上に基づき、塩酸アンブロキソールは、抗原特異的IgAの産生を濃度依存性にて、しかも優先的に増加させた。また、粘膜免疫能の感作剤としての塩酸アンブロキソールのマウス腹腔内投与での必要最小量は10mg/kgであると判断した。
尚、本実施例1〜6では、塩酸アンブロキソールを腹腔内に投与したが、同量を経口投与した場合でも同様の結果が得られた。
参考例1
インフルエンザ不活化ワクチンの代わりにスギ花粉アレルゲンCry j1及びCry J2[生化学工業(株)(日本)製]0.1μg/鼻腔ドーズを用い、実施例2及び3と同様にして上記アレルゲンに対する特異的IgA抗体の産生を確認することができる。但し、ELISAによる抗体測定には抗Cry J1及びJ2各モノクローナル抗体[生化学工業(株)(日本)製]を用いる。
参考例2
日本におけるスギ花粉が飛来の時期(4月上旬〜5月上旬)のうち、そのピーク時の4月中旬に、塩酸アンブロキソール(45mg/ドーズ/カプセル)を毎日1カプセルずつ5日間、連続して服用する。服用終了の後、実験例3の記載に従って鼻腔洗浄液を採取し、実験例7の記載に基づき、スギ花粉アレルゲンCry j1及びCry J2に対する特異的IgA抗体の産生を確認することができる。但し、ELISAによる抗体測定には抗Cry J1及びJ2各モノクローナル抗体[生化学工業(株)(日本)製]を用いる。
ヒト、家畜、家禽、魚類、ペット類等のワクチンの製造・販売分野で利用される。尚、この発明は、粘膜免疫の実用化を可能にする技術であり、しかも、この粘膜免疫は最も重要かつ強力な感染防御の手段であるので、医薬品業、動物医薬品業、予防接種に係る世界規模のWHO活動、世界の諸国、及び日本国・都道府県・県市町村単位の保健行政・医療行政にインパクトを与える。
また、スギ花粉、ダニ、ハウスダスト等々に由来のアレルゲンにより生じるIgE依存型のI型アレルギーの治療と予防に多大に寄与する。
また、スギ花粉、ダニ、ハウスダスト等々に由来のアレルゲンにより生じるIgE依存型のI型アレルギーの治療と予防に多大に寄与する。
Claims (9)
- 次の2つ過程(A)粘膜免疫能の感作及び(B)粘膜免疫の創発を、(A)及び(B)の順に行うことを特徴とする予防接種システム。
- 請求項1に記載の予防接種システムの過程(A)において使用される粘膜免疫能の感作剤。
- 粘膜免疫能の感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する請求項2の粘膜免疫能の感作剤。
- 請求項1に記載の予防接種システムの過程(B)において使用される抗原又はワクチン。
- 接種ルートが経粘膜又は経口である請求項4に記載の抗原又はワクチン。
- 請求項2又は3に記載の粘膜免疫能の感作剤と、請求項4又は5に記載の抗原又はワクチンとを備えた粘膜ワクチンキット。
- 次の2つ過程(A)粘膜免疫能の感作及び(B)粘膜免疫の創発を、(A)及び(B)の順に行うことを特徴とするアレルギー治療システム。
- 粘膜免疫能の感作を奏する量のアンブロキソールとその類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、請求項7に記載のアレルギー治療システムに用いられる感作剤。
- 請求項8に記載の感作剤と、経粘膜投与又は経口投与されるアレルゲンとを備えたアレルギー治療キット。
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