JPWO2005077971A1 - ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子(vegf)様タンパク質のヘパリン結合部位より設計された新規なヘパリン結合能を有するペプチドとその用途 - Google Patents
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Abstract
本発明は、VEGF−A165のヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合を阻害し、KDRとVEGF−A165との相互作用に起因する種々の生理的反応を抑制可能な、新規なヘパリン結合性ペプチドとして、ヘビ毒由来のVEGF様タンパク質vammin中のヘパリン結合部位に基づき設計された、該ヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、7〜20アミノ酸残基からなるヘパリン結合能を有するペプチドを提供する。
Description
本発明は、血管内皮増殖因子受容体2型(VEGF receptor 2;KDR)に対する特異的結合性を有し、一方、血管内皮増殖因子受容体1型(VEGF receptor 1;Flt−1)に対する結合性は示さない、ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子(VEGF)様タンパク質中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列に基づき設計されたヘパリン結合性ペプチドと、その医学分野における用途に関する。より具体的には、Vipera ammodytes ammodytesのヘビ毒から単離されたVEGF様タンパク質;vammin、ならびに、Daboia russelli russelliのヘビ毒から単離されたVEGF様タンパク質;VR−1中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列に基づき設計されたヘパリン結合性ペプチドと、該ヘパリン結合性ペプチドを利用する、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF−A)に対するヘパリン結合の抑制を介する、VEGFのKDRへの結合に起因する生理作用抑制などの医学分野における用途に関する。
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF−A)は、血管形成(vasculogenesis)と血管新生(angiogenesis)において、中心的な役割を担っている。血管新生は、創傷治癒、女性の性周期における子宮内膜や黄体形成などといった生理的現象において重要な役割を果たす一方、固形腫瘍の増殖、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾癬などの種々の疾患に対しても、関与していることが知られている。VEGF−Aは、分子量23 kDaのサブユニットがジスルフィド結合によりホモダイマーを形成した糖タンパク質である。VEGF−Aと類似する増殖因子として、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、胎盤成長因子(placental growth factor:PIGF)がある(渋谷正史、倉林正彦編、 実験医学、20(増刊)、 1070−1269 (2002);小野真弓、桑野信彦著、 血管新生とがんの生物学、 共立出版、 1−97 (2000);佐藤靖史編、 血管新生の最前線、 羊土社、 10−171 (1999)を参照)。VEGFは、血管内皮細胞のVEGFR−1(fms−like tyrosine kinase−1:Flt−1)とVEGFR−2(kinase insert domain−containing receptor:KDR)に高親和性に結合する。VEGF−Aの内皮細胞の増殖シグナルおよび血圧降下作用には、主にKDRを介していることが示唆されている(Li, B.等, Hypertension, 39, 1095−1100 (2002)を参照)。また、KDRを介したシグナル伝達により産生されるNOは、血管弛緩作用、血小板凝集阻害、抗血栓作用、抗炎症作用などさまざまな生理活性を有し、抗動脈硬化的に働いていると考えられている(渋谷正史、倉林正彦編、 実験医学、20(増刊)、 1070−1269 (2002)を参照)。
VEGF−Aをコードするヒト遺伝子は、8個のエキソンで構成され、alternative splicingに由来するスプライシング変異体の存在が確認されている。すなわち、成熟モノマーとして、121、145、165、189、ならびに、206アミノ酸残基を有する5種のiso−form;VEGF−A121、VEGF−A145、VEGF−A165、VEGF−A187、VEGF−A206が存在し、特に、VEGF−A165は、エキソン6でコードされる部分アミノ酸配列を欠き、また、VEGF−A121は、エキソン6、エキソン7でコードされる部分アミノ酸配列を欠いていることが確認されている。なかでも、VEGF−A165は、多くの組織において遊離型として発現され、成熟型かつ活性型のVEGFとして機能することが確認されている。また、VEGF−A165は、ヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合性をも有し、低い濃度ヘパリンの共存下においては、KDRに対するVEGF−A165の親和性の亢進がなされ、一方、高い濃度ヘパリンを存在させた際には、KDRに対するVEGF−A165の親和性の亢進は認められないことも報告されている(国際公開 第01/ 72829号パンフレットを参照)。その他、neuropilin−1もVEGF−A165と結合し、KDRへの親和性を亢進することによって、VEGF−A165に対する特異的なco−receptorとして機能することも報告されている(特開 2003−12541号公報を参照)。
一方、KDRとVEGF−A165との相互作用を阻害すると、固形腫瘍の増殖あるいは転移、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症における血管新生が抑制され、これら疾患の進行を阻害可能である。従って、KDRとVEGF−A165との相互作用を阻害する機能を有する、KDRに対する特異的な親和性を示すアンタゴニスト、あるいは、VEGF−A165に対して特異的な結合性を有するKDRとの結合阻害物質の探索が進められている。
なお、上記のParapoxウィルスに由来するVEGF−Eの他、VEGF−A165と類似するアミノ酸配列を有し、KDRに対する結合性を示すタンパク質としては、Vepera aspis aspisのヘビ毒素中から、血圧降下因子(hypotensive factor:HF)が、VEGFと相同性を有するVEGF様分子として単離された(Komori, Y.等, Toxicon, 28, 359−369 (1990);Komori, Y.等, Biochemistry, 38, 11796−11803 (1990)を参照)。更には、つい最近、snake venom VEGFとincreasing capillary permeability protein(ICPP)の2種のVEGF様分子が、それぞれ、他のヘビ毒から単離されており、この二種のヘビ毒由来のVEGF様蛋白質は、血管透過性と血管新生の活性を有することが示されている(Junqueira de Azevedo, I. L.等, J. Biol. Chem., 276, 39836−39842 (2001);Gasmi, A.等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 268, 69−72 (2000);Gasmi, A.等, J. Biol. Chem., 277, 29992−29998 (2002)を参照)。
なお、上記のParapoxウィルスに由来するVEGF−Eの他、VEGF−A165と類似するアミノ酸配列を有し、KDRに対する結合性を示すタンパク質としては、Vepera aspis aspisのヘビ毒素中から、血圧降下因子(hypotensive factor:HF)が、VEGFと相同性を有するVEGF様分子として単離された(Komori, Y.等, Toxicon, 28, 359−369 (1990);Komori, Y.等, Biochemistry, 38, 11796−11803 (1990)を参照)。更には、つい最近、snake venom VEGFとincreasing capillary permeability protein(ICPP)の2種のVEGF様分子が、それぞれ、他のヘビ毒から単離されており、この二種のヘビ毒由来のVEGF様蛋白質は、血管透過性と血管新生の活性を有することが示されている(Junqueira de Azevedo, I. L.等, J. Biol. Chem., 276, 39836−39842 (2001);Gasmi, A.等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 268, 69−72 (2000);Gasmi, A.等, J. Biol. Chem., 277, 29992−29998 (2002)を参照)。
上述するように、KDRとVEGF−A165との相互作用を阻害すると、固形腫瘍の増殖あるいは転移、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症における血管新生が抑制され、これら疾患の進行を阻害可能である。従来の研究においては、KDRとVEGF−A165との相互作用を阻害する手段として、KDRとVEGF−A165との相互作用を阻害する機能を有する、KDRに対する特異的な親和性を示すアンタゴニスト、あるいは、VEGF−A165に対して特異的な結合性を有するKDRとの結合阻害物質の探索に研究の関心が集中している。
本発明者らは、これら従来のアプローチに加えて、VEGF−A165は、ヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合性をも有し、低い濃度の遊離型ヘパリンの共存下においては、KDRに対するVEGF−A165の親和性の亢進がなさる点に着目して、このヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンとVEGF−A165との結合を抑制する手段も、KDRとVEGF−A165との相互作用の抑制に大きな貢献を有することに想到した。しかしながら、現状では、細胞表面に存在するヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンのVEGF−A165に対する結合性を抑制する手段として、高い特異性を有し、また有効な手段は提案されてなく、これから解決すべき課題であることも判明した。
本発明は、前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、VEGF−A165の細胞表面に存在するヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合を阻害し、例えば、ヘパリンの存在下における、KDRとVEGF−A165との相互作用に起因する種々の生理的反応を抑制可能な、新たな手段を提供することにある。具体的には、VEGF−A165が細胞膜上に存在するKDRとの結合を形成するに際して、同時に結合して、VEGF−A165に対するco−receptor様の機能を有する、細胞表面に存在しているヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンと高い結合性を示し、VEGF−A165とヘパリンとの複合体形成を競争的に阻害する新規な物質を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を進める過程において、先ず、VEGF−A165のヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合に関与する部位は、そのC末端側に存在することが報告されていること(Keyt,B.A. et al., J. Biol. Chem., vol.271 7788−7795 (1996)などを参照)に着目し、具体的には、組換え生産VEGF−A165モノマーにおいて、Ala111〜Arg165の部位をプラスミン消化により除いた、C末端切除型タンパク質モノマーを調製し、そのヘパリン結合性を検証したところ、ヘパリン結合性を喪失していることが確認された。加えて、かかるVEGF165由来のC末端切除型タンパク質のホモ二量体は、in vitroにおけるKDRに対する結合性は、ペパリン非存在下においては、基としたVEGF−A165のホモ二量体と遜色のないものであることも確認された。しかしながら、in vitroのウシ大動脈内皮細胞の増殖試験において、その増殖惹起作用は、VEGF165由来のC末端切除型改変タンパク質のホモ二量体は、基としたVEGF165のホモ二量体よりも、格段に低下していることも判明した。すなわち、VEGF165のKDRへの結合に加えて、内皮細胞表面に存在するプロテオグリカン型のペパリン、またはヘパラン硫酸プロテオグリカンとも同時に結合することが、KDRとの結合に引き続く、細胞内での生理的反応の誘起に必須であることが確認される。
さらには、発明者らが、ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質として、新たに単離・同定したVipera ammodytes ammodytes由来のVEGF様タンパク質;vammin、Daboia russelli russelli由来のVEGF様タンパク質;VR−1に関しても、KDRとの結合に引き続く、細胞内での生理的反応の誘起には、細胞表面に存在するプロテオグリカン型のペパリン、またはヘパラン硫酸プロテオグリカンとも同時に結合すること必要であることを見出した。これらヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質における、ヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合に関与する部位を探索したところ、そのC末端の部分のみが、ヘパリンとの結合に関与することを見出した。実際に、このvamminのC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg110)あるいはVR−1のC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg109)を有するペプチド断片を合成し、そのヘパリン結合能(親和性)を評価したところ、vammin、VR−1中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列を示すことが確認された。また、vammin、VR−1中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列に加えて、そのアミノ酸配列に基づき設計された改変型アミノ酸配列を有する一連のペプチド群も高いヘパリン結合能(親和性)を保持することも検証した。さらには、そのヘパリン結合能(親和性)において、支配的な機能を有するアミノ酸配列部分は、R−P−R−X−K−Q−G(Xは、RまたはW)の部分であることも確認した。
さらには、前記vammin、VR−1中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列に基づき設計された、ヘパリン結合能(親和性)を保持する合成ペプチド断片は、VEGF−A165、あるいはvamminによる血管内皮細胞の増殖誘導作用を濃度依存的に抑制する作用を示し、また、in vivoにおいては、VEGF−A165が示す、KDRを介したシグナル伝達により産生されるNOに因る血圧降下能を濃度依存的に抑制する作用を示すことをも検証した。以上の知見に基づき、本発明者らは、本発明の第一の形態を完成するに到った。
すなわち、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
7〜20アミノ酸残基からなることを特徴とするヘパリン結合能を有するペプチドである。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
7〜20アミノ酸残基からなることを特徴とするヘパリン結合能を有するペプチドである。
従って、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドには、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
AN−R−P−R−X−K−Q−G−AC
(AN、ACは、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN、ACのアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含される。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
AN−R−P−R−X−K−Q−G−AC
(AN、ACは、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN、ACのアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含される。
さらに、前記第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−Gに加えて、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第二の部分アミノ酸配列:
K−E−K−P−Rをも含み、
前記第一の部分アミノ酸配列のC末端に、前記第二の部分アミノ酸配列が、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列を介して連結されているヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第二の部分アミノ酸配列:
K−E−K−P−Rをも含み、
前記第一の部分アミノ酸配列のC末端に、前記第二の部分アミノ酸配列が、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列を介して連結されているヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
特には、vammin中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列:
R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
加えて、本発明は、上記の本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドを利用する方法の発明として、VEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤としての用途発明をも提供し、
すなわち、本発明の第一の形態にかかるVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤は、
VEGF−A165のヘパリンに対する結合の競争的阻害剤であって、
該競争阻害活性成分は、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドであることを特徴とするVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤である。
すなわち、本発明の第一の形態にかかるVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤は、
VEGF−A165のヘパリンに対する結合の競争的阻害剤であって、
該競争阻害活性成分は、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドであることを特徴とするVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤である。
かかる本発明の第一の形態にかかるVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤は、例えば、注射液剤の剤形に調製する際には、
投与対象者の静脈内投与に適する、薬学的に許容される液性担体中に、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる組成物とすることができる。
投与対象者の静脈内投与に適する、薬学的に許容される液性担体中に、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる組成物とすることができる。
あるいは、点眼薬の剤形に調製する際には、
投与対象者に対して、その眼球または眼窩への適用に適する、薬学的に許容される液性担体中に、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる組成物とすることができる。
投与対象者に対して、その眼球または眼窩への適用に適する、薬学的に許容される液性担体中に、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる組成物とすることができる。
本発明の第一の形態にかかる新規なヘパリン結合能を有するペプチドは、ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質;vamminならびにVR−1中のヘパリン結合部位のアミノ酸配列に基づき設計された、7〜20アミノ酸残基からなるペプチド化合物であり、VEGF−A165、あるいはvamminのKDRへの結合により誘起される、一酸化窒素(NO)依存性の強力な血圧降下活性や血管新生促進作用の発揮に必要な、VEGF−A165、あるいはvamminと細胞表面上のヘパリンとの間の結合を、競争的に阻害する作用を有する。その結果、例えば、固形腫瘍の増殖や転移、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾癬など、種々の疾患の要因となる、VEGF−A165に起因する血管新生促進の抑制を目的とする治療用途に、本発明にかかる新規なヘパリン結合能を有するペプチドは利用可能である。その際、塩基性アミノ酸を多数含有する7〜20アミノ酸残基のペプチドであるため、MHCにより提示される抗原ペプチドとはならず、免疫原性を示さないので、反復投与に付随する抗体創製に起因する治療効果の低減もないものとなる。
加えて、本発明者らは、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドを基礎として、更なるアミノ酸配列の改変を行い、遜色の無いヘパリン結合能を有する合成ペプチド断片を創製した。具体的には、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドが有するヘパリン結合能(親和性)において、支配的な機能を有する前記第一のアミノ酸配列部分:R−P−R−X−K−Q−G(Xは、RまたはW)に対して改変を施し、R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはR)へと変換する際、遜色の無いヘパリン結合能を示すことを見出した。
さらには、前記R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはR)の改変された第一のアミノ酸配列部分を有し、ヘパリン結合能(親和性)を保持する合成ペプチド断片は、同様に、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖誘導作用を濃度依存的に抑制する作用を示すことをも検証した。以上の知見に基づき、本発明者らは、本発明の第二の形態を完成するに到った。
すなわち、本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
7〜20アミノ酸残基からなることを特徴とするヘパリン結合能を有するペプチドである。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
7〜20アミノ酸残基からなることを特徴とするヘパリン結合能を有するペプチドである。
従って、本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドには、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
AN1−R−X01−X02−X03−K−Q−G−AC1
(AN1、AC1は、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN1、AC1のアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含される。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
AN1−R−X01−X02−X03−K−Q−G−AC1
(AN1、AC1は、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN1、AC1のアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含される。
さらに、前記改変された第一の部分アミノ酸配列:R−X01−X02−X03−K−Q−Gに加えて、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第二の部分アミノ酸配列:
K−E−K−P−Rをも含み、
前記改変された第一の部分アミノ酸配列のC末端に、前記第二の部分アミノ酸配列が、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列を介して連結されているヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第二の部分アミノ酸配列:
K−E−K−P−Rをも含み、
前記改変された第一の部分アミノ酸配列のC末端に、前記第二の部分アミノ酸配列が、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列を介して連結されているヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
特には、前記リンカー配列として、E−P−D−G−Pを選択してなる、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記改変された第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記改変された第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。
加えて、本発明は、上記の本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドを利用する方法の発明として、VEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤としての用途発明をも提供し、
すなわち、本発明の第二の形態にかかるVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤は、
VEGF−A165のヘパリンに対する結合の競争的阻害剤であって、
該競争阻害活性成分は、上述する本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドであることを特徴とするVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤である。
すなわち、本発明の第二の形態にかかるVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤は、
VEGF−A165のヘパリンに対する結合の競争的阻害剤であって、
該競争阻害活性成分は、上述する本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドであることを特徴とするVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤である。
かかる本発明の第二の形態にかかるVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤は、例えば、注射液剤の剤形に調製する際には、
投与対象者の静脈内投与に適する、薬学的に許容される液性担体中に、上述する本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる組成物とすることができる。
投与対象者の静脈内投与に適する、薬学的に許容される液性担体中に、上述する本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる組成物とすることができる。
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本発明に先立ち、本発明者らは、
Vipera ammodytes ammodytesのヘビ毒から精製・単離されたVEGF様タンパク質:vamminおよびDaboia russelli russelliのヘビ毒から精製・単離されたVEGF様タンパク質:VR−1は、それぞれ、110アミノ酸からなるペプチド鎖二本が、鎖間のジスルフィド結合で連結されたホモ2量体、ならびに、109アミノ酸からなるペプチド鎖二本が、鎖間のジスルフィド結合で連結されたホモ2量体であること、加えて、これらvamminおよびVR−1は、血管内皮増殖因子受容体2型(VEGF receptor 2;KDR)に対する結合性を有し、血管内皮増殖因子受容体1型(VEGF receptor 1;Flt−1)、血管内皮増殖因子受容体3型(VEGF receptor 3;Flt−4)、およびニューロピリン−1(neuropilin−1)に対する結合性は示さない特徴を有することを解明した。具体的には、vamminを構成する、110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造(アミノ酸配列)は、下記の配列1:
配列1:vamminの110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFLEVHE RSACQARETL VPILQEYPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESLKCTPVG
KHTVDLQIMR VNPRTQSSKM EVMKFTEHTA
CECRPRRKQG EPDGPKEKPR
また、VR−1を構成する、109アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造(アミノ酸配列)は、下記の配列2:
配列2:VR−1の109アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFLDVYQ RSACQTRETL VSILQEHPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESMKCTPVG
KHTADIQIMR MNPRTHSSKM EVMKFMEHTA
CECRPRWKQG EPEGPKEPR
である。
Vipera ammodytes ammodytesのヘビ毒から精製・単離されたVEGF様タンパク質:vamminおよびDaboia russelli russelliのヘビ毒から精製・単離されたVEGF様タンパク質:VR−1は、それぞれ、110アミノ酸からなるペプチド鎖二本が、鎖間のジスルフィド結合で連結されたホモ2量体、ならびに、109アミノ酸からなるペプチド鎖二本が、鎖間のジスルフィド結合で連結されたホモ2量体であること、加えて、これらvamminおよびVR−1は、血管内皮増殖因子受容体2型(VEGF receptor 2;KDR)に対する結合性を有し、血管内皮増殖因子受容体1型(VEGF receptor 1;Flt−1)、血管内皮増殖因子受容体3型(VEGF receptor 3;Flt−4)、およびニューロピリン−1(neuropilin−1)に対する結合性は示さない特徴を有することを解明した。具体的には、vamminを構成する、110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造(アミノ酸配列)は、下記の配列1:
配列1:vamminの110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFLEVHE RSACQARETL VPILQEYPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESLKCTPVG
KHTVDLQIMR VNPRTQSSKM EVMKFTEHTA
CECRPRRKQG EPDGPKEKPR
また、VR−1を構成する、109アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造(アミノ酸配列)は、下記の配列2:
配列2:VR−1の109アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFLDVYQ RSACQTRETL VSILQEHPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESMKCTPVG
KHTADIQIMR MNPRTHSSKM EVMKFMEHTA
CECRPRWKQG EPEGPKEPR
である。
なお、前記Vipera ammodytes ammodytesのヘビ毒から精製・単離されたVEGF様タンパク質:vammin110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造は、同様に、110アミノ酸からなるペプチド鎖二本が、鎖間のジスルフィド結合で連結されたホモ2量体である、Vepera aspis aspisのヘビ毒素から単離されているHFの一次構造、下記配列3:
配列3:HFの110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFLEVHE RSACQARETL VSILQEYPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESLKCTPVG
KHTVDLQIMR VNPRTQSSKM EVMKFTEHTA
CECRPRRKQG EPDGPKEKPR
あるいは、Vipera lebetinaのヘビ毒から単離されているICPPの一次構造、下記配列4:
配列4:ICPPの110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFPDVHE RSACQARETL VSILQEYPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESLKCTPVG
KHTVDMQIMR VNPRTQSSKM EVMKFTEHTA
CECRPRRKQG EPDGPKEKPR
と対比すると、図6に示すように極めて高い相同性を示すことを、同時に、これら一連のヘビ毒由来VEGF様タンパク質の生理活性と、そのアミノ酸配列との相関を十分に検討した結果、アミノ酸配列の一致部分のなかでも、KDRとの高い親和性を維持しつつ、一方、Flt−1との結合性を持たないという特性に深く関与する、あるいは、顕著に貢献するアミノ酸配列上の特徴の一つとして、配列1中のAla13、Lys55、Arg74、Ser77、Lys79の5つのアミノ酸の存在と、KDRに対する高い選択性との間に高い相関性が見出されることを既に解明し、それを報告している(Yamazaki,Y. et al., J. Biol. Chem., vol.278 51985−51988 (2003)を参照)。
配列3:HFの110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFLEVHE RSACQARETL VSILQEYPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESLKCTPVG
KHTVDLQIMR VNPRTQSSKM EVMKFTEHTA
CECRPRRKQG EPDGPKEKPR
あるいは、Vipera lebetinaのヘビ毒から単離されているICPPの一次構造、下記配列4:
配列4:ICPPの110アミノ酸からなるペプチド鎖の一次構造
EVRPFPDVHE RSACQARETL VSILQEYPDE
ISDIFRPSCV AVLRCSGCCT DESLKCTPVG
KHTVDMQIMR VNPRTQSSKM EVMKFTEHTA
CECRPRRKQG EPDGPKEKPR
と対比すると、図6に示すように極めて高い相同性を示すことを、同時に、これら一連のヘビ毒由来VEGF様タンパク質の生理活性と、そのアミノ酸配列との相関を十分に検討した結果、アミノ酸配列の一致部分のなかでも、KDRとの高い親和性を維持しつつ、一方、Flt−1との結合性を持たないという特性に深く関与する、あるいは、顕著に貢献するアミノ酸配列上の特徴の一つとして、配列1中のAla13、Lys55、Arg74、Ser77、Lys79の5つのアミノ酸の存在と、KDRに対する高い選択性との間に高い相関性が見出されることを既に解明し、それを報告している(Yamazaki,Y. et al., J. Biol. Chem., vol.278 51985−51988 (2003)を参照)。
一方、分子量38.2kDaのホモ二量体タンパク質である、ヒトの血管内皮増殖因子VEGF−A165は、ヘパリンあるいはヘパラン硫酸プロテオグリカンに対する結合性をも有し、低い濃度ヘパリンの共存下においては、KDRに対するVEGF−A165の親和性の亢進がなさる点に着目して、VEGF−A165中に存在するヘパリン結合性を支配する領域の特定を進めた。その過程で、プラスミン消化によりC末端のArg111〜Arg165の領域を切除した、C末端切除体は、ヘパリン結合性を喪失することを見出した。さらには、C末端切除体(VEGF110)は、例えば、VEGF−A165が本来示す血管内皮増殖促進活性と対比すると、その血管内皮増殖促進活性は著しく低下することが確認され、VEGF−A165のKDRへの結合に伴い発揮される種々の生理活性発現には、該KDRが発現されている対象細胞表面に存在するヘパリンとの結合も不可欠な過程であることが判明した。
実際に、VEGF−A165中に存在するC末端のArg111〜Arg165の領域は、図2に示すように、かかる領域内部で鎖内のジスルフィド結合により形成される三次元構造を有しており、その三次元構造を構成した際、含まれる複数の塩基性アミノ酸残基がヘパリン中の酸性置換基の硫酸エステル、硫酸アミド構造と相互作用する結果、ヘパリンとの結合を達成していると推断される。
また、ヘパリンの多糖鎖は、下に模式的に示すように、L−イズロン酸、D−グルクロン酸、D−グルコサミンを構成単位とし、硫酸化は、ほとんど全てのD−グルコサミンのアミノ基、その他、一部6位のヒドロキシ基、一部ウロン酸2位のヒドロキシ基にも存在している。細胞においては、多くは、タンパク質のアミノ残基側鎖上に結合したプロテオグルカンの形態で存在している。また、細胞種類に応じて、ヘパリンの多糖鎖上に存在する、この硫酸化部位、ならびに、構成糖単位の配列の差違が存在し、様々な生理活性に関与している。
一方、vamminでは、図2に示す対比から、VEGF−A165中に存在するC末端のArg111〜Arg165領域のような、三次元構造を有するヘパリン結合部位は無いにも係わらず、同じく、ヘパリンとの結合性を示すこと、また、vamminのKDRへの結合に伴い発揮される種々の生理活性発現においても、該KDRが発現されている対象細胞表面に存在するヘパリンとの結合も不可欠な過程であることを解明した。さらには、VR−1に関しても、やはりヘパリンとの結合性を示すこと、また、VR−1のKDRへの結合に伴い発揮される種々の生理活性発現においても、該KDRが発現されている対象細胞表面に存在するヘパリンとの結合も不可欠な過程であることを解明した。これらの新事実から、vamminやVR−1において見出されるヘパリンとの結合性は、それらのC末端部分、すなわち、vamminのC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg110)あるいはVR−1のC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg109)により支配されているとの着想を得て、実際に、下記の実施例に示す通り、かかるC末端部分アミノ酸配列に相当する合成ペプチドpeptide 1を作製して、いずれもヘパリンとの結合能を示すペプチドであることを検証した。
従って、vamminやVR−1のみならず、他のヘビ毒由来のVEGF様タンパク質HF、ICPPにおいても、共通して、かかるC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg110)がヘパリンとの結合を可能としていることも結論された。
引き続き、vamminのC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg110)あるいはVR−1のC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg109)により支配されているヘパリンとの結合性において、その主要な部分領域を特定するため、図2のBに示すpeptide 2、peptide 3の二種の部分断片型ペプチドを調製し、そのヘパリン結合性を評価したところ、合成ペプチドpeptide 2は、合成ペプチドpeptide 1と遜色のないヘパリン結合性を示すが、合成ペプチドpeptide 3は、ヘパリン結合性を喪失していることが判明した。
さらに、合成ペプチドpeptide 2に含まれる、vammin由来の部分アミノ酸配列:R−P−R−R−K−Q−G−Eと、VEGF−A165由来のC末端切除体(VEGF110)においてC末端に残余する部分アミノ酸配列:R−P−K−K−D−Rと対比させると、双方ともに、塩基性アミノ酸残基に富むアミノ酸配列であるものの、部分アミノ酸配列:R−P−K−K−D−Rでは、ヘパリン結合性が損なわれているという決定的な相違がある。
すなわち、vammin由来の部分アミノ酸配列:R−P−R−R−K−Q−G−Eと、VR−1の対応する領域、ならびに、ヘパリン結合性を示さないVEGF110のC末端に残余する部分アミノ酸配列を相互に対比すると、
vammin :R−P−R−R−K−Q−G−E
VR−1 :R−P−R−W−K−Q−G−E
VEGF110:R−P−K−K−D−R
想定部分配列 :R−P−R−X−K−Q−G (Xは、R,W,H,Kのいずれか)
前記の想定部分配列(第一の部分アミノ酸配列)を保持すると、少なくとも、合成ペプチドpeptide 2におけるヘパリン結合性と遜色ないヘパリン結合性を示すと判断される。特には、下線を付した4アミノ酸が、上に例示するような、ヘパリン中の硫酸化された糖鎖における硫酸エステル構造、硫酸アミド構造との相互作用に適する相対配置に塩基性アミノ酸残基を配置する役割を果たしていると判断される。従って、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドでは、
前記第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−G (Xは、R,W,H,Kのいずれか)をその内部に含み、全体のアミノ酸残基数は、7〜20アミノ酸残基からなるペプチドとする。前記全体のアミノ酸残基数の範囲は、種々のペプチド・ホルモンを構成するペプチド鎖長、例えば、アンギオテンシンIIの8アミノ酸残基、あるいは、インスリンA鎖の21アミノ酸残基など、機能を発揮しつつ、水溶性を保持する上で適正なペプチド鎖長に相当している。
vammin :R−P−R−R−K−Q−G−E
VR−1 :R−P−R−W−K−Q−G−E
VEGF110:R−P−K−K−D−R
想定部分配列 :R−P−R−X−K−Q−G (Xは、R,W,H,Kのいずれか)
前記の想定部分配列(第一の部分アミノ酸配列)を保持すると、少なくとも、合成ペプチドpeptide 2におけるヘパリン結合性と遜色ないヘパリン結合性を示すと判断される。特には、下線を付した4アミノ酸が、上に例示するような、ヘパリン中の硫酸化された糖鎖における硫酸エステル構造、硫酸アミド構造との相互作用に適する相対配置に塩基性アミノ酸残基を配置する役割を果たしていると判断される。従って、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドでは、
前記第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−G (Xは、R,W,H,Kのいずれか)をその内部に含み、全体のアミノ酸残基数は、7〜20アミノ酸残基からなるペプチドとする。前記全体のアミノ酸残基数の範囲は、種々のペプチド・ホルモンを構成するペプチド鎖長、例えば、アンギオテンシンIIの8アミノ酸残基、あるいは、インスリンA鎖の21アミノ酸残基など、機能を発揮しつつ、水溶性を保持する上で適正なペプチド鎖長に相当している。
上述するように、本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドには、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
AN−R−P−R−X−K−Q−G−AC
(AN、ACは、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN、ACのアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含されるが、例えば、下記する合成ペプチドpeptide 4、5の例にしめされるように、ANの部分には、アミノ酸が存在しない形態とすることができる。一般に、N末に保護用のアミノ酸として、例えば、Gly、Alaなどの嵩の小さなアミノ酸を付加し、最小のアミノ酸数8以上の形態とすることが望ましい。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
AN−R−P−R−X−K−Q−G−AC
(AN、ACは、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN、ACのアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含されるが、例えば、下記する合成ペプチドpeptide 4、5の例にしめされるように、ANの部分には、アミノ酸が存在しない形態とすることができる。一般に、N末に保護用のアミノ酸として、例えば、Gly、Alaなどの嵩の小さなアミノ酸を付加し、最小のアミノ酸数8以上の形態とすることが望ましい。
加えて、合成ペプチドpeptide 1では、C末端にK−E−K−P−Rの部分配列をも備えており、合成ペプチドpeptide 2よりも若干ヘパリン結合性が優っており、この第二の部分アミノ酸配列:K−E−K−P−Rをも有することが望ましい。その際、第一の部分アミノ酸配列と第二の部分アミノ酸配列の間を適正な間隔に配置することが好ましく、リンカー配列として、5アミノ酸残基程度、従って、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列、より好ましくは、5アミノ酸残基からリンカー配列を設ける、
R−P−R−X−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−K−E−K−P−R
(Xは、R,W,H,Kのいずれか、なお、−X1−X2−X3−X4−X5−は、リンカー配列)
と表記されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。特には、vammin中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列:
R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。この種の改変アミノ酸配列の好ましい一例として、
R−P−R−X−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(Xは、W,H,Kのいずれか)
また、C末端にRを付加している、
R−P−R−X−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R−R
(Xは、R,W,H,Kのいずれか)
などを挙げることができる。
R−P−R−X−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−K−E−K−P−R
(Xは、R,W,H,Kのいずれか、なお、−X1−X2−X3−X4−X5−は、リンカー配列)
と表記されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。特には、vammin中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列:
R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。この種の改変アミノ酸配列の好ましい一例として、
R−P−R−X−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(Xは、W,H,Kのいずれか)
また、C末端にRを付加している、
R−P−R−X−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R−R
(Xは、R,W,H,Kのいずれか)
などを挙げることができる。
加えて、前記第二の部分アミノ酸配列:K−E−K−P−Rに代えて、第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)をリンカー配列で連結している
R−P−R−X−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−R−P−R−X−K−Q−G
と表記されるアミノ酸配列を選択することも可能である。すなわち、第一の部分アミノ酸配列がリンカー配列を介して、タンデム型に連結された形態となり、ヘパリンとの結合に関与できる部位が増したものとなる。あるいは、ACの部分として、VEGF−A165中に存在するC末端の5アミノ酸残基(Asp161〜Arg165):D−K−P−R−Rに対応させて、前記K−E−K−P−R−Rを、K−D−K−P−R−Rへと変換した、
R−P−R−X−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−D−K−P−R−R
(Xは、R,W,H,Kのいずれか)
のようなアミノ酸配列を有するものとすることもできる。
R−P−R−X−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−R−P−R−X−K−Q−G
と表記されるアミノ酸配列を選択することも可能である。すなわち、第一の部分アミノ酸配列がリンカー配列を介して、タンデム型に連結された形態となり、ヘパリンとの結合に関与できる部位が増したものとなる。あるいは、ACの部分として、VEGF−A165中に存在するC末端の5アミノ酸残基(Asp161〜Arg165):D−K−P−R−Rに対応させて、前記K−E−K−P−R−Rを、K−D−K−P−R−Rへと変換した、
R−P−R−X−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−D−K−P−R−R
(Xは、R,W,H,Kのいずれか)
のようなアミノ酸配列を有するものとすることもできる。
更には、第一の部分アミノ酸配列部分としては、XとしてRを選択する、R−P−R−R−K−Q−Gを用いることがより好ましい。
なお、上記リンカー配列、例えば、5アミノ酸残基からリンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分の役割は、第一の部分アミノ酸配列部分に対して、第二の部分アミノ酸配列部分を連結し、第一の部分アミノ酸配列部分が主体となるヘパリン結合性に対して、第二の部分アミノ酸配列部分とヘパリン間の弱い相互作用の寄与を付加することを目的とするものである。従って、投与対象の体内に存在する、プロテアーゼ、ペプチダーゼの作用によって、かかるリンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分の切断がなされないものを利用することができる。加えて、L体アミノ酸からなるリンカー配列に代えて、D体アミノ酸からなるリンカー配列を利用することで、体内のプロテアーゼによる消化を抑制することも可能である。また、種々のペプチド試薬において利用される、ペプチド結合のミミック構造をかかるリンカー配列部分に利用することで、体内のプロテアーゼによる消化を抑制することも可能である。但し、このリンカー配列内で切断を受けた場合にも、第一の部分アミノ酸配列部分自体の切断が成されない限り、ヘパリン結合性を保持する第一の部分アミノ酸配列部分側断片を副生するので、特には、問題とはならない。
一般に、ペプチド化合物の体内分解を防止する上では、N末端ならびにC末端に余剰のアミノ酸を付加する、あるいは、修飾を施す手法が有効である。例えば、N末端のアミノ基に種々のアシル基修飾を施す、あるいは、C末端のカルボキシ基をアミド化することもできる。本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、化学的合成手法を利用して作製することが可能であるので、例えば、固相合成法を利用して、C末端側からペプチド鎖の延長を行う際には、樹脂上に固定されるC末端のアミド化を行うと、合成上も好適である。また、前記リンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分などは、天然のアミノ酸に代えて、人工のアミノ酸を含むものとすることができる。人工のアミノ酸を利用することで、ペプチド鎖の酵素的切断を抑制するものに、該リンカー配列を設計することも可能である。
また、vammin中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列において、前記リンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分に相当するアミノ酸配列は、−E−P−D−G−P−となっているが、それに含まれる、−D−G−(Asp−Gly)の配列では、場合によっては、Aspの側鎖上のカルボキシ基(−COOH)とGlyのN末のイミノ窒素(−N−)との間の反応に伴いスクシイミド構造の形成、あるいは、β位への転位が起こることが知られている。
この種のペプチド分子内の反応に伴う、構造変化を抑制するため、例えば、−D−G−(Asp−Gly)の配列を、−D−A−(Asp−Ala)や−N−G−(Asn−Gly)のような構造的には類似するものの、不要な分子内反応を抑制するアミノ酸置換を行うこともできる。
本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、全体のアミノ酸残基数は、7〜20アミノ酸残基からなるペプチドであり、また、親水性アミノ酸、特には、塩基性アミノ酸を多く含有しており、広い濃度範囲の水溶液とすることが可能である。医薬用途に適用する際には、水性媒体、例えば、種々のペプチド・ホルモンを含有する注射液の調製に利用される水性媒体、あるいは、経口投与可能なペプチド性生理活性物質を含有する液剤の調製に利用される水性媒体を担体とする組成物に調製することが好ましい。また、所定量の水を加えることによって、前記水性媒体を用いた組成物の作製が可能な、凍結乾燥混合物の形態とすることも可能である。一般に、水溶解性は、ペプチドを構成するアミノ酸残基数が増加するに伴い、低下する傾向を有するが、本発明にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、第一の部分アミノ酸配列部分、さらには、第二の部分アミノ酸配列部分にも、親水性に富むアミノ酸を高い比率で有するため、その水に対する溶解度は、少なくとも、20mg/mLを超えるものとなる。
一方、本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、
上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドにおいて利用される、前記第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−G (Xは、R,W,H,Kのいずれか)に代えて、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)をその内部に含み、全体のアミノ酸残基数は、7〜20アミノ酸残基からなるペプチドとする。先に説明したように、前記全体のアミノ酸残基数の範囲は、種々のペプチド・ホルモンを構成するペプチド鎖長、例えば、アンギオテンシンIIの8アミノ酸残基、あるいは、インスリンA鎖の21アミノ酸残基など、機能を発揮しつつ、水溶性を保持する上で適正なペプチド鎖長に相当している。
上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドにおいて利用される、前記第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−G (Xは、R,W,H,Kのいずれか)に代えて、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)をその内部に含み、全体のアミノ酸残基数は、7〜20アミノ酸残基からなるペプチドとする。先に説明したように、前記全体のアミノ酸残基数の範囲は、種々のペプチド・ホルモンを構成するペプチド鎖長、例えば、アンギオテンシンIIの8アミノ酸残基、あるいは、インスリンA鎖の21アミノ酸残基など、機能を発揮しつつ、水溶性を保持する上で適正なペプチド鎖長に相当している。
上述するように、本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドには、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
AN1−R−X01−X02−X03−K−Q−G−AC1
(AN1、AC1は、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN1、AC1のアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含されるが、例えば、下記する合成ペプチドpeptide 7、8の例にしめされるように、ANの部分には、アミノ酸が存在しない形態とすることができる。一般に、N末に保護用のアミノ酸を付加する際には、例えば、Gly、Alaなどの嵩の小さなアミノ酸を付加し、最小のアミノ酸数8以上の形態とすることが望ましい。
vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
AN1−R−X01−X02−X03−K−Q−G−AC1
(AN1、AC1は、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN1、AC1のアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有するヘパリン結合能を有するペプチドが包含されるが、例えば、下記する合成ペプチドpeptide 7、8の例にしめされるように、ANの部分には、アミノ酸が存在しない形態とすることができる。一般に、N末に保護用のアミノ酸を付加する際には、例えば、Gly、Alaなどの嵩の小さなアミノ酸を付加し、最小のアミノ酸数8以上の形態とすることが望ましい。
加えて、合成ペプチドpeptide 7、8では、合成ペプチドpeptide 1と同様に、C末端にK−E−K−P−Rの部分配列をも備えており、合成ペプチドpeptide 2よりも若干ヘパリン結合性が優っており、この第二の部分アミノ酸配列:K−E−K−P−Rをも有することが望ましい。その際、前記改変された第一の部分アミノ酸配列と第二の部分アミノ酸配列の間を適正な間隔に配置することが好ましく、リンカー配列として、5アミノ酸残基程度、従って、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列、より好ましくは、5アミノ酸残基からリンカー配列を設ける、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはR、なお、−X1−X2−X3−X4−X5−は、リンカー配列)
と表記されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
R−X01−X02−X03−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはR、なお、−X1−X2−X3−X4−X5−は、リンカー配列)
と表記されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
特には、前記改変された第一の部分アミノ酸配列と、前記第二の部分アミノ酸配列とを連結する、リンカー配列として、E−P−D−G−Pを選択してなる、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記改変された第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。この種の改変アミノ酸配列の好ましい一例として、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)
に対して、C末端にRを付加している、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)
を挙げることができる。あるいは、ACの部分に含まれる前記第二の部分アミノ酸配列に代えて、VEGF−A165中に存在するC末端の5アミノ酸残基(Asp161〜Arg165):D−K−P−R−Rに対応させて、前記K−E−K−P−R−Rを、K−D−K−P−R−Rへと変換した、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−D−K−P−R−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)
のようなアミノ酸配列を有するものとすることもできる。
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記改変された第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含む、ヘパリン結合能を有するペプチドとすることもできる。この種の改変アミノ酸配列の好ましい一例として、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)
に対して、C末端にRを付加している、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)
を挙げることができる。あるいは、ACの部分に含まれる前記第二の部分アミノ酸配列に代えて、VEGF−A165中に存在するC末端の5アミノ酸残基(Asp161〜Arg165):D−K−P−R−Rに対応させて、前記K−E−K−P−R−Rを、K−D−K−P−R−Rへと変換した、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−D−K−P−R−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)
のようなアミノ酸配列を有するものとすることもできる。
更には、第一の部分アミノ酸配列部分としては、XとしてRを選択する、R−P−R−R−K−Q−Gを用いることがより好ましい。
なお、上記リンカー配列、例えば、5アミノ酸残基からリンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分の役割は、第一の部分アミノ酸配列部分に対して、第二の部分アミノ酸配列部分を連結し、第一の部分アミノ酸配列部分が主体となるヘパリン結合性に対して、第二の部分アミノ酸配列部分とヘパリン間の弱い相互作用の寄与を付加することを目的とするものである。従って、投与対象の体内に存在する、プロテアーゼ、ペプチダーゼの作用によって、かかるリンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分の切断がなされないものを利用することができる。加えて、L体アミノ酸からなるリンカー配列に代えて、D体アミノ酸からなるリンカー配列を利用することで、体内のプロテアーゼによる消化を抑制することも可能である。また、種々のペプチド試薬において利用される、ペプチド結合のミミック構造をかかるリンカー配列部分に利用することで、体内のプロテアーゼによる消化を抑制することも可能である。但し、このリンカー配列内で切断を受けた場合にも、第一の部分アミノ酸配列部分自体の切断が成されない限り、ヘパリン結合性を保持する第一の部分アミノ酸配列部分側断片を副生するので、特には、問題とはならない。
一般に、ペプチド化合物の体内分解を防止する上では、N末端ならびにC末端に余剰のアミノ酸を付加する、あるいは、修飾を施す手法が有効である。例えば、N末端のアミノ基に種々のアシル基修飾を施す、あるいは、C末端のカルボキシ基をアミド化することもできる。本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドも、化学的合成手法を利用して作製することが可能であるので、例えば、固相合成法を利用して、C末端側からペプチド鎖の延長を行う際には、樹脂上に固定されるC末端のアミド化を行うと、合成上も好適である。また、前記リンカー配列:−X1−X2−X3−X4−X5−部分などは、天然のアミノ酸に代えて、人工のアミノ酸を含むものとすることができる。人工のアミノ酸を利用することで、ペプチド鎖の酵素的切断を抑制するものに、該リンカー配列を設計することも可能である。
すなわち、本発明の第二の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドでは、前記改変された第一の部分アミノ酸配列以外のペプチド鎖部分は、上述する本発明の第一の形態にかかるヘパリン結合能を有するペプチドにおいて説明した、様々な変異、修飾、改変を同様に利用する態様とすることも可能である。
本発明にかかる新規なヘパリン結合能を有するペプチドは、VEGF−A165のKDRへの結合により誘起される血管新生促進作用の発揮に必要な、VEGF−A165と血管内皮細胞表面上のヘパリンとの間の結合を、競争的に阻害する作用を有し、抗VEGF−A165剤として利用可能であり、例えば、固形腫瘍の増殖や転移、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾癬など、種々の疾患の要因となる、VEGF−A165に起因する血管新生促進の抑制を目的とする治療薬、予防薬の用途に、適用可能である。
これら内因性の血管内皮増殖因子VEGF−A165に起因する血管新生促進の抑制を目的とする治療用途では、本発明にかかるヘパリン結合能を有するペプチドは、血流中に直接投与し、作用部位の血管内皮細胞表面へ供給する形態での投与が適しており、通常、静脈内投与に適する剤形の医薬組成物に調製することが好ましい。具体的には、種々の生理活性を有するペプチド製剤の静脈内投与に利用されている剤形、例えば、静脈注射剤、点滴剤などの剤形とされ、各単位投与用量は、その治療用途に応じて、適宜決定される。また、投与対象(患者)の状況、症状の重篤さ、性別、年齢、体重、その他の健康状態などを考慮して、その推定される総血液量において、所望の生理活性が発揮される血中濃度となるように、投与用量を設定することが好ましい。なお、本発明にかかるヘパリン結合能を有するペプチドを静脈注射剤の剤形で利用する際には、通常、複数回に分けて投与することも可能であるが、合計される用量は、1〜100mg/kg体重の範囲、好ましくは、3〜50mg/kg体重の範囲に設定することが望ましい。例えば、総血液量を考慮した上で、投与直後の投与量が均一に分散すると仮定した際、その平均血中濃度が、0.1μM〜10μMの範囲、好ましくは、1μM〜3μMの範囲に投与総量を設定することが望ましい。
また、適用される器官部位が特定される、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症に対する、VEGF−A165に起因する血管新生促進の抑制を目的とする治療薬、予防薬としては、点眼薬の剤形に調製することも可能である。この投与対象者に対して、その眼球または眼窩への適用に適する、薬学的に許容される液性担体中に、ヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解した点眼薬の剤形では、通常、液中濃度を、0.1μM〜10μMの範囲、好ましくは、1μM〜3μMの範囲に設定することが望ましい。
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。ここに示す具体例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は、これら具体例に限定されるものではない。
実施例1
(ペプチド合成と精製)
ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質;vamminならびにVR−1のアミノ酸配列を参照して、そのヘパリン結合性に関与すると想定される、vamminのC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg110)あるいはVR−1のC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg109)に基づき、下記表1に示すpeptide 1〜peptide 6の6種のペプチドを設計した。
(ペプチド合成と精製)
ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質;vamminならびにVR−1のアミノ酸配列を参照して、そのヘパリン結合性に関与すると想定される、vamminのC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg110)あるいはVR−1のC末端部分アミノ酸配列(Arg94〜Arg109)に基づき、下記表1に示すpeptide 1〜peptide 6の6種のペプチドを設計した。
設計されたアミノ酸配列に基づき、各ペプチドは、ペプチドシンセサイザー(Applied Biosystems, モデル431A)を用いて、F−moc法による固相合成法により調製した。常法に従って、合成ペプチドは、脱保護ならびに、F−mocクリーベッジ法よる基材レジンから分離、溶出し、回収される粗ペプチドを凍結乾燥した。
粗ペプチドの精製は、AKTAexplorer 10S(Amersham Biosciences)ならびにHPLCシステム(日本分光)を利用して行った。なお、カラム溶出画分におけるペプチドの検出は、240nmの吸光度測定により行った。
得られた粗ペプチド40mgを、10mLの50mM Tris−HCl pH8.0に溶解後、HiTrap Heparin HPカラム(カラム容量10mL、Amersham Biosciences)にアプライした。該ヘパリン・アフィニティカラムより、流速1mL/minで、5カラム容量、1.0M NaClまでの直線勾配で溶出を行った。
前記ヘパリンに対する結合性を示すペプチド画分をプール、回収した後、Cosmosil 5C18AR−300(2cmφ×25cm(L))にアプライし、アセトニトリル 0%〜 30%の線形勾配で溶出し、所望のアミノ酸数を有するペプチド画分を単離した。精製ペプチドは凍結乾燥し、アミノ酸シーケンサーによりアミノ酸配列を確認した後、アミノ酸分析法によって、ペプチド濃度を定量した。
(アミノ酸配列分析)
前記精製済みのペプチドのアミノ酸配列確認は、プロテイン・シークエンサー(Applied Biosystems models 473A, 477、 Shimadzu モデル PPSQ−21A)を用いて行った。
前記精製済みのペプチドのアミノ酸配列確認は、プロテイン・シークエンサー(Applied Biosystems models 473A, 477、 Shimadzu モデル PPSQ−21A)を用いて行った。
(ヘパリン結合性の評価)
精製済みペプチド(100μg)を、10mLの50mM Tris−HCl pH8.0に溶解後、HiTrap Heparin HPカラム(カラム容量10mL、Amersham Biosciences)にアプライした。その後、流速1mL/minで、前記緩衝液を5カラム容量流し、引き続き、10カラム容量、1.0M NaClまでの直線勾配で溶出を行い、溶出条件(NaCl濃度)を測定した。
精製済みペプチド(100μg)を、10mLの50mM Tris−HCl pH8.0に溶解後、HiTrap Heparin HPカラム(カラム容量10mL、Amersham Biosciences)にアプライした。その後、流速1mL/minで、前記緩衝液を5カラム容量流し、引き続き、10カラム容量、1.0M NaClまでの直線勾配で溶出を行い、溶出条件(NaCl濃度)を測定した。
図1に、各ペプチドについて、ヘパリンに対する結合性を示すペプチド画分の溶出ピーク位置(太線部)を示す。また、表1に、そのピーク極大点における溶出NaCl濃度をまとめて示す。
また、ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質;vamminならびにVR−1に関しても、同様に前記ヘパリン・アフィニティカラムから溶出されるタンパク質画分のピーク極大点における溶出NaCl濃度を測定した結果を表2にしめす。
(in vitroにおけるVEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価)
上記のヘパリン結合能を有するペプチドが、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制することを、下記するin vitroの評価系において検証した。同時に、vamminによる血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制することも、併せて検証した。
上記のヘパリン結合能を有するペプチドが、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制することを、下記するin vitroの評価系において検証した。同時に、vamminによる血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制することも、併せて検証した。
ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)の細胞懸濁液を、5,000個/ウエルの密度で、96ウエルの細胞培養プレートに播種した。ウエル中の細胞の接着後、0.1%ウシ胎児血清を添加した培地に交換し、延べ18時間培養した。その時点で、培地に、血管内皮増殖因子タンパク質のVEGF−A165あるいはvamminを最終濃度1 nM、ならびにpeptide 1を、それぞれ、所定の最終濃度で添加した。その後、6日間培養を継続した後、各ウエル中の細胞数について、Tetra Color One(生化学工業)を用いて、WST−8法により生存細胞数密度を評価した。
WST−8法における、発色の吸収係数A405−630を、生存細胞数の指標とした。図3に、同じプレート上において併行して評価された、
左側:血管内皮増殖因子タンパク質ならびにpeptide 1を添加していないウエル(陰性対照:白色カラム)、
中央:vamminに加えて、peptide 1を最終濃度100μM(濃い灰色カラム:中央の右)、30μM(薄い灰色カラム:中央の中)、0μM(無添加:陽性対照;黒色カラム:中央の左)添加したウエル、
右側:VEGF−A165に加えて、peptide 1を最終濃度100μM(濃い灰色カラム:中央の右)、30μM(薄い灰色カラム:中央の中)、0μM(無添加:陽性対照;黒色カラム:中央の左)添加したウエル、
における測定結果を示す。
左側:血管内皮増殖因子タンパク質ならびにpeptide 1を添加していないウエル(陰性対照:白色カラム)、
中央:vamminに加えて、peptide 1を最終濃度100μM(濃い灰色カラム:中央の右)、30μM(薄い灰色カラム:中央の中)、0μM(無添加:陽性対照;黒色カラム:中央の左)添加したウエル、
右側:VEGF−A165に加えて、peptide 1を最終濃度100μM(濃い灰色カラム:中央の右)、30μM(薄い灰色カラム:中央の中)、0μM(無添加:陽性対照;黒色カラム:中央の左)添加したウエル、
における測定結果を示す。
図3に示す結果を比較すると、添加されるVEGF−A165ならびにvamminは血管内皮細胞の増殖促進作用をしているが、peptide 1の共存下においては、その添加濃度依存的に、その細胞の増殖促進作用が抑制を受けている。従って、ヘパリン結合能を有するpeptide 1は、BAEC細胞表面に存在するヘパリンに対して結合することで、VEGF−A165ならびにvamminが血管内皮細胞の増殖促進作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165ならびにvamminが示す血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制していると判断される。
(in vivoにおけるVEGF−A165による血圧降下作用に対する阻害能評価)
上記のヘパリン結合能を有するペプチドが、VEGF−A165による血圧降下作用を抑制することを、下記するin vivoの評価系において検証した。同時に、vamminによる血圧降下作用を抑制することも、併せて検証した。
上記のヘパリン結合能を有するペプチドが、VEGF−A165による血圧降下作用を抑制することを、下記するin vivoの評価系において検証した。同時に、vamminによる血圧降下作用を抑制することも、併せて検証した。
VEGF−A165あるいはvamminによる血圧降下能の測定は、オスのWistar rat(各群個体数 n=3または5, 150〜220 g)を使用して行った。各個体について、カルバミン酸エチルエステル(1 g/kg)の腹膜注射による麻酔後、25% MgSO4で満たしたポリエチレンチューブを頸動脈に挿入し、圧力トランスデューサー(モデルP10EZ, Becton Dickinson)に接続して、頸動脈圧をモニターした。圧力トランスデューサーで測定される頸動脈圧は、アンプ(model AP−621日本光電)につながれたレコーダーで記録した。
各被験個体に対して、生理食塩水(600 μL)注射により血圧が安定していることを確認後、ヘパリン結合能を有するペプチド(600 μL)、ならびに、VEGF−A165またはvammin(600 μL)を左大腿静脈から投与した。
図4のAは、上:vammin(用量 0.1μg/g)のみを投与した際、
下:peptide 1(用量 3μg/g)を予め投与後、vammin(用量 0.1μg/g)を投与した際における、頸動脈圧の低下量を示し、
図4のBは、上:VEGF−A165(用量 0.1μg/g)のみを投与した際、
中:peptide 1(用量 3μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際、
下:peptide 1(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際における、頸動脈圧の低下量を示している。
下:peptide 1(用量 3μg/g)を予め投与後、vammin(用量 0.1μg/g)を投与した際における、頸動脈圧の低下量を示し、
図4のBは、上:VEGF−A165(用量 0.1μg/g)のみを投与した際、
中:peptide 1(用量 3μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際、
下:peptide 1(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際における、頸動脈圧の低下量を示している。
図4に示す結果を比較すると、投与されるVEGF−A165ならびにvamminは血圧降下を誘起しているが、peptide 1の共存下においては、その添加濃度依存的に、その血圧降下の誘起作用が抑制を受けている。なお、ここで評価されるVEGF−A165ならびにvamminが示す血圧降下作用は、VEGFタンパク質のKDRへの結合により誘起される、一酸化窒素(NO)依存性の強力な血圧降下活性に基づくものであり、従って、ヘパリン結合能を有するpeptide 1は、KDRを発現している細胞表面に存在するヘパリンに対して結合することで、VEGF−A165ならびにvamminが血圧降下作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165ならびにvamminによる血圧降下作用を抑制していると判断される。
上記のR−P−R−X−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−K−E−K−P−Rのアミノ酸配列を含む、本発明にかかるヘパリン結合能を有するペプチドにおいて、特に、R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)の部分のみによって、VEGF−A165ならびにvamminが血圧降下作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165ならびにvamminによる血圧降下作用を抑制する効果が達成されることの検証も行った。
具体的には、peptide 1に加えて、peptide 1のN末領域に相当するpeptide 2、ならびにC末領域に相当するpeptide 3について、VEGF−A165による血圧降下作用を抑制する効果の有無について、前記のin vivo評価系で併行して評価した。
図5中、A:VEGF−A165(用量 0.1μg/g)のみを投与した際(陽性対照)、
B:peptide 1(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際、
C:peptide 2(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際、
D:peptide 3(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際における、頸動脈圧の低下量をそれぞれ示している。
B:peptide 1(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際、
C:peptide 2(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際、
D:peptide 3(用量 30μg/g)を予め投与後、VEGF−A165(用量 0.1μg/g)を投与した際における、頸動脈圧の低下量をそれぞれ示している。
図5に示す結果を比較すると、投与されるVEGF−A165が誘起している血圧降下作用に対して、事前に投与されるpeptide 1およびpeptide 2は、その血圧降下作用を抑制する効果を示しているが、peptide 3に関しては、抑制効果は観測されていない。従って、ヘパリン結合能を有するpeptide 1およびpeptide 2は、KDRを発現している細胞表面に存在するヘパリンに対して結合することで、VEGF−A165が血圧降下作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165による血圧降下作用を抑制していると判断される。一方、peptide 3は、ヘパリン結合能を示さず、そのため、抑制効果は観測されていないと判断される。
結論として、上記のR−P−R−X−K−Q−G−X1−X2−X3−X4−X5−K−E−K−P−Rのアミノ酸配列を含む、本発明にかかるヘパリン結合能を有するペプチドにおいて、特に、R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)の部分が、ヘパリン結合能を支配する部位であると判断される。加えて、該R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)の部分を利用することで、in vivoにおいても、KDRを発現している細胞表面に存在するヘパリンに対して結合することで、VEGF−A165が種々の生理的活性、作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165による生理的活性、作用を抑制していると判断される。
参考例1
本例では、VEGF−A165ならびにvamminが血管内皮細胞の増殖促進作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合を阻害することで、VEGF−A165ならびにvamminが示す血管内皮細胞の増殖促進作用が抑制されることを検証した。
本例では、VEGF−A165ならびにvamminが血管内皮細胞の増殖促進作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合を阻害することで、VEGF−A165ならびにvamminが示す血管内皮細胞の増殖促進作用が抑制されることを検証した。
(in vitroにおけるVEGF−A165またはvamminによる血管内皮細胞の増殖促進作用に対する、未分画ヘパリンの阻害能評価)
上述するように、VEGF−A165ならびにvamminは、遊離型ヘパリンとの結合能を示すので、予め、VEGF−A165ならびにvamminに対して、遊離型ヘパリンを結合させると、結果的に、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合を阻害することが可能となる。
上述するように、VEGF−A165ならびにvamminは、遊離型ヘパリンとの結合能を示すので、予め、VEGF−A165ならびにvamminに対して、遊離型ヘパリンを結合させると、結果的に、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合を阻害することが可能となる。
VEGF−A165ならびにvamminとの結合能を示す未分画ヘパリンは、VEGF−A165またはvamminによる血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制する効果を示すことを、下記するin vitroの評価系において検証した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞懸濁液を、5,000個/ウエルの密度で、コラーゲンコートした96ウエルの細胞培養プレートに播種した。播種後、6時間培養し、ウエル中の細胞の接着を行った後、1%ヒト血清を添加した培地に交換し、一夜(延べ18時間)培養した。その時点で、培地に、血管内皮増殖因子タンパク質のVEGF−A165またはvamminを最終濃度1 nM、ならびに、未分画ヘパリンを所定の最終濃度で添加した。その後、3日間培養を継続した後、各ウエル中の細胞数について、Tetra Color One(生化学工業)を用いて、WST−8法により生存細胞数密度を評価した。
WST−8法における、発色の吸収係数A405−630を、生存細胞数の指標とした。VEGF−A165またはvammin、ならびに未分画ヘパリンを添加しない状態で、前記1%血清添加培地において培養した際の生存細胞数を、陰性対照(unstimulated)、未分画ヘパリンを添加せず、VEGF−A165またはvamminのみが添加されている状態で、前記1%血清添加培地において培養した際の生存細胞数を、陽性対照(stimulated)とし、評価された生存細胞数に基づき、増殖促進に対する抑制効果を見積もる。
図7は、培地中に共添加される未分画ヘパリンと、VEGF−A165ならびにvamminとの結合に起因する、VEGF−A165またはvammin刺激による血管内皮細胞増殖作用の抑制効果を示す。血清添加培養条件において、種々の濃度の未分画ヘパリンと、VEGF−A165またはvammin(最終濃度1nM)を添加し、3日間培養後の生存細胞数を評価した。黒丸●:vammin、白丸○:VEGF−A165刺激による血管内皮細胞の増殖促進時、培地中に未分画ヘパリンを各濃度で共添加した際における、WST−8法における、発色の吸収係数A405−630(生存細胞数)を示す。
培地中に添加される未分画ヘパリンの濃度に依存して、VEGF−A165またはvammin刺激による血管内皮細胞増殖作用は抑制を受けている。すなわち、VEGF−A165またはvamminに予め未分画ヘパリンを結合させておくと、血管内皮細胞の増殖促進作用を発揮する上で必要な、KDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合が阻害を受け、結果として、KDRへの結合は生じるものの、VEGF−A165またはvamminによる血管内皮細胞増殖作用は発揮されていない。
以上の結果は、VEGF−A165またはvammin刺激による血管内皮細胞増殖作用の発揮は、VEGF−A165またはvamminと、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合を阻害することで、抑制可能であることを査証している。
実施例2
更に、前記のpeptide 6:R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R−Rに基づき、その第一の部分アミノ酸配列部分に相当するR−P−R−R−K−Q−G部分に改変を施し、下記表3に示すpeptide 7、peptide 8の2種のペプチドを設計した。加えて、ヘパリン結合性を有するTissue factor pathway inhibitor(TFPI)蛋白質中の部分アミノ酸配列(Lys254〜Lys265)に相当するpeptide 9を、対照ヘパリン結合性ペプチドとして設計した。
更に、前記のpeptide 6:R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R−Rに基づき、その第一の部分アミノ酸配列部分に相当するR−P−R−R−K−Q−G部分に改変を施し、下記表3に示すpeptide 7、peptide 8の2種のペプチドを設計した。加えて、ヘパリン結合性を有するTissue factor pathway inhibitor(TFPI)蛋白質中の部分アミノ酸配列(Lys254〜Lys265)に相当するpeptide 9を、対照ヘパリン結合性ペプチドとして設計した。
(ヘパリン結合性の評価)
実施例1に記載する(ペプチド合成と精製)と(アミノ酸配列分析)の手順に従って、peptide 7、peptide 8、ならびにpeptide 9の3種のペプチドの精製済み評品を作製した。
実施例1に記載する(ペプチド合成と精製)と(アミノ酸配列分析)の手順に従って、peptide 7、peptide 8、ならびにpeptide 9の3種のペプチドの精製済み評品を作製した。
次いで、実施例1に記載する(ヘパリン結合性の評価)の手法に従って、HiTrap Heparin HPカラム上に結合した精製済みペプチドに対する、溶出条件(NaCl濃度)を測定した。
表3に、前記三種のペプチドについて、溶出ピークのピーク極大点における溶出NaCl濃度の測定結果をまとめて示す。
(in vitroにおけるVEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価)
上記のヘパリン結合能を有するペプチドが、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制することを、下記するin vitroの評価系において検証した。
上記のヘパリン結合能を有するペプチドが、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制することを、下記するin vitroの評価系において検証した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞懸濁液を、5,000個/ウエルの密度で、コラーゲンコートした96ウエルの細胞培養プレートに播種した。播種後、6時間培養し、ウエル中の細胞の接着を行った後、1%ヒト血清を添加した培地に交換し、一夜(延べ18時間)培養した。その時点で、培地に、血管内皮増殖因子タンパク質のVEGF−A165を最終濃度1 nM、ならびに各ペプチドを、それぞれ、所定の最終濃度で添加した。その後、3日間培養を継続した後、各ウエル中の細胞数について、Tetra Color One(生化学工業)を用いて、WST−8法により生存細胞数密度を評価した。
WST−8法における、発色の吸収係数A405−630を、生存細胞数の指標とした。VEGF−A165、ならびに被験ペプチドを共に添加しない状態で、前記1%血清添加培地において培養した際の生存細胞数を、陰性対照:増殖促進0%、被験ペプチドを添加せず、VEGF−A165のみが添加されている状態で、前記1%血清添加培地において培養した際の生存細胞数を、陽性対照:増殖促進100%とし、評価された生存細胞数に基づき、増殖促進率を算出した。
図8に、peptide 1、peptide 2、peptide 3の各ペプチドが示す、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価結果を示す。血清添加培養条件において、VEGF−A165(最終濃度1nM)の添加によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖促進に対する、共添加する各ペプチドによる抑制効果を、3日間培養後の生存細胞数によって評価した。
なお、培地内に添加されている血清中には、若干量のVEGFが元々含有されており、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を完全に阻害する条件では、この血清由来のVEGFに起因する増殖促進作用も同様に阻害される。従って、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用が完全に阻害されている場合、見かけ上、増殖促進率は負の値を示す。一般には、「増殖促進率が負の値を示す」場合には、被験化合物(ペプチド)は、対象細胞に対する「細胞毒性」を示すと推断される。しかしながら、この血清添加培養条件を利用する評価系では、この図に示される程度の「負の増殖促進率」は、「細胞毒性」を意味しない点は、予め、血清添加量を0.1%以下に抑えた低濃度血清添加培地による培養時の生存細胞数を測定することで確認される。
図8中、黒丸●で示す、peptide 1の添加濃度依存性は、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する濃度依存的な阻害活性を示している。一方、peptide 1と比較して、ヘパリン結合能が劣る、白丸○:peptide 2、黒三角▲:peptide 3を添加した際には、そのヘパリン結合能の差違を反映して、50%阻害を達成できる添加濃度(ED50)は高濃度となっている。従って、peptide 1、peptide 2、peptide 3の各ペプチドは、いずれも、血管内皮細胞表面上のKDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165が示す血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制していると判断される。また、50%阻害添加濃度(ED50)の差違は、peptide 1、peptide 2、peptide 3の各ペプチドが示す、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合能の差違に起因することも確認される。
市販のヘパリン親和性カラムに利用される遊離型ヘパリンに対しては、peptide 9(TFPI254−265)は、peptide 1と同等の結合能を有するものの、peptide 1は、血管内皮細胞表面上のヘパリンに対して特異的な結合能を有するが、一方、peptide 9(TFPI254−265)は、血管内皮細胞表面上のヘパリンに対して、特異的な結合能を示さないことを、以下の評価法によって検証した。
前記のin vitroにおけるVEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価系において、peptide 9(TFPI254−265)の示す阻害活性と、peptide 1の示す阻害活性とを対比評価した。
前記のin vitroにおけるVEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価系において、peptide 9(TFPI254−265)の示す阻害活性と、peptide 1の示す阻害活性とを対比評価した。
図9は、peptide 1とpeptide 9(TFPI254−265)の各ペプチドが示す、VEGF−A165刺激によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価結果を示す。血清添加培養条件において、VEGF−A165(最終濃度1nM)の添加によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖促進に対する、共添加する各ペプチドによる抑制を、3日間培養後の細胞数によって評価した。黒色:peptide 1、灰色:peptide 9(TFPI254−265)を、各濃度添加した際における、増殖促進率を示す。
peptide 1は、濃度依存的にVEGF−A165刺激によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖を抑制しているが、peptide 9(TFPI254−265)は、僅かな抑制効果を示すのみである。
peptide 1は、濃度依存的にVEGF−A165刺激によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖を抑制しているが、peptide 9(TFPI254−265)は、僅かな抑制効果を示すのみである。
すなわち、peptide 1は、血管内皮細胞表面上のヘパリンに対して、特異的な結合能を有するため、血管内皮細胞表面上のKDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、ヘパリンとの結合を競争的に阻害する結果、VEGF−A165が示す血管内皮細胞の増殖促進作用を効果的に抑制している。一方、peptide 9(TFPI254−265)は、血管内皮細胞表面上のヘパリンに対して、特異的な結合能を有していないため、同じ添加濃度では、血管内皮細胞表面上のヘパリンの一部と結合するのみである。その場合、VEGF−A165は、血管内皮細胞表面上のKDRへと結合した際、相当部分は、細胞表面上のヘパリンとの結合が可能であり、結果的に、VEGF−A165が示す血管内皮細胞の増殖促進作用は、大部分が保持された状態を保つ。
換言するならば、peptide 1は、該peptide 9(TFPI254−265)のアミノ酸配列を内在している、Tissue factor pathway inhibitor(TFPI)蛋白質と特異的に複合体を形成し、血液凝固抑制作用を発揮する遊離型ヘパリン分子に対しては、特異性を示さないと判断される。その起源によって、ヘパリン鎖の構造、硫酸化部位に相違が存在するため、peptide 1は、血管内皮細胞表面上に存在するプロテオグリカン型のヘパリン鎖に対して、特異的な結合能を有するが、他の起源のヘパリンに対しては、特異的な結合能を具えていないと判断される。
本実施例2で作製したpeptide 7、peptide 8が、peptide 1と同様に、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を効果的に抑制することを、前記のin vitroの評価系を利用して検証した。
図10は、peptide 1、peptide 7、peptide 8の各ペプチドが示す、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用に対する阻害能評価結果を示す。血清添加培養条件において、VEGF−A165(最終濃度1nM)の添加によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖促進に対する、共添加する各ペプチドによる抑制を、3日間培養後の細胞数によって評価した。黒丸●:peptide 1、白丸○:peptide 7、黒三角▲:peptide 8を、各濃度添加した際における、増殖促進率を示す。peptide 7、peptide 8は、peptide 1と同様に、濃度依存的にVEGF−A165刺激によるヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖を抑制している。また、この三種のペプチドが示す阻害活性は、実質的に差違を有していないことも確認される。
なお、図10に示す結果では、被験ペプチドの高添加濃度においては、見かけ上、「増殖促進率が負の値を示している」が、培地内に添加されている血清中には、若干量のVEGFが元々含有されており、この図に示される程度の「負の増殖促進率」は、「細胞毒性」を意味しない点は、先に説明した通りである。
実施例3
上記のヘパリン結合能を有するペプチドは、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制するが、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)による血管内皮細胞の増殖促進作用への抑制効果を示さないことを、下記するin vitroの評価系において検証した。
上記のヘパリン結合能を有するペプチドは、VEGF−A165による血管内皮細胞の増殖促進作用を抑制するが、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)による血管内皮細胞の増殖促進作用への抑制効果を示さないことを、下記するin vitroの評価系において検証した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞懸濁液を、5,000個/ウエルの密度で、コラーゲンコートした96ウエルの細胞培養プレートに播種した。播種後、6時間培養し、ウエル中の細胞の接着を行った後、1%ヒト血清を添加した培地に交換し、一夜(延べ18時間)培養した。その時点で、培地に、VEGF−A165またはbFGFを最終濃度1 nM、ならびに被験ペプチドを所定の最終濃度で添加した。その後、3日間培養を継続した後、各ウエル中の細胞数について、Tetra Color One(生化学工業)を用いて、WST−8法により生存細胞数密度を評価した。
WST−8法における、発色の吸収係数A405−630を、生存細胞数の指標とした。VEGF−A165またはbFGF、ならびに被験ペプチドを添加しない状態で、前記1%血清添加培地において培養した際の生存細胞数を、陰性対照:増殖促進0%、被験ペプチドを添加せず、VEGF−A165またはbFGFのみが添加されている状態で、前記1%血清添加培地において培養した際の生存細胞数を、陽性対照:増殖促進100%とし、評価された生存細胞数に基づき、増殖促進率を算出した。
図11は、培地中に共添加されるpeptide 1に因る、VEGF−A165またはbFGF刺激による血管内皮細胞増殖作用の抑制効果を示す。血清添加培養条件において、種々の濃度のpeptide 1と、VEGF−A165またはbFGF(最終濃度1nM)を添加し、3日間培養後の生存細胞数を評価した。黒丸●:VEGF−A165、白丸○:bFGF刺激による血管内皮細胞の増殖促進時、培地中にpeptide 1を各濃度で共添加した際における、増殖促進率を示す。
VEGF−A165刺激による血管内皮細胞増殖作用に対して、peptide 1は添加濃度依存的に抑制効果をしめすが、bFGF刺激による血管内皮細胞増殖作用に対しては、見かけ上、僅かに抑制効果が示すのみであった。培地内に添加されている血清中には、若干量のVEGFが元々含有されており、peptide 1を添加すると、この血清由来のVEGFに起因する血管内皮細胞増殖は抑制を受ける。そのため、bFGF刺激による血管内皮細胞増殖作用は、抑制を受けないが、全体の増殖促進率では、見かけ上、僅かに抑制効果が観測される。また、上で説明した通り、VEGF−A165刺激による血管内皮細胞増殖を行う系では、peptide 1を高濃度で添加する際、見かけ上、「増殖促進率が負の値を示す」という評価結果となる。つまり、bFGF刺激による血管内皮細胞増殖を行う系において、peptide 1を高濃度で添加する際、図11に示される程度、見かけ上「増殖促進率が若干低下する」状態は、bFGF刺激による血管内皮細胞増殖作用に対して、peptide 1は高い添加濃度でも、全く抑制効果を示していないと判断される。
従って、以上の結果から、peptide 1は、血管内皮細胞表面上に存在するプロテオグリカン型のヘパリン鎖に対して、特異的な結合能を有し、特には、VEGF−A165が血管内皮細胞増殖作用を発揮する上で必要な、血管内皮細胞表面上のKDRへの結合とヘパリンとの結合のうち、血管内皮細胞表面上のヘパリンとの結合を競争的に阻害すること、一方、peptide 1あるいはVEGF−A165が特異的に結合可能な、血管内皮細胞表面上のヘパリンは、bFGF刺激による血管内皮細胞増殖の機構には、直接的な関与をしていなことが判る。
本発明にかかる新規なヘパリン結合能を有するペプチドは、ヘビ毒由来の血管内皮増殖因子VEGF様タンパク質;vamminならびにVR−1中のヘパリン結合部位のアミノ酸配列に基づき設計された、7〜20アミノ酸残基からなるペプチド化合物であり、VEGF−A165のKDRへの結合に付随する、VEGF−A165と細胞表面上のヘパリンとの間の結合を競争的に阻害する作用を有し、その結果、VEGF−A165のKDRへの結合および細胞表面上のヘパリンとの結合の双方を必要とする、血管新生促進作用の発揮を抑制するペプチド性医薬として利用可能である。
Claims (12)
- vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
7〜20アミノ酸残基からなる
ことを特徴とするヘパリン結合能を有するペプチド。 - さらに、前記第一の部分アミノ酸配列:R−P−R−X−K−Q−Gに加えて、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第二の部分アミノ酸配列:
K−E−K−P−Rをも含み、
前記第一の部分アミノ酸配列のC末端に、前記第二の部分アミノ酸配列が、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列を介して連結されている
ことを特徴とする請求の範囲 第1項に記載のヘパリン結合能を有するペプチド。 - vammin中のヘパリン結合部位に由来するアミノ酸配列:
R−P−R−R−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含むペプチドである
ことを特徴とする請求の範囲 第1項または第2項に記載のヘパリン結合能を有するペプチド。 - vammin中のヘパリン結合部位に由来する第一の部分アミノ酸配列:
R−P−R−X−K−Q−G(Xは、R,W,H,Kのいずれか)を少なくとも含み、
AN−R−P−R−X−K−Q−G−AC
(AN、ACは、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN、ACのアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有する
ことを特徴とする請求の範囲 第1項に記載のヘパリン結合能を有するペプチド。 - VEGF−A165のヘパリンに対する結合の競争的阻害剤であって、
該競争阻害活性成分は、請求の範囲 第1項〜第4項のいずれか一項に記載のヘパリン結合能を有するペプチドである
ことを特徴とするVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤。 - VEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤としての用途を有する医薬組成物であって、
前記阻害活性成分は、請求の範囲 第1項〜第4項のいずれか一項に記載のヘパリン結合能を有するペプチドであり、
投与対象者の静脈内投与に適する、薬学的に許容される液性担体中に、前記ヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる
ことを特徴とする組成物。 - vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
7〜20アミノ酸残基からなる
ことを特徴とするヘパリン結合能を有するペプチド。 - さらに、前記改変された第一の部分アミノ酸配列:R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)に加えて、
vammin中のヘパリン結合部位に由来する第二の部分アミノ酸配列:
K−E−K−P−Rをも含み、
前記第一の部分アミノ酸配列のC末端に、前記第二の部分アミノ酸配列が、4〜6アミノ酸残基からリンカー配列を介して連結されている
ことを特徴とする請求の範囲 第7項に記載のヘパリン結合能を有するペプチド。 - 前記リンカー配列として、E−P−D−G−Pを選択してなる、
R−X01−X02−X03−K−Q−G−E−P−D−G−P−K−E−K−P−R
(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)からなるアミノ酸配列、または、その配列中に少なくとも一つのアミノ酸置換を有し、且つ前記改変された第一の部分アミノ酸配列を保持してなる改変型アミノ酸配列を含むペプチドである
ことを特徴とする請求の範囲 第8項に記載のヘパリン結合能を有するペプチド。 - vammin中のヘパリン結合部位に由来する、改変された第一の部分アミノ酸配列:
R−X01−X02−X03−K−Q−G(X01は、PまたはR、X02は、RまたはK、X03は、K、HまたはRである)を少なくとも含み、
AN1−R−X01−X02−X03−K−Q−G−AC1
(AN1、AC1は、それぞれアミノ酸数0〜13までのペプチド鎖から選択され、AN1、AC1のアミノ酸数の合計は、13以下である)
からなる、7〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列を有する
ことを特徴とする請求の範囲 第7項に記載のヘパリン結合能を有するペプチド。 - VEGF−A165のヘパリンに対する結合の競争的阻害剤であって、
該競争阻害活性成分は、請求の範囲 第7項〜第10項のいずれか一項に記載のヘパリン結合能を有するペプチドである
ことを特徴とするVEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤。 - VEGF−A165とヘパリンとの結合に対する阻害剤としての用途を有する医薬組成物であって、
前記阻害活性成分は、請求の範囲 第7項〜第10項のいずれか一項に記載のヘパリン結合能を有するペプチドであり、
投与対象者の静脈内投与に適する、薬学的に許容される液性担体中に、前記ヘパリン結合能を有するペプチドの有効量を溶解してなる
ことを特徴とする組成物。
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JP (1) | JPWO2005077971A1 (ja) |
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Family Cites Families (1)
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2004
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- 2004-06-10 JP JP2005517889A patent/JPWO2005077971A1/ja active Pending
Non-Patent Citations (8)
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JPN6009039567, Shoshana Tessler et al., J. Biol. Chem., 1994, Vol.269, No.17, pp.12456−12461 * |
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JPN6009039574, Yumiko Komori et al., Biochemistry, 1999, Vol.38, pp.11796−11803 * |
JPN6009039576, Yasuo Yamazaki et al., J. Biol. Chem., 2003, Vol.278, No.52, pp.51985−51988 * |
JPN6009039577, Ammar Gasmi et al., J. Biol. Chem., 2002, Vol.277, No.33, pp.29992−29998 * |
JPN6010048088, Protein science. 1996, Vol.5, No.10, p.1991−1999 * |
Also Published As
Publication number | Publication date |
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WO2005077971A1 (ja) | 2005-08-25 |
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