JPWO2005061701A1 - タンパク質のポリマー複合体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
上記の問題を解決するためには、タンパク質にポリエチレングリコール等のポリマーを結合させることにより、血中半減期を長くしたり、抗原性を減少させたり、貯蔵安定性を改善できることが知られている(特許文献1)。
メチオニナーゼ(L−メチオニンγ−リアーゼ)は、腫瘍細胞の増殖において必須であるメチオニンの量を減らし、健康な組織を害することなく、腫瘍細胞の増殖を選択的に抑制することができ、抗腫瘍効果を有することが知られている(特許文献2)。また、組換えメチオニナーゼ(特許文献3)、ポリエチレングリコールが結合したメチオニナーゼ(特許文献4)、アミノ酸置換により機能改変を施したメチオニナーゼも知られている。
課題を解決するための手段
(1) ポリマーが結合したタンパク質にメルカプト基を有する化合物を反応させ、該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基にエステル結合しているポリマーを脱離する工程を含む、タンパク質のポリマー複合体の製造方法。
(2) ポリマーが結合した該タンパク質が、システイン残基を有するタンパク質に活性化ポリマーを反応させて得られたものである、(1)記載の方法。
(3) 該ポリマーがポリアルキレンオキシドである、(1)記載の方法。
(4) 該ポリマーがポリエチレングリコールである、(3)記載の方法。
(5) 該メルカプト基を有する化合物が、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトール、2−メルカプトエタノール、還元型グルタチオン又はN−アセチル−L−システインのいずれかである、(1)記載の方法。
(6) 該メルカプト基を有する化合物が、ジチオスレイトール又は2−メルカプトエタノールである、(1)記載の方法。
(7) 該タンパク質が酵素である(1)記載の方法。
(8) 該酵素がその活性発現に影響を与える部位にシステイン残基を含むものである、(7)記載の方法。
(9) 該酵素がメチオニナーゼ、パパインまたはトランスグルタミナーゼである(8)記載の方法。
(10) タンパク質1サブユニットあたり平均0.7〜1.3分子のポリマーを脱離するものである、(1)記載の方法。
(11) (1)〜(10)のいずれかに記載の方法で得られる、タンパク質のポリマー複合体。
(12) 該ポリマー複合体がメチオニナーゼ、パパインまたはトランスグルタミナーゼのポリエチレングリコール複合体である(1)記載の方法。
(13) (12)記載の方法で得られる、メチオニナーゼ、パパインまたはトランスグルタミナーゼのポリエチレングリコール複合体。
(14) 1サブユニットあたり平均3.1個以上の遊離のメルカプト基を有するものである、メチオニナーゼのポリマー複合体。
(15) (13)または(14)に記載のメチオニナーゼのポリマー複合体を含有する抗腫瘍剤。
(16) ポリマーが結合したタンパク質にメルカプト基を有する化合物を反応させることを特徴とする、該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基にエステル結合したポリマーの脱離方法。
本発明に用いられるタンパク質は、メルカプト基を有するタンパク質を意味し、例えば、そのアミノ酸配列中にシステイン残基を含むタンパク質を意味する。このとき、タンパク質の大きさとしては、アミノ酸残基数が10以上のものが好ましく、分子量としては1,000以上のものが好ましい。そのようなタンパク質としては、例えば、メチオニナーゼ、パパイン、キモパパイン、カテプシン、トランスグルタミナーゼ、プロテアーゼ、ケラチン、ヘモグロビン、アルブミン、メタロチオネイン等が挙げられる。なお、本発明に用いられるタンパク質は、天然物から単離精製したものでもよく、遺伝子組換技術により作成されたものでもよい。
また、タンパク質としては酵素が好ましく、特にその活性発現に影響を与える部位にシステイン残基を含む酵素が好ましい。活性発現に影響を与える部位とは、酵素タンパク質において基質の特異的結合・配置に関与する部位及び触媒作用を発現する部位のみならず、例えばアロステリックな部位をいう。このような酵素としては、例えば、メチオニナーゼ、パパイン、キモパパイン、カテプシン、トランスグルタミナーゼ等が挙げられる。
活性化ポリマーは、タンパク質中のアミノ基やメルカプト基にポリマーを結合させるために使用される。活性化ポリマーは、市販の物を使用してもよいし、市販のポリマーを活性化して調整してもよい。例えば、活性エステルに誘導されたポリマー等が使用できる。ポリマーにカルボキシル基がある場合は、該カルボキシル基を活性エステルにすればよい。また、ポリマーにカルボキシル基がない場合であっても、カルボキシル基を有するリンカーを結合させ、該カルボキシル基を活性エステルにすればよい。リンカーとしては、通常使用されるものであればよく、好ましくは、炭素数1〜20、さらに好ましくは炭素数2〜5ぐらいのリンカーが使用される。
例えば、メトキシポリエチレングリコール等はUnion Carbide Corporationから入手できる。ポリマーの活性化は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等を用いて行うことができる。例えば、メトキシポリエチレングリコールスクシンイミジルプロピオネート(MSPA)、メトキシポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(MEGC)等が挙げられる。
ポリマーとは、同一もしくは何種類かの分子(単量体)が結合して鎖状となった高分子化合物をさし、特に水溶性であることが望ましい。たとえば、タンパク質修飾用ポリマーなどが挙げられる。具体的には、デキストラン、ポリ(N―ビニル)ピロリドン、ポリアルキレンオキシド、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオレフィンアルコール、ポリアクリルモルファン等が例示されが、特にポリアルキレンオキシドが好ましい。
ポリアルキレンオキシドとしては、α置換ポリアルキレンオキシド誘導体、ポリエチレングリコールホモポリマー、ポリプロピレングリコールホモポリマー、アルコキシポリエチレンオキシド、ビス−ポリエチレンオキシド、ポリ(アルキレンオキシド)のコポリマー、またはポリ(アルキレンオキシド)若しくはその活性化誘導体のブロックコポリマー等が挙げられる。特に、アルコキシポリエチレンオキシドが好ましい。
アルコキシポリアルキレンオキシドとしては、アルコキシポリエチレングリコール(例えば、メトキシポリエチレングリコール等)、アルコキシポリエチレンオキシド、アルコキシポリプロピレンオキシドが挙げられる。特に、メトキシポリエチレングリコールが好ましい。
ポリマーは、約200〜約50,000ドルトンの平均分子量を有するポリマーを使用することができる。好ましくは、約1,000〜約20,000ドルトンの平均分子量を有するポリマー、さらには、約2,000〜約10,000ドルトンの平均分子量を有するポリマー、最も好ましくは、約4,000〜約6,000ドルトンの平均分子量を有するポリマーである。
ポリマーの形状としては直鎖状でも分岐状でもまた櫛状でも構わない。
使用する活性化ポリマーの量は、使用するタンパク質の種類・量により異なるので適宜、調整する必要がある。なぜなら、タンパク質中のアミノ基やメルカプト基の数等により影響を受けるからである。例えば、タンパク質がメチオニナーゼの場合、4つのサブユニットからなる4量体であり、各サブユニットは10個のアミノ基(N末端アミノ基も含む)と4個のメルカプト基を有する。メチオニナーゼに対し、30モル等量の活性化ポリマーを使用した場合、各サブユニット当たり4〜6個程度のポリマーが結合する。また、60モル等量の活性化ポリマーを使用した場合、各サブユニット当たり7〜10個程度のポリマーが結合する。
タンパク質のポリマー複合体とは、ポリマーが結合したタンパク質にメルカプト基を有する化合物を反応させ、該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基にエステル結合しているポリマーが脱離された、タンパク質のポリマー複合体を意味する。
なお、タンパク質のポリマー複合体においては、該タンパク質に存在するすべてのシステイン残基のメルカプト基にエステル結合しているポリマーが脱離している必要はなく、一部の該ポリマーが脱離したものも含まれる。好ましくは、少なくとも1サブユニットあたり平均0.7〜1.3分子のポリマーが脱離したものが好ましい。
具体的には、以下のようにして製造することができる。まずポリマーをタンパク質に結合させるには、ポリマーにカルボキシル化剤を反応させ、カルボキシル基をポリマーに導入する。そのカルボキシル基が導入されたポリマーにカルボキシル基活性化剤を反応させ、ポリマーの活性エステル体を製造する。最後に、該活性エステル体にタンパク質を反応させることにより、ポリマーが結合したタンパク質を得ることができる。例えば、特表昭62−501449、特開平10−87815等を参考にしてもよい。
なお、タンパク質に結合するポリマー分子の数は、活性基、例えば、タンパク質分子上に存在する反応基、例えばアミノ基、メルカプト基の数により変動する。また、タンパク質とポリマーを反応させる時の条件、例えば温度、pH、タンパク質濃度等によっても変動する。ここで得られるポリマーが結合したタンパク質は、ポリマーが結合していないタンパク質に比べて、半減期が長く、抗原性が少ないというメリットを有するが、活性については一般的に弱くなる場合が多い。
上記のようにして得られたポリマーが結合したタンパク質に、メルカプト基を有する化合物を反応させ、タンパク質のシステイン残基のメルカプト基にエステル結合したポリマーを脱離させることにより、タンパク質のポリマー複合体を製造することができる。
メルカプト基を有する化合物は、遊離のメルカプト基を有する化合物であればよく、特に低分子化合物が好ましい。例えば、ジチオスレイトール、還元型グルタチオン、N−アセチル−L−システイン、2−メルカプトエタノール、ジチオエリスリトール、等が挙げられ、特に、ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールが好ましい。
使用するメルカプト基を有する化合物の量は、反応溶液の重量に対して0.01〜10重量%程度が好ましい。
以下に、本発明の具体例として、メチオニナーゼのメトキシポリエチレングリコールによるポリマー複合体の製造方法を挙げる。まず、メトキシポリエチレングリコールのメチオニナーゼへの結合方法を説明する。約1,000〜約20,000、好ましくは約2,000〜約10,000、そして最も好ましくは約4,000〜約6,000ドルトンの平均分子量を有するメトキシポリエチレングリコールを、無水コハク酸、好ましくは無水グルタル酸を用いて、コハク酸化またはグルタル酸化する。続いて、好ましくはN−ヒドロキシスクシンイミドを用いて、活性化メトキシポリエチレングリコールを得る。最後に、活性化メトキシポリエチレングリコールをメチオニナーゼと反応させる。
得られた反応液から目的のメトキシポリエチレングリコールが結合したメチオニナーゼを単離精製するには、タンパク質を精製する通常の方法(例えば、モレキュラークローニング第3版、Cold Spring Harbor Laboratory、2001年)が用いられる。すなわち、沈殿、膜分離、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、結晶化などが用いられる。
まず、ポリマーを結合させる前のメチオニナーゼのメルカプト基数を測定した。理論的には、1サブユニット当たり4個のメルカプト基が存在するが、実測値は、平均約3.7個/サブユニットであった。次に、ポリマーを結合させた後のメチオニナーゼのメルカプト基数を測定した。その結果、メルカプト基数は平均約2.7個/サブユニットであった。
次に、メルカプト基を有する化合物で処理した後のメチオニナーゼのメルカプト基数を測定した。その結果、メルカプト基数は平均約3.7個/サブユニットであった。
本方法により、タンパク質1サブユニットあたり平均約1分子(例えば、0.7〜1.3分子)のポリマーを脱離させることができる。これは、反応させる活性化ポリマーの量を、メチオニナーゼに対して30モル等量使用した場合も、60モル等量使用した場合もほぼ同じであった。これらの結果から、ポリマーを結合させると、メチオニナーゼの1サブユニット当たり4個存在するメルカプト基のうち、平均1個のメルカプト基がポリマーとエステル結合していたことがわかる。さらにポリマーが結合したメチオニナーゼをメルカプト基を有する化合物で処理すると、そのメルカプト基にエステル結合したポリマーが脱離することがわかった。このときメチオニナーゼのアミノ基にアミド結合しているポリマーは脱離しないことも確認した。
これらのことから、本発明の方法により得られるメチオニナーゼのポリマー複合体には、メルカプト基にポリマーは結合していないといえる。実際、本方法により得られるメチオニナーゼのポリマー複合体を、例えばEllman法(Ellman G.L.,, Arch. Biochem. Biophys., 82, 70-77 (1959))により測定すると、1サブユニットあたり平均2.8個以上、好ましくは平均3.1個以上、さらに好ましくは平均3.5個以上の遊離のメルカプト基を有する。
具体的には、賦形剤としては乳糖、白糖、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウムもしくは結晶セルロ−ス等、結合剤としてはメチルセルロ−ス、カルボキシメチルセルロ−ス、ヒドロキシプロピルセルロ−ス、ゼラチンもしくはポリビニルピロリドン等、崩壊剤としてはカルボキシメチルセルロ−ス、カルボキシメチルセルロ−スナトリウム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末もしくはラウリル硫酸ナトリウム等、滑沢剤としてはタルク、ステアリン酸マグネシウムもしくはマクロゴ−ル等が挙げられる。坐剤の基剤としてはカカオ脂、マクロゴ−ルもしくはメチルセルロ−ス等を用いることができる。また、液剤もしくは乳濁性、懸濁性の注射剤として調製する場合には通常使用されている溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、保存剤、等張剤等を適宜添加しても良く、経口投与の場合には嬌味剤、芳香剤等を加えても良い。
例えば、本発明の方法により得られるメチオニナーゼのポリマー複合体は、凍結乾燥して使用してもよい。
ジチオスレイトール(DTT)処理ポリエチレングリコール修飾組換えメチオニナーゼ(PEG-rMETase)の製造法
(1)rMETase
特願平 9-270676に準じて実施取得した。
(2) rMETase濃縮・調整工程
約170 gのrMETaseに120 mM ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH 9.0)を2倍量加え混合した。次に分画分子量10 kDa,1.8 m2の膜を用いて100 g/Lまで濃縮した。濃縮した150 g のrMETaseを、PEG修飾工程へ用いた。
(3)PEG修飾、DTT処理工程
150 gのrMETaseに活性化PEG(MEGC-50HS、日本油脂製) 275.4 gを3回(91.8 g×3)に分けて37℃恒温下で10〜15分毎に添加した。3回目の添加から10〜15分反応後に100 mM りん酸水素ニナトリウム溶液でpHを7.2に調整した。DTTを0.5%濃度になるように添加し、37℃恒温下で2時間撹拌し、反応を行い、15℃で一夜保存した。
(4) Diafiltration工程
得られた反応液を総量が36.0 Lとなるように50 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 7.2を加え混合した。42 Lの50 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 7.2を 0.7 L/minの流速で添加しながら分画分子量50 kDa,2.1 m2の膜を用いてDiafiltrationを行った。引き続き約3 Lになるまで濃縮を行った。2 Lの50 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 7.2を用いて膜内のタンパク質を回収し濃縮液と混合してDiafiltration処理液とした。
(5)イオン交換カラムクロマトグラフィー工程
50 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 7.2で平衡化されたDEAE Sepharose-FFカラム(φ140×65 mm,1 L)にDiafiltration処理液を50 cm/hの流速で送液し、pass through画分を取得した。溶出液に50 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 7.2を添加し12.0 Lに調整し、0.2μm,0.05 m2の膜でろ過して15℃で保存した。
(6) ゲル濾過工程
10 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 8.0で平衡化されたSephacryl S200 HRカラム(φ600×600 mm,170 L)にイオン交換カラムクロマトグラフィー溶出液を11 cm/hの流速で送液した。活性画分を集めて30 kDa,1.2 m2の膜を用いて濃縮を行った。約1 Lの 10 mMりん酸ナトリウム緩衝液pH 8.0を用いて膜内のタンパク質を回収し、さらに10 mMりん酸ナトリウム緩衝液を添加しタンパク質濃度が約40 g/Lになるよう調整した。
(7)ピリドキサールりん酸(PLP)添加工程
濃縮液に1 mM濃度に調製したPLP溶液を濃縮液量の1/9量添加して混合後、滅菌済み0.22μm,0.02 m2の膜を用いて約200 mLずつ容量250 mLのボトルに分注し-80 ℃で保存した。
DTT処理を施していないPEG-rMETaseおよびrMETase、DTT処理を施したPEG-rMETaseおよびrMETaseの比活性を測定した。活性測定はTakakuraらの方法(Takakura T. et. al., Anal Biochem., 3 27, 233-240 (2004)に従って実施した。その結果、表1に示すようにPEG修飾により酵素活性は低下したが、DTT処理を施すことにより回復した。一方、rMETaseの酵素活性はDTT処理を施しても変化はなかった。
(1)パパイン
メチオニナーゼの場合と同様にパパイン(和光純薬製)を用いてPEG修飾反応とDTT処理を行い、DTT処理前後の比活性を比較した。パパインの活性評価は0.1 mM L-システイン、2 mM EDTA・2Na、および1 mM N-α-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド塩酸塩を含む50 mM トリス塩酸緩衝液中(pH 7.5)で反応を行い、37℃で1分間に生成するp-ニトロアニリンの量を410 nmでモニターし測定した。その結果、表4に示すようにPEG修飾によりパパインの酵素活性は低下したが、DTT処理を施すことにより回復した。
放線菌Streptomyces sp.を2.0%ポリペプトン、2.0%可溶性澱粉、0.2%リン酸水素ニカリウム、0.1%硫酸マグネシウム、0.1%酵母エキスよりなる培地(pH 7.0)を用いて30℃、3日間振とう培養した。遠心分離によって菌体を除去した後、25 mM ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH 8.5)で透析してTGaseの粗酵素液を取得した。この粗酵素液0.25mLにMEGC-50HSを4 mgを添加して25℃で1時間反応させた。反応液の最終濃度の0.1%でDTT処理して、比活性を比較した。なお、酵素活性はFolk J.E. and Chung S.I.(MethodsEnzymol., 113, 358-375 (1985))の方法に準じて測定した。その結果、表5に示すようにPEG修飾により低下した酵素活性はDTT処理を施すことにより回復した。
以上のことからDTT処理による効果はメチオニナーゼに限定されたものではなく、その他のタンパク質や酵素、特にシステイン残基のメルカプト基が活性発現に重要な役割を果たすタンパク質や酵素に幅広く適用できると言える。
メチオニナーゼは1サブユニットあたり4個のメルカプト基を有している。PEG修飾反応及びDTT処理に伴うrMETase中に存在する遊離したメルカプト基数の推移を、ドデシル硫酸ナトリウム処理によりタンパク質を変性させた後Ellman法(Ellman G.L.,, Arch. Biochem. Biophys., 82, 70-77 (1959))を用いて定量した。
(1)DTT処理PEG-rMETase製造工程におけるメルカプト基数の推移
表7に示すように活性化PEG(MEGC-50HS)と反応させる前のrMETaseのメルカプト基数は3.7 SH/サブユニットあったが、PEG化反応で2.7 SH/サブユニットとなり1 SH/サブユニットの減少が認められた。次に0.5%DTTで処理後精製して取得したPEG-rMETaseの残存メルカプト基数は3.7 SH/サブユニットへ回復し、rMETaseのメルカプト基数と同等の値となった。一方、0.5%DTTで処理を行なわず精製して取得したPEG-METaseの残存メルカプト基数は3.0 SH/サブユニットであった。
(2)
これらの結果によりPEG化工程で平均して1サブユニットあたり1個のメルカプト基が活性化PEG(MEGC-50HS)と反応するが、DTT処理によりメルカプト基に結合したPEGは脱離したと考えることができる。また、DTT処理によってPEGが脱離したメルカプト基は酵素活性に重大な影響を与える部位であると推測された。
rMETase、DTT処理PEG-rMETase、及びDTT未処理PEG-rMETaseをメルカプト基修飾剤として知られているMIAと反応させた後、さらにDTT処理を施した。結果を表8に示す。MIAでメルカプト基を修飾することでDTT未処理PEG-rMETase、DTT処理PEG-rMETaseのいずれも比活性は大きく低下した。その後、DTTを添加して反応させた結果、DTT未処理PEG-rMETaseのみ比活性の上昇が認められた。これは、DTT未処理PEG-rMETaseの場合メルカプト基がPEGによって予め修飾されていたため、MIAによるメルカプトプト基修飾を受けず、DTT処理を施すことによってメルカプト基からPEGが脱離し酵素の活性が上昇したものと思われる。
rMETaseのメルカプト基数は3.7 SH/サブユニットであったが、PEG修飾反応で2.7 SH/サブユニットに低下した。その後、DTT処理を施すことによって3.7 SH/サブユニットに回復した。またMIAによりメルカプト基を修飾することで比活性は大きく低下したが、DTT処理を施すことによりDTT未処理PEG-rMETaseのみ比活性が上昇した。
以上の結果より、活性化PEG(MEGC-50HS)はrMETase中の活性発現に重要な役割を果たすメルカプト基(Cys)を修飾すると結論できる。
DTT未処理PEG-rMETaseおよびDTT処理PEG-rMETaseのサブユニットレベルでの分子質量をMALDI-TOF/MSで分析した。その結果、図1に示すようにDTT未処理PEG-rMETaseに対してDTT処理PEG-rMETaseは分子量が約5 kDa低下していることが判った。PEGの分子量が約5 kDaであることからDTT処理により1 PEG/サブユニットが脱離したことが考えられた。
DTT未処理PEG-rMETase、DTT処理PEG-rMETaseの結合PEG数を測定した(Bullock J., et.al., Anal. Biochem.,, 254, 254-262 (1997))。アルカリ加水分解により遊離したPEGをPEG4120(Polymer Laboratories製)を標準としHPLCを用いて定量した。その結果、表9に示すようにDTT未処理PEG-rMETaseの結合PEG数は8.4 PEG/サブユニットであったのに対して、DTT処理PEG-rMETaseの結合PEG数は7.5 PEG/サブユニットであり、約1 PEG/サブユニットの低下が認められた。また、反応モル比30でPEG修飾したPEG-rMETaseの場合も同様に、DTT処理によって結合PEG数は約1 PEG/サブユニット低下していた。
Fluorescamineを用いた蛍光検出法(Karr L.J., et.al.,Meth. Enzymol., 228, 377-390 (1994))によりDTT未処理PEG-rMETase、およびDTT処理PEG -rMETaseのアミノ基修飾率をrMETaseを対象として測定した。その結果、表10に示すようにDTT処理の有無に関わらずアミノ基修飾率はほぼ同等であった。従ってアミノ基に結合したPEGはDTT処理に伴う脱離は生じないことを確認した。
Claims (16)
- ポリマーが結合したタンパク質にメルカプト基を有する化合物を反応させ、該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基にエステル結合しているポリマーを脱離する工程を含む、タンパク質のポリマー複合体の製造方法。
- ポリマーが結合した該タンパク質が、システイン残基を有するタンパク質に活性化ポリマーを反応させて得られたものである、請求項1記載の方法。
- 該ポリマーがポリアルキレンオキシドである、請求項1記載の方法。
- 該ポリマーがポリエチレングリコールである、請求項3記載の方法。
- 該メルカプト基を有する化合物が、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトール、2−メルカプトエタノール、還元型グルタチオン又はN−アセチル−L−システインのいずれかである、請求項1記載の方法。
- 該メルカプト基を有する化合物が、ジチオスレイトール又は2−メルカプトエタノールである、請求項1記載の方法。
- 該タンパク質が酵素である請求項1記載の方法。
- 該酵素がその活性発現に影響を与える部位ににシステイン残基を含むものである、請求項7記載の方法。
- 該酵素がメチオニナーゼ、パパインまたはトランスグルタミナーゼである請求項8記載の方法。
- タンパク質1サブユニットあたり平均0.7〜1.3分子のポリマーを脱離するものである、請求項1記載の方法。
- 請求項1〜10のいずれかに記載の方法で得られる、タンパク質のポリマー複合体。
- 該ポリマー複合体がメチオニナーゼ、パパインまたはトランスグルタミナーゼのポリエチレングリコール複合体である請求項1記載の方法。
- 請求項12記載の方法で得られる、メチオニナーゼ、パパインまたはトランスグルタミナーゼのポリエチレングリコール複合体。
- 1サブユニットあたり平均3.1個以上の遊離のメルカプト基を有するものである、メチオニナーゼのポリマー複合体。
- 請求項13または14に記載のメチオニナーゼのポリマー複合体を含有する抗腫瘍剤。
- ポリマーが結合したタンパク質にメルカプト基を有する化合物を反応させることを特徴とする、該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基にエステル結合したポリマーの脱離方法。
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