JPWO2005038022A1 - 骨及び/又は関節疾患関連遺伝子 - Google Patents
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Abstract
Description
従来、ヒト病態関連遺伝子を取得するためには、主病変部位におけるヒト病態組織とヒト正常組織において発現の差のある遺伝子を、サブトラクション法、DNAマイクロアレイ法、Differential Display法、又はESTの比較などにより取得する方法が従来行われてきた。例えば、骨及び/又は関節疾患の一つである変形性関節症においては健常人の軟骨と変形性関節症患者の軟骨それぞれのcDNAライブラリーにおいて5000のexpressed sequenced tags(ESTs)を比較し、その出現頻度を比較することにより、変形性関節症で発現上昇しているESTの同定を試みる実験がなされている(非特許文献2:Osteoarthritis and Cartilage(2001)9,641−653)。また、同じく骨及び/又は関節疾患の一つである慢性関節リウマチ患者の滑膜細胞及び軟骨細胞において、PMA、IL−1β、TNFα処理により変動する遺伝子の検出も行われている(非特許文献3:Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1997)94,2150−2155)。一方、動物病態モデルを用いて、同様に正常組織と病態組織の遺伝子発現を比較することによる病態関連遺伝子の取得も試みられている。例えば、コラーゲン惹起関節炎モデル(CIA)における遺伝子変動についてDNAマイクロアレイ法で解析し、8734個のcDNAのうち330個が2倍以上の誘導を、55個が2倍以上の抑制を示したとの報告がある(非特許文献4:Clin Immuno(2002)105,155−168)。しかしながら、病態組織においては、正常組織と比べて、非常に数多くの遺伝子発現が変動していることが考えられ、単に病態組織と正常組織を比較するだけでは、病態進行に重要な役割を果たす遺伝子を絞り込むのは、困難と思われる。
病態進行に重要な役割を果たす遺伝子を、より直接的に同定するために、炎症性サイトカインなどのような病態と深く関与する因子により誘導される遺伝子をDNAマイクロアレイ法により、同定する試みがなされている。例えば、炎症性サイトカインの1つであるインターロイキン−1を軟骨細胞株に作用させ、その際に誘導されてくる遺伝子を同定する試みがなされている(非特許文献5:Arthritis Res(2001)3,381−388)しかしながら、炎症性サイトカインも同様に非常に多くの作用を持っているので、この方法だけは、炎症や病態に重要な役割を果たす遺伝子を同定するには、十分な方法とはいえない。
一方、Runx2/Cbfa1はポリオーマエンハンサー結合タンパク質(PEBP2αA)とも呼ばれるものであり、runt領域を有する遺伝子ファミリーに属する転写因子の一つである(非特許文献6:Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90,6859−6863)。Runx2/Cbfa1は共役転写因子であるCbfB/PEBP2βとヘテロ2量体を形成し、それによりDNA結合活性が高められることがin vitroで示されている(非特許文献7:Virology(1993)194,314−331,非特許文献8:Mol.Cell.Biol.(1993)13,3324−3339)。Runx2/Cbfa1のノックアウトマウスは出生直後に呼吸不全で死亡し、骨形成の完全な欠損が起こることが知られ、Runx2/Cbfa1は骨分化において必須の転写因子であることが明らかとなっている(特許文献1:特開平10−309148、非特許文献9:Cell(1997)89,755−764)。さらに、Runx2/Cbfa1ノックアウトマウスでは、軟骨細胞の成熟も抑制されており、マウス軟骨細胞株(ATDC5)において、前肥大軟骨細胞から肥大軟骨細胞にかけてアイソフォームの1つであるTypeII Runx2/Cbfa1の発現が観察されることから、軟骨分化、特に増殖軟骨から肥大化軟骨の段階で重要な役割を果たすことが示されている(非特許文献1O:J.Biol.Chem.(2000)275,8695−8702)。
変形性関節症患者の軟骨においては、X型コラーゲン、オステオポンチンのような成長軟骨で見られるような軟骨分化マーカーの発現が亢進することが示されており(非特許文献11:Arthritis Rheum(1992)35,806−811、非特許文献12:Matrix Biology(2000)19,245−255)、実際に変形性関節症の軟骨において石灰化も観察されている(非特許文献13:金原出版株式会社「骨と軟骨のバイオロジー」(2002年))。A.Robin Pooleは、Arthritis & Rheumatismの論説の中で、変形性関節症の軟骨破壊に伴い、軟骨分化が進み肥大軟骨細胞がみられ、その過程は成長板でみられる内軟骨性骨化と似たプロセスである、と述べている(非特許文献14:Arthritis Rheum(2002)46,2549−2552)。このような変形性関節症で見られる永久軟骨の成長軟骨化が変形性関節症の病態進行と深い関りがあることが示唆されている(非特許文献15:岩本容泰「軟骨組織形成の制御機構」第17回日本骨代謝学会学術賞受賞論文)。
一方Runx2/Cbfa1をII型コラーゲンプロモーターを用いて軟骨特異的に発現させると、変形性関節症でみられるような永久軟骨の成長軟骨化が見られ(非特許文献16:J.Cell Biol.(2001)153,87−99)、Runx2/Cbfa1が変形性関節症の病態進行に重要な役割を果たすことが示唆された。しかしながら、Runx2/Cbfa1は軟骨分化だけでなく、骨分化に対しても大きな作用があり、また免疫系への作用も示唆されている。したがって、Runx2/Cbfa1そのものの作用を阻害することによる薬剤の開発は、副作用が懸念される。そこで、Runx2/Cbfa1により制御される遺伝子を探索し、より病態特異的な作用をもつ遺伝子の探索が考えられる。Runx2/Cbfa1により制御される遺伝子の1つであるコラゲナーゼ−3(MMP−13)は(非特許文献17:Mol.Cell Biol.(1999)19,4431−4442)、知られている3つのコラゲナーゼの中で最も変形性関節症の軟骨破壊に重要な役割を果たすことが判明している(非特許文献18:J.Clin.Invest.(1996)97,761−768)。また、コラゲナーゼ−3の軟骨特異的発現トランスジェニックマウスは変形関節症様の病態を示し、肥大軟骨分化マーカーであるX型コラーゲンの発現も観察されることがわかっている(非特許文献19:J.Clin.Invest.(2001)107,35−44)。これらの知見は、Runx2/Cbfa1で誘導又は抑制される遺伝子(Runx2/Cbfa1下流遺伝子)の中には、変形性関節症の病態に深く関る遺伝子が存在することを示唆している。しかしながら、これまでにRunx2/Cbfa1の下流遺伝子の網羅的な解析は試みられていない。
転写因子に注目し、その転写因子を細胞に強制発現させたときに誘導される遺伝子の解析がなされている。例えば、炎症反応に深く関わる転写因子であるNF−kBのサブユニットの1つであるp65を強制発現させ、DNAマイクロアレイ解析を行い、誘導又は抑制される遺伝子が同定されている(非特許文献20:Am J Physiol Cell Physiol(2002)283,C58−C65)。この方法は機能のよくわかっている転写因子の関連遺伝子を同定するには効率的な方法であるが、ホスト細胞には、もともと内在性のNF−kBがあり、それによりNF−kBによる恒常的な遺伝子誘導がある。そのため、NF−kBで制御される遺伝子のうち、すべてを感度よく検出するのが困難な可能性がある。これを回避するための方法が必要と考えられるが、これまでにそのような方法は試みられていない。
本発明でRunx2/Cbfa1下流遺伝子の一つであることが明らかとなったWISP−2は、CCN(connective tissue growth factor/cysteine−rich 61/neuroblastoma overexpressed)familyに属するGrowth Factorである(非特許文献21:Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1998)95,14717−14722)。WISP−2はWnt−1によりその発現が増強されることが明らかとなっており、また、ヒト大腸癌において、その発現が2〜30倍弱くなっていることが明らかとなっている(非特許文献21:Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1998)95,14717−14722)。また、WISP−2ヒト正常乳上皮細胞に比べ、MCF−7ヒト乳癌細胞株において、発現が上昇しており、癌細胞の増殖に関与していることが示唆されている(非特許文献22:Biochem.Biophys.Res.Commun.(2001)282,421−425)。さらにin situ hybridizationにより、骨芽細胞及び軟骨細胞に強く発現しており、骨芽細胞の機能の制御因子であることが示唆されている(非特許文献23:J.Biol.Chem.(1999)274,17123−17131)。しかしながら、WISP−2がRunx2/Cbfa1により制御されているという報告はこれまでにない。
また、同様に本発明でRunx2/Cbfa1下流遺伝子の一つであることが明らかとなったNopp140は、最初に核局在化シグナル結合タンパク(140kDa)として同定されたものである(非特許文献24:J.Cell Biol.(1990)111,2235−2245)。Nopp140遺伝子のポリペプチドは、699アミノ酸から成り、分子量は130〜140kd(脱リン酸化で95kd)である。Nopp140タンパク質は、高度にリン酸化されるリン酸化タンパク質であり、転写因子の制御等の作用を発揮するにはリン酸化が必要である。また、このタンパク質はGTPase/ATPaseドメインを有する。
Nopp140は、当初、核からの輸送のためのジャペロンとして機能していると考えられていた(非特許文献25:Cell(1992)70,127−138)。しかし、その後の報告では、alpha−1 acid glycoprotein/enhancer−binding protein(AGP/EBP)と特異的に結合することにより、転写活性化因子として機能していることが明らかとなっている(非特許文献26:Mol.Cell.Biol.(1997)17,230−239)。Nopp140タンパク質の作用には、細胞周期の調節(非特許文献27:J Cell Sci.(1995)May;p108)、細胞の生死の調節(非特許文献28:J Cell Sci.(1995)May;108(Pt 5):p1911−1920)、黄体形成・卵細胞成熟(非特許文献29:J Mol Endocrinol.(2000)Dec;25(3):275−286.)、核内の仁の形成(非特許文献30:Mol.Biol.Cell(2000)11,567−577)、転写因子の制御(非特許文献31:Mol.Cell.Biol.(1996)16,p4257−4263)、rRNA合成の制御(非特許文献32:Mol.Cell.Biol.(1999)19,p8536−8546)、及びシャペロン活性、肝臓の炎症急性期反応でα1急性期タンパク質の誘導があり(非特許文献33:Mol.Cell.Biol.(1997)17,p230−239)、ニワトリ神経菅形成時に発現が上昇する(非特許文献34:Development(2002)129,p5731−5741)。また、このNopp140タンパク質は、OLETF肥満ラットの内臓脂肪で発現が上昇する(非特許文献35:J.Lipid Res.(2000)41:p1615−1622)。Nopp140遺伝子は、Treacher Collins症候群(頭部顔面の形成不全)の原因遺伝子TCOF1に構造的に類似している(非特許文献36:Mol Biol Cell.(2000)Sep;11(9):p3061−3071.)。以上のような報告があるが、Nopp140の軟骨分化での役割については、いまだに明らかになっておらず、Runx2/Cbfa1により制御されているという報告もない。また、Nopp140と骨及び/又は関節疾患の関連については、現在までのところ知られていない。
また、同様に本発明でRunx2/Cbfa1下流遺伝子の一つであることが明らかとなったTem8は、該Tem8遺伝子によりコードされるポリペプチドが562アミノ酸からなる細胞膜貫通型タンパク質であり、腫瘍に侵入する血管内皮細胞でのマーカーとなる(非特許文献37:Cancer Res.(2001)Sep 15;61(18):p6649−6655)。
また、Tem8遺伝子によりコードされるポリペプチドはCapillary Morphogenesis Proteinと相同性が高い(非特許文献38:Proc Natl Acad Sci U S A.(2003)Apr 29;100(9):5170−5174.Epub 2003 Apr 16.)。
Tem8と骨及び/又は関節疾患の関連については、現在までのところ知られていない。Tem8タンパク質の作用は、炭素菌毒素の細胞レセプター(ATR1)として知られており(非特許文献39:Biochem Pharmacol.(2003)Feb 1;65(3):309−314)、またコラーゲンαIVのC5ドメインと結合することが知られている(非特許文献40:Cancer Res.(2004)Feb 1;64(3):p817−820.)。
また、同様に本発明でRunx2/Cbfa1下流遺伝子の一つであることが明らかとなったGALNT3は、該GALNT3遺伝子によりコードされるポリペプチドが633アミノ酸からなり、GalNac糖転移酵素ファミリー内の他の酵素と非常に相同性が高い(非特許文献41:J Biol Chem.(1999)Sep 3;274(36):25362−25370)。
GALNT3と骨及び/又は関節疾患の関連については、現在までのところ知られていない。GALNT3タンパク質は、ゴルジ体上の膜型酵素であって、GalNAc−糖転移酵素である。膵臓や甲状腺など腺組織での発現が多い。GALNT3のある種の突然変異遺伝子は家族性腫状石灰症の原因となる(非特許文献42:Nature Genetics(2004)36,p579−581)。また、胃癌・膵臓癌などでGALNT3タンパク質が発現することが知られている(非特許文献43:Cancer Sci.(2003)Jan;94(1):p32−36)。
また、同様に本発明でRunx2/Cbfa1下流遺伝子の一つであることが明らかとなったHCKは、該HCK遺伝子によりコードされるポリペプチドが526アミノ酸からなり、Hematopoietic cell kinaseであり、血球系細胞で発現することが知られている。また、HCKタンパク質は、Srcチロシンキナーゼファミリーに属する(非特許文献44:Int J Biochem Cell Biol.(1995)Jun;27(6):p551−63.)。SH2/SH3ドメインを持ちリン酸化によって活性化される。また、塩化水銀でも活性化される(非特許文献45:Eur.J.Biochem.(2000)Dec;267(24):p7201−8)。
HCKと骨及び/又は関節疾患の関連については、現在までのところ知られていない。HCKタンパク質は、細胞増殖や免疫反応での重要なジグナル伝達因子であって、gp130(IL−6RやLIFRのシグナル伝達コンポーネント)からのジグナルで活性化される(非特許文献46:Mol Cell Biol.(2001)Dec;21(23):p8068−81)。HCKタンパク質は、Ras GAPやSTAT5などをリン酸化し、免疫グロブリンレセプターのシグナル伝達にも関与する(非特許文献47:J Biol Chem.(1995)Jun 16;270(24):14718−24.;非特許文献48:EMBO J.(2002)Nov 1;21(21):p5766−74)。HCKタンパク質は、LAMA84細胞において、imatinibmesylateで発現上昇及び/又は活性化される(非特許文献49:Blood.(2004)Jul 15;104(2):p509−18.Epub 2004 Mar 23)。また、HCKタンパク質は、骨髄腫などを増殖させる(非特許文献50:Exp Hematol.(1997)Dec;25(13):p1367−77)。
この出願は、前記の課題を解決する第1発明として、病態に関連した転写因子を該転写因子の欠失した細胞株又は初代培養細胞で発現させ、その際発現が誘導又は抑制される遺伝子を、例えばサブトラクション法又はDNAチップ法等によりスクリーニングすることにより、病態関連遺伝子を取得する方法を提供する。好ましくは、Runx2/Cbfa1をRunx2/Cbfa1及びp53欠損軟骨細胞株又はRunx2/Cbfa1欠損マウス由来初代軟骨細胞で発現させ、その際に発現が誘導される遺伝子を、例えばサブトラクション法又はDNAチップ法等によりスクリーニングすることにより、Runx2/Cbfa1に関する病態の関連遺伝子を取得する方法を提供する。言い換えると、この出願は、病態に関連した転写因子を該転写因子の欠失した細胞に導入することにより、従来法よりバックグラウンドの低く検出感度の優れた病態関連遺伝子探索方法を提供する。例えば、Runx2/Cbfa1を、Runx2/Cbfa1欠損軟骨細胞株又はRunx2/Cbfa1欠損初代培養細胞で発現させ、その際に発現が誘導又は抑制される遺伝子は、軟骨分化制御関連遺伝子としてスクリーニングすることをができる。
この出願は、第2発明として、前記第1発明に用いるRunx2/Cbfa1欠損マウス由来の初代軟骨細胞又は培養軟骨細胞、及びRunx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞株を提供する。言い換えると、これらの細胞を用いた前記第1発明の遺伝子取得方法は、転写因子Cbfa1が欠失しているため、内在性Cbfa1による恒常的な遺伝子誘導がなく、従来法よりバックグラウンドの低く、検出感度に優れた遺伝子誘導及び/又は抑制系を提供する。本発明で好ましく用いることのできるRunx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞株は、RU−1株及びRU−22株として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にブタペスト条約の規定下で2003年8月5日付(原寄託)で国際寄託され、それぞれ受託番号FERM BP−10137(RU−1株)及び受託番号FERM BP−10138(RU−22株)が付与されている。
この出願は、第3発明として、前記第2発明の細胞又は細胞株を用いてCbfa1を強制発現させた際に、発現が誘導される遺伝子のポリヌクレオチドを提供する。これらの遺伝子はPCR遺伝子増幅モニター法においてもRunx2/Cbfa1による誘導が再確認されており、さらに野生型マウス胎仔骨格と比してRunx2/Cbfa1欠損マウス胎仔骨格では、発現が抑制されている遺伝子である。具体的には、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、又は25に示される塩基配列を有し、Runx2/Cbfa1の発現によって発現が誘導されるポリヌクレオチドを提供する。
好ましくは、II型コラーゲンプロモーターによる軟骨特異的トランスジェニックマウスにおいて、軟骨分化促進作用を有するタンパク質をコードし、配列番号5に示される塩基配列を有する遺伝子のポリヌクレオチド、軟骨分化抑制作用を有するタンパク質をコードし、配列番号3に示される塩基配列を有する遺伝子のポリヌクレオチド、軟骨分化促進作用を有するタンパク質をコードし、配列番号1に示される塩基配列を有する遺伝子のポリヌクレオチド、軟骨分化抑制作用を有するタンパク質をコードし、配列番号15に示される塩基配列を有する遺伝子のポリヌクレオチド、及び、軟骨組織形成抑制作用を有するタンパク質をコードし、配列番号25に示される塩基配列を有する遺伝子のポリヌクレオチドを提供する。さらに、配列が新規である、配列番号9に示される塩基配列を有する遺伝子をコードするポリヌクレオチドを提供する。
前記のRunx2/Cbfa1下流遺伝子はマウス由来であるが、データベースをサーチすることにより容易に、相当するヒトホモログを同定することが可能であり、これらのヒトホモログが軟骨分化に対し、類似した作用を持つことは容易に類推できる。また、これらの遺伝子の情報からハイブリダイゼーション法により、類似した遺伝子を取得することは容易に可能であり、得られた遺伝子が軟骨に対して類似した機能を持つことは容易に類推できる。従って、配列番号27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、又は51に示される塩基配列を有する、上記のマウス由来ポリヌクレオチドに対するヒトホモログポリヌクレオチドもまた提供する。
さらに、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、又は25に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドのコードするポリペプチドと65%以上の相同性を有し、かつ軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。またさらに、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、又は25に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
また、上記ポリヌクレオチド又はその相補鎖を含む組換えDNAベクター、該組換えDNAベクターを用いて形質転換した形質転換体、該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド(具体的には、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するポリペプチド;該アミノ酸配列と少なくとも65%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するポリペプチド)、上記ポリヌクレオチドからなる遺伝子の発現を調節するアンチセンスポリヌクレオチド、上記ポリヌクレオチドからなる遺伝子の発現を調節するRNAi分子、並びに上記ポリペプチドに対する抗体を提供する。
また、この出願は第4の発明として、骨及び/又は関節疾患の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法を提供する。本発明が提供するスクリーニング方法は、上記ポリヌクレオチド(Runx2/Cbfa1下流遺伝子)又は該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質を用いるものであり、該方法により、in vitro及びin vivoで、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現を制御する化合物、及びRunx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質の活性を制御する化合物を取得することができる。
前記方法により軟骨分化抑制を示すことの明らかになったRunx2/Cbfa1下流遺伝子は、該遺伝子のポリヌクレオチド、該遺伝子がコードするポリペプチド、該遺伝子のポリヌクレオチドを含むベクター、遺伝子発現やタンパク質の作用を活性化する化合物などを用いることにより、骨及び/又は関節疾患(好ましくは変形性関節症)で見られる軟骨分化亢進に対し、抑制効果が期待でき、治療及び/又は予防効果が期待できる。一方、軟骨分化促進を示すことの明らかになったRunx2/Cbfa1下流遺伝子は、このタンパク質の作用を阻害する化合物、遺伝子発現を阻害する化合物、抗体、RNAi分子、アンチセンスポリヌクレオチドなどを取得することによって、骨及び/又は関節疾患(好ましくは変形性関節症)の軟骨分化亢進に対し抑制効果が期待でき、治療及び/又は予防効果が期待できる。
また、前記方法によりスクリーニングされた病態関連遺伝子、例えば軟骨分化の抑制又は促進を示すことの明らかになったRunx2/Cbfa1下流遺子について、該遺伝子のポリヌクレオチド、該遺伝子がコードするポリペプチド、該遺伝子のポリヌクレオチドを含むベクター、遺伝子発現やタンパク質の作用を活性化する化合物などを用いることにより、疾患、好ましくは骨及び/又は関節疾患(例えば変形性関節症)の診断を行うことができる。
さらに、この出願は、第5の発明として、Runx2/Cbfa1下流遺伝子に関連するトランスジェニック動物、すなわち、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現強度を増強又は低下させた骨及び/又は関節疾患のモデル用トランスジェニック動物を提供する。好ましくはII型コラーゲンプロモーターによりRunx2/Cbfa1下流遺伝子を軟骨特異的に発現させたトランスジェニックマウスを提供する。軟骨分化促進作用を有するRunx2/Cbfa1下流遺伝子のトランスジェニックマウスは、変形性関節症に類似した表現型をもつ可能性があり、変形性関節症の有用な病態モデルを提供する。この病態モデルは、医薬品候補化合物のスクリーニング方法を提供し、さらに病態解明の有用なツールとなる。また、本発明は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のポリヌクレオチド又はその相補鎖を含むDNAベクター、該DNAベクターで形質転換された形質転換体、該ポリヌクレオチドがコードするタンパクそのもの、アンチセンスポリヌクレオチド、RNAi分子、抗体、又は上記スクリーニング方法により選択された化合物などを投与することによる、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症のモデル動物の製造方法を提供する。
図2A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1及びp53欠損細胞株(RU−1及びRU−22)のII型コラーゲン(A)及びX型コラーゲン(B)の、PCR遺伝子増幅モニター法による発現解析結果である。それぞれの細胞株をコンフルエントになるまで培養し、total RNA抽出を行った。その後、cDNAを合成し、そのcDNAを鋳型として、PCR遺伝子増幅モニター法による発現解析を行った。各サンプルはGAPDHの発現を同時に測定し、発現量はGAPDHの値を1000としたときの相対値として表した。
図3A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1及びp53欠損細胞株(RU−1)にアデノウイルスを用いてRunx2/Cbfa1を強制発現した際のCbfa1及び軟骨分化関連マーカーの遺伝子発現解析結果(A:Cbfa1,PTH/PTHrPR,TypeX Collagen;B:MMP13,ALP,BSP)である。Runx2/Cbfa1強制発現後0日目〜15日目までの、BMP−2の存在下及び非存在下での遺伝子発現の経時変化を、PCR遺伝子増幅モニター法により測定した。
図4A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1及びp53欠損細胞株(RU−1)にアデノウイルスを用いてRunx2/Cbfa1を強制発現した際の軟骨分化関連マーカー及びHNOEL−isoの遺伝子発現解析結果(A:Ihh,HNOEL−iso,Osteopontin;B:IL11,Osteocalcin)である。Runx2/Cbfa1強制発現後0日目〜15日目までの、BMP−2の存在下及び非存在下での遺伝子発現の経時変化を、PCR遺伝子増幅モニター法により測定した。
図5A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1及びp53欠損細胞株(RU−22)にアデノウイルスを用いてRunx2/Cbfa1を強制発現した際のCbfa1及び軟骨分化関連マーカーの遺伝子発現解析結果(A:Cbfa1,PTH/PTHrPR,TypeX Collagen;B:MMP13,ALP,BSP)である。Runx2/Cbfa1強制発現後0日目〜15日目までの、BMP−2の存在下及び非存在下での遺伝子発現の経時変化を、PCR遺伝子増幅モニター法により測定した。
図6A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1及びp53欠損細胞株(RU−22)にアデノウイルスを用いてRunx2/Cbfa1を強制発現した際の軟骨分化関連マーカー及びHNOEL−isoの遺伝子発現解析結果(A:Ihh,HNOEL−iso;B:IL11,Osteocalcin,Osteopotin)である。Runx2/Cbfa1強制発現後0日目〜15日目までの、BMP−2の存在下及び非存在下での遺伝子発現の経時変化を、PCR遺伝子増幅モニター法により測定した。
図7A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1欠損マウス由来初代軟骨培養細胞にアデノウイルスを用いてRunx2/Cbfa1を強制発現した際のCbfa1及び軟骨分化関連マーカーの遺伝子発現解析結果(A:Cbfa1,PTH/PTHrPR,TypeX Collagen;B:MMP13,ALP,BSP)である。Runx2/Cbfa1強制発現後0日目〜15日目までの、BMP−2の存在下及び非存在下での遺伝子発現の経時変化を、PCR遺伝子増幅モニター法により測定した。
図8A及びBは、本発明のRunx2/Cbfa1欠損マウス由来初代軟骨培養細胞にアデノウイルスを用いてRunx2/Cbfa1を強制発現した際の軟骨分化関連マーカー及びHNOEL−isoの遺伝子発現解析結果(A:Ihh,HNOEL−iso;B:IL11,Osteocalcin,Osteopontin)である。Runx2/Cbfa1強制発現後0日目〜15日目までの、BMP−2の存在下及び非存在下での遺伝子発現の経時変化を、PCR遺伝子増幅モニター法により測定した。
図9は、Runx2/Cbfa1及びp53欠損細胞株(RU−1、RU−22)、及びRunx2/Cbfa1欠損マウス由来初代培養細胞にそれぞれアデノウイルスによりRunx2/Cbfa1を強制発現誘導し、1日目に誘導されてくる遺伝子をDNAマイクロアレイにより解析した結果である。
図10は、DNAマイクロアレイ解析においてRunx2/Cbfa1により誘導されることが明らかとなった遺伝子について、PCR遺伝子増幅モニター法によりRunx2/Cbfa1による誘導を再確認した実験結果である。それぞれの遺伝子(Cbfa1,Tem8,WISP2)はDNAマイクロアレイにより誘導の確認された細胞株(RU−1)を用いて、誘導の再確認を行った。
図11は、DNAマイクロアレイ解析においてRunx2/Cbfa1により誘導されることが明らかとなった遺伝子について、PCR遺伝子増幅モニター法によりRunx2/Cbfa1による誘導を再確認した実験結果である。それぞれの遺伝子(Cbfa1,kEST,MYB binding protein(p160)1a,Nopp140)はDNAマイクロアレイにより誘導の確認された細胞株(RU−22)を用いて、誘導の再確認を行った。
図12A〜Cは、DNAマイクロアレイ解析においてRunx2/Cbfa1により誘導されることが明らかとなった遺伝子について、PCR遺伝子増幅モニター法によりRunx2/Cbfa1による誘導を再確認した実験結果である。それぞれの遺伝子はDNAマイクロアレイにより誘導の確認された初代培養細胞を用いて、誘導の再確認を行った。
図13A及びBは、DNAマイクロアレイ解析においてRunx2/Cbfa1により誘導されることが明らかとなった遺伝子について、野生型とRunx2/Cbfa1欠損マウスの胎生期骨格での発現解析を行った結果である。野生型マウス(WT)の胎生13.5日目、15.5日目、18.5日目、Runx2/Cbfa1欠損マウス(KO)の胎生18.5日目の骨格よりtotal RNAを抽出し、cDNAを合成した。その後、それぞれの合成したcDNAを鋳型として、PCR遺伝子増幅モニター法により、発現解析を行った。(軟骨細胞株)
図14A〜Cは、DNAマイクロアレイ解析においてRunx2/Cbfa1により誘導されることが明らかとなった遺伝子について、野生型とRunx2/Cbfa1欠損マウスの胎生期骨格での発現解析を行った結果である。野生型マウス(WT)の胎生13.5日目、15.5日目、18.5日目、Runx2/Cbfa1欠損マウス(KO)の胎生18.5日目の骨格よりtotal RNAを抽出し、cDNAを合成した。その後、それぞれの合成したcDNAを鋳型として、PCR遺伝子増幅モニター法により、発現解析を行った。(初代軟骨培養細胞)
図15は、Wisp2トランスジェニックマウスの下半身骨格の切片のHE染色像(HE)及びII型コラーゲン(Col2a1)、PTHレセプター(Pthr1)、X型コラーゲン(Col10a1)、オステオポンチン(Osteopontin)のin situ hybridization法による発現解析の結果の像を示す写真である。野生型マウス(Wt)に比較して、Wisp2トランスジェニックマウス(Wisp2 tg)では、軟骨の分化が遅延していることを示唆している。
図16A及びBは、Wisp2トランスジェニックマウスの下半身骨格のHE染色像を示す写真である。野生型(WT;A)に比較して、Wisp2トランスジェニックマウス(WISP2;B)では、軟骨の分化が遅延していることを示唆している。
図17A及びBは、Nopp140トランスジェニックマウスの外観(A)及び脛骨のHE染色像(B)を示す写真である。野生型(Wt)に比較して、Nopp140トランスジェニックマウス(Nopp140 tg)では、軟骨の分化がある特定の段階で促進し7ていることを示唆している。
図18A及びBは、Tem8トランスジェニックマウスの頭部の外観(A)及び骨格染色像(B)を示す写真である。野生型(Wild type)に比較して、Tem8 トランスジェニックマウス(Tem8)では、軟骨の分化が促進していることを示している。
図19Aは、HCKトランスジェニックマウスの胎生14.5日目の外観(A−▲2▼)、骨格染色像(A−▲1▼)を示す写真である。
図19B及びCは、HE染色像(B−▲1▼、HE)及びI型コラーゲン(B−▲2▼:Col1a1)、II型コラーゲン(B−▲3▼:Col2a1)、X型コラーゲン(B−▲4▼:Col10a1)、オステオポンチン(B−▲5▼:Osteopontin)、インディアンヘッジホッグ(B−▲6▼:Ihh)、PTHレセプター(B−▲7▼:Pthr1)、Hck(B−▲8▼)、MMP13(C−▲1▼)、BSP(C−▲2▼)、VEGF(C−▲3▼)のin situ hybridizationによる発現解析の像、並びにTRAP染色による破骨細胞の解析像(C−▲4▼)を示す写真である。HCKトランスジェニックマウスは身体が小さく、四肢が太く短く、軟骨組織には分化異常が認められた。
図20は、HCKトランスジェニックマウスの胎生16.5日目のHE染色(HE)、II型コラーゲン(Col2a1)、PTHレセプター(PthRP)、X型コラーゲン(Col10a1)のin situ hybridizationによる発現解析を示す写真である。HCKトランスジェニックマウスの脛骨では、組織化されていない異常な細胞増殖により、正常な成長軟骨板が形成されず、長軸方向への成長が異常であった。
図21A〜Cは、HCKトランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観(A)、骨格染色像(B)、HE染色(C)の結果を示す写真である。HCKトランスジェニックマウスは野生型と比較して、身体が小さく、腹部が突き出ており、四肢が太く短かった(図21A)。また、鼻と上顎の間が分裂しており、鼻と上顎の融合過程が阻害されていた。骨格染色ではアリザリンレッドで染色される石灰化組織が減少、アルシアンブルーで染色される細胞外マトリックスが増加していることが明らかになった(図21B)。HE染色像においてはこのマウスの軟骨細胞は未熟であり、その周辺で間葉系細胞の侵入、増殖が認められた。内軟骨性骨で近位−遠位軸の方向性が失われており、異常な形状を示した。成長版は組織化されておらず、関節は癒合していた(図21C)。
図22Aは、HCKトランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観(A−▲1▼)、骨格染色像(A−▲2▼)を示す写真である。
図22B及びCは、HE−Kossa染色像(B−▲1▼:HE Kossa)及びI型コラーゲン(B−▲2▼:Col1a1)、II型コラーゲン(B−▲3▼:Col2a1)、X型コラーゲン(B−▲4▼:Col10a1)、オステオポンチン(B−▲5▼:Osteopomtin)、オステオカルシン(B−▲6▼:Osteocalcin)、PTHレセプター(B−▲7▼:Pthr1)、インディアンヘッジホッグ(B−▲8▼:Ihh)、Hck(C−▲1▼)、MMP13(C−▲2▼)、BSP(C−▲3▼)のin situ hybridizationによる発現解析像、並びにTRAP染色による破骨細胞の解析像(C−▲4▼)とサフラニンO染色によるプロテオグリカンの解析像(C−▲5▼)を示す写真である。Col2a1を発現する軟骨細胞は減少しており、骨は正常な過程を経ずに間葉系細胞の侵入と増殖を伴って形成されていた。
図23A及びBは、GALNT3トランスジェニックマウス作製のための遺伝子構築物の構造(A)、及びGALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観を示す写真(B)である。野生型マウス(wt)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は身体が小さく、四肢が短く、胸部は小さく、腹部は突き出ていた。
図24は、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の骨格染色像を示す写真である。野生型マウス(Wild type)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は胸郭が小さく、内軟骨性骨化による石灰化した骨が顕著に減少していた。
図25A及びBは、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生16.5日目の脛骨のHE−Kossa染色像を示す写真である(図中BはAの部分的な拡大像)。野生型(wt)では血管侵入が始まっているが、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ではそれが遅れており、関節腔の形成も不十分であった。
図26は、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生16.5日目の脛骨のin situ hybridization法によるII型コラーゲン(Col2a1)の発現解析結果を示す写真である。野生型マウス(Wild type)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ではII型コラーゲンの発現は異常な分布を示した。
図27は、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生16.5日目の脛骨のin situ hybridization法によるX型コラーゲン(Col10a1)の発現解析結果を示す写真である。X型コラーゲンの発現は野生型(wild type)、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ともに肥大軟骨で認められた。
図28は、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生16.5日目の脛骨のin situ hybridization法によるオステオポンチンの発現解析結果を示す写真である。オステオポンチンの発現は野生型(wild type)、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ともに肥大軟骨で認められた。
図29A及びBは、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の脛骨のin situ hybridization法(A:mRNA)及び免疫染色法(B:protein)によるアグリカンの発現解析結果を示す写真である。アグリカンのmRNAの発現(A)は野生型マウス(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では若干上昇していたが、タンパクレベル(B:protein)では減少していた。
図30は、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生16.5日目の脛骨のサフラニン0染色の結果を示す写真である。野生型マウス(wild type)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では染色性が顕著に低下しており、プロテオグリカン含量が顕著に減少していることが明らかとなった。
図31A及びBは、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の距骨のPAS染色の結果を示す写真である(図中のBはAの部分的な拡大像である)。野生型マウス(wt)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は染色性が増加しており、ムチン様の糖タンパク質が増加していることが明らかになった。
図32は、GALNT3トラシスジェニックマウスの胎生18.5日目の脛骨のフィブロネクチンの免疫染色像を示す写真である。野生型マウス(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では軟骨細胞間の距離が狭く、細胞外マトリックス量が低下していることが明らかになった。
図33Aは、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の脛骨をBrduラベルにより軟骨細胞の増殖を解析した結果を示す写真である。野生型マウス(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では軟骨細胞の増殖が亢進していることが明らかになった。
図33Bは、Brdu陽性細胞を数を比較したグラフを示す。
図34は、GALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の脛骨におけるアポトーシスをtunnel染色により解析した結果を示す写真である。野生型マウス(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では軟骨のアポトーシスが亢進していることが明らかになった。
発明の実施をするための最良の形態
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年10月20日に出願された日本国特許出願第2003−359172号の優先権を主張するものであり、上記特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
[骨及び/又は関節疾患の定義]
本発明において、骨及び/又は関節疾患とは、骨格を形成する骨及び軟骨の異常を症状の一つとする、全身性若しくは関節に主病変を生じる疾患の総称である。より具体的には、骨分化及び軟骨分化と病変の発症に結びつきが示されていることと定義することもできる。本発明における骨及び/又は関節疾患は、好ましくは軟骨分化関連疾患である。代表的な骨及び/又は関節疾患には、変形性関節症、慢性関節リウマチなどを示すことができる。また、若年性関節リウマチ、乾癬性関節炎、Reiter症候群、全身性エリテマトーデズ(SLE)、進行性全身性硬化症、Charcot関節(神経障害性関節症)、CPPD結晶沈着症、BCP結晶沈着症、痛風も、関節炎を病変の一つとして伴う場合があり、広義の骨及び/又は関節疾患に含まれる。また、骨分化と病変との関連という点から、骨粗鬆症も広義の骨及び/又は関節疾患に含まれる。
変形性関節症は、関節軟骨の変性、磨耗及び軟骨下骨の硬化、増殖性変化を特徴とする疾患であり、2次的な滑膜炎も観察される。変形性関節症は加齡を基盤とした多因子性疾患と考えられており、リスクファクターとしては、加齢以外に性別(女性)、肥満、外傷(靭帯・半月板損傷など)が考えられているが、その病因には不明な点が多い。変形性関節症の関節軟骨においては、正常永久軟骨では見られない肥大軟骨マーカーの発現亢進、石灰化が見られることが知られており、軟骨の肥大化(分化亢進)は変形性関節症の発症に関与していることが示唆されている。したがって、軟骨分化を制御することにより、変形性関節症の症状を改善できると思われる。
[Runx2/Cbfa1下流遺伝子の定義]
本発明において、Runx2/Cbfa1によりその発現が誘導される遺伝子をRunx2/Cbfa1下流遺伝子という。Runx2/Cbfa1下流遺伝子は特に断らない限り、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、又は25に示される塩基配列を有する遺伝子及び配列番号27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、又は51に示される塩基配列を有するヒトホモログ遺伝子(ヒトホモログポリヌクレオチド)及びRunx2/Cbfa1により誘導される遺伝子と同等の機能を有する遺伝子から選択されたいずれか1つ又は複数の任意の遺伝子を示す用語として用いられる(表1)。ここで言うRunx2/Cbfa1により誘導される遺伝子と同等の機能を有する遺伝子とは、具体的には、マウス・ヒト以外の動物種におけるカウンターパート遺伝子を例示することができる。これらの遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に示す。これらの遺伝子は、Runx2/Cbfa1によりその発現が誘導されるため、軟骨分化制御作用を有し、また、軟骨分化制御に関連する疾患又は病態に関与する可能性がある。
[骨及び/又は関節疾患関連遺伝子]
本発明は、骨及び/又は関節疾患関連遺伝子のポリヌクレオチドに関する。好ましくは、Runx2/Cbfa1により誘導され、なおかつ、軟骨分化に対して促進又は抑制作用を示す遺伝子のポリヌクレオチドに関する。特に好ましくは、前記のことに加え、変形性関節炎に関連する遺伝子のポリヌクレオチドに関する。すなわち、前記の遺伝子はRunx2/Cbfa1の欠損したマウス由来初代軟骨細胞又はRunx2/Cbfa1及びp53欠損軟骨細胞株にRunx2/Cbfa1を導入した際に、発現が誘導又は抑制される遺伝子を、例えばサブトラクション法、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いてスクリーニングすることにより同定することができる。
Runx2/Cbfa1の欠損したマウス由来の初代軟骨細胞及びRunx2/Cbfa1及びp53欠損軟骨細胞株の調製については、[細胞・細胞株]の項に記載されており、また、これらの細胞にRunx2/Cbfa1を導入する方法は当業者に公知の遺伝子組換え手法(形質転換法)を用いることができる。より具体的な手順の例を実施例2に記載する。
前記により同定されたRunx2/Cbfa1により誘導される遺伝子のポリヌクレオチド(表1の左欄)はマウス由来であるが、公共のデータベースを調査することにより、容易にヒトホモログを特定することができる。公共のデータベース(例えばGeneBank)を調査することにより特定されたヒトホモログの塩基配列を配列番号27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、又は51に示す(表1の右欄)。また、ヒトホモログは公共のデータベースを相同性検索することにより、特定することもできる。その場合は、上記遺伝子によりコードされるポリペプチドと少なくとも60%以上、好ましくは少なくとも65%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子の中から、最も相同性の高いタンパク質をコードする遺伝子を選別することにより、特定することができる。タンパク質の相同性検索は当業者に公知であり、例えば公知のタンパク質相同性検索プログラムBLAST(Altschul S.F.ら(1990)Basic local alignment search tool.J.Mol.Biol.215:403−410;Karlin S., and Altschul S.F.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268)などを利用して容易に相同性を求めることができる。
さらに、実験的には、前記のRunx2/Cbfa1により誘導される遺伝子をコードするポリヌクレオチド若しくはその相補鎖をプローブとして、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを得ることにより、例えばヒトにおいて、マウス由来の遺伝子と相同性が高く、機能的にも同等である遺伝子を特定することができる。このようにして得られたヒトホモログが、軟骨分化に対し、同等の機能を保持することは容易に類推できる。本発明における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」は、例えば、Molecular Cloning第2版(J.Sambrook et al.(1989))に記載の方法により得ることができる。ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、6×SSC、0.5%SDS及び50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件でも依然として陽性のハイブリダイゼーションのシグナルが観察されることを表す。
以上のようにして得られるポリヌクレオチドが、実際に軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば実施例8及び9に示す手法を用いて、当該ポリヌクレオチドを発現させた場合に軟骨分化を促進又は抑制するか否かを試験することにより確認することができる。
Runx2/Cbfa1により発現が誘導され、かつPCR遺伝子増幅モニター法で再現性が確認され、さらに、野生型マウス胎仔骨格に比べてRunx2/Cbfa1欠損マウス骨格において発現の抑制されている遺伝子をコードするポリヌクレオチドのうち、配列番号9に示される塩基配列を有する新規遺伝子をコードするポリヌクレオチドがある。この遺伝子は、解析に用いたDNAマイクロアレイにおいて、グラス上にスポットされた配列の元となる配列は、公共のデータベース上に存在するが、遺伝子の一部分の配列のみが示されているにすぎない。本発明においては、その配列を元にRACE法により新規遺伝子の全長配列を同定したものである。解析に用いたDNAマイクロアレイには、このような部分配列のみが知られた遺伝子が数多くスポットされており、これらはいずれもRACE法により全長配列を決めることができる。したがって、この方法を用いて、Runx2/Cbfa1により発現が誘導又は抑制されているESTが同定でき、さらにRACE法により全長遺伝子を解析することにより、新規遺伝子を同定することができる。このように同定された遺伝子も、他のRunx2/Cbfa1下流遺伝子と同様に、Runx2/Cbfa1により制御され、好ましくは軟骨分化を制御する作用を持ち、さらに好ましくは骨及び/又は関節疾患、例えば変形性関節炎に関連する遺伝子である可能性がある。
また、配列番号3及び15に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドは軟骨分化抑制作用を有し、一方、配列番号5及び1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドは軟骨分化促進作用を有する。さらに配列番号25に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドは軟骨組織の形成を抑制する作用を有する。
本発明の遺伝子のポリヌクレオチドの塩基配列は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、又は51で示されるものである。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、若しくは51で示されるDNA配列又は公共のデータベースに記載の塩基配列において1ないし数個のDNAの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有するDNA配列であってもよい。DNAの欠失、置換、付加あるいは挿入の手段自体は公知であり、エキソヌクレアーゼを用いた欠失変異体の作製法、部位特異的突然変異誘発法などが挙げられる。また、本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子は、遺伝子によっては、異なるスプライシング部位による複数のアイソフォームが存在することがある。これらのアイソフォームは互いに機能的に類似することは容易に類推することができ、本発明におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子に含まれるものである。
[一部の塩基配列からの全長の塩基配列のクローニング]
Runx2/Cbfa1下流遺伝子の一部の塩基配列が明らかであれば、当業者はこれらの部分塩基配列情報に基づいて、該遺伝子の全長配列を明らかにすることができる。全長塩基配列は、例えばin silicoクローニングによって取得することができる。すなわち、公共データベースに集積されている膨大なEST情報を対象として、該遺伝子の一部を構成するESTの塩基配列(クエリー配列)を照合する。照合の結果に基づいて、クエリー配列と一定の長さに渡って塩基配列が一致するほかのEST情報を取得する。得られたほかのEST情報を新たなクエリー配列として、さらに他のEST情報の取得を繰り返す。この操作の繰り返しによって、部分的な塩基配列を共有する複数のESTのセットを得ることができる。ESTのセットはクラスターと呼ばれる。クラスターを構成するESTの塩基配列を重ね合わせて一つの塩基配列に統合することにより、目的とする遺伝子の塩基配列を明らかにすることができる。
さらに当業者は、in silicoクローニングによって決定された塩基配列に基づいて、PCR用のプライマーをデザインすることができる。このプライマーを使ったRT−PCRによって、設計どおりの長さを有する遺伝子断片が増幅されることを確認すれば、決定された塩基配列からなる遺伝子が実際に存在することを裏付けることができる。
あるいは、ノーザンブロッティングによって、in silicoクローニングの結果を評価することもできる。決定された塩基配列情報に基づいてデザインされたプローブを使ってノーザンブロッティングを行う。その結果、上記塩基配列情報と一致するバンドが検出できれば、決定された塩基配列を有する遺伝子の存在を確認することができる。
in silicoクローニングの他、実験的に目的とする遺伝子を単離することもできる。まず、ESTとして登録されている塩基配列情報を与えたcDNAクローンを入手し、そのクローンが有するcDNAの塩基配列の全てを決定する。その結果、cDNAの全長配列を明らかにできる可能性がある。少なくとも、より長い塩基配列を明らかにすることができる。当該クローンが有するcDNAの長さは、ベクターの構造が明らかであれば、あらかじめ実験的に確認することもできる。
また、ESTの塩基配列情報を与えたクローンが手元に無くとも、部分塩基配列に基づいて、当該遺伝子の塩基配列が未知の部分を取得する方法は公知である。たとえば、ESTをプローブとして、cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、より長い塩基配列を明らかにできる場合がある。cDNAライブラリーとしては、全長cDNAを多く含むライブラリーを用いれば、容易に全長cDNAクローンを単離することができる。例えば、オリゴキャップ法の原理に基づいて合成されたcDNAライブラリーは、全長cDNAを多く含むとされている。
さらに、部分的な塩基配列情報に基づいて、遺伝子の塩基配列が未知の領域を合成するための手法が公知である。たとえばRACE法は、未知塩基配列を含む遺伝子の単離のための代表的な手法である。RACE法においては、cDNAの末端に人為的にオリゴヌクレオチドリンカーが連結される。このオリゴヌクレオチドリンカーの塩基配列は予め既知のものである。したがって、ESTとして既に塩基配列が明らかな領域と、オリゴヌクレオチドリンカーの塩基配列情報に基づいて、PCR用のプライマーをデザインすることができる。こうしてデザインされたプライマーを使ったPCRによって、塩基配列が未知の領域が特異的に合成される。
RACE法、cDNAライブラリークローニング、公共のデータベースを用いたin silicoクローニングなどにより、全長配列情報が取得できれば、当業者は全長配列情報に基づいて、合成DNAを作成し、さらにその合成DNAを結合することにより、全長配列を含むポリヌクレオチドの取得が可能である。合成DNAを用いた方法では、任意の場所に突然変異を導入することができ、軟骨分化に対する機能を保持したままで、1〜数個のアミノ酸の置換、欠失、付加を伴う改変体を作製することができる。また、このようにして得られたポリヌクレオチドは、他の手法で得られた同じ配列を含むポリヌクレオチドと同等の機能を有し、同様に用いることができる。
[遺伝子の多型について]
なお、一般に高等動物の遺伝子は、高い頻度で多型を伴う。またスプライシングの過程で相互に異なるアミノ酸配列からなるアイソフォームを生じる分子も多く存在する。多型やアイソフォームによって塩基配列が異なる遺伝子であっても、Runx2/Cbfa1下流遺伝子と同様の活性を持つ遺伝子は、いずれも本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子に含まれる。
[他種におけるホモログについて]
本発明において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子は、マウス・ヒトホモログに限らず、他動物種におけるカウンターパートも含む。従って、マウス・ヒト以外の種におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子とは、特に断らないときには、その種に固有のRunx2/Cbfa1下流遺伝子のホモログ、あるいはその個体に導入されている外来性のRunx2/Cbfa1下流遺伝子を言う。
本発明においてマウスRunx2/Cbfa1下流遺伝子のホモログとは、マウス当該遺伝子伝子をプローブとしてストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、かつマウスRunx2/Cbfa1下流遺伝子と同等の機能を有する、マウス以外の種に由来する遺伝子を言う。「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC、0.5%SDS及び50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件でも依然として陽性のハイブリダイゼージョンのシグナルが観察されることを表す。ストリンジェンシーを大きく左右するハイブリダイゼージョンや洗浄の温度条件は、融解温度(Tm)に応じて調整することができる。Tmはハイブリダイズする塩基対に占める構成塩基の割合、ハイブリダイゼージョン溶液組成(塩濃度、ホルムアミドやドデシル硫酸ナトリウム濃度)によって変動する。従って、当業者であればこれらの条件を考慮して同等のストリンジェンシーを与える条件を実験又は経験的に設定することができる。ここで、Runx2/Cbfa1下流遺伝子と同等の機能を有する遺伝子とは、マウス又は他の種のRunx2/Cbfa1下流遺伝子によってその発現が抑制又は促進され、マウスRunx2/Cbfa1遺伝子によりコードされるタンパク質と同一又は類似の活性又は機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を意味する。
マウスRunx2/Cbfa1下流遺伝子のヒトホモログ遺伝子を、公共のデータベースで調べたところ、タンパク質のアミノ酸配列レベルの相同性が65%以上の値を示すヒトホモログを特定することができた。したがって、マウスの配列から、ヒト以外の動物種のホモログを公共のデータベースから探す場合にも、アミノ酸配列レベルで65%以上の相同性を有していれば、機能的に類似したカウンターパートである可能性がある。
[プライマー・プローブ]
プライマー又はプローブには、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の塩基配列の全部若しくは一部からなるポリヌクレオチド、又はその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。塩基配列の相同性は、BLAST等のアルゴリズムにより、決定することができる。
このようなポリヌクレオチドは、Runx2/Cbfa1下流遺伝子を検出するためのプローブとして、又はRunx2/Cbfa1下流遺伝子を増幅するためのプライマーとして利用することができる。プライマーとして用いる場合には、通常、15bp〜100bp、好ましくは15bp〜35bpの鎖長を有する。また、プローブとして用いる場合には、Runx2/Cbfa1下流遺伝子(又はその相補鎖)の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、少なくとも15bpの鎖長のDNAが用いられる。プライマーとして用いる場合、3’側の領域は相補的である必要があるが、5’側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
なお、本発明における「ポリヌクレオチド」は、DNA又はRNAであることができる。これらポリヌクレオチドは、合成されたものでも天然のものでもよい。又はイブリダイゼーションに用いるプローブDNAは、通常、標識したものが用いられる。標識方法としては、例えば次のような方法を示すことができる。
1)DNAポリメラーゼIを用いるニックトランスレーションによる標識
2)ポリヌクレオチドキナーゼを用いる末端標識
3)クレノーフラグメントによるフィルイン末端標識(Berger SL,Kimmel AR.(1987)Guide to Molecular Cloning Techniques,Method in Enzymology,Academic Press;Hames BD,Higgins SJ(1985)Genes Probes:A Practical Approach.IRL Press;Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.(1989)Molecular Cloning:a laboratory Manual,2nd Edn.Cold Spring Harbor Laboratory Press)
4)RNAポリメラーゼを用いる転写による標識(Melton DA,Krieg PA,Rebagkiati MR,Maniatis T,Zinn K,Green MR.Nucleic Acid Res.(1984)12,7035−7056)
5)放射性同位体を用いない修飾ヌクレオチドをDNAに取り込ませる方法(Kricka LJ.(1992)Nonisotropic DNA Probing Techniques.Academic Press)
尚、オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのうち重合度が比較的低いものを意味し、オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに含まれる。
[遺伝子探索手法]
本発明は、病態に関連のある転写因子を該転写因子の欠損した細胞へ導入し、該転写因子を発現させることによる病態関連遺伝子の探索手法に関する。さらに好ましくは、Runx2/Cbfa1をRunx2/Cbfa1の欠損した初代軟骨細胞又は軟骨細胞株に導入し、該転写因子を発現させることによる遺伝子の探索手法に関する。この方法により内在性の遺伝子による恒常的な遺伝子発現がなく、バックグラウンドが非常に低く抑えられた、遺伝子探索手法が提供され、従来検出できなかった遺伝子を検出できる可能性がある。病態に関連のある転写因子とは、例えばNF−kBのような炎症反応に関与するものが挙げられる。病態に関連のある転写因子とは、病態において、誘導されるものでも抑制されるものでもよく、病態進行に従って、誘導されている転写因子でもよい。
転写因子の欠損した細胞は、既に確立されている細胞系を用いることもできるし、又は、該転写因子の遺伝子情報に基づいて遺伝子工学的手法により作製することも可能である。あるいは、種々の化学処理により、転写因子の欠損した細胞を得ることができる場合もある。
転写因子の細胞への導入は、当業者に公知の形質転換法を用いて行うことができる。転写因子を細胞へ導入し、その発現を確認した後、サブトラクション法、DNAチップなどを利用して、その発現が誘導又は抑制される遺伝子をスクリーニングする。
[細胞・細胞株]
本発明は、前記の遺伝子探索手法に用いることのできるRunx2/Cbfa1欠損マウス由来の初代培養軟骨細胞又は培養軟骨細胞、Runx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞株に関する。Runx2/Cbfa1欠損マウス由来初代培養軟骨細胞は、Runx2/Cbfa1欠損マウスの胎生18.5日目の骨格をトリプシン処理及びコラゲナーゼ処理することにより、得られる初代軟骨細胞である。また、Runx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞株は、Runx2/Cbfa1及びp53欠損マウスの胎生18.5日目の骨格をトリプシン処理及びコラゲナーゼ処理し、さらにクローニングを3若しくは4回繰り返すことにより、樹立された細胞株である。前記の初代軟骨細胞及び軟骨細胞株の樹立の方法は、それ自体公知であり、自体公知の他の方法に従って採取してもよい。
Runx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞株の好ましい例として、限定するものではないが、RU−1株及びRU−22株が挙げられる。これらのRU−1株及びRU−22株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にブタペスト条約の規定下で2003年8月5日付(原寄託)で国際寄託され、それぞれ受託番号FERM BP−10137(RU−1株)及び受託番号FERM BP−10138(RU−22株)が付与されている。
[ポリペプチド]
本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子のポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に記載のものを含む。また、公共のデータベースで調べることにより、ポリペプチドの配列を調べることができる。公共のデータベースに登録のないものに関しては、Open Reading Frame検索により、塩基配列から容易に類推できる。さらに、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52のポリペプチドか公共のデータベースに登録のポリペプチドであっても、新たにOpen Reading Frameが見つかった場合には、そのポリペプチドであってもよい。また、これらのポリペプチドは、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、付加、そのアミノ基若しくはカルボキシル基などの修飾など、機能(すなわち軟骨分化を促進又は抑制する作用)の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。さらに、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に示されるアミノ酸配列と少なくとも65%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、その機能(すなわち軟骨分化を促進又は抑制する作用)の著しい変更を伴わないものも本発明のポリペプチドに含まれる。
また、別の例として、本発明でRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたHCKなどのコードするポリペプチドについては、市販のタンパク質(ポリペプチド)として入手することも可能である(インビトロジェン社、Cat.no.P2908等)。またさらに別の例としては本発明でRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたGALNT3などのコードするポリペプチドは、公知の方法によって精製を行うことで得ることも可能である(J Biol Chem.1997 Sep 19;272(38):23503−14.)。
本発明のポリペプチドは、それ自体で、それら自体の生体内での機能(例えば、軟骨の分化、変形性関節炎の発症)を調節するための医薬組成物に使用できる。また、本発明のポリペプチドは、それらの機能を調節し得る化合物、例えば、阻害剤、拮抗剤、賦活剤などを得るためのスクリーニングや、それらに対する抗体の取得に用いることができる。さらに、本発明のポリペプチドは、試薬としても使用可能である。
[組換えベクター]
本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子をコードするポリペプチドを適当なベクターDNAに組み込むことにより、組換えベクターを得ることができる。ベクターDNAとしては、天然に存在するものを抽出したもののほか、増殖に必要な部分以外のDNAが一部欠落しているものでもよい。例えば、ColE1から派生するベクター、ラムダファージから派生するベクターがある。前記ベクターDNAに本発明のDNAを組み込む方法は、自体公知の方法を適用し得る。例えば、適当な制限酵素を選択、処理してDNAを特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターとして用いるDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。
[形質転換体]
本発明からなるポリペプチド及びその由来物は、無細胞タンパク質発現系、大腸菌、酵母、枯草菌、昆虫細胞、動物細胞などの公知の宿主を利用した遺伝子組換え技術によって、本発明の新規ポリペプチド及びその由来物を提供可能である。形質転換は、公知の手段を応用することができ、例えば、レプリコンとして、プラスミド、染色体、ウイルス等を利用して宿主の形質転換を行う。より好ましい系としては、遺伝子の安定性を考慮するならば、染色体内へのインテグレート法が挙げられるが、簡便には核外遺伝子を用いた自律複製系を利用する。ベクターは、宿主の種類により選択され、発現目的遺伝子配列とその複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列とを構成要素とする。構成要素は宿主の種類、すなわち原核細胞又は真核細胞に応じて選択し、プロモーター、リボソー厶結合部位、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等を自体公知の方法によって組み合わせて使用する。
形質転換体は、自体公知の各々の宿主の培養条件に最適な条件を選択して培養することにより、本発明のポリペプチドの製造に用いることができる。培養は、発現産生される新規ポリペプチドの生理活性を指標に行ってもよいが、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養又はバッチによって行う。
[抗体]
Runx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質に対する抗体は、骨及び/又は関節疾患の診断・治療に用いることができる。例えば、診断においては、各Runx2/Cbfa1下流遺伝子に結合する抗体を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA法などを利用することができる。また治療においては、当該遺伝子のコードするタンパク質の活性を制御する抗体により行うことができる。
上記で用いる抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体(Milstein Cら,Nature(1983)305,537−540)であることができる。例えば、Runx2/Cbfa1下流遺伝子に対するポリクローナル抗体は、下流遺伝子によりコードされるポリペプチド又はペプチドを抗原として用いて感作した哺乳動物から血清を採取することにより得ることができる。また、下流遺伝子によりコードされるポリペプチド又はペプチドを抗原として用いて感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させることによりハイブリドーマを作製し、そのハイブリドーマをクローニングした後、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることも可能である。
また、このような抗体の具体的な例としては、たとえば本発明でRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたHCKやTem8などのコードするタンパク質については、BD Biosciences社、Cat.No.610277(抗HCK抗体)やabcam社、Cat.No.200C1339(抗Tem8抗体)などの市販の抗体を入手することも可能である。また抗Nopp140等については公知の文献(Mol Cell Biol.1997 Jan;17(1):230−9.)に記載の抗体を用いることや、同様の方法で抗体を作製することが可能である。
Runx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質の検出には、これらの抗体を適宜標識してやればよい。また、この抗体を標識せずに、該抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインAやプロテインGを標識して間接的に検出することもできる。具体的な検出方法としては、例えばELISA法を挙げることができる。
抗原に用いるタンパク質若しくはその部分ペプチドは、例えばRunx2/Cbfa1下流遺伝子若しくはその一部を発現ベクターに組込み、これを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作製し、該形質転換体を培養して組換えタンパク質を発現させ、発現させた組換えタンパク質を培養体又は培養上清から精製することにより得ることができる。あるいは、該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列、あるいは全長cDNAによってコードされるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを化学的に合成し、免疫原として用いることもできる。免疫する動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ、ハムスターなどが用いられる。
[アンチセンス]
遺伝子の全長配列情報が明らかであれば、当業者は遺伝子の機能を阻害するアンチセンスオリゴ(ポリヌクレオチド)の設計が可能である。また、遺伝子の部分配列のみの情報であっても、アンチセンスオリゴの設計は可能である。たとえば、本発明で軟骨分化に対して促進的に作用することが明らかになったマウスNopp140においては、その開始コドン付近の配列5’−CGG AGC ATG GCG GAT ACC GGC TTG CGC CGC GTG−3’(配列番号111)より、アンチセンスオリゴの候補配列である5’−GCG CAA GCC GGT ATC CGC CAT−3’(配列番号112)などのアンチセンスオリゴを設計することができる。アンチセンスオリゴは、細胞内での分解を避けるために様々な修飾や結合様式が知られており、当業者であれば、適切なアンチセンスオリゴの構造を選択することができる。その構造としては、天然型(D−オリゴ)、ホスホロチオエート型(S−オリゴ)、メチルホスホネート型(M−オリゴ)、ホスホロアミデート型(A−オリゴ)、2’−O−メチル型D−オリゴ、モルフォリデート型(Mo−オリゴ)、ポリアミド核酸、などが例示できる。また、長さは10塩基から70塩基、好ましくは15塩基から30塩基のものを用いる。このようにして作成されたアンチセンスオリゴは例えばNopp140であれば、その機能を抑制することが期待でき、さらに骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬として利用可能である。
[RNAi]
RNA interference(RNAi、RNA干渉)は、21〜23残基の二重鎖RNA分子が同じ配列を含むターゲットのRNAを分解することにより、その発現を強力に抑制する現象をいう。したがって、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のmRNAと同一の塩基配列を有する2本鎖構造を含むRNA分子は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現抑制に利用することができる。RNAi効果を得るためには、少なくとも20以上の連続する塩基配列を有する2本鎖構造のRNA分子を用いることが望ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていても良いし、1つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。本明細書中、このようなRNAi現象を引き起こしうる二本鎖RNAをRNAi分子という。
例えば、マウスNopp140においては、開始コドン付近の配列から5’−AUG GCG GAU ACC GGC UUG CGC−3’(配列番号113)及びその相補鎖である5’−GCG CAA GCC GGU AUC CGC CAU−3’(配列番号114)の2つのRNA鎖を合成し、それぞれをアニーリングすることにより、二重鎖RNA分子を作製することができ、これらはRNAi分子として利用可能である。またそれぞれの鎖の3’側に2塩基のオーバーハングを持たせることにより、遺伝子の発現抑制作用を増強することもできる(WO01/75164)。
また、このようなRNAi分子の別の例としては、市販のRNAi分子、例えばHCKに対するRNAi(siRNA)分子(Dharmacon research Inc.Cat.No.G−003100−TK−02)なども用いることができる。
RNAi分子の設計に用いる配列及び長さや構造については、当業者であれば、様々な改変を試みて、最も遺伝子発現抑制作用の強いRNAi分子を至適化することが可能である。またこのようにして得られたRNAi分子は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子子の発現を抑制することにより、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬として利用可能である。
[活性の測定方法]
さらに本発明においては、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルのみならず、生体試料におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質の生物学的な活性を指標にして化合物や抗体等のスクリーニングや、診断などを行うことができる。例えば、活性の増減、変化により、Runx2/Cbfa1遺伝子の関連する病態を診断しうる。また、生物学的な活性を阻害又は活性化をする低分子化合物若しくは抗体などをスクリーニングすることにより、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質の活性制御化合物若しくは抗体を取得することができ、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節炎の治療に用いることができる。以下に各タンパク質の有する活性を測定するための一般的な方法を記載する。
(1)転写因子・転写調節因子
転写因子を、32Pなどで標識した転写因子の標的配列を含む2本鎖オリゴDNAと共に室温でインキュベートして結合させる。インキュベート後のサンプルはSDSを含まない未変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、標識したオリゴDNAの移動度を32Pの放射活性などを指標にして評価する。転写因子にオリゴDNAに対する結合活性があれば、標識したオリゴDNAの移動度が遅くなり、高分子量側にシフトする。また、標的配列の下流にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのレポーター遺伝子を連結した発現ベクターと転写因子遺伝子をヒトサイトメガロウイルス(CMV)の応答遺伝子プロモーターなどの下流に連結した発現ベクターをHelaやHEK293などの細胞株に共遺伝子導入し、48時間後に細胞破砕液を調製してCATの発現量を調べることにより評価できる(Zhao FらJ.Biol.Chem.276,40755−40760(2001))。
また具体的な例としては、本発明でRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたNOPP140のコードするポリペプチドは、alpha−1 acid glycoprotein(AGP)遺伝子の発現を誘導する転写因子として知られており、AGP promotorを利用したレポータージーンアッセイなど公知の方法を用いることも可能である(Mol Cell Biol.1997 Jan;17(1):230−9.;J Biol Chem.2002 Oct 18;277(42):39102−11.)。
(2)キナーゼ
キナーゼを、myelin basic proteinを基質として含む緩衝液(20mM HEPES,pH7.5,10mM MgCl2,2mM dithiothreitol,及び25uM ATP)に添加し、さらに[γ−32P]ATPを添加して37℃で10分保温する。10分後にLaemmli緩衝液で反応を止め、反応液をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、泳動後にゲルを乾燥させてリン酸化されたmyelin basic proteinの放射活性をX線フィルムにて検出する(Park SYら,J.Biol.Chem.275,19768−19777(2000))。
また具体的な例としては、本発明でRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたHCKのコードするポリペプチドはキナーゼとして機能することが知られており、公知の方法でその活性を測定することも可能である(J.Biol.Chem.1999 Sep.10 Vol.274(37)p26579)。
(3)分泌性因子
活性を測定する分泌性因子の受容体が存在すると思われる細胞を、分泌性因子で刺激し、細胞に生じる変化を測定する。細胞に生じる変化を測定する方法としては、下記のようなものがある。
細胞をカルシウム感受性蛍光色素fura−2を含むHank’s balanced salt solutionに懸濁し、分泌性因子による刺激を加える。刺激により引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇をLS50B(PerkinElmer)などの蛍光検出器で測定する(Zhou Nら,J.Biol.Chem.(2001)276,42826−42833)。
分泌性因子で細胞を刺激し、これにより引き起こされる細胞増殖をチミジンの取り込みで評価する。
分泌性因子の刺激を伝えると思われる転写因子の活性化をルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子の発現により評価することもできる(Piek Eら,J.Biol.Chem.(2001)276,19945−19953)。
(4)受容体・膜タンパク
受容体若しくは膜タンパクを細胞に強制発現させ、リガンドが存在すると思われる試料(細胞の培養液、血清など)で刺激し、細胞に生じる変化を、[分泌性因子]の項に記載の方法に準じて測定する。
また受容体については、それに対して結合して作用を起こす物質(リガンド)との結合を測定することによっても活性を測定することができる。その具体的な例としては、本発明でRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたTem8のコードするポリペプチドであり、Tem8は炭素菌に結合する受容体としても知られており(J.Biol.Chem.2003 Feb 14 Vol.278(7)p5227)、またVI型コラーゲンのα3サブユニットとの結合も知られている(Cancer Research 2004 Feb 1 Vol.64(3)p817)。このことから、これらの物質とTem8の結合を測定することによって活性の指標とすることも可能である。
(5)フォスファターゼ制御因子
制御を受けるフォスファターゼの活性を測定することにより、該タンパク質のフォスファターゼの制御活性を見る。フォスファターゼの活性は、下記の方法により活性を測定することができる。フォスファターゼをp−nitrophenyl phosphate(pNPP)を基質として含む緩衝液(25mM MES,pH5.5,1.6mM dithiothreitol,10mM pNPP)に添加し、37℃で30分間保温する。30分後に1N NaOHを添加して反応を停止し、pNPPの加水分解の結果生じた405nmの吸光度を測定する(Aoyama Kら,J.Biol.Chem.(2001)276,27575−27583)。
(6)酵素類(キナーゼ・フォスファターゼ以外)
前述のキナーゼ・フォスファターゼ以外にも多種類の酵素が存在し、生体の機能や構造の維持・変化に関係している。酵素はその反応する物質(基質・反応産物)や反応のメカニズムに特異性を持つ(基質特異性・反応特異性)ため、その酵素に応じた活性を測定する種々の方法が考案されている。また酵素は構造や基質特異性・反応特異性が類似した一群の酵素群(酵素ファミリー)を形成することもあり、その酵素ファミリーの中では基質や阻害剤・活性化剤との反応性に共通性が見られることがあるため、同じ酵素ファミリーに属する酵素の活性測定方法を用いて新規の酵素活性評価系を構築することが可能となる場合もある。したがって、本発明の方法で得られたRunx2/Cbfa1下流遺伝子が酵素である場合には、公知の方法や同じ酵素ファミリーに属する酵素の測定法を用いてその活性を測定する方法を構築することが可能である。
その具体的な例としては、本発明においてRunx2/Cbfa1の下流遺伝子であることが示されたGALNT3の場合を例示することができる。GALNT3(ppGaNTase−T3)は、ppGaNTase familyに属する糖転移酵素であり、その活性の測定はUDP−GalNAcを基質としてMUC2やHIV−H3などのペプチドにGalNAcを付加する反応を調べることで測定できる(J.Biol.Chem.1996 July 19,Vol.271(29)p.17006)。また、GALNT3タンパク質は、既報の方法によって精製することができる(J Biol Chem.1997 Sep 19;272(38):23503−14.)。また、ppGaNTase酵素ファミリーには現在24種類の酵素の存在が報告されている(Glycobiology.2003 Jan;13(1):1R−16R.)が、そのGALNT3を含むppGaNTase familyは低分子化合物での酵素活性を制御することが可能であると報告されていることから、そのような情報を用いて活性阻害剤・活性化剤などを取得できる可能性も考えられる。
[診断方法]
本発明の診断方法においては、通常、被験者から採取された生体試料を被験試料とする。生体試料としては、血液試料が望ましい。血液試料とは、全血、あるいは全血から得られた血漿や血清を用いることができる。また本発明における生体試料としては、血液のほか、関節液、バイオプシーにより採取された関節軟骨片、滑膜組織なども用いることができる。これらの生体試料の採取方法は公知である。
生体試料が関節軟骨片や滑膜組織などの細胞である場合には、ライセートを調製すれば、前記タンパク質の免疫学的な測定のための試料とすることができる。あるいはこのライセートからmRNAを抽出すれば、前記遺伝子に対応するmRNAの測定のための試料とすることができる。生体試料のライセートやmRNAの抽出には、市販のキットを利用すると便利である。あるいは、血液、関節液のような液状の生体試料においては、必要に応じて緩衝液等で希釈してタンパク質や遺伝子の測定のための試料とすることができる。
上記の生体試料からライセートを調製すれば、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質の免疫学的な測定のための試料とすることができる。あるいは、このライセートからmRNAを抽出すれば、Runx2/Cbfa1下流遺伝子に対応するmRNAの測定のための試料とすることができる。生体試料のライセート又はmRNAの抽出には、市販のキットを利用すると便利である。またRunx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質が血中や関節液に分泌されていれば、被検者の血液や血清などの体液試料に含まれる目的とするタンパク質の量を測定することによって、それをコードする遺伝子の発現レベルの比較が可能である。上記試料は、必要に応じて緩衝液等で希釈して本発明の方法に使用することができる。
mRNAを測定する場合には、本発明におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルの測定値は、公知の方法によって補正することができる。補正により、細胞における遺伝子の発現レベルの変化を比較することができる。測定値の補正は、上記生体試料における各細胞において、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて、本発明においてRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルの測定値を補正することによって行われる。発現レベルが大きく変動しない遺伝子の例としては、β−アクチン、GAPDHなどを挙げることができる。
さらに本発明は、本発明の診断方法のための試薬(診断薬組成物)を提供する。すなわち本発明は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、その相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むDNAベクター、又は該DNAベクターで形質転換した形質転換体を含有する、骨及び/又は関節疾患の診断用試薬に関する。あるいは、本発明は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質(ポリペプチド)、該タンパク質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体、アンチセンスポリヌクレオチド、又はRNAi分子を含有する、骨及び/又は関節疾患の診断用試薬に関する。
本発明の試薬を構成するオリゴヌクレオチドや抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な標識を結合することができる。あるいは本発明の試薬を構成するオリゴヌクレオチドや抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な支持体に固定化しておくこともできる。また本発明の試薬は、前記オリゴヌクレオチド又は前記抗体の他に、検査や保存に必要な付加的な要素と組み合わせて診断用キットとすることもできる。キットを構成することができる付加的な要素(1)〜(6)を以下に示す。これらの要素は必要に応じて予め混合しておくこともできる。また必要に応じて、保存剤や防腐剤を各要素に加えることができる。
(1)試薬や生体試料を希釈するための緩衝液
(2)陽性対照
(3)陰性対照
(4)標識を測定するための基質
(5)反応容器
(6)アッセイプロトコルを記載した指示書
本発明における骨及び/又は関節疾患の診断とは、例えば以下のような診断が含まれる。骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症が疑われる症状を示しながら、一般的な検査では、変形性関節症と判定できない患者であっても、本発明に基づく検査を行えば変形性関節症疾患の患者であるか否かを容易に判定することができる。より具体的には、変形性関節症疾患が疑われる症状を示す患者において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現の上昇若しくは低下は、その症状の原因が変形性関節症である可能性が高いことを示している。
あるいは、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症が改善に向かっているのかどうかを判断するための検査が可能となる。つまり、変形性関節症疾患に対する治療効果の判定に有用である。より具体的には、変形性関節症疾患が疑われる症状を示す患者において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現の上昇若しくは低下は、変形性関節症疾患がさらに進行若しくは改善している可能性が高いことを示している。
さらに、発現レベルの違いに基づいて、変形性関節症の重症度を判定することもできる。すなわち、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現の上昇の程度は、変形性関節症の重症度若しくは軽症度に相関する可能性がある。
[トランスジェニック動物、骨及び/又は関節疾患モデル動物]
本発明は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子若しくはRunx2/Cbfa1下流遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、全身性、好ましくは軟骨特異的に発現強度を増強させたトランスジェニック非ヒト動物からなる骨及び/又は関節疾患モデル動物、好ましくは変形性関節症モデル動物に関する。本発明により、Runx2/Cbfa1下流遺伝子は軟骨分化に対して促進作用又は抑制作用を示すことが明らかになった。したがって、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化に対して促進作用を示す遺伝子の発現レベルを人為的に増強した動物は、変形性関節症の関節軟骨で見られる軟骨分化促進が観察され、変形性関節症のモデル動物として利用できる可能性がある。
また、本発明は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子若しくはRunx2/Cbfa1下流遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、全身性、好ましくは軟骨特異的に発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト動物からなる骨及び/又は関節疾患モデル動物、好ましくは変形性関節症又は慢性関節リウマチのモデル動物に関する。Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化に対して抑制作用を示す遺伝子の発現レベルを人為的に低下した動物は、変形性関節症の関節軟骨で見られる軟骨分化促進が観察され、変形性関節症のモデル動物として利用できる可能性がある。
本発明において機能的に同等な遺伝子とは、Runx2/Cbfa1下流遺伝子によってコードされるタンパク質において明らかにされている活性と同様の活性を備えたタンパク質をコードする遺伝子である。機能的に同等な遺伝子の代表的なものとしては、被験動物が本来備えている、その動物種におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子のカウンターパートを挙げることができる。
さらに本発明は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のコードするタンパク質そのもの、若しくは該タンパク質に対する抗体の投与による骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症のモデル動物の作製方法に関する。
まず、Runx2/Cbfa1下流遺伝子は、その発現レベルの上昇及び低下により、軟骨分化促進を誘導することができ、さらに好ましくは変形性関節症の病態を誘導することができる。遺伝子発現レベルと軟骨分化に対する作用の関係は、該遺伝子のコードするタンパク質が軟骨分化に対して促進作用を示すか、抑制作用を示すかにより判断できる。より具体的には、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子(例えば、配列番号5又は1)の発現レベルの上昇は、軟骨分化を促進し、変形性関節症の病態を誘導する可能性がある。また、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制作用を示す遺伝子(例えば、配列番号3、15又は25)の発現レベルの低下は、軟骨分化を促進し、変形性関節症の病態を誘導する可能性がある。
前記の遺伝子発現レベルの上昇は、トランスジェニック動物だけでなく、該遺伝子がコードするタンパク質そのものの投与によっても行うことができ、変形性関節症の病態を誘導し、モデル動物として利用できる可能性がある。該遺伝子がコードするタンパクは、同等の機能を持つのであれば、全長のタンパク質であっても、活性部位を含む部分配列のタンパク質であってもよい。
また、前記の遺伝子発現レベルの低下は、トランスジェニック動物だけでなく、該遺伝子がコードするタンパク質の活性を抑制するもの、若しくは該遺伝子の発現レベルを低下させるものの投与によっても行うことができ、変形性関節症の病態を誘導し、モデル動物として利用できる可能性がある。該遺伝子がコードするタンパク質の活性を抑制するものは、具体的には、抗体や化合物などの活性阻害物質であり、また、受容体であれば、リガンドと結合する領域のみで細胞内にシグナルを伝えることのできないデコイ部分ポリペプチド(細胞外ドメイン可溶化受容体)なども利用できる。また、該遺伝子の発現レベルを低下させるものには、アンチセンス核酸、リボザイムあるいはRNAi分子を利用することができる。また、転写因子であれば、その転写因子の認識するプロモーターの特異的DNA配列を基に、デコイ型の核酸を設計することができる。このように設計されたデコイは転写因子の活性化抑制作用をもつことが考えられ、変形性関節症病態モデルの作製、若しくは変形性関節症の医薬品として利用可能である。
本発明の変形性関節症モデル動物は、変形性関節症の生体内の変化を明らかにするために有用である。さらに、変形性関節症モデル動物を使用することにより、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のさらなる機能を解明すること、及び該遺伝子を標的とする薬剤を評価することには大きな意義がある。
また、本発明による変形性関節症モデル動物は、変形性関節症のメカニズムの解明、さらにはスクリーニングされた化合物の安全性の試験に有用である。例えば本発明による変形性関節症モデル動物が軟骨変性作用を示し、何らかの変形性関節症関連マーカーや軟骨分化マーカーの測定値の変化を示せば、それを回復させる作用を持った化合物をスクリーニングするシステムが構築できる。
本発明において、発現レベルの上昇とは、Runx2/Cbfa1下流遺伝子が外来遺伝子として導入され強制発現している状態、あるいは被験動物が本来備えているRunx2/Cbfa1下流遺伝子の転写とタンパク質への翻訳が増強されている状態、並びに翻訳産物であるタンパク質の分解が抑制された状態のいずれかを意味する。
本発明において、発現レベルの低下とは、被験動物が備えるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の転写とタンパク質への翻訳が阻害されている状態、あるいは翻訳産物であるタンパク質の分解が促進された状態のいずれかを意味する。遺伝子の発現レベルは、例えばDNAチップにおけるシグナル強度の差や、PCR遺伝子増幅モニター法により確認することができる。また、翻訳産物であるタンパク質の活性は、正常な状態と比較することにより確認することができる。
代表的なトランスジェニック動物は、指標遺伝子を導入し強制発現させた動物、又はRunx2/Cbfa1下流遺伝子をノックアウトした動物、他の遺伝子と置換(ノックイン)した動物等を示すことができる。また、Runx2/Cbfa1下流遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイムやRNAi効果をもたらすポリヌクレオチドをコードするDNA、あるいはデコイ核酸として機能するDNAなどを導入したトランスジェニック動物も、本発明におけるトランスジェニック動物として用いることができる。その他、たとえばRunx2/Cbfa1下流遺伝子のコード領域に変異を導入し、その活性を増強又は抑制したり、あるいは分解されにくい又は分解されやすいアミノ酸配列に改変した動物などを示すことができる。アミノ酸配列の変異として、置換、欠失、挿入、又は付加を示すことができる。その他、遺伝子の転写調節領域を変異させることにより、本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現そのものを調節することもできる。
特定の遺伝子を対象として、トランスジェニック動物を得る方法は公知である。すなわち、遺伝子と卵を混合してリン酸カルシウムで処理する方法や、位相差顕微鏡下で前核期卵の核に、微小ピペットで遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法、米国特許第4873191号)、胚性幹細胞(ES細胞)を使用する方法などによってトランスジェニック動物を得ることができる。その他、レトロウイルスベクターに遺伝子を挿入し、卵に感染させる方法、また、精子を介して遺伝子を卵に導入する精子ベクター法等も開発されている。精子ベクター法とは、精子に外来遺伝子を付着又はエレクトロポレーション等の方法で精子細胞内に取り込ませた後に、卵子に受精させることにより、外来遺伝子を導入する遺伝子組換え法である(Lavitranoet Mら,Cell(1989)57,717−723)。
発現ベクターに使用するプロモーターとして、適当な薬剤等の物質により転写が調節されるプロモーターを用いれば、該物質の投与によってトランスジェニック動物における外来性のRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルを調整することができる。例えば、限定されるものではないが、II型コラーゲンプロモーターを用いることができる。
本発明の変形性関節炎のモデル動物として用いるトランスジェニック動物は、ヒト以外のあらゆる脊椎動物を利用して作製することができる。具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ミニブタ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、あるいはウシ等の脊椎動物において様々な遺伝子の導入や発現レベルを改変されたトランスジェニック動物が作り出されている。
[骨及び/又は関節疾患の治療薬又は予防薬候補化合物のスクリーニング方法(in vivo)]
本発明は、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子には、軟骨分化促進作用又は軟骨分化抑制作用を示すものがあることが示された。変形性関節症においては、その病態において永久関節軟骨の軟骨分化亢進が示されている。したがって、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち、軟骨分化促進作用を示す遺伝子(例えば、配列番号5又は9に示される塩基配列を有する遺伝子)については、その発現レベルを低下させる化合物をスクレーニングすることにより、変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬を得ることができる。また、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち、軟骨分化抑制作用を示す遺伝子(例えば、配列番号3、15又は25に示される塩基配列を有する遺伝子)については、その発現レベルを上昇させる化合物をスクリーニングすることにより、変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬を得ることができる。
本発明において遺伝子の発現レベルを上昇若しくは低下させる化合物とは、遺伝子の転写、翻訳、及びタンパク質の活性発現のいずれかのステップに対し、促進的若しくは抑制的に作用する化合物である。また本発明において遺伝子の発現レベルを低下させる化合物とは、これらのステップのいずれかに対して阻害的な作用を持つ化合物である。
本発明の骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬候補化合物のスクリーニング方法は、in vivoで行うこともin vitroで行うこともできる。このスクリーニングは、例えば以下のような工程にしたがって実施することができる。
(1)被験動物に、候補化合物を投与する工程
(2)前記被験動物の生体試料におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現強度を測定する工程
(3)候補化合物を投与しない対照と比較して、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子では該遺伝子発現レベルを低下させる化合物を、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制作用を示す遺伝子では該遺伝子発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
本発明のスクリーニング方法において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子若しくはRunx2/Cbfa1下流遺伝子と機能的に同等な遺伝子を利用することができる。本発明において機能的に同等な遺伝子とは、Runx2/Cbfa1下流遺伝子によってコードされるタンパク質において明らかにされている活性と同様の活性を備えたタンパク質をコードする遺伝子である。機能的に同等な遺伝子の代表的なものとしては、被験物質が本来備えている、その動物種におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子のカウンターパートを挙げることができる。
本発明のスクリーニングにおける被験動物としては、[トランスジェニック動物、骨及び/又は関節疾患モデル動物]の項に記載した、本発明のトランスジェニック動物による骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症のモデル動物や、Runx2/Cbfa1下流遺伝子がコードするポリペプチド若しくはそのポリペプチドに対する抗体などを投与することにより作製される骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症のモデル動物を利用することができる。それ以外にも公知の変形性関節症モデルを利用することが可能である。公知の変形性関節症モデルとしては、自然発症変形性関節症発症モデル(STR/ORTマウスなど)や、前十字靭帯切除モデル(マウス、ラット、ウサギ、イヌなど)などを例示することができる。
当業者は、本発明の開示に基づいて、マウス以外の種におけるホモログを特定することができる。例えばホモロジーサーチによって、ヒトホモログの塩基配列、あるいはアミノ酸配列と相同性の高い他種の遺伝子(あるいはタンパク質)を見出すことができる。あるいは、Runx2/Cbfa1下流遺伝子とのハイブリダイゼーションによって、他種におけるホモログを単離することもできる。なお、ヒト遺伝子を導入されたモデル動物を用いるスクリーニング方法では、当該動物のホモログのみならずヒト遺伝子がRunx2/Cbfa1下流遺伝子として測定される場合もある。
このようにして被験動物に薬剤候補化合物を投与し、被験動物由来の生体試料におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現に対する化合物の作用をモニターすることにより、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルに与える薬剤候補化合物の影響を評価することができる。被験動物由来の生体試料におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルの変動は、前記本発明の診断方法と同様の手法によってモニターすることができる。さらにこの評価の結果に基づいて、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子については、その発現レベルを低下させる薬剤候補化合物を、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制作用を示す遺伝子については、その発現レベルを上昇させる薬剤候補化合物を選択すれば、薬剤候補化合物をスクリーニングすることができる。
このようなスクリーニングにより、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現に様々な形で関与する薬剤を選択することができる。具体的には、たとえば次のような作用を持つ薬剤候補化合物を見出すことができる。
Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進を示す遺伝子:
(1)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現をもたらすシグナル伝達経路の抑制
(2)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の転写活性の抑制
(3)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の転写産物の安定化阻害若しくは分解の促進など。
Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制を示す遺伝子:
(1)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現をもたらすシグナル伝達経路の活性化
(2)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の転写活性の促進
(3)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の転写産物の安定化若しくは分解の阻害など。
[骨及び/又は関節疾患の治療薬及び/又は予防薬候補化合物のスクリーニング法(in vitro)]
また、in vitroのスクリーニングにおいては、例えば、Runx2/Cbfa1下流遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させ、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子の場合は、発現レベルを低下させる化合物を、軟骨分化抑制作用を示す遺伝子の場合は、発現レベルを上昇させる化合物を選択する方法が挙げられる。このスクリーニングは、例えば以下のような工程に従って実施することができる。
(1)Runx2/Cbfa1下流遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程
(2)前記Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルを測定する工程
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子では、該遺伝子発現レベルを低下させる化合物を、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制作用を示す遺伝子では、該遺伝子発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
本発明において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子を発現する細胞は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより得ることができる。利用できるベクター、及び宿主細胞は、本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子を発現し得るものであればよい。宿主−ベクター系における宿主細胞としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等が例示でき、それぞれ利用できるベクターを適宜選択することができる。
ベクターの宿主への導入方法としては、生物学的方法、物理的方法、化学的方法などを示すことができる。生物学的方法としては、例えば、ウイルスベクターを使用する方法、特異的受容体を利用する方法、細胞融合法(HVJ(センダイウイルス))、ポリエチレングリコール(PEG)、電気的細胞融合法、微小核融合法(染色体移入))が挙げられる。また、物理学的方法としては、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ジーンパーティクルガン(gene gun)を用いる方法が挙げられる。化学的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、プロトプラスト法、赤血球ゴースト法、赤血球膜ゴースト法、マイクロカプセル法が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法においては、Runx2/Cbfa1下流遺伝子を発現する細胞として、マウス軟骨細胞株(ATDC5)などを用いることができる。また、Runx2/Cbfa1下流遺伝子を発現する宿主細胞としては、本発明で樹立したCbfa1−/−,p53−/−マウス由来軟骨細胞株を用いることができる。また、ラット、ウサギ、ニワトリ及びマウスの初代軟骨培養細胞を用いることも可能である。なお、関節軟骨及び成長板軟骨からの軟骨初代培養細胞は、公知の方法により採取することができる。
なお、本発明のスクリーニング方法において、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現レベルは、該遺伝子がコードするタンパク質の発現レベルのみならず、対応するmRNAを検出することにより比較することもできる。mRNAによって発現レベルを比較するためには、タンパク質試料の調製工程に代えて、先に述べたようなmRNA試料の調製工程を実施する。mRNAやタンパク質の検出は、先に述べたような公知の方法によって実施することができる。
さらに、本発明の開示に基づいて本発明のRunx2/Cbfa1下流遺伝子の転写調節領域を取得し、レポーターアッセイ系を構築することができる。レポーターアッセイ系とは、転写調節領域の下流に配置したレポーター遺伝子の発現量を指標として、該転写調節領域に作用する転写調節因子をスクリーニングするアッセイ系をいう。
すなわち本発明は、次の(1)〜(3)の工程を含む、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法であって、該薬がRunx2/Cbfa1下流遺伝子、若しくはRunx2/Cbfa1下流遺伝子と機能的に同等な遺伝子を標的とするものである方法に関する。
(1)Runx2/Cbfa1下流遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子では、前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、軟骨分化抑制作用を示す遺伝子では、前記レポーター遺伝子発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
転写調節領域としては、プロモーター、エンハンサー、さらには、通常プロモーター領域に見られるCAATボックス、TATAボックスなどを例示することができる。
またレポーター遺伝子としては、CAT(chloramphenicol acetyltransferase)遺伝子、ルシフェラーゼ(luciferase)遺伝子、成長ホルモン遺伝子などを利用することができる。
あるいは本発明における各Runx2/Cbfa1下流遺伝子の転写調節領域を、次のようにして取得することもできる。すなわち、まず本発明で開示したcDNAの塩基配列に基づいて、BACライブラリー、YACライブラリー等のヒトゲノムDNAライブラリーから、PCR又はハイブリダイゼーションを用いる方法によりスクリーニングを行い、該cDNAの配列を含むゲノムDNAクローンを得る。得られたゲノムDNAの配列を基に、本発明で開示したcDNAの転写調節領域を推定し、該転写調節領域を取得する。得られた転写調節領域を、レポーター遺伝子の上流に位置するようにクローニングしてレポーターコンストラクトを構築する。得られたレポーターコンストラクトを培養細胞株に導入してスクリーニング用の形質転換体とする。この形質転換体に候補化合物を接触させ、候補化合物を接触させない対照と比較して、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子では、前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、軟骨分化抑制作用を示す遺伝子では、前記レポーター遺伝子発現レベルを上昇させる化合物を選択することにより、本発明のスクリーニングを行うことができる。
in vitroでの本発明によるスクリーニング方法として、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の活性に基づくスクリーニング方法を利用することもできる。すなわち本発明は、次の工程を含む、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法であって、該薬がRunx2/Cbfa1下流遺伝子若しくはRunx2/Cbfa1下流遺伝子と機能的に同等な遺伝子を標的とするものである方法に関する。
(1)Runx2/Cbfa1下流遺伝子によってコードされるタンパク質と候補化合物を接触させる工程
(2)前記タンパク質の活性を測定する工程
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子では、前記活性を低下させる化合物を、軟骨分化抑制作用を示す遺伝子では、前記活性を上昇させる化合物を選択する工程。
本発明におけるRunx2/Cbfa1下流遺伝子がコードするタンパク質が有する活性を指標として、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進作用を示す遺伝子では、その活性を阻害する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。このようにして得ることができる化合物は、該遺伝子の働きを抑制する。その結果、変形性関節症で見られる軟骨分化促進を阻害することにより、変形性関節症の病態を制御することができる。Runx2/Cbfa1下流遺伝子がコードするタンパクの活性の測定は、前記の一般的な方法を用いて、測定することができる。また、当業者であれば、用いる試薬の組成や緩衝液の組成、基質などに変更を加えることにより、測定方法を最適化することができる。
また、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制作用を示す遺伝子では、その活性を促進する活性を有する化合物のスクリーニングをすることができる。このようにして得ることができる化合物は、該遺伝子の働きを促進する。その結果、変形性関節症でみられる軟骨分化促進を抑制することができ、変形性関節症の病態を制御することができる。
これらのスクリーニングに用いる被験候補物質としては、ステロイド誘導体等既存の化学的方法により合成された化合物標品、コンビナトリアルケミストリーにより合成された化合物標品のほか、動・植物組織の抽出物若しくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品などが挙げられる。
本発明による各種のスクリーニング方法に必要な、ポリヌクレオチド、抗体、細胞株、あるいはモデル動物は、予め組み合わせてキットとすることができる。これらのキットには、標識の検出に用いられる基質化合物、細胞の培養のための培地や容器、陽性や陰性の標準試料、さらにはキットの使用方法を記載した指示書などをパッケージしておくこともできる。
本発明のスクリーニング方法によって選択される化合物は、骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症に治療薬及び/又は予防薬として有用である。あるいは、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進を示す遺伝子の発現を抑制することができるアンチセンス核酸、リボザイム、又はRNAi効果によって当該遺伝子の発現を抑制することによって、変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬として有用である。
さらに、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化促進を示す遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体も、変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬として有用である。加えて、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のうち軟骨分化抑制を示す遺伝子によってコードされるタンパク質そのものも、変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬として有用である。
[医薬品]
本発明の骨及び/又は関節疾患、好ましくは変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬は、スクリーニング方法によって選択された化合物を有効成分として含み、生理学的に許容される担体、賦活剤、あるいは希釈剤等と混合することによって製造することができる。本発明の変形性関節症の治療薬及び/又は予防薬は、変形性関節症の症状の改善を目的として、経口あるいは非経口的に投与することができる。
経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、関節腔注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。
また、投与すべき治療薬及び/又は予防薬の有効成分がタンパク質からなる場合には、それをコードする遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、治療及び/又は予防効果を達成することができる。治療及び/又は予防効果をもたらすタンパク質をコードする遺伝子を生体に導入し、発現させることによって、疾患を治療及び/又は予防する手法は公知である。
あるいは、アンチセンス核酸、リボザイム、又はRNAi効果によって当該遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチドは、適当なプロモーター配列の下流に組込み、アンチセンスRNA、リボザイム、あるいはRNAi効果をもたらすRNAの発現ベクターとして投与することができる。この発現ベクターを変形性関節症患者の関節軟骨若しくは滑膜細胞などに導入すれば、これらの遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイ厶、又はRNAi効果によって当該遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチドを発現し、当該遺伝子の発現レベルの低下によって変形性関節症に対し、治療及び/又は予防効果を達成することができる。
アンチセンスRNAとは、遺伝子のセンス配列に相補的な塩基配列を有するRNAである。アンチセンスRNAによって遺伝子発現を抑制するには、通常15塩基以上たとえば20塩基以上、あるいは30塩基以上の連続した塩基配列を有するRNAが用いられる。たとえば開始コドンを含む領域にハイブリダイズすることができるアンチセンス核酸は、当該遺伝子の発現抑制効果が大きいとされている。
リボザイムは、塩基配列特異的にRNAを切断する触媒作用を備えたRNAである。ハンマーヘッド型やヘアピン型のリボザイムが知られている。いずれのリボザイムも、切断すべき領域に相補的な塩基配列部分と触媒活性の発現に必要な構造を保持するための塩基配列部分とで構成されている。切断すべき領域に相補的な塩基配列は任意とすることができる。したがって、この領域の塩基配列を標的遺伝子に相補的な塩基配列とすることによって、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現を制御するためのリボザイムをデザインすることができる。
次にRNAi(RNA interference)効果は、mRNAと同じ塩基配列を含む2本鎖構造のRNA分子が、当該mRNAの発現を強力に抑制する現象を言う。したがって、Runx2/Cbfa1下流遺伝子のmRNAと同一の塩基配列を有する2本鎖構造を含むRNAi分子は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の発現抑制に利用することができる。RNAi効果を得るためには、少なくとも20以上の連続する塩基配列を有する2本鎖構造のRNAi分子を用いることが望ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていても良いし、1つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。
アンチセンス核酸、リボザイム、並びにRNAi効果を得るためのポリヌクレオチド(RNAi分子)において、相補的、あるいは同一の塩基配列とは、完全に相補的、あるいは同一の塩基配列に限定されない。これらのRNAの発現抑制作用は、高度に相補性あるいは同一性を維持して入れば、維持される。ある塩基配列又は、ある塩基配列と相補的な塩基配列に対して、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、たとえば98%以上の同一性を有する場合、高度な同一性あるいは相補性を有すると言うことができる。
投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療及び/又は予防効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分の種類などにより異なるが、通常成人一人あたり、1回につき0.1mgから500mgの範囲で、好ましくは0.5mgから20mgの範囲で投与することができる。しかし、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量よりも少ない量で十分な場合もあり、また上記の範囲を超える投与量が必要な場合もある。
なお、下記実施例において、各操作は特に明示がない限り、「Molecular Cloning」(Sambrook J,Fritsch EF及びManiatis T著、Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊)に記載の方法により行うか、又は、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。
[実施例1] Runx2/Cbfa1欠損マウス胎仔からの初代軟骨細胞の取得とRunx2/Cbfa1及びp53欠損マウス胎仔骨格からの軟骨細胞株の樹立
(1)Runx2/Cbfa1−/−マウス由来初代軟骨細胞の採取
Runx2/Cbfa1ノックアウトマウスは、小守らにより作製されたものを用いた(Cell(1997),89,755−764、特開平10−309148号公報)。胎生期18.5日目のRunx2/Cbfa1ホモ欠損マウスより骨格を採取し、0.1%EDTA/0.1%Tripsin solution(pH7.4)で37℃、60分処理した。その後、1.5mg/mlコラゲナーゼ/Minimum Essential Medium,alpha modified(αMEM)で3時間30分処理し、細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液はコラーゲンコートdishにおいて、10%ウシ胎仔血清を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Ham’s F12(1:1)hybrid medium(GBCO BRL)中で2〜3日増殖させて、その後の実験に用いた。初代軟骨細胞の形態を図1(下段)に示す。
(2)Runx2/Cbfa1及びp53欠損マウスの作製
未分化軟骨細胞の形質を維持し、かつ増殖能・生存率の維持された軟骨細胞株を樹立する目的で、軟骨細胞を取得するためのRunx2/Cbfa1とp53遺伝子を両者とも欠損したマウスを作製した。p53欠損マウスはGondo Yらにより作製されたものを用いた(Biochem.Biophy.Res.Commun.(1994)202,830−837)。またRunx2/Cbfa1欠損マウスを作製するにあたっては、Runx2/Cbfa1ホモ欠損マウス(Runx2/Cbfa1−/−)は出生後すぐに死亡し交配に用いることは不可能であるため、Runx2/Cbfa1ヘテロ欠損マウス(Runx2/Cbfa1+/−)を用いた。Runx2/Cbfa1ヘテロ欠損マウス(Runx2/Cbfa1+/−)とp53欠損マウス(p53−/−)を交配し、得られた仔マウスの尾の一部を採取してそのゲノム遺伝子を調べることによって、Runx2/Cbfa1ヘテロ欠損−p53ホモ欠損マウス(Runx2/Cbfa1+/−,p53−/−)を得た。その後、Runx2/Cbfa1ヘテロ欠損−p53ホモ欠損マウス(Runx2/Cbfa1+/−,p53−/−)同士を交配し、それよって得られた胎仔の形状及び組織の一部より抽出したゲノム遺伝子を調べることでRunx2/Cbfa1ホモ欠損−p53ホモ欠損マウス(Runx2/Cbfa1−/−,p53−/−)を得た。
(3)Runx2/Cbfa1−/−,p53−/−マウス由来軟骨細胞株の作製
胎生期18.5日目のRunx2/Cbfa1ホモ欠損−p53ホモ欠損マウスより骨格を採取し、0.1%EDTA/0.1%Tripsin solution(pH7.4)で37℃、60分処理した。その後、1.5mg/mlコラゲナーゼ/Minimum Essential Medium,alpha modified(αMEM)で3時間30分処理し、細胞懸濁液を得た。得られた細胞は10cm dishあたり50〜200個の細胞を、10%ウシ胎仔血清/Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(D−MEM)中で培養することにより、コロニーを形成させ、得られたコロニーをステンレスリング中でTripsin/EDTA処理することによりピックアップした。さらに得られたコロニーは限界希釈法により2〜4回再クローニングを行い、増殖能や生存率が維持されている細胞を選択した。さらにそれらの細胞について、軟骨細胞に特徴的に発現しているII型コラーゲンの発現と、未分化軟骨細胞では発現の低いX型コラーゲンの発現(方法は(4)に記載)を確認して、未分化軟骨細胞の形質を維持している細胞株の候補を選択した。選択された候補細胞株は5代の継代を行い、継代による未分化軟骨細胞の形質の変化・増殖能や生存率の低下が認められないことを確認し、得られた細胞株が安定的に性状を保持できることを検証した。これらの過程を経て、最終的に2種類のRunx2/Cbfa1−/−,p53−/−マウス由来軟骨細胞株(RU−1、RU−22)を得た。得られた細胞株の形態を図1(上段)に示す。
(4)RU−1及びRU−22のII型コラーゲン及びX型コラーゲンの発現解析
得られた細胞株の分化段階及び性質を見るため、RU−22及びRU−1のII型コラーゲン及びX型コラーゲンの発現をPCR増幅モニター法により解析した。RU−22及びRU−1細胞株を10%ウシ胎仔血清/Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(D−MEM)で培養し、コンフルエントの状態の時にtotal RNAをISOGEN(ニッポンジーン)を用いて精製した。total RNAの調製方法は、ISOGENのマニュアル記載の方法に従った。さらにtotal RNAは逆転写酵素及びオリゴ(dT)プライマーを用いて、一本鎖cDNAを合成した。これらを鋳型として、II型コラーゲン及びX型コラーゲンの発現をPCR増幅モニター法を用いて測定した。測定はSYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)のマニュアルに従い、ABI PRISM 7700(Applied Biosystems)を用いて行った。用いたPrimerの配列は表2に示す。測定の結果得られたCt値はグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素(GAPDH)の発現により補正し、GAPDH=1000としたときの相対値で表した(図2)。
(5)結果
Runx2/Cbfa1欠損マウス由来初代軟骨細胞は、細胞外マトリックスを蓄えた多角形の形態を示しており、典型的な軟骨細胞様の形態をしている(図1)。RU−1軟骨細胞株は、Runx2/Cbfa1欠損マウス由来初代軟骨細胞の形態に類似している。一方、RU−22軟骨細胞株は細胞外マトリックスの発現の少ない非常に扁平な形態が見られ、軟骨細胞様の形態ではない。しかしながら、RU−1軟骨細胞株及びRU−22軟骨細胞株のII型コラーゲンの発現は共に強く、またX型コラーゲンの発現は非常に弱いので(図2)、共に未分化な軟骨細胞の性質は保持していると考えられる。
[実施例2] アデノウイルスを用いたRunx2/Cbfa1の強制発現による軟骨分化誘導系の構築
(1)Runx2/Cbfa1発現用アデノウイルスの構築
マウスRunx2/Cbfa1のオープンリーディングフレーム(ORF)を含むcDNAをpIRES2−EGFP(Biosciences Clontech)のBamHI部位に挿入し、その後Runx2/Cbfa1,internal ribosome entry site(IRES),enhanced green fluorescence protein(EGFP)を含むフラグメントをpACCMV.pLpAシャトルベクター(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90,2812−2816)のBamHI−XbaI部位に挿入した。構築したベクターは、アデノウイルスベクターpJM17(Virology.(1988)163,614−617)と共に、SuperFect transfection reagent(QIAGEN)を用いてヒト腎臓293細胞株にco−transfectionした。相同組換えにより生じたRunx2/Cbfa1フラグメントを持つアデノウイルスは、3〜4回293細胞を用いて継代することにより、ウイルスを増幅させ、増幅した粗精製ウイルスストック溶液は、塩化セシウム濃度勾配超遠心法により精製し、感染実験のためのウイルスストックとした。対照実験に用いるウイルスとして、IRES−EGFPのみをもつ組換えアデノウイルスも同様に作製した。
(2)Runx2/Cbfa1−/−,p53−/−軟骨細胞株(RU−1、RU−22)、Runx2/Cbfa1−/−初代軟骨培養細胞による軟骨分化誘導系の構築
Runx2/Cbfa1−/−,p53−/−軟骨細胞株(RU−1、RU−22)を、10%ウシ胎仔血清を含むD−MEM培地にてコラーゲンコート24 well dishに撒き、コンフルエントになるまで培養した。その後、Runx2/Cbfa1発現用アデノウイルス及びコントロール用アデノウイルス(EGFPのみ発現用)を15時間感染させ、その後培地を交換し、3〜4日に一度培地を取り替えながら、BMP−2の存在下又は非存在下で15日目まで培養を継続した。感染日を0日目として、1日目、3日目、7日目、11日目、15日目にRNA調製のためのサンプリングを行った。
Runx2/Cbfa1−/−初代軟骨培養細胞は、10%ウシ胎仔血清を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Ham’s F12(1:1)hybrid medium(GBCO BRL)にてコラーゲンコート24 well dishに撒き、コンフルエントになるまで培養した。その後、Runx2/Cbfa1発現用アデノウイルス及びコントロール用アデノウイルス(EGFPのみ発現用)を15時間感染させ、その後培地を交換し、3〜4日に一度培地を取り替えながら、BMP−2の存在下又は非存在下で15日目まで培養を継続した。感染日を0日目として、1日目、3日目、7日目、11日目、15日目にRNA調製のためのサンプリングを行った。
サンプリングしたRNA調製用サンプルは、実施例1−(4)と同様の方法で、cDNAを調製し、PCR増幅モニター法を用いて、Runx2/Cbfa1、コラゲナーゼ−3(MMP−13)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、骨シアロタンパク(BSP)、副甲状腺ホルモン受容体(PTH/PTHrPR)、X型コラーゲン、オステオポンチン(OSP)、オステオカルシン(OC)の発現を測定した。用いたPrimerの配列を表2に示す。
(3)結果及び考察
PCR遺伝子増幅モニター法の結果を図3〜図8に示す。どの細胞株及び初代培養細胞においても、Runx2/Cbfa1の発現は1日目をピークとして、3日目以降はRunx2/Cbfa1の発現はある程度の発現レベルを維持しつつ、徐々に弱まっていった。Runx2/Cbfa1の発現誘導に伴い、軟骨の肥大化のマーカーであるX型コラーゲンの発現誘導は観察されなかったが、肥大化の初期マーカーであるPTH/PTHrPRの発現誘導はどの細胞株・初代培養細胞においても観察され、Runx2/Cbfa1による軟骨の分化誘導が示された。また、Runx2/Cbfa1の既知の下流遺伝子であるMMP−13、ALP、BSP、OSP、OCについては、OSP以外はRunx2/Cbfa1による強い誘導が観察された。OSPは血清のみでも誘導されることが知られているので、in vitroの培養系においては、Runx2/Cbfa1による誘導が観察されにくいことが考えられた。以上の結果より、本実験系は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の探索に非常に有用であることが明らかとなった。
サンプリングしたRNA調製用サンプルは、実施例1−(4)と同様の方法で、cDNAを調製し、PCR増幅モニター法を用いて、Runx2/Cbfa1、コラゲナーゼ−3(MMP−13)、副甲状腺ホルモン受容体(PTH/PTHrPR)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、X型コラーゲン(Type X collagen)、骨シアロタンパク(BSP)、インディアンヘッジホッグ(Ihh)、インターロイキン11(IL11)、HNOEL−iso、オステオカルシン(OC)、及びオステオポンチン(OSP)の発現を測定した。用いたPrimerの配列を表2及び3に示す。Runx2/Cbfa1は感染させたウィルス由来の遺伝子が発現していることを確認するために測定した。MMP13、ALP、BSP、Ihh、IL11、OC、及びOSPはRunx2により発現が誘導されることが知られている既知の下流遺伝子である。これらの遺伝子の発現が誘導されていれば感染させたウィルス由来のRunx2が機能していること、及び軟骨の分化が促進していることが確認できる。PTH/PTHrPR及びX型コラーゲンは軟骨の分化に伴って発現が上昇することが知られている。従って、これらの遺伝子の発現が上昇すれば軟骨細胞が分化していることを示す。尚、PTH/PTHrPRは軟骨分化の比較的初期に、X型コラーゲンは軟骨分化の後期に発現することが知られている。HNOEL−isoは我々が新たに見出したRunx2下流遺伝子のひとつとして測定した。
(3)結果及び考察
PCR遺伝子増幅モニター法の結果を図3〜図8に示す。Runx2/Cbfa1発現用アデノウイルスを感染させた場合をKS−GFP(黒丸)、コントロール用アデノウイルス(EGFPのみ発現用)を感染させた場合をGFP(白丸)で表示した。BMP2を共存させた場合は(+BMP2)と表示した。どの細胞株及び初代培養細胞においても、Runx2/Cbfa1の発現は1日目をピークとして、3日目以降はRunx2/Cbfa1の発現はある程度の発現レベルを維持しつつ、徐々に弱まっていった(図3A、図5A,図7A:Cbfa1)。Runx2/Cbfa1の発現誘導に伴い、軟骨の肥大化のマーカーであるX型コラーゲンの発現誘導は観察されなかったが(図3A、図5A、図7A:Type X Collagen)、肥大化の初期マーカーであるPTH/PTHrPRの発現誘導はどの細胞株・初代培養細胞においても観察され(図3A、図5A、図7A:PTH/PTHrPR)、Runx2/Cbfa1による軟骨の分化誘導が示された。また、Runx2/Cbfa1の既知の下流遺伝子であるMMP−13、ALP、BSP(図3A、図5A、図7A)、OSP、OC(図4B、図6B、図8B)については、OSP以外はRunx2/Cbfa1による強い誘導が観察された。OSPは血清のみでも誘導されることが知られているので、in vitroの培養系においては、Runx2/Cbfa1による誘導が観察されにくいことが考えられた。これらの遺伝子の発現誘導はBMP2存在下で増強された。生体内の軟骨組織ではBMP2を含む様々な成長因子が存在し、軟骨細胞の増殖と分化を制御している。Runx2による遺伝子の発現誘導がBMP2存在下で増強されたことは、本実験がin vivoにおける軟骨分化も反映した系であることを示している。以上の結果より、本実験系は、Runx2/Cbfa1下流遺伝子の探索に非常に有用であることが明らかとなった。
[実施例3] サブトラクション法によるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の取得
未分化間葉系細胞株(C3H10T1/2)を用いて、サブトラクション法によるRunx2/Cbfa1下流遺伝子の取得を行った。まず、Runx2/Cbfa1を強く発現するC3H10T1/2細胞株を樹立した(C3H10T1/2−Runx2/Cbfa1)。次にC3H10T1/2−Runx2/Cbfa1とC3H10T1/2を用いて、C3H10T1/2−Runx2/Cbfa1細胞株に強く発現する遺伝子をサブトラクション法により、スクリーニングした。サブトラクション法は、CLONTECH PCR−SelectTM cDNA Subtraction Kitを用いて、ユーザーマニュアルに従って行った。その結果、配列番号11で示される遺伝子(RIKEN cDNA 2810002E22 gene(HNOEL−iso homolog))がC3H10T1/2と比べ、C3H10T1/2−Runx2/Cbfa1で発現が強い遺伝子であることが判明した。
Runx2/Cbfa1により誘導される遺伝子であることを確認するため、RU−1、RU−22、Runx2/Cbfa1−/−マウス由来初代軟骨培養細胞において、Runx2/Cbfa1によりHNOEL−iso homolog遺伝子が誘導されているかどうかをPCR増幅モニター法を用いて測定した。PCR増幅モニター法の測定に用いたPrimerを表3に示す。また、PCR増幅モニター法による測定は、実施例1−(4)と同様の方法で行った。その結果を図4A、図6A及び図8Aに示す。
その結果、RU−22軟骨細胞株及び初代軟骨細胞において、Runx2/Cbfa1により強く誘導されることが明らかとなった(図4A、図6A、図8A)。したがって、HNOEL−iso homolog遺伝子もRunx2/Cbfa1下流遺伝子の一つであることが明らかとなった。
[実施例4] DNAマイクロアレイによる解析
(1)RU−1及びRU−22軟骨細胞株を用いたDNAマイクロアレイ解析
RU−1細胞株及びRU−22細胞株をそれぞれコラーゲンコート12 well plateに10 well撒き、コンフルエントになったところで、Runx2/Cbfa1発現用アデノウイルス及び対照ウイルス(GFPのみの発現用ウイルス)を感染させた。感染後1日目に、total RNAをISOGENにより回収し、試薬のマニュアルに従い、total RNAを調製した。その後、Oligotex−dT30<Super>mRNA Purification Kit(TAKARA)を用いて、添付のマニュアルに従い、poly A+RNAを調製し、DNAマイクロアレイ解析用のサンプルとした。DNAマイクロアレイ解析は、クラボウのLifeArray(マウス遺伝子数:約9500遺伝子)により解析した。
(2)Runx2/Cbfa1−/−由来初代軟骨培養細胞を用いたDNAマイクロアレイ解析
Runx2/Cbfa1−/−由来初代軟骨培養細胞をコラーゲンコート12 well plateに10 well撒き、コンフルエントになったところで、Runx2/Cbfa1発現用アデノウイルス及び対照ウイルス(GFPのみの発現用ウイルス)を感染させた。感染後1日目に、total RNAをISOGENにより回収し、試薬のマニュアルに従い、total RNAを調製し、DNAマイクロアレイ解析用のサンプルとした。DNAマイクロアレイ解析は、クラボウのCodeLink DNA miroArray(マウス遺伝子数:約10000遺伝子)により解析した。
(3)結果
DNAマイクロアレイ解析によりRunx2/Cbfa1の強制発現に伴い誘導される遺伝子の一部を、図9に示す。各細胞株及び初代培養細胞において、Life Arrayにおいては、Runx2/Cbfa1により制御されることが明らかとなっているアルカリフォスファターゼ(ALP)の誘導が見られ、実験系が機能していることが示された。また、CodeLink DNA microarrayにおいては、Runx2/Cbfa1により誘導されることが明らかとなっているアルカリフォスファターゼ(ALP)及びコラゲナーゼ−3(MMP−13)の誘導が見られ、実験系が機能していることが示された。
[実施例5] kEST遺伝子のcDNA配列の決定
15日目のマウス胎児の骨格組織由来RNAから、クローンテック社製SMARTTM RACE cDNA amplification kitを用いて製品説明書に従いcDNAを合成した。プライマーはマウスkESTの部分塩基配列(AA397280)より合成し、製品説明書に従ってRACE法によるcDNAの増幅を行った。得られたPCR産物をエチジウムブロマイド入りの1%アガロースゲルで電気泳動を行い、このゲルを紫外線下で観察することによりDNAバンドを調べた。増幅されたフラグメントをゲルから切り取り、製品説明書に従い、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。精製フラグメントの塩基配列は製品説明書に従い、PE Applied Biosystems社製DNAシークエンサー(ABI PRISMTM 310 Genetic Analyzer)及びABI PRISMTM BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kitを用いて決定した。
マウスkEST cDNAの核酸塩基配列及び推定されるアミノ酸配列を配列番号9に示す。
[実施例6] PCR遺伝子増幅モニター法によるRunx2/cbfa1による誘導の確認
細胞株及び初代培養細胞を用いたDNAマイクロアレイ解析により、軟骨細胞においてRunx2/Cbfa1により誘導される遺伝子が明らかになった。次の段階として、これらの遺伝子がRunx2/Cbfa1により再現性を持って誘導されるかどうかを実施例2−(2)のサンプル(0日目、1日目、3日目)を鋳型としたPCR遺伝子増幅モニター法により、確認した。Runx2/Cbfa1による誘導の確認は、DNAマイクロアレイ解析によりそれぞれの遺伝子の誘導が確認された細胞株若しくは初代培養細胞を用いて行った。PCR遺伝子増幅モニター法は実施例1−(4)と同様の方法で行った。発現解析に用いたPrimerを表3に示す。
その結果、どの遺伝子についてもRunx2/Cbfa1による発現誘導が確認され、DNAマイクロアレイ解析と同様の結果が、PCR遺伝子増幅モニター法においても確認された(図10〜図12)。
[実施例7] Runx2/Cbfa1下流遺伝子の野生型及びRunx2/Cbfa1欠損マウスの胎生期骨格における発現解析
DNAマイクロアレイ解析によりRunx2/Cbfa1により誘導されることが確認された遺伝子について、野生型及びRunx2/Cbfa1欠損マウスの胎生期骨格における発現解析を行った。まず野生型マウスの胎生13.5日目、15.5日目、18.5日目、及びRunx2/Cbfa1欠損マウスの胎生18.5日目のそれぞれの骨格よりtotal RNAを調製し、cDNA化を行った。total RNA及びcDNAの調製は、実施例1−(4)に記載の方法と同様に行った。次に、DNAマイクロアレイ解析によりRunx2/Cbfa1による誘導が確認された12遺伝子について、PCR増幅モニター法により胎生期骨格における発現解析を行った。PCR増幅モニター法は、実施例1−(4)と同様の方法で行った。
その結果、13遺伝子すべてについて、Runx2/Cbfa1欠損マウスの胎生18.5日目の発現は、野生型マウスの胎生13.5日目及び胎生15.5日目と比べて、抑制されていた(図13A及びB〜図14A、B及びC)。Runx2/Cbfa1欠損マウスは、骨格の分化が著しく遅延しており、Runx2/Cbfa1欠損マウスの胎生18.5日目の骨格は、野生型マウスの胎生13.5日目若しくは15.5日目に相当することから、これら13遺伝子はすべてRunx2/Cbfa1欠損マウスの骨格においては発現が抑制されており、したがって、Runx2/Cbfa1により制御されていることが示唆された。
[実施例8] II型コラーゲンプロモーターを用いたWisp2遺伝子トランスジェニックマウスの作製と軟骨における機能の検証
配列番号3に示されるマウスWisp2遺伝子ついて、II型コラーゲンのプロモーターによる軟骨特異的発現トランスジェニックマウス(Wisp2トランスジェニックマウス)を作製し、軟骨における機能に対する検証を行った。
(1)トランスジェニックマウス用コンストラクトの作製
マウスWisp2遺伝子は、下記のForward Primer(F)及びRevere Primer(R)を用いて野生型マウス胎生13.5日骨格のcDNAを鋳型としてPCR法で増幅した。
<Wisp2>
トランスジェニックマウス用のベクターは、上田らにより報告されたCol2a1−based expression vectorを用いた(J.Cell.Biol.(2001)153,87−99)。このベクターは、マウスのII型コラーゲンプロモーター及びエンハンサーを含んでおり、軟骨特異的に発現することが確認されている。得られたPCRフラグメントは、Col2a1−based expression vectorのNotI部位に組込み、トランスジェニックマウス作製用のコンストラクトとした。
(2)トランスジェニックマウスの作製
トランスジェニックマウス作製用コンストラクトをNarI処理することにより、II型コラーゲンプロモーター、発現遺伝子(Wisp2)、エンハンサーを含むフラグメントを切り出した。フラグメントはアガロースゲルで精製後、F1 hybridマウス(C57BL/6×C3H)から採取した受精卵の核にインジェクションした。インジェクション後の受精卵は仮親の子宮に入れ、帝王切開により胎仔を取り出し、肝臓よりゲノムを抽出し、PCR法によりゲノムへの組込みの確認を行った。また、上半身骨格よりtotal RNAを抽出し、cDNAを合成後、PCR遺伝子増幅モニター法により、発現強度の測定を行った。
(3)骨格の切片の作製、染色及びIn situ hybridization
下半身の骨格は、切片を作成することにより、光学顕微鏡下での観察を行った。胎仔の下半身骨格は4%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸緩衝液により、固定した。その後7μmの切片を作成し、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)を行った。II型コラーゲン(Col2a1)、PTHレセプター1(Pthr1)、X型コラーゲン(Col10a1)、オステオポンチンのin situ hybridizationは、既報のプローブを使用して定法に従って実施した(Dev Dyn.1999 Apr;214(4):279−90)。
(4)結果及び考察
Wisp2トランスジェニックマウスの外観は野生型と比較してわずかに小さかった。胎生期16.5日目のCol2a1、Pthr1、Col10a1、及びオステオポンチンの発現をin situ hybridization法により解析した結果を図15に示す。野生型(Wt)とWisp2トランスジェニックマウス(Wisp2 tg)でこれらの遺伝子の発現に顕著な差は認められなかった。野生型とWisp2トランスジェニックマウスの胎生期16.5日目の骨格切片のHE染色像を図16A及びBに示す。野生型(WT;A)では、既に軟骨に血管が侵入しているのに対し、Wisp2トランスジェニックマウス(WISP2;B)においては、ボーンカラー(bone collar)は形成されているものの、肥大化層が野生型と比べて短く、血管浸潤も見られず、軟骨分化及び内軟骨骨化の遅延が観察された。したがって、Wisp2遺伝子は、軟骨分化に対して抑制的に作用することが考えられた。
[実施例9] II型コラーゲンプロモーターを用いたNopp140、Tem8、HCK及びGALNT3遺伝子遺伝子トランスジェニックマウスの作製と軟骨における機能の解析
配列番号5に示されるマウスNopp140遺伝子、配列番号1に示されるマウスTem8遺伝子、配列番号15に示されるHCK遺伝子及び配列番号25に示されるGALNT3については、II型コラーゲンのプロモーターによる軟骨特異的発現トランスジェニックマウスを作製し、軟骨における機能について、更なる解析を行った。
(1)トランスジェニックマウス用コンストラクトの作製
マウスNopp140遺伝子、マウスTem8遺伝子、マウスHCK遺伝子及びマウスGALNT3遺伝子は下記のForward Primer(F)及びRevere Primer(R)を用いてPCR法により増幅した。鋳型としてはマウスNopp140遺伝子については野生型マウス胎生13.5日骨格のcDNAを、マウスTem8遺伝子については野生型マウス胎生13.5日骨格のcDNAを、マウスHCK遺伝子については野生型マウス胎生15.5日骨格cDNAを、マウスGALNT3遺伝子については野生型マウス胎生15.5日骨格cDNAを鋳型として用いた。HCKは、constitutive active form(499Tyr→Phe)を既報の文献に従って作製した(J.Exp.Med.(2002)Vol.196,No.5;589−604)。
<Nopp140>
<Tem8>
<HCK>
<GALNT3>
各遺伝子のトランスジェニックマウス用のベクターは実施例8に記載のCol2a1−based expression vectorを用いて、実施例8と同様の方法で作製した。
(2)トランスジェニックマウスの作製
Nopp140、HCK及びGALNT3遺伝子に関しては、トランスジェニックマウス作製用コンストラクトをNarIで、Tem8遺伝子の場合はPvu−IIで処理することにより、II型コラーゲンプロモーター、発現遺伝子、エンハンサーを含むフラグメントを切り出した。フラグメントはアガロースゲルで精製後、F1 hybridマウス(C57BL/6×C3H)から採取した受精卵の核にインジェクションした。インジェクション後の受精卵は仮親の子宮に入れ、帝王切開により胎仔を取り出し、肝臓よりゲノムを抽出し、PCRによりゲノムへの組込みの確認を行った。また、上半身骨格よりtotal RNAを抽出し、cDNAを合成後、PCR遺伝子増幅モニター法により、発現強度の測定を行った。胎児骨格は、アリザリンレッド及びアルシアンブルーで染色した(Cell(1997),89,755−764)。
(3)骨格の切片の作製
下半身の骨格は、切片を作成することにより、光学顕微鏡下での観察を行った。胎仔の下半身骨格は4%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸緩衝液により固定した。その後7μmの切片を作成し、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)により骨格の解析を行った(Cell(1997),89,755−764)。ヘマトキシリン−エオジン−コッサ染色(HE−Kossa染色)を実施し、石灰化部位を黒色で染色することにより、骨格と石灰化の解析を実施した(Cell(1997),89,755−764)。軟骨のマトリックスは、サフラニンO染色、PAS染色により解析した(Cell(1997),89,755−764)。アポトーシスの解析はtunnel染色により実施した(Cell(1997),89,755−764)。細胞増殖の解析は、Brdu染色により実施した(Cell(1997),89,755−764)。in situ hybridizationは、既報のプローブを使用して定法に従って実施した(Dev Dyn.1999 Apr;214(4):279−90)。
(4)結果及び考察
Nopp140トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観を図17Aに、脛骨と大腿骨の関節部位の切片のHE染色像を図17Bに示す。野生型マウス(Wt)と比較してNopp140トランスジェニックマウス(Nopp140tg)は、非常に手足が短く、顎が小さい外観が示された(図17A、下)。また、HE染色によると、Nopp140トランスジェニックマウス(Nopp140tg)においては、本来の増殖軟骨細胞層での細胞層の乱れが観察され、この部分での分化促進が示唆された(図17B、下)。したがって、Nopp140遺伝子は、軟骨分化に対して促進的に作用することが考えられた。
Tem8トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の頭の外観を図18Aに、骨格染色像を図18Bに示す。正常マウス(Wild type)と比較してTem8トランスジェニックマウス(Tem8)は顎の形成が不十分であり(図18A、右)、四肢が短い(図18B、右)という外観上の特徴を示した。HE染色した切片の観察によると、本来の骨化が進行するのとは別の部位(異所性)での石灰化が認められ、このマウスにおいては軟骨の異常な分化が起こっていることが示された。また、Tem8トランスジェニックマウスでは野生型と比較して、tunnel染色陽性のアポトーシスを起こしている軟骨細胞が増加していた。このアポトーシス陽性細胞はオステオポンチンを発現しており、軟骨の異常な分化を伴ったアポトーシスが誘導されていると考えられた。これらの結果から、Tem8遺伝子は、軟骨分化に対して促進的に作用することが考えられた。
HCKトランスジェニックマウスの胎生14.5日目の外観を図19A−▲2▼に、骨格染色像を図19A−▲1▼に示す。また、図19AとBにおいては、HE染色像(図19B−▲1▼)及びI型コラーゲン(Col1a1:図19B−▲2▼)、II型コラーゲン(Col2a1:図19B−▲3▼)、X型コラーゲン(Col10a1:図19B−▲4▼)、オステオポンチン(図19B−▲5▼)、インディアンヘッジホッグ(Ihh:図19B−▲6▼)、PTHレセプター(Pthr1:図19B−▲7▼)、Hck(図19B−▲8▼)、MMP13(図19C−▲1▼)、BSP(図19C−▲2▼)、VEGF(図19C−▲3▼)の各プローブを用いたin situ hybridizationによる発現解析、並びにTRAP染色による破骨細胞の解析(図19C−▲4▼)を示す。HCKトランスジェニックマウス(Tg)は野生型(Wt)と比較して、身体が小さく、腹部が突き出ており、四肢が太く短かった(図19A−▲2▼)。HCKトランスジェニックマウスの脛骨では、組織化されていない異常な細胞増殖により、正常な成長軟骨板が形成されず、長軸方向への成長が異常であった(図19Aの▲1▼)。また、Ihh及びCol10a1を発現する分化の進んだ軟骨細胞の数は少なかった図19−▲6▼及び▲4▼)。Col2a1とPthr1の発現は拡張した組織の中に認められた(図19−▲3▼及び▲7▼)。最終分化した肥大軟骨及び骨芽細胞のマーカーであるオステオポンチンは、軟骨組織で発現が上昇していた(図19B−▲5▼)。通常は軟骨には発現が認められないCol1a1が軟骨組織に発現していた(図19B−▲2▼)。通常は骨芽細胞に発現するBSPの発現は低下していた(図19C−▲2▼)。軟骨への血管侵入を誘導することが知られているMMP13とVEGFの発現は上昇していた(図19C−▲1▼及び▲3▼)。また、通常は最終分化した軟骨細胞に侵入するTRAP陽性の破骨細胞が、未分化な軟骨に侵入していた(図19C−▲4▼)。Brdu染色では組織中の細胞増殖が亢進していることが明らかになった。
HCKトランスジェニックマウスの胎生16.5日目のHE染色(HE)及びII型コラーゲン(Col2a1)、PthRP、X型コラーゲン(Col10a1)のin situ hybridizationによる発現解析を図20に示す。HCKトランスジェニックマウスの脛骨では、組織化されていない異常な細胞増殖により、正常な成長軟骨板が形成されず、長軸方向への成長が異常であった(図20−HE、下段)。Col2a1の発現は拡張した組織の中に認められた(図20−Cola1、下段)。通常、分化の進んだ軟骨細胞に発現するPthRPとCol10a1の発現は低下していた(図20−PthRP及びCol10a1、各下段)。
図21A〜CにHCKトランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観(図21A)、骨格染色像(図21B)、HE染色(図21C)の結果を示す。図22AはHCKトランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観(図22A−▲1▼)、骨格染色像(図22A−▲2▼)の結果を示す。また、図22B及びCにはHE−Kossa染色(図22B−▲1▼)及びI型コラーゲン(Col1a1:図22B−▲2▼)、II型コラーゲン(Col2a1:図22B−▲3▼)、X型コラーゲン(Col10a1図22B−▲4▼)、オステオポンチン(Osteopontin:図22B−▲5▼)、オステオカルシン(Osteocalcin:図22B−▲6▼)、PTHレセプター(Pthr1:図22B−▲7▼)、インディアンヘッジホッグ(Ihh:図22B−▲8▼)、Hck(図22C−▲1▼)、MMP13(図22C−▲2▼)、BSP(図22C−▲3▼)のin situ hybridizationによる発現解析結果、並びにTRAP染色による破骨細胞の解析(図22C−▲4▼)とサフラニン0染色によるプロテオグリカンの解析(図22C−▲5▼)を示す。HCKトランスジェニックマウス(Tg)は野生型(Wt)と比較して、身体が小さく、腹部が突き出ており、四肢が太く短かった(図22A−▲1▼)。また、鼻と上顎の間が分裂しており、鼻と上顎の融合過程が阻害されていた。軟骨性頭蓋及び鼻軟骨では、膜性骨が拡張された軟骨性の領域で覆われていた。内軟骨性骨で近位−遠位軸の方向性が失われており、異常な形状を示した。成長版は組織化されておらず、関節は癒合していた。骨格染色ではアリザリンレッドで染色される石灰化組織が減少、アルシアンブルーで染色される細胞外マトリックスが増加していることが明らかになった(図22A−▲2▼)。またHE染色像においてはこのHCKトランスジェニックマウスの軟骨細胞は未熟であり、その周辺で間葉系細胞の侵入、増殖が認められた(図22B−▲1▼)。Col2a1を発現する軟骨細胞は減少しており、骨は正常な過程を経ずに間葉系細胞の侵入と増殖を伴って形成されていた(図22B−▲2▼)。Ihh、Pthr1及びCol10a1の発現も低下していた(図22B−▲8▼及び▲7▼並びに▲4▼)。Col1a1は骨組織に発現しており、オステオポンチンは広範囲に分布していた(図22B−▲2▼及び▲5▼)。一方、成熟した骨芽細胞のマーカーであるオステオカルシンはほとんど発現しておらず、骨組織を形成する細胞が未成熟であると考えられた(図22B−▲6▼)。ボーンカラー(bone collar)は組織化されておらず、多数の血管と間葉系細胞の侵入により連続性が失われていた。また、この血管と間葉系細胞の侵入はTRAP陽性の破骨細胞の増加によってサポートされていると考えられた(図22C−▲4▼)。サフラニンO染色の結果から、軟骨組織のプロテオグリカンは正常であると考えられた(図22C−▲5▼)。これらの結果よりHCK遺伝子は軟骨細胞に対しては増殖を亢進し分化を抑制すると考えられた。
GALNT3トランスジェニックマウスの胎生18.5日目の外観を図23Bに示す。正常マウス(Wt)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は身体が小さく、四肢が短く、胸部は小さく、腹部は突き出ていた。図24は骨格染色の結果を示しており、正常マウス(Wild type)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は胸郭が小さく、内軟骨性骨化による石灰化した骨が題著に減少していた。図25A及びBは胎生16.5日目の脛骨のHE−Kossa染色での所見を示すが(図25Bは同図Aの拡大像)、野生型(Wt)では血管侵入が始まっているが、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ではそれが遅れており、関節腔の形成も不十分であった(図25、右)。図26はII型コラーゲン(Col2a1)のin situ hybridizationの解析結果を示すが、正常マウス(Wild type)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ではII型コラーゲンの発現は異常な分布を示した。図27はX型コラーゲンのin situ hybridizationの解析結果を、図28はオステオポンチンin situ hybridizationの解析結果を示すが、X型コラーゲン及びオステオポンチンの発現は野生型(Wild type)、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)ともに肥大軟骨で認められた。アグリカン(Aggrecan)のmRNAの発現を示すin situ hybridizationの解析結果を図29A(mRNA)に、タンパク質レベルでの発現を示す免疫組織染色像を図29B(protein)に示す。アグリカンは野生型マウス(wt)と比較して、GALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)で若干上昇していたが(図29A)、タンパクレベルでは減少していた(図29B)。胎生16.5日目の脛骨のサフラニンO染色の結果を図30に示すが、この結果から野生型(wild type)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は染色性が顕著に低下しており、プロテオグリカン含量が顕著に減少していることが明らかとなった。
胎生18.5日目の距骨のPAS染色像を図31A及びBに示す(図中のBはAの拡大像)。この結果から野生型(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)は染色性が増加しており、ムチン様の糖タンパク質が増加していることが明らかになった。胎生18.5日目の脛骨のフィブロネクチンの免疫染色を図32に示すが、この結果から野生型と比較してGALNT3トランスジェニックマウスでは軟骨細胞間の距離が狭く、細胞外マトリックス量が低下していることが明らかになった。Brduラベルにより軟骨細胞増殖を検討した結果の像を図33Aに、BrdUの取り込み量をグラフしたものを図33Bに示す。これらの結果から野生型(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では軟骨細胞の増殖が亢進していることが明らかになった。またTunnel染色の結果の像を図34に示すが、この結果からは野生型(wt)と比較してGALNT3トランスジェニックマウス(Galnt3 tg)では軟骨のアポトーシスが亢進していることが明らかになった。これらのことから、GALNT3遺伝子は軟骨組織自体の形成を抑制する作用を持つことが考えられた。関節軟骨は80%の水分、20%のマトリックスとわずかな軟骨細胞により構成されている。マトリックスはコラーゲン(乾燥重量の60%)とプロテオグリカン(乾燥重量の10%)から構成される。プロテオグリカンは95%のグルコサミノグリカンと呼ばれる多糖類(GAG)と5%のタンパク質からできており、大量の水を保持してゲル状物質となる。このプロテオグリカンの水分保持能力によって実に軟骨の80%は水分を含み、関節軟骨に弾性と硬さを与えることができる。プロテオグリカン含量の減少により水分保持能が低下すると軟骨の弾性が失われ組織破壊につながると考えられる。したがって、GALNT3トランスジェニックマウスで認められた軟骨組織形成抑制及びプロテオグリカン含量の低下は、変形性関節症に関連した変化である可能性が考えられた。
これらの所見から、Nopp140遺伝子及びTem8遺伝子は軟骨分化を亢進することによって変形性関節症の病態形成を進行させる可能性が示された。また逆にHCK遺伝子は軟骨分化を抑制することことから変形性関節炎の病態を抑制する可能性を持つ。GALNT3遺伝子については軟骨組織自体の形成を抑制することから、二次的には軟骨分化を抑制するものの、変形性関節症においては病態の進行に関与する可能性が示された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
Claims (40)
- 病態に関連した転写因子を、該転写因子の欠失した細胞株又は初代培養細胞で発現させ、その際に発現が誘導又は抑制される遺伝子をスクリーニングすることを特徴とする病態関連遺伝子の取得方法。
- Runx2/Cbfa1を、Runx2/Cbfa1欠損軟骨細胞株又はRunx2/Cbfa1欠損初代培養細胞で発現させ、その際に発現が誘導又は抑制される遺伝子をスクリーニングすることを特徴とするRunx2/Cbfa1に関する病態の関連遺伝子の取得方法。
- Runx2/Cbfa1を、Runx2/Cbfa1欠損軟骨細胞株又はRunx2/Cbfa1欠損初代培養細胞で発現させ、その際に発現が誘導又は抑制される遺伝子をスクリーニングすることを特徴とする軟骨分化制御関連遺伝子の取得方法。
- スクリーニング法が、サブトラクション法又はDNAチップ法である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- Runx2/Cbfa1欠損マウス由来の初代軟骨細胞又は培養軟骨細胞。
- Runx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞。
- 産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、FERM BP−10137の受託番号で寄託されているRU−1株、又はFERM BP−10138の受託番号で寄託されているRU−22株である、請求項6に記載のRunx2/Cbfa1及びp53欠損マウス由来軟骨細胞株。
- 配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、又は25に示される塩基配列を有し、Runx2/Cbfa1の発現によって発現が誘導されるポリヌクレオチド。
- 配列番号9に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
- 配列番号1に示される塩基配列を有し、軟骨分化促進作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号3に示される塩基配列を有し、軟骨分化抑制作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号5に示される塩基配列を有し、軟骨分化促進作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号15に示される塩基配列を有し、軟骨分化抑制作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号25に示される塩基配列を有し、軟骨組織形成抑制作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、又は51に示される塩基配列を有する、請求項8に記載のポリヌクレオチドのヒトホモログポリヌクレオチド。
- 請求項8〜15のいずれかに記載のポリヌクレオチドのコードするポリペプチドと65%以上の相同性を有し、かつ軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 請求項8〜15のいずれかに記載のポリヌクレオチド又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチド又はその相補鎖を含む組換えDNAベクター。
- 請求項18に記載の組換えDNAベクターを用いて形質転換した形質転換体。
- 配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
- 配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するポリペプチド。
- 配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、又は52に示されるアミノ酸配列と少なくとも65%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軟骨分化を促進又は抑制する作用を有するポリペプチド。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子の発現を調節するアンチセンスポリヌクレオチド。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子の発現を調節するRNAi分子。
- 請求項20〜22のいずれかに記載のポリペプチドに対する抗体。
- 次の(1)〜(3)の工程を含む、骨及び/又は関節疾患の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法。
(1)請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドから成る遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程。
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程。
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、前記遺伝子の発現レベルを低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程。 - 次の(1)〜(3)の工程を含む、骨及び/又は関節疾患の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法。
(1)請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドから成る遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程。
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程。
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程。 - 次の(1)〜(3)の工程を含む、骨及び/又は関節疾患の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法。
(1)被験動物に候補化合物を投与する工程。
(2)前記被験動物の生体試料における、請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドから成る遺伝子の発現強度を測定する工程。
(3)候補化合物を投与しない対照と比較して、前記遺伝子の発現レベルを低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程。 - 次の(1)〜(3)の工程を含む、骨及び/又は関節疾患の治療薬及び/又は予防薬のスクリーニング方法。
(1)請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドから成る遺伝子によってコードされるタンパク質と候補化合物を接触させる工程。
(2)前記タンパク質の活性を測定する工程。
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、前記タンパク質の活性を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程。 - 請求項26〜29のいずれかに記載のスクリーニング方法によって選択される化合物。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項18に記載のDNAベクター、請求項19に記載の形質転換体、請求項20〜22のいずれかに記載のポリペプチド、請求項23に記載のアンチセンスポリヌクレオチド、請求項24に記載のRNAi分子、請求項25に記載の抗体、及び請求項30に記載の化合物のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする医薬組成物。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項18に記載のDNAベクター、請求項19に記載の形質転換体、請求項20〜22のいずれかに記載のポリペプチド、請求項23に記載のアンチセンスポリヌクレオチド、請求項24に記載のRNAi分子、請求項25に記載の抗体、及び請求項30に記載の化合物のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする骨及び/又は関節疾患の予防及び/又は治療剤。
- 骨及び/又は関節疾患が変形性関節症である請求項32に記載の予防及び/又は治療剤。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項18に記載のDNAベクター、請求項19に記載の形質転換体、請求項20〜22のいずれかに記載のポリペプチド、請求項23に記載のアンチセンスポリヌクレオチド、請求項24に記載のRNAi分子、請求項25に記載の抗体、及び請求項30に記載の化合物のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする疾病の診断薬組成物。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項18に記載のDNAベクター、請求項19に記載の形質転換体、請求項20〜22のいずれかに記載のポリペプチド、請求項23に記載のアンチセンスポリヌクレオチド、請求項24に記載のRNAi分子、請求項25に記載の抗体、及び請求項30に記載の化合物のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする骨及び/又は関節疾患の診断薬組成物。
- 骨及び/又は関節疾患が変形性関節炎である請求項35に記載の診断薬組成物。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドがコードする遺伝子の発現強度を増強又は低下させた骨及び/又は関節疾患のモデル用トランスジェニック動物。
- 請求項8〜17のいずれかに記載のポリヌクレオチドがコードする遺伝子を、II型コラーゲンプロモーターを用いて発現させた骨及び/又は関節疾患のモデル用トランスジェニックマウス。
- 請求項18に記載のDNAベクター、請求項19に記載の形質転換体、請求項20〜22のいずれかに記載のポリペプチド、請求項23に記載のアンチセンスポリヌクレオチド、請求項24に記載のRNAi分子、請求項25に記載の抗体、及び請求項30に記載の化合物のうち、少なくとも1つを投与することによる骨及び/又は関節疾患のモデル動物作製方法。
- 骨及び/又は関節疾患が変形性関節症である請求項39に記載のモデル動物作製方法。
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