JPWO2005019465A1 - 糖鎖切断剤 - Google Patents
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Abstract
コンドロイチンやコンドロイチン硫酸を分解する働きを有するタンパク質を含有する糖鎖切断剤、該糖鎖切断剤を有効成分とする医薬、該タンパク質をコンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸に作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法、及び、該タンパク質をコンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸に作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された糖鎖を特異的に生産する方法。
Description
本発明は、コンドロイチンやコンドロイチン硫酸を分解する働きを有するタンパク質を含有する糖鎖切断剤等に関する。
以下、本出願書類中に記載する糖及び糖残基は、特に明記しない限りD体を示すものとする。また、本明細書においては下記の略号を使用することもある。
N−アセチルガラクトサミン:GalNAc
グルクロン酸:GlcA
コンドロイチン:CH
コンドロイチン硫酸:CS
コンドロイチン硫酸A:CSA
コンドロイチン硫酸C:CSC
コンドロイチン硫酸D:CSD
コンドロイチン硫酸E:CDE
デルマタン硫酸:DS
ヒアルロン酸:HA
ヘパラン硫酸:HS
ヘパリン:Hep
CHやCSは、GlcAがGalNAcにβ1,3結合によりグリコシド結合した二糖が、β1,4グリコシド結合で繰り返し結合して連なる基本骨格を有するグリコサミノグリカンの一種である。このようなCHやCSを合成する酵素の一つとして、CSGalNAcT−1が知られている(J.Biol.Chem.,277,38189−38196(2002))。
CSGalNAcT−1は、CHやCSの合成に際し、タンパク質との結合部分に存在する特異的な四糖構造(リンケージ四糖)にGalNAcを転移する活性(「イニシエーション活性」ともいう。)とCHやCSの基本骨格の非還元末端に存在するGlcAにGalNAcを転移する活性(「エロンゲーション活性」ともいう。)の双方を有する酵素として知られていたが、かかる酵素がCHやCSの基本骨格を分解する酵素、いわゆる「コンドロイチナーゼ」としての機能を有することは知られていなかった。
コンドロイチナーゼとして機能するヒトのタンパク質はこれまでにほとんど知られておらず、新たな医薬などへの応用のためにも、そのようなタンパク質を使用した糖鎖切断剤の期待されていた。
N−アセチルガラクトサミン:GalNAc
グルクロン酸:GlcA
コンドロイチン:CH
コンドロイチン硫酸:CS
コンドロイチン硫酸A:CSA
コンドロイチン硫酸C:CSC
コンドロイチン硫酸D:CSD
コンドロイチン硫酸E:CDE
デルマタン硫酸:DS
ヒアルロン酸:HA
ヘパラン硫酸:HS
ヘパリン:Hep
CHやCSは、GlcAがGalNAcにβ1,3結合によりグリコシド結合した二糖が、β1,4グリコシド結合で繰り返し結合して連なる基本骨格を有するグリコサミノグリカンの一種である。このようなCHやCSを合成する酵素の一つとして、CSGalNAcT−1が知られている(J.Biol.Chem.,277,38189−38196(2002))。
CSGalNAcT−1は、CHやCSの合成に際し、タンパク質との結合部分に存在する特異的な四糖構造(リンケージ四糖)にGalNAcを転移する活性(「イニシエーション活性」ともいう。)とCHやCSの基本骨格の非還元末端に存在するGlcAにGalNAcを転移する活性(「エロンゲーション活性」ともいう。)の双方を有する酵素として知られていたが、かかる酵素がCHやCSの基本骨格を分解する酵素、いわゆる「コンドロイチナーゼ」としての機能を有することは知られていなかった。
コンドロイチナーゼとして機能するヒトのタンパク質はこれまでにほとんど知られておらず、新たな医薬などへの応用のためにも、そのようなタンパク質を使用した糖鎖切断剤の期待されていた。
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意検討した結果、公知の酵素CSGalNAcT−1が、CHやCSの骨格を分解する働きを有することを見い出し、それを糖鎖分解酵素剤として応用することで本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 下記(a)又は(b)のタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする糖鎖切断剤(以下、「本発明切断剤」という。)。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。また、本発明切断剤の有効成分となるタンパク質は、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列からなるものが好ましい。また、該タンパク質は、糖鎖が結合した糖タンパク質を形成していてもよい。
(2) 「配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又は当該タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質」の糖鎖切断剤としての使用(以下、「本発明使用」という。)。
(3) 本発明切断剤の活性調節剤(以下、「本発明調節剤」という。)。
(4) 本発明切断剤を有効成分とする医薬(以下、「本発明医薬」という。)。
本発明医薬は、CH分解酵素及び/又はCS分解酵素の活性の変化に起因する疾患の処置剤であることが好ましい。また本発明医薬は、CH及び/又はCSが過剰に存在することに起因する疾患の処置剤であることが好ましい。また本発明医薬は、CH及び/又はCSを特異的に切断する目的で使用されることが好ましい。またこれらにおける「CS」は、CSA及び/又はCSCであることが好ましい。
(5) 下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法(以下、「本発明切断方法」という。)。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
(6) 下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された糖鎖を特異的に生産する方法(以下、「本発明生産方法」という。)。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
以下、本発明を、発明を実施するための最良の形態により詳説する。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 下記(a)又は(b)のタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする糖鎖切断剤(以下、「本発明切断剤」という。)。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。また、本発明切断剤の有効成分となるタンパク質は、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列からなるものが好ましい。また、該タンパク質は、糖鎖が結合した糖タンパク質を形成していてもよい。
(2) 「配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又は当該タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質」の糖鎖切断剤としての使用(以下、「本発明使用」という。)。
(3) 本発明切断剤の活性調節剤(以下、「本発明調節剤」という。)。
(4) 本発明切断剤を有効成分とする医薬(以下、「本発明医薬」という。)。
本発明医薬は、CH分解酵素及び/又はCS分解酵素の活性の変化に起因する疾患の処置剤であることが好ましい。また本発明医薬は、CH及び/又はCSが過剰に存在することに起因する疾患の処置剤であることが好ましい。また本発明医薬は、CH及び/又はCSを特異的に切断する目的で使用されることが好ましい。またこれらにおける「CS」は、CSA及び/又はCSCであることが好ましい。
(5) 下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法(以下、「本発明切断方法」という。)。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
(6) 下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された糖鎖を特異的に生産する方法(以下、「本発明生産方法」という。)。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
以下、本発明を、発明を実施するための最良の形態により詳説する。
第1図は、CSGalNAcT−1、CSGalNAcT−2と各種の多糖とを反応させて、反応生成物のゲル濾過による分離を示した図である。aからeはCSGalNAcT−1、fからjはCSGalNAcT−2による反応生成物を示す。a及びfはCHを、b及びgはCSAを、c及びhはDSを、d及びiはCSCを、e及びjはCSDを処理した後のチャートを示す。
第2図は、反応時間による反応生成物中の6糖、4糖、及び2糖画分の構成の変化を示す図である。白丸は6糖を、黒丸は4糖を、三角は2糖を示す。
第3図は、非還元末端を放射能で標識したCHをCSGalNAcT−1で消化した際の反応生成物中の放射能分布を示す図である。白丸は14C−GlcAの放射能分布を示し、黒丸は3H−GalNAcの放射能分布を示す。
第4図は、ヒアルロニダーゼによる消化で調製したCH6糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第5図は、CSGalNAcT−1による消化で得られたCH6糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第6図は、ヒアルロニダーゼによる消化で調製したCH4糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第7図は、CSGalNAcT−1による消化で得られたCH4糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第8図は、CH14糖、CSA14糖をCSGalNAcT−1で消化した消化産物をHPLCで分離したチャートを示す図である。aはCH14糖、bはCSA14糖、cはCH14糖をCSGalNAcT−1で消化した消化産物、dはCS14糖をCSGalNAcT−1で消化した消化産物、eはCSGalNAcT−1のみのチャートを示す。
第2図は、反応時間による反応生成物中の6糖、4糖、及び2糖画分の構成の変化を示す図である。白丸は6糖を、黒丸は4糖を、三角は2糖を示す。
第3図は、非還元末端を放射能で標識したCHをCSGalNAcT−1で消化した際の反応生成物中の放射能分布を示す図である。白丸は14C−GlcAの放射能分布を示し、黒丸は3H−GalNAcの放射能分布を示す。
第4図は、ヒアルロニダーゼによる消化で調製したCH6糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第5図は、CSGalNAcT−1による消化で得られたCH6糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第6図は、ヒアルロニダーゼによる消化で調製したCH4糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第7図は、CSGalNAcT−1による消化で得られたCH4糖をMALDI−TOF−MSで解析した結果を示す図である。
第8図は、CH14糖、CSA14糖をCSGalNAcT−1で消化した消化産物をHPLCで分離したチャートを示す図である。aはCH14糖、bはCSA14糖、cはCH14糖をCSGalNAcT−1で消化した消化産物、dはCS14糖をCSGalNAcT−1で消化した消化産物、eはCSGalNAcT−1のみのチャートを示す。
1.本発明切断剤、本発明使用及び本発明調節剤
本発明切断剤は、下記(a)又は(b)のタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする糖鎖切断剤である。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
本発明切断剤の有効成分である上記(a)のタンパク質は、公知のCSGalNAcT−1のタンパク質(J.Biol.Chem.,277,38189−38196(2002))と同一である。
また一般に、酵素タンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は数個(通常は2以上24以下)の構成アミノ酸が付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位(以下、これらをまとめて単に「変異」とも記載する。)しても酵素活性が維持されることが知られており、このような変異を有するタンパク質は同一酵素のバリアントであるということができる。本発明切断剤においても、前記(a)のタンパク質のアミノ酸配列に1又は数個の構成アミノ酸の変異を有していても、かかるタンパク質がCH及び/又はCSを分解する働きを有する限りにおいて、前記(a)の酵素タンパク質と実質的に同一の酵素タンパク質であるということができる。前記(b)のタンパク質は、このようなタンパク質を意味するものである。「配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列」は、アミノ酸番号37〜532に示されるアミノ酸配列と95%以上(アミノ酸24個以下の変異)、好ましくは96%以上(アミノ酸19個以下の変異)、さらに好ましくは97%以上(アミノ酸14個以下の変異)、特に好ましくは98%以上(アミノ酸10個以下の変異)の相同性を有することが好ましい。アミノ酸配列の相同性は、FASTAのような周知のコンピュータソフトウェアを用いて容易に算出することができ、このようなソフトウェアはインターネットによっても利用に供されている。
本発明切断剤の有効成分である前記(a)及び(b)のタンパク質の一例として、下記(a’)及び(b’)のタンパク質が例示される。
(a’)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b’)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列からなり、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
本発明切断剤において、「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
なお、CSAはコンドロイチン4−硫酸構造を多く含むCSであり、CSCはコンドロイチン6−硫酸構造を多く含むCSである。クジラ軟骨由来のCSは一般にCSAとして市販されており、またサメ軟骨由来のCSは一般にCSCとして市販されている。
タンパク質が、CH及び/又はCSを分解する働きを有するか否かの鑑別は、例えば、CH及び/又はCSにタンパク質を作用させた後の産物を、Superdex Peptideカラム(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)等にアプライし、移動相として0.2mol/lのNaCl(流速1ml/分)等を用いて分離して、紫外部の吸収(例えば225nm等を使用)を検知することによって糖鎖の分子量分布を検出し、これを例えばJ.Biol.Chem.,277,38179−38188(2002)に記載の方法などに従って調製した「標準となるCHオリゴ糖及び/又はCSオリゴ糖」の紫外部の吸収と比較することによって行うことができる。
なお、一般にタンパク質にはN−グリコシル領域等のように糖鎖が結合する領域が存在することが知られている。したがって、本発明切断剤の有効成分である前記のタンパク質は、かかる糖鎖結合領域を介して糖鎖が結合した「糖タンパク質」の形態となっていても良い。すなわち、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質のみならず、当該タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質も、糖鎖切断剤として使用することができる。
本発明切断剤の製造方法も特に限定されず、天然物から上記(a)又は(b)のタンパク質を単離してもよく、化学合成等によって上記(a)又は(b)のタンパク質を製造してもよく、遺伝子工学的手法によって上記(a)又は(b)のタンパク質を製造してもよい。遺伝子工学的手法によって本発明切断剤を製造する方法については、後述の本発明切断剤製造方法で説明される。
また、前記のような鑑別の方法を用いることによって、上記(a)や(b)のタンパク質のCH及び/又はCSを切断する活性を変化させる(高める又は低下させる)物質の探索が可能となる。この探索により得られた物質は、本発明調節剤として利用することができる。具体的には、候補物質の存在下あるいは非存在下で本発明切断剤のCH及び/又はCSを切断する活性を測定し、該候補物質が本発明切断剤の活性を変化させるか否かを判別し、活性を変化させた候補物質を本発明切断剤の活性調節剤として選択する、というステップを含む、本発明切断剤の活性調節剤をスクリーニングする方法によって、本発明調節剤を得ることができる。
2.本発明医薬
本発明医薬は、本発明切断剤を有効成分とする医薬である。
本発明医薬は、本発明切断剤(前記(a)又は(b)のタンパク質)を有効成分とする限りにおいて、その適用対象となる疾患も特に限定されないが、CH分解酵素及び/又はCS分解酵素の活性の変化に起因する疾患の処置剤であることが好ましい。この「活性の変化」は、全身にわたるものであっても、局部的なものであってもよい。また「活性の変化」は、「活性の低下」であることが好ましい。
また本発明医薬は、CH及び/又はCSが過剰に存在することに起因する疾患の処置剤であってもよい。ここで「過剰」とは、健常状態におけるレベルよりも高いレベルであることを意味する。また「CH及び/又はCSの過剰な存在」は、全身にわたるものであっても、局部的なものであってもよい。CH及び/又はCSが過剰に存在することに起因する疾患としては、例えば椎間板ヘルニア等が例示される。
また本発明医薬は、CH及び/又はCSを特異的に切断する目的で使用されることが好ましい。すなわち本発明医薬は、CH及び/又はCSの特異的な切断が望まれる疾患等に対して適用することもできる。このような疾患としては、例えば椎間板ヘルニア等が例示される。
これらにおける「CS」は、CSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。
また、本出願書類における「処置」の用語には、予防、進行抑制(悪化防止)、改善、治療等を目的とする処置が全て包含される。
本発明医薬が投与される部位は、疾患の種類、発症部位等によって個別的に設定されるものであり、特に限定されない。例えば、CH及び/又はCSが過剰に存在しているような生体組織が挙げられる。このような生体組織としては、例えば椎間板ヘルニアの状態にある髄核が例示される。したがって、本発明医薬は椎間板ヘルニアの処置剤として用いることもできる。
近年、コンドロイチナーゼを椎間板に投与して髄核を融解し、椎間板ヘルニアを治療する試みが行われている(米国特許第4696816号、Clinical Orthopaedics,253,301−308(1990))。したがって、CHやCSを切断する働きを有する本発明医薬は、同様に椎間板ヘルニア処置剤として十分に利用しうるものである。
また、近年、損傷した神経の再生をCHやCSが阻害するという知見も得られている(Nature,416,6881,589−590(2002))が、かかる神経の損傷部位に本発明医薬を投与することにより、損傷した神経の再生を促すこともできる。
本発明医薬が適用される動物種も特に限定されないが、前記の椎間板ヘルニアの処置剤又は神経再生処置剤として使用する場合には、脊椎動物であることが好ましく、中でもほ乳類であることが好ましい。ほ乳類としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ネズミ、ラット等が例示されるが、ヒトに対して適用されるものが特に好ましい。
本発明医薬の投与方法は、投与された生体組織中において、CHやCSを切断するという本発明医薬の作用が発揮される限りにおいて特に限定されないが、例えば注射による投与が挙げられる。本発明医薬を例えば椎間板ヘルニアの処置剤として髄核に適用する場合には、目的とする髄核が存在する椎間板又は脊髄硬膜外腔に注射することが好ましい。
また、投与方法に応じて上記(a)、(b)、(a’)又は(b’)のタンパク質を適宜製剤化して、本発明医薬とすることができる。通常、製剤化は薬学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により行われる。剤型としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、液剤等が挙げられる。中でも注射剤が好ましい。本発明医薬の投与量は、上記タンパク質の種類、比活性、投与される動物種、疾患の種類や症状、投与対象となる生体組織の種類やその状態等によって個別的に設定されるべきものであり、特に限定されないが、一般的には一日あたり0.1μg〜1000mg程度を投与することができる。
また本発明医薬は、本発明切断剤を有効成分として含有する限りにおいて、他の成分を含有していてもよい。このような「他の成分」は、本発明医薬の有効成分である本発明切断剤に対して実質的に悪影響を与えず、かつ薬学的に許容されるものである限りにおいて特に限定されない。したがって、薬学的に許容される担体等はもちろん、他の生理活性成分等についても「他の成分」として用いうる。
本発明医薬の有効成分である「本発明切断剤」についての説明は、前記と同様である。。遺伝子工学的手法によって本発明医薬を製造する方法については、後述の「5.本発明切断剤製造方法」に説明される。
3.本発明切断方法
本発明切断方法は、下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法である。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
上記(a)及び(b)のタンパク質に関する説明は前記と同様である。
このようなタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる方法は、これらの分子が相互に接触して酵素反応が生ずる状態となる限りにおいて特に限定されず、例えば前者に後者を接触させても良く、後者に前者を接触させても良く、両者を同時に接触させても良い。例えば、上記(a)又は(b)のタンパク質が固着された担体(例えばゲル、ビーズ、膜、プレート等)を用意し、これにCH及び/又はCSを接触させても良い。このような担体を用いることによって、両者を連続的に接触させることもできる。
両者を接触させる際の反応の条件は、前記のタンパク質が作用する条件である限りにおいて特に限定されないが、これらのタンパク質の至適pH付近(例えばpH5〜7程度)で反応させることが好ましく、当該pH下で緩衝作用を有する緩衝液中で反応を行うことがより好ましい。またこのときの温度も、これらのタンパク質の活性が保持されている限りにおいて特に限定されないが、35〜40℃程度が好ましい。
更に、これらのタンパク質の活性を増加させる物質がある場合には、その物質を添加しても良い。反応時間は、pH条件、温度条件、作用させるタンパク質の量及び糖鎖の量、どの程度の切断(低分子量化)を所望するか等によって適宜設定することができる。例えば、反応時間を長くすれば切断(低分子量化)の程度を増すことができ、反応時間を短くすればその程度を減ずることができる。
また、本発明切断方法には、このようなタンパク質の作用工程が少なくとも含まれていれば良く、更に他の工程が含まれていても良い。
本発明切断方法によって、CH及び/又はCSが特異的に切断される。本発明切断方法における「CS」は、CSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
これらの糖鎖が切断されたか否かは、低分子量化した該糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。その方法の説明は前記と同様である。本発明切断方法は、特に、CH及びCSのみを特異的に切断する方法であることが好ましい。
また、本発明切断方法は、DS、CSD、CSE、HA、N−アセチルヘパロサン、HS及びHepを切断しない方法であることが好ましい。このような該糖鎖が切断されていないことも、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって確認することができる。
すなわち、本発明切断方法は、CH、CSA及びCSC(なかでも、CH及びCSC)を特異的に切断するために用いられ、DS、CSD、CSE、HA、N−アセチルヘパロサン、HS及びHepを切断しない目的で用いられることが好ましい。
本発明切断方法に関するその他の説明は、前記の本発明切断剤と同様である。
4.本発明生産方法
本発明生産方法は、下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された糖鎖を特異的に生産する方法である。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
本発明生産方法により、CH及び/又はCSが低分子量化された糖鎖を特異的に生産することができる。その本発明生産方法の説明は、前記の本発明切断方法と同様である。
従って、本発明切断方法は、特に、CH、CSA及びCSCのみ(なかでも、CH及びCSCのみ)を産生し、DS、CSD、CSE、HA、N−アセチルヘパロサン、HS及びHepを生産しない方法であることが好ましい。このような糖鎖が生産され、又は生産されないことも、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって確認することができる。
本発明生産方法においては、下記(a)又は(b)のタンパク質をCH及び/又はCSに作用させた後に、低分子化された糖鎖を採取する工程をさらに含むこととなる。低分子化された糖鎖を採取、単離する方法等は、公知の方法によって行うことができる。
5.本発明切断剤製造方法
本発明切断剤製造方法は、下記(c)又は(d)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明切断剤の製造方法である。
(c)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA;
(d)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質をコードするDNA。
上記(c)のDNAは、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、遺伝暗号の縮重によって種々の異なった塩基配列を有するDNAが存在するが、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号25〜1623によって特定されるDNAが好ましく、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号133〜1623によって特定されるDNAがより好ましい。
上記(d)のDNAも、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、例えば上記(c)に記載のDNA若しくは当該DNAに相補的なDNA又はこれらのDNAの塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが例示される。
ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」として具体的には、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt’s solution、100μg/mlサケ精子DNAを含む溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、50℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。
上記(c)又は(d)のいずれかを保持するDNAを用いたタンパク質の発現は、当該DNAが保持されたベクター(好ましくは発現ベクター)を用いて行うことが好ましい。DNAのベクターへの組込みは、通常の方法によって行うことができる。
DNAを導入するベクターとしては、例えば、導入したDNAを発現させることができる適当な発現ベクター(ファージベクター或いはプラスミドベクター等)を使用することができ、本発明ベクターを組込む宿主細胞に応じて適宜選択できる。このような宿主−ベクター系としては、COS細胞、3LL−HK46細胞などの哺乳類細胞と、pGIR201(Kitagawa,H.and Paulson,J.C.J.Biol.Chem.,269,1394−1401(1994))、pEF−BOS(Mizushima,S.and Nagata,S.,Nucleic Acid Res.,18,5322(1990))、pCXN2(Niwa,H.,Yamanura,K.and Miyazaki,J.,Gene,108,193−200((1991))、pCMV−2(イーストマン コダック製)、pCEV18、pME18S(丸山ら,Med.Immunol.,20,27(1990))又はpSVL(ファルマシア バイオテック社製)等の哺乳類細胞用発現ベクターとの組み合わせ、大腸菌(E.coli)と、pTrcHis(インビトロゲン社製)、pGEX(ファルマシア バイオテック社製)、pTrc99(ファルマシア バイオテック社製)、pKK233−3(ファルマシア バイオテック社製)、pEZZZ18(ファルマシア バイオテック社製)、pCH110(ファルマシア バイオテック社製)、pET(ストラタジーン社製)、pBAD(インビトロゲン社製)、pRSET(インビトロゲン社製)、及びpSE420(インビトロゲン社製)等の原核細胞用の発現ベクターとの組み合わせ、昆虫細胞とバキュロウイルスとの組み合わせのほか、宿主細胞として酵母、枯草菌などが例示され、これらに対応する各種ベクターが例示される。上述の宿主−ベクター系の中でも特に哺乳類細胞(特にCOS細胞)とpFLAG−CMV6(SIGMA社製)との組み合わせや、昆虫細胞とバキュロウイルスとの組み合わせが好ましい。
また、DNAを組込むベクターは、目的とするタンパク質とマーカーペプチドとの融合タンパク質を発現するように構築されたものを用いることもできる。DNAからのタンパク質の発現及び発現されたタンパク質の採取も、通常の方法に従って行うことができる。
例えば、目的とするDNAが組み込まれた発現ベクターを適当な宿主に導入することによって宿主を形質転換し、この形質転換体を生育させ、その生育物から発現されたタンパク質を採取することによって行うことができる。
ここで「生育」とは、形質転換体である細胞や微生物自体の増殖や、形質転換体である細胞を組み込んだ動物・昆虫等の生育を含む概念である。また、ここでいう「生育物」とは、形質転換体を生育させた後の培地(培養液の上清)及び培養された宿主細胞・分泌物・排出物等を包含する概念である。生育の条件(培地や培養条件等)は、用いる宿主に合わせて適宜選択できる。
生育物からのタンパク質の採取も、タンパク質の公知の抽出・精製方法によって行うことができる。
例えば目的とするタンパク質が、培地(培養液の上清)中に分泌される可溶性の形態で産生される場合には、培地を採取し、これをそのまま用いてもよい。また目的とするタンパク質が細胞質中に分泌される可溶性の形態、又は不溶性(膜結合性)の形態で産生される場合には、窒素キャビテーション装置を用いる方法、ホモジナイズ、ガラスビーズミル法、音波処理、浸透ショック法、凍結融解法等の細胞破砕による抽出、界面活性剤抽出、又はこれらの組み合わせ等の処理操作によって目的とするタンパク質を抽出することができ、その抽出物をそのまま用いてもよい。
これらの培地や抽出物から、タンパク質をさらに精製することもできる。精製は、不完全な精製(部分精製)であっても、完全な精製であってもよく、目的とするタンパク質の使用目的等に応じて適宜選択することができる。
精製方法として具体的には、例えば硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法等や、これらの組み合わせ等の処理操作が挙げられる。
目的とするタンパク質が製造されたか否かは、アミノ酸配列、作用、基質特異性等を分析することによって確認することができる。
また、本発明切断剤製造方法には、以上のような発現・採取工程が少なくとも含まれていればよく、さらに他の工程が含まれていてもよい。
また、このようにして得られた本発明切断剤を有効成分として用いて、本発明医薬を製造することもできる。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明切断剤は、下記(a)又は(b)のタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする糖鎖切断剤である。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
本発明切断剤の有効成分である上記(a)のタンパク質は、公知のCSGalNAcT−1のタンパク質(J.Biol.Chem.,277,38189−38196(2002))と同一である。
また一般に、酵素タンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は数個(通常は2以上24以下)の構成アミノ酸が付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位(以下、これらをまとめて単に「変異」とも記載する。)しても酵素活性が維持されることが知られており、このような変異を有するタンパク質は同一酵素のバリアントであるということができる。本発明切断剤においても、前記(a)のタンパク質のアミノ酸配列に1又は数個の構成アミノ酸の変異を有していても、かかるタンパク質がCH及び/又はCSを分解する働きを有する限りにおいて、前記(a)の酵素タンパク質と実質的に同一の酵素タンパク質であるということができる。前記(b)のタンパク質は、このようなタンパク質を意味するものである。「配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列」は、アミノ酸番号37〜532に示されるアミノ酸配列と95%以上(アミノ酸24個以下の変異)、好ましくは96%以上(アミノ酸19個以下の変異)、さらに好ましくは97%以上(アミノ酸14個以下の変異)、特に好ましくは98%以上(アミノ酸10個以下の変異)の相同性を有することが好ましい。アミノ酸配列の相同性は、FASTAのような周知のコンピュータソフトウェアを用いて容易に算出することができ、このようなソフトウェアはインターネットによっても利用に供されている。
本発明切断剤の有効成分である前記(a)及び(b)のタンパク質の一例として、下記(a’)及び(b’)のタンパク質が例示される。
(a’)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b’)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列からなり、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
本発明切断剤において、「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
なお、CSAはコンドロイチン4−硫酸構造を多く含むCSであり、CSCはコンドロイチン6−硫酸構造を多く含むCSである。クジラ軟骨由来のCSは一般にCSAとして市販されており、またサメ軟骨由来のCSは一般にCSCとして市販されている。
タンパク質が、CH及び/又はCSを分解する働きを有するか否かの鑑別は、例えば、CH及び/又はCSにタンパク質を作用させた後の産物を、Superdex Peptideカラム(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)等にアプライし、移動相として0.2mol/lのNaCl(流速1ml/分)等を用いて分離して、紫外部の吸収(例えば225nm等を使用)を検知することによって糖鎖の分子量分布を検出し、これを例えばJ.Biol.Chem.,277,38179−38188(2002)に記載の方法などに従って調製した「標準となるCHオリゴ糖及び/又はCSオリゴ糖」の紫外部の吸収と比較することによって行うことができる。
なお、一般にタンパク質にはN−グリコシル領域等のように糖鎖が結合する領域が存在することが知られている。したがって、本発明切断剤の有効成分である前記のタンパク質は、かかる糖鎖結合領域を介して糖鎖が結合した「糖タンパク質」の形態となっていても良い。すなわち、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質のみならず、当該タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質も、糖鎖切断剤として使用することができる。
本発明切断剤の製造方法も特に限定されず、天然物から上記(a)又は(b)のタンパク質を単離してもよく、化学合成等によって上記(a)又は(b)のタンパク質を製造してもよく、遺伝子工学的手法によって上記(a)又は(b)のタンパク質を製造してもよい。遺伝子工学的手法によって本発明切断剤を製造する方法については、後述の本発明切断剤製造方法で説明される。
また、前記のような鑑別の方法を用いることによって、上記(a)や(b)のタンパク質のCH及び/又はCSを切断する活性を変化させる(高める又は低下させる)物質の探索が可能となる。この探索により得られた物質は、本発明調節剤として利用することができる。具体的には、候補物質の存在下あるいは非存在下で本発明切断剤のCH及び/又はCSを切断する活性を測定し、該候補物質が本発明切断剤の活性を変化させるか否かを判別し、活性を変化させた候補物質を本発明切断剤の活性調節剤として選択する、というステップを含む、本発明切断剤の活性調節剤をスクリーニングする方法によって、本発明調節剤を得ることができる。
2.本発明医薬
本発明医薬は、本発明切断剤を有効成分とする医薬である。
本発明医薬は、本発明切断剤(前記(a)又は(b)のタンパク質)を有効成分とする限りにおいて、その適用対象となる疾患も特に限定されないが、CH分解酵素及び/又はCS分解酵素の活性の変化に起因する疾患の処置剤であることが好ましい。この「活性の変化」は、全身にわたるものであっても、局部的なものであってもよい。また「活性の変化」は、「活性の低下」であることが好ましい。
また本発明医薬は、CH及び/又はCSが過剰に存在することに起因する疾患の処置剤であってもよい。ここで「過剰」とは、健常状態におけるレベルよりも高いレベルであることを意味する。また「CH及び/又はCSの過剰な存在」は、全身にわたるものであっても、局部的なものであってもよい。CH及び/又はCSが過剰に存在することに起因する疾患としては、例えば椎間板ヘルニア等が例示される。
また本発明医薬は、CH及び/又はCSを特異的に切断する目的で使用されることが好ましい。すなわち本発明医薬は、CH及び/又はCSの特異的な切断が望まれる疾患等に対して適用することもできる。このような疾患としては、例えば椎間板ヘルニア等が例示される。
これらにおける「CS」は、CSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。
また、本出願書類における「処置」の用語には、予防、進行抑制(悪化防止)、改善、治療等を目的とする処置が全て包含される。
本発明医薬が投与される部位は、疾患の種類、発症部位等によって個別的に設定されるものであり、特に限定されない。例えば、CH及び/又はCSが過剰に存在しているような生体組織が挙げられる。このような生体組織としては、例えば椎間板ヘルニアの状態にある髄核が例示される。したがって、本発明医薬は椎間板ヘルニアの処置剤として用いることもできる。
近年、コンドロイチナーゼを椎間板に投与して髄核を融解し、椎間板ヘルニアを治療する試みが行われている(米国特許第4696816号、Clinical Orthopaedics,253,301−308(1990))。したがって、CHやCSを切断する働きを有する本発明医薬は、同様に椎間板ヘルニア処置剤として十分に利用しうるものである。
また、近年、損傷した神経の再生をCHやCSが阻害するという知見も得られている(Nature,416,6881,589−590(2002))が、かかる神経の損傷部位に本発明医薬を投与することにより、損傷した神経の再生を促すこともできる。
本発明医薬が適用される動物種も特に限定されないが、前記の椎間板ヘルニアの処置剤又は神経再生処置剤として使用する場合には、脊椎動物であることが好ましく、中でもほ乳類であることが好ましい。ほ乳類としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ネズミ、ラット等が例示されるが、ヒトに対して適用されるものが特に好ましい。
本発明医薬の投与方法は、投与された生体組織中において、CHやCSを切断するという本発明医薬の作用が発揮される限りにおいて特に限定されないが、例えば注射による投与が挙げられる。本発明医薬を例えば椎間板ヘルニアの処置剤として髄核に適用する場合には、目的とする髄核が存在する椎間板又は脊髄硬膜外腔に注射することが好ましい。
また、投与方法に応じて上記(a)、(b)、(a’)又は(b’)のタンパク質を適宜製剤化して、本発明医薬とすることができる。通常、製剤化は薬学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により行われる。剤型としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、液剤等が挙げられる。中でも注射剤が好ましい。本発明医薬の投与量は、上記タンパク質の種類、比活性、投与される動物種、疾患の種類や症状、投与対象となる生体組織の種類やその状態等によって個別的に設定されるべきものであり、特に限定されないが、一般的には一日あたり0.1μg〜1000mg程度を投与することができる。
また本発明医薬は、本発明切断剤を有効成分として含有する限りにおいて、他の成分を含有していてもよい。このような「他の成分」は、本発明医薬の有効成分である本発明切断剤に対して実質的に悪影響を与えず、かつ薬学的に許容されるものである限りにおいて特に限定されない。したがって、薬学的に許容される担体等はもちろん、他の生理活性成分等についても「他の成分」として用いうる。
本発明医薬の有効成分である「本発明切断剤」についての説明は、前記と同様である。。遺伝子工学的手法によって本発明医薬を製造する方法については、後述の「5.本発明切断剤製造方法」に説明される。
3.本発明切断方法
本発明切断方法は、下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法である。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
上記(a)及び(b)のタンパク質に関する説明は前記と同様である。
このようなタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる方法は、これらの分子が相互に接触して酵素反応が生ずる状態となる限りにおいて特に限定されず、例えば前者に後者を接触させても良く、後者に前者を接触させても良く、両者を同時に接触させても良い。例えば、上記(a)又は(b)のタンパク質が固着された担体(例えばゲル、ビーズ、膜、プレート等)を用意し、これにCH及び/又はCSを接触させても良い。このような担体を用いることによって、両者を連続的に接触させることもできる。
両者を接触させる際の反応の条件は、前記のタンパク質が作用する条件である限りにおいて特に限定されないが、これらのタンパク質の至適pH付近(例えばpH5〜7程度)で反応させることが好ましく、当該pH下で緩衝作用を有する緩衝液中で反応を行うことがより好ましい。またこのときの温度も、これらのタンパク質の活性が保持されている限りにおいて特に限定されないが、35〜40℃程度が好ましい。
更に、これらのタンパク質の活性を増加させる物質がある場合には、その物質を添加しても良い。反応時間は、pH条件、温度条件、作用させるタンパク質の量及び糖鎖の量、どの程度の切断(低分子量化)を所望するか等によって適宜設定することができる。例えば、反応時間を長くすれば切断(低分子量化)の程度を増すことができ、反応時間を短くすればその程度を減ずることができる。
また、本発明切断方法には、このようなタンパク質の作用工程が少なくとも含まれていれば良く、更に他の工程が含まれていても良い。
本発明切断方法によって、CH及び/又はCSが特異的に切断される。本発明切断方法における「CS」は、CSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
これらの糖鎖が切断されたか否かは、低分子量化した該糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。その方法の説明は前記と同様である。本発明切断方法は、特に、CH及びCSのみを特異的に切断する方法であることが好ましい。
また、本発明切断方法は、DS、CSD、CSE、HA、N−アセチルヘパロサン、HS及びHepを切断しない方法であることが好ましい。このような該糖鎖が切断されていないことも、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって確認することができる。
すなわち、本発明切断方法は、CH、CSA及びCSC(なかでも、CH及びCSC)を特異的に切断するために用いられ、DS、CSD、CSE、HA、N−アセチルヘパロサン、HS及びHepを切断しない目的で用いられることが好ましい。
本発明切断方法に関するその他の説明は、前記の本発明切断剤と同様である。
4.本発明生産方法
本発明生産方法は、下記(a)又は(b)のタンパク質を、CH及び/又はCSに作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された糖鎖を特異的に生産する方法である。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質。
ここで「CS」はCSA及び/又はCSCであることが好ましく、特にCSCが好ましい。またCSは、クジラ軟骨由来及び/又はサメ軟骨由来のものが好ましい。
本発明生産方法により、CH及び/又はCSが低分子量化された糖鎖を特異的に生産することができる。その本発明生産方法の説明は、前記の本発明切断方法と同様である。
従って、本発明切断方法は、特に、CH、CSA及びCSCのみ(なかでも、CH及びCSCのみ)を産生し、DS、CSD、CSE、HA、N−アセチルヘパロサン、HS及びHepを生産しない方法であることが好ましい。このような糖鎖が生産され、又は生産されないことも、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって確認することができる。
本発明生産方法においては、下記(a)又は(b)のタンパク質をCH及び/又はCSに作用させた後に、低分子化された糖鎖を採取する工程をさらに含むこととなる。低分子化された糖鎖を採取、単離する方法等は、公知の方法によって行うことができる。
5.本発明切断剤製造方法
本発明切断剤製造方法は、下記(c)又は(d)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明切断剤の製造方法である。
(c)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA;
(d)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質をコードするDNA。
上記(c)のDNAは、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、遺伝暗号の縮重によって種々の異なった塩基配列を有するDNAが存在するが、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号25〜1623によって特定されるDNAが好ましく、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号133〜1623によって特定されるDNAがより好ましい。
上記(d)のDNAも、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、CH及び/又はCSを分解する働きを有するタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、例えば上記(c)に記載のDNA若しくは当該DNAに相補的なDNA又はこれらのDNAの塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが例示される。
ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」として具体的には、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt’s solution、100μg/mlサケ精子DNAを含む溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、50℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。
上記(c)又は(d)のいずれかを保持するDNAを用いたタンパク質の発現は、当該DNAが保持されたベクター(好ましくは発現ベクター)を用いて行うことが好ましい。DNAのベクターへの組込みは、通常の方法によって行うことができる。
DNAを導入するベクターとしては、例えば、導入したDNAを発現させることができる適当な発現ベクター(ファージベクター或いはプラスミドベクター等)を使用することができ、本発明ベクターを組込む宿主細胞に応じて適宜選択できる。このような宿主−ベクター系としては、COS細胞、3LL−HK46細胞などの哺乳類細胞と、pGIR201(Kitagawa,H.and Paulson,J.C.J.Biol.Chem.,269,1394−1401(1994))、pEF−BOS(Mizushima,S.and Nagata,S.,Nucleic Acid Res.,18,5322(1990))、pCXN2(Niwa,H.,Yamanura,K.and Miyazaki,J.,Gene,108,193−200((1991))、pCMV−2(イーストマン コダック製)、pCEV18、pME18S(丸山ら,Med.Immunol.,20,27(1990))又はpSVL(ファルマシア バイオテック社製)等の哺乳類細胞用発現ベクターとの組み合わせ、大腸菌(E.coli)と、pTrcHis(インビトロゲン社製)、pGEX(ファルマシア バイオテック社製)、pTrc99(ファルマシア バイオテック社製)、pKK233−3(ファルマシア バイオテック社製)、pEZZZ18(ファルマシア バイオテック社製)、pCH110(ファルマシア バイオテック社製)、pET(ストラタジーン社製)、pBAD(インビトロゲン社製)、pRSET(インビトロゲン社製)、及びpSE420(インビトロゲン社製)等の原核細胞用の発現ベクターとの組み合わせ、昆虫細胞とバキュロウイルスとの組み合わせのほか、宿主細胞として酵母、枯草菌などが例示され、これらに対応する各種ベクターが例示される。上述の宿主−ベクター系の中でも特に哺乳類細胞(特にCOS細胞)とpFLAG−CMV6(SIGMA社製)との組み合わせや、昆虫細胞とバキュロウイルスとの組み合わせが好ましい。
また、DNAを組込むベクターは、目的とするタンパク質とマーカーペプチドとの融合タンパク質を発現するように構築されたものを用いることもできる。DNAからのタンパク質の発現及び発現されたタンパク質の採取も、通常の方法に従って行うことができる。
例えば、目的とするDNAが組み込まれた発現ベクターを適当な宿主に導入することによって宿主を形質転換し、この形質転換体を生育させ、その生育物から発現されたタンパク質を採取することによって行うことができる。
ここで「生育」とは、形質転換体である細胞や微生物自体の増殖や、形質転換体である細胞を組み込んだ動物・昆虫等の生育を含む概念である。また、ここでいう「生育物」とは、形質転換体を生育させた後の培地(培養液の上清)及び培養された宿主細胞・分泌物・排出物等を包含する概念である。生育の条件(培地や培養条件等)は、用いる宿主に合わせて適宜選択できる。
生育物からのタンパク質の採取も、タンパク質の公知の抽出・精製方法によって行うことができる。
例えば目的とするタンパク質が、培地(培養液の上清)中に分泌される可溶性の形態で産生される場合には、培地を採取し、これをそのまま用いてもよい。また目的とするタンパク質が細胞質中に分泌される可溶性の形態、又は不溶性(膜結合性)の形態で産生される場合には、窒素キャビテーション装置を用いる方法、ホモジナイズ、ガラスビーズミル法、音波処理、浸透ショック法、凍結融解法等の細胞破砕による抽出、界面活性剤抽出、又はこれらの組み合わせ等の処理操作によって目的とするタンパク質を抽出することができ、その抽出物をそのまま用いてもよい。
これらの培地や抽出物から、タンパク質をさらに精製することもできる。精製は、不完全な精製(部分精製)であっても、完全な精製であってもよく、目的とするタンパク質の使用目的等に応じて適宜選択することができる。
精製方法として具体的には、例えば硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法等や、これらの組み合わせ等の処理操作が挙げられる。
目的とするタンパク質が製造されたか否かは、アミノ酸配列、作用、基質特異性等を分析することによって確認することができる。
また、本発明切断剤製造方法には、以上のような発現・採取工程が少なくとも含まれていればよく、さらに他の工程が含まれていてもよい。
また、このようにして得られた本発明切断剤を有効成分として用いて、本発明医薬を製造することもできる。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
J.Biol.Chem.,277,38189−38196(2002)に記載の方法に従って、遺伝子工学的に、ヒト由来のCSGalNAcT−1の推定触媒ドメイン(配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列)とFLAGペプチドとの融合タンパク質を製造した。この融合タンパク質は可溶化形態のタンパク質である。この融合タンパク質を抗FLAG抗体M2(シグマ社製)が結合したアガロースゲルに吸着させた。このアガロースゲルを、20%グリセロールを含有する50mmol/lトリス緩衝液(pH7.4)で洗浄後、上清を吸引除去した。このゲルを、50mmol/l MES緩衝液(pH6.5:MnCl2を10mmol/l、アデノシン三リン酸(ATP)を17.1mmol/l、及び、グリコサミノグリカン(CH(クジラ軟骨由来のCSAから酸性メタノール溶液で脱硫酸して調製したもの:生化学工業株式会社製)、CSA(クジラ軟骨由来:生化学工業株式会社製)、DS(ブタ皮由来:生化学工業株式会社製)、CSC(サメ軟骨由来:生化学工業株式会社製)、CSD(サメ軟骨由来:生化学工業株式会社製)、CSE(イカ軟骨由来:生化学工業株式会社製)、HA(ニワトリ鶏冠由来:生化学工業株式会社製)、N−アセチルヘパロサン(大腸菌K5株莢膜多糖由来:生化学工業株式会社製)、HS(ブタ大動脈由来:生化学工業株式会社製)、又はHep(ブタ小腸由来:シグマ社製))を含有する)に0.2mg/mlとなるように懸濁して反応液とした。
50μlの反応液を37℃で60分間、振盪撹拌し、その後、100℃で5分間、反応液を煮沸してタンパク質を変性させて反応を停止させ、上清を0.22μmのフィルターを通してサンプルとした。サンプルはSuperdex Peptideカラム(ファルマシア社製:0.2mol/lのNaClを移動相として用い、その流速は1ml/minとした)にアプライし、225nmの吸収により検出した。分子量マーカーとなるCHオリゴ糖はJ.Biol.Chem.,277,38179−38188(2002)の方法に従って調製して用いた。また、ヒト由来のCSGalNAcT−1に代えて陰性対照としてヒト由来のCSGalNAcT−2を用いた。CSGalNAcT−2はJ.Biol.Chem.,278,38189−38196(2002)に従って調製した。
CSGalNAcT−1と、CH、CSA、DS、CSC、CSD、(以下は結果は示さない)CSE、HS、N−アセチルヘパロサン、HS又はHepとを反応させると、CH及びCSCにおいて多糖の低分子化が観察され、またCSAにおいて多糖の若干の低分子化が観察された(第1図)。陰性対照においては低分子化は観察されなかった。この結果から、CSGalNAcT−1は多糖を低分子化する活性を有していることが示された。また、CSGalNAcT−1は、CHの二糖繰り返し構造を認識し、硫酸基がその活性に影響を及ぼすことが示唆された。
また、CSAでは若干の低分子化しか観察されなかった原因として、使用したCSA中に存在する4位が硫酸化されたGalNAc(GalNAc−4S:構成GalNAc残基のうちの60%程度)の影響が示唆された。更に、反応系にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加して二価金属イオンをキレートしても阻害されないことから、上記活性は二価金属を要求しないと考えられる。
この分解産物を更にSuperdex Peptideカラム(ファルマシア社製)により分画したところ、その溶出位置から分解産物は6糖、4糖、2糖であると考えられ、反応時間を変化させて分解した分解産物の溶出パターンの変化から、初めに6糖が生成し、次に4糖、2糖が増加する事が判明した(第2図)。このことから、CSGalNAcT−1のCH/CS多糖を低分子化する活性はエンド型であることが示唆された。
つぎに、CSS3(J.Biol.Chem.,278,39711−39725(2003))を用いて非還元末端を常法によって[14C]GlcA、[3H]GalNAcでそれぞれ標識したCHを、CSGalNAcT−1で酵素消化し、それをSuperdex Peptideカラム(ファルマシア社製)を用いて分画したのち、各画分の放射能をシンチレーションカウンターで測定した。その結果、[14C]GlcAで標識したものについては6糖及び4糖の溶出位置に[3H]GalNAcで標識したものについては5糖及び3糖の溶出位置にその分解産物の放射能のピークが検出された(第3図)。このことから、少なくとも非還元末端側のオリゴ糖の特異性についていえば、GalNAc・1−4GlcA結合がCSGalNAcT−1により開裂している事が示唆された。また、2糖の溶出位置に放射能が検出されなかったことから、初めに6糖又は5糖が切り出され、その後、大きなフラグメントの非還元末端側を選択的に分解していることが示された。
このCSGalNAcT−1をCHに作用させてできる6糖及び4糖を、J.Biol.Chem.,277,38179−38188(2002)に記載された方法により精製し、マトリックス支援レーザーイオン化−飛行時間質量分析(MALDI−TOF−MS:Reflex IV(ブルッカーダルトニクス社製))により解析したところ、6糖、4糖ともに、CHをヒアルロニダーゼで消化して得た6糖及び4糖(分子量マーカー)よりも18Da小さいピークが検出された(6糖:第4図及び第5図、4糖:第6図及び第7図)。この結果から、本酵素活性はエンド−・−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、または菌体由来のコンドロイチナーゼのようなエリミナーゼである可能性が示唆された。
この活性は、CSA、DS、CSDを基質とした際には観察されなかったことから、基質の硫酸化の影響を受けると考えられ、CSA、DS、CSDが共通して有するGalNAc−4S構造が阻害的に働く可能性が示唆された。そこで、GalNAc−4S構造を92.5%と高頻度に含有するチョウザメ脊索由来のコンドロイチン硫酸A標品(生化学工業株式会社製)からBiochem.J.,226,705−714(1985)に従って調製したコンドロイチン硫酸14糖(その7個のGalNAc残基ほとんど全てに4−硫酸基が入っている)と、コンドロイチン14糖(生化学工業株式会社製)を基質にしてその活性を測定したところ、コンドロイチン硫酸14糖を用いた場合、ほとんど分解されなかった(第8図)。このことから少なくともコンドロイチン硫酸に含まれるGalNAc−4S構造はこの活性に阻害的に働くことが示された。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱すること無く様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年8月26日出願の日本特許出願(特願2003−301943)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
50μlの反応液を37℃で60分間、振盪撹拌し、その後、100℃で5分間、反応液を煮沸してタンパク質を変性させて反応を停止させ、上清を0.22μmのフィルターを通してサンプルとした。サンプルはSuperdex Peptideカラム(ファルマシア社製:0.2mol/lのNaClを移動相として用い、その流速は1ml/minとした)にアプライし、225nmの吸収により検出した。分子量マーカーとなるCHオリゴ糖はJ.Biol.Chem.,277,38179−38188(2002)の方法に従って調製して用いた。また、ヒト由来のCSGalNAcT−1に代えて陰性対照としてヒト由来のCSGalNAcT−2を用いた。CSGalNAcT−2はJ.Biol.Chem.,278,38189−38196(2002)に従って調製した。
CSGalNAcT−1と、CH、CSA、DS、CSC、CSD、(以下は結果は示さない)CSE、HS、N−アセチルヘパロサン、HS又はHepとを反応させると、CH及びCSCにおいて多糖の低分子化が観察され、またCSAにおいて多糖の若干の低分子化が観察された(第1図)。陰性対照においては低分子化は観察されなかった。この結果から、CSGalNAcT−1は多糖を低分子化する活性を有していることが示された。また、CSGalNAcT−1は、CHの二糖繰り返し構造を認識し、硫酸基がその活性に影響を及ぼすことが示唆された。
また、CSAでは若干の低分子化しか観察されなかった原因として、使用したCSA中に存在する4位が硫酸化されたGalNAc(GalNAc−4S:構成GalNAc残基のうちの60%程度)の影響が示唆された。更に、反応系にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加して二価金属イオンをキレートしても阻害されないことから、上記活性は二価金属を要求しないと考えられる。
この分解産物を更にSuperdex Peptideカラム(ファルマシア社製)により分画したところ、その溶出位置から分解産物は6糖、4糖、2糖であると考えられ、反応時間を変化させて分解した分解産物の溶出パターンの変化から、初めに6糖が生成し、次に4糖、2糖が増加する事が判明した(第2図)。このことから、CSGalNAcT−1のCH/CS多糖を低分子化する活性はエンド型であることが示唆された。
つぎに、CSS3(J.Biol.Chem.,278,39711−39725(2003))を用いて非還元末端を常法によって[14C]GlcA、[3H]GalNAcでそれぞれ標識したCHを、CSGalNAcT−1で酵素消化し、それをSuperdex Peptideカラム(ファルマシア社製)を用いて分画したのち、各画分の放射能をシンチレーションカウンターで測定した。その結果、[14C]GlcAで標識したものについては6糖及び4糖の溶出位置に[3H]GalNAcで標識したものについては5糖及び3糖の溶出位置にその分解産物の放射能のピークが検出された(第3図)。このことから、少なくとも非還元末端側のオリゴ糖の特異性についていえば、GalNAc・1−4GlcA結合がCSGalNAcT−1により開裂している事が示唆された。また、2糖の溶出位置に放射能が検出されなかったことから、初めに6糖又は5糖が切り出され、その後、大きなフラグメントの非還元末端側を選択的に分解していることが示された。
このCSGalNAcT−1をCHに作用させてできる6糖及び4糖を、J.Biol.Chem.,277,38179−38188(2002)に記載された方法により精製し、マトリックス支援レーザーイオン化−飛行時間質量分析(MALDI−TOF−MS:Reflex IV(ブルッカーダルトニクス社製))により解析したところ、6糖、4糖ともに、CHをヒアルロニダーゼで消化して得た6糖及び4糖(分子量マーカー)よりも18Da小さいピークが検出された(6糖:第4図及び第5図、4糖:第6図及び第7図)。この結果から、本酵素活性はエンド−・−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、または菌体由来のコンドロイチナーゼのようなエリミナーゼである可能性が示唆された。
この活性は、CSA、DS、CSDを基質とした際には観察されなかったことから、基質の硫酸化の影響を受けると考えられ、CSA、DS、CSDが共通して有するGalNAc−4S構造が阻害的に働く可能性が示唆された。そこで、GalNAc−4S構造を92.5%と高頻度に含有するチョウザメ脊索由来のコンドロイチン硫酸A標品(生化学工業株式会社製)からBiochem.J.,226,705−714(1985)に従って調製したコンドロイチン硫酸14糖(その7個のGalNAc残基ほとんど全てに4−硫酸基が入っている)と、コンドロイチン14糖(生化学工業株式会社製)を基質にしてその活性を測定したところ、コンドロイチン硫酸14糖を用いた場合、ほとんど分解されなかった(第8図)。このことから少なくともコンドロイチン硫酸に含まれるGalNAc−4S構造はこの活性に阻害的に働くことが示された。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱すること無く様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年8月26日出願の日本特許出願(特願2003−301943)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
本発明により、CHやCSを分解する働きを有するタンパク質が提供され、それによりCHやCS硫酸を特異的に分解する糖鎖切断剤等が提供される。
Claims (18)
- 下記(a)又は(b)のタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする糖鎖切断剤。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸を分解する働きを有するタンパク質。 - コンドロイチン硫酸が、コンドロイチン硫酸A及び/又はコンドロイチン硫酸Cであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の糖鎖切断剤。
- コンドロイチン硫酸が、クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸及び/又はサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸であることを特徴とする、請求の範囲1又は2に記載の糖鎖切断剤。
- タンパク質が、配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求の範囲1〜3のいずれか1項に記載の糖鎖切断剤。
- 該タンパク質が、糖鎖が結合した糖タンパク質であることを特徴とする、請求の範囲1〜4のいずれか1項に記載の糖鎖切断剤。
- 「配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又は当該タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質」の糖鎖切断剤としての使用。
- 請求の範囲1〜5のいずれか1項に記載の糖鎖切断剤の活性調節剤。
- 請求の範囲1〜5のいずれか1項に記載の糖鎖切断剤を有効成分とする医薬。
- コンドロイチン分解酵素及び/又はコンドロイチン硫酸分解酵素の活性の変化に起因する疾患の処置剤であることを特徴とする、請求の範囲8に記載の医薬。
- コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸が過剰に存在することに起因する疾患の処置剤であることを特徴とする、請求の範囲8に記載の医薬。
- コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸を特異的に切断する目的で使用されることを特徴とする、請求の範囲8〜10のいずれか1項に記載の医薬。
- コンドロイチン硫酸が、コンドロイチン硫酸A及び/又はコンドロイチン硫酸Cであることを特徴とする、請求の範囲9〜11のいずれか1項に記載の医薬。
- 下記(a)又は(b)のタンパク質を、コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸に作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸を分解する働きを有するタンパク質。 - コンドロイチン硫酸が、コンドロイチン硫酸A及び/又はコンドロイチン硫酸Cであることを特徴とする、請求の範囲13に記載の方法。
- コンドロイチン硫酸が、クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸及び/又はサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸であることを特徴とする、請求の範囲13又は14に記載の方法。
- 下記(a)又は(b)のタンパク質を、コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸に作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された糖鎖を特異的に生産する方法。
(a)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2におけるアミノ酸番号37〜532で示されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換、挿入、及び/又は転位を有するアミノ酸配列を含み、かつ、コンドロイチン及び/又はコンドロイチン硫酸を分解する働きを有するタンパク質。 - コンドロイチン硫酸が、コンドロイチン硫酸A及び/又はコンドロイチン硫酸Cであることを特徴とする、請求の範囲16に記載の方法。
- コンドロイチン硫酸が、クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸及び/又はサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸であることを特徴とする、請求の範囲15又は17に記載の方法。
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