JPWO2004040273A1 - 疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置 - Google Patents

疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置 Download PDF

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Abstract

準備した尿検体(SP1)の上澄み液に酸又はアルカリを添加して加熱し(SP2)、その後、液性をアルカリ性として蛍光計測用試料を作製する(SP3)。次いで、蛍光光度計を用いて励起光波長、蛍光波長及びその強度から成る三次元蛍光スペクトルを得る(SP4)。そして、その三次元蛍光スペクトルにおける特異点として極大ピークを検出し、その特異点の属性(ピーク数、ピーク位置、蛍光強度等)を特定し、その属性に基づいて特異点ひいては尿検体の分類を行う(SP5)。最後に、尿検体の分類結果から悪性腫瘍等の疾患の存在を判定する(SP6)。

Description

本発明は、疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置に関し、詳しくは、生体の尿検体を検査して例えば悪性腫瘍等の特定の疾患を判定する際に用いられる疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置に関する。
ヒトが疾患を有するか否かを判定したり、或いはその疾患の進行状況について診断する方法としては、被験者の生体を非破壊的に検査するほか、生体試料を分析・検査する方法が広く用いられている。後者の方法としては、特定の疾患に起因して生体内で生成し得る特有の化学物質を生化学的指標として定性・定量する方法が一般的に用いられている。
特定疾患が悪性腫瘍(ガン)の場合、ヒトの尿や生体液中のポリアミンやプテリンを生化学的指標として用いることが臨床的に有意義であるとの指摘がなされている。また、より有用な指標物質として天然プテリジンであるオンコプテリンを用いる方法も提案されている(例えば、特開平6−199859号公報参照)。当該方法は、患者から採取した尿を酸で加水分解処理して得た検体試料をHPLC分析に供し、その検体中のオンコプテリンを選択的に分離して定量する方法である。
すなわち、(i)検体試料をアニオン交換カラムに通じ、洗浄後、電解質溶液で溶出し、(ii)溶出液をカチオン交換カラムに通じ、洗浄後、酸性溶液で溶出し、必要に応じて逆相カラムにかけてオンコプテリンを単離し、(iii)その溶出液中のオンコプテリンに起因する蛍光発光強度を測定し、(iv)その強度から検量線を用いてオンコプテリン含有量を算出する。
そして、このような分析操作を、悪性腫瘍の疑われる被験者及び健常者(悪性腫瘍等の疑われる疾患を有していないヒト;以下同様)の尿検体に対して実施し、被験者の尿中のオンコプテリン含有量が健常者のそれよりも有意に多いときに、悪性腫瘍又はその可能性があるとの判定をなし得る。
ところで、悪性腫瘍患者の尿中には、上述したように悪性腫瘍特有の種々の有機物が含まれ、また多数の未知の物質も含まれている可能性が多分にある。これらの有機物の多くは、自家蛍光成分であると考えられる。これに対し、上記従来の方法は、尿検体中のオンコプテリンを単離してそれから発せられる蛍光のみを測定する方法であって、換言すれば、疾患を判定するための指標物質として一種のみを用いる方法である。
しかし、かかる方法を用いると、尿中に含まれ得る他の自家蛍光物質の情報が全く得られない。そのため、場合によっては、判定精度・確度が不十分となり、臨床上の診断方法としては不十分なおそれがある。具体的には、感度(疾患を疾患と判定する割合)又は特異度(非疾患を非疾患と判定する割合)が不都合に低下するおそれ、逆に言えば、偽陰性率(疾患であるのに疾患ではないと診断される率)又は偽陽性率(疾患でないのに疾患であると診断される率)が不都合に高まるおそれがある。さらに、オンコプテリンのみを指標物質とするので、種々のガン判定に対する汎用性又は適合性が不十分となり得る。また、尿の前処理で生じ得る希釈誤差や化学分離に起因する化学収率誤差の影響を受けて判定精度が低下するおそれもある。
また、尿検体を前処理するだけでなく、その検体試料を更にHPLCに供し、複数のカラム操作を行った後に蛍光測定を実施するので、判定作業に掛かる手間と時間が増大してしまう傾向にある。しかも、オンコプテリン含有量の絶対値測定を行うが故に蛍光測定系毎に検量線作成が必要となる可能性も高い。かかる作業を考慮すると、判定作業に総合的に要する時間と手間が更に増大してしまう傾向にある。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、生体からの検体を用いて特定の疾患を判定するに際し、その判定精度を向上できると共に、種々の疾患の判定に適用でき、しかも、判定作業を迅速化できる疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、健常者及び悪性腫瘍患者の生体試料、特に尿検体を用いて鋭意研究を重ねた結果、特定の化学成分を単離して定性・定量しなくとも、その尿検体が帰属する生体に悪性腫瘍が存在するか否かを簡便に且つ高い精度で弁別可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明による疾患判定方法は、生体試料から成る検体を用いて疾患を判定する方法であって、検体に酸又はアルカリを添加して加熱する前処理工程と、検体に励起光を照射し且つ励起光の波長を連続的又は断続的に変化させる励起光照射工程と、励起光に起因して検体から発せられる出射光の波長及び強度を計測する出射光計測工程と、励起光の波長、出射光の波長、及び出射光の強度から構成される三次元光スペクトルにおける特異点を検出し、その特異点の属性に基づいて検体の分類又は階層化を行う解析・分類工程と、検体の分類又は階層化結果に基づいて、その検体が帰属する生体における特定の疾患の有無又は疾患の状態(種類、程度、進行度、緊急度等)を判定する判定工程と、を備える。
また、本発明による疾患判定用データ生成方法は、被験者の生体から採取された検体を用いて疾患判定用データを生成する方法であって、検体に酸又はアルカリを添加して加熱する前処理工程と、検体に励起光を照射し且つ該励起光の波長を連続的又は断続的に変化させる励起光照射工程と、励起光に起因して検体から発せられる出射光の波長及び強度を計測する出射光計測工程と、励起光の波長、出射光の波長、及び該出射光の強度から構成される三次元光スペクトルにおける特異点を検出し、該特異点の属性に基づいて検体の分類又は階層化を行って疾患判定用の分類データを生成する解析・分類工程と、を備える。
本発明による疾患判定用データ生成装置は、被験者の生体から採取された検体を分析して疾患判定用データを生成する装置であって、検体に励起光を照射し且つ該励起光の波長を連続的又は断続的に変化させる励起光照射手段と、励起光に起因して検体から発せられる出射光の波長及び強度を計測する出射光計測手段と、励起光の波長、出射光の波長、及び該出射光の強度から構成される三次元光スペクトルにおける特異点を検出し、該特異点の属性に基づいて検体の分類又は階層化を行って疾患判定用の分類データを生成する解析・分類手段と、を備える。
このような構成の疾患判定方法、及び、疾患判定用データ生成方法、では、ヒト等の生体から採取された検体を前処理工程において酸又はアルカリで加熱処理することにより、検体に含まれる生化学成分の一部又は全部が加水分解等の化学変化を生じ得る。そして、本発明の疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置において、こうして前処理された検体に対して、種々の所定波長を有する励起光を照射すると、生化学成分のうち自家発光物質の分子が励起され、その電子遷移に固有な波長を有する光(主として蛍光)が放出される。
こうして検体から発せられる出射光の波長及び強度は、検体中の自家発光成分の種類及び含有量、並びに励起光の波長及び強度に依存して変化し、出射光計測工程や出射光計測手段において、その波長及び強度が測定される。すなわち、照射される励起光の波長に対して出射光の波長及び強度が計測されるスペクトロメトリが実施され、三次元光スペクトルが得られる。
次に、解析・分類工程、及び、解析・分類手段では、得られた三次元光スペクトルの結果に基づいて、励起光波長、出射光波長、及び出射光強度を系成分とする三次元座標系における特異点、例えば、出射光強度が周囲に比して大きい部位(具体的には、ピーク位置、極大値位置等を例示できる。)が検出され、例えばその波長座標によって特異点が特定される。それから、解析・分類工程、及び、解析・分類手段では、特異点(複数ある場合には各特異点)の属性情報を基に、対応する検体が所定のグループに分類又は階層分けされる。
ここで、特異点の属性とは、例えば特異点の波長座標、特異点の数、特異点における出射光の強度、特異点の周辺における出射光強度の変化割合、三次元光スペクトルの全体形状(近似関数形、一次微分や二次微分値の変化、極大ピークの半値幅や十分の一幅、ピーク対称性等)が挙げられ、解析・分類工程や解析・分類手段においては、これらのうち少なくともいずれか一つのパラメータによって特異点の属性を決定すると好適である。なお、属性としての「特異点の数」は、特異点が0の場合と特異点が1以上ある場合とを含む概念、すなわち、「特異点の有無」を含むパラメータである。
本発明者らは、多数の尿検体(疾患の有無が既知の検体)について得られた種々の三次元光スペクトルに顕れた特異点について、これらのパラメータを適用して属性を決定した。そして、同等の属性を有する特異点を示した尿検体を同一の検体グループに分類したところ、健常者の検体と患者の検体とを高感度に弁別(差別化)できることが判明した。すなわち、被験者の検体の特異点の属性に基づいて、被験者の検体を、健常者である可能性の高い生体に係る検体と、疾患を有する可能性が高い生体に係る検体とに分類することができる。また、これらの属性決定用パラメータは、互いに独立なパラメータであるため、これらのパラメータを適宜の順序で特異点の弁別に使用することにより、検体の系統的な階層分類が実現される。
そして、判定工程において、その分類又は階層化結果に基づいて、その検体が帰属する生体が特定の疾患を有するか否か、或いは有するとすればその疾患の状態について判定が行われる。つまり、本発明の疾患判定方法、及び、疾患判定用データ生成方法によれば、尿検体中の特定成分を、化学的に単離したり、或いは出射光の波長及び強度から定性・定量したりすることなしに、疾患判定に用いるための疾患判定用データとしての検体の分類又は階層化結果が得られるので、これに基づいて悪性腫瘍等の特定の疾患について簡便な判定が行われる。
また、本発明の疾患判定用データ生成装置によれば、上述のような疾患判定に用いることのできる疾患判定用の分類又は階層化の結果が好適に得られる。
ここで、本発明で使用できる検体としては、血清、血漿、尿、髄液、羊水、腹水、リンパ液等の通常の体外診断において採取される全ての生体試料、さらに組織や細胞の溶媒等による洗浄液及び抽出液等が挙げられ、それらのなかでも、尿及び血清が好ましく使われる。これらの内、採血と異なり痛みを伴わずに採取される点、及び出射光の計測による三次元スペクトロメトリの成立性が高く本発明に適している点より、尿を用いると特に好ましい。
また、出射光の強度を、ある励起光波長及び出射光波長における出射光強度で規格化するといったデータ補正を行うことが望ましい。こうすれば、検体が複数あるときに、検体間で出射光の強度比較を行う際に、各個人の生理的変動に伴う蛍光測定試料中の検体濃度の相違を相殺することができる。また、かかる補正方法は、これに制限されず、例えば、同一尿中に含まれるクレアチニン等の既知物質の濃度で規格化するといった手法を採用してもよい。
また、上述の如く、検体からの出射光は主として自家発光成分に起因すると考えられるため、出射光として蛍光を計測することが望ましい。さらに、励起光照射工程や励起光照射手段においては、励起光として好ましくは200〜900nm、より好ましくは300〜600nmの範囲内のいずれかの波長を有する光を用い、出射光計測工程や出射光計測手段においては、出射光として好ましくは200〜900nm、より好ましくは350〜600nmの範囲内のいずれかの波長を有する光を計測すると有用である。
またさらに、前処理工程を実施した後に検体の液性を調整する液性調整工程を更に備えると好ましく、その液性調整工程においては、検体の液性を酸性、アルカリ性、及び、中性又は略中性のうちから任意に選択し、その選択した液性となるように検体に酸、アルカリ、又は緩衝剤を添加すると一層好ましい。
本発明者らの知見によれば、前処理工程を施しただけで励起光を照射しても自家発光が有意に観測されなかった尿検体の液性をアルカリ性(pH領域のアルカリ性又はpH領域を超えるようなより高いアルカリ濃度)となるように調整したところ、自家発光が顕著に観測されることがあった。また、他の尿検体のなかには、アルカリ性としたとき、酸性にしたとき、中性又は略中性にしたときで、自家発光による出射光の波長や強度が変化するものも認められた。これらより、前処理工程を施した尿検体に更に液性調整を施すこと、及び、その液性を適宜選択することの有用性が確認された。例えば、前処理工程のみを実施した検体を用いても疾患の弁別が困難なときに、その検体を適宜、アルカリ性、中性又は略中性、酸性へと変化させ、それらの三次元スペクトロメトリで得られた各結果を複合的且つ相補的に用いると有用な場合がある。
さらにまた、尿検体には疾患に起因する固有の自家発光成分が多種存在すると考えられ、それらのなかで分子骨格が共通するものは発光波長が近似すると想定される。この場合、三次元光スペクトルにおいては、かかる自家発光成分又はその群からの特定波長の発光ピークが観測され得る。そこで、解析・分類工程、及び、解析・分類手段においては、三次元光スペクトルにおける出射光の強度の極大ピークを特異点とすることが好ましい。また、特異点として、三次元光スペクトルにおける出射光の強度の極小ピークや、三次元光スペクトルにおける出射光強度の極大ピーク値の1/nの強度の点(ここで、n>1)を採用することも好ましい。
ただし、自家発光成分の官能基の相違によるピークシフト、発光過程における緩和、自家発光の試料内における非弾性散乱等に起因して、三次元光スペクトル中にシャープな発光ピークが認められない可能性がある。そこで、上述したように、解析・分類工程や解析・分類手段においては、三次元座標系における出射光の強度が周囲から有意に突出した励起光及び出射光の波長座標を特定するとより好適である。こうすれば、一般のスペクトロメトリで用いられるピーク解析に多用されるような関数フィッティングの適用が困難な場合、例えば出射光の強度分布が関数近似できない程にブロード又は非対称な場合でも、特異点を検出・特定し易くなる。
具体的には、解析・分類工程においては、三次元座標系における数値マトリックス、等高線図、又はベクトル線図から成る特異点検出用マップを作成し、その特異点検出用マップに基づいて特異点を特定すると好適である。
ここで、「数値マトリックス」の例としては、二次元マトリックスの一方要素(例えば‘行’)を励起光波長とし且つ他方要素(例えば‘列’)を出射光波長とし、その行列成分として出射光強度の数値を有する行列が挙げられる。これを用いると、例えば、3×3のマトリックス上で周囲の複数(例えば8つ)の行列成分より数値が大きい位置(波長座標)に特異点が存在すると特定される。
また、「等高線図」の例としては、二次元座標の一方軸を励起光波長とし且つ他方軸を出射光波長とし、出射光強度の等しい座標を結んでできる平面線図が挙げられる。これを用いると、例えば、閉じた複数の曲線の内部中心又はその付近の位置(波長座標)に特異点が存在すると特定される。
さらに、「ベクトル線図」とは、二次元マトリックスの一方要素(例えば‘行’)を励起光波長とし且つ他方要素(例えば‘列’)を出射光波長とし、その行列成分として出射光強度の増大する方向を有するベクトルを線図で表した行列が挙げられる。これを用いると、例えば、各行列要素のベクトル線が示す方向が交差又は収束する位置(波長座標)に特異点が存在すると特定される。
また、解析・分類工程、及び、解析・分類手段においては、種類の判明している特定の疾患を有する生体からの基準検体を用いて予め検出された特異点の既知の属性と、判定対象の検体に対して得た特異点の属性とを比較して、その比較結果に基づいて検体の分類を行っても好ましい。
こうすれば、例えば特定の疾患のうち更に疾患部位の異なる検体毎に得られた三次元光スペクトルに顕れた特異点の属性を予め用意しておき、その既知の特異点の属性と、被験者の検体に対して検出される特異点の属性を直接的に対比することにより、検体のより詳細な分類を迅速に実施できる。
特に、健常な生体から採取された検体の三次元光スペクトルと、種類の判明している疾患を有する生体から採取された検体の三次元光スペクトルと、の比較に基づいて、健常な生体の検体と、この疾患を有する検体と、を弁別するための基準となる既知の特異点の属性を予め生成する基準データ生成工程や、基準データ生成手段を有することが好ましい。
これによれば、検体を分類するための基準データとして、疾患を有する生体の検体のみに特異的に現れる特異点の属性又は特異点の属性の組み合わせ等を容易に生成できる。したがって、判定対象の被験者の検体に対して得た特異点の属性を、上述のように取得された既知の特異点の属性と比較することにより、被験者の検体を健常な生体あるいは特定の疾患を有する生体に対応させて容易に分類することができる。また、このような比較によれば、さらに、一つの疾患に対して、弁別に適した複数の特異点の属性を得、これらを組み合わせて被験者の検体と比較することができ、被験者の検体の階層的な分類がさらに容易となる。したがって、被験者の検体について高精度の疾患判定を可能とする分類又は階層化結果を生成することができる。
また、本発明は、特定の疾患が悪性腫瘍である場合に特に有用である。この場合、液性調整工程においては、検体の液性をアルカリ性に保持することが特に望ましい。
図1は、本発明による疾患判定方法等の好適な第一実施形態を実施する手順を示すフロー図である。
図2は、図1のステップSP5における好適な一実施形態の実施手順(スキーム)を示すフロー図である。
図3は、数値マトリックスから成る特異点検出用マップの一例を示す模式図である。
図4は、等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す模式図である。
図5は、ベクトル線図から成る特異点検出用マップの一例を示す模式図である。
図6は、本発明の第二実施形態に係る疾患判定用データ生成装置を示すブロック図である。
図7は、第二実施形態における既知の特異点の属性を取得する手順を示すフロー図である。
図8は、図7におけるステップSP25における好適な一実施形態の実施手順(スキーム)を示すフロー図である。
図9は、第二実施形態における疾患を判定する手順を示すフロー図である。
図10は、図9におけるステップSP35における好適な一実施形態の実施手順(スキーム)を示すフロー図である。
図11は、等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す。
図12は、等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す。
図13は、等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す。
図14は、等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す。
図15は、実施例4において、悪性腫瘍患者について各座標ごとに当該座標においてピークが検出された検体数を示した図である。
図16は、実施例4において、健常者について各座標ごとに当該座標においてピークが検出された検体数を示した図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<第一実施形態>
図1は、本発明による疾患判定方法、及び、疾患判定用データ生成方法の好適な第一実施形態を実施する手順を示すフロー図である。
(尿検体の前処理)
まず、被験者の尿を採取し、尿検体を準備する(ステップSP1)。次いで、尿検体を遠心分離等によって微細な固形分と液分とに分離し、上澄み液を収集する。この上澄み液をネジ付き試験管等の密閉圧力容器に入れ、これに塩酸等の酸を加えて混合し、これを一定温度に加熱しながら一定時間保持することにより、尿検体の上澄み液の酸・加熱処理を行う(ステップSP2;前処理工程)。これにより、上澄み液に含まれる生化学成分の一部又は全部が加水分解等の化学変化を生じ得る。
ここで、酸の使用量としては、上澄み液1質量部に対して、例えば6mol/L(リットル;以下同様)の塩酸を好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜5質量部を用いることができる。また、前処理工程における加熱温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは100〜160℃とされ、加熱時間は、0.5〜5時間であると好ましく、0.7〜2時間であるとより好ましい。
(尿検体の液性調整)
次に、前処理工程が終了した後、上澄み液を室温に冷却し、一定量の水酸化ナトリウム溶液で適宜希釈し、液性がアルカリ性となるように調整し、蛍光測定用試料を作成する(ステップSP3;液性調整工程)。このとき、アルカリ濃度は特に制限されず、pH領域の液性(アルカリ性)となっても構わないが、調整の容易さの観点より、例えば水酸化ナトリウムを用いた場合にOHイオン濃度が0.01〜2mol/L程度となるようにすると好ましく、より好ましくは0.1〜2mol/L程度とされる。
(尿検体の蛍光測定)
次いで、石英セル等の蛍光測定用容器に蛍光測定用試料の一定量を入れ、一般に使用される蛍光光度計に収容する。そして、その蛍光測定用試料に所定波長の励起光を照射し(励起光照射工程)、その際に試料から発せられる所定波長の蛍光強度を計測する(出射光計測工程)。これにより、励起光波長、蛍光波長、及び蛍光強度の三次元蛍光スペクトル(三次元光スペクトル)を得る(ステップSP4)。なお、蛍光測定に際しては、試料温度を例えば室温で一定に保持することが望ましい。
このとき、励起光としては、好ましくは200〜900nm、より好ましくは300〜600nmの波長の光を連続的に波長走査して照射すると好適である。これは、上記波長範囲が尿検体に含まれる自家発光成分を一光子励起するのに好適なためである。また、サンプルのより少ないダメージを考慮して、二光子励起させる場合には、より長波長の光を利用することも可能である。その際の励起光としては、好ましくは400〜1800nm、より好ましくは600〜1200nmの波長の光を連続的に波長走査して照射すると好適である。
一方、計測する蛍光の波長範囲としては、好ましくは200〜900nm、より好ましくは350〜600nmであると好適である。これは、上記好適な波長範囲の励起光による一光子励起に対応する波長であると共に、こうすれば、尿検体に含まれる自家発光成分からの蛍光波長を十分にカバーできる。
(データ解析)
次に、得られた三次元蛍光スペクトルのデータ解析を実施する(ステップSP5;解析・分類工程)。図2は、主としてステップSP5における好適な一実施形態を実施する手順(スキーム)を示すフロー図である。ステップSP5においては、まず、形状認識ソフトウェアといった公知のパターン認識手法で認識する(ステップSP51)。具体的には、三次元蛍光スペクトルにおいて蛍光強度が周囲に比して高い部位が存在するか否か、つまり特異点の有無についての予備的な検査を行う。
次に、ステップSP51において、引き続き三次元スペクトルデータの加工を行う。これは、ステップSP52以降で実施する特異点の検出を行うための処理である。すなわち、三次元スペクトルの三次元座標系(励起光波長、蛍光波長、及び蛍光強度からなる系)における(1)数値マトリックス、(2)等高線図、又は(3)ベクトル線図から成る特異点検出用マップを作成する。
ここで、図3は、数値マトリックスから成る特異点検出用マップの一例を示す模式図であり、図4は、等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す模式図であり、図5は、ベクトル線図から成る特異点検出用マップの一例を示す模式図である。
図3に示す特異点検出用マップは、行要素及び列要素をそれぞれ励起光波長Ex(nm)及び蛍光波長Em(nm)(共に10nm毎)とする行列の各成分に当該波長座標に対応して計測された蛍光強度の積算値、平均値、又は代表値が表記された6×5の二次元マトリックスである。この例では、マトリックス上で周囲の複数の行列成分より数値が大きい極大値が存在し、その波長座標は、図中Pで示す位置、つまり励起光波長Exが320〜330nm(中間値で示すならば325nm)で且つ蛍光波長Emが370nmである(以下、波長座標を「Ex/Em=325nm/370nm」のように記す。)。そして、この極大ピークPが特異点として特定される(ステップSP52)。
図4に示す特異点検出用マップは、図示縦軸を励起光波長Exとし且つ図示横軸を蛍光波長Emとする平面座標系において、蛍光強度が等しいと認められる座標を実線で結んで描画した等高線を表す平面線図である。説明を容易にするため、ここでは、図3に示すマトリックスの数値データを基に作成した等高線図の例を示す。この例では、閉じた複数の曲線の内部中心又はその付近、すなわちEx/Em=325nm/370nmに極大ピークPが存在し、それが特異点として特定される(ステップSP52)。
図5に示す特異点検出用マップは、図3に示すマップと同様に構成したマトリックスの行列成分として、図示直線矢印で示すベクトル線が記入された6×5の二次元マトリックスで表されたベクトル線図である。説明を容易にするため、ここでは、図3に示すマトリックスの数値データを基に作成したベクトル線図の例を示す。各ベクトル線は、三次元スペクトルの形状における蛍光強度の増大方向又は減少方向を平面的に表すものであり、図4に示すような等高線図の傾斜方向を表すものでもある。この例では、各ベクトル線が指し示す方向の延長線が交差する位置、すなわちEx/Em=325nm/370nmに極大ピークPが存在し、それが特異点として特定される(ステップSP52)。
次に、その特異点の属性を決定し、その属性に基づいて特異点の弁別又はグループ分けを行う。特異点の属性とは、特異点の波長座標(励起光波長Ex/蛍光波長Em)、特異点の数、特異点における蛍光強度、特異点の周辺における蛍光強度の変化割合、三次元蛍光スペクトルの全体形状(近似関数形、一次微分や二次微分値の変化、極大ピークの半値幅や十分の一幅、ピーク対称性等)が挙げられる。先に図3〜図5に示した特異点検出用マップで特定された特異点としての極大ピークPを例にとると、その属性は、波長座標Ex/Em=325nm/370nm、ピーク数=1、蛍光強度=約2000、特異点の周辺における蛍光強度の変化割合=図4に示す等高線図の等高線間隔となる。
このように決定された特異点の属性に基づいて、図2に示すステップSP53では、特異点の数及びその波長座標によって、ある被験者の尿検体に対して特定された特異点と、健常者の尿検体に対して予め特定された特異点との弁別を行う。具体的には、例えば被験者の尿検体で認められる極大ピーク数、及び/又はそのピーク位置(波長座標)が健常者のそれらと異なる場合には、属性の弁別が可能であり、後述するステップSP56へ移行する。それ以外の場合は、特異点の数及びその波長座標による弁別が不能であり、ステップSP54へ処理を移行する。
次いで、ステップSP54では、特異点における蛍光強度によって両者の弁別を行う。具体的には、極大ピークの数とピーク位置が同等であっても、両者の極大ピークにおける蛍光強度が有意に異なる場合には、属性の弁別が可能であり、後述するステップSP56へ移行する。それ以外の場合は、特異点の数、その波長座標、及びその蛍光強度による弁別が不能であり、ステップSP55へ処理を移行する。
次に、ステップSP55では、特異点近傍の蛍光強度の変化割合、或いは三次元蛍光スペクトルの全体形状によって、両者の弁別を行う。具体的には、極大ピークの数、ピーク位置及びピークの蛍光強度が同等であっても、例えば、図4に示すような等高線図の等高線間隔やパターンにおいて有意な差異が認められる場合には、属性の弁別が可能であり、後述するステップSP56へ移行する。それ以外の場合は、特異点の数、その波長座標、その蛍光強度及び蛍光強度の変化割合等による弁別が不能であり、処理を中止して図1に示すステップSP2を施した尿検体の上澄み液に対し、液性がアルカリ性になるように調整した先ほどのステップSP3に代わって、酸又は緩衝溶液(剤)を用いて液性を酸性または中性若しくは略中性に調整する液性調整処理を施して、再度ステップSP4以降の処理を行うか、或いは後述するステップSP56を飛び越してステップSP6へ処理を移行する。なお、図2においては後者の場合のみ図示した。
こうして特異点の属性の弁別が行われた尿検体は、ステップSP53〜SP55の段階的な弁別スキームに応じて、ステップSP56においてグループ化(分類)及びレベル化(階層化)が行われる。このグループ化やレベル化の結果が疾患判定用データに対応する。なお、ステップSP1〜SP5までが疾患判定用データ生成方法に対応する。また、ステップSP55からステップSP56を飛び越してステップ6へ移行することは、被験者の検体が健常者と同一であると分類されたことを意味する。
そして、各尿検体の属するグループ及びレベルに応じて、その尿検体が帰属する被験者(生体)に悪性腫瘍等の疾患が存在するか否か、或いは、疾患が存在する場合その状態は如何なるものかといった判定を実施する(ステップSP6;判定工程)。
このような本発明の疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法によれば、尿検体に含有する特定の生化学的指標物質のみを定性・定量するのではなく、前処理を施しただけで化学分離等が行われていない状態の尿検体に励起光を照射し、これにより発せられる蛍光成分を非選択的に測定し、その結果に基づいてデータ解析を行うので、尿検体から得られる情報量が飛躍的に増大する。よって、疾患判定の感度並びに精度及び確度を向上できる。
また、このようにして疾患判定の感度並びに精度及び確度が向上されるので、本発明による疾患判定方法は、疾患検出のための一次スクリーニング、特に悪性腫瘍の早期発見に極めて有用である。そして、本発明の疾患判定方法を用いて診断できる原発性又は転移性悪性腫瘍は、極めて多様であり、以下に例示するものをその代表的なものとして挙げることができる。すなわち、乳ガン、前立腺ガン、肝臓ガン、肺ガン、結腸直腸ガン、胃ガン、膵臓ガン、膀胱ガン、頭頚部ガン、腎臓ガン、子宮頸ガン、子宮体ガン、甲状腺ガン、脳腫瘍、舌ガン、リンパ腫、多発性骨髄腫、黒色腫、白血病等である。本発明の疾患判定方法によれば、これらの悪性腫瘍を、種々の進行段階、特に、第一期の段階で判定可能であり、例えば、スクリーニング対象の被験者中の良性腫瘍の存在や悪性腫瘍の不在に対して、悪性腫瘍を十分な識別力で判定できる。
さらに、従来の尿分析を用いた疾患判定は、尿に含まれる生化学的指標物質の含有量の絶対値により疾患を検出する手法であり、検体の前処理における希釈操作で生じる希釈誤差や化学収率の誤差の影響で判定精度が低下するおそれがあったのに対し、本発明では、極大ピークの数、その蛍光強度、三次元スペクトルの形状等を相対的に比較する手法を用いるので、尿中の生化学的指標物質の絶対量に依存しない判定が可能である。よって、希釈誤差や化学収率の誤差が解消され、判定精度を一層向上できる。
加えて、偽陰性率又は偽陽性率を十分に低下させることができ、誤診断が低減される。よって、別の臨床検査と組み合わせてより詳細な検査を行う際に、被験者の負担及び後続の検査負担の軽減に貢献することもできる。また、尿検体に含まれ得る種々の生化学的指標物質の自家発光に起因すると考えられる蛍光を計測し、得られた三次元蛍光スペクトルに認められる特異点を適宜抽出するので、疾患の種類に制限されない疾患判定が可能となる。よって、種々の疾患の判定への適合性を高めることができる。さらに、尿検体から特定成分を単離・精製するといった操作が不要なので、判定作業の迅速化を実現できる利点がある。
またさらに、前処理した尿検体を、蛍光計測に適した液性へ調整し、ときには種々の液性に調整した蛍光測定試料の計測結果を相補的に使用するので、疾患判定の感度並びに確度を更に向上させることができる。さらにまた、特異点の検出を行う際に特異点検出用マップを用いると、三次元蛍光スペクトルの傾向が種々異なる場合にも、特異点の特定が簡易且つ確実となる。加えて、特異点の属性による段階的な弁別を行い、その結果に基づくグループ化やレベル化による検体の分類・階層化を行うので、漏れのない疾患判定が可能となる。
<第2実施形態>
続いて第2実施形態に係る疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置について説明する。
まず、本実施形態が第一実施形態と異なる主な点を以下に説明する。第一実施形態では、予め取得された健常者の検体についての特異点の属性と、被験者の検体についての特異点の属性と、を比較して分類や階層化の結果である疾患判定用データを生成している。
一方、本実施形態では、種々の疾病の患者、たとえば、胃ガン患者、大腸ガン患者等の検体にそれぞれ特異的に現れる特異点の属性やその組み合わせをあらかじめそれぞれの疾病毎に基準データとして格納しておき、各疾病患者の検体に特異的に現れる既知の特異点の属性やこの属性の組み合わせと、被験者の検体について検出された特異点の属性とを比較することにより、被験者の検体の分類結果や階層化結果である疾患判定用データを生成する。また、本実施形態では、疾患判定用データ生成装置500を利用して疾患判定用データを取得している。
(疾患判定用データ生成装置)
まず、疾患判定用データの生成を好適に行うことのできる疾患判定用データ生成装置500について説明する。
本実施形態に係る疾患判定用データ生成装置500は、石英セル等の透明容器502内の尿検体501に対して前処理や液性調節を行う前処理部544と、前処理等された透明容器502内の尿検体501に対して励起光を照射する励起光照射部504と、透明容器502内の尿検体501から出射される蛍光を計測する出射光計測部506と、蛍光計測結果の処理等を行うコンピュータ装置510と、を備えている。
前処理部544は、尿検体501を貯留する透明容器502に対して酸、アルカリ、緩衝剤等を供給する酸・アルカリ供給部540と、透明容器502内の尿検体501を加熱する加熱部542を有している。この前処理部544は、尿検体501に酸やアルカリ等を加えて加熱することにより尿検体中の生化学成分の一部又は全部に対して加水分解等の化学変化を生じさせる。また、この前処理部544は、この前処理後の尿検体501に対して、さらに、酸やアルカリさらには緩衝剤等を投入して液性の調節を行う。
励起光照射部(励起光照射手段)504は、尿検体501が含まれる透明容器502に対して、励起光を、その波長が連続的に変化するようにして出射する。ここで、励起光照射部504は、尿検体に含まれる自家発光成分を一光子励起すべく200〜900nmの波長を連続的に波長走査して照射することが好ましく、300〜600nmの波長の光を連続的に波長走査して照射することがより好ましい。また、サンプルのより少ないダメージを考慮して、二光子励起させる場合には、より長波長の光を利用することも可能であり、励起光照射部504は、400〜1800nmの波長の光を連続的に波長走査して照射することが好ましく、600〜1200nmの波長の光を連続的に波長走査して照射することがより好ましい。なお、励起光照射部504が連続的に波長走査しない場合には、例えば、波長を断続的に変化させても良い。
出射光計測部506は、励起光が照射されることによって尿検体501から発せられる蛍光を検出し、その強度を計測する。出射光計測部506が、計測する蛍光の波長範囲としては、好ましくは200〜900nm、より好ましくは350〜600nmであると好適である。これは、上記好適な波長範囲の励起光による一光子励起に対応する波長であると共に、こうすれば、尿検体501に含まれる自家発光成分からの蛍光波長を十分にカバーできる。
コンピュータ装置510は、励起光照射部504や出射光計測部506や前処理部544を制御するコントローラ512、出射光計測部506からのデータを加工する加工部514、加工されたデータから特異点を抽出する特異点抽出部516、特異点の属性を抽出する属性抽出部518、抽出された属性に基づいて被験者の検体の分類や階層化をする分類・階層化部520、分類や階層化の結果を出力する出力部522、分類・階層化部520における分類や階層化に使用する基準用データとしての既知の特異点の属性を生成する基準データ生成部524、及び、既知の特異点の属性を格納する格納部526の機能を、CPUやメモリ等の周知のハードウエア及びこのCPUによって実行されるソフトウエアを用いて実現する装置である。
コントローラ512は、励起光の波長の走査の態様や励起光を照射するタイミング等を指示すべく励起光照射部504を制御すると共に、出射光計測部506がこの励起光照射部504による出射の開始に連動して蛍光の計測を行うように出射光計測部506を制御する。また、コントローラ512は、蛍光の計測に先立って、前処理部544を制御して、尿検体501に対して所望の前処理や液性調節を行う。前処理や液性調節の詳細は、第一実施形態と同様である。
加工部514は、励起光照射部504から励起光波長の走査のデータを取得すると共に、出射光計測部506から、当該励起光による励起に応じて検出した蛍光波長及び蛍光強度のデータを取得し、励起光波長、蛍光波長及び蛍光強度の三次元蛍光スペクトル(三次元光スペクトル)のデータを得る。また、加工部514は、三次元蛍光スペクトルの蛍光強度を、ある励起光波長及び蛍光波長における蛍光強度で規格化するといったデータ補正を行う。これにより、検体が複数あるときに、検体間で蛍光の強度比較を行う際に、各個人の生理的変動に伴う蛍光測定試料中の検体濃度の相違を相殺することができる。また、かかる補正方法は、これに制限されず、例えば、同一尿中に含まれるクレアチニン等の既知物質の濃度で規格化するといった手法を採用してもよい。また、加工部514では、必要に応じて形状認識ソフトウエア等で特異点の有無についての予備的な検査を行ってもよい。
特異点抽出部516は、加工部514で加工された三次元蛍光スペクトルから特異点を抽出する。ここでは、特異点として、三次元蛍光スペクトルにおける蛍光強度の極大ピークを取得するが、蛍光強度の極小ピークを取得しても良い。また、蛍光強度の極大ピークのピーク値の1/nの強度の点(ここで、n>1)を特異点として取得しても良い。極大ピーク等の取得方法は特に限定されず、公知の方法が利用でき、例えば、所定の励起光波長及び蛍光波長の範囲ごとに蛍光強度のピークを順次探索し、これを特異点とすればよい。また、公知のカーブフィッテイング法等を用いてもよい。
属性抽出部518は、特異点抽出部516で抽出された特異点の属性を抽出する。ここでは、例えば、特異点の属性とは、特異点の波長座標(励起光波長Ex/蛍光波長Em)、特異点の数、特異点における蛍光強度、特異点の周辺における蛍光強度の変化割合、三次元蛍光スペクトルの全体形状(近似関数形、一次微分や二次微分値の変化、極大ピークの半値幅や十分の一幅、ピーク対称性等)が挙げられる。
基準データ生成部(基準データ生成手段)524は、分類・階層化部520で被験者の検体の弁別に用いるための基準データとしての既知の特異点の属性を予め生成する。具体的には、基準データ生成部524は、属性抽出部518から、健常な生体から採取された基準検体の特異点の属性と、種類の判明している特定の疾患を有する生体から採取された基準検体の特異点の属性とを取得し、これらを比較することにより、健常な生体からの検体と、当該特定の疾患を有する患者の生体からの検体と、を弁別するための既知の特異点の属性を抽出する。
この既知の特異点の属性は、例えば、特定の疾患の生体からの検体に特有に現れる特異点の属性や、特定の疾患の生体からの検体に現れる確率が高い特異点の属性等であり、疾患毎に特異点の属性を複数組み合わせたものでもよい。また、既知の特異点の属性は、各疾患ごと、例えば、胃がん、肺がん等毎に予め取得される。
格納部526は、基準データ生成部524で得られた基準データとしての既知の特異点の属性を格納する。既知の特異点の属性のデータは、例えば、図6のデータD1の様なデータテーブルとして格納されており、肺ガン、大腸ガン、胃ガン等の疾患に対応づけて、既知の特異点の属性が、α及びβ、γ、δ等としてそれぞれ格納されている。
分類・階層化部520は、格納部526から種々の疾病患者に対応する既知の特異点の属性を各々取得すると共に、属性抽出部518から、疾病判定の対象となる被験者の検体についての特異点の属性を取得する。そして、分類・階層化部520は、被験者の検体の特異点の属性と、既知の特異点の属性とを比較し、被験者の検体を分類又は階層化し、疾患判定用データとしての分類結果や、階層化結果を生成する。具体的には、被験者の検体の特異点の属性において、既知の特異点の属性と該当するものがあれば、被験者の検体を当該既知の特異点の属性を有するグループに分類し、分類結果を生成する。一方、被験者の検体の特異点の属性に、既知の特異点と該当するものがなければ、該当なしのグループに分類し分類結果を生成する。また、既知の特異点の属性が複数ある場合、被験者の特異点の属性が、既知の特異点の属性といくつ該当するかに応じて、分類の階層化を行って階層化データを生成する。
本実施形態においては、特異点抽出部516、属性抽出部518、及び、分類・階層化部520が、解析・分類手段に対応する。
出力部522は、この分類結果や階層化結果をプリンターや、ディスプレイといった出力装置に出力する。出力される分類データや階層化データは、例えば、図6のデータD2の様なデータであり、被験者の各検体が、α及びβを有するグループ(肺ガンに極めてよく対応)、αのみを有するグループ(肺ガンにやや対応)、いずれも有さないグループ(健常者に対応)、γを有するグループ(大腸ガンに対応)等に分類、階層化されている。
(疾患判定の手順)
続いて、疾患判定用データ生成装置500を用いて、本実施形態に係る疾患判定方法、及び、疾患判定用データ生成方法を実行する手順について図7〜図10を参照して説明する。まず、被検者の疾患を判定するのに先立って、各疾患に対して特異的に表れる特異点の属性やその組み合わせを、既知の特異点の属性として取得し格納する。
(既知の特異点の取得)
まず、図7に示すように、ステップSP21では、健常な生体から採取された尿検体及び種類の判明している腫瘍を有する生体から採取された尿検体を準備し、固体分を除去して上澄み液を得る。ここで、種類の判明している腫瘍とは、例えば、胃がん、肺がん等であり、疾患毎に尿検体の準備をする。そして、ステップSP2〜SP4において、第一実施形態と同様に、各尿検体について、上澄み液の酸・加熱処理をし、液性調節をし、蛍光測定を各々行う。酸・加熱処理や液性調節は、疾患判定用データ生成装置500の前処理部544及びコントローラ512によって行われる。また、蛍光測定は、疾患判定用データ生成装置500の励起光照射部504、出射光計測部506、コントローラ512によって行われる。
続いて、ステップSP25のデータ解析工程に進む。ステップSP25では、図8に示すように、まず、ステップSP251において、健常な生体の尿検体及び腫瘍を有する生体の尿検体について三次元蛍光スペクトルのデータを各々取得すると共に各三次元蛍光スペクトルに対して規格化等のデータの補正等を加工部514で各々行う。
その後、ステップSP252において、各三次元蛍光スペクトルについてそれぞれ特異点の検出を、第一実施形態のステップSP52と同様にして、特異点抽出部516で行う。
さらに、ステップSP253では、各三次元蛍光スペクトルの特異点それぞれについて、特異点の属性を属性抽出部518で抽出する。
続いて、ステップSP254〜SP256においては、健常な生体の尿検体の特異点の属性と、種類の判明している腫瘍を有する生体の尿検体の特異点の属性とを比較し、健常な生体と、腫瘍を有する生体とを弁別可能な基準データとして用いることのできる既知の特異点の属性を、基準データ生成部524で生成する。
具体的には、ステップSP254では、特異点の属性として、特異点の数及びこれらの特異点の波長座標に着目し、健常な生体の尿検体に係る特異点の属性と、種類の判明している腫瘍を有する生体の尿検体に係る特異点の属性との間で、特異点の数及び特異点の波長座標が一致するか否かを判断する。
また、ステップSP255では、特異点の属性として、健常な生体の尿検体、及び、種類の判明している腫瘍を有する尿検体に共通に顕れる波長座標を有する特異点の蛍光強度に着目し、健常な生体の尿検体に係るその特異点と、種類の判明している腫瘍を有する生体の尿検体に係る特異点とで、蛍光強度が一致するか否かを判断する。
さらに、ステップSP256では、特異点の属性として、健常な生体の尿検体と、種類の判明している腫瘍を有する尿検体とに共通に顕れる特異点近傍での蛍光強度の変化割合に着目し、健常な生体の尿検体に係るその特異点近傍と、種類の判明している腫瘍を有する生体の尿検体に係る特異点近傍との間で、蛍光強度の変化割合が一致するか否かを判断する。
そして、ステップSP257において、ステップSP254〜ステップ256までにおいて得られた判断結果に基づいて、健常者と腫瘍を有する患者とを弁別するのに好ましい尿検体の既知の特異点の属性を各腫瘍の種類毎に取得する。ここで、各腫瘍の種類毎に、特異点の属性を複数取得しても良い。そして、このステップSP257では、このようにして得た各腫瘍を有する生体に対応する既知の特異点の属性、例えば、図6のデータD1を格納部526に記録しておく。
(被験者の検体の分析)
続いて、図9及び図10を参照して、このような既知の特異点の属性と、被験者の特異点の属性とに基づいて被験者の疾患を判定する方法について説明する。
まず、図9に示すように、ステップSP31では、疾患があるか否かを判定したい被験者の尿検体を準備し、固体分を除去して上澄み液を得る。そして、ステップSP2〜4において、図7におけるフローと同様に、尿検体の上澄み液を酸・加熱処理し、液性調製し、蛍光測定を行う。続いて、ステップSP35のデータ解析工程に移る。
ステップSP35では、図10に示すように、まず、ステップSP351において、図8におけるステップ251と同様にして、被験者の生体の尿検体について三次元蛍光スペクトルデータを取得すると共にこの三次元蛍光スペクトルデータに対して規格化等のデータの補正等を加工部514で各々行う。
続いて、ステップSP352では、ステップSP252と同様に被験者の尿検体の三次元光スペクトルについて特異点の検出を行い、ステップSP353ではステップSP253と同様にして、その特異点の属性の抽出を行う。ここでは、特異点の数、特異点の波長座標、特異点の蛍光強度、特異点近傍の蛍光強度の変化割合等を、特異点の属性として抽出する。
そして、ステップSP354において、分類・階層化部520は、各腫瘍を有する生体を弁別するための基準データとして予め格納部526に格納されている既知の特異点の属性と、ステップSP518で抽出された被験者の検体の特異点の属性とを比較し、被験者の特異点の属性がいずれの既知の特異点の属性に該当するのかを判断し、被験者の検体を該当する属性に応じて分類し分類結果を生成する。ここで、一つの腫瘍に関連づけられた既知の特異点の属性が複数ある場合には、どの既知の特異点の属性に該当するか、あるいは、いくつの既知の特異点の属性に該当するかに応じて、被験者の尿検体を階層的に分類(レベル化)化してその階層化結果を生成する。
この後、ステップSP7で、出力部によって、分類結果や階層化結果が、図6のデータD2のように出力され、ステップSP8において、このような分類結果や階層化結果に基づいて、医師等が、被験者が健常であるか特定の腫瘍を有する患者であるかを判断したり、特定の腫瘍である可能性がどの程度あるか等についての判断を行う。
このような実施形態によれば、第一実施形態と同様の作用効果を備えていることに加え、腫瘍を有する生体に関する既知の特異点の属性と、被験者の特異点の属性とを直接比べるので、被験者の分類をより高精度かつ迅速に行える。また、健常な生体の特異点の属性と、種類の判明している腫瘍の生体の特異点の属性とを予め比較しているので、弁別用の既知の特異点の属性を迅速に取得できる。
また、上述の図6のデータD1の肺ガンのように、既知の特異点の属性が二つ(α及びβ)設定されている場合には、これらの一方のみに該当するか、両方に該当するか、に応じて異なるレベルに階層化できるので、疾患の確度の高さを評価することができる。
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〈実施例1〉
本実施例では、特異点の波長座標と特異点の数によって、健常な生体と悪性腫瘍を有する生体とを弁別できるか否かを検討し、既知の特異点の属性の一例を取得した。
(検体の準備)
健常者74名及び悪性腫瘍患者79名から採取した尿検体を併せて153検体準備した。
(尿検体の前処理)
全153検体を3000galで10分間遠心分離した。遠心分離によって得られた尿検体の上澄み液を収集し、その上澄み液の各1mLを、6mol/Lの塩酸2mLを含むネジ付き試験管に封入し、上澄み液成分の加水分解を促進すべく、150℃で1時間加熱処理した。
(尿検体の液性調整)
前処理した尿検体の上澄み液各10μlを2mol/LのNaOH溶液及び2mol/LのHClで個別に10倍に希釈し、各検体についてアルカリ性の液性を有する蛍光測定用試料及び酸性の液性を有する蛍光測定用試料をそれぞれ調整した。
ここで、両液性の蛍光測定用試料を用いて後述する「蛍光計測」と同様にして予備的に三次元蛍光スペクトルを取得したところ、アルカリ性試料の方が健常者の尿検体と悪性腫瘍患者の尿検体との差異が顕著であった。そこで、以下の結果については、アルカリ性試料の結果のみを示すものとする。ただし、上述した実施形態の説明で言及したように、アルカリ性試料のみならず、酸性試料さらには中性試料の蛍光測定は、互いの計測データの解析を補足する意味で非常に有用である。
(蛍光計測)
蛍光計測用の石英セルに液性調整した各蛍光測定用試料を入れ、蛍光光度計((株)日立製作所製;型式F4500)を使用し、波長300〜600nmの励起光を波長走査しながら照射した。そして、試料から出射される波長350〜600nmの蛍光を計測し、三次元蛍光スペクトルを測定した。なお、励起波長及び蛍光波長の走査は、波長10nm間隔で実施した。
(三次元蛍光スペクトルにおける特異点の検出)
各検体について得られた三次元蛍光スペクトルデータから、▲1▼数値データマトリックスから成る特異点検出用マップ、及び▲2▼等高線図から成る特異点検出用マップを作成した。▲1▼については、三次元蛍光スペクトルの予備的なパターン認識において把握された蛍光強度の極大ピーク(以下、単に「極大ピーク」と表記する。)周辺の数値データ配列における特異点の定義を、「3×3行例の計9ピクセル(行列成分)の中心のピクセルが極大となるその波長座標」とし、その関係を満たすものを特異点として特定(抽出)した。
また、▲2▼については、Ex/Em=410nm/450nmにおける蛍光強度が‘1000’となるように、全波長座標の蛍光強度を規格化し、その規格化後の数値データを用いて等高線図を作成した。図11〜図14は、それぞれ等高線図から成る特異点検出用マップの一例を示す。各図において、等高線間隔は規格化後の蛍光強度で200間隔とした。図11及び図12は、特異点としての極大ピークPが一つ検出された尿検体の例であり、図13及び図14は、特異点としての極大ピークPが二つ検出された例である。また、これら図11〜図14に示す等高線図は、それ自体が三次元蛍光スペクトルの全体形状を表すものである。
なお、本実施例においては、Ex/Em=410nm/450nm以外の種々のEx/Emにおける蛍光強度で規格化したマップも作成した。さらに、各尿検体に含まれるクレアチニン濃度を汎用の測定キット(例えば、和光純薬製のLタイプワコー クレアチニンF)で定量し、その濃度で蛍光強度を規格化したマップも作成した。その結果、等高線図形状として、図11〜図14に示すのと同等パターンの等高線図が得られることを確認した。
また、上記▲1▼の数値マトリックスから成る特異点検出用マップを用いても、同じ座標位置に極大ピークが存在することが検出された。ただし、上記▲1▼の数値マトリックスを用いるとバックグラウンドと極大ピークとの弁別性が若干低下するケースがあった。よって、このような場合には、上記▲1▼及び▲2▼の二種類のマップを複合的に用いることにより、特異点検出におけるS/N比つまり検出感度を向上して極大ピークPを確実に特定するのに有利であることが判明した。なお、特異点検出用マップとして▲3▼ベクトル線図から成るものも作成したところ、同様に極大ピークPを検出できることが確認された。
(尿検体の分類・階層化)
上述の如く三次元蛍光スペクトルにおける特異点として検出した極大ピークの属性を特定し、各尿検体をグループ分け(分類)した。その結果を表1にまとめて示す。
Figure 2004040273
表中P1は下記の波長座標のピークグループを示す。
・P1:Ex/Em=400〜410nm/440〜460nm
表1に示す結果より、ピークグループP1が存在するか否かに着目することにより、悪性腫瘍患者を高い感度と特異度で健常者と弁別可能であることが確認された。具体的には、感度が0.80であり、特異度は0.88であった。これは、ペプシノーゲンを指標物質とする胃ガン判定におけるのと同等以上の高い感度及び特異度であることが確認された。すなわち、判定対象の被験者の尿検体の特異点の属性が検体グループBの属性に適合すれば、感度0.80、特異度0.88の精度で悪性腫瘍と判断できる。具体的には、上記実施形態において既知の特異点の属性を、「ピークグループP1が存在しないこと」とし、被験者の尿検体の特異点の属性がこの条件を満たす場合に、被験者の検体を検体グループBに分類すればよい。
なお、ここではピークグループP1の有無により検体グループを分類し、直接悪性腫瘍を判定したが、判定前に他の属性パラメータを利用してさらに階層化を行っておくことも可能である。具体的には、例えばピークグループP1を含めた検出される極大ピークの総数をパラメータ(さらなる特異点の属性)とした階層化が可能となる。このようにして階層化した結果を表2及び3に示す。
Figure 2004040273
Figure 2004040273
表2及び3は、それぞれ表1で示した検体グループA及びBに対し、総ピーク数に基づいて階層化を試みた結果を示す。これらの表より、総ピーク数を更なるパラメータとして加えた場合、検体グループAについては階層化が極めて困難である一方で、検体グループBについては階層化が可能であることが確認された。具体的には、検体グループBに属する検体のうち、総ピーク数が0及び3の検体は悪性腫瘍患者のみのものであり(表3参照)、これより検体グループBについての階層化が可能であることが判明した。このような総ピーク数をパラメータの一つとして加えた階層化を上記表1に示す検体グループBに施したところ、表4に示す結果が得られた。
Figure 2004040273
表4に基づいて悪性腫瘍の判定を行う場合、判定結果(感度、特異度)は表1に基づく場合と大差はないものの、総ピーク数をパラメータとして加えることにより、より高い確度で悪性腫瘍の判定を行い得る。すなわち、表4より、悪性腫瘍患者と判定される検体グループBは、より高い確度で悪性腫瘍と判定される検体グループB−2と、検体グループB−2に比して確度がやや劣る検体グループB−1に階層化できることが理解できる。よって、表4に基づいて悪性腫瘍の判定を行う場合、判定精度(感度、特異度)は表1に基づく場合と大差はないものの、さらなる既知の特異点の属性として、総ピーク数を分類にもちいて検体を階層的に分類することにより、より高い精度で悪性腫瘍の判定を行いうる。すなわち、表4より、被験者の尿検体の特異点の属性が、検体グループB−2の属性と適合するものと分類・階層化されれば、この被験者は悪性腫瘍である可能性が非常に高いものと判断できる。具体的には、上記実施形態において既知の特異点の属性を、「ピークグループP1が存在しないこと」と、「総ピーク数が0又は3であること」とし、例えば、被験者の尿検体の特異点の属性がこの条件をいずれも満たす場合に、被験者の検体を検体グループB−2に分類すればよい。
〈実施例2〉
本実施例では、ある特異点の周囲における出射光(蛍光)強度の変化割合によって、健常者と悪性腫瘍患者との弁別が可能であるかを検討し、既知の特異点の属性の一例を取得した。まず、実施例1と同様にして(検体の準備)から(三次元蛍光スペクトルにおける特異点の検出)までの処理を実施した。
(尿検体の分類・階層化)
実施例1で示したピークグループP1の代表座標をEx/Em=410nm/450nmとし、その座標における蛍光強度とその座標の周囲の蛍光強度の比に注目したところ、特にEx/Em=410nm/450nmの蛍光強度とEx/Em=400nm/480nmの蛍光強度との比が、健常者と悪性腫瘍患者間で有意に異なることが確認された。表中IaはEx/Em=400nm/480nmの蛍光強度、IbはEx/Em=410nm/450nmの蛍光強度を示す。その結果を表5に示す。
Figure 2004040273
表5に示す結果より、ピークグループP1の周囲における蛍光強度の変化割合に着目することによっても、実施例1と同等の高い感度と特異度で健常者と悪性腫瘍患者を弁別できることが確認された。具体的には、感度が0.80であり、特異度は0.85であった。すなわち、判定対象となる被験者の尿検体の特異点の属性が、検体グループDの属性と適合すれば、感度0.80、特異度0.85の精度で悪性腫瘍と判断できる。従って、上記実施形態において、既知の特異点の属性として、「Ia/Ibが1.1以上であること」として、被験者の尿検体の特異点の属性がこの条件を満たす場合に、被験者の検体を検体グループDに分類すればよい。
〈実施例3〉
本実施例では、ある特異点における出射光(蛍光)の強度によって、健常者と悪性腫瘍の患者とを弁別可能かどうかを検討し、既知の特異点の属性の一例を取得した。まず、実施例1と同様にして(検体の準備)から(三次元蛍光スペクトルにおける特異点の検出)までの処理を実施した。
(尿検体の分類・階層化)
実施例2と同様に実施例1で示したピークグループP1の代表座標をEx/Em=410nm/450nmとし、その座標における蛍光強度に注目したところ、当該蛍光強度をクレアチニン濃度で規格化した数値が健常者と悪性腫瘍患者間で有意に異なることが確認された。その結果を表6に示す。
Figure 2004040273
表中IbはEx/Em=410nm/450nmの蛍光強度、CREはクレアチニン濃度(mg/dl)を示す。表6に示す結果より、Ex/Em=410nm/450nmの座標における蛍光強度をクレアチニン濃度で規格化した数値に着目することによっても、高い感度と特異度で健常者と悪性腫瘍患者とを弁別できることが確認された。具体的には、感度が0.73であり、特異度は0.85であった。すなわち、判定対象となる被験者の尿検体の特異点の属性が、検体グループFの属性に適合すれば、感度0.73、特異度0.85の精度で、被験者が悪性腫瘍と判定できる。具体的には、上記実施形態において、既知の特異点の属性を「Ib/CREが0.947未満」として、被験者の尿検体の特異点の属性がこの条件を満たす場合に、検体を検体グループFに分類すればよい。
また、クレアチニン濃度で規格化される蛍光強度については、Ex/Em=410nm/450nmの座標における蛍光強度だけでなく、ピークグループP1の蛍光強度をクレアチニン濃度で規格化した数値の和においても、健常者と悪性腫瘍患者間で有意に異なることが確認された。その結果を表7に示す。なお、上記ピークグループP1の蛍光強度をクレアチニン濃度で規格化した数値の和とはEx/Em=400nm/440nm、400nm/450nm、400nm/460nm、410nm/440nm、410nm/450nm、410nm/460nmの座標における蛍光強度のそれぞれを、クレアチニン濃度で規格化した数値の和を示す。
Figure 2004040273
表中、(蛍光強度/CRE)の和とはEx/Em=400nm/440nm、400nm/450nm、400nm/460nm、410nm/440nm、410nm/450nm、410nm/460nmの座標の蛍光強度のそれぞれを、クレアチニン濃度(mg/dl)で規格化した数値の和を示す。表7に示す結果より、ピークグループP1の蛍光強度をクレアチニン濃度で規格化した数値の和に着目することによっても、高い感度と特異度で悪性腫瘍患者を弁別できることが確認された。具体的には、感度が0.75であり、特異度は0.84であった。すなわち、判定対象となる被験者の尿検体の特異点の属性が、検体グループHの属性に適合すれば、感度0.75、特異度0.84の精度で、被験者が悪性腫瘍と判定できる。具体的には、上記実施形態において、既知の特異点の属性を「(蛍光強度/CRE)の和が5.858未満」とし、被験者の尿検体の特異点の属性がこの条件を満たす場合に、被験者の検体を検体グループHに分類すればよい。
〈実施例4〉
本実施例では、特異点の波長座標を用いて健常者と悪性腫瘍を有する患者とを弁別できるか否かを、実施例1とは異なる視点から検討し、既知の特異点の属性のさらに他の例を取得した。まず、実施例1と同様にして(検体の準備)から(三次元蛍光スペクトルにおける特異点の検出)までの処理を実施した。
(尿検体の分類・階層化)
検出されるピークの中で、実施例1〜3で取り上げてきたピークグループP1、悪性腫瘍患者と健常者に共通して多くの検体で検出されるピークグループP2以外のピークの座標に注目したところ、健常者と悪性腫瘍患者間で発現率が大きく異なるピークグループがあることが確認された。なお、ピークグループP2とはEx/Em=310nm/430nm、320nm/410nm、320nm/420nm、320nm/430nm、330nm/410nmの波長座標のピークグループを示す。
図15は悪性腫瘍患者について各座標ごとにその座標でピークが検出される検体数を示した図、図16は健常者について各座標ごとにその座標でピークが検出される検体数を示した図である。図15、図16共にピークグループP1、P2については検出される検体数を示さず、それらの座標エリアのみを示している。また、図15、図16には後述のピークグループP3のエリアも示している。
図15と図16とを比較すると、ピークグループP1、P2、P3を除くエリアにおいては、悪性腫瘍患者の方がピークが検出される検体が多く、そのピークの検出される座標も広範囲に広がっていることがわかる。ここで、ピークグループP3は、Ex/Em=370nm/460〜480nmの3座標のエリアであり、健常者及び悪性腫瘍者に共通してピークが顕れやすい、或いは、健常者の方がピークが顕れやすいエリアである。
そして、ピークグループP1,P2,P3以外の座標(以後、ピークグループP4とする)において、悪性腫瘍患者の方が健常者に比べてピークが多いことを表8に示す。なお、複数のピークが検出される検体も有る為、図15及び図16に示した検体数の総和は、ピークグループP4においてピークが検出される検体数とは一致しない。
Figure 2004040273
表8に示す結果より、ピークグループP1、P2、P3以外のピークグループP4におけるピークの有無に着目することによっても、実施例1〜3の場合よりもやや劣るものの高い感度と特異度で、健常者と悪性腫瘍患者とを弁別できることが確認された。具体的には、感度が0.63であり、特異度は0.91であった。すなわち、判定対象となる被験者の尿検体の特異点の属性が、検体グループIの属性に適合すれば、感度0.63、特異度0.91の精度で、被験者が悪性腫瘍と判定することができる。具体的には、上記実施形態において、既知の特異点の属性を「ピークグループP4におけるピークあり」とし、被験者の尿検体の特異点の属性がこの条件を満たす場合に、被験者の検体を検体グループIに分類すればよい。
以上、実施例1では2つの属性パラメータを使用し、実施例2〜4では単一のパラメータを使用し、それぞれ健常者と悪性腫瘍患者とを弁別できること、及び、既知の特異点の属性の作成例を示したが、三次元蛍光スペクトルから得られる種々の異なるパラメータを適宜の順序でもって特異点の弁別に用いることにより、さらに検体の系統的な階層分類が実現される。
本発明の疾患判定方法、疾患判定用データ生成方法、及び、疾患判定用データ生成装置によれば、生体からの検体を用いて悪性腫瘍といった特定の疾患を判定するに際し、その判定精度及び確度を十分に向上できると共に、種々の疾患判定に適用可能であり、併せて判定作業の迅速化をも達成することができる。

Claims (32)

  1. 生体試料から成る検体を用いて疾患を判定する方法であって、
    前記検体に酸又はアルカリを添加して加熱する前処理工程と、
    前記検体に励起光を照射し且つ該励起光の波長を連続的又は断続的に変化させる励起光照射工程と、
    前記励起光に起因して前記検体から発せられる出射光の波長及び強度を計測する出射光計測工程と、
    前記励起光の波長、前記出射光の波長、及び該出射光の強度から構成される三次元光スペクトルにおける特異点を検出し、該特異点の属性に基づいて前記検体の分類又は階層化を行う解析・分類工程と、
    前記検体の分類又は階層化結果に基づいて、前記検体が帰属する生体における前記疾患の有無又は該疾患の状態を判定する判定工程と、を備える疾患判定方法。
  2. 前記解析・分類工程においては、前記特異点の波長座標、該特異点の数、該特異点における前記出射光の強度、該特異点の周囲における該出射光強度の変化割合、及び前記三次元光スペクトルの形状のうち少なくともいずれか一つのパラメータによって該特異点の属性を決定する、
    請求項1記載の疾患判定方法。
  3. 前記検体として尿を用いる、請求項1又は2に記載の疾患判定方法。
  4. 前記出射光として蛍光を計測する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の疾患判定方法。
  5. 前記励起光照射工程においては、前記励起光として200〜900nmの範囲内のいずれかの波長を有する光を用い、
    前記出射光計測工程においては、前記出射光として200〜900nmの範囲内のいずれかの波長を有する蛍光を計測する、
    請求項1〜4のいずれか一項に記載の疾患判定方法。
  6. 前記前処理工程を実施した後に、前記検体の液性を調整する液性調整工程を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の疾患判定方法。
  7. 前記液性調整工程においては、前記検体の液性を酸性、アルカリ性、及び、中性又は略中性のうちから任意に選択し、該選択した液性となるように該検体に酸、アルカリ、又は緩衝剤を添加する、
    請求項6記載の疾患判定方法。
  8. 前記液性調整工程においては、前記検体の液性をアルカリ性に保持する、
    請求項7記載の疾患判定方法。
  9. 前記解析・分類工程においては、前記三次元光スペクトルにおける前記出射光の強度の極大ピークを前記特異点とする、
    請求項1〜8のいずれか一項に記載の疾患判定方法。
  10. 前記解析・分類工程においては、前記三次元座標系における数値マトリックス、等高線図、又はベクトル線図から成る特異点検出用マップを作成し、該特異点検出用マップに基づいて、前記特異点を検出する、
    請求項9記載の疾患判定方法。
  11. 前記解析・分類工程においては、種類の判明している特定の疾患を有する生体からの基準検体を用いて予め検出された特異点の既知の属性と、前記判定対象の検体に対して得た特異点の属性とを比較し、該比較結果に基づいて前記検体の分類を行う、
    請求項1〜10のいずれか一項に記載の疾患判定方法。
  12. 種類の判明している特定の疾患を有する生体からの基準検体を用いて検出された特異点の属性と、健常な生体からの基準検体を用いて検出された特異点の属性と、の比較結果に基づいて、前記既知の特異点の属性を生成する基準データ生成工程を有する、
    請求項11に記載の疾患判定方法。
  13. 前記疾患が悪性腫瘍である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の疾患判定方法。
  14. 被験者の生体から採取された検体を用いて疾患判定用データを生成する方法であって、
    前記検体に酸又はアルカリを添加して加熱する前処理工程と、
    前記検体に励起光を照射し且つ該励起光の波長を連続的又は断続的に変化させる励起光照射工程と、
    前記励起光に起因して前記検体から発せられる出射光の波長及び強度を計測する出射光計測工程と、
    前記励起光の波長、前記出射光の波長、及び該出射光の強度から構成される三次元光スペクトルにおける特異点を検出し、該特異点の属性に基づいて前記検体の分類又は階層化を行う解析・分類工程と、
    を備える疾患判定用データ生成方法。
  15. 前記解析・分類工程においては、前記特異点の波長座標、該特異点の数、該特異点における前記出射光の強度、該特異点の周囲における該出射光強度の変化割合、及び前記三次元光スペクトルの形状のうち少なくともいずれか一つのパラメータによって該特異点の属性を決定する、
    請求項14記載の疾患判定用データ生成方法。
  16. 前記検体として尿を用いる、請求項14又は15に記載の疾患判定用データ生成方法。
  17. 前記出射光として蛍光を計測する、請求項14〜16のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成方法。
  18. 前記励起光照射工程においては、前記励起光として200〜900nmの範囲内のいずれかの波長を有する光を用い、
    前記出射光計測工程においては、前記出射光として200〜900nmの範囲内のいずれかの波長を有する蛍光を計測する、
    請求項14〜17のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成方法。
  19. 前記前処理工程を実施した後に、前記検体の液性を調整する液性調整工程を更に備える、請求項14〜18のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成方法。
  20. 前記液性調整工程においては、前記検体の液性を酸性、アルカリ性、及び、中性又は略中性のうちから任意に選択し、該選択した液性となるように該検体に酸、アルカリ、又は緩衝剤を添加する、
    請求項19記載の疾患判定用データ生成方法。
  21. 前記液性調整工程においては、前記検体の液性をアルカリ性に保持する、請求項20記載の疾患判定用データ生成方法。
  22. 前記解析・分類工程においては、前記三次元光スペクトルにおける前記出射光の強度の極大ピーク、極小ピーク、及び、極大ピークのピーク値の1/nの強度の点(ここで、n>1)の内の少なくとも何れかを前記特異点とする、
    請求項14〜21のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成方法。
  23. 前記解析・分類工程においては、前記三次元座標系における数値マトリックス、等高線図、又はベクトル線図から成る特異点検出用マップを作成し、該特異点検出用マップに基づいて、前記特異点を検出する、
    請求項22記載の疾患判定用データ生成方法。
  24. 前記解析・分類工程においては、種類の判明している特定の疾患を有する生体から採取された基準検体を用いて予め検出された既知の特異点の属性と、前記被験者の検体に対して得られた特異点の属性とを比較し、該比較結果に基づいて前記検体の分類を行う、
    請求項14〜23のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成方法。
  25. 種類の判明している疾患を有する生体から採取された基準検体を用いて検出された特異点の属性と、健常な生体から採取された基準検体を用いて検出された特異点の属性と、の比較結果に基づいて、前記既知の特異点の属性を生成する基準データ生成工程を有する、
    請求項24に記載の疾患判定用データ生成方法。
  26. 前記疾患が悪性腫瘍である、請求項14〜25の何れか一項に記載の疾患判定用データ生成方法。
  27. 被験者の生体から採取された検体を分析して疾患判定用データを生成する装置であって、
    前記検体に励起光を照射し且つ該励起光の波長を連続的又は断続的に変化させる励起光照射手段と、
    前記励起光に起因して前記検体から発せられる出射光の波長及び強度を計測する出射光計測手段と、
    前記励起光の波長、前記出射光の波長、及び該出射光の強度から構成される三次元光スペクトルにおける特異点を検出し、該特異点の属性に基づいて前記検体の分類又は階層化を行って前記疾患判定用の分類データを生成する解析・分類手段と、
    を備える疾患判定用データ生成装置。
  28. 前記解析・分類手段は、前記特異点の波長座標、該特異点の数、該特異点における前記出射光の強度、該特異点の周囲における該出射光強度の変化割合、及び前記三次元光スペクトルの形状のうち少なくともいずれか一つのパラメータによって該特異点の属性を決定する、
    請求項27記載の疾患判定用データ生成装置。
  29. 前記励起光照射手段は、前記励起光として200〜900nmの範囲内のいずれかの波長を有する光を照射し、
    前記出射光計測手段は、前記出射光として200〜900nmの範囲内のいずれかの波長を有する蛍光を計測する、
    請求項27又は28に記載の疾患判定用データ生成装置。
  30. 前記解析・分類手段は、前記三次元光スペクトルにおける前記出射光の強度の極大ピーク、極小ピーク、及び、極大ピークのピーク値の1/nの強度の点(ここで、n>1)の内の少なくとも何れかを前記特異点とする、
    請求項27〜29のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成装置。
  31. 既知の特異点の属性が予め格納された格納手段を有し、前記解析・分類手段は、前記格納手段に格納された既知の特異点の属性と、前記被験者の検体に対して得られた特異点の属性と、を比較し、該比較結果に基づいて前記検体の分類を行う、
    請求項27〜30のいずれか一項に記載の疾患判定用データ生成装置。
  32. 種類の判明している疾患を有する生体から採取された基準検体を用いて検出された特異点の属性と、健常な生体から採取された基準検体を用いて検出された特異点の属性と、の比較結果に基づいて、前記既知の特異点の属性を生成する基準データ生成手段を有する、
    請求項31に記載の疾患判定用データ生成装置。
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