JPWO2004036216A1 - 糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法およびその利用 - Google Patents
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Abstract
本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法は、1種以上の糖鎖混合物の分離結果と、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物の分離結果とを比較することにより、これまで確立されていなかった糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定する方法である。これにより、複数の糖鎖を含む複雑な糖鎖の混合物であっても、一斉に糖鎖−タンパク質の相互作用を網羅的に測定することができる。
Description
本発明は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法、およびその利用方法に関するものであり、例えば、糖鎖異常に基づく遺伝病やガン診断などの臨床診断や、糖鎖結合性タンパク質を標的とした新規医薬品の開発に応用し得る、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法、およびそれを用いた糖鎖および糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法、当該測定方法に用いる測定試薬、並びに測定キットに関するものである。
タンパク質は翻訳後、ゴルジ体において、糖鎖による修飾を受ける。糖鎖によるタンパク質の修飾は、加齢、生理的条件の変化、外的刺激などの要因により、多彩な変化が生じる。糖鎖は、細胞間の情報伝達あるいは恒常性維持などの細胞間ネットワークの秩序維持に重要な役割を果たしている。このため、糖鎖は、「細胞の顔」とみなされる場合がある。
糖鎖の役割で最も大きな問題となるのが、糖鎖が遺伝子で制御された糖転移酵素、糖代謝酵素などの酵素群によって、2次的に生産されることである。このため、糖転移酵素や糖代謝酵素などの酵素群の一義的な働きだけでは解明できない不均一性を有する。この不均一性を有するために糖鎖が多彩な生理活性を示す。したがって、糖鎖の生理機能を解明するためには、糖鎖をその機能に基づいて分類する必要がある。
このように、糖鎖の果たす機能については、遺伝子レベルで、その生合成あるいは代謝酵素を突き止めていくことが重要である。この分野における研究は、日本が世界をリードして進んでいる。しかし、前述のように糖鎖の不均一性は、遺伝子に支配されて発現する糖鎖関連酵素群、すなわち、糖転移酵素や糖加水分解酵素などが糖鎖の生合成に関与する。このため、糖鎖の微妙な機能調節、すなわち糖鎖−糖鎖結合性タンパク質間の相互作用の微妙な変化の測定は、遺伝子レベルでの研究のみでは解明することができない。
これまでに、1種類の糖鎖結合性タンパク質と1種類の糖鎖との間の相互作用、または1種類の糖鎖と1種類のタンパク質との間の相互作用を測定する方法が、多数開発されている。しかし、この方法では、適用範囲が非常に限られ、ましてや、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との混合物における糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することはできない。
したがって、複数の糖鎖を含む複雑な糖鎖の混合物にも対応可能な、糖鎖−タンパク質間の相互作用を網羅的に解析するための効率的なスクリーニング方法が切望されている。しかし、糖鎖の不均一性のゆえに、糖鎖−タンパク質間の相互作用を網羅的に解析することは非常に困難である。
そこで、糖鎖やタンパク質の混合物における糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定する方法が開発されれば、混合物であってもその相互作用を測定することが可能となる。しかしながら、現在では、アフィニティークロマトグラフィーと質量分析とを利用した、糖鎖混合物とタンパク質との相互作用の一斉測定方法のみが報告されているに過ぎない(Schriemer D.C.,et al,Angew.Chem.Int.Ed.,1998,37,3383−3387.)。この方法は、1種類のタンパク質と複数の糖鎖混合物との結合反応を測定するものである。すなわち、1種類の糖鎖結合性タンパク質と、糖鎖混合物との糖鎖タンパク質間相互作用を測定するものである。
また、糖タンパク質の分別測定方法も開示されている(例えば「日本国公開特許公報「特開平7−191027号公報」」(1995年7月28日公開))。この方法は、タンパク質構造は同一であるが糖鎖構造が異なる糖タンパク質を、特定の糖鎖構造を認識するレクチンを用いて測定するものである。具体的には、抗体を用いて、レクチンと結合した糖タンパク質と、レクチンと結合せず抗体と結合した糖タンパク質とを分別する方法である。
しかし、Schriemer D.C.,et al,Angew.Chem.Int.Ed.,1998,37,3383−3387.の方法は、同一分子量で結合様式の異なる糖鎖に対応することができないという、重大な問題点を有している。
さらに、この方法は、基本的に糖鎖結合性タンパク質を結合した固定相を使用するアフィニティークロマトグラフィーによる手法を採用している。このため、この方法は、ターゲットを絞ったタンパク質と糖鎖との相互作用を解析するには有効である。しかし、この方法は、例えば、細胞や組織の粗成分を試料として糖鎖−タンパク質間相互作用を測定することはできないという問題点を有している。加えて、アフィニティークロマトグラフィー用の担体調製などの煩雑な操作が必要となる。
また、表面プラズモン分析を利用した、糖鎖−タンパク質間相互作用のスクリーニング方法についても多くの研究がなされている。しかし、大規模なスクリーニング方法という観点からは、チップへの固定化やコストの面から見て、現状では実用化が困難である。
また、日本国公開特許公報「特開平7−191027号公報」に記載の方法では、糖タンパク質に結合している糖鎖は、複数の複雑な糖鎖の混合物からなるため、糖鎖の微妙な変化を一斉に、しかも、網羅的に測定することができないという問題点を有している。
このように、グライコミクスを目指して精力的な研究が続けられているが、糖鎖−タンパク質間の相互作用の一斉解析および大規模スクリーニング方法は、未だ開発されていないのが現状である。
したがって、もし、このような方法が開発されれば、例えば、糖鎖混合物をライブラリーとして用い、生体中に存在する糖鎖結合性タンパク質の関与する疾病や遺伝的異常を測定することが可能になると予想される。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を確実に測定でき、それを用いて、新薬の開発などの医薬品産業、および臨床検査等の検査産業や試薬産業で好適に用いられるスクリーニング方法、および上記医薬品産業、および検査産業や試薬産業に好適に用いられる測定用試薬および測定キットを提供することにある。
糖鎖の役割で最も大きな問題となるのが、糖鎖が遺伝子で制御された糖転移酵素、糖代謝酵素などの酵素群によって、2次的に生産されることである。このため、糖転移酵素や糖代謝酵素などの酵素群の一義的な働きだけでは解明できない不均一性を有する。この不均一性を有するために糖鎖が多彩な生理活性を示す。したがって、糖鎖の生理機能を解明するためには、糖鎖をその機能に基づいて分類する必要がある。
このように、糖鎖の果たす機能については、遺伝子レベルで、その生合成あるいは代謝酵素を突き止めていくことが重要である。この分野における研究は、日本が世界をリードして進んでいる。しかし、前述のように糖鎖の不均一性は、遺伝子に支配されて発現する糖鎖関連酵素群、すなわち、糖転移酵素や糖加水分解酵素などが糖鎖の生合成に関与する。このため、糖鎖の微妙な機能調節、すなわち糖鎖−糖鎖結合性タンパク質間の相互作用の微妙な変化の測定は、遺伝子レベルでの研究のみでは解明することができない。
これまでに、1種類の糖鎖結合性タンパク質と1種類の糖鎖との間の相互作用、または1種類の糖鎖と1種類のタンパク質との間の相互作用を測定する方法が、多数開発されている。しかし、この方法では、適用範囲が非常に限られ、ましてや、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との混合物における糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することはできない。
したがって、複数の糖鎖を含む複雑な糖鎖の混合物にも対応可能な、糖鎖−タンパク質間の相互作用を網羅的に解析するための効率的なスクリーニング方法が切望されている。しかし、糖鎖の不均一性のゆえに、糖鎖−タンパク質間の相互作用を網羅的に解析することは非常に困難である。
そこで、糖鎖やタンパク質の混合物における糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定する方法が開発されれば、混合物であってもその相互作用を測定することが可能となる。しかしながら、現在では、アフィニティークロマトグラフィーと質量分析とを利用した、糖鎖混合物とタンパク質との相互作用の一斉測定方法のみが報告されているに過ぎない(Schriemer D.C.,et al,Angew.Chem.Int.Ed.,1998,37,3383−3387.)。この方法は、1種類のタンパク質と複数の糖鎖混合物との結合反応を測定するものである。すなわち、1種類の糖鎖結合性タンパク質と、糖鎖混合物との糖鎖タンパク質間相互作用を測定するものである。
また、糖タンパク質の分別測定方法も開示されている(例えば「日本国公開特許公報「特開平7−191027号公報」」(1995年7月28日公開))。この方法は、タンパク質構造は同一であるが糖鎖構造が異なる糖タンパク質を、特定の糖鎖構造を認識するレクチンを用いて測定するものである。具体的には、抗体を用いて、レクチンと結合した糖タンパク質と、レクチンと結合せず抗体と結合した糖タンパク質とを分別する方法である。
しかし、Schriemer D.C.,et al,Angew.Chem.Int.Ed.,1998,37,3383−3387.の方法は、同一分子量で結合様式の異なる糖鎖に対応することができないという、重大な問題点を有している。
さらに、この方法は、基本的に糖鎖結合性タンパク質を結合した固定相を使用するアフィニティークロマトグラフィーによる手法を採用している。このため、この方法は、ターゲットを絞ったタンパク質と糖鎖との相互作用を解析するには有効である。しかし、この方法は、例えば、細胞や組織の粗成分を試料として糖鎖−タンパク質間相互作用を測定することはできないという問題点を有している。加えて、アフィニティークロマトグラフィー用の担体調製などの煩雑な操作が必要となる。
また、表面プラズモン分析を利用した、糖鎖−タンパク質間相互作用のスクリーニング方法についても多くの研究がなされている。しかし、大規模なスクリーニング方法という観点からは、チップへの固定化やコストの面から見て、現状では実用化が困難である。
また、日本国公開特許公報「特開平7−191027号公報」に記載の方法では、糖タンパク質に結合している糖鎖は、複数の複雑な糖鎖の混合物からなるため、糖鎖の微妙な変化を一斉に、しかも、網羅的に測定することができないという問題点を有している。
このように、グライコミクスを目指して精力的な研究が続けられているが、糖鎖−タンパク質間の相互作用の一斉解析および大規模スクリーニング方法は、未だ開発されていないのが現状である。
したがって、もし、このような方法が開発されれば、例えば、糖鎖混合物をライブラリーとして用い、生体中に存在する糖鎖結合性タンパク質の関与する疾病や遺伝的異常を測定することが可能になると予想される。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を確実に測定でき、それを用いて、新薬の開発などの医薬品産業、および臨床検査等の検査産業や試薬産業で好適に用いられるスクリーニング方法、および上記医薬品産業、および検査産業や試薬産業に好適に用いられる測定用試薬および測定キットを提供することにある。
本発明者等は、これまで測定方法が確立されていなかった糖鎖−タンパク質間相互作用の測定方法について鋭意検討した。その結果、複数の糖鎖結合性タンパク質を組み合わせることにより、複雑な糖鎖の混合物であっても、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を一斉に、高感度、かつ特異的に測定できる新たな測定方法を見出した。
より詳細には、糖タンパク質やグリコサミノグリカンから得られた糖鎖の混合物と、各種のレクチンあるいは糖鎖結合性タンパク質との相互作用を一斉測定する方法について鋭意に検討した結果、レクチンあるいは糖鎖結合性タンパク質を含む緩衝溶液中で蛍光標識した糖鎖の混合物を電気泳動的な手段により分離することにより、従来知られていなかったレクチンあるいは糖鎖結合性タンパク質の微妙な糖鎖認識能の相違を明確に測定できることを見出した。このような知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明にかかる糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法は、上記の課題を解決するために、1種以上の糖鎖混合物の分離結果と、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物の分離結果との比較に基づき、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することを特徴としている。
上記本発明の測定方法では、糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物を分離している。ここで、糖鎖混合物の中に糖鎖結合性タンパク質が特異的に認識する糖鎖が存在すれば、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用が大きくなり、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の複合体が形成される。このため、複合体が形成されれば、糖鎖のみの分離結果とは異なる挙動を示す。一方、複合体が形成されていなければ、糖鎖のみの分離結果と同様の分離結果が得られる。
本発明の測定方法は、このような分離結果の差を利用して、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定している。すなわち、本発明の測定方法は、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質の分離と同時に、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定を行うことができる。このように、本発明の測定方法は、糖鎖のみの分離結果と、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた混合物の分離結果とを比較することにより、相互作用を測定するので、複雑な複数の糖鎖混合物であっても、一斉に相互作用を測定することができる。すなわち、糖鎖混合物中の各糖鎖と糖鎖結合性タンパク質、または、糖鎖結合性タンパク質と糖鎖混合物中の各糖鎖間の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を、高感度で、迅速かつ簡便に一斉測定することができる。
上記本発明の測定方法は、例えば、以下に示すスクリーニング方法に適用可能である。
すなわち、本発明の糖鎖のスクリーニング方法は、上記本発明の測定方法を用いる糖鎖のスクリーニング方法であって、特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質と、当該糖鎖結合性タンパク質と結合することが不明の1種以上の糖鎖混合物とを反応させる糖鎖反応工程と、上記糖鎖混合物のみの分離結果と、上記糖鎖反応工程によって得られた反応混合物の分離結果との比較に基づき、上記糖鎖混合物中に、上記糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無を判定する糖鎖判定工程とを含むことを特徴としている。
また、本発明の糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法は、上記本発明の測定方法を用いる糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法であって、構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物と、当該糖鎖を特異的に認識することが不明の1種以上の糖鎖結合性タンパク質とを反応させる糖鎖結合性タンパク質反応工程と、上記糖鎖のみの分離結果と、上記糖鎖結合性タンパク質反応工程によって得られた反応混合物の分離結果との比較に基づき、上記糖鎖結合性タンパク質中に、上記糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定する糖鎖結合性タンパク質判定工程とを含むことを特徴としている。
本発明のスクリーニング方法によれば、糖鎖混合物のみの分離結果と、糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程終了後の反応混合物の分離結果を比較し、分離結果に相違があれば、糖鎖混合物中に存在する糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無や、複雑な糖鎖結合性タンパク質中、例えば、生体由来のタンパク質混合物中に存在する糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することができる。このようにして、糖鎖のスクリーニングおよび糖鎖結合性タンパク質のスクリーニングを行うことができる。また、分離結果の解析により、糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の有無の判定に加えて、その糖鎖の構造および糖鎖結合性タンパク質が認識する糖鎖の構造を明らかにすることができる。
本発明のスクリーニング方法によれば、新規糖鎖結合性タンパク質や糖鎖結合性タンパク質が特異的に認識する新規糖鎖を得ることができる可能性がある。これらは、新薬の開発や、病態の解析に非常に有用である。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程は、キャピラリー電気泳動による泳動時間の差によって糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することが好ましい。
キャピラリー電気泳動による分離を行うことにより、本発明のスクリーニング方法の精度や信頼性をより一層向上させることができ、その上、自動測定も可能となる。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖混合物の糖鎖は、標識されていてもよい。
これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を一層容易に分離することができる。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質がシアル酸残基を含む場合に、当該シアル酸残基を除去する工程を含んでいてもよい。
糖鎖または糖鎖結合性タンパク質のシアル酸残基を除去することにより、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用が、より一層強固なものとなる場合がある。これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、および糖鎖−糖鎖結合性タンパク質を一層精度よく分離することができる。すなわち、糖鎖判定工程および糖鎖結合性タンパク質判定工程における、判定の信頼性が一層向上する。
本発明のスクリーニング方法において、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物が、支持体に固定されていてもよい。
換言すれば、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物は、例えば、基板に高密度に固定された、マイクロチップ、マイクロアレイ、マクロアレイとなっていてもよい。
これにより、大規模なスクリーニングを同時に行うことができる。また、例えば、電気泳動のゲル媒体など、分離に用いる試薬や媒体を同時に基板に固定すれば、さらにスクリーニングに要する時間が短縮される。
なお、本発明には、上記本発明のスクリーニング方法によって得られた、新規糖鎖および新規糖鎖結合性タンパク質も含まれる。
また、上記糖鎖判定工程および糖鎖結合性タンパク質判定工程は、換言すれば、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の分類を行う工程(糖鎖分類工程および糖鎖結合性タンパク質分類工程)である。したがって、本発明のスクリーニング方法は、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の分類方法、判別方法、選別方法、確認方法、または検出方法ということもできる。
本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定用試薬は、上記本発明の測定方法に用いる測定用試薬であって、特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物を含んでいることを特徴としている。
本発明の測定試薬によれば、上記測定方法による効果と同様に、複雑な複数の糖鎖混合物であっても、一斉に糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することができる測定方法を測定用試薬として提供できる。さらに、上記測定方法を容易に実施することができ、しかも測定方法を簡素化できる。それゆえ、測定時間の短縮が図れる。
また、本発明の測定キットは、上記本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定用試薬を含んでいることを特徴としている。
本発明の測定キットによれば、上記本発明の測定方法による効果と同様に、一斉に糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することができる測定方法を、測定キットとして提供できる。さらに、上記測定方法を容易に実施することができ、しかも測定方法を簡素化できる。それゆえ、測定時間の短縮が図れる。
上記「糖鎖結合性タンパク質」は、例えば、既知の100種類以上の糖鎖結合性タンパク質から、任意かつ多種多様に選択して用いることができる。後述する実施例で使用した6つのレクチンを用いることが好ましい。すなわち、タチナタ豆レクチン(ConA:Concanavalin A)、小麦胚芽レクチン(WGA:wheat germ agglutinin)、チューリップレクチン(TGA:T.gesneriana agglutinin)、リゾプスカビレクチン(RSL:Rizopus stronipher lectin)、ニホンニワトコレクチン(SSA:Sambucus sieboldiana lectin)、イヌエンジュレクチン(MAM:Maackia anmurensis lectin)を用いることが好ましく、これらのレクチンを複数組み合わせた糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(レクチンセット)を用いることがより好ましい。これらのレクチンは、天然に存在するレクチンの中でも、糖鎖に特異的に結合することによって、泳動結果に顕著な相違が認められる。このため、上記レクチンセットは、各種生物中に含まれるほとんどの糖鎖を網羅的に解析するために特に適している。
相互作用測定の省力化、および、糖鎖の検出率の向上、並びに、泳動チャートによる糖鎖解析の簡便性を図るためには、実施例で用いた6つの糖鎖結合性タンパク質のうち、少なくとも1つを用いることが好ましい。さらに、糖鎖判定工程の判定精度をより向上するためには、上記6つの糖鎖結合性タンパク質による分離結果を、複数組み合わせて、解析することが好ましい。これにより、糖鎖の判定精度が著しく高まり、糖鎖の検出率95%以上を確保することができる。
一方、上記「糖鎖混合物」は、既知の1000種以上の糖鎖から、任意かつ多種多様に選択して用いることができる。後述する実施例で使用した、糖タンパク質に由来する、5つの糖鎖混合物ライブラリーを用いることが好ましい。具体的には、α1酸性糖タンパク質(AGP:α1−acid glycoprotein)、フェツイン(fetuin)、オボムコイド(ovomucoid)、イムノグロブリンG(IgG:immunoglobulin G)、およびチログロブリン(thyroglobulin)、由来の糖鎖混合物を用いることが好ましい。上記糖鎖ライブラリーは、多くの糖鎖の中でも、糖鎖結合性タンパク質と特異的に結合することによって、泳動結果に顕著な相違が認められる。そのため、上記糖鎖ライブラリーは、天然に存在する糖鎖結合性タンパク質の解析に特に適している。なお、糖タンパク質に由来する糖鎖混合物は、例えば、適当な酵素処理によって、容易に得られる。
解析測定の省力化、および、検出率の向上を図るためには、上記5つの糖鎖混合物ライブラリーのうち、少なくとも1つを用いることが好ましい。さらに、糖鎖結合性タンパク質判定工程の判定精度をより向上するためには、上記5つの糖鎖混合物ライブラリーによる分離結果を、複数組み合わせて、解析することが好ましい。これにより、糖鎖結合性タンパク質の判定精度が著しく高まり、糖鎖結合性タンパク質の検出率95%以上を確保することができる。
上記糖鎖混合物ライブラリーおよび糖鎖結合性タンパク質を用いることによって、糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の有無だけでなく、構造が不明な糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の構造解明や、分類を行うことも可能である。しかも、天然に存在する糖鎖または糖鎖結合性タンパク質を簡便に、ハイスループットで解析することが可能である。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
より詳細には、糖タンパク質やグリコサミノグリカンから得られた糖鎖の混合物と、各種のレクチンあるいは糖鎖結合性タンパク質との相互作用を一斉測定する方法について鋭意に検討した結果、レクチンあるいは糖鎖結合性タンパク質を含む緩衝溶液中で蛍光標識した糖鎖の混合物を電気泳動的な手段により分離することにより、従来知られていなかったレクチンあるいは糖鎖結合性タンパク質の微妙な糖鎖認識能の相違を明確に測定できることを見出した。このような知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明にかかる糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法は、上記の課題を解決するために、1種以上の糖鎖混合物の分離結果と、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物の分離結果との比較に基づき、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することを特徴としている。
上記本発明の測定方法では、糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物を分離している。ここで、糖鎖混合物の中に糖鎖結合性タンパク質が特異的に認識する糖鎖が存在すれば、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用が大きくなり、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の複合体が形成される。このため、複合体が形成されれば、糖鎖のみの分離結果とは異なる挙動を示す。一方、複合体が形成されていなければ、糖鎖のみの分離結果と同様の分離結果が得られる。
本発明の測定方法は、このような分離結果の差を利用して、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定している。すなわち、本発明の測定方法は、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質の分離と同時に、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定を行うことができる。このように、本発明の測定方法は、糖鎖のみの分離結果と、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた混合物の分離結果とを比較することにより、相互作用を測定するので、複雑な複数の糖鎖混合物であっても、一斉に相互作用を測定することができる。すなわち、糖鎖混合物中の各糖鎖と糖鎖結合性タンパク質、または、糖鎖結合性タンパク質と糖鎖混合物中の各糖鎖間の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を、高感度で、迅速かつ簡便に一斉測定することができる。
上記本発明の測定方法は、例えば、以下に示すスクリーニング方法に適用可能である。
すなわち、本発明の糖鎖のスクリーニング方法は、上記本発明の測定方法を用いる糖鎖のスクリーニング方法であって、特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質と、当該糖鎖結合性タンパク質と結合することが不明の1種以上の糖鎖混合物とを反応させる糖鎖反応工程と、上記糖鎖混合物のみの分離結果と、上記糖鎖反応工程によって得られた反応混合物の分離結果との比較に基づき、上記糖鎖混合物中に、上記糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無を判定する糖鎖判定工程とを含むことを特徴としている。
また、本発明の糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法は、上記本発明の測定方法を用いる糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法であって、構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物と、当該糖鎖を特異的に認識することが不明の1種以上の糖鎖結合性タンパク質とを反応させる糖鎖結合性タンパク質反応工程と、上記糖鎖のみの分離結果と、上記糖鎖結合性タンパク質反応工程によって得られた反応混合物の分離結果との比較に基づき、上記糖鎖結合性タンパク質中に、上記糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定する糖鎖結合性タンパク質判定工程とを含むことを特徴としている。
本発明のスクリーニング方法によれば、糖鎖混合物のみの分離結果と、糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程終了後の反応混合物の分離結果を比較し、分離結果に相違があれば、糖鎖混合物中に存在する糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無や、複雑な糖鎖結合性タンパク質中、例えば、生体由来のタンパク質混合物中に存在する糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することができる。このようにして、糖鎖のスクリーニングおよび糖鎖結合性タンパク質のスクリーニングを行うことができる。また、分離結果の解析により、糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の有無の判定に加えて、その糖鎖の構造および糖鎖結合性タンパク質が認識する糖鎖の構造を明らかにすることができる。
本発明のスクリーニング方法によれば、新規糖鎖結合性タンパク質や糖鎖結合性タンパク質が特異的に認識する新規糖鎖を得ることができる可能性がある。これらは、新薬の開発や、病態の解析に非常に有用である。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程は、キャピラリー電気泳動による泳動時間の差によって糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することが好ましい。
キャピラリー電気泳動による分離を行うことにより、本発明のスクリーニング方法の精度や信頼性をより一層向上させることができ、その上、自動測定も可能となる。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖混合物の糖鎖は、標識されていてもよい。
これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を一層容易に分離することができる。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質がシアル酸残基を含む場合に、当該シアル酸残基を除去する工程を含んでいてもよい。
糖鎖または糖鎖結合性タンパク質のシアル酸残基を除去することにより、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用が、より一層強固なものとなる場合がある。これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、および糖鎖−糖鎖結合性タンパク質を一層精度よく分離することができる。すなわち、糖鎖判定工程および糖鎖結合性タンパク質判定工程における、判定の信頼性が一層向上する。
本発明のスクリーニング方法において、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物が、支持体に固定されていてもよい。
換言すれば、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物は、例えば、基板に高密度に固定された、マイクロチップ、マイクロアレイ、マクロアレイとなっていてもよい。
これにより、大規模なスクリーニングを同時に行うことができる。また、例えば、電気泳動のゲル媒体など、分離に用いる試薬や媒体を同時に基板に固定すれば、さらにスクリーニングに要する時間が短縮される。
なお、本発明には、上記本発明のスクリーニング方法によって得られた、新規糖鎖および新規糖鎖結合性タンパク質も含まれる。
また、上記糖鎖判定工程および糖鎖結合性タンパク質判定工程は、換言すれば、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の分類を行う工程(糖鎖分類工程および糖鎖結合性タンパク質分類工程)である。したがって、本発明のスクリーニング方法は、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の分類方法、判別方法、選別方法、確認方法、または検出方法ということもできる。
本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定用試薬は、上記本発明の測定方法に用いる測定用試薬であって、特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物を含んでいることを特徴としている。
本発明の測定試薬によれば、上記測定方法による効果と同様に、複雑な複数の糖鎖混合物であっても、一斉に糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することができる測定方法を測定用試薬として提供できる。さらに、上記測定方法を容易に実施することができ、しかも測定方法を簡素化できる。それゆえ、測定時間の短縮が図れる。
また、本発明の測定キットは、上記本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定用試薬を含んでいることを特徴としている。
本発明の測定キットによれば、上記本発明の測定方法による効果と同様に、一斉に糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することができる測定方法を、測定キットとして提供できる。さらに、上記測定方法を容易に実施することができ、しかも測定方法を簡素化できる。それゆえ、測定時間の短縮が図れる。
上記「糖鎖結合性タンパク質」は、例えば、既知の100種類以上の糖鎖結合性タンパク質から、任意かつ多種多様に選択して用いることができる。後述する実施例で使用した6つのレクチンを用いることが好ましい。すなわち、タチナタ豆レクチン(ConA:Concanavalin A)、小麦胚芽レクチン(WGA:wheat germ agglutinin)、チューリップレクチン(TGA:T.gesneriana agglutinin)、リゾプスカビレクチン(RSL:Rizopus stronipher lectin)、ニホンニワトコレクチン(SSA:Sambucus sieboldiana lectin)、イヌエンジュレクチン(MAM:Maackia anmurensis lectin)を用いることが好ましく、これらのレクチンを複数組み合わせた糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(レクチンセット)を用いることがより好ましい。これらのレクチンは、天然に存在するレクチンの中でも、糖鎖に特異的に結合することによって、泳動結果に顕著な相違が認められる。このため、上記レクチンセットは、各種生物中に含まれるほとんどの糖鎖を網羅的に解析するために特に適している。
相互作用測定の省力化、および、糖鎖の検出率の向上、並びに、泳動チャートによる糖鎖解析の簡便性を図るためには、実施例で用いた6つの糖鎖結合性タンパク質のうち、少なくとも1つを用いることが好ましい。さらに、糖鎖判定工程の判定精度をより向上するためには、上記6つの糖鎖結合性タンパク質による分離結果を、複数組み合わせて、解析することが好ましい。これにより、糖鎖の判定精度が著しく高まり、糖鎖の検出率95%以上を確保することができる。
一方、上記「糖鎖混合物」は、既知の1000種以上の糖鎖から、任意かつ多種多様に選択して用いることができる。後述する実施例で使用した、糖タンパク質に由来する、5つの糖鎖混合物ライブラリーを用いることが好ましい。具体的には、α1酸性糖タンパク質(AGP:α1−acid glycoprotein)、フェツイン(fetuin)、オボムコイド(ovomucoid)、イムノグロブリンG(IgG:immunoglobulin G)、およびチログロブリン(thyroglobulin)、由来の糖鎖混合物を用いることが好ましい。上記糖鎖ライブラリーは、多くの糖鎖の中でも、糖鎖結合性タンパク質と特異的に結合することによって、泳動結果に顕著な相違が認められる。そのため、上記糖鎖ライブラリーは、天然に存在する糖鎖結合性タンパク質の解析に特に適している。なお、糖タンパク質に由来する糖鎖混合物は、例えば、適当な酵素処理によって、容易に得られる。
解析測定の省力化、および、検出率の向上を図るためには、上記5つの糖鎖混合物ライブラリーのうち、少なくとも1つを用いることが好ましい。さらに、糖鎖結合性タンパク質判定工程の判定精度をより向上するためには、上記5つの糖鎖混合物ライブラリーによる分離結果を、複数組み合わせて、解析することが好ましい。これにより、糖鎖結合性タンパク質の判定精度が著しく高まり、糖鎖結合性タンパク質の検出率95%以上を確保することができる。
上記糖鎖混合物ライブラリーおよび糖鎖結合性タンパク質を用いることによって、糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の有無だけでなく、構造が不明な糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の構造解明や、分類を行うことも可能である。しかも、天然に存在する糖鎖または糖鎖結合性タンパク質を簡便に、ハイスループットで解析することが可能である。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
図1(a)〜図1(c)は、実施例1におけるα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図1(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図1(b)はα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の模式図であり、図1(c)は3種のレクチン(WGA、ConA、TGA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図2は、実施例1で用いたα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の構造を示した図である。
図3(a)〜図3(c)は、実施例2におけるフェツイン由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図3(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図3(b)はフェツイン由来の糖鎖の模式図であり、図3(c)は3種のレクチン(WGA、ConA、TGA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図4は、実施例2で用いたフェツイン由来の糖鎖の構造を示した図である。
図5(a)〜図5(c)は、実施例3におけるオボムコイド由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図5(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図5(b)はオボムコイド由来の糖鎖の模式図であり、図5(c)は3種のレクチン(PHA−E4、WGA、ConA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図6は、実施例3で用いたオボムコイド由来の糖鎖の構造を示した図である。
図7は、実施例4における糖鎖混合物に濃度を変化させてレクチン(WGA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図8は、図7の結果における(t−t1)−1と[P]−1との関係をプロットしたグラフである。
図9(a)〜図9(b)は、実施例5の結果を示す図であり、図9(a)はウシIgG由来の糖鎖の模式図であり、図9(b)はウシIgG由来の糖鎖に粗カビ抽出液の添加の有無による電気泳動の結果を示す図である。
図10は、各実施例の結果に基づいた、糖タンパク質由来の糖鎖のハイスループット機能分類を示した図である。
図11は、各実施例で用いたレクチンの濃度を示した図である。
図12(a)〜図12(c)は、実施例6におけるフェツイン由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図12(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図12(b)はフェツイン由来の糖鎖の模式図であり、図12(c)は3種のレクチン(TGA、MAM、SSA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図13は、実施例6で用いたフェツイン由来の糖鎖の構造を示した図である。
図14(a)〜図14(b)は、実施例7の結果を示す図であり、図14(a)はウシIgG由来の糖鎖のレクチン(RSL)添加の有無による電気泳動の結果を示す図であり、図14(b)はウシIgG由来の糖鎖の模式図である。
図15は、実施例8の結果を示す図であり、ブタチログロブリン由来の糖鎖の、レクチン(RSL)添加の有無による電気泳動の結果およびブタチログロブリン由来の糖鎖の模式図である。
図16は、実施例8で用いたブタチログロブリン由来の糖鎖の構造を示した図である。
図17(a)〜図17(b)は、実施例9の結果を示す図であり、図17(a)はα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の、レクチン(AAL)添加の有無による電気泳動の結果を示す図であり、図17(b)はα1酸性糖タンパク質の模式図である。
図18は、実施例9で用いたα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の構造を示した図である。
図2は、実施例1で用いたα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の構造を示した図である。
図3(a)〜図3(c)は、実施例2におけるフェツイン由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図3(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図3(b)はフェツイン由来の糖鎖の模式図であり、図3(c)は3種のレクチン(WGA、ConA、TGA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図4は、実施例2で用いたフェツイン由来の糖鎖の構造を示した図である。
図5(a)〜図5(c)は、実施例3におけるオボムコイド由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図5(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図5(b)はオボムコイド由来の糖鎖の模式図であり、図5(c)は3種のレクチン(PHA−E4、WGA、ConA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図6は、実施例3で用いたオボムコイド由来の糖鎖の構造を示した図である。
図7は、実施例4における糖鎖混合物に濃度を変化させてレクチン(WGA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図8は、図7の結果における(t−t1)−1と[P]−1との関係をプロットしたグラフである。
図9(a)〜図9(b)は、実施例5の結果を示す図であり、図9(a)はウシIgG由来の糖鎖の模式図であり、図9(b)はウシIgG由来の糖鎖に粗カビ抽出液の添加の有無による電気泳動の結果を示す図である。
図10は、各実施例の結果に基づいた、糖タンパク質由来の糖鎖のハイスループット機能分類を示した図である。
図11は、各実施例で用いたレクチンの濃度を示した図である。
図12(a)〜図12(c)は、実施例6におけるフェツイン由来の糖鎖のレクチン添加の有無による電気泳動の結果を示した図であり、図12(a)はレクチンを添加しない場合の電気泳動の結果を示した図であり、図12(b)はフェツイン由来の糖鎖の模式図であり、図12(c)は3種のレクチン(TGA、MAM、SSA)を添加した場合の電気泳動の結果を示した図である。
図13は、実施例6で用いたフェツイン由来の糖鎖の構造を示した図である。
図14(a)〜図14(b)は、実施例7の結果を示す図であり、図14(a)はウシIgG由来の糖鎖のレクチン(RSL)添加の有無による電気泳動の結果を示す図であり、図14(b)はウシIgG由来の糖鎖の模式図である。
図15は、実施例8の結果を示す図であり、ブタチログロブリン由来の糖鎖の、レクチン(RSL)添加の有無による電気泳動の結果およびブタチログロブリン由来の糖鎖の模式図である。
図16は、実施例8で用いたブタチログロブリン由来の糖鎖の構造を示した図である。
図17(a)〜図17(b)は、実施例9の結果を示す図であり、図17(a)はα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の、レクチン(AAL)添加の有無による電気泳動の結果を示す図であり、図17(b)はα1酸性糖タンパク質の模式図である。
図18は、実施例9で用いたα1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の構造を示した図である。
本発明の実施の一形態について、図1(a)ないし図18に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施形態では、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法を利用する一例として、当該測定方法を用いたスクリーニング方法について説明する。
本発明のスクリーニング方法は、(1)糖鎖のスクリーニング方法、(2)糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法を、糖鎖−タンパク質間相互作用の測定方法を用いて大規模に、しかも一斉にスクリーニングすることを可能とする方法である。両者のスクリーニング方法は、いずれも糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用に基づいている点では同様である。しかし、スクリーニングの対象とするものが、糖鎖であるか糖鎖結合性タンパク質であるかのみの違いである。
すなわち、上記(1)の糖鎖のスクリーニング方法は、糖鎖に対する特異性が知られている糖鎖結合性タンパク質と当該糖鎖結合性タンパク質が特異的に認識する糖鎖が含まれる可能性のある糖鎖混合物を含む試料とを組み合わせる糖鎖反応工程と、当該糖鎖混合物のみの分離結果と糖鎖反応工程後の反応混合物の分離結果とを比較することにより、糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無を判定する糖鎖判定工程とを含んでいる。
また、上記(2)の糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法は、任意のオリゴ糖混合物または糖鎖の組成が知られている糖タンパク質から得られる糖鎖混合物を糖鎖ライブラリーとして、このライブラリーと、細胞や組織などから得られた糖鎖結合性タンパク質が含まれる可能性のある試料とを組み合わせる糖鎖結合性タンパク質反応工程と、この糖鎖ライブラリーの糖鎖混合物のみの分離結果と糖鎖結合性タンパク質反応工程後の反応混合物の分離とを比較することにより、糖鎖ライブラリーと結合する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定する糖鎖結合性タンパク質判定工程とを含んでいる。
ここで上記「糖鎖結合性タンパク質」は、特定の糖鎖を特異的に認識し、結合するタンパク質である。そして、特定の糖鎖に対する特異性が知られている代表的な例としては、レクチン、または糖鎖抗体などが挙げられる。
また、上記「任意のオリゴ糖混合物」としては、特に限定されるものではないが、例えば、2本鎖、3本鎖、4本鎖オリゴ糖の混合物、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン類の消化により得られる、グリコサミノグリカン由来のオリゴ糖混合物を挙げることができる。
また、上記「糖タンパク質から調製される糖鎖の混合物」としては、特に限定されるものではないが、例えば、2本鎖、3本鎖、4本鎖およびルイスX型糖鎖の混合物からなるα1酸性糖タンパク質を、適当なグリコシダーゼ処理などによって調製される糖鎖混合物を挙げることができる。
上記糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、オリゴ糖の由来は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、動物、植物、微生物などから調製すればよい。
上記糖鎖反応工程および糖鎖結合性タンパク質反応工程を行う条件は、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質とが十分に反応し、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を形成できる条件であれば、特に限定されるものではない。
例えば、上記(1)のスクリーニング方法の場合、糖鎖反応工程は、後述するα1酸性糖タンパク質の糖鎖の相互作用を測定した実施例(図1(a)〜図1(c)参照)にも示すように、最初にレクチンが存在しない条件でα1酸性糖タンパク質の糖鎖を分析する。続いて、小麦胚芽レクチン(WGA)を添加した緩衝液を充填した溶融シリカ毛細管や表面修飾シリカ毛細管中、あるいはマイクロチップ中で目的の糖鎖結合性タンパク質から得られた糖鎖混合物の分析を行い、引き続き、タチナタ豆由来のレクチン(ConA)、そして、チューリップ由来のレクチン(TGA)を添加した緩衝液で分析を行う。ここでは、図1(c)に示したレクチン濃度を用いて分析を行っているが、これらの濃度に限定されるものではなく、糖鎖の組み合わせ、あるいは使用するレクチンの種類によって適宜変更すればよい。通常、ナノモル濃度(nM)〜ミリモル濃度(mM)濃度のレベルまで広い範囲で使用することができる。
このような糖鎖反応工程の終了後、糖鎖混合物にレクチンを添加した場合の分離結果と、添加しない場合の分離結果とを比較することにより、個々の糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との相互作用の有無を糖鎖判定工程により判定することができる。さらに、不明であった糖鎖および糖鎖結合性タンパク質が認識する糖鎖を明らかにすることもできる。
なお、本発明において使用する糖鎖に対する特異性が知られている糖鎖結合性タンパク質やレクチンの種類は、特に限定されるものではない。また、複数の種類のレクチンを任意に組み合わせて使用することが望ましい。すなわち、糖鎖判定工程では、レクチンを添加した場合の分離結果を、複数組み合わせて判定することが好ましい。例えば、小麦胚芽レクチン(WGA)、チューリップレクチン(TGA)、タチタナ豆レクチン(コンカナバリンA(ConA))などを添加した場合の分離結果を組み合わせてもよい。このように、複数のレクチンを添加した場合の分離結果を組み合わせれば、糖鎖混合物中の糖鎖の組成、構造、および機能などをより詳細に分類することができる。なお、上記のレクチンに限定されるものではなく、種々のレクチンを用いることができる。
また、このようなレクチンと反応するかどうかを分析する試料となる糖鎖混合物は、従来公知の方法によって調製すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィーによる分離、ゲル電気泳動により分離後、目的とする糖タンパク質を抽出したものを試料としてもよい。また、抽出した糖タンパク質をグリコシダーゼ処理などにより、糖鎖を分離したものを使用してもよい。
このように、上記(1)のスクリーニング方法によれば、例えば、生理的状態の変化に伴う糖鎖組成比の変化を網羅的にスクリーニングすることができる。したがって、疾病における糖タンパク質の糖鎖の構造変化、および経時的な糖鎖混合物の各糖鎖の組成変化を簡単に分析できる。また、糖鎖による翻訳後修飾の産物である糖タンパク質やプロテーオームなどの多種多様な生理活性や機能の解析に有用な、機能による糖鎖の分類を行うこともできる。
一方、上記(2)のスクリーニング方法の場合、糖鎖結合性タンパク質反応工程は、例えば、血液、細胞抽出液、または微生物由来の抽出液など、糖鎖結合性タンパク質を含む可能性のある緩衝溶液を充填した溶融シリカ毛細管や表面修飾シリカ毛細管中、または、マイクロチップ中で蛍光標識された任意のオリゴ糖混合物、または、糖鎖の組成(構造)が明らかになっている糖タンパク質から調製された糖鎖の混合物を、キャピラリーに導入して分離を行う。
そして、前述の(1)のスクリーニング方法と同様に、血液や細胞抽出液あるいは微生物由来の抽出液などを含む緩衝液溶液と、それらを含まない緩衝液溶液とにおける糖鎖混合物中の各オリゴ糖混合物の分離挙動を比較することにより、ある特定の糖鎖と結合する糖鎖結合性タンパク質の存在を容易に判定することができる。
例えば、後述の実施例に示すように、リソプス属のカビを粉砕し、キャピラリー電気泳動用緩衝液で抽出した抽出液を泳動用緩衝液とし、ウシイムノグロブリン(IgG)中に存在する糖鎖をライブラリーとして、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することができる(図9(b)参照)。なお、上記泳動用緩衝液には、リソプス属のカビに由来するレクチン(RSL)が含まれる。
本発明のスクリーニング方法において、以下に示すような処理を行ってもよい。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程は、キャピラリー電気泳動による泳動時間の差によって糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することが好ましい。
キャピラリー電気泳動は、各種電気泳動の中でも極めて分離精度がよい。その理由は、キャピラリー電気泳動は、電気泳動を非常に細かい石英、ガラス、または合成樹脂の毛細管で行う。通常、その毛細管の内径は、1〜数百μmである。毛細管を用いれば、熱が放散するので、他の電気泳動法よりも約10倍の電圧を印加することができる。これにより、短時間で試料を分離することができる。さらに、短時間で分離するので、拡散によるバンドの広がりが小さく、極めてよい分離が可能である。
さらに、少量の糖鎖混合物または糖鎖結合性タンパク質を含む試料であっても、精度よく分離することができる。このため、たとえ、測定する試料が少量であっても、試料中の測定対象物の有無(すなわち、試料中の糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の有無)を精度よく判定することができる。
その上、キャピラリー電気泳動は、HPLCと同様に自動測定が可能である。それゆえ、キャピラリー電気泳動は、本発明を自動化する上で、特に適している。このように、キャピラリー電気泳動による分離を行うことにより、本発明のスクリーニング方法の精度や信頼性をより一層向上させることができ、その上、自動測定も可能となる。
上記泳動時間の差により判定する以外にも、例えば、後述の実施例に示すように、キャピラリー電気泳動の結果得られたチャートを比較することによっても、簡便に糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の有無が明らかになる。しかも、チャートを比較することによって、不明であった糖鎖および糖鎖結合性タンパク質が認識する糖鎖を明らかにすることもできる。
上記糖鎖反応工程および糖鎖結合性タンパク質反応工程の前に、上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質がシアル酸残基を含む場合に、当該シアル酸残基が除去する工程を含んでいてもよい。
換言すれば、上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質を、アシアロ糖鎖またはアシアロ糖タンパク質にする工程を含んでいてもよいということもできる。糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の中には、シアル酸を含むことにより安定に存在するものもある。そして、このシアル酸を除去することにより、糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の性質が大きく変化することもある。したがって、本発明においても、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質のシアル酸残基を除去する工程を含むことにより、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用が、より一層強固なものとなる場合がある。これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、および糖鎖−糖鎖結合性タンパク質を一層精度よく分離することができる。すなわち、糖鎖判定工程および糖鎖結合性タンパク質判定工程における、判定の信頼性が一層向上する。
また、例えば、肝臓実質性細胞表面には、アシアロ糖タンパク質を特異的に認識して細胞内に取り込む(エンドサイト−シス)受容体が存在する。このため、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法を用いることにより、このようなアシアロ糖タンパク質受容体を標的とする薬剤の開発に応用することもできる。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖混合物の糖鎖は、標識されていてもよい。
標識の方法としては、特に限定されるものではなく、分離方法によって適宜設定すればよい。例えば、蛍光物質、酵素類、放射性同位元素、発光性物質、紫外吸収物質、スピンラベル化剤、などを糖鎖に結合させた後分離すればよい。これらの標識物質は、従来公知の試薬を使用することができる。例えば、後述の実施例では、糖鎖をAPTS(9−アミノピレン−1、4、6トリスルフォネート)によって蛍光標識している。これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を一層容易に分離することができる。なお、糖鎖の蛍光標識試薬としては、APTSの他にも2−アミノ安息香酸などのアミノベンゼン誘導体、2−アミノピリジンやアミノナフタレン誘導体なども使用することができる。
このように、標識された糖鎖の誘導体は、例えば、蛍光検出装置としてヘリウム−カドミウムレーザー励起蛍光検出器などを使用して容易に高感度で検出できる。すなわち、糖鎖を標識して誘導体とし、電気泳動とレーザー励起蛍光法(LIF)とを組み合わせた方法を用いれば、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を一層容易に分離検出することができる。
本発明のスクリーニング方法において、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物が、支持体に固定されていてもよい。換言すれば、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物は、例えば、基板に高密度に固定された、マイクロチップ、マイクロアレイ、マクロアレイとなっていてもよい。これにより、非常に多くの試料を同時に、しかも短時間でスクリーニングすることができる。
以上、本発明のスクリーニング方法について説明したが、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法においては、例えば、特異的に認識する糖鎖が既知の糖鎖結合性タンパク質や構造既知の糖鎖混合物が用いられればよい。しかし、実用上、例えば、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質との反応性が向上するような測定用試薬として調製されていることがより好ましい。
また、本発明の測定用試薬は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を容易に測定できるので、糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の生理活性および機能解析の分野における、基礎研究用試薬として利用できる。さらに、糖鎖工学分野の食料・医薬品・診断薬の開発においても有用である。
なお、本発明の測定試薬には、さらに、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質とが反応しやすくするための試薬;分離の精度や信頼性を向上させるための試薬;測定用試薬としての利便性や保存性を向上させるための試薬などを含むものであってもよい。
例えば、糖鎖の分離を向上させるための糖鎖結合性タンパク質として、フコースに対して特異性を示すヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、ガラクトースに対して特異性を示すマッシュルームレクチン、オリゴ糖鎖の末端部分に対して特異性を示すレンチルレクチン、コア5糖に対する特異性を示すサフランレクチン、ニホンニワトコレクチン(SSA)、イヌエンジュレクチン(MAM)、リゾプスカビレクチンなど多くの市販されているレクチン、認識する糖鎖が明らかな公知のレクチンなどを使用することができる。
また、糖鎖結合性タンパク質の発見用の糖鎖ライブラリーとしては、後述の実施例で使用したα1酸性糖タンパク質、フェツイン、鶏卵白オボムコイド、IgG、チログロブリンの他にも、例えば、大量に入手できる2本鎖糖鎖の部分酵素分解によって得られる糖鎖の混合物などをライブラリーとして使用することもできる。
なお、上記糖鎖結合性タンパク質および糖鎖ライブラリーの由来は、特に限定されるものではない。
また、本発明では、上記測定用試薬を他の薬剤、分離のための試薬、分離のための媒体などと組み合わせて、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定キットとすることが非常に好ましい。
本発明の測定試薬をキット化しておけば、機能が未知の糖鎖や糖鎖結合性タンパク質を含む試料を得るだけで、本発明の測定方法を容易に実施することができる。これにより、本発明の測定方法に要する時間を大幅に短縮することができ、短時間でより多くの試料の測定を行うことができる。
さらに多くの細胞試料や組織試料中の糖鎖−タンパク質間相互作用を一斉に、かつ網羅的に測定するには、例えば、複数の測定結果を高速度処理するための分析回路を有する装置の利用や、マイクロチップ化を利用すればよい。
例えば、スライドグラス程度の大きさの基板に、10本〜20本の溝(幅50μm、深さ50μm、長さ5cm)のチップを備えたシステムにより、同時に10〜20個の未知試料を解析することができる。さらに、複数の分析回路を備えることにより、この装置の大規模化のみではなく、高速分析も可能となる。加えて、相互作用解析間のデータのバイアスを減少させることができ、分析の信頼性を向上させることができる。
以上のように、本発明は、糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質を用いて、構造が複雑な糖鎖の混合物の分離と、各糖鎖の構造解析とを同時に行うことを特徴としている。また、本発明は、糖鎖混合物を用いて、その糖鎖混合物に特異的に結合する天然の糖鎖結合性タンパク質を解析することを特徴としている。また、本発明は、天然に存在する糖鎖結合性タンパク質または糖鎖を、簡便に、しかもハイスループット解析することを特徴としている。
したがって、従来のように、オリゴ糖のような単純な糖を分析するものとは全く異なる。また、糖鎖に特異性を示さない、単なる糖タンパク質を用いて分析するものとも異なる。
本発明の利点を挙げれば、以下のとおりである。
1.本発明は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定により、糖鎖を機能によって分類し、糖鎖混合物をスクリーニングする方法を提供できる。これにより、細胞表面の糖鎖の変化や体液中に存在する糖タンパク質の糖鎖の変化を、極めて簡便かつ精度よく測定することができる。したがって、糖鎖の変化を指標とする臨床検査法や細胞表面膜成分中の糖鎖変化を指標とする病態マーカーの発見につながるものと期待される。また、病態時の糖鎖の変化を指標として、医薬品候補化合物を添加した条件で、糖鎖の変化を経時的に追跡すれば、新規医薬品を開発する上で、非常に重要な方法となる。
2.さらに、本発明は、糖鎖の測定法を利用して血液や細胞等に存在する糖鎖に特異的に結合する糖タンパク質の分析にも拡張することができる。例えば、組成の明らかな糖タンパク質の糖鎖混合物、あるいは任意のオリゴ糖混合物をライブラリーとして使用することにより、ライブラリー中の糖鎖と特異的に結合する未知の糖鎖結合性タンパク質を容易に見出すことができる。
ところで、炎症マーカー、ガン浸潤における複合糖質の関与など、糖鎖が関与する様々な現象が報告されている。しかし、これらの糖鎖を認識する糖鎖結合性タンパク質については未解明な部分が多い。本発明の糖鎖結合性タンパク質の簡便なスクリーニング方法によれば、このような糖鎖結合性タンパク質のより詳細な作用や機能の解析を行うことができる。
なお、現在多くの生物ゲノムの解析が進行し、ゲノムに基づいたタンパク質の解析が国家的プロジェクトとして進行中であり、新薬の開発の国際的な競争が進行中である。
本発明は、ゲノムに基づいたタンパク質解析の次に必要とされる技術であり、遺伝子の制御によりその生合成を直接微妙に調整することが困難な糖鎖工学に関する技術である。本発明で使用される糖鎖のライブラリー、レクチンの組み合わせは、本発明の実施例にとどまるものではなく、基本的ないくつかの組み合わせを用いて、溶液内で分離と相互作用との測定を同時に行うという独創的な方式を取ることにより、多数の分析回路を有するマイクロチップによる一斉相互作用測定法と組み合わせて、糖鎖の微妙な違いを正確に反映した糖鎖−糖鎖結合性タンパク質相互作用を観察することができる。
本発明のレクチンを組み合わせる糖鎖−糖鎖結合性タンパク質間相互作用測定により、これまで知られていなかった糖鎖異常に基づく遺伝病や癌診断、あるいは炎症診断が可能となる。また、糖鎖ライブラリーを使用することにより、細胞表面や血液、細胞間組織などに関連する糖鎖結合性タンパク質の量、組成比の変化を正確に追跡することができる。
以上のように、本発明によれば、(a)糖鎖結合性タンパク質ライブラリーを用いた糖鎖の迅速分離・分類、または、糖鎖ライブラリーを用いた糖鎖結合性タンパク質の迅速分離・分類、(b)糖鎖ライブラリーを用いる糖鎖結合性タンパク質の確認同定に利用できる。
すなわち、(1)キャピラリー電気泳動装置を用いて、上記糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(例えば、レクチンライブラリー)を用いることにより、標準試料の分析を含めても、各分析が10分以内で完了するので、長くとも3時間以内で糖鎖の迅速分離・分類が完了する。従来は、糖鎖混合物から糖鎖を精製し、精製された各糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との相互作用を測定していた。それゆえ、精製の困難な糖鎖については相互作用の測定が不可能であったり、月単位の測定期間が必要とされるといった問題があった。
これに対し、本発明によれば、1)糖鎖の精製の必要がない、2)標準糖鎖の分析を含めても各分析が10分以内で完了するので、すべてのレクチンのセットを使っても3時間以内で分析が完了する。従って、従来技術と比べて100倍以上の効率化が可能となった。
(2)多流路キャピラリー電気泳動あるいは多流路マイクロチップ電気泳動装置を用いて、糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(Con A,WGA、TGA,PHA−E4,RSL,AAL,SSA,およびMAM)が含まれる緩衝液を電気泳動用緩衝液として、未知糖鎖試料を分析することにより、未知糖鎖試料と標準糖鎖ライブラリーの糖鎖との泳動挙動の比較により、生体成分中の未知糖鎖あるいはその混合物を、容易に、しかも秒単位で決定できるようになる。
(3)多流路キャピラリー電気泳動あるいは多流路マイクロチップ電気泳動装置を用いて、標準糖鎖ライブラリー(AGP、Fetuin,Ovomucoid,IgGおよびチログロブリン)を用いて、植物や動物などに由来する糖鎖結合性タンパク質、あるいは、植物や動物からの抽出液中に含まれる糖鎖結合性タンパク質の糖鎖結合特異性を容易に決定できる。
本発明は、以下のように応用することも可能である。
(1)未知糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の発見
現在、多くのベンチャー企業がマイクロアレイ技術を利用して糖鎖チップやレクチンチップの開発を行い、未知試料中の糖鎖や糖鎖結合性タンパク質を解析するための技術の開発に挑戦している。この技術は、糖鎖ならびに糖鎖結合性タンパク質が関与する疾病の解析、あるいは、その疾病の新規治療薬の開発に必須の技術である。しかし、チップ上に固定化する糖鎖は、化学合成が極めて困難である。このため、可能性のあるすべての糖鎖の合成、あるいは、生体試料から必要な糖鎖を精製し準備するのは、膨大なコストと労力を要するため、事実上不可能である。また、現在までに報告されている、活性が類似したレクチンを分類してチップ上に並べることも、糖鎖に対する微妙な相互作用をアレイ上で区別することが困難であることが予測される。本発明は、このような問題を克服するために、長期にわたる基礎的な研究の結果考案された技術であり、上記の糖鎖結合性タンパク質ライブラリーと糖鎖ライブラリーとを利用することにより、生体中に存在するほぼすべての糖鎖の分析・分類、並びに糖鎖結合性タンパク質と糖鎖との結合性確認に利用できる。
(2)糖鎖と糖鎖結合性タンパク質間の相互作用解析の反応速度論解析への応用
糖鎖と糖鎖結合性タンパク質間の相互作用の親和性はmM〜nMにわたり、極めて広範囲に及ぶ。特に、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質の弱い親和性は、生体の微妙な機能調節に重要である。本発明では、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質間の相互作用について、強い親和性から弱い親和性に至るまで広く対応できる。特に、弱い親和性と強い親和性を持つ糖鎖の混合物であっても、混合物のまま、個々の糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との相互作用を一斉解析できる利点を有する。
さらに、親和性の異なる未知の糖鎖結合性タンパク質の混合物の場合も、上記糖鎖ライブラリーを標準糖鎖混合物として使用することにより、混合物のまま、個々の糖鎖結合性タンパク質の特性を確認することができる。
(3)糖鎖チップやレクチンチップ開発のための糖鎖やレクチン選択のための手段
例えば、糖鎖関連遺伝子異常による糖鎖異常に基づく遺伝子疾患の早期発見やO−157などの食中毒菌毒素の検出やインフルエンザウイルス検出などの病原体検出、あるいは生体組織移植による適合性検討のための血液型(糖鎖特異的)抗原検出のための糖鎖結合性タンパク質や抗体検出などへの適用が期待される。
これらの分野は、マイクロアレイの適用も期待される分野であるが、上記糖鎖ライブラリーと糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(レクチンライブラリー)を用いることにより、マイクロアレイ技術で追跡できない微妙な変化にも対応できるため、より精密な解析が可能となる。
なお、マイクロアレイ上に配置する糖鎖ならびに糖鎖結合性タンパク質は、本発明を利用することにより、適切な糖鎖結合性タンパク質や糖鎖のセットを選択するための有力な手段にもなる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本実施形態では、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法を利用する一例として、当該測定方法を用いたスクリーニング方法について説明する。
本発明のスクリーニング方法は、(1)糖鎖のスクリーニング方法、(2)糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法を、糖鎖−タンパク質間相互作用の測定方法を用いて大規模に、しかも一斉にスクリーニングすることを可能とする方法である。両者のスクリーニング方法は、いずれも糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用に基づいている点では同様である。しかし、スクリーニングの対象とするものが、糖鎖であるか糖鎖結合性タンパク質であるかのみの違いである。
すなわち、上記(1)の糖鎖のスクリーニング方法は、糖鎖に対する特異性が知られている糖鎖結合性タンパク質と当該糖鎖結合性タンパク質が特異的に認識する糖鎖が含まれる可能性のある糖鎖混合物を含む試料とを組み合わせる糖鎖反応工程と、当該糖鎖混合物のみの分離結果と糖鎖反応工程後の反応混合物の分離結果とを比較することにより、糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無を判定する糖鎖判定工程とを含んでいる。
また、上記(2)の糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法は、任意のオリゴ糖混合物または糖鎖の組成が知られている糖タンパク質から得られる糖鎖混合物を糖鎖ライブラリーとして、このライブラリーと、細胞や組織などから得られた糖鎖結合性タンパク質が含まれる可能性のある試料とを組み合わせる糖鎖結合性タンパク質反応工程と、この糖鎖ライブラリーの糖鎖混合物のみの分離結果と糖鎖結合性タンパク質反応工程後の反応混合物の分離とを比較することにより、糖鎖ライブラリーと結合する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定する糖鎖結合性タンパク質判定工程とを含んでいる。
ここで上記「糖鎖結合性タンパク質」は、特定の糖鎖を特異的に認識し、結合するタンパク質である。そして、特定の糖鎖に対する特異性が知られている代表的な例としては、レクチン、または糖鎖抗体などが挙げられる。
また、上記「任意のオリゴ糖混合物」としては、特に限定されるものではないが、例えば、2本鎖、3本鎖、4本鎖オリゴ糖の混合物、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン類の消化により得られる、グリコサミノグリカン由来のオリゴ糖混合物を挙げることができる。
また、上記「糖タンパク質から調製される糖鎖の混合物」としては、特に限定されるものではないが、例えば、2本鎖、3本鎖、4本鎖およびルイスX型糖鎖の混合物からなるα1酸性糖タンパク質を、適当なグリコシダーゼ処理などによって調製される糖鎖混合物を挙げることができる。
上記糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、オリゴ糖の由来は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、動物、植物、微生物などから調製すればよい。
上記糖鎖反応工程および糖鎖結合性タンパク質反応工程を行う条件は、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質とが十分に反応し、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を形成できる条件であれば、特に限定されるものではない。
例えば、上記(1)のスクリーニング方法の場合、糖鎖反応工程は、後述するα1酸性糖タンパク質の糖鎖の相互作用を測定した実施例(図1(a)〜図1(c)参照)にも示すように、最初にレクチンが存在しない条件でα1酸性糖タンパク質の糖鎖を分析する。続いて、小麦胚芽レクチン(WGA)を添加した緩衝液を充填した溶融シリカ毛細管や表面修飾シリカ毛細管中、あるいはマイクロチップ中で目的の糖鎖結合性タンパク質から得られた糖鎖混合物の分析を行い、引き続き、タチナタ豆由来のレクチン(ConA)、そして、チューリップ由来のレクチン(TGA)を添加した緩衝液で分析を行う。ここでは、図1(c)に示したレクチン濃度を用いて分析を行っているが、これらの濃度に限定されるものではなく、糖鎖の組み合わせ、あるいは使用するレクチンの種類によって適宜変更すればよい。通常、ナノモル濃度(nM)〜ミリモル濃度(mM)濃度のレベルまで広い範囲で使用することができる。
このような糖鎖反応工程の終了後、糖鎖混合物にレクチンを添加した場合の分離結果と、添加しない場合の分離結果とを比較することにより、個々の糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との相互作用の有無を糖鎖判定工程により判定することができる。さらに、不明であった糖鎖および糖鎖結合性タンパク質が認識する糖鎖を明らかにすることもできる。
なお、本発明において使用する糖鎖に対する特異性が知られている糖鎖結合性タンパク質やレクチンの種類は、特に限定されるものではない。また、複数の種類のレクチンを任意に組み合わせて使用することが望ましい。すなわち、糖鎖判定工程では、レクチンを添加した場合の分離結果を、複数組み合わせて判定することが好ましい。例えば、小麦胚芽レクチン(WGA)、チューリップレクチン(TGA)、タチタナ豆レクチン(コンカナバリンA(ConA))などを添加した場合の分離結果を組み合わせてもよい。このように、複数のレクチンを添加した場合の分離結果を組み合わせれば、糖鎖混合物中の糖鎖の組成、構造、および機能などをより詳細に分類することができる。なお、上記のレクチンに限定されるものではなく、種々のレクチンを用いることができる。
また、このようなレクチンと反応するかどうかを分析する試料となる糖鎖混合物は、従来公知の方法によって調製すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィーによる分離、ゲル電気泳動により分離後、目的とする糖タンパク質を抽出したものを試料としてもよい。また、抽出した糖タンパク質をグリコシダーゼ処理などにより、糖鎖を分離したものを使用してもよい。
このように、上記(1)のスクリーニング方法によれば、例えば、生理的状態の変化に伴う糖鎖組成比の変化を網羅的にスクリーニングすることができる。したがって、疾病における糖タンパク質の糖鎖の構造変化、および経時的な糖鎖混合物の各糖鎖の組成変化を簡単に分析できる。また、糖鎖による翻訳後修飾の産物である糖タンパク質やプロテーオームなどの多種多様な生理活性や機能の解析に有用な、機能による糖鎖の分類を行うこともできる。
一方、上記(2)のスクリーニング方法の場合、糖鎖結合性タンパク質反応工程は、例えば、血液、細胞抽出液、または微生物由来の抽出液など、糖鎖結合性タンパク質を含む可能性のある緩衝溶液を充填した溶融シリカ毛細管や表面修飾シリカ毛細管中、または、マイクロチップ中で蛍光標識された任意のオリゴ糖混合物、または、糖鎖の組成(構造)が明らかになっている糖タンパク質から調製された糖鎖の混合物を、キャピラリーに導入して分離を行う。
そして、前述の(1)のスクリーニング方法と同様に、血液や細胞抽出液あるいは微生物由来の抽出液などを含む緩衝液溶液と、それらを含まない緩衝液溶液とにおける糖鎖混合物中の各オリゴ糖混合物の分離挙動を比較することにより、ある特定の糖鎖と結合する糖鎖結合性タンパク質の存在を容易に判定することができる。
例えば、後述の実施例に示すように、リソプス属のカビを粉砕し、キャピラリー電気泳動用緩衝液で抽出した抽出液を泳動用緩衝液とし、ウシイムノグロブリン(IgG)中に存在する糖鎖をライブラリーとして、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することができる(図9(b)参照)。なお、上記泳動用緩衝液には、リソプス属のカビに由来するレクチン(RSL)が含まれる。
本発明のスクリーニング方法において、以下に示すような処理を行ってもよい。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程は、キャピラリー電気泳動による泳動時間の差によって糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することが好ましい。
キャピラリー電気泳動は、各種電気泳動の中でも極めて分離精度がよい。その理由は、キャピラリー電気泳動は、電気泳動を非常に細かい石英、ガラス、または合成樹脂の毛細管で行う。通常、その毛細管の内径は、1〜数百μmである。毛細管を用いれば、熱が放散するので、他の電気泳動法よりも約10倍の電圧を印加することができる。これにより、短時間で試料を分離することができる。さらに、短時間で分離するので、拡散によるバンドの広がりが小さく、極めてよい分離が可能である。
さらに、少量の糖鎖混合物または糖鎖結合性タンパク質を含む試料であっても、精度よく分離することができる。このため、たとえ、測定する試料が少量であっても、試料中の測定対象物の有無(すなわち、試料中の糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の有無)を精度よく判定することができる。
その上、キャピラリー電気泳動は、HPLCと同様に自動測定が可能である。それゆえ、キャピラリー電気泳動は、本発明を自動化する上で、特に適している。このように、キャピラリー電気泳動による分離を行うことにより、本発明のスクリーニング方法の精度や信頼性をより一層向上させることができ、その上、自動測定も可能となる。
上記泳動時間の差により判定する以外にも、例えば、後述の実施例に示すように、キャピラリー電気泳動の結果得られたチャートを比較することによっても、簡便に糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の有無が明らかになる。しかも、チャートを比較することによって、不明であった糖鎖および糖鎖結合性タンパク質が認識する糖鎖を明らかにすることもできる。
上記糖鎖反応工程および糖鎖結合性タンパク質反応工程の前に、上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質がシアル酸残基を含む場合に、当該シアル酸残基が除去する工程を含んでいてもよい。
換言すれば、上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質を、アシアロ糖鎖またはアシアロ糖タンパク質にする工程を含んでいてもよいということもできる。糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の中には、シアル酸を含むことにより安定に存在するものもある。そして、このシアル酸を除去することにより、糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の性質が大きく変化することもある。したがって、本発明においても、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質のシアル酸残基を除去する工程を含むことにより、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用が、より一層強固なものとなる場合がある。これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、および糖鎖−糖鎖結合性タンパク質を一層精度よく分離することができる。すなわち、糖鎖判定工程および糖鎖結合性タンパク質判定工程における、判定の信頼性が一層向上する。
また、例えば、肝臓実質性細胞表面には、アシアロ糖タンパク質を特異的に認識して細胞内に取り込む(エンドサイト−シス)受容体が存在する。このため、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法を用いることにより、このようなアシアロ糖タンパク質受容体を標的とする薬剤の開発に応用することもできる。
本発明のスクリーニング方法において、上記糖鎖混合物の糖鎖は、標識されていてもよい。
標識の方法としては、特に限定されるものではなく、分離方法によって適宜設定すればよい。例えば、蛍光物質、酵素類、放射性同位元素、発光性物質、紫外吸収物質、スピンラベル化剤、などを糖鎖に結合させた後分離すればよい。これらの標識物質は、従来公知の試薬を使用することができる。例えば、後述の実施例では、糖鎖をAPTS(9−アミノピレン−1、4、6トリスルフォネート)によって蛍光標識している。これにより、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を一層容易に分離することができる。なお、糖鎖の蛍光標識試薬としては、APTSの他にも2−アミノ安息香酸などのアミノベンゼン誘導体、2−アミノピリジンやアミノナフタレン誘導体なども使用することができる。
このように、標識された糖鎖の誘導体は、例えば、蛍光検出装置としてヘリウム−カドミウムレーザー励起蛍光検出器などを使用して容易に高感度で検出できる。すなわち、糖鎖を標識して誘導体とし、電気泳動とレーザー励起蛍光法(LIF)とを組み合わせた方法を用いれば、糖鎖、糖鎖結合性タンパク質、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体を一層容易に分離検出することができる。
本発明のスクリーニング方法において、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物が、支持体に固定されていてもよい。換言すれば、上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物は、例えば、基板に高密度に固定された、マイクロチップ、マイクロアレイ、マクロアレイとなっていてもよい。これにより、非常に多くの試料を同時に、しかも短時間でスクリーニングすることができる。
以上、本発明のスクリーニング方法について説明したが、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法においては、例えば、特異的に認識する糖鎖が既知の糖鎖結合性タンパク質や構造既知の糖鎖混合物が用いられればよい。しかし、実用上、例えば、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質との反応性が向上するような測定用試薬として調製されていることがより好ましい。
また、本発明の測定用試薬は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を容易に測定できるので、糖鎖や糖鎖結合性タンパク質の生理活性および機能解析の分野における、基礎研究用試薬として利用できる。さらに、糖鎖工学分野の食料・医薬品・診断薬の開発においても有用である。
なお、本発明の測定試薬には、さらに、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質とが反応しやすくするための試薬;分離の精度や信頼性を向上させるための試薬;測定用試薬としての利便性や保存性を向上させるための試薬などを含むものであってもよい。
例えば、糖鎖の分離を向上させるための糖鎖結合性タンパク質として、フコースに対して特異性を示すヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、ガラクトースに対して特異性を示すマッシュルームレクチン、オリゴ糖鎖の末端部分に対して特異性を示すレンチルレクチン、コア5糖に対する特異性を示すサフランレクチン、ニホンニワトコレクチン(SSA)、イヌエンジュレクチン(MAM)、リゾプスカビレクチンなど多くの市販されているレクチン、認識する糖鎖が明らかな公知のレクチンなどを使用することができる。
また、糖鎖結合性タンパク質の発見用の糖鎖ライブラリーとしては、後述の実施例で使用したα1酸性糖タンパク質、フェツイン、鶏卵白オボムコイド、IgG、チログロブリンの他にも、例えば、大量に入手できる2本鎖糖鎖の部分酵素分解によって得られる糖鎖の混合物などをライブラリーとして使用することもできる。
なお、上記糖鎖結合性タンパク質および糖鎖ライブラリーの由来は、特に限定されるものではない。
また、本発明では、上記測定用試薬を他の薬剤、分離のための試薬、分離のための媒体などと組み合わせて、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定キットとすることが非常に好ましい。
本発明の測定試薬をキット化しておけば、機能が未知の糖鎖や糖鎖結合性タンパク質を含む試料を得るだけで、本発明の測定方法を容易に実施することができる。これにより、本発明の測定方法に要する時間を大幅に短縮することができ、短時間でより多くの試料の測定を行うことができる。
さらに多くの細胞試料や組織試料中の糖鎖−タンパク質間相互作用を一斉に、かつ網羅的に測定するには、例えば、複数の測定結果を高速度処理するための分析回路を有する装置の利用や、マイクロチップ化を利用すればよい。
例えば、スライドグラス程度の大きさの基板に、10本〜20本の溝(幅50μm、深さ50μm、長さ5cm)のチップを備えたシステムにより、同時に10〜20個の未知試料を解析することができる。さらに、複数の分析回路を備えることにより、この装置の大規模化のみではなく、高速分析も可能となる。加えて、相互作用解析間のデータのバイアスを減少させることができ、分析の信頼性を向上させることができる。
以上のように、本発明は、糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質を用いて、構造が複雑な糖鎖の混合物の分離と、各糖鎖の構造解析とを同時に行うことを特徴としている。また、本発明は、糖鎖混合物を用いて、その糖鎖混合物に特異的に結合する天然の糖鎖結合性タンパク質を解析することを特徴としている。また、本発明は、天然に存在する糖鎖結合性タンパク質または糖鎖を、簡便に、しかもハイスループット解析することを特徴としている。
したがって、従来のように、オリゴ糖のような単純な糖を分析するものとは全く異なる。また、糖鎖に特異性を示さない、単なる糖タンパク質を用いて分析するものとも異なる。
本発明の利点を挙げれば、以下のとおりである。
1.本発明は、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定により、糖鎖を機能によって分類し、糖鎖混合物をスクリーニングする方法を提供できる。これにより、細胞表面の糖鎖の変化や体液中に存在する糖タンパク質の糖鎖の変化を、極めて簡便かつ精度よく測定することができる。したがって、糖鎖の変化を指標とする臨床検査法や細胞表面膜成分中の糖鎖変化を指標とする病態マーカーの発見につながるものと期待される。また、病態時の糖鎖の変化を指標として、医薬品候補化合物を添加した条件で、糖鎖の変化を経時的に追跡すれば、新規医薬品を開発する上で、非常に重要な方法となる。
2.さらに、本発明は、糖鎖の測定法を利用して血液や細胞等に存在する糖鎖に特異的に結合する糖タンパク質の分析にも拡張することができる。例えば、組成の明らかな糖タンパク質の糖鎖混合物、あるいは任意のオリゴ糖混合物をライブラリーとして使用することにより、ライブラリー中の糖鎖と特異的に結合する未知の糖鎖結合性タンパク質を容易に見出すことができる。
ところで、炎症マーカー、ガン浸潤における複合糖質の関与など、糖鎖が関与する様々な現象が報告されている。しかし、これらの糖鎖を認識する糖鎖結合性タンパク質については未解明な部分が多い。本発明の糖鎖結合性タンパク質の簡便なスクリーニング方法によれば、このような糖鎖結合性タンパク質のより詳細な作用や機能の解析を行うことができる。
なお、現在多くの生物ゲノムの解析が進行し、ゲノムに基づいたタンパク質の解析が国家的プロジェクトとして進行中であり、新薬の開発の国際的な競争が進行中である。
本発明は、ゲノムに基づいたタンパク質解析の次に必要とされる技術であり、遺伝子の制御によりその生合成を直接微妙に調整することが困難な糖鎖工学に関する技術である。本発明で使用される糖鎖のライブラリー、レクチンの組み合わせは、本発明の実施例にとどまるものではなく、基本的ないくつかの組み合わせを用いて、溶液内で分離と相互作用との測定を同時に行うという独創的な方式を取ることにより、多数の分析回路を有するマイクロチップによる一斉相互作用測定法と組み合わせて、糖鎖の微妙な違いを正確に反映した糖鎖−糖鎖結合性タンパク質相互作用を観察することができる。
本発明のレクチンを組み合わせる糖鎖−糖鎖結合性タンパク質間相互作用測定により、これまで知られていなかった糖鎖異常に基づく遺伝病や癌診断、あるいは炎症診断が可能となる。また、糖鎖ライブラリーを使用することにより、細胞表面や血液、細胞間組織などに関連する糖鎖結合性タンパク質の量、組成比の変化を正確に追跡することができる。
以上のように、本発明によれば、(a)糖鎖結合性タンパク質ライブラリーを用いた糖鎖の迅速分離・分類、または、糖鎖ライブラリーを用いた糖鎖結合性タンパク質の迅速分離・分類、(b)糖鎖ライブラリーを用いる糖鎖結合性タンパク質の確認同定に利用できる。
すなわち、(1)キャピラリー電気泳動装置を用いて、上記糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(例えば、レクチンライブラリー)を用いることにより、標準試料の分析を含めても、各分析が10分以内で完了するので、長くとも3時間以内で糖鎖の迅速分離・分類が完了する。従来は、糖鎖混合物から糖鎖を精製し、精製された各糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との相互作用を測定していた。それゆえ、精製の困難な糖鎖については相互作用の測定が不可能であったり、月単位の測定期間が必要とされるといった問題があった。
これに対し、本発明によれば、1)糖鎖の精製の必要がない、2)標準糖鎖の分析を含めても各分析が10分以内で完了するので、すべてのレクチンのセットを使っても3時間以内で分析が完了する。従って、従来技術と比べて100倍以上の効率化が可能となった。
(2)多流路キャピラリー電気泳動あるいは多流路マイクロチップ電気泳動装置を用いて、糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(Con A,WGA、TGA,PHA−E4,RSL,AAL,SSA,およびMAM)が含まれる緩衝液を電気泳動用緩衝液として、未知糖鎖試料を分析することにより、未知糖鎖試料と標準糖鎖ライブラリーの糖鎖との泳動挙動の比較により、生体成分中の未知糖鎖あるいはその混合物を、容易に、しかも秒単位で決定できるようになる。
(3)多流路キャピラリー電気泳動あるいは多流路マイクロチップ電気泳動装置を用いて、標準糖鎖ライブラリー(AGP、Fetuin,Ovomucoid,IgGおよびチログロブリン)を用いて、植物や動物などに由来する糖鎖結合性タンパク質、あるいは、植物や動物からの抽出液中に含まれる糖鎖結合性タンパク質の糖鎖結合特異性を容易に決定できる。
本発明は、以下のように応用することも可能である。
(1)未知糖鎖および糖鎖結合性タンパク質の発見
現在、多くのベンチャー企業がマイクロアレイ技術を利用して糖鎖チップやレクチンチップの開発を行い、未知試料中の糖鎖や糖鎖結合性タンパク質を解析するための技術の開発に挑戦している。この技術は、糖鎖ならびに糖鎖結合性タンパク質が関与する疾病の解析、あるいは、その疾病の新規治療薬の開発に必須の技術である。しかし、チップ上に固定化する糖鎖は、化学合成が極めて困難である。このため、可能性のあるすべての糖鎖の合成、あるいは、生体試料から必要な糖鎖を精製し準備するのは、膨大なコストと労力を要するため、事実上不可能である。また、現在までに報告されている、活性が類似したレクチンを分類してチップ上に並べることも、糖鎖に対する微妙な相互作用をアレイ上で区別することが困難であることが予測される。本発明は、このような問題を克服するために、長期にわたる基礎的な研究の結果考案された技術であり、上記の糖鎖結合性タンパク質ライブラリーと糖鎖ライブラリーとを利用することにより、生体中に存在するほぼすべての糖鎖の分析・分類、並びに糖鎖結合性タンパク質と糖鎖との結合性確認に利用できる。
(2)糖鎖と糖鎖結合性タンパク質間の相互作用解析の反応速度論解析への応用
糖鎖と糖鎖結合性タンパク質間の相互作用の親和性はmM〜nMにわたり、極めて広範囲に及ぶ。特に、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質の弱い親和性は、生体の微妙な機能調節に重要である。本発明では、糖鎖と糖鎖結合性タンパク質間の相互作用について、強い親和性から弱い親和性に至るまで広く対応できる。特に、弱い親和性と強い親和性を持つ糖鎖の混合物であっても、混合物のまま、個々の糖鎖と糖鎖結合性タンパク質との相互作用を一斉解析できる利点を有する。
さらに、親和性の異なる未知の糖鎖結合性タンパク質の混合物の場合も、上記糖鎖ライブラリーを標準糖鎖混合物として使用することにより、混合物のまま、個々の糖鎖結合性タンパク質の特性を確認することができる。
(3)糖鎖チップやレクチンチップ開発のための糖鎖やレクチン選択のための手段
例えば、糖鎖関連遺伝子異常による糖鎖異常に基づく遺伝子疾患の早期発見やO−157などの食中毒菌毒素の検出やインフルエンザウイルス検出などの病原体検出、あるいは生体組織移植による適合性検討のための血液型(糖鎖特異的)抗原検出のための糖鎖結合性タンパク質や抗体検出などへの適用が期待される。
これらの分野は、マイクロアレイの適用も期待される分野であるが、上記糖鎖ライブラリーと糖鎖結合性タンパク質ライブラリー(レクチンライブラリー)を用いることにより、マイクロアレイ技術で追跡できない微妙な変化にも対応できるため、より精密な解析が可能となる。
なお、マイクロアレイ上に配置する糖鎖ならびに糖鎖結合性タンパク質は、本発明を利用することにより、適切な糖鎖結合性タンパク質や糖鎖のセットを選択するための有力な手段にもなる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下の実施例では、異なる濃度の糖鎖結合性タンパク質存在下、キャピラリー電気泳動によってレーザー励起された蛍光を検出する。このようにして提供する技術は、(1)〜(3)を同時に検出できる。(1)種々の糖鎖、(2)特異的なタンパク質に対する糖鎖部分の結合特異性、(3)カイネティックデータ(例えば、それぞれの糖鎖の結合定数など)。この結果、例えば、細胞表面で糖鎖変化を表現する生物学的現象を解明するために有用である。また、遺伝子組換えされた生物学的薬剤を評価する上で特に重要である。なぜなら、異なる細胞株または異なる培養条件によって得られた製品は、時々、多種多様の糖鎖を含んでいる場合があるからである。キャピラリー電気泳動、2次元、3次元のクロマトグラフ技術、スラブゲル形式での糖鎖電気泳動などを含む新しい技術の開発が、オリゴ糖分析では増加している。電気泳動とレーザー励起蛍光法(LIF)とを組み合わせた検出方法は、糖タンパク質試料中の糖鎖を超高感度で解析するために有力な方法である。試料中の糖鎖を蛍光標識するための試薬としては、LIF検出でのキャピラリー電気泳動に用いる還元糖の誘導体化および分析に用いられる、例えば、8−アミノピレン−1.3.6−トリスルフォネート(APTS)を用いた。これにより、キャピラリー電気泳動によって単離されるα1酸性糖タンパク質(AGP)由来の糖鎖分析に好適な分析方法を提供することができる(実施例1)。
分析されるべき糖鎖は、その機能によって分類するべきである。例えば、特異的なタンパク質への結合定数によって、複合糖質に結合可能なタンパク質と糖鎖との相互作用は、かなり促進される。その理由は、糖鎖が生物情報の伝達のメディエーターであるためである。本発明者は、固定相にレクチンを用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーによる糖鎖成分に基づいてAGP分子種の分離後、AGPの糖鎖を分析した。さらに、その各フラクションが、糖鎖の特徴的な発生量を示すことを明らかにした。糖鎖とレクチンとの相互作用を分析するために、多くの方法が開発されている。それらのほとんどが、1つのタンパク質と、1つの糖鎖との相互作用に基づいたものである。例えば、プラズモン共鳴、蛍光偏光、時間分解蛍光光度法である。
しかしながら、糖タンパク質は、たいてい、糖鎖の複雑な混合物である。また、糖鎖の生物学的役割を正確に解明するために、各糖鎖の結合様式を同時に評価することが要求される。前記のアフィニティークロマトグラフィーは、従来は、固定化されたレクチンカラムと、MSとを接続したものを組み合わせたFAC/MSであった(Kasai K.,et al.,J.Chromatogr.Biomed.Appl.,1986,376,33−47.)。これを、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質相互作用に適用したものである。このFAC/MSによれば、混合物として存在するそれぞれの結合定数を算出できる。FAC/MSでは、固定化レクチンを備えたアフィニティーカラムを使用する。糖鎖の混合物を含んでいる試料は、そのカラムに継続的に注入される。そして、固定かレクチンとの親和性が弱い成分は、より早く溶出し、親和性が強い成分は、より遅く溶出する。エレクトロスプレイ質量分析による溶出液をモニタリングすることによって、混合物中の糖鎖組成の解離定数(KD)を同時に検出できる。しかしながら、前記のアフィニティークロマトグラフィーは、検体と“固定化された”受容体分子との相互作用を判定する方法である。ところが、“溶液”状態での相互作用の判定が必要になる場合がある。
キャピラリーアフィニティー電気泳動(CAE)は、電気泳動度が、糖鎖とレクチンとで異なる場合に、溶液状態で糖鎖とタンパク質との分子間の相互作用の測定が可能である。例えば、分子間相互作用の感度のよい装置として、キャピラリーアフィニティー電気泳動が開示されている(Shimura K.,et al.,Anal.Biochem.,1997,251,1−46.)。さらに、この方法では、1種類のオリゴ糖と、レクチンとを用いた結合反応における反応速度研究も示している。また、キャピラリー電気泳動によってレクチンに対する単純なオリゴ糖の混合物の結合定数の同時決定が報告されている(Taga A,et al.,J.Chromatogr.A.,1999,837,221−229.)。この方法では、8−アミノナフタレン−1,3,6トリスルフォネートまたは1−フェニル3−メチル5−ピラゾロンで標識された、代表的な2糖類と、イソマルトオリゴ糖(例えばα1.6−グルコースのオリゴマー)とがモデルとなっている。また、ConAをモデルレクチンとして用い、リボヌクレアーゼBおよびフェツイン由来のオリゴ糖を用いた相互作用の検討も行われている(Hong M.,J.Chromatogr.B.,2001,752,207−216.)。
本発明では、糖鎖の複雑な混合物のハイスループット機能分類の方法を提案する。混合物または糖鎖は予め蛍光標識されている。そして選択された複数のレクチンセットの存在下、キャピラリー電気泳動によって分析する。本発明者は、糖鎖を、各糖鎖の泳動様式に基づいて分類することに成功した。また、電荷を有する蛍光標識試薬を用いて標識することが提案されている(Shimura K.,et al,Anal.Biochem.,1995,227,186−194.)。この提案では、標識された糖鎖の電荷が、タンパク質と結合する糖鎖、または、結合しない糖鎖の泳動のための駆動力となる。本発明では、糖鎖の還元末端が下記の化学式に示すように、APTSを用いた還元的アミノ化によって修飾されている。
APTS標識された糖タンパク質試料である単糖およびオリゴ糖および化学修飾されたキャピラリーを用いることにより、よい分離能を示す。アミノピレン残基のスルホン酸によるマイナスの電荷は、結合反応の研究においては適している。
レクチンとして、マンノースの分類にConA、GlcNAcの分類にWGA、複合型の糖鎖の分類にTGA、バイセクティングGlcNAc残基の分類にPHA−E4、フコース結合型糖鎖の分類にRSLおよびAAL、シアロ糖鎖の分類にSSAおよびMAMを選択した。異なる濃度のレクチンの組み合わせは、効率的かつ高感度でのα1酸性糖タンパク質、フェツイン、オボムコイド、ウシIgG、ブタチログロブリン、癌患者由来のα1酸性糖タンパクの糖鎖の分類を可能にした。
〔使用物質〕
試料は、α1酸性糖タンパク質とフェツインを使用した(いずれもシグマアルドリッチジャパン社製)。鶏卵白オボムコイドは、Waheed A,Biochem.J.,1972,128,49p.に記載の方法に従って、雌卵白から精製した。コンカナバリンA(ConA)、小麦胚芽レクチン(WGA)、PHA−E4は生化学工業株式会社製のものを使用した。キトオリゴ糖(N−アセチルグルコサミンのオリゴマー;GlcNAcオリゴマー)の混合物も生化学工業社製のものを使用した。チューリップレクチン(TGA)は、Oda Y.,et al.,Eur.J.Biochem.,1987,165,297−302.に記載の方法に従って単離・精製した。ペプチド−N4−(アセチルβ−Dグルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ(N−グリコシダーゼF)は、ロシュ分子生物化学社製のものを使用した。高純度のAPTSは、Beckman−Coulter(Fulleton,CA)社製のものを使用した。他の全ての試料および試薬は、市販の特級またはHPLCグレードのものを使用した。全ての水溶液は、精製水を使用した。
〔糖タンパク質試料からの糖鎖の分離(N−グリコシダーゼFによる消化)〕
糖タンパク質試料から糖鎖を分離した手順は、Kakehi K,et al.,Anal.Chem.,2001,73,2640−2647.およびMa S.,et al.,Anal.Chem.,1999,71,5185−5192.と類似の方法によって行った。すなわち、まず、試料となる糖タンパク質(1mg)を20mMのリン酸緩衝液(pH7.0、40μL)に溶解した。次に、N−グリコシダーゼF(5mU、5μL)を加えた後、溶液を37℃で終夜インキュベートした。その溶液を、沸騰浴で5分間維持し、10分間10000gで遠心分離した。次に、オリゴ糖を含む上澄液を遠心真空エバポレーターで蒸発乾固した。得られた残渣を2M酢酸水溶液(50μL)に溶解し、混合物を80℃で3時間維持し、オリゴ糖からシアル酸を除去した。続いて残渣を、100mMのAPTSを含む15%酢酸水溶液(5μL)に溶解、その混合物に新たに調製した1M水素化シアノホウ素ナトリウムのTHF溶液(5μL)を加えた。なお、混合物には、鉱油(100μL、nD1.467、d0.838、アルドリッチ社製)を加え、反応溶媒の蒸発を防いだ。この溶液の蒸発を防ぐ手順は、収量を一定にする上で重要となる。この混合物を90分間55℃に保ち、水(200μL)を加え、黄色がかった蛍光を示す水層を回収した。回収した水層を水で平衡化したSephadex G25(内径1cm、長さ50cm)に注入し、早く溶出した蛍光画分を回収し、蒸発乾固した。残渣を水(100μL)に溶解し、その一部(20μL)をキャピラリーアフィニティー電気泳動に用いた。反応混合物からAPTS除去は、−20℃で糖鎖誘導体を安定に保存する上で必要となる。
〔キャピラリー電気泳動〕
キャピラリーアフィニティー電気泳動は、アルゴン−レーザーにより励起された蛍光を検出するシステムを備えたP/ACE MDQ糖タンパク質システム(Beckman Coulter)を用いて行った。検出は、蛍光波長520nm、励起波長488nmのアルゴン−レーザーを用いて行った。
糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質との分離には、e−CAP N−CHOにより内壁が被覆されたキャピラリー(有効長10cm(全長30cm)、50μm、(Beckman Coulter))を用いた。ジメチルポリシロキサン(DB−1)で被覆された同じサイズのキャピラリー(GLサイエンス株式会社製)も使用可能である。分離は、作業中常時25℃で行っい、注入は、加圧法(0.5p.s.i)で行った。得られたデータをWindows 2000(登録商標)上で標準の32Karatソフトウェアーを用いて分析した。
〔キャピラリーアフィニティー電気泳動〕
泳動液は、100mMのトリスアセテート緩衝液(pH7.4)を用いた。キャピラリーアフィニティー電気泳動を行う前にAPTSで蛍光標識した糖鎖を前述のようにしてキャピラリー電気泳動により、印加電圧10kVで分析した。続いて、図11に示される濃度のレクチンを含んだ上記泳動液をキャピラリーに注入した。分析する前に、キャピラリー泳動用緩衝液で1分間洗浄した。次に、レクチンを含んだ同じ緩衝液で1分間洗浄した。この実験装置は、同じ溶液を96−wellプレートで処理できるので、一連の結合反応を自動的に実行できる。
〔糖タンパク質の選択〕
各実施例では、糖タンパク質として、AGP、フェツイン、鶏卵白オボムコイドを使用した。
AGPの糖鎖は、2本鎖、3本鎖、4本鎖のオリゴ糖である。そして、3本鎖、4本鎖のオリゴ糖のいくつかは、フコースに置換されている(図1(b)および図2)。
フェツインは、2本鎖、3本鎖のオリゴ糖を含んでいる。3本鎖のオリゴ糖では、Gal−β1−4−GlcNAc分枝鎖の一部がGal−β1−3−GlcNAcに変わっている(図3(b)および図4)。
鶏卵オボムコイドは、かなり複雑なオリゴ糖の混合物を含んでいる。そのオリゴ糖のいくつかは、バイセクティングGlcNAc残基で置換されている。オボムコイドに見られる代表的なオリゴ糖を、図6に示す。N−グリカン構造をコアとする分子サイズの小さいオリゴ糖(OI)も、鶏卵白オボムコイドに見出される。
〔レクチンの選択〕
本実施例においては、以下に示す糖鎖を特異的に認識し、結合するレクチンを用いた。すなわち、(1)高マンノース型オリゴ糖を特異的に認識するレクチン(2)N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)またはそのオリゴマーを特異的に認識するレクチン(3)ガラクトース(Gal)またはラクトサミンGalβ1−4/3GlcNAcを認識するレクチン(4)シアル酸を認識するレクチン(5)フコースを認識するレクチン。レクチンは安定で、しかも特定の糖鎖と高特異的に結合するものが好ましい。このため、レクチンとして、糖鎖特異性を示すConA、WGA、TGA、PHA−E4、SSA、MAM、RSL、AALを選択した。これらのレクチンは、分析する間比較的安定で、分析前の保存に適している。
各実施例の結果を以下に示す。
〔実施例1〕α1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の分類
α1酸性糖タンパク質(AGP)は、図1(b)および図2に示すように、2本鎖、3本鎖、4本鎖の糖鎖を含んでいる。さらに、3本鎖、4本鎖の糖鎖の中には、非還元末端のGalβ1−4GlcNAc残基に、フコース残基を含んでいる糖鎖も存在する。本実施例では、AGPから得られたアシアロ−糖鎖の混合物の移動度を検討した。その結果を図1(c)に示す。
2本鎖の糖鎖(AI)は、最も早い移動時間に観察された(5.2分)。3本鎖(AII)4本鎖(AIV)の糖鎖は、それぞれ6.2分と7.2分に観察された。6.5分と7.5分とに観察されたピークは3本鎖の糖鎖(AIII)および4本鎖の糖鎖(AV)であり、いずれもフコース残基が付加している(図1(a))。
(1)WGAの添加
泳動液にWGAを添加すると、興味深い移動を示した。6μMのWGA濃度では、AIIとAIIIとが単一のピークとして8.2分に、さらにAIVとAVとが9.2分に単一のピークとして観察された。12μMのWGAでは、AIIとAIII、およびAIVとAVの移動順序が逆転した。これらのデータは、フコース残基が3本鎖および4本鎖の糖鎖の分枝に付加することにより、WGAとの結合が減少したことを示している。
(2)ConAの添加
ConAを泳動液に添加すると、2本鎖の糖鎖のピーク強度が変化した。レクチン非存在下で5.2分に観察された2本鎖の糖鎖(AI)のピーク強度は、0.2μMのConAよりも高濃度(3μM)のConAで、大きく減少した。一方、ConAは、これらの濃度では3本鎖および4本鎖の糖鎖には明らかに親和性を示さなかった。これらの結果は、Kakehi K,et al.,Anal.Chem.,2001,73,2640−2647.に記載のデータに類似している。
(3)TGAの添加
チューリップの球根は、2種類のレクチンを含み、その1つは、イースト菌に結合する。もう1種類のレクチン(TGA)は、マウスの赤血球に特異的に結合し、この結合は、豚チログロブリンによって特異的に阻害される。TGAを添加すると、AGP由来のオリゴ糖の移動において、興味深い結果を示した。3本鎖の糖鎖(AIIおよびAIII)が、このレクチン(TGA)に対して高い特異性を示した。2μMのTGAでは、AIIとAIIIとのグループが、7.0分に移動した。12μMのTGAでは、AIIとAIIIとがブロードな単一ピークとして溶出し、最も遅く(約9.3分)に観察された。これに対して、TGAと2本鎖および4本鎖の糖鎖との親和性は弱いものであった。
〔実施例2〕フェツイン由来の糖鎖の分類−1(シアル酸残基を除去した場合)
フェツインは、図4に示すように、1種類の2本鎖糖鎖(AI)と、2種類の3本鎖糖鎖(AIIおよびFII)とを含んでいる。3本鎖の糖鎖のうちの1つ(FII)は、Galβ1−3GlcNAc分枝鎖を含んでいる。本実施例では、図4に示すように、シアル酸残基を除去した糖鎖の混合物を使用した。
(1)WGAの添加
主要な3本鎖の糖鎖(AII)は、12μMのWGAではWGA非存在下よりも少し遅く(約8.9分)観察された。もう一方のGalβ1−3GlcNAc分枝鎖を有する3本鎖の糖鎖(FII)の移動時間の遅延は観察されず、7.5分に観察された。この結果、12μMのWGAでは、AIIとFIIとを完全に分離できた。
(2)ConAの添加
実施例1と同様に、本実施例においても、ConAの添加により、2本鎖(AI)のピーク強度が、減少した。すなわち、レクチン非存在下で5.2分に観察された2本鎖の糖鎖(AI)のピーク強度は、0.2μMのConAよりも、より高濃度の3.0μMの場合に、次第に減少した。
(3)TGAの添加
実施例1(AGPの実施例)に示したように、TGAは3本鎖の糖鎖を強く認識する。興味深いことに、TGAは、AIIとFIIとで異なる親和性を示した。Galβ1−3GlcNAc分枝鎖を含む糖鎖(FII)は、移動時間の遅延が観察された。2μMおよび12μMのTGAでは、AIIとFIIとの移動順序が逆転した。12μMのTGAでは、AIIとFIIに対する親和性の違いが顕著に現われ、それぞれの3本鎖の糖鎖を完全に分離できた。
〔実施例3〕鶏卵白オボムコイド由来の糖鎖の分類
鶏卵白由来のオボムコイドは、5箇所の糖鎖結合部位を有し、糖タンパク質の20〜25%を構成している。鶏卵白オボムコイドには、20以上の糖鎖が報告されており、バイセクティングGlcNAc残基も存在する。図6に、オボムコイドに見られる代表的なオリゴ糖を示す。また、このオリゴ糖の分離を図5(a)および図5(c)に示す。
すべての糖鎖を確認することができなかったが、これらの糖鎖の分類は、本発明を評価する上で良いモデルとなる。レクチン非存在下では、いくつものブロードなピークが4分〜8分にかけて観察されている。最初に観察された小さなピークは、コア5糖(OI)によるものであり、バイセクティングGlcNAc残基を含んでいない。
(1)PHA−E4の添加
PHA−E4を添加することにより、オリゴ糖類の移動に様々な効果を示すことが示された。0.8μMのPHA−E4では、いくつかのグループのピークが遅れて観察された。バイセクティングGlcNAc残基を含んでいないオリゴ糖のピークは、レクチンの非存在下と同様の結果を与えた。これに対して、バイセクティングGlcNAc残基を含んでいるオリゴ糖の移動時間は、広範囲に渡って遅延しており、遅い移動時間に観察された(6μMのPHA−E4における約7〜8分のブロードのピーク参照)
(2)WGAの添加
WGAを使用して、糖鎖の移動の影響について試験した。コア5糖(OI、最初のピーク)のピークの移動時間は、いずれの濃度のWGAでも変化しなかった。その他のピークは、WGAの濃度の上昇に伴い次第に遅く観察された。
(3)ConA
ConAを含む泳動液での観察結果は、図5(c)に示されるように、PHA−E4とWGAとで観察された結果を支持している。低濃度のConAでさえ、コア5糖(OI)に対応するピークが消失している。これらの結果は、露出したマンノース残基を含むオリゴ糖は、より早い時間に観察され、ConA存在下では消失することを示している。
オボムコイドでは糖鎖が複雑であるため、糖鎖を同定することができなかった。しかしながら、糖鎖が、レクチンの存在により、当該糖鎖の構造の特徴に基づいて、異なる移動様式を示すことが確認された
〔実施例4〕WGAとGlcNAcオリゴマーとの相互作用
糖鎖とタンパク質との結合では、結合反応の化学量を決定する必要がある。モデルとして、WGAと、APTS誘導体化したGlcNAcオリゴマーとの相互作用を示す。このモデルを選択したのは、このレクチンの結合の反応速度とメカニズムがよく研究されているからである。図7に示すように、GlcNAcオリゴマーは様々な濃度のWGA存在下で興味深い移動時間の変化を示した。
3糖(図7の3、以下同様)は3μMの高濃度のWGAでさえ、WGAに対して弱い親和性しか示さなかった。4糖(4)は、0.8μMのWGA非存在下で、WGA非存在下で観察された速度よりも、遅い速度で移動し始めた。5糖(5)は、0.2μMのWGA存在下で遅い速度で移動し始めた。高濃度のWGAでは、移動速度が4糖よりも明らかに小さくなっている。5糖よりも分子量の大きなオリゴ糖類も、よく似た傾向を示し、移動速度が明らかに減少した。これらのデータは、より高分子量のオリゴマーがWGAに対して強い親和性を示すことを意味している。前述した観察結果と同様の結果が、NMR、超遠心分析、等温滴定マイクロ熱量測定を用いて報告されている。
少数の2糖類をモデルとし、レクチンに対するオリゴ糖の結合定数の算出方法が報告されている(Taga A,et al.,J.Chromatogr.A.,1999,837,221−229.)。すなわち、以下の(1)式により算出するものである。
ここで、tは、タンパク質(この場合WGA)存在下でのリガンド(この場合、GlcNAcオリゴマーのAPTS誘導体)の移動時間であり;t1は、タンパク質非存在下でのリガンドの移動速度、t2は、移動時間[t]とタンパク質濃度[P]との関係が一定に達するタンパク質濃度でのリガンドの移動時間に近似される。それゆえ、上記式(1)は、式(2)とみなすことができる。
ここで、AとBは定数である。その結果、(t−t1)−1と[P]−1との関係をプロットすることにより、容易に結合定数(Ka)を得ることができた。ここで、式(1)および式(2)に示されるように、リガンド(例えば、APTS−オリゴ糖)の濃度を決定する必要はない。これは生物試料由来の糖鎖の複雑な混合物の化学量論結合を研究する上で非常に重要である。なぜなら、それぞれの糖鎖の正確な濃度を決定することは困難であるためである。図7に示したデータを用いて、(t−t1)−1と[P]−1との関係をプロットした。その結果を図8に示す。
3糖、4糖および5糖は、WGAの濃度とよい直線性を示し、結合定数は、それぞれ、0.56×106M−1、1.56×106M−1、2.54×106M−1であった。本発明によって得られた結果は、Dam T.,et al.,Chem.Rev.,2002,102,387−429.に記載の結果と類似している。また、Asensio J.L.,Chemistry & Biology 2000,7,529−543.にはGlcNAcオリゴマーに多価で結合するWGAのキチン結合モチーフも報告されている。
〔実施例5〕カビ抽出液中の糖鎖結合性タンパク質と、ウシIgG由来の糖鎖ライブラリーとの相互作用の解析−1
実施例1〜4では、糖鎖結合性タンパク質としてレクチンを用いて、糖鎖混合物を分析し、その分類を行った。本実施例では、ウシIgG由来の構造既知の糖鎖を糖鎖ライブラリーとし、リソプス属のカビを粉砕しキャピラリー電気泳動用緩衝液で抽出した粗カビ抽出液と反応させた反応混合物について、泳動時間の変動について検討した。この粗カビ抽出液には、RSL(リゾプスカビレクチンRizopus stronipher lectin)が含まれている。なお、図9(a)には、ウシIgG由来の糖鎖の模式図が示される。キャピラリー電気泳動の結果、図9(b)に示すように、粗カビ抽出液を含んだ糖鎖の泳動時間は、それを含まない場合の泳動時間よりも顕著に遅くなっている。これは、ウシIgG由来の糖鎖と粗カビ抽出液中に存在する糖鎖結合性タンパク質との相互作用によるものである。つまり、粗カビ抽出液中に存在する、ウシIgG由来の糖鎖と特異的に結合する糖鎖結合性タンパク質が確認できた。このように構造既知の糖鎖混合物を用いれば、試料中の糖鎖結合性タンパク質の有無を確認できる。この方法は、新規糖鎖結合性タンパク質の発見や、それを用いた新規医薬品の開発につながる。
〔実施例6〕フェツイン由来の糖鎖の分類−2(シアル酸残基を除去しない場合。)
本実施例では、図13に示すように、シアル酸残基を除去しない糖鎖の混合物を使用した。
本実施例のフェツインは、図12(b)および図13に示すように、1つの2本鎖の糖鎖(SAI)と、3つの3本鎖の糖鎖(SFI,SFIIおよびSFIII)とを含んでいる。3本鎖の糖鎖のうち、SFIおよびSFIIは、NeuAcα2−6Galを含んでおり、SFIIIは、NeuAcα2−3Galをを含んでいる。また、SFIIIは、Galβ1−3GlcNAcを含んでおり、それ以外はGalβ1−4GlcNAcを含んでいる。
(1)TGAの添加
実施例2(シアル酸残基を有さないフェツインの実施例)に示したように、TGAは3本鎖の糖鎖を強く認識するとともに、SFIおよびSFIIとSFIIIとで異なる親和性を示した。すなわち、Galβ1−3GlcNAc分枝鎖を含む糖鎖(SFII)は、移動時間の遅延が観察された。12μMのTGAでは、SFIIIとSFIおよびSFIIとの移動順序が逆転した。12μMのTGAでは、AIIとFIIに対する親和性の違いが顕著に現われ、それぞれの3本鎖の糖鎖を完全に分離できた。
(2)MAMの添加
MAM(イヌエンジュレクチンMaackia anmurensis lectin)を泳動液に添加すると、シアル酸残基を有するすべての糖鎖(SAI,SFI,SFII,SFIII)のピーク強度が変化した。ピーク強度は、MAMの添加濃度が高いほど大きく減少した。なお、図示しないが、シアル酸残基を有さない糖鎖にMAMを添加しても、ピーク強度の変化は認められなかった。
(3)SSAの添加
SSA(ニホンニワトコレクチンSambucus sieboldiana lectin)を泳動液に添加すると、シアル酸残基を有するすべての糖鎖(SAI,SFI,SFII,SFIII)のピーク強度が変化した。ピーク強度は、SSAの添加濃度が高いほど大きく減少した。また、SSA3.0μMを添加した場合、移動時間の遅延が観察された。
しかし、SSAはα2,6シアリルラクトサミンをより強く認識し、MAMはα2,3シアリルラクトサミンをより強く認識するので、両者を組み合わせることにより、シアル酸結合の微妙な差を区別することができた。
このように、本実施例では、α2−3およびα2−6結合したシアル酸残基を含有するフェツインを、MAMおよびSSAを組み合わせて使用することにより、上記シアル酸残基を含む糖鎖を効率よく区別することができた。具体的には、SSAの添加によりシアロ糖鎖の存在を確認し、MAMの添加により、α2−3およびα2−6結合のシアロ糖鎖を区別することができた。さらに、TGAの添加により、Galβ1−3GlcNAcまたはGalβ1−4GlcNAcを有する3本鎖糖鎖の区別の精度を向上することができた。
〔実施例7〕カビ抽出液中の糖鎖結合性タンパク質と、ウシIgG由来の糖鎖ライブラリーとの相互作用の解析−2
本実施例では、実施例5と同様に、ウシIgG由来の構造既知の糖鎖を糖鎖ライブラリーとし、リソプスカビレクチン(RSL)を添加した。
図14(b)に示すように、ウシ由来のIgGは、蛍光物質側の末端にフコース(図14(b)では▲で表示)を持つ糖鎖を含んでいる(I〜IV)。図14(a)に示すように、RSLの添加により、添加量に応じて、これらのフコース結合型糖鎖(フコシル化糖鎖)(I〜IV)の泳動時間が顕著に遅れることが確認できた。すなわち、本実施例では、フコース結合型糖鎖を効率よく検出することができた。
〔実施例8〕ブタチログロブリン糖鎖の分類
ブタチログロブリン由来の糖鎖は、図15および図16に示すように、2本鎖(TI)および少量の3本鎖(TI)糖鎖、並びにハイマンノース型糖鎖(HM)を含んでいる、ユニークな糖タンパク質である。また、2本鎖および3本鎖の糖鎖は、末端のGlcNAcにフコースが付加した、フコース結合型糖鎖である。
本実施例では、ブタチログロブリン由来の糖鎖を糖鎖ライブラリーとし、TGAおよびConAを添加した。
図15に示すように、TGAの添加により、添加量に応じて、これらフコース結合型糖鎖(TIおよびTII)の泳動時間が顕著に遅れることが確認できた。なお、5分前後に見られるハイマンノース型糖鎖(HM)は、TGAを添加しても、泳動時間は全く変化しなかった。
なお、図示しないが、TGAの代わりにConAを添加した場合、ハイマンノース型糖鎖(HM)のピークは、実施例3と同様に、完全に消失した。これにより、ConAの添加により、ハイマンノース型糖鎖を確認することができた。このように、ブタチログロブリンは、ハイマンノース型糖鎖と複合型糖鎖とを含む有用なライブラリー糖鎖である。
〔実施例9〕癌患者由来のAGPに含まれる糖鎖構造解析
AGPの糖鎖は、癌化や炎症などの生理変化に伴って、タンパク質中の糖鎖が変化する糖タンパク質である。AGP分子上には5箇所のN結合型糖鎖の修飾部位が存在し、図17(b)および図18に示すように、糖鎖AI〜AVIの糖鎖の存在が明らかにされている。特に、癌化に伴うフコシル化糖鎖(AIII,AV,AVI)の変化は、近年注目されている。本実施例では、癌患者由来AGPの糖鎖分析およびフコース認識レクチンの添加効果を検討した。
図17(a)に示すように、正常のAGPの糖鎖は、5.0分(AI)、5.7分(AII)、5.9分(AIII)、6.5分(AIV)、6.7分(AV)に五種の糖鎖ピークとして観察されている(図17(a)最下段のチャート)。一方、癌患者由来のAGPでは、癌化に伴い、フコシル化糖鎖(AIII,AV)の増加が観察されている(図17(a)中央のチャート)。さらに、癌患者由来AGPでは正常AGPで見られなかった※印のピーク(AVI)の存在が観察された。
次に、癌患者由来のAGPに、フコース認識レクチンであるヒイロチャワンタケレクチン(AAL:Aleuria aurantia lectin)を添加することにより(図17(a)最上段のチャート)、特徴的な変化として、フコース結合型糖鎖(フコシル化糖鎖)のピーク強度減少(消失)が確認された。なお、AALの特異性から、このフコース結合型糖鎖はルイスエックス抗原を有するフコシル化糖鎖である。
本発明によれば、図10に示すように、糖タンパク質由来の糖鎖のハイスループット機能分類が可能である。具体的には、以上のように各実施例において、糖鎖を分類するのに、8種類のレクチン、すなわち、ConA、WGA、PHA−E4、TGA、RSL,AAL、SSA、MAMを選択した。以下にこれらのレクチンの特徴を示す。
ConAは、2本鎖の糖鎖を認識する。また、高マンノース、およびハイブリッド型のオリゴ糖もConAによって認識される。
WGAは、2本鎖、3本鎖、4本鎖の糖鎖の移動時間に影響を及ぼす。すなわち、WGA存在下では、フコース残基が付加した3本鎖および4本鎖の糖鎖の移動順序と、フコース残基を含まないそれぞれの糖鎖の移動順序とが変化する。
TGAは、3本鎖の糖鎖を識別するのに非常に有用である。図3(c)に示すように、3本鎖の糖鎖は、TGAにより特異的に認識される。
PHA−E4は、図5(a)〜図5(c)に示すように、バイセクティングGlcNAc残基を有する糖鎖の認識に適用できる。例えば、鶏卵白オボムコイド由来の複雑なオリゴ糖の混合物中からバイセクティングGlcNAc残基を有するオリゴ糖を識別することに成功した。
RSLおよびAALはフコースに特異性を示し、SSAおよびMAMはシアル酸に対して特異性を示し、上記4種類(ConA、WGA、TGA、PHA−E4)で分類された糖鎖を、さらに厳密に区別する。
上記の実施例では、レクチンは、2つの異なる様式で糖鎖との結合を示した。すなわち、オボムコイド中のConAとコア5糖(図5(a)〜図5(c)のOI)との結合では、ピークの消失が見られた。その他の場合では、レクチンと糖鎖との結合は、移動時間が遅延するという結果であった。今のところ、このように結合様式が異なって観察されたことについての理由は解明されていない。さらに、反応速度論的研究が必要であるけれども、結合における反応速度は考慮するべきである。
本発明の方法は、糖鎖とレクチンとが結合する親和定数(Ka)を一斉に決定することができる。その理由として、図7に示すように、キトオリゴ糖とタンパク質間の結合のように、蛍光標識リガンド(例えば、糖鎖)の濃度を測定する必要がないからである。それゆえ、本発明の方法は、濃度を決定することが困難な、生物試料由来の糖鎖の複雑な混合物の速度論的測定に、非常に有用である。
上記実施例に示したように、所定の濃度における選択したレクチンの組み合わせを用いて、糖鎖の分類に成功した。1つの糖鎖試料に要する全分析時間は、4時間以内である。WGAとAGPとの研究に用いたレクチンと糖鎖試料の全量は、それぞれ20μg(500pmol)、2μg(50pmol)である。
本発明では、糖鎖骨格の特徴を識別することが中心であるが、シアル酸を含む糖鎖の特徴を利用した方法に応用可能である。
以上のように、本発明の技術は、既知および/または未知の糖鎖ライブラリーを、既知または未知のタンパク質の可溶化溶液、ゲル、またはゾルを媒体として用いる電気泳動にかけ、その泳動下で形成される糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体の電気泳動の相違に基づき、糖鎖の分類、および糖鎖とタンパク質との相互作用の解析を行う。糖鎖ライブラリーと電気泳動媒体とはキットで、また電気泳動ゲル媒体はマイクロチップなどの形で提供し得る。これにより、タンパク質の翻訳後の糖鎖による修飾を解明する上で非常に有用である。さらに、糖鎖欠損による糖タンパク質疾患の病態の研究にも役立つ。本発明を用いた細胞表面での糖鎖を特徴づけることにより、分子レベルの病態解析にも役立てることができる。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
分析されるべき糖鎖は、その機能によって分類するべきである。例えば、特異的なタンパク質への結合定数によって、複合糖質に結合可能なタンパク質と糖鎖との相互作用は、かなり促進される。その理由は、糖鎖が生物情報の伝達のメディエーターであるためである。本発明者は、固定相にレクチンを用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーによる糖鎖成分に基づいてAGP分子種の分離後、AGPの糖鎖を分析した。さらに、その各フラクションが、糖鎖の特徴的な発生量を示すことを明らかにした。糖鎖とレクチンとの相互作用を分析するために、多くの方法が開発されている。それらのほとんどが、1つのタンパク質と、1つの糖鎖との相互作用に基づいたものである。例えば、プラズモン共鳴、蛍光偏光、時間分解蛍光光度法である。
しかしながら、糖タンパク質は、たいてい、糖鎖の複雑な混合物である。また、糖鎖の生物学的役割を正確に解明するために、各糖鎖の結合様式を同時に評価することが要求される。前記のアフィニティークロマトグラフィーは、従来は、固定化されたレクチンカラムと、MSとを接続したものを組み合わせたFAC/MSであった(Kasai K.,et al.,J.Chromatogr.Biomed.Appl.,1986,376,33−47.)。これを、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質相互作用に適用したものである。このFAC/MSによれば、混合物として存在するそれぞれの結合定数を算出できる。FAC/MSでは、固定化レクチンを備えたアフィニティーカラムを使用する。糖鎖の混合物を含んでいる試料は、そのカラムに継続的に注入される。そして、固定かレクチンとの親和性が弱い成分は、より早く溶出し、親和性が強い成分は、より遅く溶出する。エレクトロスプレイ質量分析による溶出液をモニタリングすることによって、混合物中の糖鎖組成の解離定数(KD)を同時に検出できる。しかしながら、前記のアフィニティークロマトグラフィーは、検体と“固定化された”受容体分子との相互作用を判定する方法である。ところが、“溶液”状態での相互作用の判定が必要になる場合がある。
キャピラリーアフィニティー電気泳動(CAE)は、電気泳動度が、糖鎖とレクチンとで異なる場合に、溶液状態で糖鎖とタンパク質との分子間の相互作用の測定が可能である。例えば、分子間相互作用の感度のよい装置として、キャピラリーアフィニティー電気泳動が開示されている(Shimura K.,et al.,Anal.Biochem.,1997,251,1−46.)。さらに、この方法では、1種類のオリゴ糖と、レクチンとを用いた結合反応における反応速度研究も示している。また、キャピラリー電気泳動によってレクチンに対する単純なオリゴ糖の混合物の結合定数の同時決定が報告されている(Taga A,et al.,J.Chromatogr.A.,1999,837,221−229.)。この方法では、8−アミノナフタレン−1,3,6トリスルフォネートまたは1−フェニル3−メチル5−ピラゾロンで標識された、代表的な2糖類と、イソマルトオリゴ糖(例えばα1.6−グルコースのオリゴマー)とがモデルとなっている。また、ConAをモデルレクチンとして用い、リボヌクレアーゼBおよびフェツイン由来のオリゴ糖を用いた相互作用の検討も行われている(Hong M.,J.Chromatogr.B.,2001,752,207−216.)。
本発明では、糖鎖の複雑な混合物のハイスループット機能分類の方法を提案する。混合物または糖鎖は予め蛍光標識されている。そして選択された複数のレクチンセットの存在下、キャピラリー電気泳動によって分析する。本発明者は、糖鎖を、各糖鎖の泳動様式に基づいて分類することに成功した。また、電荷を有する蛍光標識試薬を用いて標識することが提案されている(Shimura K.,et al,Anal.Biochem.,1995,227,186−194.)。この提案では、標識された糖鎖の電荷が、タンパク質と結合する糖鎖、または、結合しない糖鎖の泳動のための駆動力となる。本発明では、糖鎖の還元末端が下記の化学式に示すように、APTSを用いた還元的アミノ化によって修飾されている。
APTS標識された糖タンパク質試料である単糖およびオリゴ糖および化学修飾されたキャピラリーを用いることにより、よい分離能を示す。アミノピレン残基のスルホン酸によるマイナスの電荷は、結合反応の研究においては適している。
レクチンとして、マンノースの分類にConA、GlcNAcの分類にWGA、複合型の糖鎖の分類にTGA、バイセクティングGlcNAc残基の分類にPHA−E4、フコース結合型糖鎖の分類にRSLおよびAAL、シアロ糖鎖の分類にSSAおよびMAMを選択した。異なる濃度のレクチンの組み合わせは、効率的かつ高感度でのα1酸性糖タンパク質、フェツイン、オボムコイド、ウシIgG、ブタチログロブリン、癌患者由来のα1酸性糖タンパクの糖鎖の分類を可能にした。
〔使用物質〕
試料は、α1酸性糖タンパク質とフェツインを使用した(いずれもシグマアルドリッチジャパン社製)。鶏卵白オボムコイドは、Waheed A,Biochem.J.,1972,128,49p.に記載の方法に従って、雌卵白から精製した。コンカナバリンA(ConA)、小麦胚芽レクチン(WGA)、PHA−E4は生化学工業株式会社製のものを使用した。キトオリゴ糖(N−アセチルグルコサミンのオリゴマー;GlcNAcオリゴマー)の混合物も生化学工業社製のものを使用した。チューリップレクチン(TGA)は、Oda Y.,et al.,Eur.J.Biochem.,1987,165,297−302.に記載の方法に従って単離・精製した。ペプチド−N4−(アセチルβ−Dグルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ(N−グリコシダーゼF)は、ロシュ分子生物化学社製のものを使用した。高純度のAPTSは、Beckman−Coulter(Fulleton,CA)社製のものを使用した。他の全ての試料および試薬は、市販の特級またはHPLCグレードのものを使用した。全ての水溶液は、精製水を使用した。
〔糖タンパク質試料からの糖鎖の分離(N−グリコシダーゼFによる消化)〕
糖タンパク質試料から糖鎖を分離した手順は、Kakehi K,et al.,Anal.Chem.,2001,73,2640−2647.およびMa S.,et al.,Anal.Chem.,1999,71,5185−5192.と類似の方法によって行った。すなわち、まず、試料となる糖タンパク質(1mg)を20mMのリン酸緩衝液(pH7.0、40μL)に溶解した。次に、N−グリコシダーゼF(5mU、5μL)を加えた後、溶液を37℃で終夜インキュベートした。その溶液を、沸騰浴で5分間維持し、10分間10000gで遠心分離した。次に、オリゴ糖を含む上澄液を遠心真空エバポレーターで蒸発乾固した。得られた残渣を2M酢酸水溶液(50μL)に溶解し、混合物を80℃で3時間維持し、オリゴ糖からシアル酸を除去した。続いて残渣を、100mMのAPTSを含む15%酢酸水溶液(5μL)に溶解、その混合物に新たに調製した1M水素化シアノホウ素ナトリウムのTHF溶液(5μL)を加えた。なお、混合物には、鉱油(100μL、nD1.467、d0.838、アルドリッチ社製)を加え、反応溶媒の蒸発を防いだ。この溶液の蒸発を防ぐ手順は、収量を一定にする上で重要となる。この混合物を90分間55℃に保ち、水(200μL)を加え、黄色がかった蛍光を示す水層を回収した。回収した水層を水で平衡化したSephadex G25(内径1cm、長さ50cm)に注入し、早く溶出した蛍光画分を回収し、蒸発乾固した。残渣を水(100μL)に溶解し、その一部(20μL)をキャピラリーアフィニティー電気泳動に用いた。反応混合物からAPTS除去は、−20℃で糖鎖誘導体を安定に保存する上で必要となる。
〔キャピラリー電気泳動〕
キャピラリーアフィニティー電気泳動は、アルゴン−レーザーにより励起された蛍光を検出するシステムを備えたP/ACE MDQ糖タンパク質システム(Beckman Coulter)を用いて行った。検出は、蛍光波長520nm、励起波長488nmのアルゴン−レーザーを用いて行った。
糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質との分離には、e−CAP N−CHOにより内壁が被覆されたキャピラリー(有効長10cm(全長30cm)、50μm、(Beckman Coulter))を用いた。ジメチルポリシロキサン(DB−1)で被覆された同じサイズのキャピラリー(GLサイエンス株式会社製)も使用可能である。分離は、作業中常時25℃で行っい、注入は、加圧法(0.5p.s.i)で行った。得られたデータをWindows 2000(登録商標)上で標準の32Karatソフトウェアーを用いて分析した。
〔キャピラリーアフィニティー電気泳動〕
泳動液は、100mMのトリスアセテート緩衝液(pH7.4)を用いた。キャピラリーアフィニティー電気泳動を行う前にAPTSで蛍光標識した糖鎖を前述のようにしてキャピラリー電気泳動により、印加電圧10kVで分析した。続いて、図11に示される濃度のレクチンを含んだ上記泳動液をキャピラリーに注入した。分析する前に、キャピラリー泳動用緩衝液で1分間洗浄した。次に、レクチンを含んだ同じ緩衝液で1分間洗浄した。この実験装置は、同じ溶液を96−wellプレートで処理できるので、一連の結合反応を自動的に実行できる。
〔糖タンパク質の選択〕
各実施例では、糖タンパク質として、AGP、フェツイン、鶏卵白オボムコイドを使用した。
AGPの糖鎖は、2本鎖、3本鎖、4本鎖のオリゴ糖である。そして、3本鎖、4本鎖のオリゴ糖のいくつかは、フコースに置換されている(図1(b)および図2)。
フェツインは、2本鎖、3本鎖のオリゴ糖を含んでいる。3本鎖のオリゴ糖では、Gal−β1−4−GlcNAc分枝鎖の一部がGal−β1−3−GlcNAcに変わっている(図3(b)および図4)。
鶏卵オボムコイドは、かなり複雑なオリゴ糖の混合物を含んでいる。そのオリゴ糖のいくつかは、バイセクティングGlcNAc残基で置換されている。オボムコイドに見られる代表的なオリゴ糖を、図6に示す。N−グリカン構造をコアとする分子サイズの小さいオリゴ糖(OI)も、鶏卵白オボムコイドに見出される。
〔レクチンの選択〕
本実施例においては、以下に示す糖鎖を特異的に認識し、結合するレクチンを用いた。すなわち、(1)高マンノース型オリゴ糖を特異的に認識するレクチン(2)N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)またはそのオリゴマーを特異的に認識するレクチン(3)ガラクトース(Gal)またはラクトサミンGalβ1−4/3GlcNAcを認識するレクチン(4)シアル酸を認識するレクチン(5)フコースを認識するレクチン。レクチンは安定で、しかも特定の糖鎖と高特異的に結合するものが好ましい。このため、レクチンとして、糖鎖特異性を示すConA、WGA、TGA、PHA−E4、SSA、MAM、RSL、AALを選択した。これらのレクチンは、分析する間比較的安定で、分析前の保存に適している。
各実施例の結果を以下に示す。
〔実施例1〕α1酸性糖タンパク質由来の糖鎖の分類
α1酸性糖タンパク質(AGP)は、図1(b)および図2に示すように、2本鎖、3本鎖、4本鎖の糖鎖を含んでいる。さらに、3本鎖、4本鎖の糖鎖の中には、非還元末端のGalβ1−4GlcNAc残基に、フコース残基を含んでいる糖鎖も存在する。本実施例では、AGPから得られたアシアロ−糖鎖の混合物の移動度を検討した。その結果を図1(c)に示す。
2本鎖の糖鎖(AI)は、最も早い移動時間に観察された(5.2分)。3本鎖(AII)4本鎖(AIV)の糖鎖は、それぞれ6.2分と7.2分に観察された。6.5分と7.5分とに観察されたピークは3本鎖の糖鎖(AIII)および4本鎖の糖鎖(AV)であり、いずれもフコース残基が付加している(図1(a))。
(1)WGAの添加
泳動液にWGAを添加すると、興味深い移動を示した。6μMのWGA濃度では、AIIとAIIIとが単一のピークとして8.2分に、さらにAIVとAVとが9.2分に単一のピークとして観察された。12μMのWGAでは、AIIとAIII、およびAIVとAVの移動順序が逆転した。これらのデータは、フコース残基が3本鎖および4本鎖の糖鎖の分枝に付加することにより、WGAとの結合が減少したことを示している。
(2)ConAの添加
ConAを泳動液に添加すると、2本鎖の糖鎖のピーク強度が変化した。レクチン非存在下で5.2分に観察された2本鎖の糖鎖(AI)のピーク強度は、0.2μMのConAよりも高濃度(3μM)のConAで、大きく減少した。一方、ConAは、これらの濃度では3本鎖および4本鎖の糖鎖には明らかに親和性を示さなかった。これらの結果は、Kakehi K,et al.,Anal.Chem.,2001,73,2640−2647.に記載のデータに類似している。
(3)TGAの添加
チューリップの球根は、2種類のレクチンを含み、その1つは、イースト菌に結合する。もう1種類のレクチン(TGA)は、マウスの赤血球に特異的に結合し、この結合は、豚チログロブリンによって特異的に阻害される。TGAを添加すると、AGP由来のオリゴ糖の移動において、興味深い結果を示した。3本鎖の糖鎖(AIIおよびAIII)が、このレクチン(TGA)に対して高い特異性を示した。2μMのTGAでは、AIIとAIIIとのグループが、7.0分に移動した。12μMのTGAでは、AIIとAIIIとがブロードな単一ピークとして溶出し、最も遅く(約9.3分)に観察された。これに対して、TGAと2本鎖および4本鎖の糖鎖との親和性は弱いものであった。
〔実施例2〕フェツイン由来の糖鎖の分類−1(シアル酸残基を除去した場合)
フェツインは、図4に示すように、1種類の2本鎖糖鎖(AI)と、2種類の3本鎖糖鎖(AIIおよびFII)とを含んでいる。3本鎖の糖鎖のうちの1つ(FII)は、Galβ1−3GlcNAc分枝鎖を含んでいる。本実施例では、図4に示すように、シアル酸残基を除去した糖鎖の混合物を使用した。
(1)WGAの添加
主要な3本鎖の糖鎖(AII)は、12μMのWGAではWGA非存在下よりも少し遅く(約8.9分)観察された。もう一方のGalβ1−3GlcNAc分枝鎖を有する3本鎖の糖鎖(FII)の移動時間の遅延は観察されず、7.5分に観察された。この結果、12μMのWGAでは、AIIとFIIとを完全に分離できた。
(2)ConAの添加
実施例1と同様に、本実施例においても、ConAの添加により、2本鎖(AI)のピーク強度が、減少した。すなわち、レクチン非存在下で5.2分に観察された2本鎖の糖鎖(AI)のピーク強度は、0.2μMのConAよりも、より高濃度の3.0μMの場合に、次第に減少した。
(3)TGAの添加
実施例1(AGPの実施例)に示したように、TGAは3本鎖の糖鎖を強く認識する。興味深いことに、TGAは、AIIとFIIとで異なる親和性を示した。Galβ1−3GlcNAc分枝鎖を含む糖鎖(FII)は、移動時間の遅延が観察された。2μMおよび12μMのTGAでは、AIIとFIIとの移動順序が逆転した。12μMのTGAでは、AIIとFIIに対する親和性の違いが顕著に現われ、それぞれの3本鎖の糖鎖を完全に分離できた。
〔実施例3〕鶏卵白オボムコイド由来の糖鎖の分類
鶏卵白由来のオボムコイドは、5箇所の糖鎖結合部位を有し、糖タンパク質の20〜25%を構成している。鶏卵白オボムコイドには、20以上の糖鎖が報告されており、バイセクティングGlcNAc残基も存在する。図6に、オボムコイドに見られる代表的なオリゴ糖を示す。また、このオリゴ糖の分離を図5(a)および図5(c)に示す。
すべての糖鎖を確認することができなかったが、これらの糖鎖の分類は、本発明を評価する上で良いモデルとなる。レクチン非存在下では、いくつものブロードなピークが4分〜8分にかけて観察されている。最初に観察された小さなピークは、コア5糖(OI)によるものであり、バイセクティングGlcNAc残基を含んでいない。
(1)PHA−E4の添加
PHA−E4を添加することにより、オリゴ糖類の移動に様々な効果を示すことが示された。0.8μMのPHA−E4では、いくつかのグループのピークが遅れて観察された。バイセクティングGlcNAc残基を含んでいないオリゴ糖のピークは、レクチンの非存在下と同様の結果を与えた。これに対して、バイセクティングGlcNAc残基を含んでいるオリゴ糖の移動時間は、広範囲に渡って遅延しており、遅い移動時間に観察された(6μMのPHA−E4における約7〜8分のブロードのピーク参照)
(2)WGAの添加
WGAを使用して、糖鎖の移動の影響について試験した。コア5糖(OI、最初のピーク)のピークの移動時間は、いずれの濃度のWGAでも変化しなかった。その他のピークは、WGAの濃度の上昇に伴い次第に遅く観察された。
(3)ConA
ConAを含む泳動液での観察結果は、図5(c)に示されるように、PHA−E4とWGAとで観察された結果を支持している。低濃度のConAでさえ、コア5糖(OI)に対応するピークが消失している。これらの結果は、露出したマンノース残基を含むオリゴ糖は、より早い時間に観察され、ConA存在下では消失することを示している。
オボムコイドでは糖鎖が複雑であるため、糖鎖を同定することができなかった。しかしながら、糖鎖が、レクチンの存在により、当該糖鎖の構造の特徴に基づいて、異なる移動様式を示すことが確認された
〔実施例4〕WGAとGlcNAcオリゴマーとの相互作用
糖鎖とタンパク質との結合では、結合反応の化学量を決定する必要がある。モデルとして、WGAと、APTS誘導体化したGlcNAcオリゴマーとの相互作用を示す。このモデルを選択したのは、このレクチンの結合の反応速度とメカニズムがよく研究されているからである。図7に示すように、GlcNAcオリゴマーは様々な濃度のWGA存在下で興味深い移動時間の変化を示した。
3糖(図7の3、以下同様)は3μMの高濃度のWGAでさえ、WGAに対して弱い親和性しか示さなかった。4糖(4)は、0.8μMのWGA非存在下で、WGA非存在下で観察された速度よりも、遅い速度で移動し始めた。5糖(5)は、0.2μMのWGA存在下で遅い速度で移動し始めた。高濃度のWGAでは、移動速度が4糖よりも明らかに小さくなっている。5糖よりも分子量の大きなオリゴ糖類も、よく似た傾向を示し、移動速度が明らかに減少した。これらのデータは、より高分子量のオリゴマーがWGAに対して強い親和性を示すことを意味している。前述した観察結果と同様の結果が、NMR、超遠心分析、等温滴定マイクロ熱量測定を用いて報告されている。
少数の2糖類をモデルとし、レクチンに対するオリゴ糖の結合定数の算出方法が報告されている(Taga A,et al.,J.Chromatogr.A.,1999,837,221−229.)。すなわち、以下の(1)式により算出するものである。
ここで、tは、タンパク質(この場合WGA)存在下でのリガンド(この場合、GlcNAcオリゴマーのAPTS誘導体)の移動時間であり;t1は、タンパク質非存在下でのリガンドの移動速度、t2は、移動時間[t]とタンパク質濃度[P]との関係が一定に達するタンパク質濃度でのリガンドの移動時間に近似される。それゆえ、上記式(1)は、式(2)とみなすことができる。
ここで、AとBは定数である。その結果、(t−t1)−1と[P]−1との関係をプロットすることにより、容易に結合定数(Ka)を得ることができた。ここで、式(1)および式(2)に示されるように、リガンド(例えば、APTS−オリゴ糖)の濃度を決定する必要はない。これは生物試料由来の糖鎖の複雑な混合物の化学量論結合を研究する上で非常に重要である。なぜなら、それぞれの糖鎖の正確な濃度を決定することは困難であるためである。図7に示したデータを用いて、(t−t1)−1と[P]−1との関係をプロットした。その結果を図8に示す。
3糖、4糖および5糖は、WGAの濃度とよい直線性を示し、結合定数は、それぞれ、0.56×106M−1、1.56×106M−1、2.54×106M−1であった。本発明によって得られた結果は、Dam T.,et al.,Chem.Rev.,2002,102,387−429.に記載の結果と類似している。また、Asensio J.L.,Chemistry & Biology 2000,7,529−543.にはGlcNAcオリゴマーに多価で結合するWGAのキチン結合モチーフも報告されている。
〔実施例5〕カビ抽出液中の糖鎖結合性タンパク質と、ウシIgG由来の糖鎖ライブラリーとの相互作用の解析−1
実施例1〜4では、糖鎖結合性タンパク質としてレクチンを用いて、糖鎖混合物を分析し、その分類を行った。本実施例では、ウシIgG由来の構造既知の糖鎖を糖鎖ライブラリーとし、リソプス属のカビを粉砕しキャピラリー電気泳動用緩衝液で抽出した粗カビ抽出液と反応させた反応混合物について、泳動時間の変動について検討した。この粗カビ抽出液には、RSL(リゾプスカビレクチンRizopus stronipher lectin)が含まれている。なお、図9(a)には、ウシIgG由来の糖鎖の模式図が示される。キャピラリー電気泳動の結果、図9(b)に示すように、粗カビ抽出液を含んだ糖鎖の泳動時間は、それを含まない場合の泳動時間よりも顕著に遅くなっている。これは、ウシIgG由来の糖鎖と粗カビ抽出液中に存在する糖鎖結合性タンパク質との相互作用によるものである。つまり、粗カビ抽出液中に存在する、ウシIgG由来の糖鎖と特異的に結合する糖鎖結合性タンパク質が確認できた。このように構造既知の糖鎖混合物を用いれば、試料中の糖鎖結合性タンパク質の有無を確認できる。この方法は、新規糖鎖結合性タンパク質の発見や、それを用いた新規医薬品の開発につながる。
〔実施例6〕フェツイン由来の糖鎖の分類−2(シアル酸残基を除去しない場合。)
本実施例では、図13に示すように、シアル酸残基を除去しない糖鎖の混合物を使用した。
本実施例のフェツインは、図12(b)および図13に示すように、1つの2本鎖の糖鎖(SAI)と、3つの3本鎖の糖鎖(SFI,SFIIおよびSFIII)とを含んでいる。3本鎖の糖鎖のうち、SFIおよびSFIIは、NeuAcα2−6Galを含んでおり、SFIIIは、NeuAcα2−3Galをを含んでいる。また、SFIIIは、Galβ1−3GlcNAcを含んでおり、それ以外はGalβ1−4GlcNAcを含んでいる。
(1)TGAの添加
実施例2(シアル酸残基を有さないフェツインの実施例)に示したように、TGAは3本鎖の糖鎖を強く認識するとともに、SFIおよびSFIIとSFIIIとで異なる親和性を示した。すなわち、Galβ1−3GlcNAc分枝鎖を含む糖鎖(SFII)は、移動時間の遅延が観察された。12μMのTGAでは、SFIIIとSFIおよびSFIIとの移動順序が逆転した。12μMのTGAでは、AIIとFIIに対する親和性の違いが顕著に現われ、それぞれの3本鎖の糖鎖を完全に分離できた。
(2)MAMの添加
MAM(イヌエンジュレクチンMaackia anmurensis lectin)を泳動液に添加すると、シアル酸残基を有するすべての糖鎖(SAI,SFI,SFII,SFIII)のピーク強度が変化した。ピーク強度は、MAMの添加濃度が高いほど大きく減少した。なお、図示しないが、シアル酸残基を有さない糖鎖にMAMを添加しても、ピーク強度の変化は認められなかった。
(3)SSAの添加
SSA(ニホンニワトコレクチンSambucus sieboldiana lectin)を泳動液に添加すると、シアル酸残基を有するすべての糖鎖(SAI,SFI,SFII,SFIII)のピーク強度が変化した。ピーク強度は、SSAの添加濃度が高いほど大きく減少した。また、SSA3.0μMを添加した場合、移動時間の遅延が観察された。
しかし、SSAはα2,6シアリルラクトサミンをより強く認識し、MAMはα2,3シアリルラクトサミンをより強く認識するので、両者を組み合わせることにより、シアル酸結合の微妙な差を区別することができた。
このように、本実施例では、α2−3およびα2−6結合したシアル酸残基を含有するフェツインを、MAMおよびSSAを組み合わせて使用することにより、上記シアル酸残基を含む糖鎖を効率よく区別することができた。具体的には、SSAの添加によりシアロ糖鎖の存在を確認し、MAMの添加により、α2−3およびα2−6結合のシアロ糖鎖を区別することができた。さらに、TGAの添加により、Galβ1−3GlcNAcまたはGalβ1−4GlcNAcを有する3本鎖糖鎖の区別の精度を向上することができた。
〔実施例7〕カビ抽出液中の糖鎖結合性タンパク質と、ウシIgG由来の糖鎖ライブラリーとの相互作用の解析−2
本実施例では、実施例5と同様に、ウシIgG由来の構造既知の糖鎖を糖鎖ライブラリーとし、リソプスカビレクチン(RSL)を添加した。
図14(b)に示すように、ウシ由来のIgGは、蛍光物質側の末端にフコース(図14(b)では▲で表示)を持つ糖鎖を含んでいる(I〜IV)。図14(a)に示すように、RSLの添加により、添加量に応じて、これらのフコース結合型糖鎖(フコシル化糖鎖)(I〜IV)の泳動時間が顕著に遅れることが確認できた。すなわち、本実施例では、フコース結合型糖鎖を効率よく検出することができた。
〔実施例8〕ブタチログロブリン糖鎖の分類
ブタチログロブリン由来の糖鎖は、図15および図16に示すように、2本鎖(TI)および少量の3本鎖(TI)糖鎖、並びにハイマンノース型糖鎖(HM)を含んでいる、ユニークな糖タンパク質である。また、2本鎖および3本鎖の糖鎖は、末端のGlcNAcにフコースが付加した、フコース結合型糖鎖である。
本実施例では、ブタチログロブリン由来の糖鎖を糖鎖ライブラリーとし、TGAおよびConAを添加した。
図15に示すように、TGAの添加により、添加量に応じて、これらフコース結合型糖鎖(TIおよびTII)の泳動時間が顕著に遅れることが確認できた。なお、5分前後に見られるハイマンノース型糖鎖(HM)は、TGAを添加しても、泳動時間は全く変化しなかった。
なお、図示しないが、TGAの代わりにConAを添加した場合、ハイマンノース型糖鎖(HM)のピークは、実施例3と同様に、完全に消失した。これにより、ConAの添加により、ハイマンノース型糖鎖を確認することができた。このように、ブタチログロブリンは、ハイマンノース型糖鎖と複合型糖鎖とを含む有用なライブラリー糖鎖である。
〔実施例9〕癌患者由来のAGPに含まれる糖鎖構造解析
AGPの糖鎖は、癌化や炎症などの生理変化に伴って、タンパク質中の糖鎖が変化する糖タンパク質である。AGP分子上には5箇所のN結合型糖鎖の修飾部位が存在し、図17(b)および図18に示すように、糖鎖AI〜AVIの糖鎖の存在が明らかにされている。特に、癌化に伴うフコシル化糖鎖(AIII,AV,AVI)の変化は、近年注目されている。本実施例では、癌患者由来AGPの糖鎖分析およびフコース認識レクチンの添加効果を検討した。
図17(a)に示すように、正常のAGPの糖鎖は、5.0分(AI)、5.7分(AII)、5.9分(AIII)、6.5分(AIV)、6.7分(AV)に五種の糖鎖ピークとして観察されている(図17(a)最下段のチャート)。一方、癌患者由来のAGPでは、癌化に伴い、フコシル化糖鎖(AIII,AV)の増加が観察されている(図17(a)中央のチャート)。さらに、癌患者由来AGPでは正常AGPで見られなかった※印のピーク(AVI)の存在が観察された。
次に、癌患者由来のAGPに、フコース認識レクチンであるヒイロチャワンタケレクチン(AAL:Aleuria aurantia lectin)を添加することにより(図17(a)最上段のチャート)、特徴的な変化として、フコース結合型糖鎖(フコシル化糖鎖)のピーク強度減少(消失)が確認された。なお、AALの特異性から、このフコース結合型糖鎖はルイスエックス抗原を有するフコシル化糖鎖である。
本発明によれば、図10に示すように、糖タンパク質由来の糖鎖のハイスループット機能分類が可能である。具体的には、以上のように各実施例において、糖鎖を分類するのに、8種類のレクチン、すなわち、ConA、WGA、PHA−E4、TGA、RSL,AAL、SSA、MAMを選択した。以下にこれらのレクチンの特徴を示す。
ConAは、2本鎖の糖鎖を認識する。また、高マンノース、およびハイブリッド型のオリゴ糖もConAによって認識される。
WGAは、2本鎖、3本鎖、4本鎖の糖鎖の移動時間に影響を及ぼす。すなわち、WGA存在下では、フコース残基が付加した3本鎖および4本鎖の糖鎖の移動順序と、フコース残基を含まないそれぞれの糖鎖の移動順序とが変化する。
TGAは、3本鎖の糖鎖を識別するのに非常に有用である。図3(c)に示すように、3本鎖の糖鎖は、TGAにより特異的に認識される。
PHA−E4は、図5(a)〜図5(c)に示すように、バイセクティングGlcNAc残基を有する糖鎖の認識に適用できる。例えば、鶏卵白オボムコイド由来の複雑なオリゴ糖の混合物中からバイセクティングGlcNAc残基を有するオリゴ糖を識別することに成功した。
RSLおよびAALはフコースに特異性を示し、SSAおよびMAMはシアル酸に対して特異性を示し、上記4種類(ConA、WGA、TGA、PHA−E4)で分類された糖鎖を、さらに厳密に区別する。
上記の実施例では、レクチンは、2つの異なる様式で糖鎖との結合を示した。すなわち、オボムコイド中のConAとコア5糖(図5(a)〜図5(c)のOI)との結合では、ピークの消失が見られた。その他の場合では、レクチンと糖鎖との結合は、移動時間が遅延するという結果であった。今のところ、このように結合様式が異なって観察されたことについての理由は解明されていない。さらに、反応速度論的研究が必要であるけれども、結合における反応速度は考慮するべきである。
本発明の方法は、糖鎖とレクチンとが結合する親和定数(Ka)を一斉に決定することができる。その理由として、図7に示すように、キトオリゴ糖とタンパク質間の結合のように、蛍光標識リガンド(例えば、糖鎖)の濃度を測定する必要がないからである。それゆえ、本発明の方法は、濃度を決定することが困難な、生物試料由来の糖鎖の複雑な混合物の速度論的測定に、非常に有用である。
上記実施例に示したように、所定の濃度における選択したレクチンの組み合わせを用いて、糖鎖の分類に成功した。1つの糖鎖試料に要する全分析時間は、4時間以内である。WGAとAGPとの研究に用いたレクチンと糖鎖試料の全量は、それぞれ20μg(500pmol)、2μg(50pmol)である。
本発明では、糖鎖骨格の特徴を識別することが中心であるが、シアル酸を含む糖鎖の特徴を利用した方法に応用可能である。
以上のように、本発明の技術は、既知および/または未知の糖鎖ライブラリーを、既知または未知のタンパク質の可溶化溶液、ゲル、またはゾルを媒体として用いる電気泳動にかけ、その泳動下で形成される糖鎖−糖鎖結合性タンパク質複合体の電気泳動の相違に基づき、糖鎖の分類、および糖鎖とタンパク質との相互作用の解析を行う。糖鎖ライブラリーと電気泳動媒体とはキットで、また電気泳動ゲル媒体はマイクロチップなどの形で提供し得る。これにより、タンパク質の翻訳後の糖鎖による修飾を解明する上で非常に有用である。さらに、糖鎖欠損による糖タンパク質疾患の病態の研究にも役立つ。本発明を用いた細胞表面での糖鎖を特徴づけることにより、分子レベルの病態解析にも役立てることができる。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
以上のように、本発明の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法は、1種以上の糖鎖混合物の分離結果と、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物の分離結果との比較に基づき、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定する方法である。
それゆえ、例えば、複数の糖鎖の混合物をライブラリーとして糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の微妙な変化を測定することができる。さらに、既知の複数の糖鎖結合性タンパク質(例えばレクチン類)を組み合わせることにより、複雑な糖鎖の混合物との結合反応を効率よく一斉測定できる。
それゆえ、例えば、複数の糖鎖の混合物をライブラリーとして糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の微妙な変化を測定することができる。さらに、既知の複数の糖鎖結合性タンパク質(例えばレクチン類)を組み合わせることにより、複雑な糖鎖の混合物との結合反応を効率よく一斉測定できる。
Claims (17)
- 1種以上の糖鎖混合物の分離結果と、当該糖鎖混合物と糖鎖結合性タンパク質とを反応させた反応混合物の分離結果との比較に基づき、糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用を測定することを特徴とする糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法。
- 上記1種以上の糖鎖混合物の電気泳動結果と、上記反応混合物の電気泳動結果とを比較することを特徴とする請求の範囲1に記載の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法。
- 上記糖鎖混合物は、α1酸性糖タンパク質、フェツイン、オボムコイド、イムノグロブリン、およびチログロブリンの少なくとも1つに由来する糖鎖混合物であることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法。
- 上記糖鎖結合性タンパク質は、タチナタ豆レクチン、小麦胚芽レクチン、チューリップレクチン、リゾプスカビレクチン、ニホンニワトコレクチン、イヌエンジュレクチン、ヒイロチャワンタケレクチン、イヌエンジュレクチンから選択される1以上の糖鎖結合性タンパク質であることを特徴とする請求の範囲1、2、または3に記載の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法。
- 請求の範囲1〜4のいずれか1項に記載の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法を用いる糖鎖のスクリーニング方法であって、
特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質と、当該糖鎖結合性タンパク質と結合することが不明の1種以上の糖鎖混合物とを反応させる糖鎖反応工程と、
上記糖鎖混合物のみの分離結果と、上記糖鎖反応工程によって得られた反応混合物の分離結果との比較に基づき、上記糖鎖混合物中に、上記糖鎖結合性タンパク質と結合する糖鎖の有無を判定する糖鎖判定工程とを含むことを特徴とする糖鎖のスクリーニング方法。 - 請求の範囲1〜4のいずれか1項に記載の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法を用いる糖鎖のスクリーニング方法であって、
構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物と、当該糖鎖を特異的に認識することが不明の1種以上の糖鎖結合性タンパク質とを反応させる糖鎖結合性タンパク質反応工程と、
上記糖鎖混合物のみの分離結果と、上記糖鎖結合性タンパク質反応工程によって得られた反応混合物の分離結果との比較に基づき、上記糖鎖結合性タンパク質中に、上記糖鎖を特異的に認識する糖鎖結合性タンパク質の有無を判定する糖鎖結合性タンパク質判定工程とを含むことを特徴とする糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング方法。 - 上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質は、タチナタ豆レクチン、小麦胚芽レクチン、チューリップレクチン、リゾプスカビレクチン、ニホンニワトコレクチン、イヌエンジュレクチン、ヒイロチャワンタケレクチン、イヌエンジュレクチンから選択されることを特徴とする請求の範囲5に記載のスクリーニング方法。
- 上記構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物は、α1酸性糖タンパク質、フェツイン、オボムコイド、イムノグロブリン、およびチログロブリンの少なくとも1つに由来する糖鎖混合物であることを特徴とする請求の範囲6に記載のスクリーニング方法。
- 上記糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程は、キャピラリー電気泳動による泳動時間の差によって糖鎖または糖鎖結合性タンパク質の有無を判定することを特徴とする請求の範囲5〜8のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 上記糖鎖混合物の糖鎖は、標識されていることを特徴とする請求の範囲5〜9のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 上記糖鎖または糖鎖結合性タンパク質がシアル酸残基を含む場合に、当該シアル酸残基が除去する工程をさらに含んでいることを特徴とする請求の範囲5〜10のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物が、支持体に固定されていることを特徴とする請求の範囲5〜11のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 上記糖鎖判定工程または糖鎖結合性タンパク質判定工程では、キャピラリー電気泳動、または、マイクロチップ電気泳動による泳動結果の比較に基づいて、糖鎖または糖鎖結合性タンパク質を判定特徴とする請求の範囲5〜12のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 請求の範囲1〜4のいずれか1項に記載の糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用の測定方法、または、請求の範囲5〜13のいずれか1項に記載のスクリーニング方法に用いる試薬であって、
特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質または構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物を含んでいることを特徴とする試薬。 - 上記特異的に認識する糖鎖が明らかな1種以上の糖鎖結合性タンパク質は、タチナタ豆レクチン、小麦胚芽レクチン、チューリップレクチン、リゾプスカビレクチン、ニホンニワトコレクチン、イヌエンジュレクチン、ヒイロチャワンタケレクチン、イヌエンジュレクチンから選択されることを特徴とする請求の範囲14に記載の試薬。
- 上記構造の明らかな1種以上の糖鎖混合物は、α1酸性糖タンパク質、フェツイン、オボムコイド、イムノグロブリン、およびチログロブリンの少なくとも1つに由来する糖鎖混合物であることを特徴とする請求の範囲14または15に記載の試薬。
- 糖鎖−糖鎖結合性タンパク質の相互作用測定、または、糖鎖あるいは糖鎖結合性タンパク質のスクリーニング用のキットであって、
請求の範囲14、15または16に記載の試薬を含んでいることを特徴とするキット。
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