JPWO2004031999A1 - 三次元構造活性相関法 - Google Patents
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Abstract
Description
3D QSAR解析を実施する際に最初に行う分子の重ね合わせにおいて、これまでは比較する複数の分子間で、対応すると予想される原子−原子あるいは官能基−官能基を重ね合わせる手法、または評価関数(分子類似性)を用いて最も良い重なりを順次探していく方法が用いられてきた。しかし、原子−原子あるいは官能基−官能基を重ね合わせる方法では、重ね合わせが短時間で行える反面、研究者の主観が入り込むことを避けられないという欠点を有していた。例えば、研究者が異なる分子同士を主観的に重ね合わせた場合、実際の分子が受容体タンパクと相互作用している配座を重ね合わせたものと大きく異なっていることがある。また、計算機により官能基を自動抽出する方法では、重ね合わせる官能基の種類や数の選択方法にソフトウェア依存の任意性や研究者の主観が含まれるといった問題点が残っていた。一方、評価関数を用いる方法は、分子の重ね合わせ手法そのものとしては理想的であるが、計算に時間がかかることが問題となっていた。そこで、本出願の発明者らは、より高速で任意性のない分子重ね合わせ手法の開発を検討し、一般のPCで実行可能でありかつ、計算速度を従来の100〜1000倍速くする方法を考案し報告した(Kotani,T.;Higashiura,K.Rapid evaluation of molecular shape similarity index using pairwise calculation of the nearest atomic distances.J.Chem.Inf.Comput.Sci.2002,42,58−63.)。
分子の重ね合わせの次に必要となるのは、3D QSAR解析のプログラムである。しかしながら、一般のパーソナルコンピュータPCで計算できる3D QSAR手法はごく一部の分子設計統合パッケージしか報告されておらず、また、これら3D QSAR解析は専用の分子設計統合パッケージのモジュールとして提供されているため、単体で入手することはできない。さらに、ほとんどの3D QSAR解析は高価な汎用機やワークステーションで多用されている。このため、合成研究者が実験を行いながら簡便に3D QSARを行い、標的化合物の最適化に応用することが困難であった。以下に、これまでに提案されている複数のQSAR解析について具体的に説明する。
(1)古典的QSAR手法:
Fujita−Hansch法に代表される古典的QSAR手法はその解析に、官能基に割り付けられた疎水性パラメータπ、静電的パラメータσ、立体的パラメータEsなどのパラメータを用い、重回帰計算(Multiple Regression Analysis、MRA)などの統計手法を用いて活性に寄与する物理化学的性質を抽出し、創薬に応用しようというものである。このため、パラメータの与えられていない官能基を有する化合物群はQSAR解析できないといった欠点と共に、比較的近い骨格をもつ化合物群でのみ解析が可能となっていた。また、三次元的なQSAR解析に応用できないことが最も大きな欠点であった。
(2)Comparative Molecular Field Analysis(CoMFA)法:
Cramerらによって開発されたCoMFA(Cramer III,R.D.;Patterson,D.E.;Bunce,J.D.Comparative Molecular Field Analysis(CoMFA).1.Effect of Shape on Binding of Steroids to Carrier Proteins.J.Am.Chem.Soc.1988,110,5959−5967)は、薬物分子の周りの『場』に注目してQSAR解析を行うものである。CoMFA解析では各分子の構造の差異が分子周辺の『場』の差異になり、これが生物活性値を左右すると仮定している。このため、CoMFA以外の3D QSAR手法と同様、構造の差異を適切にデータに反映させるために、分子構造を適切に重ね合わせることが必要となる。重ね合わせ処理が終わると、今度は重ね合わさった分子を囲むような箱を考え、箱内部に1または2Å間隔で数千個の格子点を作成する。その後、各格子点位置に電荷+1のsp3炭素原子を疑似的に配置し、各薬物分子について、配置した全てのsp3炭素原子各々との間の、立体及び静電ポテンシャルを計算し、各薬物分子の三次元構造記述子として使用する(CoMFAフィールド)。
CoMFAフィールドの計算では、立体相互作用はLennard−Jones式で、静電相互作用はCoulombポテンシャルで計算する。このCoMFAフィールドを、重ね合わせた分子それぞれについて計算し、各分子の三次元構造記述子として使用して、活性値との関係を統計解析する。統計解析にはPLS(Partial Least Square)法を用い、計算された活性予測式は薬物分子に対して要求される性質を表すものとなり、三次元的に図示することが可能となる。より活性が高い化合物を得るためには、分子のどの部位に、立体的、静電的にどのような性質の置換基を導入すればよいのか、あるいは逆にどのように削ったらよいのかに関する薬物設計の指針をコンピュータグラフィックスで判りやすく図示できる。
なお、CoMFAには疎水的な相互作用を表すパラメータがないため、KelloggらはHINTというパラメータを考案し、CoMFA解析に応用している(Kellogg,G.E.;Semus,S.F.;Abraham,D.J.HINT:a new method of empirical hydrophobic field calculation for CoMFA.J.Comput.Aided Mol.Des.1991,5,545−552、Kellogg,G.E.;Abraham,D.J.Hydrophobicity:is LogP(o/w)more than the sum of its parts? Eur.J.Med.Chem.2000,35,651−661.)。
(3)Comparative Molecular Similarity Analysis(CoMSIA)法:
Klebeらは、CoMFAを拡張した3D QSAR計算手法として、CoMSIAを報告している(Klebe,G.;Abraham,U.;Mietzner,T.Molecular similarity indices in a comparative analysis(CoMSIA)of drug molecules to correlate and predict their biological activity.J.Med.Chem.1994,37,4130−4146.、Klebe,G.Comparative Molecular Similarity Indices Analysis:CoMSIA.Perspect.Drug Discov.Design 1998,12/13/14,87−104、Klebe,G.;Abraham,U.Comparative molecular similarity index analysis(CoMSIA)to study hydrogen−bonding properties and to score combinatorial libraries.J.Comput.Aided Mol.Des.1999,13,1−10)。
CoMSIAでは、CoMFA計算では立体ポテンシャルと静電ポテンシャルと幾つかの追加的なフィールドを用いて計算が行われていたのに対し、『場』の計算にSimilarity Indexを用いてCoMFAと同様の計算を行っている。
CoMSIAでは、CoMFAの持ついくつかの欠点に対する改良が提案されている。具体的に説明すると、CoMFAで用いるLennard−Jonesポテンシャルはvan der Waals表面近傍で急勾配となるため、分子表面に近い格子点ではポテンシャルエネルギーが急激に変化する。このため、分子の小さなコンフォメーション変化により結果が大きく異なる場合がある。また、Lennard−JonesポテンシャルやCoulombポテンシャルでは原子上に存在する格子点が特異点となり、無限大あるいは無限小のような意味をなさない値となるため、ポテンシャルエネルギーのカットオフが必要となる。さらに、Lennard−JonesポテンシャルトとCoulombポテンシャルではポテンシャルの傾きが異なるため、カットオフされる分子からの距離が異なるという欠点を持っている。すなわち、それぞれのポテンシャルで分子から異なった距離でカットオフしなければならないため、寄与率が正確に反映されないことが予想される。このため、CoMSIAでは分子重ね合わせ法として用いられているSEALの関数を用いて、立体フィールド・静電フィールドを計算している(「SEALの関数」については、Klebe,G.;Mietzner,T.;Weber,F.Different approaches toward an automatic structural alignment of drug molecules:applications to sterol mimics,thrombin and thermolysin inhibitors.J.Comput.Aided Mol.Des.1994,8,751−778.を参照。)。SEALの関数については、水素結合Donorフィールド・水素結合Acceptorフィールド、疎水性フィールドについても応用例が報告されている。そして、SEALではGaussian−typeの評価式を用いるため、CoMFAで問題となっていた特異点が発生せず、カットオフの必要がない。
反面、CoMFA、CoMSIAでは格子点を作成する場合に任意性が生じ、QSAR解析の結果に影響する場合があることが知られている。この欠点を解決するために格子点の作成方法を改良したMFAがあるが、これらのどの手法でも計算の精度を上げるためは格子点の間隔を狭くする必要があり、時には数千以上の格子点が必要になることがある。このことは、正確な3D QSAR解析結果を得るためには多くの格子点が必要となるが、これに伴い計算量も増大するため、3D QSARの信頼性は計算機の能力に大きく影響されることを示している。
(4)Hypothetical Active Site Lattice(HASL)法:
HASL法は、Doweykoにより開発されたHASLはCoMFAやCoMSIAとは異なり、分子のvan der Waals半径以内の領域に2Å程度の間隔で格子点を発生させ、各格子点に分子の物理化学的性質を割り振った後に、独自のフィッティングを行う方法である(Doweyko,A.M.Three−dimensional pharmacophores from binding data.J.Med.Chem.1994,37,1769−1778、Guccione,S.;Doweyko,A.M.;Chen,H.;Barretta,G.U.;Balzano,F.3D QSAR using’multiconformer’alignment:the use of HASL in the analysis of 5−HTIA thienopyrimidinone ligands.J.Comput.Aided Mol.Des.2000,14,647−657.を参照)。HASLではCoMFAやCoMSIA、MFA(Accelrys Inc.から提供されている。)と比較して、必要とする格子点の数は百程度と格段に少なくなっており、そのために通常のPCで計算できるが、格子の作成に任意性が残る点でCoMFAやCoMSIAと同様の問題を有している。また、HASLでは1種類のHASL原子タイプしかなく、これらはその物理化学的性質により+1、0、−1の値しかとることができない。HASL原子タイプが定義されていない誘導体についてはQSAR解析を行うことができない。
(5)Pharmacophoreの重ね合わせを行う方法:
この方法は、モデル中にどのような活性発現に必要となる水素結合、静電相互作用、疎水性ポケットなど物理化学的な特徴がどれだけあるかを評価することにより行う3D QSAR手法であり、具体的にはDISCOやCatalyst、Apex−3Dなどがある。しかし、これらの計算手法は、簡便であるために誘導体の重ね合わせに用いられることはあるが、どのように物理化学的性質を定義するかにより、結果が異なるという欠点を有している。DISCOについては、Martin,Y.C.;Bures,M.G.;Danaher,E.A.;DeLazzer,J.;Lico,I.;Pavlik,P.A.A fast new approach to pharmacophore mapping and its application to dopaminergic and benzodiazepine agonists.J.Comput.Aided Mol.Des.1993,7,83−102.を参照。Catalystについては、Greene,J.;Kahn,S.;Savoj,H.;Sprague,P.;Teig,S.Chemical Function Queries for 3D Database Search.J.Chem.Inf.Comput.Sci.,1994,34,1297−1308.を参照。
まとめると、従来の3D QSAR手法には以下の欠点がある。
(a)格子点を数千点発生させるため、計算量の増大とともに、多くのメモリー領域が必要となり、通常のPCで3D QSAR解析を行うことができない。
(b)モデルとなる化合物を格子点に対しどのように配置するかにより結果が異なる場合がある。
(c)特異点の解消やカットオフの処理が必要となる。
(d)原子タイプの帰属が困難なものや、割り振られていないものがある。
発明の概要
そこで、本発明の三次元構造活性相関法は、
仮想空間内で複数の分子を重ね合わせる工程Aと、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子の原子座標をクラスター解析して代表点を作成する工程Bと、
重ね合わされた複数の分子の各原子と代表点との相互作用(例えば、立体的相互作用、静電的相互作用、疎水的相互作用)を計算する工程Cと、
相互作用を統計解析する工程Dとを備えている。
特に、クラスター解析の工程Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子に含まれる各原子の座標を求める第1の工程B1と、
各原子について他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の工程B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第3の工程B3と、
第3の工程B3後、第2の工程B2に戻り第3の工程で作成した原子を含めて第2の工程を行う第4の工程B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、工程Bを終了する第5の工程B5とを含むことを特徴とする。
本発明の他の形態の三次元構造活性相関法において、特に、工程Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた分子が環構造又は官能基を備えている場合、該環構造又は官能基を代表する位置に原子(擬似原子)を仮想する工程B1と、
仮想された原子を含めた仮想空間内にあるすべての原子について、他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する工程B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する工程B3と、
第3の工程B3後、第2の工程B2に戻る工程B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、工程Bを終了する工程B5とを含むことを特徴とする。
このように、官能基を代表する点として擬似原子を仮想した場合、計算に使用される「原子」の数が減少し、3D QSAR解析に必要な計算量を減少することができ、より速く簡便な解析が可能となる。官能基を代表する点を設定するかしないか、またどの位置に設定するか等は、官能基の種類や使用するパラメータに応じて適宜決定すればよい。すなわち、官能基を代表する点は官能基の中心や原子量を考慮した加重平均又は単純平均を用いた位置等に設定することができ、複数であっても構わない。また、分子が環構造を備えている場合、該環構造を代表する位置に追加して擬似原子を設定してもよい。この場合は官能基の擬似原子の設定とは異なり、該環構造を構成する原子は残しておき、追加して擬似原子を設定する。これにより分子の環部分の特徴を加味することができ、より好ましい構造活性相関を見出すことが可能となる。該擬似原子を設定する位置は、上記の官能基を代表する擬似原子の設定の場合と同様に適宜設定することができる。
本発明はまた、コンピュータを用いて仮想空間内で重ね合わせた複数の分子の原子座標をもとに該化合物の特徴を抽出して視覚的に表示する三次元構造活性相関法に利用されるプログラムに関し、コンピュータに、
仮想空間内で複数の分子を重ね合わせる処理Aと、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子の原子座標をクラスター解析して代表点を作成する処理Bと、
代表点と重ね合わせた複数の分子の各原子との相互作用を計算する処理Cと、
相互作用を統計解析する処理Dとを実行させるものである。
特に、クラスター解析の処理Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子に含まれる各原子の座標を求める第1の処理B1と、
各原子について他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の処理B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第3の処理B3と、
第3の処理B3後、第2の処理B2に戻り第3の処理B3で作成した原子を含めて第2の処理B2を行う第4の処理B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、処理Bを終了する第5の処理B5を実行させることを特徴とする。
本発明の他の形態のプログラムにおいて、クラスター解析の処理Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた分子が環構造又は官能基を備えている場合、必要に応じて、該環構造又は官能基を代表する位置に原子を仮想する第1の処理B1と、
仮想された原子を含めた仮想空間内にあるすべての原子について、他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の処理B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第3の処理B3と、
第3の処理B3後、第2の処理B2に戻り第3の処理B3で作成した原子を含めて第2の処理B2を行う第4の処理B4と
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、処理Bを終了する第5の処理B5とを実行させることを特徴とする。
このように構成された三次元構造活性相関法及びそのプログラムでは、CoMFAやCoMSIA、MFAのように分子の周りに格子点を発生させるのではなく、分子内に相互作用を計算させるための代表点を発生させるので、計算に要する点の数が大幅に少なくする。これにより3D QSAR解析に必要な計算量とメモリー領域を大幅に削減することができる。
また、相互作用を計算させる点は格子点を用いるのではなく、分子の原子座標をある閾値を指標としてクラスター解析を行い決定する。すなわち、計算に用いる分子の原子座標及び必要に応じて設定した擬似原子座標を抽出し、ある閾値以内にある原子及び擬似原子座標のxyz座標について加重平均して得られるxyz座標を用いる。こうすることにより分子をxyz軸に対してどのように配置しても得られる結果が同じとなる。さらに、構造変化の大きい部分に多くの座標点が発生するため、活性に寄与すると予想される領域では座標点の間隔が狭く、一方、活性に大きく影響しないと予想される領域では座標点の間隔が広くなることが期待できる。
さらに、相互作用の計算には高速な分子重ね合わせ法の評価式やガウス型評価式、あるいは擬似係数を使うことにより、特異点やカットオフを避けることができる。
さらにまた、立体的なパラメータや静電的なパラメータはそれぞれvan der Waals半径や電子の部分電荷をそのまま用いるか、あるいはこれらの値から誘導された擬似係数を用いることにより、すべての原子種に対応できる。また、疎水性パラメータや水素結合パラメータについては既に知られているものが応用できる。
図2:図1のクラスター解析(STEP2)の詳細を示す図。
図3:CoMFA法の計算プロセスを示す図。
図4:重ね合わせに用いたステロイド誘導体の化合物セットを示す図。
図5:CoMSIAの解析結果(立体的相互作用)を視覚的に示す図。
図6:CoMSIAの解析結果(静電的相互作用)を視覚的に示す図。
図7:重なり合う分子の原子座標をもとに代表点を作成した図。
図8:環中心部分に新たな点(擬似原子)を加えて代表点を作成した図。
図9:高速重ね合わせ法を用いたPLS解析の結果を示すグラフ。
図10:高速重ね合わせ法を用いたPLS解析の結果を視覚化した図。
図11:SEALの評価式を用いたPLS解析の結果を示すグラフ。
図12:SEALの評価式を用いたPLS解析の結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図13:SEALの評価式を用いたPLS解析の結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図14:Goodらの分子類似性の評価式を用いたPLS解析の結果を示すグラフ。
図15:Goodらの分子類似性の評価式を用いたPLS解析の結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図16:Goodらの分子類似性の評価式を用いたPLS解析の結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図17:擬似変数を用いたPLS解析の結果を示すグラフ。
図18:擬似変数を用いたPLS解析の結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図19:擬似変数を用いたPLS解析の結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図20:環の中央に原子を設け、SEALの評価式を用いたPLS解析を行った結果を示すグラフ。
図21:環の中央に原子を設け、SEALの評価式を用いてPLS解析を行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図22:環の中央に原子を設け、SEALの評価式を用いてPLS解析を行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図23:環の中央に原子を設け、Goodらの分子類似性の評価式を用いてPLS解析の結果を示すグラフ。
図24:環の中央に原子を設け、Goodらの分子類似性の評価式を用いてPLS解析の結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図25:環の中央に原子を設け、Goodらの分子類似性の評価式を用いてPLS解析の結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図26:SEAL法で用いられる疎水性パラメータでガウス型の評価式を用いてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図27:SEAL法で用いられる疎水性パラメータで擬似変数を用いてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図28:FLEXS法で用いられる疎水性パラメータでガウス型の評価式を用いてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図29:FLEXS法で用いられる疎水性パラメータで擬似変数を用いてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図30:HASLで用いられるパラメータでガウス型の評価式を用いてPLS解析を行った結果について、HSALパラメータの寄与を視覚化した図。
図31:HASLで用いられるパラメータで擬似変数を用いてPLS解析を行った結果について、HSALパラメータの寄与を視覚化した図。
図32:Audryの式を減衰関数として用いてPLS解析を行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図33:Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いてPLS解析を行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図34:修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いてPLS解析を行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図35:SEALのガウス関数を用いてPLS解析を行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図36:擬似変数を用いてPLS解析を行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図37:Audryの式を減衰関数として用いてPLS解析を行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図38:Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いてPLS解析を行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図39:修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いてPLS解析を行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図40:SEALのガウス関数を用いてPLS解析を行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図41:擬似変数を用いてPLS解析を行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図42:FLEXSのパラメータを用い、Fauch▲e▼reの式を減衰関数としてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図43:FLEXSのパラメータを用い、修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数としてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図44:FLEXSのパラメータを用い、SEALのガウス関数を減衰関数としてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図45:AlogPのパラメータを用い、Audryの式を減衰関数としてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図46:AlogPのパラメータを用い、Fauch▲e▼reの式を減衰関数としてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図47:AlogPのパラメータを用い、修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数としてPLS解析を行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図48:COX−2の3D QSARを行った結果について、静電項の寄与を視覚化した図。
図49:COX−2の3D QSARを行った結果について、立体項の寄与を視覚化した図。
図50:COX−2の3D QSARを行った結果について、疎水項の寄与を視覚化した図。
図1は、本発明に係る構造活性相関法の概略プロセスを示す。図示するように、この構造活性相関法では、解析の対象となる複数の分子を仮想空間(x、y、z座標空間)内で重ね合わせる(STEP1)。例えば、ニトロベンゼンとメチルピロールについて解析する場合、図2(A)に示すように、ニトロベンゼン1とメチルピロール2の両分子の三次元構造データ(各分子に含まれる複数の原子の三次元座標を含むデータ)を取得し、その構造データを用いて両分子を仮想の三次元空間内で重ね合わせ、重ね合わせモデル3を作成する。なお、説明を簡単にするために、図面上では2つの分子を重ね合わせる状態を示しているが、分子の数は任意である。
図1に戻り、重ね合わせた分子についてクラスター解析を行う(STEP2)。このクラスター解析ではまず、仮想空間内で重ね合わせた2つの分子の原子座標を抽出する。例えば、図2(B)に示すように、重ね合わせた2つの分子(ニトロベンゼンとメチルピロール)に含まれる原子の座標だけを抽出し、原子座標モデル4を作成する。次に、各原子について、他の原子との間の距離(空間距離)を計算し、最短原子間距離を有する一対の原子(最近接原子対5)を特定する。続いて、最近接原子対5の最短原始間距離と予め決められた閾値とを比較する。閾値の設定は任意であり、例えば0.75Åが用いられる。比較の結果、最短原子間距離が閾値以下(又は閾値未満)の場合、図2(C)に示すように、最近接原子対5を構成する2つの原子を仮想空間から削除するとともに、これら2つの原子の座標の加重平均座標(2つの原子の中間の座標)を計算し、その加重平均座標に代表原子6を作成する(STEP3)。代表原子6には、後の計算において代表原子以外の原子と区別するために、代表原子を構成する原子の数に応じた重みを付けすることが好ましい。
なお、留意すべき点として、仮想空間内で重ね合わされた分子が官能基を備えている場合、必要に応じて、該官能基を代表する位置に擬似原子を仮想することができるが、この場合、計算に使用される「原子」の数が減少し、3D QSAR解析に必要な計算量を減少することができ、より速く簡便な解析が可能となる。官能基を代表する点を設定するかしないか、またどの位置に設定するか等は、官能基の種類や使用するパラメータに応じて適宜決定すればよい。すなわち、官能基を代表する点は官能基の中心や原子量を考慮した加重平均又は単純平均を用いた位置に設定することができ、複数でも構わない。また、分子が環構造を備えている場合、該環構造を代表する位置に追加して擬似原子を設定してもよい。この場合は官能基の擬似原子の設定とは異なり、該環構造を構成する原子は残しておき、追加して擬似原子を設定する。これにより分子の環部分の特徴を加味することができ、より好ましい構造活性相関を見出すことが可能となる。該擬似原子を設定する位置は、上記の官能基を代表する擬似原子の設定の場合と同様に適宜設定することができる。
次に、新たに作成された代表原子6を一つの原子とみなし、上述と同様に、各原子について他の原子との原子間距離を計算し、最短原子間距離が閾値以下(又は未満)の場合、それら最短原子間距離を構成する2つの原子を仮想空間から削除するとともに新たな代表原子6を作成する。
代表原子6の作成は、最短原子間距離が閾値以上になるまで繰り返し実行され、図2(D)に示すように、原子モデル7が作成される。なお、以上のようにして作成された代表原子6の座標を「代表点」という。
図1に戻り、クラスター解析後、適当な評価関数を用いて代表点と分子との相互作用を計算する(STEP4)。ここでの計算では、図3に示すように、重ね合わせた複数の分子の各原子と代表点との立体的相互作用、静電的相互作用、疎水的相互作用が計算される。例えば、立体的相互作用、静電的相互作用はガウス式を用いて計算される。立体的相互作用は、本発明者がKotani,T.;Higashiura,K.Rapid evaluation of molecular shape similarity index using pairwise calculation of the nearest atomic distances.J.Chem.Inf.Comput.Sci.2002,42,58−63.で提案している分子類似性評価方法が好適に利用できる。疎水性相互作用はFLEXS法(Lemmen,C.;Lengauer,T.;Klebe,G.FLEXS:a method for fast flexible ligand superposition.J.Med.Chem.1998,41,4502−4520)のパラメータが好適に利用できる。
続いて、得られた相互作用の結果を、CoMFAやCoMSIAと同様、PLS解析し(STEP5)、データを視覚化する(STEP6)。既存の3D GSAR手法であるCoMFAなどでは、(分子の大きさに依存するが)数百から数千という多数の格子点について計算されるポテンシャルの値を、各分子の構造記述子(説明変数)として取り扱わなくてはならず、これを可能にするため、回帰分析手法の一種、PLS法を用いる。PLS法では、多数の記述子から目的変数(薬理活性値など)と相関のある『成分』と呼ばれる値を抽出して回帰式を組み立てる。この『成分』は、主成分分析で計算される主成分とよく似た性質を持ち、複数取り出した場合には各々が直交するという性質がある。このため、非常に多くの変数を含むようなCoMFA等のデータから活性予測式を作ることができる。また、このPLS成分数は、Leave−one−out法と呼ばれる信頼性評価法によって決定され、最も信頼性の高い活性予測式を作るのに必要な成分数での活性予測式構築が行われる。
本発明に係る3D QSAR法の有用性を検討するために、CramerらがCoMFAの報告で発表し、以後多くの3D QSAR解析ソフトのベンチマークになっているステロイド誘導体の構造活性相関をモデルに用いて3D QSAR解析を行った。重ね合わせに用いたステロイド誘導体を図4に、それぞれの化合物のヒトコルチコステロイド結合グロブリンに対する結合活性を表1に示す。
ステロイド分子のxyz座標、部分電荷などは、CoMFAの報告に用いられ、チュートリアルの含まれているファイルをそのまま用いた。COX−2阻害剤のxyz座標、部分電荷などはLiuらのデータをそのまま用いた。計算はすべてWindows NT4.0上のCygwin1.3.2を用いて行い、プログラムはFortranとC、Tcl/tkを用いて作成した。PLS計算にはSAMPLS(QCPE#650)(Bush,B.L.;Nachbar,R.B.,Jr.Sample−distance partial least squares:PLS optimized for many variables,with application to CoMFA.J.Comput.Aided Mol.Des.1993,7,587−619.)を用い、計算結果の視覚化にはWebLab ViewerLite 4.0(Accerlys社)を用いた。
また、本方法の有効性を確認する方法として、Liuらにより報告されたシクロオキシゲナーゼ(COX−2)阻害剤を用いて3D QSAR解析を行った。(Liu,H.;Huang,X.;Shen,J.;Luo,X.;Li,M.;Xiong,B.;Chen,G.;Yang,Y.;Jiang,H.;Chen,K.Inhibitory Mode of 1,5−Diarylpyrazole Derivatives Against Cyclooxygenase−2 and Cyclooxygenase−1:Molecular Docking and 3D QSAR Analyses.J.Med.Chem.2002,45,4816−4827)。本解析にはLiuらがAutoDockを用い算出した1,5−ジアリールピラゾール誘導体とCOX−2との結合配座を用いた。
II.従来の解析手法による結果(比較例)
対比のためにSYBYL,Tripos Inc.St.Louisから提供されているCoMFA解析例では、活性に影響を及ぼす置換基の立体因子のみについて3D QSAR解析が行われており、その結果には、17位からの側鎖部分には立体的に活性を増強させる領域および活性を低下させる領域があり、A環3位付近には活性を低下させる領域が現れている。一方、CoMSIAにより、立体項、静電項、疎水項の3つのパラメータを用いてQSAR解析を行った結果報告では、図5に示すように、立体的な寄与については17位からの側鎖部分では立体的に活性を増強させる領域(緑色:G)しか現れないがほぼCoMFAと同様の結果が得られている。図6に示すように、静電的な寄与もA環3位および17位側鎖部分に現れており、特に17位側鎖部分では酸素原子の負電化が活性増強に関与していることが示唆している。
III.本発明の計算
本発明に係る3D QSAR計算結果を以下に示す。
III−1.立体的相互作用および静電的相互作用の計算
代表点の取り方として、原子座標のみに基づき重なり合わせて作成した場合(例1)と環を代表する位置として、環の中央に擬似原子を置き、原子座標とともに重なり合わせて作成した場合(例2)の二通りを試みた。
(1)評価関数
評価関数としては以下の4つ式等を用いた。
A)高速な分子重ね合わせ法の評価式
(Kotani,T.;Higashiura,K.Rapid evaluation of molecular shape similarity index using pairwise calculation of the nearest atomic distances.J.Chem.Inf.Comput.Sci.2002,42,58−63.)
B)SEALの評価式
(Kearsley,S.K.;Smith,G.M.An alternative method for the alignment of molecular structures:maximizing electrostatic and steric overlap.Tetrahedron Comput.Method.1990,3,615−633.、Klebe,G.;Mietzner,T.;Weber,F.Different approaches toward an automatic structural alignment of drug molecules:applications to sterol mimics,thrombin and thermolysin inhibitors.J.Comput.Aided Mol.Des.1994,8,751−778.)
C)Goodらの分子類似性の評価式
(Good,A.C.;Hodgkin,E,E.;Richatds,W.G.Utilization of Gaussian functions for the rapid evaluation of molecular similarity.J.Chem.Inf.Comput.Sci.1992,32,188−191.)
D)擬似変数を用いた場合
(立体的な寄与を示す擬似変数として、代表点から最も近い原子の位置が閾値以内の場合1を、閾値の2倍以内にある場合0.5を、そうでない場合0とした。また、静電的な寄与を示す擬似変数として代表点から最も近い原子の位置が閾値以内のときは最も近い原子の電荷を、閾値の2倍以内のときは最も近い原子の電荷の1/2を、そうでない場合には0とした。)
これら4つの評価関数のうちA)−C)法は分子類似性を計算するために用いられる評価関数である。A)法を評価関数として用いた場合は立体項のみ3D QSAR解析に用いることができるが、各代表点と各分子との相互作用を高速に計算できる。B)法、C)法の評価関数ではパラメータが報告されているものについては立体的な寄与だけでなく、静電的な寄与や疎水性相互作用を考慮に入れた3D QSARが可能となる。D)法はA法の改良法で静電相互作用を考慮に入れた3D QSARを行うことができる。疎水性相互作用、水素ドナー、水素アクセプター等のパラメータの追加によりこれらの相互作用の計算も可能である。
(2)代表点の作成
代表点の作成に関し、原子座標だけを元に代表点を作成した場合(例1)、クラスター解析による代表点作成の閾値は0.75Åとした。このとき代表点として92個の点が得られた(図7参照)。
また、環を代表する位置に擬似原子を置いた場合、環構造を持つ分子には環の中心部分等に新たな原子(擬似原子=点)を加え、代表点を作成することもできる。この場合には代表点は97個と増加した(図8参照)。こうすることにより、分子の環部分の特徴を加味した代表点の数も増えるため、計算精度も高くなる。
また、クラスター解析により得られた代表点は、数千にもなるCoMFAやCoMSIAの格子点と比較して、格段に小さいものとなる。これに伴い、以後の計算にかかる時間が短縮されるだけでなく、PCのメモリー領域の使用量を削減させることができた。
CoMFAでは計算により得られる格子点での相互作用はすべてポテンシャルエネルギー(kcal/mol)であるため、スケーリングの必要がなかった。しかし、CoMSIAや本発明では、logPなどのポテンシャルエネルギーではない単位の異なる記述子を用いるため、疎水項、静電項などそれぞれの項目についての影響力を合わせるためにスケーリングを行う必要がある。このため、今回の手法ではブロックスケーリングを行った。
(3)3D QSAR解析
例1 重なり合う各分子の原子座標を元に代表点を作成した場合
1−A)高速な分子重ね合わせ法の評価式を使用
Kotani,T.;Higashiura,K.Rapid evaluation of molecular shape similarity index using pairwise calculation of the nearest atomic distances.J.Chem.Inf.Comput.Sci.2002,42,58−63.で提案した高速分子重ね合わせ法を用い重ね合わせを行った後、3D QSAR解析を行った。PLS解析の結果を図9に示す。ここでr2は重相関係数を、q2はcross−validated r2を、また1−(n−1)(1−q2)/(n−c)はTropshaらにより提唱された最適なコンポーネント数を表す評価関数である。この場合、コンポーネント数2の場合が最もq2値が高く、信頼できるモデルであることが示された。
計算で得られた結果を視覚化したものを図10に示した。図中、緑色の部分が立体的に活性を増強させる、すなわち嵩高い置換基の存在により活性が増強する領域を示し、黄色の部分はその逆、嵩高い置換基の存在により活性が減弱される領域を示す。この結果はCoMFAやCoMSIAとほぼ一致する傾向を示した。しかし、D環15位付近に、CoMFAやCoMSIAでは見られなかった領域も生じている。
1−B)SEALの評価式を用いた場合
次にSEALの評価式を用いて3D QSAR解析を行った。r2、q2、1−(n−1)(1−q2)/(n−c)のグラフを図11に示す。この場合、q2値はコンポーネント4において最大値となることから、本条件下における解析が最も信頼性が高いものであるとした。この場合には、立体項だけではなく、静電項の評価も行うことができた。それぞれの図を図12及び図13に示す。図示するように、立体的および静電的な寄与に関しては、CoMSIAと良く似た結果を得ることができた。
1−C)Goodらの分子類似性の評価式を用いた場合
Goodらの分子類似性の評価式を用いた場合のr2、q2、1−(n−1)(1−q2)/(n−c)のグラフを図14に示す。この場合、コンポーネント4においてq2=0.822と非常に高い値を示した。このことは本モデルが極めて高い信頼性を持つことを示した。しかし、その立体項、静電項の寄与を示す図(図15及び図16)は先の3者と大きく異なることがわかった。
1−D)擬似変数を用いた場合
擬似変数として立体因子、静電因子共に0.5を適用した場合のr2、q2、1−(n−1)(1−q2)/(n−c)のグラフを図17に示した。コンポーネント数4のときにq2が最大値となった。この条件下における3D QSAR解析結果を図18、及び図19に示す。この場合、立体項の寄与を表す図はCoMFAおよびCoMSIAの結果と、静電項の寄与を表す図はCoMSIAと良く似た結果を与えた。立体項の寄与に関する結果は、1−A)高速な分子重ね合わせの評価式を用いて得られたものと良く似た結果を与えた。
例2 環を代表する位置に新たな点を加え、代表点を作成した場合
環を代表する位置として、環の中心部分に新たな点(擬似原子)を加え、同様の計算を行った。擬似原子を加えることにより、重なり合わせの精度が向上し、より正確な3D QSAR結果が得られることが期待できる。
2−A)高速な分子重ね合わせ法の評価式を用いた場合
この場合1−Aと同じ結果が得られた。このことは、我々が開発した高速分子重ね合わせ法は擬似原子を置く必要がないほど高精度で分子同士の重ね合わせを行うことができることを意味する。
2−B)SEALの評価式を用いた場合
環中央に擬原子を置き重ね合わせを行った後、SEALの評価式を用いて3D QSAR解析を行った。r2、q2、1−(n−1)(1−q2)/(n−c)のグラフを図20に示した。この場合、q2値はコンポーネント4において最大値となることから、本条件下における解析が最も信頼性が高いものであるとした。立体項、静電項の評価、それぞれの図を図21及び図22に示した。また、環を代表する位置に擬似原子を置かなかった場合(例1−B)と比べると、静電項は全く同じ結果を、また立体項もほとんど同じ結果を与えた。
2−C)Goodらの分子類似性の評価式を用いた場合
Goodらの分子類似性の評価式を用いた場合のr2、q2、1−(n−1)(1−q2)/(n−c)のグラフを図23に示す。この場合、コンポーネント4においてq2=0.741と高い値を示した。このことは本モデルが極めて高い信頼性を持つことを示すものの、例1−Cの場合と同様にその立体項、静電項の寄与を示す図(図24及び図25)は先のCoMSIA等の結果と大きく異なることがわかった。
2−D)擬似変数を用いた場合
1−Dと同じ結果が得られた。
本発明の手法を、用いた評価式に着目し解析すると、Goodらの分子類似性の評価式を用いた場合(1−C、2−C)、3D QSAR解析ではr2、q2とも他の評価関数と比較し高い値が得られたが、活性に影響を与える領域はCoMFAやCoMSIAで得られた結果とかなり異なっており、3D QSARの評価関数として更なる検討が必要と思われる。同じGaussian−typeの評価式にもかかわらずSEALの評価式を用いた方法(1−B、2−B)ではCoMFA(立体的な寄与)やCoMSIAで報告された等高線図とほぼ同様の結果を得ることができたが、r2、q2に注目すると他の評価関数と比較し、若干低い値となっている。一方、高速な分子重ね合わせ法の評価式を用いた場合(1−A)や擬似変数を用いた場合(1−D)ではr2、q2ともにCoMFAやCoMSIAより高い値が得られた。活性に影響を与える領域はSEALの評価関数を用いたときと比較して、やや異なる性質を示す領域が入り組んでいるが、ほぼ同様の結果を得ることができた。クラスター解析により代表点を決定する場合に、環を代表する位置として、環中心部分に新たな点を加えた場合と加えない場合では3D QSARの結果に大きな差が見られなかった。
III−2.疎水性相互作用の計算
疎水性の寄与を計算するには種々の方法があるが、CoMSIA法で用いられている評価関数SEAL法で疎水性相互作用を計算する手法として用いられている
ViswanadhanらのAlogP(Viswanadhan,V.N.;Ghose,A.K.;Singh,U.C.;Wendoloski,J.J.Prediction of Solvation Free Energies of Small Organic Molecules:Additive−Constitutive Models Based on Molecular Fingerprints and Atomic Constants.J.Chem.Inf.Comput.Sci.1999,39,405−412)、および、Klebeらの自由度を考慮した高速な重ね合わせ法であるFLEXS法(Lemmen,C.;Lengauer,T.;Klebe,G.FLEXS:a method for fast flexible ligand superposition.J.Med.Chem.1998,41,4502−4520)で使用されている疎水性相互作用パラメータを用いて本発明の疎水性相互作用評価関数とした。また、疎水性相互作用のみを表すパラメータではないがHASL法で用いられているパラメータの本発明への応用を試みた。
それぞれのパラメータにつき、SEALと同様のガウス型の関数と擬似変数を用いる2種類の関数を用いて検討を行った。代表点の作成ならびに3D QSAR解析はIII−1と同様の手法で行った。代表点の作成は、環の中央に擬似原子を追加せず行った。計算で得られた結果を図示したものを図26に示した。図中、橙色の部分は疎水性相互作用が活性を増強させる領域を示し、水色の部分は疎水性相互作用が活性を減弱させる領域、すなわち親水性相互作用が活性を増強させる領域を示す。
疎水性パラメータとして以下のパラメータを用いた。
3)SEAL法で用いられている疎水性パラメータ(ViswanadhanらのAlogP)。
4)FLEXS法で用いられている疎水性パラメータ。
5)HASL法で用いられているパラメータ。
また、評価関数としては以下に示すE、Fの2つの方法を用いた。
E)ガウス型の評価式を用いた場合
疎水性相互作用を示す減衰曲線として種々のものが報告されているが、今回はCoMSIA法で用いられているガウス型の評価関数として次式で示す式を用いた。
AF,kは分子jと代表点q相互作用を示す。ここでwikは原子iで物理化学的性質ごとに割り振られた値であり、wprobe,kはプローブ原子の物理化学的性質ごとに割り振られた値である。疎水性パラメータを用いるときはSEAL法、FLEXS法あるいはHASL法のパラメータ値を当てはめる。プローブ原子は電荷1、原子半径1Å、疎水性1とした。αは指数の係数であり、riqは代表点上のプローブ原子と相互作用を計算する分子上の点iとの距離である。本発明ではαとして0.3を用いている。
F)擬似変数を用いた場合
疎水的な寄与を示す擬似変数として、代表点から最も近い原子の位置が閾値以内の場合、原子種に依存したパラメータの値を、閾値の2倍以内にある場合にはパラメータに0.5を乗じた値を、そうでない場合0とした。
上記の疎水性パラメータと評価関数の組み合わせの計6手法について本発明での疎水性寄与を評価した。
3−E)SEAL法で用いられる疎水性パラメータでガウス型の評価式を使用した場合
SEAL法で用いられるパラメータでガウス型の評価式を使用し、3D QSAR解析を行った。(図26)
3−F)SEAL法で用いられる疎水性パラメータで擬似変数を使用した場合
SEAL法で用いられるパラメータで擬似変数を用いた場合を使用し、3D QSAR解析を行った。(図27)
4−E)FLEXS法で用いられる疎水性パラメータでガウス型の評価式を使用した場合
FLEXS法で用いられる疎水性パラメータでガウス型の評価式を使用し、3D QSAR解析を行った。(図28)
4−F)FLEXS法で用いられる疎水性パラメータで擬似変数を使用した場合
FLEXS法で用いられる疎水性パラメータで擬似変数を用いた場合を使用し、3DQSAR解析を行った。(図29)
5−E)HASLで用いられるパラメータでガウス型の評価式を使用した場合
HASLで用いられるパラメータでガウス型の評価式を使用し、3D QSAR解析を行った。(図30)
5−F)HASLで用いられるパラメータで擬似変数を使用した場合
HASLで用いられるパラメータで擬似変数を用いた場合を使用し、3D QSAR解析を行った。(図31)
III−3.相互作用に計算に用いる減衰関数の影響
本発明では2種類のガウス型減衰関数と擬似変数を用いて3D QSARにおける精度について検討を行ってきた。この結果Goodらの分子類似性を本発明に応用した場合、r2、q2とも他の手法と比較して高い値が得られたが、活性に影響を与える領域はCoMFA法やCoMSIA法で得られた結果とかなり異なっており、3DQSARへの応用には適当でないことが示唆された。同じガウス型の関数を物理化学的性質の相互作用計算に使用しているにもかかわらずSEALの評価式を用いた方法ではCoMFA法(立体的な寄与)やCoMSIA法で報告された等高線図とほぼ同様の結果となることが明らかとなっている。
そこで、MLPで提案されている3種類の減衰関数(式1〜3)を適応した場合の本手法の精度に与える影響を検討した。CoMFA解析に疎水性相互作用の寄与を計算する目的で導入された分子疎水性ポテンシャル(Molecular Lipophilic Potential;MLP)ではCoMSIA法やCoMFA法で使用されている減衰関数のほかに、Audryの式(式1)(Furet,P.;Cohen,N.C.3D molecular lipophilicity potential profiles:a new tool in molecular modeling.J.Mol.Graph.1988,6,182−189)、Fauch▲e▼reの式(式2)(Fauch▲e▼re,J.L.;Quarendon,P.;Kaetterer,L.Estimating and representing hydrophobicity potential.J.Mol.Graph.1988,6,202−206)、および修正Fauch▲e▼reの式(式3)(Kearsley,S.K.;Smith,G.M.An alternative method for the alignment of molecular structures:maximizing electrostatic and steric overlap.Tetrahedron Comput.Method.1990,3,615−633)のような減衰関数が提案されている。
ここでfiはi番目の原子(フラグメント)の疎水定数である。これらの減衰関数は原子(フラグメント)上の値が1であり、距離が無限遠の極限でゼロとなるように設計されている。
物理化学的性質として以下に示す(6)、(7)、(8)および(9)の4種類を検討した。
(6)立体的相互作用
(7)静電的相互作用
(8)FLEXSのパラメータを用いた疎水的相互作用
(9)AlogPのパラメータを用いた疎水的相互作用
減衰関数として式1〜3およびSEALのガウス関数と擬似変数を用いた。
(G)Audryの式(式1)を減衰関数として使用
(H)Fauch▲e▼reの式(式2)を減衰関数として使用
(I)修正Fauch▲e▼reの式(式3)を減衰関数として使用
減衰関数の比較として
(J)SEALのガウス関数
(K)本発明のFで用いた擬似変数
を使用した。
それぞれの減衰関数に対し、立体的相互作用(6)、静電的相互作用(7)、疎水性相互作用(8)および(9)への影響を計算した。プローブ原子は電荷1、原子半径1Åとした。
代表点の作成ならびに3D QSAR解析はIII−1、III−2と同様の手法で行った。代表点の作成は、環の中央に擬似原子を追加せず行った。
計算で得られた結果を図示したものを図32以降に示した。図中、それぞれの領域が示す色はIII−1、III−2と同じものを用いた。
上記物理化学的パラメータ(6)〜(9)、と減衰関数(G)〜(K)の組み合わせのうち以下に示す17通りについて3D QSAR解析を行った。QSAR解析結果の評価は重相関係数(r2)、およびcross−validated r2(q2)を用いた。
(6)立体的相互作用の検討
5種類の減衰関数を用い、立体的相互作用に与える影響を検討した。
6−G)Audryの式(式1)を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討
Audryの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図32に示す。
6−H)Fauch▲e▼reの式(式2)を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討
Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図33に示す。
6−I)修正Fauch▲e▼reの式(式3)を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討
修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図34に示す。
6−J)SEALのガウス関数を用いた立体的相互作用の検討
SEALのガウス関数を用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図35に示す。
6−K)本発明のFで用いた擬似変数を用いた立体的相互作用の検討
本発明のFで用いた擬似変数を用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図36に示す。
(7)静電的的相互作用の検討
5種類の減衰関数を用い静電的相互作用に与える影響を検討した。
7−G)Audryの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討
Audryの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図37に示す。
7−H)Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討
Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた立体的相互作用の検討を行った。結果を図38に示す。
7−1)修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた静電的相互作用の検討
修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた静電的相互作用の検討を行った。結果を図39に示す。
7−J)SEALのガウス関数を用いた静電的相互作用の検討
SEALのガウス関数を用いた静電的相互作用の検討を行った。結果を図40に示す。
7−K)本発明のFで用いた擬似変数を用いた静電的相互作用の検討
本発明のFで用いた擬似変数を用いた静電的相互作用の検討を行った。結果を図41に示す。
(8)FLEXSのパラメータを用いた疎水的相互作用の検討
擬似変数(K)を用いた場合には良好な結果を得ることができなかったので、今回はこれを除いた4種類の減衰関数(G〜J)を用いて3D QSARに及ぼす影響を検討した。
8−G)Audryの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
Audryの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行ったが、最適なコンポーネント数を得ることはできなかった。
8−H)Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行った。結果を図42に示す。
8−I)修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行った。結果を図43に示す。
8−J)SEALのガウス関数を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
SEALのガウス関数を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行った。
結果を図44に示す。
(9)AlogPのパラメータを用いた疎水的相互作用の検討
AlogPのパラメータでSEALのガウス関数あるいは擬似変数を用いた場合には良好な結果を得ることができなかったので、今回はこれを除いた3種類の減衰関数(G〜I)を用いて3D QSARに及ぼす影響を検討した。
9−G)Audryの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
Audryの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行った。結果を図45に示す。
9−H)Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行った。結果を図46に示す。
9−I)修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討
修正Fauch▲e▼reの式を減衰関数として用いた疎水性相互作用の検討を行った。結果を図47に示す。
III−4.シクロオキシゲナーゼ(COX−2)阻害剤を用いた3D QSAR解析
また、本方法の有効性を確認する方法として、Liuらにより報告された40個のシクロオキシゲナーゼ(COX−2)阻害剤を用いて3D QSAR解析を行った。(Liu,H.;Huang,X.;Shen,J.;Luo,X.;Li,M.;Xiong,B,;Chen,G.;Yang,Y.;Jiang,H.;Chen,K.Inhibitory Mode of 1,5−Diarylpyrazole Derivatives Against Cyclooxygenase−2 and Cyclooxygenase−1:Molecular Docking and 3D QSAR Analyses.J.Med.Chem.2002,45,4816−4827)。本解析にはLiuらがAutoDockを用い算出した1,5−ジアリールピラゾール誘導体とCOX−2との結合配座を用いた。
代表点の作成に関し、環を代表する位置に擬似原子を追加することなくクラスター解析を行った。代表点作成の閾値は0.75Åとした。このとき代表点として97個の点が得られた。
代表点と解析に用いるそれぞれの原子との相互作用はこれまでに行ってきた手法の中で、良い結果を与えた手法の組み合わせで行った。すなわち、SEALの減衰関数を使用する方法(10;立体的、静電的および疎水的相互作用の計算に1−Bおよび4−Eを組み合わせた手法)と擬似変数を使用する方法(11;立体的、静電的および疎水的相互作用の計算に6−J、7−Kおよび4−Fを組み合わせた手法)との2種類の手法で3D QSAR解析を行った。
(10)SEALの減衰関数を使用する方法
SEALで用いられているガウス型の減衰関数を用い、立体的および静電的な相互作用はSEALのパラメータを、疎水的な相互作用はFLEXSのパラメータを用いた。本手法では良好な結果を得ることはできなかった。
(11)擬似変数を使用する方法
擬似変数を用い、疎水的な相互作用はFLEXSのパラメータを用いた。すなわち、立体的、静電的および疎水的相互作用の計算に6−J、7−Kおよび4−Fを組み合わせた手法を用いた。計算で得られた結果を図48〜50に示した。図中、それぞれの領域が示す色はIII−1、III−2、III−3と同じものを用いた。
IV.結果と考察
IV−1.立体的相互作用および静電的相互作用の計算
本発明の結果をCoMFAおよびCoMSIAの結果を表2示す。ここでは、CoMFAでは立体的な寄与のみをQSAR解析に用いている。一方、CoMSIAでは立体項、静電項、疎水項の3つのパラメータを用いてQSAR解析を行っているため精密な比較はできないが、q2はCoMFA、CoMSIAとも同じ値が得られており、r2は若干CoMSIAで良い結果が得られている。
IV−2.疎水性相互作用の計算
本発明での疎水性相互作用を検討した結果、疎水性パラメータと評価関数の組み合わせにより結果に大きな違いが見られた。すなわち、疎水性パラメータとしてViswanadhanらのAlogPを用いた場合(3−E、3−F)、SEAL法で用いられている評価関数では疎水性相互作用が活性を減弱させる領域のみを示す図が得られた。(図26、3−E)このときr2、q2はともに他の手法と比較して、悪い結果が得られた。(表3;図27、3−F)
一方、擬似変数を評価関数とした場合には疎水性相互作用が活性を増強させる領域と減弱させる領域が混在する結果となった。この結果、本方法ではAlogPを疎水性パラメータとして用いるのは相応しくないとの結果が得られた。FLEXS法で用いられている疎水性パラメータを用いた場合(4−E、4−F)、評価関数としてSEAL法で用いられている減衰関数を用いた場合と擬似変数を用いた場合の両方においてCoMSIA法での結果と類似した結果が得られた。(図28、29、4−E、4−F)
本方法は構造変化の大きい部分に多くの座標点が発生するため、活性に寄与すると予想される領域では座標点の間隔が狭く、一方、活性に大きく影響しないと予想される領域では座標点の間隔が広くなる。このためCoMSIA法と比較すると、17位付近に多くの疎水性寄与が活性を減弱させる領域が現れ、A環付近に活性を減弱させる領域があまり現れなかったものと類推できる。このとき、擬似変数を用いたときのほうが若干良い結果が得られているが(表3、4−Evs 4−F)、どちらの方法でもモデルとして信頼のおけるq2値が得られた。擬似変数を用いた場合ではr2、q2ともCoMSIA法とほぼ同程度の結果が得られた。(表3、4−F)。
HASL法のパラメータは疎水性パラメータだけでなく電子密度も含んだパラメータであるため、CoMSIA法と比較しr2、q2ともより高い値となったが、異なった図が得られた。(図30)すなわち、SEAL法で用いられている減衰関数を用いた場合(5−E)では3位と17位側鎖付近に正のHASLパラメータが活性を増強する領域が現れ、C環側鎖に活性を減弱させる部分が現れた。正のHASLパラメータはどちらかといえば負電荷を帯びた疎水性相互のある原子が多く、負のパラメータは負電荷を帯びた疎水性相互作用を示す原子が多いとされている。このことから3位および17位側鎖付近に負電荷を帯びた疎水性相互作用を示す原子があれば活性を増強させることができると考えられる。しかし、この結果は前報やCoMSIA法とは逆の傾向にある。これはHASLのパラメータが単純な疎水的あるいは静電的な相互作用を示したものではないためと類推できる。このためHASL法のパラメータが本方法でどのような物理化学的パラメータを強く反映しているか検討することにより、本方法の応用範囲が広がると期待できる。
一方、HASL法のパラメータで擬似変数を評価関数とした場合には良好な結果を得ることはできなかった。(図31)
IV−3.相互作用に計算に用いる減衰関数の影響
種々の減衰関数を本手法へ応用を検討した結果、立体的相互作用や静電的相互作用では減衰関数の違いによる大きな結果の相違は見られなかった。SEALのガウス関数(J)を使用した場合にr2、q2とも最も良い値となり、次いでFauch▲e▼reの式(H)を用いた場合に良い結果が得られた。活性に寄与する領域を比較したところ、CoMSIAや(G)、(H)、(I)では17位メチル基付近に立体的に活性を増強させる領域があるのに対し、SEALのガウス関数(J)ではこの領域が現れなかった。CoMFA法でもこの領域にはcontour mapが現れていないため、活性の発現にあまり寄与しない領域であることも考えられる。この方法でもA環3位付近に活性を低下させる領域が、ステロイド側鎖部分に活性を増強させる領域が現れている。結果を表4に示した。
静電的相互作用についても、どの手法でもほぼ同様の結果を示した。A環3位付近の静電的な効果を比較するとCoMSIA法では正電荷が活性を増強させる領域のみが現れているが(G)から(K)の減衰関数では正電荷が活性を増強させる領域の周りに負電荷が活性を増強させる領域が現れている。これは本発明がCoMSIA法よりも代表点あるいは格子点間隔を小さくできるため、より緻密な3D QSAR解析が行えることを示している。また、立体的な相互作用とは異なり、SEALのガウス関数(E)を用いたときに最も良いr2を与えたが、最も良いq2はFauch▲e▼reの式(H)を用いたときに得られた。結果を表5に示した。表中の項目は表2と同じ。
今回の減衰関数は分子疎水場ポテンシャル(MLP)のポテンシャル関数を本発明に応用したものであるが、予想に反して良好な結果を得ることができなかった。MLPはもともと疎水性相互作用を計算するために考案されたポテンシャル関数であり、AlogPなどのlogPを計算する手法で考案された固有のパラメータと減衰関数を用いる。AlogPのパラメータを用いたときには前報でSEALのガウス関数(J)では好ましい結果が得られなかったのと同様に、3種類の減衰関数(G)、(H)、(I)でも好ましい結果を得ることができなかった。結果を表6に示した。表中の項目は表2と同じ。
一方、FLEXSのパラメータを用いて静電的的相互作用の検討を行ったところ、Audryの式(G)では最適なQSARモデルを得ることはできなかった。H、Jでは疎水性相互作用が活性を増強させる領域および活性を低下させる領域はほぼ同じ結果となったが、r2、q2はそれぞれFauch▲e▼reの式(H)、SEALのガウス関数(J)を用いたときに最も良い値となった。結果を表7に示した。表中の項目は表2と同じ。
以上の結果を総合的に判断し、本発明ではSEALのガウス型関数あるいはFauch▲e▼reの式(式2)が相応しいという結果が得られた。
IV−4.シクロオキシゲナーゼ(COX−2)阻害剤を用いた3D QSAR解析
(10)の手法では好ましい結果を得ることはできなかったが、(11)の手法では充分高いq2とr2が得られた。Solivaらは、(i)中央の5員環部分(5MR)、(ii)スルホン/スルホンアミドが置換したベンゼン環部分(SR)、(iii)その他の置換基や無置換ベンゼン部分(BR)に部分構造を定義し、構造と活性の関係を報告している(Soliva,R.;Almansa,C.;Kalko,S.G.;Luque,F.J.;Orozco,M.Theoretical Studies on the Inhibition Mechanism of Cyclooxygenase−2.Is There a Unique Recognition Site? J.Med.Chem.2003,46,1372−1382)。BR部分近傍にはSolivaらの解析結果と大きく異なる立体的な相互作用が活性を増強する部分が現れた。
これはCoMFAやCoMSIAの結果と異なるように思われるが、CoMFAやCoMSIAは分子の周りの状況を反映したものであるが、本方法は分子に占有された部分の相互作用を計算したものであり、分子のどの部分が活性に強く関与しているかが大きく反映されるという特徴を示したものだと類推された。
一方、5MR近傍の立体的な相互作用が活性に好ましくない部分についてはCoMFAやCoMSIAと類似した結果が得られた。
本発明は例えば立体的に好ましくない領域が、好ましい領域の近傍に現れることがあるが、これによりCoMFAやCoMSIAよりも高い精度で、具体的に分子の合成候補を提案できる。
使用する評価関数は前記の既存の評価式の他、いかなる評価式も利用可能である。本発明者らが検討した評価式の中では、SEALの評価式を用いる方法(1−B)および擬似変数を用いる方法(1−D)は通常のPCで行える簡便で良好な3D QSAR法を提供する方法として効率的な薬物設計に応用できることが示された。
Claims (6)
- 仮想空間内で重ね合わせた複数の分子の原子座標をもとに該化合物の特徴を抽出して視覚的に表示する三次元構造活性相関法であって、
仮想空間内で複数の分子を重ね合わせる工程Aと、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子の原子座標をクラスター解析して代表点を作成する工程Bと、
重ね合わされた複数の分子の各原子と代表点との相互作用を計算する工程Cと、
相互作用を統計解析する工程Dとを備え、
クラスター解析の工程Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子に含まれる各原子の座標を求める第1の工程B1と、
各原子について他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の工程B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第3の工程B3と、
第3の工程B3後、第2の工程B2に戻り上記第3の工程B3で作成した原子を含めて第2の工程B2を行う第4の工程B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、工程Bを終了する第5の工程B5とを含むことを特徴とする三次元構造活性相関法。 - 仮想空間内で重ね合わせた複数の分子の原子座標をもとに該化合物の特徴を抽出して視覚的に表示する三次元構造活性相関法であって、
仮想空間内で複数の分子を重ね合わせる工程Aと、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子の原子座標をクラスター解析して代表点を作成する工程Bと、
重ね合わされた複数の分子の各原子と代表点との相互作用を計算する工程Cと、
相互作用を統計解析する工程Dとを備え、
クラスター解析の工程Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた分子が環構造又は官能基を備えている場合、必要に応じて該環構造又は官能基を代表する位置に原子を仮想する第1の工程B1と、
仮想された原子を含めた仮想空間内にあるすべての原子について、他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の工程B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第3の工程B3と、
第3の工程B3後、第2の工程B2に戻り第3の工程で作成した原子を含めて第2の工程を行う第4の工程B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、工程Bを終了する工程B5とを含むことを特徴とする三次元構造活性相関法。 - 工程Cで計算する相互作用は、立体的相互作用、静電的相互作用、疎水的相互作用の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1又は2の三次元構造活性相関法。
- コンピュータを用いて仮想空間内で重ね合わせた複数の分子の原子座標をもとに該化合物の特徴を抽出して視覚的に表示する三次元構造活性相関法に利用されるプログラムであって、コンピュータに、
仮想空間内で複数の分子を重ね合わせる処理Aと、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子の原子座標をクラスター解析して代表点を作成する処理Bと、
重ね合わされた複数の分子の各原子と代表点との相互作用を計算する処理Cと、
相互作用を統計解析する処理Dとを実行させ、
クラスター解析の処理Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子に含まれる各原子の座標を求める第1の処理B1と、
各原子について他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の処理B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第3の処理B3と、
第3の処理B3後、第2の処理B2に戻り第3の処理B3で作成した原子を含めて第2の処理を行う第4の処理B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、処理Bを終了する第5の処理B5とを実行させることを特徴とするプログラム。 - コンピュータを用いて仮想空間内で重ね合わせた複数の分子の原子座標をもとに該化合物の特徴を抽出して視覚的に表示する三次元構造活性相関法に利用されるプログラムであって、コンピュータに、
仮想空間内で複数の分子を重ね合わせる処理Aと、
仮想空間内で重ね合わされた複数の分子の原子座標をクラスター解析して代表点を作成する処理Bと、
重ね合わされた複数の分子の各原子と代表点との相互作用を計算する処理Cと、
相互作用を統計解析する処理Dとを実行させ、
クラスター解析の処理Bはさらに、
仮想空間内で重ね合わされた分子が環構造又は官能基を備えている場合、必要に応じて該環構造又は官能基を代表する位置に原子を仮想する第1の処理B1と、
仮想された原子を含めた仮想空間内にあるすべての原子について、他の原子との原子間距離を計算し、計算された原子間距離のうち最短の原子間距離及び該最短原子間距離を構成する2つの原子を特定する第2の処理B2と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値以下である場合、最短原子間距離を有する2つの原子を三次元空間から削除するとともに該削除する2つの原子の座標の加重平均座標に該2つの原子を代表する原子を作成する第2の処理B3と、
第3の処理B3後、第2の処理B2に戻り第3の処理で作成した原子を含めて第2の処理を行う第4の処理B4と、
計算された最短原子間距離が所定の閾値を越える場合、処理Bを終了する第5の処理B5とを実行させることを特徴とするプログラム。 - 処理Cで計算する相互作用は、立体的相互作用、静電的相互作用、疎水的相互作用の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項4又は5のプログラム。
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