JPWO2004027107A1 - 成膜装置用マスキング機構 - Google Patents
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Abstract
Description
技術背景
近年、高温超伝導現象、巨大磁気抵抗現象、高輝度蛍光現象、新触媒現象といった新たな物理現象が数多く発見されている。このような物理現象を発現する材料、組成の探査は、物質探査に要する時間を短縮するため、コンビナトリアル成膜装置で行われている。コンビナトリアル成膜装置を用いれば、同一真空工程で、発現可能性のある物質群のライブラリーを同一基板上に一度に形成でき、ライブラリーから新物質、新組成の発見、あるいはライブラリーの特性から理論的予測を得ることができる。従来法では100年かかる物質探査を、コンビナトリアル成膜装置を用いれば一ヶ月に短縮することができるといわれている。
コンビナトリアル成膜装置は、基板上の所望の部分のみに物質供給を限定する手段、種類の異なる薄膜の成膜手段、及び基板上の所望の部分の構造を解析する構造解析手段を必須としており、例えばレーザー蒸着装置を用いたコンビナトリアル成膜装置の場合には、複数のマスク装置、ターゲット切替装置、アブレーション・レーザ光導入装置、基板加熱用レーザ装置及び高エネルギー反射電子線回折装置(RHEED)等を備えている。
ところで近年、二元系,三元系の新物質の探査の要求が高まっている。例えば、プラズマディスプレイ用蛍光物質には、従来の電子線励起蛍光物質とは異なった特性を有する蛍光物質が必要であり、この蛍光物質は二元系,三元系の新物質で実現されると予測されている。
従来のコンビナトリアル成膜装置による二元系,三元系物質探査は、例えば図22に示すようにして行っている。図22は従来のコンビナトリアル成膜装置による二元系,三元系物質探査法を示す図である。図22(a)に示すように、基板上に複数の独立な試料を定義する、即ち基板上にピクセルを形成する多数のマスク穴を有するマスク1と、マスク1のマスク穴を選択的に覆うことによって蒸着されるピクセルを選択する遮蔽板形状のマスク2を用意し、基板、マスク1、及びマスク2の相対位置を調節してピクセルを選択すると共に蒸着物質を選択して蒸着する。この工程を繰り返して、ピクセル毎に所望の成分比を有する二元あるいは三元系相図薄膜を形成する。作製後のピクセル毎に所望の特性を測定して所望の特性を有するピクセルを見つけだし、このピクセルの成分比から所望の特性を実現するために最適な成分比を求めている。
また図22(b)に示すように、蒸着するピクセルがあらかじめ選択された複数のマスクを配置した回転円板を用い、この円板を順次回転させると共に蒸着物質を選択し、ピクセル毎に所望の成分比を有する二元あるいは三元系相図薄膜を形成し、作製後のピクセル毎に所望の特性を測定して所望の特性を有するピクセルを見つけだし、このピクセルの成分比から所望の特性を実現するために最適な成分比を求めている。
ところで、蛍光物質のように、有用な特性が得られる物質の成分比範囲が極めて狭い場合がある。このような場合、従来の方法によれば成分比が細かく変化したピクセルを極めて多く形成しなければならない。しかしながら、図22(a)に示した従来方法では、ピクセル毎に、複数のマスクの位置調整のための時間が必要であり、この時間のために極めて多くのピクセルを形成する場合には、初めに形成したピクセルと、最後に形成したピクセルとでは成膜条件が異なってしまう。例えば、時間の経過と共に生ずる制御不能な基板温度分布の変化、雰囲気組成の変化等により、再現性の良い、すなわち信頼性の高いデータが得られないという課題がある。
また、図22(b)に示した従来方法では、回転操作だけでマスクの位置調整ができるのでその分、時間がかからずに作製できるが、真空装置の容積には制限があるために、搭載できるマスク数に制限があり、成分比が細かく変化したピクセルを極めて多く形成することは困難である。このため、物質の成分比範囲を極めて細かく探査しなければならない場合には、従来、二元系について下記に示す方法で行われている。
図23は、従来の二元系相図薄膜の作製方法を説明する図である。同図(a)に示すように、物質AまたはBの蒸発流に垂直に配置され、開口部を有するマスク1と、マスク1に平行に走査できる遮蔽板形状のマスク2を有し、基板をマスク1の開口部にまたがって配置する。次に、(b)に示すように、物質Aを蒸発させながら、マスク2をx方向に走査する。マスク2を一定速度でx方向に走査すれば、基板上に蒸着される物質Aの膜厚は、蒸発流に晒されている時間に比例するから、マスクの走査方向、すなわちx方向に一定割合で厚くなるA物質からなる膜厚分布が得られる。次に、(c)に示すように、蒸着する物質をBに替え、図23(b)とは逆位置から−x方向に走査すれば、−x方向に一定割合で厚くなるB物質からなる膜厚分布が得られる。(c)の右側に示したように、このようにして作製したA,B物質の膜厚分布は、x方向にA物質の膜厚が、0から100%まで連続変化し、B物質の膜厚が100から0%まで連続変化した積層膜が得られる。蒸着するA,B物質の厚さは極めて薄く、A,B物質が接触すると同時に基板温度で決まる二元系物質の安定な状態に混合する。A物質の蒸着とB物質の蒸着の上記工程を繰り返すことにより、所定の膜厚の二元系相図薄膜を形成する。
この方法によれば、x方向に成分比が連続変化した、すなわち、成分比が細かく変化した二元系相図薄膜が得られ、また、極めて短時間で作製できるので信頼性の高いデータが得られる。この方法は、いわば開口部を有する一枚のマスクの基板に対する一軸上の相対直線運動により形成する方法といえる。さらには、マスクの開口部の一辺、即ちマスクエッジの基板に対する一軸上の相対直線運動により形成する方法といえる。この方法を拡張して、互いに120°をなす三軸上でマスクエッジを基板に対して相対直線運動させることにより、三元系相図薄膜が得られることは明かである。
しかしながら、物質探査に使用されるこの種の真空装置、例えばコンビナトリアル装置は、真空槽内に、アブレーション・レーザ光導入装置、ターゲット切替装置、基板加熱用レーザ装置及び高エネルギー反射電子線回折装置を配設することは必要不可欠であり、さらにそれに加えて、極めて大きな容積を必要とする上記のような三軸上で動作するマスキング機構を設けることは極めて困難である。もちろん、真空槽を大きくすれば可能であるが、真空槽を大きくするとそれに伴い真空排気系の能力を大幅に増強しなければならず、装置コストが極めて高くなる。
本発明は、上記課題に鑑み、装置コストを高くすることなく、三元系相図薄膜を作製することができる、成膜装置用マスキング機構を提供することを目的とする。
この構成によれば、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に第一のシングル作用エッジを位置あわせして所定の移動速度で移動すると共に、第一の物質を蒸着し、第一の物質の膜厚勾配を形成する。次に、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に第二のシングル作用エッジを位置あわせして所定の移動速度で移動すると共に第二の物質を蒸着し、第二の物質の膜厚勾配を形成する。次に、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に第三のシングル作用エッジを位置あわせして所定の移動速度で移動すると共に第三の物質を蒸着し、第三の物質の膜厚勾配を形成する。第一のシングル作用エッジと第二のシングル作用エッジと第三のシングル作用エッジとの法線単位ベクトルが互いに120°をなしているので、これらの膜厚勾配の方向は互いに120°をなし、三元系相図薄膜が得られる。本発明の成膜装置用マスキング機構は、わずか一枚のマスクとこれを一軸方向にのみ駆動する駆動機構とから成っているので、容積が小さく、従って、装置コストを高くすることなく三元系相図薄膜を形成できる。
ここで、シングル作用エッジとは、一つの膜厚勾配の形成に作用するマスクエッジが一つである場合を言う。同様に、ダブル作用エッジとは一つの膜厚勾配の形成に作用するマスクエッジが二つである場合であり、トリプル作用エッジとは一つの膜厚勾配の形成に作用するマスクエッジが三つの場合である。
また、一枚のマスクは、一軸方向と90°+α(0°≦α<90°)をなす辺を有するマスクであり、このマスクは、第一の開口部と第二の開口部を有し、第一の開口部は、一軸方向に対して30°+αをなす辺を有し、第二の開口部は、一軸方向に対して−30°+αをなす辺を有し、マスクの一軸方向と90°+αをなす辺を第一のシングル作用エッジとし、一軸方向に対して30°+αをなす辺を第二のシングル作用エッジとし、一軸方向に対して−30°+αをなす辺を第三のシングル作用エッジとする。
この構成によれば、第一のシングル作用エッジと第二のシングル作用エッジと第三のシングル作用エッジの法線単位ベクトルが互いに120°をなしているので、三元系相図薄膜が得られる。
また、一枚のマスクは、一枚の円板からなっていても良い。この円板は、第一、第二及び第三の切欠部を有し、第一の切欠部は円板の円周方向に対して90°+α(0°≦α<90°)をなす辺を有し、第二の切欠部は、円板の円周方向に対して30°+αをなす辺を有し、第一の切欠部は、円板の円周方向に対して−30°+αをなす辺を有し、マスクの円周方向と90°+αをなす辺を第一のシングル作用エッジとし、円周方向と30°+αをなす辺を第二のシングル作用エッジとし、円周方向と−30°+αをなす辺を第三のシングル作用エッジとすればよい。この円板をこの円板の中心軸に関して回転することにより、上記と同様に三元系相図薄膜が得られる。
また、本発明の第二の成膜装置用マスキング機構は、一枚のマスクと、このマスクを基板に対して一軸方向に移動させる駆動装置とからなり、上記マスクは、第一のシングル作用エッジ、第二のシングル作用エッジ及び一軸方向に底辺を有し、他の二辺を作用エッジとする三角形状のダブル作用エッジとを有し、第一のシングル作用エッジの法線単位ベクトルが上記一軸方向と30°をなし、第二のシングル作用エッジの法線単位ベクトルが一軸方向と−30°をなすことを特徴とする。
この構成によれば、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に第一のシングル作用エッジを位置あわせして所定の移動速度で移動すると共に第一の物質を蒸着し、第一の物質の膜厚勾配を形成する。次に、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に第二のシングル作用エッジを位置あわせして所定の移動速度で移動すると共に第二の物質を蒸着し、第二の物質の膜厚勾配を形成する。次に、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に三角形状のダブル作用エッジを位置あわせして所定の移動速度で移動すると共に第三の物質を蒸着し、第三の物質の膜厚勾配を形成する。三角形状のダブル作用エッジが形成する膜厚勾配は移動方向に垂直となり、第一のシングル作用エッジと第二のシングル作用エッジと三角形のダブル作用エッジとが形成する膜厚勾配方向は互いに120°をなすので、三元系相図薄膜が得られる。本発明の第二の成膜装置用マスキング機構は、わずか一枚のマスクとこれを一軸方向にのみ駆動する駆動機構とから成っているので、容積が小さく、従って、装置コストを高くすることなく三元系相図薄膜を形成できる。
また、一枚のマスクは一枚の円板からなっていても良く、この円板は、第一、及び第二の切欠部を有し、第一の切欠部は、円板の円周方向に対して30°をなす辺と−30°をなす辺とから成る扇型の切欠部であり、第二の切欠部は、円板の円周方向に対して60°をなす辺、−60°をなす辺、及び円周方向に平行な辺とからなる切欠部であればよい。この構成によれば、この円板をこの円板の中心軸に関して回転することにより、上記と同様に三元系相図薄膜が得られる。
また、本発明の第三の成膜装置用マスキング機構は、一枚のマスクと、このマスクを基板に対して一軸方向に移動させる駆動装置とからなり、上記マスクは、少なくとも一軸方向に底辺を有する三角形状の開口部と、一軸方向に直交する辺とを有し、三角形状の開口部の底辺以外の二辺と一軸方向に直交する辺とをトリプル作用エッジとし、三角形状の開口部の移動の速度と、一軸方向に直交する辺の移動の速度とをそれぞれ選択することにより、選択した移動速度によって定まる所定の方向に膜厚勾配を形成することを特徴とする。
この構成によれば、基板上の三元系相図薄膜を形成する部分の直前に三角形状の開口部を位置あわせして適宜の移動速度で移動すると共に第一の物質を蒸着し、三角形状の開口部が三元系相図薄膜を形成する部分を通過し、一軸方向に直交する辺が三元系相図薄膜を形成する部分の直前に位置した時点で移動速度を適宜に変更する。このようにして形成される第一の物質から成る薄膜の膜厚勾配の方向は、三角形状の開口部の移動速度と一軸方向に直交する辺の移動速度とに依存して変化するので、これらの移動速度を適宜に選択することによって所望の方向に膜厚勾配を形成できる。第二及び第三の物質についても、上記二つの移動速度を適宜に選択して、第一、第二及び第三の物質の膜厚勾配方向が互いに120°をなすようにすることができ、三元系相図薄膜を形成できる。なお、この方法の場合は、膜厚勾配方向を任意に選択できるので、三元系に限らず、さらに多成分の相図薄膜を形成できる。
本発明の第三の成膜装置用マスキング機構は、わずか一枚のマスクとこれを一軸方向にのみ駆動する駆動機構とから成っているので、容積が小さく、従って、装置コストを高くすることなく三元系相図薄膜を形成できる。
また、一枚のマスクは、一枚の円板からなっていても良い。この円板は、少なくとも第一の切欠部、及び第二の切欠部又は第一の開口部を有し、第一の切欠部は扇型の切欠部であり、第二の切欠部は円板の円周方向に直交する辺を有する切欠部であり、又は第一の開口部は円板の円周方向に平行な底辺を有する三角形状の開口部であり、扇型の切欠部の二辺と円周方向に直交する辺とをトリプル作用エッジとするか、又は三角形状の開口部の底辺以外の二辺と円周方向に直交する辺とをトリプル作用エッジとすればよい。
この構成によれば、上記移動速度に対応して円板の回転速度を選択すれば良く、第一、第二及び第三の物質の膜厚勾配方向が互いに120°をなすようにすることができ、三元系相図薄膜を形成できる。なお、この方法の場合は、膜厚勾配方向を任意に選択できるので、三元系に限らず、さらに多成分の相図薄膜を形成することができる。
図1は、本発明による第一の実施形態の成膜装置用マスキング機構の構成を示す図である。
図2は、マスク面をxy平面とし、マスクの厚み方向をz軸方向とした座標系で、一般的なシングル作用エッジを表した図である。
図3は、シングル作用エッジのマスク移動による有効移動量を示す図である。
図4は、マスク移動ベクトルが+m及び−mにおける、シングル作用エッジの薄膜形成を模式的に示す膜厚方向の断面図である。
図5は、シングル作用エッジにより形成された薄膜の膜厚形状関数を示す図である。
図6は、図1のマスキング機構におけるシングル作用エッジ11aによる薄膜勾配の形成を示す図である。
図7は、図1のマスキング機構におけるシングル作用エッジ11bによる薄膜勾配の形成を示す図である。
図8は、図1のマスキング機構におけるシングル作用エッジ11cによる薄膜勾配の形成を示す図である。
図9は、図1のマスキング機構により基板上に形成された三元系薄膜の膜厚を黒色の濃度で示したシミュレーション図である。
図10は、図9の三元系薄膜の各領域を成分組成で示す図である。
図11は、図1のマスキング機構の変形例である回転移動型マスクを示す図である。
図12は、マスクの回転によるシングル作用エッジの移動状態を示す部分拡大図である。
図13は、基板上の位置座標を、回転中心Oを原点とした直線座標x、y及び極座標r、θで表した図である。
図14は、本発明による成膜装置用マスキング機構の第二の実施形態の構成を示す図である。
図15は、ダブル作用エッジの構成を示す平面図である。
図16は、図15のダブル作用エッジによる膜厚勾配を示す図である。
図17は、ダブル作用エッジが交差しない場合の膜厚勾配を示す図である。
図18は、マスク31の変形例である回転移動型マスクの構成を示す平面図である。
図19は、本発明による成膜装置用マスキング機構の第三の実施形態の構成を示鈴である。
図20は、図19のマスキング機構による三元系相図薄膜の他の形成例を説明する平面図である。
図21は、図19のマスキング機構のマスクが回転移動型マスクである変形例を示す平面図である。
図22は、従来のコンビナトリアル成膜装置による二元系,三元系物質探査法を示す図である。
図23は、従来の二元系相図薄膜の作製方法を説明する図である。
初めに、本発明の成膜装置用マスキング機構により三元系相図薄膜を作製するには、二元系相図薄膜の従来例で説明したと同様に、三元系相図を構成する各成分薄膜の各々を基板上の共通の領域に、膜厚勾配の方向をそれぞれ制御して順次積層して形成するものであり、この積層工程を複数回繰り返して所望の膜厚の三元系相図薄膜を形成する。薄膜の厚さは、各成分薄膜が蒸着によって重畳されると同時に、各成分物質が相互に拡散し、自由エネルギー最小の配置を実現できる程度に十分薄く蒸着する。また、各成分薄膜の最大膜厚比は三元系相図の各成分濃度比1に対応させた膜厚比である。以降の説明においては、上記前提条件を逐一述べないが、常に上記前提条件があるものとして解釈されなければならない。従ってまた、本発明で言う三元系相図薄膜とは、上記のように構成された薄膜のことであり、所謂三元系相図を薄膜形状で実現したものである。この薄膜の任意の位置の成分組成は、その位置座標から知ることができ、この薄膜の位置座標毎の所望の物性を測定すれば、所望の物性を最適に実現する成分組成を知ることができる。
図1は本発明による第一の実施形態の成膜装置用マスキング機構10の構成を示す図である。図1において、マスキング機構10は、基板12上で、矢印Aで示す直線上で往復運動可能に支持されたマスク11から構成される。マスク11は、開口部11d及び11eを有し、マスク11の辺11a、開口部の辺11b及び11cが蒸着薄膜の膜厚勾配を決定する作用エッジ(以後シングル作用エッジと称する)として作用する。
これらのシングル作用エッジ11a,11b,11cのうち、第一のシングル作用エッジ11aは、マスク移動軸Aに対して垂直方向に延びており、第二のシングル作用エッジ11bは、マスク移動軸Aに対して+θ(=30度)だけ傾斜して延びており、また第三のシングル作用エッジ11cは、マスク移動軸Aに対して−θ(=−30度)だけ傾斜して延びている。これらのシングル作用エッジ11a,11b,11cのエッジの長さは、何れも三元系相図の薄膜を形成する基板12の正三角形の領域12aに対して十分大きく選定されている。
ここで、シングル作用エッジは、一般的に以下のように作用して、基板12上に蒸着される薄膜の濃度勾配を形成する。
図2は、マスク11の面をxy平面とし、マスク11の厚み方向をz軸方向とした座標系で、一般的にシングル作用エッジを表した図である。図2に示すように、シングル作用エッジ20はxy平面内の原点を通り、斜めに延びるように形成されており、また、ベクトルdは、マスク開口部に向いたシングル作用エッジ20の法線単位ベクトルとする。この場合、シングル作用エッジ20の形状は、次式の形状関数により表わされる。
また、マスク開口部を示すマスク関数は、
により表わされる。
図3は、図2のシングル作用エッジ20を有するマスクが任意の方向に移動した場合の有効移動量を示す図である。なお、シングル作用エッジ20の移動ベクトルをmとする。蒸着時に、基板12上をマスクエッジ20が移動ベクトルmで移動すると、シングル作用エッジ20によって、シングル作用エッジ20の法線ベクトルd方向に最大の膜厚勾配ができ、例えば、図において三種類の点線で示したように膜厚等高線が形成される。なお、点の密度がもっとも大きい点線はもっとも厚い膜厚等高線に対応し、点の密度がもっとも小さい点線は膜厚がもっとも薄い膜厚等高線に対応し、点の密度が中間の大きさの点線は中間の膜厚等高線に対応する。従って、任意の移動ベクトルmに対して、ベクトルの内積m・dは、最大の膜厚勾配方向に関する実効的な移動量、即ち有効移動量(以下、有効移動量という)となる。
図4は、マスク移動ベクトルが+m,及び−mにおける、シングル作用エッジの薄膜形成を模式的に示す膜厚方向の断面図である。基板12の上部にあるマスクのシングル作用エッジ20が+mあるいは−m移動する場合の薄膜形成過程を示しており、矢印↓は、蒸着物質を表わしている。図から、形成される膜厚勾配は、マスクの移動方向によらないことがわかる。
図5はシングル作用エッジにより形成された薄膜の膜厚形状関数を示す図である。図において、横軸の方向はシングル作用エッジの法線ベクトルdの方向であり、蒸着基板面及びマスク面はxy平面に平行であり、z軸(縦軸)方向が薄膜の膜厚方向である。
ここで、レーザー蒸着法の場合を例に取り説明する。1個のレーザー光パルスで蒸着される膜厚(Å/パルス)をr、単位時間に照射するレーザー光パルス数、即ちレーザ周期(Hz)をf、移動ベクトルmを単位時間の移動量(mm/sec)、即ち移動速度ベクトル、蒸着時間をt0とすると、xy平面内の任意の位置(x、y)の膜厚zは、
により表わされる。ここでtdは、行ベクトルdを表す。
次に、(3)式に基づいて、図1の第一から第三のシングル作用エッジ11a,11b,11cを用いたときに形成される薄膜の膜厚勾配を説明する。図6〜図8は、それぞれ、図1のマスキング機構10におけるシングル作用エッジ11a、シングル作用エッジ11b及びシングル作用エッジ11cによる薄膜勾配の形成を示す図である。一辺がマスク移動方向に対して垂直である正三角形形状の三元系相図を形成する場合を例に説明する。
シングル作用エッジ11a、シングル作用エッジ11b及びシングル作用エッジ11cの法線ベクトルはそれぞれ、次式の列ベクトルで表される。
これらの列ベクトルの行ベクトルを(3)式に代入すると、シングル作用エッジ11a、シングル作用エッジ11b及びシングル作用エッジ11cのそれぞれに対応した膜厚形状関数zは、次式で表される。
図6は、シングル作用エッジ11aの場合の膜厚形状関数zを示す図であり、(a)は、(5)式で表される膜厚を黒色の濃度(黒が濃いほど厚く、薄いほど薄い)で表し、膜厚が厚くなる方向をベクトルBで示している。(b)はシングル作用エッジ11aの正三角形の基板領域13に対する配置関係を示す図であり、白矢印はシングル作用エッジ11aの移動方向を示す。
図7は同様に、シングル作用エッジ11bの場合の膜厚形状関数zを示す図であり、(a)は、(5)式で表される膜厚を黒色の濃度で表し、膜厚が厚くなる方向をベクトルCで示している。(b)はシングル作用エッジ11bの正三角形の基板領域13に対する配置関係を示す図であり、白矢印はシングル作用エッジ11bの移動方向を示す。
図8は同様に、シングル作用エッジ11cの場合の膜厚形状関数zを示す図であり、(a)は、(5)式で表される膜厚を黒色の濃度で表し、膜厚が厚くなる方向をベクトルDで示している。(b)はシングル作用エッジ11cの正三角形の基板領域13に対する配置関係を示す図であり、白矢印はシングル作用エッジ11cの移動方向を示す。
図6〜図8から明らかなように、本発明の第一の実施形態の成膜装置用マスキング機構10によれば、互いに120度ずれた方向に膜厚勾配を形成することができる。即ち、共通の三角形領域13に、シングル作用エッジ11a、シングル作用エッジ11b及びシングル作用エッジ11cによる成膜毎に蒸着物質を変えて蒸着すれば、三元系相図薄膜が作製できる。なお、上記説明においては、理解しやすくするために、図4及び図5においてマスクを段階的に移動させて階段状の薄膜を形成するように説明しているが、実際にはマスクは連続して移動され、連続して膜厚が変化する薄膜を形成することができる。
上記説明では、シングル作用エッジ11a,11b,11cによる膜厚勾配が重畳されて三元系相図薄膜が形成される三角形形状の基板領域について説明したが、この三角形領域の外側では二元系相図薄膜が同時に形成され、また、さらには単成分からなる単膜を同時に形成することができる。
三元系相図薄膜による物質探査においては、これらの二元系相図薄膜及び単膜の特性が補足的に有益な情報をあたえてくれるので、1回の真空引き工程で同時に且つ同一基板上に二元系相図薄膜及び単膜を形成できる本発明のマスキング機構10の特徴は、三元系相図薄膜による物質探査において極めて有用である。
以下に、二元系相図薄膜領域及び単膜形成領域を説明する。図9は、図1のマスキング機構10により基板12上に形成された三元系薄膜の膜厚を黒色の濃度で示したシミュレーション図であり、図10は、図9の三元系薄膜の各領域を成分組成で示す図である。
図10において、互いに平行な点線と実線のそれぞれの組は、三元系の三つの物質それぞれの膜厚等高線を表し、点線から実線に向かって濃度勾配を有することを表す。基板12の中央の正三角形の領域12aにおいては、上記したように、三つの物質の濃度勾配が重ね合わされるので、三元系相図薄膜が形成される。さらに、正三角形12aの各辺にそれぞれ隣接した正三角形の領域12b,12c,12dには、三つの物質の内の二つの物質の濃度勾配が重ねあわされるから、二元系相図薄膜が形成される。
また、この領域12b,12c,12dに隣接した領域12e,12f,12g,12h,12i,12jには、一つの物質は一定の厚さに、また他の一つの物質は濃度勾配を有して積層され、所謂単勾配の薄膜となる。
さらに、上記領域12b,12c,12dの頂点の外側に位置する領域12h,12l,12m,12n,12o,12pのうち、領域12h,12l,12mには、二つの物質がそれぞれ一定の厚さに形成され、また領域12n,12o,12pには一つの物質がそれぞれ一定の厚さに形成され、所謂単膜となる。
ここで、これらの領域12n,12o,12pの単一組成の薄膜について、この薄膜を分析することにより、各物質の薄膜の質をチェックすることができると共に、上記単勾配の領域12e,12f,12g,12h,12i,12jを測定することにより、各物質の蒸着速度を検出することができる。このため、図10において、蒸着の際にマスク11とは別に基板12の領域12aを中心とした、領域12aより一回り大きいマスク穴14a(図10にて一点鎖線で図示)を有するマスク14を基板12上に載置しておくことにより、マスク穴14aのマスクエッジに対応する部分に、各領域12e乃至12pの薄膜の断面が露出するので、これらの領域12e乃至12pの薄膜の厚さ測定が容易に行なえる。例えば、一回目の基板12への蒸着により形成された薄膜の各領域の測定から、成分毎の蒸着速度と膜厚、及び膜厚と濃度の関係を求めることができ、この測定データを基に、二回目の三元系相図薄膜の蒸着により、正確な三元系相図薄膜を形成することができる。この方法によれば、わずか二回の三元系相図薄膜の蒸着ですむので、三元系物質の物質探査に要する時間を大幅に短縮できる。
上述した実施形態のマスキング機構10においては、シングル作用エッジ11a,11b及び11cのマスク移動方向への傾斜は、それぞれ、90度+α度,30度+α度,−30度+α度としてもよい(ここでα度は、−90<α<90である)。この場合もシングル作用エッジ11a,11b,11cの法線単位ベクトルの方向は互いに120度づつずれた方向であるので、三元系相図薄膜が形成できる。
次に、回転運動を行う円板状のマスクについて説明する。
上記実施形態において、マスキング機構10は直線往復運動するマスク11を備えているが、これに限らず、回転運動を行なう円板状のマスクを備えていてもよい。図11は、図1のマスキング機構の変形例の回転移動型マスクを示す。このマスク15は中心Oの回りに回転して使用する。マスク15は、前述したシングル作用エッジ11a,11b,11cに対応してそれぞれシングル作用エッジ15a,15b,15cを備えている。第一のシングル作用エッジ15aは半径方向に延びており、第二のシングル作用エッジ15bは円周方向に対して+θ(=30度)だけ傾斜して延びており、また第三のシングル作用エッジ15cは円周方向に対して−θ(=−30度)だけ傾斜して延びている。シングル作用エッジ15a,15b,15cのエッジの長さは、何れも三元系相図薄膜を形成する基板12の正三角形の領域12aに対して十分大きく選定されている。
図12はマスク15の回転によるシングル作用エッジの移動状態を一部拡大して示す。図からわかるように、例えばシングル作用エッジ15aは、マスク15の回転に伴ってエッジの法線単位ベクトルdの方向がずれ、形成される薄膜の膜厚勾配が、直線座標x、yに対して線形成関係で表されなくなる。従って、マスク15を構成する円板の直径は、回転によるシングル作用エッジ15a,15b,15cの移動が直線移動に近似できる程度に十分大きくすることが好ましい。
また、マスク15を構成する円板の直径を十分大きくできない場合は、次に示す補正方法を用いればよい。図13は、基板12上の位置座標を、回転中心Oを原点とした直線座標x、y、及び、極座標r、θで表した図である。θが同一でrが異なる位置の膜厚は同じであり、また、θから膜厚がわかるので、次式6で示す変換式
を利用して、直線座標x、yによる座標を極座標変換することにより、その位置の正確な膜厚が得られる。回転中心Oは、シングル作用エッジ15aの場合にはマスク15の中心と一致し、シングル作用エッジ15b,15cの場合にはマスク15の回転に伴う、エッジの実効的な回転中心を座標原点Oとすればよい。
次に、本発明による成膜装置用マスキング機構の第二の実施形態を図14を参照して説明する。図において、マスキング機構30は、矢印Aで示す軸上で直線状に往復運動可能に支持されたマスク31から構成されている。マスク31は、開口部31e及び31fを有している。開口部31eは、互いに独立に膜厚勾配を形成する二つのシングル作用エッジ31a,31bを有し、開口部31fは、膜厚勾配の形成に同時に作用する二つの作用エッジ(以後、ダブル作用エッジと呼ぶ)31c,31dを有している。
ここで、二つのシングル作用エッジ31a,31b及びダブル作用エッジ31c及び31dのうち、第一のシングル作用エッジ31aは、マスク移動軸Aに対して+θ1(=60度)だけ傾斜して延びており、また第二のシングル作用エッジ31bは、マスク移動軸Aに対して−θ1(=−60度)だけ傾斜して延びている。また、ダブル作用エッジ31c,31dのエッジは、それぞれマスク移動軸Aに対して+θ2,−θ2だけ傾斜して延びており、マスク移動軸Aに関して垂直方向の一点(図示の場合、下側)で交差している。これらのシングル作用エッジ31a,31b、及びダブル作用エッジ31c,31dのエッジの長さは、何れも基板12の三元系相図薄膜を形成する正三角形領域12aに対して十分長く選定されている。
ここで、ダブル作用エッジは、以下のように作用して、基板12上に蒸着される薄膜の膜厚勾配を形成する。図15はダブル作用エッジの構成を示す平面図である。図に示すように、ダブル作用エッジ40は、xy平面内の法線単位ベクトルd1を有するエッジ41と、法線単位ベクトルd2を有するエッジ42とから構成されており、移動ベクトルmの方向は−x方向であるとする。形成される薄膜の膜厚形状関数は、エッジ41による(3)式の膜厚形状関数と、エッジ42による(3)式の膜厚形状関数との和で与えられるが、図の構成の場合ベクトルのスカラー積d1・m>0、d2・m<0であるから、ダブル作用エッジ40で形成される膜厚形状関数は、次式で表わされる。
この式を変形すると、次式となる。
上式においてθは、法線単位ベクトルd1,d2のなす角であり、m⊥はmに直交するベクトルである。この式から、ダブル作用エッジ40によれば、最大の膜厚勾配は、移動ベクトルmに垂直な方向に形成されることがわかる。
図16は、図15のダブル作用エッジによる膜厚勾配を示す図であり、(a)はダブル作用エッジマスクの平面図、(b)はマスク移動ベクトルmに垂直方向の断面図である。この図によれば、ダブル作用エッジ41、42の交差点においては膜厚が0であることがわかる。
これに対して、ダブル作用エッジが交差しない場合を説明する。図17は、ダブル作用エッジが交差しない場合の膜厚勾配を示す図であり、(a)はダブル作用エッジマスクの平面図、(b)はマスク移動ベクトルmに垂直方向の断面図である。この図によれば、ダブル作用エッジ41,42が交差しない場合には、膜厚が0の点が形成できないことがわかる。
このように、本発明による成膜装置用マスキング機構の第二の実施形態である図14に示したマスキング機構30は、マスク31のダブル作用エッジ31c,31dを使用することにより、マスク31の移動方向Aに垂直な方向に一成分の膜厚勾配を形成でき、シングル作用エッジ31a,31bを使用することにより、上記膜厚勾配方向から±120°傾いたそれぞれの方向に、他の二成分それぞれの膜厚勾配を形成できるから、三元系相図薄膜を形成することができる。
また、第一の実施の形態で説明した図10と同様に、中心の正三角形の領域に三元系相図の薄膜が形成でき、正三角形の各辺に隣接した領域に、二元系相図薄膜が形成でき、さらにその外側には単膜も形成することができる。
したがって、第一の実施の形態と同様にして、例えば、一回目の三元系相図薄膜の蒸着により形成された薄膜の各領域の測定から、成分毎の蒸着速度と膜厚、及び膜厚と濃度の関係を求めることができ、この測定データを基に、二回目の三元系相図薄膜の蒸着により、正確な三元系相図薄膜を形成することができる。この方法によれば、三元系物質の物質探査に要する時間を大幅に短縮できる。
次に、図14のマスク31の変形例である回転移動型マスクを図18を参照しつつ説明する。上記実施形態においては、マスキング機構30は、直線往復運動するマスク31を備えているが、これに限らず、図示するように、回転運動を行なう円板状のマスク32を備えていてもよい。この場合、マスク32は、前記シングル作用エッジ31a,31b及びダブル作用エッジ31c,31dに対応して、それぞれシングル作用エッジ32a,32b,ダブル作用エッジ32c,32dを備えている。このうち、第一のシングル作用エッジ32aのエッジは、マスク32の移動方向である円周方向に対して+θ1(=60度)だけ傾斜して延びており、また第二のシングル作用エッジ32bのエッジは、円周方向に対して−θ1(=−60度)だけ傾斜して延びている。また、ダブル作用エッジ32c及びダブル作用エッジ32dのエッジは、それぞれ円周方向に対して+θ2,−θ2だけ傾斜して延びている。
これらのシングル作用エッジ32a,32b及びダブル作用エッジ32c,32dのエッジの長さは、何れも三元系相図薄膜を形成する基板12の正三角形の領域12aに対して十分長く選定されている。
さらに、マスク32を構成する円板は、その直径が、回転によるシングル作用エッジ32a,32b及びダブル作用エッジ32c,32dの移動による直線方向に対する角度ずれをできるだけ小さくするように、大径に選定されることが好ましい。この場合も、マスク32の回転運動の補正は、第一の実施の形態の図13で説明した極座標変換する方法によって、正確に補正できる。
次に、本発明による成膜装置用マスキング機構の第三の実施形態を図19に基づいて説明する。図において、マスキング機構50は、矢印Aで示す直線上で往復運動可能に支持されたマスク51から構成されている。マスク51は、開口部52d,52e,52fを有している。この構成は、一つの膜厚勾配の形成に三つのマスクが同時に作用するトリプル作用エッジ構成であり、エッジ52a,52b及び52cからなるトリプル作用エッジ52を備えている。トリプル作用エッジ52は、マスク移動軸Aに垂直に延びる一つのエッジ52aと、マスク移動軸に対して互いに反対側に所定角度だけ傾斜し、一点で交差するエッジ52b,52cとからなる。この場合も前記と同様に、エッジ52a,エッジ52b及び52cのエッジの長さは、何れも三元系相図の薄膜を形成する基板12の正三角形の領域12aに対して十分大きく選定されている。
このような構成のマスキング機構50によれば、マスク51をマスク移動軸Aに沿って移動させたとき、エッジ52aによりマスク移動軸Aの方向に最大の膜厚勾配が得られると共に、エッジ52b,52cによりマスク移動軸Aに垂直な方向に最大の膜厚勾配が得られる。このとき、各エッジ52a,52b,52cによって形成されるそれぞれの膜厚形状関数をz1,z2,z3とし、エッジ52b,52cの移動ベクトルをm,エッジ52aの移動ベクトルをm’とし、さらに、エッジ52a、エッジ52b,52cの法線単位ベクトルを、それぞれ、d1,d2,d3とすると、膜厚形状関数は次式で表される。
上記(9)式の最後の式における最初の括弧内は、大きさが移動ベクトルmの大きさに依存するmに垂直方向のベクトルと,大きさがm’の大きさに依存する法線単位ベクトルd3方向のベクトルとの和となっており、mに垂直方向の単位ベクトルをk1、法線単位ベクトルd3方向の単位ベクトルをk2とし、これらのベクトルの大きさをそれぞれa,bとすれば、これらのベクトルの合成ベクトルvは次式で表される。
従って、マスク移動速度m,m’を適切に選択してベクトルの大きさa,bを調節することにより、ベクトルvの方向を所望の方向に向けることができる。最大の膜厚勾配の方向はvの方向であるので所望の方向に膜厚勾配を形成できる。すなわち、エッジ52aの移動速度mと、エッジ52b,52cの移動速度m’を適宜に調整することによって、所望の方向の膜厚勾配が得られる。従って、一成分毎にmとm’を選択して、互いに120°をなす膜厚勾配を形成すれば、三元系相図薄膜が同一のマスクから形成できる。
図20は、図19のマスキング機構による三元系相図薄膜の他の形成例を説明する平面図である。(a)に示すように、複数の適宜の形状のトリプル作用エッジ52を備えたマスク51を使用する。A,B1,B2,C,D,E1,E2,Fは、それぞれのエッジを表し、これらの記号の下に付した矢印は、マスクをマスク移動軸Aに沿って動かしたときに形成される膜厚勾配方向を示す。従って、(b)に示したように、エッジを選択することにより、第1象限から第4象限に到る全ての方向に所望の膜厚勾配を形成することができ、三元系相図薄膜を形成することができる。
上記実施形態においては、マスキング機構50は直線往復運動するマスク51を備えているが、これに限らず、図21に示すように、回転運動を行なう円板状のマスク53を備えていてもよい。図21は、図19のマスキング機構のマスクが回転移動型マスクである変形例を示す平面図である。この場合、マスク53は、前述したエッジ52a及びエッジ52b,52cに対応して、それぞれエッジ53a,エッジ53b,53cを備えている。このうち、エッジ53aは、マスク53の移動方向である円周方向に対して+θ1(=60度)だけ傾斜して延びており、またエッジ53b及び53cのエッジは、それぞれ円周方向に対して+θ2,−θ2だけ傾斜して延びている。エッジ53a及びエッジ53b,53cのエッジの長さは、何れも三元系相図の薄膜を形成する基板12の正三角形の領域12aに対して十分長く選定されている。さらに、マスク53を構成する円板は、その直径が、回転によるエッジ53a及びエッジ53b,53cの移動による直線方向からの角度ずれをできるだけ小さくするように、大径に選定することが好ましい。この場合もまた、上記第一、第二の実施の形態と同様に、位置座標を極座標変換することによって、正確な三元系相図薄膜が得られる。
上述した実施形態においては、レーザーアブレーション蒸着装置等の真空成膜装置用のマスキング機構について説明したが、これに限らず、マスクを移動させながら、基板上に気相成長法により薄膜を形成するような成膜装置であれば、本発明を適用し得ることは明らかである。
上記説明から理解されるように、本発明の成膜装置用マスキング機構によれば、三元系相図薄膜を形成できる。しかも本発明の成膜装置用マスキング機構は、一枚のマスクとこれを一軸方向に駆動する装置とから構成されているため、真空槽に配置するための容積が極めて小さく、従って、装置コストを高くすることなく、三元系相図薄膜を作製することができる。さらに、本発明マスキング機構を用いれば、短時間で、かつ、信頼性の高い二元系,三元系相図薄膜を作製することが可能である。
Claims (7)
- 一枚のマスクと、このマスクを基板に対して一軸方向に移動させる駆動装置とからなり、
上記マスクは、第一のシングル作用エッジ、第二のシングル作用エッジ及び第三のシングル作用エッジを有し、
上記第一のシングル作用エッジの法線単位ベクトルと上記第二のシングル作用エッジの法線単位ベクトルとが120°をなし、上記第二のシングル作用エッジの法線単位ベクトルと上記第三のシングル作用エッジの法線単位ベクトルとが120°をなし、且つ、上記第三のシングル作用エッジの法線単位ベクトルと上記第一のシングル作用エッジの法線単位ベクトルとが120°をなしていることを特徴とする、成膜装置用マスキング機構。 - 前記一枚のマスクは、前記一軸方向と90°+α(0°≦α<90°)をなす辺を有するマスクであり、
このマスクは、第一の開口部と第二の開口部を有し、
上記第一の開口部は、上記一軸方向に対して30°+αをなす辺を有し、上記第二の開口部は、上記一軸方向に対して−30°+αをなす辺を有し、
上記マスクの上記一軸方向と90°+αをなす辺を前記第一のシングル作用エッジとし、上記一軸方向に対して30°+αをなす辺を第二のシングル作用エッジとし、上記一軸方向に対して−30°+αをなす辺を第三のシングル作用エッジとすることを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置用マスキング機構。 - 前記一枚のマスクは、一枚の円板からなり、
この円板は、第一、第二及び第三の切欠部を有し、
上記第一の切欠部は、上記円板の円周方向に対して90°+α(0°≦α<90°)をなす辺を有し、上記第二の切欠部は、上記円板の円周方向に対して30°+αをなす辺を有し、上記第三の切欠部は、上記円板の円周方向に対して−30°+αをなす辺を有し、
上記マスクの上記円周方向と90°+αをなす辺を前記第一のシングル作用エッジとし、上記円周方向と30°+αをなす辺を第二のシングル作用エッジとし、上記円周方向と−30°+αをなす辺を第三のシングル作用エッジとすることを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置用マスキング機構。 - 一枚のマスクと、このマスクを基板に対して一軸方向に移動させる駆動装置とからなり、
上記マスクは、第一のシングル作用エッジ、第二のシングル作用エッジ及び上記一軸方向に底辺を有し他の二辺を作用エッジとする三角形状のダブル作用エッジを有し、
上記第一のシングル作用エッジの法線単位ベクトルが上記一軸方向と30°をなし、上記第二のシングル作用エツジの法線単位ベクトルが上記一軸方向と−30°をなすことを特徴とする、成膜装置用マスキング機構。 - 前記一枚のマスクは、一枚の円板からなり、
この円板は、第一及び第二の切欠部を有し、
上記第一の切欠部は、上記円板の円周方向に対して30°をなす辺と−30°をなす辺とから成る扇型の切欠部であり、上記第二の切欠部は、上記円板の円周方向に対して60°をなす辺、−60°をなす辺及び上記円周方向に平行な辺からなる切欠部であることを特徴とする、請求項4に記載の成膜装置用マスキング機構。 - 一枚のマスクと、このマスクを基板に対して一軸方向に移動させる駆動装置とからなり、
上記マスクは、少なくとも上記一軸方向に底辺を有する三角形状の開口部と、上記一軸方向に直交する辺とを有し、
上記三角形状の開口部の底辺以外の二辺と上記一軸方向に直交する辺とをトリプル作用エッジとし、
上記三角形状の開口部の上記移動の速度と、上記一軸方向に直交する辺の上記移動の速度とをそれぞれ選択することにより、これらの移動速度で定まる所定の方向に膜厚勾配を形成することを特徴とする、成膜装置用マスキング機構。 - 前記一枚のマスクは、一枚の円板からなり、
この円板は、少なくとも第一の切欠部、及び、第二の切欠部又は第一の開口部とを有し、
上記第一の切欠部は、扇型の切欠部であり、上記第二の切欠部は上記円板の円周方向に直交する辺を有する切欠部であり、上記第一の開口部は上記円板の円周方向に平行な底辺を有する三角形状の開口部であり、
上記扇型の切欠部の二辺と上記円周方向に直交する第二の切欠部の辺とを前記トリプル作用エッジとする、又は、上記三角形状の開口部の底辺以外の二辺と上記円周方向に直交する第二の切欠部の辺とを前記トリプル作用エッジとすることを特徴とする、請求項6に記載の成膜装置用マスキング機構。
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