JPWO2003105841A1 - 抗真菌医薬組成物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、厚いケラチンの下部に至った真菌症の外用による治療に有用な医薬組成物を提供することを目的とし、1)被膜形成剤と2)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤と3)一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有する抗真菌医薬組成物を提供する。

Description

技術分野
本発明は、医薬組成物に関し、更に詳しくは真菌症の治療や予防に有用な医薬組成物に関する。
背景技術
水虫、カンジダ膣炎等に代表される真菌症は一昔前までは完全治癒の困難な疾病であり、水虫治療は永遠のテーマであった。
近年になり、ビフォナゾールを筆頭に、ブテナフィン、テルビナフィンなどの種々の薬剤が開発され、水虫などの通常の皮膚の真菌症に関しては、完全治癒も可能となってきた。しかしながら、真菌症の内、爪や皮膚の肥厚部、角化昂進部内部にまで至った真菌症は、経皮投与では薬剤の到達が困難であり、外用による治療は殆ど不可能である事態に変わりはない。この為、この様な真菌症の治療においては、経口投与で数ヶ月以上に亘る長期間テルビナフィンなどの抗真菌剤を投与する方法のみが行われている。この様な経口投与は全身投与であるため、長期間にわたるとその経済的な負担は大きい。また副作用などの発現の可能性も高くなり、人命に影響の少ない爪白癬においては適用し難い面があった。
即ち、爪や皮膚の肥厚部、角化昂進部内部の様な厚いケラチンの下部に至った真菌症の外用による治療手段は、従来の方法では充分ではなかった。そこで、この様な厚いケラチンの下部に至った真菌症の外用による治療に有用な医薬の開発が望まれていた。
一方、後述の一般式(1)で表される化合物は、抗真菌作用を有することが知られているが、これを主剤として用い、爪白癬或いは踵などの肥厚部の白癬用の抗真菌製剤とする技術については全く知られていない。
また、このような一般式(1)で表される抗真菌化合物を特定の被膜形成剤や1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤と組み合わせて抗真菌医薬組成物を得ることは全く知られておらず、この様な構成を採る抗真菌医薬組成物が爪白癬や角化昂進部、皮膚肥厚部における真菌症の治療に有用であることも全く知られていない。
発明の開示
本発明はこの様な状況下為されたものであり、厚いケラチンの下部に至った真菌症の外用による治療に有用な医薬組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、この様な状況に鑑みて、厚いケラチンの下部に至った真菌症の外用による治療に有用な医薬を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、1)被膜形成剤と2)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤と3)下記一般式(1)で表される抗真菌化合物とを含有することを特徴とする抗真菌医薬組成物が、その様な特性を有していることを見いだし、発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)1)被膜形成剤と2)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤と3)一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有することを特徴とする、抗真菌医薬組成物。
Figure 2003105841
(但し、式中Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、メチレン基、低級アルケニル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、若しくは低級アルキルチオ基で置換された低級アルキル基、又は次に示す一般式(2)で表される基を表す。)
Figure 2003105841
(但し、式中Rは水素原子、ハロゲン原子、直鎖又は分岐鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルコキシ基、又はメチレンジオキシ基を示し、mは1〜3の整数を表す。)
(2)被膜形成剤が、水難溶性又は水不溶性のものであることを特徴とする、(1)に記載の抗真菌医薬組成物。
(3)水難溶性又は水不溶性被膜形成剤がエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、(2)に記載の抗真菌医薬組成物。
(4)水難溶性又は水不溶性被膜形成剤がエチルセルロースであることを特徴とする、(2)に記載の抗真菌医薬組成物。
(5)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤がポリオキシエチレン基及び/又はポリオキシプロピレン基を有する化合物であることを特徴とする、(1)〜(4)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
(6)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤がオキシエチレンオキシプロピレン共重合体であることを特徴とする、(5)に記載の抗真菌医薬組成物。
(7)水難溶性又は水不溶性被膜形成剤がエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上であり、1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤がオキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体であって、重合度が70以上のものであることを特徴とする、(5)に記載の抗真菌医薬組成物。
(8)一般式(1)に表される化合物が、(E)−[4−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジチオラン−2−イリデン]−1−イミダゾリルアセトニトリル(化合物1)であることを特徴とする、(1)〜(7)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
Figure 2003105841
(9)更に、界面活性剤を含有することを特徴とする、(1)〜(8)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
(10)界面活性剤がアニオン界面活性剤であることを特徴とする、(9)に記載の抗真菌医薬組成物。
(11)アニオン界面活性剤がポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレン基を有していてもよいアルキル燐酸塩であることを特徴とする(10)に記載の抗真菌医薬組成物。
(12)更に有機溶剤としてアセトン又はメチルエチルケトンを含有することを特徴とする、(1)〜(11)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
(13)前記抗真菌医薬組成物を塗布対象に塗布したときに可塑性を有する被膜を形成することを特徴とする、(1)〜(12)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
(14)前記可塑性を有する被膜が粘性を有するガラス状態を示すことを特徴とする、(13)に記載の抗真菌医薬組成物。
(15)前記抗真菌医薬組成物は重ね塗りが可能であることを特徴とする、(13)又は(14)に記載の抗真菌医薬組成物。
(16)前記抗真菌医薬組成物の被膜は水性溶媒を用いた膨潤手段と物理的擦過手段により除去し得ることを特徴とする、(13)〜(15)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
(17)前記抗真菌医薬組成物は爪、皮膚の角化昂進部又は足周縁の皮膚肥厚部を塗布対象として使用されることを特徴とする、(13)〜(16)の何れかに記載の抗真菌医薬組成物。
(18)1)エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上と2)オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体と3)一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有する抗真菌医薬組成物の製造法であって、
ポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル燐酸塩と、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体とをアセトン又はメチルエチルケトンを含んだ溶媒に溶解させ、
この溶液にエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上を加えて溶解させ、
それに一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩を加えて溶解させることを特徴とする、抗真菌医薬組成物の製造法。
Figure 2003105841
(但し、式中Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、メチレン基、低級アルケニル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、若しくは低級アルキルチオ基で置換された低級アルキル基、又は次に示す一般式(2)で表される基を表す。)
Figure 2003105841
(但し、式中Rは水素原子、ハロゲン原子、直鎖又は分岐鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルコキシ基、又はメチレンジオキシ基を示し、mは1〜3の整数を表す。)
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗真菌医薬組成物は、1)被膜形成剤と2)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤と3)上記一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有することを特徴とする。
本発明の抗真菌医薬組成物に含有される被膜形成剤としては、通常医薬組成物などで使用されるものであって、水に不溶性のもの又は難溶性のものが好ましく例示できる。
ここで、水に不溶又は難溶とは、例えば20±5℃の水に対する飽和濃度が、1g/10L程度、好ましくは1g/50L程度以下のものをいう。
この様な被膜形成剤としては、エチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートに代表されるアルキルセルロース類、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液であるオイドラギット(登録商標)NE30Dの名で樋口商会より市販されているものなどの、アクリル樹脂系エマルション等が好ましく例示できる。これらは唯一種を用いることも出来るし、二種以上を組み合わせて用いることも出来る。これらの中で特に好ましいものは、エチルセルロースを単独で使用することである。
本発明の抗真菌医薬組成物における被膜形成剤の好ましい含有量は、総量で医薬組成物全量に対して、0.1〜10重量対容量%が好ましく、更に好ましくは、0.3〜5重量対容量%である。これは被膜形成剤が少なすぎると、充分な強度の被膜が得られない場合があり、多すぎると薬物の移行が阻害される場合があるからである。
本発明の医薬組成物に含有される1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤としては、オキシエチレン、オキシプロピレンなどのオキシアルキレンの重合体又は共重合体が例示でき、より好ましくは重合度の大きいものである。オキシアルキレンとしては、炭素数1〜4のものが好ましく、より好ましくはオキシエチレン及び/又はオキシプロピレンが例示できる。
かかるポリオキシアルキレンの好ましい重合度は、総和で70以上が好ましく、中でもオキシエチレンのみであれば少なくとも80以上、オキシプロピレンのみであれば少なくとも70以上、オキシエチレンとオキシプロピレンの組み合わせであれば、オキシプロピレンが30〜80であって、オキシエチレンが35〜400であり、且つ、両者の総和が70以上の条件が好ましく例示できる。
より好ましくはオキシエチレンとオキシプロピレンを有する共重合体であり、中でもポリオキシエチレン鎖が100〜300の重合度で、ポリオキシプロピレン鎖が25〜80の重合度のものである。
また、上記オキシアルキレンの重合体又は共重合体は唯一種を含有することもできるし、二種以上組み合わせて含有させることもできる。但し、二種以上を組み合わせた場合に於いては、かかる組み合わせの混合物も1気圧20℃で固体又はペースト状の状態を維持している必要がある。
この様な可塑剤の組み合わせの内、特に好ましいものはポリオキシエチレン部の重合度が140〜180であって、ポリオキシプロピレン部の重合度が20〜40のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルのみを有する共重合体である。
本発明の抗真菌医薬組成物における可塑剤の好ましい含有量は、医薬組成物全量に対して、総量で1〜10重量対容量%が好ましく、更に好ましくは3〜8重量対容量%である。更に、前記被膜形成剤に対しては、1〜10倍量、更に好ましくは3〜8倍量含有することが好ましい。
本発明に含有される抗真菌化合物は、上記一般式(1)で表される。特に一般式(1)中、Rが一般式(2)で表される化合物がよい。具体的に一般式(1)で表される化合物としては、例えば、(−)−(E)−[4−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジチオラン−2−イリデン]−1−イミダゾリルアセトニトリル(化合物1)や(+)−(E)−[4−(2−クロロフェニル)−1,3−ジチオラン−2−イリデン]−1−イミダゾリルアセトニトリル(化合物2)、ラノコナゾール等が好ましく例示できる。これらの化合物は既知の化合物であり、その製法と抗真菌特性は既に知られている。特開昭62−93227号を参酌することができる。かかる化合物は、光学活性体を使用することもできるし、ラセミ体を使用することもできる。特に好ましいものは、光学活性体であり、(−)体である。
また、上記「その生理的に許容される塩」としては、生理的に許容されるものであれば特段の限定はされないが、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩、クエン酸塩、蓚酸塩、乳酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩等の含硫酸塩が好適に例示できる。安全性、溶解性の面からより好ましくは、塩酸塩である。
一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩は唯一種を用いることも出来るし、二種以上を組み合わせて用いることも出来る。
本発明の抗真菌医薬組成物における一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩の好ましい含有量は、医薬組成物全量に対して総量で、0.1〜30重量対容量%が好ましく、更に好ましくは0.5〜15重量対容量%である。かかる抗真菌化合物の量は、生成される被膜特性との関係を考慮しつつ決定するとよい。
本発明の医薬組成物は、上記の必須成分以外に通常皮膚外用剤などで使用される任意の成分を含有することができる。
かかる成分としては、例えば、ワセリンやマイクロクリスタリンワックス等のような炭化水素類、ホホバ油やゲイロウ等のエステル類、牛脂、オリーブ油等のトリグリセライド類、セタノール、オレイルアルコール等の高級アルコール類、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール類、グリセリンや1,3−ブタンジオール等の多価アルコール類、水、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、エタノール、カーボポール等の増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、色素、粉体類或いは有機溶剤等が例示できる。
これらの内、本発明の医薬組成物に含有させる成分として特に好ましいものは、アニオン界面活性剤と有機溶剤である。
アニオン界面活性剤は、特に爪或いは硬化した皮膚内部への薬物の浸透を促進する作用を有しており、この意味で好ましい。これらアニオン界面活性剤は唯一種を用いることも出来るし、二種以上を組み合わせて用いることも出来る。
アニオン界面活性剤としては、硫酸系アニオン界面活性剤、リン酸系アニオン界面活性剤の何れもが使用可能であり、ポリオキシエチレン鎖を有していても、有していなくても良い。より好ましいものとしては、ポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル燐酸塩が挙げられる。さらに好ましくは、アルキル硫酸エステル塩及び/又はポリオキシエチレン付加アルキルトリリン酸エステル塩であり、前記ポリオキシエチレンの総付加モル数は2〜16が特に好ましい。前記アルキル基としては炭素数10〜20のものが好ましく、具体的にはラウリル基、パルミチル基或いはステアリル基などが好ましく例示できる。特に好ましいものの組み合わせとしては、ラウリル硫酸塩とトリポリオキシエチレン(トリPOEともいう)(4)ラウリルエーテルリン酸塩の両者を含有させる形態が例示できる。尚、これらのアニオン界面活性剤の塩としては、例えば、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミンなどの有機アミン塩、アンモニウム塩、アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸等の塩が好ましく例示でき、中でもアルカリ金属の塩が好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
本発明の抗真菌医薬組成物における上記アニオン界面活性剤の好ましい含有量は、医薬組成物全量に対して総量で0.5〜10重量対容量%であり、更に好ましくは、1〜5重量対容量%である。又、特に好ましくは、本発明の抗真菌医薬組成物100容量部に対し、ラウリル硫酸塩1〜5重量部とトリPOE(4)ラウリルエーテルリン酸塩0.5〜3重量部を含有させる形態が例示できる。
本発明の抗真菌医薬組成物において極性の有機溶剤を含有させると、上記一般式(1)で表される抗真菌化合物の溶解性が向上するため好ましい。
この有機溶剤としては、ケトン類を含むものであることが好ましく、アセトン又はメチルエチルケトンが例示できる。特にメチルエチルケトンを含有させることが好ましい。
本発明の抗真菌医薬組成物における有機溶剤の好ましい含有量は、医薬組成物全量に対して(以下同様)、50〜90容量%である。そのうちケトン類の好ましい含有量は、10〜50容量%であり、さらにこれ以外にエタノールなどのアルコール類を含有する場合には、該アルコール類の好ましい含有量は20〜60容量%である。
本発明の医薬組成物は、上記の必須成分と任意成分とを常法に従って処理することにより製造することができる。
かくして得られた本発明の医薬組成物は、塗布対象に塗布したときに、可塑性を有する被膜を形成する。この被膜は、粘性のあるガラス状態を示す。より詳しくは、この被膜そのものは固体であるが、内部の成分の移動は行われている状態である。
この被膜は、重ね塗りが可能な膜となっている。すなわち、治療を継続する目的で、再度、この医薬組成物を投与して被膜を形成した場合、前に塗布乾燥した被膜が、新たに塗布した被膜の薬物の患部への移動を阻害することがない。
また、本発明の医薬組成物を爪や皮膚の患部に塗布した場合、通常知られているラッカー製剤と異なり、この被膜は通常は剥がれないが、水性溶媒による膨潤手段と物理的擦過手段により除去できる。具体的には、水などの加湿状態で、所望により石けんなどの界面活性剤を付けて擦過すると、本発明の医薬組成物の被膜は容易に除去することができる。
加えて、この被膜は、ガラス状態であるために被膜から患部への薬物の移動が容易に起こるため、患部に常に一定の濃度で供給されることになり、この為、通常のラッカー製剤よりも薬物利用率が高まる。この為、通常外用抗真菌医薬組成物の剤形では薬物の投与効果が得られにくい、皮膚の角化昂進部又は足周縁の皮膚肥厚部における真菌症の治療にも外用で有効に使用することができる。よって、本発明の抗真菌医薬組成物は、爪、皮膚の角化昂進部又は足周縁の皮膚肥厚部の患部に対して使用可能なものとなる。
尚、本発明の抗真菌医薬組成物の対象となる真菌としては、白癬菌(トリコフィトン属)、カンジダ症の原因菌(カンジダ属)、クリプトスポリジウム病の原因菌(クリプトスポリジウム属)あるいは酵母類(アスペルギルス属)などが挙げられる。
本発明の医薬組成物は、通常の方法により製造できるが、好ましい形態に於ける、好ましい製造例を挙げると以下のようになる。
1)エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上と2)オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体と3)一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有する抗真菌医薬組成物を製造する場合に、ポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル燐酸塩と、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体とをアセトン又はメチルエチルケトンを含んだ溶媒に溶解させ、この溶液にエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上を加えて溶解させ、それに一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩を加えて溶解させる。この方法で製造すると、一般式(1)で表される抗真菌化合物が含水系の溶媒に対しても結晶が析出せず安定性よく製剤化できる。
これにより、本発明の抗真菌医薬組成物の好ましい製造法が提供できる。
実施例
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明がこれら実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
尚、各実施例又は表中に記載の略号は次のものを示す。
HP−55 :ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート
プルロニックF−68 :ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール
マクロゴール200 :ポリエチレングリコール200
SDS :ラウリル硫酸ナトリウム
TLP−4 :トリポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム
<実施例1>
下記表1に示す処方に従って、本発明の抗真菌医薬組成物を製造した。aの成分を攪拌可溶化し、これにbの成分を加えて可溶化し、更にcの成分を加えて可溶化した後、dの成分を加えた。続いてpHが6になるようにeを加え、fを加えて全量が100mLになるように調整して、抗真菌医薬組成物を得た。
Figure 2003105841
<実施例2〜4>
実施例1と同様な順序で成分a〜fを加えて、以下の表2に示す本発明の抗真菌医薬組成物を作製した。また、表2に示すように本発明の抗真菌医薬組成物に属さない近似技術の比較例も作製した。
Figure 2003105841
<実施例5>
上記の実施例1〜4の本発明の抗真菌外用医薬組成物、比較例1〜6の抗真菌外用医薬組成物について、爪投与に於ける皮膜の特性を調べた。
皮膜特性としては、塗布後乾燥して皮膜を形成するまでの時間(秒)、塗布後12時間の皮膜の状態、塗布後12時間に於ける皮膜の水での除去のしやすさを評価項目とした。皮膜の状態の判定基準は、◎:皮膜が取れていない、○:皮膜が一部取れている、△:皮膜が半分ほど取れている、×:皮膜が半分以上取れているを用いた。又、除去のしやすさは、◎:皮膜を簡単に洗い流せる、○:皮膜を洗い流すためにこすり洗いが必要、×:流水洗浄では皮膜を洗い流すことができないの基準を用いた。結果を表3に示す。これより、本発明の抗真菌外用剤は、皮膜の維持性が高く、しかも、水洗により容易に除去しうることが判る。
Figure 2003105841
<実施例6>
上記の実施例3、4の本発明の抗真菌外用医薬組成物、比較例5、6の抗真菌外用医薬組成物について、フランツ型拡散セルを用いて形成した皮膜からの薬剤放出を確かめた。
図1に示すようにPETシート(符号1)上に薬剤200μLを滴下し、皮膜を形成させ、このシートの上に透析膜(符号2)を貼り合わせた。透析膜をレセプター側に向けてフランツ型拡散セルにセットし、レセプターに0.01Nの塩酸を充填し、一定時間ごとにサンプリングし、HPLCにてレセプターの液中の薬物濃度を測定した。
結果を図2に示す。この図2より、比較例5、6に比して実施例3、4は優れた薬物放出特性を有していることが判る。
この結果と上記実施例の結果とを考えあわせると、本発明の抗真菌医薬組成物は長時間薬物をストアした膜を維持し、且つ、維持した薬剤を効果的に放出し、治療効果を高める効果を有するとともに、除去すべき時には容易に除去しうる性質を有することが判る。
<実施例7> in vitro薬効評価試験
トリコフィトン メンタグロファイテス(Trichophyton mentagrophytes)の分生子を2×10/ml含んだ栄養源のない寒天培地上に爪甲表面(ヒト)にシリコン性円柱リングをシリコンボンドで固定した爪をのせ、7日間28℃で培養した。
培養後、爪床側に菌が増殖しているのを確認し、円柱リング中に各薬剤を51投与した。投与後、7日間28℃で培養し、爪を培地から取り外し、爪床側を有柄針で軽く削った。
その際、でてきた爪屑をサブロー寒天培地上にまき、28℃で14日間培養し、菌の増殖を確認した。菌の増殖が認められない爪を菌陰性とした。菌陰性となった爪屑の比率(%)を求めた。結果を表4に示す。
これより、本発明の抗真菌医薬組成物は、その優れた薬剤ストア性と薬剤放出性により、爪のような厚いケラチンに阻まれて、通常外用での治療の難しい真菌症に対しても優れた効果を発揮することが明白である。
Figure 2003105841
<実施例8、9>
実施例1〜4と同様な順序で成分a〜fを加えて(但し、eはない)、以下の表5に示す本発明の抗真菌医薬組成物(実施例8、9)を作製した。また、表5に示すように比較例7〜9の抗真菌医薬組成物も作製した。
これらについて、実施例5と同様に乾燥時間、12時間後の状態及び洗浄性を調べた。これらの結果を表6に示す。
Figure 2003105841
Figure 2003105841
<実施例10>
実施例7と同様に本発明の抗真菌医薬組成物のイン・ビトロの効果を評価した。ただし、投与後、14日間28℃で培養した。結果を表7に示す。
これより、本発明の医薬組成物が優れた抗真菌作用を有していることが明白である。又、薬剤としては一般式(1)に表される化合物群、取り分け化合物1が特に好ましいことも判る。
Figure 2003105841
<実施例11>
上記と同様に化合物1の濃度を変えて本発明の医薬組成物を作製した。
Figure 2003105841
<実施例12>
上記と同様に化合物1の濃度を変えて本発明の医薬組成物を作製した。
Figure 2003105841
<実施例13>
上記と同様に化合物1の濃度を変えて本発明の医薬組成物を作製した。
Figure 2003105841
<実施例14>
上記実施例11〜13の医薬組成物及び実施例11の化合物1をエタノールに置換した対照例について、皮膚一時刺激を調べた。
即ち、ウサギ(ニュージーランド・ホワイト種1群6匹)の背部を除毛し、3cm×3cmの部位を6つ作成した。ここに検体を一部位あたり0.5mLをリント布にしみこませて貼付し、これをパラフィルム、包帯で覆い、24時間クローズパッチを行った。一部位のみは貼付を行わず無処理とした。パッチを除去後1時間に皮膚反応を、1)紅斑と痂皮形成、2)浮腫形成の2項目について観察した。
紅斑と痂皮形成は、スコア0:紅斑無し、スコア1:極軽度の紅斑、スコア3:明らかな紅斑、スコア4:中等度から強い紅斑、深紅色の強い紅斑に軽い痂皮形成の評点基準で観察した。また、浮腫形成は、スコア0:浮腫無し、スコア1:極軽度の浮腫、スコア2:明らかな浮腫、スコア3:中等度の浮腫、スコア4:強い浮腫の評点基準で観察した。
結果は何れの検体部位も、紅斑と痂皮形成も浮腫もスコア0となった。この結果から本発明の皮膚外用剤の安全性が確認された。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、厚いケラチンの下部に至った真菌症の外用による治療に有用な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、フランツ型セルのサンプルチャージを示す図である。
図2は、実施例6の結果を表す図である。

Claims (18)

  1. 1)被膜形成剤と2)1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤と3)一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有することを特徴とする、抗真菌医薬組成物。
    Figure 2003105841
    (但し、式中Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、メチレン基、低級アルケニル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、若しくは低級アルキルチオ基で置換された低級アルキル基、又は次に示す一般式(2)で表される基を表す。)
    Figure 2003105841
    (但し、式中Rは水素原子、ハロゲン原子、直鎖又は分岐鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルコキシ基、又はメチレンジオキシ基を示し、mは1〜3の整数を表す。)
  2. 被膜形成剤が、水難溶性又は水不溶性のものであることを特徴とする、請求項1に記載の抗真菌医薬組成物。
  3. 水難溶性又は水不溶性被膜形成剤がエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の抗真菌医薬組成物。
  4. 水難溶性又は水不溶性被膜形成剤がエチルセルロースであることを特徴とする、請求項2に記載の抗真菌医薬組成物。
  5. 1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤がポリオキシエチレン基及び/又はポリオキシプロピレン基を有する化合物であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
  6. 1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤がオキシエチレンオキシプロピレン共重合体であることを特徴とする、請求項5に記載の抗真菌医薬組成物。
  7. 水難溶性又は水不溶性被膜形成剤がエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上であり、1気圧20℃で固体又はペースト状の水溶性可塑剤がオキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体であって、重合度が70以上のものであることを特徴とする、請求項5に記載の抗真菌医薬組成物。
  8. 一般式(1)に表される化合物が、(E)−[4−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジチオラン−2−イリデン]−1−イミダゾリルアセトニトリル(化合物1)であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
    Figure 2003105841
  9. 更に、界面活性剤を含有することを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
  10. 界面活性剤がアニオン界面活性剤であることを特徴とする、請求項9に記載の抗真菌医薬組成物。
  11. アニオン界面活性剤がポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレン基を有していてもよいアルキル燐酸塩であることを特徴とする請求項10に記載の抗真菌医薬組成物。
  12. 更に有機溶剤としてアセトン又はメチルエチルケトンを含有することを特徴とする、請求項1〜11の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
  13. 前記抗真菌医薬組成物を塗布対象に塗布したときに可塑性を有する被膜を形成することを特徴とする、請求項1〜12の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
  14. 前記可塑性を有する被膜が粘性を有するガラス状態を示すことを特徴とする、請求項13に記載の抗真菌医薬組成物。
  15. 前記抗真菌医薬組成物は重ね塗りが可能であることを特徴とする、請求項13又は14に記載の抗真菌医薬組成物。
  16. 前記抗真菌医薬組成物の被膜は水性溶媒を用いた膨潤手段と物理的擦過手段により除去し得ることを特徴とする、請求項13〜15の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
  17. 前記抗真菌医薬組成物は爪、皮膚の角化昂進部又は足周縁の皮膚肥厚部を塗布対象として使用されることを特徴とする、請求項13〜16の何れか1項に記載の抗真菌医薬組成物。
  18. 1)エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上と2)オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体と3)一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩とを含有する抗真菌医薬組成物の製造法であって、
    ポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレン基を有してもよいアルキル燐酸塩と、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンからなる重合体又は共重合体とをアセトン又はメチルエチルケトンを含んだ溶媒に溶解させ、
    この溶液にエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びアクリル樹脂エマルションからなる群より選択される1種又は2種以上を加えて溶解させ、
    それに一般式(1)で表される抗真菌化合物及び/又はその生理的に許容される塩を加えて溶解させることを特徴とする、抗真菌医薬組成物の製造法。
    Figure 2003105841
    (但し、式中Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、メチレン基、低級アルケニル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、若しくは低級アルキルチオ基で置換された低級アルキル基、又は次に示す一般式(2)で表される基を表す。)
    Figure 2003105841
    (但し、式中Rは水素原子、ハロゲン原子、直鎖又は分岐鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルコキシ基、又はメチレンジオキシ基を示し、mは1〜3の整数を表す。)
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