JPWO2002024875A1 - 正常ヒト成熟肝細胞用培養液 - Google Patents
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Abstract
本発明は、正常なヒト成熟肝細胞用の培養液に関する。本発明の目的はヒトの正常な成熟肝細胞をその機能を維持したまま増殖および維持するための培養液を提供すること、および、その培養液の正常ヒト成熟肝細胞の培養への使用である。本発明の培養液は、ヒト血清を含むことを特徴とする。特に、本発明の培養液は、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリン、ヒト血清、ニコチンアミド、増殖因子、インシュリン、副腎皮質ホルモンを含むことを特徴とする。
Description
発明の背景
本発明は、正常なヒト成熟肝細胞の増殖および維持のための培養液に関する。
肝細胞は体内における化学工場と言われるくらいに多彩な機能を持っている。血清タンパク質の90%以上は肝細胞が産生しており、肝細胞は、体内に取り込まれたり産生された有害物質を代謝し解毒している。そのため、正常なヒト成熟肝細胞を培養し、その機能を使って有害物質を検出(バイオセンサー)する、あるいは、ヒトに必要な物質の生産を体外で可能にしようとするなど、様々な研究機関で成熟肝細胞に関する研究がなされている。
また、医学の分野においてはヒト肝細胞を大量に確保するということは重篤な肝疾患に苦しむ人々を救う治療法を確立する上で緊急な課題である。肝不全は様々な原因で起こり、発症すると非常に致命率の高い疾患である。現在最も救命率の高い治療法は肝移植のみと言ってもよい。
日本においても脳死移植法案が成立し、脳死肝移植が始まっている。しかしながら、ドナーの数は限られており、一つのドナー肝を一人ないし二人のレシピエントに移植する方法を行なっているという現在のような状況では、大多数の患者が移植を受けられないまま死を迎えるのは明らかである。それらの患者を救うためには人工的に肝臓を作る、すなわち人工肝臓を作るのが最も適切と考えられ、かつ、現状ではそれ以外の選択肢が無いに等しい。そのような人工肝臓としては、現在のところ、劇症肝炎の患者の一時的な治療にブタ肝臓細胞を使ったハイブリット型人工肝臓が米国において治験として使われているに過ぎない。その場合も数時間の使用に耐えられるのみであって、その治療効果については議論のあるところである。さらに、これまでのところ、肝細胞機能を充分に維持し得るヒト肝細胞を大量に確保できていないため、そのようなハイブリッド型人工肝臓においてもブタ肝細胞を使わざるを得ない。
また、肝不全を起こす疾患には、劇症肝炎、肝硬変、肝癌などが症例的には多いが、先天的な遺伝子欠損により起こる代謝疾患も少数ながら存在する。それらの代謝性疾患では、それぞれ欠損しているタンパク質を補充すると発症をしないと予測されることから、近年、肝細胞移植がそれらの疾患の治療法として考えられるようになってきた。患者本人の肝細胞を体外で培養し欠損している遺伝子をその細胞内に組み込んで、再び肝臓に戻すという方法である。しかしながら、このような場合、遺伝子を組み込む細胞は成熟肝細胞、特にヒトの成熟肝細胞であるため、遺伝子の導入効率が悪いばかりでなく、肝臓内で増殖させることが未だできず、比較的短期間のうちに発現細胞が消失することが知られている。
このような種々の目的のために、正常なヒト成熟肝細胞をその機能を維持したまま大量に調製する手段が望まれてきた。しかしながら、正常ヒト成熟肝細胞は培養が困難であり、肝臓から単離されて培養が開始されると急速に肝細胞としての機能を失い、かつ、継代培養はほとんど不可能であった。従って、従来の培養液および培養方法を用いた場合は、分離された正常ヒト成熟肝細胞を実験に使用し得るレベルに1週間程度の期間維持することすら難しく、細胞を増殖させることは更に困難であった。これに対して、継代培養可能なヒト肝細胞株もいくつか樹立されてはいるものの、これらは正常なヒト成熟肝細胞とは呼べないものであり、更に、そのいくつかはラット細胞との混合培養を必要とするなど、特殊な培養条件を必要とするものである。
正常なヒト成熟肝細胞の初代培養のために、従来L−15/Ham F−12=1:1混合培養液、Willilams’ E/Ham F−12=1:1混合培養液、アルギニンフリーWillilams’ E、RPMIに微量元素を加えた培養液、DMEM、およびこれらにトランスフェリン、インシュリンや甲状腺ホルモン等のホルモンやHGF等の増殖因子等を加えた培養液等が考えられてきた。しかしながら、これらの培養液を用いた場合であっても、前述したように、正常ヒト成熟肝細胞を1週間以上の長期にわたって維持することは事実上不可能であり、増殖はほとんど認められなかった。
発明の開示
本発明の目的は、ヒトの正常な成熟肝細胞をその機能を維持したまま増殖および維持するための培養液を提供すること、および、その培養液の正常ヒト成熟肝細胞の培養への使用である。
本発明の培養液は、ヒト血清を含むことを特徴とする、正常ヒト成熟肝細胞用の培養液である。
本発明の培養液は、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリン、ヒト血清、ニコチンアミド、増殖因子、インシュリン、副腎皮質ホルモンを含むことを特徴とする正常ヒト成熟肝細胞用培養液である。
また、本発明の別の培養液は、更に、トランスフェリン、微量元素を含む培養液である。
さらに、本発明の別の培養液は、上記成分に加えて、グルカゴン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、および、アスコルビン酸を含み、カルシウム濃度が極めて低いことを特徴とする培養液である。
また、本発明の別の側面は、ヒト成熟肝細胞をその機能を維持したまま培養するための前記培養液の使用である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の培養液は、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリン、ヒト血清、ニコチンアミド、増殖因子、インシュリン、副腎皮質ホルモンを含むことを特徴とする。特に、本発明の培養液は、通常のヒト培養細胞用の培養液に比較して高濃度の必須アミノ酸、高濃度のヒスチジン、高濃度のアルギニンまたはオルニチン、高濃度のグリシン、高濃度のプロリン、高濃度のグルタミン、高濃度のシステイン、高濃度のセリンを含むことが好ましく、より好ましくは、更に、トランスフェリン、および微量元素を含む。
必須アミノ酸は生物種によって若干異なることが知られており、例えば、ヒトではバリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、リジンの8種であり、ラットでは更にヒスチジン、アルギニンを加えた10種、トリでは更にグリシンを加えた11種であることが知られている。また、肝細胞はオルニチンをアルギニンの代わりに利用できることから、成熟肝細胞の培養を目的とした本発明の培養液においては、アルギニンとオルニチンは互換的に使用することができる。寧ろ、オルニチンを利用できない他の細胞、例えば、線維芽細胞などの増殖を抑えるため目的でアルギニンの代わりにオルニチンを使用するのが好ましい場合もある。本明細書ではヒトにとって必須である前述の8種のアミノ酸を「必須アミノ酸」と称する。すなわち、本明細書においては、用語「必須アミノ酸」とは、具体的には、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、リジンを意味する。また、本明細書においては特に断りのない限りアミノ酸はL−体である。
より好ましくは、本発明の培養液は、グルカゴン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン(GH)またはインシュリン様成長因子(IGF−1)、ビタミンを含み、カルシウム濃度が低いこと、例えばカルシウム濃度が0.1mM以下であることが更に好ましい。本発明の培養液における必須アミノ酸およびヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンの濃度は一般にヒト細胞の培養に使用される培養液、例えば、Williams’ E(Williams,G.M.とGunn,J.M.(1974),Exp.Cell Research,89,139−142)、RPMI、DMEM(Dulbecco,RとFreeman,G(1959),Virology.8,396−397)、MCDB(Poehl,D.M.とHam,R.G.,(1980),In Vitro,16:528)、L−15等に含まれる必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンの各々について最小濃度の約1.5倍から〜各々のアミノ酸についての最大濃度であることが好ましく、更に好ましくは、これらの培養液中の必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンの各々について最小濃度の約1.5倍〜各々のアミノ酸について最大濃度の約半分である。特に、本発明の培養液中のアミノ酸濃度に関連して使用する場合、「高濃度」とは、以下の表1〜表4に例示したWilliams’ E、DMEM、MCDBおよびL−15の各培養液に含まれる各アミノ酸について、最も濃度の低い培養液中の値の約1.5倍からこれら4種の培養液中における最大濃度の範囲にある濃度をいう。前述したように、本発明の培養液においてはアルギニンとオルニチンは互換的に使用できるため、アルギニンの代わりにオルニチンを使用する場合、その濃度はアルギニンと同じである。
本発明の培養液中は、上で定義した意味において高濃度の必須アミノ酸、高濃度のヒスチジン、高濃度のアルギニンまたはオルニチン、高濃度のグリシン、高濃度のプロリン、高濃度のグルタミン、高濃度のシステイン、高濃度のセリンを含むことが好ましく、より好ましくは、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンを、これらの各アミノ酸の濃度に関して、表1〜表4に示すWilliams’ E、DMEM、MCDBおよびL−15の各培養液中の最も低い値の約1.5倍からこれら4種の培養液中における最も高い値の半分程度までの濃度範囲で含む。
Williams’ E、DMEM、MCDBおよびL−15はそのアミノ酸組成および濃度が若干異なる種々の改変培養液が知られているが、これらの培養液に含まれる各アミノ酸濃度の代表的例を以下の表1〜表4に示す。
本発明に添加されるヒト血清の濃度は、5%〜20%、好ましくは5%〜15%である。本発明の培養液に使用し得る増殖因子としては、例えば、EGF、HGF、TGF−α、またはこれらの組み合わせが含まれ、特にEGFおよび/またはHGFが好ましい。本発明の培養液はニコチンアミドを、好ましくは5mM〜15mM、より好ましくは5mM〜10mMの濃度で含む。本発明の培養液中の増殖因子の濃度は、好ましくは合計として1ng/ml〜50ng/ml、より好ましくは合計として5ng/ml〜50ng/mlである。また、本発明の培養液中のインシュリン濃度は、好ましくは50nM〜1μM、より好ましくは100nM〜0.5μMである。
本発明の培養液に使用し得る副腎皮質ホルモンには、例えば、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、およびこれらの組み合わせが含まれ、ヒドロコルチゾンおよび/またはデキサメタゾンが好ましい。副腎皮質ホルモンの濃度は、好ましくは合計10nM〜1μM、より好ましくは合計50nM〜200nMである。本発明の培養液に使用され得るトランスフェリンの濃度は、好ましくは1μg/ml〜15μg/ml、より好ましくは5μg/ml〜15μg/mlである。
本発明の培養液に使用し得る微量元素は、一般に培養細胞の培養、特にヒト肝細胞の初代培養に使用されるものを含み、例えば、セレン、マンガン、ケイ素、モリブデン、バナジウム、ニッケル、スズ、亜鉛、鉄、マグネシウム、銅、およびこれらの組合せからなる群より選ぶことができる。微量成分としては、約20nM〜30nMのセレン(NaSeO3)、約0.5nM〜1nMマンガン(MnCl2)、約400nM〜500nMのケイ素(Na2SiO3)、約0.5nM〜1nMのモリブデン((NH4)6Mo7O24)、約2nM〜5nMのバナジウム(NH4VO3)、約0.1nM〜0.5nMのニッケル(NiSO4)、約0.1nM〜0.5nMのスズ(SnCl2)、約0.1μM〜3μMの亜鉛(ZnSO4)、約1μM〜10μMの鉄(FeSO4)、約0.5nM〜1.5mMのマグネシウム(MgCl2)、約5nM〜11nMの銅(CuSO4)、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
本発明の培養液に使用し得る甲状腺ホルモンには、トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)が含まれ、特にT3が好ましい。甲状腺ホルモンの濃度は、T3が用いられる場合、好ましくは5nM〜100nM、より好ましくは10nM〜50nMである。本発明の培養液の作製のためには、成長ホルモンとインシュリン様成長因子は互換的に使用することができ、それらの濃度は、好ましくは合計約1ng/ml〜20ng/ml、より好ましくは合計5ng/ml〜15ng/mlである。更にグルカゴンが添加される場合は、その濃度はインシュリンと同様である。
本発明の培養液に添加するビタミンとして使用し得るものには、アスコルビン酸および/またはレチノイン酸、および、コリンを含むビタミンB複合体が含まれ、アスコルビン酸が特に好ましい。これらのビタミンの濃度は、好ましくは0.5mM〜1.5mM、より好ましくは0.5mM〜1.0mMである。
本発明の培養液は場合により、0.1mM〜0.5mMのエタノールアミン、および0.1mM〜0.5mMのホスホエタノールアミンを更に含んでいてもよい。
更に、本発明の培養液は、細胞培養液に通常用いられるその他の成分、例えば上記以外の非必須アミノ酸、リン酸ナトリウムや塩化ナトリウム等の無機塩、上記以外の種々のビタミン、乳酸、D−グルコース、D−ガラクトース、Hepesのような緩衝剤、pH指示薬、適切な抗生物質、その他を含んでいてよい。
また、本発明の培養液は、公知の培養液、あるいは商業的に入手可能な培養液、例えば、Williams’ E、RPMI、DMEM、MCDB(Peehl,DM.とHam,R.G.,(1980),In vitro,16:526、Bettger,W.J.ら(1981)m Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78:9,5588−5592))、KSFM(Serum−Free Keratinocyte Medium,GIBCo BRL)等に、必要に応じて上述した各成分が上述した濃度となるように添加して調製することもできる。特に、MCDB中のアミノ酸濃度を高めたと考えられるKSFMは本発明の培養液を作製するために好都合である。
本発明の一つの実施態様は、以下の溶液A、および5〜20%のヒト血清、EGF、インシュリン、ヒドロコルチゾン、微量元素、トランスフェリン、T3、レチノイン酸、アスコルビン酸、コリンを含む培養液である。
このような溶液Aおよび、上述の各試薬溶液は混合後に滅菌することも可能であるが、別々に滅菌することも可能である。各溶液をストック溶液として保存する場合は、各々滅菌して保存するのが好ましい。滅菌は通常オートクレーブまたはフィルターによる濾過滅菌によって行なうが、熱分解または熱変性し易い成分を含む溶液は濾過滅菌が好ましい。濾過滅菌のためのフィルターおよびフィルターユニット、およびオートクレーブ装置は当業者によく知られており、商業的に入手可能である。
本発明の培養液は、全ての成分を混合して滅菌後に保存することもできるが、一部の成分を別々に滅菌後保存しておき、使用時に無菌的に混合することが好ましい。一部の成分を別に保存する場合は、例えば、上述の溶液Aのようなアミノ酸および塩類溶液、ヒト血清、EGFやHGF等の増殖因子、インシュリン、デキサメタゾンやヒドロコルチゾン等の副腎皮質ホルモン、トランスフェリン、微量元素混合物、甲状腺ホルモン、GHおよび/またはIGF−1、グルカゴン、アスコルビン酸等を別に保存しておき使用時に無菌的に混合してもよい。この場合、各成分の保存方法はそれぞれについて通常使用される条件に従えばよい。全ての成分を混合した場合は、あまり長期間保存しないことが好ましく、例えば1ヶ月程度で新たに調製するのが好ましい。この場合、調製された培養液は暗所、低温、例えば約1℃〜約10℃、好ましくは約2℃〜約4℃にて保存する。
血清、増殖因子、ホルモンを含まない溶液(基本培養液)は滅菌後暗所、低温、好ましくは2℃〜4℃にて、通常少なくとも1年は保存可能である。しかしながら、基本培養液の保存方法および保存可能期間は使用する基本培養液の組成によってある程度変動し得るものである。各成分は保存前に滅菌してもよく、混合直前、または混合後に滅菌してもよいが、保存前に滅菌するのが好ましい。
このようにして調製した、あるいは保存しておいた本発明の培養液は、一般に細胞培養に用いられることのある成分を必要に応じて更に添加した上で、通常の培地と同様に適宜培養容器に移して使用することができる。例えば、必要に応じて種々の抗生物質を本発明の培養液に加えて使用してもよい。
本発明の培養液は正常なヒト成熟肝細胞を培養するために最も適している。しかしながら、本発明の培養液は正常なヒト成熟肝細胞以外の細胞、特に肝臓由来の、肝機能を有する細胞、例えば、ヒト小型肝細胞の培養にも適している。ここで「小型肝細胞」とは、本発明者らによって発見され命名された、肝細胞としての特徴を有するが成熟細胞とは区別し得る、肝臓由来の特別な種類の小型細胞をいう(Mitaka,T.ら、Hepatology,29,111−1355(1999))。
本発明の培養液によって培養される正常なヒト成熟肝細胞はどのような方法によって入手してもよいが、例えば以下のように調製することができる。例えば、肝臓に僅かの転移巣がある癌患者等から病巣と共に切除された肝組織から正常肝臓組織を切り出し、通常の肝灌流法又は穿刺灌流法によって肝臓由来細胞を得ることができる。例えば、0.5mM程度のEGTAを含むハンクス緩衝液で前灌流を行なった後、コラゲナーゼ−ディスパーゼ等の酵素を含む緩衝液を用いて灌流を行なった後、必要に応じてメッシュ等を通すことにより不要な組織破砕物を除去した後、低速遠心によって実質細胞を得ることができる。遠心は非実質細胞と実質細胞を分離するために充分な条件であればよく、例えば50xgにて1分間の遠心、再懸濁を数回繰り返すことによって得られる。
このような方法、あるいは、他の適切な方法により調製された正常ヒト成熟肝細胞は、直ちに本発明の培養液中に移して培養することができる。初期細胞濃度は一般的に接着細胞の培養に適切である範囲で特に限定されないが、細胞の分化能を維持するためにはあまり低濃度でないことが好ましく、特に1.0x105細胞/m1〜5.0x105細胞/ml程度が好ましい。培養液の交換は、細胞の状態に依存するが、通常は約2日に1回交換するのが好ましい。
本発明の培養液を用いてヒト成熟肝細胞を培養する場合、培養液以外のその他の条件に関しては一般的なヒト細胞に対する条件、特に、従来ヒト肝細胞の初代培養に用いられてきた条件を採用することができる。例えば、本発明の培養液と共に5%CO2、37℃、湿度95%に設定した一般的なCO2インキュベーター等の装置を利用することができ、培養容器も特に限定されず、細胞培養に利用される種々の形状、大きさの容器を目的に応じて利用することができる。ヒト成熟肝細胞の培養には、一般にコラーゲンあるいはファイブロネクチンでコートした培養容器が使用されるが、そのような培養容器は当業者によく知られており、自家調製してもよく、培養のための装置と共に商業的に容易に入手することもできる。
本発明の培養液によって培養されたヒト成熟肝細胞または小型肝細胞が肝細胞としての機能を維持していることは種々のマーカー、例えば、培地中に分泌されるアルビミンやトランスフェリン、グルコース代謝に関与するグルコース−6−フォスファターゼやグリコーゲンなどが利用できる。これらはELISA、Westernブロット解析等のよく知られた方法で確認することができる。また、細胞の増殖はトリパンブルー等の色素を用いた色素排除法、MTTの転換を利用したMTT法、BrdUおよび抗BrdU抗体を用いたDNA合成の程度を指標としたBrdU法、あるいは、直接DNA量を測定するフローサイトメトリー法等によって確認することができる。これらはいずれも当業者に良く知られた標準的な方法によって行なうことができる。
このようにして本発明の培養液を用いて増殖および/または維持された正常なヒト成熟肝細胞は、研究用の培養細胞として利用することもでき、人工肝臓に使用することもできる。
(実施例)
実施例1.正常なヒト成熟肝細胞の単離
転移性肝癌、胆道系癌等の、感染症を持たない肝切除手術症例より、インフォームドコンセントを取った上で、3g前後の正常肝臓切片を得た。対象は1999年12月から2000年4月までに京都大学医学部付属病院およびその関連病院で行なわれた、大腸癌からの転移性肝癌6例、胆嚢癌または胆管細胞癌2例、肝限局性結節性過形成(Focal Nodular Hyperplasia)2例、肝血管腫1例の計11例で、平均年齢は45.9±5.2歳であった。最若例は17歳、最高齢例は82歳であった。
10cc注射器による穿刺法にて、0.5mM EGTA含有ハンクス緩衝液(137mM NaCl,2.68mM KCl,0.7mM Na2PO4・12H2O,10mM Hepes,10mM グルコース,pH7.4)250mlで前灌流後、同量の0.1%コラゲナーゼ−0.5%ディスパーゼ液によって二段めの灌流を行ない、メッシュを通して大きな組織片を除去した後、50xgにて1分間の遠沈を4回行なって実質細胞画分を得た。
実施例2.培養液の調製
ヒト角化細胞用の無血清培養液として市販されているKeratinocyte Stimulating Factor Medium(KSMF)(GIBCO BRL)(Marcelo,C.L.ら、(1978)、J.Cell Bilogy,79,360;Price,F.M.ら、(1980)、In vitro,16、147等参照)に10%ヒト血清、10mMニコチンアミド、10ng/mlのEGF、1mMアスコルビン酸、30mg/lプロリンになるように各試薬を加えることによって調製した。
実施例3.ヒト成熟肝細胞の培養
得られた実質細胞画分をI型コラーゲンコーティング培養皿上に2.0x105生細胞/mlの細胞濃度で播種した。この細胞を上記の本発明の培養液を使用し、5%CO2、37℃、湿度95%の培養器内で培養した。培養液は約2日に1回の割合で交換した。
このようにして培養された細胞について、経時的に光学顕微鏡、電子顕微鏡による形態観察、ELISA法によるアルブミン産生量測定、RT−PCR法による肝臓特異的タンパク質(アルブミン、トランスフェリン)のmRNA発現の検出、免疫組織染色によるBrdUラベルインデックスの測定を行なった。
なお、測定の2時間前に培養液を上記の培養液から血清を除いたものに交換し、無血清状態で2時間培養を行なった細胞を使用した。
実施4.本発明の培養液によって培養されたヒト成熟肝細胞の挙動
(1) 対照として用いたWilliams’ E、および本発明の培養液を用いて培養したヒト成熟肝細胞を光学顕微鏡下で観察した。
Williams’ Eを用いて培養すると、光学顕微鏡観察において、1週間前後で線維芽細胞が優位に増殖し始めることが観察され、2週間前後で肝細胞はほとんど認められなくなった。一方、実施例1に記載の本発明の培養液を用いた場合は、同様な光学顕微鏡観察において、繊維芽細胞の増殖は抑制され、最長13週間、平均9週間にわたって正常成熟肝細胞が維持されることが観察された。また、コロニー状に増殖する小型肝細胞が認められ、近傍の成熟肝細胞の中に一部分裂像を認めた。更に、本発明の培養液による培養開始2か月目の培養物に対して免疫組織化学染色を行なったところ、アルブミン陽性、CK18陽性、CK19陰性の結果を得た。即ち、本発明の培養液によって2か月間培養された後も、肝細胞としての機能を維持していることが示された。
電子顕微鏡観察においても、本発明の培養液で培養した場合には、培養開始後8週間目の培養物においてペルオキシソーム、タイトジャンクション、毛細胆管形成が確認された。
(2)アルブミン産生量
ヒト成熟肝細胞の培養開始から12週間にわたって、培地中に分泌されたアルブミンの量をELISA法によって測定した。対照培養液としてWilliams’Eを使用した。Williams’Eを用いた系では、5日〜7日でアルブミン産生が最大に達した後、漸減して約2週間で検出限界以下まで減少した(図1、図2)。これに対して実施例1に記載の本発明の培養液を用いた場合は、アルブミン産生は1週間から3週間にわたりピークが持続した。ピークの後、アルブミン産生は漸減するが、5〜6週間後前後でアルブミン産生の低下が止まる時期が見られ、少なくとも2ヶ月間にわたって、従来培地と比較して有意に高いアルブミン産生が見られた。測定結果の代表的な例を図1および図2に示した。2つの例において濃度の絶対値には相違が見られるものの、アルブミン産生量の経時変化については同様な結果が得られた。
(3)BrdUラベリングインデックス
36歳、52歳、61歳のヒトに由来する正常ヒト成熟肝細胞を各々実施例1に記載の培養液で培養し、BrdUラベルインデックスを選定した。
35mm培養皿上で培養中の細胞に最終濃度40μMとなるようBrdU(5−ブロモ−2’−デオキシウリジン)(Sigma)を加え、48時間後に100%エタノールで固定した。使用時までエタノール中で−20℃にて保存した。測定の際には、2N HClでDNAの二重鎖をほどき、内因性ペルオキシダーゼをブロッキングし、更にスキムミルクでブロッキングした後、マウスモノクローナル抗BrdU抗体(Amersham、DAKO)を用い、ABC法で染色した。BrdU(+)の核を持つ細胞を陽性細胞としてその数を数え、総数1000個の細胞に対する陽性細胞の数をパーセンテージ(%)で表してBrdUラベリングインデックスとして記録した。
その結果、36歳の例で培養5日目21.5%、10日目15.3%、15日目7.4%であった。49歳の例では、5日目14.5%、10日目11.2%、15日目5.3%、61歳の例では5日目10.6%、10日目7.8%、15日目4.2%であった。すなわち、培養10日目にあっても約10〜20%の細胞がなおDNA合成を続け、増殖していることが強く示唆された。一方、対照としてWilliams’ Eを用いた場合は、BrdUラベリングインデックスは5日目においてもほとんど0であり、細胞は増殖していないことが示された。
実施例5.培地中のウシ血清およびヒト血清の成熟肝細胞培養に対する影響の比較
培養ヒト成熟肝細胞のアルブミン分泌に対するヒト血清添加の影響を調べた。対照培養液としてヒト血清の代わりにウシ胎仔血清を使用した。
(1)培養液の調製
以下の組成を有するヒト血清入り培養液(培養液A)およびウシ血清入り培養液(培養液B)を調製した。
(2)正常ヒト成熟肝細胞の培養
(1)に示した培養液AおよびBを用いて、実施例3に記載したのと同様な条件でヒト成熟肝細胞を培養し、アルブミン産生量を測定した。アルブミンの産生は培養開始から8週間にわたって培地中に分泌されたアルブミン量をELISA法によって測定することによって評価した。その結果を図3に示す。
図3で示すように、ヒト血清を用いた系では、培養開始から2週間は分泌量が漸増し、以後緩やかに分泌量が減少するが、培養8週間目でもまだ培養開始直後の50%程度の分泌量があるのに対して、牛胎児血清を用いた系では、培養開始直後より、漸減し4〜5週間目には測定限界以下になった。
これらのデータは従来の牛胎児血清を使う場合と比較し、ヒト血清を使用するとアルブミン産生能の維持が明らかに良いことを示している。
本発明の培養液を使用することにより、正常なヒト成熟肝細胞をその機能を維持しまま増殖および/または長期間維持させることができ、少なくとも2ヶ月間肝細胞機能を維持したまま培養することができる。本発明により、肝機能を維持した正常ヒト成熟肝細胞を大量に調製し、長期間維持することができるため、そのような細胞をin vitroの実験系、例えば主としてヒトにしか感染しない肝炎ウイルスの研究や微生物では生産が困難なヒト肝細胞由来タンパク質の生産等に利用することができる。さらに、本発明の培養液を使用して大量に増殖および/または維持した正常ヒト成熟肝細胞は肝移植または人工肝臓の作製に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の培養液およびWilliams’ E(+FCS)(▲)培養液で培養したヒト(55歳)からの成熟肝細胞におけるアルブミン生産量を比較したものである。KSMF HS(+)(■)はヒト血清を含むKSFM培地、KSFM HS(−)(◆)はヒト血清を含まないKSFM培地を意味する。
図2は、本発明の培養液およびWilliams’ E(+FCS)(▲)培養液で培養したヒト(56歳)からの成熟肝細胞におけるアルブミン生産量を比較したものである。HS(+)(■)はヒト血清を含むKSFM培地、HS(−)(◆)はヒト血清を含まないKSFM培地を意味する。
図3は、10%ヒト血清及び10%牛胎児血清を含む培養液におけるヒト成熟肝細胞のアルブミン産生量を比較したものである。55歳ヒト肝臓から肝細胞を分離培養した。●は10%牛胎児血清を含むKSFM培地、○は10%ヒト血清を含むKSFM培地を表す。
本発明は、正常なヒト成熟肝細胞の増殖および維持のための培養液に関する。
肝細胞は体内における化学工場と言われるくらいに多彩な機能を持っている。血清タンパク質の90%以上は肝細胞が産生しており、肝細胞は、体内に取り込まれたり産生された有害物質を代謝し解毒している。そのため、正常なヒト成熟肝細胞を培養し、その機能を使って有害物質を検出(バイオセンサー)する、あるいは、ヒトに必要な物質の生産を体外で可能にしようとするなど、様々な研究機関で成熟肝細胞に関する研究がなされている。
また、医学の分野においてはヒト肝細胞を大量に確保するということは重篤な肝疾患に苦しむ人々を救う治療法を確立する上で緊急な課題である。肝不全は様々な原因で起こり、発症すると非常に致命率の高い疾患である。現在最も救命率の高い治療法は肝移植のみと言ってもよい。
日本においても脳死移植法案が成立し、脳死肝移植が始まっている。しかしながら、ドナーの数は限られており、一つのドナー肝を一人ないし二人のレシピエントに移植する方法を行なっているという現在のような状況では、大多数の患者が移植を受けられないまま死を迎えるのは明らかである。それらの患者を救うためには人工的に肝臓を作る、すなわち人工肝臓を作るのが最も適切と考えられ、かつ、現状ではそれ以外の選択肢が無いに等しい。そのような人工肝臓としては、現在のところ、劇症肝炎の患者の一時的な治療にブタ肝臓細胞を使ったハイブリット型人工肝臓が米国において治験として使われているに過ぎない。その場合も数時間の使用に耐えられるのみであって、その治療効果については議論のあるところである。さらに、これまでのところ、肝細胞機能を充分に維持し得るヒト肝細胞を大量に確保できていないため、そのようなハイブリッド型人工肝臓においてもブタ肝細胞を使わざるを得ない。
また、肝不全を起こす疾患には、劇症肝炎、肝硬変、肝癌などが症例的には多いが、先天的な遺伝子欠損により起こる代謝疾患も少数ながら存在する。それらの代謝性疾患では、それぞれ欠損しているタンパク質を補充すると発症をしないと予測されることから、近年、肝細胞移植がそれらの疾患の治療法として考えられるようになってきた。患者本人の肝細胞を体外で培養し欠損している遺伝子をその細胞内に組み込んで、再び肝臓に戻すという方法である。しかしながら、このような場合、遺伝子を組み込む細胞は成熟肝細胞、特にヒトの成熟肝細胞であるため、遺伝子の導入効率が悪いばかりでなく、肝臓内で増殖させることが未だできず、比較的短期間のうちに発現細胞が消失することが知られている。
このような種々の目的のために、正常なヒト成熟肝細胞をその機能を維持したまま大量に調製する手段が望まれてきた。しかしながら、正常ヒト成熟肝細胞は培養が困難であり、肝臓から単離されて培養が開始されると急速に肝細胞としての機能を失い、かつ、継代培養はほとんど不可能であった。従って、従来の培養液および培養方法を用いた場合は、分離された正常ヒト成熟肝細胞を実験に使用し得るレベルに1週間程度の期間維持することすら難しく、細胞を増殖させることは更に困難であった。これに対して、継代培養可能なヒト肝細胞株もいくつか樹立されてはいるものの、これらは正常なヒト成熟肝細胞とは呼べないものであり、更に、そのいくつかはラット細胞との混合培養を必要とするなど、特殊な培養条件を必要とするものである。
正常なヒト成熟肝細胞の初代培養のために、従来L−15/Ham F−12=1:1混合培養液、Willilams’ E/Ham F−12=1:1混合培養液、アルギニンフリーWillilams’ E、RPMIに微量元素を加えた培養液、DMEM、およびこれらにトランスフェリン、インシュリンや甲状腺ホルモン等のホルモンやHGF等の増殖因子等を加えた培養液等が考えられてきた。しかしながら、これらの培養液を用いた場合であっても、前述したように、正常ヒト成熟肝細胞を1週間以上の長期にわたって維持することは事実上不可能であり、増殖はほとんど認められなかった。
発明の開示
本発明の目的は、ヒトの正常な成熟肝細胞をその機能を維持したまま増殖および維持するための培養液を提供すること、および、その培養液の正常ヒト成熟肝細胞の培養への使用である。
本発明の培養液は、ヒト血清を含むことを特徴とする、正常ヒト成熟肝細胞用の培養液である。
本発明の培養液は、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリン、ヒト血清、ニコチンアミド、増殖因子、インシュリン、副腎皮質ホルモンを含むことを特徴とする正常ヒト成熟肝細胞用培養液である。
また、本発明の別の培養液は、更に、トランスフェリン、微量元素を含む培養液である。
さらに、本発明の別の培養液は、上記成分に加えて、グルカゴン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、および、アスコルビン酸を含み、カルシウム濃度が極めて低いことを特徴とする培養液である。
また、本発明の別の側面は、ヒト成熟肝細胞をその機能を維持したまま培養するための前記培養液の使用である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の培養液は、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリン、ヒト血清、ニコチンアミド、増殖因子、インシュリン、副腎皮質ホルモンを含むことを特徴とする。特に、本発明の培養液は、通常のヒト培養細胞用の培養液に比較して高濃度の必須アミノ酸、高濃度のヒスチジン、高濃度のアルギニンまたはオルニチン、高濃度のグリシン、高濃度のプロリン、高濃度のグルタミン、高濃度のシステイン、高濃度のセリンを含むことが好ましく、より好ましくは、更に、トランスフェリン、および微量元素を含む。
必須アミノ酸は生物種によって若干異なることが知られており、例えば、ヒトではバリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、リジンの8種であり、ラットでは更にヒスチジン、アルギニンを加えた10種、トリでは更にグリシンを加えた11種であることが知られている。また、肝細胞はオルニチンをアルギニンの代わりに利用できることから、成熟肝細胞の培養を目的とした本発明の培養液においては、アルギニンとオルニチンは互換的に使用することができる。寧ろ、オルニチンを利用できない他の細胞、例えば、線維芽細胞などの増殖を抑えるため目的でアルギニンの代わりにオルニチンを使用するのが好ましい場合もある。本明細書ではヒトにとって必須である前述の8種のアミノ酸を「必須アミノ酸」と称する。すなわち、本明細書においては、用語「必須アミノ酸」とは、具体的には、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、リジンを意味する。また、本明細書においては特に断りのない限りアミノ酸はL−体である。
より好ましくは、本発明の培養液は、グルカゴン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン(GH)またはインシュリン様成長因子(IGF−1)、ビタミンを含み、カルシウム濃度が低いこと、例えばカルシウム濃度が0.1mM以下であることが更に好ましい。本発明の培養液における必須アミノ酸およびヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンの濃度は一般にヒト細胞の培養に使用される培養液、例えば、Williams’ E(Williams,G.M.とGunn,J.M.(1974),Exp.Cell Research,89,139−142)、RPMI、DMEM(Dulbecco,RとFreeman,G(1959),Virology.8,396−397)、MCDB(Poehl,D.M.とHam,R.G.,(1980),In Vitro,16:528)、L−15等に含まれる必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンの各々について最小濃度の約1.5倍から〜各々のアミノ酸についての最大濃度であることが好ましく、更に好ましくは、これらの培養液中の必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンの各々について最小濃度の約1.5倍〜各々のアミノ酸について最大濃度の約半分である。特に、本発明の培養液中のアミノ酸濃度に関連して使用する場合、「高濃度」とは、以下の表1〜表4に例示したWilliams’ E、DMEM、MCDBおよびL−15の各培養液に含まれる各アミノ酸について、最も濃度の低い培養液中の値の約1.5倍からこれら4種の培養液中における最大濃度の範囲にある濃度をいう。前述したように、本発明の培養液においてはアルギニンとオルニチンは互換的に使用できるため、アルギニンの代わりにオルニチンを使用する場合、その濃度はアルギニンと同じである。
本発明の培養液中は、上で定義した意味において高濃度の必須アミノ酸、高濃度のヒスチジン、高濃度のアルギニンまたはオルニチン、高濃度のグリシン、高濃度のプロリン、高濃度のグルタミン、高濃度のシステイン、高濃度のセリンを含むことが好ましく、より好ましくは、必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリンを、これらの各アミノ酸の濃度に関して、表1〜表4に示すWilliams’ E、DMEM、MCDBおよびL−15の各培養液中の最も低い値の約1.5倍からこれら4種の培養液中における最も高い値の半分程度までの濃度範囲で含む。
Williams’ E、DMEM、MCDBおよびL−15はそのアミノ酸組成および濃度が若干異なる種々の改変培養液が知られているが、これらの培養液に含まれる各アミノ酸濃度の代表的例を以下の表1〜表4に示す。
本発明に添加されるヒト血清の濃度は、5%〜20%、好ましくは5%〜15%である。本発明の培養液に使用し得る増殖因子としては、例えば、EGF、HGF、TGF−α、またはこれらの組み合わせが含まれ、特にEGFおよび/またはHGFが好ましい。本発明の培養液はニコチンアミドを、好ましくは5mM〜15mM、より好ましくは5mM〜10mMの濃度で含む。本発明の培養液中の増殖因子の濃度は、好ましくは合計として1ng/ml〜50ng/ml、より好ましくは合計として5ng/ml〜50ng/mlである。また、本発明の培養液中のインシュリン濃度は、好ましくは50nM〜1μM、より好ましくは100nM〜0.5μMである。
本発明の培養液に使用し得る副腎皮質ホルモンには、例えば、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、およびこれらの組み合わせが含まれ、ヒドロコルチゾンおよび/またはデキサメタゾンが好ましい。副腎皮質ホルモンの濃度は、好ましくは合計10nM〜1μM、より好ましくは合計50nM〜200nMである。本発明の培養液に使用され得るトランスフェリンの濃度は、好ましくは1μg/ml〜15μg/ml、より好ましくは5μg/ml〜15μg/mlである。
本発明の培養液に使用し得る微量元素は、一般に培養細胞の培養、特にヒト肝細胞の初代培養に使用されるものを含み、例えば、セレン、マンガン、ケイ素、モリブデン、バナジウム、ニッケル、スズ、亜鉛、鉄、マグネシウム、銅、およびこれらの組合せからなる群より選ぶことができる。微量成分としては、約20nM〜30nMのセレン(NaSeO3)、約0.5nM〜1nMマンガン(MnCl2)、約400nM〜500nMのケイ素(Na2SiO3)、約0.5nM〜1nMのモリブデン((NH4)6Mo7O24)、約2nM〜5nMのバナジウム(NH4VO3)、約0.1nM〜0.5nMのニッケル(NiSO4)、約0.1nM〜0.5nMのスズ(SnCl2)、約0.1μM〜3μMの亜鉛(ZnSO4)、約1μM〜10μMの鉄(FeSO4)、約0.5nM〜1.5mMのマグネシウム(MgCl2)、約5nM〜11nMの銅(CuSO4)、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
本発明の培養液に使用し得る甲状腺ホルモンには、トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)が含まれ、特にT3が好ましい。甲状腺ホルモンの濃度は、T3が用いられる場合、好ましくは5nM〜100nM、より好ましくは10nM〜50nMである。本発明の培養液の作製のためには、成長ホルモンとインシュリン様成長因子は互換的に使用することができ、それらの濃度は、好ましくは合計約1ng/ml〜20ng/ml、より好ましくは合計5ng/ml〜15ng/mlである。更にグルカゴンが添加される場合は、その濃度はインシュリンと同様である。
本発明の培養液に添加するビタミンとして使用し得るものには、アスコルビン酸および/またはレチノイン酸、および、コリンを含むビタミンB複合体が含まれ、アスコルビン酸が特に好ましい。これらのビタミンの濃度は、好ましくは0.5mM〜1.5mM、より好ましくは0.5mM〜1.0mMである。
本発明の培養液は場合により、0.1mM〜0.5mMのエタノールアミン、および0.1mM〜0.5mMのホスホエタノールアミンを更に含んでいてもよい。
更に、本発明の培養液は、細胞培養液に通常用いられるその他の成分、例えば上記以外の非必須アミノ酸、リン酸ナトリウムや塩化ナトリウム等の無機塩、上記以外の種々のビタミン、乳酸、D−グルコース、D−ガラクトース、Hepesのような緩衝剤、pH指示薬、適切な抗生物質、その他を含んでいてよい。
また、本発明の培養液は、公知の培養液、あるいは商業的に入手可能な培養液、例えば、Williams’ E、RPMI、DMEM、MCDB(Peehl,DM.とHam,R.G.,(1980),In vitro,16:526、Bettger,W.J.ら(1981)m Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78:9,5588−5592))、KSFM(Serum−Free Keratinocyte Medium,GIBCo BRL)等に、必要に応じて上述した各成分が上述した濃度となるように添加して調製することもできる。特に、MCDB中のアミノ酸濃度を高めたと考えられるKSFMは本発明の培養液を作製するために好都合である。
本発明の一つの実施態様は、以下の溶液A、および5〜20%のヒト血清、EGF、インシュリン、ヒドロコルチゾン、微量元素、トランスフェリン、T3、レチノイン酸、アスコルビン酸、コリンを含む培養液である。
このような溶液Aおよび、上述の各試薬溶液は混合後に滅菌することも可能であるが、別々に滅菌することも可能である。各溶液をストック溶液として保存する場合は、各々滅菌して保存するのが好ましい。滅菌は通常オートクレーブまたはフィルターによる濾過滅菌によって行なうが、熱分解または熱変性し易い成分を含む溶液は濾過滅菌が好ましい。濾過滅菌のためのフィルターおよびフィルターユニット、およびオートクレーブ装置は当業者によく知られており、商業的に入手可能である。
本発明の培養液は、全ての成分を混合して滅菌後に保存することもできるが、一部の成分を別々に滅菌後保存しておき、使用時に無菌的に混合することが好ましい。一部の成分を別に保存する場合は、例えば、上述の溶液Aのようなアミノ酸および塩類溶液、ヒト血清、EGFやHGF等の増殖因子、インシュリン、デキサメタゾンやヒドロコルチゾン等の副腎皮質ホルモン、トランスフェリン、微量元素混合物、甲状腺ホルモン、GHおよび/またはIGF−1、グルカゴン、アスコルビン酸等を別に保存しておき使用時に無菌的に混合してもよい。この場合、各成分の保存方法はそれぞれについて通常使用される条件に従えばよい。全ての成分を混合した場合は、あまり長期間保存しないことが好ましく、例えば1ヶ月程度で新たに調製するのが好ましい。この場合、調製された培養液は暗所、低温、例えば約1℃〜約10℃、好ましくは約2℃〜約4℃にて保存する。
血清、増殖因子、ホルモンを含まない溶液(基本培養液)は滅菌後暗所、低温、好ましくは2℃〜4℃にて、通常少なくとも1年は保存可能である。しかしながら、基本培養液の保存方法および保存可能期間は使用する基本培養液の組成によってある程度変動し得るものである。各成分は保存前に滅菌してもよく、混合直前、または混合後に滅菌してもよいが、保存前に滅菌するのが好ましい。
このようにして調製した、あるいは保存しておいた本発明の培養液は、一般に細胞培養に用いられることのある成分を必要に応じて更に添加した上で、通常の培地と同様に適宜培養容器に移して使用することができる。例えば、必要に応じて種々の抗生物質を本発明の培養液に加えて使用してもよい。
本発明の培養液は正常なヒト成熟肝細胞を培養するために最も適している。しかしながら、本発明の培養液は正常なヒト成熟肝細胞以外の細胞、特に肝臓由来の、肝機能を有する細胞、例えば、ヒト小型肝細胞の培養にも適している。ここで「小型肝細胞」とは、本発明者らによって発見され命名された、肝細胞としての特徴を有するが成熟細胞とは区別し得る、肝臓由来の特別な種類の小型細胞をいう(Mitaka,T.ら、Hepatology,29,111−1355(1999))。
本発明の培養液によって培養される正常なヒト成熟肝細胞はどのような方法によって入手してもよいが、例えば以下のように調製することができる。例えば、肝臓に僅かの転移巣がある癌患者等から病巣と共に切除された肝組織から正常肝臓組織を切り出し、通常の肝灌流法又は穿刺灌流法によって肝臓由来細胞を得ることができる。例えば、0.5mM程度のEGTAを含むハンクス緩衝液で前灌流を行なった後、コラゲナーゼ−ディスパーゼ等の酵素を含む緩衝液を用いて灌流を行なった後、必要に応じてメッシュ等を通すことにより不要な組織破砕物を除去した後、低速遠心によって実質細胞を得ることができる。遠心は非実質細胞と実質細胞を分離するために充分な条件であればよく、例えば50xgにて1分間の遠心、再懸濁を数回繰り返すことによって得られる。
このような方法、あるいは、他の適切な方法により調製された正常ヒト成熟肝細胞は、直ちに本発明の培養液中に移して培養することができる。初期細胞濃度は一般的に接着細胞の培養に適切である範囲で特に限定されないが、細胞の分化能を維持するためにはあまり低濃度でないことが好ましく、特に1.0x105細胞/m1〜5.0x105細胞/ml程度が好ましい。培養液の交換は、細胞の状態に依存するが、通常は約2日に1回交換するのが好ましい。
本発明の培養液を用いてヒト成熟肝細胞を培養する場合、培養液以外のその他の条件に関しては一般的なヒト細胞に対する条件、特に、従来ヒト肝細胞の初代培養に用いられてきた条件を採用することができる。例えば、本発明の培養液と共に5%CO2、37℃、湿度95%に設定した一般的なCO2インキュベーター等の装置を利用することができ、培養容器も特に限定されず、細胞培養に利用される種々の形状、大きさの容器を目的に応じて利用することができる。ヒト成熟肝細胞の培養には、一般にコラーゲンあるいはファイブロネクチンでコートした培養容器が使用されるが、そのような培養容器は当業者によく知られており、自家調製してもよく、培養のための装置と共に商業的に容易に入手することもできる。
本発明の培養液によって培養されたヒト成熟肝細胞または小型肝細胞が肝細胞としての機能を維持していることは種々のマーカー、例えば、培地中に分泌されるアルビミンやトランスフェリン、グルコース代謝に関与するグルコース−6−フォスファターゼやグリコーゲンなどが利用できる。これらはELISA、Westernブロット解析等のよく知られた方法で確認することができる。また、細胞の増殖はトリパンブルー等の色素を用いた色素排除法、MTTの転換を利用したMTT法、BrdUおよび抗BrdU抗体を用いたDNA合成の程度を指標としたBrdU法、あるいは、直接DNA量を測定するフローサイトメトリー法等によって確認することができる。これらはいずれも当業者に良く知られた標準的な方法によって行なうことができる。
このようにして本発明の培養液を用いて増殖および/または維持された正常なヒト成熟肝細胞は、研究用の培養細胞として利用することもでき、人工肝臓に使用することもできる。
(実施例)
実施例1.正常なヒト成熟肝細胞の単離
転移性肝癌、胆道系癌等の、感染症を持たない肝切除手術症例より、インフォームドコンセントを取った上で、3g前後の正常肝臓切片を得た。対象は1999年12月から2000年4月までに京都大学医学部付属病院およびその関連病院で行なわれた、大腸癌からの転移性肝癌6例、胆嚢癌または胆管細胞癌2例、肝限局性結節性過形成(Focal Nodular Hyperplasia)2例、肝血管腫1例の計11例で、平均年齢は45.9±5.2歳であった。最若例は17歳、最高齢例は82歳であった。
10cc注射器による穿刺法にて、0.5mM EGTA含有ハンクス緩衝液(137mM NaCl,2.68mM KCl,0.7mM Na2PO4・12H2O,10mM Hepes,10mM グルコース,pH7.4)250mlで前灌流後、同量の0.1%コラゲナーゼ−0.5%ディスパーゼ液によって二段めの灌流を行ない、メッシュを通して大きな組織片を除去した後、50xgにて1分間の遠沈を4回行なって実質細胞画分を得た。
実施例2.培養液の調製
ヒト角化細胞用の無血清培養液として市販されているKeratinocyte Stimulating Factor Medium(KSMF)(GIBCO BRL)(Marcelo,C.L.ら、(1978)、J.Cell Bilogy,79,360;Price,F.M.ら、(1980)、In vitro,16、147等参照)に10%ヒト血清、10mMニコチンアミド、10ng/mlのEGF、1mMアスコルビン酸、30mg/lプロリンになるように各試薬を加えることによって調製した。
実施例3.ヒト成熟肝細胞の培養
得られた実質細胞画分をI型コラーゲンコーティング培養皿上に2.0x105生細胞/mlの細胞濃度で播種した。この細胞を上記の本発明の培養液を使用し、5%CO2、37℃、湿度95%の培養器内で培養した。培養液は約2日に1回の割合で交換した。
このようにして培養された細胞について、経時的に光学顕微鏡、電子顕微鏡による形態観察、ELISA法によるアルブミン産生量測定、RT−PCR法による肝臓特異的タンパク質(アルブミン、トランスフェリン)のmRNA発現の検出、免疫組織染色によるBrdUラベルインデックスの測定を行なった。
なお、測定の2時間前に培養液を上記の培養液から血清を除いたものに交換し、無血清状態で2時間培養を行なった細胞を使用した。
実施4.本発明の培養液によって培養されたヒト成熟肝細胞の挙動
(1) 対照として用いたWilliams’ E、および本発明の培養液を用いて培養したヒト成熟肝細胞を光学顕微鏡下で観察した。
Williams’ Eを用いて培養すると、光学顕微鏡観察において、1週間前後で線維芽細胞が優位に増殖し始めることが観察され、2週間前後で肝細胞はほとんど認められなくなった。一方、実施例1に記載の本発明の培養液を用いた場合は、同様な光学顕微鏡観察において、繊維芽細胞の増殖は抑制され、最長13週間、平均9週間にわたって正常成熟肝細胞が維持されることが観察された。また、コロニー状に増殖する小型肝細胞が認められ、近傍の成熟肝細胞の中に一部分裂像を認めた。更に、本発明の培養液による培養開始2か月目の培養物に対して免疫組織化学染色を行なったところ、アルブミン陽性、CK18陽性、CK19陰性の結果を得た。即ち、本発明の培養液によって2か月間培養された後も、肝細胞としての機能を維持していることが示された。
電子顕微鏡観察においても、本発明の培養液で培養した場合には、培養開始後8週間目の培養物においてペルオキシソーム、タイトジャンクション、毛細胆管形成が確認された。
(2)アルブミン産生量
ヒト成熟肝細胞の培養開始から12週間にわたって、培地中に分泌されたアルブミンの量をELISA法によって測定した。対照培養液としてWilliams’Eを使用した。Williams’Eを用いた系では、5日〜7日でアルブミン産生が最大に達した後、漸減して約2週間で検出限界以下まで減少した(図1、図2)。これに対して実施例1に記載の本発明の培養液を用いた場合は、アルブミン産生は1週間から3週間にわたりピークが持続した。ピークの後、アルブミン産生は漸減するが、5〜6週間後前後でアルブミン産生の低下が止まる時期が見られ、少なくとも2ヶ月間にわたって、従来培地と比較して有意に高いアルブミン産生が見られた。測定結果の代表的な例を図1および図2に示した。2つの例において濃度の絶対値には相違が見られるものの、アルブミン産生量の経時変化については同様な結果が得られた。
(3)BrdUラベリングインデックス
36歳、52歳、61歳のヒトに由来する正常ヒト成熟肝細胞を各々実施例1に記載の培養液で培養し、BrdUラベルインデックスを選定した。
35mm培養皿上で培養中の細胞に最終濃度40μMとなるようBrdU(5−ブロモ−2’−デオキシウリジン)(Sigma)を加え、48時間後に100%エタノールで固定した。使用時までエタノール中で−20℃にて保存した。測定の際には、2N HClでDNAの二重鎖をほどき、内因性ペルオキシダーゼをブロッキングし、更にスキムミルクでブロッキングした後、マウスモノクローナル抗BrdU抗体(Amersham、DAKO)を用い、ABC法で染色した。BrdU(+)の核を持つ細胞を陽性細胞としてその数を数え、総数1000個の細胞に対する陽性細胞の数をパーセンテージ(%)で表してBrdUラベリングインデックスとして記録した。
その結果、36歳の例で培養5日目21.5%、10日目15.3%、15日目7.4%であった。49歳の例では、5日目14.5%、10日目11.2%、15日目5.3%、61歳の例では5日目10.6%、10日目7.8%、15日目4.2%であった。すなわち、培養10日目にあっても約10〜20%の細胞がなおDNA合成を続け、増殖していることが強く示唆された。一方、対照としてWilliams’ Eを用いた場合は、BrdUラベリングインデックスは5日目においてもほとんど0であり、細胞は増殖していないことが示された。
実施例5.培地中のウシ血清およびヒト血清の成熟肝細胞培養に対する影響の比較
培養ヒト成熟肝細胞のアルブミン分泌に対するヒト血清添加の影響を調べた。対照培養液としてヒト血清の代わりにウシ胎仔血清を使用した。
(1)培養液の調製
以下の組成を有するヒト血清入り培養液(培養液A)およびウシ血清入り培養液(培養液B)を調製した。
(2)正常ヒト成熟肝細胞の培養
(1)に示した培養液AおよびBを用いて、実施例3に記載したのと同様な条件でヒト成熟肝細胞を培養し、アルブミン産生量を測定した。アルブミンの産生は培養開始から8週間にわたって培地中に分泌されたアルブミン量をELISA法によって測定することによって評価した。その結果を図3に示す。
図3で示すように、ヒト血清を用いた系では、培養開始から2週間は分泌量が漸増し、以後緩やかに分泌量が減少するが、培養8週間目でもまだ培養開始直後の50%程度の分泌量があるのに対して、牛胎児血清を用いた系では、培養開始直後より、漸減し4〜5週間目には測定限界以下になった。
これらのデータは従来の牛胎児血清を使う場合と比較し、ヒト血清を使用するとアルブミン産生能の維持が明らかに良いことを示している。
本発明の培養液を使用することにより、正常なヒト成熟肝細胞をその機能を維持しまま増殖および/または長期間維持させることができ、少なくとも2ヶ月間肝細胞機能を維持したまま培養することができる。本発明により、肝機能を維持した正常ヒト成熟肝細胞を大量に調製し、長期間維持することができるため、そのような細胞をin vitroの実験系、例えば主としてヒトにしか感染しない肝炎ウイルスの研究や微生物では生産が困難なヒト肝細胞由来タンパク質の生産等に利用することができる。さらに、本発明の培養液を使用して大量に増殖および/または維持した正常ヒト成熟肝細胞は肝移植または人工肝臓の作製に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の培養液およびWilliams’ E(+FCS)(▲)培養液で培養したヒト(55歳)からの成熟肝細胞におけるアルブミン生産量を比較したものである。KSMF HS(+)(■)はヒト血清を含むKSFM培地、KSFM HS(−)(◆)はヒト血清を含まないKSFM培地を意味する。
図2は、本発明の培養液およびWilliams’ E(+FCS)(▲)培養液で培養したヒト(56歳)からの成熟肝細胞におけるアルブミン生産量を比較したものである。HS(+)(■)はヒト血清を含むKSFM培地、HS(−)(◆)はヒト血清を含まないKSFM培地を意味する。
図3は、10%ヒト血清及び10%牛胎児血清を含む培養液におけるヒト成熟肝細胞のアルブミン産生量を比較したものである。55歳ヒト肝臓から肝細胞を分離培養した。●は10%牛胎児血清を含むKSFM培地、○は10%ヒト血清を含むKSFM培地を表す。
Claims (15)
- ヒト血清を含むことを特徴とする、正常ヒト成熟肝細胞用の培養液。
- 必須アミノ酸、ヒスチジン、アルギニンまたはオルニチン、グリシン、プロリン、グルタミン、システイン、セリン、ヒト血清、ニコチンアミド、増殖因子、インシュリン、および副腎皮質ホルモンを含むことを特徴とする、正常ヒト成熟肝細胞用の培養液。
- ヒト血清の濃度が5%〜20%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養液。
- ニコチンアミドの濃度が5mM〜15mMである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の培養液。
- 増殖因子が、EGF、HGF、TGF−α、およびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項2〜5のいずれか1項に記載の培養液。
- 増殖因子の濃度が1ng/ml〜50ng/mlである、請求項2〜6のいずれか1項に記載の培養液。
- インシュリンの濃度が50nM〜1μMである、請求項2〜7のいずれか1項に記載の培養液。
- 副腎皮質ホルモンが総濃度10nM〜1μMのデキサメタゾンおよび/またはヒドロコルチゾンである、請求項2〜8のいずれか1項に記載の培養液。
- 更に、トランスフェリン、グルカゴン、およびセレン、マンガン、ケイ素、モリブデン、バナジウム、ニッケル、スズ、亜鉛、鉄、マグネシウム、銅、およびこれらの組合せからなる群より選ばれる微量元素を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の培養液。
- トランスフェリンの濃度が1μg/ml〜15μg/mであり、グルカゴンの濃度が10nM〜1μMであり、および、微量元素が20nM〜30nMのセレン、0.5nM〜1.0nMのマンガン、400nM〜500nMのケイ素の濃度、0.5nM〜1.0nMのモリブデン、2nM〜5nMのバナジウム、0.1nM〜0.5nMのニッケル、0.1nM〜0.5nMのスズ、0.1μM〜3μMの亜鉛、1μM〜10μMの鉄、0.5mM〜1.5mMのマグネシウム、5nM〜11nMの銅またはこれらの組み合わせから選ばれる、請求項10に記載の培養液。
- 濃度0.1mM以下のカルシウムを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の培養液。
- 更に、甲状腺ホルモン、成長ホルモンまたはインシュリン様成長因子、アスコルビン酸を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の培養液。
- 甲状腺ホルモンが5nM〜100nMのT3であり、成長ホルモンまたはインシュリン様成長因子の濃度が1〜20ng/mlであり、アスコルビン酸の濃度が0.1mM〜1.0mMである、請求項13に記載の培養液。
- 請求項1〜14のいずれか1項に記載の培養液の、正常ヒト成熟肝細胞の培養における使用。
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